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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1354092
異議申立番号 異議2018-700881  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-05 
確定日 2019-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6319643号発明「セラミックス-銅接合体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6319643号の明細書、及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1ないし5〕、8について訂正することを認める。 特許第6319643号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6319643号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成25年2月28日(優先権主張 平成24年2月29日)に特許出願され、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、同年11月5日に特許異議申立人 茂木 早苗により特許異議の申立てがされた。そして、同年12月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年3月11日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、特許異議申立人に対して同年3月29日付けで訂正請求があった旨の通知をしたが、特許異議申立人から何ら応答がなされなかったものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成31年3月11日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「酸素含有量が0.0005?0.1重量%」と記載されているのを、「ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「該接合体の接合界面を含む断面において」と記載されているのを、「該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついている」との記載を追加する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「冷熱サイクル試験前後」と記載されているのを、「低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験前後」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「冷熱サイクル試験前後」と記載されているのを、「低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験前後」に訂正する。

(6)訂正事項6
段落【0008】、【0014】及び【0017】を下記の通り訂正する。
「【0008】
本願第1の発明のセラミックス-銅接合体は、窒化物セラミックスと無酸素銅とをAg、Cu、Ti及びInを含み、ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついていることを特徴とする。」
「【0014】
本発明のセラミックス-銅接合体は、セラミックスと無酸素銅とをAg、Cu、Ti及びInを含み、ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついている。理由は明確になっていないが、本発明のセラミックス-銅接合体は、無酸素銅とろう材層との界面およびろう材層とセラミックスとの界面にTi濃度のピークを形成することで、ヒートサイクルの付加による繰り返し熱応力に対して、ろう材層中においてクラックを生じ難いという利点を有している。本発明のセラミックスー銅接合体に用いられるセラミックスは、回路基板または放熱基板として用いられるため、熱伝導率が高く、強度が高い窒化珪素または窒化アルミニウムなどの窒化物セラミックスからなることが好ましい。また使用する無酸素銅の含有酸素量は50ppm以下とすることが好ましく、更に好ましくは2?50ppmである。」
「【0017】
[回路基板の作製]
セラミックス基板4の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層10,11を印刷形成する。ろう材層を印刷する厚さは、接合後のろう材層の厚さが2?50μmとなる厚さとすることが好ましい。接合後のろう材層の厚さが2μm未満であると、セラミックス基板または無酸素銅板の表面にうねりや反りにより接合できないこともあるからであり、接合後のろう材層の厚さが50μmを超えると、接合体として十分な強度が得られないこともあるからである。より好ましい接合後のろう材層の厚さは、5?40μmであり、更に好ましくは10?20μmである。
窒化物セラミックスと無酸素銅とを接合する活性金属ろう材の組成はAg-Cu-In-Ti系合金粉末からなり、活性金属であるチタンの含有量は従来と同等の0.5?9重量%とすることができ、好ましくは0.5?5重量%、更に好ましくは1?3重量%とすることができる。少なすぎると十分な接合強度が得られず、多量に添加すると、ろう材そのものが脆化する。特に好ましいチタンの量は1?3重量%である。ろう材の酸素含有量は金属回路/ろう材相/窒化珪素基板間の安定した接合強度が得やすいことから5?1000ppmとする。活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱してセラミックス基板と接合する。接合条件は、加熱温度700?850℃、無酸素銅板とセラミックス基板の押付け圧力1400?15200Paとすることが好ましい。冷却後、両方の面の無酸素銅板上にレジストパターンを形成後に、塩化第二鉄溶液によってエッチング処理して回路側金属板3と放熱側金属板5を形成する。ろう材層のうち露出した部分は過酸化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチング除去する。さらに回路側金属板及び放熱側金属板にNi-Pメッキを施し回路基板8を作製する。」


2.訂正要件についての判断
(1)一群の請求項要件
訂正前の請求項1ないし5において、請求項2ないし5は訂正する請求項1を引用しているのものであるから、請求項1ないし5は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、明細書の訂正である訂正事項6に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし5)が訂正請求の対象とされているから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「酸素含有量」と、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0017】の「・・・。ろう材の酸素含有量は金属回路/ろう材相/窒化珪素基板間の安定した接合強度が得やすいことから5?1000ppmとすることが好ましい。・・・」という記載との対応を明瞭にし、酸素含有量の由来を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1は本件特許明細書の段落【0017】に上記のように記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、本件においては訂正前の請求項1ないし5について特許異議申立がなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「接合体の接合界面を含む断面」が、「EPMA分析」により示されたものであるとして断面の分析出段を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2に関して、本件特許明細書の段落【0019】に「[Ti濃度分析] 窒化物セラミックスとろう材層との界面のTi濃度、ろう材層と無酸素銅との界面のTi濃度およびろう材層の中心部のTi濃度は次のようにして測定することができる。即ち、冷熱サイクル試験の後、回路基板8を切断し、切断面において回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面および回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面を含む長さを評価長さとし、加速電圧:15kV、ビーム径:0.1μmの条件でAg,Cu,Ti,Si,O,N成分についてEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)によるライン分析を行い各成分の相対強度を求める。・・・」と記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項2は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、本件においては訂正前の請求項1ないし5について特許異議申立がなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「第1のピークを示すTi」に関して、「酸素と結びついている」と限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3に関して、本件特許明細書の段落【0025】に「・・・。ろう材層と無酸素銅との界面にTi成分を拡散させてTi濃度の高い領域を形成することは、予め無酸素銅表面を酸化すること等によって達成することができる。これは非常に安定な酸化物を形成しやすいTiが酸素との結び付きが強いことと関係していると考えられる。」と記載されており、Tiは酸化された無酸素銅の酸素と結び付きが強いために界面で高濃度となるのであるから、Tiは酸素と結びついているものと認められる。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項3は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、本件においては訂正前の請求項1ないし5について特許異議申立がなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

エ.訂正事項4及び5について
訂正事項4及び5は、訂正前の請求項5及び8の発明特定事項である「冷熱サイクル試験」の条件が不明であったものを、「低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験」であると条件を限定し明確にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4及び5に関して、本件特許明細書の段落【0018】に「[冷熱サイクル試験] 作製した回路基板について、低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間としたヒートサイクル試験を2000サイクルまで行い、2000サイクル後の回路側ろう材層10に発生したボイドを超音波探査映像装置(日立建機ファインテック(株)製、mi-scope.exla)で観察し、ボイド率(ボイド率(%)=100×(ボイドおよびクラックの面積/回路側ろう材層10の面積))を算出する。さらに、冷熱サイクル試験前後のボイド率の差(ボイド率の差(%)=冷熱サイクル試験後のボイド率(%)-冷熱サイクル試験前のボイド率(%))を求め、前記ろう材層におけるクラックの有無を判定した。・・・」と記載されている。
したがって、訂正事項4、5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項4、5は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、本件においては訂正前の請求項1ないし5について特許異議申立がなされているので、訂正前の請求項5に係る訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
しかし、訂正事項5によって訂正されることになる請求項8は特許異議の申立てがされておらず、上記のとおり、請求項8についての訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件が課される。そこで検討をすると、下記「第3.3.(3)エ.独立特許要件について」のとおり、請求項8に係る発明については、下記甲第1号証ないし甲第4号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また、「冷熱サイクル試験」の条件を、訂正によって「低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験」であると明確にしており、請求項8の記載が不明確であるとはいえない。そして、他に請求項8に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、請求項8についての訂正は、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第7項に適合するものである。

オ.訂正事項6について
訂正事項6は、上記訂正事項1ないし3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の請求項1の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる特許請求の範囲の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項6は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項て準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項及び第7項の規定に適合するので、本件訂正を認める。


第3.特許異議の申立について
1.本件特許発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
窒化珪素セラミックス基板と無酸素銅板とを、Ag、Cu、Ti及びInを含み、ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、
該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において前記無酸素銅板と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついていることを特徴とするセラミックス-銅接合体。
【請求項2】
前記ろう材層のTi含有量が0.5?5重量%である請求項1に記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項3】
前記第2界面におけるTiの相対強度の第2ピーク(S_(PTi2))は、前記第1界面におけるTiの相対強度の第1ピーク(S_(PTi1))の5倍?20倍である請求項1又は2に記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項4】
前記第1界面におけるTiの相対強度の第1ピーク(S_(PTi1))はろう材層の中心部のTi相対強度(S_(TiC))に対して7.2倍?18倍のTi相対強度を有し、
前記第2界面におけるTiの相対強度の第2ピーク(S_(PTi2))はろう材層の中心部のTi相対強度(S_(TiC))に対して16倍?33倍のTi相対強度を有する請求項1又は2に記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項5】
前記ろう材層は、厚さが2?50μmであり、低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験前後のボイド率の差が2%以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項6】
無酸素銅板の表面を100?300℃の温度で酸化する酸化工程と、
窒化珪素セラミックス基板と表面を酸化した無酸素銅板とを、加熱温度700?850℃、無酸素銅板を窒化珪素セラミックス基板に押し付ける圧力が1400?15200Paの条件で、Ag、Cu、Ti及びInを含むろう材を介して接合する接合工程を備えることを特徴とするセラミックス-銅接合体の製造方法。
【請求項7】
前記ろう材のTi含有量が0.5?5重量%であり、
原料粉末として、Si_(3)N_(4)と、焼結助剤としてMgO及びY_(2)O_(3)とを用いて、窒化珪素セラミックス基板を製造する焼成工程を備える請求項6に記載のセラミックス-銅接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接合工程で前記ろう材よりろう材層を形成して、前記ろう材層は低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験前後のボイド率の差が2%以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載のセラミックス-銅接合体の製造方法。」


2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る発明についての特許に対して平成30年12月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1)本件特許の請求項1、2、5に係る発明は、下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2005-252087号公報 (甲第1号証)
引用文献2:国際公開第2010/137651号(周知技術を示す文献)

2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

・請求項 1-5
請求項1には、「酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層」と記載されている。また、請求項1には、「ろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体」と記載されてることから、当該「ろう材層」とは、「接合した」後の「セラミックス-銅接合体」を特定する構成要素であると認められる。
一方、発明の詳細な説明(特に、段落【0017】)には、セラミックス基板と無酸素銅板とを接合する前の「ろう材」について、「ろう材の酸素含有量は金属回路/ろう材相/窒化珪素基板間の安定した接合強度が得やすいことから5?1000ppmとすることが好ましい」と記載されている。しかしながら、発明の詳細な説明には、セラミックス基板と無酸素銅板とを接合した後の「ろう材層」の酸素含有量がどの程度であるかについては記載されていない。
よって、請求項1-5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

・請求項 5
請求項5には、「冷熱サイクル試験前後のボイド率の差が2%以下である」と記載されている。
しかしながら、「ボイド率の差」を測定するための「冷熱サイクル試験」は、温度や冷熱サイクルの回数等の試験条件等を様々設定することができるものであって、一概に「冷熱サイクル試験」と言っただけでは、試験条件等は不明である。
そして、段落【0018】には、「ボイド率の差」を測定するための「冷熱サイクル試験」について、温度や冷熱サイクルの回数等の試験条件等を設定することが記載されているものの、当該記載や他の記載を考慮しても、請求項5に記載されるような「冷熱サイクル試験」を、試験条件等を設定せずに行うことの技術的意味を理解することができない。
よって、請求項5は、「ボイド率の差」を測定するための「冷熱サイクル試験」がどのようなものか特定できず、請求項5の記載は明確でない。


(2)引用文献の記載
ア.引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同様。)

a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、特にパワー半導体モジュールに使用されるセラミックス回路基板に係わり、セラミックス基板の少なくとも一方の面にろう材層を介して回路パターンを形成する金属板を接合したセラミックス回路基板に関するものである。」

b.「【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、実施例により本発明を説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。
先ず、ろう材について説明する。本発明のセラミックス回路基板で用いるろう材は、母材合金がAg-Cu-In-Tiの4元系であって、質量%でAgを85?55質量%、Inを5?25質量%、Tiを0.2?2.0質量%、Cuを35?20質量%及び不可避不純物から組成されたものである。合金粉末の作製は、ガスアトマイズ法により平均粒径d50値が50μmとなる様に噴霧し、50μm以上の粉末は篩分けによりカットし、50μmアンダーの粉末を用いるもので、ここでは合金粉末の平均粒子径d50は28μmである。また、合金粉末の作製は、低コストの水アトマイズ法でも可能であるが、活性金属として作用するTiの酸化を防止するため、この場合、合金粉末中の酸素量を0.5質量%以下に制御することが肝要である。」

c.「【0031】
活性金属としては、周期律表第IVa族に属する元素を用いることができ、一般にはチタン、ジルコニウム、ハフニウムが用いられる。この中でも特にチタンは窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くすることができるため本発明ではチタン(Ti)を用いている。さらにチタンの水素化物、即ち水素化チタンを用いれば、接合工程中における酸素の影響による酸化が起こり難くなり、より好適な接合状態が得られる。これは水素化チタンは接合工程での加熱処理によって初めて水素を放出して活性な金属チタンとなり、これが窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板と反応するためである。更に、これら活性金属成分を予め合金粉末中に含有させると、Ag-Cu?In-Tiの比が均一となり、加熱昇温時において、基板あるいは金属板に印刷されたろう材粉末の局所的な溶融むらが抑制でき、しいてはろう材融液中を拡散するTiを容易に制御することができるため望ましい。AgとCuおよびInの合計量100質量%に対する活性金属粉末の添加量は、活性金属粉末による窒化アルミニウム基板/窒化ケイ素基板-ろう材-銅板の間の接合強度を十分に保つためには、0.2?2.0質量%が好ましい。より好ましくは0.6?1.5質量%である。」

d.「【0037】
良好なろう材のパターンをスクリーン印刷するためには、ペーストの粘度を20?200Pa・sに制御することが好ましい。ペースト中の有機溶剤を全ペースト中の5?15質量%、バインダーを1?5質量%の範囲で配合することにより、印刷性の優れたペーストを得ることができる。加えて、上記範囲でバインダーを配合することにより、印刷後の脱脂工程におけるバインダーの除去が速やかに行われ好適である。また、ペーストとする場合、各成分の分散性をよくするために分散剤を添加することもできる。また、ろう材層の印刷膜厚は20?80μmであることが良好な接着強度を発現させるために好ましい。」

e.「【0039】
次に、セラミックス回路基板の構成例を図2に示す。図2において7は厚さ0.3?0.6mm、熱伝導率70W/m・K以上、曲げ強度600MPa以上の窒化ケイ素焼結体からなるセラミックス基板(以下、窒化ケイ素基板を例にする。)である。窒化ケイ素基板7の一方の面(主面)には、銅板3、4、5が上述したろう材からなるろう材層8、9、10を介して接合されている。一方、窒化ケイ素基板7の他方の面(下面)には、放熱用の平板状の銅板11がろう材層12を介して接合されている。ろう材層8、9、10及び12は、各銅板3、4、5及び銅板11の外周端面から所定量だけはみ出したはみ出し部20を有している。このはみ出し部のはみ出し長さLは、少なくとも0.2mm以上、好ましくは0.3?1.2mmとすることにより窒化ケイ素基板7と銅板3、4、5及び銅板11の端面部に集中する熱応力を緩和させることができる。また、銅板3、4、5及び銅板11の端面の全周には傾斜面3a、4a、5a及び11aが形成されている。この傾斜面の傾斜角度は30°?60°に設定し曲面状に形成しても良い。尚、傾斜面3a、4a、5a、11aは銅板接合後のエッチング処理により形成しても良いし、銅板をプレス加工して予め形成したものでも良い。」

f.「【0045】
次に、回路用銅板と放熱用銅板を載置した窒化ケイ素基板7を所定温度と時間に渡って熱処理した後、冷却することにより、図5のように窒化ケイ素基板7に回路用銅板と放熱用銅板を強固にろう材層を介して接合する。
本発明において、セラミックス基板と金属板とをろう付けする熱処理温度の範囲規定は、マイクロボイドの面積割合および形状を制御する上で重要であり、730?800℃で行うことが望ましい。熱処理温度が、730℃未満では、ろう材成分が充分に溶解することができず、接合界面でのボイド率が10%超かつ最大ボイド径が1.0mm超となり、接合強度の劣化、コロナ放電の発生などの問題が生じる。一方、800℃超では、ボイド率が0.5%未満となり初期の接合強度は確保されるものの、冷熱繰り返しに伴う接合界面の疲労寿命が低下する問題が生じる。また、ろう付け処理後に、ろう材成分が金属回路板表面部に流れ出す不具合を生じる。よって、ろう付けの熱処理温度を730?800℃で行うことで、ボイドの発生を減少させマイクロボイドを微小に且つ分散させることが出来る。
また、マイクロボイドの制御以外の因子について、ろう材が窒化ケイ素基板と銅板を十分に濡らし、また、回路パターン潰れがなく、回路端部に位置するろう材はみ出し部を形成するため、更に両者の熱膨張の違いからくる残留応力による耐熱衝撃性の低下を防止するためには、接合温度を上記範囲とすることが肝要である。また、雰囲気については真空中で処理を行うことが活性金属粉末及び銅粉末、銅板が酸化されること無く良好な接合状態を得ることができ、特に10-2Pa以下の真空度で接合することが望ましい。さらに接合時に適度な荷重をかけることで銅板とろう材および窒化ケイ素基板とろう材がより確実に接触でき、良好な接合状態が得られる。重さとしては20?150g/cm^(2)の荷重を採用できる。
【0046】
さて、ここで上記熱処理によるろう材層の影響について調べた。熱処理後のろう材層を観察した写真を図6に示す。図6(A)は本発明によるろう材を用いたもので、平均粒子径5μmのAg粉末粒子を15%添加したろう材層の表面性状を示している。図6(B)は従来例であって同じろう材であるがAg粉末を添加していないろう材層の表面性状である。両図とも左側が1.7倍の実体顕微鏡写真、右側が13.5倍の拡大写真である。このようにAg粒子無添加の(B)では鱗状の凹凸が表面全体に生成されており、その凹部の最大長さは1.2?2.5mmに達している。このろう材層について金属板とセラミックス基板の接合強度を評価するためにピ-ル強度試験を行った。ピ-ル強度試験は、銅板の一端部が基板の外部に5mm程度突出するように、また、接合面積を10mm×10mmとして接合し、これを90度上方に引張り上げるのに要する長さ単位当りの力を評価した。この方法により金属板とセラミックス基板の密着強度試験を行ったところ、ピール強度は10(kN/m)以下となり密着強度が弱いことが確認された。
【0047】
一方、図6(A)の本発明のろう材層からは鱗状の凹凸は解消されている。図6における鱗状の凹凸部について、波長分散型X線分析装置(WDX)を用い成分分析を行った結果、凹部では主成分がCu-Ti相からなり、また、凸部はAg-In相およびCu-In相からなり、Ti添加量が多い程、凹部の生成頻度が大きくなることが判明した。つまりこれは冷却過程では、融点の高いCu-Ti相が最初に析出し、温度低下と共に収縮が起こる。続いてAg-In相およびCu-In相が析出するが、これらは低融点のInを含むため、Cu-Ti相よりも低温度領域まで液相を維持する。このため、Ag-In相およびCu-In相とCu-Ti相の間で収縮差が生じ、凹凸形状となってしまうのである。そこで、本発明ではAg-Cu-In-Ti合金粉末にAg粉末を添加することで、比較的融点の高いAg-In相を析出させ、先に析出するCu-Ti相との収縮差を抑制することに効果があると考えたものである。他方、Cu粉末を添加した場合では、Ag粉末添加とは逆に、比較的融点の高いCu-In相を多く析出させ、先に析出するCu-Ti相との収縮差を抑制することに効果があると考えたものである。
また、Cu-Ti相の生成は、合金粉末中のTi量、ならびに、合金粉末とAg粉末を混合した場合のAg/Cu比に大きく関与し、Ti量が多い程、また、Ag/Cu比が低い程高くなり、このため鱗状の凹凸部の生成頻度が高くなる。従って、この鱗状の凹凸部を抑制するには、Ag粉末添加によりAg/Cu比を増大すること、また、Ti量を0.2?2.0質量%に制御することが肝要であることが分かった。一方、Cu粉末を添加する際には、Ag/Cu比が低くなり、Cu-Ti相の生成を助長することとなるが、Ti量を0.2?2.0質量%に規定することで、Cu-Ti相の生成を一定範囲に留め、代わり生成するCu-In相とCu-Ti相の生成比率を制御することで、鱗状の凹凸部の生成を抑制することが可能である。」

g.「【0050】
以下、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(実施例)
Ag:58.8質量%、Cu:27.5質量%、In:12.5質量%、Ti:1.2質量%及び不可避不純物からなる合金粉末に、下表1に示すAg粒子粉末およびCu粉末粒子を添加し、全ペーストに占める割合でα-テネピネオール6質量%、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル5質量%、ポリイソブチルメタクリレート5質量%、分散剤0.1質量%を配合したのちプラネタリーミキサーを用いて混合を行い、120Pa・sのペーストを作成した。使用した母材合金粉末の平均粒径は30μmであった。
このペーストを縦50mm×横30mm×厚さ0.63mm寸法の窒化ケイ素質焼結体製の基板上にスクリーン印刷により図3のようなパターンで厚み25μmではみ出し部Lが0.3mmとなるように塗布した。ここで、ろう材はみ出し量を0.25mm以上を設計値としているが、これは、金属回路板端部付近のセラミックス基板への応力集中を緩和する効果が最大となる値であり、この場合、応力集中を約60%に低減できる。
この後、120℃×30分大気中で乾燥し、続いて、回路用銅板-窒化ケイ素基板-放熱用銅板と重ねた後、70g/cm^(2)の荷重をかけながら真空中(10^(-2)Pa)、760℃×10分保持の熱処理を施して銅板と窒化ケイ素基板の接合を行った。用いた銅板の板厚は、エッチング後の回路基板の反り、ならびにはんだリフロー後のモジュール実装形状、さらには、回路基板と放熱基板(例えば、Cu、Cu-W、Mo、Cu-Cu0、Al-SiC等)のはんだ不良欠陥の防止を考慮して、回路側が0.3mmt、放熱側を0.2mmtとした。その後、図4のパターンとするためにエッチング公差を考慮したレジストパターンの印刷、不要部分の銅部材の除去を行い各々のセラミックス回路基板を作製した。
【0051】
それぞれのセラミックス回路基板の凹凸面の粗さ(凹部の最大長さ)、最大ボイド径、ボイド率を超音波顕微鏡機にて評価した。その結果を表2に示す。ここで、凹凸面の粗さは、窒化ケイ素基板に表1および表2に示すろう材粉末を用い、加熱処理後のろう材層部の凹凸面に対して凹部の長さを評価した。また、用いた超音波探査映像装置は日立建機社製Mi-Scopeである。評価条件については、金属回路板の種類と厚みおよびセラミックス基板の種類と厚みにより異なるが、本発明では、金属回路板は、Cuで回路板の厚み0.3mm、放熱板の厚み0.2mm、セラミックス基板は窒化ケイ素で厚みは0.6mmである。プローブは50MHzのものを使用した。
接合界面のボイド率については、白黒の256階調の評価画像についてのしきい値を92として2値化処理を行い、反射法にて評価面積(黒色部)に対する白色部の割合を評価した。また、ボイド径については、評価面積に存在するマイクロボイド全数について最大長さを評価した。図7(A)および(B)に本発明の回路基板における接合界面の超音波探査映像ならびに2値化像を示す。この例のボイド率は、(A)および(B)はそれぞれ、0.8%および5.0%である。また、図7(C)および(D)に比較例のものを示す。これら例のボイド率は、それぞれ、0.4%および18.0%であった。また、本発明のマイクロボイド形状については、上述したように単一な球形でなく、多くの曲率を持つ形状が特徴である。
さらに、接合した銅板を窒化ケイ素基板に対して90°方向に引っ張り、ピール強度を測定して密着強度とした。
また、回路基板の接合界面における耐冷熱サイクル性の評価は、-40℃での冷却を20分、室温での保持を10分および125℃における加熱を20分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとし、これを繰り返し付与し、接合界面におけるボイド率について初期の値の1.5倍以上となるまでのサイクル数を測定した。
【0052】
(比較例)
ろう材ペーストの作製、窒化ケイ素基板への印刷、ろう付け条件等は上記実施例と同様に行い、表1の試料No.51?61および71?81に示す合金粉末及びAg粉末あるいはCu粉末を添加した。これらについて上記と同様の項目を測定した。」

h.「【図2】





・上記e及びh(図2)には、窒化ケイ素基板7の一方の面に、銅板3、4、5がろう材からなるろう材層8、9、10を介して接合したセラミックス回路基板、が記載されている。
また、上記bには、セラミックス回路基板で用いるろう材は、母材合金がAg-Cu-In-Tiの4元系であることが記載されている。
してみると、引用文献1には、窒化ケイ素基板と銅板とを、ろう材の母材合金がAg、Cu、In、Tiから組成されたろう材層を介して接合したセラミックス回路基板、が記載されているといえる。

・上記cには、Tiは酸化が起こりにくいと好適な接合状態が得られることが、また、上記bには、Tiの酸化を防止するため、合金粉末中の酸素量を0.5質量%以下に制御すること、が記載されている。
してみると、引用文献1には、ろう材の合金粉末中の酸素量を、Tiの酸化を防止することで好適な接合強度を得るために、0.5質量%以下とすることが記載されているといえる。

・上記fには、熱処理後のろう材層はCu-Ti相を生成していることが記載されている。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「窒化ケイ素基板と銅板とを、ろう材の母材合金がAg、Cu、In、Tiから組成されたろう材層を介して接合したセラミックス回路基板であって、
ろう材の合金粉末中の酸素量を、0.5質量%以下とし、
熱処理後のろう材層はCu-Ti相を生成している
セラミックス回路基板。」


イ.引用文献2の記載事項
引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。

a.「[0028] そして、図1に示す例の放熱基体10は、絶縁性の支持基板21の第1主面21aに銅を含む回路部材41a,41bを、第1主面21aに対向する第2主面21bに放熱部材42をそれぞれ設けてなる放熱基体10であって、回路部材41a,41bは、支持基板21の第1主面21aに複数個並べて配置されて、上記いずれかの構成の本発明のろう材からなるそれぞれの接合層31a,31bを介して支持基板21と接合されていることを特徴とするものである。」

b.「[0039] また、支持基板21は、窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなることが好適である。このセラミックスは焼結体または単結晶のいずれでもよい。」

c.「[0052] 回路部材41の主成分である銅としては、無酸素銅,タフピッチ銅およびりん脱酸銅から選ばれる1種以上であることが好適である。特に、無酸素銅のうち、銅の含有量が99.995質量%以上である線形結晶無酸素銅,単結晶状高純度無酸素銅および真空溶解銅のいずれかを用いることが好適である。このように銅の含有量の多い回路部材41を設けた放熱基体10は、電気抵抗が低く、熱伝導率が高いため、回路特性(電子部品の発熱を抑制し、電力損失を少なくする特性)や放熱特性に優れたものとなる。また、降伏応力が低く、高温下で塑性変形しやすくなるため、支持基板21から回路部材41が剥がれることが少なく、より信頼性の高い放熱基体10となる。
[0053] 同様に、放熱基体10を構成する放熱部材42は、熱伝導性の高い金属である銅を主成分とすることが好適である。放熱部材42の主成分である銅としては、無酸素銅,タフピッチ銅およびりん脱酸銅から選ばれる1種以上であることが好適であり、特に、無酸素銅のうち、銅の含有量が99.995質量%以上である線形結晶無酸素銅,単結晶状高純度無酸素銅および真空溶解銅のいずれかを用いることが好適である。このように、含有量が99.995質量%以上である銅からなる放熱部材42を設けた放熱基体10は、さらに放熱特性を高めることができる。」

してみると、引用文献2には、以下の技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「セラミック回路基板に用いる銅板を無酸素銅とすること。」


(3)当審の判断
ア.理由1)について(特許法第29条第2項)

(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明とを対比すると以下のとおりである。

a.引用発明の「窒化ケイ素基板」は、本件特許発明1の「窒化珪素セラミックス基板」に相当する。

b.引用発明は、窒化珪素セラミックス基板と「銅板」とを接合しているから、本件特許発明1と引用発明とは、窒化珪素セラミックス基板と接合している金属板が「銅板」である点で共通する。
ただし、銅板が、本件特許発明1は「無酸素銅板」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

c.引用発明の「ろう材層」は、ろう材の母材合金がAg、Cu、In、Tiから組成されるものである。
また、引用発明の「酸素量」は、ろう材の合金粉末中のものであり、ろう材由来の酸素含有量といえる。
したがって、引用発明の「ろう材層」と、本件特許発明1の「ろう材層」は、「Ag、Cu、Ti及びInを含むろう材層」の点で共通する。
ただし、「ろう材層」が、本件特許発明1は「ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%である」のに対し、引用発明は、ろう材由来の酸素含有量が0.5質量%以下である点で相違する。

d.引用発明の「セラミック回路基板」は、窒化ケイ素基板と銅板とをろう材層を介して接合したものであるから、本件特許発明1の「窒化珪素セラミックス基板と銅板とを、ろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体」に相当する。

e.本件特許発明1は「該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において無酸素銅板と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついている」のに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「窒化珪素セラミックス基板と無酸素銅板とを、Ag、Cu、Ti及びInを含み、ろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体。」

<相違点1>
「銅板」が、本件特許発明1は「無酸素銅板」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点。
<相違点2>
「ろう材層」が、本件特許発明1は「ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%である」のに対し、引用発明は、ろう材由来の酸素含有量が0.5質量%以下である点。
<相違点3>
本件特許発明1は「該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において無酸素銅板と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついている」のに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点。

まず、相違点3について検討する。
引用発明のろう材中のTiは、一般的に、窒化ケイ素基板との高い反応性により、窒化ケイ素基板と銅板との接合強度を高くするものである。そうすると、ろう材層と窒化ケイ素基板との間の界面(本件特許発明1の「第2界面」に相当。)には、窒化チタン等のTiが留まるから、所定のTi濃度のピークが存在することは明らかである。また、引用発明の熱処理後のろう材層は、Cu-Ti相を生成している。
しかしながら、Cuは銅板以外のろう材の母材合金中にも含まれており、、Cu-Ti相がろう材層のどこにできるかは不明であるところ、引用文献1の段落【0045】には「雰囲気については真空中で処理を行うことが活性金属粉末及び銅粉末、銅板が酸化されること無く良好な接合状態を得ることができ、・・・・」と記載されているから、銅板は酸化されておらず、銅板とろう材層の界面のTiが酸素と結びついているとは認められない。
さらに、引用文献2には、 セラミックス-銅接合体における、接合体の接合界面に関する記載はされていない。
よって、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に採用し得たものではない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明することができたものではない。

(イ)本件特許発明2及び5について
本件発明1を引用する本件発明2及び5は、本件発明1の構成に加えて更に限定した構成を付加したものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明することができたものではない。

イ.理由2)について(特許法第36条第6項1号)
本件訂正により、請求項1の「ろう材層」の「酸素含有量」が、「ろう材由来」のものと訂正され、請求項1ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとなったので、当審による取消理由で指摘した不備の点は解消された。
したがって、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

ウ.理由3)について(特許法第36条第6項2号)
本件訂正により、請求項5の「冷熱サイクル試験」の条件を、「低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験」であると明確にしたので、当審による取消理由で指摘した不備の点は解消された。
したがって、本件請求項5に係る特許は、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。


3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
ア.理由1
訂正前の請求項1ないし5に係る特許について、甲第1号証に記載され発明と甲第2号証ないし甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書11頁1行-16頁10行)
イ.理由2
訂正前の請求項1の「該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅板と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度の第2ピークを有する」構成の「ろう材層」は、接合前のものと解することもでき、そうすると、接合前の且つ冷熱サイクル試験前のろう材層と無酸素銅との第1界面、接合前の且つ冷熱サイクル試験前のろう材層と窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度のピークが存在することは、発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって、本件特許は、訂正前の請求項1ないし5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許異議申立書17頁14行-18頁1行)
ウ.理由3
訂正前の請求項1の「酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層」が、印刷され接合された後のろう材層の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であることを規定しているのか、又は酸素含有量が0.0005?0.1重量%である粉末状のものを用いて接合したことを規定している(物を発明についてその物の製造方法を記載しようとしている)のか不明確である。
また、粉末状での規定の場合には、接合後のろう材層の酸素含有量を特定すれば、ろう材層の構造又は特性を直接特定できるので、接合前の粉末状のものを用いて接合したことを規定することは不明確である。
したがって、訂正前の請求項1ないし5は不明確であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許異議申立書18頁2-18行)

甲第1号証: 特開2005-252087号公報 (引用文献1)
甲第2号証: 特開平5-170563号公報
甲第3号証: 特開平5-201777号公報
甲第4号証: 特開平6-97316号公報

(2)各甲号証の記載
甲第1号証の記載事項に関しては、上記「2.」の「(2)引用文献の記載」の「ア.引用文献1の記載事項」の記載のとおり。

ア.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

a.「【0005】
【課題解決のための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ろう材の酸素含有量とIVa 族の金属またはこれらの金属の水素化物の添加量を特定範囲に限定することにより上記課題を解決し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、セラミックスと銅板の接合において、ろう材の化学成分が、酸素含有量:0.05?0.5wt%の銀ろう粉末とIVa 族の金属またはこれらの金属の水素化物を1種以上含み、かつこれらの金属または水素化物の添加量の総和が金属換算で銀ろうに対して0.020?0.090モル%であるろう材を用いて接合することを特徴とする銅板とセラミックスの接合方法である。
・・・中略・・・
【0007】
【作用】以下、本発明を作用と共にさらに詳細に説明する。本発明が適用されるセラミックスは、窒化アルミニウム、窒化珪素などの窒化物、炭化珪素などの炭化物、酸化アルミニウムなどの酸化物である。これらのセラミックスには、焼結助剤が含まれてもよく含まれなくてもよい。製造は常圧焼結、ホットプレスなどいずれの方法で製造したものでもよい。
【0008】銅板は、特に化学成分などを限定されるものではないが、電子部材として一般に用いられている無酸素銅第1種、または無酸素銅第2種が特に好ましい。銀ろうとしては、銀と銅の組成比で特に限定されるものではないが、融点の最も低い銀72wt%、銅28wt%共晶組成のものが最も好ましい。銀ろうの酸素含有量は、0.05?0.5wt%でなければならない。酸素含有量が0.05wt%より小さいと、ろう材が流れ出し易くなり回路の耐電圧、絶縁抵抗を低下させる原因となる。また酸素含有量が0.5wt%より大きいと未接合部分が発生し易くなる。」

以上を総合すると、甲第2号証には、以下の技術事項(以下、「甲2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「セラミックスと銅板の接合における銅板として無酸素銅を用いること。」

イ.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】 窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも 1種の活性金属を含む Ag-Cu系ろう材層を介して、前記窒化物系セラミックス部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、
前記 Ag-Cu系ろう材中のAg成分とCu成分とは、前記ろう材層内で溶け分れた組織を形成していることを特徴とするセラミックス-金属接合体。」

b.「【0009】本発明に用いられる窒化物系セラミックス部材としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、サイアロン等が例示される。また、窒化物系セラミックス部材自体の材料特性は、特に限定されるものではないが、特に破壊靭性値K_(IC)が4.5MPa・m^(1/2) 以上のものを用いることが好ましい。本発明のセラミックス-金属接合体は、ろう材層自体の構成によって、耐冷熱サイクル特性や接合強度の向上を図ったものであるが、さらに破壊靭性値K_(IC)が4.5MPa・m^( 1/2) 以上の窒化物系セラミックス部材を用いることにより、より一層耐冷熱サイクル特性の向上を図ることができる。
【0010】また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択すればよく、例えば構造材料としては、鋼材、耐熱合金、超硬合金等が例示され、また電子部品材料としては、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、W 、Mo等が例示される。」

c.「【0019】
【実施例】次に、本発明の実施例について説明する。
実施例1
まず、窒化物系セラミックス部材として厚さ0.8mmtの板状の窒化アルミニウム焼結体、および金属部材として厚さ0.3mmtの銅板(無酸素銅)を用意した。一方、重量比でAg:Cu:Ti=70.6:27.4:2.0のろう材を用意し、このろう材に樹脂バインダおよび分散媒を適量加え、十分に混合して接合用ペーストを作製した。」

d.「【0022】図1および図3から明らかなように、実施例1によるセラミックス-金属接合体では、ろう材層1内のほぼ全域でAg成分2とCu成分3とが解け分かれた組織を形成していることが分かる。また、図3における矢印Aに沿った部分のTiの線分析結果(EPMA)を図5に示す。図5から分かるように、実施例1によるセラミックス-金属接合体では、ろう材層1の厚さ方向にほぼ平均的にTiが分布していた。」

e.「【図5】



・図5によれば、接合体の接合界面を含む断面において無酸素銅とろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、ろう材層と窒化物系セラミックス部材との第2界面にTi濃度の第2ピークを有することが読み取れる。

以上を総合すると、甲第3号証には、以下の技術事項(以下、「甲3記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「窒化物系セラミックス部材と銅板(無酸素銅)をAg:Cu:Tiのろう材で接合したセラミックス-金属接合体をEPMA分析すると、接合体の接合界面を含む断面において無酸素銅とろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、ろう材層と窒化物系セラミックス部材との第2界面にTi濃度の第2ピークを有すること。」

イ.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

a.「【0011】本発明においては、活性金属成分は、接合の際に酸化物となりやすく、その酸化物は銅の酸化物よりも安定であることが多いため、活性金属成分が銅板表面を還元する。それによって、銅が清浄化され、ロウ成分が銅板と良く濡れるようになるので、ロウ成分が銅板中に拡散し接合層が形成される。このとき、ロウ成分に含まれる不純物特に酸素の濃度が高いと、ロウ成分の濡れ性を悪化させることになるので、本発明においては、ロウ成分を含めて金属粉末の酸素濃度はできるだけ少ないほうがよい。」

以上を総合すると、甲第4号証には、以下の技術事項(以下、「甲4記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「ロウ成分を含めて金属粉末の酸素濃度はできるだけ少ないほうがよいこと。」


(3)当審の判断
ア.理由1について
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明を対比すると、上記「2.(3)ア.(ア)本件特許発明1について」で記したように、上記相違点1ないし相違点3で相違する。

先ず、相違点3について検討する。
上記「2.(3)ア.(ア)本件特許発明1について」で検討したように、引用発明の熱処理後のろう材層は、Cu-Ti相を生成している。
しかしながら、Cuは銅板以外のろう材の母材合金中にも含まれており、、Cu-Ti相がろう材層のどこにできるかは不明であるところ、セラミックス基板と銅板とをろう付けする熱処理に関しても甲第1号証の段落【0045】には「雰囲気については真空中で処理を行うことが活性金属粉末及び銅粉末、銅板が酸化されること無く良好な接合状態を得ることができ、・・・・」と記載されているから、銅板は酸化されておらず、銅板とろう材層の界面のTiが酸素と結びついているとは認められない。
そして、甲第2号証、甲第3号証には、 セラミックス-銅接合体における、接合体の接合界面に関する記載はされていない。
また、甲第4号証には、セラミックス-銅接合体における、接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析に関して記載されているが、第1ピークを示すTiが酸素と結びくことに関しては記載されていない。
よって、上記相違点3に係る本件特許発明1の構成は、引用発明と甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に採用し得たものではない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明することができたものではない。

(イ)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1の構成に加えて更に限定した構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術事項に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

イ.理由2について
請求項1には「ろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体」と記載されており、接合体における「ろう材層」は、接合後であると解するのが普通である。
そして、該請求項1の記載に対応する本件特許明細書の記載として、段落【0019】には「回路基板8を切断し、切断面において回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面および回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面を含む長さを評価長さとし、加速電圧:15kV、ビーム径:0.1μmの条件でAg,Cu,Ti,Si,O,N成分についてEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)によるライン分析を行い各成分の相対強度を求める。この分析を前記切断面の任意の10箇所において行い、回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面にTi濃度の第1ピークを有し、且つ回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面にTi濃度の第2ピークを有する箇所が1箇所でも確認されれば、それは本発明のセラミックス-銅接合体とする。」と記載されている。
ここで、上記「回路基板8」は、請求項1の「接合体」に対応するものであるところ、これに関して本件特許明細書の段落【0017】には「[回路基板の作製] セラミックス基板4の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層10,11を印刷形成する。・・・活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱してセラミックス基板と接合する。・・・冷却後、両方の面の無酸素銅板上にレジストパターンを形成後に、塩化第二鉄溶液によってエッチング処理して回路側金属板3と放熱側金属板5を形成する。ろう材層のうち露出した部分は過酸化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチング除去する。さらに回路側金属板及び放熱側金属板にNi-Pメッキを施し回路基板8を作製する。」と記載されているから、回路基板8におけるろう材層は接合後であることが記載されているといえる。
したがって、請求項1の「該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅板と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度の第2ピークを有する」における「ろう材層」が接合後であることが記載されているから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
よって、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

ウ.理由3について
請求項1には「ろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体」と記載されており、接合体における「ろう材層」は、接合後であることは明らかであるから、請求項1の「酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層」は印刷され接合された後のろう材層の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であることを規定しているものであり不明確であるとはいえない。
したがって、本件請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

エ.独立特許要件について
本件特許発明8については、特許異議の申立てがされていないが、上記「第2.2.(2).エ.訂正事項4及び5について」に記載したように、本件特許発明8については独立特許要件が課されるので、理由1について検討する。
なお、理由2、3については対応する記載が存在しないので、これらの点では拒絶の理由が存在しない。

上記甲第1号証ないし甲第4号証には、請求項8が引用する請求項6の「無酸素銅板の表面を100?300℃の温度で酸化する酸化工程と、 窒化珪素セラミックス基板と表面を酸化した無酸素銅板とを、加熱温度700?850℃、無酸素銅板を窒化珪素セラミックス基板に押し付ける圧力が1400?15200Paの条件で、Ag、Cu、Ti及びInを含むろう材を介して接合する接合工程」が記載されていない。
したがって、請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、他に請求項8に係る発明を拒絶すべき理由を発見しない。


第4.むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セラミックス-銅接合体およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品のパワーモジュール等に使用される窒化珪素-銅接合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET等の電力制御素子として知られているパワー半導体スイッチング素子は、これらの複数個を絶縁容器内に密封して構成され、パワーモジュールとして使用される。このようなパワーモジュールに使用される回路基板又は放熱基板などの基板は、アルミナ、窒化アルミなどのセラミックス基板の表面に、銅板などの金属板を接合した構成のものが多用されている。
【0003】
前記基板におけるセラミックス基板と金属板との接合は、Ti、Zr、Hf、Nb等の活性金属をAg-Cuろう材等に1?10質量%程度添加した活性金属ろう材を両者間に介在させ、加熱処理をして接合する方法(活性金属法)や、金属板として酸素を100?1000ppm程度含有するタフピッチ電解銅を用いてセラミックス基板と銅板とを直接加熱接合させる、いわゆるDBC法(Direct Bonding Copper法)等が知られている。中でも活性金属法は、セラミックスの粒界や結晶層への活性金属の拡散と反応により、セラミックス表面がろう材との良い濡れ性を示し、セラミックス基板と金属板との強固な接合を可能とすることから好適に用いられる。しかし、熱膨張率が大きく異なるセラミックス基板と金属板を接合するため、接合後の冷却過程や加熱・冷却サイクルの熱衝撃付加により、上記熱膨張差に起因する熱応力が発生する。この応力は、接合部付近のセラミックス基板やろう材層側に圧縮と引張りの応力を生じさせ、特に金属板の外周端部と近接するろう材層部分には引張り残留応力が作用する。この熱応力に起因する残留応力は、ろう材層に主応力方向と直行する方向にクラックを生じさせ、金属板の剥離の発生原因になる。
【0004】
このセラミックス-銅接合体である回路基板のクラック発生や金属板の剥離を防止するための技術は、例えば特許文献1に提案されている。前記公知例は、金属Cuと、金属Snと、Ag-Cu-Ti合金とを金属材料として含有する活性金属ろう材において、金属Cuは、金属材料の合計重量に対して5重量%以上15重量%以下の組成範囲にあり、金属Snは、金属材料の合計重量に対して5重量%以上15重量%以下の組成範囲にあり、Ag-Cu-Ti合金中のTiの含有量は、Ag-Cu-Ti合金の全体重量に対して1重量%以上10重量%以下である活性金属ろう材を用いた金属部材とセラミックス部材との接合方法を開示している。この活性金属ろう材によりセラミックス部材と金属部材に好適なぬれ状態を得ることができるから金属部材とセラミックス部材との接合に際して、接合強度を著しく向上させる効果を奏するとしている。
また、特許文献2には、Siチップ搭載時の熱処理や実稼働時の熱履歴が課せられた際の接合剥離やセラミックス自身のクラック発生を防止した窒化珪素回路基板が開示されている。この窒化珪素回路基板は、窒化珪素基板の一方の面に金属回路板、もう一方の面に金属放熱板を接合してなり、金属回路板がCuを主成分とする金属からなる場合には、接合されている金属回路板及び金属放熱板を除去したときの窒化珪素基板の強度が550MPa以上である回路基板であり、実施例ではろう材としてAgCu共晶組成+8wt%Tiの活性ペーストが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2520334号公報
【特許文献2】特開2001-94016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の接合方法に従って窒化珪素基板と金属板とを活性金属法により接合すると、ろう材層とセラミックス部材および金属部材との好適な濡れ状態を得ることができ、窒化珪素と金属板の接合強度が上がる。その一方で活性金属ろう材に含まれるTi成分は、金属成分中に拡散してろう材層を脆化させるので、ろう材層におけるクラックの進展能を増大させる。
また、特許文献2の窒化珪素回路基板によれば、接合条件によっては、接合後強度が異なり、窒化珪素基板と金属回路板または金属放熱板との接合によってできる反応層はろう材に含まれる活性金属であるTiと窒化珪素との反応による窒化物・珪化物混合相より形成される。特に珪化物は脆く、当然接合温度が高い場合あるいは接合時間が長い場合にはその生成量が多くなることが開示されている。
このような活性金属を含むろう材接合層により接合した窒化珪素回路基板は、ろう材接合層を脆化させるため、接合後の冷却過程やパワー半導体素子による加熱・冷却サイクルの付加により繰り返し熱応力が発生すると、ろう材接合層においてクラックが生じることもあるという課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、窒化珪素回路基板にパワー半導体素子を接合して使用した際に発生するろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ、加熱・冷却サイクルに対する耐性である耐ヒートサイクル性を改善することのできるセラミックス-銅接合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1の発明のセラミックス-銅接合体は、窒化物セラミックスと無酸素銅とをAg、Cu、Ti及びInを含み、ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついていることを特徴とする。
【0009】
本願第2の発明のセラミックス-銅接合体の製造方法は、窒化物セラミックスと無酸素銅の表面を100?300℃の温度で酸化処理して得られた無酸素銅とをTiを含むろう材で接合することを特徴とする。
【0010】
本願第2の発明においては、ろう材を構成する合金のTi含有量を0.5?9重量%とすることができ、好ましくは0.5?5重量%、更に好ましくは1?3重量%とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ耐ヒートサイクル性を改善することのできる窒化珪素-銅接合体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る窒化珪素-銅接合体を用いた半導体モジュールの断面図である。
【図2】実施例1で、ろう材接合後のろう材層におけるEPMAによるライン分析をしたときのTi成分のピークを示す。
【図3】実施例2で、ろう材接合後のろう材層におけるEPMAによるライン分析をしたときのTi成分のピークを示す。
【図4】比較例1で、ろう材接合後のろう材層におけるEPMAによるライン分析をしたときのTi成分のピークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に適宜変更、改良が加えられたものも本発明の範囲内に含まれる。
【0014】
本発明のセラミックス-銅接合体は、セラミックスと無酸素銅とをAg、Cu、Ti及びInを含み、ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついている。理由は明確になっていないが、本発明のセラミックス-銅接合体は、無酸素銅とろう材層との界面およびろう材層とセラミックスとの界面にTi濃度のピークを形成することで、ヒートサイクルの付加による繰り返し熱応力に対して、ろう材層中においてクラックを生じ難いという利点を有している。本発明のセラミックスー銅接合体に用いられるセラミックスは、回路基板または放熱基板として用いられるため、熱伝導率が高く、強度が高い窒化珪素または窒化アルミニウムなどの窒化物セラミックスからなることが好ましい。また使用する無酸素銅の含有酸素量は50ppm以下とすることが好ましく、更に好ましくは2?50ppmである。
【0015】
図1に示す回路基板8は、例えば、以下の通りにして製造できる。
[窒化物セラミックスの作製]
まず、本発明に好適に用いることのできる窒化物セラミックス4の製造方法について説明する。窒化物セラミックスの構成原料である窒化物原料粉末および焼結助剤に溶媒および分散剤を添加しボールミルで混合、粉砕する。ここで、混合、粉砕した原料に、バインダー、可塑剤を添加、混練し、粘度が所定の値になるように調整しスラリーとする。スラリーをドクターブレード法、押出し法等のシート成形手段により所定板厚でシート成形する。このシート成形体を所定形状に切断後、脱脂し、焼結炉内で1800?2000℃の窒素雰囲気で焼結して窒化物セラミックス(以下、セラミックス基板とも記す)4を得る。本発明のセラミックスー銅接合体に用いられるセラミックスは、回路基板または放熱基板として使用されることから、強度、放熱性を考慮して、その厚さは、0.1?1mmの板状形状であることが好ましい。セラミックスの厚さが0.1mm未満の場合は、回路基板または放熱基板とした場合に破損することもあるからであり、1mmを超えると放熱性が低下することもあるからである。同様の理由から、より好ましい厚さは0.2?0.7mmであり、更に好ましくは、0.3?0.5mmである。
【0016】
[無酸素銅板の酸化]
セラミックス基板4とほぼ同じ長方形状の二枚の無酸素銅板を用意する。一方は回路側金属板3となる無酸素銅板であり、他方は放熱側金属板5となる無酸素銅板である。無酸素銅板の回路基板または放熱基板として使用されることから、厚さは、0.1mm?3mmが好ましい。無酸素銅板の厚さが0.1mm未満の場合は、セラミックスー銅接合体が変形することもあるからであり、3mmを超えると、セラミックスとの接合界面の応力が高くなって、セラミックスが破損することもあるからである。より好ましい無酸素銅板の厚さは0.2?2mmであり、更に好ましくは0.2?0.6mmである。
これらの無酸素銅板の表面を高温の空気中で酸化処理する。酸化処理する際の空気の温度は100?300℃であり、好ましくは100?200℃である。100℃未満では酸化の効果が不十分であり、300℃を超えると酸化処理後に、表面の酸化膜が不均一に剥離し易くなり好ましくない。
【0017】
[回路基板の作製]
セラミックス基板4の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層10,11を印刷形成する。ろう材層を印刷する厚さは、接合後のろう材層の厚さが2?50μmとなる厚さとすることが好ましい。接合後のろう材層の厚さが2μm未満であると、セラミックス基板または無酸素銅板の表面にうねりや反りにより接合できないこともあるからであり、接合後のろう材層の厚さが50μmを超えると、接合体として十分な強度が得られないこともあるからである。より好ましい接合後のろう材層の厚さは、5?40μmであり、更に好ましくは10?20μmである。
窒化物セラミックスと無酸素銅とを接合する活性金属ろう材の組成はAg-Cu-In-Ti系合金粉末からなり、活性金属であるチタンの含有量は従来と同等の0.5?9重量%とすることができ、好ましくは0.5?5重量%、更に好ましくは1?3重量%とすることができる。少なすぎると十分な接合強度が得られず、多量に添加すると、ろう材そのものが脆化する。特に好ましいチタンの量は1?3重量%である。ろう材の酸素含有量は金属回路/ろう材相/窒化珪素基板間の安定した接合強度が得やすいことから5?1000ppmとする。活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱してセラミックス基板と接合する。接合条件は、加熱温度700?850℃、無酸素銅板とセラミックス基板の押付け圧力1400?15200Paとすることが好ましい。冷却後、両方の面の無酸素銅板上にレジストパターンを形成後に、塩化第二鉄溶液によってエッチング処理して回路側金属板3と放熱側金属板5を形成する。ろう材層のうち露出した部分は過酸化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチング除去する。さらに回路側金属板及び放熱側金属板にNi-Pメッキを施し回路基板8を作製する。
【0018】
[冷熱サイクル試験]
作製した回路基板について、低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間としたヒートサイクル試験を2000サイクルまで行い、2000サイクル後の回路側ろう材層10に発生したボイドを超音波探査映像装置(日立建機ファインテック(株)製、mi-scope.exla)で観察し、ボイド率(ボイド率(%)=100×(ボイドおよびクラックの面積/回路側ろう材層10の面積))を算出する。さらに、冷熱サイクル試験前後のボイド率の差(ボイド率の差(%)=冷熱サイクル試験後のボイド率(%)-冷熱サイクル試験前のボイド率(%))を求め、前記ろう材層におけるクラックの有無を判定した。ここではボイド率の差が2%以上でクラックが生じたと判定した。ろう材層は冷熱サイクル試験によりセラミックス基板4と回路側金属板3および放熱側金属板5との熱膨張率の差から発生する歪を繰り返し受ける。そのため回路側ろう材層10と放熱側ろう材層11にはクラックが発生、成長してボイドとなる。ボイドがろう材層に発生するとセラミックス基板4と回路側金属板3および放熱側金属板5との接合強度を低下させる。
【0019】
[Ti濃度分析]
窒化物セラミックスとろう材層との界面のTi濃度、ろう材層と無酸素銅との界面のTi濃度およびろう材層の中心部のTi濃度は次のようにして測定することができる。即ち、冷熱サイクル試験の後、回路基板8を切断し、切断面において回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面および回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面を含む長さを評価長さとし、加速電圧:15kV、ビーム径:0.1μmの条件でAg,Cu,Ti,Si,O,N成分についてEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)によるライン分析を行い各成分の相対強度を求める。この分析を前記切断面の任意の10箇所において行い、回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面にTi濃度の第1ピークを有し、且つ回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面にTi濃度の第2ピークを有する箇所が1箇所でも確認されれば、それは本発明のセラミックス-銅接合体とする。ここで、Ti濃度のピークとは、接合体の切断面のEPMAによるライン分析で得られたTiの相対強度(%)-相対距離(μm)の関係を表す曲線において、ろう材層の中心部のTi相対強度に対して5倍以上のTi相対強度を有し且つ半価幅が5μm以下のピークを意味するものとする。ろう材層の中心部とは、無酸素銅とろう材層との界面から前記ろう材層と窒化物セラミックスとの界面までの距離をろう材層の厚さとしたとき、ろう材層の厚さを二等分する位置である。
【0020】
第1ピーク(金属板側)/第2ピーク(基板側)(両ピークの高さの比)の好ましい範囲は、5倍?20倍である。5倍未満では、ろう材と基板側の接合に寄与するTiNの生成量(総量)が十分でなく所望の接合強度が得られず、このため冷熱サイクル試験後のボイド生成量が増加する不具合が生じる。一方、20倍超では、金属板とろう材との界面にTi成分を拡散させてTi濃度の高い領域を形成し、ろう材層中で生成するTi成分相を抑制することができなくなり、ろう材層中に脆性相であるTi成分相の影響が発現し、この場合においても耐ヒートサイクル性を改善することができなくなる。したがって、第1ピーク(金属板側)/第2ピーク(基板側)の好ましい範囲は、5倍?20倍の範囲が好ましい。
【0021】
半導体モジュール9は、前記の回路基板8を用いて形成され、特に大電力で動作する半導体素子1をこれに搭載する。この半導体モジュールの断面図が図1である。この半導体モジュール9は、前記の回路基板8における回路側金属板3上に半導体素子1が第一のはんだ層2を介して接合して搭載されている。また、放熱ベース板7が第二のはんだ層6を介して放熱側金属板5に接合されている。
【0022】
半導体素子1は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のような半導体デバイスが形成されたシリコンチップである。特にこの半導体デバイスは、大電力で動作するものとすることができる。これによる発熱がこの回路基板8によって放熱される。また、半導体素子1と配線となる回路側金属板3との電気的接続は、ボンディングワイヤ(図示せず)を用いてもよいし、フリップチップ接続を用いることにより、はんだ等のバンプにより行ってもよい。
【0023】
放熱ベース板7は、機器側でこの回路基板8を搭載する部分である。放熱ベース板7は半導体素子1から放熱側金属板5に伝わった熱を放熱するため、熱伝導率が高く、熱容量が大きい。これは例えば銅、アルミニウムからなる。放熱ベース板7の熱膨張係数は、例えば、銅が17×10^(-6)/K、アルミニウムが22×10^(-6)/K程度と大きい。
【0024】
この半導体モジュール9においては、例えばセラミックス基板4の熱膨張係数は1.5?2.5×10^(-6)/K、無酸素銅からなる回路側金属板3および放熱側金属板5は17?22×10^(-6)/Kと熱膨張率が大きく異なるセラミック基板と金属板とを接合するため、接合後の冷却過程やヒートサイクルの付加により、この熱膨張差に起因する熱応力がろう材層に発生する。
【0025】
本発明の窒化珪素-銅接合体は、窒化物セラミックスとろう材層との界面およびろう材層と無酸素銅との界面にTi成分を拡散させてTi濃度の高い領域を形成し、ろう材層中で生成するTi成分相を抑制することで脆性相であるTi成分相の影響を少なくし耐ヒートサイクル性を改善することができる。ろう材層と無酸素銅との界面にTi成分を拡散させてTi濃度の高い領域を形成することは、予め無酸素銅表面を酸化すること等によって達成することができる。これは非常に安定な酸化物を形成しやすいTiが酸素との結び付きが強いことと関係していると考えられる。
【0026】
以下、本発明の実施例に基づいて詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1?3)
原料粉末はSi_(3)N_(4):94重量%、焼結助剤としてMgO:3重量%およびY_(2)O_(3):3重量%、焼成温度1800℃の条件で前述の製造手順にしたがって寸法50×40×0.32mmのセラミックス基板を作製した。セラミックス基板に接合する寸法50×40×0.5mmの回路側金属板および寸法50×40×0.4mm放熱側金属板は何れも酸素濃度2ppmの無酸素銅板を用い、この無酸素銅板を予め100℃×5hr,200℃×4hr,300℃×4hrの大気中で表面を酸化処理したものを用いた。表1に酸化処理後の無酸素銅板の表面をEPMA分析した結果を示す。使用機器に島津製EPMA1610を使用して定量分析を行った。分析条件は加速電圧15KV、ビーム電流100nA、ビーム径100μm、時間0.0854sec/pointとした。
【0028】
【表1】

【0029】
接合に用いたろう材の組成、酸素含有量を表2に示す。接合条件は加熱温度750℃、圧力1400Paとした。作製した回路基板のボイド率を測定し、次いで2000サイクルの冷熱サイクル試験を実施し、再び回路基板のボイド率を測定した。その後、ろう材接合後のろう材層における切断面において回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面および回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面を含む長さを評価長さとし、加速電圧:15kV、ビーム径:0.1μmの条件でAg,Cu,Ti,Si,O,N成分についてEPMAによるライン分析を行った結果を実施例1,2についてのみそれぞれ図2,図3に示す。横軸が回路基板の厚さ方向の相対距離、縦軸が各元素の相対強度である。横軸0の位置から相対距離を増加させたとき回路側金属板を構成するCuの相対強度が急に低下し且つろう材の主成分であるAgの相対強度が急に立ち上る位置が無酸素銅板とろう材層との第1界面である。この界面と同じ位置にTiの相対強度の第1ピークがある。また、更に相対距離を増加させたときろう材の主成分であるAgの相対強度が急に低下し且つセラミックス基板の主成分であるSiの相対強度が急に立ち上る位置がろう材層と窒化物セラミックスとの第2界面である。この界面と同じ位置にTiの相対強度の第2ピークがある。
【0030】
図2において第1界面ではTiの相対強度の第1ピーク(S_(PTi1))はろう材層の中心部のTi相対強度(S_(TiC))に対して7.2倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が3μm、第2界面ではTiの相対強度の第2ピーク(μm)はろう材層の中心部のTi相対強度(S_(TiC))に対して20倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μmであることが認められた。
【0031】
図3において第1界面ではTiの相対強度の第1ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して18倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μm、第2界面ではTiの相対強度の第2ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して33倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μmであることが認められた。冷熱サイクル試験前後のボイド率の差は小さく、ろう材層にクラックは生じていなかった。
【0032】
実施例3についても実施例1,2と同様の結果であった。実施例1?3の結果を表3に示す。何れも初期のボイド率は3%以下、冷熱サイクル試験前後のボイド率の差は2%以下の好ましい結果が得られた。
【0033】
(実施例4,5)
Ti含有量が異なるろう材を用いたことを除いて実施例1と同様にして回路基板を作製した。作製した回路基板のボイド率を測定し、次いで2000サイクルの冷熱サイクル試験を実施し、再び回路基板のボイド率を測定した。その後、ろう材接合後のろう材層におけるEPMAによるライン分析を行った。第1界面ではTiの相対強度の第1ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して17倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が4μm、第2界面ではTiの相対強度の第2ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して32倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μmであることが認められた。冷熱サイクル試験前後のボイド率の差は小さく、ろう材層にクラックは生じていなかった。実施例7,8の結果を表3に示す。何れも初期のボイド率は3%以下、冷熱サイクル試験前後のボイド率の差は2%以下の好ましい結果が得られた。
【0034】
(比較例1)
無酸素銅板の表面の酸化処理をしなかったことを除いて実施例1と同様にして回路基板を作製した。作製した回路基板のボイド率を測定し、次いで2000サイクルの冷熱サイクル試験を実施し、再び回路基板のボイド率を測定した。その後、ろう材接合後のろう材層におけるEPMAによるライン分析を行った。結果を図4に示す。第2界面ではTiの相対強度の第2ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して40倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が3μmであったが、第1界面ではTiの相対強度の第1ピークは形成されないことが認められた。比較例1の結果を表3に示す。初期のボイド率は3%以下であったが、冷熱サイクル試験前後のボイド率の差は大きく、ろう材層にクラックが生じた。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のセラミックス-銅接合体およびその製造方法は、電子部品のパワーモジュール等において、セラミックス回路基板にパワー半導体素子を接合して使用した際に発生するろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ耐ヒートサイクル性を改善することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:半導体素子
2:第一のはんだ層
3:回路側金属板(銅)
4:窒化物セラミックス(セラミックス基板)
5:放熱側金属板(銅)
6:第二のはんだ層
7:放熱ベース板
8:回路基板(窒化珪素-銅接合体)
9:半導体モジュール
10:回路側ろう材層(活性金属ろう材層)
11:放熱側ろう材層(活性金属ろう材層)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素セラミックス基板と無酸素銅板とを、Ag、Cu、Ti及びInを含み、ろう材由来の酸素含有量が0.0005?0.1重量%であるろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、
該接合体の接合界面を含む断面のEPMA分析において前記無酸素銅板と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化珪素セラミックス基板との第2界面にTi濃度の第2ピークを有し、前記第1ピークを示すTiは酸素と結びついていることを特徴とするセラミックス-銅接合体。
【請求項2】
前記ろう材層のTi含有量が0.5?5重量%である請求項1に記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項3】
前記第2界面におけるTiの相対強度の第2ピーク(S_(PTi2))は、前記第1界面におけるTiの相対強度の第1ピーク(S_(PTi1))の5倍?20倍である請求項1又は2に記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項4】
前記第1界面におけるTiの相対強度の第1ピーク(S_(PTi1))はろう材層の中心部のTi相対強度(S_(TiC))に対して7.2倍?18倍のTi相対強度を有し、
前記第2界面におけるTiの相対強度の第2ピーク(S_(PTi2))はろう材層の中心部のTi相対強度(S_(TiC))に対して16倍?33倍のTi相対強度を有する請求項1又は2に記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項5】
前記ろう材層は、厚さが2?50μmであり、低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験前後のボイド率の差が2%以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のセラミックス-銅接合体。
【請求項6】
無酸素銅板の表面を100?300℃の温度で酸化する酸化工程と、
窒化珪素セラミックス基板と表面を酸化した無酸素銅板とを、加熱温度700?850℃、無酸素銅板を窒化珪素セラミックス基板に押し付ける圧力が1400?15200Paの条件で、Ag、Cu、Ti及びInを含むろう材を介して接合する接合工程を備えることを特徴とするセラミックス-銅接合体の製造方法。
【請求項7】
前記ろう材のTi含有量が0.5?5重量%であり、
原料粉末として、Si_(3)N_(4)と、焼結助剤としてMgO及びY_(2)O_(3)とを用いて、窒化珪素セラミックス基板を製造する焼成工程を備える請求項6に記載のセラミックス-銅接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接合工程で前記ろう材よりろう材層を形成して、前記ろう材層は低温側-40℃、高温側+110℃、各温度での保持時間を15分間として2000サイクルまで行う冷熱サイクル試験前後のボイド率の差が2%以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載のセラミックス-銅接合体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-01 
出願番号 特願2013-40009(P2013-40009)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (H01L)
P 1 652・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 梅本 章子  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山澤 宏
佐々木 洋
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6319643号(P6319643)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 セラミックス-銅接合体およびその製造方法  
代理人 高石 橘馬  
代理人 高石 橘馬  
代理人 高石 健二  
代理人 高石 健二  

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