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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1354061
異議申立番号 異議2018-700393  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-11 
確定日 2019-06-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6232505号発明「燃料電池用電極触媒及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6232505号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7、8〕について訂正することを認める。 特許第6232505号の請求項1、2、5?7に係る特許を維持する。 特許第6232505号の請求項3、4、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6232505号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年)10月23日(優先権主張 2014年(平成26年)10月24日)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月15日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成30年5月11日に特許異議申立人小宮邦彦(以下、「申立人」という。)より請求項1?8に対して特許異議の申立てがなされ、平成30年7月20日付けで取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、これに対して、同年9月25日に特許権者より意見書(以下、「意見書1」という。)が提出されるとともに訂正請求がなされ、同年10月23日付けで審尋がなされ、同年11月9日に特許権者より回答書が提出され、同年11月28日付けで訂正拒絶理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、その指定期間内に特許権者から何らの応答もなく、その後、平成31年1月21日付けで取消理由(決定の予告:以下、「決定の予告」という。)が通知され、これに対して、同年3月25日に特許権者より意見書(以下、「意見書2」という。)が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、令和1年5月23日付けで申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6232505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、平成30年9月25日に特許権者が行った訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「中実カーボン担体と」を「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体と」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2、5、6も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
請求項5について、本件訂正前の「請求項1?4のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒」を「請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒」と訂正する。
請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項6について、本件訂正前の「請求項1?5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池」を「請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池」と訂正する。

(6)訂正事項6
請求項7について、本件訂正前の「中実カーボン担体に」を「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体に」と訂正する。

(7)訂正事項7
請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
請求項1?6及び請求項7、8について、以下の明細書の訂正を行う。
願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0019】について、本件訂正前の「具体的は、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t-Pot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである。」を「具体的は、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである。」と訂正し、本件特許明細書の【0043】について、本件訂正前の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t-Pot表面積/BET表面積)が49.6%である。なお、中空カーボンの場合、t-Pot表面積/BET表面積は28.1%である。」を「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が49.6%である。なお、中空カーボンの場合、t-Plot表面積/BET表面積は28.1%である。」と訂正する。

2 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の「中実カーボン担体」について、その定義が明瞭でなかったものを、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」と訂正するものである。
ここで、本件特許明細書の【0019】には、「中実カーボンとは、中空カーボンと比較して、カーボン内部の空隙が少ないカーボンであり、具体的には、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t-Pot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである」と記載されているところ、以下a?cの周知例からt-Plot法による外表面積の算出方法が周知であるから、当該記載中の「t-Pot」「による外表面積」とは、周知のt-Plotによる外表面積の誤記であることは、当業者には明らかである。
そして、当業者は、当該記載中の「t-Pot」「による外表面積」を周知のt-Plotによる外表面積であると理解することは明白であるから、当該記載中の「t-Pot」「による外表面積」を周知のt-Plotと解釈したとしても第三者に不利益を与えることはない。
そうすると、訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」及び「誤記の訂正」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
また、上述したように、本件特許明細書に記載された「t-Pot」「による外表面積」とは、周知のt-Plotによる外表面積の誤記であることは、当業者には明らかであるから、本件訂正後の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」は、本件明細書に記載された事項であるといえ、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正である。

<周知例>
a 日本化学会編「コロイド化学IV-コロイド化学実験法-」株式会社東京化学同人 第1版、1996年4月1日 第291?294頁



b 炭素材料学会編「活性炭-基礎と応用」株式会社講談社 1975年11月10日 第21?22頁



c 近藤精一他「吸着の化学」丸善株式会社 第2版 平成13年2月25日 第48?50頁




(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項2、3により、請求項3、4が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項5について、請求項3、4を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、上記訂正事項2、3により、請求項3、4が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項6について、請求項3、4を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項7において、本件訂正前の「中実カーボン担体」について、その定義が不明であったものを、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」と訂正するものである。
そうすると、上記(1)で述べた理由と同様の理由により、訂正事項6は、「明瞭でない記載の釈明」及び「誤記の訂正」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、本件訂正前の請求項8を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、本件明細書の【0019】及び【0043】における「t-Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)」及び「t-Pot表面積/BET表面積」の「t-Pot」との記載に関する訂正であるところ、これは、上記(1)のとおり、周知の「t-Plot」の誤記であることが明らかである。
そして、訂正事項8は、当該誤記を正すものであるから、「誤記の訂正」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件特許明細書等に記載した範囲内の訂正である。

3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?6は請求項1を引用するものであり、請求項8は請求項7を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?6及び請求項7、8はそれぞれ一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7、8〕をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。

4 明細書の訂正について
明細書の訂正である訂正事項8は、訂正前の請求項1及び7に対応する明細書の記載を訂正するものであり、本件訂正前の請求項2?6は請求項1を引用するものであり、請求項8は請求項7を引用するものであるから、本件訂正請求に係る明細書の訂正は、請求項の全てについて行うものである。

5 独立特許要件
本件は、訂正前の全請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1?8について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

6 本件訂正請求のむすび
以上のとおり、平成31年3月25日に特許権者が行った本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?3号を目的とするものであり、同法第120条の5第4項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で準用する第126条第4項、第5項及び第6項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項〔1?6〕、〔7、8〕について、結論のとおり訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
平成31年3月25日に特許権者が行った請求項1?8についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含み、
前記合金における白金とコバルトとのモル比が4?11:1であり、
70?90℃で酸処理されている、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記合金における白金とコバルトとのモル比が7?11:1である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
コバルトの溶出量が115ppm以下である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池。
【請求項7】
N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70?90℃で酸処理する酸処理工程;
を含み、
担持工程において、白金とコバルトとを2.5?6.9:1のモル比で担持し、
合金化工程において、白金とコバルトとを700?900℃で合金化する、燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項8】
(削除)」

2 取消理由及び決定の予告の概要
2-1 取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項
ア 本件特許の請求項1、5?7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記aの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
a 国際公開第2007/119640号(特許異議申立人が提出した甲第1号証:以下、「甲1」という。)

イ 本件特許の請求項1、4?7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記aの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
a 国際公開第2007/119640号(甲1)

(2)特許法第36条第4項第1号
ア 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項4及びその引用請求項である請求項5、6に係る発明の「X線小角散乱法により測定した前記合金の分散度が44%以下である」事項について、当業者がその実施をすることができる程度に十分かつ明確に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項8に係る発明の「白金担持触媒の表面上の酸素量を4重量%以下に低減させ」る事項について、当業者がその実施をすることができる程度に十分かつ明確に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

(3)特許法第36条第6項第2号
ア 請求項1、7及びそれらの引用請求項である請求項2?6,8の「中実カーボン」は、明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

イ 請求項1及びその引用請求項である請求項2?6の「70?90℃で酸処理されている」事項は、明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

ウ 請求項3及びその引用請求項である請求項4?6の「合金の平均粒径が3.5?4.1nmである」事項は、明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

エ 請求項8の「表面上の酸素量」は、明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

2-2 決定の予告の概要
決定の予告の概要は、上記(1)のア及びイ、上記(2)のア及びイ、上記(3)のア、ウ及びエと同じである。

2-3 取消理由及び決定の予告以外の特許異議申立て理由
(1)特許法第29条第2項
ア 本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記a?cの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
a 国際公開第2007/119640号(甲1)
b 特許第4362116号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証:以下、「甲2」という。)
c 特開平10-92441号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証:以下、「甲3」という。)

イ 本件特許の請求項7、8に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記a、c、dの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
a 国際公開第2007/119640号(甲1)
c 特開平10-92441号公報(甲3)
d 特開2010-27364号公報(特許異議申立人が提出した甲第4号証:以下、「甲4」という。)

3 本件明細書の記載
本件訂正により訂正された願書に添付された明細書(以下、「本件明細書という。)には、次の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法に関する。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のことが判明した。
従来使用されていた中空カーボン担体にPtCo合金を担持すると、一部のPtCo合金が中空カーボン担体の内部に包含されることになる。この場合、Coの溶出を抑制するための酸処理を行っても、担体内部に存在するPtCo合金を十分に処理することは困難である。その結果、担体内部に存在するPtCo合金からCoが溶出しやすくなる。
【0010】
そこで、本発明では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避した。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる。
【0011】
また、PtとCoとが特定のモル比を有する場合に、燃料電池の初期性能及び耐久性能が更に向上することが判明した。加えて、PtCo合金が特定の平均粒径を有する場合に、燃料電池の初期性能及び耐久性能が更に向上することが判明した。
【0012】
更に、適切な条件で酸処理を行うことにより、反応に寄与しないCoを十分に除去し、Coの溶出を更に抑制できることが判明した。」
「【0017】
<燃料電池用電極触媒>
本発明の一実施形態は、中実カーボン担体と、当該担体に担持されたPtCo合金とを含む、燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」ともいう)に関する。
【0018】
本実施形態では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避することができる。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる。
【0019】
中実カーボンとは、中空カーボンと比較して、カーボン内部の空隙が少ないカーボンであり、具体的は、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである。
【0020】
中実カーボンとしては、例えば、特許第4362116号に記載のカーボンを挙げることができる。具体的には、比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が15?40Åであるアセチレンブラックを挙げることができる。より具体的には、電気化学工業株式会社製のデンカブラック(登録商標)等を挙げることができる。」
「【0024】
中実カーボン担体に担持されたPtCo合金の分散度は、X線小角散乱法(SAXS)により測定した場合に、好ましくは44%以下、より好ましくは40%以下、特に好ましくは36%以下である。X線小角散乱法による分散度は、PtCo合金の均一性の指標とすることができる。44%以下の分散度を有することにより、燃料電池の性能を更に向上させることができる。分散度の下限としては、例えば、5%、10%等を挙げることができる。分散度の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0025】
X線小角散乱法による分散度は、解析ソフトを用いて算出することができる。解析ソフトとしては、例えば、nano-solver(株式会社リガク製)等を挙げることができる。」
「【0034】
<燃料電池用電極触媒の製造方法>
本発明の一実施形態は、上記電極触媒の製造方法に関するものであり、具体的には、中実カーボン担体にPtとCoとを担持する担持工程;及び中実カーボン担体に担持されたPtとCoとを合金化する合金化工程;を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。
【0035】
担持工程では、PtとCoとを好ましくは2.5?6.9:1のモル比、より好ましくは3.1?5.7:1のモル比で担持する。以下で説明する酸処理工程においてCoの一部が除去されるため、担持工程では、完成品の電極触媒におけるPtとCoとの好ましいモル比と比較して、Coを多く担持する。このようなモル比を採用して製造された電極触媒を使用することによって、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。
【0036】
合金化工程では、PtとCoとを好ましくは700?900℃、より好ましくは750?850℃で合金化する。このような合金化温度を採用して製造された電極触媒を使用することによって、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。
【0037】
本実施形態の製造方法は、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を酸処理する酸処理工程を更に含むことが好ましい。
【0038】
酸処理工程では、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を好ましくは70?90℃、より好ましくは75?85℃で酸処理する。このような温度で酸処理することによって、反応に寄与しないCoを十分に除去することができる。これにより、Coの溶出を抑制することができる。
【0039】
酸処理工程において使用する酸としては、例えば、無機酸(硝酸、リン酸、過マンガン酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(酢酸、マロン酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、乳酸等)を挙げることができる。
【0040】
本実施形態の製造方法における材料、製造物、それらの特徴等については、<燃料電池用電極触媒>の項目において既に説明している。上記項目において説明した事項を本項目において適宜参酌するものとする。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は特許請求の範囲に包含されるか否かによって区別されるものではない。特に良好な結果が得られた実施形態を実施例とし、それ以外の実施形態を比較例とした。
【0042】
<電極触媒の製造>
[実施例1]
担持工程:デンカブラック(1.0g:電気化学工業株式会社製)を純水(41.6mL)に分散させた。白金(1.0g)を含むジニトロジアミン白金硝酸溶液(特許第4315857号:キャタラー株式会社製)を滴下し、デンカブラックと十分に馴染ませた。還元剤としてエタノール(3.2g)を加え、還元担持を行った。分散液をろ過洗浄し、得られた粉末を乾燥させ、白金担持触媒を得た。次に、白金担持触媒の表面上の酸素量を4重量%以下まで低減させ、製品比率(モル比)でPt:Coが7:1となるようにコバルト(0.03g)を担持させた。
【0043】
本実施例で使用したデンカブラックは、中実カーボンであって、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が19Åであり、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が49.6%である。なお、中空カーボンの場合、t-Plot表面積/BET表面積は28.1%である。
【0044】
合金化工程:得られた担持触媒をアルゴン雰囲気下、800℃で合金化した。
酸処理工程:合金化した担持触媒を0.5N硝酸を使用して80℃で酸処理し、電極触媒を得た。」
「【0054】
<PtCo合金の平均粒径>
JIS K 0131に準拠したX線回折法(XRD法)で測定されたXRDチャートにおける、Pt金属単体が示すピークの強度から算出した。」

4 引用刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
ア 「発明が解決しようとする課題
本発明は白金とコバルトの合金からなる触媒の活性化を高め、 電池出力及び燃料効率の高い燃料電池用電極触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。」(第2頁第4?6行)
イ 「即ち、本発明の燃料電池用電極触媒は、導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒であって、前記触媒粒子の組成(モル)比は白金:コバルト=3:1?5:1であることを特徴とする。白金:コバルト=3:1?5:1の範囲で高い電池電圧が得られる。白金:コバルト=3:1より白金の割合が少ないと触媒からのコバルトの溶出が増す。逆に白金:コバルト=5:1より白金の割合が多いと触媒活性が低くなる。」(第2頁第11?16行)
ウ 「実施例
以下本発明の実施例及び比較例を説明する。
(Coモル比率の影響)
[試験例1]
市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させた。この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト1.00gを含む塩化コバルトを純水 0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませた。その後、アンモニア溶液で中和しろ過した。ろ過して得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させた。その後電気炉中で、窒素雰囲気中800℃、6hr加熱し合金処理した。 これにより未合金金属含有触媒粉末Aを得た。
この未合金金属含有触媒粉末Aから未合金金属を除去するため、1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した後ろ過した。得られたケーキを、1mol/Lの硝酸溶液1L中に撹拌し、液温60℃に1hr保持した後ろ過した。得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させ、触媒粉末を得た。
この触媒粉末のモル組成比はPt:Co=3.1:1.0で、 カーボンの担持密度は47.7mass%となった。 触媒粒径を求めるためにXRD測定し、Pt(111)面のピーク位置と半価幅から平均粒径を算出した結果、6.0nmであった。 触媒の水浸pHは、 触媒0.5gを乳鉢で十分粉砕し、これを純水20g中で1hr撹拌した後、pHメータ (HORIBA製F-21形)で測定し、pH4.8であった。Coの溶出率は触媒0.5gを乳鉢で十分粉砕し、 これを0.1N硫酸30g中で100hr撹拌した後ろ過し、ろ液中に溶出したCo量をICPにて測定してCo溶出濃度を求めた。 その結果、Co溶出濃度は39ppmであった。」(第4頁第21行?第5頁第18行)
エ 「[試験例3]
コバルトの仕込量を0.60gに変更し、その他は試験例1と同様の工程にて触媒粉末を得た。触媒粉末のモル組成比はPt:Co=5.0:1.0で、 カーボンの担持密度は48.5mass%となった。また、触媒粒径は5.8nm、水浸pHは4.7、Co溶出濃度は26ppmであった。」(第5頁第24?28行)

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)のイより、甲1には、「導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒」について記載されている。

イ 上記(1)のエより、試験例3は、「コバルトの仕込量を0.60gに変更し、その他は試験例1と同様の工程にて触媒粉末を得た」ものであるから、これを試験例1である上記(1)のイに当てはめると、「燃料電池用電極触媒」は、市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させ、この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト0.60gを含む塩化コバルトを純水 0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませ、その後、アンモニア溶液で中和しろ過して得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させ、その後電気炉中で、窒素雰囲気中800℃、6hr加熱し合金処理することにより未合金金属含有触媒粉末Aを得て、得られた未合金金属含有触媒粉末Aから未合金金属を除去するため、1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した後ろ過して得られたケーキを、1mol/Lの硝酸溶液1L中に撹拌し、液温60℃に1hr保持した後ろ過し、得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させることにより得られるものである。

ウ 上記(1)のエより、「燃料電池用電極触媒」のモル組成比はPt:Co=5.0:1.0であり、 触媒粒径が5.8nmであり、Co溶出濃度は26ppmである。

エ 上記ア?ウより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させ、この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト0.60gを含む塩化コバルトを純水0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませ、その後、アンモニア溶液で中和しろ過して得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させ、その後電気炉中で、窒素雰囲気中800℃、6hr加熱し合金処理することにより未合金金属含有触媒粉末Aを得て、
得られた未合金金属含有触媒粉末Aから未合金金属を除去するため、1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した後ろ過して得られたケーキを、1mol/Lの硝酸溶液1L中に撹拌し、液温60℃に1hr保持した後ろ過し、得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させることにより得られる、導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒であって、
モル組成比はPt:Co=5.0:1.0であり、
触媒粒径が5.8nmであり、
Co溶出濃度は26ppmである、
燃料電池用電極触媒。」

オ また、上記ア?ウより、甲1には、次の発明(以下、「甲1電池発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲1発明の燃料電池用電極触媒を含む燃料電池。」

カ さらに、上記ア?ウより、甲1には、次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させ、この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト0.60gを含む塩化コバルトを純水0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませ、その後、アンモニア溶液で中和しろ過して得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させ、その後電気炉中で、窒素雰囲気中800℃、6hr加熱し合金処理することにより未合金金属含有触媒粉末Aを得て、
得られた未合金金属含有触媒粉末Aから未合金金属を除去するため、1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した後ろ過して得られたケーキを、1mol/Lの硝酸溶液1L中に撹拌し、液温60℃に1hr保持した後ろ過し、得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させることにより得られる、導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された燃料電池用電極触媒の製造方法であって、
モル組成比はPt:Co=5.0:1.0であり、
触媒粒径が5.8nmであり、
Co溶出濃度は26ppmである、
燃料電池用電極触媒の製造方法。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25?40Åであるアセチレンブラックに白金粒子及び/又は白金合金粒子が担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比表面積かつ高結晶性のアセチレンブラックとその製造方法、及びそれを用いた燃料電池用触媒に関する。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25?40Åであるアセチレンブラックに白金粒子及び/又は白金合金粒子が担持されてなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒である。また、本発明は、アセチレンガスを、その含水率を絶対湿度で5mg/L以下に減じてから酸素ガスで不完全燃焼反応をさせ、酸化処理して得られた比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25?40Åであることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒に用いるアセチレンブラックの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアセチレンブラックは、比表面積が500?1100m^(2)/gの高比表面積を有し、結晶層厚み(Lc)が25?40Åの高結晶であるので、高反応効率のものとなる。本発明のアセチレンブラックの製造方法によれば、本発明のアセチレンブラックを容易に製造することができる。また、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、高反応効率であるので、これを用いた燃料電池は、初期の出力電圧が高まり、しかもその出力電圧を長期に亘って持続する。」

(4)甲2に記載された事項
ア 上記(3)の【0007】、【0008】によれば、甲2には次の事項が記載されていると認められる。
「比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25?40Åであるアセチレンブラックに白金粒子及び/又は白金合金粒子が担持されてなる固体高分子型燃料電池用触媒において、該固体高分子型燃料電池用触媒は、高反応効率であるので、これを用いた燃料電池は、初期の出力電圧が高まり、しかもその出力電圧を長期に亘って持続する事項。」

(5)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電極触媒として金属間化合物を含む合金を有する固体高分子型燃料電池に関する」
「【0007】本発明は初期活性に優れ、安定性に優れた電極触媒を用いた固体高分子型燃料電池を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、白金元素と、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモン、ビスマス、セレン及びテルルから選ばれる1種以上の添加元素との合金からなり、該合金中に白金元素との金属間化合物を25重量%以上含む該合金を電極触媒として有することを特徴とする固体高分子型燃料電池を提供する。」
「【0030】[例5]比表面積が60m^(2)/gのアセチレンブラック(電気化学工業社製品名:デンカブラック)をイオン交換水中に分散し、ここに塩化白金酸水溶液を添加し、撹拌還流を2時間行って、完全に塩化白金酸を吸着させた。この触媒粉末をろ過、洗浄、乾燥した後、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、500℃で還元処理を行い、担持率30重量%のPt/C触媒を得た。
【0031】この触媒の粉末X線回折で測定したPt粒子径は約3.0nmであった。透過型電子顕微鏡による粒径分布は、約95重量%の粒子径が1.5?4.5nmであった。
【0032】[例6]塩化白金酸量を変えたこと以外は、例5と同様にしてアセチレンブラックにPtを20重量%担持させた触媒を得た。この触媒3gを500mlのイオン交換水に分散し、撹拌しながら希NH_(4)OH水でpHを8に調整した。ここに、0.8gの硝酸クロムを添加し、約2時間撹拌した後、ろ過を行い減圧下100℃で6時間乾燥させた。次いで、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、700℃で2時間熱処理を行い、担持率30重量%のPt-Cr/C触媒を得た。
【0033】この触媒の粉末X線回折で測定した合金の粒子径は約3.5nmであった。透過型電子顕微鏡による粒径分布は、合金中の約93重量%の粒子径が2.0?5.5nmであった。
【0034】[例7]例6において、硝酸クロムの代わりに硝酸コバルトを用いること以外は、例6と同様にして担持率30重量%のPt-Co/C触媒を得た。
【0035】この触媒の粉末X線回折で測定した合金の粒子径は約3.4nmであった。透過型電子顕微鏡による粒径分布は、合金中の約91重量%の粒子径が1.5?5.5nmであった。
【0036】[評価結果]これらの各実施例及び各比較例で調製した触媒80重量部にパーフルオロカーボンスルホン酸型イオン交換樹脂(旭硝子社製品名:フレミオン)を20重量部含有するエタノール溶液を含浸、乾燥させて、イオン交換樹脂で被覆された触媒粉末を得た。この触媒粉末80重量部と粉末状ポリテトラフルオロエチレン20重量部から、白金量として0.5mg/cm^(2)となるようにガス拡散電極を作製した。イオン交換膜として、厚さ80μmのパーフルオロカーボンスルホン酸型イオン交換膜(旭硝子社製品名:フレミオン膜)を使用して、上記のガス拡散電極とホットプレス法により接合体を作製した。」

(6)甲3に記載された発明
ア 上記(5)の【0001】より、甲3に記載された「電極触媒」は、「固体高分子型燃料電池」の「電極触媒」であるといえる。

イ 上記(5)の【0030】には、「比表面積が60m^(2)/gのアセチレンブラック(電気化学工業社製品名:デンカブラック)をイオン交換水中に分散し、ここに塩化白金酸水溶液を添加し、撹拌還流を2時間行って、完全に塩化白金酸を吸着させた。この触媒粉末をろ過、洗浄、乾燥した後、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、500℃で還元処理を行い、担持率30重量%のPt/C触媒を得た」と記載されており、また、上記(5)の【0032】には、[例6]として、「塩化白金酸量を変えたこと以外は、例5と同様にしてアセチレンブラックにPtを20重量%担持させた触媒を得た。この触媒3gを500mlのイオン交換水に分散し、撹拌しながら希NH_(4)OH水でpHを8に調整した。ここに、0.8gの硝酸クロムを添加し、約2時間撹拌した後、ろ過を行い減圧下100℃で6時間乾燥させた。次いで、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、700℃で2時間熱処理を行い、担持率30重量%のPt-Cr/C触媒を得た」と記載されており、さらに、上記(5)の【0034】には、[例7]として、「例6において、硝酸クロムの代わりに硝酸コバルトを用いること以外は、例6と同様にして担持率30重量%のPt-Co/C触媒を得た」と記載されている。

ウ そうすると、上記ア、イより、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「比表面積が60m^(2)/gのアセチレンブラック(電気化学工業社製品名:デンカブラック)をイオン交換水中に分散し、ここに塩化白金酸水溶液を添加し、撹拌還流を2時間行って、完全に塩化白金酸を吸着させ、この触媒粉末をろ過、洗浄、乾燥した後、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、500℃で還元処理を行い、アセチレンブラックにPtを20重量%担持させた触媒を得た後、この触媒3gを500mlのイオン交換水に分散し、撹拌しながら希NH_(4)OH水でpHを8に調整し、ここに、硝酸コバルトを添加し、約2時間撹拌した後、ろ過を行い減圧下100℃で6時間乾燥させ、次いで、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、700℃で2時間熱処理を行い、固体高分子型燃料電池の電極触媒である、担持率30重量%のPt-Co/C触媒を得る方法。」

(7)甲4の記載
ア 「【請求項4】
白金および遷移金属を炭素材料に担持させる担持工程と、
白金および遷移金属が担持された炭素材料を熱処理する熱処理工程と、
熱処理後の触媒前駆体を酸に接触させる酸処理工程と、
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒およびその製造方法に関する。」
ウ 「【0036】
(酸処理)
酸処理工程では、熱処理後の触媒前駆体を酸に接触させる。酸処理によって触媒金属の表面の遷移金属を溶解させ、表面近傍の白金の存在比を高めることでXRD測定で得られるPt(111)に由来するピークの角度を制御できる。さらにこの方法によれば、上記ピークの角度の分布も狭くすることができる。
【0037】
酸処理の条件は、特に限定されない。酸としては、特に制限されないが、好ましくは硫酸、硝酸などの強酸が用いられる。酸の濃度は特に制限がなく、好ましくは0.1?3.0M、より好ましくは0.5?2.0M、特に好ましくは0.5?1.0Mの水溶液として使用される。
【0038】
酸処理は、例えば、熱処理後の触媒前駆体を、好ましくは20?100℃、より好ましくは50?100℃、特に好ましくは70?100℃に加熱した酸の水溶液中に懸濁させることで行うことができる。酸処理時間は、好ましくは10?20時間であり、より好ましくは10?15時間であり、特に好ましくは10?12時間である。酸処理の温度および時間が上記範囲であれば、Pt(111)に由来する2θのピークの角度を所定の範囲にし、ピークの角度の分布を狭くすることができる。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を好ましくは減圧下で、50?80℃で2?5時間乾燥させることによって、電極触媒が完成される。上記酸処理は、1回であっても、同一または異なった条件で複数回行ってもよい。」

(8)周知技術
ア 上記(1)のウ及び上記(7)のア、ウの記載から、次の事項が周知技術であるといえる。
「燃料電池用電極触媒の製造方法において、白金および遷移金属を炭素材料に担持させ、白金および遷移金属を熱処理により合金化した後、酸処理を行う事項。」

5 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項
ア 上記2の2-1の(1)のア及びイについて
ア-1 請求項1に対して
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された」事項は、本件発明1の「担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含」むものに相当する。
また、甲1発明の「1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した」事項と、本件発明1の「70?90℃で酸処理されている」事項とは、「90℃で酸処理されている」事項で重複する。
そうすると、甲1発明の「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させ、この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト0.60gを含む塩化コバルトを純水 0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませ、その後、アンモニア溶液で中和しろ過して得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させ、その後電気炉中で、窒素雰囲気中800℃、6hr加熱し合金処理することにより未合金金属含有触媒粉末Aを得て、得られた未合金金属含有触媒粉末Aから未合金金属を除去するため、1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した後ろ過して得られたケーキを、1mol/Lの硝酸溶液1L中に撹拌し、液温60℃に1hr保持した後ろ過し、得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させることにより得られ」、「導電性担体上に白金及びコバルトからなる触媒粒子が担持された」事項と、本件発明1の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含み、」「70?90℃で酸処理されている」事項とは、「カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含み、」「90℃で酸処理されている」事項で重複する。

(イ)甲1発明の「モル組成比はPt:Co=5.0:1.0であ」る事項と、本件発明1の「合金における白金とコバルトとのモル比が4?11:1であ」る事項とは、「合金における白金とコバルトとのモル比が5:1であ」る事項で重複する。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、本件発明1と甲1発明とは、
「カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含み、
前記合金における白金とコバルトとのモル比が5:1であり、
90℃で酸処理されている、燃料電池用電極触媒。」である点で一致し、次の相違点1で相違する。

(相違点1)
「カーボン担体」が、本件発明1では、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」であるのに対し、甲1発明では、「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」である点。

(エ)以下、上記相違点1について、検討する。

(オ)甲1発明の「カーボンブラック粉末」は、比表面積が約800m^(2)/gであるものの、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)」がどの程度であるか明記されていない。

(カ)また、意見書2の第7頁第20行?第8頁第3行及び「表.比表面積(BET表面積)、及びt-Plot表面積の測定結果」によれば、「ライオン株式会社製ケチェンブラックECP-FP」は、比表面積が829m^(2)/g、t-Plot表面積/BET表面積が27%であり、比表面積が800m^(2)/g程度であっても、必ずしも、t-Plot表面積/BET表面積が40%以上とはならないカーボンブラックが存在することが示されている。

(キ)そうすると、甲1発明の「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」が、比表面積が約800m^(2)/gだからといって、本件発明1の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である」事項を含むものとはただちにいいきれないし、また、甲1発明の「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」に代えて、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン」を採用する動機付けも見当たらない。

(ク)したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるし、甲1発明において、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ケ)よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ア-2 請求項2、5に対して
(ア)本件発明2、5は、いずれも本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。

(イ)そうすると、本件発明2、5と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1と同様の相違点で相違するものであるから、上記ア-1の(オ)?(ケ)で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、5は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ア-3 請求項6に対して
(ア)本件発明6は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。

(イ)そうすると、本件発明6と甲1電池発明とは、少なくとも上記相違点1と同様の相違点で相違するから、上記ア-1の(オ)?(ケ)で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲1電池発明ではないし、甲1電池発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ア-4 請求項7に対して
(ア)甲1方法発明は、「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させ、この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト0.60gを含む塩化コバルトを純水 0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませ」るものである。
ここで、「カーボンとなじませ」た「白金5.0g」と「コバルト0.60g」とのモル比を算出すると、白金の原子量は約195.1、コバルトの原子量は約58.9であるから、該モル比は、約0.0256:0.0102であって、コバルトを1に換算すると、約2.51:1となる。
そうすると、甲1方法発明の「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末5.0gを純水0.5Lに加え分散させ、この分散液に白金5.0gを含む塩化白金酸溶液、およびコバルト0.60gを含む塩化コバルトを純水 0.1Lに溶解して滴下し、十分にカーボンとなじませ」る事項と、本件発明7の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程」「を含み、担持工程において、白金とコバルトとを2.5?6.9:1のモル比で担持」する事項とは、「カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程」「を含み、担持工程において、白金とコバルトとを約2.51:1のモル比で担持」する事項で重複する。

(イ)甲1方法発明の「その後、アンモニア溶液で中和しろ過して得られたケーキを真空中、100℃で10hr乾燥させ、その後電気炉中で、窒素雰囲気中800℃、6hr加熱し合金処理することにより未合金金属含有触媒粉末Aを得」る事項と、本件発明7の「中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程」「を含み、」「合金化工程において、白金とコバルトとを700?900℃で合金化する」事項とは、「カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程」「を含み、」「合金化工程において、白金とコバルトとを800℃で合金化する」事項で重複する。

(ウ)甲1方法発明の「得られた未合金金属含有触媒粉末Aから未合金金属を除去するため、1mol/Lのギ酸溶液1L中に撹拌し、液温90℃に1hr保持した後ろ過して得られたケーキを、1mol/Lの硝酸溶液1L中に撹拌し、液温60℃に1hr保持した後ろ過」する事項と、本件発明7の「中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70?90℃で酸処理する酸処理工程;を含」む事項とは、「カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を90℃で酸処理する酸処理工程;を含」む事項で重複する。

(エ)上記(ア)?(ウ)より、本件発明7と甲1方法発明とは、
「カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;及び
カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を90℃で酸処理する酸処理工程;
を含み、
担持工程において、白金とコバルトとを約2.51:1のモル比で担持し、
合金化工程において、白金とコバルトとを800℃で合金化する、燃料電池用電極触媒の製造方法。」である点で一致し、次の相違点2で相違する。

(相違点2)
「カーボン担体」が、本件発明7では、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」であるのに対し、甲1方法発明では、「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」である点。

(オ)上記相違点2は、上記相違点1と同様の相違点であるから、上記ア-1の(オ)?(ケ)で検討した理由と同様の理由により、本件発明7は、甲1方法発明ではないし、甲1方法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 上記2の2-3の(1)のアについて
イ-1 請求項1に対して
(ア)甲1発明は、上記4の(2)のエに示したとおりであり、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記アのア-1の(ウ)に示したとおりであるところ、該相違点を再掲すると次の相違点1のとおりである。

(相違点1)
「カーボン担体」が、本件発明1では、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」であるのに対し、甲1発明では、「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」である点。

(イ)ここで、申立人は特許異議申立書第18頁最後から4行?第20頁第17行において、甲1発明において甲2に記載された事項を適用することにより、本件発明1は容易に発明をすることができると主張しているので、以下、この主張について検討する。

(ウ)上記4の(4)のアより、甲2には、「比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25?40Åであるアセチレンブラックに白金粒子及び/又は白金合金粒子が担持されてなる固体高分子型燃料電池用触媒において、該固体高分子型燃料電池用触媒は、高反応効率であるので、これを用いた燃料電池は、初期の出力電圧が高まり、しかもその出力電圧を長期に亘って持続する事項」が記載されている。

(エ)一方、本件明細書には、「中実カーボンとは、中空カーボンと比較して、カーボン内部の空隙が少ないカーボンであり、具体的は、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである。中実カーボンとしては、例えば、特許第4362116号に記載のカーボンを挙げることができる。具体的には、比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が15?40Åであるアセチレンブラックを挙げることができる。より具体的には、電気化学工業株式会社製のデンカブラック(登録商標)等を挙げることができる」(【0019】?【0020】、上記3の(1)参照。)と記載されている。

(オ)ここで、甲2は、上記(エ)に記載された「特許第4362116号」の特許公報であって、甲2に記載された「アセチレンブラック」は、「比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25?40Åである」から、本件発明1の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」に相当するといえる。

(カ)そして、甲1発明は、「電池出力」の「高い燃料電池用電極触媒」(上記4の(1)のア参照。)を提供するものであるのに対し、甲2に記載された「固体高分子型燃料電池用触媒」は、「出力電圧を長期に亘って持続する」ものであって、両者は、いずれも電池出力を高くするものではある。

(キ)しかしながら、甲1の「白金:コバルト=3:1?5:1の範囲で高い電池電圧が得られる。白金:コバルト=3:1より白金の割合が少ないと触媒からのコバルトの溶出が増す。逆に白金:コバルト=5:1より白金の割合が多いと触媒活性が低くなる」(上記4の(1)のイ参照。)との記載からみて、甲1発明において「電池出力」が高い理由は、白金:コバルト=3:1?5:1の範囲とすることにより、触媒活性を高め得ることに起因するのに対し、甲2に記載された事項は、上記(ウ)より、担体である「アセチレンブラック」が「高反応効率である」ことに起因するものであるから、両者の高電池出力は、その意味合いが異なるものである。

(ク)したがって、甲1発明において、甲2の記載事項を適用することは、容易に想到されたことではない。

(ケ)また、本件明細書には、「従来使用されていた中空カーボン担体にPtCo合金を担持すると、一部のPtCo合金が中空カーボン担体の内部に包含されることになる。この場合、Coの溶出を抑制するための酸処理を行っても、担体内部に存在するPtCo合金を十分に処理することは困難である。その結果、担体内部に存在するPtCo合金からCoが溶出しやすくなる。そこで、本発明では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避した。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる」(【0009】?【0010】、上記3の(1)参照。)と記載されており、この記載から、本願発明は、中空カーボンに代えて、中実カーボンを用いることにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができ、その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となるという作用効果を奏することが、合理的に理解できる。

(コ)そうすると、仮に、甲1発明において、甲2に記載された事項を適用することを想起し得たとしても、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができ、その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となるという本願発明の作用効果まで、想到することはできないというべきである。

(サ)したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項を適用して、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(シ)よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

イ-2 請求項2、5に対して
(ア)本件発明2、5は、いずれも本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。

(イ)そうすると、本件発明2、5と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1と同様の相違点で相違するものであるから、上記イ-1の(ウ)?(シ)で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、5は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をし得たものであるとはいえない。

イ-3 請求項6に対して
(ア)本件発明6は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。

(イ)そうすると、本件発明6と甲1電池発明とは、少なくとも上記相違点1と同様の相違点で相違するものであるから、上記イ-1の(ウ)?(シ)で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲1電池発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ-4 請求項7に対して
(ア)甲1方法発明は、上記4の(2)のカに示したとおりであり、本件発明7と甲1方法発明との一致点及び相違点は、上記アのア-4の(エ)に示したとおりであるところ、該相違点を再掲すると次の相違点2のとおりである。

(相違点2)
「カーボン担体」が、本件発明7では、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」であるのに対し、甲1方法発明では、「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」である点。

(オ)上記相違点2は、上記相違点1と同様の相違点であるから、上記イ-1の(ウ)?(シ)で検討した理由と同様の理由により、本件発明7は、甲1方法発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 上記2の2-3の(1)のイについて
ウ-1 請求項7に対して
甲3発明と本件発明7とを対比する。
(ア)甲3発明の「比表面積が60m^(2)/gのアセチレンブラック(電気化学工業社製品名:デンカブラック)」と、本件発明7の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」とは、「カーボン担体」で一致する。

(イ)そうすると、甲3発明の「比表面積が60m^(2)/gのアセチレンブラック(電気化学工業社製品名:デンカブラック)をイオン交換水中に分散し、ここに塩化白金酸水溶液を添加し、撹拌還流を2時間行って、完全に塩化白金酸を吸着させ、この触媒粉末をろ過、洗浄、乾燥した後、電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、500℃で還元処理を行い、アセチレンブラックにPtを20重量%担持させた触媒を得た後、この触媒3gを500mlのイオン交換水に分散し、撹拌しながら希NH_(4)OH水でpHを8に調整し、ここに、硝酸コバルトを添加し、約2時間撹拌した後、ろ過を行い減圧下100℃で6時間乾燥させ」る事項と、本件発明7の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程」「を含」む事項とは、「カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程」「を含」む事項で一致する。

(ウ)甲3発明の「電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、700℃で2時間熱処理を行」う事項は、技術常識に照らせば、「アセチレンブラックに」「担持させた」「Pt」と「硝酸コバルト」の「コバルト」とを合金化する工程であるといえるから、甲3発明の「電気炉内部を3%の水素を含有したアルゴン雰囲気下に保ち、700℃で2時間熱処理を行」う事項と、本件発明7の「中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程」「を含み、」「合金化工程において、白金とコバルトとを700?900℃で合金化する」事項とは、「カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程」「を含み、」「合金化工程において、白金とコバルトとを700℃で合金化する」事項で重複する。

(エ)甲3発明の「固体高分子型燃料電池の電極触媒である、担持率30重量%のPt-Co/C触媒を得る方法」は、本件発明7の「燃料電池用電極触媒の製造方法」に相当する。

(オ)上記(ア)?(エ)より、本件発明7と甲3発明とは、
「カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;
を含み、
合金化工程において、白金とコバルトとを700℃で合金化する、燃料電池用電極触媒の製造方法。」である点で一致し、次の相違点3?5で相違する。

(相違点3)
「カーボン担体」が、本件発明7では、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」であるのに対し、甲3発明では、「市販の比表面積(約800m^(2)/g)のカーボンブラック粉末」である点。

(相違点4)
本件発明7は、「カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70?90℃で酸処理する酸処理工程;を含」むのに対し、甲3発明は、酸処理を行っているのか不明である点。

(相違点5)
「担持工程において、白金とコバルトとを」「担持」する「モル比」が、本件発明7は、「2.5?6.9:1」であるのに対し、甲3発明は、白金とコバルトとのモル比が不明である点。

(カ)まず、事案に鑑み、相違点4について検討する。

(キ)上記4の(8)より、燃料電池用電極触媒の製法方法において、白金および遷移金属を炭素材料に担持させ、白金および遷移金属を熱処理により合金化した後、酸処理を行う事項は周知技術であるから、甲3発明において、当該技術が適用可能か否かを、以下検討する。

(ク)上記イのイ-1の(ケ)で検討したように、本件明細書の記載から、本件発明7は、中空カーボンに代えて、中実カーボンを用いることにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができ、その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となるという効果を奏することが、合理的に理解できる。

(ケ)そうすると、仮に、甲3発明において、上記(キ)の周知技術を適用することを想起し得たとしても、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができ、その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となるという本件発明7の作用効果まで、想到することはできないというべきである。

(コ)したがって、甲3発明において、上記相違点4に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(サ)また、上記相違点3は、上記相違点1、2と同様の相違点であるから、上記アのア-1の(オ)?(ケ)または上記イ-1の(ウ)?(シ)で検討した理由と同様の理由により、甲3発明において、上記相違点3に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(シ)したがって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件発明7は、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号
ア 上記2の2-1の(2)のアについて
請求項4は、本件訂正により削除されたから、上記2の2-1の(2)のアの取消理由は解消された。

イ 上記2の2-1の(2)のイについて
請求項8は、本件訂正により削除されたから、上記2の2-1の(2)のイの取消理由は解消された。

(3)特許法第36条第6項第2号
ア 上記2の2-1の(3)のアについて
(ア)本件訂正により、請求項1、7について、本件訂正前の「中実カーボン担体」が「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」と訂正された。

(イ)そうすると、本件訂正前は、「中実カーボン」が、どの程度まで空隙を含む「カーボン」であるか不明であったが、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である」ものに特定された。

(ウ)そして、「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である」事項は、明確であるといえるから、本件発明1、7及び本件発明1を引用する本件発明2、5、6は明確である。

イ 上記2の2-1の(3)のイについて
(ア)請求項1は、「燃料電池用電極触媒」という物の発明であるが、「70?90℃で酸処理されている」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。

(イ)ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下、「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。

(ウ)そこで、請求項1の「70?90℃で酸処理されている」との記載について、「不可能・非実際的事情」が存在するか否かを以下検討する。

(エ)本件発明1は、「中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含」むものであって、該合金の表面にコバルトが形成されているところ、これを「70?90℃で酸処理」すると、該合金の表面のコバルトが酸で洗われるために、表面のコバルトが少なくなることとなる。

(オ)そして、合金の表面と合金の内部の状態とを区別して定義することは極めて困難であるから、「70?90℃で酸処理されている」との記載がなければ物の発明である触媒の状態を定義することはできず、その一方で触媒をその構造又は物質により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事項が存在する、すなわち、請求項1の「70?90℃で酸処理されている」との記載について、「不可能・非実際的事情」が存在すると考えられる。

(カ)よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2?6は、明確でないとはいえない。

ウ 上記2の2-1の(3)のウについて
請求項3は、本件訂正により削除されたから、上記2の2-1の(3)のウの取消理由は解消された。

エ 上記2の2-1の(3)のエについて
請求項8は、本件訂正により削除されたから、上記2の2-1の(3)のエの取消理由は解消された。

6 申立人の意見について
(1)訂正の適否について
申立人は申立人意見書(第1頁最後から5行?第2頁第12行)において、本件特許明細書には、中実カーボンとして、粒子サイズから粒子外部の表面積を算出することによって得られる、特殊なt-Potによる外表面積を用いて規定されたカーボンが開示されているに過ぎず、一般的なt-Plot法によって得られる外表面積を用いて中実カーボンを規定することは開示されていない旨主張している。
しかしながら、上記第2の2の(1)でも検討したとおり、t-Potによる外表面積はt-Plotによる外表面積の誤記であることは、当業者には、明らかであるから、t-Plotによる外表面積とする訂正は、所謂新規事項の追加には当たらない。
よって、申立人の主張は理由がない。

(2)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
申立人は申立人意見書(第2頁最後から5行?第4頁最後から3行)において、甲1の試験例1で使用された比表面積800m^(2)/gのカーボンブラックと、本件発明の「中実カーボン」とは、比表面積及びアセチレンブラックである点で共通するから、本件発明1及び7の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」に該当する蓋然性が高いと主張している。
しかしながら、上記5の(1)のアのア-1の(カ)で検討したように、意見書2の第7頁第20行?第8頁第3行及び「表.比表面積(BET表面積)、及びt-Plot表面積の測定結果」によれば、「ライオン株式社製ケチェンブラックECP-FP」は、比表面積が829m^(2)/g、t-Plot表面積/BET表面積が27%であり、比表面積が800m^(2)/g程度であっても、必ずしも、t-Plot表面積/BET表面積が40%以上とはならないカーボンブラックが存在することが示されている以上、甲1の試験例1のカーボンブラックが、本件発明1及び7の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体」であるとはいいきれない。
よって、申立人の主張は理由がない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
申立人は申立人意見書(第7頁第5?18行)において、本件発明1及び7の「t-Plot表面積」及び「BET表面積」が、いずれも一般的な用語であっても、その比である「t-Plot表面積/BET表面積」が、如何なる技術的意義を有するのかが不明であるから、本件発明の「中実カーボン」は依然として明確でないと主張している。
しかしながら、上記第2の2の(1)のa?cの周知例に示されているとおり、「t-Plot表面積」とは外表面積を意味するものであり、「BET表面積」とは細孔を含めた表面積を意味することが技術常識であって、結局「t-Plot表面積/BET表面積」とは、中実度を表すものであるといえるから、「t-Plot表面積/BET表面積」の技術的意義は明確である。
そして、本件発明の「中実カーボン」が明確であることは、上記5の(3)のアで検討したとおりであるから、申立人の主張は理由がない。

(4)特許法第36条第4項第1号について
申立人は申立人意見書(第8頁最後から5行?第9頁第14行)において、本件発明1及び7の「N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)」を本件発明1及び7に記載された所定の範囲に調節する方法が記載されていないから、実施可能要件違反である旨主張している。
しかしながら、本件明細書の記載によれば、実施例1において、「中実カーボン」として、「デンカブラック(1.0g:電気化学工業株式会社製)」(【0042】)を用いており、さらに、本件明細書には、「本実施例で使用したデンカブラックは、中実カーボンであって、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が19Åであり、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t-Pot表面積/BET表面積)が49.6%である」(【0043】)と記載されている。
また、意見書2の第7頁第20行?第8頁第3行及び「表.比表面積(BET表面積)、及びt-Plot表面積の測定結果」によれば、「デンカ株式会社製デンカブラックOSAB」は、t-Plot表面積/BET表面積が57%となっている。
そうすると、本件明細書に、カーボンブラックの「t-Plot表面積/BET表面積」を40%以上に調節する方法が記載されていなかったとしても、市販の「デンカブラック」のうち、「t-Plot表面積/BET表面積」が40%以上であるものを購入し、当該「デンカブラック」を用いて、本件発明1の「燃料電池用電極触媒」または本件発明7の「燃料電池用電極触媒の製造方法」を実施することは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、なし得ることであるといえる。
よって、申立人の主張は理由がない。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2、5?7に係る特許は、平成30年7月20日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、平成31年1月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1、2、5?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項3、4、8は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項3、4、8に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
燃料電池用電極触媒及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料を補充することにより継続的に電力を取り出すことができ、且つ環境への負担が小さい発電装置である。近年の地球環境保護への関心の高まりにより、燃料電池には大きな期待が寄せられている。また、燃料電池は発電効率が高く、システムの小型化が可能であるため、パソコンや携帯電話等の携帯機器、自動車や鉄道等の車両等の様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
燃料電池は、一対の電極(カソード及びアノード)及び電解質から構成されており、当該電極には担体、及び当該担体に担持された触媒金属からなる電極触媒が含まれている。従来の燃料電池における担体としては一般的にカーボンが使用されている。また、触媒金属としては一般的に白金又は白金合金が使用されている。
【0004】
燃料電池の性能を向上するためには、電極触媒の活性を高めることが必要である。活性の向上を目的とした多くの技術が報告されている(例えば、特許文献1?7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-124001号公報
【特許文献2】特開2013-252483号公報
【特許文献3】特開2012-248365号公報
【特許文献4】特開2012-236138号公報
【特許文献5】特開2005-317546号公報
【特許文献6】特開2005-166409号公報
【特許文献7】特開2009-140657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、白金(Pt)とコバルト(Co)との合金(以下「PtCo合金」という)をカーボン担体に微細に担持させた電極触媒を使用することにより、燃料電池の初期性能を向上させることが行われていた。しかしながら、PtCo合金を含む電極触媒は、長期耐久試験においてCoを溶出し、燃料電池のプロトン抵抗を上昇させてしまう。即ち、PtCo合金を使用することにより、燃料電池の初期性能は向上するものの、耐久性能が低下するという問題が存在していた。
【0007】
この問題に対して、例えば、PtCo合金におけるCoの比率を低下させる試み、Coの溶出を抑制するために電極触媒に対して酸処理を行う試み等が行われていた。しかしながら、Coの溶出を十分に抑制することは困難であった。
【0008】
そのため、本発明は、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のことが判明した。
従来使用されていた中空カーボン担体にPtCo合金を担持すると、一部のPtCo合金が中空カーボン担体の内部に包含されることになる。この場合、Coの溶出を抑制するための酸処理を行っても、担体内部に存在するPtCo合金を十分に処理することは困難である。その結果、担体内部に存在するPtCo合金からCoが溶出しやすくなる。
【0010】
そこで、本発明では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避した。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる。
【0011】
また、PtとCoとが特定のモル比を有する場合に、燃料電池の初期性能及び耐久性能が更に向上することが判明した。加えて、PtCo合金が特定の平均粒径を有する場合に、燃料電池の初期性能及び耐久性能が更に向上することが判明した。
【0012】
更に、適切な条件で酸処理を行うことにより、反応に寄与しないCoを十分に除去し、Coの溶出を更に抑制できることが判明した。
【0013】
即ち、本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含む、燃料電池用電極触媒。
[2]
前記合金における白金とコバルトとのモル比が4?11:1である、[1]に記載の燃料電池用電極触媒。
[3]
前記合金の平均粒径が3.5?4.1nmである、[1]又は[2]に記載の燃料電池用電極触媒。
[4]
X線小角散乱法により測定した前記合金の分散度が44%以下である、[1]?[3]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[5]
70?90℃で酸処理されている、[1]?[4]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[6]
コバルトの溶出量が115ppm以下である、[1]?[5]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
[7]
[1]?[6]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池。
[8]
中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。
[9]
担持工程において、白金とコバルトとを2.5?6.9:1のモル比で担持する、[8]に記載の製造方法。
[10]
合金化工程において、白金とコバルトとを700?900℃で合金化する、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70?90℃で酸処理する酸処理工程を更に含む、[8]?[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立させることができる。
【0015】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2014-216946号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Pt/Coモル比と質量活性との関係を示す。
【図2】PtCo合金の平均粒径と質量活性との関係を示す。
【図3】PtCo合金の平均粒径とECSA維持率との関係を示す。
【図4】Co溶出量とプロトン抵抗との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<燃料電池用電極触媒>
本発明の一実施形態は、中実カーボン担体と、当該担体に担持されたPtCo合金とを含む、燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」ともいう)に関する。
【0018】
本実施形態では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避することができる。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができる。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となる。
【0019】
中実カーボンとは、中空カーボンと比較して、カーボン内部の空隙が少ないカーボンであり、具体的は、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンである。
【0020】
中実カーボンとしては、例えば、特許第4362116号に記載のカーボンを挙げることができる。具体的には、比表面積が500?1100m^(2)/g、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が15?40Åであるアセチレンブラックを挙げることができる。より具体的には、電気化学工業株式会社製のデンカブラック(登録商標)等を挙げることができる。
【0021】
中実カーボン担体の平均粒径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは13μm以下、特に好ましくは10μm以下等を挙げることができる。平均粒径の下限としては、例えば0.01μm、0.1μm等を挙げることができる。平均粒径の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0022】
本実施形態では、電極触媒においてPtCo合金を使用することにより、燃料電池の初期性能を向上させることができる。ここで、PtCo合金におけるPtとCoとのモル比を11以下:1とすることにより、電極触媒の質量活性を更に高めることができる。また、PtCo合金におけるPtとCoとのモル比を4以上:1とすることにより、Coの溶出を更に抑制することができる。従って、PtCo合金におけるPtとCoとのモル比を4?11:1とすることにより、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。より好ましいPtとCoとのモル比としては、例えば5?9:1等を挙げることができる。モル比の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0023】
また、PtCo合金の平均粒径を4.1nm以下とすることにより、電極触媒の質量活性を更に高めることができる。また、PtCo合金の平均粒径を3.5nm以上とすることにより、一定の電気化学的活性表面積(ECSA)を維持することができる。ECSAの維持率は耐久性能の指標とすることができる。従って、PtCo合金の平均粒径を3.5?4.1nmとすることにより、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。より好ましいPtCo合金の平均粒径としては、例えば3.6nm?4.0nm等を挙げることができる。平均粒径の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0024】
中実カーボン担体に担持されたPtCo合金の分散度は、X線小角散乱法(SAXS)により測定した場合に、好ましくは44%以下、より好ましくは40%以下、特に好ましくは36%以下である。X線小角散乱法による分散度は、PtCo合金の均一性の指標とすることができる。44%以下の分散度を有することにより、燃料電池の性能を更に向上させることができる。分散度の下限としては、例えば、5%、10%等を挙げることができる。分散度の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0025】
X線小角散乱法による分散度は、解析ソフトを用いて算出することができる。解析ソフトとしては、例えば、nano-solver(株式会社リガク製)等を挙げることができる。
【0026】
中実カーボン担体に対するPtCo合金の担持量は、例えば、中実カーボン担体とPtCo合金との合計重量を基準として、好ましくは47.7?53.6重量%、より好ましくは48.0?52.9重量%、特に好ましくは49.1?51.5重量%である。担持量の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0027】
中実カーボン担体に対するPtの担持量は、例えば、中実カーボン担体とPtCo合金との合計重量を基準として、好ましくは46.5?49.9重量%、より好ましくは47.1?49.1重量%、特に好ましくは47.3?48.7重量%である。担持量の前記範囲の上限及び下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。なお、Ptの担持量を、例えば、10?50重量%の低担持量、又は50?90重量%の高担持量としてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態では、電極触媒は適切な条件(70?90℃)で酸処理されているため、Coの溶出が抑制されている。具体的には、酸処理された電極触媒は、特定の条件(硫酸溶液20mLと電極触媒0.5gをサンプル瓶中に撹拌子と共に入れ、スターラーで混合分散し、室温下で100時間混合する条件)において、Coの溶出量が好ましくは115ppm以下であり、より好ましくは40ppm以下であり、特に好ましくは30ppm以下である。Coの溶出量の下限としては、例えば、0ppm、5ppm等を挙げることができる。Coの溶出量の前記上限及び前記下限を適宜組み合わせて、新たな範囲を画定してもよい。
【0029】
<燃料電池>
本発明の一実施形態は、上記電極触媒とアイオノマーとを含む燃料電池用電極(以下、単に「電極」という)と、電解質とを含む燃料電池に関する。
【0030】
アイオノマーの種類としては、例えば、Du Pont社製のNafion(登録商標)DE2020、DE2021、DE520、DE521、DE1020及びDE1021、並びに旭化成ケミカルズ(株)製のAciplex(登録商標)SS700C/20、SS900/10及びSS1100/5等を挙げることができる。
【0031】
燃料電池の種類としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)等を挙げることができる。特に限定するものではないが、燃料電池は固体高分子形燃料電池であることが好ましい。
【0032】
上記電極触媒を含む電極はカソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0033】
燃料電池はセパレータを更に含んでいてもよい。一対の電極(カソード及びアノード)と電解質膜とからなる膜電極接合体(MEA)を一対のセパレータで挟持した単セルを積み重ね、セルスタックを構成することにより、高い電力を得ることができる。
【0034】
<燃料電池用電極触媒の製造方法>
本発明の一実施形態は、上記電極触媒の製造方法に関するものであり、具体的には、中実カーボン担体にPtとCoとを担持する担持工程;及び中実カーボン担体に担持されたPtとCoとを合金化する合金化工程;を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。
【0035】
担持工程では、PtとCoとを好ましくは2.5?6.9:1のモル比、より好ましくは3.1?5.7:1のモル比で担持する。以下で説明する酸処理工程においてCoの一部が除去されるため、担持工程では、完成品の電極触媒におけるPtとCoとの好ましいモル比と比較して、Coを多く担持する。このようなモル比を採用して製造された電極触媒を使用することによって、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。
【0036】
合金化工程では、PtとCoとを好ましくは700?900℃、より好ましくは750?850℃で合金化する。このような合金化温度を採用して製造された電極触媒を使用することによって、燃料電池の初期性能及び耐久性能を更に向上させることができる。
【0037】
本実施形態の製造方法は、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を酸処理する酸処理工程を更に含むことが好ましい。
【0038】
酸処理工程では、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を好ましくは70?90℃、より好ましくは75?85℃で酸処理する。このような温度で酸処理することによって、反応に寄与しないCoを十分に除去することができる。これにより、Coの溶出を抑制することができる。
【0039】
酸処理工程において使用する酸としては、例えば、無機酸(硝酸、リン酸、過マンガン酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(酢酸、マロン酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、乳酸等)を挙げることができる。
【0040】
本実施形態の製造方法における材料、製造物、それらの特徴等については、<燃料電池用電極触媒>の項目において既に説明している。上記項目において説明した事項を本項目において適宜参酌するものとする。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は特許請求の範囲に包含されるか否かによって区別されるものではない。特に良好な結果が得られた実施形態を実施例とし、それ以外の実施形態を比較例とした。
【0042】
<電極触媒の製造>
[実施例1]
担持工程:デンカブラック(1.0g:電気化学工業株式会社製)を純水(41.6mL)に分散させた。白金(1.0g)を含むジニトロジアミン白金硝酸溶液(特許第4315857号:キャタラー株式会社製)を滴下し、デンカブラックと十分に馴染ませた。還元剤としてエタノール(3.2g)を加え、還元担持を行った。分散液をろ過洗浄し、得られた粉末を乾燥させ、白金担持触媒を得た。次に、白金担持触媒の表面上の酸素量を4重量%以下まで低減させ、製品比率(モル比)でPt:Coが7:1となるようにコバルト(0.03g)を担持させた。
【0043】
本実施例で使用したデンカブラックは、中実カーボンであって、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が19Åであり、N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が49.6%である。なお、中空カーボンの場合、t-Plot表面積/BET表面積は28.1%である。
【0044】
合金化工程:得られた担持触媒をアルゴン雰囲気下、800℃で合金化した。
酸処理工程:合金化した担持触媒を0.5N硝酸を使用して80℃で酸処理し、電極触媒を得た。
【0045】
[実施例2?27、比較例1?73]
Pt:Co(モル比)、合金化温度、酸処理温度を変更したこと以外は実施例1と同一の工程で電極触媒を製造した。
実施例及び比較例の製造条件を表1?4に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
<MEA評価>
実施例及び比較例で製造した電極触媒を有機分溶媒に分散させ、分散液をテフロン(登録商標)シートへ塗布して電極を形成した。電極をそれぞれ高分子電解質膜を介してホットプレスによって貼り合わせ、その両側に拡散層を配置して固体高分子形燃料電池用の単セルを作成した。
【0051】
セル温度を80℃、両電極の相対湿度を100%とし、スモール単セル評価装置システム(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)及びIV測定を行った。
【0052】
CVについては、範囲を0.05?1.2V、速度を100mV/sとして電位走査を5度行い、5度目のCVのH_(2)吸着領域の電荷量からECSA(Pt質量当たりの電気化学的な表面積)を算出した。
【0053】
IV測定については、0.01?1.0A/cm^(2)の範囲で任意に電流を制御した。0.76V時のPt質量当たりの電流値を質量活性と定義した。
【0054】
<PtCo合金の平均粒径>
JIS K 0131に準拠したX線回折法(XRD法)で測定されたXRDチャートにおける、Pt金属単体が示すピークの強度から算出した。
【0055】
<Co溶出量>
硫酸溶液20mLと電極触媒0.5gをサンプル瓶中に撹拌子と共に入れ、スターラーで混合分散し、室温下で100時間混合する。その後、混合液を固液分離(ろ過)し、ろ液中のCo濃度をICPで測定した。
【0056】
<プロトン抵抗>
単セルのIVを測定後、交流インピーダンス法によりプロトンを算出した。
【0057】
<結果1>
図1にPt/Coモル比と質量活性との関係を示す。
図1における各プロットは、左から:
比較例13(Pt/Coモル比:3、質量活性:253mA/cm^(2)@0.76V);
実施例14(Pt/Coモル比:4、質量活性:200mA/cm^(2)@0.76V);
実施例1(Pt/Coモル比:7、質量活性:185mA/cm^(2)@0.76V);
実施例23(Pt/Coモル比:11、質量活性:175mA/cm^(2)@0.76V);
比較例86(Pt/Coモル比:15、質量活性:165mA/cm^(2)@0.76V);
に対応する。
【0058】
FC車に搭載する電極触媒に求められる質量活性は175mA/cm^(2)@0.76V以上である。そのため、Pt/Coモル比は11以下であることが好ましい。一方、図4から分かるように、Pt/Coモル比が3である比較例13ではCoの溶出量が多い。従って、好ましいPt/Coモル比は4?11である。
【0059】
<結果2>
図2にPtCo合金の平均粒径と質量活性との関係を示す。また、図3にPtCo合金の平均粒径とECSA維持率との関係を示す。
【0060】
図2及び図3における各プロットは、左から:
比較例44(平均粒径:3nm、質量活性:203mA/cm^(2)@0.76V、ECSA維持率:37%);
実施例8(平均粒径:3.5nm、質量活性:191mA/cm^(2)@0.76V、ECSA維持率:40%);
実施例1(平均粒径:4nm、質量活性:185mA/cm^(2)@0.76V、ECSA維持率:50%);
実施例5(平均粒径:4.1nm、質量活性:178mA/cm^(2)@0.76V、ECSA維持率:52%);
比較例23(平均粒径:6nm、質量活性:135mA/cm^(2)@0.76V、ECSA維持率:71%);
比較例55(平均粒径:7nm、質量活性:113mA/cm^(2)@0.76V、ECSA維持率:83%);
に対応する。
【0061】
上記の通り、FC車に搭載する電極触媒に求められる質量活性は175mA/cm^(2)@0.76V以上である。そのため、PtCo合金の平均粒径は4.1nm以下であることが好ましい。また、電極触媒に求められるECSA維持率は40%以上である。そのため、PtCo合金の平均粒径は3.5nm以上であることが好ましい。従って、好ましいPtCo合金の平均粒径は3.5?4.1nmである。
【0062】
<結果3>
図4に、Co溶出量とプロトン抵抗との関係を示す。
図4における各プロットは、左から:
実施例8(Co溶出量:4ppm、プロトン抵抗:0.50mΩ・13cm^(2));
実施例1(Co溶出量:16ppm、プロトン抵抗:0.51mΩ・13cm^(2));
実施例5(Co溶出量:27ppm、プロトン抵抗:0.52mΩ・13cm^(2));
比較例13(Co溶出量:145ppm、プロトン抵抗:0.63mΩ・13cm^(2));
比較例26(Co溶出量:350ppm、プロトン抵抗:0.80mΩ・13cm^(2));
に対応する。
【0063】
電極触媒に求められるプロトン抵抗は0.6mΩ以下である。従って、好ましいCo溶出量は115ppm以下である。
【0064】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含み、
前記合金における白金とコバルトとのモル比が4?11:1であり、
70?90℃で酸処理されている、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記合金における白金とコバルトとのモル比が7?11:1である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
コバルトの溶出量が115ppm以下である、請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池。
【請求項7】
N_(2)吸着によって求められるBET表面積とt-Plotによる外表面積との比率(t-Plot表面積/BET表面積)が40%以上である中実カーボン担体に白金とコバルトとを担持する担持工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとを合金化する合金化工程;及び
中実カーボン担体に担持された白金とコバルトとの合金を70?90℃で酸処理する酸処理工程;
を含み、
担持工程において、白金とコバルトとを2.5?6.9:1のモル比で担持し、
合金化工程において、白金とコバルトとを700?900℃で合金化する、燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項8】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-10 
出願番号 特願2016-555401(P2016-555401)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 寛之菊地 リチャード平八郎  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 土屋 知久
平塚 政宏
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6232505号(P6232505)
権利者 トヨタ自動車株式会社 株式会社キャタラー
発明の名称 燃料電池用電極触媒及びその製造方法  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  

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