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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1354865
審判番号 不服2018-12516  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-19 
確定日 2019-09-05 
事件の表示 特願2014- 46296「画像形成装置および画像形成システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月28日出願公開,特開2015-168216〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成26年3月10日の出願であって,平成29年10月20日付けで拒絶理由が通知され,同年12月22日に意見書及び手続補正書が提出され,平成30年3月19日付けで拒絶理由(最後)が通知され,同年5月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年6月11日付けで同年5月22に提出された手続補正書による手続補正が却下されるとともに拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件査定不服審判事件は,これを不服として,同年9月19日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出された。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成30年9月19日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 平成30年9月19日に提出された手続補正書による手続補正の内容
平成30年9月19日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成29年12月22日に提出された手続補正書による手続補正後(本件補正前)の特許請求の範囲及び明細書について補正するものであるところ,特許請求の範囲の請求項1の本件補正前後の記載は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(1)本件補正前の請求項1
「連続シートに画像および当該画像を補正する際に用いる補正パターンを形成する画像形成部と,
前記画像形成部により形成された前記補正パターンに基づく画像情報に基づいて画像の補正を行う制御部と,を備え,
前記制御部は,前記連続シートの画像形成領域内において,前記画像が形成される第1の領域以外の第2の領域の大きさに基づき,該第2の領域に対する前記補正パターンの配置を決める
ことを特徴とする画像形成装置。」

(2)本件補正後の請求項1
「連続シートに複数の画像を所定の間隔を空けて形成するとともに,前記間隔に画像を補正する際に用いる補正パターンを形成する画像形成部と,
前記画像形成部により形成された前記補正パターンに基づく画像情報に基づいて画像の補正を行う制御部と,を備え,
前記制御部は,前記連続シートの画像形成領域内において,前記間隔の大きさに基づき,該間隔に配置する前記補正パターンの種類またはサイズを決める
ことを特徴とする画像形成装置。」

2 補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正のうち請求項1に係る補正は,「補正パターンの配置」を決める制御部を,「補正パターンの種類またはサイズ」を決める制御部に変更しようとする補正事項を含んでいる。
しかるに,「補正パターンの種類またはサイズ」が「補正パターンの配置」とは異なるものであること,及び「補正パターンの種類またはサイズ」を決めると,自動的に「補正パターンの配置」が決まることになるといった関係にあるわけでもないことは明らかであるから,前記補正事項による補正が,本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「補正パターンの配置を決める」「制御部」を限定するものとは認められない。
したがって,前記補正事項による補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また,前記補正事項が,同項1号に掲げる請求項の削除,同項3号に掲げる誤記の訂正,及び同項4号に掲げる明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものでないことは明らかである。
よって,本件補正は,同項各号に掲げる事項を目的とするものではない。

(2)請求人の主張について
請求人は,審判請求書の「(3) 本願発明が特許されるべき理由」,「(b) 補正の根拠の明示」,「(i)」欄において,「請求項1における『間隔に配置する前記補正パターンの種類またはサイズを決める』等の補正事項は,・・・(中略)・・・「制御部」を限定的に減縮したものであります。」などと主張するが,「補正パターンの配置」を決める制御部を,「補正パターンの種類またはサイズ」を決める制御部に変更する補正が,本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「補正パターンの配置を決める」「制御部」を限定するものと認められないことは,前記(1)で述べたとおりである。
したがって,請求人の主張は採用できない。

3 補正却下のまとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,〔補正却下の決定の結論〕のとおり決定する。


第3 本件出願の請求項1に係る発明について
本件補正は前記第2〔補正却下の決定の結論〕のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として示した事項により特定されるとおりのものと認められる。

第4 原査定の拒絶の理由の概要
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。
本件発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,当該発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をするものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができない。

査定理由で引用された引用例は,次のとおりである。
引用文献1:特開2011-115978号公報

第5 引用例
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された特開2011-115978号公報(以下,原査定と同様「引用文献1」という。)は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関連する箇所を示すために,合議体が付したものである。)
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は,記録装置および記録方法に関し,特に記録媒体に対して記録剤であるインクを吐出することにより画像の記録を行うインクジェット方式の記録装置および記録方法に適用して好適なものである。なお,記録媒体とは,紙,プラスチックフィルム,布,皮革,金属など,記録剤を受容可能なものを言う。また,画像とは,文字,図形,絵,写真などを総称するものとする。
【背景技術】
【0002】
記録媒体上にドットを形成することで記録を行う記録装置として,例えば記録媒体に対し所定方向に移動するとともに,その方向と異なる方向(例えば記録媒体搬送方向)に記録素子としてのインクの吐出口を配列してなる記録ヘッドを用いるものがある。・・・(中略)・・・
【0003】
かかる状況下,品位の高い画像記録を維持するために,装置の使用環境や記録ヘッドの状態に応じてドットの形成条件を適宜調整する技術が知られている。具体的な例としては,特許文献1のように,吐出口列間のドット形成位置を調整する処理(以下,レジストレーション処理とも言う)を行うものがある。また,特許文献2のように,装置の環境や環境に応じて各色インクの吐出量を適切に制御して,入力データに対する出力画像の色再現性を調整する処理(以下,カラーキャリブレーション処理)を行うものもある。
【0004】
これらの処理に際しては,吐出口列間の吐出タイミングをずらしながら,あるいは各色インクの吐出量を異ならせながら,記録媒体に複数のパターンを形成する(以下,これらのパターンを調整パターンと称する)。そして,調整パターンを目視したユーザが最適のものを選択してその情報を入力したり,調整パターンを光学センサで読み取り,その読み取り値から調整値を算出したりすることで,記録装置に対し調整値を設定するのが一般的である。
・・・(中略)・・・
【0006】
この調整印刷は,ジョブ印刷とは別の処理として扱われるが,ユーザによる目視あるいは光学センサによる読み取りに供するために,調整パターンはある程度の範囲をもって記録媒体上に記録されるものである。このとき,調整パターンの所要の記録範囲がジョブ印刷のために選択されている記録媒体のサイズと適合し,余白なく調整パターンが記録されれば問題はない。しかし調整パターンの所要の記録範囲が,選択されている記録媒体のサイズに比して小さい場合には,調整パターンの記録範囲の外側に大きな余白をもった記録媒体が生じることになり,記録媒体の浪費につながる。これは,カットシート状の記録媒体を用いる場合だけでなく,連続シート状の記録媒体を用いる場合にも同様である。連続シート状の記録媒体では,記録媒体搬送方向上の調整パターンの記録範囲の寸法にあわせて記録媒体を切り取ることはできるが,記録ヘッドの移動方向上の調整パターンの寸法に比べ幅の広い記録媒体が用いられていれば,その方向に余白が生じるからである。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明の目的は,ジョブ印刷に先立って調整印刷を行う構成において,記録媒体の浪費が生じないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために,本発明は,記録素子を有する記録部によりドットを形成して記録媒体に画像の記録を行う記録装置において,前記ドットの形成条件を調整する調整処理を行うために前記記録媒体に記録される調整パターンに基づいて前記調整処理を行う調整処理手段と,前記記録媒体に記録されるべき画像のサイズと前記記録媒体のサイズとに基づいて,前記記録媒体に生じる余白に前記調整パターンの記録が可能であるか否かを判定する判定手段と,該判定手段によって前記調整パターンの記録が可能と判定された場合には,前記画像と前記調整パターンとが重ならないよう,前記画像の記録に先立って前記余白に前記調整パターンの記録を行わせ,前記調整処理を実行させる制御手段と,を具えたことを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,画像記録(ジョブ印刷)により生じる記録媒体の余白内に調整パターンが収まるようであれば,その余白部に調整パターンの記録(調整印刷)を行うことで,記録媒体の浪費を抑制することができる。」

(2)「【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用可能なインクジェット記録装置の内部構成例を示す模式的斜視図である。
・・・(中略)・・・
【図4】本発明の実施形態に従って記録される調整パターンの例を示す概念図である。
・・・(中略)・・・
【図6】本発明の実施形態における調整印刷処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態におけるジョブ印刷処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】図6および図7の手順を含む本発明の第1の実施形態の記録処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】図8の手順により記録された記録物の概念を示す説明図である。
【図10】(a)および(b)は,図9と比較するために,従来の処理により記録された記録物の概念を示す説明図である。
【図11】図4に示した調整パターンとともに本発明の第2の実施形態で用いられる調整パターンの例を示す概念図である。
【図12】本発明の第2の実施形態の記録処理手順の一例を示すフローチャートである。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,図面を参照して本発明を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は本発明が適用可能なインクジェット記録装置の内部構成例を示す模式的斜視図である。
【0014】
図1において,キャリッジ1には記録ヘッド2が搭載されている。キャリッジ1はキャリッジガイド軸3に沿って移動可能にキャリッジガイド軸3に支持されている。キャリッジ1の一部はキャリッジベルト4に固定されている。キャリッジベルト4は無端ベルト状であり,記録ヘッド2の移動範囲の一端側にあるモータプーリ5と,他端側にあるプーリ(不図示)との間に張架されている。そして,モータプーリ5に接続されたキャリッジモータ6の駆動に伴ってキャリッジベルト4が正逆回転することにより,キャリッジ1ないし記録ヘッド2がキャリッジガイド軸3に沿って往復移動する。また,7は記録媒体,8は記録ヘッド2の移動方向と交差する方向に記録媒体7を搬送するための搬送ローラである。
・・・(中略)・・・
【0016】
図2は,記録ヘッド2が搭載されているキャリッジ1の構成を示す概念図である。
【0017】
図2において,記録ヘッド2には6個の吐出部21?26が搭載されている。吐出部21,22,23,24,25および26は,吐出タイミング制御部30の信号に基づき,それぞれ,ブラック,淡シアン,シアン,マゼンタ淡マゼンタおよびイエロー(以下,Bk,Pc,C,M,PmおよびYと略記する)の各色インクを吐出する。各色インクの吐出部は,記録ヘッドの移動方向と交差する方向,例えば記録媒体搬送方向に平行な方向に配列された複数の吐出口を有する。それぞれの吐出口の内方には,インクを吐出するために利用されるエネルギとして例えば通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する素子(電気熱変換素子)が設けられる。
・・・(中略)・・・
【0019】
キャリッジ1にはさらにセンサ33が取り付けられている。このセンサ33は,記録媒体7上に記録された調整パターンを読み取る際に使用される。なお,本発明の調整処理とは,品位の高い画像記録を維持するために,装置の使用環境や記録ヘッドの状態に応じて各色インクのドットの形成条件を適宜調整する処理を言い,調整パターンとはその処理に供される画像を言う。
【0020】
図3は本実施形態に係るインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。通信部40は,インターフェース回路を含んで構成され,本実施形態に係るインクジェット記録装置と接続されるコンピュータ41などの外部装置との間で画像データおよび制御データの送受信を実行する。制御ユニット42は,画像データメモリ部43,調整画像データメモリ部44,モータドライバ45および46などを統括的に制御する制御手段である。
・・・(中略)・・・
【0022】
図4は,調整画像データメモリ部44に格納された調整パターンデータに従って記録される調整パターンの例を示す概念図である。ここでは,双方向記録時の往方向移動と復方向移動との間の各色インク吐出部のドット形成位置を調整するためのレジストレーション処理に供されるパターンが例示されている。
【0023】
図において,401はBkインク用吐出部212設けられる吐出口列の双方向記録時のレジストレーション処理用調整パターンを示し,複数のパッチを含んでいる。各パッチは,往方向移動で形成するパッチ要素に対し,ある吐出タイミングを基準として正負両方向に3段階ずつ復方向移動での吐出タイミングをずらしながらパッチ要素を重ねることにより,7つのパッチを形成したものである。ここで,パッチは,双方向記録時のドット形成位置が最も良く一致したものの濃度が最も低くなるように形成される。レジストレーション調整時には,調整印刷後に各パッチをセンサ33で読み取り,最も濃度が低いパッチを識別し,そのときの吐出タイミングに基づいてレジストレーション用の調整値を決定することができる。あるいは,そのような識別をユーザが行うこともできる。402,403,404,405および406は,それぞれC,M,Y,PcおよびPmインクの吐出部のための,調整パターン401と同様の調整パターンである。
・・・(中略)・・・
【0025】
図5は制御ユニット42の内部構成例を示す機能ブロック図である。制御ユニット42は,ハードウェア上は,後述する処理手順に対応したプログラムに従って各動作を制御するCPU,そのプログラムや固定データを格納するROMおよび作業用のRAM等を有して構成される。しかし以下では,制御ユニット42が実行する機能に従ってその構成を説明する。
・・・(中略)・・・
【0027】
図6は調整印刷処理手順の一例を示すフローチャートである。
ステップ601では,調整パターンを記録する記録媒体上の幅方向の印刷開始位置Xsを取得する。ステップ602では,調整パターンを画像データメモリ部43に設定する。ステップ603では,記録ヘッド動作制御部48が記録ヘッド2に吐出信号を発生させ,図4に例示した調整パターンを記録する。
【0028】
ステップ604において,記録媒体を搬送方向上流側に巻き戻すことで,調整パターンが記録された領域を,キャリッジ1と共に移動するセンサ33が読み取れるようにする。巻き戻し動作が正常に終了すると,ステップ605で,キャリッジ1に取り付けられたセンサ33の図示しない汚れ防止カバーを開放し,センサ33を使用状態にする。センサ33はキャリッジ1の主走査方向への移動の過程で調整パターンを読み取り(ステップ606),汚れ防止カバーを閉じてセンサ33を待機状態として(ステップ607),調整パターンの読み取りを終了する(ステップ608)。そして,読み取ったデータに基づき,ステップ609にて吐出タイミングを調整するための調整値の取得および所要の設定等を行う。この調整値は次回の調整処理まで保持され,次に述べるジョブ印刷処理において利用されるものであり,適宜の記憶手段,例えば装置電源がオフとされることを考慮してEEPROM等の不揮発性メモリに記憶させておくことができる。
【0029】
図7は本実施形態の記録装置のジョブ印刷処理の例を示すフローチャートである。
ステップ701では必要に応じてジョブ印刷開始位置への記録媒体の搬送(図9について後述する記録物を得る場合には後述する記録媒体の巻き戻し)を行い,ステップ702でジョブを記録する記録媒体上の幅方向の印刷開始位置Xsを取得する。ステップ703では,ジョブ画像を画像データメモリ部43に設定する。ステップ704では,キャリッジモータ6および搬送モータ47を適宜駆動しながら,ジョブを記録媒体上に記録する。すべてのジョブ画像を記録し終えると,連続紙形態の記録媒体が用いられている場合にはステップ705で記録媒体をカットし,所望した記録物を得る。
【0030】
図8は,以上の調整印刷およびジョブ印刷を含む本実施形態の記録処理手順の一例を示すフローチャート,図9はこれにより記録された記録物の概念を示す説明図である。
ジョブを受信すると,印刷実行部501はまずステップ801で記録媒体幅Wpを取得する。当該取得にはセンサ33を用いることができる。また,ステップ802にて調整印刷実行判定部506により調整印刷が必要か否かを判定する。調整処理は装置の設置時のほか,記録ヘッドの状態や装置環境などが変化した時点で,あるいは所定時間経過毎に定期的に行うことができるので,それらのような調整処理タイミングに至ったときに。ステップ802にて肯定判定がなされるようにすることができる。また,調整処理タイミングに至ったときに。あるいはそれとは関わりなく,ユーザが調整処理の実行を許可あるいは希望するか否かの選択に応じて,調整印刷ないしは調整処理が行われるようにすることもできる。
【0031】
調整印刷が不要であればステップ809に進み,直ちにジョブ印刷を開始する。一方,必要と判定されれば,印刷実行部501はステップ803にてジョブ管理部503からジョブ画像幅Wjを取得する。また,ステップ804にて,調整パターン管理部505を用いて調整パターン幅Waを取得する。次に,ステップ805にて,調整印刷可否判定部507を用い,ジョブ印刷に先立って記録媒体上に調整印刷が可能か否かを判定する。具体的な例としては,画像幅Wjのジョブを記録した場合に記録媒体上に生じる余白に調整パターンを記録する領域が確保できるか否かを,次の式によって判定する。
【0032】
Wp-Wj≧Wa
この式が成立すると判定されれば,調整印刷が可能であると判定することになる。
【0033】
このように調整印刷が可能と判定されると,ステップ806において印刷位置管理部508は調整パターンの印刷開始位置XsをWjに対応して設定する。実際には,ジョブの記録画像および調整パターン画像間には所定の隙間が存在するように設定がなされ,画像幅と隙間の幅とは区別して管理されるが,ここでは説明を簡略化するため,図9のように隙間も含めてジョブ画像幅Wjとしている。ステップ807では,前述の図6の手順に従って,設定されたXsの位置に基づいて調整パターンの記録を行う。そして,ステップ808において,印刷位置管理部508は続くジョブ印刷のために印刷開始位置Xsをゼロ(後述する図9に示される記録媒体の最左端の点)とする。その後,ステップ809において位置Xsに基づいてジョブ印刷を行う。これにより,図9のようにジョブ画像901の右に調整パターン902が記録された記録物が得られることになる。このとき,記録媒体7上には記録されない領域として余白903が発生することもある。なお,ステップ805にて記録媒体上に調整印刷が不可能と判定された場合にはステップ809に進み,ジョブ画像901のみが記録媒体7上に記録されるようにする。以上で一連の記録処理を完了する。
【0034】
図10(a)および(b)は,図9と比較するための従来の記録物の例を示す概念図である。従来はジョブ印刷と調整印刷とが個別に処理されていたので,まず図10(a)のように調整パターン画像の記録物が作られ,そこには余白1001が発生する一方,その後に作られるジョブ画像の記録物にも図10(b)のように余白1002が発生する。図9と図10(a),(b)との比較から明らかなように,調整印刷およびジョブ印刷の一連の処理において発生した余白は両者の合計面積となり,これは本実施形態の場合の余白903に比べて大きいものとなる。」

(4)「【0035】
(実施形態2)
本発明の実施形態1では,ジョブ画像のサイズに応じ,図4に示したような調整パターンの記録が可能な余白があるか否かを判定し,肯定判定の場合に当該記録を行うように構成していた。これに対し,本発明の実施形態2では,サイズの異なる複数の調整パターンを調整画像データメモリ部44に記憶し,ジョブ印刷により生じる余白のサイズに応じて,その余白に記録可能な調整パターンを選択し,これを調整処理に供するものである。本実施形態においては,例えば図4に示したような調整パターンに対応したデータと,図11に示すような調整画像データメモリ部44に対応したデータとが,調整画像データメモリ部44に記憶されているものとする。
【0036】
図11に示す調整パターンも図4に示したものと同様のレジストレーション調整処理用の調整パターンであるが,各色用に形成される調整パターン1111?1116は,それぞれパッチ数が図4に示したものより多くなっている。つまり,図4は7段階の調整が可能であったのに対し,図11では13段階の調整が可能であり,より細かな高精度の調整を行うために用いられる。この点から,図4のパターンを簡易調整パターン,図11のパターンを詳細調整パターンと称する。
【0037】
図12は本実施形態の記録処理手順の一例を示すフローチャートである。ここで,ステップ1201?1203の処理は,それぞれ,実施形態1に係る図8のステップ801?803の処理と同様である。本実施形態では,ステップ1204にて2つの調整パターンの幅,すなわち詳細調整パターン幅Wa1と簡易調整パターン幅Wa2とを取得する。なお,図4および図11の比較から明らかなように,Wa1>Wa2の関係がある。
【0038】
ステップ1205では,調整印刷可否判定部507により詳細調整パターンが記録可能か否かを次の式により判定する。
【0039】
Wp-Wj≧Wa1
この式が成立すると判定されれば,詳細調整パターンの記録が可能であると判定し,ステップ1206において調整パターン選択部504は詳細調整パターンを使用することを決定する。一方,詳細調整パターンの記録が不可能であればステップ1207に進み,簡易調整パターンが記録可能か否かを次の式により判定する。
【0040】
Wp-Wj≧Wa2
この式が成立すると判定されれば,簡易調整パターンの記録が可能であると判定し,ステップ1208において調整パターン選択部504は簡易調整パターンを使用することを決定する。さらに,簡易調整パターンも記録不可能であると判定されればステップ1212に進み,直ちにジョブ印刷を開始する。
【0041】
ステップ1209?1212の処理は,それぞれ,以降は実施形態1におけるステップ806?809と同様である。
【0042】
本実施形態は,ジョブ画像のサイズに応じて定まる余白の大きさに応じ,異なる調整精度を提供する,すなわちパッチ数ないし調整パターン幅の異なる複数の調整パターンからいずれかを選択して,これを余白に記録するものとした。換言すれば,本実施形態は,ジョブ画像のサイズに応じて定まる余白の大きさに適合した調整パターンの記録を可能とするものであり,余白全体を極力活用するものである。この観点からすれば,調整パターンの種類は図4のような簡易調整パターンと図11のような詳細調整パターンとの2種類に限られず,3種類以上とすることもできる。例えば,図4のような簡易調整パターンよりもさらに簡易な,幅の狭い(パッチ数の少ない)調整パターンや,図11のような詳細調整パターンよりもさらに高精度の調整を可能とする調整パターンを用意し,様々な余白サイズに対応するようにすることもできる。」

(5)「【図1】

・・・(中略)・・・
【図4】

・・・(中略)・・・
【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】



(2)引用文献1の記載から把握される発明
引用文献1の図9から,ジョブ画像の左端と調整パターンの右端が一致していることが看取される。
そして,前記(1)アないしオで摘記した引用文献1の記載から,連続紙形態の記録媒体7にジョブ画像と調整パターンを図9に示された配置で記録する「実施形態2」のインクジェット記録装置についての発明を把握することができるところ,その構成は次のとおりである。

「記録ヘッド2と,キャリッジ1と,センサ33と,搬送ローラ8と,調整画像データメモリ部44と,制御ユニット42を有し,
前記キャリッジ1には前記記録ヘッド2が搭載されるとともに前記センサ33が取り付けられ,キャリッジモータ6の駆動に伴って前記キャリッジ1ないし前記記録ヘッド2がキャリッジガイド軸3に沿って往復移動し,
前記記録ヘッド2には6個の吐出部21ないし26が搭載され,各吐出部21ないし26は,それぞれ,記録媒体搬送方向に平行な方向に配列された複数の吐出口を有するとともに,各色インクを吐出するよう構成され,
前記搬送ローラ8は,前記記録ヘッド2の移動方向と交差する方向に連続紙形態の記録媒体7を搬送するよう構成され,
前記調整画像データメモリ部44には,双方向記録時の往方向移動と復方向移動との間の各色インク吐出部のドット形成位置を調整するためのレジストレーション処理に供される調整パターンとして,13段階の調整が可能な詳細調整パターンと7段階の調整が可能な簡易調整パターンとが記憶され,前記詳細調整パターンの幅Wa1と前記簡易調整パターン幅のWa2がWa1>Wa2であり,
前記制御ユニット42は,
ジョブを受信すると,“調整印刷”が必要か否かを判定し,
“調整印刷”が不要であれば直ちに“ジョブ印刷”を開始する一方,
“調整印刷”が必要と判定されれば,詳細調整パターンが記録可能か否かを式Wp-Wj≧Wa1(Wpは記録媒体幅,Wjはジョブ画像幅,Wa1は詳細調整パターン幅)により判定し,
この式が成立すると判定されれば,詳細調整パターンの記録が可能であると判定し,詳細調整パターンを使用することを決定し,ジョブ画像の右端と詳細調整パターンの左端とが一致するように詳細調整パターンの印刷開始位置Xsを設定し,設定された印刷開始位置Xsの位置に基づいて“調整印刷”を行った後,印刷開始位置Xsを記録媒体7の最左端の点とし,当該印刷開始位置Xsに基づいて“ジョブ印刷”を行い,
詳細調整パターンの記録が不可能であれば,簡易調整パターンが記録可能か否かを式Wp-Wj≧Wa2(Wpは記録媒体幅,Wjはジョブ画像幅,Wa2は簡易調整パターン幅)により判定し,
この式が成立すると判定されれば,簡易調整パターンの記録が可能であると判定し,簡易調整パターンを使用することを決定し,ジョブ画像の右端と簡易調整パターンの左端とが一致するように簡易調整パターンの印刷開始位置Xsを設定し,設定された印刷開始位置Xsの位置に基づいて“調整印刷”を行った後,印刷開始位置Xsを記録媒体7の最左端の点とし,当該印刷開始位置Xsに基づいて“ジョブ印刷”を行い,
簡易調整パターンも記録不可能であると判定されれば直ちに“ジョブ印刷”を開始する,
という制御を実行するよう構成され,
前記“調整印刷”は,印刷開始位置Xsの位置に基づいて調整パターンの記録を行い,連続紙形態の記録媒体7を搬送方向上流側に巻き戻し,前記センサ33が前記キャリッジ1の主走査方向への移動の過程で調整パターンを読み取り,読み取ったデータに基づき,吐出タイミングを調整するための調整値であって“ジョブ印刷”において利用されるものである調整値の取得および所要の設定等を行い,この調整値を次回の調整処理まで保持する処理であり,
前記“ジョブ印刷”は,必要に応じてジョブ印刷開始位置への連続紙形態の記録媒体7の搬送を行い,印刷開始位置Xsの位置に基づいてジョブ画像を連続紙形態の記録媒体7上に記録し,連続紙形態の記録媒体7をカットして,所望した記録物を得る処理である,
インクジェット記録装置。」(以下,「引用発明」という。)

4 判断
(1)対比
ア 引用発明の「連続紙形態の記録媒体7」,「ジョブ画像」,「調整パターン」,「記録ヘッド2」,「制御ユニット42」,「インクジェット記録装置」は,技術的にみて,本件発明の「連続シート」,「画像」,「補正パターン」,「画像形成部」,「制御部」及び「画像形成装置」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明では,“調整印刷”において,センサ33が「調整パターン」(本件発明の「補正パターン」に対応する。以下,「(1)対比」欄及び「(2)相違点について」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)を読み取り,読み取ったデータに基づき,吐出タイミングを調整するための調整値であって“ジョブ印刷”において利用されるものである調整値を取得し,この調整値を次回の調整処理まで保持するのであるから,“ジョブ印刷”において,「ジョブ画像」(画像)の記録が,保持された調整値によって,吐出タイミングを調整された状態で行われることは自明である。そうすると,引用発明の「調整パターン」(補正パターン)は,「ジョブ画像」(画像)を補正する際に用いるものといえる。
そして,引用発明の「記録ヘッド2」(画像形成部)は,6個の吐出部21ないし26から各色インクを吐出して,「連続紙形態の記録媒体7」(連続シート)に「ジョブ画像」(画像)及び「調整パターン」(補正パターン)を記録するものである。
したがって,引用発明の「記録ヘッド2」(画像形成部)と,本件発明の「画像形成部」とは,「連続シートに画像および当該画像を補正する際に用いる補正パターンを形成する」点でも,一致する。

ウ 引用発明において,センサ33によって「調整パターン」(補正パターン)を読み取ったデータが「画像情報」であることは明らかである。そうすると,引用発明における「調整パターンを読み取ったデータ」は,「記録ヘッド2」(画像形成部)により形成された「調整パターン」(補正パターン)に基づく「画像情報」といえる。
そして,引用発明の「制御ユニット42」(制御部)は,“ジョブ印刷”において,「ジョブ画像」(画像)の記録を,調整値によって吐出タイミングを調整された状態で行うものであり(前記イ参照。),当該調整値は「調整パターンを読み取ったデータ」に基づき,取得されるものであるのだから,「記録ヘッド2」(画像形成部)により形成された「調整パターン」(補正パターン)に基づく「画像情報」に基づいて,「吐出タイミングの調整」(画像の補正)を行うものといえる。
したがって,引用発明の「制御ユニット42」(制御部)と,本件発明の「制御部」とは,「画像形成部により形成された補正パターンに基づく画像情報に基づいて画像の補正を行う」点でも,一致する。

エ 引用発明において,連続紙形態の記録媒体7の幅方向全域に画像を形成できることは明らかであるから,引用発明の「連続紙形態の記録媒体7の幅方向全域」が,本件発明の「連続シートの画像形成領域」に相当する。また,引用発明の「ジョブ画像が形成される領域」が,本件発明の「画像形成領域内において,画像が形成される第1の領域」に相当し,引用発明の「記録媒体7におけるジョブ画像が形成される領域以外の領域(すなわち余白)」が,本件発明の「画像形成領域内において,画像が形成される第1の領域以外の第2の領域」に相当する。
しかるに,引用発明の「制御ユニット42」(制御部)は,式Wp-Wj≧Wa1が成立する場合,言い換えると,余白の幅方向におけるサイズ(Wp-Wj)が詳細調整パターン幅Wa1以上である場合,余白の左端に詳細調整パターンを記録し,詳細調整パターンの記録が不可能であり,かつ式Wp-Wj≧Wa2が成立する場合,言い換えると,余白の幅方向におけるサイズが簡易調整パターン幅Wa2以上で詳細調整パターン幅Wa1未満である場合,余白の左端に簡易調整パターンを記録するように制御するものであるから,「連続紙形態の記録媒体7の幅方向全域」(連続シートの画像形成領域)内において,「余白」(画像が形成される第1の領域以外の第2の領域)の大きさに基づき,詳細調整パターン及び簡易調整パターンのどちらを「余白」(第2の領域)に記録するのかを決めているといえる。
そうすると,引用発明の「制御ユニット42」と,本件発明の「制御部」とは,「連続シートの画像形成領域内において,画像が形成される第1の領域以外の第2の領域の大きさに基づき,補正パターンに関する事項を決める」ものである点で共通するといえる。

オ 前記アないしエに照らせば,本件発明と引用発明は,
「連続シートに画像および当該画像を補正する際に用いる補正パターンを形成する画像形成部と,
前記画像形成部により形成された前記補正パターンに基づく画像情報に基づいて画像の補正を行う制御部と,を備え,
前記制御部は,前記連続シートの画像形成領域内において,前記画像が形成される第1の領域以外の第2の領域の大きさに基づき,補正パターンに関する事項を決める
画像形成装置。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点:
本件発明の「制御部」が決める「補正パターンに関する事項」が,「第2の領域に対する補正パターンの配置」であるのに対して,
引用発明の「制御ユニット42」が決める「調整パターンに関する事項」は,「詳細調整パターン及び簡易調整パターンのどちらを余白に記録するのか」である点。

(2)相違点について
ア 引用発明において,詳細調整パターン又は簡易調整パターンは,ジョブ画像の右端と詳細調整パターンの左端又は簡易調整パターンとが一致するように,余白内に記録されるところ,記録された調整パターンが余白内に占める領域の大きさは,詳細調整パターンと簡易調整パターンとで異なる(前者のほうが大きい)のであるから,余白に対する詳細調整パターンの配置と,余白に対する簡易調整パターンの配置とは,異なるものであるといえる。
そうすると,「詳細調整パターン及び簡易調整パターンのどちらを余白に記録するのか」を決めることは,実質上,「余白」(第2の領域)に対する「調整パターン」(補正パターン)の配置を決めることであるといえる。
したがって,相違点は,実質的な相違点ではなく,本件発明と引用発明は,実質的に同一である。

イ なお,本件発明の「画像が形成される第1の領域以外の第2の領域の大きさに基づき,該第2の領域に対する前記補正パターンの配置を決める」という発明特定事項は,平成29年12月22日に提出された手続補正書による手続補正によって,請求項1に付加されたものである。そこで,当該発明特定事項について,請求人が補正の根拠とした本件出願の願書に添付された明細書の【0062】,【0064】及び【0069】の記載並びに当該記載中で言及されている図11,図12A及び図12B等を参酌すると,前記発明特定事項は,画像が形成される第1の領域以外の第2の領域の大きさに基づいて,第2の領域内に印刷できるようなサイズの調整パターンを選択し,第2領域内に収まるような位置に,選択した補正パターンを印刷することを意味していると解することが可能である。
しかるに,引用発明の「制御ユニット42」は,余白の幅方向におけるサイズが詳細調整パターン幅Wa1以上である場合,余白の左端に詳細調整パターンを記録し,余白の幅方向におけるサイズが簡易調整パターン幅Wa2以上で詳細調整パターン幅Wa1未満である場合,余白の左端に簡易調整パターンを記録するように制御しているのであるから(前記(1)エを参照。),「余白」(第2領域)の大きさに基づいて,「余白」(第2の領域)内に印刷できるようなサイズの「調整パターン」(補正パターン)を選択し,「余白」(第2領域)内に収まるような位置に,選択した「調整パターン」(補正パターン)を印刷するものといえる。
したがって,仮に,本件発明の「画像が形成される第1の領域以外の第2の領域の大きさに基づき,該第2の領域に対する前記補正パターンの配置を決める」という発明特定事項を,前述したように解釈したとしても,引用発明は,当該発明特定事項に相当する構成を具備している。
よって,前記解釈を前提としたとしても,相違点は,実質的な相違点ではなく,本件発明と引用発明は,実質的に同一である。

(3)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明は,引用発明と同一である。


第4 むすび
前記第3のとおり,本件発明は,引用発明と同一であって,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-08 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-22 
出願番号 特願2014-46296(P2014-46296)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小宮山 文男  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
吉村 尚
発明の名称 画像形成装置および画像形成システム  
代理人 特許業務法人山口国際特許事務所  

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