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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
管理番号 1354073
異議申立番号 異議2017-701133  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-30 
確定日 2019-06-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6160674号発明「包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6160674号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?8]について訂正することを認める。 特許第6160674号の請求項1?8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6160674号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年10月27日に出願され、平成29年6月23日にその特許権の設定登録がされ、平成29年7月12日に特許掲載公報が発行されたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年11月30日:特許異議申立人 成田隆臣による請求項1?8に
係る特許に対する特許異議の申立て
平成29年12月21日:特許異議申立人 諸岡亜紀子による請求項1?8
に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年1月11日 :特許異議申立人 浜野礼子による請求項1?8に
係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年3月30日付け:取消理由通知書
平成30年6月4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(これによる訂正を「本件訂正」という。)
平成30年7月12日 :特許異議申立人 成田隆臣による意見書の提出
平成30年7月12日 :特許異議申立人 諸岡亜紀子による意見書の提出
平成30年7月12日 :特許異議申立人 浜野礼子による意見書の提出
平成30年10月1日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年11月30日:特許権者による意見書の提出
平成30年12月17日:特許異議申立人 成田隆臣による上申書の提出
平成30年12月27日付け:審尋(特許権者及び特許異議申立人に対して)
平成31年1月31日:特許異議申立人 成田隆臣による回答書の提出
平成31年1月31日:特許異議申立人 諸岡亜紀子による回答書の提出
平成31年1月31日:特許異議申立人 浜野礼子による回答書の提出
平成31年2月5日:特許権者による回答書の提出
平成31年3月6日:特許異議申立人 成田隆臣による上申書の提出
平成31年3月22日:特許権者による上申書の提出


第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる印刷層とを含み、
前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる
包装体。」とあるのを、
「【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる印刷層とを含み、
前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれ、
前記光沢層は不連続である部分を含む
包装体。」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0006】に、
「【0006】
(1)電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、シートと、前記シートに設けられる印刷層とを含み、前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる、包装体。」とあるのを、
「【0006】
(1)電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、シートと、前記シートに設けられる印刷層とを含み、前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれ、前記光沢層は不連続である部分を含む、包装体。」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の「光沢層」について、「不連続である部分を含む」ことを更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、上記のように、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)には、段落【0048】に「複数の光沢層は各シート11A?11Cのうちの少なくとも1つのシートに設けられ、不連続である。」と記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載との整合を図るために明細書の記載を訂正するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2は、上記のように、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載との整合を図るために明細書の記載を訂正するものであるから、訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものであり、また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2?8は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
また、訂正事項2による訂正に係る請求項は、請求項1?8であるところ、それら全てについて訂正が請求されるものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3.小括
したがって、本件訂正の訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1-8]について訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正の請求が認められるから、本件特許の請求項1?8に係る発明は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された、次のとおりのものである。

【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる印刷層とを含み、
前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれ、
前記光沢層は不連続である部分を含む
包装体。
【請求項2】
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる
請求項1に記載の包装体。
【請求項3】
前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる
請求項2に記載の包装体。
【請求項4】
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれ、
前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる
請求項1に記載の包装体。
【請求項5】
前記光沢層は前記シート内に設けられる
請求項1?4のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項6】
前記光沢層の面積は前記光沢層が設けられる前記シートの面積の2分の1以上の範囲に含まれる
請求項1?5のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項7】
前記インキ剤の色は金または銀である
請求項1?6のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項8】
前記シートにより構成される袋と、
前記袋の内部に収容される内容物とを備える
請求項1?7のいずれか一項に記載の包装体。


第4 取消理由の概要
本件特許の請求項1?8に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した平成30年10月1日付けの取消理由(決定の予告)の理由1-1?理由1-3の要旨をまとめると、次のとおりである。

1.理由1-1(特許法第36条第6項第2号)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、以下の(ア)の点で明確でなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであるから、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(ア)請求項1に記載された「アルミペースト」との事項の意味内容及び技術的意味が把握できないから、請求項1に係る発明、並びに請求項1を引用する請求項2?8に係る発明は明確でない。

2.理由1-2(特許法第36条第4項第1号)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の(イ)の点で、当業者が本件特許の発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであるから、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(イ)発明の詳細な説明には、「アルミペースト」の成分やそれらの成分比率が記載されておらず、本件特許明細書記載の効果を奏するために、どのような「アルミペースト」を用いればよいのか発明の詳細な説明の記載からは理解できない。

3.理由1-3(特許法第36条第6項第1号)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、以下の(ウ)の点で発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(ウ)本件特許の発明が解決しようとする課題は「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供すること」であるが、本件特許明細書では、どのような成分や成分比のアルミペーストを用いて評価したのか記載されておらず、成分や成分比が不明なアルミペースト全般に対して、その重量比を4.7?37.2%とすることで上記課題を解決できることを当業者が認識できるということはできない。

<刊行物>
刊行物2:「JIS工業用語大辞典 第5版」、日本規格協会、97頁及び2223頁、2001年3月30日
刊行物10:特開平8-276917号公報
刊行物14:特開2006-137474号公報


第5 当審の判断
1.理由1-1(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1の記載
本件訂正後の請求項1には、以下のように記載されている。
「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる印刷層とを含み、
前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれ、
前記光沢層は不連続である部分を含む
包装体。」

上記記載によると、「包装体」は「シート」と「印刷層」を含み、
その「印刷層」は、「アルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤」により構成される「光沢層」を含み、
その「光沢層」には、「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」で含まれるとされる。
ここで、「アルミペースト」を含む「光沢層」は、「包装体」中の一つの層として形成された「印刷層」を構成するものであるから、「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」とは、「アルミペースト」が「光沢層」に含まれて塗膜を構成した状態での重量比であるものと解される。

(2)アルミペーストとの記載について
ア.本件特許明細書には、本件特許の発明が解決しようとする課題について、「包装体の美観は高いことが好まし」く、「美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設ける」ことが行われ、「光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される」が、「その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある」(段落【0004】)と記載され、この課題の解決については、「包装体は高い輝度を有するアルミペーストが含まれる光沢層を備えるため、高い美観を有」し、「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認され」、「包装体は電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい」(段落【0007】)と記載されている。

イ.一般に、マイクロ波に反応してスパークするものが金属であることは技術常識(例えば、特開2013-23220号公報(特許異議申立人 浜野礼子の甲第3号証、段落【0004】)参照。)であり、請求項1に記載された「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」の「印刷層」が含む「光沢層」についてみれば、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分が光沢の要因であり、スパークを引き起こす原因でもあることが明らかである。このことは、特許権者も認めるところである(平成30年11月30日の意見書の4頁8?16行)。
一方、アルミペーストについて、本件特許明細書においては、含有する成分や、それらの成分比率について記載されていない。また、一般に「アルミペースト(アルミニウムペースト)」とは、「アルミニウム粉をミネラルスピリットなどに分散してペースト状にしたもの」(刊行物2)であり、「アルミニウム粉」のみを含有するものではなく、「アルミニウム粉」のほかに、アクリル樹脂や溶剤成分を含有するもの(刊行物14の段落【0035】「アルミニウムペースト中のアルミニウム微粉末の大きさは1μm?3μm、アルミニウム含有量としては60%にして、20%をアクリル樹脂、残り20%を溶剤成分としたものを用いた。」)も知られている。さらに、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比率についても、上記刊行物14においては「60%」であるが、刊行物10の記載によれば、「東洋アルミニウム(株)製アルミニウムペースト(アルミニウム粉末を75重量%含有)」とあり、アルミペースト中の成分比率が「75重量%」のものも存在する。
また、後述するが、特許権者の提出した乙第6号証から乙第9号証にも、アルミペースト中のアルミニウムの成分比率として多様な比率が記載されている。
このようなアルミペースト中のアクリル樹脂等の成分は、刊行物14に記載されるように、成膜時に不揮発成分として光沢層に残留するものと理解される。なお、アルミペースト中に不揮発成分が含有されることは、特許権者も認めるところである(平成30年6月4日の意見書の4頁4?12行)。
上記(1)で述べたように、本件特許の請求項1に係る発明の「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」とは、アルミペーストが塗膜を構成した状態での重量比と解されるが、このアルミペーストが塗膜を構成した状態とは、揮発成分が揮発し、アルミニウム粉等の金属成分とアクリル樹脂等の不揮発成分が残った状態を意味するものであるから、本件特許の請求項1に係る発明の「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」の「重量比」は、アルミペースト中のアルミニウム粉等の金属成分とアクリル樹脂等の不揮発成分の合計重量と、光沢層全体の重量との比を示すことと解される。
そうすると、アルミペーストとして光沢層に含有される成分には、アルミニウム粉とアクリル樹脂等の不揮発成分が含まれることになるから、単にアルミニウムペーストの重量比を特定しても、アルミニウム粉と不揮発成分との成分比が明らかでなければ、スパークを引き起こす原因であるアルミニウム粉の重量比を特定したことにならないものといえる。

ウ.しかも、上記のように、本件特許の請求項1に係る発明は、「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供する」(本件特許明細書の段落【0005】)という課題の解決のために、「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」とするものであるから、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分が、アルミペースト中にどの程度含まれているのか明確でなければ、「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」に含まれる、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分の含有量が記載されていることにならない。

エ.よって、請求項1の「アルミペースト」との事項の意味内容及び技術的意味が把握できないから、請求項1に係る発明、並びに請求項1を引用する請求項2?8に係る発明は明確でない。

(3)特許権者の主張について
ア.特許権者は、平成30年6月4日の意見書において、
「『アルミペースト』とは、申立書1の甲第2号証(刊行物2)に記載されているとおり、アルミニウム粉をミネラルスピリットなどに分散してペースト状にしたものである。このように、『アルミペースト』は技術用語として一般的な用語である。」(2頁下から7行?下から4行)、
「これらの技術常識及び乙第1号証?乙第5号証に鑑みれば、『アルミペースト』の成分及び成分比(特にアルミニウム粉の重量)を特定しなくとも、『アルミペースト』が明確であることは明らかである。」(3頁7?9行)、
「そして、本件技術分野で一般的に用いられるアルミペーストは、例えば、申立書1の甲第4号証(刊行物4)及び甲第14号証(刊行物14)等に開示されており、広く知られている。このため、本件技術分野におけるアルミペーストの成分及び成分比がある程度の範囲に収まることは、出願時の技術常識である。」 (3頁14?17行)と主張する。

上記特許権者の主張について検討する。
「アルミペースト」が技術用語として一般的な用語であるとしても、前記(2)イ.で述べたように、アルミペースト中のアルミニウム粉の重量比が光沢とスパークに影響するのであるから、乙第1号証(特許第4789002号公報)、乙第2号証(特許第5790371号公報)、乙第3号証(特許第4234632号公報)、乙第4号証(特許第3610128号公報)、乙第5号証(特許第2736731号公報)にアルミペーストの成分及び成分比を特定しない事例があるからといっても、本件特許において「アルミペースト」という特定のみで明確であるとはいえない。
そして、「アルミペースト」という技術用語により、アルミペーストが含有する成分や、それらの成分比率が定まることまでは、一般的に知られているものとはいえず、このことを示す証拠も示されていない。また、特許権者がいうように「アルミペーストの成分及び成分比がある程度の範囲に収まる」としても、本件特許の請求項1?8に係る発明は、「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」としたことにより課題を解決できるのであるから、その「アルミペースト」がどのようなものなのか定まらなければ、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分がどの程度含有しているのか把握できず、特許発明の技術的範囲が定まらないこととなるのであり、特許権者の上記主張は採用することはできない。

イ.特許権者は、平成30年11月30日の意見書において、
「刊行物2は、『アルミペースト(アルミニウムペースト)』が技術用語として確立しているものであることを示し、その成分についても、アルミニウム粉の他、ミネラルスピリットなどを含有するものであることが技術常識であることを示している。したがって、光沢を有する一般的なインキ剤に含有されるアルミペーストについても、その成分及び成分比がある程度の範囲内に収まることは当業者の技術常識というべきであり、本件発明でいう、「アルミペースト」についても、一般的なアルミペーストとして、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40%?75%の範囲内に収まるものであると理解することができる。」(2頁27行?3頁6行)
と主張すると共に、さらに乙第6号証(特開平10-176120号公報)、乙第7号証(特開平11-193362号公報)、乙第8号証(特開2006-152259号公報)、乙第9号証(再公表特許WO2013/157156)を示して
「これら特許文献で記載されているとおり、一般的なアルミペーストとして、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40?75%の範囲内に収まるものであると理解することができる。
したがって、本件発明の『アルミペースト』とは、当業者であれば、技術常識を踏まえて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40?75%の範囲内に収まるアルミペーストであると把握することができる。」(3頁7行?4頁7行)
と主張する。

しかし、前記(2)イ.で述べたように、本件特許の請求項1?8に係る発明の「アルミペースト」を特定する上で、光沢とスパークに影響を及ぼすのはアルミニウム粉等の金属成分であるから、「アルミペースト」と記載されていても、その中に含まれるアルミニウム粉の成分比率が定まらなければ、光沢とスパーク防止の点で所定の効果を奏する「アルミペースト」を特定したものとはいえない。
仮に、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40?75%の範囲内に収まるとしても、相当の広範囲であるし、特許権者の上記主張は、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉の成分比率のみに関するものであって、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分(アルミニウム粉及びアルミニウム粉以外の金属成分)とアクリル樹脂等の不揮発成分の成分比率に関するものではないから、成膜後の光沢層に含まれるアルミニウム粉の成分比が40?75%の範囲内に収まることを示すものではない。
よって、特許権者の上記主張は採用することができない。

なお、特許権者が主張する
乙第6号証の段落【0031】には、「シルバーライン社製」の「アルミペースト」である「商品名:SS-6246AR」なる製品の成分比率は、「アルミ粉末量64重量%」であることが、
乙第7号証の段落【0010】には、「大和金属粉工業(株)製」の「アルミニウムペースト」である「スーパーファインNo.22000WN」及び「同No.18000WN」なる製品の成分比率は、「アルミニウム粉末含有率:70%」であること、及び「東洋アルミニウム(株)製」の「アルミニウムペースト」である「WB0230」と「WXM0630」なる製品の成分比率は、それぞれ「アルミニウム粉末含有率:60%」と「アルミニウム粉末含有率:68%」であることが、
乙第8号証の段落【0059】には、「旭化成メタルズ社製」の「アルミペースト」である「アルミペーストMC-606」なる製品の成分比率は、「アルミニウム粉/ミネラルスピリット/C9級芳香族炭化水素系有機溶剤重量比=60/19.5/19.5、アミン1%」であることが、
乙第9号証の段落【0093】には、「林化学工業社製」の「アルミニウムペースト」である「アルミペーストA2」なる製品の成分比率は、「アルミニウム含有率は75質量%」であることが、
それぞれ記載されている。
しかしながら、乙第6?9号証は、特定の製品について、アルミニウム粉の成分比率が特定されていることを示すにとどまるものである。乙第6号証の「64重量%」、乙第7号証の「70%」、「60%」、「68%」、乙第8号証の「60」、乙第9号証の「75質量%」なる数値は、特許権者の主張する「40%?75%」の範囲内の数値ではあるものの、これらの証拠をもって一般的なアルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分の成分比率が40?75%の範囲内に収まるものと直ちにはいうことができない。
しかも、乙第6?9号証には、光沢を有する一般的なインキ剤に用いられるアルミペーストであるとは明記されておらず、特に、乙第6、9号証に記載されたアルミペーストは、「熱線反射紫外線吸収性能を持つプライマー塗料」(乙第6号証)、「透湿性樹脂の層を形成するための組成物」(乙第9号証)に用いられるものであって、光沢を有する一般的なインキ剤として用いられるものではない。
そして、特許権者は、数値範囲について、下限が40%という特定の値である根拠、及び上限が75%という特定の値である根拠について、何ら示していない。
したがって、乙第6?9号証によっては、一般的なアルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分の成分比率が40%?75%の範囲内に収まることが技術常識であると理解することはできないし、ましてや、包装材料に用いるインキ剤中のアルミペーストにおける技術常識であるとすることはできない。

ウ.特許権者は、平成31年2月5日の回答書において、
「ただし、アルミペーストにおいてアクリル樹脂等の不揮発成分を含有する場合、この不揮発成分は、アルミニウム粉をコーティングすることが目的で含有されているに過ぎない。そのため、光沢層を構成することとなるアルミペーストにおける不揮発成分の重量比は、極めて小さい値にしかならない。アルミペーストの重量におけるアルミニウム粉や揮発成分の重量比と比較すると、ほぼ無視して構わない程度の値なのである。」(2頁7?13行)
と主張するとともに
「甲第14号証に記載された発明は、インナーシール材に関するものであり、金属ペースト層13は、インナーシール材を容器口元部に密封させるべく形成されている。金属ペースト層13を構成するアルミペーストには、20%の成分比でアクリル樹脂が含有されている。このアクリル樹脂は、バインダー樹脂としてアルミペーストに含有されているものであり、シーラント層11及びメンブレン基材12との結合性を確保するため成分である。・・・(中略)・・・このように、光沢層を構成することとなるアルミペースト以外のアルミペーストでは、不揮発成分の含有比率が大きいものもあるが、対象物の用途に応じてアルミペーストの成分比率が異なることも当業者の技術常識として理解できることである。・・・(中略)・・・換言すれば、アルミペーストに含まれる不揮発成分の重量比はアルミニウム粉の重量比に基づいて一義的に求めることができる。」(3頁4?19行)
と主張する。

しかしながら、特許権者は、光沢層を構成することとなるアルミペーストに含有されるアクリル樹脂等の不揮発成分について、ほぼ無視しても構わない程度の値と主張するが、前記刊行物14に記載されるように、アルミニウム含有量60%に対して、アクリル樹脂は20%であり、無視しても構わない値ではなく、上記主張には根拠がない。
そして、特許権者は、アルミペーストに含まれる不揮発成分の重量比は、アルミニウム粉の重量比に基づいて一義的に求めることができる旨主張するが、このことを裏付ける証拠は何ら示されていない。
よって、特許権者の上記主張は採用することができない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許の請求項1に係る「アルミペースト」は明確でなく、本件特許の請求項1並びに請求項2?8の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであるから、それらの特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.理由1-2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)上記1.で述べたように、本件特許明細書には、「アルミペースト」について、含有する成分や、それらの成分比率について記載されておらず、また、「アルミペースト」との記載のみでは、技術常識を踏まえても、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率はもちろん、他の含有成分や、それらの成分比率について把握できるものではない。
そして、本件特許明細書には、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、試料番号1?20について評価を行っているが、そのアルミペーストの入手先すら記載されておらず、試料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか、把握することができない。しかも、上述のように、アルミペーストといっても、含有するアルミニウム粉の含有率が1つに定まるものではないから、本件特許明細書の「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により確認される事項の技術的な意味が明らかではなく、「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供する」という課題を解決するために、光沢層に「アルミペースト」をどの程度含有させればよいのか、明らかではない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許の請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(2)特許権者の主張について
特許権者は、平成30年11月30日の意見書において、
「上記のように、アルミペーストは、技術用語として確立されていて、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率が40?75%の範囲内に収まるのが一般的であることは、当業者の技術常識である。・・・(中略)・・・しかし、本件特許明細書の段落【0004】で記載のとおり、包装体の光沢層に使用されるインキ剤は、一般的であるため、とくに入手が困難なものではない。インキ剤が一般的なものであり、それ故に、インキ剤に含有されるアルミペーストについても一般的なものであると理解できるから、試料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか、把握することができるといえる。」(5頁18行?6頁2行)
と主張する。

しかし、上記1.(2)、及び上記1.(3)ア.で述べたとおり、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分とアクリル樹脂等の不揮発成分の成分比率が明らかでなくては、スパークを引き起こす原因であるアルミニウム粉等の金属成分の重量を把握することができない。
また、上記1.(3)で述べたとおり、技術常識を参酌しても、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率が40?75%の範囲内に収まるのが一般的であるとはいえないし、仮にいえたとしても、不揮発成分の成分比率が明らかではないから、スパークを引き起こす原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含まれているのか把握できない。

さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アルミニウム粉の成分比が異なる複数種類のアルミペーストについての実施例が示されていない。本件特許の請求項1?8に係る発明を実施するにあたり、アルミペーストにより、含まれる成分や、成分比が異なるから、個々のアルミペースト毎に、効果を奏することができる値も異なり、過度の試行錯誤が求められることとなる。
しかも、実施例中のアルミペーストの入手先、品番等が記載されていないから、実施例を再現することにより実施の手助けとすることもできない。
よって、特許権者の上記主張は採用することができない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであるから、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

3.理由1-3(特許法第36条第6項第1号)について
(1)上述のように、本件特許の請求項1?8に係る発明の解決しようとする課題は、「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供する」というものであり、この課題を解決するために、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークして包装体が劣化するおそれがあることから、特許請求の範囲の請求項1に「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」と記載したものである。
しかし、上記1.で述べたように、本件特許明細書において「アルミペースト」が、アルミニウム粉をどの程度含有するのか記載されておらず、また、「アルミペースト」との記載のみで、アルミペースト中のアルミニウム粉等の金属成分の含有比率について把握できるものではない。そして、マイクロ波に反応してスパークする原因は、アルミニウム粉等の金属成分であることは明らかであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明で、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、試料番号1?20について評価を行っているといっても、試料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか把握することができず、結局、マイクロ波に反応してスパークする原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含有されるようにすると、スパークせず、包装体が劣化しないのか確認されていない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載からは、本件特許の請求項1で「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」とすることにより、発明の課題が解決できるものと認識することができない。
よって、本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2)特許権者の主張について
特許権者は、平成30年6月4日の意見書において、
「上記から明らかなように、本件発明1は、光沢層におけるアルミペーストの重量比を規定することによって本件課題を解決するものであり、成分及び成分比が特殊なアルミペーストを用いることを特徴とするものではない。このため、アルミペーストとしては、本件技術分野において一般的に用いられる成分及び成分比のものであればよい。このため、本件技術分野で一般的に用いられるアルミペーストを用いれば、本件発明1が本件課題を解決できることは当業者であれば十分に認識できる。」(6頁7?13行)
「本件発明1は、あくまで光沢層におけるアルミペーストの重量比を規定することによって本件課題を解決するものであり、アルミペーストの成分及び成分比を特徴とするものではない。また、既に説明したとおり、本件技術分野では、電子レンジで加熱すること及び包装体として用いられることが明らかであることから、当業者であれば、使用するアルミペーストの成分及び成分比についても認識でき、そのようなアルミペーストを用いつつ上記のように光沢層におけるアルミペーストの重量比を規定すれば、本件課題を解決できると十分に認識できる。」(7頁4?10行)
と主張し、さらに平成30年11月30日の意見書において、
「しかし、上述したとおり、『アルミペースト』とは技術用語として確立されていて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比についても、当業者の技術常識を踏まえれば、成分比が40?75%といった特定の範囲内に収まるものであると理解することができる。・・・(中略)・・・本件特許明細書の発明の詳細な説明で、『第1の評価試験』及び『第2の評価試験』により、アルミペーストを、試料番号1?20について評価を行っているということによって、試料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか把握することができ、結局、マイクロ波に反応してスパークする原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含有されるようにすると、スパークせず、包装体が劣化しないのかを示唆しているといえる。」(6頁20行?7頁2行)
と主張する。

本件特許明細書の発明の詳細な説明では、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、試料番号1?20について評価を行っているが、用いたアルミペーストの成分や成分比率は記載されておらず、入手先、品番等についても記載されていないから、光沢層にアルミニウム粉等の金属成分がどの程度含有された試料であるのか把握することはできない。
仮に、一般的なアルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40?75%の範囲内に収まるとしても、相当の広範囲であるし、また、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分とアクリル樹脂等の不揮発成分の成分比率によっても、光沢層に含まれるアルミニウム粉等の金属成分の重量が異なるため、アルミニウム粉等の金属成分比率のみならず、不揮発成分の成分比率も明らかでなければ、やはり、光沢層にアルミニウム粉等の金属成分がどの程度含有された試料であるのか把握することはできない。
そして、発明の詳細な説明には、ほかに、アルミペーストの成分や成分比率について記載も示唆もなく、光沢層におけるアルミニウム粉等の金属成分の含有量についての記載も示唆もない。
すなわち、発明の詳細な説明からは、スパークの原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、光沢層にどの程度含有されているのかを理解することはできないから、発明の詳細な説明には、「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」とすることにより、「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供する」ことができるのか、当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。
よって、特許権者の上記主張は採用することができない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、その特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。


第6 取消理由(決定の予告)としなかった異議申立理由について
1.異議申立理由
異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)特許異議申立人 成田 隆臣による異議申立理由
ア.甲第1号証(特開2004-238012号公報)を主引例とする特許法第29条第2項(以下「理由A-1-1」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証(JIS工業用語大辞典(発行 財団法人 日本規格協会)97頁)、甲第3号証(国際公開第2009/123124号)、甲第4号証(特開2003-159775号公報)、甲第5号証(特開2013-236655号公報)、甲第6号証(特開2008-137343号公報)、甲第7号証(特表2009-535266号公報)、甲第8号証(特表2011-515292号公報)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ.甲第13号証(特開2013-177204号公報)を主引例とする特許法第29条第2項(以下「理由A-1-2」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第13号証に記載された発明、及び甲第1、3?8号証、甲第9号証(特開2002-19850号公報)、甲第10号証(特開平8-276917号公報)、甲第11号証(特開2002-249165号公報)、甲第12号証(特開2003-118777号公報)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ.インキ剤の塗布量についての特許法第36条第6項第2号(以下「理由A-2」という。)
請求項3に記載された「前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2) 」、請求項4に記載された「前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)」は、塗布時のインキ剤の重量であるのか、塗膜形成後の重量を意味するのか不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

エ.インキ剤の塗布量についての特許法第36条第4項第1号(以下「理由A-3」という。)
本件特許の請求項3に係る発明は、請求項3に記載された「前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2) 」、請求項4に記載された「前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)」が、塗布時のインキ剤の重量であるのか、塗膜形成後の重量を意味するのかについて、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件特許の請求項3?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

(2)特許異議申立人 諸岡 亜紀子による異議申立理由
ア.甲第1号証(特開2004-238012号公報)を主引例とする特許法第29条第1項第3号(以下「理由B-1」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された事項、及び甲第2号証(上手に使いこなす印刷インキ(発行:日本印刷新聞社)55頁)、甲第3号証(化学大辞典(発行:株式会社 東京化学同人)122頁、1688頁、2243頁、2558頁)で示される技術常識を参酌して甲第1号証に記載されているに等しい事項から把握される発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ.甲第1号証(特開2004-238012号公報)を主引例とする特許法第29条第2項(以下「理由B-2」という。)
本件特許の請求項7に係る発明は、甲第1号証に記載された事項、及び甲第2号証で示される技術常識を参酌して甲第1号証に記載されているに等しい事項、及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項7に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)特許異議申立人 浜野 礼子による異議申立理由
ア.甲第1号証(特開2001-143860号公報)を主引例とする特許法第29条第1項第3号(以下「理由C-1」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された事項、及び甲第2号証(特表平3-505801号公報)、甲第3号証(特開2013-23220号公報)、甲第4号証(色材工学ハンドブック(発行 株式会社 朝倉書店)307頁、308頁)、甲第5号証(化学辞典(発行:株式会社 東京化学同人)80頁、1027頁)で示される技術常識を参酌して甲第1号証に記載されているに等しい事項から把握される発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ.甲第2号証(特表平3-505801号公報)を主引例とする特許法第29条第1項第3号(以下「理由C-2」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第2号証に記載された事項、及び甲第4、5号証で示される技術常識を参酌して甲第2号証に記載されているに等しい事項から把握される発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ.甲第3号証(特開2013-23220号公報)を主引例とする特許法第29条第1項第3号(以下「理由C-3」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第3号証に記載された事項、及び甲第4、5号証で示される技術常識を参酌して甲第3号証に記載されているに等しい事項から把握される発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

エ.甲第6号証(特表2014-518812号公報)を主引例とする特許法第29条第2項(以下「理由C-4」という。)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第6号証に記載された事項、及び甲第4、5号証で示される技術常識を参酌して甲第6号証に記載されているに等しい事項から把握される発明、及び甲第1?3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であり、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2.取消理由(決定の予告)としなかった異議申立理由について
取消理由(決定の予告)としなかった異議申立理由について、以下に検討結果を示す。

(1)インキ剤の塗布量についての特許法第36条第6項第2号(理由A-2)、及び特許法第36条第4項第1号(理由A-3)について
上記第5 1.(1)で述べたとおり、請求項1に記載された「アルミペースト」を含む「光沢層」は、「包装体」の「印刷層」を構成するものであるから、「アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲」とは、「アルミペースト」が塗膜を構成した状態での重量比であるものと解される。
そして、請求項1の光沢層が「アルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層」であるのだから、請求項1を間接的に引用する請求項3に記載された「前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2) 」についてもまた、塗膜を構成した状態での重量を意味することは明らかである。
請求項1を引用する請求項4に記載された「前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)」も同様である。

(2)特許法第29条第1項第3号(理由B-1、理由C-1、理由C-2、理由C-3)、及び特許法第29条第2項(理由A-1-1、理由A-1-2、理由B-2、理由C-4)について
上記第5で述べたとおり、本件特許の請求項1?8に係る発明の「アルミペースト」との事項の意味内容及び技術的意味が把握できず、本件特許の請求項1?8に係る発明が不明確であるため、引用発明との対比、判断をすることができない。


第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1?8に係る発明の記載、及び本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号、及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1?8に係る発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
包装体
【技術分野】
【0001】
本発明はシートおよび光沢層を含む包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の内容物を収容する包装体が知られている。その一例である特許文献1の包装体は、電子レンジ等により加熱される。包装体が加熱されることにより、包装体の内部に収容されている食品が調理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-177204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
包装体の美観は高いことが好ましい。美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設けることが考えられる。光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される。しかし、その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい包装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、シートと、前記シートに設けられる印刷層とを含み、前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれ、前記光沢層は不連続である部分を含む、包装体。
【0007】
上記包装体は高い輝度を有するアルミペーストが含まれる光沢層を備えるため、高い美観を有する。本願発明者が実施した試験によれば、光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認された。このため、上記(1)の包装体は電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。
【0008】
(2)前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる、(1)に記載の包装体。
本願発明者が実施した試験によれば、光沢層におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。このため、上記(2)の包装体はより高い美観を有する。
【0009】
(3)前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる、(2)に記載の包装体。
本願発明者が実施した試験によれば、光沢層におけるインキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる場合、包装体が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生せず、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。このため、上記(3)の包装体は電子レンジにより加熱された場合の劣化のしにくさと美観の高さとを両立する。
【0010】
(4)前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれ、前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる、(1)に記載の包装体。
【0011】
本願発明者が実施した試験によれば、光沢層におけるアルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれ、光沢層におけるインキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる場合、包装体が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生せず、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。このため、上記(4)の包装体は電子レンジにより加熱された場合の劣化のしにくさと美観の高さとを両立する。また、光沢層におけるアルミペーストの重量比が比較的低いため、コストを低減できる。
【0012】
(5)前記光沢層は前記シート内に設けられる、(1)?(4)のいずれか一項に記載の包装体。
上記包装体によれば、上記(5)のとおり光沢層が設けられるため、包装体の流通過程においてシートの表面と別の要素とが接触したときに擦れて光沢層が剥がれてしまうおそれがない。このため、光沢層が高い輝度を有する状態が維持される。
【0013】
(6)前記光沢層の面積は前記光沢層が設けられる前記シートの面積の2分の1以上の範囲に含まれる、(1)?(5)のいずれか一項に記載の包装体。
本願発明者が実施した試験によれば、光沢層の面積がシートの面積の2分の1以上の範囲に含まれる場合、包装体が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しない状態を維持しながら、一層高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。このため、上記(6)の包装体は一層高い美観を有する。
【0014】
(7)前記インキ剤の色は金または銀である(1)?(6)のいずれか一項に記載の包装体。
金または銀はより高い輝度をユーザーに与えやすい。このため、上記包装体は一層高い美観を有する。
【0015】
(8)前記シートにより構成される袋と、前記袋の内部に収容される内容物とを備える、(1)?(7)のいずれか一項に記載の包装体。
【発明の効果】
【0016】
上記包装体は美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の包装体の正面図。
【図2】図1の袋に内容物が収容された包装体の正面図。
【図3】図1の第1の袋シートの層構造を示す断面図。
【図4】第1の変形例の第1の袋シートの層構造を示す断面図。
【図5】第2の変形例の第1の袋シートの層構造を示す断面図。
【図6】変形例の包装体の正面図。
【図7】図6の袋に内容物が収容された包装体の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
図1は内容物100が収容されていない状態の包装体1の外観である。包装体1の形態はスタンディングパウチである。包装体1は袋10および光沢層50を含む。図1および図2に示されるハッチングは光沢層50である。
【0019】
袋10はシート11を含む。シート11は第1の袋シート11A、第2の袋シート11B、および、ガゼットシート11Cを含む。各シート11A?11Cの縁が互いにシールされることにより袋10が構成されている。すなわち、シート11は袋10を構成する。袋10はさらに収容空間30を含む。収容空間30は内容物100(図2参照)を収容可能な空間である。内容物100の一例は食品である。
【0020】
各袋シート11A、11Bは収容空間30を介して対向する。各袋シート11A、11Bの一方の側部は互いにシールされた第1の側部シール部21を含む。各袋シート11A、11Bの他方の側部は互いにシールされた第2の側部シール部22を含む。各袋シート11A、11Bの上部は互いにシールされた上部シール部23を含む(図2参照)。各袋シート11A、11Bの底部およびガゼットシート11Cは互いにシールされた底部シール部24を含む。なお、図1および図2に示されるドットは袋10のうちのシールされた部分を示している。
【0021】
袋10は開口部12をさらに含む。開口部12は、内容物100を含む包装体1を製造する過程において利用される部分である。包装体1の製造過程では、収容空間30への内容物100の投入後に上部シール部23が形成され、開口部12が閉じられる(図2参照)。この工程を経ることにより、図2に示される内容物100を含む包装体1が構成される。
【0022】
袋10は一対のノッチ13および切取線14をさらに含む。一方のノッチ13は第1の側部シール部21の上部に設けられる。他方のノッチ13は第2の側部シール部22の上部に設けられる。切取線14は各ノッチ13と繋がるように上部シール部23の下部に設けられる。ノッチ13および切取線14に従って袋10の一部が切り取られることにより、上部シール部23が袋10から分離される。
【0023】
包装体1がエンドユーザーに使用される場合、上部シール部23が袋10から切り取られることにより開口部12が開口する。エンドユーザーは開口した開口部12を介して、収容空間30から内容物100を取り出すことができる。
【0024】
図3は第1の袋シート11Aの層構造の一例を示す。なお、図3は第1の袋シート11Aのうちの光沢層50が設けられた部分の断面である。
第1の袋シート11Aは積層シートであり、例えば最外層41、中間層42、および、最内層43を含む。最外層41を構成する材料の一例は透明な材料である。透明な材料の一例はポリエチレンテレフタレートである。中間層42は例えば印刷層42A、第1接着層42B、延伸ナイロン層42C、および、第2接着層42Dを含む。印刷層42Aは最外層41の内側に設けられる。一例では、印刷層42Aの外面に絵柄および商品説明のテキスト等が印刷される。第1接着層42Bは印刷層42Aの内側に設けられる。延伸ナイロン層42Cは第1接着層42Bの内側に設けられる。第2接着層42Dは延伸ナイロン層42Cの内側に設けられる。各接着層42B、42Dを構成する材料の一例はドライラミネート接着剤である。最内層43は第2接着層42Dの内側に設けられる。最内層43を構成する材料の一例は無延伸ポリプロピレンである。なお、各シート11A?11Cは実質的に同一の層構造を有する。
【0025】
光沢層50は第1の袋シート11Aに設けられる。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに含まれ、最外層41により覆われる。すなわち、光沢層50は第1の袋シート11A内に設けられる。図1に示されるとおり、光沢層50の面積は光沢層50が設けられる第1の袋シート11Aの面積よりも狭い。一例では、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上である。
【0026】
光沢層50はインキ剤51により構成される。インキ剤51の色は金である。インキ剤51は少なくともアルミペーストおよび希釈剤を含む。一例では、インキ剤51は着色剤および溶剤をさらに含む。希釈剤の一例は樹脂である。光沢層50は第1の袋シート11Aの印刷層42Aに塗布されたインキ剤51により構成される塗膜である。
【0027】
光沢層50におけるアルミペーストの重量比は4.7?37.2%の範囲に含まれる。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量は例えば1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれることが好ましい。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれる場合、光沢層50におけるインキ剤の塗布量は例えば3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれることが好ましい。一例では、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が5.2g/m^(2)である。なお、光沢層50におけるアルミペーストの重量比は、塗布されたインキ剤51が塗膜を構成した状態におけるインキ剤51に含まれるアルミペーストの重量比である。インキ剤51が塗膜を構成した状態ではインキ剤51に含まれる溶剤は概ね揮発している。
【0028】
本願発明者は第1の評価試験および第2の評価試験を実施した。第1の評価試験の目的は、光沢層50におけるアルミペーストの重量比およびインキ剤の塗布量と電子レンジにより加熱された包装体1の品質との関係を評価することである。第2の評価試験の目的は、光沢層50におけるアルミペーストの重量比およびインキ剤の塗布量と光沢層50により得られる輝度との関係を評価することである。
【0029】
第1の評価試験の試験条件は以下のとおりである。
試料は包装体1の第1の袋シート11Aと同じ層構造を含む複数のサンプルシートである。複数のサンプルシートは光沢層50におけるアルミペーストの重量比およびインキ剤の塗布量の少なくとも一方が互いに異なる。サンプルシートの形状は長方形である。サンプルシートの短辺の寸法は30mmである。サンプルシートの長辺の寸法は100mmである。サンプルシートにおける光沢層50の位置はサンプルシートの中央である。光沢層50の形状は長方形である。光沢層50の短辺の寸法は30mmである。光沢層50の長辺の寸法は80mmである。
【0030】
サンプルシートを加熱する手段は電子レンジである。サンプルシートの両側部は加熱される前にスライドガラスにより電子レンジに固定される。サンプルシートの加熱時における電子レンジの出力は1800Wである。電子レンジによるサンプルシートの加熱時間は1分である。評価者は加熱が終了したサンプルシートの状態を目視により確認し、サンプルシートの品質を評価した。
【0031】
第2の評価試験の試験条件は以下のとおりである。
試料は第1の評価試験で用いた複数のサンプルシートと同様の構造を備える複数のサンプルシートである。サンプルシートの評価者の数は5人である。評価者は目視により輝度の高さを評価した。
【0032】
表1は第1の評価試験および第2の評価試験の結果である。
【0033】
【表1】

インキ剤51の印刷回数は光沢層50を形成するために第1の袋シート11Aの印刷層42Aにインキ剤51が塗布された回数である。このため、インキ剤51の印刷回数が2回の場合におけるインキ剤51の塗布量は、インキ剤51の印刷回数が1回の場合におけるインキ剤51の塗布量の実質的に2倍である。品質評価の項目における「A」は加熱後のサンプルシートの品質が高い場合の評価結果であり、「B」は加熱後のサンプルシートの品質が低い場合の評価結果である。輝度評価の結果は5人の評価者の評価結果の平均値である。
【0034】
第1の評価試験の結果について説明する。
光沢層50におけるアルミペーストの重量比が高い試料番号1?4のサンプルシートが加熱された場合、光沢層50にスパークが発生した。このため、品質評価において「B」に該当すると評価されたと考えられる。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が試料番号1?4のサンプルシートよりも低い試料番号5?20のサンプルシートが加熱された場合、光沢層50にスパークが発生していない。このため、品質評価において「A」に該当すると評価されたと考えられる。このように、第1の評価試験の結果によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が電子レンジにより加熱された後の包装体1の品質と高い相関を有することが確認できる。
【0035】
第2の評価試験の結果について説明する。
輝度評価の1.0は評価者が実質的に輝度を感じない場合を示す。全ての試料番号のサンプルシートの結果に示されるとおり、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7%以上の場合、輝度評価が1.0の場合よりも高い輝度が評価者に与えられる。
【0036】
試料番号3?20の結果に示されるとおり、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が同じであり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が異なる場合、輝度評価の結果が異なる。これにより、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量と光沢層50により得られる輝度とが高い相関を有することが確認できる。
【0037】
試料番号5および14の結果に示されるとおり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が相対的に低い試料番号5の輝度評価の結果は光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が相対的に高い試料番号14と同じ結果である。これにより、光沢層50におけるアルミペーストの重量比と光沢層50により得られる輝度とが高い相関を有することが確認できる。
【0038】
輝度評価の3.0?5.0は評価者がより高い輝度を感じた場合を示す。光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%である場合においてインキ剤の塗布量が2.6g/m^(2)より少なくても3.0以上の輝度評価が得られる。試料番号13のサンプルシートにおける輝度評価が3.0であることからすると、アルミペーストの重量比がそのサンプルシートよりも高い37.2%であり、インキ剤の塗布量がそのサンプルシートと同じ1.9g/m^(2)の場合にも3.0以上の輝度評価が得られることが示唆される。
【0039】
光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6%である場合においてインキ剤の塗布量が3.8g/m^(2)より多くても「A」の品質評価が得られる。試料番号6のサンプルシートにおける品質評価が「A」であることからすると、アルミペーストの重量比がそのサンプルシートよりも低い18.6%であり、インキ剤の塗布量がそのサンプルシートと同じ5.2g/m^(2)の場合にも「A」の品質評価が得られることが示唆される。なお、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が14.0%である場合も同様に、インキ剤の塗布量が5.2g/m^(2)の場合にも「A」の品質評価が得られることが示唆される。
【0040】
実施形態の包装体1によれば、以下の効果が得られる。
(1)包装体1は高い輝度を有するアルミペーストを含む光沢層50を備える。この構成によれば、高い美観が得られる。本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。
【0041】
(2)本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、より高い美観を有する。
【0042】
(3)本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれ、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生せず、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であり、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が5.2g/m^(2)であるため、電子レンジにより加熱された場合の劣化のしにくさと美観の高さとを両立する。
【0043】
(4)包装体1によれば、光沢層50が第1の袋シート11A内に設けられる。この構成によれば、包装体1の流通過程において第1の袋シート11Aの表面と別の要素とが接触したときに擦れて光沢層50が剥がれてしまうおそれがない。このため、光沢層50が高い輝度を有する状態が維持される。
【0044】
(5)光沢層50を構成するインキ剤51の色が金である。この構成によれば、一層高い美観が得られる。
(6)本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50の面積が第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しない状態を維持しながら、一層高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50の面積が第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上であるため、一層高い美観を有する。
【0045】
(変形例)
上記実施形態に関する説明は本発明に従う包装体が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に従う包装体は上記実施形態以外に例えば以下に示される実施形態の変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。
【0046】
・インキ剤51の色は任意に変更可能である。第1の例では、インキ剤51の色は銀である。この変形例によれば、インキ剤51の色が金である場合と実質的に同じ効果が得られる。第2の例では、インキ剤51の色はパールである。第3の例では、インキ剤51の色は輝度を有するその他の色である。
【0047】
・光沢層50の面積と第1の袋シート11Aの面積との関係は任意に変更可能である。第1の例では、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1未満の範囲に含まれる。第2の例では、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の全部の範囲に含まれる。
【0048】
・シート11における光沢層50の形成範囲は任意に変更可能である。第1の例では、光沢層50は第1の袋シート11Aに代えてまたは加えて、第2の袋シート11Bおよびガゼットシート11Cの少なくとも一方に設けられる。第2の例では、光沢層50は複数の光沢層を含む。複数の光沢層は各シート11A?11Cのうちの少なくとも1つのシートに設けられ、不連続である。第1の袋シート11Aに光沢層50が設けられる場合、光沢層50の面積は第1の袋シート11Aの面積の2分の1以上であることが好ましい。第1の袋シート11Aに設けられる光沢層50が複数の光沢層を含む場合、光沢層50の面積は複数の光沢層の面積の合計である。なお、第2の例における光沢層50の面積に関する事項は、第2の袋シート11Bまたはガゼットシート11Cに光沢層50が設けられる場合にも共通する。
【0049】
・光沢層50を含む第1の袋シート11Aの層構成は任意に変更可能である。第1の例では、光沢層50は第1の袋シート11Aの外側の表面に設けられる。すなわち、光沢層50は第1の袋シート11Aの最外層41上に設けられる。第2の例では、光沢層50は第1の袋シート11Aの内側の表面に設けられる。すなわち、光沢層50は第1の袋シート11Aの最内層43上に設けられる。
【0050】
・光沢層50におけるアルミペーストの重量比と光沢層50におけるインキ剤51の塗布量との関係は任意に変更可能である。第1の例では、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれ、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる。この例によれば、少なくとも上記(1)?(3)の効果が得られる。
【0051】
第2の例では、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれ、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる。この例によれば、少なくとも上記(1)の効果が得られる。本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が14.0以上かつ18.0%未満の範囲に含まれ、光沢層50におけるインキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生せず、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。このため、この例の包装体1は電子レンジにより加熱された場合の劣化のしにくさと美観の高さとを両立する。さらに、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が比較的低いため、コストを低減できる。
【0052】
第3の例では、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7%以上かつ14.0%未満の範囲に含まれ、光沢層50におけるインキ剤51の塗布量が1.6g/m^(2)以上かつ5.2g/m^(2)未満の範囲に含まれる。この例によれば、少なくとも上記(1)の効果が得られる。
【0053】
・第1の袋シート11Aの構造は任意に変更可能である。第1の例では、図4に示されるとおり、絵柄および商品説明のテキスト等を含む絵柄層42Eが第1の袋シート11Aに設けられる。図4に示される例によれば、光沢層50および絵柄層42Eが第1の袋シート11Aの印刷層42Aに含まれる。第2の例では、図5に示されるとおり、第1の袋シート11Aの中間層42から延伸ナイロン層42Cおよび各接着層42B、42Dの一方が省略される。図5に示される例によれば、中間層42は延伸ナイロン層42Cおよび第2接着層42Dを省略した形態を取り得る。第3の例では、第1の袋シート11Aを構成する各層のうちの少なくとも1つに代えてまたは加えて、バリア層が第1の袋シート11Aに設けられる。第4の例では、第1の袋シート11Aの最外層41を構成する材料は二軸延伸ポリプロピレンである。なお、第1?第4の例において、第2の袋シート11Bおよびガゼットシート11Cの少なくとも一方の構造も同様に変更可能である。
【0054】
・袋10の構造は任意に変更可能である。一例では、1枚の袋シートが折り曲げられることにより第1の袋シート11Aおよび第2の袋シート11Bが形成され、それらの縁が互いにシールされることにより袋10が構成される。
【0055】
・包装体1を構成する要素の内容は任意に変更可能である。一例によれば、図6に示されるとおり、袋10は開口部12(図1参照)に代えて第1の開口部61および第2の開口部62を含む。第1の開口部61はエンドユーザーが利用するための部分である。製造された包装体1が使用される前の状態では、第1の開口部61が上部シール部23により閉じられている。第2の開口部62は内容物100(図7参照)を含む包装体1を製造する過程において利用される部分である。包装体1の製造過程では、収容空間30への内容物100の投入後に第1の側部シール部21が形成され、第2の開口部62が閉じられる(図7参照)。この工程を経ることにより、図7に示される内容物100を含む包装体1が構成される。袋10はさらにファスナー63を含む。ファスナー63の機能は第1の開口部61を開放および閉鎖することである。ファスナー63は第1の側部シール部21から第2の側部シール部22までの範囲において上部シール部23に沿って各袋シート11A、11Bの内面に取り付けられる。
【0056】
包装体1がエンドユーザーに使用される場合、上部シール部23が袋10から切り取られ、ファスナー63が開封されることにより、第1の開口部61が開口する。エンドユーザーは開口した第1の開口部61から収容空間30に内容物100とは別の食品を投入すること、および、収容空間30から内容物100等を取り出すことができる。なお、この変形例の包装体1は第2の開口部62およびファスナー63の一方を省略した形態を取り得る。
【0057】
・包装体1の形態は任意に変更可能である。第1の例では、包装体1は平パウチである。第2の例では、包装体1はトレーおよびシート11を含むパッケージである。シート11はトレーの開口を覆うようにトレーに取り付けられる。包装体1は、トレーに内容物100が載せられた状態においてシート11によりトレーの開口が覆われた状態、または、トレーに内容物が載せられておらず、シート11をトレーに取り付け可能な状態を取り得る。第3の例では、包装体1はラップフィルムである。これは、第2の例におけるシート11と実質的に同一である。
【0058】
・包装体1の用途は任意に変更可能である。一例によれば、電子レンジによる加熱を必要としない食品、または、食品以外の内容物を収容するために包装体1が用いられる。
【符号の説明】
【0059】
1 :包装体
10 :袋
11 :シート
50 :光沢層
51 :インキ剤
100:内容物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる印刷層とを含み、
前記印刷層はアルミペーストおよび希釈剤を少なくとも含むインキ剤により構成される光沢層を含み、
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれ、
前記光沢層は不連続である部分を含む
包装体。
【請求項2】
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる
請求項1に記載の包装体。
【請求項3】
前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が1.9?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる
請求項2に記載の包装体。
【請求項4】
前記光沢層における前記アルミペーストの重量比が14.0%以上かつ18.6%未満の範囲に含まれ、
前記光沢層における前記インキ剤の塗布量が3.6?5.2g/m^(2)の範囲に含まれる
請求項1に記載の包装体。
【請求項5】
前記光沢層は前記シート内に設けられる
請求項1?4のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項6】
前記光沢層の面積は前記光沢層が設けられる前記シートの面積の2分の1以上の範囲に含まれる
請求項1?5のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項7】
前記インキ剤の色は金または銀である
請求項1?6のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項8】
前記シートにより構成される袋と、
前記袋の内部に収容される内容物とを備える
請求項1?7のいずれか一項に記載の包装体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-25 
出願番号 特願2015-210967(P2015-210967)
審決分類 P 1 651・ 536- ZAA (B65D)
P 1 651・ 537- ZAA (B65D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 矢澤 周一郎種子島 貴裕  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
門前 浩一
登録日 2017-06-23 
登録番号 特許第6160674号(P6160674)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 包装体  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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