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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1353066
審判番号 不服2017-11115  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-26 
確定日 2019-07-03 
事件の表示 特願2015-252179「予約サイズを有する取引注文を中継する電子取引システムでトレーダーリストを用いるシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開、特開2016- 76263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年7月28日(パリ条約による優先権主張2005年7月29日、米国、2006年7月27日、米国)を国際出願日とする特願2008-524247号の一部を平成24年6月21日に新たな特許出願とした特願2012-140227号の出願の一部を更に平成27年12月24日に新たな特許出願としたものであって、平成29年1月20日付けで拒絶理由が通知され、これに応答して平成29年4月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものの、平成29年5月9日付けで拒絶の査定がなされ、送達された。
その後、平成29年7月26日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出されたので、当審において審理を行い、平成30年6月5日付で、平成29年7月26日提出の手続補正書による補正を却下する決定を行うとともに改めて拒絶理由を通知したところ、これに応答して、平成30年9月10日に意見書及び手続補正書が提出された。

2 本願発明
本願発明は、平成30年9月10日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載の、次のとおりのものである。(項番は、当審において付与した。)

A 第1トレーダーに関連するトレーダーリストであって、該トレーダーリ ストは一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定する、トレーダーリスト を記憶し;
B 特定の取引注文を受信し;
C 前記受信した特定の取引注文が前記トレーダーリストにより指定された トレーダーにより提示されたことを判定し;及び
D 前記受信した特定の取引注文が前記トレーダーリストにより指定された トレーダーにより提示されたことを判定する動作に応答して、前記第1ト レーダーに関連付けられた表示装置において、前記トレーダーリストによ り指定されたトレーダーからの前記特定の取引注文についての情報を表示 させないようにする一方、前記トレーダーリストにより指定されていない 複数のトレーダーからの対応する複数の前記特定の取引注文についての対 応する情報の表示を表示させる;
E よう、少なくとも1つのプロセッサにより実行されるときに、該少なく とも1つのプロセッサに指示する指令を記憶している前記少なくとも1つ のプロセッサに通信可能に結合された少なくとも1つのメモリ;
を有する装置。

3 当審より通知した拒絶理由の概要
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等
1.特開2003-58733号公報
2.国際公開第2005/004015号
(特表2006-527872号公報参照、周知例)

4 引用文献と引用発明
(1)引用文献1
当審より通知した拒絶理由において引用した引用文献1(特開2003-58733号公報)は、本願の優先日前である2003年2月28日に出願公開がされた特許公報であり、以下の事項が記載されている。


「【0025】システムの構成
図1に概略的に示すように、本発明の一実施例としての取引支援システムは、本取引支援システムの主要部をなす取引処理コンピュータ10を備えており、この取引処理コンピュータ10は、複数の発注者に設置された複数の端末30と、公衆回線、専用回線等のネットワーク1を介して接続可能に構成されている。
【0026】この取引処理コンピュータ10は、図2に略示されるように、付け合せ手段11と、表示データ生成手段12と、取引情報調整手段13と、メモリ手段14と、通信手段15との機能を実現しうるものであり、また、データベース40と連携するものである。この実施例では、データベース40は、取引情報記憶手段41と、調整情報記憶手段42と、取引当事者マスタ43とを構成している。
【0027】なお、この実施例では、通信手段15は、取引処理コンピュータ10の一つの機能にて実現しているものであるが、本発明は、これに限らない。例えば、通信手段15としては、一般的に知られているような通信モデムを別に使用してもよいし、インターネットのようなオープンネットワークに接続する場合には、モデム等の通信装置に加えて、ネットワーク接続用のサーバを経由し、よりセキュリティーを高めることも考えられる。図1では、有線による接続のように見えるが、無線方式による通信も可能であり、通信方式に応じて通信モデム等の通信機器を変更すれば良い。
【0028】また、図2では、取引情報記憶手段41および調整情報記憶手段42をデータベース40として取引処理コンピュータ10とは分離しているが、これは取引処理コンピュータ10に内蔵される記憶装置であってもかまわない。これら記憶手段は、基本的には、取引処理コンピュータ10の主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスク等)、通信装置に対する取引情報調整プログラムによる制御によって実現されうるものである。なお、必要に応じて、取引情報のように複数の構成要素をもった定型的なデータが大量にリアルタイムで処理される場合には、既知の技術であるデータベースシステムを組み合わせてもよい。
【0029】システムの各部の構成、機能および動作並び全体操作および動作
以下に、前述したような構成を有する取引支援システムの各部の構成、機能および動作並びに全体操作および動作について順をおって説明する。
(1)取引(注文)情報記憶手段41
この取引情報記憶手段41は、複数の発注者に設置された複数の端末からネットワークを介して送信されてくる注文に関する情報(以下、注文データという)を記憶する手段である。通常は、ハードディスク装置により構成され、注文データの入出力は、ソフトウェアにより制御されている。好適には、データベースソフトウェア等により管理されており、容易に検索等が行えるように構成されていることが望ましい。個々の注文データは、一つのレコードとして管理されており、識別情報により特定可能に構成されている。
(2)調整情報記憶手段42
この調整情報記憶手段42は、本取引支援システムを利用する発注者ごとに、取引相手に対する取引調整に関する情報を記憶する手段である。この取引調整に関する情報は、特定の取引相手に付随する情報と、不特定の取引相手に対する情報が含まれる。識別情報により発注者と関連付けられており、発注者が取引支援システムを使用する際に、自己の端末から、当該取引調整に関する情報を設定可能に構成されている。取引調整に関する情報は、例えば、取引相手指定情報、取引限度額情報、調整範囲情報が考えられるが、これらに限定されない。ただし、少なくとも、取引相手に対し、取引条件を変更するための情報である、調整範囲情報は含まれる。
(3)付け合せ手段11
この付け合せ手段11は、後述すようなセルデータの付け合せ機能を果たすもので、付け合せのルールは、後述の10-2項以降に記載の個々の付け合せ条件として記載されている。
(4)表示データ生成手段12
この表示データ生成手段12は、各端末に送信するためのデータを生成する機能を果たすもので、データ生成時に、取引調整情報および所定の条件により調整を行なう。
(5)取引情報調整手段13
この取引情報調整手段13は、取引情報記憶手段41の注文データおよび調整情報記憶手段42の調整情報に基づき、調整された注文データを生成する手段である。後述の実施例では、調整セルデータの生成のみに機能を限定しており、したがって、付け合せ時や、表示データ生成時の調整は、それぞれの手段で行なわれることを前提としている。
(6)メモリ手段14
本取引支援システムは、後述するように、注文データに基づき、セルデータを生成する。同様に、前記取引情報調整手段により調整された注文データもセルデータとして生成される。メモリ手段14は、これらのセルデータをメモリ空間上に生成するものであり、実際の付け合わせ処理や発注者の端末に送信する表示情報の生成は、これらのセルデータを用いて行なわれる。
(7)取引支援システムの前提
本取引支援システムは、複数の発注者から入力される注文データを取引処理コンピュータ10の実現機能である付け合せ手段11において付け合せを行い、取引条件が合致したものについては、当該注文データに基づき取引を執行するという、取引操作が前提となっている。」


「【0040】(8)取引データの開示の方法
取引処理コンピュータ10は、表示データ生成手段12の機能により、端末30に表示させる取引データを生成する。生成された取引データは、通信回線を介して端末30に送信され、端末30の表示装置に表示される。図3は、金融コール取引を例にした場合の端末における画面表示例である。図3の画面には、注文データの種類に応じて、「売り」の注文データが「売り手」の部分に、「買い」の注文データが「買い手」の部分にそれぞれ表示されるように構成されている。
【0041】取引処理コンピュータ10が端末30に送信する取引データを生成するにあたり、取引情報記憶手段41の注文データを参照することが考えられるが、本実施例においては、直接に注文データを参照するのではなく、注文データに基づき生成された「セルデータ」を参照するように構成されている。
【0042】このセルデータは、注文データおよび調整情報に基づき、取引情報記憶手段41ではなく、取引処理コンピュータ10のメモリ手段14に生成される。一つの注文データに対し、一つまたは複数のセルデータが生成され、注文データと関連付けられて管理されている。
【0043】端末30に送信される取引データは、このセルデータに基づき生成され、図3のように「板」と呼ばれる表状の形式で表示される。この「板」は複数のセルデータの集合である。
【0044】図3の画面は、調整が行なわれていない標準的な「板」の例である。本発明においては、各発注者は、取引相手に対して取引可否の設定が可能であるばかりでなく、取引を行なう場合の取引相手に応じた条件設定が可能であるため、調整情報に基づき調整が行なわれた取引データの各発注者端末30での表示は異なることとなる。
【0045】例えば、発注者Aが、取引相手B、C、Dに対してそれぞれ異なる取引条件となるよう調整を行なった場合には、取引相手B、C、Dの各端末30においては、それぞれ異なった内容の取引データが表示されることとなる。もっとも、調整内容が同じ場合は、同じ表示内容となる可能性はある。
【0046】(9)調整情報の入力
発注者は、端末30から取引相手に関する調整情報を入力する。入力された調整情報は、ネットワーク1を介して取引処理コンピュータ10に伝達され、取引処理コンピュータ10は、端末30から送信されてきた当該調整情報を、当該送信してきた発注者に関連付けて、調整情報記憶手段42に記録する。この調整情報の入力は、取引を開始するときに行ってもよいし、取引途中に行ってもよい。例えば、当日の取引を開始するときに入力することが望ましい。
【0047】調整情報は、例えば次のような情報が含まれる。
9-1.取引相手指定情報
発注者が取引を行う相手を指定する情報である。例えば、信頼のおける取引相手とのみ取引を行いたい場合には、継続的に取引を行っている取引相手を指定することが有効である。取引相手の指定は、例えば、取引支援システムによる取引に参加する全ての発注者の一覧が表示され、当該一覧の中から、選択することで行うことができるようにすることが望ましい。ここで選択された取引相手に関する情報は、調整情報記憶手段42には、取引支援システムにおいて当該取引相手を一義に識別可能に関連付けられている識別情報として記録することが望ましい。
9-2.取引限度枠情報
発注者は、取引相手となり得る参加者に対して、各種の取引限度枠を設定可能である。例えば、取引金額の総量であったり、単位期間あたりの取引金額であったり、1回あたりの取引金額などが考えられるが、これらに限られない。これらの取引限度枠は、それぞれ単独でも、複合的にも設定可能である。
9-3.取引相手排除情報
不特定の取引相手に対し、特定の条件を指定することで、取引相手から積極的に除外するための情報である。例えば、自己との過去の取引回数、市場における事故の有無や回数、自己との過去における取引金額実績などが考えられる。
・・・」


「【0062】以下に、調整方法別に調整の詳細について説明する
10-2.取引相手指定情報による調整
付け合せ段階:付け合せ手段11は、セルデータの発注者識別情報を取得すると、当該識別情報と関連付けられている調整情報記憶手段42中から、取引相手指定情報を取得する。そして、付け合せ手段11は、当該取得した取引相手指定情報に基づき、相対するセルデータを付け合せ対象とするか否かの判定処理を行う。
【0063】基本的には、取引相手指定情報は、取引を行う取引相手の識別情報であるので、相対するセルデータ中の発注者の識別情報との比較を行い、一致したセルデータとのみ付け合せを行うという制御が行われる。
【0064】本実施例においては、オリジナルのセルデータについて、取引相手指定情報による調整を行い、続いて調整セルデータがある場合には、調整セルデータについて、取引相手指定情報による調整を行うようにしている。
【0065】表示データ生成段階:セルデータは、当該セルデータの元となる注文データを入力した発注者の識別情報を含んでいる。従って、表示データ生成手段12は、調整情報記憶手段42における発注者Aの指定した調整情報のうち、取引相手指定情報として指定された取引先の識別情報を検出する。そして、表示データ生成手段12は、検出された識別情報と、他のセルデータにおける発注者の識別情報の比較を行い、一致した場合は、当該セルデータを表示するように制御を行なう。
10-3.取引限度枠情報による調整
付け合せ段階:発注者Aが、「レート0.85で15の売り」の注文データを入力した場合で、当該Aの取引限度枠情報は、「発注者Bに対しては取引総量「10」を限度とする」というものであったとする。一方、取引相手Bは「レート0.85で15」という注文データを入力しており、調整情報としては、「取引相手Aに対しては取引総量5を限度とする」というものであったとする。
【0066】セルデータとしては、図9に例示するようにそれぞれオリジナルのセルデータ、調整セルデータが生成される。先にBのセルデータが存在し、Aが注文データの入力を行った場合であるので、Aのセルデータについて付け合せが行なわれる。オリジナルのセルデータについて付け合せを行うが、Bに対する調整が行なわれているので、Bのオリジナルのセルデータとの付け合せは行なわれない。次にBの調整セルデータとの付け合せが行われるが、A側にBに対する調整セルデータがあるため、付け合せは行われない。
【0067】続いてAの調整セルデータとBの調整セルデータが付け合せされ、ここでは、BのAに対する調整セルデータに取引限度額「5」が指定されているので、当該部分についてのみ約定が成立する。
【0068】なお、上記セルデータの付け合せ順序は、本実施例における一例であり、調整セルデータが存在する場合には、所定のルールにより余分な付け合わせ処理を行わないように制御する変形例も考えられる。
【0069】付け合せの結果、部分的に約定が成立したので、セルデータは、図10のように修正される。ここでは、BのAに対する取引限度額が「0」になってしまったので、付け合せは行なわれない。
表示データ生成段階:例えば、上記の例に加えて、C,D,Eについても、それぞれAに対する取引限度額が調整情報として設定されてあったとする。メモリ手段13上には、セルデータが図11に例示するように生成される。この状態において、Aに対する表示データは、図12のようになる。
【0070】「A-C」等の当事者情報は表示されない。上記では、「A-B」間においては、取引限度額の調整により、付け合せは行なわれないため、「A-B 0.85 0 A」の情報は表示されないように制御している。また、Aの自己注文に関する調整セルデータ「A-B 0.85 5 AN」は、これ以上付け合わせが行なわれることがないため、例えば、「A-B 0.85 5(0) AN」のように表示して、調整の結果、Bに対しては取引が行なわれない旨を知らしめても良い。
【0071】10-4.取引相手除去情報による調整
付け合せ段階:付け合せ手段11は、調整情報記憶手段42における取引相手除去情報を読み込み、セルデータに関連付けられている取引相手が当該取引相手除去情報に合致しているか否かを比較する。この際、付け合せ手段11は、セルデータ中の発注者識別情報を検出すると、当該発注者に関連付けられている、取引当事者マスタ43を検索して、例えば、市場における取引事故の回数と取引相手除去情報との比較を行う。
【0072】また、取引当事者マスタ43は、過去に取引を行った取引相手の識別情報を、その回数と金額とともに記憶可能に構成されており、付け合せ手段11は、必要に応じてそれらとの比較を行う。上記比較が行われ、取引相手除去情報による除去対称でないと判定された場合には、当該セルデータは、付け合せ対象として取り扱われる。図13は、このような付け合せ手段11の動作を図式的に略示している。
表示データ生成段階:表示データ生成手段12は、調整情報記憶手段42における取引相手除去情報を読み込み、セルデータに関連付けられている取引相手が当該取引相手除去情報に合致しているか否かを比較する。この際、表示データ生成手段12は、セルデータ中の発注者識別情報を検出すると、当該発注者に関連付けられている、取引当事者マスタ43を検索して、例えば、市場における取引事故の回数と取引相手除去情報との比較を行う。また、調整情報記憶手段42は、過去に取引を行った取引相手の識別情報を、その回数と金額とともに記憶可能に構成されており、表示データ生成手段12は、必要に応じてそれらとの比較を行う。上記比較が行われ、取引相手除去情報による除去対称でないと判定された場合には、当該セルデータは、取引データとしての生成対象とする。
【0073】図14は、こうして生成されたAの端末に対する表示情報を例示している。Gは、取引事故に関する調整により、取引相手から除去されているので、表示されないように制御されている。なお、別の例としては、「0.85 10(0)A」というように、セルデータの表示を行い、実際の取引可能額が「0」であることをAに知らしめても良い。
・・・」


「【0077】・・・
(11)より具体的な約定締結例
以下に、取引市場における約定締結のためのより具体的な動作例について説明する。
【0078】A銀行:レート0.82、 OFFER9億円、B銀行:レート0.81、BID7億円、C銀行:レート0.81、BID10億円、D銀行:レート0.81、BID8億円の注文を出している状況とする。A銀行はB銀行を取引相手としない登録をし、そして、C銀行に対しては取引限度枠を6億円と登録しているとする。A銀行が見る板情報は、図16のようになる。なお、この例では、取引しない場合も取引可能額を(0)として表示するようにしている。
【0079】7(0)は、A銀行がB銀行を取引相手としない登録をしたことによる表示である。7がもとの注文金額で、括弧内のゼロが実質注文金額である。10(6)は、取引限度枠からC銀行の10億円がA銀行にとって6億円しか意味を持たないことを意味する。次に、A銀行がD銀行に対しては調整スプレッドを0.02と登録したとする。その際、D銀行が見る板情報(D銀行の取引データ)は、図17のとおりとなる。」

(2) 引用発明の認定
(1)に示した引用文献1の記載によれば、引用文献1には、 取引支援システムの主要部をなす取引処理コンピュータ10に関する、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
(なお、「取引限度額情報」と「取引限度枠情報」は、同じ内容を示すことが明らかであるから、表記を「取引限度額情報」に統一する。)

「 取引支援システムが備える取引処理コンピュータ10であって、(【0025】)
付け合せ手段11と、表示データ生成手段12と、取引情報調整手段13と、メモリ手段14と、通信手段15との機能を実現しうるものであり、取引情報記憶手段41と、調整情報記憶手段42と、取引当事者マスタ43とを構成するデータベース40と連携するものであり、(【0026】)
ここで、取引情報記憶手段41は、複数の発注者に設置された複数の端末からネットワークを介して送信されてくる注文に関する情報(以下、注文データという)を記憶する手段であり、注文データの入出力は、ソフトウェアにより制御されており、(【0029】)
調整情報記憶手段42は、本取引支援システムを利用する発注者ごとに、取引相手に対する取引調整に関する情報を記憶する手段であり、この取引調整に関する情報は、特定の取引相手に付随する情報と、不特定の取引相手に対する情報が含まれ、例えば、発注者が取引を行う相手を指定する情報である取引相手指定情報、発注者が取引相手となり得る参加者に対して設定した例えば取引金額の総量等の取引限度額である取引限度額情報、等であり、発注者が端末30から入力して取引処理コンピュータ10に伝達された取引相手に関する調整情報が当該送信してきた発注者に関連付けて記録されるものであり、(【0029】、【0046】、【0047】)
取引情報調整手段13は、取引情報記憶手段41の注文データおよび調整情報記憶手段42の調整情報に基づき、調整された注文データを生成する手段であり、(【0029】)
メモリ手段14は、注文データに基づき生成されるセルデータと取引情報調整手段により調整された注文データに基づき生成されるセルデータをメモリ空間上に生成し、実際の発注者の端末に送信する表示情報の生成は、これらのセルデータを用いて行なわれるものであり、(【0029】)
表示データ生成手段12は、各端末に送信するためのデータを生成する機能を果たし、データ生成時に、取引調整情報および所定の条件により調整を行なうものであって、表示データ生成手段12の機能により、端末30に表示させる取引データを生成し、生成された取引データが通信回線を介して端末30に送信されて端末30の表示装置に、「板」と呼ばれる表状の形式で表示されるものであり、調整情報記憶手段42における発注者Aの指定した調整情報のうち、取引相手指定情報として指定された取引先の識別情報を検出し、検出された識別情報と他のセルデータにおける発注者の識別情報の比較を行い、一致した場合に、当該セルデータを表示するように制御を行ない、その際、当事者情報は表示されず、取引限度額の調整によって付け合せが行なわれない情報は表示されないように制御しており、また、これ以上付け合わせが行なわれることがない自己注文に関する調整セルデータは「A-B 0.85 5(0) AN」のように表示して、調整の結果Bに対して取引が行なわれない旨を知らしめても良いものであり、B銀行を取引相手としない登録をしたA銀行が見る板情報において取引しない場合も取引可能額を(0)として表示し、A銀行がB銀行を取引相手としない登録をしたことにより、「7(0)」と表示する、よう制御する、(【0029】、【0040】-【0045】、【0065】、【0069】、【0070】、【0078】、【0079】)
取引処理コンピュータ10。」

5 対比
(1)項番Aについて
引用発明の「発注者」は、本願発明の「トレーダー」に相当する。
引用発明は、複数の発注者の端末から入力した取引調整に関する情報である調整情報が当該送信してきた発注者に関連付けて記録され、また、複数の発注者の端末からネットワークを介して送信されてくる注文データと調整情報に基づき調整された注文データに基づき生成されたセルデータを用いて発注者の端末に送信する表示情報を生成するものであるところ、引用発明のトレーダー(発注者)のうち、端末から調整情報を入力して送信するとともに調整情報に基づき生成される表示情報が送信される端末に対応する発注者は、本願発明の「第1トレーダー」に相当し、この「第1トレーダー」である発注者の端末は、送信された表示情報に係る表示を「第1トレーダー」に対して行う装置であるから、本願発明の項番Dでいう「第1トレーダーに関連付けられた表示装置」に相当する。

引用発明においては、複数の発注者の端末からネットワークを介して送信されてくる注文データ及び調整情報に基づき調整された注文データに基づき生成されたセルデータに基づいて「第1トレーダーに関連付けられた表示装置」に注文を表示するにあたって、第1トレーダーの他の発注者に対する取引限度額が第1トレーダーにおける取引可能額として表示されるところ、第1トレーダーが取引相手としない登録がなされた注文者の注文については、取引可能額を(0)として表示し、つまり、取引可能額が0である旨が表示され、第1トレーダーは取引可能額が0である旨が表示された相手とは取引を行わないから、その旨の表示に係る調整情報は、「一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定する、トレーダーリスト」であるとは明示されていない(相違点1)ものの、「第1トレーダーに関連して、一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定する指定情報」であって、これを記憶する点で、本願発明と共通するといえる。

(2)項番Bについて
(1)で述べたとおり、引用発明は、複数の発注者(トレーダー)の端末からネットワークを介して送信されてくる注文データと調整情報に基づき調整された注文データに基づき生成されたセルデータを用いて発注者の端末に送信する表示情報を生成するから、本願発明と同様に「特定の取引注文を受信」している。よって、この点は、一致点である。

(3)項番Cについて
(1)で述べたとおり、引用発明は、複数の発注者の端末からネットワークを介して送信されてくる注文データ及び調整情報に基づき調整された注文データに基づき生成されたセルデータに基づいて「第1トレーダーに関連付けられた表示装置」に注文を表示するにあたって、第1トレーダーが取引相手としない登録がなされた注文者の注文について取引可能額が0である旨が表示され、そのように第1トレーダーは取引可能額が0である旨が表示された相手とは取引を行わないから、本願発明と同様に、受信した特定の取引注文が(1)で述べた「第1トレーダーに関連して、一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定する指定情報」により指定されたトレーダーにより提示されたことの判定(すなわち、”受信した「取引注文」が「指定情報」により指定されたトレーダーからのものか指定されていないトレーダーからのものかの判定”)を行っている。よって、この点は、(1)で述べた相違点1を除けば、一致点である。

(4)項番Dについて
引用発明は、(3)で述べた判定により、受信した「取引注文」が「指定情報」により指定されたトレーダーからのものである場合、第1トレーダーが取引相手としない登録がなされた相手方の取引可能額が0である旨を表示しており、この点で、「前記トレーダーリストにより指定されたトレーダーからの前記特定の取引注文についての情報を表示させないようにする」本願発明と異なっている(相違点2)ものの、それ以外の場合、つまり、受信した「取引注文」が「指定情報」により指定されていないトレーダーからのものである場合には、複数の発注者(トレーダー)の端末からネットワークを介して送信されてくる注文データ又は調整された注文データに基づき生成されたセルデータを用いた表示がなされているのであるから、本願発明と同様に、「対応する複数の前記取引注文についての対応する情報の表示を表示させる」ものであるといえる。

(4)項番Eについて
引用発明の「取引処理コンピュータ」は、取引情報記憶手段の機能の一部である注文データの入出力をソフトウェアによる制御により行うものであり、他の機能もソフトウェアによる制御、つまり、プロセッサに通信可能に結合されたメモリに記憶された指令であるにより実現されていることが明らかであるから、本願発明と同様に、「少なくとも1つのプロセッサにより実行されるときに、該少なくとも1つのプロセッサに指示する指令を記憶している前記少なくとも1つのプロセッサに通信可能に結合された少なくとも1つのメモリ;を有する装置」であるといえる。
よって、この点は、上記した相違点1及び相違点2を除き、一致点である。

(5)してみると、本願発明と引用発明とは、下記の一致点で一致する。

<一致点>
A’第1トレーダーに関連して、一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定 する指定情報を記憶し;
B 特定の取引注文を受信し;
C’前記受信した特定の取引注文が前記指定情報により指定されたトレーダ ーにより提示されたことを判定し;及び
D’前記受信した特定の取引注文が前記指定情報により指定されたトレーダ ーにより提示されたことを判定する動作に応答して、前記第1トレーダー に関連付けられた表示装置において、前記指定情報により指定されていな い複数のトレーダーからの対応する複数の前記特定の取引注文についての 対応する情報の表示を表示させる;
E よう、少なくとも1つのプロセッサにより実行されるときに、該少なく とも1つのプロセッサに指示する指令を記憶している前記少なくとも1つ のプロセッサに通信可能に結合された少なくとも1つのメモリ;
を有する装置。

(6)そして、両者は、下記の相違点で相違する。
<相違点>
(相違点1)
第1トレーダーに関連して、一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定する指定情報が、本願発明では、「トレーダーリスト」であるのに対し、引用発明では、第1トレーダーが取引相手としない登録がなされた注文者の注文である旨の表示に係る調整情報であって、これがトレーダーリストであるか否かが明示されていない点。

(相違点2)
第1トレーダーに関連付けられた表示装置への指定されたトレーダーからの特定の取引注文についての情報の表示について、本願発明では、「表示させないようにする」のに対し、引用発明では、取引可能額が0である旨が表示される点。

6 相違点の判断
(1)相違点1について
引用発明は、「取引相手としない登録」がなされたトレーダーに係る注文について取引可能額が0である旨を第1トレーダーに表示するところ、引用発明の「取引限度額情報」は、発注者が取引相手を指定する情報である取引相手指定情報と同様に「特定の取引相手に付随する情報」である「調整情報」であって、取引相手となり得る複数のトレーダーにつきそのトレーダーを識別する情報毎に取引限度額が示されるものであるから、そこに示された取引限度額に従って取引相手となり得るトレーダーを分類し又はソートする等して取引限度額が0であるとされたトレーダーを抽出して、注文について取引可能額が0である旨が第1トレーダーに表示されるトレーダーのリストとすることが可能な情報であるといえる。
そして、引用発明の、取引相手を指定する「調整情報(特定の取引相手に付随する情報)」である「取引相手指定情報」そのものは、「取引相手としない登録」の登録先となり得ないから、「取引相手としない登録」を行って受信した取引注文の取引可能額が0である旨を第1トレーダーに表示するためには、取引相手指定情報でない、「取引相手としない登録」の登録先となる「調整情報(特定の取引相手に付随する情報)」が必要となる。
してみると、引用発明における、注文についての取引可能額が0である旨の表示に係る「取引相手としない登録」の登録先となる「調整情報(特定の取引相手に付随する情報)」として上述した「取引限度額情報」に示された取引限度額に従って抽出されたトレーダーのリストを用いて、第1トレーダーに関連して一人又はそれ以上の他のトレーダーを指定する指定情報を「トレーダーリスト」とすることは、引用文献1の記載に基づいて当業者が適宜なし得ることである。

(2)相違点2について
引用文献1の「上記では、「A-B」間においては、取引限度額の調整により、付け合せは行なわれないため、「A-B 0.85 0 A」の情報は表示されないように制御している。また、Aの自己注文に関する調整セルデータ「A-B 0.85 5 AN」は、これ以上付け合わせが行なわれることがないため、例えば、「A-B 0.85 5(0) AN」のように表示して、調整の結果、Bに対しては取引が行なわれない旨を知らしめても良い。 」(【0070】)、「Gは、取引事故に関する調整により、取引相手から除去されているので、表示されないように制御されている。なお、別の例としては、「0.85 10(0)A」というように、セルデータの表示を行い、実際の取引可能額が「0」であることをAに知らしめても良い。」(【0073】)との記載に示されているように、引用文献1では、取引注文について取引可能額が0である旨を表示することと取引注文を表示させないこととは、その相手方との取引ないし付け合わせを行わない旨を示すための技術として互いに代替可能なものとされている。
このことに照らせば、引用発明において、第1トレーダーに関連付けられた表示装置への指定されたトレーダーからの特定の取引注文を取引可能額が0である旨を表示する代わりに取引注文を表示させないようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)効果、総合判断
相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成の採用による効果も、引用文献1の記載内容から予測できないような格別なものでない。
してみると、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-01 
結審通知日 2019-02-05 
審決日 2019-02-19 
出願番号 特願2015-252179(P2015-252179)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田付 徳雄  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 相崎 裕恒
石川 正二
発明の名称 予約サイズを有する取引注文を中継する電子取引システムでトレーダーリストを用いるシステム及び方法  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  

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