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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A44C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A44C
管理番号 1352520
審判番号 無効2018-800021  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-21 
確定日 2019-05-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5976248号発明「装身具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5976248号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1 本件特許第5976248号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成27年10月5日に出願した特願2015-197587号(以下、「原出願」という。)の一部を平成28年3月25日に新たに特許出願したものであって、平成28年7月29日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数2)。

2 本件特許について、平成30年2月21日に株式会社クロスフォーから、本件特許を無効にすることを求める旨の無効審判がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。

平成30年 2月21日 審判請求書及び甲第1ないし3号証の提出(請求人)
平成30年 5月 7日 答弁書及び乙第1号証、乙第2号証の提出(被請求人)
平成30年 7月20日付け 無効理由通知
平成30年 8月22日 意見書(請求人)
平成30年 8月22日 訂正請求
平成30年 8月22日 意見書(被請求人)
平成30年 9月18日 手続補正書(方式)
平成31年 2月12日付け 書面審理通知

第2 平成30年8月22日付け訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成30年8月22日付け訂正請求は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項2に「前記吊下げ部材は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した、」と記載されているのを、「前記吊下げ部材は、該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす、」と訂正するものである。

2 本件訂正の適否
(1)訂正の目的の適否
本件訂正は、訂正前の請求項2に係る発明が「前記吊下げ部材は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した、身体との間隔を保持するためのスペーサを備え、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に確実に揺動自在に取り付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装身具。」であったものを、「前記吊下げ部材は、該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす、身体との間隔を保持するためのスペーサを備え、装飾部材を備えた装飾具用枠体を吊下げ部材に確実に揺動自在に取り付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装身具。」と訂正するものである。
これは、本件訂正前の請求項2に係る発明の「その背面から」の「その」を本件訂正後の請求項2に係る発明では、「該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の」と訂正すると共に、本件訂正前の請求項2に係る発明の「後方に延長したのち下向きに折返して形成した」スペーサを本件訂正後の請求項2に係る発明では「後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす」スペーサと訂正するものであり、スペーサの「延長されたのち下向きに折返され」る始点が「該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分」であると減縮すると共に、スペーサの形状を「U字状」に減縮するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当するものである。

(2)新規事項の有無
願書に添付した明細書の段落【0029】には、「図38ないし図41において99は、前記吊下げ部材95の上方から後方に延長したのち下向きに折返して形成した、身体との間隔を保持するためのスペーサである。このスペーサ99により、装飾部材94を備えた装身具用枠体92を吊下げ部材95に吊り下げても装身具用枠体92が身体に接触して動きを封じられることがなく、装飾部材94を備えた装身具用枠体92を確実に揺動自在に取り付けることができるようになる。前記スペーサ99はU字状をなしていて、前記吊下げ部材95上方に設けた吊下げ孔96にその一端をカシメ等の手段で連結・固定し、後方から下向きに折返して二股の安定片100を設けたものである。」(下線は、当審が追加し、改行は削除した。)と記載されている。
この記載から、スペーサ99は、吊下げ部材95の上方に連結・固定されていること、吊下げ部材95の上方から後方に延長されたのち下向きに折返されていること、スペーサ99は、U字状をなしていることがわかる。さらに願書に添付した図面の【図34】を参照すると、上記のようにスペーサ99が吊下げ部材95に固定されているのは、スペーサ99の端部部分であり、この端部部分の背面から段落【0029】に記載されるように、「後方に延長したのち下向きに折返」されていることが明らかである。以上のことから、本件訂正は、明細書及び図面の上記記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、訂正前の「その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した、身体との間隔を保持するためのスペーサ」を訂正後の「該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす、身体との間隔を保持するためのスペーサ」とするものであり、スペーサの連結・固定箇所と形状を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項2について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明2」といい、本件発明1ないし2を総称して「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
【請求項1】
所定の間隔で一対の軸受凹部を配置した装身具用枠体と、当該装身具用枠体に一体的に保持された装飾部材とを備え、
他方、延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意し、
前記装身具用枠体に配置された軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けたことを特徴とする装身具。
【請求項2】
前記吊下げ部材は、該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす、身体との間隔を保持するためのスペーサを備え、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に確実に揺動自在に取り付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装身具。

第4 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、審判請求書において、「特許第5976248号発明の請求項1及び2に係わる発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。

2 請求人の証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して以下の甲第1号証?甲第3号証(以下、「甲1」?「甲3」という。)を提出している。

甲第1号証:中国実用新案第202680802号明細書
甲第2号証:特開2015-54162号公報
甲第3号証:甲第1号証の日本語翻訳文

3 請求人が主張する無効理由
請求人が主張する無効理由は、次のとおりである。
(1)無効理由1
本件発明1は、「ピポット状の支軸」の意味が不明確であり、発明が特定できないから、その特許は特許法第36条第6項第2号の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。また、本件発明1を引用する本件発明2も同様に、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件発明1は、物の発明であるが、構成要件に「吊下げ部材を用意し、」という経時的な要素が含まれており、発明を特定できないから、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。また、本件発明1を引用する本件発明2も同様に、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件発明2の「前記吊下げ部材は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した」は、本件特許の発明の詳細な説明に開示された構成でないから、本件発明2は明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

(4)無効理由4
本件発明1は、その原出願前に国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
本件発明1の「ピボット状」を「先端に突出した形状」という意味に仮に解釈すると、甲1には、「延長端部に上向きに先細に突出した形状の支持部32(支軸)が形成された揺動アーム部(30)を両側に突設したベースラック30(吊下げ部材)」、すなわち、「延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材」が開示されている。

(5)無効理由5
本件発明1は、その原出願前に国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基いて原出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(6)無効理由6
本件発明2は、その原出願前に国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
甲1の図1ないし3に示されるように、甲1には、「ベースラック30(吊下げ部材)は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した、身体との間隔を保持するためのベースラック30の後方部分(スペーサ)を備え、宝石20(装飾部材)を備えた座台10をベースタック30に確実に揺動自在に取り付けられるようにしたこと」が開示されている。

(7)無効理由7
本件発明2は、その原出願前に国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明並びに、甲1及び甲2に記載された周知技術または公知技術に基いて原出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
甲2には、「フレーム10(吊下げ部材は)、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した、身体との間隔を保持するためのフレーム10の後方部分(スペーサ)を備え、ダイヤモンド7(装飾部材)を備えた台座部5(装身具用枠体)をフレーム10に確実に揺動自在に取り付けられるようにしたこと」が開示されている。甲1に開示された発明に甲2に開示された構成を適用し、本件発明2の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

第5 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、審判事件答弁書において、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。

2 被請求人の証拠方法
被請求人は、審判事件答弁書に添付して以下の乙第1号証及び乙第2号証(以下、「乙1」及び「乙2」という。)を提示している。

乙第1号証:図解 機械用語辞典 工業教育研究会編 日刊工業新聞社 昭和39年2月29日発行 462ないし463頁
乙第2号証:大辞泉 小学館 大辞泉編集部編 株式会社小学館 1995年12月1日発行 3069頁

3 被請求人の主張内容
審判事件答弁書、意見書を総合すると、被請求人が主張する具体的な主張内容は、概略、次のとおりである。

(1)無効理由1について
乙1には、ピポットの項に「軸端が円すい形でその先端がわずかに丸みをつけたもの。またピボットをささえる面もピボットの端部と類似の凹面をしている。」との記載があり、乙2には、ピボットの項に「先端が円錐形になっている回転軸。計測器や時計に用いられる。」との記載がある。したがって、「ピボット状の支軸」は「軸端が円すい形でその先端がわずかに丸みをつけた支軸」という意味合いと認識することができ、本件発明1の「ピポット状の支軸」の「ピポット状」の意味が不明確であるとの原告の主張は失当である。

(2)無効理由2について
本件発明1の「吊下げ部材を用意し、」は「装身具用枠体とは別に用意された吊下げ部材」であることを意味するにすぎず、経時的な要素を含むものではなく、審判請求人の主張は失当である。

(3)無効理由3について
「前記吊下げ部材は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した」の語は、その文意のみならず、図34?図50等に記載されたことも明白である。したがって、審判請求人の主張は失当である。

(4)無効理由4について
甲1には、本件発明1の「延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材」に関する記述は、存在せず、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
甲1に記載された軸受凹部(14)と支軸(32)とは、互いに所定の長さの峰部を有するナイフエッジ状の凸部どうしで係合しているのであって、揺動の際には、その挙動に制約を受けるものである。

(5)無効理由5について
本件発明1は、「延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材」を備えたものであり、このピポット状の支軸を装身具用枠体に配置された軸受凹部に係合することにより、揺動の際には、その挙動に何ら制約を受けることがなく、「揺動自在」という状態になる。
これに対して、甲1に記載された軸受凹部(14)と支軸(32)とは、互いに所定の長さの峰部を有するナイフエッジ状の凸部どうしで係合しているのであって、揺動の際には、その挙動に制約を受けるものである。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明から容易に想到することができたものであるとする根拠はなく、本件発明1は甲1に記載された発明に対して進歩性を有する。

(6)無効理由6について
本件発明2の「吊下げ部材」と甲1に記載された「ベースフレーム30」(当審注:「ベースラック30」の誤記と解される。)とは、対比できるものではなく、本件発明2は、甲1に記載された発明ではない。

(7)無効理由7について
本件発明2における吊下げ部材と甲2に記載された「フレーム10」とは、対比できるものではなく、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された構成から、当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

第6 甲号証の記載等
1 甲1の記載事項等
(1)甲1の記載事項
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲1には、次の事項が記載されている(なお、( )内の翻訳文は、甲3による。また、下線は、当審が付与した。)。

ア.


(【請求項1】
嵌込台座、及び嵌込台座に嵌め込まれる宝石を含む宝飾品であって、
前記嵌込台座の両側にそれぞれ一つの軸棒が設けられ、前記軸棒には、外縁が円弧形凹型開口状を呈し厚さが根元から外縁へ漸減するブラケット部が設けられ、
両側にはそれぞれ片側に開口が設けられ半閉状を呈する支持溝が設けられるベースラックをさらに含み、支持溝の底部壁部は溝内へ突出して、外縁が円弧形凹型開口状を呈し厚さが根元から外縁へ漸減する支持部を形成し、
前記軸棒のブラケット部は、対応する支持溝の開口を通って支持溝中に配置され、かつベースラックにおける対応する支持部に可動に掛けられ、支持部の外縁は対応するブラケット部の外縁を支えることを特徴とする宝飾品。
【請求項2】
前記ブラケット部の二つの側面は外縁部で円弧面を介して接合され、支持部の二つの側面は外縁部で円弧面を介して接合されることを特徴とする請求項1に記載の宝飾品。)

イ.

(【請求項6】
前記ベースラックは、下部ロッドと上部ロッドとを含み、下部ロッドの中部に円弧形凹部が設けられ、前記ブラケット部が円弧形凹部内に位置し、上部ロッドは、下部ロッドの上方に横方向に設けられ、かつ一端が下部ロッドと接続され、上部ロッドの他端と下部ロッドの対応端との間に所定の距離で離れて前記開口を形成することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の宝飾品。)

ウ.

(【0001】
本考案は、真珠宝石の装飾品の分野に関し、特に宝飾品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
……従来の宝飾品はほとんど多面宝石を嵌込台座に直接嵌め込むことにより構成され、宝石と嵌込台座が相対的に静止し、相対的な動きが生じることができず、外部光源の角度が変化又は着用者自体の動きが変化してこそ、より多くの多彩なきらめきが現れ、このため、多面宝石の多彩なきらめきの魅力はまだ相対的静的な状態にとどまっている。……)

エ.

(【考案の開示】
【0004】
本実用新案が解決しようとする技術的課題は、加工及び組み立てに便利な宝飾品を提供することである。
【0005】
本実用新案がさらに解決しようとする技術的課題は、多彩なきらめき効果をより上手く達成できる宝飾品を提供することである。
【0006】
上記技術的課題を解決するために、本実用新案は、嵌込台座、ベースラック、及び嵌込台座に嵌め込まれる宝石を含む宝飾品であって、前記嵌込台座の両側にそれぞれ一つの軸棒が設けられ、前記軸棒には、外縁が円弧形凹型開口状を呈し厚さが根元から外縁へ漸減するブラケット部が設けられ、前記ベースラックの両側にはそれぞれ片側に開口が設けられ半閉状を呈する支持溝が設けられ、支持溝の底部壁部は溝内へ突出して、外縁が円弧形凹型開口状を呈する支持部を形成し、支持部の厚さは根元から外縁へ漸減し、前記軸棒のブラケット部は、対応する支持溝の開口を通って支持溝中に配置され、かつベースラックにおける対応する支持部に可動に掛けられ、支持部の外縁は、対応するブラケット部の外縁を支える宝飾品という技術的解決手段を提供する。
【0007】
さらに、前記ブラケット部の二つの側面は、外縁部で円弧面を介して接合され、支持部の二つの側面は外縁部で円弧面を介して接合される。)

オ.

(【0011】
さらに、前記ベースラックは、下部ロッドと上部ロッドとを含み、下部ロッドの中部に円弧形凹部が設けられ、前記ブラケット部が円弧形凹部内に位置し、上部ロッドとは、下部ロッドの上方に横方向に設けられ、かつ一端が下部ロッドと接続され、上部ロッドの他端と下部ロッドの対応端との間に所定の距離で離れて前記開口を形成する。)

カ.


(【0015】
上記技術的解決手段を採用することにより、本実用新案は少なくとも以下の有益な効果を有する。宝石が嵌め込まれた嵌込台座に、円弧形凹型開口状のブラケット部を備えた軸棒が設けられ、ベースラックに円弧形凹型開口状の支持部を備えた支持溝が設けられることにより、加工しやすくなり、組立時、軸棒を支持溝の開口から支持溝内に配置するだけでよく、組み立てやすくなり、したがって、生産効率を大幅に高める。支持部とブラケット部の接触箇所がいずれも円弧面であるため、二者の接触面積が小さく、外部から軽く揺らすと嵌込台座が宝石と共に長時間揺れることができ、また、重りが設けられることにより、揺動頻度と揺動幅を、目で効果的に観察できる範囲内に効果的に制御することができ、したがって、多彩なきらめき効果をより上手く達成することができ、特に、カット加工の欠陥がある宝石に非常に高い多彩なきらめき効果を達成させることができる。)

キ.

(【0024】
図1?図3に示す本実用新案の一実施例を参照すると、本実用新案は、嵌込台座10、嵌込台座10に嵌め込まれる宝石20、ベースラック30及び重り40を含む宝飾品を提供する。
【0025】
前記嵌込台座10の中部に宝石20が嵌め込まれ、具体的に、従来の様々な宝石嵌め込みプロセスを採用して宝石を嵌込台座10に嵌め込むことができる。前記宝石20はダイヤモンドであってもよいし、ルビー、サファイア、エメラルド、天然水晶などの天然色の宝石又は人造宝石であってもよい。
【0026】
前記嵌込台座10の両側にそれぞれベースラック30に掛けられる軸棒12が一体的に延設される。別の実施例では、前記軸棒は、嵌込台座10とは別に製造され、次に溶接又は接着等のプロセスによって一体に組み立てられるものである。前記軸棒12には、外縁が円弧形凹型開口状を呈し厚さが根元から外縁へ漸減するブラケット部14が設けられ、ブラケット部14の二つの側面が外縁部で円弧面を介して接合される。ブラケット部14の二つの側面は、対称的に設けられても、非対称的に設けられてもよい。前記軸棒12の自由端には、さらに軸棒12がベースラック30内から離脱することを防止するストッパー16が設けられる。
【0027】
前記ベースラック30の両側にそれぞれ支持溝31が設けられ、支持溝31の底部壁部は溝内へ突出して、外縁が円弧形凹型開口状を呈する支持部32を形成し、図4に示すように、支持部32の厚さは根元から外縁へ漸減し、支持部32の二つの側面320、322は外縁部で円弧面324を介して接合され、図2に示す実施例では、前記ベースラック30は下部ロッド300と上部ロッド302とを含み、下部ロッド300の中部に円弧形凹部が設けられ、前記ブラケット部32が円弧形凹部内に位置し、上部ロッド302は、下部ロッド300の上方に横方向に設けられ、かつ一端が下部ロッド300と接続され、上部ロッド302の他端と下部ロッド300の対応端との間に、所定の距離で離れて前記開口及び支持溝31を形成する。組立時、前記嵌込台座10の両側の軸棒12を支持溝31の開口を通って支持溝31内に配置し、ブラケット部14を支持溝31の底部に対応する支持部32に、可動に掛けることにより、軸棒12をベースラック30に可動に取り付け、支持部32の外縁により軸棒12に対応するブラケット部14の外縁を支え、具体的に支持部32の外縁の最低点によりブラケット部14の外縁の最高点を支える。両側の支持部32の外縁がブラケット部14を支える支持点の連結線は揺動軸を構成し、つまり嵌込台座10は宝石20と共に前記揺動軸をまわって繰り返して揺れる。)

ク.甲1の図2等の記載からみて、下部ロッド300は、ベースラック30の両側に設けられている。また、支持部32の厚さは根元から外縁へ漸減(上記キ.の段落【0027】参照。)するものであるところ、ブラケット部14がこの支持部32に上方から掛けられ、この掛けられる箇所が薄くなるように、支持部32が形成されていると解されるから、上記記載における「根元から外縁へ漸減する」とは、上向きに厚さが漸減することといえる。

(2)甲1発明の認定
上記ア.ないしク.を含む甲1全体の記載を総合すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という)。

「外縁が円弧形凹型開口状を呈した厚さが根元から外縁へ漸減するブラケット部14が設けられた軸棒12と、当該軸棒12が両側に一体的に延設された嵌込台座10と、当該嵌込台座10に嵌め込まれた宝石20とを備え、
他方、外縁が円弧形凹型開口状で上向きに厚さが漸減する支持部32が中部に形成された下部ロッド300を両側に設けたベースラック30を用意し、
前記軸棒12に設けられたブラケット部14を、前記下部ロッド300の支持部32に可動に掛けることにより、宝石20を嵌め込んだ嵌込台座10をベースラック30に揺動するように取り付けた宝飾品。」

2 甲2の記載事項
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲2には、次の事項が記載されている。

ア.「【請求項1】
使用者の所定の箇所あるいは前記使用者が装着する所定の部材に吊り下げて使用される身飾品であって、
装飾体を保持する保持手段と、
前記所定の箇所あるいは前記所定の部材に吊り下げられるフレームと、
前記フレームに固定され、円状あるいは円弧状の第1の曲部を備えた第1の係合部と、
前記保持手段に固定され、円状あるいは円弧状の第2の曲部を備え、前記第1の曲部と前記第2の曲部との内周部同士を第1の接合位置で接合させて揺動可能に前記第1の係合部と係合する第2の係合部と、
前記フレームが前記吊り下げられて使用されている状態の重力方向において前記第1の係合部と略同じ位置で、前記第1の係合部と所定の距離を隔てて前記フレームに固定され、円状あるいは円弧状の第3の曲部を備えた第3の係合部と、
前記重力方向において前記第2の係合部と略同じ位置で、前記第2の係合部と所定の距離を隔てて前記保持手段に固定され、円状あるいは円弧状の第4の曲部を備え、前記第3の曲部と前記第4の曲部との内周部同士を第2の接合位置で接合させて揺動可能に前記第3の係合部と係合する第4の係合部と
を有し、
前記吊り下げられて使用され、且つ前記装飾体および前記保持手段に外力が加えられていない状態で、
前記装飾体の正面が重力方向に対して約5°?約45°の角度だけ上方に向けた姿勢になり、
且つ前記装飾体と前記保持手段との全体の重心に対して前記重力方向における上方位置に、前記第1の接合位置と前記第2の接合位置とが位置するように、
前記第2の係合部および前記第4の係合部が前記保持手段に固定されている
身飾品。」

イ.「【0011】
以下、本発明の身飾品の実施形態を説明する。
<第1実施形態>
図1は本発明の実施形態のペンダントトップ1の揺動していない状態での側面図、図2は図1に示すペンダントトップ1を説明するための図、図3は図1に示すペンダントトップ1の正面図、図4は図1に示すペンダントトップ1の背面図、図5(A)はダイヤモンド7を装着していない状態の座台部5の正面図、図5(B)は座台部5の底面図である。
なお、図1?図4は、フレーム10を使用者の首等に紐状部材(図示せず)によって吊り下げて使用している状態(使用状態)を示している。このとき、開口部10aの係合位置10a1に紐状部材が係合する。
【0012】
図1?4に示すように、ペンダントトップ1は、フレーム10に座台部5を揺動可能な状態で取り付けた構造を有している。
座台部5には、ダイヤモンド7が固定されている。
座台部5は、ダイヤモンド7のテーブル面7aと、パビリオン部とが外部に露出するようにダイヤモンド7を爪で固定している。
【0013】
フレーム10には、第1のリング21(第1の係合部)が固定されている。なお、第1のリング21はフレーム10と一体となって形成されていてもよい。
座台部5には、第2のリング31(第2の係合部)が固定されている。なお、第2のリング31は座台部5と一体となって形成されていてもよい。
第1のリング21と第2のリング31とは、内周部同士(第1の曲部と第2の曲部との内周囲部同士)を第1の接合位置51で接合させて揺動可能に係合している。」

第7 請求人が主張する無効理由についての当審の判断
1 無効理由1について
無効理由1は、請求項1に記載された「ピボット状の支軸」の意味が不明確であり、請求項1とこれを引用する請求項2に係る発明は、36条6項2号明確性要件を満たしていないというものであり、請求人は、ピボットの意味を広辞苑に求め、「回転軸、軸受の中で向きを変えたり回転したりする。」とし、「ピボット状の支軸」とは「軸状の支軸」となり、意味が不明確であると主張する。
そこで、まず本件発明1をみると、揺動アーム部に関して、「延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部」と特定され、この「揺動アーム部」は、吊下げ部材の「両側に突設した」されたものであることも特定されている。さらに本件発明1では、装身具用枠体に「所定の間隔で一対の軸受凹部を配置し」てあり、「…軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、…装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた」とも特定されている。したがって、本件発明1は、所定の間隔で配置した一対の軸受凹部のそれぞれに、ピボット状の支軸が係合することにより、装身具用枠体が吊下げ部材に対して、揺動自在に取り付けられていると解される。この装身具用枠体の「揺動」は、軸受凹部にピボット状の支軸が係合している位置を中心とする揺動と解されるところ、この軸受凹部は、一対のものが、所定の間隔で配置されていて、それぞれにピボット状の支軸が係合していることから、揺動の中心となる軸受凹部とピボット状の支軸の係合位置は、所定の間隔で一対、すなわち複数箇所あることとなる。この一対の係合位置が揺動の中心となるには、一対の軸受凹部とピボット状の支軸との係合位置を結ぶ線が装身具用枠体の揺動の中心線となることが必要であるから、結局、本件発明1の「装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた」の揺動とは、軸受凹部とピボット状の支軸との係合位置を結ぶ線を中心とする揺動であるといえる。したがって、本件発明1におけるピボット状の支軸は、少なくとも、このような揺動を可能とする形状をしているといえる。
そして、請求項1には、ピボット状の支軸について、それ以上の記載はない。
そこで、本件の発明の詳細な説明の記載をみると、以下の事項が記載されている。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、宝石を揺動可能としたペンダントやブローチ、指輪、ブレスレット等の装身具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、着用時にダイヤモンド等の宝石をそのテーブル面が正面を向いた状態で、着用者の動きに応じて宝石が揺動するように支持する構造の身飾品が種々提案されている。
そのような先行技術としては、特開2013-226462号公報(特許文献1参照)のような身飾品が知られており、該身飾品における枠組部材と装飾物とを係合する係合部は、前記装飾物の中心に対して上下方向と直交する左右方向の左側に設けられ第1のリング部と、前記装飾物の中心に対して右側に設けられ第2のリング部と、前記枠組部材の前記第1のリング部の側に設けられ、前記第1のリング部とつながれた第3のリング部と、前記枠組部材の前記第2のリング部の側に設けられ、前記第2のリング部とつながれた第4のリング部とを有する。」

イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記身飾品においては連結した一対のリングどうしで装飾物を保持しているために、動きにぎこちなさがあったり、均一な品質の身飾品を得にくいという問題があった。
本発明は、上記不具合を解消すべく発明されたものであり、装飾部材の動きがスムーズで、均一な品質の装身具を得ようとするものである。」

ウ.「【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明に係る装飾部材を揺動可能に取り付けてなる装身具は、適所で上方に屈曲したのち水平方向に延長され、かつ延長端部には下向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を前記装飾部材の両側に突設され、前記装身具用枠体に形成された軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、装飾部材を装身具用枠体に揺動自在に取り付けたものである。
そうすることによって、装飾部材の動きがスムーズで、均一な品質の装身具を得ることができるようになった。
また本発明の装身具は、所定の間隔で一対の軸受凹部を配置した装身具用枠体と、当該装身具用枠体に一体的に保持された装飾部材とを備え、他方、延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意し、前記装身具用枠体に配置された軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けたものである。…」

エ.「【0025】
次に、図25ないし図33は、本発明の装身具の第1実施例を示すものである。
図25ないし図30に示すように、本実施例のペンダントトップからなる装身具91は、所定の間隔で一対の軸受凹部93,93を配置した装身具用枠体92と、当該装身具用枠体92に一体的に保持された、例えばダイヤモンド等の宝石94aを係合した装飾部材94とを備えている。
【0026】
この装飾部材94を備えた装身具用枠体92は、上端にはペンダントのチェーン(図示せず)等を挿通する吊下げ孔96を備え、延長端部に上向きにピボット状の支軸98が形成された揺動アーム部97を両側に突設した吊下げ部材95に吊り下げられて揺動する。
ただし、本実施例においては前記装身具用枠体92の軸受凹部93,93として、揺動アーム部97を挿通するガイド溝102を形成された円筒状断面の保持部101が設けてある。本実施例の装身具は次のようにして組み付けられ、使用される。…」

上記記載によれば、従来、身飾品における枠組部材と装飾物とを係合する係合部は、複数のリングをつなぐことにより、揺動できるように装飾物を保持していた(上記「ア」参照。)が、動きにぎこちなさがあったり、均一な品質の身飾品を得にくいという問題があったため、本件発明は、装飾部材の動きがスムーズで、均一な品質の装身具を得るためになされたものであり(上記「イ」参照。)、所定の間隔で一対の軸受凹部を配置した装身具用枠体を備え、延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意し、前記装身具用枠体に配置された軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けたことにより、装飾部材の動きがスムーズな品質の装身具を得ることができるようにしたものと解される(上記「ウ」参照。)。
そして、上記「エ」において、本発明の第1実施例とされている図25ないし図33の記載をみると、参照番号97で示される揺動アーム部(【図31】、【図33】、【図34】参照。)の端部に参照番号98で示されるピボット状の支軸が形成されており、このピボット状の支軸98は、装身具を使用している状態で、上向きに参照番号93で示される軸受凹部に係合していることがわかる(【図31】、【図33】、【図34】参照。)。
この【図31】ないし【図35】に示されるピボット状の支軸98は、先端が細くなった先細りの形状に形成されており、【図33】および【図34】の記載より、この先端部分が軸受凹部93に係合することで、装身具用枠体92を揺動するように吊り下げていることがわかる。そして、本件発明1のピボット状の支軸は、上記のように、軸受凹部とピボット状の支軸との係合位置を結ぶ線を中心とする揺動を可能とする形状であるところ、このように先端が細くなった先細り形状は、このような揺動を可能とし、かつ装飾部材の動きがスムーズになる形状である。なお、本件特許公報の図面に示されたピボット状の支軸は、いずれも先端が細くなった先細りの形状に形成されている。
そして、本件特許公報に接した当業者は、本件発明は、先端が細くなった先細りの形状に形成されているピボット状の支軸が軸受凹部に係合することで、装飾部材を保持する装身具枠体が揺動する動きがスムーズになり、装身具用枠体の動きにぎこちなさが生じないようにして、従来の身飾品は、動きにぎこちなさがあったという上記課題を解決した発明であると理解できる。
また、従来の身飾品では、複数のリングをつないで揺動できるように装飾物を保持していたため、均一な品質の装飾品を得にくいという課題があったと本件の発明の詳細な説明には記載されているが、これは、個々のリングのわずかなゆがみの違いや、つないだリング同士の接触部分のわずかな形状の違いにより、リング同士の接触部分でリングが滑りを伴う揺動になったり、あるいはこのような滑りを伴わない揺動になるため、この違いが揺動に与える影響が大きいことを「均一な品質の装飾品を得にくい」と表現したものと解される。これに対して、本件発明では、上記のように先端が細くなった先細り形状であるピボット状の支軸が軸受凹部に係合することで、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けたことにより、軸受凹部にピボット状の支軸が係合していることから、軸受凹部とピボット状の支軸の係合部分で滑りが生じても、軸受凹部に係合しているピボット状の支軸の箇所は変わらないため、この滑りが揺動に与える影響は、リング同士の場合に比べて大きくないと解される。したがって、本件特許公報に接した当業者は、本件発明は、先端が細くなった先細りの形状に形成されているピボット状の支軸が軸受凹部に係合することで、均一な品質の装飾品を得にくいという課題を解決した発明であると理解できる。
そうすると、本件特許公報に接した当業者は、「ピボット状の支軸」を「先端が細くなった先細り形状に形成されている支軸」という意味に解するということができる。
ところで、ピボット状の支軸の「ピボット」の意味について、請求人の主張によれば、「回転軸、軸受の中で向きを変えたり回転したりする。」と広辞苑第6版に記載(なお、このような記載が広辞苑にあることについて、被請求人は、特段の主張をしていない。)され、また被請求人が提出した乙1には、「軸端が円すい形でその先端がわずかに丸味をつけたもの。」と記載され、同じく乙2には「先端が円錐形になっている回転軸。」と記載されているから、「ピボット」は、一般的に請求人が主張する意味以外にも用いられているということができ、本件発明1の「ピボット」については、上記のように、円すい形と同様に、先細りの形状になっているものと解されることから、乙1や乙2に示されるピボットの意味で用いられていることが明らかである。
以上のことから、ピボット状の支軸とは、先端が細くなった先細りの形状に形成されて支軸を意味している点で明確であり、請求人の「ピボット状の支軸」の意味が不明確であるという主張は採用することができず、無効理由1には、理由がないから、この点において、本件発明1についての特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものとはいえない。
したがって、請求人の「ピボット状の支軸」の意味が不明確であるという主張は採用することができず、無効理由1には、理由がないから、この点において、本件発明1についての特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由1により無効とすべきものではない。

2 無効理由2について
無効理由2は、請求項1に係る発明が「吊下げ部材を用意し」と特定されている事項を含むため、製造方法で特定される物の発明に該当し、明確でないというものである。
ここで、請求項1の記載をみると、この「吊下げ部材を用意し」は、「吊下げ部材を用意し、…装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた…装身具」という発明特定事項の中で用いられているから、請求人の主張する「吊下げ部材を用意し」という意味も、この発明特定事項の中で解釈を行うのが適切である。
そして、この発明特定事項を検討すると、これは、用意された吊下げ部材に装身具枠体が揺動自在に取り付けられた装身具という状態を特定しているものであって、明確である。したがって、請求人の主張する「吊下げ部材を用意し」とは、本件特許発明1の装身具には、吊下げ部材があることを特定しているにすぎず、明確である。
したがって、請求人の「吊下げ部材を用意し」と特定されている事項を含むため、製造方法で特定される物の発明に該当し、明確でないという主張は採用することができず、無効理由2には、理由がないから、この点において、本件発明1及び2についての特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由2により無効とすべきものではない。

3 無効理由3について
無効理由3は、訂正前の請求項2の「前記吊下げ部材は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した」の「その背面」の「その」は「吊り下げ部材」を指すとした上で、このような構成が、本件特許の明細書には開示されていないから、36条6項1号(サポート要件)を満たしていないというものである。
この点、訂正により、「該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす」と訂正され、これは、本件特許公報の【0027】ないし【0030】、【図34】、【図45】、【図49】、【図50】に記載されている(上記「第2 平成30年8月22日付け訂正請求について」の「2 本件訂正の適否」、「(2)新規事項の有無」参照。)から、サポート要件は満たしている。
したがって、請求人の主張は採用することができず、無効理由3には、理由がないから、この点において、本件発明2についての特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由3により無効とすべきものではない。

4 無効理由4について
(1)対比及び一致点、相違点について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「外縁が円弧形凹型開口状を呈した厚さが根元から外縁へ漸減するブラケット部14」は、本件発明1の「軸受凹部」に相当し、甲1発明の「宝石20」、「嵌込台座10」は、それぞれ本件発明1の「装飾部材」、「装身具用枠体」に相当する。そして、「外縁が円弧形凹型開口状を呈したブラケット部14が設けられた軸棒12」が嵌込台座10の「両側に一体的に延設された」ことは、嵌込台座10の両側に、「外縁が円弧形凹型開口状を呈したブラケット部14」が設けられることとなるから、このブラケット部14は、嵌込台座10を挟んで2つ、すなわち、所定の間隔で一対、配置されることとなる。したがって、甲1発明の「外縁が円弧形凹型開口状を呈した厚さが根元から外縁へ漸減するブラケット部14が設けられた軸棒12と、当該軸棒12が両側に一体的に延設された嵌込台座10と、当該嵌込台座10に嵌め込まれた宝石20とを備え」ることは、本件発明1の「所定の間隔で一対の軸受凹部を配置した装身具用枠体と、当該装身具用枠体に一体的に保持された装飾部材とを備え」ることに相当する。
(イ)甲1発明の「支持部32」は、本件発明1の「ピボット状の支軸」と軸受凹部(甲1発明におけるブラケット部14)に係合する部材である点で共通し、甲1発明の「外縁が円弧形凹型開口状で上向きに厚さが漸減する支持部32が中部に形成された」ことは、本件発明1の「上向きにピボット状の支軸が形成された」ことと軸受凹部(甲1発明におけるブラケット部14)に係合する部材が形成された点で共通する。また、甲1発明の「下部ロッド300」、「設けた」、「ベースラック30」は、それぞれ、本件発明1の「揺動アーム部」、「突設した」、「吊下げ部材」に相当する。したがって、甲1発明の「外縁が円弧形凹型開口状で上向きに厚さが漸減する支持部32が」「下部ロッド300を両側に設けたベースラック30を用意」することは、本件発明1の「上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意」することと、軸受凹部に係合する部材が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意することと共通する。
(ウ)上記(ア)に示したように、甲1発明の「軸棒12に設けられたブラケット部14」は、本件発明1の「装身具用枠体に配置された軸受凹部」に相当し、上記(イ)に示したように、甲1発明の「下部ロッド300の支持部32」は、本件発明1の「揺動アーム部のピボット状の支軸」と軸受凹部に係合する部材である点で共通する。さらに、甲1発明のブラケット部14を支持部32に「可動に掛けること」は、本件発明1の軸受凹部にピボット状の支軸が「係合すること」に相当し、甲1発明の「宝石20を嵌め込んだ嵌込台座10をベースラック30に揺動するように取り付けた」ことは、本件発明1の「装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた」ことに相当する。また、甲1発明の「宝飾品」は、本件発明1の「装身具」に相当する。したがって、甲1発明の「軸棒12に設けられたブラケット部14を、前記下部ロッド300の支持部32に可動に掛けることにより、宝石20を嵌め込んだ嵌込台座10をベースラック30に揺動するように取り付けた宝飾品」は、本件発明1の「装身具用枠体に配置された軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた」「装身具」と、装身具用枠体に配置された軸受凹部に、軸受凹部に係合する部材が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた装身具である点で共通する。

イ 一致点及び相違点
してみると、 本件発明1と甲1発明とは、次の[一致点]で一致し、次の[相違点]で相違する。

[一致点]
「所定の間隔で一対の軸受凹部を配置した装身具用枠体と、当該装身具用枠体に一体的に保持された装飾部材とを備え、
他方、軸受凹部に係合する部材が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意し、
前記装身具用枠体に配置された軸受凹部に、前記揺動アーム部の軸受凹部に係合する部材が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けた装身具。」

[相違点]
軸受凹部に係合する部材が、本件発明1では、揺動アーム部の延長端部に上向きに形成されたピボット状の支軸であるのに対し、甲1発明では、下部ロッド300の中部に形成された円弧形凹部に形成された上向きに厚さが漸減する支持部32である点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
本件発明1における「ピボット状の支軸」とは、少なくとも先端が細くなった先細りの形状に形成されている支軸という意味に解される(上記「1 無効理由1について」参照。)。
これに対し、甲1における、軸受凹部に相当するブラケット部14に係合する部材は、円弧形凹部に形成された上向きに厚さが漸減する支持部32であって、甲1には、先端が細くなった先細り形状に形成されているピボット状の支軸は記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、この上向きに形成されたピボット状の支軸が、軸受凹部に係合するものであるから、装身具用枠体が揺動しても、ピボット状の支軸は、その先端が常に軸受凹部に係合するものである。これに対して、甲1発明の支持部32は、「上向きに厚さが漸減する」と特定されるように、一定の幅(長さ)のある部材の上部の厚さが漸減するものであるから、ベースラック30の揺動時に、支持部32がブラケット部14と係合する箇所は、支持部32の形状やベースラック30にかかる力によって、支持部32の幅方向に変わりえるものである。そして、揺動時に係合する箇所が常に先端部分であって変わらない本件発明1のピボット状の支軸と、揺動時にかかる力の状態によっては、係合する箇所が変わる甲1発明の支持部32とでは、その揺動の挙動も異なるものなると解される。したがって、上記相違点は、実質的な相違点である。

(3)無効理由4についての結論
上記(1)及び(2)に示したように、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由4により無効とすべきものではない。

5 無効理由5について
上記「4 無効理由4について」で示した[相違点]について検討する。
上記「4 無効理由4について」で示したように、[相違点]は、実質的な相違点である。そして、甲1には、前記「4」において述べたとおり、支持部32を「ピボット状の支軸」とすること、あるいは、「ピボット状の支軸」を用いた宝飾品については記載も示唆もされていないし、また、装飾部材を備えた装身具用枠体が揺動自在に取り付けられている装身具において、ピボット状の支軸を用いることが自明な事項であるともいえない。また、請求人は、上記[相違点]にかかる本件発明1の発明特定事項が公知あるいは周知であることを示す具体的な主張はしておらず、またそのような証拠を示してもいない。
したがって、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、上記[相違点]に係る本件発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易にできたものとはいえない。
ところで、甲1発明のブラケット部14は、「外縁が円弧形凹型開口状を呈した厚さが根元から外縁へ漸減する」ものであり、支持部32は、「外縁が円弧形凹型開口状で上向きに厚さが漸減する」ものであって、ブラケット部14と支持部32が係合する部分は、両者の厚さが漸減したもの、すなわちブラケット部14と支持部32が薄くなっている部分同士が係合しており、これにより、甲1発明は、ブラケット部14と支持部32との間の摩擦を低減して、ベースラック30が揺動しやすくしていると解される。したがって、ブラケット部14の支持部32が係合する部分は、その厚さが薄くされていることから、この薄い部分に、先端が細くなった先細りの形状に形成されているピボット状の支軸を係合させることは、技術的に困難であり、甲1発明の支持部32をピボット状の支軸とすることには、阻害要因もあるといえる。
よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効理由5により無効とすべきものではない。

6 無効理由6について
無効理由6は、本件発明2は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないと主張する無効理由である。
この本件発明2は、本件発明1を引用して特定された発明であり、本件発明1において特定された事項の全てを含み、さらに限定された発明であるから、上記「4 無効理由4について」の「(1)対比及び一致点、相違点について」、「イ 一致点及び相違点」で示した[相違点]を甲1発明に対して、有する発明である。
そして、この[相違点]が実質的な相違点であることは、「4 無効理由4について」の「(2)判断」で示した通りである。
そうすると、本件発明2も、また本件発明1と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由6により無効とすべきものではない。

7 無効理由7について
甲1には、上記「4 無効理由4について」の「(1)対比及び一致点、相違点について」、「イ 一致点及び相違点」で示した[相違点]にかかる本件発明1の発明特定事項が記載も示唆もされていないのは、上記「5 無効理由5について」で示した通りである。また、上記「6 無効理由6について」で示したように、上記[相違点]は、本件発明2と甲1発明との相違点でもある。
そして、甲2には、第1のリング21と第2のリング31とは、内周部同士(第1の曲部と第2の曲部との内周囲部同士)を第1の接合位置51で接合させて揺動可能に係合していること、すなわち、2つのリングの内周部同士を接合させて揺動可能に係合することは、記載されているが、ピボット状の支軸を一方に用いて揺動可能に係合することは記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明2の[相違点]に係る発明特定事項を甲1発明、甲1に記載された事項及び甲2に記載された事項から得ることは当業者が容易にできたものとはいえない。
よって、本件発明2は、甲1発明及び甲1に記載された事項、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由7により無効とすべきものではない。

8 当審で通知した無効理由(明確性)について
(1)当審で通知した無効理由の概要
平成30年7月20日付けで当審が通知した無効理由通知は、概略、本件の請求項2は、「前記吊下げ部材は、その背面から後方に延長したのち下向きに折返して形成した…スペーサを備え」ることを特定しているが、「その背面から」の記載における「その」が、何を示すのか明確でないから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。

(2)当審で通知した無効理由についての検討
上記無効理由通知に対して、被請求人は、平成30年8月22日付け訂正請求により、本件発明2を「前記吊下げ部材は、該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす、」と訂正する訂正請求をし、この請求は上記「第2 平成30年8月22日付け訂正請求について」に示すように、認められるものである。
そして、訂正後の請求項2に係る発明は、上記無効理由通知における「その背面から」は、「吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から」であることが明りょうであるから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであり、これにより無効とすべきものではない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。
請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効にすることはできない。また当審で通知した無効理由によっては、本件発明を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で一対の軸受凹部を配置した装身具用枠体と、当該装身具用枠体に一体的に保持された装飾部材とを備え、
他方、延長端部に上向きにピボット状の支軸が形成された揺動アーム部を両側に突設した吊下げ部材を用意し、
前記装身具用枠体に配置された軸受凹部に、前記揺動アーム部のピボット状の支軸が係合することにより、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に揺動自在に取り付けたことを特徴とする装身具。
【請求項2】
前記吊下げ部材は、該吊下げ部材の上方に連結・固定された端部部分の背面から後方に延長されたのち下向きに折返されたU字状をなす、身体との間隔を保持するためのスペーサを備え、装飾部材を備えた装身具用枠体を吊下げ部材に確実に揺動自在に取り付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装身具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-03-20 
結審通知日 2019-03-25 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2016-62393(P2016-62393)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (A44C)
P 1 113・ 113- YAA (A44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗山 卓也  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 長馬 望
久保 竜一
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5976248号(P5976248)
発明の名称 装身具  
代理人 土橋 博司  
代理人 土橋 博司  
代理人 松下 昌弘  

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