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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1355367 |
審判番号 | 不服2018-8747 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-26 |
確定日 | 2019-09-19 |
事件の表示 | 特願2017-198684「化合物、液晶組成物、光学フィルム、偏光板および光学ディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月17日出願公開、特開2018-77464〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年10月12日〔優先権主張 平成28年11月1日(JP)日本国〕を出願日とする特許出願であって、 平成30年1月4日付けの拒絶理由通知に対し、平成30年3月9日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、 平成30年3月22日付けの拒絶査定に対し、平成30年6月26日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされるとともに、平成31年1月24日付けで上申書の提出がなされ、 平成31年4月9日付けの審尋に対し、令和元年6月17日付けで回答書の提出がなされたものである。 第2 平成30年6月26日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成30年6月26日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1.補正の内容 平成30年6月26日付け手続補正(以下「第2補正」という。)は、平成30年3月9日付けの手続補正(以下「第1補正」という。)による補正後の請求項1の 「【請求項1】少なくとも1種の式(A)で表される化合物、および、少なくとも1種の式(B)で表される重合性液晶化合物を含む液晶組成物であって、式(A)および式(B)中、B^(1)とB^(2)およびB^(3)とが同一であり、E^(1)とE^(2)およびE^(3)とが同一であり、A^(1)とA^(2)およびA^(3)とが同一であり、G^(1)とG^(2)およびG^(3)とが同一であり、F^(1)とF^(2)およびF^(3)とが同一であり、m1とm2およびm3とが同一であり、n1とn2およびn3とが同一であり、P^(1)とP^(2)およびP^(3)とが同一であり、かつ、式(A)で表される化合物の液体クロマトグラフィーで測定した面積百分率値は、該液晶組成物に含まれる式(A)で表される化合物および式(B)で表される重合性液晶化合物の面積値の合計に基づいて18%以下である、液晶組成物。 【化1】 [式(A)中、 B^(1)およびE^(1)は、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し、 A^(1)およびG^(1)は、それぞれ独立に、炭素数6?20の2価の芳香族炭化水素基または炭素数3?16の2価の脂環式炭化水素基を表し、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)、-OR^(3)、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表し、該アルキル基に含まれる水素原子はそれぞれ独立にフッ素原子で置換されていてもよく、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる炭素原子は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子または窒素原子で置換されていてもよく、 F^(1)は、炭素数1?17のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)または-OR^(3)で置換されていてもよく、R^(3)は上記と同義であり、該アルカンジイル基に含まれる-CH_(2)-は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-Si-または-CO-で置換されていてもよく、 m1およびn1は、それぞれ独立に、0?3の整数を表し、 P^(1)は、水素原子または重合性基を表し、 R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立に、1価の置換基を表し、 Xは、酸素原子または硫黄原子を表す。] 【化2】 [式(B)中、 B^(2)、B^(3)、E^(2)、E^(3)、D^(1)およびD^(2)は、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し、 A^(2)、A^(3)、G^(2)およびG^(3)は、それぞれ独立に、炭素数6?20の2価の芳香族炭化水素基または炭素数3?16の2価の脂環式炭化水素基を表し、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)、-OR^(3)、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく、R^(3)は上記と同義であり、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる炭素原子は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子または窒素原子で置換されていてもよく、 F^(2)およびF^(3)は、それぞれ独立に、炭素数1?17のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)または-OR^(3)で置換されていてもよく、R^(3)は上記と同義であり、該アルカンジイル基に含まれる-CH_(2)-は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-Si-または-CO-で置換されていてもよく、 m2、m3、n2およびn3は、それぞれ独立に、0?3の整数を表し、 Ar^(1)は、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、該芳香族基中に、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含み、 P^(2)およびP^(3)は、それぞれ独立に、水素原子または重合性基を表し、P^(2)およびP^(3)の少なくとも1つは重合性基である。]」 との記載を、第2補正による補正後の請求項1の 「【請求項1】少なくとも1種の式(A)で表される化合物、および、少なくとも1種の式(B)で表される重合性液晶化合物を含む液晶組成物であって、式(A)および式(B)中、B^(1)とB^(2)およびB^(3)とが同一であり、E^(1)とE^(2)およびE^(3)とが同一であり、A^(1)とA^(2)およびA^(3)とが同一であり、G^(1)とG^(2)およびG^(3)とが同一であり、F^(1)とF^(2)およびF^(3)とが同一であり、m1とm2およびm3とが同一であり、n1とn2およびn3とが同一であり、P^(1)とP^(2)およびP^(3)とが同一であり、かつ、式(A)で表される化合物の液体クロマトグラフィーで測定した面積百分率値は、該液晶組成物に含まれる式(A)で表される化合物および式(B)で表される重合性液晶化合物の面積値の合計に基づいて18%以下である、液晶組成物。 【化1】 [式(A)中、 B^(1)は、単結合または2価の連結基を表し、 E^(1)は、-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(4)-または-NR^(4)-CO-を表し、R^(4)は炭素数1?4のアルキル基を表し、 A^(1)およびG^(1)は、それぞれ独立に、炭素数6?20の2価の芳香族炭化水素基または炭素数3?16の2価の脂環式炭化水素基を表し、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)、-OR^(3)、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表し、該アルキル基に含まれる水素原子はそれぞれ独立にフッ素原子で置換されていてもよく、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる炭素原子は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子または窒素原子で置換されていてもよく、 F^(1)は、炭素数1?17のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)または-OR^(3)で置換されていてもよく、R^(3)は上記と同義であり、該アルカンジイル基に含まれる-CH_(2)-は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-Si-または-CO-で置換されていてもよく、 m1およびn1は1であり、 P^(1)は、水素原子または重合性基を表し、 R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立に、式(r-1)?(r-6) [式中、*は連結部を表す。] のいずれかで表される基であり、 Xは、酸素原子または硫黄原子を表す。] 【化2】 [式(B)中、 B^(2)およびB^(3)は、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し、 A^(2)、A^(3)、G^(2)およびG^(3)は、それぞれ独立に、炭素数6?20の2価の芳香族炭化水素基または炭素数3?16の2価の脂環式炭化水素基を表し、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)、-OR^(3)、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく、R^(3)は上記と同義であり、該芳香族炭化水素基または該脂環式炭化水素基に含まれる炭素原子は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子または窒素原子で置換されていてもよく、 F^(2)およびF^(3)は、それぞれ独立に、炭素数1?17のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、-R^(3)または-OR^(3)で置換されていてもよく、R^(3)は上記と同義であり、該アルカンジイル基に含まれる-CH_(2)-は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-Si-または-CO-で置換されていてもよく、 E^(2)、E^(3)、D^(1)およびD^(2)は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表し、 m2、m3、n2およびn3は1であり Ar^(1)は、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、該芳香族基中に、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含み、 P^(2)およびP^(3)は、それぞれ独立に、水素原子または重合性基を表し、P^(2)およびP^(3)の少なくとも1つは重合性基である。]」 との記載に改める補正を含むものである。 2.補正の適否 (1)補正の目的及び補正発明の独立特許要件について 上記請求項1についての補正は、補正前の「m1およびn1は、それぞれ独立に、0?3の整数を表し」との記載部分を、補正後の「m1およびn1は1であり」との記載に改めるとともに、補正前の「m2、m3、n2およびn3は、それぞれ独立に、0?3の整数を表し」との記載部分を、補正後の「m2、m3、n2およびn3は1であり」との記載に改める補正(以下「m1?m3及びn1?n3の補正」という。)、 補正前の「R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立に、1価の置換基を表し」との記載部分を、補正後の「R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立に、式(r-1)?(r-6) [式中、*は連結部を表す。] のいずれかで表される基であり」との記載に改める補正(以下「R^(1)及びR^(2)の補正」という。)、並びに 補正前の「B^(1)およびE^(1)は、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し」との記載部分を、補正後の「B^(1)は、単結合または2価の連結基を表し、E^(1)は、-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(4)-または-NR^(4)-CO-を表し、R^(4)は炭素数1?4のアルキル基を表し」との記載に改めるとともに、補正前の「B^(2)、B^(3)、E^(2)、E^(3)、D^(1)およびD^(2)は、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し」との記載部分を、補正後の「B^(2)およびB^(3)は、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し、…E^(2)、E^(3)、D^(1)およびD^(2)は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表し」との記載に改める補正(以下「E^(1)?E^(3)及びD^(1)?D^(2)の補正」という。)からなるものである。 ここで、上記「m1?m3及びn1?n3の補正」は、m1?m3及びn1?n3のとり得る範囲を、補正前の「0?3の整数」から補正後の「1」に限定して減縮するものであり、 また、上記「R^(1)及びR^(2)の補正」は、R^(1)及びR^(2)のとり得る範囲を、補正前の「1価の置換基」から補正後の「式(r-1)?(r-6)…のいずれかで表される基」に限定して減縮するものであり、 さらに、上記「E^(1)?E^(3)及びD^(1)?D^(2)の補正」は、E^(1)のとり得る範囲を、補正前の「単結合または2価の連結基」から補正後の「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(4)-または-NR^(4)-CO-を表し、R^(4)は炭素数1?4のアルキル基を表し」に限定して減縮し、E^(2)?E^(3)及びD^(1)?D^(2)のとり得る範囲を、補正前の「単結合または2価の連結基」から補正後の「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表し」に限定して減縮するものであるから、 これらの補正は、いずれも補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定して特許請求の範囲の減縮をするものといえる。 そして、これらの補正により、補正前後の請求項1にされる発明の「産業上の利用分野」及び「解決しようとする課題」が変更されるものでもない。 してみると、上記請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正に該当するといえる。 そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について検討する。 (2)補正発明のサポート要件について ア.補正発明とその解決しようとする課題について 補正発明は、上記「1.補正の内容」の項に示したとおりのものであり、 その式(A)及び式(B)で表される化合物の合計に対する「式(A)で表される化合物の液体クロマトグラフィーで測定した面積百分率値」が「18%以下」であること、 その式(A)で表される化合物の「R^(1)およびR^(2)」が、それぞれ独立に「式(r-1)?(r-6)」のいずれかで表されるものであること、並びに その式(B)で表される化合物の「D^(1)およびD^(2)」が、それぞれ独立に「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表」すものであることを、発明特定事項として含んでいる。 そして、補正発明の解決しようとする課題は、本願明細書の段落0007の記載からみて『配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な液晶組成物の提供』にあるものと認められる。 イ.本願明細書の記載について 本願明細書の段落0007には「本発明は、配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な化合物を提供すること」が目的として記載され、 同段落0008には、その課題解決のために「重合性液晶化合物を含む液晶組成物のネマチック相転移温度を低下することができる化合物」について詳細に検討を重ねて発明を完成させるに至ったことが記載され、 同段落0035には、式(B)で表される重合性液晶化合物を含む液晶組成物に、式(A)で表される化合物を添加することにより、配向欠陥の発生を抑制すると共に、該液晶化合物の配向を妨げすぎることなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下させることができ、その理由として、式(A)及び式(B)の化合物が、互いに類似する構造単位を有するため、互いに相溶し、結晶が析出しにくくなると考えられ、式(A)及び式(B)の化合物のメソゲン部分が互いに類似する構造単位を有することが好ましいことが記載され、 同段落0115には、液体クロマトグラフィーで測定した式(A)及び式(B)の化合物の面積値の合計に対する式(A)の化合物の面積百分率が、18%を超えると、式(A)の化合物が結晶となって析出したり、式(B)の重合性液晶化合物の配向を妨げたりするため、配向欠陥が生じ易く所望の光学特性が得難くなることが記載され、 同段落0116には、式(A)の化合物の面積百分率値が、下限以上であるとネマチック相転移温度を低下させやすく、液晶組成物の保存時に化合物が析出しにくく、上限以下であると液晶の配向状態を良好に保つことができ、配向欠陥が発生しにくいことが記載されている。 そして、同段落0171には「〔製造例1:式(B-1)で表される化合物の製造〕…【化29】 」との記載がなされているところ、 本願明細書の実施例1?4のものは、補正発明の式(A)及び式(B)において、そのP^(1)?P^(3)が「アクリロイルオキシ基(重合性基)」であり、そのF^(1)?F^(3)が「無置換のヘキシニル基(炭素数6のアルカンジイル基)」であり、そのB^(1)?B^(3)が「-O-(2価の連結基)」であり、そのA^(1)?A^(3)が「無置換の1,4-フェニレン基」であり、そのm1?m3が1であり、そのE^(1)、E^(2)及びD^(2)が「-OCO-」であり、そのG^(1)?G^(3)が「無置換のシクロヘキサン-1,4-ジイル基」であり、そのn1?n3が1であり、そのD^(1)及びE^(3)が「-COO-」であり、そのAr^(1)が本願明細書の段落0048の式(Ar-6)であり、そのZ^(1)及びZ^(2)が「水素原子」であり、そのQ^(1)が「-S-」であり、そのJ^(1)が「窒素原子」であり、そのY^(2)が特定の「芳香族複素環基」であり、そのXが酸素原子であり、そのR^(1)及びR^(2)が式(r-2)であるものに限られている。 また、本願明細書の段落0179の表1には、式(A-1)の化合物の「混合比」と「面積百分率値」について「 」との試験結果が示されており、 同段落0187の表3には、配向欠陥の評価として、式(A-1)の化合物の面積百分率値が0.00?1.00%の範囲にある比較例1及び実施例2?3のものが「4:欠陥なし」で、10.00%の実施例4のものが「3:1?10個」で、20.00%の比較例2のものが「1:全面に配向欠陥が発生(>100個)」との試験結果が示されている。 ウ.式(B)の「D^(1)およびD^(2)」の選択肢について 本願明細書の段落0008及び0035等の記載にあるように、補正発明は、式(B)の重合性液晶化合物を含む液晶組成物に、これと類似する構造単位を有する式(A)の化合物を添加することにより、補正発明の上記『配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な液晶組成物の提供』という課題の解決を図ろうとするものである。 また、平成30年6月26日付けの審判請求書の第4頁には『本願明細書の実施例には、上記特定の構造を有する化合物(A-1)と重合性液晶化合物(B-1)とを本願請求項1に規定する特定の配合比率で含む液晶組成物を用いて作製した光学フィルムにおいて、配向欠陥を抑制するとともに、光学特性を損なうことなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下できることが確認されています(実施例2?4、表1および表3参照)。したがって、補正後の本願請求項1において特定された構造を有する式(A)で表される化合物と式(B)で表される化合物とを含む液晶組成物により、配向欠陥の発生を抑制するとともに、光学特性を損なうことなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下させることが可能な化合物を含む液晶組成物を提供するという本願発明の課題を解決し得ることは、本願明細書の記載に基づき、当業者であれば十分に認識し得るものです。』との主張がなされている。 しかして、平成30年1月4日付けの拒絶理由通知書では「式(A)に包含されるすべて、および、…式(B)に包含されるすべてが、上記本願発明の課題を解決する組成物として、具体的に開示された、化合物A-1や化合物B-1と同等であると認識することができない。」との指摘がなされているのに対して、 補正発明は、その式(B)で表される化合物の「D^(1)およびD^(2)」が、それぞれ独立に「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表」すという広範な範囲で特定され、その式(A)で表される化合物のXも「酸素原子または硫黄原子を表す」ものに特定されたままであるので、式(A)及び式(B)の化合物の化学構造が、具体例の式(A-1)及び式(B-1)と同程度に類似する範囲にあるとはいえず、補正発明の式(A)及び式(B)の化合物の広範な組み合わせの全てが、配向欠陥の発生を抑制でき、補正発明の上記課題を解決できると認識できる範囲にあると直ちに解することができない。 すなわち、本願明細書の実施例2?4のように、式(A-1)の-CX-が「-CO-」であり、式(B-1)のD^(1)とD^(2)の各々が「-CO-O-」と「-O-CO-」であって、互いに類似した構造にある場合には、実施例2?3のように「4:欠陥なし」の試験結果が得られるとしても、 例えば、式(A)の-CX-が「-CS-」の化合物と、式(B)のD^(1)とD^(2)が各々「-NR^(3)-CO-」と「-S-」である化合物との組み合わせを含む補正発明の広範な範囲の全てが、具体例の式(A-1)の化合物と式(B-1)の化合物の組み合わせと同程度に、配向欠陥の発生を抑制できる範囲にあるといえる「試験結果」や「作用機序」や「技術常識」などの具体的な根拠の存在は見当たらない。 したがって、補正発明の「D^(1)およびD^(2)」が、それぞれ独立に「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表」すという広範な選択肢の全てが上記課題を解決できるといえることについて、その範囲が「単なる憶測」ではなく「具体例の開示がなくとも当業者に理解できる」又は「特許出願時の技術常識を参酌して認識できる」程度に発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。 エ.式(A)の「R^(1)およびR^(2)」の選択肢について 本願明細書の段落0008及び0035等の記載にあるように、補正発明は、式(B)の重合性液晶化合物を含む液晶組成物に、互いに相溶し、結晶が析出しにくくなるための式(A)の化合物を添加することにより、補正発明の上記『配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な液晶組成物の提供』という課題の解決を図ろうとするものである。 そして、平成30年6月26日付けの審判請求書の第3?4頁には『本審判請求書と同時提出の手続補正書により、請求項1において、式(A)で表される化合物におけるR^(1)およびR^(2)を、式(r-1)?(r-6)のいずれかで表される基に特定しました。これらの式で表される特定の1価の置換基をR^(1)およびR^(2)として有する式(A)で表される化合物は、R^(1)およびR^(2)がいずれも分子量が比較的小さく、極性も大きくない置換基である点において、本願実施例で用いた「R^(1)およびR^(2)がイソプロピル基である化合物(A-1)」に共通します。』との主張がなされている。 しかして、原査定の備考欄では『化合物の相溶性が、その有する置換基の構造や、その極性、分子量により影響されるのは技術常識である。そのため、広範な置換基が含まれるR^(1)、R^(2)を有する式(A)の化合物において、たとえ、そのほかの構造が式(B)で表される重合性液晶化合物と類似であったとしても、すべて本願発明の課題を解決し得るとまで当業者は理解することができない。』との指摘がなされているのに対して、 補正発明は、その式(A)で表される化合物の「R^(1)およびR^(2)」が、それぞれ独立に「式(r-1)?(r-6)」のいずれかを表すものとして広範に特定されており、例えば、式(r-4)や式(r-5)のカチオン基にアニオンが配位した置換基が、具体例の式(r-2)のイソプロピル基と、極性の大きさや分子量の大きさの点で共通し、同程度の有用性を示すとは直ちにいえないので、補正発明の式(A)及び式(B)の化合物の広範な組み合わせの全てが、配向欠陥の発生を抑制できる範囲にあり、補正発明の上記課題を解決できると認識できる範囲にあると直ちに解することができない。 また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載の全てを精査しても、補正発明の式(A)で表される化合物の「R^(1)およびR^(2)」が式(r-4)や(r-5)の場合に、補正発明の上記『配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な液晶組成物の提供』という課題を解決できるといえる「試験結果」や「作用機序」などの記載は見当たらず、そのような記載がなくとも補正発明の上記課題を解決できると認識できる出願時の「技術常識」の存在も見当たらない。 したがって、補正発明の「R^(1)およびR^(2)」の「式(r-1)?(r-6)」のいずれかという広範な選択肢の全てが上記課題を解決できるといえることについて、その範囲が「単なる憶測」ではなく「具体例の開示がなくとも当業者に理解できる」又は「特許出願時の技術常識を参酌して認識できる」程度に発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。 オ.式(A)の化合物の「18%以下」の面積百分率値について 本願明細書の段落0008、0035及び0115?0116等の記載にあるように、補正発明は、式(B)で表される重合性液晶化合物を含む液晶組成物に、式(A)で表される化合物を、配向状態を良好に保つことができる程度に添加することにより、上記『配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な液晶組成物の提供』という課題の解決を図ろうとするものである。 しかしながら、本願明細書の段落0179の表1の試験結果では、式(A-1)の化合物の面積百分率値が「10.0%」の実施例4のものの「ネマチック相転移温度」が「145℃」であるのに対して、式(A-1)の化合物の面積百分率値が「20.0%」の比較例2のものの「ネマチック相転移温度」は「143℃」という『より低い相転移温度』を示しているので、この試験結果によっては、補正発明の「18%以下」という広範な範囲のもの全てが「液晶組成物の相転移温度を低下させる」ことができる範囲にあるとはいえない。 また、上記のとおり、補正発明の「18%以下」という広範な範囲の「18%」という上限値は、実施例4の「10.00%」よりも、むしろ比較例2の「20.00%」に近い範囲にあるので、その表3の試験結果をも参酌するに、式(A-1)の化合物の面積百分率値が「18%」程度のものまでもが、その「配向欠陥の発生を抑制する」ことができる範囲にあるとはいえない。 加えて、補正発明においては、その式(A)の化合物のG^(1)に隣接する-CX-の置換基が「-CO-」又は「-CS-」を表すとされ、その式(B)のG^(2)に隣接するD^(1)の置換基が「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-」を表すとされているところ、補正発明の実施例2?4のものは、式(A-1)の-CX-が「-CO-」であり、式(B-1)のD^(1)が「-CO-O-」であって、互いに類似した構造にあるからこそ、実施例2?3の範囲で「4:欠陥なし」の試験結果が得られているといえるが、 例えば、式(A)の-CX-が「-CS-」であって、式(B)のD^(1)が「-NR^(3)-CO-」などであってもよい広範な範囲の補正発明の全てにおいて、その「18%以下」という広範な数値範囲の全てが、実施例4の「10.00%」の上限値の場合と同程度に、配向欠陥の発生を抑制できる範囲にあるといえる「試験結果」や「作用機序」や「技術常識」などの具体的な根拠の存在は見当たらない。 したがって、補正発明の式(A)及び式(B)で表される化合物の面積値の合計に対する「式(A)で表される化合物の液体クロマトグラフィーで測定した面積百分率値」が「18%以下」という広範な範囲の全てが上記課題を解決できるといえることについて、その範囲が「単なる憶測」ではなく「具体例の開示がなくとも当業者に理解できる」又は「特許出願時の技術常識を参酌して認識できる」程度に発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。 カ.小括 以上総括するに、上記ウ.?オ.に示したように、補正発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (3)補正発明の実施可能要件について 補正発明は、その式(B)で表される化合物の「D^(1)およびD^(2)」が、それぞれ独立に「-O-、-S-、-O-CO-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NR^(3)-または-NR^(3)-CO-を表し、R^(3)は炭素数1?4のアルキル基を表」すものとして特定されている。 しかしながら、本願明細書の段落0171?0172に記載された「製造例1」の具体例は、IPC(ジイソプロピルカルボジイミド)を縮合剤として、式(E-2-1)のカルボン酸類と、式(G-1)のジヒドロキシ化合物類をのエステル縮合反応させて、その式(B-1)で表される化合物を製造するものであることから、補正発明の式(B)のD^(1)とD^(2)の各々が「-CO-O-」と「-O-CO-」である場合のもの以外のものについては、具体的にどのような方法で化合物を製造できるのか明確かつ十分に開示がなされているとはいえず、当業者といえども過度の試行錯誤をすることなく補正発明の実施をすることができるとはいえない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (4)審判請求人の上申書及び回答書の主張について 審判請求人は、平成31年1月24日付けの上申書、及び令和元年6月17日付けの回答書において、新たな補正案を提示して、当該補正案のものが独立特許要件を満たすものである旨の主張をしている。 しかしながら、上記回答書における最新の補正案は、式(A)の化合物の面積百分率値を「0.1%以上10%以下」の広範な範囲に限定するものであって、例えば、先に提示した刊行物1(特開2016-121339号公報)の段落0152のIPCを縮合剤として用いて合成された化合物(2-1-2)においても、この程度の量の副生物が残存しているものと推認されるので、当該補正案のものに新規性は認められず、独立特許要件を満たし得るものとは認められない。 ここで、審判請求人は、上記回答書において、刊行物1に記載の発明においては、目的化合物を得るための「ろ過や精製」によって不純物は全て除去され、調製される「液晶化合物」には「N-アシル尿素」が全く含まれていないと考えるのが妥当であると主張する。 しかしながら、刊行物1の段落0154の「濾過」後の液晶組成物の場合においても、目的物の化合物(2-1-2)と特定の不純物の化合物(2-2-1)との面積値の総和に対し、特定の不純物が3.45%の量で残存していることが示されているので、当該(2-2-1)以外のクロロホルムに可溶性の別の不純物(カルボキシイミド残基を有する副生化合物)についても「ろ過や精製」ですべてを除くことはできず、目的物と別の不純物の面積値の総和に対し、0.1%以上の量(液晶組成物の全量を基準とした百分率ではない)で残存している蓋然性が高いものと推認される。このため、上記回答書の補正案のものに新規性は認められない。 3.まとめ 以上のとおり、上記請求項1についての補正は、独立特許要件違反があるという点において特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 このため、その余のことを検討するまでもなく、第2補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に記載された発明(以下「本1発明」ともいう。)は、第1補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成30年1月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由3、4によって、拒絶をすべきものです。」というものである。 そして、平成30年1月4日付け拒絶理由通知書には、理由3として「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由と、理由4として「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由が示されるとともに、その「記」には、次のとおりの指摘がなされている(なお、当審において下線を付した。)。 「●理由3、4について ・請求項 1?15 ・備考 (1)本願発明は、配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な化合物を提供することを解決すべき課題とするものである。 これに対し、本願の発明の詳細な説明には、上記課題を解決する化合物として、m1=m2=1であって、B^(1)が単結合、A^(1)がフェニル基、E^(1)が-OCO-、G^(1)がシクロヘキシル基、R^(1)およびR^(2)に相当する基としてイソプロピル基、化合物A-1が具体的に製造され、低い融点を有する液晶化合物が示されるのみであり、比較対象となるような化合物の開示もない。 一方、請求項1の式(A)には、P^(1)、F^(1)、B^(1)、A^(1)、E^(1)、G^(1)、X、R^(1)、R^(2)、m1、m2の組合せに応じて極めて多数の化合物が包含され得る。 しかし、液晶化合物の安定性、屈折率異方性、誘電率異方性、融点等の物性は、化合物の構造全体により決定され、一部の置換基が特定の構造を有することによって決まるものではない。 そうすると、当業者は、具体的に開示された化合物以外に、請求項1に記載の式(A)に包含されるすべてが、上記本願発明の課題を解決する化合物として、具体的に開示された、化合物A-1と同等であると認識することができない。 よって、請求項1?15に係る発明は発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。 同様に、請求項6には、上記式(A)の化合物と、P^(2)、F^(2)、B^(2)、A^(2)、E^(2)、D^(1)、Ar^(1)、D^(2)、G^(3)、E^(3)、A^(3) B^(3)、F^(3)、P、m2、m3、n2、n3の組合せに応じて極めて多数の化合物が包含される式(B)の化合物とを組合せた液晶組成物の発明が記載されている。 これに対し、本願の発明の詳細な説明には、B-1が、具体的に製造され、上記A-1と混合することで上記課題を解決する液晶組成物であることが示されるのみであり、比較対象となるようなそのほかの化合物の開示もない。 そうすると、当業者は、請求項6に記載の式(B)に包含されるすべてが、上記本願発明の課題を解決する組成物として、具体的に開示された、化合物B-1と同等であると認識することができない。 よって、請求項6?15に係る発明は発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。 上記のとおりであるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえない。 (2)本願発明は、配向欠陥の発生を抑制すると共に、光学特性を損なうことなく液晶組成物の相転移温度を低下させることが可能な化合物を提供することを解決すべき課題とするものである。 しかし、請求項1の式(A)の化合物、請求項6の式(B)の化合物には、それぞれのm1、m2、m3、n2、n3がすべて0の場合など、明らかに、液晶性を示さないような化合物が含まれており、当業者は、請求項1に記載の式(A)に包含されるすべて、および、請求項6に記載の式(B)に包含されるすべてが、上記本願発明の課題を解決する組成物として、具体的に開示された、化合物A-1や化合物B-1と同等であると認識することができない。 よって、請求項1?15に係る発明は発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえない。」 また、原査定の備考欄には、次のとおりの指摘がなされている。 「●理由3(特許法第36条第4項第1号)、理由4(特許法第36条第6項第1号)について ・請求項 1?14 ・備考 出願人は、平成30年3月9日付けの意見書において、「式(A)で表される化合物のP1-F1-[B1-A1]m1-[E1-G1]n1-で表されるメソゲン部分と、式(B)で表される重合性液晶化合物の-D1-Ar1-D2-以外の部分であるメソゲン部分とが互いに類似する構造単位を有しています。そして、各化合物がこのような構造を有することにより、式(A)で表される化合物と式(B)で表される重合性液晶化合物との相溶性が高くなり、その結果として、式(A)で表される化合物と式(B)で表される重合性液晶化合物の結晶が析出し難くなり、配向欠陥の発生を抑制し得ることは、例えば本願明細書の段落[0035]および[0041]?[0043]等に明確に記載されています。したがって、補正後の本願請求項1において特定された構造を有する式(A)で表される化合物と式(B)で表される化合物とを含む液晶組成物により、配向欠陥の発生を抑制するとともに、光学特性を損なうことなく液晶組成物のネマチック相転移温度を低下させることが可能な化合物を含む液晶組成物を提供するという本願発明の課題を解決し得ることは、本願明細書の記載に基づき、当業者であれば十分に認識し得るものです。」と主張する ここで、本願の請求項1の式(A)の化合物には、R^(1)およびR^(2)について1価の置換基と特定されるだけで、様々な構造や分子量を有する、広範な置換基が包含されている。一方、本願の発明の詳細な説明には、R^(1)およびR^(2)の有する作用機序等について特に開示されておらず、上記意見書においても特に触れられていない。 これに対し、本願の発明の詳細な説明には、R^(1)およびR^(2)のいずれも比較的分子量が小さく、極性も大きくないイソプロピル基を有する化合物A-1が検討されるだけである。しかしながら、化合物の相溶性が、その有する置換基の構造や、その極性、分子量により影響されるのは技術常識である。そのため、広範な置換基が含まれるR^(1)、R^(2)を有する式(A)の化合物において、たとえ、そのほかの構造が式(B)で表される重合性液晶化合物と類似であったとしても、すべて本願発明の課題を解決し得るとまで当業者は理解することができない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1?14に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、請求項1?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえない。 ●理由3(特許法第36条第4項第1号)について ・請求項 1?14 ・備考 出願人は、上記意見書において、「拒絶理由通知書において、『式(B)の化合物には、…明らかに、液晶性を示さないような化合物が含まれて』いるとの指摘がなされていますが、本願請求項1(補正前の請求項6)において、式(B)で表される化合物は『重合性液晶化合物』であり、式(B)で表される化合物は『液晶化合物』に特定されていることを付言いたします。」と主張する。 しかしながら、式(B)で表される化合物が「液晶化合物」に特定されているとしても、式(B)には、m1、m2、m3、n2、n3がすべて0の場合など、明らかに液晶性を示さない化合物が含まれているのであるから、そのような場合においても、化合物に液晶性を発現するために、当業者は過度の試行錯誤を必要とする。 なお、出願人の上記主張が、式(B)で表される化合物のうち「液晶化合物」でないものは除外されるという主張であるとしても、式(B)で表される化合物の全体から液晶性を示すものだけを選択するために、当業者は過度の試行錯誤を必要とする。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 3.理由4(サポート要件)について 平成30年1月4日付けの拒絶理由通知書では「式(A)に包含されるすべてが、上記本願発明の課題を解決する化合物として、具体的に開示された、化合物A-1と同等であると認識することができない。…式(B)に包含されるすべてが、上記本願発明の課題を解決する組成物として、具体的に開示された、化合物B-1と同等であると認識することができない」との指摘がなされているところ、本願請求項1に係る発明では、その式(B)で表される化合物の「D^(1)およびD^(2)」が、それぞれ独立に「単結合または2価の連結基」を表すものに特定され、その式(A)で表される化合物のXは「酸素原子または硫黄原子を表す」ものに特定されている。 してみると、本願請求項1に係る発明の「D^(1)およびD^(2)」等の範囲は、上記第2 2.(2)ウ.で検討した補正発明の「D^(1)およびD^(2)」等の範囲を包含する更に広い範囲にあるものであるから、上記第2 2.(2)ウ.に示した理由と同様の理由により、当該請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 また、原査定の備考欄では「化合物の相溶性が、その有する置換基の構造や、その極性、分子量により影響されるのは技術常識である。そのため、広範な置換基が含まれるR^(1)、R^(2)を有する式(A)の化合物において、たとえ、そのほかの構造が式(B)で表される重合性液晶化合物と類似であったとしても、すべて本願発明の課題を解決し得るとまで当業者は理解することができない。」との指摘がなされているところ、本願請求項1に係る発明では、その式(A)で表される化合物の「R^(1)およびR^(2)」が、それぞれ独立に「1価の置換基」を表すものに特定されている。 してみると、本願請求項1に係る発明の「R^(1)およびR^(2)」の範囲は、上記第2 2.(2)エ.で検討した補正発明の式(A)の「R^(1)およびR^(2)」の選択肢の範囲を包含する更に広い範囲にあるものであるから、上記第2 2.(2)エ.に示した理由と同様の理由により、当該請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 したがって、本願請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 4.理由3(実施可能要件)について 原査定の備考欄では「式(B)で表される化合物が「液晶化合物」に特定されているとしても、式(B)には、m1、m2、m3、n2、n3がすべて0の場合など、明らかに液晶性を示さない化合物が含まれているのであるから、そのような場合においても、化合物に液晶性を発現するために、当業者は過度の試行錯誤を必要とする。」との指摘がなされているところ、本願請求項1に係る発明では、その式(B)で表される化合物の「m2、m3、n2およびn3」が、それぞれ独立に「0?3の整数」を表す場合のものや、その「D^(1)およびD^(2)」が、それぞれ独立に「単結合または2価の連結基」を表す場合のものなどに特定されている。 この点に関して、平成30年6月26日付けの審判請求書の第4?5頁において、審判請求人は『式(A)および式(B)中のm1、n1ならびにm2、m3、n2およびn3を全て1に限定しました。これにより、明らかに液晶性を示さないような化合物(m2、m3、n2およびn3が全て0である化合物等)は、式(B)で表される化合物に含まれておらず、補正後の請求項1に記載の発明は、液晶性を発現するために当業者が過度な試行錯誤をすることなく実施し得るものであると考えます。』と主張している。 しかしながら、本願請求項1の記載は、式(B)の「m2、m3、n2およびn3」が全て1のものに限定されていない。 また、本願請求項1に係る発明の「D^(1)およびD^(2)」等の範囲は、上記第2 2.(3)で検討した補正発明の「D^(1)およびD^(2)」等の範囲を包含する更に広い範囲にあるものであるから、上記第2 2.(3)に示した理由と同様の理由により、当業者といえども過度の試行錯誤をすることなく本願請求項1に係る発明の実施をすることができるとはいえない。 そして、その式(B)の広範な範囲の化合物の全てが液晶性を発現するといえる技術的な根拠は見当たらず、また、その式(B)の広範な範囲の化合物の全てが本願明細書の段落0171?0172に記載された製造例1のIPCを用いたエステル縮合反応と同様な方法や周知慣用の方法で製造できるといえる技術的な根拠も見当たらないので、当業者といえども過度の試行錯誤をすることなく本願請求項1に係る発明の実施をすることができるとはいえない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 5.むすび 以上のとおり、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、同法第4項第1号に適合するものではないから、本願は、同法第49条第4号の「その特許出願が第36条第4項第1号若しくは第6項又は第37条に規定する要件を満たしていないとき」に該当し、拒絶すべきものである。 したがって、原査定に誤りはなく、その余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-07-18 |
結審通知日 | 2019-07-23 |
審決日 | 2019-08-07 |
出願番号 | 特願2017-198684(P2017-198684) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B) P 1 8・ 536- Z (G02B) P 1 8・ 572- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 雅雄 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
天野 宏樹 木村 敏康 |
発明の名称 | 化合物、液晶組成物、光学フィルム、偏光板および光学ディスプレイ |
代理人 | 梶田 真理奈 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 森住 憲一 |