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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61L
管理番号 1354673
審判番号 不服2018-6179  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-07 
確定日 2019-09-17 
事件の表示 特願2016-158670「糞便臭抑制用フレグランス、それを用いたマイクロカプセル化フレグランス、糞便臭抑制機能付き繊維製品、糞便臭抑制用ペレット、マイクロカプセル化フレグランス噴霧スプレー及び糞便臭抑制用スプレー」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 6694、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)7月31日(優先権主張 平成23年8月1日 平成24年1月31日 平成24年2月16日 いずれも日本国受理)を国際出願日とする特許出願の一部を平成28年8月12日に新たな特許出願とした出願であって、平成29年11月16日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年1月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年2月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年5月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成31年1月30日付けで当審から拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由」という。)がされ、同年3月8日付けで刊行物等提出書が提出され、同年4月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。

1.(新規性)この出願の請求項1?5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の請求項1?22に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2010-254898号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。(下線は強調のために当審が付した。以下同様。)

1.理由1(サポート要件)について
平成30年5月7日付け手続補正書により補正された請求項6の「糞便臭抑制用フレグランス」は、基調香料成分として用いる香料の種類については何ら限定されていないが、発明の詳細な説明に記載されている実施例は全てフローラル系の基調香料成分を用いたものであり、発明の詳細な説明全体の記載や引用文献1の記載を考慮しても、フローラル系以外の香気を有する基調香料成分を用いた場合にまで本願発明の効果が発揮されると認めるに足る根拠はないから、基調香料成分として用いる香料の種類を特定していない請求項6に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

2.理由2(明確性)について
以下の(理由2-1)?(理由2-6)により、平成30年5月7日付け手続補正書により補正された請求項1?6に係る発明は明確でない。

(理由2-1) 請求項1において「糞便臭系の臭気(ネコの糞便臭気を除く)を有する動物性香料からなり、前記変調植物系香気をさらに強調して香らせる残部をなす強調香料成分」との記載と、「糞便臭系の悪臭が重畳されたとき、該糞便臭系の悪臭を前記強調香料成分の代替成分として取り込むことにより、前記変調植物系香気が強調されて香ることを特徴とする」との記載は、「糞便臭系の悪臭」の範囲の記載について整合しておらず、ネコの糞便臭気に対して変調効果を発揮するフレグランスが、請求項1に係る発明の技術的範囲から除かれているのか否か、明確でない。
請求項6及び請求項1を引用する請求項2?5についても同様である。

(理由2-2)請求項1は、組成物(物)である「フレグランス」を、「基調香料成分」、「変調香料成分」、「強調香料成分」からなる「目標処方」から、「強調香料成分」を除外した「差分処方」とする処方方法や、「糞便臭系の悪臭が重畳されたとき、・・・前記変調植物系香気が強調されて香る」等の当該組成物が奏する効果によりさらに特定しようとするものである。
しかし、当該「目標処方」の具体的な組成や香りが特定できないから、「目標処方」から強調香料成分のみを除外した「差分処方」についても、フレグランスの具体的な組成が特定できない。
また、前記「前記目標処方に従う前記植物系身体用フレグランスよりも単独では前記変調植物系香気が弱まって香る」との記載について、比較対象である「目標処方」の香りが特定できないから、当該記載により請求項1に係る発明の技術的範囲を特定することはできない。
したがって、請求項1に係る発明は、その技術的範囲が明確でない。
請求項6及び請求項1を引用する請求項2?5についても同様である。

(理由2-3)請求項1の「動物臭系又は油脂系の香気を有する動物性香料からなり、前記基調香料成分に基づく前記フローラル系香気を人肌臭と調和する向きに変調させて変調植物系香気となす変調香料成分」との記載は、基調香料成分の香気を人肌臭と調和する向きに変調させるという効果により、「動物臭系又は油脂系の香気を有する動物性香料」の範囲を特定しようとするものであるが、 「人肌臭と調和する向きに変調」とは、基調香料成分の香りをどのように変化させることを意味するのか、出願時の技術常識を参酌しても明確でなく、発明の詳細な説明において例示されたムスク調香料、アンバー調香料及び皮革臭系香料(段落【0025】を参照)以外のいかなる香料が、本願発明の変調香料成分の範囲に含まれるのか不明である。
したがって、請求項1に係る発明は、その技術的範囲が明確でない。
請求項6及び請求項1を引用する請求項2?5についても同様である。

(理由2-4)請求項1に「該差分処方が10質量%以上90質量%以下の前記基調香料成分と、1質量%以上60質量%以下の前記変調香料成分とからなり」と記載されているが、実施例1?12のフレグランスは、全て、基調香料成分と変調香料成分に加えて「調和香料成分」を含むものであり、基調香料成分と変調香料成分のみからなるフレグランスは具体的に開示されていない(実施例5のフレグランスは、表12及び表13によれば、ジャスミンベース及びローズベースの構成成分として、調和香料成分に該当する成分を含む。)。そのため、請求項1に係る発明の技術的範囲には、実質的には、基調香料成分と変調香料成分に加えて調和香料成分を含むフレグランスも包含されると解することもできるから、上記記載は多義的であって明確でない。
さらに、香料成分の配合割合は、糞便臭抑制用フレグランスの全量(基調香料成分、変調香料成分及びそれ以外の成分の総量)を分母として算出すべきであるのか、それとも、該フレグランスに含まれる基調香料成分及び変調香料成分のみの合計量を分母として算出すべきであるのか、明確でない。
したがって、請求項1に係る発明は、その技術的範囲が明確でない。
請求項6及び請求項1を引用する請求項2?5についても同様である。

(理由2-5)請求項1の「該差分処方が10質量%以上90質量%以下の前記基調香料成分と、1質量%以上60質量%以下の前記変調香料成分とからなり」との記載、及び、請求項2の「10質量%以上90質量%以下の前記基調香料成分と、・・・1質量%以上60質量%以下の前記変調香料成分と、0.1質量%以上75質量以下の前記調和香料成分」との記載に関し、例えば、酢酸リナリルは、基調香料成分であるリリー調香料(段落【0043】)として例示され、実施例においても基調香料成分として配合割合が計算されている一方で、調和香料成分(柑橘系香料)としても例示されている(段落【0054】)。また、酢酸ターピニル(酢酸テルピニル)も同様に、基調香料成分であるフローラル系香料(段落【0047】)として例示され、基調香料成分として配合割合が計算されている一方で、調和香料成分(柑橘系香料)としても例示されている(段落【0054】)。そのため、これらの香料を基調香料成分とみなすか調和香料成分とみなすかによって、基調香料成分、変調香料成分及び調和香料成分の配合割合は異なり得る。
また、実施例1において調和香料成分とされているアップルベースや、実施例5において基調香料成分とされているジャスミンベース及びローズベースは、表3、表11及び表12に示されるように、本願発明における基調香料成分、変調香料成分、調和香料成分のそれぞれに該当する複数の香料や溶剤を含む調合香料(混合物)である。そのため、これらの調合香料の全量が単一の香料成分に該当するものとみなして計算するか、調合香料中のそれぞれの成分を基調香料成分、変調香料成分及び調和香料成分に分けて計算するかにより、各香料成分の配合割合は異なり得る。
そうすると、本願発明における基調香料成分、変調香料成分及び調合香料成分の配合割合を必ずしも一意に定めることはできないから、請求項1及び2に係る発明の技術的範囲は明確でない。
請求項6、請求項1、2を引用する請求項3?5についても同様である。

(理由2-6)請求項2の「前記フローラル系香気をグリーン系又はハーブ系にシフトさせる向きに調整する調和香料成分」とは、基調香料成分の香りをどのように変化させることを意味するのか、客観的に明確でないため、いかなる香料が請求項2に係る発明の調和香料成分の範囲に含まれるのか不明である。また、発明の詳細な説明においては、アルデヒド調香料(段落【0052】)及びラクトン調香料(段落【0053】)が調和香料成分に含まれるとの明示的な記載はないが、実施例3においては、ラクトン系香料及びアルデヒド調香料を含む、基調香料成分及び変調香料成分に該当しない全ての香料が、調和香料成分として扱われている。そのため、いかなる香料が調和香料成分に該当するのか不明である。
請求項2を引用する請求項3?5についても同様である。

3.(新規性)平成30年5月7日付け手続補正書により補正された請求項1?6に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1及び2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4.(進歩性)平成30年5月7日付け手続補正書により補正された請求項1?6に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2に記載された発明、及び、参考文献1に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧

引用文献1:特開2010-254898号公報(原査定で引用した文献)
引用文献2:“2 in 1 Toilet Block”,[online],2008年9月,[2019年1月22日検索],Mintel GNPD(記録番号973223),インターネット

参考文献1:安間一臣 他,“最近のトイレ用芳香・消臭剤の開発動向”,フレグランスジャーナル,1995年12月15日,1995年12月号,第43?52頁

第4 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明5」といい、それらをまとめて「本願発明」という。)は、平成31年4月5日付け手続補正書により補正(以下、「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。

「【請求項1】
フローラル系香気を有する基調香料成分と、
動物臭系又は油脂系の香気を有する動物性香料からなり、前記基調香料成分に基づく前記フローラル系香気を人肌臭と調和する向きに変調させて変調植物系香気となす変調香料成分と、
糞便臭系の臭気(ネコの糞便臭気を除く)を有する動物性香料からなり、前記変調植物系香気をさらに強調して香らせる残部をなす強調香料成分と、
を含む植物系身体用フレグランスの目標処方から、前記強調香料成分のみを除外した差分処方に従い調合する糞便臭抑制用フレグランスの調合方法であって、該差分処方が、前記糞便臭抑制用フレグランス中10質量%以上90質量%以下の前記基調香料成分と、前記糞便臭抑制用フレグランス中1質量%以上60質量%以下の前記変調香料成分とを含み、
前記変調香料成分は、ムスク調香料、アンバー調香料及び皮革臭系香料の1種又は2種以上からなり、
前記目標処方に従う前記植物系身体用フレグランスよりも単独では前記変調植物系香気が弱まって香る一方、糞便臭系の悪臭(ネコの糞便臭気を除く)が重畳されたとき、該糞便臭系の悪臭を前記強調香料成分の代替成分として取り込むことにより、前記変調植物系香気が強調されて香ることを特徴とする糞便臭抑制用フレグランスの調合方法。
【請求項2】
前記差分処方は、調和香料成分をさらに含むものであり、
前記糞便臭抑制用フレグランス中10質量%以上90質量%以下の前記基調香料成分と、
前記フローラル系香気を人肌臭と調和する向きに変調させる、前記糞便臭抑制用フレグランス中1質量%以上60質量%以下の前記変調香料成分と
前記糞便臭抑制用フレグランス中0.1質量%以上75質量%以下の前記調和香料成分とを含む請求項1記載の糞便臭抑制用フレグランスの調合方法。
【請求項3】
前記変調香料成分はムスク調香料が最大含有成分として配合される請求項1又は請求項2記載の糞便臭抑制用フレグランスの調合方法。
【請求項4】
前記基調香料成分が、ジャスミン調香料、ミューゲ調香料、バルサム調香料、リリー調香料、ローズ調香料、バイオレット調香料及びライラック調香料の1種又は2種以上からなる請求項2又は請求項3に記載の糞便臭抑制用フレグランスの調合方法。
【請求項5】
前記差分処方は、前記糞便臭抑制用フレグランス中0.1質量%以上75質量%以下の調和香料成分を含むものであり、かつ、前記変調香料成分が、前記フローラル系香気を人肌臭と調和する向きに変調させるものであり、
前記調和香料成分としてグリーン系香料又はハーブ系香料と、さらに柑橘系香料とが配合される請求項4記載の糞便臭抑制用フレグランスの調合方法。」

第5 引用文献、引用発明
(1)引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【0001】
本発明は、ペット臭消臭用香料組成物及びペット臭消臭剤に関するものである。
【0002】
ネコ、イヌ、ウサギ等のペット動物の排泄物からは、アンモニア臭やメルカプタン臭等の悪臭が発生する。このため、その排泄物の処理が必須である。そこで、各種香料を配合したペット用排泄物処理方法が提案されているが、長期間使用しているうちに、その消臭効果は十分でなくなる、あるいは単に悪臭をマスキングしているのみなので異臭として感じられるという問題点があった。以上のことから、ペット臭、特にネコ排泄物臭に対して顕著な消臭効果を有するものが望まれていた。」

(1b)「【0018】
本発明の香料組成物はそのまま用いてもよいし、各種ペット臭消臭剤に配合して用いることができる。ペットとしては、ネコ、イヌ、ウサギ等が挙げられるが、ネコ臭消臭剤、特にネコ排泄物臭消臭剤として好適である。」

(1c)「【0078】
[実施例3?7、比較例3?6]
下記A群処方組成物と、B群処方組成物、A群及びB群のいずれにも該当しない香料成分のみで構成したC群処方組成物を調製した。各A?C群処方組成物を表9に示す比率で混合し、グリーンタイプ香料組成物を調製した。試験例1及び実施例と同様の方法で評価を行った。結果を表中に併記する。

【0079】
[A群処方組成物]
成分名 質量部
1-ヘキサノール 150カプロン酸アリル 50シス-ジャスモン 20シス-3-ヘキセノール 150酢酸シス-3-ヘキセニル 100ユーカル油 100酢酸ヘキシル 50ラバンジン油 50ライム油 25フェニルアセトアルデヒド 5ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド 300
合計 1000
【0080】
[B群処方組成物]
成分名 質量部
3α,6,6,9α-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン 10
α-アミルシンナミクアルデヒド 300酢酸シトロネリル 304(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド 80γ-デカラクトン 200p-tert-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド 100酢酸リナリル 1002,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル酢酸エチル 120オレンジ油 30酢酸スチラリル 30合計 1000
【0081】
[C群処方組成物]
成分名 質量部
アネトール 10安息香酸ベンジル 80サリチル酸ベンジル 804,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロシクロペンタベンゾピラン(ガラクソリド;IFF社商品名) 80サリチル酸ヘキシル 50エチレンブラシレート 607-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン(イソ・イー・スーパー;IFF社商品名) 1507-アセチル-1,1,3,4,4,6-ヘキサメチルテトラヒドロナフタレン(トナリド;PFW社商品名) 50酢酸o-tert-ブチルシクロヘキシル 30ローズベース 410合計 1000【0082】

【0083】
上記結果から、(B群成分/A群成分=1.0/1?11.0/1)の範囲において、より好ましくは(B群成分/A群成分=2.0/1?7.5/1)の範囲において、適度なマスキング効果を保ちながら、非常に高いハーモナイズド効果を示した。」

上記(1a)?(1c)の記載において、特に実施例3?7に着目すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「以下に示されるA群処方組成物、B群処方組成物及びC群処方組成物を、A群処方組成物:B群処方組成物:C群処方組成物=1.5:1.5:7.0、1.0:2.0:7.0、0.5:2.5:7.0、0.35:2.65:7.0、又は0.25:2.75:7.0の比率で混合した、ネコ、イヌ、ウサギ等のペット動物の排泄物臭に対する消臭効果を有する、ペット臭消臭用香料組成物。

[A群処方組成物]
成分名 質量部
1-ヘキサノール 150カプロン酸アリル 50シス-ジャスモン 20シス-3-ヘキセノール 150酢酸シス-3-ヘキセニル 100ユーカル油 100酢酸ヘキシル 50ラバンジン油 50ライム油 25フェニルアセトアルデヒド 5ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド 300
合計 1000

[B群処方組成物]
成分名 質量部
3α,6,6,9α-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン 10
α-アミルシンナミクアルデヒド 300酢酸シトロネリル 304(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド 80γ-デカラクトン 200p-tert-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド 100酢酸リナリル 1002,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-イル酢酸エチル 120オレンジ油 30酢酸スチラリル 30合計 1000
[C群処方組成物]
成分名 質量部
アネトール 10安息香酸ベンジル 80サリチル酸ベンジル 804,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロシクロペンタベンゾピラン(ガラクソリド;IFF社商品名) 80サリチル酸ヘキシル 50エチレンブラシレート 607-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン(イソ・イー・スーパー;IFF社商品名) 1507-アセチル-1,1,3,4,4,6-ヘキサメチルテトラヒドロナフタレン(トナリド;PFW社商品名) 50酢酸o-tert-ブチルシクロヘキシル 30ローズベース 410合計 1000

(2)引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。(なお、写真中の枠囲いは当審において付したものである。)

(2a)「2 in 1 Toilet Block
記録番号(ID#): 973223
会社: Sara Lee
ブランド: Ambi Pur Flush Spring Collection
カテゴリー: 【トイレ用品】
サブカテゴリー: トイレ・フレッシュナー
国: オランダ
掲載時期: 2008年9月」(第1頁上欄)

(2b)「

」(第2頁追加製品写真)

(以下は、上記枠囲い中の仏文を当審において和訳したものである。)
「バラとユリの甘い香りに、ムスクと木質の香りが添えられています。」
「新鮮な香りが永久に拡散します
Ambi Purは、すすぎごとに同量の液体を送り、最初のすすぎから最後のすすぎまで、トイレの香りと新鮮さを保証します。
常時効果的なクリーニング
Ambi Purはスケールの発生を抑える濃縮液体洗浄剤を含みます。」
「Ambi Pur Flush Blossoming Flowersは含む:アニオン界面活性剤 5-15%、非イオン界面活性剤 <5%、両性界面活性剤 <5%、香料、クマリン、α-イソメチルイオノン、シトロネロール、ブチルフェニルメチルプロピオナール、リモネン、イソオイゲノール、エチレンジオキシジメタノール、イソチアゾリノン」

上記(2a)、(2b)の記載によれば、引用文献2に記載された「Ambi Pur Flush Spring Collection 2 in 1 Toilet Block」なる製品は、バラとユリの甘い香りにムスクと木質の香りが添えられたトイレ用濃縮液体洗浄剤製品であり、当該製品は、界面活性剤のほかに、周知の香料成分であるクマリン、α-イソメチルイオノン、シトロネロール、ブチルフェニルメチルプロピオナール、リモネン、イソオイゲノール及びその他の香料を含むものである。したがって、当該トイレ用濃縮液体洗浄剤製品は、クマリン、α-イソメチルイオノン、シトロネロール、ブチルフェニルメチルプロピオナール、リモネン、イソオイゲノール及びその他の香料からなる、バラとユリの香りにムスクと木質の香りが添えられたフレグランスにより付香されたものであるといえる。
そうすると、上記(2a)、(2b)の記載から、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「クマリン、α-イソメチルイオノン、シトロネロール、ブチルフェニルメチルプロピオナール、リモネン、イソオイゲノール及びその他の香料からなり、バラとユリの香りにムスクと木質の香りが添えられた香気を有する、トイレ用濃縮液体洗浄剤製品の付香に用いるフレグランス。」

(3)参考文献1
参考文献1には以下の事項が記載されている。

(参1a)「2.トイレ用芳香・消臭剤の香り
香りによる感覚的消臭には次のような手段が有効であることが経験的に判っている1)。
・マスキング作用
被覆作用とも呼ばれている物で,悪臭の上により強い香りを重ねて他の臭気を覆い隠して悪臭と感じさせなくしてしまう方法。
・相殺効果
中和作用とも呼ばれている。悪臭と芳香が混合した時に,悪臭成分を芳香を創り出す要素のひとつとして取り込んでしまい,全体として匂っている香りを芳香としてしまう作用。
初期の頃のトイレ用消臭芳香剤はほとんどの物がマスキング効果を狙ったもので,香りも必然的に強いものが要求され,ウインターグリーンの効いたような独特のトイレの臭いといわれる香調をもつものであった。しかし余りに強い香りは嗜好面で好まれないというマイナス要因が出てくるようになり,段々と,マスキング,相殺効果を合わせもったより効果の高い,嗜好性の良い香りが主流となっていった。それらの代表的な香りとしては,レモン,キンモクセイ,ローズなどがあげられ,現在ではトイレ用芳香剤の定番の香りとなっている。他の香調としてはライム,オレンジなどの爽やかさや清潔感を感じさせる香りや,グリーン調のハーブや,森をイメージする香り,ラベンダー等といった室内用芳香剤と同様に自然志向の,嗜好性を重視したソフトな香りが多く見られるようになってきた。」(第44頁左欄第15行?右欄第3行)

第6 当審拒絶理由についての判断
1 理由1(サポート要件)について
本件補正により、拒絶理由の対象であった請求項6は削除されたため、当該拒絶理由は理由がなくなった。

2 理由2(明確性)について
(1)理由2-1について
本件補正により、本願発明1は「糞便臭系の悪臭(ネコの糞便臭気を除く)が重畳されたとき、該糞便臭系の悪臭を前記強調香料成分の代替成分として取り込む」ものとなり、本願発明1の技術的範囲から、ネコの糞便臭気に対して変調効果を発揮するフレグランスが除かれることが明確になったため、請求項1?5に対する当該拒絶理由は理由がなくなった。
また、本件補正により、拒絶理由の対象であった請求項6は削除されたため、当該拒絶理由は理由がなくなった。

(2)理由2-2について
本件補正により、本願発明1?5は、「糞便臭抑制用フレグランス」という物の発明から、「糞便臭抑制用フレグランスの調合方法」という方法の発明となったことに加え、変調香料成分の組成が特定されたことで目標処方の具体的な組成が明らかとなり、それにより、目標処方から強調香料成分のみを除外した「差分処方」についてのフラグランスの具体的な構成が特定されたことで、本願発明1?5に係る発明の技術的範囲が明確になったため、請求項1?5に対する当該拒絶理由は理由がなくなった。
また、本件補正により、拒絶理由の対象であった請求項6は削除されたため、当該拒絶理由は理由がなくなった。

(3)理由2-3について
本件補正により、本願発明1は、変調香料成分が「ムスク調香料、アンバー調香料及び皮革臭系香料の1種又は2種以上からなる」ものであることが明確になったため、請求項1?5に対する当該拒絶理由は理由がなくなった。
また、本件補正により、拒絶理由の対象であった請求項6は削除されたため、当該拒絶理由は理由がなくなった。

(4)理由2-4について
本件補正により、本願発明1の目標処方が、基調香料成分、変調香料成分及び強調香料成分と「からなる」から「とを含む」に、差分処方が基調香料成分及び変調香料成分と「からなる」から「とを含む」に、それぞれ補正され、調和香料成分を含み得るものとなったことに加え、各香料成分の配合割合が、糞便臭抑制用フレグランスの全量を分母として算出することが明らかとなり、本願発明2は、差分処方は調和香料成分を「さらに含む」ものであると補正され、本願発明1及び2の技術的範囲が明確になったため、請求項1?5に対する当該拒絶理由は理由がなくなった。
また、本件補正により、拒絶理由の対象であった請求項6は削除されたため、当該拒絶理由は理由がなくなった。

(5)理由2-5について
本件補正により、発明の詳細な説明の【0054】の柑橘系香料から酢酸リナリル及び酢酸ターピニルが削除されたことで、両者を基調香料成分とみなすことが明らかとなったことに加え、アップルベースが調和香料成分、ジャスミンベース、ローズベースが基調香料成分とみなされることが明らかとなり、さらに、本願発明1?5が、物の発明から「糞便臭抑制用フレグランスの調合方法」という方法の発明となったことで、アップルベース等の複数の香料の混合物からなる調合香料の成分は、調合香料中の各成分の香調に分けて計算するのではなく、フレグランス調合時に調合香料の全量を単一の香料成分に該当するものとしてみなして計算することが明らかとなり、本願発明1及び2の技術的範囲が明確になったため、当該拒絶理由は理由がなくなった。

(6)理由2-6について
本件補正により、本願発明2及び5において「前記フローラル系香気をグリーン系又はハーブ系にシフトさせる向きに調整する」との記載を削除するともに、意見書において、請求人が発明の詳細な説明の実施例3の記載からラクトン調香料及びアルデヒド調香料が調和香料成分に該当することを明示したため、基調香料成分及び変調香料成分に該当しない全ての香料成分を調和香料成分として扱うことが明らかとなったため、請求項2?5に対する当該拒絶理由は理由がなくなった。

3 理由3(新規性)及び4(進歩性)について
(1)対比・判断
ア 本願発明1について
本件補正により、請求項1に係る発明は「糞便臭抑制用フレグランス」という物の発明から、本願発明1である「糞便臭抑制用フレグランスの調合方法」という方法の発明となった。
これにより、本願発明1は、「基調香料成分」、「変調香料成分」及び「強調香料成分とを含む植物系身体用フレグランスの目標処方から、」「前記強調香料成分のみを除外した差分処方に従い調合する糞便臭抑制用フレグランスの調合方法であって、」「目標処方に従う前記植物系身体用フレグランスよりも単独では前記変調植物系香気が弱まって香る一方、糞便臭系の悪臭(ネコの糞便臭気を除く)が重畳されたとき、該糞便臭系の悪臭を前記強調香料成分の代替成分として取り込むことにより、前記変調植物系香気が強調されて香ることを特徴とする糞便臭抑制用フレグランスの調合方法」である点を発明特定事項として有するものとなったところ、引用発明1及び2はいずれもかかる発明特定事項を有するものではなく、また、引用文献1及び2、並びに参考文献1にはかかる発明特定事項について記載も示唆もされていない。
したがって、本願発明1は引用文献1及び2に記載された発明ではなく、また、引用文献1及び2、並びに参考文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項全てを含み、さらに他の発明特定事項を付加したものであるから、前記アでの検討と同様に、引用文献1及び2に記載された発明ではなく、また、引用文献1及び2、並びに参考文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4 小括
以上1?3のとおり、全ての当審拒絶理由は理由がなくなったため、本願については、当審拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第7 原査定についての判断
前記第6の3(1)アで検討したように、原査定において引用した引用文献1には、本願発明1にかかる発明特定事項について何ら記載ないし示唆がないから、本願発明1は、原査定において引用した引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 刊行物等提出書について
1 刊行物提出の理由の概要
平成31年3月8日付け刊行物等提出書に記載された、刊行物提出の理由の概要は以下のとおりである。

(理由1)平成30年5月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は、下記の刊行物1及び2に記載された発明であり、また、刊行物1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(理由2)本願の発明の詳細な説明【0040】?【0057】には、既存の香料成分をジャスミン調、ミューゲ調等に分類し、これを特許請求の範囲の記載にも反映させている。しかし、刊行物3?5の記載を参酌すれば、香料成分の各成分の香調は評価者の主観に基づくものとならざるを得ず、香調が一律に定まるものではないから、本願の発明の詳細な説明に記載されたように、フローラル、ハーブ、グリーン等に一律に分類できるものではなく、当業者が一律に定められないような分類に基づいて記載されている本願請求項1?6に係る発明は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。

(理由3)前記(理由2)と関連し、ラベンダー油は本願発明では調和香料成分として取り扱われているが、刊行物5に記載されているようにラベンダー油の香調をフローラル系として扱う当業者からすれば、【0165】に開示されている比較例2は基調香料成分を20.9%含有することとなり、請求項1に係るフレグランスの組成に合致するにもかかわらず、本願発明の効果を示さないものと認識するから、本願請求項1?6は、発明の詳細な説明に記載された内容を超えた範囲を規定していることになり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

(理由4)本願の発明の詳細な説明には、強調香料成分に該当する動物性香料について具体的な記載がなく、わずかに【0017】にシベットが例示されているにすぎず、シベット以外にどのような動物性香料が強調香料成分として使用できるのか、当該動物性香料をどのように基調香料成分及び変調香料成分と組み合わせれば目標処方が得られるかが不明である。かりに、シベットを用いるとしても、刊行物6に記載されているように、シベット等の動物性香料は現在入手や使用が極めて制限されていることから、当業者が目標処方を作成するためにシベットを用いて試行錯誤を繰り返すのは極めて困難であるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確にかつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。

刊行物1:特表2007-533815号公報
刊行物2:特開2003-190264号公報
刊行物3:印藤元一(著)「合成香料 化学と商品知識」化学工業日報社(1996)
刊行物4:Steffen Arctander,“Perfume and Flavor Materials of Natural Ori
gin”, Elizabeth,N.J.(USA)(1960)
刊行物5:大島直樹,“日本デザイン学会 デザイン学研究”,(2012)
刊行物6:宍戸義明,“におい・かおり環境学会誌”,Vol.36,No.4,p199-204(2005)

2 刊行物提出の理由についての当審の見解
(1)理由1について
刊行物1及び2には、「基調香料成分」、「変調香料成分」及び「強調香料成分とを含む植物系身体用フレグランスの目標処方から、」「前記強調香料成分のみを除外した差分処方に従い調合する糞便臭抑制用フレグランスの調合方法であって、」「目標処方に従う前記植物系身体用フレグランスよりも単独では前記変調植物系香気が弱まって香る一方、糞便臭系の悪臭(ネコの糞便臭気を除く)が重畳されたとき、該糞便臭系の悪臭を前記強調香料成分の代替成分として取り込むことにより、前記変調植物系香気が強調されて香ることを特徴とする糞便臭抑制用フレグランスの調合方法」についての記載はないから、前記第6の3で検討したように、「糞便臭抑制用フレグランスの調合方法」となった本願発明について、何ら記載ないし示唆するものではなく、当該理由1は理由がない。

(2)理由2及び3について
一般に各香料成分をどの系統に分類するかは当業者の主観によって異なることがあり、本願の発明の詳細な説明に記載された技術的事項が、刊行物3?5に記載に記載された事項と一部において異なるとしても、本願発明における各香料成分の香調の定義は、第一に本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて解釈すべきものであるところ、【0040】?【0057】や実施例1?12、比較例1、2に具体的な定義又は説明がされているのであるから、他の文献の記載により本願発明1?5が不明確になるものではなく、本願発明1?5が発明の詳細な説明に記載された発明ではないともいえないから、当該理由2及び3は理由がない。

(3)理由4について
本願発明における強調香料成分は、糞便臭系の臭気を有する動物性香料からなるものであり、たしかに、具体的な香料としては【0017】にシベットが例示されているにすぎない。
しかし、実施例においては、【0098】に構成成分が具体的に記載された糞便臭モデルを使用し、マスキング効果と変調効果(糞便臭を加えない香りと比較して奥深くかつ優雅で高貴な香りへと変貌したかどうか)についての官能試験を実施していることから(【0099】参照)、当該糞便臭モデルが本願発明でいう強調香料成分に該当することは、当業者にとって明らかであり、目標処方を作成するためにシベットを用いて試行錯誤を繰り返さなくても、当業者は当該糞便臭モデルに従って本願発明を実施することができるといえるから、当該理由4は理由がない。

(4)小括
以上(1)?(3)のとおりであるから、刊行物等提出書に記載された理由及び刊行物1?6に記載された技術的事項によっては、本願発明1?5を拒絶すべきものとすることはできない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-30 
出願番号 特願2016-158670(P2016-158670)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A61L)
P 1 8・ 121- WY (A61L)
P 1 8・ 537- WY (A61L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森井 隆信  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 小川 進
櫛引 明佳
発明の名称 糞便臭抑制用フレグランス、それを用いたマイクロカプセル化フレグランス、糞便臭抑制機能付き繊維製品、糞便臭抑制用ペレット、マイクロカプセル化フレグランス噴霧スプレー及び糞便臭抑制用スプレー  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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