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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21H
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
管理番号 1355931
異議申立番号 異議2018-700994  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-05 
確定日 2019-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6341018号発明「塗工白板紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6341018号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5に訂正することを認める。 特許第6341018号の請求項1、3?5に係る特許を維持する。 特許第6341018号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6341018号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年9月16日に出願され、平成30年5月25日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年6月13日)がされたものであって、その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年12月5日:特許異議申立人 井上由美(以下「申立人」とい
う。)による請求項1?5に係る特許に対する特許異議の
申立て
平成31年3月6日付け:取消理由通知
平成31年4月23日:特許権者による意見書の提出及び訂正請求
(以下「本件訂正請求」といい、これによる訂正を「本件
訂正」という。)

特許法第120条の5第5項の規定により、令和元年5月9日付けで、訂正の請求があった旨の通知を申立人に送付したが、申立人から意見書は提出されなかった。


第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(1)請求項1?4に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を備えた塗工白板紙において、塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃であることを特徴とする塗工白板紙。」
とあるのを、
「基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を備えた塗工白板紙において、塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在し、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有することを特徴とする塗工白板紙。」
に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1または2に記載の」
とあるのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1?3のいずれか1項に記載の」
とあるのを、
「請求項1又は3に記載の」
に訂正する。

(2)請求項5に係る訂正
・訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃であり、」
とあるのを、
「塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在し、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有し、」
に訂正する。

2.訂正の適否
(1)請求項1?4に係る訂正
ア.訂正事項1について
訂正事項1中の「の範囲内にのみ存在し、」は、訂正前の請求項1のスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスについて、少なくともガラス転移温度の一つが-50?-20℃の範囲内に存在するものから、ガラス転移温度の全てが-50?-20℃の範囲内に存在するものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1中の「上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有する」は、訂正前の請求項1の上塗り層に含有される顔料について、重質炭酸カルシウムを含むものに限定すると共に、その平均粒子径と配合割合の数値範囲を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1は、上記のように、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

そして、訂正事項1の「の範囲内にのみ存在し、」について、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)には、「上塗り層に用いるスチレン-ブタジエン系共重合体のガラス転移温度は、-50?-20℃である。ガラス転移温度が-50℃未満では、ベタツキが悪化し、汚れの原因となったり、操業性が悪化したりする恐れがある。一方、ガラス転移温度が-20℃を超えると、上塗り層のクッション性が悪くなり、グラビア適性が悪化する恐れがある。」(段落【0022】)と-50?-20℃の範囲以外は選択し得ないことが記載され、実施例として「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスD(商品名:S2831(J)-4、JSR社製、ガラス転移温度-39℃、平均粒子径90nm)」(段落【0064】)が記載されている。
また、訂正事項1の「上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有する」について、本件特許明細書には、「前記上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有する」(段落【0015】)、「本発明における上塗り層に含有できる顔料としては、特に限定はなく、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、・・・」(段落【0025】)、「軽質炭酸カルシウムよりニス適性が優れることから、平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層中に用いるのが好ましい。」(段落【0026】)、「前記重質炭酸カルシウムは、上塗り層に含まれる全顔料の50質量%以上であることが好ましい。」(段落【0027】)と記載されている。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項3について、
訂正事項3は、訂正事項2に伴い、訂正前の特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項について「請求項1または2に記載の」から、請求項2を削除し、「請求項1に記載の」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2に伴い、訂正前の特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項について「請求項1?3のいずれか1項に記載の」から、請求項2を削除し、「請求項1又は3に記載の」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ.一群の請求項について
訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。

(2)請求項5に係る訂正
・訂正事項5について
訂正事項5中の「の範囲内にのみ存在し、」は、訂正前の請求項5のスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスについて、少なくともガラス転移温度の一つが-50?-20℃の範囲内に存在するものから、ガラス転移温度の全てが-50?-20℃の範囲内に存在するものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5中の「上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有し、」は、請求項5の上塗り層に含有される顔料について、重質炭酸カルシウムを含むものに限定すると共に、その平均粒子径と配合割合の数値範囲を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項5は、上記のように、訂正前の請求項5の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

そして、訂正事項5の「の範囲内にのみ存在し、」について、本件特許明細書には、「上塗り層に用いるスチレン-ブタジエン系共重合体のガラス転移温度は、-50?-20℃である。ガラス転移温度が-50℃未満では、ベタツキが悪化し、汚れの原因となったり、操業性が悪化したりする恐れがある。一方、ガラス転移温度が-20℃を超えると、上塗り層のクッション性が悪くなり、グラビア適性が悪化する恐れがある。」(段落【0022】)と-50?-20℃の範囲以外は選択し得ないことが記載され、実施例として「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスD(商品名:S2831(J)-4、JSR社製、ガラス転移温度-39℃、平均粒子径90nm)」(段落【0064】)が記載されている。
また、訂正事項5の「上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有し、」について、本件特許明細書には、「前記上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有する」(段落【0015】)、「本発明における上塗り層に含有できる顔料としては、特に限定はなく、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、・・・」(段落【0025】)、「軽質炭酸カルシウムよりニス適性が優れることから、平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層中に用いるのが好ましい。」(段落【0026】)、「前記重質炭酸カルシウムは、上塗り層に含まれる全顔料の50質量%以上であることが好ましい。」(段落【0027】)と記載されている。
よって、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。


第3.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された、次のとおりのものである。(訂正特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明を、以下「本件訂正発明1」等という。また、本件訂正発明1?5をまとめて「本件訂正発明」ということもある。)

「【請求項1】
基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を備えた塗工白板紙において、塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在し、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有することを特徴とする塗工白板紙。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記上塗り層の顔料として平均粒子径が1.2μm以下であるカオリンを含有する、請求項1に記載の塗工白板紙。
【請求項4】
前記下塗り層が基紙に最も近い塗工層であり、前記上塗り層が基紙から最も遠い塗工層である、請求項1又は3に記載の塗工白板紙。
【請求項5】
基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白板紙の製造方法であって、
塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在し、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有し、
下塗り層がロッドコーターを用いた塗工方式により形成され、上塗り層がブレードコーターを用いた塗工方式またはエアナイフコーターを用いた塗工方式のいずれかにより形成されることを特徴とする、塗工白板紙の製造方法。」


第4.取消理由の概要
本件特許の訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した平成31年3月6日付けの取消理由の要旨は、次のとおりであり、申立人が特許異議申立書において主張した理由は、すべて通知した。

1.理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件発明1、3、4は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.理由2(特許法第29条第2項)
(1)理由2-1(主引用例:引用文献1)
本件発明1?5は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)理由2-2(主引用例:引用文献3)
本件発明1、3?5は、引用文献3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

< 引用文献一覧 >
1.特開2008-248431号公報(甲第1号証)
2.特開2012-136806号公報(甲第2号証)
3.特開2003-201697号公報(甲第3号証)
4.特開2011- 58148号公報(当審で提示した文献)


第5.刊行物の記載
1.引用文献1(特開2008-248431号公報(甲第1号証))
引用文献1には、以下の記載がある。なお、「・・・」は省略を意味する。以下同じ。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工板紙原紙と、前記塗工板紙原紙の少なくとも一の面に下塗り用塗工液を塗工して形成される下塗り塗工層と、前記下塗り塗工層上に上塗り用塗工液を塗工して形成される上塗り塗工層と、を備える塗工板紙であって、
前記下塗り用塗工液が、ゲル含量が90%以上である下塗り用共重合体を含有するとともに、数平均粒子径が60?90nmである下塗り用共重合体ラテックスと、顔料と、を含み、
前記上塗り用塗工液が、ゲル含量が80%以上である上塗り用共重合体を含有するとともに、数平均粒子径が90nmを超える上塗り用共重合体ラテックスと、顔料と、を含む塗工板紙。
・・・
【請求項5】
塗工板紙原紙の少なくとも一の面に、ゲル含量が90%以上である下塗り用共重合体を含有するとともに、数平均粒子径が60?90nmである下塗り用共重合体ラテックスと、顔料と、を含む下塗り用塗工液を塗工して下塗り塗工層を形成し、
形成した前記下塗り塗工層上に、ゲル含量が80%以上である上塗り用共重合体を含有するとともに、数平均粒子径が90nmを超える上塗り用共重合体ラテックスと、顔料と、を含む上塗り用塗工液を塗工して上塗り塗工層を形成する塗工板紙の製造方法。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工板紙、及び塗工板紙の製造方法に関し、更に詳しくは、インキセット性とニス引き適性(特に、UVニス引き適性)とが共に良好であるとともに、バインダーの使用量(特に、塗工層を形成するための塗工液に含有されるラテックスの使用量)の少なくても強度を維持した塗工層を有する塗工板紙、及び塗工板紙の製造方法に関する。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塗工層中のバインダー量を多くすると、インキセット性が低下するという問題があった。そして、インキセット性が低下すると、印刷後、裏移りして商品価値が低下するので、商品価値を得るためには印刷速度を低下せざるを得ないという問題があった。また、バインダー量を多くすることによって塗工板紙の製造コストが高くなるという問題もあった。また、特許文献1に記載の塗工液は、含有されるラテックスのガラス転移温度が0℃を超えるため、強度発現性が充分でない。従って、バインダー量を多く使用せざるを得ないという問題があった。
【0007】
また、ラテックスの粒子径を非常に小さくすることによって、ニス引き適性は向上し、強度発現性も良好になる。しかし、インキセット性が低下し、また、白紙光沢も低下するという問題があった。
・・・
【0010】
以上のように、ニス引き適性が良好であることに加え、良好なインキセット性を有し、バインダーの使用量(特に、塗工層を形成するための塗工液に含有されるラテックスの使用量)の少ない塗工層を有する塗工板紙、及びその製造方法が切望されている。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ニス引き適性が良好であることに加え、良好なインキセット性を有し、バインダーの使用量(特に、塗工層を形成するための塗工液に含有されるラテックスの使用量)が少ないが強度が維持された塗工層を有する塗工板紙、及びその製造方法を提供することにある。」

(4)「【0057】
[1-3]顔料:
下塗り用塗工液に含有される顔料としては、例えば、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト等を使用することができる。・・・上記顔料を含有させることにより、白紙光沢や白色度等の外観、印刷適性を良好に得られるという利点がある。
・・・
【0064】
顔料と下塗り用共重合体ラテックスに含まれる固形分との合計量は、下塗り用塗工液に含まれる固形分全体に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。上記合計量が90質量%未満であると、白紙光沢や印刷光沢、あるいは充分な強度が発現しなくなるおそれがある。
・・・
【0067】
また、上記上塗り用共重合体ラテックスは、その数平均粒子径が90nmを超えるものであり、95?170nmであることが好ましく、100?150nmであることが更に好ましい。上記数平均粒子径が90nm以下であると、充分な白紙光沢やインキセット性が得られないおそれがある。」

(5)「【0078】
上塗り用塗工液は、顔料100質量部に対して、上塗り用共重合体ラテックス(固形分)を5?13質量部含むことが好ましく、6?12質量部含むことが更に好ましく、7?11質量部含むことが特に好ましい。・・・」

(6)「【0098】
【表1】





(7)「【0108】
表1に示すように、本合成例のラテックスL3は、数平均粒子径が100nmであり、ラテックスL3に含有される上塗り用共重合体は、ゲル含量(%)が92%、ガラス転移温度が-31℃及び9℃であった。」

(8)「【0111】
(実施例1):
(上塗り用塗工液の調製)
合成例1で得られたラテックスL1を10部、1級カオリン(ウルトラホワイトー90、エンゲルハード社製)35部、微量カオリン(ミラグロス、エンゲルハード社製)35部、重質炭酸カルシウム(カービタルー90、イメリス社製、表3中、「重質炭酸カルシウム2」と示す)20部、軽質炭酸カルシウム(タマパールTP221GS、奥多摩工業社製)10部、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム(アロンT-40、東亜合成工業社製)0.1部、潤滑剤(ノップコートC104、サンノプコ社製)0.5部、水酸化ナトリウム0.15部、及びスターチ(澱粉)(MS4600、日本食品工業社製)2部を混合して上塗り用塗工液を調製した。・・・」

(9)「【0113】
(塗工板紙の製造)
まず、得られた下塗り用塗工液を塗工板紙原紙に、塗工量が片面7.0±0.5g/m^(2)となるように、ラボブレードコーター(SMT社製)で塗工した。塗工後、150℃で4秒間乾燥させて、下塗り塗工層が形成された塗工板紙原紙(以下、「一層塗工板紙」と記す場合がある)を得た。得られた一層塗工板紙に、塗工量が片面9.0±0.5g/m^(2)となるように上塗り用塗工液をラボブレードコーター(SMT社製)で塗工した。塗工後、150℃で4秒間乾燥させて、下塗り塗工層上に上塗り塗工層が形成された塗工板紙を得た。・・・」

(10)「【0125】
(実施例2?7、比較例1?3)
表3に示す配合処方とすること以外は、実施例1と同様にして、塗工板紙を得た。・・・」

(11)「【0126】
【表3】





(12)上記(1)及び(9)によると、塗工板紙原紙の片面に下塗り塗工層が形成され、下塗り塗工層上に上塗り塗工層が形成されることで塗工板紙が製造されているから、塗工板紙は、塗工板紙原紙の近い側に下塗り塗工層を有し、塗工板紙原紙から遠い側に上塗り塗工層を有する2層構造である。

(13)上記(11)の実施例6に関する記載をみると、上塗り塗工層に用いられる上塗り用塗工液は、顔料として1級カオリンを35部、微粒カオリンを35部、重質炭酸カルシウム2を20部、軽質炭酸カルシウムを10部の合計100部と、上塗り用共重合体ラテックスL3を10部を含んでいる。
また、下塗り塗工層に用いられる下塗り用塗工液は、顔料として2級カオリンを50部、重質炭酸カルシウム1を50部の合計100部と、下塗り用共重合体ラテックスS1を8部を含んでいる。
上記(5)をみれば、「部」は、「質量部」である。
そして、上記(4)を参酌すると、塗工板紙は、その使用される材料から、白紙光沢や白色度等の外観が得られた白色のものである。

(14)上記(5)によると、上塗り用塗工液に含まれる上塗り用共重合体ラテックスの「質量部」は、固形分であるから、上記(11)の実施例6の上塗り用共重合体ラテックスL3の配合量は、固形分である。

(15)上記(11)の実施例6の上塗り用共重合体ラテックスL3について、上記(6)の合成例3に関する記載をみると、共重合体ラテックスL3は、粒径が100、ガラス転移温度が-31/9である。さらに、上記(6)のラテックスL3に関する記載をみれば、数平均粒子径は100nm、ガラス転移温度は-31℃及び9℃である。

(16)上記(11)の実施例6は、上記(10)によると、「表3に示す配合処方とすること以外は、実施例1と同様」であるから、上記(8)の実施例1に関する記載をみると、上塗り用塗工液に含まれる重質炭酸カルシウム2は、「重質炭酸カルシウム(カービタルー90、イメリス社製)」であり、イメリス社製の重質炭酸カルシウムである製品名カービタルー90の平均粒子径は1.0μm(必要なら引用文献4の段落【0046】等を参照)である。

上記(11)の実施例6に着目して整理すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「塗工板紙原紙の片面に顔料と下塗り用共重合体ラテックスS1を含有する下塗り塗工層及び顔料と上塗り用共重合体ラテックスL3を含有する上塗り塗工層を備えた白色の塗工板紙において、下塗り塗工層及び上塗り塗工層が塗工板紙原紙に近い側に下塗り塗工層を有し、塗工板紙原紙から遠い側に上塗り塗工層を有する2層構造であって、上塗り塗工層における上塗り用共重合体ラテックスL3の含有量が上塗り塗工層に含有される顔料100質量部に対して固形分で10質量部であり、上塗り用共重合体ラテックスL3の数平均粒子径が100nm、且つガラス転移温度が-31℃及び9℃であり、
上塗り塗工層の顔料として平均粒子径が1.0μmである重質炭酸カルシウム2を上塗り塗工層の顔料100質量部に対して20質量部含有する、
白色の塗工板紙。」

また、上記(1)、(9)の塗工板紙の製造方法を参照すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1’」という。)が記載されている。
「塗工板紙原紙の片面に顔料と下塗り用共重合体ラテックスS1を含有する下塗り塗工層及び顔料と上塗り用共重合体ラテックスL3を含有する上塗り塗工層を形成する工程を含む白色の塗工板紙の製造方法であって、
下塗り塗工層及び上塗り塗工層が塗工板紙原紙に近い側に下塗り塗工層を有し、塗工板紙原紙から遠い側に上塗り塗工層を有する2層構造であって、上塗り塗工層における上塗り用共重合体ラテックスL3の含有量が上塗り塗工層に含有される顔料100質量部に対して固形分で10質量部であり、上塗り用共重合体ラテックスL3の数平均粒子径が100nm、且つガラス転移温度が-31℃及び9℃であり、
上塗り塗工層の顔料として平均粒子径が1.0μmである重質炭酸カルシウム2を上塗り塗工層の顔料100質量部に対して20質量部含有し、
下塗り塗工層がラボブレードコーターを用いた塗工方式により形成され、上塗り塗工層がラボブレードコーターを用いた塗工方式により形成される、
白色の塗工板紙の製造方法。」

2.引用文献3(特開2003-201697号公報(甲第3号証))
引用文献3には、以下の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 顔料と接着剤を主成分とする顔料塗被層を、原紙の少なくとも片面に設けてなる印刷用塗被紙において、該塗被紙の特性として、接触時間25ミリ秒における水吸収量が10ml/m^(2)以下で、かつ該塗被紙の顔料塗被層に水を滴下して0.1秒後の接触角が75度以下であり、さらに、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.5に記載の王研式透気度が10,000秒以上であることを特徴とする印刷用塗被紙。
・・・
【請求項4】 顔料塗被層が顔料と接着剤を主成分とする塗被組成物から形成され、その塗被組成物の顔料の90?100重量%が平均粒子径0.5?4.0μmのカオリンであり、前記塗被組成物の接着剤として、ガラス転移温度(Tg)-65℃?-25℃、平均粒子径30nm?120nmの共重合体ラテックスを、顔料100重量部当たり12?35重量部含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の印刷用塗被紙。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は印刷用塗被紙に関するものであって、特に水性インキを使用するグラビア印刷に適した印刷用塗被紙に係る。」

(3)「【0011】そして、本発明の印刷用塗被紙をその顔料塗被層の構成で特徴付ければ、該顔料塗被層が顔料と接着剤を主成分とする塗被組成物から形成され、その塗被組成物に含まれる顔料の90?100重量%が、平均粒子径0.5?4.0μmのカオリンであり、前記塗被組成物の接着剤として、ガラス転移温度(Tg)-65℃?-25℃、平均粒子径30nm?120nmの共重合体ラテックスを、顔料100重量部当たり12?35重量部含むことを特徴とする。」

(4)「【0014】・・・インキの転移していない白紙部では、紙面温度が上昇して塗被紙から水分が蒸発し易く、・・・」

(5)「【0021】好個の組成物における接着剤成分には、ガラス転移温度(Tg)が-65℃?-25℃の範囲にあり、平均粒子径が30nm?120nmの範囲にある共重合体ラテックスを使用することが好ましい。この種の共重合体ラテックスと例示すると、チレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリル系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系などの各種共重合体ラテックスを挙げることができる。これらの中でも、特に、スチレン・ブタジエン系、アクリル系、スチレン・ブタジエン・アクリル系の共重合体ラテックス、あるいはこれらの共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ官能性あるいはアルカリ非官能性の共重合体ラテックスが好ましい。これらの各共重合体ラテックスは、単量体成分の配合率を調整することによってそのガラス転移温度(Tg)を所定の範囲に収めることができ、乳化重合における界面活性剤等の乳化剤の種類・添加量や乳化時の撹拌条件を調整することによってその平均粒子径を所定の範囲に収めることができる。
【0022】接着剤成分として使用する共重合体ラテックスのガラス転移温度が-65℃未満である場合は、スーパーカレンダでのロール汚れを招くおそれがあり、また、巻取り状態で塗被紙を保管した場合に、塗被紙同士がブロッキングするおそれがある。一方、共重合体ラテックスのガラス転移温度が-25℃を超えると、塗被層が硬くなってグラビア印刷での網点抜け(ミッシングドット)が発生するおそれがある。共重合体ラテックスの平均粒子径は、得られる塗被紙の水吸収性やインキ吸収性を小さくする上で、30nm?120nmとすることが好ましい。平均粒子径が30nm未満では、共重合体ラテックスの機械安定性が劣るなどその実用性に問題がでるおそれがあり、逆に平均粒子径が120nmを超える場合は、本発明が必要とする水やインキの吸収量や透気度を得るために、多量の共重合体ラテックスを必要とするので、経済的な面で不利となるほか、得られる塗被紙同士がブロッキングするなど別の問題が発生するおそれがある。」

(6)「【0029】・・・得られる塗被紙の白紙品質、印刷適性や印刷適性、・・・」

(7)「【0033】実施例1
〔原紙の製造〕LBKP(C.S.F=400ml)65部、NBKP(C.S.F=450ml)15部およびPGW(C.S.F=110ml)20部からなるパルプスラリー100部に、軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP-121/奥多摩工業社)8部を添加した後に順次、硫酸アルミニウム0.5部、カチオン澱粉(商品名:アミロファックス2200/松谷化学工業社)0.4部、アルキルケテンダイマー(商品名:サイズパインK-287/荒川化学工業社)0.1部、アニオン性ポリアクリルアミド(アラフィックス-504/荒川化学工業社)0.02部を添加して紙料を調整し、得られた紙料を使用してオントップ型抄紙機で抄紙し、脱水、乾燥した後、引き続き濃度2%の澱粉(商品名:エースA/王子コーンスターチ社)糊液でゲートロールサイズプレス装置により、サイズプレス処理して米坪46g/m^(2)の塗工原紙を得た。なお、得られた原紙のCD方向浸水伸度は3.9%であった。
【0034】〔顔料塗被層の塗工および仕上げ〕顔料として、デラミネーテッドカオリン(商品名:Nuクレー、平均粒子径:0.6μm/エンゲルハード社)100部を使用し、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.1部、水酸化ナトリウム(pH調整剤)0.05部、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:G-1079.05、ガラス転移温度:-60℃、平均粒子径:116nm/旭化成社)15部を、いずれも顔料100部に対する固形分として配合し、固形分濃度58%の顔料塗被層用の水性組成物を調製した。次いで、原紙に、乾燥重量が片面当たり15g/m^(2)となるようにブレードコーターで両面塗工、乾燥した後、スーパーキャレンダー処理を行って、グラビア印刷用塗被紙を得た。」

(8)「【0036】実施例3
実施例1の顔料塗被層用の水性組成物において、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06、ガラス転移温度:-53℃、平均粒子径:103nm/旭化成社)としたこと以外は同様にしてグラビア印刷用塗被紙を得た。」

(9)上記(4)、(6)によると、グラビア印刷用塗被紙は白紙である。

上記(1)?(9)を総合すると、引用文献3には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。
「塗工原紙の両面に顔料と接着剤を含有する顔料塗被層を備えたグラビア印刷用塗被白紙において、顔料塗被層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)を接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の含有量が顔料塗被層に含有される顔料100部に対して固形分で15部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の平均粒子径が103nm、且つガラス転移温度が-53℃であり、
顔料塗被層の顔料として平均粒子径が0.6μmであるデラミネーテッドカオリンを含有する
グラビア印刷用塗被白紙。」

また、上記(5)を参照すると、引用文献3には、上記引用発明3のグラビア印刷用塗被白紙の製造方法が記載されているといえるから、次の発明(以下「引用発明3’」という。)が記載されている。
「塗工原紙の両面に顔料と接着剤を含有する顔料塗被層を形成する工程を含むグラビア印刷用塗被白紙の製造方法において、顔料塗被層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)を接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の含有量が顔料塗被層に含有される顔料100部に対して固形分で15部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の平均粒子径が103nm、且つガラス転移温度が-53℃であり、
顔料塗被層の顔料として平均粒子径が0.6μmであるデラミネーテッドカオリンを含有し、
顔料塗被層がブレードコーターを用いた塗工方式により形成される、
グラビア印刷用塗被白紙の製造方法。」


第6.当審の判断
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)
(1)本件訂正発明1について
ア.対比
本件訂正発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「塗工板紙原紙」は本件訂正発明1の「基紙」に相当し、以下同様に「白色の塗工板紙」は「塗工白板紙」に、「片面」は「表面」に、「下塗り塗工層」は「下塗り層」に、「上塗り塗工層」は「上塗り層」に、「重質炭酸カルシウム2」は「重質炭酸カルシウム」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「下塗り塗工層」と「上塗り塗工層」は、あわせて本件訂正発明1の「塗工層」に相当する。
引用発明1の「下塗り用共重合体ラテックスS1」と「上塗り用共重合体ラテックスL3」が、それぞれ下塗り塗工層、上塗り塗工層において接着剤として機能していることは、自明(必要なら引用文献2の段落【0014】、引用文献3の段落【0011】等を参照)であるから、引用発明1の「下塗り用共重合体ラテックスS1」と「上塗り用共重合体ラテックスL3」は、本件訂正発明1の「塗工層」の「接着剤」に相当すると共に、引用発明1の「上塗り用共重合体ラテックスL3」は、上記第5.1.(6)に示した【表1】によるとスチレン-ブタジエン系共重合体であるから、本件訂正発明1の上塗り層中の接着剤である「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス」に相当する。
引用発明1の「数平均粒子径」は、平均粒子径の一種である。よって、引用発明1の「数平均粒子径」は、本件訂正発明1の「平均粒子径」に相当する。

引用発明1の「上塗り用共重合体ラテックスL3」と、本件訂正発明1の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス」に関して、含有量について引用発明1の「10質量部」は本件訂正発明1の「9?25質量部」の範囲内であり、平均粒子径について引用発明1の「100nm」は本件訂正発明1の「85?110nm」の範囲内である。

引用発明1の重質炭酸カルシウム2の平均粒子径1.0μmは、本件訂正発明1の範囲内である。また、引用発明1の重質炭酸カルシウム2は、上塗り塗工層の顔料100質量部に対して20質量部含有するから、その割合は20質量%である。

よって、本件訂正発明1と引用発明1は、以下の点で一致する。
「基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を備えた塗工白板紙において、塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nmであり、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを含有する塗工白板紙。」

そして、本件訂正発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。
<相違点1>
スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスのガラス転移温度について、本件訂正発明1は、「-50?-20℃の範囲内にのみ存在し」ているのに対して、引用発明1は、-31℃及び9℃である点。

<相違点2>
上塗り層の顔料について、本件訂正発明1は、重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の「50質量%以上」含有するのに対して、引用発明1は、重質炭酸カルシウム2を上塗り塗工層の顔料の20質量%含有する点。

イ.判断
<相違点1>について
引用発明1のスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスは、上塗り用共重合体である。
その上塗り用共重合体について引用文献1の段落【0074】には、「第二の態様として、そのガラス転移温度が、-60?-10℃の範囲、及び0?20℃の範囲のそれぞれに少なくとも一点ずつ存在するものであることが好ましく、-55?-15℃の範囲、及び3?18℃の範囲のそれぞれに少なくとも一点ずつ存在するものであることが更に好ましく、-50?-20℃の範囲、及び5?15℃の範囲のそれぞれに少なくとも一点ずつ存在するものであることが特に好ましい。-60?-10℃の範囲、及び0?20℃の範囲のそれぞれに少なくとも一点ずつ存在することにより、塗工層の強度発現性が良好で、かつ、塗工時の操業性も良好という利点がある。」と記載されている。
すなわち、引用発明1のスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスは、そのガラス転移温度が-31℃及び9℃の二つ存在するものであるから、-31℃のみのものと異なることは明らかである。
したがって、上記<相違点1>は、実質的な相違点である。
よって、本件訂正発明1は、引用発明1であるとはいえないから、本件訂正発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(2)本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1の構成要件を全て含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3、4は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件訂正特許請求の範囲の請求項1、3、4に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、理由1によっては取り消すことはできない。

2.理由2(特許法第29条第2項)
(1)理由2-1(主引用例:引用文献1)
ア.本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明1を対比すると、上記1.(1)ア.で述べたとおり、<相違点1>及び<相違点2>で相違し、その余で一致する。

(イ)判断
<相違点2>について
引用文献1の実施例6においては、段落【0126】の【表3】をみると「1級カオリン」が35部、微粒カオリンが35部、重質炭酸カルシウムが20部、軽質炭酸カルシウムが10部の合わせて100部で顔料が構成されている。
そして、引用文献1には、「上塗り用塗工液に含有される顔料は、上述した下塗り用塗工液に含有される顔料と同様のものを好適に使用することができる。」(段落【0076】)と記載されているから下塗り用塗工液の顔料に関する記載をみると、「下塗り用塗工液に含有される顔料としては、・・・(中略)・・・これらの中でも、重質炭酸カルシウムが好ましく、カオリンと重質炭酸カルシウムとを使用することも好ましい。これらは、1種を単独で使用することもでき、また2種以上を併用することもできる。」(段落【0057】)と記載されているから、上塗り用塗工液の顔料について、好ましいとされる重質炭酸カルシウムをより多く使用することが示唆されている。
よって、引用発明1において、顔料として重質炭酸カルシウムの割合を多くすることで、上記<相違点2>に係る「50質量%以上」の範囲とすることは、当業者が容易になし得るものである。

<相違点1>について
上記1.(1)イ.で述べたとおり、引用発明1のスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスは、そのガラス転移温度が-31℃及び9℃の二つ存在しているものであり、「-60?-10℃の範囲、及び0?20℃の範囲のそれぞれに少なくとも一点ずつ存在することにより、塗工層の強度発現性が良好で、かつ、塗工時の操業性も良好という利点がある。」(段落【0074】)という記載を参酌すると、-31℃のみのものとすることに阻害要因がある。

また、引用文献1の段落【0073】には、ガラス転移温度が一つである上塗り用共重合体について、「第一の態様として、そのガラス転移温度が、-25?15℃の範囲に存在するものであることが好ましく、-20?8℃であることが更に好ましく、-15?5℃であることが特に好ましい。上記ガラス転移温度が-25℃未満であると、塗工面が粘着し易く塗工時に支障をきたすおそれがある。一方、15℃超であると、充分な塗工層の強度が得られないおそれがある。」との記載がある。
上記ガラス転移温度が-25?15℃という温度範囲は、本件訂正発明1のガラス転移温度の「-50?-20℃」という温度範囲と一部がわずかに重複しているものの、より低い-25℃未満とすることには問題があるとするものである。
すなわち、引用発明1において、ガラス転移温度「-50?-20℃」のような、より低い温度範囲を選択することに阻害要因があるから、引用発明1のガラス転移温度の温度範囲を、<相違点1>に係る本件訂正発明1の事項とすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

そして、本件特許明細書には、「上塗り層に用いるスチレン-ブタジエン系共重合体のガラス転移温度は、-50?-20℃である。ガラス転移温度が-50℃未満では、ベタツキが悪化し、汚れの原因となったり、操業性が悪化したりする恐れがある。一方、ガラス転移温度が-20℃を超えると、上塗り層のクッション性が悪くなり、グラビア適性が悪化する恐れがある。」(段落【0022】)と記載されているから、本件訂正発明1は、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスをガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在するものとすることによって、ベタツキの悪化、汚れの原因、操業性が悪化、上塗り層のクッション性の悪化、グラビア適性の悪化を防止するという格別の作用効果を発揮するものである。

よって、本件訂正発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

イ.本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1の構成要件を全て含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、よって、本件訂正発明3、4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

ウ.本件訂正発明5について
(ア)対比
本件訂正発明5と引用発明1’を対比すると、引用発明5の「塗工板紙原紙」は本件訂正発明5の「基紙」に相当し、以下同様に「白色の塗工板紙」は「塗工白板紙」に、「片面」は「表面」に、「下塗り塗工層」は「下塗り層」に、「上塗り塗工層」は「上塗り層」に、「重質炭酸カルシウム2」は「重質炭酸カルシウム」に、「ラボブレードコーター」は「ブレードコーター」にそれぞれ相当する。
引用発明1’の「下塗り塗工層」と「上塗り塗工層」は、あわせて本件訂正発明5の「塗工層」に相当する。
引用発明1’の「下塗り用共重合体ラテックスS1」と「上塗り用共重合体ラテックスL3」が、それぞれ下塗り塗工層、上塗り塗工層において接着剤として機能していることは、自明(必要なら引用文献2の段落【0014】、引用文献3の段落【0011】等を参照)であるから、引用発明1’の「下塗り用共重合体ラテックスS1」と「上塗り用共重合体ラテックスL3」は、本件訂正発明5の「塗工層」の「接着剤」に相当すると共に、引用発明1’の「上塗り用共重合体ラテックスL3」は、上記第5.1.(6)に示した【表1】によるとスチレン-ブタジエン系共重合体であるから、本件訂正発明5の上塗り層中の接着剤である「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス」に相当する。
よって、引用発明1’の「塗工板紙原紙の片面に顔料と下塗り用共重合体ラテックスS1を含有する下塗り塗工層及び顔料と上塗り用共重合体ラテックスL3を含有する上塗り塗工層を形成する工程を含む白色の塗工板紙の製造方法」は、本件訂正発明5の「基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白板紙の製造方法」に相当する。

引用発明1’の「数平均粒子径」は、平均粒子径の一種である。よって、引用発明1’の「数平均粒子径」は、本件訂正発明5の「平均粒子径」に相当する。
引用発明1’の「上塗り用共重合体ラテックスL3」と、本件訂正発明5の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス」に関して、含有量について引用発明1’の「10質量部」は本件訂正発明5の「9?25質量部」の範囲内であり、平均粒子径について引用発明1’の「100nm」は本件訂正発明5の「85?110nm」の範囲内である。
引用発明1’の重質炭酸カルシウム2の平均粒子径1.0μmは、本件訂正発明5の範囲内である。また、引用発明1’の重質炭酸カルシウム2は、上塗り塗工層の顔料100質量部に対して20質量部含有するから、その割合は20質量%である。

よって、本件訂正発明5と引用発明1’は、以下の点で一致する。
「基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白板紙の製造方法であって、
塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nmであり、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを含有し、
上塗り層がブレードコーターを用いた塗工方式により形成される、塗工白板紙の製造方法。」

そして、本件訂正発明5と引用発明1’は、以下の点で相違する。
<相違点1’>
スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスのガラス転移温度について、本件訂正発明5は、「-50?-20℃の範囲内にのみ存在し」ているのに対して、引用発明1’は、-31℃及び9℃である点。

<相違点2’>
上塗り層の顔料について、本件訂正発明5は、重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の「50質量%以上」含有するのに対して、引用発明1’は、重質炭酸カルシウム2を上塗り塗工層の顔料の20質量%含有する点。

<相違点3’>
下塗り層の塗工方式について、本件訂正発明5は、「ロッドコーター」を用いているのに対して、引用発明1’は、ラボブレードコーターを用いている点。

(イ)判断
<相違点2’>について
<相違点2’>は、上記ア.(ア)の本件訂正発明1と引用発明1の対比における<相違点2>と実質的に同じ相違点である。
したがって、上記ア.(イ)で述べたとおり、引用発明1’において、顔料として重質炭酸カルシウムの割合を多くすることで、上記<相違点2’>に係る「50質量%以上」の範囲とすることは、当業者が容易になし得るものである。

<相違点3’>について
引用文献1の段落【0030】には、下塗り層の塗工方式について「下塗り用塗工液の塗工方法としては、塗工板紙の製造方法において用いられている公知の方法を採用することができる。」、「例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、チャンプレックスコーター、サイズプレスコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等を使用して塗工することができる。」と記載されているから、公知の塗工方法に変更し得ることが示唆されている。
そして、ロッドコーターは、塗工板紙の製造方法において用いられている公知の方法(必要なら引用文献2の段落【0057】等を参照)である。
よって、引用発明1’において、下塗り層の塗工方式をロッドコーターに変更することで、上記<相違点3’>に係る「ロッドコーター」とすることは、当業者が容易になし得るものである。

<相違点1’>について
<相違点1’>は、上記ア.(ア)の本件訂正発明1と引用発明1の対比における<相違点1>と実質的に同じ相違点である。
したがって、上記ア.(イ)で述べたとおり、引用発明1’のガラス転移温度の温度範囲を、<相違点1’>に係る本件訂正発明5の事項とすることは、当業者が容易になし得たものであるということはできず、また、本件訂正発明5は、<相違点1’>に係る構成により格別の作用効果を発揮するものである。

よって、本件訂正発明5は、引用発明1’に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3?5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、理由2-1によっては取り消すことはできない。

(2)理由2-2(主引用例:引用文献3)
ア.本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明3を対比すると、引用発明3の「両面」は、本件訂正発明1の「表面」に相当する。
引用発明3の「塗工原紙」は、板紙であるか明らかでないから、「塗工厚紙」の限りにおいて、本件訂正発明1の「基紙」に一致する。
引用発明3の「顔料塗被層」は、単層であるか複層であるかは別論として、紙上に塗工された塗工層といえるから、本件訂正発明1の「塗工層」に相当するとともに、引用発明3の「顔料塗被層」は、「最表面の塗工層」であるから、本件訂正発明1の「上塗り層」に相当する。
そうすると、引用発明3の「グラビア印刷用塗被白紙」は、紙上に塗工層を有する「塗工白紙」の限りで本件訂正発明1の「塗工白板紙」に一致する。
引用発明3の「部」は、「例中の部および%は特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を示す。」(段落【0032】)とあるから「重量部」である。そうすると、引用発明3の「部」は、本件訂正発明1の「質量部」に相当する。
よって、引用発明3の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の含有量が顔料塗被層に含有される顔料100部に対して固形分で15部」であることは、本件訂正発明1の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部」の範囲内であり、引用発明3の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の平均粒子径が103nm」であることは、本件訂正発明1の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm」の範囲内である。

よって、本件訂正発明1と引用発明3は、以下の点で一致する。
「塗工厚紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を備えた塗工白紙において、最表面の塗工層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が最表面の塗工層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nmである塗工白紙。」

そして、本件訂正発明1と引用発明3は、以下の点で相違する。
<相違点A>
塗工白紙について、本件訂正発明1は、「基紙」と「塗工層」からなる「塗工白板紙」であるのに対して、引用発明3は、塗工原紙と顔料塗被層からなるグラビア印刷用塗被白紙であり、板紙であるか否か明記されていない点。

<相違点B>
塗工層について、本件訂正発明1は、「基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造」であるのに対して、引用発明3は、顔料塗被層の1層である点。

<相違点C>
ガラス転移温度について、本件訂正発明1は、「-50?-20℃の範囲内にのみ存在」しているのに対して、引用発明3は、-53℃である点。

<相違点D>
顔料について、本件訂正発明1は、「上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有する」のに対して、引用発明3は、顔料塗被層の顔料として平均粒子径が0.6μmであるデラミネーテッドカオリンを含有する点。

(イ)判断
<相違点A>について
引用文献3の段落【0003】の「前記包装材用途でも塗工紙や塗工板紙へのフルカラー再現を目的とするグラビア印刷に、水性系インキを使用した場合には」なる記載から、引用発明3は、板紙に用いることが示唆されているといえる。
よって、引用発明3の塗工原紙として板紙を選択することで、上記<相違点A>に係る「塗工白板紙」とすることは、当業者が適宜なし得るものである。

<相違点B>について
塗工層として、基紙に近い下塗り層と基紙から遠い上塗り層からなる多層構造は、本件特許出願前に周知(必要なら引用文献1、2等を参照)の構造である。
そして、引用文献3の「当該塗工紙の透気度を高くすること、換言すれば、その通気性を低くすることが肝要である。」(段落【0012】)、「版から塗被紙の顔料塗被層表面上に転移したインキが、顔料塗被層内部やその下の原紙層まで浸透するのを防止あるいは遅らせ」(段落【0013】)なる記載からみて、より通気性を低下させ、より浸透を防止するためには、塗工原紙と顔料塗被層の間に別の塗工層を設けた方がその効果が高くなることは、当業者であれば容易に理解できる。
そうすると、引用発明3の塗工層において、塗工原紙と顔料塗被層の間に下塗り層を設けることで、上記<相違点B>に係る「多層構造」とすることに格別の困難性があるとは認められない。

<相違点C>について
引用文献3には、ガラス転移温度について、「前記塗被組成物の接着剤として、ガラス転移温度(Tg)-65℃?-25℃、平均粒子径30nm?120nmの共重合体ラテックス」(段落【0011】)、「好個の組成物における接着剤成分には、ガラス転移温度(Tg)が-65℃?-25℃の範囲にあり、平均粒子径が30nm?120nmの範囲にある共重合体ラテックスを使用することが好ましい。」(段落【0021】)とあり、ガラス転移温度(Tg)を-65℃?-25℃の範囲とすることが記載されている。
よって、引用発明3において上記記載を参照して、ガラス転移温度を「-50?-20℃」の範囲とすることに格別の困難性があるとは認められない。

<相違点D>について
引用文献3には、顔料について以下の記載がある。
「【0020】本発明の印刷用塗被紙を得るのに好適な塗被組成物の一例(以下、これを好個の組成物と呼ぶ)を以下に説明する。好個の組成物の顔料成分としては、平均粒子径が0.5?4.0μm、好ましくは0.5?2.0μmの範囲にあるカオリンを、組成物に含まれる顔料全量の90?100重量%の範囲で使用することが好ましい。カオリンの平均粒子径が0.5μm未満では、接触時間25ミリ秒における水や水性系インキの吸収量が大きくなり、トーンジャンプやインキモットルを改善できないおそれがある。一方、カオリンの平均粒子径が4.0μmを超える場合、光沢の低下や平滑性の悪化によるミッシングドットの発生が懸念されるため好ましくない。また、カオリンの量は、全顔料中の90?100重量%とすることが、塗被紙の水に対する濡れ性改善、すなわち、接触角を小さくすることに有効である。そして、カオリンの量が90重量%未満では、水の接触角が大きくなって、トーンジャンプやインキモットルを改善できないおそれがある。なお、好個の組成物の顔料には、通常の印刷用塗被紙の顔料塗被層に使用される顔料、例えば、上記した平均粒子径範囲から外れるカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、二酸化チタン、サチンホワイト、各種有機顔料等も、全顔料の10重量%を超えない範囲で使用することができる。」
この記載によると、引用文献3には、カオリンの量を全顔料中の90?100重量%とすることが必須であり、カオリンの量が90重量%未満では、トーンジャンプやインキモットルを改善できないという問題が発生すると記載されている。また、重質炭酸カルシウムを用いる場合には、全顔料の10重量%を超えない範囲で使用することができると記載されている。
すなわち、引用発明3において、重質炭酸カルシウムを顔料の50質量%以上とすることに阻害要因があるから、引用発明3の顔料として重質炭酸カルシウムを顔料の50質量%以上含有するものに変更することは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

そして、本件特許明細書には、「これらの中でも重質炭酸カルシウムは、白色度が高いことに加えて、安価であり、白色顔料として多用されている。この粒子径を細かくするほど、白紙光沢、平滑性を向上できる。また、軽質炭酸カルシウムよりニス適性が優れることから、平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層中に用いるのが好ましい。より好ましくは0.6?1.0μm、更に好ましいのは0.7?0.9μmである。平均粒子径を1.2μm以下とすることにより、平滑性を向上し、グラビア適性、ニス適性を向上できる。一方、0.5μm以上とすることにより、接着剤の要求量が抑え、ニス適性、印刷光沢を向上できる。」(段落【0026】)、「前記重質炭酸カルシウムは、上塗り層に含まれる全顔料の50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは55質量%以上、更に好ましいのは60質量%以上である。50質量%以上とすることにより、白色度を向上し、ニス適性を向上できる。」(段落【0027】)と記載されているから、本件訂正発明1は、顔料として重質炭酸カルシウムの平均粒子径と含有量を特定することによって、白紙光沢、平滑性、白色度、ニス適性を向上するという格別の作用効果を発揮するものである。

よって、本件訂正発明1は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

イ.本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1の構成要件を全て含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、よって、本件訂正発明3、4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

ウ.本件訂正発明5について
(ア)対比
本件訂正発明5と引用発明3’を対比すると、引用発明3’の「両面」は、本件訂正発明5の「表面」に相当する。
引用発明3’の「塗工原紙」は、板紙であるか明らかでないから、「塗工厚紙」の限りにおいて、本件訂正発明5の「基紙」に一致する。
引用発明3’の「顔料塗被層」は、単層であるか複層であるかは別論として、紙上に塗工された塗工層といえるから、本件訂正発明5の「塗工層」に相当するとともに、引用発明3’の「顔料塗被層」は、「最表面の塗工層」であるから、本件訂正発明5の「上塗り層」に相当する。
そうすると、引用発明3’の「グラビア印刷用塗被白紙」は、紙上に塗工層を有する「塗工白紙」の限りで本件訂正発明5の「塗工白板紙」に一致するから、引用発明3’の「塗工原紙の両面に顔料と接着剤を含有する顔料塗被層を形成する工程を含むグラビア印刷用塗被白紙の製造方法」は、「紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白紙の製造方法」の限りにおいて、本件訂正発明5の「基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白板紙の製造方法」に相当する。

引用発明3’の「部」は、「例中の部および%は特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を示す。」(段落【0032】)とあるから「重量部」である。そうすると、引用発明3’の「部」は、本件訂正発明5の「質量部」に相当する。
よって、引用発明3’の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の含有量が顔料塗被層に含有される顔料100部に対して固形分で15部」であることは、本件訂正発明5の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部」の範囲内であり、引用発明3’の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:G-1079.06)の平均粒子径が103nm」であることは、本件訂正発明5の「スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm」の範囲内である。
引用発明3’の「ブレードコーター」は、本件訂正発明5の「ブレードコーター」に相当する。

よって、本件訂正発明5と引用発明3’は、以下の点で一致する。
「塗工厚紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白紙の製造方法であって、最表面の塗工層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が最表面の塗工層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nmであり、
最表面の塗工層がブレードコーターを用いた塗工方式により形成される塗工白紙の製造方法。」

そして、本件訂正発明5と引用発明3’は、以下の点で相違する。
<相違点A’>
塗工白紙について、本件訂正発明5は、「基紙」と「塗工層」からなる「塗工白板紙」であるのに対して、引用発明3’は、塗工原紙と顔料塗被層からなるグラビア印刷用塗被白紙であり、板紙であるか否か明記されていない点。

<相違点B’>
塗工層について、本件訂正発明5は、「基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造」であるのに対して、引用発明3’は、顔料塗被層の1層である点。

<相違点C’>
ガラス転移温度について、本件訂正発明5は、「-50?-20℃の範囲内にのみ存在」しているのに対して、引用発明3’は、-53℃である点。

<相違点D’>
顔料について、本件訂正発明5は、「上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有」するのに対して、引用発明3’は、顔料塗被層の顔料として平均粒子径が0.6μmであるデラミネーテッドカオリンを含有する点。

<相違点E’>
塗工方式について、本件訂正発明5は、「下塗り層がロッドコーターを用いた塗工方式により形成され」るのに対して、引用発明3’は、下塗り層がない点。

(イ)判断
<相違点A’>?<相違点C’>について
<相違点A’>?<相違点C’>は、上記ア.(ア)の本件訂正発明1と引用発明3の対比における<相違点A>?<相違点C>と実質的に同じ相違点である。
したがって、上記ア.(イ)で述べたとおり、引用発明3’において、上記<相違点A’>?<相違点C’>に係る構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。

<相違点E’>について
引用発明3’の塗工層において、塗工原紙と顔料塗被層の間に下塗り層を設けることに格別の困難性があるとは認められないことは、上記ア.(イ)における<相違点B>についての検討で述べたとおりである。
ここで、引用文献3の段落【0029】には、「原紙上に塗被組成物を塗工する装置にも特に限定はなく、例えば、ゲートロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、エアナイフコーターなどの一般的に公知公用の塗工装置が適宜使用できる。」と記載されているから、上記下塗り層を設けるに際しても同様に、一般的に公知公用の塗工装置を適宜使用できることが理解できる。
そして、引用文献3の段落【0029】には「ロッドブレードコーター」が選択肢として記載されており、また、ロッドコーターは、塗工装置として本件特許出願前に公知(必要なら引用文献2の段落【0057】等を参照)である。
よって、引用発明3’おいて、下塗り層を設けるにあたり、その塗工方式としてロッドコーターを採用することは、当業者が適宜選択し得るものである。

<相違点D’>について
<相違点D’>は、上記ア.(ア)の本件訂正発明1と引用発明3の対比における<相違点D>と実質的に同じ相違点である。
したがって、上記ア.(イ)で述べたとおり、引用発明3’の顔料として重質炭酸カルシウムを顔料の50質量%以上含有するものに変更することは、当業者が容易になし得たものであるということはできず、また、本件訂正発明5は、<相違点D’>に係る構成によって格別の作用効果を発揮するものである。

よって、本件訂正発明5は、引用発明3’に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3?5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、理由2-2によっては取り消すことはできない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1、3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1、3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により、請求項2は削除されたため、請求項2に係る特許に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を備えた塗工白板紙において、塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在し、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有することを特徴とする塗工白板紙。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記上塗り層の顔料として平均粒子径が1.2μm以下であるカオリンを含有する、請求項1に記載の塗工白板紙。
【請求項4】
前記下塗り層が基紙に最も近い塗工層であり、前記上塗り層が基紙から最も遠い塗工層である、請求項1又は3に記載の塗工白板紙。
【請求項5】
基紙の表面に顔料と接着剤を含有する塗工層を形成する工程を含む塗工白板紙の製造方法であって、
塗工層が基紙に近い側に下塗り層を有し、基紙から遠い側に上塗り層を有する少なくとも2層の多層構造であって、上塗り層中にスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを接着剤として用い、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの含有量が上塗り層に含有される顔料100質量部に対して固形分で9?25質量部であり、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスの平均粒子径が85?110nm、且つガラス転移温度が-50?-20℃の範囲内にのみ存在し、上塗り層の顔料として平均粒子径が0.5?1.2μmである重質炭酸カルシウムを上塗り層の顔料の50質量%以上含有し、
下塗り層がロッドコーターを用いた塗工方式により形成され、上塗り層がブレードコーターを用いた塗工方式またはエアナイフコーターを用いた塗工方式のいずれかにより形成されることを特徴とする、塗工白板紙の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-08 
出願番号 特願2014-187502(P2014-187502)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D21H)
P 1 651・ 121- YAA (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中川 裕文堀内 建吾堀 洋樹  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
佐々木 正章
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6341018号(P6341018)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 塗工白板紙  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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