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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61F
管理番号 1355336
審判番号 不服2018-13127  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-02 
確定日 2019-10-15 
事件の表示 特願2016-218609「吸収性物品、血液改質剤及び血液改質剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 64432、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年 2月29日に出願した特願2012- 43969号(以下「原出願」という。)の一部を平成28年11月 9日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年10月18日付け:拒絶理由の通知
平成30年 2月23日 :意見書の提出、手続補正
同年 6月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年10月 2日 :本件審判の請求
令和 元年 5月23日付け:拒絶理由の通知
同年 8月27日 :意見書の提出、手続補正

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、令和 元年 8月27日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、本願発明1及び5は以下のとおりである。
「【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、前記液透過性のトップシート及び液不透過性のバックシートの間の吸収体とを有する吸収性物品であって、
前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域において、0.10?0.22mmの厚さと、5?20g/m^(2)の坪量とを有するスパンボンド不織布又はSMS不織布であり、
前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域の肌当接面に、血液改質剤を含み、そして
前記血液改質剤が、1.5?40.0質量%の抱水率を有するポリオキシプロピレングリコール系化合物であり、
前記ポリオキシプロピレングリコール系化合物が、(B) (B1)ポリオキシプロピレングリコールと、(B2)炭化水素部分と、前記炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのモノ又はジエーテルであり、
前記吸収性物品が、生理用ナプキン又はパンティーライナーである、
ことを特徴とする、前記吸収性物品。
・・・
【請求項5】
血液改質剤の、液透過性のトップシートを有する吸収性物品への使用であって、
前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域において、0.10?0.22mmの厚さと、5?20g/m^(2)の坪量とを有するスパンボンド不織布又はSMS不織布であり、
前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域の肌当接面に、血液改質剤を含み、そして
前記血液改質剤が、1.5?40.0質量%の抱水率を有するポリオキシプロピレングリコール系化合物であり、
前記ポリオキシプロピレングリコール系化合物が、(B) (B1)ポリオキシプロピレングリコールと、(B2)炭化水素部分と、前記炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのモノ又はジエーテルであり、
前記吸収性物品が、生理用ナプキン又はパンティーライナーである、
ことを特徴とする、前記使用。
・・・」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が令和 元年 5月23日付けで通知した拒絶理由は、概略以下のとおりである。
1 引用文献一覧
引用文献1 特表2011-510801号公報
引用文献2 特開2009-178421号公報
引用文献3 特開2010-246896号公報
引用文献4 特表2011-510785号公報

2 拒絶理由の概要
(1)本願は、特許請求の範囲の記載が次のア、イの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
ア 「血液改質剤」について
イ サブコンビネーションの発明について
(2)本願の請求項1?17に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 前記拒絶理由についての判断
1 特許法第36条第6項第2号について
アの「血液改質剤」については、令和 元年8月27日に提出された意見書で、当審の疑義に対する説明がなされ、「血液改質剤」の語は「血液の性質を変化させる剤」を意味することが明らかとなった。
また、イのサブコンビネーションの発明については、令和 元年8月27日になされた手続補正により該当する請求項14及び15が削除された。
したがって、前記第3の2(1)の特許法第36条第6項第2号についての拒絶理由は解消した。

2 特許法第29条第2項について
前記第3の2(2)の特許法第29条第2項についての拒絶理由は、後記に示すとおり解消した。

3 引用文献
(1)引用文献1
原査定で引用され、当審が通知した前記拒絶理由でも引用した引用文献1(特表2011-510801号公報(平成23年 4月 7日国内公表))には、図面とともに次の記載がある。(下線は特に着目した箇所を示すために当審で付与した。引用文献の摘記について以下同じ。)
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収性物品であって、
液体透過性トップシートであって、前記トップシートが、前記吸収性物品の内側に向けられる内表面、及び前記吸収性物品が着用された際に着用者の皮膚に向けられる外表面を有する、液体透過性トップシートと、
前記トップシートに接合されるバックシートであって、前記バックシートが、前記吸収性物品の内側に向けられる内表面、及び前記吸収性物品が着用された際に前記着用者の衣類に向けられる外表面を有する、バックシートと、
前記トップシートと前記バックシートとの間に配置される吸収性コアであって、前記吸収性コアが、前記吸収性物品が着用された際に前記着用者の皮膚に向けられる内表面、及び前記吸収性物品が着用された際に前記着用者の衣類に向けられる外表面を有する、吸収性コアと、
前記トップシートの前記外表面の少なくとも一部に適用されるローション組成物であって、前記ローション組成物が、ポリプロピレングリコールコポリマー、ポリプロピレングリコール界面活性剤、及びこれらの混合物からなる群から選択されるポリプロピレングリコール材料を含む、ローション組成物と、
を含む、吸収性物品。」
イ 「【請求項7】
前記ポリプロピレングリコール界面活性剤が、PPG-15ステアリルエーテルである、請求項6に記載の吸収性物品。」
ウ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は経血を吸収するためのタンポン及び生理用ナプキンのような生理用品を含む吸収性物品に関する。より具体的には、本発明はポリプロピレングリコール材料を含むローション組成物を含む生理用品に関し、このローション組成物がその外表面に適用されている。」
エ 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体が身体から離れ、トップシートを通って製品中に移動することを可能にし得る、女性用衛生物品の処理を有することが有益である。
【0006】
更に、制御された様式での、月経液のような流体の移動を可能にする女性用衛生製品の処理を有することが有益である。
【0007】
更に、特に体液との複数回の接触の後に、トップシート及び着用者の皮膚の両方の知覚される清潔性を向上するように移動する流体、例えば、月経液を促進する女性用衛生物品の処理を有することが有益である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生理用品のような吸収性物品は液体透過性トップシートを含み、トップシートは吸収性物品の内部に向かって配向される内表面及び、吸収性物品が着用されるときに着用者の皮膚に向かって配向される外表面を有する。吸収性物品はトップシートに接合したバックシートを含み、バックシートは吸収性物品の内部に向かって配向される内表面及び、吸収性物品が着用されるときに着用者の衣類に向かって配向される外表面を有する。吸収性物品はトップシートとバックシートとの間に配置される吸収性コアを含み、この吸収性コアは吸収性物品が着用されるときに、着用者の皮膚に向かって配向される内表面及び、吸収性物品が着用されるときに、着用者の衣類に向かって配向される外表面を有する。吸収性物品は、トップシートの外表面の少なくとも一部に適用されるローション組成物を含み、ローション組成物が、ポリプロピレングリコール材料を含む。一実施形態では、ローション組成物が、ポリプロピレングリコール材料、特にポリプロピレングリコールホモポリマー、例えば、ポリプロピレングリコール、及び任意によりキャリアとから本質的になる。別の実施形態では、ローション組成物が、ポリプロピレングリコールコポリマー、ポリプロピレングリコール界面活性剤、及びこれらの混合物からなる群から選択されるポリプロピレングリコール材料を含む。ポリプロピレングリコール材料を含むローション組成物が、トップシートの外表面に適用されると、体液、例えば経血がトップシートに付着することに抵抗し、吸収性物品の着用者に移動する際に、体液が着用者の皮膚に付着することに抵抗することを助け、それによって吸収性物品のトップシート上へのより少ない染み、及び着用者の肌のより少ない汚染を生じる。ローション組成物はまた、トップシートの外表面に適用されると、吸収性物品の連続的な流体獲得の改善を助けることもできる。」
オ 「【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は吸収性物品、具体的には、その上にローション処理組成物を有する使い捨て吸収性物品であって、処理組成物はポリプロピレングリコール(「PPG」)材料を含む吸収性物品を目的とする。使い捨て吸収性物品は失禁用具及びタンポン、生理用ナプキン、パンティライナー、陰唇間製品等のような生理用品を含む、乳幼児用おむつ、又は女性用衛生製品であってよい。本発明は生理用ナプキン又はパンティライナーのような生理用品の1つの実施形態に関して、以下に開示する。
【0011】
図1、2及び3はトップシート14の外表面を含む身体接触表面12と、トップシート14に接合した液体不透過性バックシート16と、吸収性コア18と、を有する、生理用ナプキン、又はパンティライナーであってもよい生理用品10を示す。生理用ナプキン10は長手方向軸Lを有し、また当該技術分野において既知の「ウィング」又は「フラップ」(図示せず)、並びに、及び/又は第2トップシート及び/又は流体獲得層及び/又は吸収性コア18への流体輸送を促進するように設計された他の層を含む、ナプキンに一般的に見られる追加的特徴を備えてもよい。同様に、生理用ナプキンのトップシートは当該技術分野において既知の様々な任意の特徴を有することができる。例えば、トップシート14はその中に流体の流れを導くエンボス加工されたチャネルを有することができ、それらを通して流体獲得するのに役立つ開口部を有することができ、その上で又はそれを通して可視である印刷されたシグナルを有することができ、この可視シグナルはトップシート又はその下層上に印刷され、機能的及び審美的特性のために可視である。
【0012】
図1、2及び3の生理用品10はそれぞれ、それに適用されるローション組成物22を有する。図1の生理用品10は、トップシート14の外表面に平行な縞で適用されるローション組成物22を有する。図2の生理用品10は、トップシート14の外表面に斑点のパターンで適用されるローション組成物22を有する。図3の生理用品10は、トップシート14の外表面に不均一なパターンで適用されるローション組成物22を有する。
【0013】
吸収性物品は着用者の身体に対して適合し、柔らかな感触であり、刺激がないものなど、いずれか既知の、又はその他の有効なトップシートを含んでもよい。好適なトップシート材料としては、着用者の身体に向かって配向され、身体に接触して、流体がトップシートを通って着用者の皮膚に逆流することなく、身体の排泄物がそれを通って迅速に浸透できる、液体透過性材料が挙げられる。トップシートが、トップシートを通る流体の迅速な移動を可能にできる一方、ローション組成物が着用者の身体の外側又は内側部分の上へ移動又は移行するようにする。好適なトップシートは生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド等のような生理用品を製造する分野で周知である、織布材料及び不織布材料、孔あき成形熱可塑性フィルム、孔あきプラスチックフィルム及び交絡加工繊維孔あきフィルムを含む孔あきフィルム材料、ハイドロフォーミングされた熱可塑性フィルム、多孔質発泡体、網状発泡体、網状熱可塑性フィルム、熱可塑性スクリム、又はこれらの組み合わせのような種々の材料から製造することができる。
【0014】
トップシートが不織布ウェブの形態の不織布繊維性材料を含むときに不織布ウェブは不織布ウェブを作製する任意の既知の手順により製造してよく、この非限定的な例としては、スパンボンディング、カーディング、ウェットレイド、エアレイド、メルトブローン、ニードルパンチング、機械交絡、熱機械交絡及び水流交絡が挙げられる。」
カ 「【0017】
本発明の生理用品はローション組成物22を含み、ローション組成物はPPG材料を含む。PPGローション組成物22は、任意の既知の方法、任意の既知のパターンで、トップシート14の外表面(すなわち、身体に面する表面)に適用され得る。例えば、ローション22は図1に示すように、概略平行な細長条又はバンドのパターンで適用することができる。外表面は生理用ナプキンのトップシートの身体に面する側面又はタンポンの上包みの膣壁に面する表面のような表面を含むことができる。
【0018】
トップシートの外表面(すなわち、身体に面する表面)へのローション組成物の適用に関し、PPGローション組成物は、体液、例えば、月経液のトップシートの外表面への付着の軽減を助け、それによって、吸収性物品のトップシートへのより少ない染みを生じるものと考えられる。トップシートへのPPGローションの適用はまた、PPGローションの着用者の皮膚への移動を可能にし、着用者の皮膚のより少ない汚染を生じるトップシートの外表面に適用されると、ローション組成物はまた、吸収性物品への体液の、より効率的な獲得を提供することを助け得る。」
キ 「【0021】
本発明のローション組成物22は非PPG由来の界面活性剤及び他の表面改質剤を含む、既知のローションより有効な利点を提供する。この利点は経血を吸収するための生理用品で特に重要である。理論に縛られるものではないが、本明細書のPPG材料の優れた流体処理特性は経血の水成分に作用する表面エネルギー処理とは対照的に、PPG材料が経血の固体成分に作用する方法に起因すると考えられる。既知の表面エネルギー処理は表面エネルギー処理の効果を複雑にする経血の極性及び分散性成分の存在に起因して、それほど有効ではない。本明細書におけるPPG材料が、典型的には経血に容易に溶解しないため、経血中に融解することなく効果的に表面をコーティングすることができ、これは、その電子供与双極子が、負に双極化したタンパク質を拒絶する水和障壁を提供し、これによって経血の、使い捨て吸収性物品、又は着用者に皮膚の表面を汚染する傾向を低減する。着用者の皮膚及び/又はトップシートの低減された汚染は、より良好で、より迅速な流体の移動、及び使用される製品上のより少ない可視の染みのパターンを生じる。」
ク 「【0024】
本発明のローション組成物はPPG材料を含む。本明細書で好適なPPG材料としては、PPGホモポリマー材料、PPGコポリマー材料及びPPG界面活性剤材料、並びにこれらの混合物が挙げられる。ローション組成物は他の任意成分を更に含むことができる。1つの実施形態では、ローション組成物は本質的にPPG材料、好ましくはポリプロピレングリコールからなるか、PPG材料、好ましくはポリプロピレングリコールからなる。別の実施形態では、ローション組成物は、ポリプロピレングリコールコポリマー、ポリプロピレングリコール界面活性剤、及びこれらの混合物からなる群から選択されるPPG材料を含む。」
ケ 前記ア?クの記載を総合して整理すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「液体透過性材料のトップシート14と、液体不透過性バックシート16と、トップシート14とバックシート16の間に配置される吸収性コア18とを有する吸収性物品であって、
トップシート14が、身体に面する表面に、PPG材料を含むローション組成物22を含み、前記PPG材料が、PPG-15ステアリルエーテルであり、
前記PPG材料を含むローション組成物22は、経血がトップシートに付着することに抵抗し、経血が身体から離れ、トップシートを通って吸収性物品に移動することを可能にし得るものであり、
前記吸収性物品が生理用ナプキン又はパンティライナーのような生理用品である
吸収性物品」

(2)引用文献2
当審が通知した前記拒絶理由で引用した引用文献2(特開2009-178421号公報(平成21年 8月13日出願公開))には、図面とともに次の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿や経血等の排泄物を吸収するために使用される吸収パッドに関するものである。」
イ 「【0017】
透液性トップシート2としては、有孔または無孔の不織布や穴あきプラスチックシートなどが用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、アミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることができる。透液性トップシート2に用いる不織布の繊維目付けは15?30g/m^(2)であるのが好ましく、厚みは0.05?1mmであるのが好ましい。」

(3)引用文献3
当審が通知した前記拒絶理由で引用した引用文献3(特開2010-246896号公報(平成22年11月 4日出願公開))には、図面とともに次の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面側に重ねて使用される尿取りパッド、失禁パッドなどの補助吸収性物品であって、吸収性物品の体液吸収量を効果的に増加させる機能を備えた補助吸収性物品に関する。」
イ 「【0037】
前記吸収体4の表面側(肌当接面側)を覆う透液性の表面シート3としては、有孔または無孔の不織布や多孔性プラスチックシートなどが好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維は、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、SMS法、サーマルボンド法、エアスルー法、ポイントボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。特には、吸収体4を構成するパルプ及びSAPが抜け出ないように、SMS法により加工された不織布が好適である。これらは1層からなるシートが操業の点から最も好ましいが、2層以上(同一種類あるいは複数種類)からなるシートでもよいが、合計の坪量としては、10?40g/m^(2)が好ましく、10?22g/m^(2)がより好ましく、10?15g/m^(2)が特に好ましい。厚みは1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。表面シート3に多数の透孔を形成した場合には、尿などが速やかに吸収されるようになり、ドライタッチ性に優れたものとなる。前記表面シート3は、吸収体4の側縁部から側方まで延在している。」

(4)引用文献4
当審が通知した前記拒絶理由で引用した引用文献4(特表2011-510785号公報(平成23年 4月 7日国内公表))には、図面とともに次の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の股部に装着するように設計される吸収性物品に関する。」
イ 「【0062】
一実施例では、不織布24は、BBA,Washougal Washington,U.S.から入手できる、商品名083YLCCD09P、ロット番号BBWW142292、BBA 28gsmなどの疎水性不織布とすることができる。不織布の親水性ゾーン37は、不織布24を構成する繊維の少なくとも一部がARLAMOL Eなどの界面活性剤で部分的にコーティングされる又は覆われる(すなわち、処理される)不織布24のゾーンとすることができる。有孔フィルム25は、DRI-WEAVEとしてProcter & Gamble Co.から販売されている有孔フィルムとすることができる。」

4 対比
(1)まず本願発明の用語の意味を整理する。
本願発明の「ポリオキシプロピレングリコール」は、明細書の記載(特に【0015】等)も参酌すれば、多数のプロピレングリコールが脱水縮合した化合物であるから「ポリプロピレングリコール」と同一の化合物を意味すると認められる。また、「ポリオキシプロピレングリコール系化合物」は、明細書【0011】に記載されるようにPPG骨格を含む化合物であり、PPG及びPPGと他の化合物とが結合した構造を有する化合物を意味すると認められる。
また、前記第4の1に示したとおり、本願発明の「血液改質剤」は、単に「血液の性質を変化させる剤」を意味する。

(2)本願発明1と、引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「液体透過性材料のトップシート14」は、その機能及び構成からみて、本願発明1の「液透過性のトップシート」に相当し、以下同様に、「液体不透過性バックシート16」は「液不透過性のバックシート」に、「トップシート14とバックシート16の間に配置される吸収性コア18」は「前記液透過性のトップシート及び液不透過性のバックシートの間の吸収体」に、「吸収性物品」は「吸収性物品」に、「身体に面する表面」は「肌当接面」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明においてPPG材料を含むローション組成物22が「経血がトップシートに付着することに抵抗し、経血が身体から離れ、トップシートを通って吸収性物品に移動することを可能にし得る」ことや、引用発明の「PPG材料」である「PPG-15ステアリルエーテル」が、本願の明細書(【0097】)で「血液改質剤」の具体例であるMS-70Kの化合物として記載されていることなどからみて、引用発明の「PPG材料」は、本願発明1の「血液改質剤」に相当する。
したがって、引用発明の「トップシート14が、身体に面する表面に、PPG材料を含むローション組成物22を含」むことは、本願発明1の「前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域の肌当接面に、血液改質剤を含」むことに相当する。
ウ 引用発明の「PPG材料」である「PPG-15ステアリルエーテル」は、特に本願の明細書【0018】?【0024】の記載からみて、本願発明1の「ポリオキシプロピレングリコール系化合物」に相当するとともに、「ポリオキシプロピレングリコールと、(B2)炭化水素部分と、前記炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのモノ又はジエーテル」に相当する。また、本願の明細書【0104】に示された【表1】でMS-70K(PPG-15ステアリルエーテル)の抱水率が2.8%とされていることから、引用発明の「PPG-15ステアリルエーテル」も同様に抱水率2.8%と推認される。
したがって、引用発明の「PPG材料が、PPG-15ステアリルエーテルであ」ることは、本願発明1の「前記血液改質剤が、1.5?40.0質量%の抱水率を有するポリオキシプロピレングリコール系化合物であり、 前記ポリオキシプロピレングリコール系化合物が、(B) (B1)ポリオキシプロピレングリコールと、(B2)炭化水素部分と、前記炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのモノ又はジエーテルであ」ることに相当する。
エ 引用発明の「前記吸収性物品が生理用ナプキン又はパンティライナーのような生理用品である」ことは、本願発明1の「前記吸収性物品が、生理用ナプキン又はパンティーライナーである」ことに相当する。
オ 以上のことから、本願発明1と引用発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

「一致点」
「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、前記液透過性のトップシート及び液不透過性のバックシートの間の吸収体とを有する吸収性物品であって、
前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域の肌当接面に、血液改質剤を含み、そして
前記血液改質剤が、1.5?40.0質量%の抱水率を有するポリオキシプロピレングリコール系化合物であり、
前記ポリオキシプロピレングリコール系化合物が、(B) (B1)ポリオキシプロピレングリコールと、(B2)炭化水素部分と、前記炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのモノ又はジエーテルであり、
前記吸収性物品が、生理用ナプキン又はパンティーライナーである、
前記吸収性物品。」である点。
「相違点」
本願発明1は、「前記液透過性のトップシートが、排泄口当接域において、0.10?0.22mmの厚さと、5?20g/m^(2)の坪量とを有するスパンボンド不織布又はSMS不織布であ」るのに対し、引用発明は、トップシートの材料が特定されていない点。

5 判断
前記相違点について判断する。
引用文献1には、引用発明のトップシートの材料として好適な例の一つに「不織布材料」が挙げられており(【0013】)、不織布の製造方法の例として「スパンボンディング」によるものが挙げられている(【0014】)が、その具体的な厚さや坪量については記載されていない。
これに対し、本願発明1は、トップシートが「排泄口当接域において、0.10?0.22mmの厚さと、5?20g/m^(2)の坪量とを有するスパンボンド不織布又はSMS不織布」(以下「本願発明のトップシート」という。)であることを特定事項として含むものであり、請求項1で特定される血液改質剤に加えて本願発明のトップシートを採用することで、トップシート内部の経血を、吸収体がその内部に引き込みやすい、すなわちトップシートへの血液残存率が低いという効果を奏する。
このような効果は本願明細書の【0065】、【0067】、【0104】、【0108】の記載から把握されるとともに、令和 元年8月27日に提出された意見書で補足された追加実験の結果を参照すれば、前記本願発明のトップシートの数値範囲で、他の範囲に比べて臨界的効果を有することが認められる。
してみると、本願発明1の前記効果は、引用文献1に開示されていない有利なものであって、引用発明の効果と比べて顕著であり、当業者が予測できたものでもないから、前記相違点は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、引用文献2?4にも、前記血液改質剤と本願発明のトップシートを併用することについての記載や示唆は見当たらない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 本願発明2?8について
本願発明2?4は、直接又は間接の引用により本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定事項を付加したものである。したがって、本願発明1が前記3に記載のとおり引用発明及び引用文献2?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本願発明2?4も、引用発明及び引用文献2?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明5?8は、実質的にそれぞれ本願発明1?4の「吸収性物品」の発明を血液改質剤の「使用」(方法)に係る発明として表現したものであり、表現上の差異を有するのみであるから、本願発明1?4と同様に、引用発明及び引用文献2?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 原査定の拒絶理由
原査定の理由は、平成29年10月18日付けの拒絶理由通知書に示したものであって、概略以下のとおりである。
1 引用文献一覧
引用文献A 特表2002-536072号公報
引用文献B 特開2003-201677号公報
引用文献C 特表2011-510801号公報
引用文献D 特表昭62-500196号公報

2 拒絶理由の概要
本願発明1?9、13に係る発明は、引用文献A?Cに記載された発明及び引用文献Dに記載された公知の事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明10?12に係る発明は、引用文献Cに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 原査定の理由についての判断
原査定の前記引用文献Cは、当審決で引用する前記引用文献1と同一のものである。また、原査定の引用文献A?Dの記載にも、前記第4の5における前記相違点の判断を覆す根拠は見当たらない。
よって、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。

第6 むすび
前記第3?第5のとおり、原査定の理由及び当審が通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-30 
出願番号 特願2016-218609(P2016-218609)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61F)
P 1 8・ 537- WY (A61F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 門前 浩一
西尾 元宏
発明の名称 吸収性物品、血液改質剤及び血液改質剤の使用  
代理人 奥野 剛規  
代理人 青木 篤  
代理人 小野田 浩之  
代理人 三橋 真二  
代理人 藤本 健治  

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