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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B29C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1352527
審判番号 無効2018-800047  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-04-26 
確定日 2019-05-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5807070号発明「ヒートシール樹脂層を含む多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5807070号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5807070号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、2012年(平成24年)1月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年1月6日、大韓民国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年9月11日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、その後の主な経緯は次のとおりである。

平成30年4月26日:無効審判請求(請求人)
同年8月14日:審判事件答弁書及び訂正請求書提出(被請求人)
同年9月26日:審判事件弁駁書提出(請求人)
同年11月13日付け:審理事項通知書(特許庁審判長から請求人
及び被請求人双方に対して)
平成31年1月10日:口頭審理陳述要領書提出(請求人)
口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年1月25日:第1回口頭審理

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップ;」と記載されているのを、「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われるインライン押出である、第2押出成形ステップ;」と訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2ないし9についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「請求項3に記載の多層ポリオレフィン系延伸フイルムの製造方法。」と記載されているのを、「請求項3に記載の多層ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」
と訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項4を引用する請求項5ないし8についても、請求項4を訂正したことに伴う訂正をする。

なお、訂正前の請求項2ないし9は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用していることから、訂正前の請求項1ないし9は一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとにされており、特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものか否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップ」中の「押出成形」が「前記縦方向延伸ステップ後に行われるインライン押出である」ことに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書の【0051】の「しかし、上述したところのように、本発明の具現例に基づき、帯電防止剤を縦延伸(MDO)後に行われる第2押出ステップ(インライン押出)において樹脂層40に含ませる場合、前記のような問題が解決される。」、【0067】の「図5に示される装置を利用して、押出を通じてスキン外層10/コア層30/スキン内層20を形成、冷却した後、縦方向延伸比4倍に縦延伸した。そして、縦延伸後、連続押出を通じたインライン(In‐Line)工程により、前記スキン内層20上に樹脂層40としてEVA層をラミネーション、冷却した後、横方向延伸比8倍に横方向延伸して、図3に示されるところのような4層構造の延伸フィルムを製造した。」及び【0071】の【表1】中の「インライン押出」という記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4の「フイルム」なる誤記を他の請求項の記載に合わせて「フィルム」に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
また、上記訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、上記訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 むすび
以上のとおり、上記訂正事項1及び2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1及び2号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に、「本件発明1」のようにいう。また、総称して、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ;
前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ;
前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ;
前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われるインライン押出である、第2押出成形ステップ;
前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ;および、
前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ
を含み、前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され、
前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸するものであって、
前記第2押出成形ステップでは、ヒートシール樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層がラミネーションされたフィルムの第2冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを利用して前記樹脂層に気流溝を形成させるように遂行する、請求項1に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第2押出成形ステップは、前記ヒートシール樹脂層として、メタロセン樹脂、エチレン酢酸ビニル、エチレン酢酸メチル、エチレンメタクリル酸、およびエチレン酸ターポリマーからなる群より選択された一つ以上を含む原料を使用する、請求項1または2に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記スキン外層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記コア層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記スキン内層は、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)より選択された1つ以上からなる、請求項3に記載の多層ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第2押出成形ステップは、前記樹脂層として、第1押出成形ステップにおいて使用した原料よりも融点の低い樹脂を含む原料を使用する、請求項1?4のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第2押出成形ステップは、前記樹脂層として、帯電防止剤を含む原料を使用する、請求項1?5のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第2押出成形ステップは、前記樹脂層として、ナイロン樹脂を含む原料を使用する、請求項1?6のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記第1押出成形ステップでは、スキン外層にスリップ剤およびブロッキング防止剤からなる群より選択された一つ以上が含まれるように遂行される、請求項1?7のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記スキン外層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記コア層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記スキン内層は、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)より選択された1つ以上からなり、
前記ヒートシール樹脂層は、エチレン酢酸ビニル、エチレン酢酸メチル、エチレンメタクリル酸、または、エチレン/プロピレン/ブタジエンの三元共重合体からなる、請求項1または2に記載の多層ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。」

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書とともに下記甲第1ないし9号証を証拠方法として提出し、審判事件弁駁書とともに下記甲第10ないし17号証を証拠方法として提出し、口頭審理陳述要領書とともに下記甲第18ないし20号証を証拠方法として提出した。
そして、請求人は、「特許第5807070号の請求項1ないし9に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、おおむね次の無効理由を主張している。

(1)無効理由1-1(新規性)
本件発明1、3、4及び9は,いずれも、特開平1-182040号公報(甲第1号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(2)無効理由1-2(進歩性)
本件発明1ないし9は、いずれも、特開平1-182040号公報(甲第1号証)に記載された発明に基づいて,本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(3)無効理由2-1(新規性)
本件発明1、3、4、8及び9は、いずれも、特開昭57-181829号公報(甲第2号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(4)無効理由2-2(進歩性)
本件発明1ないし9は、いずれも、特開昭57-181829号公報(甲第2号証)に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

2 証拠方法
甲第1号証 特開平1-182040号公報
甲第2号証 特開昭57-181829号公報
甲第3号証 プラスチックフィルムの延伸技術と評価、表紙、目次、107?129ページ、144?156ページ、奥付、1992年10月16日
甲第4号証 特開平3-260689号公報
甲第5号証 プラスチックフィルムの基礎と応用、表紙、目次、33?38ページ、奥付、2010年1月26日
甲第6号証 公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)の「インモールドラベルってどんなものですか」と題するウェブページ(https://www.jagat.or.jp/archives/12626)、2002年4月15日
甲第7号証 特開平2-244189号公報
甲第8号証 「合成紙の新用途展開」(ケミトビア No.14 January 1994の表紙、目次、34?41ページ、奥付)、1994年1月
甲第9号証 特開2002-258752号公報
甲第10号証 広辞苑(第7版)1952?1953ページ、奥付、2018年1月12日
甲第11号証 実務詳説 特許関係訴訟[第3版]、平成28年8月31日
甲第12号証 誰にでもわかるラミネーティング、目次、奥付、1998年10月6日
甲第13号証 株式会社マツムラの「インラインラミネート」と題するウェブページ(https://www.ensoku.jp/mobile_mg/pop_t-dai/big_image_in_line_lami_.html)、2001年
甲第14号証 ラミネートフィルムの加工技術、202ページ、奥付、1990年4月12日
甲第15号証 プラスチックフィルム-加工と応用-、396ページ、奥付、1995年4月5日
甲第16号証 特開2008-150541号公報
甲第17号証 特開2001-139712号公報
甲第18号証 特開平3-69361号公報
甲第19号証 特開平3-73341号公報
甲第20号証 特開平9-1660号公報
(以下、順に「甲1」のようにいう。)

第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書とともに下記乙第1及び2号証を証拠方法として提出し、口頭審理陳述要領書を提出した。

そして、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由1-1ないし2-2はいずれも理由がない旨主張している。

2 証拠方法
乙第1号証 英和 プラスチック工業辞典、第5版第2刷、p.496、1992年5月25日
乙第2号証 プラスチック大辞典、初版第1刷、p.153-154、460、463、1994年10月20日
(以下、順に「乙1」のようにいう。)

第6 当審の判断
1 甲各号証及び乙各号証の記載
甲各号証及び乙各号証には、それぞれ、次の記載(以下、順に「甲1の記載」のようにいう。)がある。なお、下線は予め付されたものと当審で付したものである。
(1)甲1
・「〔産業上の利用分野〕
本発明は、ブックカバー、半透明ラベル、電飾看板やポスター、OHP、サーマルレントゲンフィルム、インジェクト記録紙或いは熱転写被記録体基材として有用な半透明のプロピレン系樹脂多層複合フィルムに関する。」(第2ページ左上欄第5ないし10行)

・「〔従来技術〕
ブックカバーとしては、従来、パラフィン紙の片面にサンドブラスト処理した半透明のものが使用されていた。
しかし、強度が弱く、破れやすいので、無機微細粉末を含有するポリプロピレンの2軸延伸フィルムを基材層とし、この基材層よりも無機微細粉末を多量に有するポリプロピレンの1軸延伸フィルムを表面層とする複合フィルムよりなり、その不透明度(JIS P-8138)が30?38%、表面光沢度(JIS P-8142)が5?7%のものが王子油化合成紙(株)よりユポTPG(商品名)として販売され、使用されている。
このユポTPGは、電飾看板やポスター、製図用のトレース紙としても用いられている。このユポTPGは、鉛筆筆記性をも目的としているので表面層に無機微細粉末を多量に含有している。それ故、光沢度が5?7%と低く、ブックカバーとして更に光沢度の改良が望まれている。
また、不透明度が30?38%であり、トレース紙としては良好で、複写に便利であるが、OHPや電飾看板やポスター、サーマルレントゲンフィルム基材、透明な瓶や容器の中身が透視できるラベルやクッキー、チョコ等の菓子類を収納した箱本体の封止のために用いる耐水性フィルムとしては、更に不透明度を低下させることが望まれている。」(第2ページ左上欄第13行ないし右上欄末行)

・「〔問題点を解決する手段〕
本発明においては、表面層を結晶化度の高い(50?85%)プロピレンのホモポリマーもしくはプロピレン系ランダム共重合体を用いることにより複合フィルムの透明性、光沢を向上させる。
・・・(略)・・・
即ち、本発明はプロピレン系樹脂75?95重量%、高密度ポリエチレン25?5重量%よりなる樹脂フィルムの2軸延伸物を基材層(A)とし、該基材層(A)の少くとも片面に接着剤層(B)を介して、(a)プロピレン系樹脂80?95重量%、(b)高密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレンより選ばれたオレフィン系樹脂10?0重量%および(c)無機微細粉末20?5重量%よりなるオレフィン系樹脂組成物よりなるフィルム(C)とプロピレンのホモ重合体またはプロピレン系ランダム共重合体のフィルム(D)との積層物の一軸延伸物が、後者のプロピレンのホモ重合体フィルムの一軸延伸物(D)が表面層となるように積層された複合フィルムであって、この複合フィルムのJIS P-8138の規格で測定した不透明度が3?25%、表面層(D)側よりJIS P-8142の規格で測定した光沢度が65?95%である半透明のプロピレン系樹脂多層複合フィルムを提供するものである。」(第2ページ左下欄第1行ないし右下欄第15行)

・「(各層の組成物)
(A)基材層
(a”)プロピレン系樹脂 75?95重量%
(b”)高密度ポリエチレン 25?5重量%
(B)接着剤層
(a’)プロピレン系樹脂 85?94.5重量%
(b’)高密度ポリエチレン 5?15重量%
(c’)無機微細粉末 0.5?5重量%
(C)中間層
(a)プロピレン系樹脂 80?95重量%
(b)高密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレンより選ばれたオレフィン系樹脂 10?0重量%
(c)無機微細粉末 5?20重量%
(D)表面層
プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)」(第2ページ右下欄第16行ないし第3ページ左上欄第12行)

・「(複合フィルムの製造)
本発明の複合フィルムは、基材層(A)形成樹脂組成物と、接着剤層(B)形成用樹脂組成物をそれぞれ別々の押出機を用いて溶融混練し、1台のダイに供給し、ダイ内で積層した後、共押出し、シート状に押し出す。
次いで、この多層樹脂シートを基材層のプロピレン系樹脂の融点より低い温度、例えば40?85℃まで冷却し、再び基材層のプロピレン系樹脂の軟化点まで加熱した後、縦方向に3?10倍延伸する。この延伸により、基材層フィルムは縦方向に配向する。
続いて、別々の押出機を用いて中間層形成用樹脂組成物(C)と表面層形成用樹脂(D)を溶融混練し、一台のダイに供給し、次いでシート状に共押出して前述の縦延伸(多層)樹脂シートの両面または片面に溶融積層(ラミネート)し、(C)層のプロピレン系樹脂の融点より少くとも10℃以上高い温度で横方向に4?12倍延伸し〔融点より高い温度で延伸するので中間層(C)においては無機微細粉末を核とした微細なミクロボイドは殆んど見受けられない。〕必要によりアニーリング処理し、続いて耳部をスリットすることより本発明の複合フィルムは製造される。
(複合フィルム)
この複合フィルムの層の構造は、第1図に示すような表面層(D)/中間層(C)/接着剤層(B)/基材層(A)/接着剤層(B)/中間層(C)/表面層(D)の7層構造、D/C/B/A/Cの5層構造が代表的であるが、必要により他の樹脂層をこの各層の間に、または表面層の上に設けてもよい。ガスバリヤー性のポリアミドやポリエチレンテレフタレート、ケン化エチレン・酢酸ビニル共重合体のフィルム層を例えば中間層と接着剤層の間に設けたり、表面層の一方(通常は用途によって裏面層といわれる)の上に低温ヒートシール性のフィルムをラミネートする等のことである。」(第3ページ右下欄第3行ないし第4ページ左上欄末行)

・「実施例1
(1) メルトインデックス(MI)0.8ホモポリプロピレン(融点164℃)90重量%と高密度ポリエチレン8重量%の混合物(A)と、MI4.0のポリプロピレン87重量%、高密度ポリエチレン10重量%および平均粒径1.5ミクロンの重質炭酸カルシウム粉末3重量%の混合物(B)を、それぞれ別々の押出機で溶融混練後、一台のダイに供給し、ダイ内で三層(B/A/B)に積層し、ついで250℃でダイよりシート状に共押出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得た。このシートを、155℃に加熱後、縦方向に5倍延伸した。
(2) MI4.0のホモポリプロピレン(D)と、MI4.0のポリプロピレン86.5重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム10重量%と高密度ポリエチレン3.5重量%を混合した組成物(C)とを別々の押出機で溶融混練し、ダイ内で積層して共押出したシートを(1)の5倍延伸シートの両面に(D)が外側になるように積層し、ついでこの七層積層物を185℃に加熱したのち横方向に7.5倍の延伸を行なって、七層のフィルムを得た。
(3) この七層積層フィルムの表面をコロナ放電処理し、(D)/(C)/(B)/(A)/(B)/(C)/(D)の各フィルムの肉厚が5/20/0.5/49/0.5/20/5ミクロンの七層構造物を得た。」(第4ページ左下欄第2行ないし右下欄第8行)

・「応用例1
表面がエンボス加工されたガラスを素材とした緑色の内容量540ccの半透明瓶の内部にビールを充填し、栓を施した後、実施例1で得た肉厚100ミクロンの七層の半透明複合フィルムにバーコードを印刷したものをラベルとしてこの瓶の胴部に透明なアクリル系溶剤型接着剤を用いて貼合した。
このラベルを透して瓶内のビールを透視することができた。
応用例2
透明なポリ塩化ビニールの中空形成容器(内容量300ml)ボトルに淡い緑色に着色した液体洗剤を充填し、キャップを施した後、実施例1で得た厚さ100ミクロンの半透明複合フィルムにバーコード及び文字を印刷したものをラベルとしてこのボトルの胴部に透明なゴム系エマルジョン型接着剤で貼合した。
このラベルを透してボトル内の液体洗剤を透視することができた。」(第4ページ左下欄下から5行ないし第5ページ右上欄第15行)

・「4.図面の簡単な説明
第1図は本発明の複合フィルムの断面図である。」(第5ページ右上欄第16及び17行)

・「

」(第5ページ右上欄)

(2)甲2
・「〔I〕発明の背景
技術分野
本発明は、複合ポリオレフィン樹脂延伸フィルムの製造法に関する。さらに具体的には、本発明は、寸法安定性および外観の良好な複合ポリオレフィン樹脂延伸フィルムを成形性良く製造する方法に関する。
無機微細粉末(以下、充填剤ということがある)を配合した熱可塑性樹脂のフィルムを適当な温度で一軸または二軸に延伸することにより、不透明なフィルムが得られる。このフィルムはその不透明性、白さ、風合および感触の点でパルブ紙に類似しており、このフィルムのみからなる単層構造物としてあるいはこのフィルムを表面層に有する多層構造物として従来のパルプ紙の各種の用途に使用可能であることが知られている。
充填剤配合熱可塑性樹脂の延伸フィルムが不透明および白色であるのは、フィルム延伸時に樹脂と充填剤粒子との界面に剥離が起り、さらに延伸が進むにつれて樹脂/充填剤粒子間に微細な隙間が生じて、延伸終了時には充填剤粒子をその内部に含んだ微細なボイドがフィルム内部に形成されること、ならびにフィルム表面付近では閉鎖されたボイドの形状が保たれないので微小な亀裂が表面に形成されることから、光がフィルム表面および内部で散乱されるためである。そして、この表面亀裂および内部ボイドによって、フィルムはパルプ紙に類似した性質を持つようになるのである。
しかし、このような不透明フィルムに印刷、折り、製本、製袋等の二次加工を行なう場合には、表面付近のボイドがその閉鎖構造を破壊されて表面亀裂となり、その結果表面に遊離ないし半遊離状態で存在するに到った充填剤粒子が二次加工機のロール、ブランケット等に付着し、加工に障害が生じることが多くて二次加工の能率が著るしく低下する(以下、紙粉トラブルということがある)。
従って、このような構造の不透明フィルムでは、印刷ないし筆記が可能であってしかも紙様の不透明度があれば、その表面層は充填剤の含有率が低い方が好ましいということになる。
このような希望を満たすものとして、充填剤含有率の比較的低い層(紙状層)をこれより充填剤含有率の高い層(基材層)の表面に設けてなる積層構造のものが挙げられる・・・。しかし、この公知の積層構造延伸フィルムは紙状層および基材層がともに二軸延伸フィルムであり、紙状層が二軸延伸フィルムであることに相当して表面が真珠様光沢を有するとともに基材層層との間で層間剥離を生じやすいという問題が認められる。また、この紙状層は、グラビア印刷は実用上利用できるとしても、そのオフセット印刷性能は実用にはほど遠いといわざるを得ない。
このような問題点は、紙状層が一軸延伸フィルムで基材層が二軸延伸フィルムである積層構造体によって解決することができよう。しかし、基材層として充分な機械的強度および延伸展性を持たすべくメルトインデックス(MI)0.5?3のポリオレフィン樹脂を使用し、しかも充分な不透明度を得べく充填剤含量を20?68%としてこのような積層構造体を製造したところ、いくつかの問題点が見出された。すなわち、積層構造は、基材層用のポリオレフィン樹脂の縦方向延伸シートを予めつくり、その少なくとも片面に紙状層用のポリオレフィン樹脂を溶融積層し、得られる積層シートを横方向に延伸することによって製造されるが、基材層が低MIかつ高充填剤含量のポリオレフィン樹脂であることに起因して下記の欠点が認められた。
(1) 基材層用シートを押出すダイのスリット部に焼けて劣化した樹脂が付着して蓄積され、これが押出されるシートの表面に筋状の傷をつける。その結果、延伸が均一に行なわれず、生成複合延伸フィルムを光で透過してみると筋状の不透明度ムラが視認される。
(2) 溶融押出された基材層用シートを冷却すると充填剤粒子を核として収縮が起り、シート表面に多数のくぼみが生じる。その結果、生成複合延伸フィルムには米粒大の未延伸部分(所謂「エクボ」)が多数視認される。
(3) 低MIかつ高充填剤含量のポリオレフィン樹脂シートは延伸が困難であり、上記のくぼみの発生とあいまって、延伸が不均一となり易い。」(第2ページ右上欄第4行ないし第3ページ右上欄第7行)

・「〔II〕発明の概要
要旨
本発明は上記の点に解決を与えることを目的とし、基材層用シートとして共押出によって得られた特定の複合構造シートを使用することによってこの目的を達成しようとするものである。
従って、本発明による複合ポリオレフィン樹脂延伸フィルムの製造法は、基材層用ポリオレフィン樹脂シートの一軸延伸物の少なくとも片面に紙状層用ポリオレフィン樹脂シートを溶融積層し、得られる積層シートを上記延伸方向と直角の方向に延伸することからなり、上記基材層ポリオレフィン樹脂シートが下記の組成物(B)よりなる中間層の一方の面に下記の組成(A)よりなる層を、他方の面に下記の組成物(C)よりなる層を設けるように一台の共押出ダイより溶融押出しして得た複合構造シートであり、上記紙状層用ポリオレフィン樹脂シートが下記の組成物(D)からなるものであること、を特徴とするものである。
組成物(A)
無機微細粉末を0?18重量%の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物。
組成物(B)
無機微細粉末を20?68重量%の割合で含有するポリオレフィン樹脂組成物。
ただし、このポリオレフィン樹脂のメルトインデックスは0.5?3g/10分である。
組成物(C)
無機微細粉末を0?18重量%の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物。
組成物(D)
無機微細粉末を5?50重量%の割合で含有するポリオレフィン樹脂組成物。
ただし、このポリオレフィン樹脂のメルトインデックスは3?12でありかつ組成物(B)のポリオレフィン樹脂のそれより大きい。」(第3ページ右上欄第8行ないし右下欄第4行)

・「〔III〕発明の具体的説明
1.基材層
本発明で使用する基材層用ポリオレフィン樹脂シートは、組成物(A)、(B)および(C)の層からなる複合シートであって共押出によって製造したものであり、しかも一軸延伸されたものである。
1) 組成物(A)および(C)
組成物(A)および(C)を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分加水分解物、エチレン-アクリル酸共重合体およびその塩、塩化ビニリデン共重合体たとえば塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、その他、およびこれらの混合物、を例示することができる。
これらのうちでも、安価でありかつ組成物(B)よりなる層および組成物(D)よりなる層との接着性の面から、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂を組成物(A)および(C)の少なくとも一方、望ましくは両方、に使用することが好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂を組成物(A)および(C)の両方に使用するときでも、使用オレフィンの種類、MIその他を異ならせることができる。
本発明に従って組成物(B)から形成される基材層は、内部に微細な空孔を多数有していて水蒸気、酸素等のガスの透過度が大きい。従って、本発明による複合延伸フィルムにガスバリヤー性が要求されるときには、組成物(A)および(C)の少なくとも一方の熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分加水分解物および塩化ビニリデン共重合体(たとえば塩化ビニルとの共重合体)から選んだものを使用することが好ましい。
組成物(A)および(C)からなる層は低MIかつ高充填剤含量の組成物(B)からなる中間層の両面を被って一台のダイより共押出する際の焼け樹脂の発生を防ぐために用いるものであるから、組成物(A)および(C)用の樹脂は、先ず組成物(B)用ポリオレフィン樹脂のMIと同等かそれよりもMIが大きいものであるべきである。好ましいMIは、1?3程度である。そして、組成物(A)および(B)は、充填剤を含まないかあるいは充填剤含量18重量%まで、好ましくは15重量%まで、のものであるべきである。もっとも、組成物(A)および(C)からなる層の表面には組成物(D)からなる層が被着されるのであるから、その場合の接着性を考慮すれば組成物(A)および(C)充填剤含量は3重量%以上であることが好ましい。
充填剤の種類に関しては、組成物(B)について後記されているところを参照されたい。
組成物(A)および(C)は熱可塑性樹脂組成物であり、従ってこの種の組成物が含みうる各種の補助資材を含むことができる。詳細は、後記されたところを参照されたい。
2) 組成物(B)
組成物(B)を構成するポリオレフィン樹脂としては、MI値に関する条件を除けば、組成物(A)および(C)について前記したポリオレフィン樹脂と同種または異種のものを使用することができる。組成物(B)からなる層は基材層として製品複合延伸フィルムの機械的性質を主として支配するものであるから、組成物(B)用ポリオレフィン樹脂としては高密度ポリエチレン、ポリプロピレンおよび両者の混合物がフィルム剛性の点から好ましい。
組成物(B)用のポリオレフィン樹脂は、MIが0.5?3、好ましくは1?3、のものであるべきである。MIが0.5未満のものは耐クリープ性に富むとしてもフィルムの押出量が少なくなる故に生産性が向上しないからであり、一方、基材層用ポリプロピレンのMIが3より大きいと基材層が厚肉のときは均一延伸が困難となって延伸むらが生じやすいからである。なお組成物(B)用のポリオレフィン樹脂のMIは、組成物(D)用のポリオレフィン樹脂のそれ(詳細後記)より1以上低いことが横延伸成形性(詳細後記)の面から望ましい。
組成物(B)は、充填剤を20?68重量%、好ましくは25?65重量%、の割合で含有する。20%未満では、生成複合延伸フィルムに紙的風合をもたらすために表面組成物(D)に多量の充填剤を配合することが必要となるので、生成複合延伸フィルムの紙粉トラブル防止、表面強度の低下防止および表面層用フィルム押出ダイに焼け樹脂の付着防止等の効果が期待できない。一方、68重量%を越える多量の充填剤を配合した場合は、押出成形が困難である。
なお、組成物(A)および(または)(C)が熱可塑性樹脂として前記のガス透過性の小さい樹脂を用いたときは、組成物(A)ないし(C)からなる層と組成物(B)からなる層との接着性を向上させるために、組成物(B)は無水マレイン酸変性ポリオレフィン(詳細後記)を樹脂成分中0.05?5重量%の割合で含有することが好ましい。
充填剤として使用される無機微細粉末は、樹脂用充填剤として使用しうる任意のものでありうる。具体的には、たとえば、炭酸カルシウム、焼成クレイ、ケイ藻土、酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、シリカ等、が例示される。粒径は、0.05?10ミクロン、特に0.1?5ミクロン、が好ましい。組成物(B)用の充填剤としては、安価な炭酸カルシウムが好ましい。
3) 製造
組成物(A)、(B)および(C)を一台の共押出ダイから溶融押出して複層構造シートを製造するには、三種の樹脂の共押出に使用しうる任意の手段によってこれを行なうことができる。具体的には、たとえば、組成物(A)、(B)および(C)をそれぞれ別の押出機(3台)により混練し(組成物(A)と(C)とが同一のときは押出機は2台でよいことはいうまでもない)、導管により溶融物を一台の共押出ダイに導びき、その際組成物(B)が中間層となるようにし、この中間層と組成物(A)および(C)からなる層とを共押出ダイ内で貼合して共押出ダイスリットよりシート状に押出し、これを60℃以下の温度に冷却する。これを延伸適当温度、すなわち組成物(B)を構成するポリオレフィン樹脂の融点より低い温度であってしかも延伸可能な温度、に加熱し、捲取ロール群の周速度差を利用して、縦方向に2.5?10倍、好ましくは4?8倍、に延伸する。
基材層の厚さ構成は、組成物(A)?(C)からなる層(A):(B):(C)の比が(0.005?0.5):1:(0.005?0.5)となる程度が好ましい。
4) 改変その他
組成物(A)、(B)および(C)はいずれも熱可塑性樹脂組成物である。従って、これらは、この種の組成物が含有しうる各種の補助資材、たとえば酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、その他をそれぞれ0.01?2重量%程度の割合で含有することができる。特に、界面活性剤、紫外線吸収剤等の滲出性の添加剤は、表面層用の組成物(D)(詳細後記)ばかりでなく、基材層用の組成物(B)にも配合することにより、その効果をより長期に保つことができる。
2.表面層
表面層は組成物(D)により形成される。
組成物(D)を構成するポリオレフィフィン樹脂としては、MI値に関する条件を除けば、組成物(A)および(C)について前記したポリオレフィン樹脂と同種または異種のものを使用することができる。組成物(D)からなる層は製品複合延伸フィルムの表面を構成するものであるので、使用するポリオレフィン樹脂は高密度ポリエチレン、ポリプロピレンおよび両者の混合物が剛性の面から好ましい。
組成物(D)用のポリオレフィン樹脂は、MIが3?12、好ましくは4?8、のものであるべきである。このMI値が組成物(B)用ポリオレフィン樹脂のそれと1以上の差があることが望ましいことは前記したところである。
組成物(D)は、製品複合延伸フィルムの表面層を構成するのであるから、筆記性ないし印刷性を実現すべく充填剤を含有している。充填剤含量は前記のような紙粉トラブルが生じないように比較的低レベルであって、具体的には5?50重量%、好ましくは5?20重量%未満、である。なお、組成物(B)の充填剤含量に対する組成物(D)のそれの割合は、1/2?1/8程度であることが好ましい。この程度の割合では、組成物(D)に無水マレイン酸変性ポリオレフィンを配合しなくても複合延伸フィルムの紙状層に起りがちな紙粉トラブルが抑制されるからである。
充填剤として使用される無機微細粉末としては、組成物(B)用として前記したものと同種または異種のものを使用することができる。
製品複合延伸フィルムの表面層を構成すべき組成物(D)は、紙粉トラブル防止の目的をよりよく達成するために、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン(以下、変性ポリオレフィンという)を含むことが好ましい。変性ポリオレフィンとしては、ポリオレフィン(好ましくは高密度ポリエチレン、ポリプロピレンおよびこれらの混合物)に無水マレイン酸が0.01?5重量%(対ポリオレフィン)の割合でグラフト共重合したものが好ましく、また組成物(D)はこのような変性ポリオレフィンを組成物中0.1?15重量%の割合で含有することが好ましい。組成物(D)がこのような変性ポリオレフィンを含有することは、組成物(A)および(または)(C)が前記のようなガス透過性の小さい樹脂からなるときにこれらの層との間の接着性を向上させる点からも好ましいことである。
表面層の製造は、複合延伸フィルムの製造と実質的に同じであるということができる。下記を参照されたい。」(第3ページ右下欄第17行ないし第6ページ右上欄第5行)

・「実施例1
組成物(A)および(C)
(1) 三菱油化(株)製ポリプロピレン「三菱ノープレンMA-6」(商品名)(MI=1.2g/10分(230℃測定)) 85重量%
(2) 三菱油化(株)製高密度ポリエチレン「ユカロンハードEY-40」(商品名) 5重量%
(3) 金平鉱業製炭酸カルシウム微細粉末「KS-1500」(平均粒径1.2ミクロン) 10重量%
組成物(B)
(1) ポリプロピレン「三菱ノープレンMA-6」 50重量%
(2) 高密度ポリエチレン「ユカロンハードEY-40」 10重量%
(3) 炭酸カルシウム「KS-1500」 40重量%
組成物(D)
(1) 三菱油化製ポリプロピレン「三菱ノープレンMA-3」(商品名)(MI=6g/10分(230℃測定)) 80重量%
(2) 高密度ポリエチレン「ユカロンハードEY-40」 5重量%
(3) 炭酸カルシウム 15重量%
上記組成物(A)、(B)および(C)をそれぞれ別々の押出機を用いて溶融混練し、これを1台の共押出ダイに供給して、ダイ内で組成物(B)が中間層に、組成物(A)と(C)がその両面に位置するように溶融積層したのち、約250℃の温度で三層シートを押し出し、約50℃まで冷却した。
次いで、このシートを約140℃に加熱したのち、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸して三層構造の一軸延伸シート(基材層用)を得た。別に、組成物(D)を別々の2台の押出機により溶融混練し、ダイより250℃の温度でシート状に前記基材層の両表面にラミネートし、一旦室温より約30℃高い温度迄冷却してから、約150℃に再加熱し、テンターを用いて約9倍横方向に延伸し、更に、160℃のオーブン中を通過させて熱セット処理を行ない、耳部をスリットして、五層構造の白色不透明な合成紙を得た。
この合成紙の各層の肉厚(ミクロン)は次の通りであった。
(D)/(A)/(B)/(C)/(D)=25/5/50/5/25 」(第7ページ右上欄第1行ないし右下欄第4行)

・「得られた各合成紙について、次の方法および基準で合成紙としての適性を評価した。結果を表1に示す。
・・・(略)・・・
(5) 筆記性
三菱鉛筆製鉛筆HBを用いて文字を筆記した際、合成紙への鉛筆芯ののりを次のように評価した。
〇=筆記ができた
△=鉛筆芯ののりがやや劣った
×=鉛筆芯ののりが実用上問題であった」(第7ページ右下欄第9行ないし第8ページ右上欄末行)

(3)甲3
・「5.6 複合製膜(積層製膜)
・・・(略)・・・
この(溶融)複合製膜には,共押出しによる狭義の複合フィルムに加えて,インライン・コーティングなどによる複合フィルムを含める。
・・・(略)・・・これに対して,インライン・コーティングでは,製膜工程の生産ライン中(インライン)でコーティングする。一般には,一軸延伸後のフィルムにコーティングし,引続き第2段目の延伸・熱処理をする間にコーティング剤が乾燥・硬化し,フィルム表面に連続コート層が形成される。・・・(略)・・・
この他に,複合フィルムの製膜段階で製造する方法としては,インライン・ラミネート・延伸など,各種の組合せが考えられ,その一部は実用化されているが,割愛する。」(第126ページ第7行ないし第128ページ第7行)

・「4.1 共押出法
共押出法は延伸前のシート作成工程で積層のシートを作成し,この積層シートを延伸する方法である。
図2にシート作成部の概略を示した。」(第150ページ下から3行ないし第151ページ第1行)

・「

」(第151ページ)

・「4.2 インラインラミ法
この方法は先に作ったシートの片面または両面に押出機で溶融した樹脂を押出して,積層した後,延伸する方法である。シートは無延伸シートまたは縦延伸シートのどちらでもよいが,一般的には縦延伸シートに積層する。
図5に積層部の概略を示した。」(第152ページ第10ないし14行)

・「

」(第152ページ)

(4)甲4
・「<産業上の利用分野>
本発明は、差圧成形、中空成形によって製造される合成樹脂製容器に容器成形と同時に貼着されるラベル(ブランクを含む)に用いられるインモールド用ラベルに関し、特に、金型内に予めラベルをセットし、その上より熱可塑性樹脂を中空成形又は真空成形もしくは圧空成形することによって、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形して容器を加飾することのできるインモールド用ラベルに関する。
<従来の技術>
従来、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには、金型内に予めブランク又はラベルをインサートし、次いで射出成形、中空成形、差圧成形、発泡成形などにより容器を成形して、容器に絵付けを行なっている(特開昭58-69015号公報、ヨーロッパ公開特許第254923号明細書参照)。この様なラベルとしてはグラビア印刷された樹脂フィルム、オフセット多色印刷された合成紙(例えば、特公昭46-40794号公報、特公昭54-31030号公報、英国特許第1090059号明細書など)、或いは、アルミニウム箔の裏面にポリエチレンをラミネートし、その箔の表面にグラビア印刷したアルミニウムラベルなどが知られている。」(第1ページ右下欄第3行ないし第4ページ左上欄第7行)

・「[II]インモールド用ラベルの製造
(1)構成材料
(a)基材層
本発明の好ましい態様のインモールド用ラベルは、通常、基材層と接着層とから構成され、該基材層として用いられる材料としては、ポリプロピレン、高密度ポリチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドのなどの融点が135?264℃の熱可塑性樹脂に、無機微細粉末を8?65重量%含有させた樹脂フィルム、或いは、該樹脂フィルムの表面上に無機充填剤含有ラテックス(塗工剤)を塗工させたフィルム、或いは、前記樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着させたものなどを挙げることができる。このような基材層は単層であっても、或いは、二層以上の積層された構造であっても良い。
(b)接着層
前記基材層の樹脂フィルムの裏面側(樹脂容器と接する側)には、接着層となる低密度ポリエチレン、酢酸ビニル・エチレン共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩などの、融点が85?135℃のヒートシール性樹脂よりなるフィルム層が積層される。また、これら樹脂のエマルジョンや溶剤に溶かした溶液を塗布し、乾燥させて接着層を形成させてもよい。
このヒートシール性樹脂フィルム層の積層によって、インモールド用ラベルと樹脂容器との接着をより強固にさせることができる。但し、成形される樹脂とラベル素材の樹脂とが同一のときは、接着層を省略することもできる。
(2)エンボス加工
そして、このヒートシール性樹脂フィルム層には、逆グラビア型のパターンの点又は線の数が、1インチ(2.54cm)当たり、80?200本となるようなエンボス模様に形成した金属ロールとゴムロールによってエンボス加工が施される。
該エンボスは稜線で囲まれた独立した凹部構造を多数備える逆グラビア型のパターン(第5図参照)であることが重要で、第7図に示すような各部屋の気体が自由に移動できる凸形の正グラビア型のパターンでは本発明の効果を発揮することができない。
(3)延伸
前記エンボス加工後の積層構造フィルムは、少なくとも一方向に、通常4?12倍、好ましくは4?8倍に延伸される。該延伸は基材層の樹脂の融点よりも低い温度で、かつヒートシール性樹脂の融点以上の温度で行われる。この延伸によって基材層は配向されるが、ヒートシール層は配向されない。
(4)その他の処理
前記延伸後の積層構造フィルム(合成紙)は、必要であれば、コロナ放電加工、火炎処理、プラズマ処理などを施すことによって、表面の印刷性、接着性を改善しておくことができる。
前記基材層の表面側、例えば紙状層には、通常印刷が施される。この様な印刷としては、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷などがあり、これによって、商品名、製造元、販売会社名、キャラクター、バーコード、使用方法などを印刷することができる。
(5)抜打加工
印刷及びエンボス加工された前記容器用ラベルは、抜打加工により必要な形状、寸法のラベルに分離される。このラベルは容器表面の一部に貼着される部分的なものであっても良いが、通常は差圧成形ではカップ状容器の側面を取り巻くブランクとして、中空成形では瓶状容器の表及び裏に貼着されるラベルとして製造される。」(第3ページ右下欄第1行ないし第4ページ左下欄第10行)

・「この第3図に示す積層構造フィルムのエンボス模様は、ロールの点又は線の数を、例えば1インチ(2.54cm)当たり、80?200本となる数で設ける。上記範囲未満では凹部6の溝が深くなり過ぎて、貼着後にラベル表面(印刷される側)にエンボスパターンが現われ易く、オレンジピール(貼着されたラベルの印刷面側にまでエンボスの凹凸が現われること)の発生を容易にする。また、上記範囲を超えると凹部6の溝が浅くなり過ぎてガスや空気を封じ込める体積が不足し、ブリスター防止の効果が減少する。更に、上記範囲を超えるとエンボス加工時に一部の低融点樹脂の場合に冷却不足によるロールへの貼り付き現象が発生し、加工上問題がある。このような1インチ当たりの線の数を線数といい、エンボス模様の精粗の目安となる。この様なエンボス模様は本発明においては、逆グラビア型のパターンとすることが重要である。」(第4ページ右下欄第19行ないし第5ページ左上欄第16行)

(5)甲5
・「2.溶融押出法
図29に示したように、未延伸フィルム・シートの製造方法である溶融押出法にはTダイ(T-Die)法と丸ダイ(Circular-Die)法がある。」(第33ページ右欄第19ないし22行)

・「

」(第33ページ)

・「2.1 Tダイ法
・・・(略)・・・図32にTダイを使ったフィルム・シートの製造設備の模式図を示す。キャスティングフィルム・シートの冷却は一般的にはチルローラー(Chill Roller)が使われるが、冷却水槽(Cooling Water Bath)が使われることもある。」(第34ページ左欄第6行ないし右欄第16行)

・「

」(第35ページ左欄)

・「2.4 チルローラーへの密着性
Tダイ法では押し出された溶融体の冷却はチルローラーへの接触により行われるが、・・・(略)・・・いくつかの密着性向上策が開発されてきた。その1つが図36に示したエアナイフ(Air Knife)方式であり、縦引き法と横引き法がある。・・・(略)・・・図37はタッチロール(Touch Roll)方式で、特に厚手の両面艶をもつシート成形に適している。」(第36ページ右欄第3行ないし第37ページ左欄第2行)

・「

」(第37ページ左欄)

・「

」(第37ページ右欄)

(6)甲6
・「Q:インモールドラベルってどんなものですか。
A:金型の中にラベルを入れて樹脂を注入し成形する方法をインモールド成形といい、同時に熱融着させるラベルのことをインモールドラベルといっています。
・・・(略)・・・
【ブロー成形】
・・・(略)・・・
3:パリソンを挟んで2つの金型を合体させ、金型の中のパリソンに空気圧をかけて樹脂を膨張させて金型の型にフィットした容器を形作ります。この時にラベルも同時に接着させます。・・・(略)・・・
3の空気を膨張させて成形するときに、ボトルとラベルの間に空気を閉じ込めると、ラベルの裏面に凹凸ができてしまいます。これを防ぐためにラベルの裏面に空気を逃がすエンボス加工をしておきます。こうすることにより、膨張時に空気をスムーズに逃がしてやすことができます。」

(7)甲7
・「〔産業上の利用分野〕
本発明は、インモールド成形に用いるラベルに関する。」(第1ページ左欄第15ないし17行)

・「本発明は前記事項に鑑みなされたものであり、高温多湿な環境の下に置いてもカビが発生したり吸湿して剥離しないプラスチックフィルム製のラベルを、インモールド成形を行う場合に、ラベルの取り出しが容易で、かつ、インモールド成形時にラベル及び容器の変形を防ぐことができ、さらに、ラベルの印刷面の損なわれないインモールド成形用ラベルとすることを技術的課題とする。」(第2ページ左上欄第11ないし18行)

・「このとき、接着用被膜層4の表面には、微細なエンボス5が設けてあるので、容器の表面とラベル間に存在するエアは、エンボス5の凹凸部を通ってラベルの外部に排出される。」(第2ページ右下欄第2ないし5行)

(8)甲8
・「1.はじめに
合成紙「ユポ」を世に送り出して以来、既に20数年を経過した。今や「ユポ」は世界ブランドとして認知されるまでに成長した。
・・・(略)・・・
今回は、・・・(略)・・・「ラベル(IML)分野^(*1)」の開発状況を紹介し、・・・(略)・・・述べたい。
*1 IML インモールドラベリングの略。」(第34ページ左欄第1ないし10行及び注釈)

・「3.インモールドラベル
最近、家庭の風呂で使用するシャンプーやリンス及び台所で使用する洗剤類の容器にインモールドラベリング(以下IMLと称す)された商品が多く見受けられる様になってきた。
・・・(略)・・・
3.1 IMLとは
IMLとは、予め印刷及びヒートシール性を有する接着剤が加工されたラベルを金型内にインサーター(ロボット)で装着し、容器成形と当時にラベルを貼着するシステムである(図5)。

・・・(略)・・・
写真1に合成紙ユポラベルでIML化された、商品の一例を紹介する。

」(第37ページ右欄第13行ないし第38ページ左欄第13行)

(9)甲9
・「【0002】
【従来の技術】従来、ラベル付きの樹脂成形容器を一体成形するには、金型内に予めブランク又はラベルをインサートし、次いで射出成形、中空成形、差圧成形、発泡成形などにより該金型内で容器を成形して、容器に絵付けなどを行なっている(特開昭58-69015号公報、ヨーロッパ公開特許第254923号明細書参照)。この様なインモールド成形用ラベルとしては、グラビア印刷された樹脂フィルム、オフセット多色印刷された合成紙(例えば、特公平2-7814号公報、特開平2-84319号公報参照)、或いは、アルミニウム箔の裏面に高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体をラミネートし、その箔の表面にグラビア印刷したアルミニウムラベルなどが知られている。
【0003】しかしながら、上記のインモールド成形用ラベルやブランクを用いて、インモールド成形によりラベルで加飾されたラベル貼合容器を製造する方法においては、自動ラベル供給装置を用いて金型内にラベルを供給する際に、ラベルの帯電防止機能が不十分であると、特に冬期の低湿度の環境においては積み重ねられたラベル間の静電気が除去されずに、ラベルが2枚あるいはそれ以上が同時に金型内に供給され、正規でない位置にラベルが貼合した容器(不良品)が生じたり、ラベルが脱落して有効に利用されないという問題が生じている。また、ラベルの製造工程におけるフィルム、合成紙への印刷加工、特にオフセット印刷時に、これらフィルムの給排紙性が悪化し、何度もラベル製造機の停止、再スタートを強いられるという問題が指摘されている。」

・「【0027】(c)ポリアミド樹脂
ヒートシール性樹脂層(II)の構成成分として、帯電防止性能をより安定して発現することを目的に、炭素数6?12またはそれ以上のラクタムの開環重合体、炭素数6?12またはそれ以上のアミノカルボン酸の重縮合体及び炭素数4?20のジカルボン酸と炭素数6?12またはそれ以上のジアミンの重縮合体等のポリアミド樹脂(c)を含有することができる。
【0028】具体的には、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等を挙げることができる。また、ナイロン6/66、ナイロン6/10、ナイロン6/12、ナイロン6/66/12等の共重合ポリアミド類も使用することができる。更には、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とメタキシレンジアミン又は、脂肪族ジアミンから得られる芳香族含有ポリアミド類などを挙げることができる。これらの中でも特に好ましいものはナイロン66、ナイロン6、ナイロン12である。ヒートシール性樹脂層(II)成分中のポリアミド樹脂(c)の含有量は、通常0?10重量%、好ましくは0?8重量%である。上記成分(c)の含有量が上記範囲を超過するとラベルの容器への融着力が低い。」

(10)甲10
・「つづ・く[続く]・・・(略)・・・すぐ後に来る。・・・(略)・・・切れずにつながる。」(1952ページ第2段)

(11)甲11
・「ア 判断手法
特許要件のうちでも、最も多く引用されるのが、特許法29条2項進歩性(同条1項記載の発明からの容易想到性)である。
進歩性の判断手法は、通常○1(当審注:○付き数字の1である。以下、同様。)本件発明(又は本願発明)の認定、○2引用発明の認定、○3本件発明(又は本願発明)と引用発明との対比(一致点及び相違点の認定)、○4相違点の判断という手順で行われる。」(第360ページ第8ないし13行)

(12)甲12
・「第8章 押出コーティング・ラミネーション用樹脂に関する基本用語」(第8ページ)

・「第9章 ラミネートに使われる押出コーティング・ラミネーション用樹脂」(第8ページ)

(13)甲13
・「

」(上図には、インラインラミネートについて、加圧ロールと冷却ロールの間の上方にTダイが設けられた装置が記載されていると認める。)

(14)甲14
・「溶融押出された樹脂膜を冷却ロール表面からスムーズに剥離するためには、溶融樹脂膜が容易に金属ロール表面から剥離する温度、すなわち約30℃以下の温度まで冷却ロール接触時間内で冷却可能な冷却能力を冷却ロールが保有していることが必要である。」(第202ページ第6ないし9行)

(15)甲15
・「

」(第396ページ図6.37)(上図には、王子油化合成紙(株)の「ユポ」の基本的な製造方法が、「押出機」、「原反成形」、「縦延伸」、「ラミネート」、「横延伸」、「後処理」及び「リール」の工程からなることが記載されていると認める。)

(16)甲16
・「【0005】
本発明において、ヒートシール層は、ポリプロピレン、望ましくは低融点ポリプロピレンからなる。低融点ポリプロピレンとしては、融点が105℃?155℃の、メタロセンランダムポリプロピレン、プロピレンと他のオレフィン、例えばエチレン、ブテン等とのランダム共重合体、ブロック共重合体を用いることができ、また、市販品として、メタロセン触媒を使用したポリプロピレン系ランダム共重合体である、日本ポリプロ株式会社製「ウィンテックWFX4TA」、日本ポリプロ株式会社製「ノバテックFW4BT」等を用いることができる。ヒートシール層の厚さは、0.5?10μm、好ましくは1?5μmである。10μmを超えると、ヒートシール層の切れが悪くなりイージーピール性が損なわれるので好ましくない。一方0.5μmよりも薄いとシールの安定性が悪くなり、剥離しやすくなるので好ましくない。
またヒートシール層を低融点ポリプロピレンに代えてポリオレフィン系樹脂で構成しても良い。」

・「【0021】
次にヒートシール層4を形成する樹脂組成物としては、ポリプロピレン、特に、融点が105℃?155℃の、メタロセンランダムポリプロピレン、プロピレンと他のオレフィン、例えばエチレン、ブテン等とのランダム共重合体、ブロック共重合体を用いることができ、また、市販品として、メタロセン触媒を使用したポリプロピレン系ランダム共重合体である、日本ポリプロ株式会社製「ウィンテックWFX4TA」、日本ポリプロ株式会社製「ノバテックFW4BT」等、またはポリエチレン系樹脂を含み、更に、必要ならば、その製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗黴性、電気的特性、強度その他を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等の1種乃至2種以上を任意に添加し、更に、要すれば、溶剤、希釈剤等を添加し、十分に混練して第1の遮光性接着樹脂層3及び第2の遮光性接着樹脂層5を形成する樹脂組成物を調製することができる。」

(17)甲17
・「【0023】上記ヒートシール性樹脂としては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、及びこれらのポリプロピレンに酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニル、アクリル酸、マレイン酸等が共重合された共重合体等が挙げられる。上記ポリプロピレン樹脂としては、強化層である多孔質ポリプロピレン延伸シートよりも融点が低いポリプロピレン樹脂がが用いられる。上記多孔質ポリプロピレン延伸シートの融点をT_(m1)、上記ポリプロピレンの融点をT_(m2)、両者の融点の差をΔT_(m) 、とし、ΔT_(m) =T_(m1)-T_(m2)とすると、ΔT_(m) が5?40℃であるポリプロピレン樹脂が好適に用いられる。更に好ましくは、ΔT_(m) が10?30℃であるポリプロピレン樹脂である。ΔT_(m) が40℃を越える場合は、成形体の耐熱性が低下する事が考えら、また、ΔT_(m) が5℃未満の場合は積層時に延伸シートの配向が緩和するおそれがあり、積層一体化工程が困難になるからである。ここでいう融点とは、示差走査熱量測定(DSC)等の熱分析における結晶の融解にともなう吸熱ピークの温度である。」

・「【0034】〔ヒートシール性シートの作成〕ランダムポリプロピレン樹脂(商品名;MG05BS、MI;45、融点;140℃、三菱化学社製)を二軸同方向混練押出機(商品名;PCM30、池貝鉄工社製)を用いて樹脂温度約200℃で溶融混練、成形し、厚み0. 05mm、幅100mmのシートを得た。」

(18)甲18
・「本発明の複合2軸延伸フィルムの製造方法は、ポリプロピレン系樹脂層に対する2軸延伸うちの少なくとも1方向の延伸工程の完了以前に、ポリプロピレン系樹脂層と低融点混合樹脂による溶融、押し出し樹脂層との積層を完了するものであって、例えば、共押し出しによるポリプロピレン系樹脂層と低融点樹脂層との積層樹脂シートを2軸延伸する方法、縦方向に延伸されているポリプロピレン系フィルムに対して低融点樹脂層を押し出しラミネートし、これを横方向に延伸する方法等が利用され得る。
なお、本発明で利用される前記低融点樹脂層は、文字通りその融点が低いものである。
したがって、前者の共押し出しによるポリプロピレン系樹脂層と低融点樹脂層との積層樹脂シートを利用する方法においては、該積層樹脂シートをロール延伸する際に低融点樹脂層が溶融して、ロールに付着する傾向があるため、延伸時の加熱方法が難しくなるので、ロールによる延伸工程終了後の1軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムに対して、低融点混合樹脂による溶融、押し出し樹脂層を積層し、これをテンターによって横方向に延伸するのが好ましい。」(第6ページ右上欄第6行ないし左下欄第12行)

(19)甲19
・「〔産業上の利用分野〕
本発明は、印刷紙等とラミネートを行なう際に、接着剤を用いることなく、加熱圧着のみでラミネーションが可能な熱接着層を付与してなる光沢性に優れた熱接着プリントラミネート用フィルムに関するものである。
〔従来の技術〕
印刷されたアート紙等の印刷部分を保護したり、耐水、耐油性の付与、光沢を出す目的で印刷紙の上にフィルムをラミネートすることは通常行なわれており、このような処理を当業界では一般にプリントラミネートと称している。
従来、ドライラミと言われる、このプリントラミネーション法は、ラミネーターのコーテイング部において、有機溶剤に溶解した接着剤を、基材となるプラスチックフィルムに塗布し、有機溶剤を乾燥オーブン中で飛散せしめた後、基材の接着塗布面と印刷紙を熱圧着することによりなされている。
更に、最近では、プリントラミネートは、フィルム自身が接着力をもち、接着剤を使うことなく熱圧着のみでラミネート可能なプリントラミネート用フィルムが知られている。(例えば、特開昭56-42652号公報、特公昭63-12792号公報、実開昭61-50437号公報、実開昭62-126931号公報)。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、ドライラミでは、有機溶剤に接着剤を溶解し使用するため、接着剤厚みが薄く、紙面のうねり等がそのまま反映され光沢性に劣つたものとなつている。更に接着力にも欠ける。
また、他方、熱圧着型プリントラミネート用フィルムは、すべり性、耐ブロッキング性に劣るため、フィルム生産時に皺が入ったり、また使用の際ロールからの巻出しでフィルム面同士がくっつき平面性が悪化したり、更にブロッキングが著しいときにはフィルムが破断されたりするなどの問題がある。」(第2ページ左上欄第4行ないし左下欄第1行)

・「本発明における熱接着層の表面粗さRaは好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.35μm以上である。また、熱接着層の表面粗さRtは好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上である。表面粗さRaが0.2μm未満であると、本発明が解決しようとする課題の一つである耐ブロッキング性に劣り、滑り性にも劣る。また、印刷紙等に加熱圧着しプリントラミネートしようとした場合、印刷紙等との滑りが悪いためフィルムが皺になった状態でラミネートされ、仕上がりの非常に劣ったものとなる。」(第4ページ左上欄第13行ないし右上欄第3行)

(20)甲20
・「【請求項1】 金属ロール表面に模様を構成する保護被覆層を部分的に設け、これにサンドブラスト又はショットブラストを施し、上記保護被覆層を除去し、さらにサンドブラスト又はショットブラストを施すことにより、上記金属ロール表面に凹凸模様を形成することを特徴とするエンボスロールの製造方法。」

(21)乙1
・「in-line インラインの,直列の」(第496ページ左欄)

・「in-line system インライン方式 一系統の機械装置の全動作を同一のサイクルで行わせる方式」(第496ページ左欄)

(22)乙2
・「coating=paint ○1(当審注:○付き数字の1である。以下、同様。)塗料,○2塗装 ○1塗料:流動性があり,物体の表面に塗り広げ,乾燥させて,その表面に付着,固化した薄い連続皮膜を形成するもの。・・・(略)・・・○2塗装:物体の保護・美粧・特殊機能付与などの目的で,その表面に塗料を用いて塗膜または塗膜層を形成させるために行う操作の総称であり,被塗物の前処理,塗布,乾燥などの工程からなる。・・・(略)・・・」(第153ページ左欄ないし154ページ右欄)

・「laminate 積層成形品,貼り合せ品 ○1積層成形品:異種・同種を問わず2枚以上の板状品を積層成形することにより得られた製品をいう。・・・(略)・・・貼合せ方法により,→wet lamination,→dry lamination,→extrusion coating lamination,→hot melt laminationに大別される。」(第460ページ左欄ないし右欄)

・「lamination ラミネーション プラスチックフィルムもしくはプラスチックフォームシートと他の材質のフィルム,アルミ箔,紙,布などの複合材料を成形する積層成形をいう。ラミネーション成形は,複数の基材フィルムを接着剤で貼り合せる成形方法と,押出機を用いて樹脂をフィルム状に押し出しながら圧着してラミネート製品を得る方法に大別される。」(第463ページ右欄)

2 無効理由1-1及び1-2(甲1に基づく新規性及び進歩性)について
(1)甲1発明
ア 甲1について、実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「メルトインデックス(MI)0.8のホモポリプロピレン(融点164℃)90重量%と高密度ポリエチレン8重量%の混合物(A)と、MI4.0のポリプロピレン87重量%、高密度ポリエチレン10重量%および平均粒径1.5ミクロンの重質炭酸カルシウム粉末3重量%の混合物(B)を、それぞれ別々の押出機で溶融混練後、一台のダイに供給し、ダイ内で三層(B/A/B)に積層し、ついで250℃でダイよりシート状に共押出し、冷却装置により冷却して、無延伸シートを得、このシートを、155℃に加熱後、縦方向に5倍延伸して5倍延伸シートを得、
MI4.0のホモポリプロピレン(D)と、MI4.0のポリプロピレン86.5重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム10重量%と高密度ポリエチレン3.5重量%を混合した組成物(C)とを別々の押出機で溶融混練し、ダイ内で積層して共押出したシートを上記5倍延伸シートの両面に(D)が外側になるように積層して七層積層物を得、ついでこの七層積層物を185℃に加熱したのち横方向に7.5倍の延伸を行なって、七層のフィルムを得る多層複合フィルムの製造方法。」

イ 請求人は、甲1には、次の発明が記載されている主張する(審判請求書第7 6(1)ア(ア))。
「1-1A’ 三層構造の((ポリプロピレン・高密度ポリエチレンの混合物で形成されるB層)/(ホモポリプロピレン・高密度ポリエチレン混合物で形成されるA層)/(ポリプロピレン・高密度ポリエチレンの混合物で形成されるB層))フィルム(以下「甲1三層フィルム」という。)の押出成形を遂行する第1押出成形ステップ;
1-1B’ 前記第1押出成形された甲1三層フィルムを冷却装置により冷却する第1冷却ステップ;
1-1C’ 前記第1冷却された甲1三層フィルムを、155℃に加熱後、縦方向に5倍延伸する縦方向延伸ステップ;
1-1D’ 前記縦方向延伸された甲1三層フィルムの表面及び裏面に、(ホモポリプロピレン・ポリプロピレン混合物で形成されるC層)及び(ホモポリプロピレンで形成されるD層)の樹脂層(以下「甲1樹脂層」という。)を溶融積層(ラミネート)するように押出成形する第2押出成形ステップ;
1-1E’ 前記甲1樹脂層がラミネーションされた甲1三層フィルムを、ついで185℃に加熱するステップ
1-1F’ 前記甲1樹脂層がラミネーションされた甲1三層フィルムを横方向に7.5倍の延伸する横方向延伸ステップを含み、
1-1G’ 第1押出成形ステップは、前記甲1三層フィルムが、B層、A層及びB層を形成するように遂行され、
1-1H’ 前記縦方向延伸ステップは、前記B層、A層及びB層を含むポリプロピレン系樹脂多層複合フィルムを縦延伸するものであって、
1-1I’ 前記第2押出成形ステップでは、甲1樹脂層が表面側の前記B層及び裏面側の前記B層にラミネーションされるように遂行されるポリプロピレン系樹脂多層複合フィルムの製造方法。」
しかし、上記認定は、甲1に、実際に、「第1押出成形ステップ」、「第1冷却ステップ」、「縦方向延伸ステップ」、「第2押出成形ステップ」、「加熱するステップ」及び「横方向延伸ステップ」等の記載があるわけではないから、甲1の記載から請求人が主張するような発明を直ちには認定することはできない。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「メルトインデックス(MI)0.8のホモポリプロピレン(融点164℃)90重量%と高密度ポリエチレン8重量%の混合物(A)と、MI4.0のポリプロピレン87重量%、高密度ポリエチレン10重量%および平均粒径1.5ミクロンの重質炭酸カルシウム粉末3重量%の混合物(B)を、それぞれ別々の押出機で溶融混練後、一台のダイに供給し、ダイ内で三層(B/A/B)に積層し、ついで250℃でダイよりシート状に共押出し」する工程は、本件発明1における「多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ」に相当する。
甲1発明における上記「シート状に共押出し」して得られたものを「冷却装置により冷却して、無延伸シートを得」る工程は、本件発明1における「前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ」に相当する。
甲1発明における上記「無延伸シート」を「155℃に加熱後、縦方向に5倍延伸して5倍延伸シートを得」る工程は、本件発明1における「前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ」に相当する。
甲1発明における「MI4.0のホモポリプロピレン(D)と、MI4.0のポリプロピレン86.5重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム10重量%と高密度ポリエチレン3.5重量%を混合した組成物(C)とを別々の押出機で溶融混練し、ダイ内で積層して共押出したシートを上記5倍延伸シートの両面に(D)が外側になるように積層して七層積層物を得」る工程は、本件発明1における「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われるインライン押出である、第2押出成形ステップ」と、「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上の樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われる押出である、第2押出成形ステップ」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「七層積層物を185℃に加熱したのち横方向に7.5倍の延伸を行なって、七層のフィルムを得る」工程は、本件発明1における「前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ」に相当する。
甲1発明における「三層(B/A/B)」は、本件発明1における「スキン外層、コア層およびスキン内層」に相当するから、甲1発明における「共押出」すことは、本件発明1における「前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され」ることに相当し、甲1発明における「155℃に加熱後、縦方向に5倍延伸して5倍延伸シートを得」ることは、本件発明1における「前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸する」ことに相当する。
甲1発明における「ダイ内で積層して共押出したシートを上記5倍延伸シートの両面に(D)が外側になるように積層」することは、本件発明1における「前記第2押出成形ステップでは、ヒートシール樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される」と、「前記第2押出成形ステップでは、樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「多層複合フィルムの製造方法」は、本件発明1における「多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法」に相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ;
前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ;
前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ;
前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上の樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われる押出である、第2押出成形ステップ;および、
前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ
を含み、前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され、
前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸するものであって、
前記第2押出成形ステップでは、樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。」

そして、両者は、次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1>
「第2押出成形ステップ」における「押出成形」が、本件発明1においては、「インライン押出」であるのに対し、甲1発明においては、「押出」ではあるものの「インライン押出」であるかどうかの特定がない点。

<相違点1-2>
「第2押出成形ステップ」において、「ラミネーション」される「樹脂層」が、本件発明1においては、「ヒートシール樹脂層」であるのに対し、甲1発明においては、「MI4.0のホモポリプロピレン(D)と、MI4.0のポリプロピレン86.5重量%に平均粒径1.5μの炭酸カルシウム10重量%と高密度ポリエチレン3.5重量%を混合した組成物(C)とを別々の押出機で溶融混練し、ダイ内で積層して共押出したシート」(以下、「(D)と(C)の積層シート」という。)であって、「ヒートシール樹脂層」であるかどうかの特定がない点。

<相違点1-3>
本件発明1においては、「前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ」を有するのに対し、甲1発明においては、そのようなステップを有するかどうかの特定がない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点1-2について検討する。

本件発明1における「ヒートシール樹脂層」に関して、本件特許明細書には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
・「【0006】
たとえば、前記のようなBOPPフィルムがラミネーションコーティング(ラミネートシート)用、具体的に、2枚のBOPPフィルムの間に写真、身分証、印刷物またはメニューボード等の認識物を挿入した後、熱融着させるラミネーションコーティング(ラミネートシート)用フィルムや、包装用フィルム(たとえば、食品等の包装用)として使用される場合、前記機能性樹脂層4は、熱融着(ヒートシール)が可能なエチレン酢酸ビニル(EVA)やポリエチレン(PE)等の低温接着性樹脂を含むことができる。」

・「【0012】
本発明は、融点が低い機能性樹脂の場合にも、連続工程によりラミネーションされるようにすることができ、製造工程が単純かつ時間の所要も少なく、製品の生産単価を下げることができる多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法を提供しようとするものである。」

・「【0016】
本発明の具現例の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法によれば、縦延伸後に追加押出/冷却工程(つまり、第2押出/第2冷却ステップ)が行われるが、前記追加押出を通じて樹脂層がラミネーションされて、融点が低い樹脂の場合にも押出を通じたラミネーションが可能である。」

・「【0045】
具体的には、具現例において、樹脂層40として、ポリオレフィン以外の樹脂、より具体的には、ポリオレフィンよりも融点が低いまたは高い機能性樹脂の使用が可能である。好ましくは、前記第2押出ステップにおいては、樹脂層40の物質として、第1押出において使用された物質よりも融点の低い樹脂を含む物質を使用してよい。たとえば、低温において熱融着(ヒートシール)が可能な低温接着性樹脂が使用されてよい。特に、低温接着性樹脂として、エチレン酢酸ビニル(EVA)、エチレン酢酸メチル(EMA)、エチレンメタクリル酸(EMAA)、低温メタロセン樹脂およびエチレンアシドターポリマー(ethylene acid ter‐polymer)のように融点が低く、シール性に優れた樹脂を使用してよい。」

上記記載によると、本件発明1における「ヒートシール樹脂層」は、単なるポリオレフィン樹脂の樹脂層ではなく、実際に「ヒートシール」のために使用するヒートシール機能を有する樹脂層と解すべきである。
この点、請求人は、次のように主張する。
「ここで、本件発明1の「ヒートシール樹脂層」は、樹脂層がヒートシールとして機能するものであることは理解できる。もっとも、「ヒートシール樹脂層」は、機能的な表現であるから、具体的にどのような材料を用いるとヒートシールとして機能するかが一義的に明確に理解することができない。そこで、「ヒートシール樹脂層」に関する本件特許の明細書の記載を参酌すると・・・(略)・・・上記記載からわかるとおり、ヒートシール樹脂層、すなわち樹脂層40を形成する物質は「特に制限されず」、その一例として「ポリオレフィン樹脂(polyolefin resins)」が挙げられている。
そうすると、本件発明1の構成要件1Dの「1層以上のヒートシール樹脂層」には、1層以上の樹脂層であればその材料は特に制限されず、ポリオレフィン樹脂を用いるような1層以上の樹脂層も含まれることになる。」(審判請求書第7 7(1)エ(ウ))
そこで、上記主張について検討するに、本件において、請求人が主張するように、ポリオレフィン樹脂を用いるような1層以上の樹脂層であれば「ヒートシール樹脂層」であるといえるのであれば、本件発明1における「第1押出成形ステップ」で成形される「スキン外層、コア層およびスキン内層」を含むフィルムは、ポリプロピレンとポリエチレンの混合物からなるものなので、既に「ヒートシール」という機能を有することになるから、本件発明1はこのようなヒートシール機能を有するフィルムの上にさらに、「第2押出成形ステップ」で「ヒートシール樹脂層」をラミネーションするものになってしまう。すなわち、本件発明1における「ヒートシール樹脂層」に、単なるポリオレフィン樹脂の樹脂層が含まれると解するのは合理的でなく、請求人の上記主張は採用できない。

他方、甲1に「応用例1
表面がエンボス加工されたガラスを素材とした緑色の内容量540ccの半透明瓶の内部にビールを充填し、栓を施した後、実施例1で得た肉厚100ミクロンの七層の半透明複合フィルムにバーコードを印刷したものをラベルとしてこの瓶の胴部に透明なアクリル系溶剤型接着剤を用いて貼合した。・・・(略)・・・
応用例2
透明なポリ塩化ビニールの中空形成容器(内容量300ml)ボトルに淡い緑色に着色した液体洗剤を充填し、キャップを施した後、実施例1で得た厚さ100ミクロンの半透明複合フィルムにバーコード及び文字を印刷したものをラベルとしてこのボトルの胴部に透明なゴム系エマルジョン型接着剤で貼合した。」(第4ページ左下欄下から5行ないし第5ページ右上欄第15行)と記載されているように、甲1発明は、ラベルとして利用する時には、「接着剤」を用いて貼合するものであり、この点からみても、甲1発明の最外層は「ヒートシール」のために使用される樹脂層ではないから、甲1発明における「(D)と(C)の積層シート」は、「ヒートシール樹脂層」であるとはいえない。
したがって、相違点1-2は、実質的な相違点である。

また、甲1には、甲1発明において、「(D)と(C)の積層シート」をヒートシール機能を有する「ヒートシール樹脂層」にすることの動機付けとなる記載はないし、提出された他の証拠にも、そのような記載はない。
したがって、当業者が、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到することができたとはいえない。

請求人は、甲4及び7ないし9の記載から、「合成紙をインモールドラベルとして用いること」が技術常識であるとした上で、インモールドラベルでは、容器と接着される面が必然的にヒートシール樹脂層となるので、甲1発明における上記「(D)と(C)の積層シート」を「ヒートシール樹脂層」とすることは、当業者の設計的事項である旨主張する(審判請求書第7 7(1)エ(オ))。
そこで、検討するに、確かに、甲1の応用例1及び2は、瓶やボトルの胴部に甲1発明における「多層複合フィルム」を接着剤を用いて貼り付けるものであるが、応用例1及び2は中身を充填した瓶やボトルを対象とするもので、インモールド成形するものではない。また、甲1の応用例1及び2は、接着剤を用いているものであって、上記「(D)と(C)の積層シート」上にバーコードや文字を印刷するものであり、上記「(D)と(C)の積層シート」を「ヒートシール樹脂層」にすると、溶融してバーコードや文字が読めなくなってしまうものである。
してみれば、甲1発明において、上記「(D)と(C)の積層シート」を「ヒートシール樹脂層」にすることには、阻害要因があるといえるから、請求人の上記主張は失当であって採用できない。

よって、相違点1-1及び1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件発明2ないし9について
本件発明3、4及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件発明2及び5ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)むすび
したがって、本件発明1ないし9についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当するものではないので、無効理由1-1及び1-2はいずれも理由がない。

3 無効理由2-1及び2-2(甲2に基づく新規性及び進歩性)について
(1)甲2発明
ア 甲2について、実施例1に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「組成物(A)および(C)
(1) 三菱油化(株)製ポリプロピレン「三菱ノープレンMA-6」(商品名)(MI=1.2g/10分(230℃測定)) 85重量%
(2) 三菱油化(株)製高密度ポリエチレン「ユカロンハードEY-40」(商品名) 5重量%
(3) 金平鉱業製炭酸カルシウム微細粉末「KS-1500」(平均粒径1.2ミクロン) 10重量%
組成物(B)
(1) ポリプロピレン「三菱ノープレンMA-6」 50重量%
(2) 高密度ポリエチレン「ユカロンハードEY-40」 10重量%
(3) 炭酸カルシウム「KS-1500」 40重量%
組成物(D)
(1) 三菱油化製ポリプロピレン「三菱ノープレンMA-3」(商品名)(MI=6g/10分(230℃測定)) 80重量%
(2) 高密度ポリエチレン「ユカロンハードEY-40」 5重量%
(3) 炭酸カルシウム 15重量%
上記組成物(A)、(B)および(C)をそれぞれ別々の押出機を用いて溶融混練し、これを1台の共押出ダイに供給して、ダイ内で組成物(B)が中間層に、組成物(A)と(C)がその両面に位置するように溶融積層したのち、約250℃の温度で三層シートを押し出し、約50℃まで冷却し、次いで、このシートを約140℃に加熱したのち、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸して三層構造の一軸延伸シート(基材層用)を得、別に、組成物(D)を別々の2台の押出機により溶融混練し、ダイより250℃の温度でシート状に前記基材層の両表面にラミネートし、一旦室温より約30℃高い温度迄冷却してから、約150℃に再加熱し、テンターを用いて約9倍横方向に延伸し、更に、160℃のオーブン中を通過させて熱セット処理を行ない、耳部をスリットして、五層構造の白色不透明な合成紙を得る合成紙の製造方法。」

イ 請求人は、甲2には、次の発明が記載されていると主張する(審判請求書第7 6(1)イ(ア))。
「2-1A’ 三層構造の(ポリプロピレン・高密度ポリエチレンの混合物で形成されるA層)/(ポリプロピレン・高密度ポリエチレン混合物で形成されるB層)/(ポリプロピレン・高密度ポリエチレンの混合物で形成されるC層)フィルム(以下「甲2三層フィルム」という。)の押出成形を遂行する第1押出成形ステップ;
2-1B’ 前記第1押出成形された甲2三層フィルムを約50℃まで冷却する第1冷却ステップ;
2-1C’ 前記第1冷却された甲2三層フィルムを、縦方向に5倍延伸する縦方向延伸ステップ;
2-1D’ 前記縦方向延伸された甲2三層フィルムの両表面に、(ポリプロピレン・高密度ポリエチレン混合物で形成されるD層)の樹脂層(以下「甲2樹脂層」という。)をラミネートするように押出成形する第2押出成形ステップ;
2-1E’ 前記甲2樹脂層がラミネーションされた甲2三層フィルムを室温より約30℃高い温度迄冷却する第2冷却ステップ;および、
2-1F’ 前記第2冷却された前記甲2樹脂層がラミネーションされた甲2三層フィルムを約9倍横方向に延伸する横方向延伸ステップを含み、
2-1G’ 第1押出成形ステップは、前記甲2三層フィルムが、A層、B層及びC層を形成するように遂行され、
2-1H’ 前記縦方向延伸ステップは、前記A層、B層及びC層を含む複合ポリオレフィン樹脂延伸フィルムを縦延伸するものであって、
2-1I’ 前記第2押出成形ステップでは、甲2樹脂層が表面側の前記A層及び裏面側の前記C層にラミネーションされるように遂行される複合ポリオレフィン樹脂延伸フィルムの製造方法。」
しかし、上記認定は、甲2に、実際に、「第1押出成形ステップ」、「第1冷却ステップ」、「縦方向延伸ステップ」、「第2押出成形ステップ」、「第2冷却ステップ」及び「横方向延伸ステップ」等の記載があるわけではないから、甲2の記載から請求人が主張するようは発明を直ちには認定することはできない。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「上記組成物(A)、(B)および(C)をそれぞれ別々の押出機を用いて溶融混練し、これを1台の共押出ダイに供給して、ダイ内で組成物(B)が中間層に、組成物(A)と(C)がその両面に位置するように溶融積層したのち、約250℃の温度で三層シートを押し出し」する工程は、本件発明1における「多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ」に相当する。
甲2発明における上記「三層シートを押し出し」して得られたものを「約50℃まで冷却」する工程は、本件発明1における「前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ」に相当する。
甲2発明における上記「約50℃まで冷却」して得られたものを「「約140℃に加熱したのち、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸して三層構造の一軸延伸シート(基材層用)を得」る工程は、本件発明1における「前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ」に相当する。
甲2発明における「別に、組成物(D)を別々の2台の押出機により溶融混練し、ダイより250℃の温度でシート状に前記基材層の両表面にラミネート」する工程は、本件発明1における「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われるインライン押出である、第2押出成形ステップ」と、「前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上の樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われる押出である、第2押出成形ステップ」という限りにおいて一致する。
甲2発明における上記「ラミネート」する工程により得られたものを「一旦室温より約30℃高い温度迄冷却」する工程は、本件発明1における「前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ」に相当する。
甲2発明における上記「一旦室温より約30℃高い温度迄冷却」する工程より得られたものを「約150℃に再加熱し、テンターを用いて約9倍横方向に延伸」する工程は、本件発明1における「前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ」に相当する。
甲2発明における「組成物(B)が中間層に、組成物(A)と(C)がその両面に位置するように溶融積層」した「三層シート」は、本件発明1における「スキン外層、コア層およびスキン内層」に相当するから、甲2発明における「上記組成物(A)、(B)および(C)をそれぞれ別々の押出機を用いて溶融混練し、これを1台の共押出ダイに供給して、ダイ内で組成物(B)が中間層に、組成物(A)と(C)がその両面に位置するように溶融積層したのち、約250℃の温度で三層シートを押し出し」することは、本件発明1における「前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行」することに相当し、甲2発明における「次いで、このシートを約140℃に加熱したのち、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸して三層構造の一軸延伸シート(基材層用)を得」ることは、本件発明1における「前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸する」ことに相当する。
甲2発明における「組成物(B)が中間層に、組成物(A)と(C)がその両面に位置するように溶融積層」した「三層シート」は、本件発明1における「スキン外層、コア層およびスキン内層」に相当するから、甲2発明における「別に、組成物(D)を別々の2台の押出機により溶融混練し、ダイより250℃の温度でシート状に前記基材層の両表面にラミネート」することは、本件発明1における「前記第2押出成形ステップでは、ヒートシール樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される」ことと、「前記第2押出成形ステップでは、樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される」ことという限りにおいて一致する。
甲2発明における「更に、160℃のオーブン中を通過させて熱セット処理を行ない、耳部をスリットして、五層構造の白色不透明な合成紙を得る合成紙の製造方法」は、本件発明1における「多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法」に相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ;
前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ;
前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ;
前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上の樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われる押出である、第2押出成形ステップ;
前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ;および、
前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ
を含み、前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され、
前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸するものであって、
前記第2押出成形ステップでは、樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。」

そして、両者は、次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-1>
「第2押出成形ステップ」における「押出成形」が、本件発明1においては、「インライン押出」であるのに対し、甲2発明においては、「押出」であるものの「インライン押出」であるかどうかの特定がない点。

<相違点2-2>
「第2押出成形ステップ」において、「ラミネーション」される「樹脂層」が、本件発明1においては、「ヒートシール樹脂層」であるのに対し、甲2発明においては、「別々の2台の押出機により溶融混練し、ダイより250℃の温度でシート状に前記基材層の両表面にラミネート」された「シート状」の「組成物(D)」であって、「ヒートシール樹脂層」であるかどうかの特定がない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点2-2について検討する。

本件発明1における「ヒートシール樹脂層」は、上記第6 2(2)イのとおり、単なるポリオレフィンの樹脂層ではなく、実際に「ヒートシール」のために使用するヒートシール機能を有する樹脂層と解すべきである。

他方、甲2発明は、合成紙の発明であり、最外層は「ヒートシール」のために使用される樹脂層ではないから、甲2発明における「別々の2台の押出機により溶融混練し、ダイより250℃の温度でシート状に前記基材層の両表面にラミネート」された「シート状」の「組成物(D)」は、「ヒートシール樹脂層」であるとはいえない。
したがって、相違点2-2は、実質的な相違点である。

また、甲2には、上記「シート状」の「組成物(D)」を「ヒートシール樹脂層」にすることの動機付けとなる記載はないし、提出された他の証拠にも、そのような記載はない。
したがって、当業者が、甲2発明において、相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到することができたとはいえない。

請求人は、甲4及び7ないし9の記載から、「合成紙をインモールドラベルとして用いること」が技術常識であるとした上で、インモールドラベルでは、容器と接着される面が必然的にヒートシール樹脂層となるので、甲2発明における上記「シート状の」を「組成物(D)」を「ヒートシール樹脂層」とすることは、当業者の設計的事項である旨主張する(審判請求書第7 8(1)エ(オ))。
そこで、検討するに、確かに、甲8をみれば、合成紙に接着剤を加工してインモールドラベルとすることは周知であるといえるものの、その場合には、合成紙にさらに接着剤を加工してインモールドラベルとしているものである。ここで、甲2の「従って、このような構造の不透明フィルムでは、印刷ないし筆記が可能であってしかも紙様の不透明度があれば、その表面層は充填剤の含有率が低い方が好ましいということになる。」(第2ページ右下欄第1ないし4行)、「この紙状層は、グラビア印刷は実用上利用できるとしても、そのオフセット印刷性能は実用にはほど遠いといわざるを得ない。」(第2ページ右下欄第14ないし17行)、「組成物(D)は、製品複合延伸フィルムの表面層を構成するのであるから、筆記性ないし印刷性を実現すべく充填剤を含有している。」(第5ページ右下欄第12ないし14行)及び「得られた各合成紙について、次の方法および基準で合成紙としての適性を評価した。結果を表1に示す。
・・・(略)・・・
(5) 筆記性三菱鉛筆製鉛筆HBを用いて文字を筆記した際、合成紙への鉛筆芯ののりを次のように評価した。
〇=筆記ができた
△=鉛筆芯ののりがやや劣った
×=鉛筆芯ののりが実用上問題であった」(第7ページ右下欄第9行ないし第8ページ右上欄第10行)という記載によると、甲2発明は、合成紙への筆記性ないし印刷性を実現することを課題とし、合成紙へ文字を筆記した際の鉛筆芯ののりを評価するものである。
してみれば、甲2発明において、上記「シート状」の「組成物(D)」を「ヒートシール樹脂層」にすると、溶融して文字や印刷が読めなくなってしまうので、甲2発明において、上記「シート状」の「組成物(D)」を「ヒートシール樹脂層」にすることには、阻害要因があるといえるから、請求人の上記主張は失当であって採用できない。

よって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件発明2ないし9について
本件発明3、4、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件発明2及び5ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)むすび
したがって、本件発明1ないし9についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当するものではないので、無効理由2-1及び2-2はいずれも理由がない。

第7 結語
以上のとおり、無効理由1-1ないし2-2は何れも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし9についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層ポリオレフィンフィルムの押出成形を遂行する第1押出成形ステップ;
前記第1押出成形されたフィルムを冷却させる第1冷却ステップ;
前記第1冷却されたフィルムを縦方向に延伸する縦方向延伸ステップ;
前記縦方向延伸されたフィルム上に1層以上のヒートシール樹脂層がラミネーションされるように押出成形する第2押出成形ステップであって、当該押出成形が前記縦方向延伸ステップ後に行われるインライン押出である、第2押出成形ステップ;
前記ヒートシール樹脂層がラミネーションされたフィルムを冷却する第2冷却ステップ;および、
前記第2冷却されたフィルムを横方向に延伸する横方向延伸ステップ
を含み、前記第1押出成形ステップは、前記多層ポリオレフィンフィルムが、スキン外層、コア層およびスキン内層を含むように遂行され、
前記縦方向延伸ステップは、前記スキン外層、コア層およびスキン内層を含む多層ポリオレフィンフィルムを縦延伸するものであって、
前記第2押出成形ステップでは、ヒートシール樹脂層が前記スキン外層およびスキン内層からなる群より選択された一つ以上にラミネーションされるように遂行される多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層がラミネーションされたフィルムの第2冷却ステップは、表面に凹凸構造を有する冷却ロールを利用して前記樹脂層に気流溝を形成させるように遂行する、請求項1に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第2押出成形ステップは、前記ヒートシール樹脂層として、メタロセン樹脂、エチレン酢酸ビニル、エチレン酢酸メチル、エチレンメタクリル酸、およびエチレン酸ターポリマーからなる群より選択された一つ以上を含む原料を使用する、請求項1または2に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記スキン外層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記コア層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記スキン内層は、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)より選択された1つ以上からなる、請求項3に記載の多層ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第2押出成形ステップは、前記樹脂層として、第1押出成形ステップにおいて使用した原料よりも融点の低い樹脂を含む原料を使用する、請求項1?4のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第2押出成形ステップは、前記樹脂層として、帯電防止剤を含む原料を使用する、請求項1?5のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第2押出成形ステップは、前記樹脂層として、ナイロン樹脂を含む原料を使用する、請求項1?6のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記第1押出成形ステップでは、スキン外層にスリップ剤およびブロッキング防止剤からなる群より選択された一つ以上が含まれるように遂行される、請求項1?7のいずれか1項に記載の多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記スキン外層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記コア層は、ポリプロピレン(PP)からなり、
前記スキン内層は、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)より選択された1つ以上からなり、
前記ヒートシール樹脂層は、エチレン酢酸ビニル、エチレン酢酸メチル、エチレンメタクリル酸、または、エチレン/プロピレン/ブタジエンの三元共重合体からなる、請求項1または2に記載の多層ポリオレフィン系延伸フィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-03-26 
結審通知日 2019-03-29 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2013-548355(P2013-548355)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (B29C)
P 1 113・ 113- YAA (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 徹  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
須藤 康洋
登録日 2015-09-11 
登録番号 特許第5807070号(P5807070)
発明の名称 ヒートシール樹脂層を含む多層ポリオレフィン延伸フィルムの製造方法  
代理人 胡田 尚則  
代理人 高橋 正俊  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 柳下 彰彦  
代理人 高橋 正俊  
代理人 篠田 淳郎  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 三橋 真二  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  

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