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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C03C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C03C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C03C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C03C
管理番号 1352715
審判番号 不服2018-10102  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-24 
確定日 2019-07-09 
事件の表示 特願2016-194370「光学ガラス及び光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 7944、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月20日(優先権主張 平成23年12月28日 平成24年 8月30日)を出願日とする特願2012-278573号(以下、「親出願」という。)の一部を、平成28年 9月30日に新たな特許出願としたものであって、平成29年 9月 6日付けで、特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知がされ、同年11月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年 3月12日付で刊行物等提出書が提出され、同年 4月19日付けで、平成29年11月13日付け手続補正書でした補正を却下する旨の補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、同年 7月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月17日付けで刊行物等提出書が提出され、平成31年 1月21日付けで上申書が提出され、当審より同年 2月27日付けで拒絶理由通知がされ、令和 1年 5月 7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、令和 1年 5月 7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明1」?「本願発明5」といい、まとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
質量%で
SiO_(2)成分を3.0%以上15.0%以下、
B_(2)O_(3)成分を8.5?18.0%、
La_(2)O_(3)成分を30.0?60.0%、
Nb_(2)O_(5)成分を4.07?15.0%
含有し、
ZnO成分の含有量が17.71%以下、
Y_(2)O_(3)成分の含有量が25.0%以下、
Yb_(2)O_(3)成分の含有量が5.0%以下、
TiO_(2)成分の含有量が1.91%以下、
WO_(3)成分の含有量が7.0%以下、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満、
Li_(2)O成分の含有量が1.0%未満、
Gd_(2)O_(3)成分の含有量が6.30%以下
であり、
Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下であり、
Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和が6.30%以下であり、
1.75以上の屈折率(nd)を有し、35以上のアッベ数(νd)を有し、
液相温度が1300℃以下である光学ガラス。
【請求項2】
TiO_(2)成分、Nb_(2)O_(5)成分及びWO_(3)成分の含有量の和が5.77%以上10.50%以下である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
1300℃以下の液相温度を有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項5】
請求項4記載の光学素子を備える光学機器。」

第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した平成31年 2月27日付けの拒絶理由の概要は、次のとおりである。
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
引用文献1:特開2010-83705号公報
引用文献2:特開昭58-26049号公報
引用文献3:特開2008-137877号公報

審判請求時の請求項1?11に係る発明は、その親出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、審判請求時の請求項1?8、10、11に係る発明は、その親出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献2に記載された発明及び引用文献2、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本願発明の課題は、審判請求時の明細書の【0007】に記載されるとおり、「屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、耐失透性が高いガラスを、より安価に得ること」であると認められるが、審判請求時の請求項1は、請求項に記載のない、「光学ガラス」を失透させる成分の含有を許容し得るガラス組成を特定した、いわゆるオープンクレームであって、審判請求時の請求項1において特定される「光学ガラス」の組成から、審判請求時の請求項1に係る発明が、耐失透性が高い「光学ガラス」であることが自明のものとはいえないし、審判請求時の請求項1に、「光学ガラス」の耐失透性の指標である液相温度が特定されるものでもない。
してみると、審判請求時の請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するといえない。
このことは、審判請求時の請求項1を引用する請求項2?11についても同様である。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、第6項第1号(サポート要件)について
発明の詳細な説明は、審判請求時の請求項1?11において下記(i)?(viii)について特定される範囲において、「1.75以上の屈折率(nd)」及び「35以上のアッベ数(νd)」とすることについて、過度の試行錯誤を要せずに実施し得るように説明されたものでない。
(i)「B_(2)O_(3)成分」、「SiO_(2)成分」、「B_(2)O_(3)成分及びSiO_(2)成分の含有量の和」
(ii)「La_(2)O_(3)成分」、「Y_(2)O_(3)成分」、「Yb_(2)O_(3)成分」、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」
(iii)「Nb_(2)O_(5)成分」、「TiO_(2)成分」、「WO_(3)成分」、「TiO_(2)成分、Nb_(2)O_(5)成分及びWO_(3)成分の含有量の和」
(iv)「ZnO成分」
(v)「Ta_(2)O_(5)成分」、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和」
(vi)「Li_(2)O成分」、「Na_(2)O成分」、「K_(2)O成分」、「Cs_(2)O成分」、「Rn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)の質量和」
(vii)「MgO成分」、「CaO成分」、「SrO成分」、「BaO成分」、「RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和」
(viii)「P_(2)O_(5)成分」、「GeO_(2)成分」、「ZrO_(2)成分」、「Al_(2)O_(3)成分」、「Ga_(2)O_(3)成分」、「Bi_(2)O_(3)成分」、「TeO_(2)成分」、「SnO_(2)成分」、「Sb_(2)O_(3)成分」
言い換えると、発明の詳細な説明の記載からは、「光学ガラス」における各成分の含有量、含有量の和、質量比を、審判請求時の請求項1?11において上記(i)?(viii)について特定される範囲にまで拡張することはできない。

第4 当審で通知した拒絶理由についての判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献の記載事項
(1-1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示で、
SiO_(2)およびB_(2)O_(3)を合計で5?32%、
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびY_(2)O_(3)を合計で45?65%、
ZnOを0.5?10%、
TiO_(2)およびNb_(2)O_(5)を合計で1?20%、
ZrO_(2)を0?15%、
WO_(3)を0?2%、
Yb_(2)O_(3)を0?20%、
Li_(2)O、Na_(2)OおよびK_(2)Oを合計で0?10%、
MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で0?10%、
Ta_(2)O_(5)を0?12%、
GeO_(2)を0?5%、
Bi_(2)O_(3)を0?10%、
Al_(2)O_(3)を0?10%、
含み、
B_(2)O_(3)の含有量に対するSiO_(2)の含有量の質量比(SiO_(2)/B_(2)O_(3))が0.3?1.0、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびY_(2)O_(3)の合計含有量に対するGd_(2)O_(3)およびY_(2)O_(3)の合計含有量の質量比(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.05?0.6であり、
屈折率ndが1.89?2.0、アッベ数νdが32?38、かつ着色度λ70が430nm以下であることを特徴とする光学ガラス。」

(1b)「【0032】
TiO_(2)の含有量は、屈折率を高め、化学的耐久性および耐失透性をより改善する上から0.1%以上とすることが好ましいが、液相温度およびガラス転移温度を低く抑える上から15%以下とすることが好ましい。したがって、TiO_(2)の含有量の好ましい範囲は0.1?15%、より好ましい範囲は1?15%、さらに好ましい範囲は2?13%、一層好ましい範囲は2?9%である。」

(1c)「【実施例】
【0101】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何等限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
まず、表1?表6に示す組成を有するガラスNo.1?22が得られるように、原料として炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸などを用い、各原料粉末を秤量して十分混合し、調合原料とし、この調合原料を白金製坩堝に入れて1200?1400℃で1?3時間、加熱、熔融し、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスした。この熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込んで急冷し、ガラス転移温度近傍の温度で2時間保持した後、徐冷してガラスNo.1?22の各光学ガラスを得た。いずれのガラス中にも結晶の析出は認められなかった。
【0103】
なお、各ガラスの特性は、以下に示す方法で測定した。測定結果を表1?表6に示す。
(1)屈折率ndおよびアッベ数νd
1時間あたり30℃の降温速度で冷却した光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度Tg
熱機械分析装置を用いて、昇温速度4℃/分の条件下で測定した。
(3)液相温度LT
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
・・・
【0104】
【表1】



(ア)上記(1a)、(1c)によれば、引用文献1には、「光学ガラス」に係る発明が記載されており、上記(1c)のガラスNo.3の「光学ガラス」に注目すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。
「質量%表示で、
SiO_(2)を7.54%、
B_(2)O_(3)を11.47%、
La_(2)O_(3)を44.32%、
Gd_(2)O_(3)を10.43%、
Y_(2)O_(3)を2.36%、
ZnOを5.54%、
TiO_(2)を6.27%、
Nb_(2)O_(5)を6.33%、
ZrO_(2)を5.74%含み、
Yb_(2)O_(3)、WO_(3)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)O、MgO、CaO、SrO、BaO、Ta_(2)O_(5)、GeO_(2)、Bi_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)の含有量はいずれも0.00%であり、
La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびY_(2)O_(3)の合計含有量に対するGd_(2)O_(3)およびY_(2)O_(3)の合計含有量の質量比(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))が0.22であり、
屈折率ndが1.90928、アッベ数νdが35.3であり、液相温度が1190℃である、光学ガラス。」(以下、「引用発明1」という。)

(1-2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。
(2a)「1. 重量%で下記の組成
SiO_(2) 5 ?15
B_(2)O_(3) 2.5?8
SiO_(2)+B_(2)O_(3) 7 ?23
SiO_(2)/B_(2)O_(3) 1.3?2.1
La_(2)O_(3) 43 ?56
Gd_(2)O_(3) 0 ?14
La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3) 43 ?60
ZrO_(2) 3 ?10
Nb_(2)O_(5) 0 ?15
Ta_(2)O_(5) 0 ?20
Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5) 11 ?22
を有することを特徴とする屈折率1.85?2.05、アッベ数25?43を有するCdO-およびThO_(2)-フリーの高屈折性光学ガラス。」(特許請求の範囲)

(2b)「


」(3頁右欄)

(ア)上記(2a)?(2b)によれば、引用文献2には、「高屈折性光学ガラス」に係る発明が記載されており、上記(2b)の実施例No.10の「高屈折性光学ガラス」に注目すれば、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。
「重量%で下記の組成、
SiO_(2) 14.55%、
B_(2)O_(3) 7.10%、
La_(2)O_(3) 46.30%、
ZrO_(2) 7.05%、
Nb_(2)O_(5) 11.60%、
PbO 0.75%、
TiO_(2) 0.40%、
Gd_(2)O_(3) 12.25%含み、
屈折率ndが1.8780、アッベ数νdが38.20である、高屈折性光学ガラス。」(以下、「引用発明2」という。)

(2)対比・判断
(2-1)引用文献1を主引用例とする場合
ア 対比
(ア)本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1に係る「光学ガラス」は、質量%表示で、SiO_(2)を7.54%、B_(2)O_(3)を11.47%、La_(2)O_(3)を44.32%、Nb_(2)O_(5)を6.33%、ZnOを5.54%、Y_(2)O_(3)を2.36%、Yb_(2)O_(3)、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)、Li_(2)Oの含有量がいずれも0.00%であるから、「SiO_(2)成分を3.0%以上15.0%以下、B_(2)O_(3)成分を8.5?18.0%、La_(2)O_(3)成分を30.0?60.0%、Nb_(2)O_(5)成分を4.07?15.0%含有し、ZnO成分の含有量が17.71%以下、Y_(2)O_(3)成分の含有量が25.0%以下、Yb_(2)O_(3)成分の含有量が5.0%以下、WO_(3)成分の含有量が7.0%以下、Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満、
Li_(2)O成分の含有量が1.0%未満である点で、本願発明1と一致している。

(イ)また、引用発明1に係る「光学ガラス」は、更に、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」が44.32%(La_(2)O_(3))+10.43%(Gd_(2)O_(3))+2.36%(Y_(2)O_(3))+0.00%(Yb_(2)O_(3))=57.11%となるものであり、屈折率ndが1.90928、アッベ数νdが35.3であり、液相温度が1190℃であるから、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下」であり、「1.75以上の屈折率(n_(d))を有し、35以上のアッベ数(ν_(d))を有し、液相温度が1300℃以下である」点で、本願発明1と一致している。

(ウ)上記(ア)?(イ)によれば、本願発明1と引用発明1とは、
「質量%で
SiO_(2)成分を3.0%以上15.0%以下、
B_(2)O_(3)成分を8.5?18.0%、
La_(2)O_(3)成分を30.0?60.0%、
Nb_(2)O_(5)成分を4.07?15.0%
含有し、
ZnO成分の含有量が17.71%以下、
Y_(2)O_(3)成分の含有量が25.0%以下、
Yb_(2)O_(3)成分の含有量が5.0%以下、
WO_(3)成分の含有量が7.0%以下、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満、
Li_(2)O成分の含有量が1.0%未満、
であり、
Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下であり、
1.75以上の屈折率(n_(d))を有し、35以上のアッベ数(ν_(d))を有し、
液相温度が1300℃以下である光学ガラス。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:本願発明1においては、「光学ガラス」の「Gd_(2)O_(3)成分の含有量が6.30%以下」であり、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和が6.30%以下」であるのに対して、引用発明1においては、「光学ガラス」が「Gd_(2)O_(3)」を10.43%含み、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和」が10.43%である点。

相違点1-2:本願発明においては、「光学ガラス」の「TiO_(2)成分の含有量」が「1.91%以下」であるのに対して、引用発明1においては、「TiO_(2)を6.27%」含む点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点1-2から検討すると、上記(1)(1-1)(1b)によれば、引用文献1に記載される発明におけるTiO_(2)の含有量の最も好ましい範囲は2?9%であり、引用発明1の「TiO_(2)」の含有量である「6.27%」は、最も好ましい範囲に含まれるものである。

(イ)そして、引用発明1において、「TiO_(2)」の含有量を、最も好ましい範囲から外れる「1.91%以下」とする合理的な動機付けは存在しないのであって、このことは、引用文献1及び3の記載事項に左右されるものではない。

(ウ)したがって、引用発明1において、「光学ガラス」の「TiO_(2)成分の含有量」を「1.91%以下」として、上記相違点1-2に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献1及び3の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本願発明1を、引用発明1及び引用文献1、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本願発明2?5について
(ア)本願発明2?5は、いずれも、本願発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本願発明2?5と引用発明1とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記相違点1-2の点で相違するものである。

(イ)そして、引用発明1において「光学ガラス」の「TiO_(2)成分の含有量」を「1.91%以下」として、上記相違点1-2に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献1及び3の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本願発明1を、引用発明1及び引用文献1、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記イ(ウ)に記載のとおりであって、同様の理由により、本願発明2?5を、引用発明1及び引用文献1、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)引用文献2を主引用例とする場合
ア 対比
(ア)本願発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2に係る「高屈折性光学ガラス」は、本願発明1における「光学ガラス」に相当する。
また、引用発明2に係る「高屈折性光学ガラス」は、重量%で、SiO_(2)を14.55%、La_(2)O_(3)を46.30%、Nb_(2)O_(5)を11.60%、TiO_(2)を0.40%含むものであり、ZnO、Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)、WO_(3)、Ta_(2)O_(5)、Li_(2)Oをいずれも含有しないことは明らかであるから、「質量%でSiO_(2)成分を3.0%以上15.0%以下、La_(2)O_(3)成分を30.0?60.0%、Nb_(2)O_(5)成分を4.07?15.0%含有し、ZnO成分の含有量が17.71%以下、Y_(2)O_(3)成分の含有量が25.0%以下、Yb_(2)O_(3)成分の含有量が5.0%以下、TiO_(2)成分の含有量が1.91%以下、WO_(3)成分の含有量が7.0%以下、Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満、Li_(2)O成分の含有量が1.0%未満」である点で、本願発明1と一致している。

(イ)また、引用発明2に係る「高屈折性光学ガラス」は、更に、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」が、46.30%(La_(2)O_(3))+12.25%(Gd_(2)O_(3))+0.00%(Y_(2)O_(3))+0.00%(Yb_(2)O_(3))=58.55%となるものであり、屈折率ndが1.8780、アッベ数νdが38.20であるから、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下」であり、「1.75以上の屈折率(nd)を有し、35以上のアッベ数(νd)を有する」点で、本願発明1と一致している。

(ウ)上記(ア)?(イ)によれば、本願発明1と引用発明2とは、
「質量%で
SiO_(2)成分を3.0%以上15.0%以下、
La_(2)O_(3)成分を30.0?60.0%、
Nb_(2)O_(5)成分を4.07?15.0%
含有し、
ZnO成分の含有量が17.71%以下、
Y_(2)O_(3)成分の含有量が25.0%以下、
Yb_(2)O_(3)成分の含有量が5.0%以下、
TiO_(2)成分の含有量が1.91%以下、
WO_(3)成分の含有量が7.0%以下、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満、
Li_(2)O成分の含有量が1.0%未満
であり、
Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下であり、
1.75以上の屈折率(nd)を有し、35以上のアッベ数(νd)を有する光学ガラス。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1:本願発明1においては、「光学ガラス」が「B_(2)O_(3)成分を8.5?18.0%」含有するのに対して、引用発明2においては、「光学ガラス」が「B_(2)O_(3)成分」を「7.10%」含有する点。

相違点2-2:本願発明1においては、「光学ガラス」の「Gd_(2)O_(3)成分の含有量が6.30%以下」であるのに対して、引用発明2においては、「光学ガラス」が「Gd_(2)O_(3)」を12.25%含有する点。

相違点2-3:本願発明1においては、「光学ガラス」の「液相温度が1300℃以下」であるのに対して、引用発明2における「光学ガラス」の液相温度は不明である点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点2-3から検討すると、引用文献2には、引用発明2における「光学ガラス」の「液相温度」が「1300℃以下」であることが記載も示唆もされるものではない。

(イ)また、引用文献2、3の記載をみても、引用発明2における「光学ガラス」の液相温度が1300℃以下であるといえないし、また、上記液槽温度を1300℃以下とする動機付けも見いだせず、更にそうするための手段も明らかではないから、引用発明2において、「光学ガラス」の「液相温度」を「1300℃以下」として、上記相違点2-3に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献2及び3の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本願発明1を、引用発明2及び引用文献2、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本願発明2?5について
(ア)本願発明2?5は、いずれも、本願発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本願発明2?5と引用発明2とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記相違点2-3の点で相違するものである。

(イ)そして、引用発明2において、「光学ガラス」の「液相温度」を「1300℃以下」として、上記相違点2-3に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献2及び3の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本願発明1を、引用発明2及び引用文献2、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記イ(イ)に記載のとおりであって、同様の理由により、本願発明2?5を、引用発明2及び引用文献2、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、当審で通知した拒絶理由のうち、特許法第29条第2項(進歩性)についての理由はいずれも理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)本願発明に係る「光学ガラス」は、「液相温度が1300℃以下である」との発明特定事項を有するものであって、「液相温度」は「光学ガラス」の耐失透性の指標となるものである。
また、本願発明においては、本願明細書の【0028】、【0040】、【0042】において高価であるとされる「Gd_(2)O_(3)成分」の含有量が「6.30%以下」に特定され、「Yb_(2)O_(3)成分」の含有量が「5.0%以下」に特定され、「Ta_(2)O_(5)成分」の含有量が「1.0%未満」に特定されているから、当業者は、本願発明により、「屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、耐失透性が高いガラスを、より安価に得る」、という本願発明の課題を解決できることを理解できるものである。

(イ)したがって、本願発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、この点で、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるので、当審で通知した拒絶理由のうち、上記第3の2の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての理由は理由がない。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、第6項第1号(サポート要件)について
(ア)令和 1年 5月 7日付けの手続補正書による補正により、本願発明における上記第3の3(i)のうち「B_(2)O_(3)成分及びSiO_(2)成分の含有量の和」、(vi)のうち「Na_(2)O成分」、「K_(2)O成分」、「Cs_(2)O成分」、「Rn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)の質量和」、(vii)、(viii)についての発明特定事項は削除されるものとなった。

(イ)そこで、本願発明において、上記第3の3(i)のうち「B_(2)O_(3)成分」、「SiO_(2)成分」、(ii)?(v)、(vi)のうち「Li_(2)O成分」について特定される範囲について検討すると、本願発明においては、「屈折率(nd)」及び「アッベ数(νd)」について、「1.75以上の屈折率(nd)を有し、35以上のアッベ数(νd)を有する」と特定されているのに対して、本願発明1で特定される組成を満足する実施例2、5、6、9、17?19、25?116(以下、「本願実施例」という。)における「屈折率(nd)」の最少値は1.8486(実施例80)であり、本願発明において特定される「屈折率(nd)」の下限値である1.75との間には、0.0986の差があるものである。
また、本願実施例における「アッベ数(νd)」の最小値は40.3(実施例30等)であり、本願発明において特定される「アッベ数(νd)」の上限値である35との間には、5.3の差があるものである。
更に、本願実施例における「液相温度」の最大値は1150℃(実施例25等)であり、本願発明において特定される「液相温度」の上限値である1300℃との間には、150℃の差があるものである。

(ウ)一方、山根 正之ら編,「ガラス光学ハンドブック」,初版第4刷,2007年 3月30日,株式会社朝倉書店,p.526-527(以下、「参考文献」という。)には、以下の記載がある。
「9.2組成
9.2.1 主要特性と組成
a.屈折率と組成
光学ガラスの屈折率n_(d)は1.45?2.00,アッベ数ν_(d)は20?95の間に分布する.図9.1に示すように200種類以上のガラスがそれぞれ固有の値をもつ.・・・
実験的に得られた酸化物成分の量とn_(d)およびν_(d)との関係は図9.2のようになる.この図はある成分からほかの成分に5wt%置換したときのn_(d)とν_(d)の変化を表している.・・・この図によれば,たとえば高屈折率低分散ガラスを得るためには,Y_(2)O_(3),La_(2)O_(3),Gd_(2)O_(3),BaOなどを多量に含むガラスにすればよく,高屈折率高分散ガラスを得るためにはTiO_(2),Nb_(2)O_(5),PbOを多量に含むガラスにしてやればよいことがわかる.いくつかのガラスの分散曲線を図9.3に示す.」(526頁右欄13行?527頁右欄10行)
「図9.1

」(526頁)
「図9.2

」(527頁左欄)
上記参考文献の記載によれば、光学ガラスにおける屈折率n_(d)とアッベ数ν_(d)の関係及び酸化物成分が屈折率n_(d)とアッベ数ν_(d)に及ぼす影響は、ある程度、定量的に、本願の親出願の優先日前に技術常識として知られるものである。

(エ)そして、上記(イ)に記載される、本願発明において特定される「屈折率(nd)」及び「アッベ数(νd)」と本願実施例における「屈折率(nd)」及び「アッベ数(νd)」の数値に差があることと、本願明細書に記載された各成分の定性的な役割と、上記(ウ)に記載される技術常識に基づいてみれば、当業者は、上記第3の3(i)のうち「B_(2)O_(3)成分」、「SiO_(2)成分」、(ii)?(v)、(vi)のうち「Li_(2)O成分」について特定される範囲において組成を変更しても、「1.75以上の屈折率(nd)」、「35以上のアッベ数(νd)」及び「1300℃以下の液相温度」という物性値を達成できることを理解できるものである。

(オ)また、本願実施例における「液相温度」の最大値と、本願発明において特定される「液相温度」の上限値との間に150℃の差があることは上記(イ)に記載のとおりであるから、当業者は、上記第3の3(i)のうち「B_(2)O_(3)成分」、「SiO_(2)成分」、(ii)?(v)、(vi)のうち「Li_(2)O成分」について特定される範囲において、「液相温度が1300℃以下である」という物性値を達成できることを理解できるものである。

(カ)したがって、本願発明は、物性要件を満たす光学ガラスを得ることができると考えられる各成分の数値範囲が、本願の組成要件に規定された各成分の各数値範囲の全体に及ぶものといえるから、この点で、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合し、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するものであるので、当審で通知した拒絶理由のうち、上記第3の3の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第4項第1号(実施可能要件)についての理由は理由がない。

第5 原査定について
1 原査定の理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号、第2項について
引用例 1:特開2011-6318号公報
引用例 2:特開2007-63071号公報
引用例 3:特開昭56-5345号公報
引用例 4:特開2002-12443号公報
引用例 5:特開2006-306648号公報
引用例 6:特開昭56-160340号公報
引用例 7:特開2009-179510号公報
引用例 8:特開2008-1551号公報
引用例 9:特開昭55-121925号公報
引用例10:特開2002-284542号公報
引用例11:特開2004-161506号公報
引用例12:特開2010-83705号公報
引用例13:特開2011-93780号公報
引用例14:特開2006-111482号公報
引用例15:特開2008-201646号公報
引用例16:特開2006-117502号公報
引用例17:特開2006-117506号公報
引用例18:特開2007-204317号公報
引用例19:特開2011-26185号公報
引用例20:特開2011-116650号公報
引用例21:特開2002-249337号公報
引用例22:特開2003-201143号公報
引用例23:特開2005-281124号公報

(ア)引用例1(実施例1?10、12?16、20?37)、2(実施例1?29)、3(実施例1?4、7、8、10?12、14、15、17、18)、4(実施例3、5、6、12)、5(実施例1、3?5)、6(No.3、4、6、7、9、13?16、18?21、23?26、28、37)、7(ガラスNo.1?6)、8(実験No.1?25)には、本願出願時の請求項1?14で特定されるガラス組成範囲を満たすとともに、同請求項1、15で特定される屈折率及びアッベ数を満たす光学ガラスが記載されている。
引用例1、4、7の光学ガラスは、液相温度が1300℃以下となっている。
また、引用例2、3、5、6、8の光学ガラスも、本願と同程度の液相温度が得られている蓋然性が高い。
光学ガラスを光学素子や光学機器に用いる点は、引用例1、2、4、5、7、8に記載されており、格別なものではない。

(イ)引用例9(No.5、6、12、16、18、19、21?23、25?28)、10(実施例1?13、比較例1、3)、11(実施例6)、12(No.2?5、8、9、12?15、17、19?22)、13(ガラスNo.1、2、4?38、40?46、50?59)、14(実施例2)、15(実施例1?4、6?9、11)、16(実施例No.34)、17(実施例No.34)、18(実施例1?21)、19(実施例50、52、54?63、67?73、75?87、89?94、96?120)、20(実施例No.2?4、6、8、9、11?14、19、41)には、本願出願時の請求項1?14で特定されるガラス組成範囲を満たすとともに、同請求項1、15で特定される屈折率及びアッベ数を満たす、光学ガラスが記載されている。
また、引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)、22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47,比較例2)、23(実施例No.1?30、32?39、41?47)のガラス組成をモル%から質量%に換算すると、本願出願時の請求項1?14で特定されるガラス組成範囲を満たすとともに、同請求項1、15で特定される屈折率及びアッベ数、及び同請求項18で特定される液相温度を満たす光学ガラスが記載されている。
引用文献9?23の光学ガラスは、いずれも液相温度が1300℃以下となっている。
更に、光学ガラスを光学素子や光学機器に用いる点は、引用例10?23に記載されており、格別なものではない。

(2)特許法第29条の2について
引用例24:特願2011-51005号(特開2012-197217号)
引用例25:特願2011-147181号(特開2013-14454号)
引用例26:特願2011-168013号(特開2013-32232号)

(ア)引用例24(No.9、29、43、45?53)、25(No.1?30)、26(No.1?30)の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、本願出願時の請求項1?14で特定されるガラス組成範囲を満たすとともに、同請求項15で特定される屈折率及びアッベ数、および、同請求項16で特定される液相温度を満たす光学ガラスが記載されている。

(3)特許法第36条第6項第1号について
(ア)本願が解決しようとする課題は、「屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、耐失透性が高いガラスを、より安価に得ること」にある。

(イ)ところが、「B_(2)O_(3)成分」、「La_(2)O_(3)成分」、「Ta_(2)O_(5)成分」について、本願出願時の請求項1で特定される数値範囲に亘って、上記課題を解決した光学ガラスが得られるのかが明らかでない。

(ウ)したがって、本願出願時の請求項1で特定される数値範囲に亘って、上記課題を解決した光学ガラスが得られるのかが明らかでなく、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
このことは、本願出願時の請求項1を引用する請求項2?18にも当てはまる。

2 原査定についての判断
(1)特許法第29条第1項第3号、第2項について
(ア)本願発明1に係る「光学ガラス」は、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満」のものである。
これに対して、引用例1(実施例1?10、12?16、20?37)、3(実施例1?4、7、8、10?12、14、15、17、18)、4(実施例3、5、6、12)、19(実施例50、52、54?63、67?73、75?87、89?94、96?120)、20(実施例2?4、6、8、9、11?14、19、41)に記載される発明は、いずれも、「光学ガラス」が「Ta_(2)O_(5)成分」を1.0%以上含有するものであるから、本願発明1が、引用例1(実施例1?10、12?16、20?37)、3(実施例1?4、7、8、10?12、14、15、17、18)、4(実施例3、5、6、12)、19(実施例50、52、54?63、67?73、75?87、89?94、96?120)、20(実施例2?4、6、8、9、11?14、19、41)に記載される発明であるとはいえない。
そして、引用例1(実施例1?10、12?16、20?37)、3(実施例1?4、7、8、10?12、14、15、17、18)、4(実施例3、5、6、12)、19(実施例50、52、54?63、67?73、75?87、89?94、96?120)、20(実施例2?4、6、8、9、11?14、19、41)に記載される発明において、「光学ガラス」の「Ta_(2)O_(5)成分の含有量」を「1.0%未満」とする合理的な動機付けは存在しないのであって、このことは、引用例1?23の記載事項に左右されるものではない。
したがって、本願発明1を、引用例1(実施例1?10、12?16、20?37)、3(実施例1?4、7、8、10?12、14、15、17、18)、4(実施例3、5、6、12)、19(実施例50、52、54?63、67?73、75?87、89?94、96?120)、20(実施例2?4、6、8、9、11?14、19、41)に記載される発明及び引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)本願発明1に係る「光学ガラス」は、「液相温度が1300℃以下である」ものである。
これに対して、引用例2(実施例1?29)、5(実施例1、3?5)、6(実施例3、4、6、7、9、13?16、18?21、23?26、28、37)、8(実験No.1?25)に記載される発明は、いずれも、「光学ガラス」の「液相温度」が不明である。
また、引用例1?23の記載をみても、引用例2(実施例1?29)、5(実施例1、3?5)、6(実施例3、4、6、7、9、13?16、18?21、23?26、28、37)、8(実験No.1?25)に記載される発明における「光学ガラス」の「液相温度」が「1300℃以下」であるとはいえないし、また、上記「液相温度」を「1300℃以下」とする動機付けも見いだせず、更にそうするための手段も明らかではないから、引用例2(実施例1?29)、5(実施例1、3?5)、6(実施例3、4、6、7、9、13?16、18?21、23?26、28、37)、8(実験No.1?25)に記載される発明において、「光学ガラス」の「液相温度」を「1300℃以下」とすることを、引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないので、本願発明1を、引用例2(実施例1?29)、5(実施例1、3?5)、6(実施例3、4、6、7、9、13?16、18?21、23?26、28、37)、8(実験No.1?25)に記載される発明及び引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)本願発明1に係る「光学ガラス」は、「Gd_(2)O_(3)成分の含有量が6.30%以下」であり、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和が6.30%以下」であるものである。
これに対して、引用例7(ガラスNo.1?6)、10(実施例1?13、比較例1、3)、12(No.2?5、8、9、12?15、17、19?22)(当審注:引用例12は、上記第3の1の引用文献1と同じものである。)、13(ガラスNo.1、2、4?38、40?46、50?59)、16(実施例No.34)、17(実施例No.34)に記載される発明は、いずれも、「光学ガラス」の「Gd_(2)O_(3)成分の含有量」が6.30%を超えており、「Gd_(2)O_(3)成分の含有量が6.30%以下」、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和が6.30%以下」とはならないものであるから、本願発明1が、引用例7(ガラスNo.1?6)、10(実施例1?13、比較例1、3)、12(No.2?5、8、9、12?15、17、19?22)、13(ガラスNo.1、2、4?38、40?46、50?59)、16(実施例No.34)、17(実施例No.34)に記載される発明であるとはいえない。
そして、引用例7(ガラスNo.1?6)、10(実施例1?13、比較例1、3)、12(No.2?5、8、9、12?15、17、19?22)、13(ガラスNo.1、2、4?38、40?46、50?59)、16(実施例No.34)、17(実施例No.34)に記載される発明において、「光学ガラス」の「Gd_(2)O_(3)成分の含有量」を「6.30%以下」とし、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和」を6.30%以下」とする合理的な動機付けは存在しないのであって、このことは、引用例1?23の記載事項に左右されるものではない。
したがって、本願発明1を、引用例7(ガラスNo.1?6)、10(実施例1?13、比較例1、3)、12(No.2?5、8、9、12?15、17、19?22)、13(ガラスNo.1、2、4?38、40?46、50?59)、16(実施例No.34)、17(実施例No.34)に記載される発明及び引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)本願発明1に係る「光学ガラス」は、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」が「50.69%以上65.0%以下」であるものである。
これに対して、引用例9(No.5、6、12、16、18、19、21?23、25?28)、11(実施例6)、14(実施例2)、15(実施例1?4、6?9、11)、18(実施例1?21)に記載される発明においては、「光学ガラス」における「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」が最大でも「49.81%」(引用例18実施例2)であるから、引用例9(No.5、6、12、16、18、19、21?23、25?28)、11(実施例6)、14(実施例2)、15(実施例1?4、6?9、11)、18(実施例1?21)に記載される発明は、いずれも、「光学ガラス」における「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」が「50.69%以上65.0%以下」とはならないので、本願発明1が、引用例9(No.5、6、12、16、18、19、21?23、25?28)、11(実施例6)、14(実施例2)、15(実施例1?4、6?9、11)、18(実施例1?21)に記載される発明であるとはえない。
そして、引用例9(No.5、6、12、16、18、19、21?23、25?28)、11(実施例6)、14(実施例2)、15(実施例1?4、6?9、11)、18(実施例1?21)に記載される発明において、「光学ガラス」における「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」を「50.69%以上65.0%以下」とする合理的な動機付けは存在しないのであって、このことは、引用例1?23の記載事項に左右されるものではない。
したがって、本願発明1を、引用例9(実施例5、6、12、16、18、19、21?23、25?28)、11(実施例6)、14(実施例2)、15(実施例1?4、6?9、11)、18(実施例1?21)に記載される発明及び引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(オ)引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)、22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47)、23(実施例1?30、32?39、41?47)においては、ガラス組成がモル%で記載されている。
ここで、引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)においてB_(2)O_(3)成分含有量が最も小さい実施例27、及び、引用例22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47、比較例2)、23(実施例1?30、32?39、41?47)において「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」が最も大きい引用例23の実施例16を質量%に換算すると、それぞれ、以下のとおりである。
引用例21の実施例27:B_(2)O_(3):26.57%、La_(2)O_(3):30.54%、Gd_(2)O_(3):21.86%、ZnO:11.99%、Al_(2)O_(3):4.09%、ZrO_(2):4.95%
引用例23の実施例16:B_(2)O_(3):23.19%、La_(2)O_(3):30.32%、Gd_(2)O_(3):16.32%、ZnO:9.77%、Ta_(2)O_(5):10.60%、WO_(3):5.56%、Li_(2)O:0.54%、ZrO_(2):3.70%
これを踏まえて検討すると、本願発明1に係る「光学ガラス」は、「B_(2)O_(3)成分」を「8.5?18.0%」含有するものである。
これに対して、引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)に記載される発明においては、「光学ガラス」における「B_(2)O_(3)成分」の含有量が最小でも「26.57%」(実施例27)であるから、引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)に記載される発明は、いずれも、「光学ガラス」における「B_(2)O_(3)成分」が「8.5?18.0%」とはならないので、本願発明1が、引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)に記載される発明であるとはいえない。
そして引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)に記載される発明において、「光学ガラス」における「B_(2)O_(3)成分」を「8.5?18.0%」とする合理的な動機付けは存在しないのであって、このことは、引用例1?23の記載事項に左右されるものではない。
したがって、本願発明1を、引用例21(実施例3?5、7?9、11、12、15、16、24、26、27)に記載される発明及び引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明1に係る「光学ガラス」は、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下」であるものである。
これに対して、引用例22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47、比較例2)、23(実施例1?30、32?39、41?47)に記載される発明においては、「光学ガラス」における「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」は最大でも30.32%(La_(2)O_(3))+16.32%(Gd_(2)O_(3))=46.64%(引用例23の実施例16)であるから、引用例22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47、比較例2)、23(実施例1?30、32?39、41?47)に記載される発明は、いずれも、「光学ガラス」における「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が50.69%以上65.0%以下」とはならないので、本願発明1が、引用例22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47、比較例2)、23(実施例1?30、32?39、41?47)に記載される発明であるとはいえない。
そして、引用例22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47、比較例2)、23(実施例1?30、32?39、41?47)に記載される発明において、「光学ガラス」における「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和」を「50.69%以上65.0%以下」とする合理的な動機付けは存在しないのであって、このことは、引用例1?23の記載事項に左右されるものではない。
したがって、本願発明1を、引用例22(実施例1、2、4、5、7?11、15?17、24?34、36、37、39?42、44?47、比較例2)、23(実施例1?30、32?39、41?47)に記載される発明及び引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(カ)以上のとおりであるので、本願発明1が、引用例1?23に記載される発明であるとはいえないし、引用例1?23に記載される発明および引用例1?23の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
そして、このことは,本願発明1を引用する本願発明2?6についても同様であるから、原査定の特許法第29条第1項第3号及び第2項についての理由は理由がない。

(2)特許法第29条の2について
(ア)引用例24(No.9、29、43、45?53)の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る「光学ガラス」は、いずれも、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量が1.0%未満」のものではないから、本願発明1と対比した場合、少なくとも、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量」の点で相違点を有するものである。
引用例25(No.1?30)、26(No.1?30)の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る「光学ガラス」は、いずれも、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和が6.30%以下」のものではないから、本願発明1と対比した場合、少なくとも、「Gd_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及びTa_(2)O_(5)成分の含有量の和」の点で相違点を有するものである。

(イ)したがって、本願発明1が、引用例24?26の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。
そして、このことは,本願発明1を引用する本願発明2?6についても同様であるから、原査定の特許法第29条の2についての理由は理由がない。

(3)特許法第36条第6項第1号について
(ア)本願発明は、物性要件を満たす光学ガラスを得ることができると考えられる各成分の数値範囲が、本願の組成要件に規定された各成分の各数値範囲の全体に及ぶものといえるから、この点で、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合することは、上記第4の3(カ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、原査定の特許法第36条第6項第1号についての理由は理由がない。

第6 平成30年12月17日付け刊行物等提出書について
以下、審判請求時の補正により補正された特許請求の範囲に対して提出された、平成30年12月17日付け刊行物等提出書(以下、「刊行物等提出書」という。)における主張について検討する。
1 刊行物等提出書における主張の概要
刊行物 1:特開2009-179510号公報
刊行物 2:特開2008-001551号公報
刊行物 3:特開2010-083705号公報
刊行物 4:特開昭56-041850号公報
刊行物 5:特開昭60-046948号公報
刊行物 6:特開昭60-122745号公報
刊行物 7:特開昭60-221338号公報
刊行物 8:2005 Minerals Yearbook
刊行物 9:2006 Minerals Yearbook
刊行物10:2007 Minerals Yearbook
刊行物11:2008 Minerals Yearbook
刊行物12:2009 Minerals Yearbook
刊行物13:2010 Minerals Yearbook
刊行物14:2011 Minerals Yearbook

審判請求時の請求項1?11に係る発明は、刊行物等提出書で提出された刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明又は刊行物3に記載された発明と、刊行物4?14の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 刊行物等提出書についての判断
(ア)刊行物1は、上記第5の1(1)の引用例7と同じものであって、引用例7を主引用例とした場合の進歩性の判断は上記第5の2(1)(エ)で検討したとおりであり、刊行物2は、上記第5の1(1)の引用例8と同じものであって、引用例8を主引用例とした場合の進歩性の判断は上記第5の2(1)(ウ)で検討したとおりであり、刊行物3は、上記第3の1の引用文献1と同じものであって、引用文献1を主引用例とした場合の進歩性の判断は上記第4の1(2)(2-1)で検討したとおりである。
そして、上記検討結果は、刊行物4?14の記載事項に左右されるものではない。

(イ)したがって、平成30年12月17日付け刊行物等提出書における特許法第29条第2項(進歩性)についての理由は理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由及び当審から通知された拒絶理由のいずれを検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2016-194370(P2016-194370)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C03C)
P 1 8・ 113- WY (C03C)
P 1 8・ 121- WY (C03C)
P 1 8・ 536- WY (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 宮澤 尚之
金 公彦
発明の名称 光学ガラス及び光学素子  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
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