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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1356487
審判番号 不服2017-16305  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-02 
確定日 2019-10-10 
事件の表示 特願2016-130656「ゲル状組成物および吸水防止剤」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 8320〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1.手続の経緯
本願は、平成25年5月30日に出願された特願2013-114645号の一部を、平成28年6月30日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 6月30日 :特許出願
平成29年 4月20日付け:拒絶理由の通知
平成29年 6月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 8月 8日付け:拒絶査定
平成29年11月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 4月 9日付け:拒絶理由の通知・指令書
平成30年 6月 8日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 9月 3日付け:拒絶理由の通知(最後)
平成30年11月 2日 :意見書の提出
平成31年 2月20日付け:拒絶理由の通知(最後)
平成31年 4月17日 :意見書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。まとめて、「本願発明」ということもある。)は、平成30年6月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
(A)下記式(1)で示されるオルガノアルコキシシランおよび/または該オルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物 100質量部
R^(1)_(a)Si(OR^(2))_(4-a) (1)
(式中、R^(1)は、互いに独立に、炭素数1?20の1価炭化水素基であり、R^(2)は、互いに独立に、炭素数1?8の1価炭化水素基であり、aは1、2または3である)
(B)下記式(2)で示されるジカルボン酸アルミニウム 0.3?20質量部
(R^(3)COO)_(2)Al(OH) (2)
(式中、R^(3)は、互いに独立に、炭素数1?25の1価炭化水素基である)、及び
(C)炭素数6?24の脂肪酸 0.3?20質量部
を含有する吸水防止剤
但し、(A)下記式(1)で示されるオルガノアルコキシシランおよび/または該オルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物 100質量部
R^(1)_(a)Si(OR^(2))_(4-a) (1)
(式中、R^(1)は、互いに独立に、炭素数1?20の1価炭化水素基であり、R^(2)は、互いに独立に、炭素数1?8の1価炭化水素基であり、aは1、2または^(3)である)
(B)下記式(2)で示されるジカルボン酸アルミニウム 0.3?20質量部
(R^(3)COO)_(2)Al(OH) (2)
(式中、R^(3)は、互いに独立に、炭素数1?25の1価炭化水素基である)、及び
(C)炭素数6?24の脂肪酸 0.3?20質量部
を含有し、チタニウムアルコキシドおよび有機チタネートを含有しない吸水防止剤を除く。」

第3 当審拒絶理由について
当審が平成31年2月20日付けで通知した拒絶理由(理由I(新規事項):以下、「理由1」という。)、及び当審が平成30年9月3日付けで通知した拒絶理由(理由I(サポート要件):以下、「理由2」という。)は、概略、以下のとおりである。
理由1(新規事項)
平成30年6月8日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
上記手続補正により、補正前の本願発明1に当たる「(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有する吸水防止剤」において、「但し、(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有し、チタニウムアルコキシドおよび有機チタネートを含有しない吸水防止剤を除く。」ことが特定されたところ、当該除外規定は、実質的に本願発明1の吸水防止剤が、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有することを特定したものと理解される。
しかし、上記手続補正は、本願の原出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項との関係において、本願発明1に新たな技術的事項を導入するものであるから、上記手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。
本願発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本願発明2?7についても、本願発明1と同様のことがいえる。

理由2(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
本願の原出願の出願時における技術常識を参酌しても、本願発明1、すなわち上記(A)?(C)に加え、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有する吸水防止剤の発明が、上記課題を解決し得ることを当業者が認識できるように、本願明細書に実質的に記載されていた事項であるとは認められない。
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
本願発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本願発明2?6についても、本願発明1と同様のことがいえる。

第4 当審の判断
1.理由1(新規事項)について
(1)本願発明1について
ア 本願発明1の構成成分について
平成30年6月8日付け手続補正により、補正前の本願発明1に当たる「(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有する吸水防止剤」において、「但し、(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有し、チタニウムアルコキシドおよび有機チタネートを含有しない吸水防止剤を除く。」ことが特定されたところ、当該除外規定は、実質的に本願発明1の吸水防止剤が、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有することを特定したものと理解される。
そこで、「(A)・・・(B)・・・(C)・・・」に加え、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有する吸水防止剤の発明が、本願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かについて検討する。

イ 本願明細書の記載について
本願明細書の[0016]?[0036]には、(A)?(D)成分について個別具体的に記載されているが、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」については記載されていない。
また、本願明細書の[0046]?[0060]の「実施例1」?「実施例14」の記載、[0061]?[0066]の「比較例1」?[比較例6」の記載及び[0072]?[0075]の[表1]?[表4]に記載された実施例1?14及び比較例1?6の組成を確認しても、いずれにも「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」は配合されていない。
さらに、[0021]には、「本発明の(A)成分として、上記オルガノアルコキシシランが有するアルコキシ基の一部を加水分解させ、分子間で縮合反応させて得られたオリゴマーやポリマー(以下、部分加水分解縮合物という)を使用してもよい。・・・オルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、酸触媒またはアルカリ触媒の存在下でオルガノアルコキシシランを加水分解及び縮合反応させて合成することができる。」と記載されているが、アルコキシシランの部分加水分解縮合物を合成するために「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を用いることは記載されていないし、本願の原出願の出願時の技術常識に照らしても、アルコキシシランの部分加水分解縮合物を合成するために「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を用い、さらに使用した触媒成分を本願発明1の吸水防止剤にそのまま含有させることが、上記の記載から自明に導き出される事項であるとはいえない。
加えて、[0037]には、「本発明のゲル状組成物は、さらにその他の添加剤を含有することができる。該添加剤としては、吸水防止剤に使用される公知の添加剤を使用することができ、例えば、防カビ剤、防藻剤、紫外線吸収剤、顔料、増粘剤、溶剤、ワックス、及び上述したアルミニウム石鹸以外の金属石けんなどが挙げられる。」と記載されているが、例示されている「防カビ剤、防藻剤、紫外線吸収剤、顔料、増粘剤、溶剤、ワックス、及び上述したアルミニウム石鹸以外の金属石けん」は、いずれも「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」には当たらないものであり、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を「その他の添加剤」として添加することは、具体的には記載されていない。

ウ 公知の添加剤について
「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」は、シラノール基の縮合反応を促進する触媒として、本願の原出願の出願日前に公知(もし必要であれば、特開2008-88018号公報の[0018]、特開平9-278562号公報の[0040]、特開平2-40262号公報の第9?10頁等を参照。)の化合物であることに鑑みて、念のため、当該化合物が、本願明細書の[0037]に記載された「吸水防止剤に添加される公知の添加剤」に相当し、当該化合物を含有させることが当初明細書等の上記の記載から自明に導き出せる事項といえるか、検討する。
本願発明は、[0011]の記載等から見て、「多孔質材料表面に優れた吸水防止性を与えることができる吸水防止剤を提供すること」を課題とするものであり、その解決手段について、[0012]には、「多孔質材料表面に塗布すると、ゲル状態での粘度を保ったままオルガノアルコキシシランが徐々に多孔質材料の細孔に吸収される。さらに、傾斜面や垂直面に塗布する場合において、ゲル状組成物が液だれせずオルガノアルコキシシランが流出しないため、多孔質材料の表面から深くまでオルガノアルコキシシランを含浸することができることを見出した。」と記載されているから、オルガノアルコキシシランの迅速な縮合反応は意図されていない。むしろ、[0014]に「有効成分(オルガノアルコキシシラン)が基材表面から深く浸透することができ、外観を損ねることなく多孔質材料表面に吸水防止性(撥水性)を付与することができる」と記載されていること等を参酌すると、アルコキシシランを縮合反応させることなく、多孔質材料の細孔に含浸させることが課題解決に有効であることが当初明細書等には記載されていたといえる。
そうすると、[0037]における「吸水防止剤に添加される公知の添加剤」という記載が、シラノール基の縮合反応を促進する触媒、すなわち「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を意味するとはいえないから、本願の原出願の出願時における技術常識を参酌しても、当該化合物を含有させることは当初明細書等から自明に導き出せる事項とはいえない。

エ 請求人の主張について(その1)
請求人は、平成30年11月2日に提出した意見書において、「親出願に記載されている発明において、触媒は考慮の外であります。・・・親出願の明細書においてチタニウムアルコキシドおよび有機チタネートは考慮の外であり、これを含有するかしないかはどちらでもよいことであり、従って含有しない場合も、そうでない場合も明細書の記載には含意されていたことになります。引用文献との関係で、便宜上、含有しない場合と、含有しない場合を除いた場合に分けたにすぎません。」と主張している。
また、請求人は、平成31年4月17日に提出した意見書において、「引用文献1の発明においては、特定の触媒(チタニウムアルコキシドまたは有機チタネート、以下単に触媒と言う)が必須であります・・・。親出願の当初の明細書及び特許請求の範囲は上記触媒を記載しておりません。しかし、親出願の請求項1の発明と引用文献1の発明とが同一であるとの認定であったので、親出願の発明を(ア)触媒を含まない態様と(イ)前記(ア)以外の態様とに分けて議論することとしました。・・・親出願の審査過程において、その発明が引用文献1に記載されているとの認定であるので、上記(イ)の態様が親出願の当初請求項1の範囲に包含されている、との認定であったはずです。そして、親出願の当初請求項1は明細書で十分にサポートされています。一旦引例に記載されているとされた発明が、後に本願明細書に記載されていないとされるのでは、出願人が特許を得る機会を不当に奪うものです。」と主張している。
しかし、「親出願の明細書において・・・考慮の外」にあった成分が、直ちに本願発明の吸水防止剤に含有されていたことになるものではなく、実際、上記第4 1.(1)イ「本願明細書の記載について」?同ウ「公知の添加剤について」に記載したとおり、本願明細書には、吸水防止剤に「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を添加することは記載されていない。また、後記する第4 2.「理由2(サポート要件)について」に記載したとおり、本願発明1、すなわち上記(A)?(C)に加え、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有する吸水防止剤の発明が、本願発明の課題を解決し得ることを当業者が認識できるように、本願明細書に実質的に記載されていたともいえない。さらに、請求人は、補正の根拠となる具体的な記載事項を明らかにしていない。
よって、請求人の「含有しない場合も、そうでない場合も明細書の記載には含意されていた」及び「親出願の当初請求項1は明細書で十分にサポートされています」との主張は具体的な根拠を欠くものであり、採用することができない。

なお、「親出願の審査過程において、その発明が引用文献1に記載されているとの認定」がされたのは、親出願の請求項の記載に基づいて引用発明との対比を行った結果、発明特定事項に相違する点が認められなかったためであるから、審査官の認定、判断に誤りはない。請求人の主張は、親出願の請求項の記載に基づいて認定される発明の範囲が、親出願の明細書に実質的に記載されているといえる範囲を超えて広い(親出願の当初請求項1が明細書で十分にサポートされていない)という事情を考慮していないものであり、「一旦引例に記載されているとされた発明が、後に本願明細書に記載されていないとされ」たのも、請求項の記載と明細書に実質的に記載されているといえる範囲の違いが原因であるから、審査官の判断は「出願人が特許を得る機会を不当に奪うもの」には当たらない。
念のため、引用文献(原査定の引用文献1である米国特許出願公開第2002/0010228号明細書)との関係について、本願の原出願(特願2013-114645号)の審査経緯を改めて確認すると、原出願の請求項1において「チタニウムアルコキシド及び有機チタネートを含有しない」とした補正(平成28年6月30日提出)について、請求人は平成28年8月12日に提出した原出願の審判請求書の手続補正書(方式)の「1.」において、「引用文献1の段落0017記載の触媒の含有を排除するもの」であると釈明した上で、同「3.」において、「本願発明では、シラノール末端シロキサンとアルコキシ官能性シロキサンとの架橋によってガラス状物質を生じさせるものではありません。・・・
本願発明の組成物は、多孔性材料の表面から深くまで浸透することが出来、しかし、引用文献1記載のように船底のような平坦な表面でガラスマトリックスを形成できるものではありません。(A)のアルコキシ基は反応されているのではなくて、そのまま存在しています。・・・
本願発明の組成物は架橋を起こすものでないことは上述の通りですが、これをより明瞭に表現するために、引用文献1記載の架橋触媒、チタニウムアルコキシド及び有機チタネート、を組成物が含有しない旨を明文で記載しました。」と釈明しているから、「チタニウムアルコキシド及び有機チタネートを含有しない」ことが原出願の請求項1において明文で記載されるか否かに関わらず、本願の原出願の当初明細書等においては、(A)成分のオルガノアルコキシシランのアルコキシ基を架橋させること(架橋を促進する触媒を含有させること)は特段意図されていなかったと解される。
そして、分割出願である本願明細書の記載は、原出願の明細書から特段変更されていないから、本願明細書においても、(A)成分のオルガノアルコキシシランのアルコキシ基を架橋させること(架橋を促進する触媒を含有させること)は特段意図されていないと解される。
そうすると、単に「引用文献との関係で、便宜上、含有しない場合と、含有しない場合を除いた場合に分けたにすぎ」ないという請求人の主張は、本願の原出願の当初明細書等及び本願明細書の記載に基づくものとはいえず、採用することができない。

オ 請求人の主張について(その2)
請求人は、平成30年11月2日に提出した意見書において、「本分割出願の発明において、チタニウムアルコキシドおよび有機チタネートの少なくとも一方を含有することが効果を発揮する所以ではありません。当該吸水防止剤が成分(A)、(B)および(C)を含有することによって、当該吸水防止剤を多孔性材料に塗布すると、液だれが発生せずにゲル状態での粘度を保ったまま留まり、成分(A)が徐々に多孔性材料の細孔に吸収されて吸水防止効果を発揮します。かかる効果が得られるのがチタニウムアルコキシドまたは有機チタネートによる、との主張を本出願人はしておりません。」と主張している。
しかし、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」は、アルコキシシランの加水分解縮合を促進する触媒として機能する化合物であるから、本願発明1の(A)、(B)及び(C)を含有する吸水防止剤に、さらに上記化合物が添加された場合は、成分(A)アルコキシシランの加水分解縮合が促進され、このため、「ゲル状態での粘度を保ったまま留まる」ことや、「成分(A)が徐々に多孔性材料の細孔に吸収」されることが困難になると解される。そうすると、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」は、本願発明が所望の効果を発揮する機序に負の影響を及ぼすものであるから、(A)、(B)及び(C)を含有すれば必ず所望の効果が得られるということはできない。
よって、単に「(A)、(B)および(C)を含有することによって・・・吸水防止効果を発揮」する旨の請求人の主張は採用することができない。

また、請求人は、平成31年4月17日に提出した意見書において、「触媒が入っていたなら直ちに加水分解縮合が起きる訳ではありません。温度条件、時間等によって反応の進捗は大きく左右されます。加水分解縮合が短時間で起きないようにすることは、当業者には容易です。本願明細書記載のように「ゲル状態での粘度を保ったまま留まる」ことや、「成分(A)が徐々に多孔性材料の細孔に吸収される」ことが意図される場合に、加水分解縮合を避けることを当然に当業者は行います。・・・なお、効果が発揮されるかどうかは、補正における新規事項導入の問題ではないと考えます。」と主張している。
しかし、上記第4 1.(1)イ「本願明細書の記載について」?同ウ「公知の添加剤について」に記載したとおり、本願明細書には、吸水防止剤に「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を添加することは、具体的に記載されていない。また、オルガノアルコキシシランを含有する吸水防止剤に、アルコキシシランの加水分解縮合を促進する触媒として機能する化合物である「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を単に含有させたのでは、「加水分解縮合が短時間で起き」るため、後記する第4 2.「理由2(サポート要件)について」に記載したような、本願発明の課題とする「塗布時に液だれを生じず、多孔質材料表面から有効成分(オルガノアルコキシシラン)を深く浸透させることができ、また外観を損なうことなく吸水防止性を付与することができる吸水防止剤を提供すること」を解決できない蓋然性が高いところ、「加水分解縮合が短時間で起きないようにする」ために必要となる具体的な技術的事項については、本願明細書には記載も示唆もされておらず、また、実際に「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を含有し、なおかつ「ゲル状態での粘度を保ったまま留まる」ことや、「成分(A)が徐々に多孔性材料の細孔に吸収される」という性質を備え、それにより吸水防止効果を発揮し、上記課題を解決し得る吸水防止剤を実際に調製することができることを裏付ける実施例も記載されていない。さらに、請求人は、「加水分解縮合が短時間で起きないようにすることは、当業者には容易です」と主張するが、オルガノアルコキシシランを含有する吸水防止剤の技術分野において、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を含有させた上で、なおかつ「加水分解縮合が短時間で起きないようにすること」により上記課題を解決できることが、本願明細書に具体的な記載がなくとも、本願の原出願の出願時における技術常識に照らして明らかであるといえるに足る具体的な根拠を請求人は示していない。さらに、上記のとおり、オルガノアルコキシシランを含有する吸水防止剤に単に「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を含有させるだけでは所望の効果を発揮することができないのが通常のことと解されることから、それに反して「効果が発揮される」ことが本願明細書に記載されていたかどうかは、本願明細書の「補正における新規事項導入の問題」に関係することといえる。
よって、請求人の主張は本願明細書の記載に基づくものとはいえず、採用することができない。

カ 本願発明1についてのまとめ
よって、上記手続補正による本願発明1の補正は、本願の当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。

(2)理由1(新規事項)についてのまとめ
以上のとおり、本願発明1についての上記手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではなく、当審が通知した理由1(新規事項)の拒絶理由は解消していない。よって、本願発明2?7について検討するまでもなく、本願は理由1(新規事項)により拒絶すべきものである。

2.理由2(サポート要件)について
(1)本願発明1について
ア 本願発明1の構成成分について
本願発明1は、上記第2「本願発明について」に記載したとおりであり、「(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有する吸水防止剤」において、「但し、(A)・・・(B)・・・(C)・・・を含有し、チタニウムアルコキシドおよび有機チタネートを含有しない吸水防止剤を除く。」ことが特定されていることから、本願発明1は実質的に、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有するものであると理解される。

イ 本願発明の課題について
本願明細書の[0011]によると、本願発明は、「多孔質材料表面に優れた吸水防止性を与えることができる吸水防止剤を提供すること」、特には、「オルガノアルコキシシランを含有する吸水防止剤であって、塗布時に液だれを生じず、多孔質材料表面から有効成分(オルガノアルコキシシラン)を深く浸透させることができ、また外観を損なうことなく吸水防止性を付与することができる吸水防止剤を提供すること」を目的とするものである。

ウ 本願明細書に記載された具体例について
本願明細書の[0046]?[0060]には、「実施例1」?「実施例14」として、それぞれ所定の成分を混合し、ゲル状組成物を得た旨が記載されているが、いずれの実施例においても「チタニウムアルコキシド」も「有機チタネート」も配合されていない。また、[0061]?[0066]には、「比較例1」?[比較例6」が記載されているが、いずれにも「チタニウムアルコキシド」も「有機チタネート」も配合されていない。さらに、[0072]?[0075]の[表1]?[表4]に記載された実施例1?14及び比較例1?6の組成を確認しても、いずれにも「チタニウムアルコキシド」も「有機チタネート」も配合されていない。
そうすると、(A)?(C)に加え、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有する組成物を用いた具体例は見当たらず、当該組成物を用いることにより上記課題を解決し得ることは、本願明細書の具体例の記載からは読み取れない。

エ 本願明細書に記載された課題解決手段について
本願明細書の[0012]には、「本発明者らは、ジカルボン酸アルミニウムと脂肪酸の併用が、オルガノアルコキシシランを良好にゲル化できることを見出した。また、ジカルボン酸アルミニウム、脂肪酸、及びオルガノアルコキシシランを含むゲル状組成物は、基材に塗布した後に基材表面でオルガノアルコキシシランがゲル状組成物から遊離することがなく、またゲル状組成物の粘度が低くなることもない。そのため、該ゲル状組成物を多孔質材料表面に塗布すると、ゲル状態での粘度を保ったままオルガノアルコキシシランが徐々に多孔質材料の細孔に吸収される。さらに、傾斜面や垂直面に塗布する場合において、ゲル状組成物が液だれせずオルガノアルコキシシランが流出しないため、多孔質材料の表面から深くまでオルガノアルコキシシランを含浸することができることを見出した。」と記載されているが、上記段落には、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」については何ら記載されていない。
また、本願明細書の[0016]?[0036]には、(A)?(D)成分について個別具体的に記載されているが、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」については記載されていない。
さらに、本願明細書の[0037]には、「その他の添加剤」について記載され、[0038]には、「炭化水素化合物、パラフィン類などを添加してもよい」ことが記載されているが、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を添加剤として添加することは、具体的には記載されていない。
そして、本願明細書の他の段落の記載を精査しても、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」についての記載は見出せない。
加えて、本願の原出願の出願日前に、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」が、上記[0012]段落等に記載された成分のゲル化機構や、上記課題の解決に有用な添加剤であることが周知であったとは認められないし、本願の原出願の出願日前に、本願発明1の(A)?(C)成分に添加する添加剤として、「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」が周知の添加剤であったとも認められない。
そうすると、本願の原出願の出願時における技術常識を参酌しても、本願発明1、すなわち上記(A)?(C)に加え、「チタニウムアルコキシド」及び「有機チタネート」の少なくとも一方を含有する吸水防止剤の発明が、上記課題を解決し得ることを当業者が認識できるように、本願明細書に実質的に記載されていた事項であるとは認められない。

オ 請求人の主張について
請求人は、平成30年6月8日に提出した意見書において、「本願請求項1において、特願2013-114645号(当審注:本願の原出願である。)の請求項4の吸水防止剤を排除する補正をいたしました。」と主張しているが、上記第4 2.(1)ウ「本願明細書に記載された具体例について」?同エ「本願明細書に記載された課題解決手段について」において検討したとおり、上記所定の吸水防止剤を「排除する補正」を行った後の「本件発明1」が、上記課題を解決し得るものとして本願明細書に実質的に記載された範囲内にあることを、当業者が理解できるものではない。
また、上記第4 1.(1)オ「請求人の主張について(その2)」に記載したとおり、オルガノアルコキシシランを含有する吸水防止剤に、アルコキシシランの加水分解縮合を促進する触媒として機能する化合物である「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を単に含有させたのでは、「加水分解縮合が短時間で起き」るため、上記課題を解決できない蓋然性が高いところ、「加水分解縮合が短時間で起きないようにする」ために必要となる具体的な技術的事項については、本願明細書には記載も示唆もされておらず、また、実際に「チタニウムアルコキシド」及び/又は「有機チタネート」を含有し、なおかつ「ゲル状態での粘度を保ったまま留まる」ことや、「成分(A)が徐々に多孔性材料の細孔に吸収される」という性質を備え、それにより吸水防止効果を発揮し、上記課題を解決し得る吸水防止剤を実際に調製することができることを裏付ける実施例も記載されておらず、さらにそのような構成、性質を備え、上記課題を解決し得る吸水防止剤が、本願の原出願の出願時における技術常識に照らして本願明細書に記載されているに等しいということもできない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

カ 本願発明1についてのまとめ
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由2(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおり、本願発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではなく、当審が通知した理由2(サポート要件)の拒絶理由は解消していない。よって、本願発明2?7について検討するまでもなく、本願は理由2(サポート要件)により拒絶すべきものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではなく、かつ、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は上記の理由により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-17 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2016-130656(P2016-130656)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09K)
P 1 8・ 55- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 木村 敏康
天野 宏樹
発明の名称 ゲル状組成物および吸水防止剤  
代理人 加藤 由加里  
代理人 松井 光夫  
代理人 村上 博司  

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