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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
管理番号 1355964
異議申立番号 異議2019-700121  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-13 
確定日 2019-08-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6378579号発明「トナー用結着樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6378579号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6378579号の請求項1、2、4?8に係る特許を維持する。 特許第6378579号の請求項3、9についての異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6378579号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年8月22日に特許出願され、平成30年8月3日にその特許権の設定登録がされ、同年8月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成31年2月13日に特許異議申立人 松山徳子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、平成31年4月16日付けで取消理由が通知され、令和元年6月11日に意見書の提出及び訂正請求(以下、当該訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされた。
なお、令和元年6月14日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知を送付したが、指定した期間内に特許異議申立人からの意見書の提出はなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第6378579号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の内容
本件訂正による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に
「該アルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を20モル%以上70モル%以下含有し、」
と記載されているのを、
「該アルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を25モル%以上50モル%以下含有し、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4?8も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に
「該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3である、トナー用結着樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3であり、
該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である、トナー用結着樹脂組成物。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4?8も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂組成物。」
に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5?8も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?4のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6?8も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?5のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4、5のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7、8も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4?6のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1?7のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4?7のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物」
に訂正する。

(9)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(10)本件訂正請求は、一群の請求項〔1-9〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否
(1)訂正事項1-1及び訂正事項1-2について
訂正事項1-1による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明における「アルコール成分(AL-al)」について、「プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物」を含有する範囲を「20モル%以上70モル%以下」から「25モル%以上50モル%以下」に減縮するものである。また、訂正事項1-2による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明における「非晶質ポリエステル(AL)」及び「非晶質ポリエステル(AH)」について、「質量比[(AL)/(AH)]」を「0.6以上4.0以下」に減縮するものである。
したがって、訂正事項1-1及び訂正事項1-2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)訂正事項2及び訂正事項8について
訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項3を削除するものである。また、訂正事項8による訂正も、本件訂正前の請求項9を削除するものである。
したがって、訂正事項2及び訂正事項8による訂正は、特許法第120条の2第5項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

(3)訂正事項3?7について
訂正事項3?7による訂正は、訂正事項2により請求項3が削除されたことによって生じた、訂正により削除された請求項3を引用しているという不明瞭な状態を、解消させることを目的とした訂正であると解することができる。
したがって、訂正事項3?7による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。

4 新規事項の有無
(1)訂正事項1-1について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0029】に、「アルコール成分(AL-al)中、プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物の含有量は、低温定着性、及び耐久性の観点から、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは35モル%以上であり、そして、低温定着性、及び印刷物の光沢性の観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは45モル%以下である。」と記載されている。
そうしてみると、訂正事項1-1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。

(2)訂正事項1-2について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0045】に、「本発明の結着樹脂組成物に含まれる非晶質ポリエステル(AL)と非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]は、耐久性の観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、そして、低温定着性、及び印刷物の光沢性の観点から、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.5以下、より更に好ましくは1.2以下である。」と記載されている。
そうしてみると、訂正事項1-2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。

(3)訂正事項2?8について
訂正事項2及び訂正事項8による訂正は、請求項を削除するものであるから、訂正事項2及び訂正事項8による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。また、訂正事項3?7による訂正は、訂正事項2による訂正と整合するように、請求項の記載を改めたものであるから、訂正事項3?7による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。

5 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1-1及び訂正事項1-2について
訂正事項1-1による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明における「アルコール成分(AL-al)」について、「プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物」を含有する範囲を「20モル%以上70モル%以下」から「25モル%以上50モル%以下」に減縮するものである。また、訂正事項1-2による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明における「非晶質ポリエステル(AL)」及び「非晶質ポリエステル(AH)」について、「質量比[(AL)/(AH)]」を「0.6以上4.0以下」に減縮するものである。
そうすると、訂正事項1-1及び訂正事項1-2による訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(2)訂正事項2?8について
訂正事項2及び訂正事項8による訂正は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項3?7による訂正は、訂正事項2による訂正と整合するように、請求項の記載を改めたものであるから、当該訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

6 むすび
以上のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件特許発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められることとなったので、本件特許の請求項1、2、4?8に係る発明(以下、それぞれ請求項に付された番号に従い、「本件特許発明1」等という。)は、本件訂正による訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、請求項3及び請求項9が、本件訂正によって削除されたため、請求項3及び請求項9に係る発明は、存在しないものとなった。
「【請求項1】
軟化点が120℃以上170℃以下の非晶質ポリエステル(AH)と、軟化点が80℃以上120℃未満の非晶質ポリエステル(AL)と、軟化点が55℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル(C)とを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、
該非晶質ポリエステル(AH)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)を含有するアルコール成分(AH-al)と、カルボン酸成分(AH-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであって、
該アルコール成分(AH-al)が、プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を3モル%以上20モル%未満含有し、
該非晶質ポリエステル(AL)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)を含有するアルコール成分(AL-al)と、カルボン酸成分(AL-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであって、
該アルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を25モル%以上50モル%以下含有し、
該結晶性ポリエステル(C)が、炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)と、炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであり、
該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3であり、
該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である、トナー用結着樹脂組成物。
【請求項2】
前記非晶質ポリエステル(AL)の酸価が、2mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、請求項1に記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項4】
非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)との総量と、結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、80/20?97/3である、請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項5】
アルコール成分(AH-al)に含まれるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)の平均付加モル数が、2.1以上2.3以下である、請求項1、2、4のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項6】
アルコール成分(AL-al)に含まれるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)の平均付加モル数が、2.3以上3.0以下である、請求項1、2、4、5のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項7】
前記結晶性ポリエステル(C)の脂肪族アルコールの炭素数が、2以上8以下である、請求項1、2、4?6のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1、2、4?7のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、電子写真用トナー。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
平成31年4月16日付けで通知された取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1(新規性)
本件特許の請求項1,3?5及び7に係る発明は、本件特許の出願前に、日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由2(進歩性)
本件特許の請求項1?9に係る発明は、本件特許の出願前に、日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。

理由4(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2012-133233号公報
甲第2号証:特開2009-128434号公報
甲第3号証:特開2013-76915号公報

2 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前の平成24年7月12日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第1号証には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の甲号証についても同様である。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用トナーの製造方法、及びそれにより得られる電子写真用トナーに関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トナー中に離型剤を用いることで、その溶融特性から、得られるトナーの定着温度を低下することができる。それによって、印刷機の消費電力を低減し、高速印刷に適するトナーを得ることができる。しかし、離型剤を含むトナーは、印刷機中にトナーが飛散するトナー飛散の問題や、帯電性が低下してしまう等の問題も生じる。
本発明の課題は、良好な低温定着性と帯電性とを両立し、トナー飛散も少ない電子写真用トナー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、定着温度、帯電性及びトナー飛散に影響する要因は、トナーを構成する樹脂や離型剤の存在位置と状態にあると考えて検討を行った。その結果、樹脂粒子、離型剤粒子を含む凝集粒子と、特定のポリエチレングリコール部分を有するアニオン性界面活性剤を含有し、特定のpHである水性混合液中の凝集粒子を融着させることにより、良好な低温定着性及び帯電性を両立し、トナー飛散も少ない電子写真用トナーを得ることができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕樹脂粒子(A)及び離型剤粒子を含む凝集粒子と、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5?100であるポリエチレングリコール部分を有するアニオン性界面活性剤とを含有する水性混合液の25℃におけるpHを2.5?6.0に調整した後及び/又は調整しながら、該水性混合液中の凝集粒子を融着する工程を有する、電子写真用トナーの製造方法。
〔2〕前記〔1〕に記載の製造方法で得られる電子写真用トナー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な低温定着性及び帯電性を両立し、トナー飛散も少ない電子写真用トナー並びにその製造方法を提供することができる。」

イ 「【0011】
[樹脂粒子(A)]
本発明において、樹脂粒子(A)は結晶性ポリエステル(a)を含有することが好ましい。樹脂粒子(A)が結晶性ポリエステル(a)を含有する場合、樹脂粒子(A)中の結晶性ポリエステル(a)の含有量は、トナーの低温定着性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂中、1?50重量%が好ましく、13?50重量%がより好ましく、17?40重量%が更に好ましく、20?30重量%が特に好ましい。
【0012】
(結晶性ポリエステル(a))
本発明において、結晶性ポリエステル(a)とは、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最大ピーク温度との比、(軟化点(℃))/(吸熱の最大ピーク温度(℃))で定義される結晶性指数が0.6?1.4のものであり、トナーの低温定着性の観点から、0.8?1.3のものが好ましく、0.9?1.2のものがより好ましく、0.9?1.1のものが更に好ましい。
結晶性ポリエステル(a)は、乳化性の観点から、分子末端に酸基を有することが好ましい。該酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルフィン酸等が挙げられる。これらの中でも、樹脂の分散性と得られるトナーの保存安定性との両立の観点から、カルボキシル基が好ましい。

(中略)

【0019】
(非晶質ポリエステル(c))
樹脂粒子(A)は、トナーの低温定着性を維持しながら、保存安定性、帯電性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、更に非晶質ポリエステル(c)を含有することが好ましい。樹脂粒子(A)における結晶性ポリエステル(a)及び非晶質ポリエステル(c)の総量は、トナーの低温定着性を向上させる観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂中好ましくは50?100重量%、より好ましくは80?100重量%、更に好ましくは90?100重量%である。樹脂粒子(A)における結晶性ポリエステル(a)と非晶質ポリエステル(c)との重量比((a)/(c))は、トナーの低温定着性、保存安定性、帯電性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、5/95?50/50であることが好ましく、5/95?40/60がより好ましく、10/90?30/70がより好ましく、13/87?25/75が更に好ましく、15/85?20/80がより更に好ましい。
【0020】
樹脂粒子(A)に含まれうる非晶質ポリエステル(c)は、後述の非晶質ポリエステル(b)と同様のポリエステルを好ましく用いることができる。非晶質ポリエステル(b)と同一組成の樹脂を用いてもよく、異なる組成の樹脂を用いてもよいが、同一組成の樹脂を用いることが凝集制御及びトナーの低温定着性の観点から好ましい。
【0021】
非晶質ポリエステル(c)は、酸成分とアルコール成分とを、重縮合反応させることによって製造することができ、好ましい酸成分及びアルコール成分は、非晶質ポリエステル(b)と同じものであり、2種以上を用いてもよいが、具体的には、好ましい酸成分として、ジカルボン酸、炭素数1?20のアルキル基又は炭素数2?20のアルケニル基で置換されたコハク酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1?3)エステル等が挙げられ、なかでもジカルボン酸が好ましい。
ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、炭素数1?20のアルキル基又は炭素数2?20のアルケニル基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデセニルコハク酸が好ましく、3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸及びその酸無水物が好ましい。
【0022】
好ましいアルコール成分として、芳香族ジオールが挙げられ、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2?3)オキサイド付加物(平均付加モル数1?16)が好ましい。
非晶質ポリエステル(c)のガラス転移点、軟化点、数平均分子量及び酸価は、非晶質ポリエステル(b)と同じ範囲が好ましい。
【0023】
非晶質ポリエステル(c)は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、トナーの低温定着性、耐オフセット性及び耐久性の観点から、軟化点が異なる2種類のポリエステルを含有することが好ましい。軟化点が異なる2種類のポリエステルをそれぞれポリエステル(c-1)及び(c-2)とした場合、一方のポリエステル(c-1)の軟化点は70℃以上115℃未満が好ましく、他方のポリエステル(c-2)の軟化点は115℃以上165℃以下が好ましい。ポリエステル(c-1)とポリエステル(c-2)との重量比((c-1)/(c-2))は、10/90?90/10が好ましく、50/50?90/10がより好ましい。
【0024】
樹脂粒子(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶性ポリエステル(a)及び非晶質ポリエステル(c)以外の樹脂、例えば、スチレン-アクリル共重合体、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂を含有してもよい。
樹脂粒子(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、帯電制御剤を含有させてもよい。また、必要に応じて、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤等の添加剤等を含有させてもよい。
【0025】
また、樹脂粒子(A)は、樹脂のみからなる粒子であってもよく、着色剤を含有する着色剤含有樹脂粒子であってもよいが、トナーの粒度分布をシャープにする観点から、着色剤を含有することが好ましく、着色剤を含有する着色剤含有樹脂粒子であることが好ましい。
樹脂粒子(A)が着色剤含有樹脂粒子である場合、着色剤の含有量は、トナーの画像濃度の観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、1?20重量部が好ましく、5?10重量部がより好ましい。
【0026】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤は、表面処理や分散剤の使用によって、水性媒体中に着色剤粒子として用いてもよく、樹脂粒子(A)等の樹脂粒子に含有させて用いてもよいが、トナーの粒度分布をシャープにする観点から、樹脂粒子(A)に含有させて用いることが好ましい。
着色剤としては、顔料及び染料が用いられ、トナーの画像濃度の観点から、顔料が好ましい。
顔料の具体例としては、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ベンジジンイエロー、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、銅フタロシアニン、フタロシアニングリーン等が挙げられ、銅フタロシアニンが好ましい。
染料の具体例としては、アクリジン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系等が挙げられる。
着色剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
(樹脂粒子(A)の製造)
樹脂粒子(A)は、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂及び着色剤等の前記の任意成分を水性媒体中に分散させ、樹脂粒子(A)を含有する分散液として得る方法によって製造することが好ましい。
分散液を得る方法としては、樹脂等を水性媒体に添加し、分散機等によって分散処理を行う方法、樹脂等に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法等が挙げられ、得られるトナーの低温定着性の観点から、転相乳化による方法が好ましい。以下、転相乳化による方法について述べる。
【0028】
まず、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂、アルカリ水溶液、及び着色剤等の前記の任意成分を溶融して混合し、樹脂混合物を得る。
結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が、複数の樹脂からなる場合には、予め、結晶性ポリエステル(a)とその他の樹脂を混合したものを用いてもよいが、前記アルカリ水溶液及び任意成分を添加する際に同時に添加し、溶融して混合することによって得てもよい。例えば、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が、非晶質ポリエステル(c)を含有する場合には、結晶性ポリエステル(a)、非晶質ポリエステル(c)、アルカリ水溶液、及び前記の任意成分を溶融して混合し、樹脂混合物を得る方法が、トナーの低温定着性の観点から好ましい。
また、混合の際には、樹脂の乳化安定性の観点から、界面活性剤を添加することが好ましい。
【0029】
アルカリ水溶液中のアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等やアンモニア等が挙げられるが、樹脂の分散性向上の観点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。また、アルカリ水溶液中のアルカリの濃度は、1?30重量%が好ましく、1?25重量%がより好ましく、1.5?20重量%が更に好ましい。
【0030】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられ、なかでも非イオン性界面活性剤が好ましく、非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤を併用することがより好ましく、樹脂を十分に乳化させる観点から、非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併用することが更に好ましい。
非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併用する場合、非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との重量比(非イオン性界面活性剤/アニオン性界面活性剤)は、樹脂を十分に乳化させる観点から、0.3?10が好ましく、0.5?5がより好ましい。

(中略)

【0033】
樹脂混合物を得る方法としては、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂、アルカリ水溶液、及び前記の任意成分、好ましくは界面活性剤を容器に入れ、撹拌器によって撹拌しながら、樹脂を溶融して均一に混合する方法が好ましい。
【0034】
樹脂を溶融し混合する際の温度は、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が、非晶質ポリエステル(c)を含む場合には、そのガラス転移点以上が好ましく、均質な樹脂粒子を得る観点から、より好ましくは結晶性ポリエステル(a)の融点以上がより好ましい。」

ウ 「【0093】
[ポリエステルの製造]
製造例1
(結晶性ポリエステルX1の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、1,9-ノナンジオール3936g、セバシン酸4848gを入れた。撹拌しながら、140℃に昇温し、140℃で3時間維持した後、140℃から200℃まで10時間かけて昇温した。その後、ジオクチル酸錫50gを加え、更に200℃にて1時間維持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8.3kPaにて4時間維持し、結晶性ポリエステルX1を得た。得られた結晶性ポリエステルX1の軟化点、融点、結晶性指数、数平均分子量及び酸価を表1に示す。
【0094】
製造例2
(結晶性ポリエステルX2の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、1,6-ヘキサンジオール2419g、1,12-ドデカン二酸4957gを入れた。撹拌しながら、140℃に昇温し、140℃で3時間維持した後、140℃から200℃まで10時間かけて昇温した。その後、ジオクチル酸錫30gを加え、更に200℃にて1時間維持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8.3kPaにて3時間維持し、結晶性ポリエステルX2を得た。得られた結晶性ポリエステルX2の軟化点、融点、結晶性指数、数平均分子量及び酸価を表1に示す。
【0095】
製造例3
(非晶質ポリエステルY1の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3322g、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン31g、テレフタル酸662g及び酸化ジブチルスズ10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、230℃に昇温し、5時間維持した後、更にフラスコ内の圧力を下げ、8.0kPaにて1時間維持した。大気圧に戻した後、190℃に冷却し、フマル酸685g、tert-ブチルカテコール0.49gを加え、190℃の温度下で1時間維持した後に、2時間かけて210℃まで昇温した。更にフラスコ内の圧力を下げ、8.0kPaにて4時間維持させて、非晶質ポリエステルY1を得た。得られた非晶質ポリエステルY1の軟化点、ガラス転移点、結晶性指数、数平均分子量及び酸価を表1に示す。
【0096】
製造例4
(非晶質ポリエステルY2の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1750g、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1625g、テレフタル酸1145g、ドデセニルコハク酸無水物161g、トリメリット酸無水物480g、及び酸化ジブチル錫10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、220℃に昇温し、220℃で5時間維持した後、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が120℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止め、非晶質ポリエステルY2を得た。得られた非晶質ポリエステルY2の軟化点、ガラス転移点、結晶性指数、数平均分子量及び酸価を表1に示す。
【0097】
製造例5
(非晶質ポリエステルY3の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3004g、フマル酸996g、tert-ブチルカテコール2gおよび酸化ジブチル錫8gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、5時間かけて210℃まで昇温し、210℃で2時間保持した後、8.3kPaにて反応し所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステルY3を得た。得られた非晶質ポリエステルY3の軟化点、ガラス転移点、結晶性指数、数平均分子量及び酸価を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
[樹脂粒子及び離型剤粒子の製造]
製造例6
(樹脂粒子分散液(A-1)の調製)
撹拌機を装備したフラスコに、結晶性ポリエステルX1 90g、非晶質ポリエステルY1 300g、非晶質ポリエステルY2 210g、銅フタロシアニン顔料(商品名:ECB301、大日精化工業(株)製)45g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(非イオン性界面活性剤、商品名:エマルゲン150、花王(株)製)8.5g、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤、商品名:ネオペレックスG-15、花王(株)製)80g、5重量%水酸化カリウム水溶液266gを入れ、撹拌しながら、98℃に昇温して溶融し、98℃で2時間混合して、樹脂混合物を得た。
次に、撹拌しながら、脱イオン水1116gを6g/分の速度で滴下し、乳化物を得た。次に、得られた乳化物を25℃に冷却し、200メッシュ(目開き105μm)の金網を通して、樹脂粒子分散液(A-1)を得た。得られた樹脂粒子分散液の固形分濃度、体積中位粒径及びCV値を表2に示す。
【0100】
製造例7
(樹脂粒子分散液(A-2)の調製)
撹拌機を装備したフラスコに、結晶性ポリエステルX2 90g、非晶質ポリエステルY1 300g、非晶質ポリエステルY2 210g、銅フタロシアニン顔料(商品名:ECB301、大日精化工業(株)製)45g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(非イオン性界面活性剤、商品名:エマルゲン150、花王(株)製)8.5g、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤、商品名:ネオペレックスG-15、花王(株)製)80g、5重量%水酸化カリウム水溶液274gを入れ、撹拌しながら、98℃に昇温して溶融し、98℃で2時間混合して、樹脂混合物を得た。
次に、撹拌しながら、脱イオン水1109gを6g/分の速度で滴下し、乳化物を得た。次に、得られた乳化物を25℃に冷却し、200メッシュ(目開き105μm)の金網を通して、樹脂粒子分散液(A-2)を得た。得られた樹脂粒子分散液の固形分濃度、体積中位粒径及びCV値を表2に示す。

(中略)

【0103】
【表2】


(中略)

【0107】
[トナーの製造]
実施例1
(トナーAの作製)
<工程(1):凝集粒子(1)の作製>
脱水管、撹拌装置及び熱電対を装備した内容積5リットルの4つ口フラスコに、樹脂粒子(A-1)分散液250g、脱イオン水67.4g、及び離型剤粒子分散液42gを温度25℃下で混合した。次に、該混合物を撹拌しながら、硫酸アンモニウム21gを脱イオン水219gに溶解した水溶液を25℃で5分かけて滴下した後、55℃まで昇温し、凝集粒子の体積中位粒径が4.3μmになるまで、55℃で保持し、凝集粒子(1)を得た。
<工程(2):凝集粒子(2)の作製>
工程(1)で得られた凝集粒子(1)分散液(全量)に41gの脱イオン水を添加し、凝集粒子(1)分散液の温度を49℃に冷却した。次いで、49℃の分散液を毎時1.6℃の速度で昇温しながら、樹脂粒子(B-1)分散液158.5gを毎分0.5mlの速度で滴下し、凝集粒子(2)分散液を得た。得られた凝集粒子(2)の体積中位粒径、円形度および分散液のpHを表3に示す。また、滴下終了後の分散液の温度は57℃であった。
<工程(3):凝集粒子(2)分散液への界面活性剤の添加とpHの調整>
工程(2)で得られた凝集粒子(2)分散液(全量)に、ポリオキシエチレン(18)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤、商品名:ラテムルE-118B、花王(株)製、固形分26%)19.9gと脱イオン水3813gを混合した水溶液を入れた。その後、25℃におけるpHが5.0となるように1.0Nの塩酸を添加した。
<工程(4):凝集粒子(2)の融着工程>
工程(3)でpHを調整した凝集粒子(2)分散液を60℃に昇温し、60℃下で5時間保持し、粒子を融着してコアシェル粒子を得た。
<洗浄・乾燥・外添工程>
次に、分散液を25℃に冷却し、25℃に保ちつつ、吸引濾過で固形分を分離し、脱イオン水で洗浄し、33℃で乾燥を行い、トナー粒子を得た。得られたトナーの円形度、BET比表面積、および体積中位粒径を表3に示す。該トナー粒子100重量部、疎水性シリカ(商品名:RY50、日本アエロジル(株)製、平均粒径;0.04μm)2.5重量部、及び疎水性シリカ(商品名:キャボシールTS720、キャボット社製、平均粒径;0.012μm)1.0重量部をヘンシェルミキサーに入れ、撹拌し、150メッシュのふるいを通過させてトナーAを得た。得られたトナー性能を表3に示す。
【0108】
実施例2
(トナーBの作製)
<工程(1):凝集粒子(1)の作製>
脱水管、撹拌装置及び熱電対を装備した内容積5リットルの4つ口フラスコに、樹脂粒子(A-2)分散液250g、脱イオン水55.9g、及び離型剤粒子分散液41gを温度25℃下で混合した。次に、該混合物を撹拌しながら、硫酸アンモニウム20gを脱イオン水211gに溶解した水溶液を25℃で5分かけて滴下した後、55℃まで昇温し、凝集粒子の体積中位粒径が4.3μmになるまで、55℃で保持し、凝集粒子(1)を得た。
<工程(2):凝集粒子(2)の作製>
工程(1)で得られた凝集粒子(1)分散液(全量)に39gの脱イオン水を添加し、凝集粒子(1)分散液の温度を49℃に冷却した。次いで、49℃の分散液を毎時1.6℃の速度で昇温しながら、樹脂粒子(B-1)分散液152.7gを毎分0.5mlの速度で滴下し、凝集粒子(2)分散液を得た。得られた凝集粒子(2)の体積中位粒径、円形度および分散液のpHを表3に示す。また、滴下終了後の分散液の温度は57℃であった。
<工程(3):凝集粒子(2)分散液への界面活性剤の添加とpHの調整>
工程(2)で得られた凝集粒子(2)分散液(全量)に、ポリオキシエチレン(18)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤、商品名:ラテムルE-118B、花王(株)製、固形分26%)19.2gと脱イオン水3675gを混合した水溶液を入れた。その後、25℃におけるpHが5.0となるように1.0Nの硫酸を添加した。
<工程(4):凝集粒子(2)の融着工程>
工程(3)でpHを調整した凝集粒子(2)分散液を60℃に昇温し、60℃で5時間保持し、粒子を融着してコアシェル粒子を得た。
<洗浄・乾燥・外添工程>
次に、分散液を25℃に冷却し、25℃に保ちつつ、吸引濾過で固形分を分離し、脱イオン水で洗浄し、33℃で乾燥を行い、トナー粒子を得た。得られたトナーの円形度、BET比表面積、および体積中位粒径を表3に示す。該トナー粒子100重量部、疎水性シリカ(商品名:RY50、日本アエロジル(株)製、平均粒径;0.04μm)2.5重量部、及び疎水性シリカ(商品名:キャボシールTS720、キャボット社製、平均粒径;0.012μm)1.0重量部をヘンシェルミキサーに入れ、撹拌し、150メッシュのふるいを通過させてトナーBを得た。得られたトナー性能を表3に示す。」

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載事項ウに基づけば、「トナーAの作製」に用いられる「樹脂粒子(A-1)」分散液に含まれる「樹脂混合物」(製造例6)及び、「トナーBの作製」に用いられる「樹脂粒子(A-2)」分散液に含まれる「樹脂混合物」(製造例7)として、それぞれ、以下の発明が記載されていると認められる。

ア 「撹拌機を装備したフラスコに、結晶性ポリエステルX1 90g、非晶質ポリエステルY1 300g、非晶質ポリエステルY2 210g、銅フタロシアニン顔料45g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(非イオン性界面活性剤)8.5g、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤)80g、5重量%水酸化カリウム水溶液266gを入れ、撹拌しながら、98℃に昇温して溶融し、98℃で2時間混合して得た、樹脂混合物であって、
結晶性ポリエステルX1は、四つ口フラスコに、1,9-ノナンジオール3936g、セバシン酸4848gを入れ、撹拌しながら、140℃に昇温し、140℃で3時間維持した後、140℃から200℃まで10時間かけて昇温し、その後、ジオクチル酸錫50gを加え、200℃にて1時間維持した後、8.3kPaにて4時間維持して得られた、軟化点が78℃の結晶性ポリエステルであり、
非晶質ポリエステルY1は、四つ口フラスコに、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3322g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が99)、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン31g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が1)、テレフタル酸662g及び酸化ジブチルスズ10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、230℃に昇温し、5時間維持した後、8.0kPaにて1時間維持し、大気圧に戻した後、190℃に冷却し、フマル酸685g、tert-ブチルカテコール0.49gを加え、190℃の温度下で1時間維持した後に、2時間かけて210℃まで昇温し、8.0kPaにて4時間維持して得られた、軟化点が107℃、酸価が24.4mgKOH/gの非晶質ポリエステルであり、
非晶質ポリエステルY2は、四つ口フラスコに、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1750g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が50)、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1625g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が50)、テレフタル酸1145g、ドデセニルコハク酸無水物161g、トリメリット酸無水物480g、及び酸化ジブチル錫10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、220℃に昇温し、220℃で5時間維持した後、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が120℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止めて得られた、軟化点が122℃、酸価が21.0mgKOH/gの非晶質ポリエステルであり、
トナーAの作製に用いられる、樹脂混合物。」(以下、「甲1製造例6発明」という。)

イ 「撹拌機を装備したフラスコに、結晶性ポリエステルX2 90g、非晶質ポリエステルY1 300g、非晶質ポリエステルY2 210g、銅フタロシアニン顔料45g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(非イオン性界面活性剤)8.5g、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤)80g、5重量%水酸化カリウム水溶液274gを入れ、撹拌しながら、98℃に昇温して溶融し、98℃で2時間混合して得た、樹脂混合物であって、
結晶性ポリエステルX2は、四つ口フラスコに、1,6-ヘキサンジオール2419g、1,12-ドデカン二酸4957gを入れ、撹拌しながら、140℃に昇温し、140℃で3時間維持した後、140℃から200℃まで10時間かけて昇温し、その後、ジオクチル酸錫30gを加え、更に200℃にて1時間維持した後、8.3kPaにて3時間維持して得られた、軟化点が78℃の結晶性ポリエステルであり、
非晶質ポリエステルY1は、四つ口フラスコに、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3322g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が99)、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン31g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が1)、テレフタル酸662g及び酸化ジブチルスズ10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、230℃に昇温し、5時間維持した後、8.0kPaにて1時間維持し、大気圧に戻した後、190℃に冷却し、フマル酸685g、tert-ブチルカテコール0.49gを加え、190℃の温度下で1時間維持した後に、2時間かけて210℃まで昇温し、8.0kPaにて4時間維持して得られた、軟化点が107℃、酸価が24.4mgKOH/gの非晶質ポリエステルであり、
非晶質ポリエステルY2は、四つ口フラスコに、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1750g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が50)、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1625g(アルコール成分の総量を100モル%としたときのモル比が50)、テレフタル酸1145g、ドデセニルコハク酸無水物161g、トリメリット酸無水物480g、及び酸化ジブチル錫10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、220℃に昇温し、220℃で5時間維持した後、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が120℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止めて得られた、軟化点が122℃、酸価が21.0mgKOH/gの非晶質ポリエステルであり、
トナーBの作製に用いられる、樹脂混合物。」(以下、「甲1製造例7発明」という。)

(3)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前の平成21年6月11日に、日本国内または外国において頒布された刊行物である、甲第2号証には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法などに用いられる電子写真用トナーとその製造方法に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなビスフェノールAのアルキレンオキサイドを含有するアルコールとカルボン酸とを重合して得られるポリエステルを湿式法で製造する場合、樹脂分散液中の樹脂粒子の小粒径化が十分でなく、得られるトナーの円形度も十分でないため、転写効率が悪く高画質を得られなかったり、小粒径にはなるものの、得られるトナーのガラス転移点が低く保存性に劣ることが判明した。
本発明の課題は、小粒径で、円形度が高く、画像特性に優れ、また保存性に優れる電子写真用トナー、及び該電子写真用トナーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)水系媒体中で、ポリエステルを含む結着樹脂をトナー粒子化する工程を有する製造方法により得られる電子写真用トナーであって、前記ポリエステルを含む結着樹脂が、式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R^(1)O及びR^(2)Oは各々オキシアルキレン基であり、R^(1)O及びR^(2)Oの少なくとも1部はオキシエチレン基である。p及びqは各々アルキレンオキサイドの付加モル数を示す正の数であり、p+qは、ビスフェノールA 1分子に付加したアルキレンオキサイドの分子数を示す。)
で表わされ、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2.5?4.5であるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルを含有し、かつ前記結着樹脂中におけるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物由来のエチレンオキサイドユニット部分の含有量が3.9?20.6重量%である、電子写真用トナー、
【0008】
(2)水系媒体中に,ポリエステルを含む樹脂を分散させてなる樹脂分散液であって、前記ポリエステルを含む結着樹脂が、前記式(1)で表わされ、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2.5?4.5であるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルを含有し、かつ前記結着樹脂中におけるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物由来のエチレンオキサイドユニット部分の含有量が3.9?20.6重量%である、トナー用樹脂分散液、及び
【0009】
(3)(a)水系媒体中で、ポリエステルを含む結着樹脂を塩基性化合物により中和して、樹脂粒子を得る工程、及び
(b)工程(a)で得られた樹脂粒子を凝集及び合一させる工程、
を有する電子写真用トナーの製造方法であって、前記ポリエステルを含む結着樹脂が、前記式(1)で表わされ、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2.5?4.5であるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルを含有し、かつ前記結着樹脂中におけるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物由来のエチレンオキサイドユニット部分の含有量が3.9?20.6重量%である、電子写真用トナーの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小粒径で、円形度が高く、画像特性に優れ、また保存性に優れる電子写真用トナー、及びその製造方法を提供することができる。」

イ 「【0062】
[プロピレンオキサイド付加物の製造]
撹拌及び温度調節機能の付いたオートクレーブに、ビスフェノールA 228g(1モル)と水酸化カリウム2gを入れ、135℃で表2に示すプロピレンオキサイドを0.1?0.4MPa範囲の圧力下で導入し、その後3時間付加反応させた。反応生成物に吸着剤「キョーワード600」(協和化学工業社製:2MgO・6SiO_(2)・XH_(2)O)16gを投入し、90℃で30分攪拌し熟成させた。その後ろ過を行い、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド(「PO」と記すことがある)付加物(PO2.2)を得た。得られた2.2モル付加物のプロピレンオキサイド各付加モル体含有量を表2に示す。
【0063】
【表2】

PO2.2:ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」

3 当審の判断
(1)理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明とを対比する。

a 甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY2」は「軟化点が122℃」である。したがって、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY2」は、本件特許発明1の「軟化点が120℃以上170℃以下の非晶質ポリエステル(AH)」に相当する。
また、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY2」は、その製造工程からみて、アルコール成分である「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」と、カルボン酸成分である「テレフタル酸」、「ドデセニルコハク酸無水物」及び「トリメリット酸無水物」とを重縮合させて得られたものといえる。そして、「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、技術的にみて、「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物」に該当する。そうすると、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、本件特許発明1の「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)を含有するアルコール成分(AH-al)」に相当し、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「テレフタル酸」、「ドデセニルコハク酸無水物」及び「トリメリット酸無水物」は、本件特許発明1の「カルボン酸成分(AH-ac)」に相当する。そして、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY2」は、本件特許発明1の「非晶質ポリエステル(AH)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)を含有するアルコール成分(AH-al)と、カルボン酸成分(AH-ac)とを重縮合させて得られるポリエステル」との要件を満たしている。

b 甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」は「軟化点が107℃」である。したがって、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」は、本件特許発明1の「軟化点が80℃以上120℃未満の非晶質ポリエステル(AL)」に相当する。
また、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」は、その製造工程からみて、アルコール成分である「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」と、カルボン酸成分である「テレフタル酸」及び「フマル酸」とを重縮合させて得られたものといえる。そして、「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、技術的にみて、「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物」に該当する。そうすると、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、本件特許発明1の「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)を含有するアルコール成分(AL-al)」に相当し、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「テレフタル酸」及び「フマル酸」は、本件特許発明1の「カルボン酸成分(AL-ac)」に相当する。そして、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」は、本件特許の「非晶質ポリエステル(AL)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)を含有するアルコール成分(AL-al)と、カルボン酸成分(AL-ac)とを重縮合させて得られるポリエステル」との要件を満たしている。

c 甲1製造例6発明の「結晶性ポリエステルX1」は「軟化点が78℃」である。したがって、甲1製造例6発明の「結晶性ポリエステルX1」は、本件特許発明1の「軟化点が55℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル(C)」に相当する。そして、甲1製造例6発明の「結晶性ポリエステルX1」の製造に用いられるアルコール成分である「1,9-ノナンジオール」は炭素数が9であり、甲1製造例6発明の「結晶性ポリエステルX1」の製造に用いられるカルボン酸成分である「セバシン酸」は炭素数が10である。そうすると、甲1製造例6発明の「1,9-ノナンジオール」は、本件特許発明1の「炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)」に相当し、甲1製造例6発明の「セバシン酸」は、本件特許発明1の「炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)」に相当する。したがって、甲1製造例6発明の「結晶性ポリエステルX1」は、本件特許発明1の「結晶性ポリエステル(C)が、炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)と、炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)とを重縮合させて得られるポリエステル」との要件を満たしている。
また、甲1製造例7発明の「結晶性ポリエステルX2」も「軟化点が78℃」である。したがって、甲1製造例7発明の「結晶性ポリエステルX2」も、本件特許発明1の「軟化点が55℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル(C)」に相当する。そして、甲1製造例7発明の「結晶性ポリエステルX2」の製造に用いられるアルコール成分である「1,6-ヘキサンジオール」は炭素数が6であり、甲1製造例7発明の「結晶性ポリエステルX2」の製造に用いられるカルボン酸成分である「1,12-ドデカン二酸」は炭素数が12である。そうすると、甲1製造例7発明の「1,6-ヘキサンジオール」は、本件特許発明1の「炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)」に相当し、甲1製造例7発明の「1,12-ドデカン二酸」は、本件特許発明1の「炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)」に相当する。したがって、甲1製造例7発明の「結晶性ポリエステルX2」も、本件特許発明1の「結晶性ポリエステル(C)が、炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)と、炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)とを重縮合させて得られるポリエステル」との要件を満たしている。

d 甲1製造例6発明の「樹脂混合物」は「トナーAの作製に用いられる」ものである。したがって、甲1製造例6発明の「樹脂混合物」は、技術的にみて、「トナー用結着樹脂組成物」であるといえる。
また、甲1製造例7発明の「樹脂混合物」も「トナーBの作製に用いられる」ものである。したがって、甲1製造例7発明の「樹脂混合物」も、技術的にみて、「トナー用結着樹脂組成物」であるといえる。

e 甲1製造例6発明の「樹脂混合物」は、「撹拌機を装備したフラスコ」に、「非晶質ポリエステル(AH)」にあたる「非晶質ポリエステルY2」を「210g」、「非晶質ポリエステル(AL)」にあたる「非晶質ポリエステルY1」を「300g」、「結晶性ポリエステル(C)」にあたる「結晶性ポリエステルX1」を「90g」入れ、溶融し、混合して得たものである。そうすると、甲1製造例6発明における「非晶質ポリエステル(AH)」と「非晶質ポリエステル(AL)」との総量と、「結晶性ポリエステル(C)」との質量比[(AH+AL)/(C)]は、約5.67 =(210g+300g)/90g であるから、甲1製造例6発明の「樹脂混合物」は、本件特許発明1の「該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3」であるとする要件を満たしている。
また、甲1製造例7発明の「樹脂混合物」は、「撹拌機を装備したフラスコ」に、「非晶質ポリエステル(AH)」にあたる「非晶質ポリエステルY2」を「210g」、「非晶質ポリエステル(AL)」にあたる「非晶質ポリエステルY1」を「300g」、「結晶性ポリエステル(C)」にあたる「結晶性ポリエステルX2」を「90g」入れ、溶融し、混合して得たものである。そうすると、甲1製造例7発明における「非晶質ポリエステル(AH)」と「非晶質ポリエステル(AL)」との総量と、「結晶性ポリエステル(C)」との質量比[(AH+AL)/(C)]も、約5.67 =(210g+300g)/90g であるから、甲1製造例7発明の「樹脂混合物」も、本件特許発明1の「該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3」であるとする要件を満たしている。

f 甲1製造例6発明の「樹脂混合物」は、「非晶質ポリエステル(AH)」にあたる「非晶質ポリエステルY2」を「210g」、「非晶質ポリエステル(AL)」にあたる「非晶質ポリエステルY1」を「300g」用いている。そうすると、甲1製造例6発明における「非晶質ポリエステル(AL)」と「非晶質ポリエステル(AH)」との質量比[(AL)/(AH)]は、約1.4 = 300g/210g である。そうすると、甲1製造例6発明の「樹脂混合物」は、本件特許発明1の「該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である」とする要件を満たしている。
また、甲1製造例7発明の「樹脂混合物」も、「非晶質ポリエステル(AH)」にあたる「非晶質ポリエステルY2」を「210g」、「非晶質ポリエステル(AL)」にあたる「非晶質ポリエステルY1」を「300g」用いている。そうすると、甲1製造例7発明における「非晶質ポリエステル(AL)」と「非晶質ポリエステル(AH)」との質量比[(AL)/(AH)]も、約1.4 = 300g/210g である。そうすると、甲1製造例7発明の「樹脂混合物」も、本件特許発明1の「該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である」とする要件を満たしている。

g 以上より、本件特許発明1と、甲1製造例6発明又は甲1製造例7発明とは、
「軟化点が120℃以上170℃以下の非晶質ポリエステル(AH)と、軟化点が80℃以上120℃未満の非晶質ポリエステル(AL)と、軟化点が55℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル(C)とを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、
該非晶質ポリエステル(AH)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)を含有するアルコール成分(AH-al)と、カルボン酸成分(AH-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであって、
該非晶質ポリエステル(AL)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)を含有するアルコール成分(AL-al)と、カルボン酸成分(AL-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであって、
該結晶性ポリエステル(C)が、炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)と、炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであり、
該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3であり、
該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である、トナー用結着樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件特許発明1は、非晶質ポリエステル(AH)の重縮合に用いられるアルコール成分(AH-al)が、プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を3モル%以上20モル%未満含有し、非晶質ポリエステル(AL)の重縮合に用いられるアルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を25モル%以上50モル%以下含有するのに対し、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明は、非晶質ポリエステルY2及び非晶質ポリエステルY1の重縮合に用いられるポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及びポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンにおける、プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物の含有モル%が明らかではない点。

(イ)判断
上記[相違点1]について検討する。
甲第2号証の記載事項イには、「[プロピレンオキサイド付加物の製造]」として、「ビスフェノールA 228g(1モル)と水酸化カリウム2gを入れ、135℃で表2に示すプロピレンオキサイドを0.1?0.4MPa範囲の圧力下で導入し、その後3時間付加反応させた。反応生成物に吸着剤「キョーワード600」(協和化学工業社製:2MgO・6SiO_(2)・XH_(2)O)16gを投入し、90℃で30分攪拌し熟成させた。その後ろ過を行い、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド(「PO」と記すことがある)付加物(PO2.2)を得た。」(段落【0062】)と記載されている。そして、【表2】には、「PO2.2」と表記されるポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンの製造に用いたビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体の含有量が、21モル%であったことが示されており、プロピレンオキサイド3?6モル付加体の含有量が21モル%であったことがわかる。
ここで、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」は、「アルコール成分」として、「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」と「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」が99:1のモル比で用いられている。そうしてみると、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の、アルコール成分中のプロピレンオキサイド3?6モル付加体の含有量は、20.79モル% = (99/100×0.21モル%×100)と計算される。したがって、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」の重縮合に用いられる「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、本件特許発明1の「アルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を25モル%以上50モル%以下含有」するという要件を満たさず、また、この点は実質的な相違点である。
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1製造例6発明又は甲1製造例7発明と同一ではなく、新規性を有するといえる。

次に、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」について、アルコール成分中のプロピレンオキサイド3?6モル付加体の含有量を、25モル%以上50モル%以下の範囲とすることが、当業者が容易になし得たことであるかについて検討する。
甲第1号証の記載事項イには、非晶質ポリエステル(c)について、「樹脂粒子(A)は、トナーの低温定着性を維持しながら、保存安定性、帯電性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、更に非晶質ポリエステル(c)を含有することが好ましい。」(段落【0019】)、「非晶質ポリエステル(c)は、酸成分とアルコール成分とを、重縮合反応させることによって製造することができ」ること(段落【0021】)、「好ましいアルコール成分として、芳香族ジオールが挙げられ、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2?3)オキサイド付加物(平均付加モル数1?16)が好ましい。」(段落【0022】)、「非晶質ポリエステル(c)は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、トナーの低温定着性、耐オフセット性及び耐久性の観点から、軟化点が異なる2種類のポリエステルを含有することが好ましい。軟化点が異なる2種類のポリエステルをそれぞれポリエステル(c-1)及び(c-2)とした場合、一方のポリエステル(c-1)の軟化点は70℃以上115℃未満が好ましく、他方のポリエステル(c-2)の軟化点は115℃以上165℃以下が好ましい。」(【0023】)との記載がある。しかしながら、甲第1号証には、ビスフェノールAのアルキレン(炭素数2?3)オキサイド付加物(平均付加モル数1?16)の中で、「プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物」の含有割合を調整することについては、何ら記載も示唆もされていない。また、ビスフェノールAのアルキレン(炭素数2?3)オキサイド付加物(平均付加モル数1?16)の中で、「プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物」の含有割合を調整することが、本件特許に係る出願前において、当業者に認識されていたということもできないから、相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することに、動機付けがあるとはいえない。
さらにすすんで検討すると、甲第1号証の記載事項ウには、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンの含有割合を100モル%とした非晶質ポリエステルY3の製造例(段落【0097】)も記載されている。しかしながら、「プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物」の含有割合が最大となる条件である非晶質ポリエステルY3であっても、プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物は、21.0モル%である。そうすると、仮に、甲1製造例6発明又は甲1製造例7発明において、非晶質ポリエステルY1の原料モノマーのアルコール成分中の、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンの含有割合を調整することを、当業者が想到し得たとしても、本件特許発明1の要件を満たすことができない。
なお、甲第1号証の段落【0103】の【表2】の記載からは、トナーの低温定着性等を改善する場合には、非晶質ポリエステルY2の分量を減ずる、又は、非晶質ポリエスエルY1を非晶質ポリエステルY3に替える等すればよいことが容易に理解される。そして、トナーの低温定着性等の改善を試みる当業者ならば、まずは、これらの手段を採用すると認められる。この点において、当業者が、相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することには、阻害要因があるともの考えられる。
したがって、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明の「非晶質ポリエステルY1」について、アルコール成分中のプロピレンオキサイド3?6モル付加体の含有量を、25モル%以上50モル%以下の範囲とすることは、当業者であっても、容易になし得たということはできない。

(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明と同一の発明ではなく、当業者であっても、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2、4?8について
本件特許発明2、4?8は、本件特許発明1と同じ、非晶質ポリエステル(AL)の重縮合に用いられる「アルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を25モル%以上50モル%以下含有」するという構成を備えるものである。そうすると、本件特許発明2、4?8も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明と同一の発明ではなく、当業者であっても、甲1製造例6発明及び甲1製造例7発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1、2、4?8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定により取り消すことはできない。

(2)理由3(サポート要件)について
本件特許発明1、2、4?8は、いずれも、取消理由3の対象とされていない、本件訂正前の請求項3における「該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である」とする要件を備えている。
したがって、取消理由3は解消された。

(3)理由4(明確性)について
取消理由4の対象であった、本件訂正前の請求項9は、削除された。
したがって、取消理由4も解消された。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「イ サポート要件(特許法第36条第6項第1号)」の「(ア)非晶質ポリエステル(AH)の軟化点について」として、「非晶質ポリエステル(AH)の軟化点が136.7℃を超える場合(例えば、160℃の場合)、本件特許に係る発明の効果が得られるかが不明である。」とし、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと主張している。
本件特許発明1、2、4?8が解決しようとする課題は、本件特許の段落【0004】の記載に基づけば、「低温定着性、耐久性、及び印刷物の光沢性に優れる電子写真用トナーを得ることができるトナー用結着樹脂組成物、及び該トナー用結着樹脂組成物を含有する電子写真用トナーを提供すること」にあるといえる。
そして、本件特許発明1、2、4?8は、いずれも、特定の構造及び組成割合を有する「軟化点が120℃以上170℃以下の非晶質ポリエステル(AH)」と、特定の構造及び組成割合を有する「軟化点が80℃以上120℃未満の非晶質ポリエステル(AL)」と、「軟化点が55℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル(C)」とを含有するトナー用結着樹脂組成物であることを要件としている。
そうすると、「非晶質ポリエステル(AH)」の軟化点が136.7℃を超える場合であっても、軟化点が低い「非晶質ポリエステル(AL)」及び「結晶性ポリエステル(C)」を含有することによってトナー用結着樹脂組成物に低温定着性がもたらされることは、当業者が予測し得ることである。また、本件特許の段落【0009】には、「本発明では、非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)との分子量差を、小さくすることができ、溶融混練時に、従来のような低軟化点樹脂と高軟化点樹脂との粘度差に起因する結着樹脂の不均一状態等を抑制することができる。これにより、非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)とがより均一なマトリックス相を形成する結果、グロスに優れると共に、結晶性ポリエステル(C)を該マトリックス相中により均一に分散させることができ、低温定着性及び耐久性に優れると考えられる。」、「本発明の結着樹脂組成物から得られるトナーは、結着樹脂成分として含まれる結晶性ポリエステル(C)が非晶質ポリエステル中に微分散されており、かつ非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)とが均一に混合されることにより、低温定着性、耐久性、及び印刷物の光沢性に優れると考えられる。」と記載されている。上記記載に基づけば、特定の構造及び組成割合を有する「非晶質ポリエステル(AH)」及び「非晶質ポリエステル(AL)」を用いることにより、粘度差が小さくなること、これにより均一なマトリックス相を形成でき、光沢性に優れる電子写真用トナーを得ることができること、及び、結晶性ポリエステル(C)を該マトリックス相中により均一に分散させることができ、低温定着性及び耐久性に優れる電子写真用トナーを得ることができることを理解することができる。
したがって、非晶質ポリエステル(AH)の軟化点が136.7℃以外であっても、本件特許発明1、2、4?8において特定される要件を満たすことにより、低温定着性、耐久性、及び印刷物の光沢性に優れる電子写真用トナーを得ることができるとする効果を奏することは、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が理解できることである。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1、2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1、2、4?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3及び請求項9に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3及び請求項9に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が120℃以上170℃以下の非晶質ポリエステル(AH)と、軟化点が80℃以上120℃未満の非晶質ポリエステル(AL)と、軟化点が55℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル(C)とを含有するトナー用結着樹脂組成物であって、
該非晶質ポリエステル(AH)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)を含有するアルコール成分(AH-al)と、カルボン酸成分(AH-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであって、
該アルコール成分(AH-al)が、プロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を3モル%以上20モル%未満含有し、
該非晶質ポリエステル(AL)が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)を含有するアルコール成分(AL-al)と、カルボン酸成分(AL-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであって、
該アルコール成分(AL-al)がプロピレンオキサイドの付加モル数が3モル以上6モル以下であるビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物を25モル%以上50モル%以下含有し、
該結晶性ポリエステル(C)が、炭素数2以上14以下の脂肪族アルコールを含有するアルコール成分(C-al)と、炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分(C-ac)とを重縮合させて得られるポリエステルであり、
該非晶質ポリエステル(AH)と該非晶質ポリエステル(AL)との総量と、該結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、65/35?97/3であり、
該非晶質ポリエステル(AL)と該非晶質ポリエステル(AH)との質量比[(AL)/(AH)]が、0.6以上4.0以下である、トナー用結着樹脂組成物。
【請求項2】
前記非晶質ポリエステル(AL)の酸価が、2mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、請求項1に記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
非晶質ポリエステル(AH)と非晶質ポリエステル(AL)との総量と、結晶性ポリエステル(C)との質量比[(AH+AL)/(C)]が、80/20?97/3である、請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項5】
アルコール成分(AH-al)に含まれるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AH-bp)の平均付加モル数が、2.1以上2.3以下である、請求項1、2、4のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項6】
アルコール成分(AL-al)に含まれるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(AL-bp)の平均付加モル数が、2.3以上3.0以下である、請求項1、2、4、5のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項7】
前記結晶性ポリエステル(C)の脂肪族アルコールの炭素数が、2以上8以下である、請求項1、2、4?6のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1、2、4?7のいずれかに記載のトナー用結着樹脂組成物を含有する、電子写真用トナー。
【請求項9】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-22 
出願番号 特願2014-169451(P2014-169451)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G03G)
P 1 651・ 113- YAA (G03G)
P 1 651・ 121- YAA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 本田 博幸  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
河原 正
登録日 2018-08-03 
登録番号 特許第6378579号(P6378579)
権利者 花王株式会社
発明の名称 トナー用結着樹脂組成物  
代理人 片岡 誠  
代理人 片岡 誠  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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