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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1355970 |
異議申立番号 | 異議2018-701035 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-12-20 |
確定日 | 2019-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6346558号発明「水分吸収性に優れた飲食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6346558号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第6346558号の請求項1-14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6346558号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)3月11日(優先権主張 2012年(平成24年)3月9日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月1日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月20日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1ないし14に係る発明の特許について、平成30年12月20日に特許異議申立人 藤江 桂子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成31年3月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の令和元年5月28日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、特許異議申立人に対し令和元年年6月4日付けでその訂正の請求に対し意見があれば意見書を提出するように期間を指定して通知したところ、その指定期間内に特許異議申立人より意見書の提出がなかったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和元年5月28日の訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oである、水分補給用の飲食品組成物」と記載されているのを「浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oであり、糖質の含有量が0.5?4.0重量%である、水分補給用の飲食品組成物」と訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oである、水分補給用の飲食品組成物」と記載されているのを「浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oであり、糖質の含有量が0.5?4.0重量%である、水分補給用の飲食品組成物」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に「0.3?6.0重量%のホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物」と記載されているのを「0.3?6.0重量%のホエイペプチドであるタンパク質加水分解物」と訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6に「ホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物」と記載されているのを「ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物」と訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項12に「ホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物」と記載されているのを「ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否並びに一群の請求項であること (1) 訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1の「水分補給用の飲食品組成物」について「糖質の含有量が0.5?4.0重量%である」ことを特定することで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものである。 そして、願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0049】に「本発明に係る飲食品組成物は、1種以上の糖質を、以下に限定するものではないが、例えば0.1%?4.0%(当審注:「0.1%?4.0重量%」の誤記と認める。以下同じ。)、好ましくは0.5?3.0重量%、より好ましくは0.5?2.5重量%、さらに好ましくは0.5?1.0重量%含有する。」と記載されており、トレハロースの下限値が0.5重量%であることを踏まえると、糖質の上限値が4.0重量%であることが例示されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2の「水分補給用の飲食品組成物」について「糖質の含有量が0.5?4.0重量%である」ことを特定することで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件特許に係る発明に何ら新たな技術的事項を導入するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものである。 そして、本件特許明細書の段落【0049】に「本発明に係る飲食品組成物は、1種以上の糖質を、以下に限定するものではないが、例えば0.1%?4.0%、好ましくは0.5?3.0重量%、より好ましくは0.5?2.5重量%、さらに好ましくは0.5?1.0重量%含有する。」と記載されており、トレハロースの下限値が0.5重量%であることを踏まえると、糖質の上限値が4.0重量%であることが例示されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、請求項2の「タンパク質加水分解物」について「ホエイペプチド」若しくは「カゼインペプチド」のうち、「カゼインペプチド」の場合の選択肢を削除することで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてすることは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものである。 (4) 訂正事項4について 訂正事項4は、請求項6の「タンパク質加水分解物」について「ホエイペプチド」若しくは「カゼインペプチド」のうち、「カゼインペプチド」の場合の選択肢を削除するすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてすることは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。 (5) 訂正事項5について 訂正事項5は、請求項12の「タンパク質加水分解物」について「ホエイペプチド」若しくは「カゼインペプチド」のうち、「カゼインペプチド」の場合の選択肢を削除するすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてすることは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものである。 (6)一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし14について、訂正前の請求項3ないし14は、訂正前の請求項1または2を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1または2によって記載が訂正される請求項1または2に連動して訂正されるものであり、本件訂正の請求は、特許法120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。 3 むすび よって、本件訂正に係る訂正事項1ないし5は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、並びに、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕について、訂正することを認める。 4 訂正後の本件発明 本件訂正の請求により訂正された請求項1ないし14に係る発明(以下「本件発明1ないし14」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。 「【請求項1】 0.3?6.0重量%のホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又は20?30 mMのアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、0.5?1.0重量%のトレハロースである糖質と、電解質として10?30 mMのナトリウムとを含有し、浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oであり、糖質の含有量が0.5?4.0重量%である、水分補給用の飲食品組成物。 【請求項2】 0.3?6.0重量%のホエイペプチドであるタンパク質加水分解物と、0.5?3.0重量%のグルコースである糖質と、電解質として10?30 mMのナトリウムとを含有し、浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oであり、糖質の含有量が0.5?4.0重量%である、水分補給用の飲食品組成物。 【請求項3】 電解質としてカリウム、カルシウム、及びマグネシウムをさらに含む、請求項1又は2に記載の飲食品組成物。 【請求項4】 クエン酸をさらに含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲食品組成物。 【請求項5】 請求項1に記載の飲食品組成物を調製するためのプレミックス組成物であって、ホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又はアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、トレハロースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物。 【請求項6】 請求項2に記載の飲食品組成物を調製するためのプレミックス組成物であって、ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物と、グルコースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物。 【請求項7】 前記タンパク質加水分解物及び/又は前記アミノ酸1 g当たり、0.06?12 gの前記糖質及び0.1?12 mmolのナトリウムを含む、請求項5に記載のプレミックス組成物。 【請求項8】 前記タンパク質加水分解物1 g当たり、0.06?12 gの前記糖質及び0.1?12 mmolのナトリウムを含む、請求項6に記載のプレミックス組成物。 【請求項9】 電解質としてカリウム、カルシウム、及びマグネシウムをさらに含む、請求項5?8のいずれか1項に記載のプレミックス組成物。 【請求項10】 クエン酸をさらに含む、請求項5?9のいずれか1項に記載のプレミックス組成物。 【請求項11】 請求項1に記載の飲食品組成物を調製するための、ホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又はアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、トレハロースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物の使用。 【請求項12】 請求項2に記載の飲食品組成物を調製するための、ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物と、グルコースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物の使用。 【請求項13】 プレミックス組成物が、電解質としてカリウム、カルシウム、及びマグネシウムをさらに含む、請求項11又は12に記載の使用。 【請求項14】 プレミックス組成物がクエン酸をさらに含む、請求項11?13のいずれか1項に記載の使用。」 第3 取消理由についての判断 1 取消理由の概要 本件訂正前に当審が通知した平成31年3月27日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。 なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由をすべて含んでいる。 <取消理由1> 本件発明1ないし14は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1ないし7号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 <取消理由2> 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。 <取消理由3> 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。 2 特許異議申立人による証拠方法 特許異議申立人は、特許異議申立書に添付して、次の甲第1ないし10号証を提出する。 (1)甲第1号証:Stefan Siebrecht、「新たな機能性素材としての乳由来のペプチドPeptoPro ○R(当審注:原文は○付き文字。以下単に「R」と表記する。)」、FFI JOURNAL、2005年、Vol.210、No.8、p.716-727(以下「甲1」ともいう。以下同様。) (2)甲第2号証:山本 茂、外5名、「おやつと飲料類の単糖・二糖類含有量」、日本栄養士会雑誌、2009年、第52巻、第4号、p.23-25 (3)甲第3号証:武政睦子、外2名、「市販飲料類のナトリウム,カリウム,カルシウムおよびマグネシウム含有量の実態について」、川崎医療福祉学会誌、2008年、Vol.18、No.1、p.305-314 (4)甲第4号証:特開昭52-41273号公報 (5)甲第5号証:特開2006-304775号公報 (6)甲第6号証:特開2003-169642号公報 (7)甲第7号証:三浦洋、最新・ソフトドリンクス編集委員会、「最新・ソフトドリンクス」、株式会社 光琳、平成15年9月30日、p.464-467 (8)甲第8号証:瓜田純久、外4名、「メタボリック症候群における消化・吸収」、日本消化器病学会雑誌、2011年、第108巻、第4号、p.553-563 (9)甲第9号証:伊藤健太郎、「乳タンパク質および乳タンパク質由来ペプチドの水分補給機能に関する研究」、日本大学大学院生物資源科学研究科、2016年 (10)甲第10号証:本件特許に係る審査段階の平成29年12月12日提出の意見書 3 取消理由1(29条2項)について (1) 甲第1ないし7号証の開示事項 ア 甲1の開示事項及び記載された発明 甲1には以下の記載がある。 「PeptoPro Rは、新規に特許化したプロテアーゼによる乳カゼインの加水分解物、ペプチドです。消化管から吸収されたペプチドは、身体の各部位における維持に必要なタンパク質に再構築されたり、エネルギー源として使用されます。」(718ページ左欄) 「PeptoPro Rはカゼイン加水分解物であり、高い栄養価を持っています。また、カゼインのバランスの良いアミノ酸組成が保持されており、20種類のアミノ酸すべてを含んでいます。」(718ページ右欄) 「3-4. 運動後にすぐ飲めるリカバリードリンク PeptoPro Rは、消耗したグリコーゲンの再合成を刺激し、身体能力の回復を助けます。激しい運動をすると、主要なエネルギー源として筋肉グリコーゲンが消費されます。PeptoPro Rと炭水化物の併用はインシュリンの分泌を促し、筋肉細胞へのグルコースの取り込みを向上させます。その結果、グリコーゲンの再合成が促進され、疲労からの素早い回復を助けます。」(721ページ右欄) 「3-5.PeptoPro R臨床試験の結果 ・・・炭水化物(8.2g/100ml)+PeptoPro R(4.2gml/100ml)を含む330mlの飲料を、激しい運動の後30分ごとに摂取しました(体重70kg)。」(722ページ左欄) 「炭水化物0.8g/kg BW/h、グルコースとマルトデキストリンのみ(ショ糖と果糖は回復を遅くするため)」(722ページ 表4の脚注) 「この研究は、カゼイン加水分解物のアミノ酸組成が、ホエイタンパク質(加水分解物)よりもタンパク質合成と筋肉成長を刺激したことを示しています。この結果によると、私たちの身体はホエイタンパク質よりもカゼインのほうを筋肉量に変えるために使用しているのではないかと考えられます。」(724ページ右欄) 上記記載によれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「カゼイン加水分解物を含む100mlあたり4.2gのタンパク質、8.2gのグルコース及びマルトデキストリンのみを含む疲労からの素早い回復を助けるスポーツドリンク。」(以下「甲1発明」)という。 イ 甲2の開示事項 甲2の「表1 酵素分析法による市販飲料・冷凍類の単糖・二糖類含有量の分析」(24ページ)によれば、甲2には、下記の事項が記載されていると認められる。 「市販されているスポーツドリンクには、ブドウ糖が1.39±0.83、ショ糖が3.65±1.77、果糖が1.03±1.84g/100ml含まれていること。」 ウ 甲3の開示事項 甲3の「表4 スポーツ飲料中のミネラル濃度の実測値および表示値」(310ページ)によれば、甲3には、下記の事項が記載されていると認められる。 「試料10.の『スポーツドリンク』には、実測値でNa^(+)を294、K^(+)を60、Ca^(2+)を35、Mg^(2+)を5(mg/l)が含まれていること。」 エ 甲4の開示事項 甲4には、下記の事項が記載されていると認められる。 「必要な水分と電解質を身体系に供給するように急速に溶液が胃から血流中に吸収されるようにするためには、約80?200mOsm(ミリオスモル)/lのオスモラリティーが必須であること。」(公報3ページ右下欄) オ 甲5の開示事項 甲5には、下記の事項が記載されていると認められる。 「腸管への水分、電解質吸収の好ましい浸透圧範囲としては160?190mOsm/Lであり、特に好ましくは、170?180mOsm/Lの浸透圧範囲であること。」(【0019】) カ 甲6の開示事項 甲6には、下記の事項が記載されていると認められる。 「スポーツ飲料において、浸透圧を調節するために好ましいものとしては、クエン酸があり、浸透圧を157mOsmにすることができること。」(【0017】、【0019】、【0032】) キ 甲7の開示事項 甲7には下記の事項が記載されていると認められる。 「スポーツ飲料の原料には、酸味料としてクエン酸が使用されること。」(464ページ) (2) 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「カゼイン加水分解物を含む100mlあたり4.2gのタンパク質」は、その性質及び機能等から本件発明1の「0.3?6.0重量%のホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又は20?30 mMのアラニン若しくはリジンであるアミノ酸」に相当する。 本件発明1の「0.5?1.0重量%のトレハロースである糖質」と甲1発明の「8.2gのグルコース及びマルトデキストリン」は、「糖質」の限りで一致する。 甲1発明の「疲労からの素早い回復を助けるスポーツドリンク」は、スポーツドリンクが水分を補給することも意図されていることが明らかであるから、本件発明1の「水分補給用の飲食品組成物」に相当する。 したがって、両者は、 「0.3?6.0重量%のホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又は20?30 mMのアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、糖質とを含有する、水分補給用の飲食品組成物。」 の点で一致し、以下の相違点でそれぞれ相違する。 相違点1 「糖質」について、本件発明1は「0.5?1.0重量%のトレハロース」を含有し、「糖質の含有量が0.5?4.0重量%」であるのに対して、甲1発明は、「8.2gのグルコース及びマルトデキストリン」である点。 相違点2 本件発明1は、「電解質として10?30 mMのナトリウムを含有し、浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)O」であるのに対して、甲1発明は、電解質とその量及び浸透圧が特定されていない点。 イ 判断 前記相違点1について検討すると、甲1発明は「疲労からの素早い回復を助けるスポーツドリンク」であり、疲労からの素早い回復のために糖質として「グルコース及びマルトデキストリンのみ」を選択している。そして、甲2ないし甲7には、「PeptoPro R」と「トレハロース」の組合せにより、疲労からの素早い回復ができることは記載されておらず、また、甲1には、糖質の選択によっては、例えば「ショ糖」が選択されると疲労の回復を遅くすることが記載されているから、甲1発明において、糖質として「トレハロース」を選択すること、すなわち前記相違点1に係る本件発明1の構成とすることに動機付けはない。 そして、本件発明1は、「水分吸収性、好ましくは水分吸収性及び胃排出速度を高めた水分補給効果の高い飲食品を提供できる。」(【0042】)との効果を奏するものである。 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲2ないし7に開示された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 本件発明2について ア 対比 甲1発明と本件発明2とを対比すると、本件発明2の「0.3?6.0重量%のホエイペプチドであるタンパク質加水分解物」と甲1発明の「カゼイン加水分解物を含む100mlあたり4.2gのタンパク質」は、「タンパク質加水分解物」の限りにおいて一致する。 本件発明2の「0.5?3.0重量%のグルコースである糖質」と甲1発明の「8.2gのグルコース及びマルトデキストリン」は、「糖質」の限りにおいて一致する。 甲1発明の「疲労からの素早い回復を助けるスポーツドリンク」は、スポーツドリンクが水分を補給することも意図されていることが明らかであるから、本件発明2の「水分補給用の飲食品組成物」に相当する。 したがって、両者は、 「タンパク質加水分解物と、糖質とを含有する、水分補給用の飲食品組成物。」 の点で一致し、以下の相違点でそれぞれ相違する。 相違点3 「タンパク質加水分解物」について、本件発明2は、「0.3?6.0重量%のホエイペプチドであるタンパク質加水分解物」であるのに対して、甲1発明は、「カゼイン加水分解物を含む100mlあたり4.2gのタンパク質」である点。 相違点4 「糖質」について、本件発明2は、「0.5?3.0重量%のグルコースである糖質」を含有し、「糖質の含有量が0.5?4.0重量%である」のに対して、甲2発明は、「8.2gのグルコース及びマルトデキストリン」である点。 相違点5 本件発明2は、「電解質として10?30 mMのナトリウムを含有し、浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)O」であるのに対して、甲1発明は電解質とその量及び浸透圧が特定されていない点。 イ 判断 前記相違点3について検討すると、甲1発明は、疲労からの素早い回復を助けるスポーツドリンクであるところ、甲1には、「私たちの身体はホエイタンパク質よりもカゼインのほうを筋肉量に変えるために使用しているのではないかと考えられます。」との記載があり、甲1発明において「タンパク質加水分解物」を「ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物」とすること、すなわち前記相違点3に係る本件発明2の構成とすることに動機付けはない。 そして、本件発明2は、「水分吸収性、好ましくは水分吸収性及び胃排出速度を高めた水分補給効果の高い飲食品を提供できる」(【0042】)との効果を奏するものである。 よって、相違点4及び5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明並びに甲2ないし7に開示された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4) 本件発明3ないし14について 本件発明3ないし14は、本件発明1または本件発明2を引用しいずれかの発明特定事項を全て有し、更に限定を付加したものであるから、本件発明1または本件発明2と同様の理由により、本件発明3ないし14は、甲1発明並びに甲2ないし7に開示された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4 取消理由2(36条4項1号)及び取消理由3(36条6項2号)について (1) 甲8ないし10の開示事項 ア 甲8 甲8には、下記の事項が記載されていると認められる。 「ペプチドの種類により、人体への吸収のメカニズムが異なること。」(559ページ) イ 甲9 甲9には、下記の事項が記載されていると認められる。 「ホエイペプチドと、カゼインペプチドとでは、人体への吸収のメカニズムが異なること。」(4、11、28ページ) ウ 甲10 甲10には、下記の事項が記載されていると認められる。 「トレハロースが2つのα-グルコースが結合してできた二糖類であるとしても、腸内で全てのトレハロースが2つのα-グルコースに一度に分解されてグルコースが元のトレハロースの二倍濃度で存在するようになるわけではないこと。」 (2) タンパク質加水分解物としてカゼインペプチド及び糖質としてグルコースを選択した実施例について 本件明細書には、タンパク質加水分解物として「カゼインペプチド」及び糖質として「グルコース」を組み合わせた実施例が記載されていないところ、本件訂正前の本件発明2は、タンパク質加水分解物として「カゼインペプチド」及び糖質として「グルコース」を組み合わせたものを含むものであった。 しかしながら、本件訂正により本件発明2は、タンパク質加水分解物として「カゼインペプチド」が削除された。そして、発明の詳細な説明に記載された事項からすると、本件発明2について、当業者は、課題解決が認識できるし、実施することができるから、取消理由2及び3は解消された。 なお、特許異議申立人は、「アミノ酸」及び糖質として「グルコース」を組み合わせた実施例が記載されていないと主張しているが、「アミノ酸」及び糖質として「グルコース」とする発明に対応する特許請求の範囲は存在しないので、当該申立理由に理由がないことは明らかである。 (3) 糖質として、グルコース、又は、トレハロース以外の糖質を含む実施例について 本件特許明細書には、下記の記載がある。 「本発明に係る飲食品組成物は、1種以上の糖質を、以下に限定するものではないが、例えば0.1%?4.0%、好ましくは0.5?3.0重量%、より好ましくは0.5?2.5重量%、さらに好ましくは0.5?1.0重量%含有する。」(【0049】) 「【表8】(当審注:一部抜粋) 飲料 浸透圧 平均水分吸収速度 (mOsm/kg H_(2)O) (μL/min) 」(【0089】) そして、本件発明1及び2は、本件訂正により「糖質の含有量が0.5?4.0重量%」であることが特定されたところ、当業者であれば上記明細書の記載から、糖質の含有量が0.5?4.0重量%、浸透圧が50?200 mOsm/kg H_(2)Oの範囲であれば平均水分吸収速度が速くなることが理解できるから、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載された事項から、当業者は、本件発明1及び2について課題解決が認識できるし、実施することができるから、取消理由2及び3は解消された。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 0.3?6.0重量%のホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又は20?30mMのアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、0.5?1.0重量%のトレハロースである糖質と、電解質として10?30mMのナトリウムとを含有し、浸透圧が50?200mOsm/kg H_(2)Oであり、糖質の含有量が0.5?4.0重量%である、水分補給用の飲食品組成物。 【請求項2】 0.3?6.0重量%のホエイペプチドであるタンパク質加水分解物と、0.5?3.0重量%のグルコースである糖質と、電解質として10?30mMのナトリウムとを含有し、浸透圧が50?200mOsm/kg H_(2)Oであり、糖質の含有量が0.5?4.0重量%である、水分補給用の飲食品組成物。 【請求項3】 電解質としてカリウム、カルシウム、及びマグネシウムをさらに含む、請求項1又は2に記載の飲食品組成物。 【請求項4】 クエン酸をさらに含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲食品組成物。 【請求項5】 請求項1に記載の飲食品組成物を調製するためのプレミックス組成物であって、ホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又はアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、トレハロースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物。 【請求項6】 請求項2に記載の飲食品組成物を調製するためのプレミックス組成物であって、ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物と、グルコースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物。 【請求項7】 前記タンパク質加水分解物及び/又は前記アミノ酸1g当たり、0.06?12gの前記糖質及び0.1?12mmolのナトリウムを含む、請求項5に記載のプレミックス組成物。 【請求項8】 前記タンパク質加水分解物1g当たり、0.06?12gの前記糖質及び0.1?12mmolのナトリウムを含む、請求項6に記載のプレミックス組成物。 【請求項9】 電解質としてカリウム、カルシウム、及びマグネシウムをさらに含む、請求項5?8のいずれか1項に記載のプレミックス組成物。 【請求項10】 クエン酸をさらに含む、請求項5?9のいずれか1項に記載のプレミックス組成物。 【請求項11】 請求項1に記載の飲食品組成物を調製するための、ホエイペプチド若しくはカゼインペプチドであるタンパク質加水分解物及び/又はアラニン若しくはリジンであるアミノ酸と、トレハロースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物の使用。 【請求項12】 請求項2に記載の飲食品組成物を調製するための、ホエイペプチドであるタンパク質加水分解物と、グルコースである糖質と、電解質としてナトリウムとを含有するプレミックス組成物の使用。 【請求項13】 プレミックス組成物が、電解質としてカリウム、カルシウム、及びマグネシウムをさらに含む、請求項11又は12に記載の使用。 【請求項14】 プレミックス組成物がクエン酸をさらに含む、請求項11?13のいずれか1項に記載の使用。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-09-03 |
出願番号 | 特願2014-503571(P2014-503571) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L) P 1 651・ 121- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤井 美穂 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 莊司 英史 |
登録日 | 2018-06-01 |
登録番号 | 特許第6346558号(P6346558) |
権利者 | 株式会社明治 |
発明の名称 | 水分吸収性に優れた飲食品 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 小瀬村 暁子 |
代理人 | 小瀬村 暁子 |
代理人 | 藤田 節 |