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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F01L
管理番号 1355968
異議申立番号 異議2018-700306  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-12 
確定日 2019-09-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6265474号発明「熱伝導性に優れる内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6265474号の特許請求の範囲を令和元年5月24日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?5]、[6?10]について訂正することを認める。 特許第6265474号の請求項1、2、6及び7に係る特許を維持する。 特許第6265474号の請求項3?5及び8?10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6265474号の請求項1及び2並びに6及び7に係る特許についての出願は、平成30年1月5日付けでその特許権の設定登録がされ、平成30年1月24日に特許掲載公報が発行された。その後、特許異議申立人神尾喜代子(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成30年10月1日付けで取消理由が通知され、平成30年12月7日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成31年2月6日に異議申立人から意見書が提出され、平成31年3月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和元年5月24日に意見書の提出及び訂正請求がされ、令和元年7月18日に異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
(1)請求項1ないし5からなる一群の請求項に係る訂正の内容
特許権者は、令和元年5月24日の訂正請求において、請求項1ないし5からなる一群の請求項に係る訂正について、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正する(なお、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)ことを請求する(訂正事項1)(下線部は、訂正箇所である。以下同様。)。
「【請求項1】
フェイス面側層と支持部材側層との2層を一体化してなる内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートであって、
前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である層に、前記フェイス面側層が、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)である層に形成されてなり、
前記フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させ、さらに前記固体潤滑剤粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製であり、
前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、さらにMn、S、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で5.5%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記固体潤滑剤粒子を、基地相中に、支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有する鉄基焼結合金製であり、
前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり、
前記フェイス面側層にはバルブ当り面が形成され、
前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなることを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。」

また、特許請求の範囲の請求項3ないし5を削除することを請求する(訂正事項2ないし訂正事項4)。

(2)請求項6ないし10からなる一群の請求項に係る訂正の内容
特許権者は、令和元年5月24日の訂正請求において、請求項6ないし10からなる一群の請求項に係る訂正について、特許請求の範囲の請求項6を以下の事項により特定されるとおりの請求項6として訂正する(なお、請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。)ことを請求する(訂正事項1)。
「【請求項6】
ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチと、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダーと、独立して駆動可能な仮押しパンチとを有するプレス成形機を用いて、圧粉体を成形し、該圧粉体に焼結処理を施す2層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法において、
予め、フェイス面側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、硬質粒子粉末と、さらに固体潤滑剤粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末を、フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8%?35.7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させ、前記固体潤滑剤粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織となるように、配合し混合してなる混合粉と、支持部材側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに固体潤滑剤粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末とを、支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、さらに、Mn、S、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で5.5%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ固体潤滑剤粒子を基地相中に、支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有するように、配合し混合してなる混合粉とを準備し、
前記2種のフィーダーの一方を第一のフィーダーとし、該第一のフィーダーに前記支持部材側層用混合粉を充填し、他方を第二のフィーダーとし、該第二のフィーダーに、前記フェイス面側層用混合粉を充填しておき、
前記第一のフィーダーを移動させたのち、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、支持部材側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記支持部材側層用混合粉を充填し、
ついで、成形面が、バルブシート軸を含む断面でバルブシート軸とのなす角度で20?50°となる面形状に形成された前記仮押しパンチを移動させて、前記充填空間に充填された前記支持部材側層用混合粉を、成形圧を、0.01?3ton/cm^(2)となるように調整して、仮押ししてフェイス面側層との境界面となる上面を形成し、
該仮押ししたのち、前記第二のフィーダーを移動させ、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、フェイス面側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記フェイス面側層用混合粉を充填し、
ついで、前記上パンチを下降させて、該上パンチを面圧:5?10ton/cm^(2)で、前記仮押しの成形圧に対する比率で3.3?500となるように、前記フェイス面側層用混合粉および前記支持部材側層用混合粉とを一体的に加圧成形して、圧粉体とし、
該圧粉体に焼結処理を施し、さらに仕上加工を施して、フェイス面側層と支持部材側層との境界面が、前記フェイス面側層に形成されたバルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり、前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり、前記フェイス面側層が前記基地部組成と前記基地部組織とを有し、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)である層に、かつ前記支持部材側層が前記基地部組成および前記基地部組織を有し、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である層に形成されてなる、バルブシートとすることを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。」

また、特許請求の範囲の請求項8ないし10を削除することを請求する(訂正事項2ないし訂正事項4)。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1ないし5からなる一群の請求項に係る訂正について
請求項1ないし5からなる一群の請求項に係る訂正における訂正事項1は、明細書の段落【0022】、【0050】及び【0051】に記載された事項の範囲内の訂正であるといえるから、新規事項の追加に該当しない。また、訂正前の請求項1に記載された、支持部材側層の20?300℃における熱伝導率を「23?50(W/m・K)」から「36?41(W/m・K)」に減縮し、フェイス面側層の20?300℃における熱伝導率を「10?22(W/m・K)」から「11?14(W/m・K)」に減縮し、基地部組成を「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し」から「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8%?35.7%含有し」に減縮し、フェイス面側層について訂正前の請求項4に記載された固体潤滑剤粒子に係る事項により減縮し、支持部材層の基地部組成について訂正前の請求項3に記載された事項により減縮し、さらに、支持部材層の基地相中の組織について訂正前の請求項5に記載された事項により減縮するものであるから、訂正事項1は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。そして、このような訂正に係る訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであり、訂正事項3は訂正前の請求項4を削除するものであり、訂正事項4は訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、訂正前の請求項1ないし5は、訂正前の請求項1の記載を訂正前の請求項2ないし5が引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1ないし4は一群の請求項ごとにされたものである。

(1)請求項6ないし10からなる一群の請求項に係る訂正について
請求項6ないし10からなる一群の請求項に係る訂正における訂正事項1は、明細書の段落【0022】、【0031】、【0050】及び【0051】に記載された事項の範囲内の訂正であるといえるから、新規事項の追加に該当しない。また、訂正前の請求項6に記載された、支持部材側層の20?300℃における熱伝導率を「23?50(W/m・K)」から「36?41(W/m・K)」に減縮し、フェイス面側層の20?300℃における熱伝導率を「10?22(W/m・K)」から「11?14(W/m・K)」に減縮し、基地部組成を「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し」から「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8%?35.7%含有し」に減縮し、フェイス面側層について訂正前の請求項9に記載された固体潤滑剤粒子に係る事項により減縮し、支持部材層の基地部組成について訂正前の請求項8に記載された事項により減縮し、支持部材層の基地相中の組織について訂正前の請求項10に記載された事項により減縮するものであるから、訂正事項1は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。そして、このような訂正に係る訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項8を削除するものであり、訂正事項3は訂正前の請求項9を削除するものであり、訂正事項4は訂正前の請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、訂正前の請求項6ないし10は、訂正前の請求項6の記載を訂正前の請求項7ないし10が引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1ないし4は一群の請求項ごとにされたものである。

3.小括
したがって、令和元年5月24日の訂正請求による、請求項1ないし5からなる一群の請求項に係る訂正における訂正事項1ないし4、及び、請求項6ないし10からなる一群の請求項に係る訂正における訂正事項1ないし4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?5]及び[6?10]について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
特許第6265474号の請求項1及び2並びに6及び7に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明6」及び「本件発明7」という。)は、それぞれ、令和元年5月24日の訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2並びに6及び7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
フェイス面側層と支持部材側層との2層を一体化してなる内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートであって、
前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である層に、前記フェイス面側層が、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)である層に形成されてなり、
前記フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させ、さらに前記固体潤滑剤粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製であり、
前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、さらにMn、S、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で5.5%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記固体潤滑剤粒子を、基地相中に、支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有する鉄基焼結合金製であり、
前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり、
前記フェイス面側層にはバルブ当り面が形成され、
前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなることを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項2】
前記バルブシートが、外径:15?65mm、内径:12?60mmで、高さ:4.0?10.0mmの大きさであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項6】
ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチと、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダーと、独立して駆動可能な仮押しパンチとを有するプレス成形機を用いて、圧粉体を成形し、該圧粉体に焼結処理を施す2層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法において、
予め、フェイス面側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、硬質粒子粉末と、さらに固体潤滑剤粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末を、フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8%?35.7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させ、前記固体潤滑剤粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織となるように、配合し混合してなる混合粉と、支持部材側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに固体潤滑剤粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末とを、支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、さらに、Mn、S、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で5.5%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ固体潤滑剤粒子を基地相中に、支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有するように、配合し混合してなる混合粉とを準備し、
前記2種のフィーダーの一方を第一のフィーダーとし、該第一のフィーダーに前記支持部材側層用混合粉を充填し、他方を第二のフィーダーとし、該第二のフィーダーに、前記フェイス面側層用混合粉を充填しておき、
前記第一のフィーダーを移動させたのち、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、支持部材側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記支持部材側層用混合粉を充填し、
ついで、成形面が、バルブシート軸を含む断面でバルブシート軸とのなす角度で20?50°となる面形状に形成された前記仮押しパンチを移動させて、前記充填空間に充填された前記支持部材側層用混合粉を、成形圧を、0.01?3ton/cm^(2)となるように調整して、仮押ししてフェイス面側層との境界面となる上面を形成し、
該仮押ししたのち、前記第二のフィーダーを移動させ、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、フェイス面側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記フェイス面側層用混合粉を充填し、
ついで、前記上パンチを下降させて、該上パンチを面圧:5?10ton/cm2で、前記仮押しの成形圧に対する比率で3.3?500となるように、前記フェイス面側層用混合粉および前記支持部材側層用混合粉とを一体的に加圧成形して、圧粉体とし、
該圧粉体に焼結処理を施し、さらに仕上加工を施して、
フェイス面側層と支持部材側層との境界面が、前記フェイス面側層に形成されたバルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり、前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり、前記フェイス面側層が前記基地部組成と前記基地部組織とを有し、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)である層に、かつ前記支持部材側層が前記基地部組成および前記基地部組織を有し、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である層に形成されてなる、バルブシートとすることを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項7】
前記焼結処理後に、さらに加圧成形および焼結処理を繰り返して施すことを特徴とする請求項6に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。」

2.取消理由の概要
令和元年5月24日の訂正請求による訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10に対して平成31年3月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。

(1)本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が不備であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし10に係る発明は取り消されるべきものである。
(2)請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

4.判断
(1)取消理由通知書に記載した取消理由について
ア 特許法第36条第4項第1号について
本件特許の明細書の段落【0050】の表3にはフェイス面側層(基地部)の焼結体化学成分(質量%)について記載され、該表3にはCo、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種の質量%及び該9種の合計の質量%が記載されている。また、段落【0051】の表4には、フェイス面側層の熱伝導率について記載されている。そして、該表3及び該表4を併せみると、フェイス面側層については、該表3に記載されたCo、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種の質量%及び該9種の合計の質量%については、熱伝導率に影響を与え、かつ20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)との要件を満たしているといえる。そうすると、少なくとも本件特許の明細書に記載された範囲においては、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種の合計は熱伝導率に影響するといえるものである。また、これらの記載を踏まえると、上パンチの面圧が熱伝導率に影響を与えるか否かに関わらず、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種の合計がフェイス面側層の20?300℃における熱伝導率を規定すると理解することもできる。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、本件発明2、本件発明6及び本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

イ 特許法第36条第6項第1号について
本件発明1及び本件発明6に記載された、「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有し」との事項は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0024】に記載された事項及び段落【0050】の表3に記載された事項の範囲内のものといえる。
そうすると、本件発明1及び本件発明6並びに本件発明1を引用する本件発明2及び本件発明6を引用する本件発明7は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものである。

ウ 令和元年7月18日付けの意見書における特許異議申立人の意見について
特許権者による令和元年5月24日の訂正請求について、令和元年7月18日付けの意見書において、異議申立人は概略次の点を主張している。

(ア) 本件特許の発明の詳細な説明の表3の焼結体No.9は、9種の元素のうち7種のみを含むものであるが、表4及び表5では「本発明例」と記載されている。したがって、「本発明例」である焼結体No.9は本件発明1との関係で矛盾するから、本件発明1は不明確である。また、非金属元素であるSは焼結体の「強度」、「硬さ」の増加に寄与しないことは明らかであり、焼結体に含まれるMnは、固体潤滑剤MnSとしてのみ存在するから、Mnも焼結体の「強度」、「硬さ」に寄与しない。そうすると、本件発明1は不明確である。さらに、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0024】に記載される効果と、表1及び表3に示されるMn及びSの作用効果との不整合に起因する明確性欠如を解消すべく、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0050】の表3のみに限定した訂正を行うのであれば、新規事項に該当する(「ア 訂正請求事項1cについて」の主張を参照)。
(イ) 本件特許の発明の詳細な説明の表2と表3は実質的に一致する。そして、非金属元素であるSが焼結体の「強度」、「硬さ」の増加に寄与しないことは明らかであり焼結体中のMnも「強度」、「硬さ」に寄与しない。そうすると、本件発明1は不明確である。さらに、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0029】に記載される効果と、表2及び表3に示されるMn及びSの作用効果との不整合に起因する明確性欠如を解消すべく、段落【0050】の表3及び訂正前の請求項3のみに限定した訂正を行うのであれば、新規事項に該当する(「イ 訂正請求事項1gについて」の主張を参照。)。

これら主張について検討する。
主張(ア)について検討すると、「Co、Mo、Cr、Mn、W、V、Sの7種」を含む本件特許の発明の詳細な説明の表3の焼結体No.9は、表4及び表5においてどのように記載されているかに関わらず、「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種」を含むことを発明特定事項とする本件発明1及び本件発明6の範囲外であることは明らかである。したがって、当該表3の焼結体No.9が「本発明例」と記載されることで本件発明1及び本件発明6が不明確になるとはいえない。次に、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0024】に記載されていることは、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sはいずれも焼結体の強度、硬さ及び耐摩耗性に影響を与える元素であり、Mn或いはSという単体の元素が焼結体の「強度」、「硬さ」に寄与するか否かに関わらず、これら元素を適切に選択し、含有量を特定することで、所望の「強度」、「硬さ」及び「耐摩耗性」を得られることと理解できる。また、本件発明1及び本件発明6には、「強度」、「硬さ」についての特定はない。さらに、表3ないし表5にも、熱伝導率(表4及び表5)及び耐摩耗比(表5)について記載されているが「強度」及び「硬さ」についての記載はない。してみると、本件特許の発明の詳細な説明に記載された「強度」及び「硬さ」に係る事項により、本件発明1及び本件発明6が不明確になるともいえない。加えて、特許権者が本件特許の詳細な説明の段落【0024】に記載される効果と、表1及び表3に示されるMn及びSの作用効果との不整合に起因する明確性欠如を解消すべく、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0050】の表3のみに限定した訂正を行ったとする具体的な根拠を見出すこともできない。
主張(イ)について検討すると、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0029】に記載されていることは、Mn、S、Cuなどの元素はいずれも焼結体の強度、硬さに影響を与える元素であり、Mn或いはSという単体の元素が焼結体の「強度」、「硬さ」に寄与するか否かに関わらず、これら元素を適切に選択し、含有量を特定することで、所望の「強度」、「硬さ」を得られることと理解できる。また、本件発明1及び本件発明6には、「強度」、「硬さ」についての特定はない。さらに、表2及び表3にも「強度」及び「硬さ」についての記載はない。してみると、本件特許の発明の詳細な説明に記載された「強度」及び「硬さ」に係る事項により、本件発明1及び本件発明6が不明確になるともいえない。加えて、本件特許の詳細な説明の段落【0029】に記載される効果と、表2及び表3に示されるMn及びSの作用効果との不整合に起因する明確性欠如を解消すべく、本件特許の詳細な説明の段落【0050】の表3及び訂正前の請求項3のみに限定した訂正を行ったとする具体的な根拠を見出すこともできない。

したがって、異議申立人の(ア)及び(イ)に係る主張は当を得ない。

令和元年7月18日付けの意見書において、異議申立人は「3.2 訂正後本件特許発明が依然として取消理由により取り消されるべき理由」として次の点も主張している。

(ウ)熱伝導率と含有する元素の合計含有量との関係について(7ページ13行ないし10ページ25行)
(エ)フェイス面側層のバルブシート全量に対する体積の技術的意義について(10ページ26行ないし13ページ10行)
(オ)フェイス面側層及び支持部材側層の熱伝導率の技術的意義(13ページ11行ないし14ページ27行)
そこで、これら主張も検討する。
主張(ウ)について検討すると、主張(ウ)に係る異議申立人の主張は、概略、本件特許の発明の詳細な説明の表3からは、元素の合計含有量と熱伝導性との間の相関性を全く見出すことができないから、特許権者のいう『熱伝導性等の特性との関係は含有する元素の合計量で扱うことができる』旨の主張は全くの失当であり、本件明細書に開示された実験データとも矛盾しているから、依然として、各層の組成および当該組成を構成する元素の合計量と熱伝導率との関係が理解できないというものと理解できる。
しかしながら、本件発明1及び本件発明6に記載された事項は、「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有する」ことである。そして、「Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有」したものが本件発明1及び本件発明6で規定するフェイス面側層の20?300℃における熱伝導率に係る特定を満たすことは、本件特許の発明の詳細な説明の表3及び表4から明らかである。すなわち、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び本件発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
主張(エ)について検討すると、主張(エ)に係る異議申立人の主張は、概略、本件発明1の「フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり」との発明特定事項における「6?58%」との限定に技術的意義が存在しないというものである。しかしながら、当該限定の技術的意義は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0018】に記載されている通りである。仮に意見書10ページ26行ないし13ページ10行で異議申立人が主張していることが当を得ているとしても、当該主張は段落【0018】に記載された事項が否定されるものではない。そして、該段落【0018】、表4、表5の記載は、当業者が「フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり」に係る事項を実施できる程度に明確かつ十分なものといえる。すなわち、「6?58%」の技術的意義の記載内容に関わらず、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
主張(オ)について検討すると、主張(オ)に係る異議申立人の主張は、概略、本件発明1及び本件発明6における「支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である」こと、及び、「フェイス面側層が、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)」について、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0019】が妥当なものであったとしても、特許発明1及び特許発明6には、表3及び表4に記載される成分以外のものを包含するものであり、これ以外のケースまで拡張ないし一般化できない、というものである。しかしながら、異議申立人の主張をみても、本件発明1及び本件発明6の解釈に関し、本件特許の発明の詳細な説明の表3及び表4に記載された事項の範囲を超えて拡張化又は一般化する必要があるとする具体的な事情は見出し得ない。そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0019】に記載された事項の妥当性を否定する事情を見出すことはできない。

したがって、異議申立人の(ウ)ないし(オ)に係る主張も当を得ない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10に関し、特許異議申立書において以下の主張をしている。

ア 請求項1ないし10に係る発明は甲第1号証ないし甲第5号証、甲第7号証ないし甲第11号証及び甲第13号証から容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから特許法第113条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ 請求項1ないし10に係る発明は甲第12号証、甲第14号証及び甲第15号証に基づけば明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第2項の規定により特許を受けることができない。

そこで、以下、異議申立人の主張を検討する。
ア 特許法第29条第2項についての検討
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなる」ものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明はかかる事項を備えていない点。

当該相違点1について検討すると、当該相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲第3号証ないし甲第5号証、甲第7号証ないし甲第11号証及び甲第13号証には記載も示唆もされていない。また、当該相違点1に係る本件発明1の発明特定事項が、本件特許の出願前の周知技術或いは技術常識であったともいえない。

異議申立人は、甲第1号証に記載された発明において、甲第1号証に何らの開示も示唆もないバルブシート断面の輪郭形状を特定する寸法等について、本件特許の出願時の技術常識を逸脱しない範囲内において、適宜、様々な数値を選択してバルブシートの作成を試みることはきわめて容易である旨主張し、その証拠として甲第2号証を提出している。しかしながら、異議申立人も認めるとおり、甲第1号証にはバルブシート断面の輪郭形状を特定する寸法等については開示も示唆もない。また、特許出願の願書に添付される図面は、明細書を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に説明するための説明図にとどまり、図面に表示された寸法等は必ずしも正確でなくても足りるものであるから、バルブシート断面の輪郭形状を特定する寸法等について開示も示唆もない甲第1号証において、当業者の通常の創作能力の範囲内で、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとすることはできない。したがって、甲第2号証に依拠した異議申立人の主張は採用できない。

そして、本件発明1は、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0013】に記載された格別な効果を奏するものといえる。

そうすると、甲第1号証に記載された発明において、当業者が上記相違点1に係る本件発明1に係る発明特定事項を容易になし得たとはいえない。

したがって、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2は、甲第1号証ないし甲第5号証、甲第7号証ないし甲11号証及び甲13号証に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

つぎに、本件発明6と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

[相違点2]
本件発明6は「フェイス面側層と支持部材側層との境界面が、前記フェイス面側層に形成されたバルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成され」るものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明はかかる事項を備えていない点。

当該相違点2について検討すると、相違点2に係る本件発明6の発明特定事項は、上述した相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と実質的に同じである。してみると、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と同様、甲第1号証に記載された発明において、当業者が上記相違点2に係る本件発明6に係る発明特定事項を容易になし得たとはいえない。

したがって、本件発明6及び本件発明6の発明特定事項を全て含む本件発明7は、甲第1号証ないし甲第5号証、甲第7号証ないし甲11号証及び甲13号証に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

イ 特許法第36条第6項第2号についての検討
異議申立人は、本件発明1の「前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなる」について、「バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面」と「バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面」とが交差する場合は発明が不明確である旨、甲第12号証を提出して主張している。
しかしながら、「バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面」と「バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面」との交差の有無に関わらず、「前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなる」との記載事項は明確であるといえる、また、本件特許の図面、特に図1を見る限りにおいて、当該交差がある場合は想起できない。仮に、甲第12号証の図1(A)の様な事例があり得たとしても、当該事例はきわめて例外的なものであるから、特許を取り消すに値する程の明確性要件違反であるともいえない。
したがって、本件発明1、2、6及び7は、特許法第36条第6項第2号に違反するとはいえない。

以上のとおりであるから、特許異議申立書における異議申立人の上記ア及びイに係る主張には理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、2、6及び7を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2、6及び7を取り消すべき理由は発見しない。
なお、請求項3ないし5及び8ないし10に係る特許は、令和元年5月24日の訂正請求による訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3ないし5及び8ないし10に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイス面側層と支持部材側層との2層を一体化してなる内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートであって、
前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である層に、前記フェイス面側層が、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)である層に形成されてなり、
前記フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させ、さらに前記固体潤滑剤粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製であり、
前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、さらにMn、S、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で5.5%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記固体潤滑剤粒子を、基地相中に、支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有する鉄基焼結合金製であり、
前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり、
前記フェイス面側層にはバルブ当り面が形成され、
前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなることを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項2】
前記バルブシートが、外径:15?65mm、内径:12?60mmで、高さ:4.0?10.0mmの大きさであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチと、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダーと、独立して駆動可能な仮押しパンチとを有するプレス成形機を用いて、圧粉体を成形し、該圧粉体に焼結処理を施す2層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法において、
予め、フェイス面側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、硬質粒子粉末と、さらに固体潤滑剤粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末を、フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子および固体潤滑剤粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sの9種を合計で26.8?35.7%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させ、前記固体潤滑剤粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織となるように、配合し混合してなる混合粉と、支持部材側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、さらに固体潤滑剤粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末とを、支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、さらに、Mn、S、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で5.5%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ固体潤滑剤粒子を基地相中に、支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有するように、配合し混合してなる混合粉とを準備し、
前記2種のフィーダーの一方を第一のフィーダーとし、該第一のフィーダーに前記支持部材側層用混合粉を充填し、他方を第二のフィーダーとし、該第二のフィーダーに、前記フェイス面側層用混合粉を充填しておき、
前記第一のフィーダーを移動させたのち、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、支持部材側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記支持部材側層用混合粉を充填し、
ついで、成形面が、バルブシート軸を含む断面でバルブシート軸とのなす角度で20?50°となる面形状に形成された前記仮押しパンチを移動させて、前記充填空間に充填された前記支持部材側層用混合粉を、成形圧を、0.01?3ton/cm^(2)となるように調整して、仮押ししてフェイス面側層との境界面となる上面を形成し、
該仮押ししたのち、前記第二のフィーダーを移動させ、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、フェイス面側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記フェイス面側層用混合粉を充填し、
ついで、前記上パンチを下降させて、該上パンチを面圧:5?10ton/cm^(2)で、前記仮押しの成形圧に対する比率で3.3?500となるように、前記フェイス面側層用混合粉および前記支持部材側層用混合粉とを一体的に加圧成形して、圧粉体とし、該圧粉体に焼結処理を施し、さらに仕上加工を施して、
フェイス面側層と支持部材側層との境界面が、前記フェイス面側層に形成されたバルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり、前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?58%であり、前記フェイス面側層が前記基地部組成と前記基地部組織とを有し、20?300℃における熱伝導率が11?14(W/m・K)である層に、かつ前記支持部材側層が前記基地部組成および前記基地部組織を有し、20?300℃における熱伝導率が36?41(W/m・K)である層に形成されてなる、バルブシートとする
ことを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項7】
前記焼結処理後に、さらに加圧成形および焼結処理を繰り返して施すことを特徴とする請求項6に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-30 
出願番号 特願2013-273341(P2013-273341)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F01L)
P 1 651・ 536- YAA (F01L)
P 1 651・ 121- YAA (F01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 首藤 崇聡  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
水野 治彦
登録日 2018-01-05 
登録番号 特許第6265474号(P6265474)
権利者 日本ピストンリング株式会社
発明の名称 熱伝導性に優れる内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 落合 憲一郎  

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