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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61C
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61C
管理番号 1356610
審判番号 不服2017-18152  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-07 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 特願2013-543481「歯根管に穿孔するための歯内治療器具」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日国際公開、WO2012/079183、平成26年 3月 6日国内公表、特表2014-505507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)12月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年(平成22年)12月16日、スイス(CH))を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成25年 6月26日 :国際出願翻訳文提出書・明細書・特許請求の範囲の提出
平成27年 9月 3日付け:拒絶理由通知書
平成28年 3月 3日 :意見書・手続補正書の提出
平成28年 8月 1日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成29年 2月 6日 :意見書・手続補正書の提出
平成29年 7月28日付け:補正の却下の決定・拒絶査定
平成29年12月 7日 :審判請求書・手続補正書の提出

第2 平成29年12月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月7日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、当審で付与した。以下同様。)
「患者の歯(2)の根管に穿孔する器具(10)であって、前記器具(10)は長手軸を備え、
歯(20)の根管(21)の壁を形成及び/または細工及び/または切削するように配置される動作領域(11)を有し、前記動作領域(11)は、前記器具(10)の支持体(14)に固定されるように配置される保持用先端部(13)を備え、
前記動作領域(11)は、前記器具(10)が休止位置にあるときは、少なくとも一部が直線である立体形状の収縮形状になって、前記器具(10)がマルテンサイト相の状態にあるように配置され、
前記動作領域(11)は、前記器具(10)が動作位置にあるときは、前記根管(21)の輪郭に適応した拡大構造化形状になって、前記器具(10)がオーステナイト相の状態にあるように配置され、
前記動作領域(11)は、0℃から室温までの第1の温度において前記収縮形状にあり、40℃以上の第2の温度において前記拡大構造化形状にあり、
前記器具(10)の支持体(14)に組み込まれた加熱手段、または、外部手段によって、前記動作領域(11)の温度上昇を加速させることを特徴とする、歯内治療器具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
平成29年2月6日にされた手続補正による補正は、平成29年7月28日付けで補正の却下の決定がなされたことから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、平成28年3月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
患者の歯(2)の根管に穿孔する器具(10)であって、前記器具(10)は長手軸を備え、
歯(20)の根管(21)の壁を形成及び/または細工及び/または切削するように配置される動作領域(11)を有し、前記動作領域(11)は、前記器具(10)の支持体(14)に固定されるように配置される保持用先端部(13)を備え、
前記動作領域(11)は、前記器具(10)が休止位置にあるときは、少なくとも一部が直線である立体形状の収縮形状になって、前記器具(10)がマルテンサイト相の状態にあるように配置され、
前記動作領域(11)は、前記器具(10)が動作位置にあるときは、前記根管(21)の輪郭に適応した拡大構造化形状になって、前記器具(10)がオーステナイト相の状態にあるように配置され、
前記動作領域(11)は、0℃から室温までの第1の温度において前記収縮形状にあり、体温から45度までの第2の温度において前記拡大構造化形状にあることを特徴とする、歯内治療器具。」

2 補正の適否
(1)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「体温から45度までの第2の温度」を「40℃以上の第2の温度」とする補正(以下、「本件補正A」という。)、及び、本件補正前の請求項1に「前記器具(10)の支持体(14)に組み込まれた加熱手段、または、外部手段によって、前記動作領域(11)の温度上昇を加速させ」という発明特定事項を追加する補正(以下、「本件補正B」という。)を含むものである。

(2)検討
本件補正Aは、明りょうでない記載の釈明に該当する。
また、本件補正Bの「前記器具(10)の支持体(14)に組み込まれた加熱手段、または、外部手段によって、前記動作領域(11)の温度上昇を加速させ」という発明特定事項は、本件補正前の請求項1の「器具(10)」という発明特定事項に限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
(ア)平成27年9月3日付けの拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった国際公開2010/030668号(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(括弧内の日本語訳は、当審で付与した。)
「[0007] (前略)・・・SMAs are a unique class of metal alloys that can be made to recover from seemingly permanent strains when they are heated above a certain temperature. SMAs are said to have two stable phases - the high-temperature phase, called austenite, and the low-temperature phase, called martensite. In addition, the martensite can be in one of two forms: twinned and detwinned A phase transformation said to occur between the austenitic and martensitic phases upon heating/cooling is believed to be the basis for the unique properties of the SMAs.」
((前略)・・・SMAは、ある一定以上の温度に加熱されると見かけ上の永久ひずみから回復させられ得るという、独特な性質を有する金属合金として分類される。SMAは、オーステナイトと呼ばれる高温相とマルテンサイトと呼ばれる低温相という2つの安定した相を有していると言われている。さらに、マルテンサイトは、twinnedとdetwinnedという2つの形態のうち1つになり得る。加熱/冷却によってオーステナイト相とマルテンサイト相の間で生じると言われている相変態は、SMAの有する独特な特性に基づくものであると信じられている。)
「[0008] (前略)・・・A subsequent heating of the material to a temperature above the material's austenitic finish temperature reverses the phase transformation (martensite to austenite) and thereby leads to complete shape recovery. Upon cooling in the absence of applied load, the material is believed to transform from austenite into twinned (self- accommodated) martensite. As a result of this phase transformation no observable macroscopic shape change is seen to occur and the SMA material returns to the original shape prior to deformation.」
((前略)・・・材料のオーステナイト終了温度よりも高い温度に材料を続いて加熱することで、相変態は逆向き(マルテンサイトからオーステナイトへ)となり、それによって形状回復を完成することとなる。荷重を取り除いて冷却することで、材料はオーステナイトから(自己調整により)twinnedマルテンサイトに相変化すると信じられている。この相変化の結果、顕微鏡下では形状変化は観察されないものの、SMA材料は変形前の元の形状に戻る。)
「[0047] In a preferred embodiment of a two-dimensionally sinusoidal shaped configuration of an instrument, as shown in FIGS. 4 and 8, a shaped working portion 20 with cutting surfaces for removing tissue from a root canal is disposed on the shaft 37 of an endodontic file 32. In one embodiment, the working portion 20 extends from a proximal end 34 to a distal end or tip 36 of the shaft 37. However, in alternate embodiments, only a portion of the shaft 37 has cutting surfaces thereon. A standard dental handle 38 or other manipulating device is preferably fitted to the proximal end 34 of the shaft by fitting methods and associated structures (if any) known to those skilled in the art. The tip 40 of the shaft 20 may assume any number of a variety of possible configurations known to those skilled in the art (e.g., chisel, cone, bullet, multi-faceted and/or the like).」
(器具の2次元正弦波に形付けられた形状の好ましい実施態様において、図4及び8に示されたように、組織を根管から取り除くための切削表面を有するある形状の作動部分20が、歯内ファイル32のシャフト37に配置されている。ある実施態様においては、作動部分20はシャフト37の近位端34から遠位端又は先端36に伸長している。しかしながら、他の実施態様においては、シャフト37の一部分だけにしか切削表面を有していない。標準的な歯科用ハンドル38又は他の操作用器具が、好ましくは、シャフトの近位端34に、当業者によく知られた装着手段とそれに関連する構造(どのようなものでもよい)によって装着されている。シャフト20の先端40は、当業者によく知られたありとあらゆる形状(例えば、ノミ、コーン、弾丸、多面、及び/又はその類似形状)とすることができる。)
「[0048] The working portion 20 in its "shaped configuration" is preferably effectively tapered as shown by dotted lines "T" in FIG. 4. The effective tapering of the working portion 20 preferably corresponds to the tapering of a wider endodontic file as used in the final stage or stages of a root canal procedure and the actual tapering of the rod (i.e. the taper of the rod before setting into the shaped configuration) preferably corresponds to the tapering of a narrower endodontic file typically used in earlier stages. The effective tapering may be constant or varied along the length of the working portion 20. In alternate embodiments of the invention, the effective tapering may be substantially nontapered but the instrument may have an effective diameter along at least a portion of the instrument corresponding to the diameter of a typical wide file used in later stages of a root canal procedure. The effective taper of the working portion 20 may be a result of a combination of both the tapering of the rod 18 (if any) present prior to the shaping by heat/stress treatment and tapering imparted to the working portion by the heating/stressing process.」
(その「形付けられた形状」における作動部分20は、好ましくは、図4の点線「T」で示されたように、効果的にテーパーとなっている。作動部分20の効果的なテーパ形状は、好ましくは、最終段階又は根管処置の各段階において用いられるような、より大径な歯内ファイルのテーパー形状に対応しており、ロッドの実際のテーパー形状(つまり、形付けられた形状にセットされる前のロッドのテーパー)は、好ましくは、より早い段階で典型的に用いられる、より小径な歯内ファイルのテーパー形状に対応している。効果的なテーパー形状は、一定又は作動部分20の長さ方向に沿って変化する。本発明の別の実施態様においては、効果的なテーパー形状は、実質的にテーパー形状ではないが、器具は、根管処置の最終段階で用いられるような典型的な大径のファイルの直径に対応するよう、その少なくとも一部に沿って効果的な直径を有する。作動部分20の効果的なテーパー形状は、加熱/加圧処置によって形付けられるより前に存在していたロッド18のテーパー形状(どのようなものであっても)と、加熱/加圧工程で作動部分に加えられたテーパー形状との両方を組み合わせた結果である。)
「[0049] As explained further below, the working portion of the nickel titanium endodontic file 32 set in a two dimensionally rippled shaped configuration has the advantageous characteristic that it will expand laterally while in use during the progression of a root canal procedure. In one embodiment of the invention, the actual width of the rod 18 and associated tapering ? in contrast to the effective width and effective tapering of the working portion 20 in its shaped configuration ? substantially corresponds to the width and/or tapering of a narrow endodontic file used early in a root canal procedure. When an endodontic file as described herein is used in an endodontic procedure, the flexibility of the working portion 20 allows it to be stretched from its shaped configuration into a more rod-like, substantially straight configuration. This straightening may be performed by the endodontist substantially simultaneously with insertion of the working portion 20 into a canal or even prior to use in a root canal procedure. In some embodiments, the straightened configuration may not be entirely straight, but instead may be a configuration wherein the effective diameter of the working portion is less than the effective diameter of the working portion in its shaped configuration.」
(以下により詳しく説明されるとおり、2次元の波形に形付けられた形状にセットされた、ニッケル・チタニウムの歯内ファイル32の作動部分は、根管処置を進めるよう使用されている間に、側方に拡大するような高度な特徴を有する。本発明のある実施態様においては、ロッド18の実際の幅や関連するテーパー形状は、 -形付けられた形状における作動部分20の効果的な幅や効果的なテーパー形状とは対照的に- 根管処置の早い段階で使用される実質的にはより小径の歯内ファイル幅やテーパー形状に対応している。歯内ファイルがここで記載されたように歯内処置で用いられるときには、作動部分20の柔軟性は、形付けられた形状から、よりロッド様で実質的に直線状の形状に引き延ばされることを許容する。この直線状の形状への変化は、作動部分20を根管に挿入するのと実質的に同時に、または、根管処置で用いられるよりも前において、歯科医師によって行われてもよい。いくつかの実施態様において、直線状の形状はまったくの直線でなくてもよいが、しかし、その代わり、作動部分の効果的な直径が、その形付けられた形状における作動部分の効果的な直径よりも小さいような形状となっている。)
「[0050] The straightened configuration allows at least a portion of the working portion 20 to be easily inserted into the narrow root canal area 42 of a tooth 44 at the beginning stages of root canal boring. After insertion of the rippled extension into the root canal, the endodontic file 32 may be used by an endodontist in a similar manner to a typical endodontic file, such as by rotating and/or longitudinally reciprocating the instrument within the canal. As the instrument is rotated and/or reciprocated, the cutting surfaces on the working portion 20 displace internal tooth material 46 from the root canal 42.」
(根管穿孔の始めの段階では、作動部分20の少なくとも一部は、歯44の細い根管領域42に簡単に挿入されるよう直線状の形状となっている。根管内で波形に広がるよう挿入された後には、歯内ファイル32は、歯科医によって、根管内で器具を回転したり、長手方向に往復運動するなど、典型的な歯内ファイルと同じように使用される。器具が回転されたり、往復運動されたりするにつれ、作動部分20の切削表面は、根管42から歯内物質46を掻き出す。)
「[0051] When the endodontic file 32 is within the root canal, the temperature of the file 32 is preferably above its austenitic finish temperature due, at least in part, to the body temperature of the patient. Accordingly, the file 32 exhibits superelastic characteristics and exhibits internal forces as the file 32 attempts to return to its shaped configuration from the straightened configuration. The working portion 20 behaves as if it has a "memory" as it attempts to bring the working portion 20 substantially back to its shaped configuration.」
(歯内ファイル32が根管内にあるとき、ファイル32の温度は、少なくとも部分的には、患者の体温によってオーステナイト変位終了温度よりも高くなることが好ましい。それによって、ファイル32は、超弾性の性質を示すとともに、ファイル32が直線状の形状から、その形付けられた形状に戻そうとするかような内なる力を示す。作動部分20は、作動部分20を実質的に本来の形状に戻そうとするような記憶をあたかも有するかのように振る舞う。)

図4には、作動部分20が、テーパー形状であるとともに、長手方向に軸を有する点が図示されている。
また、図8には、歯科用ハンドル38は、シャフト37の近位端34に接続する接続部を備える点、及び、シャフト37は、2次元正弦波に形付けられた形状にあるとき根管42の内面に接している点が、それぞれ図示されている。

(イ)上記記載から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)の図4の図示事項とともに、[0050]及び[0051]に記載されたように、歯内ファイルの作動部分の一部が「直線状の形状」となること、また、「長手方向に往復運動」して使用されることを踏まえると、歯内ファイルは長手方向に軸を備えているといえる。
b 上記(ア)の図8の図示事項とともに、[0047]の「器具の2次元正弦波に形付けられた形状の好ましい実施態様において、図4及び8に示されたように、組織を根管から取り除くための切削表面を有するある形状の作動部分20が、歯内ファイル32のシャフト37に配置されている。」という記載を踏まえると、歯内ファイルの作動部分は、2次元正弦波に形付けられた形状にあるときには、根管の内面に適応した形状になっているといえる。
c 上記(ア)の[0049]の「この直線状の形状への変化は、作動部分20を根管に挿入するのと実質的に同時に、または、根管処置で用いられるよりも前において、歯科医師によって行われてもよい。」の記載から、歯内ファイルが根管処置で使用される前の段階においては、作動部分は直線状の形状になっているといえる。さらに、[0049]の「2次元の波形に形付けられた形状にセットされた、ニッケル・チタニウムの歯内ファイル32の作動部分は、根管処置を進めるよう使用されている間に、側方に拡大するような高度な特徴を有する。」という記載、及び、[0051]の「歯内ファイル32が根管内にあるとき、ファイル32の温度は、少なくとも部分的には、患者の体温によってオーステナイト変位終了温度よりも高くなることが好ましい。それによって、ファイル32は、超弾性の性質を示すとともに、ファイル32が直線状の形状から、その形付けられた形状に戻そうとするかような内なる力を示す。作動部分20は、作動部分20を実質的に本来の形状に戻そうとするような記憶をあたかも有するかのように振る舞う。」という記載とを併せて踏まえると、作動部分が、患者の体温によって温められて2次元の波形に形付けられた形状にあるときは、当該作動部分(歯内ファイル)はオーステナイト相の状態にあり、作動部分が、患者の体温により温められていない処置前の段階、つまり、オーステナイト変態終了温度よりも低い温度において直線状の形状にあるときは、当該作動部分(歯内ファイル)はマルテンサイト相の状態にあることは、[0007]及び[0008]の記載や技術常識を踏まえれば明らかである。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「根管に穿孔する歯内ファイルであって、前記歯内ファイルは長手方向の軸を備え、
根管から組織を取り除くための切削表面を有する作動部分を有し、前記作動部分は、前記歯内ファイルの歯科用ハンドルに装着される接続部を備え、
前記作動部分は、前記歯内ファイルが根管処置で使用される前の段階では、少なくとも一部は直線状の形状となって、前記歯内ファイルはマルテンサイト相の状態にあり、
前記作動部分は、前記歯内ファイルが根管処置の各段階では、根管の内面に適応した2次元正弦波に形付けられた形状になって、前記歯内ファイルがオーステナイト相の状態にあり、
前記作動部分は、患者の体温よりも低い温度であるオーステナイト変態終了温度よりも低い温度において前記直線状の形状にあり、患者の体温において前記2次元正弦波に形付けられた形状にある、歯内ファイル。」

ウ 引用発明との対比
引用発明の「根管」は、その機能及び作用からみて、本件補正発明の「患者の歯(2)の根管」に相当し、以下同様に、「歯内ファイル」は「器具(10)」に、「長手方向の軸」は「長手軸」に、「根管から組織を取り除くための切削表面を有する」は「歯(20)の根管(21)の壁を形成及び/または細工及び/または切削するように配置される」に、「作動部分」は「動作領域(11)」に、「歯科用ハンドル」は「支持体(14)」に、「装着される」は「固定されるように配置される」に、「接続部」は「保持用先端部(13)」に、「根管処置で使用される前の段階では」は「休止位置にあるときは」に、「直線状の形状」は「直線である立体形状の収縮形状」に、「マルテンサイト相の状態にあり」は「マルテンサイト相の状態にあるように配置され」に、「根管処置の各段階では」は「動作位置にあるときは」に、「内面」は「輪郭」に、「2次元正弦波に形付けられた形状」は「拡大構造化形状」に、「オーステナイト相の状態にあり」は「オーステナイト相の状態にあるように配置され」に、「歯内ファイル」は「歯内治療器具」に、それぞれ相当する。

してみると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「患者の歯の根管に穿孔する器具であって、前記器具は長手軸を備え、
歯の根管の壁を形成及び/または細工及び/または切削するように配置される動作領域を有し、前記動作領域は、前記器具の支持体に固定されるように配置される保持用先端部を備え、
前記動作領域は、前記器具が休止位置にあるときは、少なくとも一部が直線である立体形状の収縮形状になって、前記器具がマルテンサイト相の状態にあるように配置され、
前記動作領域は、前記器具が動作位置にあるときは、前記根管の輪郭に適応した拡大構造化形状になって、前記器具がオーステナイト相の状態にあるように配置される、歯内治療器具。」

(相違点1)
動作領域が収縮形状にあるのが、本件補正発明においては、0℃から室温までの第1の温度においてであるのに対して、引用発明においては、患者の体温よりも低い温度であるオーステナイト変態終了温度よりも低い温度においてである点。

(相違点2)
動作領域が拡大構造化形状にあるのが、本件補正発明においては、40℃以上の第2の温度においてであるのに対して、引用発明においては、患者の体温においてである点。

(相違点3)
本件補正発明においては、器具の支持体に組み込まれた加熱手段、または、外部手段によって、動作領域の温度上昇を加速させるのに対して、引用発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

エ 判断
(ア)相違点1について
歯科治療を、氷点下や体温よりも高い温度の環境下で行うことは通常ではおよそ想定できず、処置室の室温は0℃よりも高く、体温よりも低い温度であると考えるのが妥当である。
ここで、引用発明の歯内ファイルは、患者の根管を処置する前の段階、つまり、処置室内で患者に適用する前の段階にあっては収縮形状であることから、少なくとも処置室内の温度(室温)は、歯内ファイルのオーステナイト変態終了温度よりも低い温度、つまり、体温よりも低い温度でなくてはならないことは明らかである。
また、歯内ファイルが、室温でマルテンサイト相の状態であれば、室温よりも低い温度(例えば、0℃。)においてもマルテンサイト相の状態にあることは、技術常識からみて明らかである。
そうすると、相違点1に係る本件補正発明の構成は、実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)相違点2について
引用発明の歯内ファイルは、患者の体温において拡大構造化形状にあることから、患者の体温よりも高い40℃以上においてオーステナイト相の状態にあることは、[0007]、[0008]の記載及び技術常識からみて明らかである。
そうすると、相違点2に係る本件補正発明の構成は、実質的な相違点であるとはいえない。

なお、本願明細書の【0025】の「材料をマルテンサイト相からオーステナイト相にするため、材料に応じて、上昇させるなどの第1の温度変化を適用し、この温度変化は、0°から60℃、好ましくは25°から40℃の温度範囲内である。」という記載から、本件補正発明の作動領域についてマルテンサイト相からオーステナイト相への相変態の温度範囲が25°から40℃であるという前提に立ったうえで、本件補正発明の「40℃以上の第2の温度において前記拡大構造化形状にあり」という発明特定事項について、歯内ファイルが拡大構造化形状にあるのは、40℃以上であり、40℃未満においては拡大構造化形状にはないことを意味すると解釈して検討を進める。
カテーテル、カニューレ、電極など、体内に挿入する医療器具において、患者身体への挿入時には細径とし身体内での処置時には拡径して使用するものにおいて、当該医療器具の材料を形状記憶合金とし、そのオーステナイト変態終了温度を体温よりも高く50℃程度までの温度に設定することは、従来周知の技術である(必要とあらば、特開平2-309935号公報の2ページ左下欄9行ないし13行及び3ページ左上欄11行ないし左下欄8行、特開昭50-141187号公報の4ページ右上欄2行ないし右下欄4行等を参照)。
してみると、引用発明の歯内ファイルにおいて、オーステナイト変態終了温度を体温よりも高い40℃に設定することは、必要に応じて定めることのできる単なる設計事項に過ぎず、当業者にとって何ら困難性はない。

(ウ)相違点3について
カテーテル、カニューレ、電極など、体内に挿入する医療器具において、患者身体への挿入時には細径とし身体内での処置時には拡径して使用するものにおいて、当該医療器具の材料を形状記憶合金とし、体温以外の手段によっても温度上昇させることは、周知の技術である(必要とあらば、特開平2-309935号公報の3ページ左下欄5行ないし8行、特開昭50-141187号公報の5ページ左下欄15行ないし右下欄12行等を参照)。
してみると、引用発明において上記周知の技術を適用して、歯内ファイルを体温以外の加熱手段によっても温度上昇することで、上記相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとって何ら困難性はない。

(エ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記の周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

(オ)したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結果のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成28年3月3日付け手続補正書でした補正(以下、「本件補正2」という。)は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)、というものである。

●理由(新規事項)について
・請求項 1
同手続補正により、請求項1には「動作領域(11)は、0℃から室温までの第1の温度において前記収縮形状にあり、体温から45度までの第2の温度において前記拡大構造化形状にある」との補正がなされた。
しかしながら、翻訳文等には、動作領域(11)が拡大構造化形状にある温度が「体温から45度まで」の温度であることは明示的に記載がない。また、翻訳文等の記載及び出願時の技術常識を参酌したとしても、拡大構造化形状にある温度範囲の上限、下限の境界値が、45度、体温であることが自明であるとは認められない。
また、出願人は、「出願当初の明細書(国際公開番号:WO2012/079183)において記載されたものです。」と主張するが、明細書の具体的な記載箇所が示されておらず、補正内容が明細書のどの事項と対応するのか分からない。出願当初の明細書には、「体温」、「45度」の記載自体がない。

3 本件補正2前の本願発明
本件補正2前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年6月26日に提出された国内出願翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「歯内治療器具、とりわけ患者の歯根管に穿孔する器具であって、前記器具(10)は、長手軸を備え、
前記歯(20)の前記根管(21)の壁を形成および/または細工および/または切削するように配置される動作領域(11)を有し、前記動作領域(11)は、支持体(14)に固定されるように配置される保持用先端部(13)を備える器具において、
少なくとも前記動作領域(11)は、前記器具(10)が休止位置にあるときは、少なくとも一部が直線である立体形状の収縮形状になって、前記器具がいわゆるマルテンサイト相の状態にあるように配置され、器前記具が動作位置にあるときは、前記根管の輪郭に適応した拡大構造化形状になって、前記器具がオーステナイト相の状態にあるように配置され、前記マルテンサイト相から前記オーステナイト相への移行は、前記器具の温度に所定の第1の変化が起こることで引き起こされ、前記器具を前記オーステナイト相から前記マルテンサイト相へ戻すのは、前記器具の温度に所定の第2の変化が起こることで引き起こされることを特徴とする、器具。」

4 本件補正2
本件補正2により、本願発明は、動作領域(11)について、「0℃から室温までの第1の温度において前記収縮形状にあり、体温から45度までの第2の温度において前記拡大構造化形状にある」という発明特定事項が新たに追加されることとなった。

5 翻訳文等の記載事項
翻訳文等には、次のとおりの記載がある。
「【0025】
図1Aから図1Dに示した本器具は、術者がほぼ楕円形である患者の歯根管を、本質的に往復運動および本器具の長手軸周りの回転運動によって削り取れるように、柄の端部に固定するようになっている手動タイプの器具である。本器具10は、動作領域11を有し、この動作領域は、1つまたは複数の撚りを有する金属糸で作製され、支持体14に担持される保持用先端部13に続き、この支持体は、この場合、術者が本器具を操作できる柄である。図1Aは、歯20の根管21への挿入位置にある本器具10を示す。この位置では、器具10の動作領域11は、この場合はほぼ直線状のいわゆる収縮位置にあり、これによって器具を根管21に挿入しやすく、この管にみられるくびれ部16に容易に通すことができる。常温では、動作領域11は、この領域が作製される金属合金がいわゆる「形状記憶」の特性を有するため、ほぼ直線の収縮形状を維持する。それ自体が公知のこの特性によって、適切な金属合金が、特定の温度範囲で第1の立体形状になることができ、別の温度に変化した後は異なる立体形状になることができる。この場合、ニッケルチタンベースの合金で作製された器具の動作領域11の形状は、常温、例えば0から35℃、好ましくは10から30℃であり、とりわけ約20℃でほぼ直線であり、さらに高い温度では拡大構造化形状になる。「低」温では、材料は、いわゆる「マルテンサイト」相の状態にあり、器具を根管に挿入しやすい比較的柔軟な形態である。さらに高い温度では、材料は、いわゆる「オーステナイト」相に入り、器具は、管がどのような輪郭であっても、管壁の加工が可能な構造化形状になる。材料をマルテンサイト相からオーステナイト相にするため、材料に応じて、上昇させるなどの第1の温度変化を適用し、この温度変化は、0°から60℃、好ましくは25°から40℃の温度範囲内である。材料を今度はオーステナイト相からマルテンサイト相に戻すため、材料に応じて、変態温度と呼ばれる値まで低下させるなどの第2の温度変化を適用し、この温度変化は、ニッケルからなる特定の合金の場合は60°から0℃、好ましくは40°から25℃の温度範囲内である。」
「【0029】
図2Aから図2Dは、根管が2つある臼歯タイプの歯20の管21の一方に差し込んだ電動タイプの本発明による器具10を示す。図2Aおよび図2Cでは、収縮形状にある動作領域11は、ほぼ直線であり、これによって根管21に容易に挿入することができる。図2Bおよび図2Dでは、動作領域11は、患者の身体との接触、あるいは器具10を担持する支持体14内にある加熱抵抗(図示せず)を介してのいずれかにより温度が上昇したことで、拡大構造化形状になっている。図示した例では、器具は、機械的に回転駆動され、構造化した状態では螺旋形状になっている。器具10の動作領域11は、このほか、動作領域の断面が、ある程度円錐形である根管21の断面に適応できるように、十分に柔らかい硬度を備えている。このようにするため、動作領域11は、形状記憶性を有する金属合金糸で作製され、この合金糸は、温度上昇または温度変化を受けて拡大構造化形状になる。・・・(後略)」

6 判断
(1)本件補正2によって新たに追加された「0℃から室温までの第1の温度において前記収縮形状にあり、」について
【0025】には、「動作領域11の形状は、常温、例えば0から35℃、好ましくは10から30℃であり、とりわけ約20℃でほぼ直線であり、さらに高い温度では拡大構造化形状になる。」との記載がある。
歯科治療を35℃よりも高い温度の環境下で行うことは通常ではおおよそ想定できないことから、動作領域11の形状が0℃から室温の間でほぼ直線(つまり収縮形状の状態)であることが、明細書に記載されているといえる。
よって、本件補正2によって新たに追加された「0℃から室温までの第1の温度において前記収縮形状にあり、」は、翻訳文等の明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであり、新たな技術的事項を導入するものではない。

(2)本件補正2によって新たに追加された「体温から45度までの第2の温度において前記拡大構造化形状にある」について
まず、【0025】の「材料をマルテンサイト相からオーステナイト相にするため、材料に応じて、上昇させるなどの第1の温度変化を適用し、この温度変化は、0°から60℃、好ましくは25°から40℃の温度範囲内である。」との記載から、第1の温度変化は、材料をマルテンサイト相からオーステナイト相にするための温度変化であるといえ、「0°から60℃、好ましくは25°から40℃」という温度範囲内では、材料はマルテンサイト相からオーステナイト相へ変態中であると解するのが妥当であり、この温度範囲において完全にオーストナイト相の状態(つまり、拡大構造化形状)であるということまでは、技術常識を踏まえても解することはできない。さらに、そのように解することができるとする証拠もない。
次に、【0029】の「動作領域11は、患者の身体との接触、あるいは器具10を担持する支持体14内にある加熱抵抗(図示せず)を介してのいずれかにより温度が上昇したことで、拡大構造化形状になっている。」という記載から、患者との接触、つまり、体温により材料の温度を上昇することについては記載されているといえるものの、体温よりも高い温度において拡大構造化形状となる、つまり、体温がマルテンサイト相からオーステナイト相へ変態する臨界値であるとまで記載されているとはいえず、そのような示唆がなされていると解することはできない。
仮に、拡大構造化形状をマルテンサイト相からオーステナイト相への変態中の段階(完全なオーステナイト相ではなく、マルテンサイト相からオーステナイト相への変態が少しでも進んだ状態)であると解したとしても、拡大構造化形状が「体温から45度まで」の温度範囲であるとすることについて、【0025】及び【0029】はじめ、翻訳文等には一切記載も示唆もなく、翻訳文等の記載をそのように解することが技術常識であるとする証拠もない。(翻訳文等においては、体温はあくまでも加熱手段としているに過ぎず、また、体温よりも低い温度において材料がマルテンサイト相からオーステナイト相へ変態しないと記載されているわけではなく、そのような示唆もない。むしろ、【0025】には、「材料をマルテンサイト相からオーステナイト相にするため、材料に応じて、上昇させるなどの第1の温度変化を適用し、この温度変化は、0°から60℃、好ましくは25°から40℃の温度範囲内である。」と記載されており、体温(約36℃から37℃)よりも低い温度の範囲においても、マルテンサイト相からオーステナイト相へ変態することについて記載されているといえる。)
してみると、本件補正2によって新たに追加された「体温から45度までの第2の温度において前記拡大構造化形状にある」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといわざるを得ない。

(3)上記(1)及び(2)から、本件補正2は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといえる。
よって、本願は、本件補正2が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、本件補正2が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-17 
結審通知日 2019-05-28 
審決日 2019-06-10 
出願番号 特願2013-543481(P2013-543481)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61C)
P 1 8・ 57- Z (A61C)
P 1 8・ 572- Z (A61C)
P 1 8・ 574- Z (A61C)
P 1 8・ 561- Z (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川島 徹  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 関谷 一夫
芦原 康裕
発明の名称 歯根管に穿孔するための歯内治療器具  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  
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