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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1354919
異議申立番号 異議2018-700006  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-05 
確定日 2019-07-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6159514号発明「リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6159514号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6159514号の請求項1?3、6、7に係る特許を維持する。 特許第6159514号の請求項4、5に係る特許についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6159514号の請求項1?7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年9月19日を出願日とする出願であって、平成29年6月16日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月5日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成30年1月5日に特許異議申立人安東和恭(以下、「申立人」という。)により請求項1?7に対して特許異議の申立てがなされ、同年2月28日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年4月23日に特許権者から意見書が提出され、その後、同年6月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年8月7日に特許権者から意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされ、同年9月13日に申立人から意見書が提出され、その後、同年10月31日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、平成31年1月4日に特許権者から意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年2月15日に申立人から意見書が提出され、その後、同年4月9日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、令和元年6月13日に特許権者から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6159514号の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、-0.1≦α≦0.1であり、Mは金属である。)」を「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2、3、6、7についても、同様に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項4を削除する。

ウ 訂正事項3
請求項5を削除する。

エ 訂正事項4
請求項6について、「請求項1?5のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極」を「請求項1?3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極」と訂正する。

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)【0018】について、「【図1】実施例7に係るTPD-MS測定で得られた、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)の発生速度曲線を示す。」を「【図1】参考例7に係るTPD-MS測定で得られた、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)の発生速度曲線を示す。」と訂正する。

カ 訂正事項6
本件特許明細書【0030】について、「(実施例1?12)」を「(実施例1?6、参考例7?12)」と訂正する。

キ 訂正事項7
本件特許明細書【0031】について、「実施例1?12と同様の処理を行った」を「実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った」と訂正する。

ク 訂正事項8
本件特許明細書【0032】について、「実施例1?12と同様の処理を行った」を「実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った」と訂正する。

ケ 訂正事項9
本件特許明細書【0033】について、「実施例1?12と同様の処理を行った」を「実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った」と訂正する。

コ 訂正事項10
本件特許明細書【0038】について、
「【表1】

」を
「【表1】

」と訂正する。

サ 訂正事項11
本件特許明細書【0039】について、「実施例1?15は、」を「実施例1?6、13?15、参考例7?12は、」と、「実施例7に係るTPD-MS測定で得られた」を「参考例7に係るTPD-MS測定で得られた」とそれぞれ訂正する。

2 当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1について、本件訂正前の請求項5の記載を根拠に、本件訂正前の「Mは金属である」を「MはMn及びCoである」と特定し、さらに、本件特許明細書【0038】の【表1】の実施例2及び実施例13を根拠に、本件訂正前の「-0.1≦α≦0.1」を「0.01≦α≦0.1」と特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)等に記載された範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許明細書等に記載された範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許明細書等に記載された範囲内の訂正である。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項2及び3において請求項4及び5が削除されたことに伴い、請求項の引用関係を整理するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許明細書等に記載された範囲内の訂正である。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1によって実施例7が参考例7となったことに伴い、本件特許明細書【0018】について、本件訂正前の「実施例7」を「参考例7」と書き換えるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許明細書等に記載された範囲内の訂正である。

カ 訂正事項6?11について
訂正事項6?11は、訂正事項1によって実施例7?12が参考例7?12となったことに伴い、本件特許明細書【0030】?【0033】、【0038】、【0039】について、本件訂正前の実施例7?12を参考例7?12と書き換えるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件特許明細書等に記載された範囲内の訂正である。
さらに、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行うものである。

以上によれば、訂正事項1?11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」、または、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、さらに、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであり、また、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行うものであるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?7は、請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?7は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?7〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

(3)先にした訂正の請求について
平成30年8月7日になされた訂正請求は、その後、本件訂正の請求がなされたから、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

3 本件訂正請求のむすび
以上のとおりであるから、平成31年1月4日に特許権者が行った本件訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号または第3号を目的とするものであり、同法第120条の5第9項で準用する第126条第4項、第5項及び第6項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項1?7について、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
平成31年1月4日に特許権者が行った請求項1?7についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質であり、
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が2wtppm/秒以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1?3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。」

2 これまでに通知した取消理由の概要、及び、特許異議申立理由の概要
(1)平成30年2月28日付けで通知した取消理由
ア 本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記1または2の刊行物(刊行物については、下記(6)参照。以下、同じ。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項1の「リチウムイオン電池用正極活物質」において、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、」「150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値」を「3wtppm/秒以下」とする手段が記載されていないために、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1?7に係る発明について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない出願に対して付与されたものであるから、取り消すべきものである。

(2)平成30年6月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)
ア 本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)平成30年10月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)
ア 本件特許の請求項1?3、6、7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(4)平成31年4月9日付けで通知した取消理由(決定の予告)
ア 本件特許の請求項1?3、6、7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記1、4の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(5)上記(1)?(4)以外の特許異議申立理由
ア 本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記3の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記2、3の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
ウ 本件明細書には、TPD-MS測定時の昇温速度について、室温から1000℃まで10℃/分で昇温したもの以外は記載されていないところ、本件特許の請求項1?7に係る発明は、TPD-MS測定時の昇温速度について何ら特定されておらず、あらゆる昇温速度を包含するものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
よって、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
エ 平成28年8月23日付けの手続補正書において、請求項1?3の「TPD-MSによって前記正極活物質を5?30mg測定したとき」を「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき」とした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、取り消されるべきものである。

(6)刊行物一覧
刊行物1:国際公開第98/54772号(申立人が提出した甲第1号証、以下、「甲1」という。)
刊行物2:特開2002-358960号公報(申立人が提出した甲第4号証、以下、「甲4」という。)
刊行物3:特許第3539223号公報(申立人が提出した甲第5号証、以下、「甲5」という。)
刊行物4:国際公開第2011/096525号(申立人が平成31年2月15日付けの意見書に添付して提出した参考文献2、以下、「参考文献2」という。)

3 本件明細書の記載
本件訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、正極活物質前駆体の焼成時の酸化を促進するためにリチウムの仕込み量を多くするが、過剰に入れている分、余ったリチウムが残留アルカリとなりやすい。また、正極活物質に含まれる水分が正極活物質のリチウムを引き抜き、水酸化リチウム及び炭酸リチウムの残留アルカリを多くしてしまう。正極活物質の表面の残留アルカリや、正極に含まれる水分や水が取り込まれ反応した水酸基などは、電池を作製する際に電解液と反応してしまうため、電池に必要な電解液の量が欠乏状態となり電池特性の劣化につながる。
このように、正極活物質中の水分や、残留アルカリは、電池特性に悪影響があり、従来、種々の手段で除去している。しかしながら、なお高品質のリチウムイオン電池用正極活物質としては改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。」
「【0028】
次に、所定の大きさの容量を有する焼成容器を準備し、この焼成容器にリチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末を充填する。次に、リチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末が充填された焼成容器を、焼成炉へ移設し、焼成を行う。焼成は、酸素雰囲気下で所定時間加熱保持することにより行う。また、101?202KPaでの加圧下で焼成を行うと、さらに組成中の酸素量が増加するため、好ましい。
その後、焼成容器から粉末を取り出し、市販の解砕装置等を用いて解砕を行うことにより正極活物質の粉体を得る。このときの解砕は、微粉がなるべく生じないように、具体的には粒径4μm以下の微粉が体積分率で10%以下となるように、または、粉体の比表面積が0.40?0.70m^(2)/gとなるように、適宜解砕強度及び解砕時間を調整して行うのが好ましい。
このように解砕時の微粉の発生を制御することにより、体積当たりの粉末の表面積が減少するため、粉末の空気に露出する面積を抑制することができる。従って、前駆体の粉末の保管時等における吸湿を良好に抑制することができる。
また、本発明では粉末中のNi濃度が高く、解砕時に粉末粒子の新生面が炉出(当審注:「露出」の誤記。)すると、すぐに水分が吸着する。そこで、解砕時の粉末の露点管理が重要である。具体的には、粉末の解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕するが、解砕雰囲気の露点は、露点を管理した乾燥空気を5?15m^(3)/分の風量で吹き込むことにより行うことがきる。さらに、解砕後の試料取出しのブースの露点も同様に管理することも有効である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0030】
(実施例1?6、参考例7?12)
まず、金属塩に含まれる各金属が表1のモル比率となるように調整した硝酸塩を準備した。次に、炭酸リチウムを純水に懸濁させた後、この金属塩溶液を投入した。
この処理により溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出したが、この析出物を、フィルタープレスを使用して濾別した。
続いて、析出物を乾燥してリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン電池正極材用前駆体)を得た。
次に、焼成容器を準備し、この焼成容器内にリチウム含有炭酸塩を充填した。次に、焼成容器を、大気圧下、酸素雰囲気炉に入れて、焼成温度850?980℃で24時間加熱保持した後冷却して酸化物を得た。
次に、得られた酸化物を、解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。解砕雰囲気の露点は、露点を管理した乾燥空気を6m^(3)/分の風量で吹き込むことにより行った。
【0031】
(実施例13)
実施例13として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を塩化物とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った。
【0032】
(実施例14)
実施例14として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を硫酸塩とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った。
【0033】
(実施例15)
実施例15として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、焼成を大気圧下ではなく120KPaの加圧下で行った以外は、実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った。
【0034】
(比較例1?3)
比較例1?3として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、最後の酸化物の解砕時の露点管理について実施例1?6のような調整を行わない、すなわち、乾燥空気を吹き込まない以外は、実施例1?6と同様の処理を行った。
【0035】
(評価)
-正極材組成の評価-
各正極材(組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α))中の金属含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)で測定し、各金属の組成比(モル比)を算出した。また、酸素含有量はLECO法で測定しαを算出した。これらの数値は表1に記載の通りとなった。
【0036】
-TPD-MS測定による評価-
各正極材の粉末を約50mg量り採り、TPD-MS装置(加熱装置:TRC製、MS装置島津製作所製)、室温から1000℃まで、昇温速度10℃/分で加熱した。標準物質としてタングステン酸ナトリウム二水和物、二酸化炭素、空気を用いた。これにより、200?400℃の領域でのH2O由来のピークにおける発生速度の極大値、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値をそれぞれ求めた。
【0037】
-電池特性の評価-
各正極材と、導電材と、バインダーとを85:8:7の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N-メチルピロリドン)に溶解したものに、正極材料と導電材とを混合してスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。続いて、対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M-LiPF_(6)をEC-DMC(1:1)に溶解したものを用いて、電流密度0.2Cの際の放電容量を測定した。また、充放電効率は、電池測定によって得られた初期放電容量及び初期充電容量から算出した。
これらの結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1?6、13?15、参考例7?12は、いずれも本発明に規定の組成が得られ、TPD-MS測定において、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であり、放電容量、充放電効率がいずれも良好であった。
比較例1?3は、TPD-MS測定において、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒超であり、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒超であり、放電容量及び/又は充放電効率が不良であった。
図1に、参考例7に係るTPD-MS測定で得られた、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)の発生速度曲線を示す。図1では、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピーク、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピーク及び当該ピークにおける極大箇所が観察されている。本発明では、これらのH_(2)O及びCO_(2)発生速度曲線の極大値が制御されている。」

4 引用文献の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
ア「技術分野
本発明は、非水電解質電池用電極の製造方法に関し、より詳しくは、Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の活物質を少なくとも含有する電極活物質層を有し、電池特性及び保存性に優れる非水電解質電池用電極を製造する方法に関する。

背景技術
近年の電子分野の発展はめざましく、ビデオカメラ、液晶力メラ、携帯電話、ラップトップコンピュータ一、ワープロ等の各種機器が開発されている。それに対応して、これら電子機器の電源に使用される電池においては、小型化、軽量化、高エネルギー密度化への要求が高まっている。
従来、これらの電子機器には鉛電池やニッケルカドミウム電池が使用されていたが、これらの電池は小型化、軽量化、高エネルギー密度化の要求に対して十分に応えることができない。
そこで、非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液を用いる、非水電解液電池が提案されている。この非水電解液電池としては、リチウムやリチウム合金もしくはリチウムイオンをドープ、脱ドープすることが可能な炭素材料を負極材料として用い、リチウムコバルト複合酸化物を正極材料として用いたものがすでに実用化されている。」(第1頁第3行?第2頁第1行)
イ「発明の目的
本発明者らはニッケル系のリチウム複合酸化物の特性を検討したところ、ニッケル系のリチウム複合酸化物はリチウムコバルト複合酸化物に比較して、空気中の水分を吸収しやすい傾向があることを見いだした。水分を多く吸収した状態の活物質を電池に用いると、それによって電池の充放電容量が低下したり、内部抵抗が増大し、さらには保存性の劣化が引き起こされるという問題が生じる。
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、電池に高容量を付与できると共に電池の内部抵抗を低く抑えることができる非水電解質電池用電極の製造方法を提供することにある。
発明の概要
本発明者らは鋭意検討した結果、二ッケル系リチウム複合酸化物を製造した後の保存環境や合剤調製前の特別な処理によって、水分含量の少ないニッゲル系リチウム複合酸化物を合剤調製に用いることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の活物質を少なくとも含有する電極活物質合剤塗料を調製し、この活物質合剤塗料を集電体上に塗布する非水電解質電池用電極の製造方法であって、前記活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-20℃以下のガス中に保存することを含む、非水電解質電池用電極の製造方法である。
また、本発明は、Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の活物質を少なくとも含有する電極活物質合剤塗料を調製し、この活物質合剤塗料を集電体上に塗布する非水電解質電池用電極の製造方法であって、前記活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥することを含む、非水電解質電池用電極の製造方法である。
また、本発明は、Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の活物質を少なくとも含有する電極活物質合剤塗料を調製し、この活物質合剤塗料を集電体上に塗布する非水電解質電池用電極の製造方法であって、前記活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-20℃以下のガス中に保存し、かつ前記活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥することを含む、非水電解質電池用電極の製造方法である。」(第2頁下から3行?第4頁第11行)
ウ「本発明に使用されるリチウム複合酸化物は、Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)で表されるものである。
・・・(略)・・・
このような組成(Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2))の活物質は、空気中に放置しておくと水分を吸収し易い傾向があり、粉砕工程等を経る間に水分を多く吸収した状態になる。本発明においては、活物質を、活物質製造直後から活物質合剤調製までの間、水分露点-20℃以下のガス中に保存する。この保存は、常温で行えば良い。この保存によって、水分の影響を排除することができる。保存ガスの水分露点が-20℃より高いと、水分の影響を完全に排除することはできず、容量低下などの不具合が発生する。ガスの好ましい水分露点は、-30℃以下である。ガスは、空気、窒素ガス、あるいは希ガスが好ましく、特に窒素ガスあるいは希ガスが好ましい。
また、本発明において、活物質を活物質合剤塗料調製直前に真空乾燥することによっても、水分の少ない状態で活物質を正極に供することができる。このときの真空度は、例えば、1Torr以下、特に0.1Torr以下が好ましい。乾燥温度は100?400℃が好ましく、150?350℃が特に好ましい。また、真空乾燥時間は、1?48時間が好ましい。」(第4頁第19行?第7頁第20行)
エ「[実施例1]
硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように水溶液中で混合し、沈殿を形成させ、その後スプレードライヤーで、乾燥し概ね球状の粒子を得た。この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し、焼成した。得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃での空気中に常温で1週間保存した。
このリチウム複合酸化物LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)を活物質として用いて、以下の配合組成の電極用合剤塗料を調製した。
(配合組成)
・・・(略)・・・」(第10頁第20行?第11頁第5行)
オ「[実施例4]
硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように溶液中で混合し、沈殿を形成後スプレードライヤーで、乾燥し概ね球状の粒子を得た。この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し、焼成した。得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存し、その後真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥した。
このリチウム複合酸化物を活物質として用いて、実施例1と同様にして、電極用合剤塗料を調製し、実施例4の電極を作製した。」(第12頁第20行?第13頁第3行)
カ「(電池特性)
実施例1?4及び比較例1で得られた各電極の電池特性を次のように測定した。
得られた各電極について、正極活物質層を残留水分を除去するため乾燥し、直径15.5mmの円形の正極を作製した。別途、負極として、厚さ1.85mmの金属リチウムを直径15.5mmに打ち抜いた。そして、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの1:1(容量比)混合液にLiPF_(6)を1モル/リットルなる濃度で溶解した非水電解液を用意した。
この非水電解液、正極及び負極と、さらにポリプロピレン製の薄膜セパレーター、負極カップ、正極缶、ガスケットとを用いて、・・・(略)・・・直径20mm×厚さ2.5mmのコイン型電池を作製した。」(第13頁第9?20行)

(2)甲1に記載された発明
(2)-1 甲1の実施例4として記載された発明
ア 上記(1)のオの実施例4における「活物質」は、上記(1)のカより、「正極を作製」するために用いているから、「正極活物質」であるといえる。
イ 上記(1)のオの実施例4における「正極活物質」である「リチウム複合酸化物」は、上記(1)のエの実施例1における「リチウム複合酸化物」とは乾燥方法が違うだけで、それ以外は同様の材料、配合量及び方法で形成されているから、実施例1と同様に、組成式が「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」で表される。
ウ 上記(1)のオより、実施例4における「正極活物質」は、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように溶液中で混合し、沈殿を形成後スプレードライヤーで乾燥し、概ね球状の粒子を得た後、この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し焼成し、得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存し、その後真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥したものである。
エ 上記(1)のカより、実施例4における「正極活物質」は、LiPF_(6)を溶解した非水電解液を用いたコイン電池用であるといえる。
オ 上記(1)のカより、コイン型電池用正極は、実施例4における「正極活物質」を用いたものである。
カ 上記(1)のカより、コイン型電池は、実施例4における「正極活物質」を用いた「正極」を用いたものである。
キ 上記ア?エより、実施例4における「正極活物質」に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)である正極活物質であり、
硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように溶液中で混合し、沈殿を形成後スプレードライヤーで乾燥し、概ね球状の粒子を得た後、この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し焼成し、得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存し、その後真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥することにより得られた、
LiPF_(6)を溶解した非水電解液を用いたコイン電池用正極活物質。」
ク また、上記オ、キより、甲1には、次の発明(以下、「甲1正極発明」という。)が記載されている。
「甲1発明の正極活物質を用いた正極。」
ケ さらに、上記エ、カ、クより、甲1には、次の発明(以下、「甲1電池発明」という。)が記載されている。
「甲1正極発明の正極、及び、LiPF_(6)を溶解した非水電解液を用いたコイン電池。」

(2)-2 甲1の発明の詳細な説明に記載された発明
ア 上記(1)のイより、甲1には、「Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成」の「非水電解質電池用」「活物質」であって、「前記活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-20℃以下のガス中に保存し、かつ前記活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥する」「非水電解質電池用」「活物質」が記載されている。
イ 上記アの「Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の活物質」は、上記(1)のウより、「活物質を正極に供することができる」ものであるから、「正極活物質」であるといえる。
ウ 上記(1)のウより、「本発明においては、活物質を、活物質製造直後から活物質合剤調製までの間、水分露点-20℃以下のガス中に保存する。・・・(略)・・・保存ガスの水分露点が-20℃より高いと、水分の影響を完全に排除することはできず、容量低下などの不具合が発生する。ガスの好ましい水分露点は、-30℃以下である」とされているから、上記アの「水分露点-20℃以下のガス中に保存」する事項について、「-20℃以下」だけではなく、より好ましい態様として「-30℃以下」も併せて記載されているといえる。
エ 上記イより、上記アの「正極活物質」を用いた「正極」が記載されている。
オ 上記(1)のイより、上記エの「正極」は、「非水電解質電池用」であるから、甲1には、上記エの「正極」を用いた「非水電解質電池」が記載されているといえる。
カ 上記ア?ウより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されている。
「Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の非水電解質電池用正極活物質であって、前記活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-30℃以下のガス中に保存し、かつ前記活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥する非水電解質電池用正極活物質。」
キ また、上記エ、カより、甲1には、次の発明(以下、「甲1正極発明2」という。)が記載されている。
「甲1発明2の正極活物質を用いた正極。」
ク さらに、上記オ、キより、甲1には、次の発明(以下、「甲1電池発明2」という。)が記載されている。
「甲1正極発明2の正極を用いた非水電解質電池。」

(3)甲4の記載事項
甲4には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料に関し、更にはリチウムニッケル複合酸化物及びリチウムニッケル複合酸化物の製造方法に関する。」
「【0021】
【発明の実施の態様】本発明の特徴は、高比表面積かつ低炭酸濃度のリチウムニッケル複合酸化物を使用した点にある。ここでいう比表面積とは、窒素を吸着種としてBET法で測定した比表面積をいう。リチウムニッケル複合酸化物としては、代表的にはLiNiO_(2)を基本組成とする層状構造のニッケル酸リチウムが代表的である。
【0022】リチウムニッケル複合酸化物は、リチウム、ニッケル及び酸素以外に、さらに他の元素を含有していてもよい。このような他元素としては、B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Mn等の金属元素を挙げることができるが、好ましくはAl及び/又はCoであり、特に好ましくはその両者を含有する。即ち、特に好ましい態様において、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムとニッケルとコバルトとアルミニウムとを含有する複合酸化物からなる。このような他元素は、例えば、ニッケルサイトの一部を上記他元素で置換することによって、結晶構造を安定化させる機能を有する。このようなニッケルサイトへの置換元素としては、上記同様、B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Mn等の金属元素を挙げることができる。無論複数の元素で置換することもできる。好ましい置換元素はCo及び/又はAl、特にCo及びAlである。また、酸素原子の一部をフッ素等のハロゲン元素で置換することもできる。
【0023】このような他種元素置換型のリチウムニッケル複合酸化物は、例えば層状構造のリチウムニッケル複合酸化物の場合、通常
【0024】
【化5】Li_(x)Ni_(1-y)Me_(y)O_(2)
(Meは置換元素、0≦x≦1.5、0<y≦1)の組成で表すことができる。ここで、好ましい置換元素Meとしては、Al及び/又はCoである。ただし、この結晶構造を安定化させることができれば、置換元素の種類及び組成比は、これに限定されるものではない。特に好ましいリチウムマンガン複合酸化物の組成は、
【0025】
【化6】Li_(x)Ni_(1-y-z)Co_(y)Al_(z)O_(2)
(0.9≦x≦1.1、0<y≦1.0、0<z≦0.5)で表される。なお、上記いずれの組成式においても、酸素の量は不定比性を有する場合を包含する。さらにまた、上記いずれの場合においても、化学量論量以上のリチウムを原料として使用するなどによって、ニッケル原子のサイトの一部をリチウムで置換することも可能である。
【0026】リチウムニッケル複合酸化物の一例として、前記した層状リチウムニッケル酸化物(一般式LiNiO_(2))は従来公知の各種の方法にて製造することができ、例えば、リチウム、ニッケル、置換元素を含有する出発原料を混合後、酸素雰囲気下で加熱焼成することによって製造することができる。なお、上記製造方法において置換元素を含有する出発原料を用いずNiサイトが置換されていないリチウムニッケル酸化物を製造し、該リチウムニッケル酸化物を、置換金属元素を含有する出発原料の水溶液、溶融塩あるいは蒸気中で反応させた後、必要に応じて置換元素をリチウムニッケル複合酸化物粒子内に拡散させるため、再度加熱処理を行うことによりNiサイトを置換元素で置換してもよい。」
「【0037】本発明の二次電池用正極材料は、安全性の向上という点から、更にリチウムマンガン複合酸化物を含有するものが好ましいリチウムマンガン複合酸化物としては、代表的にはLiMn_(2)O_(4)を基本組成とするスピネル構造のマンガン酸リチウムや、基本組成LiMnO_(2)を有する層状構造のマンガン酸リチウムを挙げることができるが、製造のしやすさ及びサイクル特性の点でスピネル型のマンガン酸リチウムが好ましい。
【0038】リチウムマンガン複合酸化物は、リチウム、マンガン及び酸素以外に、さらに他の元素を含有していてもよい。B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Ni等の金属元素を挙げることができるが、好ましくはAlである。即ち、好ましい態様において、リチウムマンガン複合酸化物は、リチウムとマンガンとアルミニウムとを含有する複合酸化物からなる。このような他元素は、例えば、マンガンサイトの一部を上記他元素で置換することによって、結晶構造を安定化させる機能を有する。このようなマンガンサイトへの置換元素としては、上記同様、B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Ni等の金属元素を挙げることができる。無論複数の元素で置換することもできる。好ましい置換元素はAlである。また、酸素原子の一部をフッ素等のハロゲン元素で置換することもできる。
【0039】このような他種元素置換型のリチウムマンガン複合酸化物は、例えばスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物の場合、通常
【0040】
【化7】Li_(b)Mn_(2-a )Me_(a)O_(4)
(Meは置換元素、0≦b≦1.5、0<a≦1)の組成で表すことができる。ここで、好ましい置換元素MeはAlである。ただし、この結晶構造を安定化させることができれば、置換元素の種類及び組成比は、これに限定されるものではない。特に好ましいリチウムマンガン複合酸化物の組成は、
【0041】
【化8】Li_(b)Mn_(2-a)Al_(a)O_(4)
(0<a≦1.0、0.9≦b≦1.1)で表される。なお、上記いずれの組成式においても、酸素の量は不定比性を有する場合を包含する。さらにまた、上記いずれの場合においても、化学量論量以上のリチウムを原料として使用するなどによって、マンガン原子のサイトの一部をリチウムで置換することも可能である。」
「【0047】本発明の正極材料はリチウム二次電池の正極として用いることができる。正極は、通常上記正極材料と結着剤と導電剤とを含有する活物質層を集電体上に形成してなる。本発明において正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物及びリチウムマンガン複合酸化物である。活物質層は、通常、上記構成成分を含有するスラリーを調製し、これを集電体上に塗布・乾燥することで得ることができる。」
「【0060】
【実施例】実施例1
富士化学社製リチウムニッケル複合酸化物(グレード名;LINILITE CA5)をセイシン企業製シングルトラックジェットミルを用いて粉砕した。リチウムニッケル複合酸化物の供給速度は1Kg/Hrで粉砕をおこなった。粉砕に使用したガスは、以下の記載の方法で調整した。即ち、コベルコ製スクリュコンプレッサーに東洋テクノ製ゼオライト吸着型除湿機を通して露点-55℃、圧力7.5Kgの圧縮空気を調整し、この除湿した圧縮空気を粉砕に使用した。粉砕したリチウムニッケル複合酸化物の炭酸濃度は2.48wt%、比表面積は4.54m^(2)/gで、C/S値は0.55であった。」
「【0063】試験例
実施例1?3及び比較例1、2で作製したリチウムニッケル複合酸化物とリチウムマンガン複合酸化物を混合して電池評価を実施した。
試験例1
この粉砕したリチウムニッケル複合酸化物18.75重量部、リチウムマンガン複合酸化物56.25重量部にPTFE5重量部、アセチレンブラック20重量部をメノウ乳鉢で充分に混練し、薄くシート状にしたものを直径9mmのポンチで打ち抜いた。このペーストを正極に金属リチウム箔を負極に、LiPF61.8Kg仕込み1時間粉砕した。打ち抜いたシートの重量は約8mgであった。これをAlエキシパンドメタルに圧着して正極とした。1モル/リットルのLiPF6を溶解させたエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの混合溶液(30容量%:70容量%)を電解液とした用いた。0.5mm厚さのLi金属箔を15.5mmのポンチで打ち抜いて負極とした。多孔性ポリエチレンををセパレーターとした。これらの材料からコイン型リチウム電池を作製した。このコイン型電池を25℃に保持して0.1mA/cm^(2)で充放電を実施した際の容量を測定した。充電容量が127mAh/g、放電容量が117mAh/gであった。また、負極としてグラファイトを銅箔に塗布した電極を用いて、同様にコイン型電池を組み立てて、1Cで100サイクル充放電を繰り返し、初期容量と100回目の容量の比を取ってサイクル維持率とした。89%であった。」

(4)甲4に記載された発明
ア 上記(3)の【0060】より、甲4には、富士化学社製リチウムニッケル複合酸化物(グレード名;LINILITE CA5)を粉砕し、その粉砕には露点-55℃、圧力7.5Kgの圧縮空気を使用したことが記載されている。
イ 上記(3)の【0063】より、上記アのリチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、PTFE、アセチレンブラックを充分に混練し、薄くシート状にしたものをポンチで打ち抜き、このペーストを正極としたコイン型リチウム電池を作製している
ウ 上記(3)の【0047】より、甲4のリチウムニッケル複合酸化物及びリチウムマンガン複合酸化物はリチウム二次電池用正極活物質である。
エ 上記ア?ウより、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「富士化学社製リチウムニッケル複合酸化物(グレード名;LINILITE CA5)を粉砕し、その粉砕には露点-55℃、圧力7.5Kgの圧縮空気を使用したリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムマンガン複合酸化物とを混ぜた、リチウム二次電池用正極活物質。」
オ また、上記エより、甲4には次の発明(以下、「甲4正極発明」という。)が記載されている。
「甲4発明の正極活物質を用いた正極。」
カ さらに、上記エ、オより、甲4には、次の発明(以下、「甲4電池発明」という。)が記載されている。
「甲4正極発明の正極を用いたリチウム二次電池。」

(5)甲5の記載事項
甲5には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解液二次電池、特にその正極活物質の製造方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の携帯化、ポータブル化が急速に進み、これらの電源として小型、軽量、すなわち高エネルギー密度を有する二次電池が望まれている。特に、非水電解液二次電池、中でもリチウム二次電池は、高エネルギー密度を有する電池として注目されている。従来、リチウム二次電池の正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO_(2)),ニッケル酸リチウム(LiNiO_(2)),マンガン酸リチウム(LiMn_(2)O_(4))等が知られており、コバルト酸リチウムを用いる二次電池は既に商品化されている。しかしながら、コバルト酸リチウムはコバルトの資源およびコストの問題を有しており、これに代わる正極活物質としてニッケル酸リチウムなどが注目され、コバルト固溶リチウム複合ニッケル酸化物などの開発が進められている。このニッケル酸リチウムはコバルト酸リチウムに比べて低コスト、高容量であるため、研究開発が盛んに行われている。」
「【0025】
(実施例1)水酸化リチウムとコバルト固溶水酸化ニッケルを、リチウムとニッケルとコバルトの原子比が1.0:0.8:0.2になるように混合し、二酸化炭素ガス0.01容量%以下、水分露点0℃未満の空気雰囲気下で、昇温速度5℃/minで500℃まで昇温し、同温度で7時間焼成した(第一段階の焼成工程)。焼成後の生成物を100℃以下に冷却し、磨砕式粉砕機で粉砕した。
【0026】
雰囲気ガス中の二酸化炭素ガスの除去方法としては、水酸化リチウム、水酸化バリウムおよび水酸化ナトリウムを充填したカラムを通過させることにより行った。また、水分除去は五酸化二リンを充填したカラムを通過させることにより行った。次に、粉砕した生成物を昇温速度5℃/minで800℃まで昇温し、同温度で15時間焼成した(第二段階の焼成工程)。焼成後の生成物を100℃以下に冷却し、二酸化炭素ガス0.01容量%以下、水分露点0℃未満の空気雰囲気下で、磨砕式粉砕機で粉砕した。同雰囲気下で、粉砕後、ふるい振とう機で分級した。この合成で得た化合物を活物質1とする。
【0027】
次に、活物質1を用いて正極板を作成し、・・・(略)・・・円筒型電池を組み立てた。」
「【0032】
第一段階の焼成雰囲気の二酸化炭素量および水分量を表1に示す条件に変えた以外は上記活物質1の方法と同様にして活物質2?6を合成した。
【0033】
第二段階後の粉砕分級工程の雰囲気の二酸化炭素量および水分量を表1に示す条件に変えた以外は上記活物質1の方法と同様にして活物質7?10を合成した。
【0034】
上記活物質1?10について、収率、炭酸痕含有量、水分含有量を測定し、表1に示した。」
「【0037】
【表1】


「【0042】
なお、上記実施例においては、LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)について説明したが、Li_(x)Ni_((1-y))Co_(y)O_(2)(0.95≦x≦1.2、2.0≦y<0.5)で表される化合物についても同様の効果が得られる。」

(6)甲5に記載された発明
ア 上記(5)の【0025】、【0026】には、水酸化リチウムとコバルト固溶水酸化ニッケルを、リチウムとニッケルとコバルトの原子比が1.0:0.8:0.2になるように混合し、二酸化炭素ガス0.01容量%以下、水分露点0℃未満の空気雰囲気下で、昇温速度5℃/minで500℃まで昇温し、同温度で7時間焼成し、焼成後の生成物を100℃以下に冷却し、磨砕式粉砕機で粉砕して得た活物質1が記載されている。
イ 上記(5)の【0037】の【表1】によれば、上記アの「焼成」時の「二酸化炭素ガス0.01容量%以下、水分露点0℃未満の空気雰囲気」は、具体的には、「二酸化炭素ガス0.005容量%、水分露点-5℃の空気雰囲気」であり、また、同【表1】によれば、上記アの「粉砕」時も、「二酸化炭素ガス0.005容量%、水分露点-5℃の空気雰囲気」で行っている。
ウ 上記アの活物質1は、上記(5)の【0027】より、正極板を作成するために用いるものである。
エ 上記(5)の【0042】より、上記アの活物質1は、その組成がLiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)である。
オ 上記(5)の【0001】より、上記アの活物質1は非水電解液二次電池用である。
カ 上記ア?オより、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「水酸化リチウムとコバルト固溶水酸化ニッケルを、リチウムとニッケルとコバルトの原子比が1.0:0.8:0.2になるように混合し、二酸化炭素ガス0.005容量%、水分露点-5℃の空気雰囲気下で、昇温速度5℃/minで500℃まで昇温し、同温度で7時間焼成し、焼成後の生成物を100℃以下に冷却し、二酸化炭素ガス0.005容量%、水分露点-5℃の空気雰囲気下で、磨砕式粉砕機で粉砕して得た活物質1であって、
正極板を作成するために用いるものであり、
組成がLiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)である非水電解液二次電池用活物質1。」
キ また、上記カより、甲5には次の発明(以下、「甲5正極発明」という。)が記載されている。
「甲5発明の活物質1を用いた正極。」
ク さらに、上記カより、甲5には、次の発明(以下、「甲5電池発明」という。)が記載されている。
「甲5正極発明の正極を用いた非水電解液二次電池。」

(7)参考文献2の記載
申立人が、平成31年2月15日付けの意見書に添付した参考文献2には、次の記載がある。
「[0019](リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の材料としては、一般的なリチウムイオン電池用正極用の正極活物質として有用な化合物を広く用いることができるが、特に、コバルト酸リチウム(LiCoO_(2 ))、ニッケル酸リチウム(LiNiO_(2) )、マンガン酸リチウム(LiMn_(2)O_(4 ))等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いるのが好ましい。このような材料を用いて作製される本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:Li(Li_(x )Ni_(1-x-y) M_(y) )O_(2+α)(前記式において、MはSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、α>0である。)
で表される。
[0020]本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、酸素が組成式において上記のようにO_(2+α)(α>0)と示され、過剰に含まれており、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる。ここで、αについて、好ましくはα>0.05であり、より好ましくはα>0.1である。」
「[0029]以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
[0030](実施例1?12)
まず、表1に記載の投入量の炭酸リチウムを純水3.2リットルに懸濁させた後、金属塩溶液を4.8リットル投入した。ここで、金属塩溶液は、各金属の硝酸塩の水和物を、各金属が表1に記載の組成比になるように調整し、また全金属モル数が14モルになるように調整した。
なお、炭酸リチウムの懸濁量は、製品(リチウムイオン二次電池正極材料、すなわち正極活物質)をLi(Li_(x )Ni_(1-x-y) M_(y) )O_(2+α)でxが表1の値となる量であって、それぞれ次式で算出されたものである。
W(g)=73.9×14×(1+0.5{(1+X)/(1-X)}×A)
上記式において、「A」は、析出反応として必要な量の他に、ろ過後の原料に残留する炭酸リチウム以外のリチウム化合物によるリチウムの量をあらかじめ懸濁量から引いておくために掛ける数値である。「A」は、硝酸塩や酢酸塩のように、リチウム塩が焼成原料として反応する場合は0.9であり、硫酸塩や塩化物のように、リチウム塩が焼成原料として反応しない場合は1.0である。
この処理により溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出したが、この析出物を、フィルタープレスを使用して濾別した。
続いて、析出物を乾燥してリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン電池正極材用前駆体)を得た。
次に、焼成容器を準備し、この焼成容器内にリチウム含有炭酸塩を充填した。次に、焼成容器を、大気圧下、酸素雰囲気炉に入れて、表1に記載の焼成温度で10時間加熱保持した後冷却して酸化物を得た。次に、得られた酸化物を解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。
[0031](実施例13)
実施例13として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を塩化物とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例1?12と同様の処理を行った。
[0032](実施例14)
実施例14として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を硫酸塩とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例1?12と同様の処理を行った。
[0033](実施例15)
実施例15として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、焼成を大気圧下ではなく1200KPaの加圧下で行った以外は、実施例1?12と同様の処理を行った。
[0034](比較例1?6)
比較例1?6として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、酸素雰囲気炉ではなく空気雰囲気炉で焼成工程を行うことを除いて、実施例1?12と同様の処理を行った。
[0035](評価)
各正極材中の金属含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)で測定し、各金属の組成比(モル比)を算出した。また、酸素含有量はLECO法で測定しαを算出した。また、X線回折により、結晶構造は層状構造であることを確認した。
各正極材の粉末を採取し、(003)面のピーク強度(Ps003)と、(104)面のピーク強度(Ps104)とを、粉末X線回折装置(CuKα線、電圧40V、電流30A)によって測定し、これらの比(Ps104/Ps003)を算出した。また、(110)面の2θ及び(018)面の2θを同様に粉末X線回折装置によって測定した。さらに、これらの測定結果から(018)面と(110)面との2θの差を算出した。
各正極材と、導電材と、バインダーとを85:8:7の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N-メチルピロリドン)に溶解したものに、正極材料と導電材とを混合してスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。続いて、対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M-LiPF_(6) をEC-DMC(1:1)に溶解したものを用いて、電流密度0.2Cの際の放電容量を測定した。また電流密度0.2Cのときの電池容量に対する電流密度2Cのときの、放電容量の比を算出してレート特性を得た。さらに、容量保持率は、室温で1Cの放電電流で得られた初期放電容量と100サイクル後の放電容量を比較することによって測定した。
これらの結果を表1及び2に示す。
[0036]
[表1]


[0037]
[表2]



(8)参考文献2に記載された事項
ア 上記(7)の[0019]より、参考文献2には、組成式:Li(Li_(x )Ni_(1-x-y) M_(y) )O_(2+α)(前記式において、MはSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、α>0である。) で表されるリチウムイオン電池用正極活物質について、記載されている。
イ 上記(7)の[0020]より、上記アのリチウムイオン電池用正極活物質は、酸素が組成式においてO_(2+α)(α>0)と示され、過剰に含まれており、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となるといえる。
ウ 上記(7)の[0036]の[表1]及び[0037]の[表2]によれば、上記アのリチウムイオン電池用正極活物質は、上記アの組成式のαが、0.01≦α≦0.13(表1参照。)のときに、放電容量が153?190mAh/g、レート特性が85?96%、容量保持率が82?95%(表2参照。)となっており、良好な結果が示されているといえる。
エ 上記ア?ウより、参考文献2には次の事項が記載されていると認められる。
「組成式:Li(Li_(x )Ni_(1-x-y) M_(y) )O_(2+α)(前記式において、MはSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、α>0である。) で表されるリチウムイオン電池用正極活物質において、上記組成式のαが、0.01≦α≦0.13のときに、放電容量、レート特性及び容量保持率が良好となる事項。」

5 当審の判断
(1)甲1を主引例とした特許法第29条第1項3号及び同条第2項について(上記2の(1)のア、上記2の(2)のア、上記2の(3)のア、上記2の(4)のア)
(1)-1 甲1発明、甲1正極発明及び甲1電池発明を主引例とした場合
ア 請求項1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「LiPF_(6)を溶解した非水電解液を用いたコイン電池用正極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。
また、甲1発明の「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」と、本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」とは、「LiNi_(0.8)M_(0.2)O_(β)(ここで、MはCoを含む。)」で共通する。

(イ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「LiNi_(0.8)M_(0.2)O_(β)(ここで、MはCoを含む。)で表されるリチウムイオン電池用正極活物質。」で一致し、次のA、Bの相違点で相違する。

(相違点)
A 「組成式:LiNi_(0.8)M_(0.2)O_(β)(MはCoを含む。)」の「M」、及び、「β」がそれぞれ、本件発明1は、「Mn及びCo」、及び、「2+α」であって「0.01≦α≦0.1」であるのに対し、甲1発明は、「Co」及び「2」である点。
B 本件発明1は、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である」(以下、当該事項を「本件TPD-MS特定事項」という。)のに対し、甲1発明は、「硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように溶液中で混合し、沈殿を形成後スプレードライヤーで乾燥し、概ね球状の粒子を得た後、この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し焼成し、得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存し、その後真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥することにより得られた」ものであるけれども、本件TPD-MS特定事項を備えていることが特定されていない点。

(ウ)以下、上記A及びBの相違点について検討する。
(ウ)-1 上記Aの相違点について
a まず、上記Aの相違点に係る組成式の「β」について、検討する。
b 一般に、正極活物質の金属含有量の比と酸素含有量の比とは、測定方法が異なるために、同時に評価することはできず、酸素含有量については金属含有量とは別々に評価を行うことが知られている。
c また、甲1発明の「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)である正極活物質」は、上記(1)のエより、「硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように水溶液中で混合し、沈殿を形成させ、その後スプレードライヤーで、乾燥し概ね球状の粒子を得た。この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し、焼成し」ており、その金属含有量は、原料である水酸化リチウム、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトのモル比をそのまま採用しており、例えば、小数点2桁程度まで厳密に金属含有量のモル比を測定していない可能性が高い。
d また、上記b及びcからすると、甲1発明の「正極活物質」の組成式「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」の「O_(2)」は、酸素含有量の評価を行っていないために、ニッケル系のリチウム複合酸化物についての酸素の含有割合の一般的な量論比を記載しているにすぎず、実際は、酸素の含有割合の量論比は「2」を含むその前後の数値である可能性が極めて高い。
e そして、このように、甲1発明の正極活物質における酸素の含有割合は「2」を含むその前後の数値であって、本件発明1の正極活物質における酸素の含有割合は、0.01≦α≦0.1であるから、酸素の含有割合について、本件発明1と甲1発明とは、0.01≦α≦0.1において重複する蓋然性が高いから、上記Aの相違点に係る組成式の「β」の値は実質的な相違点ではない。
f 次に、仮に、上記Aの相違点に係る組成式の「β」の値が、実質的な相違点である場合について、検討する。
g 上記4の(8)のエより、参考文献2には、「組成式:Li(Li_(x )Ni_(1-x-y )M_(y) )O_(2+α)(前記式において、MはSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、α>0である。) で表されるリチウムイオン電池用正極活物質において、上記組成式のαが、0.01≦α≦0.13のときに、放電容量、レート特性及び容量保持率が良好となる事項」が記載されている。
h そして、甲1発明と上記gの事項とは、ニッケル系のリチウム複合酸化物の正極活物質に関するものである点で共通するし、「放電容量、レート特性及び容量保持率」を「良好」にすることは、「LiPF_(6)を溶解した非水電解液を用いたコイン電池用正極活物質」、すなわち、リチウムイオン二次電池における正極活物質の周知の課題であって、甲1発明も潜在的に有する課題であるといえる。
i そうすると、甲1発明において、放電容量、レート特性及び容量保持率を良好な値とするために、その「正極活物質」の組成式における、酸素含有割合を「2」に代えて、「2+α」であって「0.01≦α≦0.13」とすることは、当業者が容易になし得たことであり、その場合、「0.01≦α≦0.1」で、本件発明1と甲1発明とは重複するから、上記Aの相違点に係る組成式の「β」について、「2+α」であって「0.01≦α≦0.1」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
j そして、本件明細書【0038】の表1によれば、比較例を除く、各実施例及び参考例において、酸素含有割合の量論比が異なることにより、放電容量や充放電効率に顕著な効果の違いがみられないことから、上記iにおいて「β」を「2+α」であって「0.01≦α≦0.1」とすることにより、顕著な効果を奏するとは認められない。

k 次に、上記Aの相違点に係る組成式の「M」について、検討する。
l 甲1発明の「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」は、甲1の実施例4に記載されたものであるが、甲1には、その一般式として、「Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)」(上記4の(1)のイ参照。以下、「甲1一般式」という。)が記載され、Mの選択肢としてMn及びCoも含まれている。
m しかしながら、甲1には、「正極活物質」として具体的な組成は「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」しか記載されておらず、この組成は、甲1一般式の「M」が1種の元素からなるものであるし、「M」の選択肢として複数種の元素からなるものを含めると相当多くの選択肢があるから、その中から敢えてMn及びCoの2種のみを選択する動機付けがない。
n また、代表的なリチウムイオン電池用正極活物質の一つである「LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)」は、本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」に含まれるものの、Mn及びCoがMに該当するとしたとき、z=2/3となり、0≦z<0.35の条件を満たさず、甲1一般式には含まれないから、甲1発明において、その「正極活物質」を「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」に代えて「LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
o よって、甲1発明において、その「正極活物質」を「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」に代えて、本件発明1のMとしてMn及びCoを選択して、「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

p よって、上記oのとおり、甲1発明において、その「正極活物質」を「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」に代えて、本件発明1のMとしてMn及びCoを選択して、「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、上記Aの相違点は実質的な相違点であるし、上記Aの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。


(ウ)-2 上記Bの相違点について
a 平成30年4月23日付けの特許権者による意見書によれば、「大気中に水分があると、正極活物質の一部が反応してLiOHが生成し、これが大気中の二酸化炭素と反応して炭酸リチウムになるのは既に当業者の技術常識」(第3頁第3行?第4行)であったとのことであるから、正極活物質に付着する水分量が所定の値以下であれば、本件TPD-MS特定事項を実現し得るといえる。
b そして、本件明細書の記載(特に、【0028】)によれば、本件発明は、「解砕時の粉末の露点管理」、「具体的には、粉末の解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕」し、「さらに、解砕後の試料取出しのブースの露点も同様に管理」して、本件TPD-MS特定事項を実現し得るものである。
c 一方、甲1発明は、「硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように溶液中で混合し、沈殿を形成後スプレードライヤーで、乾燥し概ね球状の粒子を得た後、この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し焼成し、得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存し、その後真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥した」「正極活物質」である。
d ここで、本件明細書(特に、【0028】)に記載された本件発明の製造過程と、甲1発明の製造過程とを対比するに、本件発明は、焼成後、粉末の解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕し、さらに、解砕後の試料取出しのブースの露点も同様に管理するものであるのに対し、甲1発明は、焼成後、解砕を行うことなく、得られた粒子を直ぐに、水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存し、その後真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥したものである。
e そうすると、甲1発明は、本件発明と比較して、焼成後に解砕を行わないので、活性な新生面が露出していないため、正極活物質自体が水分が付着しにくいものであるといえる。
f そして、本件発明は、焼成後、粉末の解砕雰囲気の露点、及び、解砕後の試料取出しのブースの露点を-40℃?-60℃に管理することにより、本件TPD-MS特定事項を得ることができるものであるのに対して、甲1発明は、焼成後に解砕を行わず、「水分露点-50℃の窒素ガス中に常温で1週間保存」するばかりでなく、さらに、「真空乾燥機で0.01Torr、200℃の環境下にて24時間真空乾燥する」ものであって、本件発明よりも水分付着量を抑制するための管理がさらに厳しいものとなっているといえるから、甲1発明は、本件発明1と同程度もしくはそれよりも少ない水分の付着量であると考えられ、そのような甲1発明は、本件TPD-MS特定事項を満たすものといえる。
g よって、上記Bの相違点は実質的な相違点とはいえない。
h 次に、仮に、甲1発明が本件発明1と同程度もしくはそれよりも少ない水分の付着量ではなく、上記Bの相違点が実質的なものであった場合について検討する。
i 甲1には、「本発明者らはニッケル系のリチウム複合酸化物の特性を検討したところ、ニッケル系のリチウム複合酸化物はリチウムコバルト複合酸化物に比較して、空気中の水分を吸収しやすい傾向があることを見いだした。水分を多く吸収した状態の活物質を電池に用いると、それによって電池の充放電容量が低下したり、内部抵抗が増大し、さらには保存性の劣化が引き起こされるという問題が生じる。そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、電池に高容量を付与できると共に電池の内部抵抗を低く抑えることができる非水電解質電池用電極の製造方法を提供することにある」(上記4の(1)のイ参照。)と記載されているとおり、甲1発明は、活物質が空気中の水分を吸収することによる、電池の充放電容量の低下、内部抵抗の増大、保存性の劣化という問題を解決することを課題とするものである。
j したがって、上記課題を解決するという観点から、活物質中の水分が少ない方が好ましいことは明らかであるから、甲1発明において、活物質による空気中の水分の吸収を少なくして、電池の充放電容量の低下、内部抵抗の増大、保存性の劣化という問題をさらに良好なものとするために、活物質に水分がさらに付着しにくい環境とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
k そして、上記jで活物質に水分がさらに付着しにくい環境とする際に、本件発明1の本件TPD-MS特定事項を満たす程度に、「活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間」「活物質」を「保存する」「ガス」の「水分露点」を低く設定することは、当業者が容易になし得たことである。
l よって、上記Bは実質的な相違点とはいえないし、仮に、実質的な相違点であったとしても、上記Bの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)-3 以上のとおり、上記Aの相違点については、上記(ウ)-1のとおり、実質的な相違点であるし、上記Aの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 請求項2、3について
本件発明2、3は請求項1を引用するものであるから、本件発明2、3と甲1発明とは、少なくとも、上記A及びBの相違点で相違するものであり、上記Aの相違点については、上記アの(ウ)の(ウ)-1で検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明2、3も同様に、甲1発明ではないし、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 請求項6について
本件発明6と甲1正極発明とを対比するに、上記アの(イ)で述べた上記A及びBの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Aの相違点については、上記アの(ウ)の(ウ)-1で検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明6も同様に、甲1正極発明ではないし、当業者が甲1正極発明に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 請求項7について
本件発明7と甲1電池発明とを対比するに、上記アの(イ)で述べた上記A及びBの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Aの相違点については、上記アの(ウ)の(ウ)-1で検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明7も同様に、甲1電池発明ではないし、当業者が甲1電池発明に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(1)-2 甲1発明2、甲1正極発明2及び甲1電池発明2を主引例とした場合
ア 請求項1について
本件発明1と甲1発明2とを対比する。
(ア)甲1発明2の「Li_(x)Ni_(y)M_(z)O_(2)(ここで、xは0.8<x<1.5、y+zは0.8<y+z<1.2、zは0≦z<0.35である。Mは、Co、Mg、Ca、Sr、Al、Mn及びFeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)なる組成の非水電解質電池用正極活物質」と、本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)で表されるリチウムイオン電池用正極活物質」とは、「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y<0.35である。)で表される電池用正極活物質」で重複する。
(イ)したがって、本件発明1と甲1発明2とは、
「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y<0.35であり、MはMn及びCoである。)で表される電池用正極活物質。」で一致し、次のC?Fの相違点で相違する。

(相違点)
C 「電池用正極活物質」が、本件発明1は、「リチウムイオン電池用」であるのに対し、甲1発明2は、「非水電解質電池用」である点。
D 本件発明1は、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である」の対し、甲1発明2は、「活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-30℃以下のガス中に保存し、かつ前記活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥する」ものであって、本件TPD-MS特定事項を備えていることが特定されていない点。
E 「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y<0.35である。)」の「M」、及び、「β」がそれぞれ、本件発明1は、「Mn及びCo」、及び、「2+α」であって「0.01≦α≦0.1」であるのに対し、甲1発明2は、「Co」及び「2」である点。

(ウ)以下、上記C?Eの相違点について検討する。
(ウ)-1 上記Cの相違点について
甲1の背景技術欄(上記(1)のア参照。)には、「非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液を用いる、非水電解液電池が提案されている。この非水電解液電池としては、リチウムやリチウム合金もしくはリチウムイオンをドープ、脱ドープすることが可能な炭素材料を負極材料として用い、リチウムコバルト複合酸化物を正極材料として用いたものがすでに実用化されている」と、非水電解液電池が、具体的には、リチウムイオン電池であると記載されているから、甲1発明2は、リチウムイオン電池を前提としたものであるといえる。
そうすると、甲1発明2は、リチウムイオン電池用の正極活物質を含むものであるから、上記Cの相違点は実質的な相違点ではない。

(ウ)-2 上記Dの相違点について
a 本件発明1が、本件TPD-MS特定事項を実現し得る条件は、上記(1)-1のアの(ウ)の(ウ)-2のaで述べたとおり、正極活物質に付着する水分量を所定の値以下とすることである。
b 一方、甲1発明2は、「活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-30℃以下のガス中に保存し、かつ前記活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥する」ものである。
c ここで、本件明細書(特に、上記3の【0028】参照。)に記載された本件発明の製造過程と、甲1発明2の製造過程とを対比するに、本件発明は、焼成後、粉末の解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕し、さらに、解砕後の試料取出しのブースの露点も同様に管理するものであるのに対し、甲1発明2は、活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間、水分露点-30℃以下のガス中に保存し、かつ当該活物質を活物質合剤塗料調製の直前に真空乾燥するものである。
d そうすると、甲1発明2の活物質は、焼成後に解砕を行わないものであって、活物質の製造直後から活物質合剤塗料調製までの間の保存時の水分露点が、本件発明1の粉末の解砕雰囲気の水分露点「-40?-60℃」よりも範囲が広い「-30℃以下」であるために、本件発明1の活物質と比較して、付着する水分が相違することはあっても、水分付着量が少ないという点において、大きく異なるとまではいえない。
e そして、甲1に、「本発明者らはニッケル系のリチウム複合酸化物の特性を検討したところ、ニッケル系のリチウム複合酸化物はリチウムコバルト複合酸化物に比較して、空気中の水分を吸収しやすい傾向があることを見いだした。水分を多く吸収した状態の活物質を電池に用いると、それによって電池の充放電容量が低下したり、内部抵抗が増大し、さらには保存性の劣化が引き起こされるという問題が生じる。そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、電池に高容量を付与できると共に電池の内部抵抗を低く抑えることができる非水電解質電池用電極の製造方法を提供することにある」(上記4の(1)のイ参照。)と記載されているとおり、甲1発明2は、活物質が空気中の水分を吸収することによる、電池の充放電容量の低下、内部抵抗の増大、保存性の劣化という問題を解決することを課題とするものである。
f したがって、上記課題を解決するという観点から、活物質中の水分が少ない方が好ましいことは明らかであるから、甲1発明2において、活物質による空気中の水分の吸収を少なくして、電池の充放電容量の低下、内部抵抗の増大、保存性の劣化という問題をさらに良好なものとするために、活物質に水分がさらに付着しにくい環境とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
g そして、上記dで検討したように、甲1発明2の活物質は本件発明1の活物質と比較して、水分付着量において大きな差異があるとは認められないから、上記fで活物質に水分がさらに付着しにくい環境とする際に、本件発明1の本件TPD-MS特定事項を満たす程度に、「活物質をその製造直後から活物質合剤塗料調製までの間」「活物質」を「保存する」「ガス」の「水分露点」を低く設定することは、当業者が容易になし得たことである。
h よって、上記Dの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、甲1発明2から当業者が容易になし得たことである。

(ウ)-3 上記Eの相違点について
a まず、上記Eの相違点に係る組成式の「β」について、検討する。
b 一般に、正極活物質の金属含有量の比と酸素含有量の比とは、測定方法が異なるために、同時に評価することはできず、酸素含有量については金属含有量とは別々に評価を行うことが知られている。
c また、甲1発明2の「正極活物質」は、上記4の(1)のエより、「硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Ni/Co(モル比)=0.8/0.2となるように水溶液中で混合し、沈殿を形成させ、その後スプレードライヤーで、乾燥し概ね球状の粒子を得た。この粒子と水酸化リチウムをLi/Ni/Co(モル比)=1/0.8/0.2で混合し、焼成し」ており、その金属含有量は、原料である水酸化リチウム、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトのモル比をそのまま採用しており、例えば、小数点2桁程度まで厳密に金属含有量のモル比を測定していない可能性が高い。
d また、上記b及びcからすると、甲1発明2の甲1一般式における「O_(2)」は、酸素含有量の評価を行っていないために、ニッケル系のリチウム複合酸化物についての酸素の含有割合の一般的な量論比を記載しているにすぎず、実際は、酸素の含有割合の量論比は「2」を含むその前後の数値である可能性が極めて高い。
e そして、このように、甲1発明2の正極活物質における酸素の含有割合は「2」を含むその前後の数値であって、本件発明1の正極活物質における酸素の含有割合は、0.01≦α≦0.1であるから、酸素の含有割合について、本件発明1と甲1発明2とは、0.01≦α≦0.1において重複する蓋然性が高いから、上記Eの相違点に係る組成式の「β」の値は実質的な相違点ではない。
f 次に、仮に、上記Eの相違点に係る組成式の「β」の値が、実質的な相違点である場合について、検討する。
g 上記4の(8)のエより、参考文献2には、「組成式:Li(Li_(x )Ni_(1-x-y )M_(y) )O_(2+α)(前記式において、MはSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であり、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、α>0である。) で表されるリチウムイオン電池用正極活物質において、上記組成式のαが、0.01≦α≦0.13のときに、放電容量、レート特性及び容量保持率が良好となる事項」が記載されている。
h そして、甲1発明2と上記gの事項とは、ニッケル系のリチウム複合酸化物の正極活物質に関するものである点で共通するし、「放電容量、レート特性及び容量保持率」を「良好」にすることは、「LiPF_(6)を溶解した非水電解液を用いたコイン電池用正極活物質」、すなわち、リチウムイオン二次電池における正極活物質の周知の課題であって、甲1発明2も潜在的に有する課題であるといえる。
i そうすると、甲1発明2において、放電容量、レート特性及び容量保持率を良好な値とするために、その「正極活物質」の組成式における、酸素含有割合を「2」に代えて、「2+α」であって「0.01≦α≦0.13」とすることは、当業者が容易になし得たことであり、その場合、「0.01≦α≦0.1」で、本件発明1と甲1発明2とは重複するから、上記Eの相違点に係る組成式の「β」について、「2+α」であって「0.01≦α≦0.1」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
j そして、本件明細書【0038】の表1によれば、比較例を除く、各実施例及び参考例において、酸素含有割合の量論比が異なることにより、放電容量や充放電効率に顕著な効果の違いがみられないことから、上記iにおいて「β」を「2+α」であって「0.01≦α≦0.1」とすることにより、顕著な効果を奏するとは認められない。

k 次に、上記Eの相違点に係る組成式の「M」について、検討する。
l 甲1発明2の甲1一般式には、Mの選択肢としてMn及びCoも含まれている。
m しかしながら、甲1には、「正極活物質」として具体的な組成は「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」しか記載されておらず、この組成は、甲1一般式の「M」が1種の元素からなるものであるし、「M」の選択肢として複数種の元素からなるものを含めると相当多くの選択肢があるから、その中から敢えてMn及びCoの2種のみを選択する動機付けがない。
n また、代表的なリチウムイオン電池用正極活物質の一つである「LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)」は、本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」に含まれるものの、Mn及びCoがMに該当するとしたとき、z=2/3となり、0≦z<0.35の条件を満たさず、甲1一般式には含まれないから、甲1発明2において、その「正極活物質」を、甲1一般式に代えて「LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
o よって、甲1発明2において、その「正極活物質」を甲1一般式に代えて、本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

p よって、上記oのとおり、甲1発明2において、その「正極活物質」を甲1一般式に代えて、本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(β)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、上記Eは実質的な相違点であるし、上記Eの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことともいえない。

イ 請求項2、3について
本件発明2、3は請求項1を引用するものであるから、本件発明2、3と甲1発明2とは、少なくとも、上記C?Eの相違点で相違するものであり、上記Eの相違点については、上記アの(ウ)の(ウ)-3で検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明2、3も同様に、甲1発明2ではないし、当業者が甲1発明2に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 請求項6について
本件発明6と甲1正極発明2とを対比するに、上記アの(イ)で述べた上記C?Eの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Eの相違点については、上記アの(ウ)の(ウ)-3で検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明6も同様に、甲1正極発明2ではないし、当業者が甲1正極発明2に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 請求項7について
本件発明7と甲1電池発明2とを対比するに、上記アの(イ)で述べた上記C?Eの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Aの相違点については、上記アの(ウ)の(ウ)-3で検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明7も同様に、甲1電池発明2ではないし、当業者が甲1電池発明2に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)甲4を主引例とした特許法第29条第1項3号及び同条第2項について(上記2の(1)のア、上記2の(5)のイ)
ア 請求項1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)本件発明1と甲4発明とは、
「リチウム二次電池用正極活物質。」で一致し、次のF、Gの点で相違する。

(相違点)
F 「リチウム二次電池用正極活物質」が、本件発明1は、「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)で表される」のに対し、甲4発明は、「富士化学社製リチウムニッケル複合酸化物(グレード名;LINILITE CA5)を粉砕し」た「リチウムニッケル複合酸化物と、リチウムマンガン複合酸化物とを混ぜた」ものであって、その組成が不明である点。
G 本件発明1は、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である」のに対し、甲4発明は、「粉砕し、その粉砕には露点-55℃、圧力7.5Kgの圧縮空気を使用したリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムマンガン複合酸化物とを混ぜた」ものであって、本件TPD-MS特定事項が特定されていない点。

(イ)まず、上記Fの相違点について検討する。
(ウ)甲4発明の「富士化学社製リチウムニッケル複合酸化物(グレード名;LINILITE CA5)」の組成は不明ではあるが、上記4の(3)の【0060】に記載された「リチウムニッケル複合酸化物」は、甲4に記載された発明の実施例であることから、上記4の(3)の【0022】に記載された、リチウム、ニッケル及び酸素以外に、B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Mn等の金属元素を含有するリチウムニッケル複合酸化物に包含されるものであると解される。
また、同様に、甲4発明の「リチウムマンガン複合酸化物」の組成も不明であるが、上記4の(3)の【0063】に記載された「リチウムマンガン複合酸化物」は、甲4に記載された発明の実施例であることから、上記4の(3)の【0038】に記載された、リチウム、マンガン及び酸素以外に、B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Ni等の金属元素を含有するリチウムマンガン複合酸化物に包含されるものであると解される。
(エ)そして、上記4の(3)のリチウムニッケル複合酸化物は、本件発明の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」と同様に、Mn及びCoを含むものではあるが、上記4の(3)の【0022】には、「金属元素」が、「好ましくはAl及び/又はCoであり、特に好ましくはその両者を含有する」と記載されていることから、「B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Mn等の金属元素」から、Mn及びCoの2種を敢えて選択することには動機がなく、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、上記4の(3)のリチウムマンガン複合酸化物は、本件発明の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」と同様に、Ni、Mn及びCoを含むものではあるが、上記4の(3)の【0038】には、「金属元素」が、「好ましくはAl及び/又はCoであり、特に好ましくはその両者を含有する」と記載されていることから、「B、Al、Fe、Sn、Cr、Cu、Ti、Zn、Co、Mn等の金属元素」から、Ni及びCoの2種を敢えて選択することには動機がなく、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(オ)したがって、上記Fの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(カ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明ではないし、甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 請求項2、3について
本件発明2、3は請求項1を引用するものであるから、本件発明2、3と甲4発明とは、少なくとも、上記F、Gの相違点で相違するものであり、上記Fの相違点については、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明2、3も同様に、甲4発明ではないし、当業者が甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 請求項6について
本件発明6と甲4正極発明とを対比するに、上記F、Gの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Fの相違点については、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明6も同様に、甲4正極発明ではないし、当業者が甲4正極発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 請求項7について
本件発明7と甲4電池発明とを対比するに、上記F、Gの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Fの相違点については、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明7も同様に、甲4電池発明ではないし、当業者が甲4電池発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲5を主引例とした特許法第29条第1項3号及び同条第2項について(上記2の(5)のア、上記2の(5)のイ)
ア 請求項1について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の「正極板を作成するために用いるものであ」る「非水電解液二次電池用活物質1」と、本件発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」とは、「二次電池用正極活物質」で一致する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲5発明とは、
「二次電池用正極活物質。」で一致し、次のH?Jの点で相違する。

(相違点)
H 「二次電池用正極活物質」の組成が、本件発明1は、「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)で表される」のに対し、甲5発明は、「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」である点。
I 本件発明1は、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である」のに対し、甲5発明は、「二酸化炭素ガス0.005容量%、水分露点-5℃の空気雰囲気下で、昇温速度5℃/minで500℃まで昇温し、同温度で7時間焼成し、焼成後の生成物を100℃以下に冷却し、二酸化炭素ガス0.005容量%、水分露点-5℃の空気雰囲気下で、磨砕式粉砕機で粉砕して得た」ものであって、本件TPD-MS特定事項が特定されていない点。
J 「二次電池用正極活物質」が、本件発明1は、「リチウムイオン電池用」であるのに対し、甲5発明は、「非水電解液二次電池用」である点。

(ウ)まず、上記Hの相違点について検討する。
(エ)甲5発明の「非水電解液二次電池用活物質1」の組成について、上記4の(5)の【0042】には、「上記実施例においては、LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)について説明したが、Li_(x)Ni_((1-y))Co_(y)O_(2)(0.95≦x≦1.2、2.0≦y<0.5)で表される化合物についても同様の効果が得られる」と記載されており、甲5発明の「非水電解液二次電池用活物質1」の組成である「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」の上位概念として、「Li_(x)Ni_((1-y))Co_(y)O_(2)(0.95≦x≦1.2、2.0≦y<0.5)」が示されているが、この組成には、本件発明1の「正極活物質」に含まれている「Mn」が含まれていない。
(オ)そうすると、甲5発明の「非水電解液二次電池用活物質1」に「Mn」を含ませる動機付けが見当たらない。
(カ)したがって、上記Hの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(キ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明ではないし、甲5発明から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 請求項2、3について
本件発明2、3は請求項1を引用するものであるから、本件発明2、3と甲5発明とは、少なくとも、上記H?Jの相違点で相違するものであり、上記Hの相違点については、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明2、3も同様に、甲5発明ではないし、当業者が甲5発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 請求項6について
本件発明6と甲5正極発明とを対比するに、上記H?Jの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Hの相違点については、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明6も同様に、甲5正極発明ではないし、当業者が甲5正極発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 請求項7について
本件発明7と甲5電池発明とを対比するに、上記H?Jの相違点で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記Hの相違点については、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるし、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明7も同様に、甲5電池発明ではないし、当業者が甲5電池発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)特許法第36条第4項第1号について(上記2の(1)のイ)
ア 請求項1に係る発明は、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、」「150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である」発明特定事項を有するものである。
イ しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、「リチウムイオン電池用正極活物質」において、「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、」「150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値」(以下、「CO_(2)ガス極大値」という。)を「3wtppm/秒以下」とする手段が明確に記載されていない。
ウ 以下、この点について詳述する。
エ 本件明細書には、上記CO_(2)ガス極大値に関する記載として、「正極活物質に含まれる水分が正極活物質のリチウムを引き抜き、水酸化リチウム及び炭酸リチウムの残留アルカリを多くしてしまう」(【0005】)、「本発明では粉末中のNi濃度が高く、解砕時に粉末粒子の新生面が炉出(当審注:「露出」の誤記)すると、すぐに水分が吸着する。そこで、解砕時の粉末の露点管理が重要である。具体的には、粉末の解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕するが、解砕雰囲気の露点は、露点を管理した乾燥空気を5?15m^(3)/分の風量で吹き込むことにより行うことがきる。さらに、解砕後の試料取出しのブースの露点も同様に管理することも有効である」(【0028】)と記載されており、また、実施例及び比較例の記載(【0029】?【0039】)において、酸化物の解砕時の露点を-40?-60℃に管理した実施例は、上記発明特定事項の極大値が3wtppm/秒以下であるのに対し、酸化物の解砕時の露天管理を行わない比較例は、「CO_(2)ガス極大値が」3wtppm/秒を上回っている。
オ これらの記載からすると、酸化物の解砕時の露点を-40?-60℃とすることにより、本件特許発明の「CO_(2)ガス極大値」を「3wtppm/秒以下」とし得ると推察できる。
カ 一方、特許権者は平成30年4月23日付けの意見書において、「特表2011-511402」に、「リチウム二次電池の正極材料、特に、ニッケル系の正極材料は、水分や二酸化炭素を即座に取り込む傾向にあるため、環境に極めて敏感である。水分によってリチウムイオンが溶出し、水酸化リチウム(LiOH)を形成する」(【0009】)と記載されているように、「大気中に水分があると、正極活物質の一部が反応してLiOHが生成し、これが大気中の二酸化炭素と反応して炭酸リチウムになるのは既に当業者の技術常識でした。」「従って、大気中のH_(2)O管理によりCO_(2)量の制御も間接的に可能であり、こういったメカニズムは本件特許明細書の発明の詳細な説明及び技術常識から明らかであります」と述べている。
キ そうすると、上記オより、上記エの本件明細書の記載から、酸化物の解砕時の露点を-40?-60℃とすることにより、本件特許発明の「CO_(2)ガス極大値」を「3wtppm/秒以下」とし得ると推察できるから、上記カの技術常識を踏まえると、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明の「CO_(2)ガス極大値」を「3wtppm/秒以下」とすることができるといえる。
ク よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1及びその引用請求項である請求項2、3、6、7に係る発明について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。

(5)特許法第36条第6項第1号について(上記2の(5)のウ)
ア 本件発明1は、上記第3の1に示したとおりのものである。
イ ここで、「TPD-MS」による測定は、昇温速度により測定値が異なることが技術常識であるところ、本件発明1には、昇温速度が特定されていない。
ウ しかしながら、本件明細書には、TPD-MSの昇温速度について、「 各正極材の粉末を約50mg量り採り、TPD-MS装置(加熱装置:TRC製、MS装置島津製作所製)、室温から1000℃まで、昇温速度10℃/分で加熱した。標準物質としてタングステン酸ナトリウム二水和物、二酸化炭素、空気を用いた。これにより、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値をそれぞれ求めた」(【0036】)、すなわち、昇温速度10℃/分で加熱して、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値をそれぞれ求めたと記載されており、これ以外の昇温速度について、本件明細書には何ら記載されていない。
そうすると、本件発明1において、「200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値」、及び、「150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値」を測定する「TPD-MS」の昇温速度は、10℃/分以外考えられない。
したがって、本件発明1の「TPD-MS」測定の昇温速度は、あらゆる昇温速度を含むものではなく、発明の詳細な説明に記載された10℃/分を意味することは明らかであるから、本件発明1及び本件発明2、3、6、7は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(6)特許法第17条の2第3項について(上記2の(5)のエ)
ア 本件の平成28年8月23日付けの手続補正(以下、「当該補正」という。)は、請求項1?3について、当該補正前の「TPD-MSによって前記正極活物質を5?30mg測定したとき」を「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき」とする補正を含むものである。
イ ここで、本件の願書に最初に添付された明細書には、次の記載がある。
「【0036】
-TPD-MS測定による評価-
各正極材の粉末を約50mg量り採り、TPD-MS装置(加熱装置:TRC製、MS装置島津製作所製)、室温から1000℃まで、昇温速度10℃/分で加熱した。標準物質としてタングステン酸ナトリウム二水和物、二酸化炭素、空気を用いた。これにより、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値をそれぞれ求めた。」
「【0039】
実施例1?15は、いずれも本発明に規定の組成が得られ、TPD-MS測定において、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であり、放電容量、充放電効率がいずれも良好であった。
比較例1?3は、TPD-MS測定において、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒超であり、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒超であり、放電容量及び/又は充放電効率が不良であった。
図1に、実施例7に係るTPD-MS測定で得られた、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)の発生速度曲線を示す。図1では、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピーク、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピーク及び当該ピークにおける極大箇所が観察されている。本発明では、これらのH_(2)O及びCO_(2)発生速度曲線の極大値が制御されている。」
ウ 上記イの記載によれば、「正極活物質を」「TPD-MS」測定する際に「50mg」測定した上で、当該補正後の請求項1の「200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である」か否かを確認している。
エ また、上記イの「各正極材の粉末を約50mg量り採り」との記載の「約50mg」が明らかな誤記であるとする理由もない。
オ そうすると、当該補正後の「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき」は、願書に最初に添付された明細書の記載の範囲内のものといえる。

6 申立人の主張について
(1)平成31年2月15日付けの意見書による主張について
ア 申立人は、本件明細書には、本件発明は、その組成が酸素過剰となっており、実施可能要件違反である旨述べている(第4頁第2?7行)。
イ しかしながら、本件発明の酸素過剰の活物質は、焼成時の雰囲気の酸素量を制御することにより、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、得ることができると考えられるから、本件発明は、実施可能要件違反であるとはいえない。
ウ よって、申立人の主張には理由がない。

エ また、申立人は、本件明細書の【0038】の【表1】において、Snを含む実施例1が本件発明1と矛盾するものであって、本件発明1がどのような発明であるか当業者には理解できないから、実施可能要件違反である旨述べている(第7頁第3?18行)。
オ しかしながら、本件の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明1は、Snは含まれないものであって、実施例1が本件発明1に含まれないことは明らかであるから、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができる。
カ よって、申立人の主張には理由がない。

キ さらに、申立人は、願書に最初に添付された明細書の記載事項からは、当該手続補正前の「TPD-MSによって前記正極活物質を5?30mg測定したとき」なる記載と、当該手続補正後の「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき」なる記載との、いずれの記載が正しいのか不明であるから、当該手続補正は、新たな技術的事項を導入するものである旨述べている(第8頁第18行?第9頁第4行)。
ク しかしながら、当該手続補正前の「TPD-MSによって前記正極活物質を5?30mg測定したとき」との記載と、当該手続補正後の「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき」との記載との、いずれの記載が正しいかに関わらず、上記5の(6)で検討したように、当該手続補正後の「TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき」との事項は、願書に最初に添付された明細書に記載されているから、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
ケ よって、申立人の主張には理由がない。

(2)平成30年9月13日付けの意見書による主張について
ア 本件発明1の「組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)」の「MはMn及びCoである」事項は、甲1一般式(上記5の(1)の(1)-1のアの(ウ)の(ウ)-1のl(エル)参照。)に含まれるものであるから、当業者が容易になし得たことである旨主張している(第1頁下から7行目?第2頁第14行)。
イ しかしながら、上記5の(1)の(1)-1のアの(ウ)の(ウ)-1でも検討したように、甲1には、「正極活物質」として具体的な組成は「LiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)」しか記載されておらず、この組成は、甲1一般式の「M」が1種の元素からなるものであるし、「M」の選択肢として複数種の元素からなるものを含めると相当多くの選択肢があるから、その中から敢えてMn及びCoの2種のみを選択する動機付けがない。
ウ よって、申立人の主張には理由がない。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?3、6、7に係る特許は、平成30年2月28日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、平成30年6月21日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、平成30年10月31日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、平成31年4月9日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1?3、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項4、5は、平成31年1月4日になされた訂正請求により削除されたから、本件特許の請求項4、5に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極活物質には、一般にリチウム含有遷移金属酸化物が用いられている。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))、ニッケル酸リチウム(LiNiO_(2))、マンガン酸リチウム(LiMn_(2)O_(4))等であり、特性改善(高容量化、サイクル特性、保存特性、内部抵抗低減、レート特性)や安全性を高めるためにこれらを複合化することが進められている。車載用やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウムイオン電池には、これまでの携帯電話用やパソコン用とは異なった特性が求められている。
【0003】
電池特性の改善には、従来、種々の方法が用いられており、例えば特許文献1には、黒鉛質物質と有機物との混合物を、不活性ガス中に酸化性ガス(酸素、オゾン、F_(2)、SO_(3)、NO_(2)、N_(2)O_(4)、空気、水蒸気等)を50ppm以上8000ppm以下含む混合ガス雰囲気で焼成後粉砕して得た複合炭素質物を、負極として用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池が開示されている。そして、これによれば、従来材料に見られる高い電流密度での充放電容量の低下を改善し、急速充放電でも高容量を維持する炭素材料を負極に用いたリチウム二次電池を提供することができる、と記載されている。特許文献1に記載のリチウムニッケル複合酸化物は、正極活物質前駆体の焼成工程での、焼成雰囲気における酸化性ガスの濃度を制御することで、当該正極活物質を用いたリチウムイオン電池の特性を改善させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開平11-273676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、正極活物質前駆体の焼成時の酸化を促進するためにリチウムの仕込み量を多くするが、過剰に入れている分、余ったリチウムが残留アルカリとなりやすい。また、正極活物質に含まれる水分が正極活物質のリチウムを引き抜き、水酸化リチウム及び炭酸リチウムの残留アルカリを多くしてしまう。正極活物質の表面の残留アルカリや、正極に含まれる水分や水が取り込まれ反応した水酸基などは、電池を作製する際に電解液と反応してしまうため、電池に必要な電解液の量が欠乏状態となり電池特性の劣化につながる。
このように、正極活物質中の水分や、残留アルカリは、電池特性に悪影響があり、従来、種々の手段で除去している。しかしながら、なお高品質のリチウムイオン電池用正極活物質としては改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、TPD-MS測定で得られる、所定温度領域でのH_(2)O由来のピーク及び/又はCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値と電池特性との間に密接な相関関係があることを見出した。すなわち、TPD-MS測定で得られる、所定温度領域でのH_(2)O由来のピーク及び/又はCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値をある値以下に制御するとき、良好な電池特性が得られることを見出した。
【0010】
本発明は更に別の一側面において、組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、-0.1≦α≦0.1であり、Mは金属である。)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質であり、
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であるリチウムイオン電池用正極活物質である。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は一実施形態において、TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は別の一実施形態において、TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が2wtppm/秒以下である。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の一実施形態において、前記Mが、Ti,V,Cr,Mn,Co,Fe,Mg,Cu,Zn,Al,Sn及びZrから選択される1種以上である。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の一実施形態において、前記Mが、Mn及びCoから選択される1種以上である。
【0015】
本発明は更に別の一側面において、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極である。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、本発明のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】参考例7に係るTPD-MS測定で得られた、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)の発生速度曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の材料としては、一般的なリチウムイオン電池用正極用の正極活物質として有用な化合物を広く用いることができるが、特に、コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))、ニッケル酸リチウム(LiNiO_(2))、マンガン酸リチウム(LiMn_(2)O_(4))等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いるのが好ましい。このような材料を用いて作製される本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、-0.1≦α≦0.1であり、Mは金属である。)
で表される。
リチウムイオン電池用正極活物質における全金属に対するリチウムの比率が0.9?1.2であるが、これは、0.9未満では、安定した結晶構造を保持し難く、1.2超では電池の高容量が確保できなくなるためである。
【0020】
リチウムイオン電池用正極活物質は、上記Mが、Ti,V,Cr,Mn,Co,Fe,Mg,Cu,Zn,Al,Sn及びZrから選択される1種以上であるのが好ましく、更に、Mn及びCoから選択される1種以上であるのがより好ましい。上記Mがこのような金属であれば、Mnなどの金属と置換することが容易であり、また、金属として熱的安定性を有するという利点を有する。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下である。
また、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である。
さらに、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である。
TPD-MS(加熱発生ガス分析:Temperature Programmed Desorption-Mass Spectrometry)は、温度コントローラ付き特殊加熱装置に質量分析計(MS)が直結されて構成されている。TPD-MSでは、決められた昇温プログラムに従い加熱された試料から発生する気体の濃度変化を温度または時間の関数として追跡する。オンラインでの分析であるため、一度の測定で水分などの無機成分や有機成分を同時検出することが可能である。また、捕集されたトラップ物をGC/MS分析することにより有機成分の定性が可能である。
水分量に関しては、従来、カールフィシャー水分計を用いて測定する手法が一般的である。また、残留アルカリ量は、正極活物質を水の中に入れて抽出させて測定することが多い。しかしながら、どちらの測定法とも欠点がある。カールフィシャー水分計は試料を昇温させて測定するが、装置特性上300℃までしか測定ができない。しかしながら、実際の水分は、その温度領域では取り除けない場合が多い。特に正極活物質の粒子内部に取り込まれた水分や反応しているもの等が除去し難く、残存していることが多い。また、抽出法は、水による抽出により、粒子表面の残留アルカリであるリチウムだけではなく、層状内のリチウムも解け出ている可能性がある。そのため、電池特性の改善のためには、電池作製において正極活物質に含まれる正確な水分量及び残留アルカリ量の測定及び制御が重要となる。従来は、上記のように本来であれば測定すべき水分や残留アルカリが測定しきれておらず、そのため、そのようなものまで抑制した正極活物質を得ることができない。
これに対し、TPD-MSによれば、300℃を超えて400℃までの重要な温度下での水分及びガス発生量を測定し、この測定値を活用して当該温度下で発生する水分及び残留アルカリ量(すなわち、CO_(2)ガス発生量)を制御することができる。
【0022】
TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下である、または、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であると、それを用いたリチウムイオン電池の電池特性が良好となる。
さらに、TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であると、それを用いたリチウムイオン電池の電池特性がより良好となる。
【0023】
TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であるのが好ましく、1wtppm/秒以下であるのがより好ましい。
【0024】
TPD-MSによって正極活物質を50mg測定したとき、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が2wtppm/秒以下であるのが好ましく、1wtppm/秒以下であるのがより好ましい。
【0025】
(リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極は、例えば、上述の構成のリチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤をアルミニウム箔等からなる集電体の片面または両面に設けた構造を有している。また、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、このような構成のリチウムイオン電池用正極を備えている。
【0026】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
まず、金属塩溶液を作製する。当該金属は、Ni、及び、Ti,V,Cr,Mn,Co,Fe,Mg,Cu,Zn,Al,Sn及びZrから選択される1種以上である。また、金属塩は硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等であり、特に硝酸塩が好ましい。これは、焼成原料中に不純物として混入してもそのまま焼成できるため洗浄工程が省けることと、硝酸塩が酸化剤として機能し、焼成原料中の金属の酸化を促進する働きがあるためである。金属塩に含まれる各金属を所望のモル比率となるように調整しておく。これにより、正極活物質中の各金属のモル比率が決定する。
【0027】
次に、炭酸リチウムを純水に懸濁させ、その後、上記金属の金属塩溶液を投入して金属炭酸塩溶液スラリーを作製する。このとき、スラリー中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出する。なお、金属塩として硫酸塩や塩化物等熱処理時にそのリチウム化合物が反応しない場合は飽和炭酸リチウム溶液で洗浄した後、濾別する。硝酸塩や酢酸塩のように、そのリチウム化合物が熱処理中にリチウム原料として反応する場合は洗浄せず、そのまま濾別し、乾燥することにより焼成前駆体として用いることができる。
次に、濾別したリチウム含有炭酸塩を乾燥することにより、リチウム塩の複合体(リチウムイオン電池正極材用前駆体)の粉末を得る。
【0028】
次に、所定の大きさの容量を有する焼成容器を準備し、この焼成容器にリチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末を充填する。次に、リチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末が充填された焼成容器を、焼成炉へ移設し、焼成を行う。焼成は、酸素雰囲気下で所定時間加熱保持することにより行う。また、101?202KPaでの加圧下で焼成を行うと、さらに組成中の酸素量が増加するため、好ましい。
その後、焼成容器から粉末を取り出し、市販の解砕装置等を用いて解砕を行うことにより正極活物質の粉体を得る。このときの解砕は、微粉がなるべく生じないように、具体的には粒径4μm以下の微粉が体積分率で10%以下となるように、または、粉体の比表面積が0.40?0.70m^(2)/gとなるように、適宜解砕強度及び解砕時間を調整して行うのが好ましい。
このように解砕時の微粉の発生を制御することにより、体積当たりの粉末の表面積が減少するため、粉末の空気に露出する面積を抑制することができる。従って、前駆体の粉末の保管時等における吸湿を良好に抑制することができる。
また、本発明では粉末中のNi濃度が高く、解砕時に粉末粒子の新生面が炉出すると、すぐに水分が吸着する。そこで、解砕時の粉末の露点管理が重要である。具体的には、粉末の解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕するが、解砕雰囲気の露点は、露点を管理した乾燥空気を5?15m^(3)/分の風量で吹き込むことにより行うことがきる。さらに、解砕後の試料取出しのブースの露点も同様に管理することも有効である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0030】
(実施例1?6、参考例7?12)
まず、金属塩に含まれる各金属が表1のモル比率となるように調整した硝酸塩を準備した。次に、炭酸リチウムを純水に懸濁させた後、この金属塩溶液を投入した。
この処理により溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出したが、この析出物を、フィルタープレスを使用して濾別した。
続いて、析出物を乾燥してリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン電池正極材用前駆体)を得た。
次に、焼成容器を準備し、この焼成容器内にリチウム含有炭酸塩を充填した。次に、焼成容器を、大気圧下、酸素雰囲気炉に入れて、焼成温度850?980℃で24時間加熱保持した後冷却して酸化物を得た。
次に、得られた酸化物を、解砕雰囲気の露点を-40?-60℃に管理しながら解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。解砕雰囲気の露点は、露点を管理した乾燥空気を6m^(3)/分の風量で吹き込むことにより行った。
【0031】
(実施例13)
実施例13として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を塩化物とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った。
【0032】
(実施例14)
実施例14として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を硫酸塩とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った。
【0033】
(実施例15)
実施例15として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、焼成を大気圧下ではなく120KPaの加圧下で行った以外は、実施例1?6、参考例7?12と同様の処理を行った。
【0034】
(比較例1?3)
比較例1?3として、金属塩に含まれる各金属を表1に示すような組成とし、最後の酸化物の解砕時の露点管理について実施例1?6のような調整を行わない、すなわち、乾燥空気を吹き込まない以外は、実施例1?6と同様の処理を行った。
【0035】
(評価)
-正極材組成の評価-
各正極材(組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α))中の金属含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)で測定し、各金属の組成比(モル比)を算出した。また、酸素含有量はLECO法で測定しαを算出した。これらの数値は表1に記載の通りとなった。
【0036】
-TPD-MS測定による評価-
各正極材の粉末を約50mg量り採り、TPD-MS装置(加熱装置:TRC製、MS装置島津製作所製)、室温から1000℃まで、昇温速度10℃/分で加熱した。標準物質としてタングステン酸ナトリウム二水和物、二酸化炭素、空気を用いた。これにより、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値をそれぞれ求めた。
【0037】
-電池特性の評価-
各正極材と、導電材と、バインダーとを85:8:7の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N-メチルピロリドン)に溶解したものに、正極材料と導電材とを混合してスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。続いて、対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M-LiPF_(6)をEC-DMC(1:1)に溶解したものを用いて、電流密度0.2Cの際の放電容量を測定した。また、充放電効率は、電池測定によって得られた初期放電容量及び初期充電容量から算出した。
これらの結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1?6、13?15、参考例7?12は、いずれも本発明に規定の組成が得られ、TPD-MS測定において、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であり、放電容量、充放電効率がいずれも良好であった。
比較例1?3は、TPD-MS測定において、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒超であり、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒超であり、放電容量及び/又は充放電効率が不良であった。
図1に、参考例7に係るTPD-MS測定で得られた、H_(2)O、CO_(2)、O_(2)の発生速度曲線を示す。図1では、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピーク、及び、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピーク及び当該ピークにおける極大箇所が観察されている。本発明では、これらのH_(2)O及びCO_(2)発生速度曲線の極大値が制御されている。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li_(x)Ni_(1-y)M_(y)O_(2+α)
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、0.01≦α≦0.1であり、MはMn及びCoである。)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質であり、
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が5wtppm/秒以下であり、且つ、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、200?400℃の領域でのH_(2)O由来のピークにおける発生速度の極大値が3wtppm/秒以下である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
TPD-MSによって前記正極活物質を50mg測定したとき、150?400℃の領域でのCO_(2)ガス由来のピークにおける発生速度の極大値が2wtppm/秒以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
請求項1?3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-11 
出願番号 特願2012-206133(P2012-206133)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 寛之結城 佐織  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
長谷山 健
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6159514号(P6159514)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
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