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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
管理番号 1356582
審判番号 不服2018-750  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-19 
確定日 2019-10-31 
事件の表示 特願2016- 8588「ガラスリボンを接合するための構造及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月28日出願公開、特開2016-135739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年11月30日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-542091号の一部を平成28年1月20日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 1月29日付け 手続補正
平成29年 1月16日付け 拒絶理由通知
同年 3月 7日付け 意見書の提出、手続補正
同年 4月27日付け 拒絶理由通知
同年 8月 9日付け 意見書の提出、手続補正
同年 9月 6日付け 拒絶査定
平成30年 1月19日付け 審判請求、手続補正
同年 9月27日付け 拒絶理由通知(当審)
平成31年 2月 4日付け 意見書の提出、手続補正

第2 本願発明について
本願の請求項1?4に係る発明は、平成31年2月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
ガラスリボンにおいて、
第1のガラスリボン部分、
第2のガラスリボン部分、及び
前記第1のガラスリボン部分を前記第2のガラスリボン部分に結合する添継ぎ接合部、を有し、
前記添継ぎ接合部が、前記第1のガラスリボン部分と前記第2のガラスリボン部分との間に間隙を形成するよう構成されており、
前記添継ぎ接合部が、20kgの質量に対応する力(196N)がかけられたときに≦20%の伸びを受けるようなヤング率及び断面積を有する接合部材を有する、
ことを特徴とするガラスリボン。」

第3 当審の拒絶理由について
当審から平成30年9月27日付けで通知した拒絶理由のうち、拡大先願に関する理由の概要は次のとおりである。

(理由)本願発明は、その優先日前の特許出願であって、その出願後に当該出願に係る発明に基づく優先権の主張を伴う日本語特許出願についての国際公開がされた時に当該出願について出願公開がされたものとみなされる下記1.の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の15第2項参照)。

<引用文献等一覧>
1.特願2010-161695号(国際公開第2012/008529号)
2.特開2010-132350号公報(周知慣用技術の例)
3.特開平11-323264号公報 (周知慣用技術の例)
4.特開2009-292892号公報(周知慣用技術の例)

第4 当審の判断
1.先願明細書に記載されている先願発明について
特願2010-161695号は、「発明の名称」を「シート巻回体およびシート状連結体」とするものであって、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。

(ア)「【請求項1】
複数枚のシートの端部同士を連結部を介して連結し、ロール状に巻き取ったシート巻回体であって、
前記連結部が、巻き取り方向に隣接する2枚のシートの端部間に掛け渡されたシート状連結体で構成され、
該シート状連結体が、巻き取り方向の両端部に各シートと接合された幅広の接合部を有するとともに、巻き取り方向の中間部に前記接合部よりも幅狭のくびれ部を有することを特徴とするシート巻回体。
・・・
【請求項5】
前記連結部によって連結された複数のシートに、厚み300μm以下のガラスフィルムが含まれていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のシート巻回体。」(国際公開された「請求の範囲」に相当)

(イ)「【0002】
周知のように、連続的に製造された長尺な樹脂フィルムや紙等のシートは、巻芯の回りにロール状に巻き取られて収容されるのが通例である。そして、このようにシートを収容したシート巻回体において、巻芯に巻き取られたシートが所定長さに満たないときには、シートの全長が所定長さに達するまで、先に巻芯の回りに巻き取られたシートの終端部に別のシートの始端部を連結しながら、巻芯の回りに巻き取るという手法が採用される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では、フィルム状まで薄肉化されたガラスフィルムも開発されるに至っており、上記の樹脂フィルム等のシートと同様に、連続的に製造された長尺なガラスフィルムを、巻芯の回りにロール状に巻き取って収容するという形態が採用されつつある(例えば、特許文献2参照)。この場合にも、巻芯の回りに巻き取られたガラスフィルムが所定長さに満たないときには、先に巻芯の回りに巻き取られたガラスフィルムの終端部に、別のガラスフィルムの始端部を連結して、ガラスフィルムの全長を延長する手法が取られることがある。
【0004】
また、このようなシート巻回体に対しては、例えば、いわゆるロール・トゥー・ロール(Roll to Roll)方式で、所定の処理(例えば、洗浄・成膜・切断など)が施される場合がある。そして、シートがガラスフィルムなどの脆性材料である場合には、脆性材料からなるシートの破損を防止することを目的として、脆性材料からなるシートの端部に、樹脂シートなどの靭性材料からなるシート(この場合、このシートは、例えばリーダと称される。)の端部を連結し、この靭性材料からなるシートの終端部を先頭としてシート全体を、ロール・トゥー・ロール方式を実行する装置内に誘導する場合がある。
・・・
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-2398号公報
【特許文献2】特開2010-132350号公報
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、複数枚のシートを連結する際には、巻取り方向に隣接する2枚のシートの端部同士を連結する必要がある。・・・
【0008】
しかしながら、・・・2枚のシート100の幅方向中心線が、僅かでも同一直線から外れた状態で連結されていると、この連結されたシート100を巻き取る際に不具合が生じる。
【0009】
・・・連結された複数のシート100を巻き取る際には、粘着テープ101で貼着された接合部を基準として考えると、この接合部を中心として、巻き取り方向の両側に隣接する2枚のシート100に互いに離反する方向に張力が作用することになる。そして、このように張力が作用すると、連結する2枚のシート100の幅方向中心線のずれが矯正され、結果として接合部周辺に皺102が生じ、シート100の蛇行(幅方向及び厚み方向)や巻きずれ、ひいてはシート100の損傷・破損といった不具合が生じ得る。また、連結された複数枚のシート100を巻き取る途中で、シート100に切断や成膜などの処理を行う場合には、前記皺102の発生が、処理不良の発生原因となる。
【0010】
なお、このような問題は、例えば、シートの端縁同士を互いに突き合わせた状態又は間隔を置いて配置した状態で、両方のシートの幅方向全域若しくはほぼ全域に跨るように粘着テープを貼着した場合にも同様に生じ得る。
【0011】
以上のような問題は、シートの幅方向中心線を完全に一致させた状態で、両シートを連結すれば解消することができるが、このように両者を連結することは実質的に不可能であるので、実用的な対策とならない。」(国際公開された明細書の[0002]?[0011]に相当)

(ウ)「【0012】
そこで、図10に示すように、隣接する2枚のシート100の端部同士を間隔を置いて配置するとともに、両方のシート100の幅方向中央の一部領域にのみ跨るように細いシート状の連結体(以下、シート状連結体という。)103を掛け渡し、その両端部を粘着テープ101で貼着することも考えられる。このようにすれば、両方のシート100の幅方向中心線のずれが矯正される際にシート100に生じる変形を、シート状連結体103の捩れなどの変形により吸収する効果が期待できる。
【0013】
しかしながら、この場合には、巻き取り時にシート100に作用する張力が、シート状連結体103との接合部(粘着テープ101を貼着した領域)が形成されたシート100の幅方向中央の一部領域に局所的に集中するため、シート100の端部のうち、接合部周辺に皺102が生じやすくなるという問題が生じ得る。
【0014】
本発明は、以上の実情に鑑み、複数枚のシートを連結してロール状に巻き取ったシート巻回体において、巻き取り時に作用する張力でシートに皺が生じるという事態を可及的に低減することを技術的課題とする。」(国際公開された明細書の[0012]?[0014]に相当)

【図10】


(エ)「【0015】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、複数枚のシートの端部同士を連結部を介して連結し、ロール状に巻き取ったシート巻回体であって、前記連結部が、巻き取り方向に隣接する2枚のシートの端部間に掛け渡されたシート状連結体で構成され、該シート状連結体が、巻き取り方向の両端部に各シートと接合された幅広の接合部を有するとともに、巻き取り方向の中間部に前記接合部よりも幅狭のくびれ部を有することに特徴づけられる。
【0016】
このような構成によれば、巻き取り時にシートに張力が作用して各シートの幅方向中心線のずれが矯正されたとしても、シート状連結体の幅狭のくびれ部が積極的に変形(例えば、捩れ変形)し、シート自体に不当な変形が生じ難くなる。また、シート状連結体は幅広の接合部を有することから、各シートに作用する張力がシート端部の幅方向の広い範囲に作用することとなり、当該張力がシート端部の幅方向の狭い範囲にのみ局所的に作用して接合部周辺に皺が形成されるという事態が生じ難い。しかも、シート端部は、シート状連結体の幅広の接合部によって予め補強されて変形が生じ難くなっているので、シートの端部に皺が発生するという事態を可及的に低減することができる。」(国際公開された明細書の[0015]?[0016]に相当)

(オ)「【0033】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るシート巻回体を示す斜視図である。このシート巻回体1は、複数枚の長尺なガラスフィルムgの端部同士を互いに連結して延長し、その連結した複数枚のガラスフィルムgを巻芯2の外周面にロール状に巻き取ったものである。なお、ここで、ガラスフィルムgは、厚みが300μm以下であって、例えばオーバーフローダウンドロー法などのダウンドロー法によって成形されたガラスであり、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などに利用される。
【0034】
巻き取り方向に隣接する2枚のガラスフィルムgの端部同士は、シート状連結体3によって連結されている。このシート状連結体3は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムにより形成されている。換言すれば、シート状連結体3は、可撓性を有する靭性材料である。
【0035】
詳細には、巻き取り方向に隣接する2枚のガラスフィルムgの端部同士が、間隔を置いて配置されており、このガラスフィルムgの端部間に上述のシート状連結体3が掛け渡されている。このシート状連結体3は、巻き取り方向の両端部が幅広な幅広部4とされ、巻き取り方向の中間部が幅広部4よりも幅狭なくびれ部5とされている。そして、この実施形態では、シート状連結体3の両端部に形成された各幅広部4が、ガラスフィルムgの端部に重ねられた状態で、幅広部4とガラスフィルムgとに跨るように貼着された粘着テープ(片面粘着テープ)6によってガラスフィルムgに接合されている。すなわち、粘着テープ6を貼着した領域が接合部として機能する。このようにすれば、シート状連結体3のくびれ部5が、積極的に変形する部位となるので、巻き取り時にガラスフィルムgに張力が作用して各ガラスフィルムgの幅方向中心線のずれが矯正されたとしても、シート状連結体3のくびれ部5が積極的に変形し、ガラスフィルムg自体に不当な変形が生じ難くなる。また、シート状連結体3は幅広の接合部(粘着テープ6に対応する領域)を有することから、各ガラスフィルムgに作用する張力がガラスフィルムgの端部の幅方向の広い範囲(幅方向略全域)に作用することとなり、当該張力がガラスフィルムgの端部の幅方向の狭い範囲にのみ局所的に作用して接合部周辺に皺が形成されるという事態が生じ難い。しかも、ガラスフィルムgの端部は、シート状連結体3の幅広の接合部によって予め補強されて変形が生じ難くなっているので、ガラスフィルムgの端部に生じる皺を可及的に低減することができる。
【0036】
シート状連結体3とガラスフィルムgとの接合方法は、シート状連結体3の幅広部4をガラスフィルムgの端部に重ねられた状態で、幅広部4とガラスフィルムgとに跨るように片面粘着テープ6を貼着する方法に限らず、幅広部4とガラスフィルムgの端部の重合部を両面粘着テープ若しくは接着剤で貼着したり、又は熱によって溶着するようにしてもよい。・・・」(国際公開された明細書の[0033]?[0036]に相当)

【図1】


(カ)「【0040】
シート状連結体3のくびれ部5における最狭部5aの幅方向寸法Aは、ガラスフィルムgの幅方向寸法aの5?70%であることが好ましく、8?50%であることが更に好ましく、10?20%であることが最も好ましい。すなわち、最狭部5aの幅方向寸法Aが広すぎると、シート状連結体3の捩れ変形などによる変形吸収効果が低減し、ガラスフィルムgにも変形が波及するおそれがある。一方、最狭部5aの幅方向寸法Aが狭すぎると、くびれ部5の最狭部5aが巻き取り時に作用する張力に耐え切れずに断裂するおそれがある。そこで、最狭部5aの幅方向寸法Aは、上記の数値範囲であることが好ましく、この範囲内であれば上記した不具合を確実に回避することができる。」(国際公開された明細書の[0040]に相当)

引用文献1には、上記摘示(イ)の課題を解決するための手段として、上記摘示(ウ)及び(オ)の態様の発明が開示されており、これらを包含したものとして、上記摘示(ア)及び(エ)より、以下のとおりの発明の記載が認められる。

「厚み300μm以下のガラスフィルムが含まれている複数枚のシートの端部同士を連結部を介して連結し、ロール状に巻き取ったシート巻回体であって、
前記連結部が、巻き取り方向に隣接する2枚のシートの端部間に掛け渡されたシート状連結体で構成され、
該シート状連結体が、巻き取り方向の両端部に各シートと接合された幅広の接合部を有するシート巻回体。」(以下、「先願発明」という。)

ここで、上記摘示(ウ)の態様は、
「先願発明において、隣接する2枚のシートの端部同士を間隔を置いて配置するとともに、両方のシートの幅方向中央の一部領域にのみ跨るように細いシート状の連結体を掛け渡し、その両端部を粘着テープで貼着したシート巻回体。」(以下、「先願発明(ウ)」という。)
であり、上記摘示(オ)の態様は、
「先願発明において、巻き取り方向に隣接する2枚のガラスフィルムの端部同士が、間隔を置いて配置されており、このガラスフィルムの端部間にシート状連結体が掛け渡されていて、
シート状連結体は、巻き取り方向の両端部が幅広な幅広部とされ、巻き取り方向の中間部が幅広部よりも幅狭なくびれ部とされ、シート状連結体の両端部に形成された各幅広部が、ガラスフィルムの端部に重ねられた状態で、幅広部とガラスフィルムとに跨るように貼着された粘着テープによってガラスフィルムに接合されていて、
シート状連結体は、可撓性を有する靭性材料の樹脂フィルムにより形成されているシート巻回体。」(以下、「先願発明(オ)」という。)
である。

2.本願発明と先願発明(オ)との対比について
先願発明は、上記摘示(ウ)、(エ)、(オ)より、先願発明(ウ)の問題点を改良したものとして先願発明(オ)を位置付けているので、まず先願発明(オ)を、本願発明と対比すると、先願発明(オ)の「ガラスフィルムのシート」、「連結部」、「シート状連結体」、「シート巻回体」が、本願発明の「ガラスリボン部分」、「添継ぎ接合部」、「接合部材」、「ガラスリボン」それぞれに相当していることは自明であるから、両者は、
「ガラスリボンにおいて、
第1のガラスリボン部分、
第2のガラスリボン部分、及び
前記第1のガラスリボン部分を前記第2のガラスリボン部分に結合する添継ぎ接合部、
を有し、
前記添継ぎ接合部が、前記第1のガラスリボン部分と前記第2のガラスリボン部分との間に間隙を形成するよう構成されており、接合部材を有する、ガラスリボン」
の発明である点で一致し、
本願発明において「接合部材」が、「20kgの質量に対応する力(196N)がかけられたときに≦20%の伸びを受けるようなヤング率及び断面積を有する」ものであるのに対して、接合部材に相当する先願発明(オ)の「シート状連結体」は、可撓性を有する靱性材料の樹脂フィルムにより形成されているが、その伸び特性、ヤング率、断面積について明示されていない点で、一応相違する(以下、「一応の相違点」という。)。

3.一応の相違点についての検討

(1)本願発明における「接合部材」の「ヤング率及び断面積」に係る数値限定の意義について
本願発明において「接合部材」が、「20kgの質量に対応する力(196N)がかけられたときに≦20%の伸びを受けるようなヤング率及び断面積を有する」ものであることの意義については、本願明細書の【0008】に「発明者等はガラスリボン部分を、ガラスリボンにクラックを発生させ得るかまたはクラックを波及させ得るガラスリボン部分の末端どうしのこすれ及び侵食がおこらないように、相互を間隙で隔てるべきであることを見いだした。また、ガラスリボンの処理を通して、ガラスリボン部分の末端を間隙で隔てたままにするべきである。すなわち、搬送中にガラスリボン部分が位置合せされたままであるように添継ぎ接合部は強固であるべきである。20kgの力(すなわち、20kgf=200N)がかけられたときに接合部材が≦20%の伸びを受けるようなヤング率及び断面積を接合部材が有していれば、ガラスリボン部分の末端は接合部材によって強固にまた確実に隔てられて保持されることができ、リボン部分は位置合せされ得る。」と記載されていることから、ガラスリボンの処理を通して、ガラスリボン部分の末端を間隙で隔てたままにし、搬送中にガラスリボン部分が位置合せされたままであるようにするために、ガラスリボン部分の末端を接合部材によって強固にまた確実に隔てられて保持されるようにすることにあるものと認められる。
これに対し、先願発明の「シート状連結体」についても、2つのガラスフィルムの端部は間隔を置いて配置されており、上記摘示(イ)より、巻き取り等に際して位置がずれないように、シート状連結体で確実に保持すべきことは同様であるといえる。
したがって、先願発明(オ)のシート状連結体のヤング率及び断面積の設計が本願発明と異なるとは認められない。

(2)先願発明の「シート状連結体」の形状、材質について
先願発明(オ)のシート状連結体について、「幅狭のくびれ部」の幅方向寸法A(図3)は、上記摘示(カ)より、「ガラスフィルムgの幅方向寸法aの5?70%であることが好ましく、8?50%であることが更に好ましく、10?20%であることが最も好ましい」等と記載されている。

【図3】


ここで、ガラスフィルムgの幅方向寸法aやシート状連結体の厚さなどについて先願明細書及び図面に具体的な記載はないが、周知慣用手段を考慮すると以下のように見積もることができる。
ガラスフィルムgの幅方向寸法aについては、上記摘示(イ)の先願発明の先行技術である【特許文献2】特開2010-132350号公報(引用文献2に同じ)に、「ガラスフィルム2の幅は、この実施形態では、12.5mm以上であるが、中でも、100mm以上であることが好ましく、300mm以上であることがより好ましく、500mm以上であることが更に好ましい。なお、ガラスフィルム2は、小型の携帯電話用等の小画面ディスプレイから大型のテレビ受像機等の大画面ディスプレイに至るまで、多岐に亘るデバイスに使用されるので、ガラスフィルム2の幅は、最終的には、使用されるデバイスの基板の大きさに応じて適宜選択することが好ましい。」(【0046】)と記載されていることからすれば、「更に好ましい」とされる「500mm以上」の「500mm」程度とすることが考えられる。
次に、シート状連結体を形成する可撓性を有する靭性材料の樹脂フィルムについては、上記摘示(オ)より、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが例示されており、上記摘示(イ)より、シート巻回体にいわゆるロール・トゥー・ロールを実施する際にガラスフィルムなどの脆性材料からなるシートの破損を防止すること、さらに上記(1)の間隔を置いて確実に保持することを目的として材料選択がされるものである。そして、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムは通常のスプライシングテープの基材であって、上記摘示(イ)の従来技術において長尺な樹脂フィルムや紙等のシートの連結に通常用いられているものであること(例えば、引用文献3の実施例1、3、比較例1、引用文献4の実施例9?24等)から、先願発明の可撓性を有する靭性材料の樹脂フィルムについても、それらと同じ程度の材質や厚さのものであると推認される。例えば、引用文献3の実施例3、比較例1のよく知られている「ポリエステルフィルム(基材)[ルミラー;東レ(株)製]」であれば、厚み25μm、ヤング率4GPa程度である(ルミラー 一般工業用総合カタログ,日本,東レ株式会社)。

(3)「シート状連結体」の断面積について
上記(2)より、シート状連結体の「幅狭のくびれ部」の幅方向寸法Aを「最も好ましいとされる」、「ガラスフィルムgの幅方向寸法aの…10?20%」とし、「ガラスフィルムgの幅方向寸法a」は、「更に好ましい」とされる「500mm以上」の「500mm」とすると、幅方向寸法Aは、50?100mmと計算される。
そして、上記(2)より、シート状連結体の厚みは、例示された市販品の「ポリエステルフィルム(基材)[ルミラー;東レ(株)製]」であれば厚み25μmであるから、シート状連結体の断面積は、最小部分となる「幅狭のくびれ部」において、1.25?2.50mm^(2)と見積もられる。

(4)「シート状連結体」のヤング率について
上記(2)より、シート状連結体のヤング率については、例示された市販品の例の「ポリエステルフィルム(基材)[ルミラー;東レ(株)製]」であれば、ヤング率4GPa程度となる。

(5)「シート状連結体」の荷重に対する伸び(率)について
フックの法則(ε=σ/E)より、伸び(率)は[(荷重/断面積)/ヤング率]に比例するから、20kgの質量に対応する力(196N)が荷重としてかけられたときの伸び率は、上記(3)、(4)の数値から、応力の集中するくびれ部であったとしても、2.0?3.9%程度と算出される。

(6)考察
上記(5)で算出された伸び率2.0?3.9%は、本願発明の20%よりも十分に小さいものであり、先願発明(オ)においては、普通の態様において、本願発明で特定されている「20kgの質量に対応する力(196N)がかけられたときに≦20%の伸び」を満たすものであるといえる。
本願発明では、実施例1?4(本願明細書【0075】?【0084】)において、接合部材の幅「250mm」のものが用いられており、上記(2)?(5)でシート状連結体のガラスフィルムgの幅方向寸法aとして仮定した「500mm」の1/2であるが、仮に、上記(3)でシート状連結体の断面積をその1/2と仮定しても、伸び率は4.0?7.8%と見積もられ、依然として20%よりも十分に小さいものである。
以上のことから、上記一応の相違点は、両者の実質的な相違点であるということはできない。
よって、本願発明は、先願発明(オ)と同一である。

4.本願発明と先願発明(ウ)との対比について
先願発明(ウ)は、先願発明(オ)における「幅狭なくびれ部」に係る発明特定事項及び「シート状連結体を形成する材料」についての発明特定事項を有していないものであるから、本願発明との対比において、同様の以下の一致点等を有する。
「ガラスリボンにおいて、
第1のガラスリボン部分、
第2のガラスリボン部分、及び
前記第1のガラスリボン部分を前記第2のガラスリボン部分に結合する添継ぎ接合部、
を有し、
前記添継ぎ接合部が、前記第1のガラスリボン部分と前記第2のガラスリボン部分との間に間隙を形成するよう構成されており、接合部材を有する、ガラスリボン」
の発明である点で一致し、
本願発明において「接合部材」が、「20kgの質量に対応する力(196N)がかけられたときに≦20%の伸びを受けるようなヤング率及び断面積を有する」ものであるのに対して、接合部材に相当する先願発明(ウ)の「シート状連結体」の伸び特性、ヤング率、断面積について明示されていない点で、一応相違する(以下、「一応の相違点’」という。)。
そして、先願発明(ウ)における「シート状連結体」の伸び特性に係る要素のうち、「シート状連結体を形成する材料」(ヤング率)については、上記摘示(イ)から周知のものが使用されるといえるから上記3.(2)及び(4)と同様であり、「シート状連結体」の断面積については「幅狭なくびれ部」を有していないことから上記3.(3)で求められるものと同等かそれ以上の数値と見積もられる。
してみれば、先願発明(ウ)の「シート状連結体」の伸び特性については先願発明(オ)のものと同等かそれ以下であると見積もられるから、上記一応の相違点’は、両者の実質的な相違点であるということはできない。
よって、本願発明は、先願発明(ウ)と同一である。

5.請求人の主張について
請求人は、平成31年2月4日付け 意見書において、本願発明では、「添継ぎ接合部が、20kgの質量に対応する力(196N)がかけられたときに≦20%の伸びを受けるようなヤング率及び断面積を有する接合部材を有する」ことにより、搬送中にガラスリボン部分が位置合わせされたままであるように添継ぎ接合部は強固であるという作用効果を奏するものであること(本願明細書【0008】等)、これに対し先願発明は、シート状連結体3が、ガラスフィルムの幅方向中心線のずれを認める積極的な変形を提供するものであって、図10に関し、弾力性があり、積極的に変形するともに、狭いくびれ部を有するシート状連結体3の必要性を教示していることから、本願発明と先願発明とではその構成が互いに全く異なる旨主張している。
しかし、先願発明の課題とするガラスフィルムの幅方向中心線のずれは、上記摘示(エ)の【0016】に記載されるように、くびれ部における捩れ変形により解決されるのであって、シート状連結体全体が積極的に伸長変形するものとは認められない。そして、上記3.及び4.で検討したように、先願発明においては「シート状連結体」の伸び特性、ヤング率、断面積について明示されていないものの、先願明細書に開示の従来技術に係る周知慣用技術から普通に想定される態様において、本願発明の接合部材について特定されている要件を明らかに満たすのであるから、この主張は採用できない。
また、請求人は引用文献3および4に記載されているスプライステープを用いることは先願発明の目的とするシート状連結体3の捩れ変形などによる変形吸収効果を損なうことになる旨の阻害事由を主張するが、上記3.の検討において見積もられた数値は、先願発明のシート状連結体として明細書に例示されている「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルム」としてよく知られている市販品をベースとしており、普通に想定される態様であるから、この主張も採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は先願発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-04 
結審通知日 2019-06-05 
審決日 2019-06-18 
出願番号 特願2016-8588(P2016-8588)
審決分類 P 1 8・ 16- WZ (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 潤山田 頼通  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 菊地 則義
金 公彦
発明の名称 ガラスリボンを接合するための構造及び方法  
代理人 柳田 征史  

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