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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61H
管理番号 1356388
審判番号 不服2018-9508  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-10 
確定日 2019-11-12 
事件の表示 特願2016-137127「美容器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月13日出願公開、特開2016-179264,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年11月16日に出願した特願2011-250916号の一部を平成28年7月11日に新たな特許出願としたものであって,以降の手続は次のとおりである。
平成28年 9月21日 :手続補正書の提出
平成29年 6月29日付け:拒絶理由通知
平成29年11月 1日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 4月 3日付け:拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成30年 7月10日 :審判請求
令和 1年 5月30日付け:拒絶理由通知
令和 1年 8月 5日 :意見書,手続補正書の提出(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は,以下の引用文献A及びBに記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献A 特開2011-15874号公報
引用文献B 特開2000-24065号公報

第3 当審拒絶理由の概要
令和1年5月30日付けで当審が通知した拒絶理由は,概ね次のとおりのものである。
本願発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2乃至5に記載された周知の技術に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 韓国意匠第30-0408623号公報
引用文献2 米国特許出願公開第2006/0276732号明細書
引用文献3 「クロワッサン」,35巻,17号,26?27ページ
引用文献4 意匠登録第1424182号公報
引用文献5 特開2000-24065号公報 (上記引用文献B)

第4 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「ハンドルの先端側に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,
前記一対のボールは,非貫通状態で前記支持軸に支持されており,
前記一対のボールにおける前記支持軸は,前記ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出しており,
一対の前記支持軸の軸線の開き角度は,50?110度であり,
前記一対のボールの外周面間の間隔は,8?25mmであることを特徴とする美容器。」

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には,図面とともに,以下の事項が記載されている(日本語訳は当審が付与したものである。)。

(意匠の対象になる物品
マッサージ器
意匠の説明
1.材質は合成樹脂材である。
2.本願意匠の上部に形成されている1つの円形体は,透明体で形成されており,内部が見えるようにデザインしたものである。
意匠創作内容の要点
本願マッサージ器は,人体の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐすマッサージ器であって,安定感と立体感を強調し,新しい美感を生じさせるようにしたことを創作内容の要点とする。)

(2)特許図面が技術思想である発明を理解するための模式図であり正確な寸法精度で描かれているとは限らないのとは異なり,韓国のデザイン保護法では,デザイン登録出願(第37条)において「デザインの対象になる物品」を記載した図面を添付しなければならないことを要件とし,登録デザインの保護範囲(第93条)が図面等に表現されたデザインによって決められるとしている。そして,同国のデザイン保護法施行規則において,「図面は(略),登録を受けようとするデザインの全体的な形態を明確に表現しなければならない」(第35条)とされている。そうすると,韓国意匠公報の図面は,デザイン登録を受けようとする物品の形態が理解できる程度の正確さで表現されていると解するのが妥当である。ここで,引用文献1の正面図は正投影法で作成されたものであることを踏まえると,物品の形態のうち寸法については,物品の形態と比べて縦横に等しく拡縮されたものであり,角度については物品の形態と等しいものであることは明らかである。
そうすると,引用文献1の図面のうち正面図からは,該マッサージ器の構成部位につき,以下の事項が認められる。

正面図

ア マッサージ器は,正面視で略Y字形状を呈しており,正面図上下方向に延びる部分(以下,「ハンドル」という。),及びハンドルの上部から正面図右上及び左上方向に延びる,左右対称な二股状の部分を有し,当該二股状の部分に2つの円形体が位置する。
イ 上記二股状の部分は,正面図右上及び左上方向を向く軸線(以下,「ボールの軸線」という。)に沿って一定の長さ(左右の長さはおおむね同じである。)の軸(以下,「円形体の支持軸」という。)を有しており,左右の各々の軸において,ハンドル側と先端との間には,ボールの軸線に垂直な方向の幅が狭い凹状の部分を有している。また,該凹状の部分は,円形体の支持軸のうち,円形体が位置する部分に設けられている。
ウ 円形体は正面視略円形(ただし,ボールの軸線方向の両端が部分的に切り欠かれている。)を呈しており,ボールの軸線は,当該正面視略円の中心を通る。
エ 2つのボールの軸線はハンドルの中心線において交差し,2つのボールの軸線のなす角度は正面図上で80°程度であり,下記の(3)の左側面図に図示されるボール軸線の前傾を考慮しても,2つのボールの軸線のなす角度は70?80°程度である。
オ 2つの円形体は,正面視で相互に一定の間隔をおいて位置している。

(3)引用文献1の図面のうち,左側面図からは,当該マッサージ器の構成につき,以下の事項が認められる。

左側面図

円形体は側面視略円形を呈している。

(4)上記(2)のア及びイから,円形体の支持軸は,ハンドルの上部から正面図右上及び左上方向に延びていることから,ハンドルの下方から上方に向かう方向において前方に突出している,と表現することができる。

(5)2つの円形体は,ハンドルの先端部において,相互間隔をおいて,それぞれ円形体の軸線たる一軸線を中心に支持されているものと認められる。

(6)ハンドルの一端に,一対の略球形の回転体をV字状に軸支したマッサージ具を用い,当該回転体を肌にあてがって押し引きを繰り返すことで肌を摘まみ上げるマッサージを行うことは,本願の原出願の出願日前に周知(必要であれば,引用文献2?4参照。)であり,また,引用文献1記載のマッサージ器の円形体が軸に対して回転しないものとすると,単に指圧と同様の作用効果を生じるのみで,「人体の部位を引っ張り,押して筋肉をほぐす」という作用効果は生じないことから,引用文献1記載のマッサージ器における円形体は,その支持軸に回転可能に支持されているものと解される。

(7)上記(1)の「材質は合成樹脂材である。」及び「2つの円形体は,透明体で形成されており,内部が見えるようにデザインしたものである。」との記載に照らせば,2つの円形体は円形体の支持軸とは別体の部材であって,透明な合成樹脂材で形成されたものであると認められる。また,引用文献1の正面図及び左側面図において透明な円形体の内部における円形体の支持軸の構造を見ることができるところ,これらの図の図示内容を総合すると,円形体は,その軸線において円形体の支持軸により貫通されるように構成されているものと認められる。

2 引用発明
以上によれば,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハンドルの先端部に一対の円形体を,相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において,前記一対の円形体は,貫通状態で前記支持軸に支持されており,前記一対の円形体における前記支持軸は,前記ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出しており,一対の前記支持軸のなす角度が70?80°程度であり,前記一対の円形体の外周面間の間隔が,一定の間隔であるマッサージ器。」

第6 対比
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「円形体」はその構成,機能からみて本願発明の「ボール」に,以下同様に,「マッサージ器」は「美容器」に,「一対の前記支持軸のなす角度が70?80°程度である」は「一対の前記支持軸の軸線の開き角度は,50?110度である」にそれぞれ相当する。
また,引用発明の「一対の円形体の外周面間の間隔が,一定の間隔である」ことと本願発明の「一対のボールの外周面間の間隔は,8?25mmである」こととは,「一対のボールの外周面間の間隔は,所定の間隔である」限りにおいて共通する。
そうすると,本願発明と引用発明との一致点,相違点は次のとおりである。
【一致点】
「ハンドルの先端側に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,
前記一対のボールは,前記支持軸に支持されており,
前記一対のボールにおける前記支持軸は,前記ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出しており,
一対の前記支持軸の軸線の開き角度は,50?110度であり,
前記一対のボールの外周面間の間隔は,所定の間隔である美容器。」である点。
【相違点1】
一対のボールの支持軸への支持が,本願発明は「非貫通状態で」なされるのに対し,引用発明は「貫通状態で」なされる点。
【相違点2】
一対のボールの外周面間の間隔である「所定の間隔」が,本願発明は「8?25mm」であるのに対し,引用発明はそのような構成を有するか明らかでない点。

第7 判断
1 上記相違点の判断枠組について
本願発明は,肌に接触する部分をボールで構成することにより,ボールが肌に対して局部接触し,ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに,肌に対するボールの動きをスムーズにでき,移動方向の自由度も高い(本願明細書の【0009】,【0025】を参照。)ものである。
また,本願発明は,「一対のボールの支持軸の軸線の開き角度を50?110度」とするとともに,「一対のボールの外周面間の間隔を8?25mm」とすることにより,所望とする肌20部位に適切な押圧力を作用させることができると同時に,肌20の摘み上げを強過ぎず,弱過ぎることなく心地よく行うことができる(本願明細書の【0026】を参照。)ものである。
さらに,本願発明は,「一対のボールにおける支持軸は,ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出して」いることで,肘を上げたり,手首を曲げることで,ボール支持軸15の軸線yを肌20面に対して直角に近くなるように維持しながら操作を継続することができることは技術的にみて明らかであることから,肌20に対してボール17を有効に押圧してマッサージ作用を効率よく発現できる(本願明細書の【0024】を参照。)ものである。
ここで,相違点1に係る本願発明の構成は,「一対のボールは,非貫通状態で前記支持軸に支持されて」いるというものである。図3,4及び8から推察するに,本願発明に係る美容器を,2つの回転体の支持軸が肌に対して直角になるように押し当てると,回転体の肌に接触する部分には支持軸付近が含まれることがわかる。この場合,支持軸が貫通状態で回転体を支持していると,支持軸の部分が肌に接触することにより,回転体はスムーズな回転が得られないと考えられる。すなわち,非貫通状体の支持軸により回転可能に支持されていることが,回転体のスムーズな回転に寄与していることがうかがわれる。
そうすると,本件発明に係る美容器の使用状態において,相違点1に係る構成は,支持軸が肌面に直接接触しないようにするための構成であるということができるところ,回転体のどの部分が肌面に接触するかに関係するという点では,「一対の前記支持軸の軸線の開き角度は,50?110度」である構成,相違点2に係る「一対のボールの外周面間の間隔は,8?25mm」であるという構成,及び「一対のボールにおける支持軸は,ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出して」いるという構成も同様である。そうである以上,上記各構成は,それぞれ別個独立にとらえられるべきものではなく,相互に関連性を有するものとして理解・把握した上で,判断するのが相当であり,例えば,複数の公知文献にそれぞれの構成が部分的に開示されているものがあったとしても,相違点1及び2に係る構成が関連づけられた,全体構成については,それらの公知文献の記載事項から当業者が容易に想到し得たものとすることは相当でない。

2 相違点1及び2の検討
以上の点を踏まえて検討すると,一般に,一対のボールをその支持軸の軸線を中心に回転させることでマッサージを行うマッサージ器において,一対のボールを「非貫通状態で」支持軸に支持することは,引用文献2(図2,5の記載参照。),引用文献3(26ページ下部右側の写真参照。),引用文献4(意匠に係る物品の説明,正面図,側面図の記載参照。),引用文献5(段落0006,図2の記載参照。)に記載されているように,本願の原出願の出願前に周知であるとはいえるが,引用文献2?5のいずれの文献にも,一対のボールを非貫通状態で支持軸に支持するものにおいて,一対のボール17の開き角度が50?110度に設定され,かつ,ボール17の外周面間の間隔が8?25mmに設定される点についての記載はなく,また,これら文献の他に,本願の原出願の出願前にこの点が公知であったとする証拠も見当たらない。
そして,本願発明の「一対のボールは,非貫通状態で前記支持軸に支持されており,前記一対のボールにおける前記支持軸は,前記ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出しており,前記一対の前記支持軸の軸線の開き角度は,50?110度であり,前記一対のボールの外周面間の間隔は,8?25mmである」という構成により生じる,美容器の使用状態において支持軸が肌面に直接接触せず,肌の摘み上げを強過ぎず弱過ぎることなく心地よく行うことができるという効果は,引用発明及び引用文献2乃至5に記載された周知の技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものではない。
したがって,本願発明は,当業者であっても引用発明及び引用文献2?5に記載された周知の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第8 原査定についての判断
令和元年8月5日付けの補正により,補正後の請求項1は,「前記一対のボールの外周面間の間隔は,8?25mmである」(上記相違点2に係る構成)という技術的事項を有するものとなった。そして,上記第7の1で述べたとおり,相違点2に係る構成は,相違点1に係る構成,「一対の前記支持軸の軸線の開き角度は,50?110度」である構成,「一対のボールにおける支持軸は,ハンドルの基端から先端に向かう方向において前方に突出して」いる構成とともに相互に関連性を有するものとして理解・把握した上で判断するのが相当であるところ,原査定の拒絶に理由に引用された引用文献A及びBはこれらの構成を全て関連づけて開示するものではない。
よって,本願発明は,当業者であっても,原査定における引用文献A及びBに基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-23 
出願番号 特願2016-137127(P2016-137127)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 寺川 ゆりか
井上 哲男
発明の名称 美容器  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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