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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10L
管理番号 1353149
異議申立番号 異議2018-700688  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-17 
確定日 2019-05-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6283726号発明「混合燃料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6283726号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6283726号の請求項1、2に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯等

特許第6283726号の請求項1、2に係る特許(以下、請求項1、2に係る各特許を「本件特許1」、「本件特許2」といい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成24年8月23日に出願された特願2012-184556号の一部を、平成28年9月9日に新たな特許出願としたものであって、平成30年2月2日にその特許権の設定登録がされ、同年2月21日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許1、2に対して、同年8月17日に特許異議申立人である畑山千里により特許異議の申立てがなされ、同年11月21日付けで当審より取消理由が通知され、平成31年1月28日に特許権者より意見書及び訂正請求書(当該訂正請求によってなされた訂正を以下「本件訂正」という。)が提出されたものである。
なお、本件訂正に対して特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが応答はなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容(訂正事項1)
本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1、2について訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項1)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「バイオマス」(4箇所)と記載されているのを、「木質系バイオマス」に訂正する(請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正をする。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0023】の「これらのバイオマスの中でも、間伐材、剪定枝、廃材、樹皮チップ、その他の木材等の木質系バイオマスが好ましく」との記載に基づいて、バイオマスの種類を、木質系バイオマスに限定するものである。
したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであるといえ、また、同法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。そして、当該訂正事項1は、上記のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものと認められる。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1、2について訂正を求めるものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、請求項1、2に記載された事項により特定される各発明を「本件発明1」、「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
焙焼された木質系バイオマスの成型物と石炭とを混合する工程、及び
混合された上記成型物と石炭とを粉砕する工程を有し、
上記混合工程より前に、水分量0.01質量%以上5質量%以下の上記木質系バイオマスを成型し、上記成型物を得る工程をさらに有し、
上記成型物の密度が、0.7g/cm^(3)以上1.0g/cm^(3)であり、
上記混合工程より前に、上記木質系バイオマスを焙焼する工程をさらに有し、
上記成型工程において、上記焙焼された木質系バイオマスにバインダーを添加して、50℃以上200℃以下に加熱して押出成型機を用いて成型する混合燃料の製造方法。
【請求項2】
上記焙焼をロータリーキルンにより行う請求項1に記載の混合燃料の製造方法。」(なお、請求項1に記載された「密度が0.7g/cm^(3)以上1.0g/cm^(3)」は、「密度が0.7g/cm^(3)以上1.0g/cm^(3)以下」という意味と解される。)

第4 平成30年11月21日付けで通知した取消理由についての判断

1 標記取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した標記取消理由の要旨は、次のとおりである。
(サポート要件)特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するため、取り消すべきものである。

2 取消理由(サポート要件)について
上記取消理由に記載したサポート要件違反の理由は、要するに、本件訂正前の特許請求の範囲に記載されたバイオマスは、その種類を特定するものではなく、例えば、「汚泥」等も包含するものであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、バイオマスの種類を特定しない本件発明全般にわたって(特に、リグニンやヘミセルロースを含有しないことが明らかな、「木質系バイオマス」以外のもの、について)、本件発明の課題、すなわち、「焙焼されたバイオマスを用い安定的な燃焼を行うことができる混合燃料の製造方法の提供」という課題を解決することができるとは認識できないから、バイオマスの種類が「汚泥」等である場合にまで本件発明を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しない、というものである。
しかしながら、本件訂正により、特許請求の範囲に記載された「バイオマス」は「木質系バイオマス」に特定され、「汚泥」等は本件発明の範囲から除外されたので、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者において、上記課題が解決できると認識できる範囲内のものとなったと認められるから、本件特許に、当該取消理由は存しない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断

1 特許異議申立理由の概要
上記第4で検討した取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、サポート要件(上記取消理由とは異なる点について指摘するもの)、明確性要件及び進歩性に関するものであり、具体的には次のとおりである。
(1) サポート要件及び明確性要件に関するもの
本件特許請求の範囲の記載は、下記の点(上記取消理由と同旨のものは除く)で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合しないから、本件特許は、同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア サポート要件について
本件発明は、成型温度について、「50℃以上200℃以下」と広範に特定するものであり、また、バインダーの種類、混合工程における成形物と石炭の混合比についても何ら特定するものではないから、出願時の技術常識に照らしても、これらの点について、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
明確性要件について
本件発明が規定する密度がどのような密度であるのか(密度の種類)が不明であるため、本件発明は不明確である。
(2) 進歩性に関するもの
本件発明は、下記の証拠に照らすと、特許法第29条第2項の規定(進歩性)により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同条の規定に違反してされたものである。
<証拠一覧>
特許異議申立人が提出した証拠は、次のとおりである(以下、甲第1号証などを「甲1」などと略して表記する。)。
・甲1:欧州特許出願公開第1990399号明細書 (主引例)
・甲2:国際公開第2011/062488号
・甲3:国際公開第2012/074374号
・甲4:国際公開第2011/135305号
・甲5:特表2009-540097号公報
なお、甲1?4については、部分翻訳が提出されている。

2 サポート要件及び明確性要件についての検討
(1) サポート要件について
ア まず、本件発明の課題についてみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【背景技術】について、「得られた燃料を用い、より高熱量かつ安定的な燃焼を行うため、焙焼された木材と石炭とを混合し、粉砕したものを燃焼させることが行われている。しかし、焙焼された木材と石炭とは、サイズ、密度、硬さなどが大きく異なるため、均一に混合及び粉砕することが困難である。従って、上記技術において得られる燃料も安定的な燃焼といった点からは不十分である。」(【0004】)と記載され、これを踏まえ、【発明が解決しようとする課題】について、「本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、焙焼されたバイオマスを用い安定的な燃焼を行うことができる混合燃料の製造方法、及びこの製造に用いられる成型物を提供することを目的とする。」(【0006】)と記載されている。
そうすると、本件発明は、従来、焙焼された木材と石炭とを混合し、粉砕したものを、燃料として燃焼させることが行われていたものの、焙焼された木材と石炭とは、サイズ、密度、硬さなどが大きく異なるため、均一に混合及び粉砕することが困難であったため、得られる燃料も安定的な燃焼といった点からは不十分であったことに鑑みてなされたものであり、焙焼されたバイオマスを用い安定的な燃焼を行うことができる混合燃料の製造方法を提供することを目的とするものであることが分かる。
イ また、当該発明の詳細な説明には、「従来、焙焼されたバイオマスは、通常のバイオマス(木材等)と比して柔らかいため、単に石炭と混合して粉砕することで、容易にこれらの粉砕が生じると考えられていた。しかし、密度や硬度が大きく異なる二種類を混ぜると、どちらか一方のみ(通常硬度が高いほう)の粉砕が優先的に生じ、もう一方の粉砕が十分に進行しないことが確認された。そこで、二種類の密度や硬度が近づくようバイオマスを成型物とすることで、粉砕手段等は変化させなくとも、均一な粉砕が可能となることを見出した。」(【0021】)と記載されていることから、均一な粉砕を可能とし、もって上記本件発明の課題を解決するためには、「二種類の密度や硬度が近づくようバイオマスを成型物とすること」が重要であることを理解することができる。
ウ さらに、成型温度、バインダーの種類及び混合工程における成形物と石炭の混合比について、当該発明の詳細な説明には、次のように説明されている。
・(成型温度について)
「【0033】
押出成型機を用いて成型を行う際、通常、加熱しながら行うが、この加熱温度としては50℃以上200℃以下が好ましく、80℃以上150℃以下がより好ましい。焙焼されたバイオマスには、リグニンやヘミセルロースが残存する。リグニンの軟化点は約150℃、ヘミセルロースの軟化点は約180℃とされている。そのため、例えば200℃を超える高温での成型は、これらの物質が一旦軟化し、再度硬化することでバインダーとして成型物の強度を高めてしまうため、粉砕工程における均一かつ微細な粉砕が困難となる。そこで、このように200℃以下、より好ましくは150℃以下で成型することで、比較的密度が高くかつ脆い状態の成型物を得ることができ、粉砕工程において容易に石炭と共に粉砕することができる。また、所定温度以上に加熱して成型することで、バイオマス中の水分が成型の際に蒸発し、得られる成型物の多孔質性を高め、結果として粉砕性を高めることができる。」
・(バインダーの種類について)
「【0032】
この成型工程(b)においては、バイオマスに対してバインダーを添加して行うことが好ましい。バインダーを添加することで、成型性が高まると共に、得られる成型物の密度や強度が良好な状態となり、粉砕性をより高めることができる。上記バインダーとしては、特に限定されないが、澱粉やリグニン等を用いることができる。このようなバインダーを用いることで、上記効果をより高めることができる。さらに、リグニンを用いた場合は製紙産業における資源の有効利用をより効果的に図ることができる。上記バインダーの添加量としては、特に制限されないが、バイオマス100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。添加量が上記下限未満の場合は、バインダーを添加した効果が十分に発揮されない場合がある。逆に、添加量が上記上限を超えると、得られる混合燃料の発熱量が低下するおそれなどがある。」
・(混合工程における成形物と石炭の混合比について)
「【0040】
この混合工程における成型物と石炭との混合比としては、特に制限されないが、質量基準で、5:95以上50:50以下が好ましく、10:90以上40:60以下がより好ましい。成型物の混合比が上記下限未満の場合は、バイオマスの有効利用を十分に図ることができない。一方、成型物の混合比が上記上限を超える場合は、発熱量の安定性に支障をきたす場合がある。」
エ 上記ウの記載事項からみて、成型温度、バインダーの種類、混合工程における成形物と石炭の混合比といった諸因子は、確かに、得られる成型物の密度や強度に影響を与える因子であり、粉砕性の良し悪しを左右するものであるということができるが、上記イのとおり、当該発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、均一な粉砕を可能とし、もって上記本件発明の課題を解決するために重要となるのは、「二種類の密度や硬度が近づくようバイオマスを成型物とすること」であると理解するのであるから、これらの諸因子は、相応の条件を満たしていれば事足り、実施例における特定の条件に限定しなければ、本件発明の課題を解決することができないとまでは認識しないと考えるのが合理的である。
すなわち、当該発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「二種類の密度や硬度が近づくようバイオマスを成型物とすること」という技術的事項を具備するものであれば、上記諸因子にさほどの影響を受けることなく、本件発明の課題をおおよそ解決することができると認識すると解するのが相当である。
オ 一方、本件発明に係る混合燃料の製造方法は、成型物の密度については特定するものの、石炭の密度と成型物の密度の比(両密度の関係)について特定するものではない。しかしながら、一般に、混焼や微粉炭燃焼に用いる石炭のかさ密度は0.8g/cm^(3)程度であることに照らすと(下記参考文献1の398頁の表7、参考文献2の【0005】、参考文献3の40頁右欄4行、さらには、特許権者提出の意見書を参照した。)、本件発明は、混合燃料を構成する成型物と石炭の二種類の密度が近づくように配慮されたものであって、そのために、木質系バイオマスを成型物としたものであるということができる。
<参考文献>
1.INDUSTRIAL BIOTECHNOLOGY、VOL.5、
No.5、2011、p.384-401
2.特開2004-331928号公報
3.資源処理技術、VOL.38、No.1、1991、p.38-43
カ そうすると、本件発明(特許請求の範囲に記載された範囲)は、上記オのとおり、「二種類の密度や硬度が近づくようバイオマスを成型物とすること」という技術的事項を具備するものであるから、上記エに照らすと、当該本件発明は、上記発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲内のものということができる。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものと認められる。
(2) 明確性要件について
確かに、本件発明は、密度の種類(定義)までを特定するものではないが、一般に、燃料ペレットや石炭の密度として、かさ密度が使用されていることに照らすと(後記3(1)ア(ウ)の甲1の記載や、上記参考文献1の398頁の表7、上記参考文献2の段落0005、上記参考文献3の40頁右欄4行の記載などを参照した。)、本件発明の「密度」は、「かさ密度」のことであると解するのが合理的であるから、当該密度の種類の特定がないことをもって、本件発明が不明確であるということはできない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、サポート要件違反及び明確性要件違反を理由に、本件特許を取り消すことはできない。

3 進歩性についての検討
(1) 甲1?5の記載事項
ア 甲1(部分翻訳)には、「アブラヤシの木の空果房材料(EFB)、粒状空果房焙焼製品の処理法と発電所の補助燃料としてそのような製品の利用」(発明の名称)に関して、概略、以下の事項が記載されているといえる。
(ア) 圧縮成形された焙焼EFB(empty fruit bunch)材料を、石炭と一緒に粉砕して、パワープラントにフィードすることができること(段落0011、0029等)。
(イ) 粒子状焙焼EFBプロダクトの圧縮成形は、ペレット化及び/またはブリケット化によって行うことができること(段落0020等)。
(ウ) 粒子状焙焼EFBプロダクトが、かさ密度0.70-0.90kg/Lの圧縮成形されたペレットであり、粒子状焙焼EFBプロダクトの粒子は、直径が約0.3-0.7mm、長さが約1-2.5cmの範囲にある円筒形状を有すること(段落0008、0021)。
なお、上記「直径が約0.3-0.7mm」は「直径が約0.3-0.7cm」の誤記と解される。
(エ) 粒子状焙焼EFBプロダクトが石炭と、熱量等において非常に類似しているから、粒子状焙焼EFBプロダクトが、石炭火力パワープラントにおいて使用することに非常に適していること(段落0029)。
(オ) 木質ペレットでは、熱量と粉砕に関して問題が生じること(段落0029)。
イ 甲2(部分翻訳)には、概略、以下の事項が記載されているといえる。
(ア) 圧縮された(compressed)又は小型化された(compacted)固形燃料体、好ましくは、ペレットまたはブリケットを製造する方法において、植物由来(廃棄)材料を特定の脂肪酸及び/又はその類似体を含む加工補助組成物と混合し、当該脂肪酸及び/又はその類似体の融点又は融解範囲である40?95℃より高い温度で、ブリケット押出機または圧縮機、より好ましくはペレット化機(pe11etization)などの圧縮化または小型化すること(4頁10?23行)。
(イ) 圧縮化または小型化工程における好ましい温度範囲は80?100℃であること(5頁26?28行)。
(ウ) 樹皮などの木材を燃料ペレットの材料とすること(7頁19?25行)。
(エ) 木材として焙焼木材を用いてもよいこと(7頁26?32行、クレーム6)
(オ) 圧縮又は小型化加工補助組成物は、でんぷん系バインダーと共に使用することが好ましいこと(8頁7?9行)。
(カ) 圧縮機は、CPMタイプCL5であること(11頁25?27行)。
(キ) 圧縮物(ペレット)は、直径6mm、長さ約10?12mmであること(11頁25?27行、12頁表1)。
ウ 甲3(部分翻訳)には、概略、以下の事項が記載されているといえる。
(ア) 焙焼バイオマスを燃焼プラントなどの燃料として一緒に燃やす場合、比較的多孔質のペレットとすることが望ましいこと(3頁10?14行)。
(イ) 得られた材料は大きな石炭およびコジェネレーションプラントにおける混燃に適していること(17頁9?10行)。
(ウ) ペレットの形状が、直径が4mm以上10mm未満、高さが50mm未満であること(17頁表3)。
(エ) 低温乾燥プロセス前のバイオマスが、5-25重量%、好ましくは、5-20重量%の水分量を有していること(クレーム24)。
エ 甲4(部分翻訳)には、概略、以下の事項が記載されているといえる。
(ア) 粒状、ブリケット化した、もしくは、塊とした焙焼バイオマスを、公知のバインダーを用いて作成すること(9頁31行?10頁6行)。
(イ) 石炭と焙焼バイオマス成形物〔ブナ材CPM(登録商標)ペレット〕とを90?80%:10?20%で混合し粉砕すること(12頁20?24行)。
オ 甲5には、概略、以下の事項が記載されているといえる。
(ア) 焙焼によって固体燃料を調製する方法において、バイオマスなどの出発組成物の加熱を、回転ドラムにおいて行うこと(特許請求の範囲)
(2) 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1には、木質ペレットでは、熱量や粉砕に関して問題が生じるが、焙焼EFB圧縮成形物は、石炭と一緒に粉砕して、パワープラントの燃料にできることが記載されている(上記(1)アの摘示事項(ア)、(エ)、(オ))。
また、焙焼EFB圧縮成形物が、かさ密度0.70-0.90kg/L(g/cm^(3))のペレットであり、該成形物の粒子は、直径が約0.3-0.7cm、長さが約1-2.5cmの範囲にある円筒形状を有することも記載されている(上記(1)アの摘示事項(ウ))。ここで、この直径と長さから計算すると、当該成形物のアスペクト比は、約1.4?8.3となる。
これらのことから、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「圧縮成形された焙焼EFB(empty fruit bunch)材料を石炭と一緒に粉砕する工程を有し、
上記圧縮成形された焙焼EFB材料が、アスペクト比約1.4?8.3(直径約0.3?0.7cm、長さ約1?2.5cm)の円筒形状で、かさ密度が0.70?0.90g/cm^(3)である、
混合燃料の製造方法。」
(3) 本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、焙焼された材料からなる成型物と石炭とを混合して、混合燃料を製造する方法である点で共通するものの、次の点で相違するといえる。
・相違点1:
本件発明1は、「焙焼された木質系バイオマスの成型物」を用いるものであって、当該「焙焼された木質系バイオマスの成型物」は、「密度が0.7g/cm^(3)以上1.0g/cm^(3)」であるのに対して、甲1発明は、「圧縮成形された焙焼EFB材料」(当該「EFB材料」は、甲1の発明の名称のとおり、アブラヤシからパームオイルを採った後の空果房であり、本件特許明細書の【0023】に記載された「パームオイル残渣」に相当するものと解される。)を用いるものであるから、「かさ密度が0.70?0.90g/cm^(3)」であるのは、あくまで、当該「圧縮成形された焙焼EFB材料」であって、「焙焼された木質系バイオマスの成形物」ではない点。
・相違点2
本件発明1は、成型工程において、「焙焼された木質系バイオマスにバインダーを添加して、50℃以上200℃以下に加熱して押出成型機を用いて成型する」のに対して、甲1発明における圧縮成形の工程の詳細は不明である点。
・相違点3
本件発明1は、「混合工程より前に、水分量0.01質量%以上5質量%以下の上記バイオマスを成型し、上記成型物を得る工程をさらに有し」ているのに対して、甲1発明では、圧縮成形に供される材料の水分量は不明である点。
イ 相違点1についての検討
上記(1)イ?オの記載事項のとおり、甲2には、焙焼木材などをペレットあるいはブリケット化する際の加熱温度やバインダー、さらには、ペレット形状などについての記載があり、甲3には、焙焼バイオマスのペレットの形状などについての記載があり、甲4には、焙焼バイオマスを公知のバインダーを用いて成形すること、及び、石炭と焙焼バイオマス成形物との混合比率などについての記載があり、甲5には、焙焼によって固体燃料を調製する際に加熱を回転ドラムにおいて行うことについての記載がある。
しかしながら、甲1発明の「焙焼EFB」を、本件発明の「木質系バイオマス」に置き換える動機付けとなるような記載は見当たらず、仮に、甲1発明の「焙焼EFB」を「木質系バイオマス」に置き換えるとしても、甲1に記載されたかさ密度(0.70?0.90g/cm^(3))は、石炭の密度との関係で規定されたものではないから、甲1発明の「焙焼EFB」を「木質系バイオマス」に置き換えた場合に、その成形物の密度が、「密度が0.7g/cm^(3)以上1.0g/cm^(3)以下」という本件発明1の規定を満足するものとなるとはただちにいうことはできない。また、当該規定を満足するように調整することが容易想到の事項であるというに足りる証拠も見当たらない。
そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとは言い難い。
そして、本件発明1は、当該発明特定事項を具備することにより、上記2(1)アで整理した課題を解決し、本件特許明細書の【0017】などに記載された「安定的な燃焼を行うことができる」という所期の効果を奏するものである。
ウ 相違点2についての検討
本件特許明細書の【0033】には、押出成型機における成型温度(加熱温度)について、次の記載がある。
「【0033】
押出成型機を用いて成型を行う際、通常、加熱しながら行うが、この加熱温度としては50℃以上200℃以下が好ましく、80℃以上150℃以下がより好ましい。焙焼されたバイオマスには、リグニンやヘミセルロースが残存する。リグニンの軟化点は約150℃、ヘミセルロースの軟化点は約180℃とされている。そのため、例えば200℃を超える高温での成型は、これらの物質が一旦軟化し、再度硬化することでバインダーとして成型物の強度を高めてしまうため、粉砕工程における均一かつ微細な粉砕が困難となる。そこで、このように200℃以下、より好ましくは150℃以下で成型することで、比較的密度が高くかつ脆い状態の成型物を得ることができ、粉砕工程において容易に石炭と共に粉砕することができる。また、所定温度以上に加熱して成型することで、バイオマス中の水分が成型の際に蒸発し、得られる成型物の多孔質性を高め、結果として粉砕性を高めることができる。」
そうすると、本件発明1が、「焙焼された木質系バイオマスにバインダーを添加して、50℃以上200℃以下に加熱して押出成型機を用いて成型する」と特定した理由(意義)は、リグニンやヘミセルロースが残存する焙焼された木質系バイオマスを成型して得られた成型物が、粉砕工程において容易に石炭と共に粉砕することができるようにした点にあることが分かる。
一方、押出成型機における加熱温度については、唯一、甲2に関連する記載が認められるところ、そこには、上記(1)イ(ア)、(イ)のとおり、 ペレットまたはブリケットを製造する際のペレット化機などにおける加熱温度として、「40?95℃より高い温度」、「80?100℃」といった特定の温度範囲が示されており、当該温度範囲は、本件発明1の上記相違点2に係る加熱温度範囲(50℃以上200℃以下)と重複するものである。
しかしながら、甲2に記載されたペレットの製造方法では、上記(1)イ(ア)のとおり、特定の脂肪酸及び/又はその類似体を含む加工補助組成物の融点又は融解範囲を考慮して、上記温度範囲が決定されている上、当該ペレットを最終的に石炭と混合して粉砕することについては予定されていないから、甲2記載の上記温度範囲は、本件発明1のように、リグニンやヘミセルロースが残存する焙焼された木質系バイオマスを成型して得られた成型物が、粉砕工程において容易に石炭と共に粉砕することができるように配慮して決定されたものではないことは明らかである。
してみると、甲1発明における圧縮成形の温度範囲を、粉砕工程において容易に石炭と共に粉砕することができるようにするとの観点から、本件発明1が規定する温度範囲とすることは、当該甲2の記載(特定の脂肪酸及び/又はその類似体を含む加工補助組成物の融点又は融解範囲に基づき、石炭との混合・粉砕を予定せずに決定された、ペレット化機などにおける加熱温度に関する記載)に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る温度範囲を選択することにより、上記【0033】記載の所期効果を得ることができるものである。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、上記相違点1、2に係る本件発明1の発明特定事項を、容易想到の事項ということはできないから、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性を有するものである。
(4) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明に対して進歩性を有するものである。
(5) 小括
以上のとおりであるから、進歩性の欠如を理由に、本件特許を取り消すことはできない。

第6 結び

以上の検討のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条の規定に違反してされたものであるともいえず、同法第113条第4号又は第2号のいずれにも該当するものではないから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙焼された木質系バイオマスの成型物と石炭とを混合する工程、及び
混合された上記成型物と石炭とを粉砕する工程を有し、
上記混合工程より前に、水分量0.01質量%以上5質量%以下の上記木質系バイオマスを成型し、上記成型物を得る工程をさらに有し、
上記成型物の密度が、0.7g/cm^(3)以上1.0g/cm^(3)であり、
上記混合工程より前に、上記木質系バイオマスを焙焼する工程をさらに有し、
上記成型工程において、上記焙焼された木質系バイオマスにバインダーを添加して、50℃以上200℃以下に加熱して押出成型機を用いて成型する混合燃料の製造方法。
【請求項2】
上記焙焼をロータリーキルンにより行う請求項1に記載の混合燃料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-22 
出願番号 特願2016-176771(P2016-176771)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C10L)
P 1 651・ 537- YAA (C10L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 日比野 隆治
木村 敏康
登録日 2018-02-02 
登録番号 特許第6283726号(P6283726)
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 混合燃料の製造方法  
代理人 天野 一規  
代理人 天野 一規  

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