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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01L
管理番号 1356004
異議申立番号 異議2019-700592  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-29 
確定日 2019-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6460615号発明「半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物および該粘着剤組成物を用いた粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6460615号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6460615号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は,平成24年9月24日に出願され,平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ,平成31年1月30日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和元年7月29日に特許異議申立人 中川 賢治 は,特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6460615号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー,および,ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を含む,半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物であって,
該(メタ)アクリル系ポリマーが,2以上の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマーである,粘着剤組成物。
【請求項2】
前記金属の錯体が,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と,アセチルアセトンまたは2つの電子求引基がいずれもカルボニル基である活性メチレン化合物とがキレート化した金属錯体である,請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記金属の錯体の使用量が重合反応に用いるポリマー成分および/またはモノマー成分の合計100重量部に対し,0.0001重量部?1重量部である,請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記イソシアネート基を有する化合物が重合性不飽和結合基をさらに有する,請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の粘着剤組成物を用いた,半導体ウエハ加工用粘着シート。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人 中川 賢治 は,証拠として,甲第1号証である,特開2012-216842号公報を提出し,請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 甲第1号証の記載事項
(1)甲第1号証に係る出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には,以下の事項が記載されている。
「(11)特許出願公開番号 特開2012-216842」

「(43)公開日 平成24年11月8日」

「(21)出願番号 特願2012-84376」

「(22)出願日 平成24年4月2日」

「(71)出願人 000005290 古河電気工業株式会社」

「(72)発明者 玉川 有理
・・・
(72)発明者 矢野 正三
・・・
(72)発明者 松原 侑弘
・・・
(72)発明者 服部 聡」

「【請求項1】
基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に放射線硬化性の粘着剤層が形成されたダイシングテープであって,該粘着剤層が,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール(B)が,架橋剤(C)としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなることを特徴とするダイシングテープ。
【請求項2】
前記粘着剤層が,放射線硬化性化合物と光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイシングテープ。」

「【請求項6】
さらに有機金属化合物を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のダイシングテープ。
【請求項7】
半導体ウエハの加工方法であって,ウエハ裏面研削工程の後,1時間以内に,半導体ウエハの研削面に,請求項1?6のいずれか1項に記載のダイシングテープを貼り付けダイシングした後,放射線の照射によって放射線硬化性粘着剤層を硬化せしめ,個片化された半導体チップをピックアップすることを特徴とする半導体ウエハ加工方法。」

「【0001】
本発明は,ダイシングテープに関する。特に,本発明は,半導体ウエハなどを素子小片に切断分離(ダイシング)する際に,当該半導体ウエハなどの被切断体を固定するために用いる半導体ウエハダイシングテープに関する。
また本発明は,ダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,シリコン,ガリウム,砒素などを材料とする半導体ウエハは,大径の状態で製造された後,素子小片に切断分離(ダイシング)され,更にマウント工程に移される。この際,半導体ウエハはダイシングテープに貼付され保持された状態でダイシング工程,洗浄工程,エキスパンド工程,ピックアップ工程,マウント工程の各工程が施される。前記ダイシングテープとしては,プラスチックなどの基材樹脂フィルム上にアクリル系粘着剤等の粘着剤層が塗布,形成されたものが用いられている。
前記ピックアップ工程では,ダイシング工程で得られた素子小片(以下,半導体チップともいう。)同士の間隙を広げて,半導体チップをピックアップしやすくすることが行われることが多い。すなわち,図2に示すように,ピックアップする半導体チップ12が貼合されたダイシングテープ1を突き上げピン13により,点状または線状で持ち上げまたはこすりつけ,当該半導体チップ12とダイシングテープ1の剥離を助長した状態で,上部から吸着コレット11等の真空吸着により半導体チップ12をピックアップする方式が主流となっている。
【0003】
近年,半導体ウエハは大口径化,薄型化の傾向にあり,また酸によるウエハ裏面のエチング工程が加わっていることがある。そこで,エッチング処理が施されたウエハ裏面に貼合して,ダイシング工程終了後にピックアップしても,ウエハ裏面への粘着剤層などに起因する汚染物の少ないダイシングテープが求められている。このために,分子量105以下の低分子量成分の含有量が10質量%以下の粘着剤層を有する再剥離用粘着シートが提案されている(例えば,特許文献1参照)。
また,薄型化された半導体ウエハの破損の防止を目的として,ウエハ裏面研削工程が終了した後,数時間以内に,半導体ウエハをダイシングテープ又はシートに貼り付けるケースが増加している。半導体ウエハをウエハ裏面研削工程の後,数時間以内の状態では,半導体ウエハの研削面には自然酸化膜が全面的に形成されておらず,未酸化状態の活性な原子が存在する活性面が存在するため,ウエハ裏面の活性な原子と粘着剤相互作用を起こし,ピックアップ性が悪化するという問題が生じている。この問題に対し,ポリアルキレングリコール類又はその誘導体を特定量含有する粘着剤層を用いたダイシング用粘着テープ又はシートが提案されている(例えば,特許文献2参照)。
【0004】
しかし,特許文献1に記載の再剥離用粘着シートのように,低分子量成分の含有量を少なくしても,汚染物を十分低減することは困難である。また,本発明者らは,特許文献2記載のダイシング用粘着テープを用いて,ダイシング工程及びピックアップ工程を行い,半導体チップを製造する実験を行った。その結果,本発明者らは,単にポリアルキレングリコール類又はその誘導体を粘着剤層中に含む樹脂組成物を使用しただけでは,低分子量のポリアルキレングリコールが,半導体ウエハに移行し,ダイシング工程を終了後,得られた半導体チップをピックアップする際に,被着体表面である半導体チップに有機物汚染が生じる場合が多いことを見出した。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できるダイシングテープ及びそのダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に放射線硬化性の粘着剤層が形成されたダイシングテープであって,該粘着剤層が,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるダイシングテープが,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できることを見出した。
本発明はこの知見に基づきなされたものである。」

「【0014】
2.放射線硬化性の粘着剤層
本発明のダイシングテープにおいて,基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた放射線硬化性の粘着剤層は,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるものである。
【0015】
(A)主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体
放射線硬化性粘着剤層は,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)を含む。アクリル重合体(A)は,水酸基価が15?60の場合は,放射線照射後の粘着力を減少させることによりピックアップミスの危険性をさらに低減することができるので好ましい。また,アクリル重合体(A1)は,水酸基価が15?60が好ましい。ここで水酸基価はJIS K 0070に記載のピリジン-無水酢酸によるアセチル化法で測定された値をいう。上記アクリル重合体(A)の水酸基価を適切な範囲内とすることにより,ポリエーテルポリオールが架橋剤のポリイソシアネートを介してアクリル重合体と結合し,半導体チップへのポリエーテルポリオールの移行を抑制し,被着体表面の汚染を著しく低減することができる。
【0016】
アクリル重合体(A)としては,(メタ)アクリル酸エステル成分をモノマー主成分(重合体中の質量%が50%を越える)とし,該(メタ)アクリル酸エステル成分に対して,共重合が可能で分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)成分とを共重合したものなどが挙げられる。本明細書において,(メタ)アクリル酸エステルとは,アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの両者を含む。
【0017】
アクリル重合体(A)において,モノマー主成分としての(メタ)アクリル酸エステル成分としては,例えば,(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アクリル酸s-ブチル,(メタ)アクリル酸t-ブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸ヘプチル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸イソオクチル,(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸ノニル,(メタ)アクリル酸イソノニル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸イソデシル,(メタ)アクリル酸ウンデシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸トリデシル,(メタ)アクリル酸テトラデシル,(メタ)アクリル酸ペンタデシル,(メタ)アクリル酸ヘキサデシル,(メタ)アクリル酸ヘプタデシル,(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
アクリル重合体(A)は,架橋剤のポリイソシアネート(C)とウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオール(B)と反応させるとともに,架橋剤で架橋させて質量平均分子量(Mw)を高めるために,主鎖に対して,水酸基が結合されていることが必要である。主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)は,前記(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつ水酸基を有するモノマーを共重合することによって得ることができる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつ水酸基を有するモノマーとしては,2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルレート,6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリルレート,ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート,グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
アクリル重合体(A)中には,主鎖に対して水酸基が結合(ペンダントされている)以外に,カルボキシル基,グリシジル基といった官能基がペンダントされていてもよい。水酸基以外の官能基を有するアクリル重合体(A)は,(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつ水酸基以外の官能基を有するモノマーを共重合することによって得ることができる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつカルボキシル基を有するモノマーとしては,(メタ)アクリル酸(アクリル酸,メタクリル酸),イタコン酸,マレイン酸,フマル酸,クロトン酸,イソクロトン酸等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつグリシジル基を有するモノマーとしては,グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
アクリル重合体(A)が,主鎖の繰り返し単位に対して放射線硬化性炭素-炭素二重結合含有基が結合した重合体(A1)を含むことが好ましい。重合体(A1)を得る方法としては特に制限されないが,例えば,(メタ)アクリル酸エステル成分に,官能基を有するモノマーを用いて共重合して,官能基が主鎖に対してペンダントされたアクリル重合体(a11)を調製した後,該官能基と反応し得る官能基と,炭素-炭素二重結合とを有する化合物(a2)を,炭素-炭素二重結合の放射線硬化性(放射線重合性)を維持した状態で,縮合反応又は付加反応させることにより,分子内に放射線硬化性炭素-炭素二重結合を有し,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A1)を調製することができる。
【0021】
上記重合体(a11)を構成する(メタ)アクリル酸エステル成分としては,炭素数6?12のヘキシルアクリレート,n-オクチルアクリレート,イソオクチルアクリレート,2-エチルヘキシルアクリレート,ドデシルアクリレート,デシルアクリレート,炭素数5以下のペンチルアクリレート,n-ブチルアクリレート,イソブチルアクリレート,エチルアクリレート,メチルアクリレート,またはこれらと同様のメタクリレートなどを列挙することができる。
上記重合体(a11)を構成する,前記(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつ水酸基を有するモノマー成分としては,2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルレート,6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリルレート,ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート,グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記重合体(a11)を構成する,前記(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつカルボキシル基を有するモノマーとしては,(メタ)アクリル酸(アクリル酸,メタクリル酸),イタコン酸,マレイン酸,フマル酸,クロトン酸,イソクロトン酸等が挙げられる。上記重合体(a11)を構成する,前記(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつグリシジル基を有するモノマーとしては,グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつアミド基を有するモノマーとしては,(メタ)アクリルアミド(アクリルアミド,メタクリルアミド)等が挙げられる。
【0022】
上記重合体(a11)における官能基がカルボキシル基又は環状酸無水基である場合には,(a2)としては,グリシジル(メタ)アクリレート,アリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。上記重合体(a11)における官能基が水酸基またはアミノ基である場合には,(a2)としては,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート, 2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート,1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートなどを挙げることができる。上記重合体(a11)における官能基が水酸基またはグリシジル基である場合には,(a2)としては,(メタ)アクリル酸などを挙げることができる。」

「【0025】
(B)分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール
分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール(B)としては,分子内に水酸基を3つ以上有するものであれば特に制限されず,従来のポリエーテルポリオールの中から適宜選択することができる。ポリエーテルポリオールが分子内に3つ以上の水酸基を有することで,ポリエーテルポリオールの水酸基と後述のポリイソシアネート架橋剤との反応により,ポリエーテルポリオールが架橋構造中に取り込まれる。これにより,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)と,ウレタン架橋を介して結合しやすくなり,ポリエーテルポリオールが被着体界面へ移行し,被着体表面を汚染することを防ぐことができる。
分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールとしては,分子内に水酸基を3つ有する,ポリオキシエチレン-グリセリルエーテル(例えば,日油株式会社製ユニオールG-450,ユニオールG-750等)やポリオキシプロピレン-グリセリルエーテル(例えば,日油株式会社製ユニオールTG-330,TG-1000,TG-2000,TG-3000,TG-4000,旭硝子株式会社製エクセノール3030,5030,プレミノールS3006,プレミノールS3011等),分子内に水酸基を4つ有する,ポリオキシプロピレン-ジグリセリルエーテル(例えば,日油株式会社製ユニルーブDGP-700,DGP-700F等),分子内に水酸基を6つ有する,ポリオキシプロピレン-ソルビット(例えば,日油株式会社製ユニオールHS-1600D等),または,分子内に10?14個の水酸基を有する多官能ポリエーテルポリオール(例えば,DIC株式会社製プライアデックHBP-100等)が挙げられる。」

「【0027】
(C)架橋剤
本発明では,架橋剤として,少なくとも架橋剤としてポリイソシアネートを用いて,放射線硬化前に架橋されていることが必要である。ポリイソシアネート架橋剤としては,イソシアネート基を有する架橋剤であれば特に制限されない。例えば,トリレンジイソシアネート,ジフェニルメタンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート等もしくはこれらのビウレット型,イソシアヌレート型,アダクト型,ブロック型等の各種多量体などを挙げることができる。架橋剤として水酸基に対して反応性を有するポリイソシアネートを用いることにより,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込むことが可能となり,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐことができる。そのほか,架橋剤として,ポリイソシアネート以外の架橋剤を併用することができる。ただし,アクリル重合体(A)中に,架橋剤に対して反応性を有する官能基を有している必要がある。架橋剤としては,例えば,エポキシ系架橋剤,アジリジン系架橋剤,メラミン樹脂系架橋剤,尿素樹脂系架橋剤,酸無水化合物系架橋剤,ポリアミン系架橋剤,カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等から適宜選択して用いることができる。
また,後述の(F)有機金属化合物も好ましい。
(C)の架橋剤の使用量としては特に制限されず,目的とする粘着力が得られる範囲内で適宜調整可能である。架橋剤の配合量は,アクリル重合体(A)100質量部に対して0.01?10質量部であることが好ましい。架橋剤の配合量が少なすぎる場合は,十分な架橋構造を得ることができず,配合量が多すぎる場合は,粘着剤組成物のポットライフが短くなり,ダイシングテープの製造中に短時間でゲル化してしまう,もしくは,ダイシングテープとして製造可能であったとしても,貼り付け時に粘着性を発現できなくなる,といった問題が発生する。
【0028】
(D)放射線硬化性化合物
粘着剤層には,放射線硬化性化合物を含ませることにより,放射線硬化性とすることができる。放射線硬化性化合物としては,炭素-炭素二重結合を含有する基(「炭素-炭素二重結合含有基」と称する場合がある)などの放射線硬化性(放射線の照射による重合性)の官能基を有する化合物であれば特に制限されず,モノマー成分,オリゴマー成分のいずれであってもよい。具体的には,放射線硬化性成分としては,例えば,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,グリセリンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と,多価アルコールとのエステル化物;エステルアクリレートオリゴマー;2-プロペニル-ジ-3-ブテニルシアヌレート等の炭素-炭素二重結合含有基を有しているシアヌレート系化合物;トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート,トリス(2-メタクリロキシエチル)イソシアヌレート,2-ヒドロキシエチル ビス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート,ビス(2-アクリロキシエチル) 2-[(5-アクリロキシヘキシル)-オキシ]エチルイソシアヌレート,トリス(1,3-ジアクリロキシ-2-プロピル-オキシカルボニルアミノ-n-ヘキシル)イソシアヌレート,トリス(1-アクリロキシエチル-3-メタクリロキシ-2-プロピル-オキシカルボニルアミノ-n-ヘキシル)イソシアヌレート,トリス(4-アクリロキシ-n-ブチル)イソシアヌレート等の炭素-炭素二重結合含有基を有しているイソシアヌレート系化合物などが挙げられる。放射線硬化性成分としては,分子中に,炭素-炭素二重結合含有基を,平均2個以上含んでいるものを好適に用いることができる。
放射線硬化性成分の粘度は,特に制限されない。放射線硬化性成分は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
放射線硬化性成分の配合量は,特に制限されるものではないが,ピックアップ時,すなわち,放射線照射後の引き剥がし粘着力を低下させることを考慮すると,放射線硬化性粘着剤組成物中の固形分全量に対して10質量%以上,好ましくは20?60質量%,さらに好ましくは25?55質量%となる割合であることが望ましい。」

「【0030】
(F)有機金属化合物
放射線硬化性粘着剤層中に,有機金属化合物を含有させることが好ましい。特に有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートはそれ自身が架橋剤として作用すると共に,エステル化触媒,およびウレタン化触媒として作用し,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込み,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐのに効果的である。
これらの化合物は,下記一般式(I),(IIA)または(IIB)で表される。
【0031】」





「【0032】
式中,MはTiまたはZrを表し,Rはアルキル基を表し,Lは中心金属と5員環構造で配位する有機残基を表す。
Rは,炭素数1?12のアルキル基が好ましく,例えばメチル,エチル,n-プロピル,イソプロピル,n-ブチル,n-オクチル,2-エチルヘキシルが挙げられる。
Lは,β-ジケトン,ケトエステル,ヒドロキシアミネート,ジオレート,ヒドロキシアシレートの有機残基(部分構造)を表す。-O-L-O→で表される部分の配位子としては,例えばアセチルアセトン,アセト酢酸エチル,オクチレングリコール,トリエタノールアミン,乳酸が挙げられる。
【0033】
有機チタン化合物は,アルコキシドとしては,TA-10,TA-22,TA-25,TA-30(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製),キレートとしては,TC-100,TC-200,TC-300,TC-310,TC-315,TC-401,TC-750(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製)が挙げられる。
【0034】
有機ジルコニウム化合物は,アルコキシドとしては,ZA-40,ZA-65(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製),キレートとしては,ZC-150,ZC-540,ZC-570,ZC-580,ZC-700,ZB-126(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製)が挙げられる。有機金属化合物は,単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機金属化合物の配合量としては,分子内に放射線硬化性炭素-炭素二重結合を有し,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A1)100質量部に対して0.0005?10質量部,好ましくは0.001?1質量部の範囲から適宜選択することができる。有機金属化合物の配合量が少なすぎると,架橋剤,エステル化触媒,ウレタン化触媒としての十分な効果を得ることができず,配合量が多すぎると,粘着剤のポットライフが短くなり,粘着テープの製造が困難となる。」

「【0041】
(実施例1)
アクリル酸ブチルおよび2-ヒドロキシエチルアクリレートを質量比7:3の割合で,酢酸エチル中で常法により共重合させて,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)を含む溶液(アクリル共重合体含有溶液Aa)を得た。
次に,前記アクリル共重合体含有溶液Aaに,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート,また,触媒としてジラウリン酸ジブチルスズを加えて,50℃で24時間反応させて,側鎖の末端に炭素-炭素二重結合を有するアクリル重合体A2を含む溶液A2aを得た。このアクリル重合体の水酸基価を後述の方法で測定したところ,35.2mgKOH/gであった。
続いて,前記,側鎖の末端に炭素-炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを含む溶液A2の100質量部に対して,光重合開始剤として商品名「イルガキュア651」(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製):2.5質量部と,ポリイソシアネート系化合物(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製):0.5質量部と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールとして,分子内に水酸基を3つ有するポリオキシプロピレン-グリセリルエーテル(商品名「ユニオールTG-1000」(日油株式会社製)):5質量部とを加えて,紫外線硬化型アクリル系粘着剤溶液X1を得た。
【0042】
(ダイシングテープの作製)
基材樹脂フィルムとして,片面にコロナ放電処理が施された低密度ポリエチレン製フィルム(厚み:100μm)を用い,コロナ放電処理面に,前記紫外線硬化型アクリル系粘着剤溶液X1を塗布し,80℃で10分間加熱して,加熱架橋させた。これにより,基材樹脂フィルム上に,放射線硬化性粘着剤層としての紫外線硬化型粘着剤層(厚さ:5μm)を形成した。次に,この紫外線硬化型粘着剤層の表面にセパレータを貼り合わせて,紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0043】
(実施例2)
分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールとして,分子内に水酸基を3つ有するポリオキシプロピレン-グリセリルエーテル(商品名「ユニオールTG-3000」(日油株式会社製)):4質量部を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。」

「【0045】
(実施例4)
分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールとして,分子内に水酸基を6つ有するポリオキシプロピレン-ソルビット(商品名「ユニオールHS-1600D」(日油株式会社製))を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。」

「【0057】
(実施例11)
側鎖の末端に炭素-炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを含む溶液A2の100質量部に対して,さらに有機金属化合物のジルコニウムキレート(商品名「ZC-150」(マツモトファインケミカル(株)社製)):0.0005質量部を加えた以外は実施例2と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0058】
(実施例12?15)
実施例11で使用した有機金属化合物の添加量を下記表2に記載の量に変更した以外は実施例11と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを各々作製した。
【0059】
(実施例16)
側鎖の末端に炭素-炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを含む溶液A2の100質量部に対して,さらに有機金属化合物のジルコニウムキレート(商品名「ZC-150」(マツモトファインケミカル(株)社製)):0.1質量部を加えた以外は実施例4と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0060】
(実施例17)
有機金属化合物を,ジルコニウムアルコキシド(商品名「ZA-45」(マツモトファインケミカル(株)社製))に変更した以外は実施例13と同様にして紫外線硬化型の各ダイシングテープを作製した。
【0061】
(実施例18,19)
有機金属化合物を,下記表2に記載のチタンキレート(商品名「TC-750」(マツモトファインケミカル(株)社製)),チタンアルコキシド(商品名「TA-10」(マツモトファインケミカル(株)社製))に変更した以外は実施例13,18と同様にして紫外線硬化型の各ダイシングテープを作製した。
【0062】
(実施例20)
アクリル系ポリマーを含む溶液Afの100質量部に対して,さらに実施例11で使用した有機金属化合物のジルコニウムキレート:0.1質量部を加えた以外は実施例9と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。」

(2)上記(1)の記載から,先願明細書等には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア エッチング処理が施されたウエハ裏面に貼合して,ダイシング工程終了後にピックアップしても,ウエハ裏面への粘着剤層などに起因する汚染物の少ないダイシングテープが求められており,分子量105以下の低分子量成分の含有量が10質量%以下の粘着剤層を有する再剥離用粘着シートが提案されているが,低分子量成分の含有量を少なくしても,汚染物を十分低減することは困難であること。(【0003】,【0004】)

イ 半導体ウエハをウエハ裏面研削工程の後,数時間以内の状態では,半導体ウエハの研削面には自然酸化膜が全面的に形成されておらず,未酸化状態の活性な原子が存在する活性面が存在するため,ウエハ裏面の活性な原子と粘着剤相互作用を起こし,ピックアップ性が悪化するという問題が生じており,この問題に対し,ポリアルキレングリコール類又はその誘導体を特定量含有する粘着剤層を用いたダイシング用粘着テープ又はシートが提案されているが,単にポリアルキレングリコール類又はその誘導体を粘着剤層中に含む樹脂組成物を使用しただけでは,低分子量のポリアルキレングリコールが,半導体ウエハに移行し,ダイシング工程を終了後,得られた半導体チップをピックアップする際に,被着体表面である半導体チップに有機物汚染が生じる場合が多いこと。(【0003】,【0004】)

ウ ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できるダイシングテープ及びそのダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法を提供することを課題とするものであって,基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に放射線硬化性の粘着剤層が形成されたダイシングテープであって,該粘着剤層が,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるダイシングテープが,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できること。(【0006】,【0007】)

エ 上記ウの「架橋剤」について,以下の記載があること。
「本発明では,架橋剤として,少なくとも架橋剤としてポリイソシアネートを用いて,放射線硬化前に架橋されていることが必要である。ポリイソシアネート架橋剤としては,イソシアネート基を有する架橋剤であれば特に制限されない。例えば,トリレンジイソシアネート,ジフェニルメタンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート等もしくはこれらのビウレット型,イソシアヌレート型,アダクト型,ブロック型等の各種多量体などを挙げることができる。架橋剤として水酸基に対して反応性を有するポリイソシアネートを用いることにより,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込むことが可能となり,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐことができる。そのほか,架橋剤として,ポリイソシアネート以外の架橋剤を併用することができる。ただし,アクリル重合体(A)中に,架橋剤に対して反応性を有する官能基を有している必要がある。架橋剤としては,例えば,エポキシ系架橋剤,アジリジン系架橋剤,メラミン樹脂系架橋剤,尿素樹脂系架橋剤,酸無水化合物系架橋剤,ポリアミン系架橋剤,カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等から適宜選択して用いることができる。
また,後述の(F)有機金属化合物も好ましい。」

オ 放射線硬化性粘着剤層中に,有機金属化合物を含有させることが好ましく,特に有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートはそれ自身が架橋剤として作用すると共に,エステル化触媒,およびウレタン化触媒として作用し,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込み,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐのに効果的であること。

(3)上記(1),(2)から,先願明細書等には,次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

[先願発明]
「基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に放射線硬化性の粘着剤層が形成されたダイシングテープの,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール(B)が,架橋剤(C)としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなる粘着剤組成物であって,
前記アクリル重合体(A)としては,(メタ)アクリル酸エステル成分をモノマー主成分(重合体中の質量%が50%を越える)とし,該(メタ)アクリル酸エステル成分に対して,共重合が可能で分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)成分とを共重合したものなどが挙げられ,
当該アクリル重合体(A)は,架橋剤のポリイソシアネート(C)とウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオール(B)と反応させるとともに,架橋剤で架橋させて質量平均分子量(Mw)を高めるために,主鎖に対して,水酸基が結合されていることが必要であり,
前記架橋剤として,少なくともポリイソシアネートを用いて,放射線硬化前に架橋されていることが必要であり,そのほか,架橋剤として,ポリイソシアネート以外の架橋剤を併用することができ,ただし,アクリル重合体(A)中に,架橋剤に対して反応性を有する官能基を有している必要があり,架橋剤としては,例えば,エポキシ系架橋剤,アジリジン系架橋剤,メラミン樹脂系架橋剤,尿素樹脂系架橋剤,酸無水化合物系架橋剤,ポリアミン系架橋剤,カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等から適宜選択して用いることができ,また,有機金属化合物も好ましい
粘着剤組成物。」

5 先願発明との対比
(1)本件発明1と先願発明とを対比する。
ア 先願発明の「『基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に放射線硬化性の粘着剤層が形成されたダイシングテープの』『粘着剤組成物』」は,本件発明1の「半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物」に相当する。

イ 先願発明の「主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール(B)が,架橋剤(C)としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなる」ものであって,「前記アクリル重合体(A)としては,(メタ)アクリル酸エステル成分をモノマー主成分(重合体中の質量%が50%を越える)とし,該(メタ)アクリル酸エステル成分に対して,共重合が可能で分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)成分とを共重合したものなどが挙げられ,当該アクリル重合体(A)は,架橋剤のポリイソシアネート(C)とウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオール(B)と反応させるとともに,架橋剤で架橋させて質量平均分子量(Mw)を高めるために,主鎖に対して,水酸基が結合されていることが必要であ」るものと,本件発明1の「ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を含む」「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」であって,「2以上の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマー」とは,「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」であって,「該(メタ)アクリル系ポリマーが,水酸基を有するメタアクリル系ポリマーと化合物とを重合することにより得られるポリマーである」点で一致する。

(2)以上のことから,本件発明1と先願発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含む半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物であって,該(メタ)アクリル系ポリマーが,水酸基を有する(メタ)アクリル系ポリマーと化合物とを重合することにより得られるポリマーである,粘着剤組成物。」

【相違点1】
本件発明1は,「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」の「ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を含む」のに対して,先願発明は,「架橋剤として,少なくともポリイソシアネートを用いて,放射線硬化前に架橋されていることが必要であり,そのほか,架橋剤として,ポリイソシアネート以外の架橋剤を併用することができ,ただし,アクリル重合体(A)中に,架橋剤に対して反応性を有する官能基を有している必要がある。架橋剤としては,例えば,エポキシ系架橋剤,アジリジン系架橋剤,メラミン樹脂系架橋剤,尿素樹脂系架橋剤,酸無水化合物系架橋剤,ポリアミン系架橋剤,カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等から適宜選択して用いることができ,また,有機金属化合物も好ましい」とされている点。

【相違点2】
本件発明1の(メタ)アクリル系ポリマーが,「2以上の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマー」であるのに対して,先願発明は,そのような特定がされていない点。

6 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 特許法第29条の2の規定は,特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願であって,当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明(先願発明)と同一であるときは,その発明については,特許を受けることができない旨を定め,ここで「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」(同法第1条)と規定されている。
すなわち,特許法第29条の2を根拠として先願発明と同一の発明である後願発明について特許を受けることができないとされるのは,先願発明の開示によって後願発明の技術的思想が開示されていると認められるからであるところ,上記のように,先願発明と後願発明に相違点が存在する場合に,当該相違点が,課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって新たな効果を奏するものではないもの)であって,両発明が同一であるということができるかどうかについては,両者の技術的思想を対比して検討する必要がある。

イ 先願明細書等には,上記4(1)のとおりの記載があり,その記載によると,上記4(2)のとおり,先願明細書等における技術的課題は,エッチング処理が施されたウエハ裏面に貼合して,ダイシング工程終了後にピックアップしても,ウエハ裏面への粘着剤層などに起因する汚染物の少ないダイシングテープが求められているが,粘着剤層に含まれる低分子量成分の量を少なくしても,汚染物を十分低減することは困難であり,さらに,半導体ウエハをウエハ裏面研削工程の後,数時間以内の状態では,半導体ウエハの研削面には自然酸化膜が全面的に形成されておらず,未酸化状態の活性な原子が存在する活性面が存在するため,ウエハ裏面の活性な原子と粘着剤相互作用を起こし,ピックアップ性が悪化するという問題に対処するために,ダイシング用粘着テープ又はシートに,ポリアルキレングリコール類又はその誘導体を特定量含有する粘着剤層を用いただけでは,低分子量のポリアルキレングリコールが,半導体ウエハに移行し,ダイシング工程を終了後,得られた半導体チップをピックアップする際に,被着体表面である半導体チップに有機物汚染が生じる場合が多いことを踏まえ,ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できるダイシングテープ及びそのダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法を提供することにあるものと認められる。

ウ 一方,本件発明1は,「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」の「ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を含む」ことで,本件特許明細書の【0007】に「本発明によれば,粘着剤組成物がジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を触媒として用いて得られるウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含むことにより,調製後も粘着剤組成物に含まれる金属錯体の半導体ウエハへの拡散を防止することができ,金属錯体による半導体ウエハの金属汚染を防止し得る。また,これらの金属錯体は,ウレタン化反応を円滑に進行させることができる。そのため,これらの金属錯体はウレタン化反応の触媒として好適に機能し得る。さらに,これらの金属錯体は,半導体ウエハへの拡散速度が遅く,また,金属汚染が発生した場合でも半導体回路の機能への影響が小さい。また,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムは安全性が高く,人体および環境への影響面にも優れる。」と記載される格別の効果を奏するものと認められる。
すなわち,本件発明1は,相違点1に係る構成を備えることによって,「調製後も粘着剤組成物に含まれる金属錯体の半導体ウエハへの拡散を防止することができ,金属錯体による半導体ウエハの金属汚染を防止し得る。」及び「これらの金属錯体は,半導体ウエハへの拡散速度が遅く,また,金属汚染が発生した場合でも半導体回路の機能への影響が小さい。また,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムは安全性が高く,人体および環境への影響面にも優れる」という課題を解決するものと認められる。

エ してみれば,本件発明1が解決しようとする課題と,先願発明の「ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できるダイシングテープ及びそのダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法を提供すること」という課題は異なるといえる。

オ そうすると,先願発明において,「そのほか,架橋剤として,ポリイソシアネート以外の架橋剤を併用することができ」との発明特定事項に基づいて,ポリイソシアネート以外の架橋剤を併用した場合に,「例えば,エポキシ系架橋剤,アジリジン系架橋剤,メラミン樹脂系架橋剤,尿素樹脂系架橋剤,酸無水化合物系架橋剤,ポリアミン系架橋剤,カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等から適宜選択して用いることができ,また,有機金属化合物も好ましい」と例示される材料の中から,本件発明1で特定する,「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」の「ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体」であるものを選択して,上記相違点1について,本件発明1の構成とすることは,課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって新たな効果を奏するものではないもの)であるということはできない。
したがって,他の相違点については検討するまでもなく,本件発明1は,先願発明と同一ではない。

特許異議申立人 中川 賢治 は,「(4-3)すなわち,先願1の出願当初明細書等([0014]-[0027],[0030]-[0034])には,ダイシングテープ用基材樹脂フィルムの一方の面に設けられる粘着剤層を構成する粘着剤が記載されており,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されて構成されている。そして,当該アクリル重合体は,架橋剤のポリイソシアネートとウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオールと反応させるとともに,架橋剤で架橋させて質量平均分子量を高めるために,主鎖に対して,水酸基が結合されているものである。また,当該粘着剤中に,ウレタン化触媒として作用する,有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートとしての有機金属化合物(それぞれ,TC-401,ZC-150など)を含有させることが記載されている。」と主張するので,以下,検討する。
甲第1号証には,「放射線硬化性粘着剤層中に,有機金属化合物を含有させることが好ましい。特に有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートはそれ自身が架橋剤として作用すると共に,エステル化触媒,およびウレタン化触媒として作用し,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込み,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐのに効果的である。」(【0030】)と記載されている。
しかしながら,当該記載は,放射線硬化性粘着剤層中に含有させた,有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートが,架橋剤として作用すると共に,エステル化触媒,およびウレタン化触媒として作用し,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込み,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐのに効果的であることを説明するものであって,「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」の「ウレタン化反応の触媒」として,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を用いることで,「調製後も粘着剤組成物に含まれる金属錯体の半導体ウエハへの拡散を防止することができ,金属錯体による半導体ウエハの金属汚染を防止し得る。」及び「これらの金属錯体は,半導体ウエハへの拡散速度が遅く,また,金属汚染が発生した場合でも半導体回路の機能への影響が小さい。また,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムは安全性が高く,人体および環境への影響面にも優れる」という課題を解決しようとするものではないから,特許異議申立人 中川 賢治 が主張する箇所の先願明細書等の記載を参酌しても,先願発明の開示によって後願発明の技術的思想が開示されていると認めることはできない。
したがって,特許異議申立人 中川 賢治 の主張は採用することはできない。

以上のとおりであるから,本件発明1が,先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は,いずれも,請求項1を引用する発明であって,本件発明1と同一の構成を備えるものであるから,本件発明1と同じ理由により,先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

7 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-18 
出願番号 特願2012-209469(P2012-209469)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮久保 博幸  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 辻本 泰隆
加藤 浩一
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6460615号(P6460615)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物および該粘着剤組成物を用いた粘着シート  
代理人 籾井 孝文  

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