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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1352861
審判番号 不服2018-6063  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-02 
確定日 2019-06-21 
事件の表示 特願2014- 94416「インクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-212018〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月1日の出願であって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年11月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年2月5日:意見書、手続補正書の提出
平成30年4月2日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年5月2日:審判請求書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出
平成30年8月6日:上申書の提出

第2 本願発明について
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。

「【請求項1】
卑金属顔料インク組成物と、該卑金属顔料インク組成物を吐出する第1ノズルと、を有するインクジェット記録装置であって、
前記卑金属顔料インク組成物は、50%平均粒子径D50が100nm以上1μm以下であって平板状であるアルミニウム顔料と、20℃における表面張力が35mN/m以上であるジオキサン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンおよびアクリロイルモルホリンから選ばれる1種以上の有機化合物と、20℃における表面張力が35mN/m未満であるアルキレングリコールエーテルと、を含有し、
前記第1ノズルから前記卑金属顔料インク組成物を吐出して、該第1ノズルから前記卑金属顔料インク組成物を再度吐出するまでの吐出間隔T1が、100μ秒以内である、インクジェット記録装置。」

なお、本件補正は、特許請求の範囲の削除を目的とするものである。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、[A]本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、[B]本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献3.特開2013-227454号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献3の記載
引用文献3には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

(1)「【請求項1】
インクジェット方式により吐出されるインクジェット用組成物であって、
金属粉末と、有機溶剤と、結着樹脂とを含み、
前記金属粉末として、リン酸アルキルエステルで表面処理されたものを含むことを特徴とするインクジェット用組成物。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用組成物および記録物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吐出安定性、保存安定性に優れ、光沢感に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることのできるインクジェット用組成物を提供すること、また、前記インクジェット用組成物を用いて形成された光沢感に優れたパターンを有する記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインクジェット用組成物は、インクジェット方式により吐出されるものであって、
金属粉末と、有機溶剤と、結着樹脂とを含み、
前記金属粉末として、リン酸アルキルエステルで表面処理されたものを含むことを特徴とする。
これにより、吐出安定性、保存安定性に優れ、光沢感に優れたパターン(印刷部)を備えた記録物の製造に好適に用いることのできるインクジェット用組成物を提供することができる。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<<インクジェット用組成物>>
まず、本発明のインクジェット用組成物について説明する。
本発明のインクジェット用組成物は、インクジェット方式により吐出されるものであり、金属粉末と、有機溶剤と、結着樹脂(バインダー)とを含むものである。
・・・(省略)・・・
【0018】
<金属粉末>
上述したように、本発明のインクジェット用組成物は、金属粉末として、リン酸アルキルエステルで表面処理されたものを含むものである。
・・・(省略)・・・
【0028】
金属粉末は、球状、紡錘形状、針状等、いかなる形状のものであってもよいが、鱗片形状をなすものであるのが好ましい。
・・・(省略)・・・
【0029】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S_(1)[μm^(2)]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S_(0)[μm^(2)]に対する比率(S_(1)/S_(0))が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。
【0030】
金属粉末の平均粒径は、500nm以上3.0μm以下であるのが好ましく、800nm以上1.8μm以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
インクジェット用組成物中における金属粉末の含有率は、0.5質量%以上10.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましい。
【0031】
<有機溶剤>
有機溶剤は、インクジェット用組成物において、金属粉末を分散させる分散媒として機能するものである。そして、有機溶剤は、記録物の製造過程において除去される(蒸発する)ものである。
・・・(省略)・・・
【0033】
特に、インクジェット用組成物は、有機溶剤として、アルキレングリコール化合物およびラクトン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を含むものであるのが好ましい。これにより、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット法による吐出後に、インクジェット用組成物から溶剤を速やかに除去することができるため、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0034】
有機溶剤として用いることのできるアルキレングリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコールや、アルキレングリコールが有する少なくとも一つの水酸基がエーテル化、エステル化された化合物等が挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0037】
有機溶剤として用いることのできるラクトン化合物としては、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
中でも、有機溶剤は、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、および、γ-ブチロラクトンよりなる群から選択される1種または2種以上を含むものであるのが好ましい。これにより、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。
・・・(省略)・・・
【0039】
<結着樹脂(バインダー)>
結着樹脂は、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物において、金属粉末の記録媒体に対する密着性を向上させる機能を有するものである。これにより、記録物の耐久性(耐擦性、耐水性等)を優れたものとすることができる。
・・・(省略)・・・
【0048】
<<記録物>>
次に、本発明の記録物について説明する。
本発明の記録物は、上述したようなインクジェット用組成物を記録媒体上に付与することにより製造されたものである。このような記録物は、光沢感に優れたパターン(印刷部)を有するものである。
・・・(省略)・・・
【0050】
液滴吐出方式(インクジェット法の方式)としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インクジェット用組成物の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。」

(4)「【実施例】
【0052】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インクジェット用組成物の製造
(実施例1)
まず、表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルム(表面粗さRaが0.02μm以下)を用意した。
【0053】
次に、このフィルムの一方の面の全体にシリコーンオイルを塗布した。
次に、シリコーンオイルを塗布した面側に、蒸着法により、Alで構成された膜を形成した。
次に、Alの膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルム(基材)を、ジエチレングリコールジエチルエーテルで構成された液体中に入れ、超音波振動を付与した。これにより、鱗片状のAl製の粒子(母粒子となるべき粒子)の分散体(分散液)が得られた。この分散体中におけるAl製の粒子の含有率は、3.7質量%であった。
【0054】
次に、上記のようにして得られたAl製の粒子を含む分散体中に、リン酸アルキルエステルとしてのC_(12)H_(25)(O)P(OH)(OCH_(2)CH_(3))を加え、液温:55℃で、3時間超音波振動を加えつつ、表面処理反応させた。反応終了後、遠心分離機(6000rpm×30分)にて、表面処理が施されたAl製の粒子(金属粉末)を遠心沈降させ、上澄み部分を廃棄し、次に、ジエチレングリコールジエチルエーテルを加えて、さらに、超音波振動を付与することにより金属粉末を再分散させ、金属粉末の含有率が3.7質量%の分散液(再分散液)を得た。この再分散液をエバポレーターにて濃縮し、金属粉末の含有率が10質量%のペースト状の分散液(分散媒:ジエチレングリコールジエチルエーテル)を得た。このようにして得られた金属粉末の平均粒径は0.8μm、平均厚さは、60nmであった。
【0055】
次に、金属粉末を含むペースト状の分散液を、有機溶剤としてのジエチレングリコールジエチルエーテル、γ-ブチロラクトン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラエチレングリコールジブチルエーテル、結着樹脂(バインダー)としてのセルロースアセテートブチレート、および、シリコーン系界面活性剤としてのBYK-3500(ビックケミー社製)と混合することにより、インクジェット用組成物を得た。
【0056】
(実施例2?15)
金属粒子の構成(母粒子の組成および表面処理に用いる化合物(リン酸アルキルエステル)の種類)を表1に示すようにするとともに、インクジェット用組成物の調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット用組成物を製造した。
・・・(省略)・・・
【0059】
前記各実施例および比較例について、インクジェット用組成物の組成を、表1にまとめて示した。なお、表中、C_(12)H_(25)(O)P(OH)(OCH_(2)CH_(3))を「A1」、C_(18)H_(37)(O)P(OH)(OCH_(2)CH_(3))を「A2」、(C_(14)H_(29))_(3)(O)Pを「A3」、(C_(18)H_(37))_(2)(O)P(C_(16)H_(33))を「A4」、H_(3)PO_(4)を「A’1」、ステアリン酸を「A’2」、オレイン酸を「A’3」、ジエチレングリコールジエチルエーテルを「DEGDEE」、ジエチレングリコールジメチルエーテルを「DEGDME」、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを「TEGDME」、テトラエチレングリコールジブチルエーテルを「TEGDBE」、γ-ブチロラクトンを「γ-BL」、1-メチル-2-ピロリドンを「NMP」、セルロースアセテートブチレートを「CAB」、ニトロセルロースを「NC」、エチルセルロースを「EC」、ヒドロキシエチルセルロースを「HEC」、BYK-3500(ビックケミー社製、シリコーン系界面活性剤)を「B1」、BYK-3570(ビックケミー社製、シリコーン系界面活性剤)を「B2」、オルフインE1010(日信化学社製、アセチレンジオール)を「B3」、エマルゲン106(花王社製、ポリオキシエチレン系界面活性剤)を「B4」で示した。また、表中、実施例11について、母粒子の構成材料の組成は、各元素の含有率を重量比で示した。また、各インクジェット用組成物中に含まれるそれぞれ任意の10個の金属粒子について観察を行い、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S_(1)[μm^(2)]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S_(0)[μm^(2)]に対する比率(S_(1)/S_(0))を求め、これらの平均値を、表1にあわせて示した。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクジェット用組成物の20℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0060】
【表1】



(5)「【0064】
[3]インクジェット用組成物の周波数特性
チャンバー(サーマルチャンバー)内に設置した液滴吐出装置および前記各実施例および比較例のインクジェット用組成物を用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、25℃、55%RHの環境下で、各インクジェット用組成物について、液滴吐出ヘッドの全ノズルから、ピエゾ素子の振動数(周波数)を変化させつつ、液滴吐出を行った。各周波数での液滴吐出時間は10分間とした。10分間の吐出後時点で未吐出のノズル数が全ノズル数の1%未満の周波数までを実使用可能な最高周波数として、実使用可能な周波数範囲を以下の4段階の基準に従い、評価した。この値が大きいほど周波数特性に優れていると言える。
A:15kHz以上。
B:10kHz以上15kHz未満。
C:5kHz以上10kHz未満。
D:5kHz未満。
・・・(省略)・・・
【0067】
[5]記録物の製造
各実施例および比較例のインクジェット用組成物を用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物としてのインテリアパネルを製造した。
まず、インクジェット用組成物をインクジェット装置に投入した。
その後、溶剤インクジェットメディア(IJS-RC-YF170;三菱製紙株式会社製)を用いて成形した曲面部を有する基材(記録媒体)上に、所定のパターンでインクジェット用組成物を吐出した。
その後、60℃×30秒という条件で熱処理を施すことにより有機溶媒を除去し、記録物としてのインテリアパネルを得た。
上記のような方法を用いて、各実施例および比較例のインクジェット用組成物を用いて、それぞれ、10個のインテリアパネル(記録物)を製造した。
【0068】
[6]記録物の評価
上記のようにして得られた各記録物について、以下のような評価を行った。
[6.1]記録物の外観評価
前記各実施例および比較例で製造した各記録物を目視により観察し、以下の7段階の基準に従い、評価した。
【0069】
A:高級感に溢れる光沢感を有し、極めて優れた外観を有している。
B:高級感に溢れる光沢感を有し、非常に優れた外観を有している。
C:高級感のある光沢感を有し、優れた外観を有している。
D:高級感のある光沢感を有し、良好な外観を有している。
E:光沢感に劣り、外観がやや不良。
F:光沢感に劣り、外観が不良。
G:光沢感に劣り、外観が極めて不良。
【0070】
[6.2]光沢度
前記各実施例および比較例で製造した各記録物のパターン形成部について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が400以上。
B:光沢度が300以上400未満。
C:光沢度が200以上300未満。
D:光沢度が200未満。
・・・(省略)・・・
【0073】
【表2】


【0074】
表2から明らかなように、本発明のインクジェット用組成物は、液滴の吐出安定性、保存安定性に優れていた。また、本発明の記録物は、優れた光沢感、外観を有しており、パターン形成部の耐擦性にも優れていた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。」

2 引用発明
上記1からみて、引用文献3には、実施例1のインクジェット用組成物を投入したインクジェット装置として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 金属粉末を含むペースト状の分散液を、有機溶剤としてのジエチレングリコールジエチルエーテル、γ-ブチロラクトン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びテトラエチレングリコールジブチルエーテル、結着樹脂(バインダー)としてのセルロースアセテートブチレート、並びに、シリコーン系界面活性剤としてのBYK-3500(ビックケミー社製)と混合することにより、インクジェット用組成物を得、
当該インクジェット用組成物を投入したインクジェット装置であって、
上記金属粉末の平均粒径は0.8μm、平均厚さは、60nmである、鱗片状のAl製の粒子である、
インクジェット装置。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)卑金属顔料インク組成物
引用発明の「インクジェット用組成物」は、「金属粉末を含むペースト状の分散液を、有機溶剤としてのジエチレングリコールジエチルエーテル、γ-ブチロラクトン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びテトラエチレングリコールジブチルエーテル、結着樹脂(バインダー)としてのセルロースアセテートブチレート、並びに、シリコーン系界面活性剤としてのBYK-3500(ビックケミー社製)と混合することにより」得られたものである。また、引用発明の「金属粉末の平均粒径は0.8μm、平均厚さは、60nm」で、「Al製の粒子である」。
ここで、引用発明の「インクジェット用組成物」の上記の組成からみて、引用発明の「インクジェット用組成物」は、「Al製の粒子である」「金属粉末」を含む。そして、本件明細書の【0027】?【0029】の記載からみて、引用発明の「Al製の粒子である」「金属粉末」は、本願発明でいう「卑金属顔料」に該当する。また、引用発明の「インクジェット用組成物」は、その名のとおり、「インク組成物」である。
そうしてみると、引用発明の「インクジェット用組成物」は、本願発明の「卑金属顔料インク組成物」に相当する。

(2)インクジェット記録装置
引用発明は、「インクジェット用組成物を投入したインクジェット装置」である。
ここで、引用発明の「インクジェット用組成物」は、前記(1)で検討したとおり、本願発明の「卑金属顔料インク組成物」に該当する。また、インクジェット装置に関する技術常識に鑑みると、引用発明の「インクジェット装置」が、インクジェット用組成物を吐出するノズルを具備することは明らかである。そして、「インクジェット装置」及び「ノズル」を、それぞれ「インクジェット記録装置」及び「第1ノズル」と称しても、その実体に変わりはない。
したがって、引用発明の「インクジェット装置」は、本願発明の「インクジェット記録装置」に相当する。また、前記(1)で述べた相当関係も併せて考慮すると、引用発明の「インクジェット装置」は、本願発明の「インクジェット記録装置」の、「卑金属顔料インク組成物と、該卑金属顔料インク組成物を吐出する第1ノズルと、を有する」という要件を満たす。

(3)平板状であるアルミニウム顔料
引用発明の「Al製の粒子」は、「鱗片状」である。
ここで、本件明細書の【0066】の記載からみて、引用発明の「鱗片状」は、本願発明でいう「平板状」に該当する。また、本件明細書の【0027】の記載からみて、引用発明の「Al製の粒子」は、本願発明でいう「アルミニウム顔料」に該当する。
そうしてみると、引用発明の「Al製の粒子」は、本願発明の「平板状である」という要件を満たす「アルミニウム顔料」に相当する。

(4)有機化合物
引用発明の「インクジェット用組成物」は、前記(1)で述べた工程により得られたものである。
そして、引用発明の「γ-ブチロラクトン」は、その名のとおり、「γ-ブチロラクトン」である。
したがって、引用発明の「γ-ブチロラクトン」は、本願発明の「ジオキサン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンおよびアクリロイルモルホリンから選ばれる1種以上の」という要件を満たす「有機化合物」に相当する。

(5)アルキレングリコールエーテル
引用発明の「インクジェット用組成物」は、前記(1)で述べた工程により得られたものである。
そして、引用発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」は、本願明細書の【0086】の記載からみて、本願発明でいう「アルキレングリコールエーテル」に該当する。
そうしてみると、引用発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」は、本願発明の「アルキレングリコールエーテル」に相当する。

前記(3)?(5)で述べたとおりであるから、引用発明の「インクジェット用組成物」は、本願発明の「卑金属顔料インク組成物」の、「前記卑金属顔料インク組成物は、・・・アルミニウム顔料と、・・・有機化合物と、・・・アルキレングリコールエーテルと、を含有し」という要件を満たす。

2 一致点
以上のことから、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「 卑金属顔料インク組成物と、該卑金属顔料インク組成物を吐出する第1ノズルと、を有するインクジェット記録装置であって、
前記卑金属顔料インク組成物は、平板状であるアルミニウム顔料と、ジオキサン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンおよびアクリロイルモルホリンから選ばれる1種以上の有機化合物と、アルキレングリコールエーテルと、を含有する、
インクジェット記録装置。」

3 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する、又は一応、相違する。
(1) 相違点1
「アルミニウム顔料の平均粒径」について、本願発明は、「50%平均粒子径D50が100nm以上1μm以下」であるのに対して、引用発明は、これが、一応、明らかではない点。

(2) 相違点2
「有機化合物」及び「アルキレングリコールエーテル」について、本願発明は、「20℃における表面張力が35mN/m以上であるジオキサン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンおよびアクリロイルモルホリンから選ばれる1種以上の有機化合物」及び「20℃における表面張力が35mN/m未満であるアルキレングリコールエーテル」と特定されているのに対して、引用発明は、これが、一応、明らかではない点。

(3) 相違点3
「インクジェット記録装置」について、本願発明は、「前記第1ノズルから前記卑金属顔料インク組成物を吐出して、該第1ノズルから前記卑金属顔料インク組成物を再度吐出するまでの吐出間隔T1が、100μ秒以内である」と特定されているのに対して、引用発明は、これが、一応、明らかではない点。

第6 判断
1 相違点1について
(1) 本件明細書の【0067】には、「50%平均粒子径D50が100nm以上1μm以下である必要があり」、「上記範囲内にあることで、インクジェット記録装置内での卑金属顔料の流通性が良好となるので、特定のノズルからインクが吐出される時間間隔が短い場合(100μ秒以内)であっても、インクの吐出安定性(波形応答性)が優れたものとなる」と記載されている。一方、引用文献3の【0064】及び【0073】【表2】には、平均粒径が0.5?1.0μmの金属粉末を含有するインクジェット用組成物は、液滴吐出装置のピエゾ素子の振動数において、実使用可能な最高周波数がいずれも10kHz以上であり、周波数特性に優れることが記載されている。

(2) また、本件明細書の【0067】には、「50%平均粒子径D50が100nm以上1μm以下である必要があり」、「卑金属顔料のD50が上記範囲内にあることで、光沢性に優れた画像を記録できる」と記載されている。一方、引用文献3の【0070】及び【0073】【表2】には、平均粒径が0.5?1.0μmの金属粉末を含有するインクジェット用組成物は、優れた光沢感を有することが記載されている。

(3) そうしてみると、仮に、引用発明の平均粒径の測定方法が本願発明のものと同一であるとはいえない(両者の値を同一視してよいとは直ちにいえない)としても、引用文献3に記載の上記金属粉末(平均粒径0.8μm)は、相違点1に係る本願発明の構成を具備する蓋然性が極めて高いものといえる。

(4) 加えて、引用文献3には、引用発明以外にも、実施例2、5乃至7、9乃至15のインクジェット組成物を投入したインクジェット装置の発明(以下「他の実施例発明」という。)が記載されている。引用発明に替えて、これら他の実施例発明を引用発明として検討しても、同様に相違点1が見いだされるところ、これら他の実施例発明における金属粉末の平均粒径の範囲は0.5μm?2.9μmの範囲に拡がるものである。そうしてみると、これら他の実施例発明の金属粉末のうちいずれかは、相違点1に係る本願発明の構成を具備する蓋然性が極めて高いものといえる。

(5) したがって、上記相違点1は、実質的に相違点とはならない。

(6) あるいは、引用発明又は他の実施例発明(以下、相違点2等も含めて、同様なので、「引用発明」と総称する。)のインクジェット装置において、液滴吐出装置の周波数特性や光沢度を勘案した当業者が、相違点1に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項である。

2 相違点2について
本件明細書の【0161】【表1】の記載によると、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、及びジエチレングリコールジエチルエーテルの表面張力は、それぞれ、43.9mN/m、41mN/m、及び23.3mN/mであるから、引用発明のγ-ブチロラクトン、1-メチル-2-ピロリドン、及びジエチレングリコールジエチルエーテルは、表面張力の値について、本願発明の条件を満足する。

3 相違点3について
(1) 引用文献3の【0064】には、液滴吐出装置のピエゾ素子の振動数を10kHz以上にしてインクジェット用組成物の液滴吐出を行うことが記載されている。液滴吐出装置のピエゾ素子の振動数を10kHz以上とすると、インクジェット用組成物の吐出間隔は100μ秒以下となるから、引用発明のインクジェット装置は、インクジェット用組成物の吐出間隔を100μ秒以下として使用することが当然想定されているものである。

(2) したがって、上記相違点3は、実質的に相違点とはならない。

(3) あるいは、引用発明のインクジェット装置において、液滴吐出装置の周波数特性を勘案した当業者が、相違点3に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項である。

4 本願発明の効果について
本件明細書の【0006】の記載からみて、本願発明の「インクジェット記録装置」は、「インクの吐出間隔を短くした場合であっても、優れた吐出安定性を実現できる」という効果を奏するものと認められる。しかしながら、前記「3」で述べたとおりであるから、本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

5 上申書について
(1) 出願人は平成30年8月6日提出の上申書において、「本願請求項1に係る発明においては、出願当初より、「20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物を含有し、」という規定はありました。しかし、本願請求項1に係る発明は、「インク組成物が、20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物を含むこと」に意味があるのではなく、本願明細書の段落[0032]、[0033]に記載のように、「卑金属顔料を、シート状基材から剥離、破砕する際に、20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物中で行うこと」に意味があります。」及び「本願請求項1に係る発明は、かかる特徴を有することにより、母粒子の特性を維持しつつ、より細かく粉砕することができる、つまり、卑金属粒子の平均粒子径をさらに小さくすることができるという効果を奏します。」と主張する。

(2) しかしながら、本願発明の請求項1には、「20℃における表面張力が35mN/m以上である・・・(省略)・・・有機化合物・・・(省略)・・・を含有し」と記載されており、「卑金属顔料を、シート状基材から剥離、破砕する」ことについては記載されていない。また、本件明細書の【0078】には、「卑金属顔料インク組成物に含まれる特定表面張力の有機化合物は、上述した顔料分散液に含まれていた非水系溶媒に由来するものや、卑金属顔料インク組成物の調製にあたって新たに添加されたものである。」と記載され、本件明細書の【0177】【表3】に記載のとおり、本件実施例においても、20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物が、溶剤として卑金属顔料インク組成物の調整にあたって新たに添加されている。そうしてみると、本願発明の請求項1の「20℃における表面張力が35mN/m以上である・・・(省略)・・・有機化合物・・・(省略)・・・を含有し」なる記載を「卑金属顔料を、シート状基材から剥離、破砕する際に、20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物中で行うこと」を意味すると解釈することはできない。

(3) 請求人はまた、請求項1を以下のとおり補正する用意があると述べている。

(4) 「3.補正案
[請求項1]
卑金属顔料インク組成物と、該卑金属顔料インク組成物を吐出する第1ノズルと、を有するインクジェット記録装置であって、
前記卑金属顔料インク組成物は、50%平均粒子径D50が100nm以上1μm以下であって平板状であるアルミニウム顔料と、20℃における表面張力が35mN/m以上であるジオキサン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドンおよびアクリロイルモルホリンから選ばれる1種以上の有機化合物と、20℃における表面張力が35mN/m未満であるアルキレングリコールエーテルと、を含有し、
前記アルミニウム顔料は、シート状基材に卑金属膜として形成し、前記20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物中において、前記シート状基材より剥離、粉砕を行って作成したものであり、
前記第1ノズルから前記卑金属顔料インク組成物を吐出して、該第1ノズルから前記卑金属顔料インク組成物を再度吐出するまでの吐出間隔T1が、100μ秒以内である、インクジェット記録装置。」

(5) しかしながら、補正案の請求項1に係る発明のアルミニウム顔料は、たとえ「シート状基材に卑金属膜として形成し、前記20℃における表面張力が35mN/m以上である有機化合物中において、前記シート状基材より剥離、粉砕を行って作成したものであり」という製造工程により製造されてなるものであるとしても、その50%平均粒子径D50の上限値は、1μmであるから、「より細かく粉砕することができ」た、あるいは「卑金属粒子の平均粒子径をさらに小さくすることができ」たものとは認められない。そして、物としてのアルミニウム顔料の構成においては、前記「2」で述べたとおりの引用発明の「金属粉末」、あるいは前記「2」で述べたとおり容易推考してなる「金属粉末」と、物として相違するところがない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-18 
結審通知日 2019-04-24 
審決日 2019-05-09 
出願番号 特願2014-94416(P2014-94416)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 113- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 祐介福田 由紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 布施 行夫  

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