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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1356553
審判番号 不服2018-8810  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-27 
確定日 2019-10-30 
事件の表示 特願2015-543470「チタン酸リチウムセルにおけるガス発生の低減」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月30日国際公開、WO2014/080039、平成27年12月14日国内公表、特表2015-535646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)11月26日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年11月26日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、平成29年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月28日付けで手続補正がされると共に意見書が提出されたが、平成30年2月19日付けで拒絶査定がなされ、同年6月27日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年8月9日付けで審判請求理由を補充する手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1ないし16に記載された発明は、平成29年12月28日付けでなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」ということがある。)は以下のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
チタン酸リチウムセル用電極を作製する方法であって、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズしているフッ素アクリルハイブリッドラテックスを電気化学セルの少なくとも1つの電極の作製に用いることを含む、方法。」

第3 原審の拒絶査定の概要
平成30年2月27日(起案日 同年2月19日)に通知された拒絶査定の内容は、少なくとも以下の概要のものを含む。

<理由1>
請求項1に記載の「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても明確に把握することができないので、請求項1に記載された発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件に適合せず、本出願は特許を受けることができない。
<理由2>
請求項1に記載の「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」について、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」とは何か明確に把握することができず、その製造方法や入手方法について把握することができないので、本出願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえず、特許法第36条第4項第1号の要件に適合せず、本出願は特許を受けることができない。
<理由3>
請求項1に記載の発明は、引用文献1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、本出願は特許を受けることができない。
引用文献1:特開2012-009268号公報

第4 当審の判断
上記原査定の拒絶の理由1?3について、これらを維持できるか否かについて、以下に検討する。

1.理由1について
(1)特許法第36条第6項第2号の規定(以下、「明確性要件」ということがある。)に適合するか否かの判断基準について
明確性要件の趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。(平成21年(行ケ)第10434号参照。)
以下では、この観点から、請求項1に記載の発明の明確性要件について検討する。

(2)本出願の特許請求の範囲と明細書及び図面の記載並びに技術常識
i)請求項1には、「チタン酸リチウムセル用電極を作製する方法であって、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズしているフッ素アクリルハイブリッドラテックスを電気化学セルの少なくとも1つの電極の作製に用いることを含む、方法。」と記載されており、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」は、「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とが「粒子中」で「ハイブリダイズ」して生成されるものといえる。
また、願書に添付した明細書で「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」を説明している記載をみると、「フッ素アクリルハイブリッドラテックスにおいては、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズしており、このような粒子が水溶液中に分散している。」(【0057】)と記載され、同明細書中には、他に「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」について説明する箇所を見いだせない。
また、【図1】?【図4】には、電極が水系コーティングで製造された場合には、非水系コーティングで製造された場合に比べて、セル中で生成するガスの体積を少なくできることが開示されるにとどまり、水系コーティングの組成成分である「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」について、明細書に記載された以上のことはみてとることはできない。
ii)すると、本願の特許請求の範囲、願書に添付した明細書及び図面(以下、「明細書等」という。)からは、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」とは、「フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズし」たもので、同「ハイブリダイズ」した「粒子が水溶液中に分散している」ものであると理解される。
iii)ここで、「フッ素ポリマー」及び「アクリレートポリマー」についても、明細書等にこれらについて説明する記載も示唆もないから、技術常識から当該用語の有する意味を一般的に解すれば、それぞれ、フッ素を含有するポリマー、アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー、といった程度の広範な内容のものとして理解せざるを得ない。
iv)また、「ハイブリダイズ」についても、明細書等に説明する記載も示唆もなく、この技術全体において汎用される用語とも言えないので、直ちにその意味を技術的に解することもできないから、技術常識としての当該用語の有する意味を確認すると、「ハイブリダイズ」(hybridize)、「ハイブリダイゼーション」(hybridization)は、遺伝子関連の意味を有することが多く、それ以外では使用例は多くない。
例えば、「ハイブリダイゼーション」は、「実験的に融合させた細胞から、生存能力のある雑種体細胞をつくり出すこと。雑種形成のこと。」(マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版、2001年5月31日改訂第3版第2刷発行、マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会、株式会社日刊工業新聞社)、「核酸のポリヌクレオチド鎖がその一次構造上相同性の高い別のポリヌクレオチド鎖との間で水素結合による相補的な塩基対をつくり二本鎖を形成すること」(理工学辞典、1996年3月28日初版1刷発行、東京理科大学理工学辞典編集委員会、株式会社日刊工業新聞社)と説明されており、本願明細書における「ハイブリダイズ」の意味としては解しがたい。
v)そこで、「ハイブリダイズ」(hybridize)の名詞又は形容詞形である「ハイブリッド」(hybrid)や、そこから派生する用語の意味をみてみると、例えば次のような記載がある。
○「hybrid」には「雑種、合いの子、ハイブリッド」「混成物、混成タイプのもの」との意味がある。(リーダーズ英和辞典 第2版第7刷、2002年1月、松田徳一郎、株式会社研究社)
○「ハイブリッド」には「雑種」「異種のものの混成物」、「ハイブリッド・カー」であれば「複数の動力源を利用して走行する自動車。ガソリンエンジンと電動機を組み合わせた自動車の類。」、「ハイブリッド・米」であれば「雑種強勢の性質を生かして作られた米」などの意味がある。(広辞苑 第五版第1刷、1998年11月11日、新村出、株式会社岩波書店)
○「ハイブリッド」には「雑種」、「異種のものを組みあわせたもの」との意味があり、「ハイブリッド-エンジン【hybrid engine】」「ハイブリッド-カー【hybrid car】」「ハイブリッド-まい【ハイブリッド米】」等の用例がある。(広辞苑第六版 株式会社岩波書店)
○「ハイブリッド」には「2種又はそれ以上の異なる種類の繊維材料(例えば、ガラスおよび炭素)で製造する組立物」、「ハイブリッド複合材料」であれば「2種以上の繊維、粒子、フレークなどを強化材とする複合材料」との意味がある。(JIS工業用語大辞典【第5版】、2001年3月30日、財団法人日本規格協会 編集・発行)、
○「ハイブリッド」は「異なるものを重ね合わせた雑種のこと。遺伝子の場合は異なる遺伝子をつないだ雑種混合遺伝子で、その産生タンパク(蛋白)をハイブリッド(キメラ)蛋白という。」との意味がある。(理工学辞典、1996年3月28日初版1刷発行、東京理科大学理工学辞典編集委員会、株式会社日刊工業新聞社)
vi)以上のことを勘案すれば、「ハイブリダイズ」(hybridize)には、遺伝子関連で用いられる場合を除けば、大別して、2種以上のものを変化させて元の物とは別のものにする場合と、2種以上の物を単に混成する場合との、二つの場合があることが理解される。
vii)すると、明細書等からは、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」とは、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが、「粒子中」で、それらとは別の物質に変化した(以下、「状態α」という。)か、又は、それらが単に混成した(以下、「状態β」という。)もので、「粒子が水溶液中に分散している」ものであると理解される。
viii)しかしながら、状態αの場合については、例えば「モノマーX」と「モノマーY」とが縮重合して水のような単純な物質を分離して「ポリマーZ」になるようなことはあっても、一般的には、「ポリマーX」と「ポリマーY」とが、何らかの変化により、それらとは別の物質である物質Zに変化してしまうということは、その変化がどのようなものか不明であれば、「ポリマーX」と「ポリマーY」のみからは、物質Zがどのようなものであるのかは特定できるものではない。
すなわち、明細書等からは、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが、「ハイブリダイズ」されて物質Zができたとしても、「ハイブリダイズ」による変化がどのようなものか不明であれば、物質Zは特定できない、すなわち「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何か特定できない、といえる。
ix)また、状態βの場合については、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが、「ハイブリダイズ」されて両ポリマーが単に混成した状態が「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」であるといえるとしても、「セルのガス発生が著しく低減する」(本願明細書【0025】)という効果を奏するための作用機序が不明であるので、「フッ素を含有するポリマー」、「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」では、それらが含む範囲(外延)が広すぎて、当該効果を奏する両ポリマーの組合せについて当業者が容易に特定できるものではないから、やはり「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何かを特定できるものではない。
また、本願明細書【0059】には「フッ素アクリルハイブリッドラテックスを使用する利点は、このラテックスが親水性であること・・・」と記載されているところ、例えば「フッ素を含有するポリマー」であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)は「撥水性」であり、一般的なアクリル樹脂は通常は親水性であるのは技術常識であるところ、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが「ハイブリダイズ」されて両ポリマーが単に混成した状態である「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」を「親水性」にするためには、双方のポリマーの親水基と撥水基の性質やその数を調整しなければならないが、その調整について本願明細書に記載があるわけでもないから、やはり「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何かを特定できるものではない。
なお、以下で、強調のために文言に下線を付記し「○○○」のように記載し、省略を表すのに「・・・」のように記載することがある。
x)この点について、審判請求人は、「フッ素アクリルハイブリッドラテックスは、ハイブリッドコポリマーの合成物であり、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズしています。フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとを粒子中でハイブリダイズすることは、アノード活物質及び/又はカソード活物質上の反応性表面基を隔離するために、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーを用いることによって行われるか、又は、ビニルエーテルとの珍しいハイブリッドコポリマーと、側鎖が十分にフッ素化されたアクリル系コポリマーを用いることによって行われます。」(審判請求理由を補充する手続補正書2頁)と主張している。
ここで、「コポリマー」とは、2種類以上のモノマーから構成されている高分子である共重合体のことであるから、請求人は「ハイブリダイズ」については上記「状態α」をいうものであることを主張しているものと解される。
xi)ここで、技術常識を参酌する。
xi-1)例えば、特開2011-204626号公報(拒絶査定時の引用文献5)(以下、「周知例1」という。)には、「【0012】本発明は、フッ素系高分子(a1)と含酸素官能基を有する高分子(a2)との複合化高分子(A)を、活物質の表面の少なくとも一部に添着することを特徴とする、非水系二次電池電極用の複合化高分子添着活物質に関する。」、「【0014】複合化高分子(A)は、フッ素系高分子(a1)と、含酸素官能基を有する高分子(a2)とが、複合化してなる高分子をいい、フッ素系高分子(a1)と含酸素官能基を有する高分子(a2)とが相互貫入構造(Inter Penetrating Network構造(IPN構造))を形成している形態を含む。ただし、複合化の形態は、IPN構造に限定されず、フッ素系高分子(a1)と含酸素官能基を有する高分子(a2)とが、コアシェル構造、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー等を形成している構造も含む。」と記載され、同【0021】には「含酸素官能基を有する高分子(a2)としては、含酸素官能基を有するモノマー単位を含むポリマーが挙げられる。」、同【0022】には「含酸素官能基を有するモノマーとしては、含酸素官能基を有するエチレン性不飽和モノマーが挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート・・・」と記載される。
したがって、周知例1には、「電極用の複合化高分子添着活物質」すなわち電極作成用の物質であって、「フッ素系高分子(a1)」と、アクリル酸系のモノマー単位を含む「含酸素官能基を有する高分子(a2)」との複合体であり、「IPN構造」、「コアシェル構造、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー等を形成」していることが記載されている。
すなわち、周知例1の「IPN構造」、「コアシェル構造、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー等を形成」することは、「フッ素系高分子(a1)」と、アクリル酸系のモノマー単位を含む「含酸素官能基を有する高分子(a2)」とが、別の物質へ変化したか、単に混成することを意味するといえる。
してみると、上記「1.(2)vii)」の検討から、「ハイブリダイズ」は、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが、別の物質へ変化したか、単に混成することを意味することから、周知例1は、本願の請求項1に記載された発明と対応させると、「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とが「ハイブリダイズ」すると、IPN構造、コアシェル構造、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー等の構造を採り得ることを示しているといえる。
xi-2)また、例えば特許第4957932号公報(拒絶査定時の引用文献6)(以下、「周知例2」という。)には、「【0030】1.1.1.ポリマーアロイ粒子 本実施の形態に係る電極用バインダー組成物が正極を作製するために用いられる場合、重合体粒子(A)はポリマーアロイ粒子であることが好ましい。さらに、ポリマーアロイ粒子は、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位を有する重合体(Aa)と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する重合体(Ab)と、を含有するポリマーアロイ粒子であることが好ましい。
【0031】「ポリマーアロイ」とは、「岩波 理化学辞典 第5版.岩波書店」における定義によれば、「2成分以上の高分子の混合あるいは化学結合により得られる多成分系高分子の総称」であって「異種高分子を物理的に混合したポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(Interpenetrating Polymer Network)など」をいう。・・・」と記載され、同【0043】には「1.1.1.2.重合体(Ab) 重合体(Ab)は、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する重合体である。・・・重合体(Ab)を構成する繰り返し単位を導く不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。」と記載される。
したがって、周知例2には、電極用バインダー組成物として、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位を有する重合体(Aa)」と、アクリル酸系の「重合体(Ab)」とのポリマーアロイ粒子であって、ポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(相互侵入高分子網目)等の構造を形成することが記載されている。
すなわち、周知例2の、ポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(相互侵入高分子網目)等の構造となることは、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する繰り返し単位を有する重合体(Aa)」と、アクリル酸系の「重合体(Ab)」とが、別の物質へ変化したか、単に混成することを意味するといえる。
してみると、上記「1.(2)vii)」の検討から、「ハイブリダイズ」は、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが、別の物質へ変化したか、単に混成することを意味することから、周知例2は、本願の請求項1に記載された発明と対応させると、「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とが「ハイブリダイズ」して、ポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(相互侵入高分子網目)等の構造を採り得ることを示しているといえる。
xi-3)すると、上記xi-1)xi-2)から、「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とが「ハイブリダイズ」すると、コアシェル構造、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー、ポリマーブレンド、異種高分子成分が共有結合で結合したブロックおよびグラフト共重合体、異種高分子が分子間力によって会合した高分子錯体、異種高分子が互いに絡み合ったIPN(相互侵入高分子網目)等の種々の構造を取り得る(すなわち上記「状態α」でも「状態β」でもどちらの場合も採り得る)ことが技術常識ということができる。
xii)すると、上記x)でみたように、請求人は、「フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズ」して生成される「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」は「ハイブリッドコポリマー」であると主張するが、上記技術常識からは、種々のものが形成される可能性があり、「ハイブリダイズ」がどのような操作をいうのか、具体的な操作条件が不明である以上は、「ハイブリッドコポリマー」が必ず生成するものと断ずることはできない。
さらに、「ハイブリダイズ」が「ビニルエーテルとの珍しいハイブリッドコポリマーと、側鎖が十分にフッ素化されたアクリル系コポリマーを用いることによって行われ」るというのであれば、当該内容自体が明細書に記載があってしかるべきところ、全く記載されていないのだから、やはり「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何か特定できるものではない。
xiii)そして、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何であるのか特定されない以上、請求項1に記載された発明が特定されないから、そのような発明が特許された場合には、第三者に不測の不利益を及ぼすことは明らかである。

(3)明確性要件の結言
以上から、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるから、請求項1に記載された発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件に適合せず、請求項1に記載の発明は特許を受けることができない。

2.理由2について
(1)特許法第36条第4項第1号の規定(以下、「実施可能要件」ということがある。)に適合するか否かの判断基準について
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したもの」でなければならないと規定している。
特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法第36条第4項第1号が上記のとおり規定する趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、方法の発明における発明の実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明については、明細書にその発明の使用を可能とする具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。また、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(同項第1号)、物の発明については、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
これに照らせば、同項第3号が、「発明」の「実施」について「物を生産する方法の発明にあっては、前号(同項第2号 方法の発明)に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出又は譲渡等の申出をする行為」をいうから、「物を生産する方法の発明」の「実施」とは、その方法の使用によりその物を生産し、生産されたその物を使用、譲渡等、輸出又は譲渡等の申出をする行為をいうといえる。
したがって、「物を生産する方法の発明」については、明細書に、少なくとも、その方法の使用によりその物を生産することを可能とする具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用によりその物を生産することができ、その物を使用等できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。(平成24年(行ケ)10299号、平成29年(行ケ)10230号 参照。)

(2)本出願の特許請求の範囲と明細書及び図面の記載並びに技術常識
i)請求項1に記載された発明は「チタン酸リチウムセル用電極を作製する方法であって、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズしているフッ素アクリルハイブリッドラテックスを電気化学セルの少なくとも1つの電極の作製に用いることを含む、方法。」であるから、これは「チタン酸リチウムセル用電極」を生産(「作製」)する方法の発明に該当する。
そこで、当該方法の使用により「チタン酸リチウムセル用電極」を生産することを可能とする具体的な記載について、本願明細書をみると、次の【0057】【0058】の記載があり、特許請求の範囲の記載と図面の開示を見ても、これら以上の記載を見いだせない。
「【0057】
「クラシカル組成」は、NCA及びSBR/CMC/PVDFラテックスを用いて作製したNCA電極を示し、ここで、PVDFラテックスは、特別に開発した、水溶液中に粒子が分散したPVDFである。新組成は、NCA及びフッ素アクリルハイブリッドラテックスに基づき、フッ素アクリルハイブリッドラテックスにおいては、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーとが粒子中でハイブリダイズしており、このような粒子が水溶液中に分散している。
【0058】
チタン酸塩電極は、チタン酸塩及びSBR/CMC/PVDFラテックス(クラシカル組成)又はチタン酸塩及びいわゆる新組成のフッ素アクリルハイブリッドラテックス/CMC/PVDFを用いて作製する。」
ii)上記【0057】【0058】の記載をみると、「チタン酸塩電極」の「作製」のために、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が用いられるものであるところ、上記「2.(1)」で検討したように、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何であるのか明らかでないので、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」を製造あるいは入手するためにどのようにすればよいのか不明であるから、「チタン酸塩電極」の「作製」のために、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が用いることができない。
iii)また、出願当時の技術常識を参酌しても、前記「2.(1)」で検討したように、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」が何であるのか明らかであったものともいえないから、当業者が、請求項1に記載の方法の使用により「チタン酸塩電極」を生産することを可能とすることができたものともいえない。
iv)以上から、本願明細書に、少なくとも、請求項1に記載の方法の使用により「チタン酸塩電極」を生産することを可能とする具体的な記載がなく、また、出願当時の技術常識に基づき当業者が上記方法の使用により「チタン酸塩電極」を生産することを可能とすることができるものともいえないから、実施可能要件を満たすということはできない。

(3)実施可能要件の結言
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に記載の発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、本出願は特許を受けることができない。

3.理由3について
以下では、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)が、引用文献1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当する(以下、「新規性要件」ということがある。)かについて検討する。
(1)引用文献1(特開2012-009268号公報)の記載事項
引用文献1には次の記載がある。
ア)「【0005】
・・・本発明は・・・フィラーへの結着性が良好で、水系でありながら均一な膜を形成することができる化学的、電気的に安定な水系組成物であって、得られる膜が基材への密着性、可撓性に優れ、二次電池用の電極を形成する組成物として好適に用いることができる二次電池用電極水系組成物を提供することを目的とするものである。」
イ)「【0007】
すなわち本発明は、電極活物質、バインダー及び水を必須成分として含み、二次電池の電極を形成する電極水系組成物であって、上記バインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むことを特徴とする二次電池用電極水系組成物である。」
ウ)「【0009】
本発明の二次電池用電極水系組成物が含むバインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むものである。(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体とは、分散粒子の夫々の粒子中にフッ素含有重合体と(メタ)アクリル系重合体が絡み合って存在するものである。例えば、フッ素を中心とする骨格にアクリルが入り込んだ「IPN構造」のような構造を有する粒子である。したがって、フッ素含有重合体とアクリル系共重合体とを別々に製造し、その後に混合しただけのものは、本発明における(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体には該当しない。」
エ)「【0037】
本発明の二次電池用電極水系組成物を負極を形成する材料として用いる場合、負極活物質として一般に用いられているものを使用することができる。負極活物質としては、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素系材料、ポリアセン系導電性高分子、チタン酸リチウム等の複合金属酸化物、リチウム合金等が例示される。更に、電極活物質は、炭素材料からなる負極活物質であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。」

(2)引用文献1に記載された発明
i)引用文献1の記載事項ア)イ)から、引用文献1には、「水系組成物」である「バインダー」として「(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体」を「二次電池用の電極を形成する組成物」として用いて「二次電池用の電極を形成する」ことが記載されている。
ii)同エ)から、「二次電池用の電極」は「負極」に「チタン酸リチウム」を用いることができるものである。
iii)同ウ)から、「(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体」とは、「分散粒子の夫々の粒子中にフッ素含有重合体と(メタ)アクリル系重合体が絡み合って存在するもの」で、「IPN構造」となっているものといえる。
iv)以上から、本願請求項1の記載に則して整理すれば、引用文献1には、
「チタン酸リチウムを用いる二次電池の負極を作製する方法であって、フッ素含有重合体と(メタ)アクリル系重合体とが、分散粒子の夫々の粒子中で絡み合って存在するIPN構造をとる水系組成物を、二次電池の負極の作製に用いる方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)、
が記載されていると認められる。

(3)本願発明と引用発明との対比
i)引用発明の「チタン酸リチウムを用いる二次電池用の負極を作製する方法」は、本願発明の「チタン酸リチウムセル用電極を作製する方法」にあたる。
また、引用発明の「二次電池の負極の作製に用いる」は、本願発明の「電気化学セルの少なくとも1つの電極の作製に用いることを含む」にあたる。
ii)引用発明の「フッ素含有重合体」と「(メタ)アクリル系重合体」は、本願発明のそれぞれ「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」にあたる。
iii)以上から、本願発明と引用発明とは、
「チタン酸リチウムセル用電極を作製する方法であって、フッ素ポリマーとアクリレートポリマーを、電気化学セルの少なくとも1つの電極の作製に用いることを含む、方法。」である点で一致し、次の点で一応相違する。
<相違点>
「電極の作製に用い」られる「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とについて、本願発明では「粒子中でハイブリダイズしているフッ素アクリルハイブリッドラテックス」になっているのに対して、引用発明では「分散粒子の夫々の粒子中で絡み合って存在するIPN構造をとる水系組成物」になっている点。

(4)相違点の検討
前記「1.(2)vii)」のとおり、本願に添付した明細書等からは、「フッ素アクリルハイブリッドラテックス」とは、「フッ素を含有するポリマー」と「アクリル酸やアクリル酸エステルが重合したか或いは他の分子と結合したポリマー」とが、単に混成したもので、「粒子が水溶液中に分散している」ものを含むものであると解することができる。
また、本願明細書【0057】から、「フッ素を含有するポリマー」は、「水溶液中に分散している」から「水系組成物」にあたる。
さらに、「IPN構造」は「粒子中で絡み合って存在」するものだから、「フッ素含有重合体」と「(メタ)アクリル系重合体」が単に混成しているものといえる。
すると、本願発明の「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とが「粒子中でハイブリダイズしているフッ素アクリルハイブリッドラテックス」は、「フッ素ポリマー」と「アクリレートポリマー」とが単に粒子中で混成しているものであり、これは引用発明の「分散粒子の夫々の粒子中で絡み合って存在するIPN構造をとる水系組成物」にあたるといえる。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本願発明は引用発明と同一発明といえる。

(5)新規性要件の結言
以上によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、本出願は特許を受けることができない。

第5 むすび
以上から、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、また、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、本願は、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-30 
結審通知日 2019-06-04 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2015-543470(P2015-543470)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 536- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮田 透  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 松本 要
中澤 登
発明の名称 チタン酸リチウムセルにおけるガス発生の低減  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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