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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1354938
異議申立番号 異議2018-700818  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-05 
確定日 2019-08-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6310657号発明「レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6310657号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6310657号の請求項1ないし3,5ないし9に係る特許を維持する。 特許第6310657号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6310657号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は,平成25年8月26日(パリ条約による優先権主張2012年8月29日)の出願であって,平成30年3月23日にその特許権の設定登録がされ,平成30年4月11日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許について,平成30年10月5日に特許異議申立人 三上 早織 により特許異議の申立てがされ,当審は,平成31年1月10日付けで取消理由を通知した。特許権者は,その指定期間内である平成31年4月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い,その訂正の請求に対して,特許異議申立人 三上 早織 は,令和元年6月26日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,以下のアないしエのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載されている「腐食防止剤」を,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」に訂正する。請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2,3,5?9も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

ウ 訂正事項3
訂正前の特許明細書段落[0010]において,上記訂正事項1により訂正した請求項1の構成と整合させるべく,「本発明は,水溶性樹脂を含む樹脂,マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤,および水または水と有機溶媒との混合物である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を提供する。」に訂正する。

エ 本件訂正請求は,一群の請求項〔1?9〕に対して請求されたものである。また,明細書に係る訂正は,一群の請求項〔1?9〕について請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
a 訂正の目的
訂正事項1は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「腐食防止剤」を,特許明細書段落[0021]?[0024],[0038]の記載を根拠として,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上」に限定し,訂正後の請求項1とするものであるから,当該訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は,上述のとおり,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「腐食防止剤」を,特許明細書段落[0021]?[0024],[0038]の記載を根拠として,「マレイン酸,ベンソトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である」に限定し,訂正後の請求項1とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
c 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は,上述のとおり,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「腐食防止剤」を,特許明細書段落[0021]?[0024],[0038]の記載を根拠として,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である」に限定し,訂正後の請求項1とするものである。従って,当該訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
d 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては,訂正前の全ての請求項1?9について特許異議の申立てがされているので,訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項4を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3について
a 訂正の目的
訂正事項3は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と,明細書の記載との整合性を図るための訂正であるから,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と,明細書の記載との整合性を図るための訂正であるところ,訂正事項1は上述のとおり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないから,訂正事項3もまた,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
c 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と,明細書の記載との整合性を図るための訂正であるところ,訂正事項1は上述のとおり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから,訂正事項3もまた,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
d 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項1?2は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,これは一群の請求項1?9に関係する訂正である。したがって,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第4項,第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
水溶性樹脂を含む樹脂,マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤,および水または水と有機溶媒との混合物である溶媒を含むことを特徴とするレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項2】
前記組成物の総重量に対して,前記水溶性樹脂を含む樹脂を1?50重量%,前記腐食防止剤を0.01?10重量%,および残量の前記溶媒を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項3】
前記水溶性樹脂を含む樹脂が,ポリビニルアルコール(PVA),ポリビニルピロリドン(PVP),ポリアルキレングリコール,アルキルセルロース,ポリアクリル酸(PAA),ポリカルボン酸およびポリエチルオキサゾリンからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記有機溶媒は,イソプロピルアルコール,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA),プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME),ブチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,グリセリンカーボネートおよびエチレンカーボネートからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項6】
前記レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は,消泡剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項7】
前記消泡剤は,組成物の総重量に対して0.01?5重量%で含まれることを特徴とする請求項6に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項8】
前記レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は,水溶性界面活性剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を用い,レーザによってウエハをダイシングする工程を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して,当審が平成31年1月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。

ア 請求項1ないし9に係る発明は,文献1(特許異議申立人 三上 早織 が提出した甲第1号証),文献2(同甲第2号証)又は文献3(同甲第3号証)に記載された発明であるか,又は,文献1,文献2又は文献3に記載された発明と文献4ないし文献8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到することができたものである。よって,請求項1ないし9に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか,または,第29条第2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
イ 腐食防止剤が,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び,「リン酸ナトリウム」である場合を超えて,例えば,「有機酸」,「アミン」,「アルコール」,「無機酸塩」,「有機酸塩」などのすべてにおいてまで,本件特許明細書に記載された発明の課題を解決することができるとは,本件特許明細書の記載,及び,技術常識に基づいては認めることができないから,請求項1?9に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。したがって,この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
ウ 「防腐防止剤」に,実施例で用いられた「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び,「リン酸ナトリウム」以外で,どのような材料まで含まれるのか,その範囲の外延が不明であるから,この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

文献1:特開2006-140311号公報(特許異議申立人 三上 早織 が提出した甲第2号証)
文献2:特表2011-522411号公報(特許異議申立人 三上 早織 が提出した甲第1号証)
文献3:特開昭53-8634号公報 (特許異議申立人 三上 早織 が提出した甲第3号証)
文献4:特開2007-81135号公報
文献5:特開2005-21975号公報
文献6:特開2005-229053号公報
文献7:特開2012-49454号公報
文献8:特開2009-244359号

(2)文献1及び引用発明1
ア 文献1の記載
平成30年10月5日付け特許異議申立書に記載された刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開2006-140311号公報(以下,「文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体ウエーハ等のウエーハの所定の領域にレーザー光線を照射して所定の加工を施すレーザーダイシングに用いる保護膜剤及び該保護膜剤を用いてのレーザーダイシングによる加工方法に関する。」

「【0017】
(保護膜剤)
本発明の保護膜剤は,水溶性樹脂と,水溶性のレーザー光吸収剤とを含有する溶液からなる。
【0018】
前記水溶性樹脂は,保護膜の基材となるものであり,水等の溶剤に溶解させて塗布・乾燥して膜を形成し得るものであれば,特に制限されず,例えばポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,エチレンオキシ繰り返し単位が5以上のポリエチレングリコール,ポリエチレンオキサイド,メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリアクリル酸,ポリビニルアルコールポリアクリル酸ブロック共重合体,ポリビニルアルコールポリアクリル酸エステルブロック共重合体,ポリグリセリン等を例示することができ,これらは,1種単独で使用することもできるし,2種以上を組み合わせて使用することもできる。」

「【0020】
上述した水溶性樹脂と併用されるレーザー光吸収剤としては,水溶性染料,水溶性色素及び水溶性紫外線吸収剤が使用されるが,これらは何れも水溶性であり,保護膜中に均一に存在させる上で有利であり,しかも,ウエーハ表面に高い親和性を示し,ウエーハ表面に対して接着性の高い保護膜を形成することができる。さらに液の保存安定性が高く,保存中に,相分離や沈降等の不都合を生じることがなく,良好な塗布性を確保できるという点でも有利となる。例えば,顔料等の水不溶性のレーザー光吸収剤を用いた場合には,保護膜のレーザー吸収能にばらつきが生じたり,或いは保存安定性や塗布性も低く,均一な厚みの保護膜を形成することも困難となってしまう。」

「【0023】
また,水溶性紫外線吸収剤としては,例えば4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン,ベンゾフェノン-4-カルボン酸,2-カルボキシアントラキノン,1,2-ナフタリンジカルボン酸,1,8-ナフタリンジカルボン酸,2,3-ナフタリンジカルボン酸,2,6-ナフタリンジカルボン酸,2,7-ナフタリンジカルボン酸等及びこれらのソーダ塩,カリウム塩,アンモニウム塩,第4級アンモニウム塩等,2,6-アントラキノンジスルホン酸ソーダ,2,7-アントラキノンジスルホン酸ソーダ,フェルラ酸などを挙げることができ,中でもフェルラ酸が好適である。」

「【0025】
また,レーザー光吸収剤は,その極大吸収波長領域に用いるレーザー光の波長があるものを選択使用すれば,少量の使用により,上記範囲のg吸光係数kを確保でき,そうでないものを選択使用すれば,上記範囲のg吸光係数kを確保するためには,その使用量は多量となる。しかるに,レーザー光吸収剤の使用量が多すぎると,塗布・乾燥して保護膜を形成したときに,レーザー光吸収剤が水溶性樹脂と相分離するおそれがあり,また,レーザー光吸収剤の使用量が少ないと,保護膜中のレーザー光吸収剤の分布にムラを生じるおそれがある。従って,一般的には,前述した水溶性樹脂100重量部当り0.01乃至10重量部程度の使用量で上記範囲のg吸光係数kを確保できるように,レーザー光吸収剤を選択することが好ましい。
【0026】
本発明において,保護膜剤として使用する溶液中には,上記の水溶性樹脂及びレーザー光吸収剤以外にも,他の配合剤を溶解させることもでき,例えば可塑剤や界面活性剤を用いることができる。
【0027】
可塑剤は,レーザー加工後の保護膜の水洗性を高めるために使用されるものであり,特に高分子量の水溶性樹脂を用いた場合に好適に使用される。また,可塑剤の使用により,レーザー光照射による水溶性樹脂の炭化を抑制できるという利点もある。このような可塑剤としては,水溶性の低分子量化合物が好ましく,例えば,エチレングリコール,トリエチレングリコール,テトラエチレングリコール,エタノールアミン,グリセリン等を例示することができ,一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。このような可塑剤は,塗布乾燥した後に水溶性樹脂と相分離を起さない程度の量で使用され,例えば水溶性樹脂100重量部当り75重量部以下,特に20?75重量部の範囲とするのがよい。
【0028】
また,界面活性剤は,塗布性を高め,さらには溶液の保存安定性を高めるために使用されるものであり,水溶性であれば,ノニオン系,カチオン系,アニオン系,両性系の任意の界面活性剤を使用することができる。
【0029】
ノニオン系の界面活性剤としてはノニルフェノール系,高級アルコール系,多価アルコール系,ポリオキシアルキレングリコール系,ポリオキシエチレンアルキルエステル系,ポリオキシエチレンアルキルエーテル系,ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系,ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル系のものを例示することができ,また,カチオン系の界面活性剤としては,第4級アンモニウム塩,アミン塩があり,アニオン系の界面活性剤としては,アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩,アルキル硫酸エステル塩,メチルタウリン酸塩,エーテルスルホン酸塩等々があり,両性系の界面活性剤としてはイミダゾリニウムベタイン系,アミドプロピルベタイン系,アミノジプロピオン酸塩系等があり,これらから一種もしくは二種以上が選択されれば良い。このような界面活性剤の使用量は溶液に対して数十ppmから数百ppmの量で良い。」

「【0031】
また,本発明の保護膜剤である溶液の調製に用いる溶剤としては,上記水溶性樹脂及び水溶性のレーザー光吸収剤が溶解する溶剤であればよく,例えば,水,アルコール,エステル,アルキレングリコール,アルキレングリコールモノアルキルエーテル,アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートなどを用いることができる。中でも,水,アルキレングリコールモノアルキルエーテルなどが好ましく,アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては,プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい。尚,作業環境上,最も好ましいものは,水もしくは水を含有する混合溶剤である。」

「【0064】
(実施例1)
下記組成の保護膜剤を調製した。
水溶性樹脂; 20g
ケン化度88%,重合度300のポリビニルアルコール
水溶性レーザー光吸収剤; 0.2g
フェルラ酸
水; 80g
固形分のg吸光係数k=1.56×10^(-1)^( )
【0065】
上記の保護膜剤をスピンナーにてシリコンウエーハに塗布し,乾燥して,ストリート上での厚みが0.5?1.5μmの保護膜を形成した。次いで,この保護膜が形成されたシリコンウエーハを,上記仕様のレーザー加工機に装着して,レーザー加工を行った後,純水にて保護膜を洗い流して,レーザースキャニング周辺を観察したところ,エッジ部の盛り上がりは観察されたものの,周辺へのデブリの付着はなく使用出来るレベルであった。また,加工巾は,塗布膜厚みの影響を受けることなく,レーザースポット径と同等であった。
【0066】
(実施例2)
水溶性レーザー光吸収剤であるフェルラ酸の量を0.8gに変更した以外は,実施例1と全く同様にして,保護膜剤を調製した。この保護膜剤の固形分のg吸光係数kは5.61×10^(-1)であった。
【0067】
上記の保護膜剤を用いて,実施例1と同様にしてシリコンウエーハ上に厚みが0.2μmの保護膜を形成し,同様にしてレーザー加工を行い,さらに保護膜の水洗除去を行った。実施例1と同様にしてレーザースキャニング周辺を観察したところ,デブリの付着は観察されなかった。ただ,加工巾はレーザースポット径より少し広がっていたが使用できるレベルであった。
【0068】
(実施例3)
水溶性樹脂として,ケン化度75%,重合度500のポリビニルアルコールを用いた以外は,実施例1と同様にして保護膜剤を調製した。この保護膜剤の固形分のg吸光係数kは,実施例1と同様,1.56×10^(-1)である。
【0069】
上記の保護膜剤を用いて,実施例1と同様にしてシリコンウエーハ上に厚みが0.5?1.5μmの保護膜を形成し,同様にしてレーザー加工を行い,さらに保護膜の水洗除去を行った。実施例1と同様にしてレーザースキャニング周辺を観察したところ,デブリの付着は観察されなかった。また,加工巾は,塗布膜厚みの影響を受けることなく,レーザースポット径と同等であった。
【0070】
(実施例4)
水溶性レーザー光吸収剤として,フェルラ酸の代わりに水溶性モノアゾ染料(保土ヶ谷化学製AIZEN SWTW3)を用いた以外は,実施例3と全く同様にして,保護膜剤を調製した。この保護膜剤の固形分のg吸光係数kは7.9×10^(-2)であった。
【0071】
上記の保護膜剤を用いて,実施例1と同様にしてシリコンウエーハ上に厚みが0.5?1.5μmの保護膜を形成し,同様にしてレーザー加工を行い,さらに保護膜の水洗除去を行った。実施例1と同様にしてレーザースキャニング周辺を観察したところ,デブリの付着は観察されなかった。また,加工巾は,塗布膜厚みの影響を受けることなく,レーザースポット径と同等であった。
【0072】
(実施例5)
可塑剤として15gのグリセリンを添加した以外は実施例5(審決注:「実施例4」の誤記と認める。)と全く同様にして,保護膜剤を調製した。この保護膜剤の固形分のg吸光係数kは,実施例5と同様,7.9×10^(-2)であった。
【0073】
上記の保護膜剤を用いて,実施例1と同様にしてシリコンウエーハ上に厚みが0.5?1.5μmの保護膜を形成し,同様にしてレーザー加工を行い,さらに保護膜の水洗除去を行った。実施例1と同様にしてレーザースキャニング周辺を観察したところ,デブリの付着は観察されなかった。また,加工巾は,塗布膜厚みの影響を受けることなく,レーザースポット径と同等であった。」

イ 引用発明1-1及び引用発明1-5
前記アより,文献1には,(実施例1)及び(実施例5)として,次の発明(以下,「引用発明1-1」及び「引用発明1-5」という。)が記載されていると認められる。
(ア)引用発明1-1
「ケン化度88%,重合度300のポリビニルアルコール,フェルラ酸,水を含むレーザーダイシングに用いる保護膜剤。」

(イ)引用発明1-5
「ケン化度75%,重合度500のポリビニルアルコール,水溶性モノアゾ染料,水,グリセリンを含むレーザーダイシングに用いる保護膜剤。」

(3)文献2及び引用発明2
ア 文献2の記載
平成30年10月5日付け特許異議申立書に記載された刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特表2011-522411号公報(以下,「文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリエチルオキサゾリンおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種のレジンと,水溶性レジンおよびアルコール単量体から選ばれる少なくとも1種の成分と,溶媒としての,水または水と有機溶媒との混合物とを含むウエハーダイシング用保護膜組成物。」

「【請求項3】
前記組成物に含まれるレジン成分の固形分総重量に対して10?80ppmの水溶性界面活性剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のウエハーダイシング用保護膜組成物。」

「【請求項8】
前記水溶性界面活性剤は,ポリエーテル変性アルキルシロキサン,ポリエーテル変性ポリアルキルシロキサン,ヒドロキシ官能基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン,ヒドロキシ官能基を有するポリエーテル-ポリエステル変性ポリアルキルシロキサン,非イオン性ポリアクリル系水溶性界面活性剤,アルコールアルコキシレート,及びポリメリックフルオロ系水溶性界面活性剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のウエハーダイシング用保護膜組成物。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体のダイシング工程に用いられる,熱安定性に優れたウエハーダイシング用保護膜組成物に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで,本発明は,上述した従来の技術の問題点を解決するためのものであり,その目的は,熱安定性に優れ,ダイシング工程中のレーザー照射による熱架橋物質の生成を防止し,ウエハーとの接着力に優れ,レーザーダイシング工程中における保護膜の剥離を防止し,適正な硬度を有する保護膜を形成することにより,レーザーによる穿孔の後,ブレードで切削しても保護膜の破断が発生しない,ウエハーダイシング用保護膜組成物を提供することにある。」

「【0015】
一般に,ウエハーダイシング用保護膜組成物に使用されるレジン成分として,ポリビニルアルコール(PVA),ポリエチレングリコール(PEG),セルロース系のレジン,ポリアクリル酸(PAA)などの水溶性レジンが使われている。これらの中でも,ヒドロキシ基またはカルボキシル基を有する水溶性レジンは,熱に弱いか,或いは熱分解の際に架橋副産物を生成するという欠点がある。一方,本発明の組成物で使用する水溶性レジンとしてのポリエチルオキサゾリンとポリビニルピロリドンは,熱安定性および水に対する溶解性に優れるという特徴を有する。」

「【0019】
本発明のウエハーダイシング用保護膜組成物において,水溶性レジンおよびアルコール単量体から選ばれる少なくとも1種の成分は,保護膜の基板接着性の向上と硬度調節のために使用される。水溶性レジンの例としては,ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール(PEG),ポリプロピレングリコール(PPG),セルロース,ポリアクリル酸(PAA)などを挙げることができ,アルコール単量体の例としては,モノエチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,テトラエチレングリコール,プロピレングリコール,シクロヘキサンジオール,シクロヘキサンジメタノール,ペンタエリスリトール,トリメチルプロパノールなどを挙げることができる。」

「【0024】
一般に,レーザーダイシング工程で使用する保護膜フィルムの厚さは1μm以上とするため,保護膜組成物の塗布性が良くない場合,ウエハーの中央と縁部の膜厚差が発生して工程マージンが減る。よって,本発明の保護膜組成物は,水溶性の界面活性剤を添加することにより,組成物の塗布性を向上させることを特徴とする。水溶性界面活性剤としては,例えば,ポリエーテル変性アルキルシロキサン,ポリエーテル変性ポリアルキルシロキサン,ヒドロキシ官能基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン,ヒドロキシ官能基を有するポリエーテル-ポリエステル変性ポリアルキルシロキサン,非イオン性ポリアクリル系水溶性界面活性剤,アルコールアルコキシレート,及びポリメリックフルオロ系水溶性界面活性剤などを挙げることができ,これらは1種単独でまたは少なくとも2種が使用できる。」

「【0027】
本発明のウエハーダイシング用保護膜組成物は,溶媒として水を使用するが,保護膜組成物の膜厚を高めるために或いは塗布性を向上させるために,有機溶媒を混合して使用することもできる。有機溶媒の例としては,イソプロピルアルコール,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA),プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME),ブチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,グリセリンカーボネート,エチレンカーボネートなどのアルキルカーボネート系を挙げることができる。このような有機溶媒は1種または2種以上を混合して使用することができる。」

「【0033】
特に,本発明のウエハーダイシング用保護膜組成物は,溶液剤の気泡生成を抑制するために,添加剤として消泡剤をさらに含むことができる。このような消泡剤としては,ポリシロキサン,ポリアルキルシロキサン,フルオロシリコン重合体などを挙げることができる。」

「【0045】
実施例10
攪拌器付き混合槽にポリエチルオキサゾリン(商品名:アクアゾル,重合度:500)3g,ポリビニルアルコール(重合度:1700,鹸化度:87?90%)7g,トリスエチレングリコール(TEG)1g,およびブチレンカーボネート0.3gを添加し,界面活性剤(BYK-337,BYK社製)と消泡剤(BYK-025,BYK社製)を固形分のポリエチルオキサゾリンとポリビニルアルコール含量の和に対してそれぞれ30ppmずつ投入し,溶媒として水を溶液の粘度が60cPとなるように添加した後,常温で1時間500rpmの速度で攪拌してウエハーダイシング用保護膜組成物を製造した。」

「【0048】
比較例3
攪拌器付き混合槽にポリビニルアルコール(重合度:1700,鹸化度:87?90%)9gおよびペンタエリスリトール(Pentaerithritol)1gを添加し,溶媒として水とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を70/30(w/w)の割合で溶液の粘度が60cPとなるように添加した後,常温で1時間500rpmの速度で攪拌してウエハーダイシング用保護膜組成物を製造した。
【0049】
比較例4
攪拌器付き混合槽にポリビニルアルコール(重合度:1700,鹸化度:87?90%)8g,ポリエチレングリコール(重量平均分子量700)1g,およびペンタエリトスリトール1gを添加し,溶媒として水とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を70/30(w/w)の割合で溶液の粘度が60cPとなるように添加した後,常温で1時間500rpmの速度で攪拌してウエハーダイシング用保護膜組成物を製造した。」

「【0051】
比較例6
攪拌器付き混合槽にポリビニルアルコール(重合度:1700,鹸化度:87?90%)9gおよびペンタエリスリトール1gを添加し,界面活性剤(BYK-337,BYK社製)を固形分のポリビニルアルコールとペンタエリトリトールの和に対して300ppm投入し,溶媒として水とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を70/30(w/w)の割合で溶液の粘度が60cPとなるように添加した後,常温で1時間500rpmの速度で攪拌してウエハーダイシング用保護膜組成物を製造した。」

イ 引用発明2-10及び引用発明2-3
前記アより,文献2には,実施例10及び比較例3として,次の発明(以下,「引用発明2-10」及び「引用発明2-3」という。)が記載されていると認められる。
(ア)引用発明2-10
「ポリエチルオキサゾリン,ポリビニルアルコール,トリスエチレングリコール(TEG),ブチレンカーボネート,界面活性剤,消泡剤,水を含むウエハーダイシング用保護膜組成物。」

(イ)引用発明2-3
「ポリビニルアルコール,ペンタエリスリトール,水,プロピレングリコールモノメチルエーテルを含むウエハーダイシング用保護膜組成物。」

(4)文献3及び引用発明3
ア 文献3の記載
平成30年10月5日付け特許異議申立書に記載された刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開昭53-8634号公報(以下,「文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「発明の詳細な説明
本発明はレーザースクライバー用塗布液に関し,特に多数の半導体素子を形成した半導体ウエーハからレーザースクライバーによって多数個の半導体ペレツトを製造する際に,レーザー光線によって溶融したシリコンダストが半導体ウエーハの電極上に付着するのを防止する保護膜を形成するための塗布液に関する。」(第1頁左欄第11行?右欄第1行)

「実施例I
平均分子量が約1000のポリエチレングリコールを,50%エタノール水溶液に1:2の割合で溶解した33%溶液(粘度約5センチポイズ)に,1%のカルボキシメチルセルロースを添加して,粘度60センチポイズの塗布液を得た。
この塗布液を,スピンナー上に載置したプレナー型シリコントランジスタウエーハ1の上に数滴滴下し,厚さ約1.5μの保護膜5を形成して,YAGレーザービーム4を照射してレーザースクライブを行なつたのち,100℃の純水で超音波水洗したところ,保護膜5は完全に除去され,かつ電極2a上にシリコンダスト1′の残存は認められなかった。
実施例II
平均分子量約1000のポリエチレングリコールを,50%エタノール水溶液に1:2の割合で溶解した33%溶液(粘度約5センチポイズ)に,10%のポリビニルアルコールを添加したところ,粘度約150センチポイズの塗布液が得られた。
この塗布液を,スピンナー上に載置されたメサ型トランジスタウエーハ1の上に数滴滴下し,厚さ2μの保護膜5を形成して,YAGレーザーによるレーザービーム4を照射してレーザースクライブを行なつたのち,直ちに25℃のアルコールに予備浸漬し,次に50℃の加温アルコールで洗浄後,約50℃の純水で超音波洗浄したところ,実施例Iと同様の結果が得られた。
実施例III
平均分子量が約1000のポリエチレングリコールを,50%エタノール水溶液に2:1の割合で溶解した67%溶液(粘度約20センチポイズ)に,2%のカルボキシメチルセルロースを添加したところ,粘度約150センチポイズの塗布液が得られた。
この塗布液を実施例IIと同様にして塗布し,レーザースクライブ後,除去した場合,実施例IIと同様の結果が得られた。」(第3頁右上欄第18行?右下欄第15行)

イ 引用発明3
前記アより,文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエチレングリコールをエタノール水溶液に溶解した溶液にカルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコールを添加したレーザースクライバー用塗布液。」

(5)文献4
当審が,特許異議申立書により申し出た証拠に基づく新規性,進歩性の取消理由を裏付ける証拠を補足するために,職権で探知した刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開2007-81135号公報(以下,「文献4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,電解コンデンサの駆動用電解液(以下,電解液と称す)の改良に関するものであり,特に耐電圧を改善した電解液に関するものである。」

「【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電解液を用いて電解コンデンサを構成すると,フェルラ酸の少量の添加で,電解液と電極箔との化学反応が抑えられるため,電解液の低比抵抗化および耐電圧の向上を図ることができる。その理由は,フェルラ酸のカルボニル基部分が電解液中でアルミニウム電極箔の酸化皮膜と反応し,耐水性の皮膜を形成するためと考えられる。
また,フェルラ酸は,エチレングリコールを主成分とする溶媒に対して溶解性が高く,主溶質のカルボン酸とのエステル化反応が少ないことから,高温雰囲気下での比抵抗の経時的な増大を防止することができる。」

(6)文献5
当審が,特許異議申立書により申し出た証拠に基づく新規性,進歩性の取消理由を裏付ける証拠を補足するために,職権で探知した刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開2005-21975号公報(以下,「文献5」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,電気,電子又は機械部品の接合を鉛を含有しないハンダにより形成するための無鉛ハンダ接合用フラックス及びソルダーペーストに関する。詳細には,回路基板等の電気,電子部品の接合を錫-亜鉛合金ハンダによって形成可能な無鉛ハンダ接合用フラックス及びソルダーペーストに関する。」

「【0022】
(本発明に使用されるフェノール性ヒドロキシル化合物)
本発明では,フェノール性ヒドロキシル化合物(フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物)として,ケルセチン,ミリセチン,アントシアニジン,プロアントシアニジン,カフェー酸,クロロゲン酸,プロトカテク酸及びフェルラ酸が用いられる。フェルラ酸を除く上記化合物は,フェノール性ヒドロキシル基を2つ有するポリフェノール(多価フェノール)であり,フェルラ酸は,カフェー酸の2つのヒドロキシル基のうちの1つがメチルエーテル化した化合物である。ケルセチン,ミリセチン,アントシアニジン及びプロアントシアニジンはフラボノイドに類し,カフェー酸,クロロゲン酸及びプロトカテク酸はカテコール構造を有する。
【0023】
上述の化合物は,いずれも植物に含まれる強い抗酸化性物質であり,ケルセチンは,玉葱,さやえんどう,アスパラガス等に多く含まれ,ミリセチンは,葡萄,クランベリー等に,アントシアニジン及びプロアントシアニジンは,葡萄,紫蘇等に,カフェー酸はコーヒーに,クロロゲン酸は,オリーブ,大豆等に,プロトカテク酸は蕎麦に,フェルラ酸は米糠に各々含まれている。
【0024】
フェノール性ヒドロキシル基は金属や酸素との反応性が高く,上記フェノール性ヒドロキシル化合物は,いずれも,活性酸素のスカベンジャーとしての強い作用を有する抗酸化性物質であると共に,金属と作用してキレート錯体を形成する性質を有する。従って,ソルダーペーストに配合されると,ハンダ粉末表面に配位して抗酸化性を発揮し,また,活性な金属種に配位してその活性を低下させ,金属種とフラックス成分との作用を抑制する。」

(7)文献6
当審が,特許異議申立書により申し出た証拠に基づく新規性,進歩性の取消理由を裏付ける証拠を補足するために,職権で探知した刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開2005-229053号公報(以下,「文献6」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体ウェーハ(a)の裏面(B面)に研削・研磨,CMPやエッチング等の加工を施して薄葉化し,適宜,該裏面(B面)の金属化等を行った後に,薄葉化半導体ウェーハ(a)を保持基板(b)から剥離して薄葉化半導体ウェーハ(a)を得る製造法に関する。」

「【0018】
薄葉化される半導体ウェーハ(a)上の金属材料の防食剤として糖アルコールを含むことが本発明の特徴である。特に糖アルコールはアルミニウム,アルミニウム合金の防食に効果的である。糖アルコールとしてはグリセリン,ソルビトール,キシリトール,パラチニット等が例としてあげられる。糖アルコールの添加量は,0.1?30wt%が好ましく,1?20wt%がより好ましい。」

(8)文献7
当審が,特許異議申立書により申し出た証拠に基づく新規性,進歩性の取消理由を裏付ける証拠を補足するために,職権で探知した刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開2012-49454号公報(以下,「文献7」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は,半導体装置の製造方法に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで,ボンディングパッドの特性の劣化を抑制することが可能な半導体装置の製造方法を提供する。」

「【0027】
その後,図1に示す現像装置100により,該第1のアルカリ現像液からTMAHおよび多価アルコールを含む第2のアルカリ現像液に現像液を切り替えて,この第2のアルカリ現像液で,第2の期間だけ,層間膜10の残りの露光された部分を現像する。これにより,層間膜10の現像が完了する。なお,該多価アルコールには,例えば,グリセリン,エチレングリコール,プロピレングリコール等の高い防食効果を有するものが選択される。
【0028】
このように,比較的安価な第1のアルカリ現像液で再配線層8a,8bの上面およびパッド電極22の上面が露出するまで,層間膜10を現像する。そして,再配線層8a,8bの上面およびパッド電極22の上面が露出して電池効果が発生し得る状態では,防食効果が高く多価アルコールを含む高価な第2のアルカリ現像液で層間膜10の残りの露光された部分を現像する。
【0029】
これにより,パッド電極22の露出後の電池効果によるパッド電極22の腐食を抑制することができる。すなわちボンディングパッドの特性の劣化を抑制することができる。さらに,高価なグリセリン等の多価アルコールを含む第2のアルカリ現像液の使用を少なくすることにより,製造コストを削減することができる。」

(9)文献8
当審が,特許異議申立書により申し出た証拠に基づく新規性,進歩性の取消理由を裏付ける証拠を補足するために,職権で探知した刊行物であり,本件特許の優先日前に頒布された特開2009-244359号(以下,「文献8」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,厚膜レジスト用現像液及びかかる現像液を用いたレジストパターンの形成方法に関する。」

「【0018】
(多価アルコール(b))
多価アルコール(以下,(b)成分ともいう。)として,例えばグリセリン,プロピレングリコール,エチレングリコールなどが挙げられ,特にグリセリンは少ない配合量でも金属に対する防食効果が優れるため好ましい。これらの多価アルコールは,それぞれ単独で用いてもよいし,2種以上を組み合わせて用いてもよい。また,その配合量については,厚膜レジスト用現像液全量に基づき3質量%以上20質量%未満の割合が好ましい。この配合量が20質量%以上では現像速度が低下し,3質量%未満では残渣が生じることがある。上記多価アルコールを厚膜レジスト用現像液全量に基づき3質量%以上20質量%未満の割合で配合させることにより,従来の現像液では残渣が生じていた,例えばポリビニルエーテル系の添加剤を含む厚膜レジストを現像する際に残渣を生じることはない。また,従来の現像液では溶解困難な,例えば質量平均分子量150,000以上の重合体からなる樹脂を有する添加剤を含むレジストから生じる残渣の発生を防ぐこともできる。」

(10)当審の判断(取消理由通知の理由ア:特許法第29条第1項第3号,第2項)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1-1との対比
a 引用発明1-1の「ケン化度88%,重合度300のポリビニルアルコール」は,本件発明1の「水溶性樹脂を含む樹脂」に相当する。
さらに,フェルラ酸が,添加されることによって,腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料であることは,文献4の【0015】,及び,文献5の【0022】,【0024】の記載から明らかであるから,引用発明1-1の「フェルラ酸」と,本件発明1の「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」とは,「腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料」である点で一致する。
b 引用発明1-1の「水」は,「水溶性樹脂及び水溶性のレーザー光吸収剤が溶解する溶剤」(4(2)ア【0031】)であるから,本件発明1の「水」「である溶媒」に相当する。
c 引用発明1-1の「レーザーダイシングに用いる保護膜剤」は,「半導体ウエーハ等のウエーハの所定の領域にレーザー光線を照射して所定の加工を施す」ためのものであるから(4(2)ア【0001】),本件発明1の「レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物」に相当する。
d すると,本件発明1と引用発明1-1とは,下記eの点で一致し,下記fの点で相違する。
e 一致点
「水溶性樹脂,腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料,水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。」
f 相違点1
「腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料」が,本件発明1においては,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」であるのに対して,引用発明1-1においては,「フェルラ酸」である点。
g したがって,本件発明1は引用発明1-1と上記相違点1において相違するから,本件発明1は文献1に記載された発明ではない。
h さらに,文献2?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませることは記載されておらず,また,文献2?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませる動機が記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明1-1において,文献2?8に記載された技術的事項に基いて,「レーザーダイシングに用いる保護膜剤」に,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」を含むものとすることは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。
そして,本件発明1は,相違点1に係る構成を備えることにより,金属接合パッドの腐食防止特性,及びバンプボールの腐食防止特性が良好である(本件特許明細書【0036】-【0044】)という格別に有利な効果を奏する。
したがって,本件発明1は,引用発明1-1及び文献2?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明1と引用発明1-5との対比
a 引用発明1-5の「ケン化度75%,重合度500のポリビニルアルコール」は,本件発明1の「水溶性樹脂を含む樹脂」に相当する。
さらに,グリセリンが,半導体ウェーハ上の金属材料の防食剤であること(4(7)【0018】),高い防食効果を有すること(4(8)【0027】),及び,金属に対する防食効果が優れていること(4(9)【0018】)は周知の事項であるから,引用発明1-5の「グリセリン」と,本件発明1の「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」とは,「腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料」である点で一致する。
b 引用発明1-5の「水」は,「水溶性樹脂及び水溶性のレーザー光吸収剤が溶解する溶剤」(4(2)ア【0031】)であるから,本件発明1の「水」「である溶媒」に相当する。
c 引用発明1-5の「レーザーダイシングに用いる保護膜剤」は,「半導体ウエーハ等のウエーハの所定の領域にレーザー光線を照射して所定の加工を施す」ためのものであるから(4(2)ア【0001】),本件発明1の「レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物」に相当する。
d すると,本件発明1と引用発明1-5とは,下記eの点で一致し,下記fの点で相違する。
e 一致点
「水溶性樹脂,腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料,水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。」
f 相違点2
「腐食を防止する効果を奏する特性を有する材料」が,本件発明1においては,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」であるのに対して,引用発明1-5においては,「グリセリン」である点。
g したがって,本件発明1は引用発明1-5と上記相違点2において相違するから,本件発明1は文献1に記載された発明ではない。
h さらに,文献2?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませることは記載されておらず,また,文献2?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませる動機が記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明1-5において,文献2?8に記載された技術的事項に基いて,「レーザーダイシングに用いる保護膜剤」に,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」を含むものとすることは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。
そして,本件発明1は,相違点2に係る構成を備えることにより,金属接合パッドの腐食防止特性,及びバンプボールの腐食防止特性が良好である(本件特許明細書【0036】-【0044】)という格別に有利な効果を奏する。
したがって,本件発明1は,引用発明1-5及び文献2?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明1と引用発明2-10及び引用発明2-3との対比
a 引用発明2-10及び引用発明2-3の「ポリエチルオキサゾリン」及び「ポリビニルアルコール」は,「本発明の組成物で使用する水溶性レジンとしてのポリエチルオキサゾリンとポリビニルピロリドンは,熱安定性および水に対する溶解性に優れるという特徴を有する。」(4(3)ア【0015】)から,本件発明1の「水溶性樹脂を含む樹脂」に相当する。
b 本件特許明細書には,「腐食防止剤」について,「前記腐食防止剤は特に制限されず,例えば,有機酸,アミン,アルコール,無機酸塩,有機酸塩などがすべて使用できる。」(本件特許明細書【0020】)と記載されている。
そして,引用発明2-10及び引用発明2-3の「トリスエチレングリコール(TEG)」及び「ペンタエリスリトール」は,いずれも「アルコール」である。
してみれば,引用発明2-10及び引用発明2-3の「トリスエチレングリコール(TEG)」及び「ペンタエリスリトール」と,本件発明1の「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」とは,「腐食防止剤」である点で一致する。
c 引用発明2-10及び引用発明2-3の「ウエハーダイシング用保護膜組成物」は,「レーザーダイシング工程」に用いられる「保護膜」のためのものであるから(4(3)ア【0009】),本件発明1の「レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物」に相当する。
d すると,本件発明1と引用発明2-10及び引用発明2-3とは,下記eの点で一致し,下記fの点で相違する。
e 一致点
「水溶性樹脂を含む樹脂,腐食防止剤,および水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。」
f 相違点3
「腐食防止剤」が,本件発明1においては,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」であるのに対して,引用発明2-10及び引用発明2-3においては,「トリスエチレングリコール(TEG)」及び「ペンタエリスリトール」である点。
g したがって,本件発明1は引用発明2-10及び引用発明2-3と上記相違点3において相違するから,本件発明1は文献2に記載された発明ではない。
h さらに,文献1,3?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませることは記載されておらず,また,文献1,3?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませる動機が記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明2-10及び引用発明2-3において,文献1,3?8に記載された技術的事項に基いて,「レーザーダイシングに用いる保護膜剤」に,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」を含むものとすることは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。
そして,本件発明1は,相違点3に係る構成を備えることにより,金属接合パッドの腐食防止特性,及びバンプボールの腐食防止特性が良好である(本件特許明細書【0036】-【0044】)という格別に有利な効果を奏する。
したがって,本件発明1は,引用発明2-10又は引用発明2-3,並びに,文献1,3?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件特許発明1と引用発明3との対比
a 引用発明3の「カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコール」は,本件特許発明1の「水溶性樹脂を含む樹脂」に相当する。
b 引用発明3の「エタノール水溶液」は,「エタノール」と「水」を含むものであるといえる。
ここで,本件特許発明1の「腐食防止剤」が,どのような成分であるかに関して,本件特許明細書には,「前記腐食防止剤は特に制限されず,例えば,有機酸,アミン,アルコール,無機酸塩,有機酸塩などがすべて使用できる。」(本件特許明細書【0020】)ことが記載されているところ,引用発明3の「エタノール水溶液」の「エタノール」は,「アルコール」である。
よって,引用発明3の「エタノール水溶液」は,本件発明1の「腐食防止剤」および「水」「である溶媒」を含むものといえる。
c 引用発明3の「レーザースクライバー用塗布液」は,「半導体ウエーハの電極上に付着するのを防止する保護膜を形成するため」のものであるから(4(4)ア第1頁左欄第15行?右欄第1行),本件発明1の「レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物」に相当する。
d すると,本件発明1と引用発明3とは,下記eの点で一致し,下記fの点で相違する。
e 一致点
「水溶性樹脂を含む樹脂,腐食防止剤,および水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。」
f 相違点4
「腐食防止剤」が,本件発明1においては,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」であるのに対して,引用発明3においては,「エタノール」である点。
g したがって,本件発明1は引用発明3と上記相違点4において相違するから,本件発明1は文献3に記載された発明ではない。
h さらに,文献1,2,4?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませることは記載されておらず,また,文献1,2,4?8のいずれにも,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,あるいは「リン酸ナトリウム」を,水溶性樹脂及び水である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に含ませる動機が記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明3において,文献1,2,4?8に記載された技術的事項に基いて,「レーザーダイシングに用いる保護膜剤」に,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」を含むものとすることは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。
そして,本件発明1は,相違点4に係る構成を備えることにより,金属接合パッドの腐食防止特性,及びバンプボールの腐食防止特性が良好である(本件特許明細書【0036】-【0044】)という格別に有利な効果を奏する。
したがって,本件発明1は,引用発明3及び文献1,2,4?8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
する。

(オ)よって,本件発明1は,文献1ないし3に記載された発明ではなく,文献1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件発明2,3,5?9について
請求項2,3,5?9に係る発明は,請求項1に係る発明に対して,さらに技術的事項を追加したものであるから,上記と同様の理由により,本件発明2,3,5?9は,文献文献1ないし3に記載された発明ではなく,文献1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人 三上 早織 は,「しかし,本件特許明細書には,腐食防止剤として,有機酸を例として挙げており,有機酸の種類によって,腐食の防止の程度が大きく異なる旨の記載が全くありません。そうすると,本件特許明細書では,有機酸たるフェルラ酸とマレイン酸との間で,腐食における(大きな)差があるという点を何ら認識していないというべきであり,上記のような意見書での主張は,本件特許明細書に開示も示唆もない後出しの主張であるといえますので,認められるものではありません」と主張する。
しかしながら,材料が異なれば,その材料の特性が異なることは通常のことであって,有機酸の腐食を防止する機能についてのみ,有機酸の種類を問わず,どのような有機酸であっても,腐食を防止する程度が等しいとする技術常識が存在するとも認められないから,仮に,本件特許明細書に「有機酸の種類によって,腐食の防止の程度が大きく異なる旨の記載が全く」ないとしても,当該事項は,技術常識に照らして,本件特許明細書に記載されているに等しい事項であると認められる。
したがって,特許異議申立人 三上 早織 の前記主張は採用することができない。

(11)当審の判断(取消理由通知の理由イ:特許法第36条第6項第1号)
ア 平成31年4月12日に提出された訂正請求書による訂正において,「腐食防止剤」を,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」と訂正したことにより,腐食防止剤が,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び,「リン酸ナトリウム」である場合を超えて,例えば,「有機酸」,「アミン」,「アルコール」,「無機酸塩」,「有機酸塩」などのすべてにおいてまで,本件特許明細書に記載された発明の課題を解決することができるとは,本件特許明細書の記載,及び,技術常識に基づいては認めることができないとする取消理由通知の理由イは解消した。

イ 特許異議申立人の意見について
(ア)特許異議申立人 三上 早織 は,「そうすると,上記具体的な実施例の結果から,種類も物性も使用量も特定されていないあらゆる水溶性樹脂と,使用量の特定されていない腐食防止剤との組み合わせを規定したに過ぎない本件発明全体において,本件発明の課題を解決できるとは到底認められません。従いまして,本件発明は,依然としてサポート要件に違反するものと思料いたします。」と主張するので,以下で検討する。

(イ)特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(ウ)そこで,まず,本件発明1の課題について検討すると,本件特許明細書には,本発明は,半導体ウエハなど,ウエハの所定領域にレーザ光線を照射して所定の加工を実施するレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に関するものであること(【0001】),レーザを用いるウエハのダイシング工程における,レーザの熱によってヒューム(Fume)が発生して飛散し,これにより,ウエハの表面が汚染する問題が発生するという問題を解決するために,水溶性樹脂,水溶性紫外線吸収剤,溶剤および添加剤(可塑剤,界面活性剤)を含むウエハ保護液組成物,および,水溶性樹脂および水を含むレーザダイシング保護液剤が知られており,これらの従来の技術は,ウエハの上部面にポリビニルアルコール(Poly Vinyl Alcohol),ポリエチレングリコール(Poly Ethylene Glycol),セルロース(Cellulose)などの水溶性レジンを塗布して保護膜を形成し,レーザ光を照射する加工方法であるところ,このような方法は,ダイシング工程中,ウエハ保護液組成物が電解液のように作用し,接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)にガルバニック腐食を生じさせるという欠点があること(【0005】-【0007】),及び,本発明は,レーザダイシング工程中,ウエハ保護膜組成物が電解液のように作用して発生する金属接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)に対する腐食(例:ガルバニック腐食)を効果的に防止することができるレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を提供することを目的とすること(【0009】)が記載されており,これらの記載から,本件発明1の課題は,レーザダイシング工程中,ウエハ保護膜組成物が電解液のように作用して発生する金属接合パッドおよびバンプボールに対する腐食の改善を図ることであると認められる。

(エ)本件発明2,3,5?9も同様に,レーザダイシング工程中,ウエハ保護膜組成物が電解液のように作用して発生する金属接合パッドおよびバンプボールに対する腐食の改善を図ることであると認められる。

(オ)次に,本件明細書に接した当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲について検討するに,本件特許明細書には,水溶性樹脂は,保護膜の基材となるもので,水などの溶剤に溶解させ,塗布・乾燥して膜を形成できるものであれば特に制限されず,ポリビニルアルコール(PVA),ポリビニルピロリドン(PVP),ポリアクリル酸(PAA),ポリエチルオキサゾリンなどを例示する(【0015】)とともに,前記水溶性樹脂は,ウエハに形成される保護膜の水洗性,密着性などを考慮してその種類を選択することができ,その観点から,分子量も調節可能であり,さらに,前記水溶性樹脂の含有量が1重量%未満で含まれると,ウエハ保護膜の機能が低下し,50重量%を超えて含まれる場合は,保護膜の塗布性が低下する問題が発生することがあることから,前記水溶性樹脂を含む樹脂は,組成物の総重量に対して1?50重量%,より好ましくは5?40重量%で含まれ得ること(【0017】-【0018】)が記載されている。さらに,腐食防止剤は,組成物の総重量に対して0.01?10重量%で含まれる場合,不都合を生じることなく,金属接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)の腐食防止効果を得ることができることが記載されるとともに,請求項1における,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」で特定される,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び「リン酸ナトリウム」を,「腐食防止剤」として含む,「レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物」を用いた実施例1?15が記載されている。(【0036】?【0043】)

(カ)本件明細書の上記記載からすると,本件特許明細書に接した当業者は,水溶性樹脂の種類・物性及び使用量,並びに,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び「リン酸ナトリウム」の使用量のそれぞれについて,当業者に期待し得る通常の創作能力の発揮によって,水溶性樹脂の種類・物性及び使用量,並びに,「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び「リン酸ナトリウム」の使用量を選択することによって,請求項1に記載されたレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物において,レーザダイシング工程中,ウエハ保護膜組成物が電解液のように作用して発生する金属接合パッドおよびバンプボールに対する腐食の改善を図るという本件発明1の課題を解決できることを認識できるものと認められる。
したがって,請求項1は,サポート要件に適合するものと認められる。
さらに,請求項2,3,5?9についても同様である。
したがって,特許異議申立人 三上 早織 の前記主張は採用することができない。

(12)当審の判断(取消理由通知の理由ウ:特許法第36条第6項第2号)
平成31年4月12日に提出された訂正請求書による訂正において,「腐食防止剤」を,「マレイン酸,ベンゾトリアゾール,及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤」と訂正したことにより,「防腐防止剤」に,実施例で用いられた「マレイン酸」,「ベンゾトリアゾール」,及び,「リン酸ナトリウム」以外で,どのような材料まで含まれるのか,その範囲の外延が不明であるとする取消理由通知の理由イは解消した。

5 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし3,5ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1ないし3,5ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに,請求項4に係る特許は,上記のとおり,訂正により削除された。これにより,特許異議申立人 三上 早織 による特許異議の申立てについて,請求項4に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなど、ウエハの所定領域にレーザ光線を照射して所定の加工を実施するレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造工程のうち、ウエハのダイシング工程は、半導体積層工程が完了した後、それぞれの並ぶデバイスを、ストリートと呼ばれる境界面を切削して分離する工程であって、切削工程が終わると、チップ製造工程によって半導体製品が完成する。
【0003】
このようなウエハダイシング工程は、半導体の集積化に伴ってストリートの間隔が狭くなり、積層物の機械的物性も脆弱になるため、これを反映する方向に変化している。
【0004】
素子の集積化度が高くなるにつれて、積層物の最上段にある絶縁膜を形成する主材料のポリイミドがウエハダイシング工程中に破れる、あるいは損傷することがある。したがって、ウエハダイシング工程も、ブレードによってウエハを切断していた従来の工程から、レーザを用いてウエハに穴あけをした後に、ブレードを用いる工程に変わりつつあり、レーザだけを用いてウエハを切断する工程も導入されている。
【0005】
しかし、レーザを用いるウエハのダイシング工程では、レーザの熱によってヒューム(Fume)が発生して飛散し、これにより、ウエハの表面が汚染する問題が発生する。
【0006】
このような問題を解決するために、例えば、大韓民国公開特許第10-2006-0052590号は、水溶性樹脂、水溶性紫外線吸収剤、溶剤および添加剤(可塑剤、界面活性剤)を含むウエハ保護液組成物を開示しており、日本国特開昭53-8634号は、水溶性樹脂および水を含むレーザダイシング保護液剤を開示している。これらの従来の技術は、ウエハの上部面にポリビニルアルコール(Poly Vinyl Alcohol)、ポリエチレングリコール(Poly Ethylene Glycol)、セルロース(Cellulose)などの水溶性レジンを塗布して保護膜を形成し、レーザ光を照射する加工方法を提案する。
【0007】
しかし、このような方法は、ダイシング工程中、ウエハ保護液組成物が電解液のように作用し、接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)にガルバニック腐食を生じさせるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10-2006-0052590号公報
【特許文献2】日本国特開昭53-8634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、レーザダイシング工程中、ウエハ保護膜組成物が電解液のように作用して発生する金属接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)に対する腐食(例:ガルバニック腐食)を効果的に防止することができるレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水溶性樹脂を含む樹脂、マレイン酸、ベンゾトリアゾール、及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤、および水または水と有機溶媒との混合物である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を用い、レーザによってウエハをダイシングする工程を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は、腐食防止剤を含むことにより、金属接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)に対する腐食(例:ガルバニック腐食)を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を使用する場合、ウエハのダイシング工程で発生するバンプボールに対する腐食程度を確認するために撮影したSn/Pb合金のバンプボールのSEMイメージである。
【図2】従来のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を使用する場合、ウエハのダイシング工程で発生するバンプボールに対する腐食程度を確認するために撮影したSn/Pb合金のバンプボールのSEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、水溶性樹脂を含む樹脂、腐食防止剤、および水または水と有機溶媒との混合物である溶媒を含むレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物に関するものである。
【0015】
前記水溶性樹脂は、保護膜の基材となるもので、水などの溶剤に溶解させ、塗布・乾燥して膜を形成できるものであれば特に制限されない。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアルキレングリコール、アルキルセルロース、ポリアクリル酸(PAA)、ポリカルボン酸、ポリエチルオキサゾリンなどを例に挙げることができる。前記ポリアルキレングリコールの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられ、アルキルセルロースの例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
【0016】
前記水溶性樹脂は、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
前記水溶性樹脂は、ウエハに形成される保護膜の水洗性、密着性などを考慮してその種類を選択することができ、その観点から、分子量も調節可能である。
【0018】
前記水溶性樹脂を含む樹脂は、組成物の総重量に対して1?50重量%、より好ましくは5?40重量%で含まれ得る。樹脂の含有量が1重量%未満で含まれると、ウエハ保護膜の機能が低下し、50重量%を超えて含まれる場合は、保護膜の塗布性が低下する問題が発生することがある。
【0019】
本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物において、前記腐食防止剤は、ウエハ上に形成される金属接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)の腐食を防止するために含まれる。
【0020】
前記腐食防止剤は特に制限されず、例えば、有機酸、アミン、アルコール、無機酸塩、有機酸塩などがすべて使用できる。これらの腐食防止剤は、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
前記有機酸としては、ギ酸(Formic acid)、酢酸、プロピオン酸、酪酸、パルミチン酸、オレイン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、サリチル酸、マレイン酸、グリコール酸、グルタル酸、アジピン酸、パラトルエンスルホン酸、ラウリン酸、吉草酸、スルホコハク酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、アスコルビン酸、セバシン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0022】
前記アミンとしては、ヒドラジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、モノメチルエタノールアミン、ジグリコールアミン、モルホリン、N-アミノエチルピペラジン、ジメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、トリルトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0023】
前記有機酸塩は、前記例示された有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0024】
前記無機酸塩としては、硫酸、リン酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩、クロム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0025】
前記腐食防止剤は、組成物の総重量に対して0.01?10重量%で含まれ得る。腐食防止剤が前記範囲で含まれる場合、不都合を生じることなく、金属接合パッドおよびバンプボール(Bump ball)の腐食防止効果を得ることができる。
【0026】
本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物において、溶媒としては水を使用するが、保護膜組成物の膜厚を厚くするために、あるいは、塗布性の向上のために有機溶媒を混合して使用することもできる。有機溶媒としては、アルコール、エーテル、アセテートなどが挙げられ、より具体的には、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、アルキルカーボネート系のブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリセリンカーボネート、エチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
前記溶媒は、組成物の総重量が100重量%となる量で含まれ得る。
【0028】
本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は、消泡剤をさらに含むことができる。前記消泡剤は、組成物に発生する泡を除去する役割を果たす。本発明において、消泡剤の種類は特に制限されず、シリコン、ポリシリコン、シロキサン、ポリシロキサンなどが使用できる。
【0029】
前記消泡剤は、組成物の総重量に対して0.01?5重量%で含まれ得る。消泡剤が前記範囲で含まれる場合、不都合を生じることなく、組成物から発生する泡を防止することができる。消泡剤の含有量が0.01重量%未満で含まれると、ウエハ保護膜に対する消泡性が低下し、5重量%を超えて含まれる場合は、保護膜の塗布性が低下する問題が発生することがある。
【0030】
本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は、性能を向上させるために、当業界で公知の1つ以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0031】
例えば、本発明のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は、組成物の塗布性を向上させ、貯蔵安定性を高めるために、水溶性界面活性剤をさらに含むことができる。
【0032】
前記水溶性界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性アルキルシロキサン、ポリエーテル変性ポリアルキルシロキサン、ポリエーテル変性ヒドロキシ官能基のポリジメチルシロキサン、ポリエーテル-ポリエステル変性ヒドロキシポリアルキルシロキサン、非イオン性ポリアクリル系水溶性界面活性剤、アルコールアルコキシレート、ポリメリックフルオロ系水溶性界面活性剤などが挙げられ、これらは、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
本発明のウエハ保護膜組成物において、前記水溶性界面活性剤は、組成物に含まれる樹脂の総重量に対して10?80ppmで含まれることが好ましい。
【0034】
本発明は、また、前記レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を用い、レーザによってウエハをダイシングする工程を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法に関するものである。
【0035】
前記半導体素子の製造方法によって製造された半導体素子は、レーザによってウエハをダイシングする時、半導体素子が本発明のウエハ保護膜組成物で形成された保護膜によって完全に保護され、ダイシング完了後には前記保護膜が容易に洗浄されるため、欠陥(defect)のない状態で製造される特徴を有する。
【0036】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明は、下記の実施例によって限定されず、多様に修正および変更可能である。本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲の技術的思想によって定められる。
【0037】
実施例1?15および比較例1?4:レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物の製造
撹拌機が設けられている混合槽に、下記表1に記載された組成に基づいて、水溶性樹脂、腐食防止剤、消泡剤、および水を投入した後、常温で1時間、500rpmの速度で撹拌し、レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を製造した。
【0038】
【表1】

【0039】
注)
ポリビニルアルコール:重量平均分子量500
ポリビニルピロリドン:重量平均分子量66,800
ポリアクリル酸:重量平均分子量100,000
ポリエチルオキサゾリン:重量平均分子量50
【0040】
試験例1:レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物の腐食防止特性の評価
(1)金属接合パッドの腐食防止特性の評価
SiウエハにAlを50Åの厚さに蒸着した後、1.5cm×1.5cmの大きさに切断してウエハサンプルを用意した。前記ウエハサンプルを、前記製造された実施例1?15および比較例1?4のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物溶液の入った40℃の恒温槽に30分間ディッピング(Dipping)させた後、取り出して、水で洗浄して乾燥し、4-Point Probe(AIT社製CMT series)を用いてA1膜の厚さを測定し、Al膜のエッチング程度を測定した。測定結果は下記表2に示した。
【0041】
(2)バンプボールの腐食防止特性の評価
SiウエハにSn/Pb合金のバンプボールを形成した後、1.5cm×1.5cmの大きさに切断してウエハサンプルを用意した。前記ウエハサンプルを、前記製造された実施例1?15および比較例1?4のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物溶液の入った40℃の恒温槽に30分間ディッピング(Dipping)させた後、取り出して、水で洗浄して乾燥し、SEM(Hitachi社製S-4700)を用いて表面を撮影し、表面の腐食状態を評価した。評価結果は下記表2に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
前記表2から確認されるように、実施例1?15のウエハ保護膜組成物を適用したサンプルの場合は、4.5Å/min以下のAl膜のエッチング量を示したのに対し、比較例1?4のウエハ保護膜組成物を適用したサンプルの場合は、10Å/min以上のAl膜のエッチング量を示し、エッチング量において顕著な差を示した。
【0044】
また、実施例1?15のウエハ保護膜組成物を適用したサンプルの場合は、Sn/Pb合金のバンプボールの表面で腐食が発生せず、表面状態が良好であったのに対し、比較例1?4のウエハ保護膜組成物を適用したサンプルの場合は、Sn/Pb合金のバンプボールの表面が腐食したことが確認された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂を含む樹脂、マレイン酸、ベンゾトリアゾール、及びリン酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である腐食防止剤、および水または水と有機溶媒との混合物である溶媒を含むことを特徴とするレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項2】
前記組成物の総重量に対して、前記水溶性樹脂を含む樹脂を1?50重量%、前記腐食防止剤を0.01?10重量%、および残量の前記溶媒を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項3】
前記水溶性樹脂を含む樹脂が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアルキレングリコール、アルキルセルロース、ポリアクリル酸(PAA)、ポリカルボン酸およびポリエチルオキサゾリンからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記有機溶媒は、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリセリンカーボネートおよびエチレンカーボネートからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項6】
前記レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は、消泡剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項7】
前記消泡剤は、組成物の総重量に対して0.01?5重量%で含まれることを特徴とする請求項6に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項8】
前記レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物は、水溶性界面活性剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のレーザダイシング用ウエハ保護膜組成物を用い、レーザによってウエハをダイシングする工程を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-31 
出願番号 特願2013-174580(P2013-174580)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 祐一郎  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6310657号(P6310657)
権利者 東友ファインケム株式会社
発明の名称 レーザダイシング用ウエハ保護膜組成物  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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