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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C01F
管理番号 1354046
異議申立番号 異議2018-700452  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2019-06-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6242583号発明「カルサイト型炭酸カルシウムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6242583号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、9、10〕、〔3?7〕、8について訂正することを認める。 特許第6242583号の請求項1、2、8?10に係る特許を維持する。 特許第6242583号の請求項3?7に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6242583号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成25年4月3日になされ、平成29年11月17日に特許権の設定登録がされ、同年12月6日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の全請求項(請求項1?10)に係る特許に対し、特許異議申立人 シェーファー カルク ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー(以下「異議申立人」という。)より、平成30年6月5日付けで特許異議の申立てがなされ、同年8月29日付けで特許権者に取消理由が通知され、その取消理由通知の指定期間内である同年10月3日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、その意見書及び訂正請求書に対し、同年同月15日付けで特許権者に手続補正指令書(方式)が通知され、その手続補正指令書(方式)の指定期間内である同年11月5日に特許権者より、前記意見書についての手続補正書(方式)と前記訂正請求書についての手続補正書(方式)とが差出され、訂正請求があった旨の同年11月12日付けの通知書が異議申立人に通知され、その指定期間内である、平成31年1月4日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年2月12日付けで特許権者に取消理由(決定の予告)が通知され、その取消理由(決定の予告)の通知の指定期間内である同年3月20日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出されたものである。

なお、平成31年3月20日付けの訂正請求書による訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成30年11月5日差出しの手続補正書(方式)により補正された平成30年10月3日付けの訂正請求書による訂正請求は、取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否についての判断
平成31年3月20日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)に記載された請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものであり、訂正の適否につき、以下のとおり判断する。

1. 訂正請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める。

2.訂正の内容(当審注:訂正箇所には下線を付した。)
(1) 一群の請求項1、2、9、10に係る訂正
ア. 訂正事項1
請求項1に、「カルサイト型炭酸カルシウムであって、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有し、
前記略球状の平均粒径が5μm?40μmである、カルサイト型炭酸カルシウム。」とあるのを、
「カルサイト型炭酸カルシウムであって、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有し、
前記略球状の平均粒径が5μm?40μmである、カルサイト型炭酸カルシウム(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。) 。」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2、9、10も訂正する。

(2) 一群の請求項3?7に係る訂正
ア. 訂正事項2-1
請求項3を削除する。

イ. 訂正事項2-2
請求項4を削除する。

ウ. 訂正事項2-3
請求項5を削除する。

エ. 訂正事項2-4
請求項6を削除する。

オ. 訂正事項2-5
請求項7を削除する。

(3) 請求項8に係る訂正
ア. 訂正事項3
請求項8に「水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、
前記炭酸化工程での工程管理温度が、18℃?65℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、20℃?55℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、20℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、炭酸化率が1?5%までの反応速度が2mol%/min以下であり、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol/min以下であって、
前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から1.5重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含み、」とあるのを、
「 水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、
前記炭酸化工程での工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、25℃?55℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、炭酸化率が1?5%までの反応速度が2mol%/min以下であり、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol%/min以下であって、
前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から0.3重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含み、」に訂正する。


3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求
の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明から、「前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く」ものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2-1?2-5
訂正事項2-1?2-5は、請求項3?7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項8における「炭酸化工程において、炭酸化率が1?5%までの反応速度が2mol%/min以下であり、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol/min以下であって、」との記載のうちの「1.1mol/min以下であ」るを、「1.1mol%/min以下であ」るに訂正するという訂正事項3-1と、
訂正前の請求項8における「水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、前記炭酸化工程での工程管理温度が、18℃?65℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、20℃?55℃であって、 前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、20℃?60℃であって、」「前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から1.5重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含」むとの発明特定事項を備える、「複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法」に係る発明であったのを、
「水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、前記炭酸化工程での工程管理温度が、25℃?60℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、25℃?55℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60℃であって、」「前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から0.3重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含」むとの発明特定事項を備える、「複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法」に係る発明に訂正するという訂正事項3-2とからなっていると認められる。
そして、訂正事項3-1は、訂正前の請求項8における「1.1mol/min以下であ」るが、「1.1mol%/min以下であ」るの明らかな誤記であるところ、その誤記を正すものであるから、誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項3-2は、訂正前の請求項8に記載されていた、「18℃?65℃」という炭酸化工程での工程管理温度と、「20℃?55℃」という前記炭酸化工程で水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満での工程管理温度と、「20℃?60℃」という前記炭酸化工程で水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上での工程管理温度と、「0.03重量%から1.5重量%」という前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が所定の含有量範囲になるように、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を1回以上添加する工程での前記所定の含有量範囲を、「複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法」の具体例である、実施例1、3、4、7?17、20の記載に基づいて、それぞれ、「25℃?60℃」、「25℃?55℃」、「25℃?60℃」、「0.03重量%から0.3重量%」の範囲に減縮するという訂正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2、9、10は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1、2、9、10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるところ、訂正事項1は、その一群の請求項に対してされたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合する。
また、本件訂正前の請求項4?7は、請求項3を引用するものであるから、訂正前の請求項3?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるところ、訂正事項2-1?2-5は、その一群の請求項に対してされたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合する。
なお、本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件の規定の適用はない。

(5) 補足
異議申立人は、上記訂正事項1について、平成31年1月4日付けの意見書において、出願当初の明細書等には、カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含まないこと、カルサイト型炭酸カルシウムの平均粒径としての30μmという値、カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上ということは、記載も示唆もされていないので、当該訂正事項は新規事項を追加するものである旨主張している。
しかしながら、訂正事項が、新規事項の追加に該当するか否かは、その訂正事項によって、特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項が追加されるか否かによって判断されるところ、上記(1)に示したとおり、上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明から、「前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く」ものであり、そもそも、技術的事項を追加する訂正事項ではないため、新規事項を追加する訂正事項とはなり得ないものである。
よって、異議申立人の前記主張は採用できない。

4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2、9、10〕、〔3?7〕、8について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明
上記第2のとおり訂正を認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、8?10に係る発明(それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、「本件訂正発明8」?「本件訂正発明10」ということがあり、これらをまとめて、「本件訂正発明」ということがある。)は、平成31年3月20日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
カルサイト型炭酸カルシウムであって、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有し、
前記略球状の平均粒径が5μm?40μmである、カルサイト型炭酸カルシウム(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。)。
【請求項2】
前記複数の結晶のそれぞれは、針状を有する、請求項1記載のカルサイト型炭酸カルシウム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、
前記炭酸化工程での工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、25℃?55℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、炭酸化率が1?5%までの反応速度が2mol%/min以下であり、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol%/min以下であって、
前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から0.3重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含み、
前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩は、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が、25%未満の段階で、1回のみ添加される工程を備え、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1または2記載のカルサイト型炭酸カルシウムを含む充填剤が充填されて得られる素材。
【請求項10】
前記素材は、顔料、化粧料、増量剤、研磨剤、研磨助剤のいずれかである請求項9記載の素材。」


第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、甲第1号証?甲第7-2号証を提示して、本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対し、以下の特許異議の申立理由を主張している。

A. 請求項1?2に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?2に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由A」という。)。

B. 請求項1?2、9?10に係る発明は、甲第1号証?甲第2号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第4号証?甲第7-2号証にそれぞれ記載された発明を副引用発明として、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?2、9?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由B」という。)。

C. 請求項3?7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項3?7に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由C」という。)。

D. 請求項9?10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項9?10に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由D」という。)。

E. 請求項1?2、9?10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明を主引用発明とし、これに甲第4号証?甲第7-2号証にそれぞれ記載された発明を副引用発明として、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?2、9?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由E」という。)。

F. 請求項8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由F」という。)。

G. 請求項1?2、9?10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由G」という。)。

H. 請求項1?10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「申立理由H」という。)。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:S.L.Tracy et al. ,“The growth of calcite spherulites
from solution I. Experimental design techniques”,
Journal of Crystal Growth, Vol.193(1998),p.374-381
甲第2-1号証:Chao Zhong and C.Chang Chu ,“On the Origin of
Amorphous Cores in Biomimetic CaCO_(3) Spherulites:
New Insights into Spherulitic Crystallization”,
Crystal Growth & Design, Vol.10, No.12(2010),
p.5043-5049
甲第2-2号証:Supplementary Information for:Chao Zhong and C.Chang
Chu ,“On the Origin of Amorphous Cores in Biomimetic
CaCO_(3) Spherulites: New Insights into Spherulitic
Crystallization”
甲第3号証:特開昭61-168524号公報
甲第4号証:国際公開第2012/126600号
甲第5号証:M.Vucak et al. ,“Precitation of calcium carbonate in
a calcium nitrate and monoethanolamine solution”,
Powder Technology, Vol.91(1997),p.69-74
甲第6号証:M.Vucak et al. ,“Effect of precipitation conditions on
the morphology of calcium carbonate: quantification of
crystal shapes using image analysis”, Powder Technology,
Vol.971(1998),p.1-5
甲第7-1号証:OLIVIER BRAISSANT et al. ,“BACTERIALLY
INDUCED MINERALIZATION OF CALCIUM CARBONATE
IN TERRESTRIAL ENVIROMENTS: THE ROLE OF
EXOPOLYSACCHARIDES AND AMINO ACIDS”,
JOURNAL OF SEDIMENTARY RESEARCH, VOL.73,NO.3(2003)
p.485-490
甲第7-2号証:甲第7-1号証と同時公開の補足資料


2. 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?7、9?10に係る特許に対して、平成30年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1) 請求項1?2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、本件の請求項1?2に係る特許は取り消すべきものと認められる(以下、「取消理由1」という。)。

2) 請求項9?10に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件の請求項9?10に係る特許は取り消すべきものと認められる(以下、「取消理由2」という。)。

3) 請求項3?7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。

[取消理由で引用した刊行物]
刊行物1:S.L.Tracy et al. ,“The growth of calcite spherulites from
solution I. Experimental design techniques”,
Journal of Crystal Growth, Vol.193(1998),p.374-381
(甲第1号証)
刊行物2:Chao Zhong and C.Chang Chu ,“On the Origin of Amorphous
Cores in Biomimetic CaCO_(3) Spherulites: New Insights into
Spherulitic Crystallization”,
Crystal Growth & Design, Vol.10, No.12(2010), p.5043-5049
(甲第2-1号証)
刊行物3:特開平11-79740号公報
(本件特許の明細書【0007】に記載の【特許文献6】)


3. 取消理由(決定の予告)の概要
平成30年11月5日差出しの手続補正書(方式)により補正された平成30年10月3日付けの訂正請求書によって、請求項1?10に係る特許について訂正請求されたところ、その訂正請求された請求項1?10に係る特許に対し、平成31年2月12日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

請求項8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)。


4. 当審の判断
(1) 取消理由(決定の予告)について
ア. 本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、実施例1、3、4、7?17、20によると、球晶を有しながら、外形が略球状であるカルサイト型炭酸カルシウムを製造できるのに対し、比較例1?7によっては、球晶を有するカルサイト型炭酸カルシウムを製造できないことが記載されている(【0063】?【0071】、【0082】?【0190】)。また、発明の詳細な説明には、実施例2、5、6、18、19によると、球晶を有するものの、外形が略球状ではないカルサイト型炭酸カルシウムが製造されることが記載されている(【0092】?【0093】、【0100】?【0101】、【0110】?【0111】、【0176】?【0179】)。

イ. 具体的には、実施例2は、使用する水酸化カルシウム水懸濁液および炭酸化工程で使用する二酸化炭素ガスなどの量、反応速度は、実施例1で説明した場合と同じであるが、工程管理温度が18℃±1℃とされたことのみが実施例1と異なるところ、カルサイト型炭酸カルシウムの板状の複数の結晶が、放射状に成長したため、球晶を示したものの、外形が略球状とはならなかった例である。

ウ. また、実施例5は、使用する水酸化カルシウム水懸濁液および炭酸化工程で使用する二酸化炭素ガスなどの量、反応速度は、実施例1で説明した場合と同じであるが、工程管理温度が60℃±1℃とされたことのみが実施例1と異なるところ、カルサイト型炭酸カルシウムの放射状多結晶体を示したため、球晶の一部をその構造として有しているものの、複数の結晶の成長の方位および長さに不均一があり、外形は紡錘形状を示したことから、外形が略球状とはならなかった例である。

エ. また、実施例6は、使用する水酸化カルシウム水懸濁液および炭酸化工程で使用する二酸化炭素ガスなどの量、反応速度は、実施例1で説明した場合と同じであるが、炭酸化工程の開始温度を20℃±1℃として、炭酸化率10%まではこの工程管理温度を維持し、炭酸化率10%を越えた後では、工程管理温度を30℃±1℃にしたところ、カルサイト型炭酸カルシウムは板状の放射状となったことから、球晶を示したものの、外形が略球状とはならなかった例である。

オ. また、実施例18は、使用する水酸化カルシウム水懸濁液および炭酸化工程で使用する二酸化炭素ガスなどの量、反応速度は、実施例1で説明した場合と同じであるが、使用するヘキサメタリン酸ナトリウムを水酸化カルシウムに対して5重量%(リン量に換算すると1.5重量%)添加したところ、カルサイト型炭酸カルシウムは、球晶の一部を示すだけであり、また、外形も一定していないことから、外形が略球状とはならなかった例である。

カ. また、実施例19は、使用する水酸化カルシウム水懸濁液および炭酸化工程で使用する二酸化炭素ガスなどの量、反応速度は、実施例1で説明した場合と同じであるが、使用するヘキサメタリン酸ナトリウムを水酸化カルシウムに対して10重量%(リン量に換算すると3.0重量%)添加したところ、カルサイト型炭酸カルシウムは、球晶の一部を示すだけであり、また、外形も一定していないことから、外形が略球状とはならなかった例である。

キ. ここで、本件訂正発明8は、上記第3に示したとおり、「炭酸化工程での工程管理温度が、25℃?60℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、25℃?55℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60℃であ」るとの発明特定事項を備え、「前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から0.3重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含」むとの発明特定事項を備える、「複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法」に係る発明であり、上記第2の3.(3)の検討のとおり、実施例1、3、4、7?17、20の記載に基づくものである。
すなわち、本件訂正発明8は、「外形上は略球状を有する」ことが特定された、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法に係る発明であり、実施例1、3、4、7?17、20の製造条件を含んでいるが、上記イ.?カ.に示したような、外形上は略球状を有しないカルサイト型炭酸カルシウムを製造する、実施例2、5、6、18の製造条件は含まないものと認める。

ク. よって、 本件訂正発明8は、発明の詳細な説明に記載したものであり、取消理由(決定の予告)により取り消されるべきものではない。


(2) 申立理由について
事案に鑑み、上記2.に示した取消理由に先んじて、上記1.に示した申立理由について検討を行うこととする。
(2A) 甲各号証の記載事項、及び、甲各号証記載の発明
(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ)
(2A-1) 甲第1号証の記載事項、及び、甲第1号証記載の発明
1ア. 「Abstract
Spherical calcite spherulites form in solution when combinations of Mg^(2+) and SO_(4)^(2-) ions are present. When either ion is present alone, modified rhombohedra are formed. Experimental design techniques were used to identify the significance of the effect of the combination of Mg^(2+) and SO_(4)^(2-) on crystal morphologies.…」(第374頁中段)
(当審訳:要約 Mg^(2+)とSO_(4)^(2-)の組み合わせが存在すると、溶液中で球状のカルサイト球晶が熟成される。いずれかのイオンしか存在しないと、菱面体晶変種が熟成される。結晶形態に関するMg^(2+)とSO_(4)^(2-)の組み合わせの影響を確認するために実験的設計技術が用いられた。…)

1イ.「


」(第377頁左欄中段)
(当審訳:図2(a)試験8で熟成されたカルサイトの球状体、スケールバー=38μm。(b)試験29で熟成されたカルサイトの球状体、スケールバー=20μm。)

1ウ. 「 In order to understand the conditions leading to calcite sphere formation better, another smaller experimental design space was constructed to investigate the effects of [Ca^(2+)],[Ca^(2+)]/[CO_(3)^(2-)],[Mg^(2+)], and [SO_(4)^(2-)]on sphere fraction. The range of [Ca^(2+)]was from 10 to 100 mM,[Mg^(2+)]was from 25 to 100 mM, [SO_(4)^(2-)]was 25,50, or 75 mM, and [Ca^(2+)]/[CO_(3)^(2-)]was from 2 to 5. The calcium source was kept constant at CaCl_(2)・2H_(2)O, and the carbonate source was kept constant at (NH_(4))_(2)CO_(3). The second design matrix is shown in Table3.
To determine which conditions favored the formation of calcite spheres, multiple correlation analysis of morphologocal data was performed. Each trial was rated for the presence of calcite spheres on a scale from 0 to 1, where 0 denoted no spheres formed and 1 denoted only spheres. …The sphere fraction results are presented in Tables 2 and 3.」(第376頁右欄第20行?第377頁右欄第10行)
(当審訳: 球状のカルサイト球晶の熟成をもたらす条件をよりよく理解するために、球状体率に関する[Ca^(2+)の濃度]、[Ca^(2+)の濃度]/[CO_(3)^(2-)の濃度]、[Mg^(2+)の濃度]、[SO_(4)^(2-)の濃度]の影響の調査のための別の小さな実験的設計空間が構築された。[Ca^(2+)の濃度]の範囲は10から100mMであり、[Mg^(2+)の濃度]の範囲は25から100mMであり、[SO_(4)^(2-)の濃度]は25、50または75mMであり、[Ca^(2+)の濃度]/[CO_(3)^(2-)の濃度]は2から5の範囲であった。カルシウムイオン源はCaCl_(2)・2H_(2)Oに固定し、炭酸イオン源は(NH_(4))_(2)CO_(3)に固定した。第2の設計の母材を表3に示す。
カルサイト球状体の熟成に好ましい条件を決めるために、形態データの重相関分析が実行された。各々の試験が、カルサイトの球状体の存在に関し、0は球状体が熟成されなかったことを意味し、1は球状体だけが熟成されたことを意味する、0から1の目盛りの球状体率で評価された。…球状体率の結果が、表2と表3に示されている。)

1エ. 「


」(第377頁右欄中段)
(当審訳:表3 第2の設計での実験条件および球状体率の結果。)

1オ. 「 SEM micrographs were taken of specimens fractured between glass slides in order to further understand the mechanisms of sphere formation. A threepart internal structure(Fig.6a) resembling that of naturally formed calcite spheres described in Ref.[6]was found. The spheres consisted of a core of aggregated spheres approximately 60nm in diameter(Fig.6b), a large middle section of radiating crystallites(Fig.6c) possibly of connected complex crystals, and a surface layer of prismatic texture(Fig.6d).
A question arose as to whether the cores might be predominantly MgCO_(3) or Ca(Mg)CO_(3). EDS investigations found only calcium at the core centers. The detectability threshhold of the EDS technique is a complex function of the matrix, impurities, and accelerating voltage and therefore could not be quantified. A chemical method, inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy, was performed on spheres dissolved in aqueous solutions of +0.1M acetic acid and indicated a (mM Mg)/(mM Ca) content of 1.3%.」(第378頁右欄第13行?第379頁左欄下から4行)
(当審訳: 球状体形成機構のさらなる理解のために、ガラススライドの間で破断させたサンプルのSEM顕微鏡写真が撮影された。参考文献[6]に記述されている、天然熟成されたカルサイトの球状体に似た、3部から成る内部構造(図6a)が見出された。球状体は、直径が約60nmの凝集した球状の核(図6b)と、おそらくは連続した複合結晶である、放射状に結晶した大きな中間部分(図6c)と、角柱状組織の表面層(図6d)とから成っていた。
コアではMgCO_(3)またはCa(Mg)CO_(3)が支配的になっているのではないかとの疑問が生じた。EDS調査によって、コア中心はカルシウムだけで成っていることがわかった。EDS技術の検出可能な閾値は母材と不純物と加速電圧の複雑な関数であり、定量化は行えなかった。球状体を0.1M酢酸水溶液に溶解させ、化学的手法である誘導結合プラズマ発光分光法で調査することによって、内容物の(mMMg)/(mMCa)は1.3%であることがわかった。)

1カ. 「


」(第379頁上段)
(当審訳:図6(a)球状体断面で示された3部から成る内部構造。(b)球状体の球状ナノ核。(c)球状体の核から放射状に形成された針状複合結晶。(d)試験8の球状体表面の角柱状組織。スケールバーは、それぞれ、30μm、0.6μm、2.7μm、2.31μmである。)

1キ. 上記1ア.によれば、甲第1号証には、Mg^(2+)とSO_(4)^(2-)の組み合わせが存在すると、溶液中で球状のカルサイト球晶が熟成されることが記載されていると認められる。

1ク. 上記1キ.に示した、Mg^(2+)とSO_(4)^(2-)の組み合わせが存在すると、溶液中で球状のカルサイト球晶が熟成されることに関し、上記1イ.?1エ.によれば、球状のカルサイト球晶の熟成に好ましい条件を決めるための、[Ca^(2+)の濃度]、[Ca^(2+)の濃度]/[CO_(3)^(2-)の濃度]、[Mg^(2+)の濃度]、[SO_(4)^(2-)の濃度]の影響調査のための、さらなる、実験が種々行われ、球状のカルサイト球晶の存在に関し、0は球状体が熟成されなかったことを意味し、1は球状体だけが熟成されたことを意味する、0から1までの球状体率で評価され、それらの球状体率の結果は、上記1ウ.の表3に示されており、上記1イ.の図2の(b)に示されるとおりの球状のカルサイト球晶が得られた試験29の球状体率は、1であったとされている。

1ケ. 上記1オ.?1カ.によれば、球状体形成機構のさらなる理解のために、球状のカルサイト球晶の内部構造を調査したところ、その球晶は、上記1カ.の図6に示されるとおりの、CaCO_(3)が凝集した球状の核(図6b)と、放射状カルサイト結晶の大きな中間部分(図6c)と、角柱状組織の表面層(図6d)という、内部構造から成る(図6a)ことがわかったとされている。

1コ. 上記1イ.の図2の(b)に示される球状のカルサイト球晶について、その図に示される、長さ20μmのスケールバーの長さからすると、その球晶の直径は40μmであると認められる。

1サ. 上記1キ.?1コ.の検討を踏まえ、上記1イ.の図2の(b)に示される試験29の球状のカルサイト球晶に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「球状のカルサイト球晶であって、CaCO_(3)が凝集した球状の核と、放射状カルサイト結晶の大きな中間部分と、角柱状組織の表面層という、内部構造から成り、直径は40μmである、球状のカルサイト球晶。」


(2A-2) 甲第2-1号証の記載事項、及び、甲第2-1号証記載の発明
2ア. 「ABSTRACT: Spherulitic crystals are found in association with many materials and diseases, but the fundamental formation mechanism is not well understood. Using maleic chitosan to control CaCO_(3) crystallization, we have discovered a two-stage process that produces biomimetic CaCO_(3) spherulites. First, amorphous calcium carbonate(ACC) films are formed from which amorphous nanoparticles are precipitated, deposited, and stabilized to form an ACC core. This core then acts as a nucleus for the radial growth of needlelike calcite subunits. Accordingly, the resulting crystals combine the coexistence of calcite and ACC found in composite skeletal elements and the radially ordered structure of spherulitic biominerals. In conjunction with previous studies of spherulites in plants and animals, these findings may provide new insights into spherulitic crystallization, including the formation of spherulitic biominerals in nature. They may also have important implications for the understanding and potential treatment of diseases in which amorphous cores have already been observed, such as Alzheimer's disease and kidney stones.」(第5043頁上段)
(当審訳:要約: 球晶化結晶は、多くの材料や疾患と関連して見出されるが、その基本的な形成機構はよく理解されていない。CaCO_(3)の結晶化の制御のためにマレイン酸キトサンを使用したところ、生体模倣CaCO_(3)球晶を生成する2段階プロセスを発見した。まず、非晶質炭酸カルシウム(ACC)フィルムが形成され、非晶質ナノ粒子が析出され、堆積され、安定化されて、ACC核が形成される。そして、この核が針状カルサイトサブユニットの放射状成長の中心として働く。したがって、その結果生じる結晶は、複合骨格要素中のカルサイトとACCとの共存物と、放射状に配列する球晶生体鉱物とを併せ持つ。動植物における球晶に関するこれまでの研究とあわせて、これらの知見は、自然界での球晶生体鉱物の形成を含む、球晶化結晶についての新たな観点を提供し得る。また、これらの知見は、アルツハイマー型疾患や腎臓結石のような、非晶質核が既に観察されている疾患の理解と治療可能性に関して重要な影響を及ぼし得る。)

2イ. 「Using the ammonium carbonate diffusion method, ^(30)CaCO_(3) crystallization was carried out in the presence of maleic chitosan at different time intervals ranging from 30 min to 24 h. The analysis of the 4 h sample by SEM revealed a uniform spherulite shape composed of needlelike subunits with many(104) faces exposed, a typical characteristic of calcite morphology(Fibure 1A,C). The spherulitic feature is futher confirmed by cross-polarized optical microscopy under which all aggregates exhibit a“Maltese-cross”extinction pattern typical of spherulites(Figure1B). Powder XRD(FigureS1,Supporting Information)and FTIR spectrum(Figure S2,Supporting Information)all appear to support that the spherulites are composed only of calcite phase.
To investigate the interior structure of the crystals, we etched the crystals in deionized (DI)water. After etching for 4 days, the spherulites show a very interesting dissolution pattern with the remaining needlelike subunits stretching radially outward from an open 3-5μm diameter center area(Figure 1D). Similar dissolution was observed for the 1h samples after etching in DI water for 20h (Figure S3,Supporting Information). Because no crystalline phases other than calcite were detected in the X-ray diffraction pattern, the preferential dissolution in the center region was tentatively attributed to amorphous phase, which does not diffract X-ray and has a much higher solubility than calcite phase. At this point, however, we cannnot rule out the possibility that relatively a higher concentration of macromolecules together with calcite phase is present in the center.」(第5044頁左欄第52行?右欄第10行)
(当審訳:炭酸アンモニウム拡散法を用いて、30分から24時間の異なる時間間隔で、マレイン酸キトサン存在下でのCaCO_(3)の結晶化が行われた。結晶化4時間のサンプルをSEMで解析したところ、カルサイト形態の典型的な特徴である、多数の(104)面が露出する針状サブユニットが形成された均一な球晶が形成されていることがわかった。(図1A,C)さらに、交差偏光板をもつ偏光顕微鏡によって、全ての凝集体が、球晶に特徴的に見られる、「マルタ十字」を示すことが判明した(図1B)。粉末XRD(図S1、サポート情報)およびFTIRスペクトル(図S2、サポート情報)も、球晶がカルサイト相のみから成ることを示していた。
結晶の内部構造の調査のために、結晶を脱イオン(DI)水中でエッチングした。4日間のエッチング後に、球晶は、残存する針状のサブユニットが開口する直径3-5μmの中心領域から外方へ放射状に伸びているという、非常の興味深い溶解パターンを示した(図1D)。同様の溶解が、DI水中で20時間エッチングした後の1時間サンプルについても観察された(図S3、サポート情報)。X線回折パターンによるとカルサイト以外の結晶相が検出されなかったため、中心領域における優先的な溶解は、暫定的に、X線回折がなく、カルサイト相よりも高溶解性である、非晶質相に帰属された。しかしながら、この時点では、中心領域にカルサイト相とともに、より高濃度の巨大分子の存在の可能性を否定することはできなかった。)

2ウ. 「


」(第5044頁右欄上段)
(当審訳:図1(A,C)結晶化4時間のサンプルの球晶のSEM画像;(B)結晶化4時間のサンプルの球晶の交差偏光板をもつ偏光顕微鏡による画像:(D)4時間サンプルを4日間DI水でエッチングした後のSEM画像。)

2エ. 「


」(第5045頁中段)
(当審訳:図3(A)1から24時間の異なる時間間隔で収集された球晶構造のSEM画像;(B)結晶化が進行するにつれて、より多くのカルサイト相が外層に形成される一方で、ACCは核に位置するということを示す図;(C)24時間以内の異なる時間間隔で収集された球晶の大きさ(左のY軸)および対応するACCの重量%(右のY軸)に対する結晶化時間の影響。)

2オ. 上記2ア.によれば、甲第2-1号証には、多くの材料や疾患と関連して見出される球晶化結晶の基本的な形成機構の理解のために、マレイン酸キトサンを使用してCaCO_(3)の結晶化の制御を行ったところ、非晶質炭酸カルシウム(ACC)核が、まず、形成され、そして、この核が針状カルサイトサブユニットの放射状成長の中心として働くという、2段階プロセスによって、CaCO_(3)球晶が生成されたということが記載されていると認められる。

2カ. 上記2オ.に示されているCaCO_(3)球晶が生成されたことに関し、上記2イ.?2ウ.によれば、炭酸アンモニウム拡散法を用いて、30分から24時間の異なる時間間隔で、マレイン酸キトサン存在下でのCaCO_(3)の結晶化を行うという時間依存性の調査を行い、その調査によって得られた結晶化4時間のサンプルを解析したところ、上記2ウ.の図1に示されるとおり、全ての凝集体が、球晶に特徴的に見られる、「マルタ十字」(図1B)を示し、カルサイト相のみから成る均一な球晶が形成されている(図1A,C)ことが判明し、その球晶の内部構造の調査を行ったところ、球晶は、残存する針状のサブユニットが直径3-5μmの中心領域から外方へ放射状に伸びている(図1D)という、内部構造を備えていることが判明したとされている。

2キ. 上記2ウ.の図1Aによれば、その図に示されるCaCO_(3)球晶は略球状であると認められ、当該CaCO_(3)球晶について、その図1Aに示される30μmのスケールバーの長さからすると、そのCaCO_(3)球晶の平均径は30μmであると認められる。

2ク. 上記2オ.?2キ.の検討を踏まえ、上記2ウ.の図1Aに示されるCaCO_(3)球晶に注目すると、甲第2-1号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「CaCO_(3)球晶であって、カルサイト相のみから成り、残存する針状のサブユニットが直径3-5μmの中心領域から外方へ放射状に伸びているという内部構造を備え、略球状であり、平均径が30μmであるCaCO_(3)球晶。」


(2A-3) 甲第3号証の記載事項、及び、甲第3号証記載の発明
3ア. 「(1) 平均の球直径が約2から10ミクロンであり、粒子の少くとも約50重量%が平均球直径の50%以内にあるような粒径分布をもち、比表面積が約1から15m^(2)/gである、実質上球状形態の粒子をもつ沈降カルサイト。

(3) 実質上球状形態の沈降カルサイトの製造方法であつて、ポリ燐酸塩を溶解して含む水酸化カルシウムの水性スラリーにガス状二酸化炭素を導入することを包含し、ポリ燐酸塩は水酸化カルシウムに相応する炭酸カルシウム100g当りの燐のグラム数として計算して約0.1?1.0%の量であり、導入を約15?50℃の温度において開始することを特徴とする、沈降カルサイトの製造方法。」(特許請求の範囲)

3イ. 「好ましくは、溶解しているポリ燐酸塩はヘキサメタ燐酸ナトリウムであり、その導入は約30から35℃の温度において開始され、温度はその導入中に約35℃の最高へ上昇させ、スラリー中の水酸化カルシウムは石灰(酸化カルシウム)を水と約10から45℃の出発温度で反応させることによつて、約15から20重量%の濃度において調製される。炭酸化は通常は約7のpHにおいて終り、…導入終了に続いてスラリーを十分な多塩基酸で以て処理してスラリー中の未転化水酸化カルシウムをすべて本質上中和する。」
(第3頁左上欄第9行?末行)

3ウ. 「本発明の球形カルサイトは石灰スラリーの炭酸化の温度を注意深く制御するときにのみ得られる。所望生成物を一定して得るためには、炭酸化の出発温度は約15から50℃でなければならない。出発温度とは、ポリ燐酸塩添加後に二酸化炭素ガス導入を開始する時点における石灰スラリーの温度を意味する。炭酸化の出発温度が15℃以下である場合には、生成物は約2ミクロンの所望最小値より小さく予想外に大きい表面積のものとなる傾向があり、一方、約50℃より高い出発温度は球状形態をもつ所望カルサイトではなくむしろ偏三角面体形態のカルサイトを生ずる傾向がある。好ましくは、所望粒子製造の出発温度は約30℃から35℃である。
炭酸化の出発温度は所望の形態と粒径の沈降カルサイトの製造において臨界的であるが、炭酸化の残りの工程中の温度もまた得られる沈澱に影響する。それゆえ、温度は好ましくは導入中は約35℃の最大上昇までへ制限する。」(第3頁右下欄第15行?第4頁左上欄第13行)

3エ. 「炭酸化用の二酸化炭素ガスの性質は特に臨界的ではなく、窒素または空気のいずれかの中の、通常この種の炭酸化に用いられる二酸化炭素標準的混合物が満足できるものである。…
石灰スラリーの炭酸化はカルサイト沈殿が実質上完了するまで継続され、好ましくは炭酸化スラリーのpHが約7であるときに終わらせるのが好ましい。…炭酸化スラリー中になお存在する未反応水酸化カルシウムを中和するよう通常の注意が払われる。…例えば、必要とする追加二酸化炭素の導入、並びにクエン酸、…燐酸…硫酸のような有機または無機の多塩基酸による炭酸化スラリーの処理、によるスラリーpHの追跡を含む。
最終スラリー中の炭酸カルシウムはそのままで利用してもよく、あるいは濾過、乾燥し、乾燥生成物として使用するよう微粉砕してよい。」(第4頁左上欄第14行?同頁左下欄第14行)

3オ. 「実施例1
以下の炭酸化は32lのジャケット付きの、邪魔板のある円筒状ステンレス鋼製反応器の中で実施したが、その反応器は、内径が29cm、高さが46cmで約4cmの深さの円錐底をもち、反応器の直線側面で底から約2.5cmと13cm上方の位置にありかつ1.5馬力の連続使用モーターによって駆動される2個の直径15cmの平羽根タービン・インペラーをもつ高速攪拌器、が備えられている。二酸化炭素/空気ガス流を内径約1cmの垂直銅管材を通して導入し、反応器の直線的側面の底近くに置かれかつガスの分散を助けるよう直径0.3cmの孔を8個等間隔で配置した総括直径約15cmの水平式銅製散布リングによつて分配させる。
15.5重量%の水性水酸化カルシウムすなわち石灰乳のスラリーは、ASTM手続C-25-72によつて測定して約93重量%の有効酸化カルシウム含量をもつ粒状活性石灰の2.68kgを炭酸化反応器中に含まれかつ約400RPMで攪拌される33℃の水道水の18.75kgへ添加することによつてつくつた。得られるスラリーを約10分間攪拌後、35.6gのヘキサメタ燐酸ナトリウム〔ベーカー・グレード[NaPO_(3)]_(6)、J.T.ベーカー・ケミカル社製(フィリップスバーグ、NJ);スラリーの水酸化カルシウム含量と当量の炭酸カルシウムの100gあたりの燐のグラム数として計算して、約0.24%に等しい〕の1.62lの水道水に溶かしたものを添加した。スラリーを次に冷却ジャケットによつて51℃の最終消和温度から35℃へ冷却した。攪拌器を約500RPMへ調節し、空気中で28容積%の二酸化炭素のガス混合物を約64標準リツトル/分(SLM)でスラリー中に通し一方ではスラリ一温度をチェックすることなく上昇させることによつて、スラリーを炭酸化した。pH7-7.5で59℃の最終的炭酸化スラリーへ、15.7gの燐酸(ベーカーの分析値が85%H_(3)PO_(4)の試薬、J.T.ベーカー・ケミカル社製;スラリーの水酸化カルシウム含量と当量の炭酸カルシウムの約0.3重量%に等しい)を100gの水道水で以て稀釈して添加した。
このスラリーを米国標準篩No.325(45ミクロン)に通してもとの石灰に存在する砂を除き、次に真空濾過した。フイルターケーキをー晩120℃で乾燥して、比表面積(SSA)が1.86m^(2)/g、平均球直径(ASD)が5.4ミクロンであつて、粒子の77重量%が平均球直径の±50%以内、すなわち2.7から8.1ミクロンである実質上球状形態の沈降カルサイト生成物を得た。」(第4頁右下欄第8行?第5頁右上欄第15行)

3カ. 上記3ア.の(3)によれば、甲第3号証には、実質上球状形態の沈降カルサイトの製造方法であつて、ポリ燐酸塩を溶解して含む水酸化カルシウムの水性スラリーにガス状二酸化炭素を導入することを包含し、ポリ燐酸塩は水酸化カルシウムに相応する炭酸カルシウム100g当りの燐のグラム数として計算して約0.1?1.0%の量であり、導入を約15?50℃の温度において開始する、沈降カルサイトの製造方法が記載されていると認められる。

3キ. 上記3ウ.によれば、上記3ア.の(1)に記載される、平均の球直径が約2から10ミクロンであり、粒子の少くとも約50重量%が平均球直径の50%以内にあるような粒径分布をもち、比表面積が約1から15m^(2)/gである、実質上球状形態の粒子をもつ沈降カルサイトは、上記3カ.に示した実質上球状形態の沈降カルサイトの製造方法によって製造されるが、出発温度とは、ポリ燐酸塩添加後に二酸化炭素ガス導入を開始する時点における石灰スラリーの温度を意味し、出発温度は好ましくは約30℃から35℃であり、導入中は約35℃の最大上昇までへ制限するされている。

3ク. また、上記3イ.によれば、ポリ燐酸塩とはヘキサメタ燐酸ナトリウムのこととされている。

3ケ. 上記3カ.?3ク.の検討を踏まえると、実質上球状形態の沈降カルサイトの製造方法に注目すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認められる。
「実質上球状形態の沈降カルサイトの製造方法であつて、ヘキサメタ燐酸ナトリウムを溶解して含む水酸化カルシウムの水性スラリーにガス状二酸化炭素を導入することを包含し、ヘキサメタ燐酸ナトリウムは水酸化カルシウムに相応する炭酸カルシウム100g当りの燐のグラム数として計算して約0.1?1.0%の量であり、ガス状二酸化炭素の導入を約30から35℃の温度において開始し、その導入中は約35℃の最大上昇までへ制限する、沈降カルサイトの製造方法。」

3コ. 上記3カ.?3ク.の検討を踏まえると、実質上球状形態の沈降カルサイトに注目すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると認められる。
「甲3発明1によって製造される、平均の球直径が約2から10ミクロンであり、粒子の少くとも約50重量%が平均球直径の50%以内にあるような粒径分布をもち、比表面積が約1から15m^(2)/gである、実質上球状形態の粒子をもつ沈降カルサイト。」


(2A-4) 甲第7-1?7-2号証の記載事項
4ア. 「Regarding calcite(Fig.5), the morphological sequence starts with rhombohedra produced in a xanthan-free medium with glutamine(Fig.4E). The conditions in this case are the most basic (highest pH) of the total experiment involving amino acids. By adding xanthan and by increasing the acidity of amino acids (glutamic and aspartic acids), rhombohedron edges become smoother (Fig.4G) and crystals form numerous twins , agglomerated around a center (Fig.4G,H), and finally evolve to fibro-radial spheres(Fig.4K-P). This sequence can be summarized by the decrease of the monocrystal size forming the shape, from calcite rhombohedra to calcite styloids followed by needles(Fig.5). 」(第487頁右欄第22?31行)
(当審訳:カルサイトに関して(図5)、形態学的連鎖は、グルタミンを含む無キサンタン培地中で生成される菱面体から始まる(図4E)。この場合の条件は、アミノ酸を伴う全実験の中で最も塩基性である(pHが最も高い)ことである。キサンタンを添加することによって、また、アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)の酸性度を高めることによって、菱面体晶の縁部がより滑らかになり(図4G)、結晶が多数の双晶を形成し、中心の周りに凝集し(図4G、H)、最終的に繊維放射状球体へと展開する(図4K?P)。この連鎖は、当該形状を形成する単結晶サイズの低下、つまり、カルサイト菱面体晶からカルサイト尖筆状結晶となり、次いで針状結晶となることと集約できる(図5)。)

4イ. 「


」(第488頁上段)
(当審訳:図5 非生物的実験中に得られたカルサイトおよびバテライトの形態連鎖。この略図は、アミノ酸酸性度およびキサンタン含有量の増加に関連する形態を示す。縮尺は相対的である。アミノ酸の影響の様々な区域が示されている。6つの主要な工程は、バテライトとカルサイトのいずれについても記載することができる。カルサイトの連鎖は菱面体晶から始まる。塊を形成する単結晶のサイズは、針状結晶を形成するまでの工程1から工程6にかけて減少する。カルサイトの一般的形状は、菱面体晶から繊維放射状球晶へと展開する。バテライトの連鎖:バテライトは常に球体として沈殿する。球体を構成する単結晶のサイズは工程1(短針)から工程6(大きな六角形)にかけて大きくなる。工程2と工程3の間で、バテライトは繊維放射状球晶として発生し得る。略図は写真から写し取った。


(2B) 申立理由Aについて
(2B-1) 本件訂正発明と甲1発明との対比・判断
(2B-1-1) 本件訂正発明1と甲1発明との対比・判断
ア. 本件訂正発明1と、上記(2A-1)の1サ.に示される、甲1発明とを対比するに、甲1発明における「球状のカルサイト」は、本件訂正発明1における「カルサイト型炭酸カルシウムであって、」「外形上は略球状を有」することに相当し、また、甲1発明における「球晶であって、CaCO_(3)が凝集した球状の核と、放射状カルサイト結晶の大きな中間部分と、角柱状組織の表面層という、内部構造から成」ることは、本件訂正発明1における「複数の結晶を有し、前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶とな」ることに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「カルサイト型炭酸カルシウムであって、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウムである」点。

<相違点>
相違点1-1: 本件訂正発明1のカルサイト型炭酸カルシウムは「平均粒径が5μm?40μmである(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。)」との発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明の球状のカルサイト球晶は直径が40μmであるものの、平均粒径が明らかではないため、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

イ. そこで、上記相違点1-1につき検討するに、上記(2A-1)の1イ.?1エ.の記載からすると、上記(2A-1)の1サ.に示される、甲1発明である球状のカルサイト球晶は、球状のカルサイト球晶の熟成をもたらす条件について種々実験した結果得られた球状のカルサイト球晶であって、[Ca^(2+)の濃度]、[Mg^(2+)の濃度]、[SO_(4)^(2-)の濃度]、[Ca^(2+)の濃度]/[CO_(3)^(2-)の濃度]が、それぞれ、40mM、25mM、25mM、2という条件下で熟成された、上記(2A-1)の1サ.に示されるとおりの球状体であるところ、同一の条件下に管理されて熟成された球状体であれば、技術常識からして、均等な大きさの球状体であると考えるのが自然であるから、どの球状体の直径もほぼ等しく、平均粒径はほぼ40μmであると認められる。
また、上記(2A-1)の1オ.?1カ.の記載からすると、上記(2A-1)の1サ.に示される、甲1発明の球状のカルサイト球晶について、球状体形成機構のさらなる理解のために、球状のカルサイト球晶の内部構造を調査したところ、内容物の(mMMg)/(mMCa)は1.3%であること、すなわち、マグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%であることがわかったとされている。
してみると、甲1発明の球状のカルサイト球晶は、球状のカルサイト球晶の熟成をもたらす条件について種々実験した結果得られた球状のカルサイト球晶であって、平均粒径はほぼ40μmで、マグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%であるカルサイト型炭酸カルシウムであるから、上記相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えたものでないことは明らかである。

ウ. また、甲第1号証の全体の記載をみても、上記(2A-1)の1サ.に示した球状のカルサイト球晶以外に、CaCO_(3)が凝集した球状の核と、放射状カルサイト結晶の大きな中間部分と、角柱状組織の表面層という、内部構造から成る、球状のカルサイト球晶についての記載を把握することはできない。

エ. 上記イ.?ウ.の検討を踏まえると、上記相違点1-1は、本件訂正発明1と甲1発明の間の実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。


(2B-1-2) 本件訂正発明2と甲1発明との対比・判断
本件訂正発明2は請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2B-1-1)に示した本件訂正発明1についての検討と同様にして、少なくとも上記相違点1-1の点で相違しているところ、上記相違点1-1は、本件訂正発明2と甲1発明の間の実質的な相違点であるから、本件訂正発明2も甲第1号証に記載された発明ではない。


(2B-2) 本件訂正発明と甲2発明との対比・判断
(2B-2-1) 本件訂正発明1と甲2発明との対比・判断
ア. 本件訂正発明1と、上記(2A-2)の2ク.に示される、甲2発明とを対比するに、甲2発明における「CaCO_(3)球晶であって、カルサイト相のみから成り、残存する針状のサブユニットが直径3-5μmの中心領域から外方へ放射状に伸びているという内部構造を備え」ることは、本件訂正発明1における「カルサイト型炭酸カルシウムであって、複数の結晶を有し、 前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶とな」ることに相当し、また、甲2発明における「略球状であ」ること、「平均径が30μmである」ことは、それぞれ、本件訂正発明1における「外形上は略球状を有」すること、「前記略球状の平均粒径が5μm?40μmである」ことに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「カルサイト型炭酸カルシウムであって、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有し、
前記略球状の平均粒径が5μm?40μmである、カルサイト型炭酸カルシウム」の点。

<相違点>
相違点2-1: 本件訂正発明1のカルサイト型炭酸カルシウムは「(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。)」との発明特定事項を備えているのに対し、甲2発明のCaCO_(3)球晶は前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

イ. そこで、上記相違点2-1につき検討するに、上記(2A-2)の2オ.?2キ.の検討からすると、甲2発明であるCaCO_(3)球晶は、非晶質炭酸カルシウム(ACC)核が、まず、形成され、そして、この核が針状カルサイトサブユニットの放射状成長の中心として働くという、2段階プロセスによって生成したCaCO_(3)球晶であって、その平均粒径が30μmであるとされている。
ここで、上記(2A-2)の2エ.の記載によれば、平均粒径が30μmのCaCO_(3)球晶は、結晶化時間4時間で生成されるが、そのCaCO_(3)球晶には、非晶質炭酸カルシウム核が含まれているとされている。
してみると、甲2発明である平均粒径が30μmのCaCO_(3)球晶は、非晶質炭酸カルシウム核を含んでいるから、上記相違点2-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えたものでないことは明らかである。

ウ. さらに、上記(2A-2)の2エ.の記載によれば、結晶化時間24時間後のCaCO_(3)球晶中には非晶質炭酸カルシウム核がほぼ消失するとされているが、結晶化時間24時間後のCaCO_(3)球晶の平均粒径は50μmに成長するとされている。
そうすると、非晶質炭酸カルシウム核がほぼ消失したCaCO_(3)球晶は、その平均粒径が50μmであるから、そもそも、「平均粒径が5μm?40μmである」との本件訂正発明1の発明特定事項を備えたものでない。

エ. さらに、甲第2-1号証の全体の記載、および、その補足資料である、甲第2-2号証全体の記載をみても(以下では、甲第2-1号証の記載と甲第2-2号証の記載を、まとめて、「甲第2号証の記載」ということがある。)、上記イ.?ウ.で検討したCaCO_(3)球晶以外のCaCO_(3)球晶についての記載を把握することはできない。

オ. 上記イ.?エ.の検討を踏まえると、上記相違点2-1は、本件訂正発明1と甲2発明との間の実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。


(2B-2-2) 本件訂正発明2と甲2発明との対比・判断
本件訂正発明2は請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2B-2-1)に示した本件訂正発明1についての検討と同様にして、少なくとも上記相違点2-1の点で相違しているところ、上記相違点2-1は、本件訂正発明2と甲2発明との間の実質的な相違点であるから、本件訂正発明2も甲第2号証に記載された発明ではない。


(2C) 申立理由Bについて
事案に鑑み、本件訂正発明と甲3発明との対比・判断に先んじて、甲1発明または甲2発明を主発明とし、甲第4号証?甲第7-2号証を副引用発明とする申立理由Bについて検討を行うこととする。

(2C-1) 本件訂正発明と甲1発明との対比・判断
(2C-1-1) 本件訂正発明1と甲1発明との対比・判断
本件訂正発明1と甲1発明との対比は、上記(2B-1-1)ア.での検討と同様であり、両者は上記相違点1-1で相違し、その余の点で一致していると認める。
そして、上記相違点1-1については、上記(2B-1-1)イ.?エ.での検討と同様にして、実質的な相違点であるといえる。
そこで、上記相違点1-1の実質的な相違点につき、さらに、検討するに、甲第1号証の上記(2A-1)の1イ.?1エ.の記載からすると、上記(2A-1)の1サ.に示される、甲1発明である球状のカルサイト球晶は、複数の結晶を有し、前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウム(以下、「外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウム」という。)であるところ、その外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムは、熟成条件について種々実験した結果得られたのであって、マグネシウムを適量含むことは必須のこととされており、その含有量は、(mMMg)/(mMCa)で1.3%、すなわち、マグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%であるとされている。
すなわち、甲第1号証の上記(2A-1)の1イ.?1エ.の記載からすると、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの熟成条件について、改めて実験的に数値範囲を最適化又は好適化したところで、マグネシウム/カルシウムのモル比は1.3%未満とはなり得ないことは、客観的に明らかである。
そして、甲第4号証?甲第6号証には、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムについての記載は見当たらず、示唆もされておらず、また、甲第7-1号証?第7-2号証には、上記(2A-4)の4ア.?4イ.に示したように、一応、菱面体晶のカルサイトに対して、キサンタンを添加し、また、アミノ酸の酸性度を高めることによって、最終的に繊維放射状の球体(球晶)へと成長することは記載されているものの、その最終的に得られる球体の平均粒径は不明であるし、その熟成条件は、甲第1号証に記載の熟成条件とは全く異なるから、甲第1号証記載の発明と組合せようがないし、また、仮に、組合せ得たとしても、40μmという甲1発明の平均粒径が上記相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えるようになるわけではない。
してみると、本件訂正発明1は、甲第1号証記載の発明と甲第4号証?第7-2号証記載の発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2C-1-2) 本件訂正発明2、9?10と甲1発明との対比・判断
本件訂正発明2、9?10は請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2C-1-1)に示した本件訂正発明1についての検討と同様にして、少なくとも上記相違点1-1の点で相違しているところ、上記相違点1-1については、上記(2C-1-1)での検討と同様にして、甲第1号証記載の発明と甲第4号証?第7-2号証記載の発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件訂正発明2、9?10も、甲第1号証記載の発明と甲第4号証?第7-2号証記載の発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(2C-2) 本件訂正発明と甲2発明との対比・判断
(2C-2-1) 本件訂正発明1と甲2発明との対比・判断
本件訂正発明1と甲2発明との対比は、上記(2B-2-1)ア.での検討と同様であり、両者は上記相違点2-1で相違し、その余の点で一致していると認める。
そして、上記相違点2-1については、上記(2B-2-1)イ.?オ.での検討と同様にして、実質的な相違点であるといえる。
そこで、上記相違点2-1の実質的な相違点につき、さらに、検討するに、甲第2号証の上記(2A-2)の2ア.?2エ.の記載によれば、甲2発明であるCaCO_(3)球晶は、複数の結晶を有し、前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウム、すなわち、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであるところ、その外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムは、非晶質炭酸カルシウム核が、まず、形成され、そして、この核が針状カルサイトサブユニットの放射状成長の中心として働くという、2段階プロセスによって生成した結晶化4時間の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであって、その平均粒径は30μmであり、非晶質炭酸カルシウム核を含むとされており、さらに、結晶化時間24時間後の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウム中には非晶質炭酸カルシウム核がほぼ消失するとされているが、結晶化時間24時間後の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの平均粒径は50μmに成長するとされている。
すなわち、甲第2号証の上記(2A-2)の2ア.?2エ.の記載からすると、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムについて、改めて実験的に数値範囲を最適化又は好適化したところで、平均粒径30μm未満の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであって、非晶質炭酸カルシウムが含まれていないものが得られないことは、客観的に明らかである。
そして、甲第4号証?甲第6号証には、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムについての記載は見当たらず、示唆もされておらず、また、甲第7-1号証?第7-2号証には、上記(2A-4)の4ア.?4イ.に示したように、一応、菱面体晶のカルサイトに対して、キサンタンを添加し、また、アミノ酸の酸性度を高めることによって、最終的に繊維放射状の球体(球晶)へと成長することは記載されているものの、その最終的に得られる球体の平均粒径は不明であるし、その熟成条件は、甲第2-1号証に記載の2段階プロセスとは全く異なるから、甲第2-1号証記載の発明と組合せようがないし、また、仮に、組合せ得たとしても、甲2発明においては、平均粒径50μm未満の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムは非晶質炭酸カルシウム核を含んでいるから、上記相違点2-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えるようになるわけではない。
してみると、本件訂正発明1は、甲第2号証記載の発明と甲第4号証?第7-2号証記載の発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2C-2-2) 本件訂正発明2、9?10と甲2発明との対比・判断
本件訂正発明2、9?10は請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2C-2-1)に示した本件訂正発明1についての検討と同様にして、少なくとも上記相違点2-1の点で相違しているところ、上記相違点2-1については、上記(2C-2-1)での検討と同様にして、甲第2号証記載の発明と甲第4号証?第7-2号証記載の発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件訂正発明2、9?10も、甲第2号証記載の発明と甲第4号証?第7-2号証記載の発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(2D) 申立理由A、C?Fについて
以下では、本件訂正発明と甲3発明との対比に基づいた、申立理由A、C?Fについての判断を行うこととする。また、事案に鑑み、まず、申立理由Fについての検討を行い、その後、申立理由A、C?Eについての検討を、順次、行うこととする。
(2D-1) 申立理由Fについて
ア. 本件訂正発明8と甲3発明との対比
本件訂正発明8と、上記(2A-3)の3ケ.に示される、甲3発明1とを対比する。
甲3発明1における「実質上球状形態の沈降カルサイトの製造方法」は、本件訂正発明8における「外形上は略球状を有する、」「カルサイト型炭酸カルシウムの製造方法」に相当する。
また、甲3発明1における「水酸化カルシウムの水性スラリー」、「ガス状二酸化炭素」は、それぞれ、本件訂正発明8における「水酸化カルシウム水懸濁液」、「二酸化炭素ガス」に相当することから、甲3発明1における「水酸化カルシウムの水性スラリーにガス状二酸化炭素を導入すること」は、本件訂正発明8における「水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程」に相当する。
そして、甲3発明1における「ガス状二酸化炭素の導入を約30から35℃の温度において開始し、その導入中は約35℃の最大上昇までへ制限する」ことは、本件訂正発明8における「前記炭酸化工程での工程管理温度が25℃?60℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が25℃?55℃であって、前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60でであ」ることに相当する。
また、甲3発明1における「ヘキサメタ燐酸ナトリウムを溶解して含む水酸化カルシウムの水性スラリーにガス状二酸化炭素を導入すること」は、本件訂正発明8における「前記炭酸化工程の前」「の時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、」「1回以上添加する工程を更に含み、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩は、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が、25%未満の段階で、1回のみ添加される工程を備え」ることに相当し、そして、甲3発明1における「ヘキサメタ燐酸ナトリウムは水酸化カルシウムに相応する炭酸カルシウム100g当りの燐のグラム数として計算して約0.1?1.0%の量であ」ることは、本件訂正発明8における「前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から0.3重量%の範囲」とは、「0.1重量%から0.3重量%の範囲」で重複する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、
前記炭酸化工程での工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、25℃?55℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.1重量%から0.3重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含み、
前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩は、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が、25%未満の段階で、1回のみ添加される工程を備え、
外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウムの製造方法」の点。

<相違点>
相違点3-1:本件訂正発明8は、「炭酸化工程において、炭酸化率が1?5%までの反応速度が2mol%/min以下であり、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol%/min以下であ」るとの発明特定事項を備えているのに対し、甲3発明1では前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点3-2:製造される、外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウムが、本件訂正発明8では、「複数の結晶を有し、前記の複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶とな」るとの発明特定事項を備えているのに対し、甲3発明1では前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。


イ. 上記相違点3-1?3-2についての検討
(ア) 上記相違点3-1?3-2につき、まとめて検討するに、本件特許の明細書によれば、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えるカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法によると、上記相違点3-2に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えるカルサイト型炭酸カルシウム、すなわち、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムが製造でき、また、カルサイト型炭酸カルシウムの製造方法が上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えていない場合には、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムが製造されないということが記載されている(【0063】?【0071】、【0137】?【0164】)。

(イ) そして、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項に関する具体的な記載の一つとして、本件特許明細書には、「実施例1では、…水酸化カルシウム水懸濁液の水酸化カルシウム濃度が、12重量%となるように調整されて、800mlの量が取り出される。更に、この800mlの水酸化カルシウム水懸濁液に、水酸化カルシウムに対して1重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム(リン量に換算すると0.3重量%)が、添加される。この添加された状態の水酸化カルシウム水懸濁液が、反応開始液とされる。 この反応開始液を30℃に保持した上で、20Vol%の二酸化炭素ガスが300ml/minの速度で吹き込まれて、攪拌されながら炭酸化工程が実施される。炭酸化率が10%の時点で、二酸化炭素ガスの吹き込み速度が1500ml/minへ増加される。この炭酸化工程での温度は、30℃±1℃以内で管理される。この処理による反応速度は、反応開始から炭酸化率10%までは、0.2mol%/minであり、炭酸化率10%以降は、0.8mol%/minである。」(【0064】?【0065】)との記載がある。

(ウ) 上記(イ)の記載から、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項は、二酸化炭素ガスの吹き込み速度を炭酸化率に応じて調整することを意味しており、水酸化カルシウム濃度が12重量%である水酸化カルシウム水懸濁液800mlに対して、20Vol%の二酸化炭素ガスを300ml/minの速度で吹き込んで反応を開始すると、その時点での反応速度は0.2mol%/minとなり、炭酸化率が10%の時点で、二酸化炭素ガスの吹き込み速度を1500ml/minへ増加すると、反応速度は0.8mol%/minとなること、すなわち、水酸化カルシウム濃度が12重量%の水酸化カルシウム水懸濁液800ml(以下、「本件の水酸化カルシウムの量」という。)当たり、100Vol%の二酸化炭素ガスを300ml/minの速度で吹き込んで反応を開始すると、その時点での反応速度は1mol%/minとなり、炭酸化率が10%の時点で、二酸化炭素ガスの吹き込み速度を380ml/minへ増加すると、反応速度は1mol%/minとなることを把握できる。

(エ) 他方、二酸化炭素ガスの吹き込みに関し、甲第3号証には、上記(2A-3)の3ア.(3)と3ウ.とに示されるとおり、「ポリ燐酸塩を溶解して含む水酸化カルシウムの水性スラリーにガス状二酸化炭素を導入する」こと、「石灰スラリーの炭酸化はカルサイト沈殿が実質上完了するまで継続され、好ましくは炭酸化スラリーのpHが約7であるときに終わらせるのが好ましい」ことが記載されており、そして、上記(2A-3)の3エ.には、15.5重量%の水性水酸化カルシウム18.75リットルに1.62リットルのヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を添加したスラリーに28容積%の二酸化炭素ガスを64リットル/分でスラリー中に通してスラリーを炭酸化し、pH7?7.5の炭酸化スラリーとしたことが記載されているだけである。
これらの記載からすると、甲第3号証において、スラリーは、15.5重量%の水性水酸化カルシウム18.75リットルに1.62リットルのヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を添加したスラリーであることから、14.3重量%の水性水酸化カルシウムを含有する20.37リットルのスラリーであり、このスラリーに対し、28容積%の二酸化炭素ガスを64リットル/分の吹き込み速度で導入したとの炭酸化条件を把握することができ、この炭酸化条件から反応速度を算出すると、本件の水酸化カルシウムの量の30.4倍のものに対して、100Vol%の二酸化炭素ガスを
0.28×64リットル/分≒18リットル/分の吹き込み速度で炭酸化してなることから、
反応開始時点では、18/(30.4×0.3)≒2.0mol%/minと算出でき、
また、炭酸化率が10%の時点では、
18/(30.4×0.38)≒1.6mol%/minと算出できる。
また、二酸化炭素ガスの吹き込みに関し、甲第3号証には、これらの記載以外の記載は見当たらない。

(オ) 上記(ア)?(エ)の検討からすると、本件特許の明細書によれば、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えるカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法によると、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムが製造でき、また、カルサイト型炭酸カルシウムの製造方法が上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えていない場合には、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムが製造されないとされているところ、甲第3号証には、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8のうち、炭酸化工程において、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol%/min以下であるとの技術事項は記載も示唆もされていないのであるから、上記相違点3-1?3-2は、本件訂正発明8と甲第3号証記載の発明1との間の実質的な相違点である。

(カ) そして、甲第1号証?甲第2号証および甲第4号証?甲第7-2号証には、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムを製造する際の二酸化炭素ガスの吹き込み態様に関しては記載も示唆もされていないから、それらの記載を参照しても、甲3発明1のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法において、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えるようにし得るとはいえない。

(キ) また、甲3発明1のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法において、上記相違点3-1に係る本件訂正発明8の発明特定事項を備えるようにすることが周知技術であるとも、技術常識であるとも認められない。

(ク) してみると、本件訂正発明8は、甲第1号証?甲第7-2号証に記載された発明に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


(2D-2) 申立理由Aについて
申立理由Fに続いて、甲3発明を引用発明とする申立理由Aにつき検討する。
ア. 本件訂正発明1と、上記(2A-3)の3コ.に示される、甲3発明2とを対比するに、甲3発明2における「沈降カルサイト」は、本件訂正発明1における「カルサイト型炭酸カルシウム」に相当し、甲3発明2における「実質上球状形態の粒子をもつ」ことは、本件訂正発明1における「外形上は略球状を有」することに相当し、また、甲3発明2における「平均の球直径が約2から10ミクロンであ」ることは、本件訂正発明1における「平均粒径が5μm?40μmである」こととは、平均粒径が5μm?10μmの範囲で重複し、(但し、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き)に相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「カルサイト型炭酸カルシウムであって、外形上は略球状を有し、前記略球状の平均粒径が5μm?10μmである、カルサイト型炭酸カルシウム(但し、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除く。)」点。

<相違点>
相違点4-1:本件訂正発明1が、「複数の結晶を有し、前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶とな」るとの発明特定事項を備えているのに対し、甲3発明2が前記発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点4-2:本件訂正発明1が、「(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。)」との発明特定事項を備えているのに対し、甲3発明2が前記発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

イ. そこで、まず、上記相違点4-1につき検討するに、この相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項は、カルサイト型炭酸カルシウムが球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであることを意味する特定事項であるところ、甲3発明2は、上記(2A-3)の3コ.に示されるとおり、「甲3発明1によって製造される」カルサイト型炭酸カルシウムであり、上記(2D-1)イ.(ア)?(オ)での検討によれば、甲3発明1によって、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムが製造されるとはいえない。
してみると、上記相違点4-2につき検討するまでもなく、上記相違点4-1は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は甲第3号証に記載された発明ではない。


(2D-3) 申立理由Cについて
上記第3に示したとおり、本件訂正により、請求項3?7に係る特許は存在しないものとなった。
よって、請求項3?7に係る特許に対する申立理由Cは、却下すべきものである。


(2D-4) 申立理由Dについて
本件訂正発明9?10は請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2D-2)ア.に示した本件訂正発明1についての検討と同様にして、少なくとも上記相違点4-1?4-2の点で相違しているところ、上記(2D-2)イ.での検討と同様にして、上記相違点4-1は実質的な相違点であるから、本件訂正発明9?10は甲第3号証に記載された発明ではない。


(2D-5) 申立理由Eについて
本件訂正発明1と、上記(2A-3)の3コ.に示される、甲3発明2とを対比するに、上記(2D-2)ア.での検討と同様にして、本件訂正発明1と甲3発明2とは、上記相違点4-1?4-2の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そこで、まず、上記相違点4-1につき検討するに、この相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項は、カルサイト型炭酸カルシウムが球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであることを意味する特定事項であるところ、甲3発明2は、上記(2A-3)の3コ.に示されるとおり、「甲3発明1によって製造される」カルサイト型炭酸カルシウムであり、上記(2D-1)イ.(ア)?(オ)での検討と同様にして、甲第3号証に記載される二酸化炭素ガスの吹き込み態様では、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムが製造されるとは認められないことから、上記相違点4-1は実質的な相違点である。
さらに、上記(2D-1)イ.(カ)?(ク)での検討と同様にして、甲3発明2に上記相違点4-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えさせることを、甲第1号証?甲第7-2号証に記載された発明に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


(2E) 申立理由Gについて
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1?2、9?10に係る発明について、当業者が過度の試行錯誤を要せずに実施できるとはいえず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たさない旨の申立理由Gの主張をしている。
しかしながら、それらの発明について、特許異議申立書の記載では、当業者が過度の試行錯誤を要せずに実施できるとはいえないとの主張の根拠が不明であるところ、本件訂正発明1?2、9?10に係る発明については、本件特許明細書の実施例等の記載のとおりに行えば、特段の試行錯誤を要することなく、実施できることは明らかである。


(2F) 申立理由Hについて
ア. 異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1?10に係る発明について、本件発明の課題は、「強度の強い球晶を有するカルサイト型炭酸カルシウムおよびその製造方法を提供する」ことであるが、本件明細書には、従来技術と相違しない「球晶」が得られたことが実験的に実証されているに止まり、「強度の強い球晶」が得られたこと、すなわち、前記の課題が解決されたことは何ら実証されていないので、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない旨の申立理由Hの主張をしている。

イ. 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】?【0017】には、球状の炭酸カルシウムは、通常バテライト型の結晶構造のものが主であり、水や熱の介在により、その結晶構造がカルサイト型に変化し、球状形状も崩壊するという問題があり、また、一般的な製造方法を経て製造されたカルサイト型炭酸カルシウムは立方状や紡錘状を有しやすくなる結果、球状を有するカルサイト型炭酸カルシウムを得ることは非常に難しい状況にあり、また、球状のカルサイト型炭酸カルシウムを実現する技術も提案されているが、外径形状が球状であるに過ぎないことから、球状粒子としての安定性が悪く、当然に耐久性や強度も弱かったという問題に鑑み、本件発明は、「強度の強い球晶を有するカルサイト型炭酸カルシウムおよびその製造方法を提供する」ことを課題(以下、「本件発明の課題」という。)とする旨の記載がなされている。
ここで、前記の「強度の強い球晶を有するカルサイト型炭酸カルシウム」というのは、球状のバテライト型炭酸カルシウムは、水や熱の介在により、崩壊するという問題、および、外径形状が球状であるに過ぎないカルサイト型炭酸カルシウムでは、耐久性や強度も弱かったという問題を解決するものであるから、球状粒子としての強度の強い、球晶を有するカルサイト型炭酸カルシウムを意味していると認められる。
そうすると、本件発明の課題は、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムおよびその製造方法によって、解決し得るところ、本件の特許請求の範囲には、上記第3に示したとおり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムおよびその製造方法が記載されている。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものである。


(2G) 小括
以上の検討によれば、申立理由A?申立理由Hのいずれの申立理由によっても、本件訂正発明に係る特許を取り消すことができない。


(3) 取消理由について
以下では、上記2.に示した 取消理由1?3につき、以下に、検討する。
(3-1) 各刊行物の記載事項及び各刊行物記載の発明
(3-1-1) 刊行物1の記載事項及び刊行物1記載の発明
刊行物1とは、甲第1号証のことであるから、刊行物1の記載事項は上記(2A-1)の1ア.?1カ.に示したとおりであり、刊行物1記載の発明は、上記(2A-1)の1サ.に示した、甲1発明と同じもの(以下、「刊行物1発明」という。)である。

(3-1-2) 刊行物2の記載事項及び刊行物2記載の発明
刊行物2とは、甲第2-1号証のことであるから、刊行物2の記載事項は上記(2A-2)の2ア.?2エ.に示したとおりであり、刊行物2記載の発明は、上記(2A-2)の2ク.に示した、甲2発明と同じもの(以下、「刊行物2発明」という。)である。

(3-1-3) 刊行物3の記載事項
「【従来の技術】炭酸カルシウムは、塗料、ゴム、プラスチックス、紙、化粧品等の各種添加剤として、医薬品分野ではアルミニウムを含まない制酸剤として、また、食品産業分野においてはカルシウム補強剤等として広く利用されている。この炭酸カルシウムは、カルサイト、アラゴナイト及びバテライトの3種の結晶構造をとることが知られている。この炭酸カルシウムの安定性、流動性、圧縮成形性等を改善するために球状の炭酸カルシウムにすることが注目され、種々の製法が提案されている。例えば球状のバテライト型炭酸カルシウムの製法等が良く知られている。しかしながらこのバテライト型は水が存在しない雰囲気下では常温、常圧で安定な球状であるが、水分を含む雰囲気下では容易に菱面体のカルサイトにかわり球形状態が崩れてしまう。この欠点を改善するために水分を含む雰囲気下で安定なカルサイト型炭酸カルシウムからなる球状の炭酸カルシウムの製造方法が種々提案されている。」(【0002】)


(3-2) 取消理由1について
刊行物1とは、甲第1号証のことであり、また、刊行物2とは、甲第2-1号証のことであるから、取消理由1は、上記(2B)で検討した、申立理由Aと同じ理由である。
そして、上記(2B-1-1)での検討と同様にして、本件訂正発明1と刊行物1発明との間の上記相違点1-1は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は刊行物1に記載されたものとはいえないし、また、上記(2B-2-1)での検討と同様にして、本件訂正発明1と刊行物2発明との間の上記相違点2-1は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は刊行物2に記載されたものとはいえない。
また、本件訂正発明2は請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、本件訂正発明1についての検討と同様にして、本件訂正発明2は、刊行物1発明とは、少なくとも上記相違点1-1の点で実質的に相違して、また、刊行物2発明とは、少なくとも上記相違点2-1の点で実質的に相違していることから、本件訂正発明1は刊行物1?2に記載されたものとはいえない。


(3-3) 取消理由2について
取消理由2は、訂正前の請求項9?10に係る発明は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易になし得たものである旨の取消理由であるところ、本件訂正発明9?10は、請求項1を引用するものであり、本件訂正発明1が備える発明特定事項を全て備えるものであるから、本件訂正発明1についての検討と同様にして、本件訂正発明9?10は、刊行物1発明とは、少なくとも上記相違点1-1の点で実質的に相違して、また、刊行物2発明とは、少なくとも上記相違点2-1の点で実質的に相違している。
そして、上記(3-1-3)に示した刊行物3の記載事項からは、球状のカルサイト型炭酸カルシウムを塗料、ゴム、プラスチックス、紙、化粧品等の各種添加剤として利用しようとすることが周知の技術事項であることが把握できるだけであり、刊行物3には、上記相違点1-1に係る本件訂正発明の発明特定事項や上記相違点2-1に係る本件訂正発明の発明特定事項が記載されておらず、また、示唆もされていない。
してみると、本件訂正発明9?10は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易になし得たものであるとはいえない。


(3-4) 取消理由3について
上記2.に示したとおり、取消理由では、訂正前の請求項3?7に係る特許に対して、取消理由3として、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨通知したところ、上記第3に示したとおり、本件訂正により、請求項3?7に係る特許は存在しないものとなった。
よって、本件訂正発明は、取消理由3により取り消されるべきものではない。


(3-5) 補足
(3-5-1) 異議申立人の主張
異議申立人は、平成31年1月4日付けの意見書において、以下の主張をしている。
1a. 刊行物2には、少なくとも結晶化開始後24時間の時点で非晶質の炭酸カルシウムが炭酸カルシウム全体に占めるている割合が0%である、カルサイト型炭酸カルシウム(言い換えれば、非晶質の炭酸カルシウムを含まないカルサイト型炭酸カルシウム)が記載されていることは明らかであり、本件訂正発明1のカルサイト型炭酸カルシウムは刊行物2に記載されている。

1b. 刊行物2には、図1Aに記載されるスケールバーの長さから、平均径30μm近辺のカルサイト型炭酸カルシウムが記載されていることは明らかであり、本件訂正発明1のカルサイト型炭酸カルシウムは刊行物2に記載されている。

1c. 刊行物1の図5には、「Sr^(2+)およびSO_(4)^(2-)の存在下で形成されたカルサイト球体」が記載されており「図2bのMg^(2+)およびSO_(4)^(2-)で形成されたものと似ている」ことも記載されており、その球体の粒径はスケールバー(8.6μm)の大きさから約14μmであるので、本件訂正発明1のカルサイト型炭酸カルシウムは刊行物1に記載されている。

1d. 刊行物2には、カルサイト型炭酸カルシウムの製造工程においてマグネシウムを使用した旨は記載されていないので、カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%未満となることは明らかであり、本件訂正発明1のカルサイト型炭酸カルシウムは刊行物2に記載されている。

1e. 本件訂正発明1における「(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。)」という発明特定事項について、数値限定を用いて発明を特定しようとする記載であるが、特許・実用新案審査基準によれば、「主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。」(第III部、第2章、第4節、6.)とされているので、仮に、前記の発明特定事項を主引用発明との相違点として考慮するとしても、本件訂正発明1、及び、請求項1を引用する、本件訂正発明2、9?10は、進歩性を有さないことは明らかである。

(3-5-2) 当審の判断
2a. 本件訂正発明1は、上記(3-2)で検討したとおり、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物2に記載された発明でもない。
例えば、刊行物1の上記(2A-1)の1イ.?1エ.の記載からすると、刊行物1発明の球状のカルサイト球晶は、複数の結晶を有し、前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウム、すなわち、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであるところ、その球晶のカルサイト型炭酸カルシウムは、熟成条件について種々実験した結果得られたのであって、マグネシウムを適量含むことは必須のこととされており、その含有量は、(mMMg)/(mMCa)で1.3%、すなわち、マグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%であるとされている。
そうすると、刊行物1の上記(2A-1)の1イ.?1エ.の記載によれば、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの熟成条件について、改めて実験的に数値範囲を最適化又は好適化したところで、マグネシウム/カルシウムのモル比は1.3%未満とはなり得ないことは、客観的に明らかである。
また、例えば、刊行物2の上記(2A-2)の2ア.?2エ.の記載によれば、刊行物2発明であるCaCO_(3)球晶は、複数の結晶を有し、前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、カルサイト型炭酸カルシウム、すなわち、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであるところ、その外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムは、非晶質炭酸カルシウム核が、まず、形成され、そして、この核が針状カルサイトサブユニットの放射状成長の中心として働くという、2段階プロセスによって生成した結晶化4時間の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであって、その平均粒径は30μmであり、非晶質炭酸カルシウム核を含むとされており、さらに、結晶化時間24時間後の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウム中には非晶質炭酸カルシウム核がほぼ消失するとされているが、結晶化時間24時間後の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの平均粒径は50μmに成長するとされている。
そうすると、刊行物2の上記(2A-2)の2ア.?2エ.の記載によれば、外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムについて、改めて実験的に数値範囲を最適化又は好適化したところで、平均粒径30μm未満の外形上は略球状を有する球晶のカルサイト型炭酸カルシウムであって、非晶質炭酸カルシウムが含まれていないものが得られないことは、客観的に明らかである。
してみると、異議申立人の上記1a.?1b.および1d.?1e.の主張は、刊行物1?2の記載を正解しないものであって、採用し得ない。

2b. 刊行物1には、その図5に「Sr^(2+)およびSO_(4)^(2-)の存在下で形成された直径17.2μmのカルサイト球体」が記載されており、当該カルサイト球体について、「図2bのMg^(2+)およびSO_(4)^(2-)で形成されたものと似ている」との記載も見受けられるところ、その図5の記載からは、外形形状が図2bのカルサイト球体と類似する一粒の粒子は把握できるものの、単に、外径形状が球体と似ているというだけでは、球状粒子としての強度が弱く、また、球状粒子の粒径を制御できず、製造される粒径がばらばらとなってしまう問題もあったとの本件特許の出願時の技術常識(本件特許明細書【0006】?【0014】)を考慮すると、内部構造が不明であり、また、平均粒径も不明である、刊行物1の図5の一粒の粒子の記載のみを根拠とする、異議申立人の上記1c.の主張も妥当性を欠くものであって、採用し得ない。


(3-6) 小括
以上の検討によれば、本件訂正発明に係る特許は、取消理由1?3により取り消されるべきものではない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?2、8?10に係る特許を取り消すことはできない。

そして、他に本件請求項1?2、8?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、請求項3?7は、訂正により削除されたため、本件請求項3?7に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルサイト型炭酸カルシウムであって、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有し、
前記略球状の平均粒径が5μm?40μmである、カルサイト型炭酸カルシウム(但し、前記カルサイト型炭酸カルシウムが非晶質の炭酸カルシウムを含む場合を除き、前記略球状の平均粒径が30μm?40μmとなる場合を除き、前記カルサイト型炭酸カルシウムにおけるマグネシウム/カルシウムのモル比が1.3%以上となる場合を除く。)。
【請求項2】
前記複数の結晶のそれぞれは、針状を有する、請求項1記載のカルサイト型炭酸カルシウム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
水酸化カルシウム水懸濁液に二酸化炭素ガスを添加する炭酸化工程と、
前記炭酸化工程での工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%未満においては、前記工程管理温度が、25℃?55℃であって、
前記炭酸化工程において、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が10%以上においては、前記工程管理温度が、25℃?60℃であって、
前記炭酸化工程において、炭酸化率が1?5%までの反応速度が2mol%/min以下であり、炭酸化率が5?10%における反応速度が0.16mol%/min?0.24mol%/minであり、炭酸化率10%以降の反応速度が1.1mol%/min以下であって、
前記炭酸化工程の前、または最中の少なくともいずれかの時点で、縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩を、前記水酸化カルシウム水懸濁液中の水酸化カルシウムに対して、前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩に含まれる燐の含有量が0.03重量%から0.3重量%の範囲になるように、1回以上添加する工程を更に含み、
前記縮合燐酸あるいはそのアルカリ金属塩は、前記水酸化カルシウム水懸濁液の炭酸化率が、25%未満の段階で、1回のみ添加される工程を備え、
複数の結晶を有し、
前記複数の結晶のそれぞれが、一つの位置から放射状に略同一長に成長して球晶となり、外形上は略球状を有する、球晶のカルサイト型炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1または2記載のカルサイト型炭酸カルシウムを含む充填剤が充填されて得られる素材。
【請求項10】
前記素材は、顔料、化粧料、増量剤、研磨剤、研磨助剤のいずれかである請求項9記載の素材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-04 
出願番号 特願2013-77509(P2013-77509)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F)
P 1 651・ 113- YAA (C01F)
P 1 651・ 852- YAA (C01F)
P 1 651・ 851- YAA (C01F)
P 1 651・ 536- YAA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 小川 進
後藤 政博
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6242583号(P6242583)
権利者 古手川産業株式会社
発明の名称 カルサイト型炭酸カルシウムおよびその製造方法  
代理人 溝口 督生  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 溝口 督生  

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