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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1356763
審判番号 不服2018-12883  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-27 
確定日 2019-11-07 
事件の表示 特願2014-194836「太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日出願公開、特開2016- 66709〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月25日の出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年 3月27日:拒絶理由の通知
平成30年 6月 1日:意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月25日:拒絶査定
平成30年 9月27日:審判請求書、手続補正書の提出
令和 元年 5月29日:拒絶理由の通知
令和 元年 7月30日:意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和元年7月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
主面を有する一導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の前記主面上に形成される一導電型の第1の半導体層と、
前記半導体基板の前記主面上に形成される他導電型の第2の半導体層と、
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる領域において、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との間に設けられる絶縁層とを備え、
前記第1の半導体層が前記半導体基板と接合する第1の領域と、
前記第2の半導体層が前記半導体基板と接合する第2の領域と、
前記絶縁層が設けられる第3の領域とを有し、
前記第1の領域が、所定方向に延びる複数の第1のフィンガー部と、前記複数の第1のフィンガー部の一方端を接続する第1のバスバー部とを有し、
前記第2の領域が、前記所定方向に延びる複数の第2のフィンガー部と、前記複数の第2のフィンガー部の一方端を接続する第2のバスバー部とを有し、
前記第1のフィンガー部及び前記第2のフィンガー部が互いに間挿し合っており、
前記第3の領域が、前記第1のフィンガー部において前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる前記領域に位置するとともに、前記第1のバスバー部において前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる前記領域に位置し、
前記第1のバスバー部に位置する前記第3の領域の前記絶縁層は、前記第1の半導体層又は前記第2の半導体層の下方に位置し、
前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層はアモルファスシリコンを含み、
前記絶縁層は窒化ケイ素を含む、太陽電池。」

第3 拒絶の理由
令和元年5月29日付けで当審が通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

[理由1](新規性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2](進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項 1-3
・引用文献等 1

・請求項 1-3
・引用文献等 2

<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2012-33810号公報
引用文献2.特開2013-30615号公報

第4 引用文献について
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。

「【0014】
半導体基板10は、n型またはp型の導電型を有する結晶性半導体基板により構成されている。結晶性半導体基板の具体例としては、例えば、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板などの結晶シリコン基板が挙げられる。
【0015】
なお、太陽電池がHIT構造を有するものでない場合は、半導体基板を結晶性半導体基板以外の半導体基板により構成することができる。例えば、GaAsやInPなどからなる化合物半導体基板を半導体基板10に替えて用いることができる。以下、本実施形態では、半導体基板10がn型の単結晶シリコン基板により構成されている例について説明する。」

「【0020】
半導体基板10の裏面10bの上には、IN積層体12とIP積層体13とが形成されている。図1に示すように、IN積層体12とIP積層体13とのそれぞれは、くし歯状に形成されている。IN積層体12とIP積層体13とは互いに間挿し合うように形成されている。このため、裏面10b上において、IN積層体12とIP積層体13とは、交差幅方向yに垂直な方向xに沿って交互に配列されている。方向xにおいて隣り合うIN積層体12とIP積層体13とは接触している。すなわち、本実施形態では、IN積層体12とIP積層体13とによって、裏面10bの実質的に全体が被覆されている。なお、IN積層体12の幅W1(図2を参照)と、方向xにおけるIN積層体12の間隔W2とのそれぞれは、例えば、100μm?1.5mm程度とすることができる。幅W1と間隔W2とは、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
IN積層体12は、裏面10bの上に形成されているi型非晶質半導体層12iと、i型非晶質半導体層12iの上に形成されているn型非晶質半導体層12nとの積層体により構成されている。i型非晶質半導体層12iは、上記i型非晶質半導体層17iと同様に、水素を含むi型アモルファスシリコンからなる。i型非晶質半導体層12iの厚みは、発電に実質的に寄与しない程度の厚みである限りにおいて特に限定されない。i型非晶質半導体層12iの厚みは、例えば、数Å?250Å程度とすることができる。
【0022】
n型非晶質半導体層12nは、上記n型非晶質半導体層17nと同様に、n型のドーパントが添加されており、半導体基板10と同様に、n型の導電型を有する。具体的には、本実施形態では、n型非晶質半導体層12nは、水素を含むn型アモルファスシリコンからなる。n型非晶質半導体層12nの厚みは、特に限定されない。n型非晶質半導体層12nの厚みは、例えば、20Å?500Å程度とすることができる。
【0023】
IN積層体12の方向xにおける中央部を除く両端部の上には、絶縁層18が形成されている。IN積層体12の方向xにおける中央部は、絶縁層18から露出している。絶縁層18の方向xにおける幅W3は特に限定されず、例えば、幅W1の約1/3程度とすることができる。また、絶縁層18間の方向xにおける間隔W4も特に限定されず、例えば、幅W1の約1/3程度とすることができる。
【0024】
本実施形態では、絶縁層18は、窒化シリコンにより形成されている。もっとも、絶縁層18の材質は、特に限定されない。絶縁層18は、例えば、酸化シリコン、酸窒化シリコンなどにより形成してもよい。また、絶縁層18は、水素を含んでいてもよい。
【0025】
IP積層体13は、裏面10bのIN積層体12から露出した部分と、絶縁層18の端部との上に形成されている。このため、IP積層体13の両端部は、IN積層体12と高さ方向zにおいて重なっている。
【0026】
IP積層体13は、裏面10bの上に形成されているi型非晶質半導体層13iと、i型非晶質半導体層13iの上に形成されているp型非晶質半導体層13pとの積層体により構成されている。
【0027】
i型非晶質半導体層13iは、水素を含むi型アモルファスシリコンからなる。i型非晶質半導体層13iの厚みは、発電に実質的に寄与しない程度の厚みである限りにおいて特に限定されない。i型非晶質半導体層13iの厚みは、例えば、数Å?250Å程度とすることができる。
【0028】
p型非晶質半導体層13pは、p型のドーパントが添加されており、p型の導電型を有する非晶質半導体層である。具体的には、本実施形態では、p型非晶質半導体層13pは、水素を含むp型のアモルファスシリコンからなる。p型非晶質半導体層13pの厚みは、特に限定されない。p型非晶質半導体層13pの厚みは、例えば、20Å?500Å程度とすることができる。
【0029】
このように、本実施形態では、結晶性の半導体基板10とp型非晶質半導体層13pとの間に、実質的に発電に寄与しない程度の厚みのi型非晶質半導体層13iが設けられたHIT構造が構成されている。本実施形態のように、HIT構造を採用することにより、半導体基板10とIN積層体12及びIP積層体13との接合界面における小数キャリアの再結合を抑制することができる。その結果、光電変換効率の向上を図ることができる。
【0030】
なお、非晶質半導体層17、12、13のそれぞれは水素を含むものであることが好ましい。
【0031】
n型非晶質半導体層12nの上には、電子を収集するn側電極14が形成されている。一方、p型非晶質半導体層13pの上には、正孔を収集するp側電極15が形成されている。p側電極15とn側電極14とは、電気的に絶縁されている。なお、絶縁層18の上におけるn側電極14とp側電極15との間の間隔W5は、例えば、幅W3の1/3程度とすることができる。
【0032】
上述の通り、本実施形態では、IN積層体12とIP積層体13とのそれぞれはくし歯状に形成されている。このため、n側電極14及びp側電極15のそれぞれは、バスバー及び複数のフィンガーを含むくし歯状に形成されている。もっとも、n側電極14及びp側電極15のそれぞれは、複数のフィンガーのみにより構成されており、バスバーを有さない所謂バスバーレス型の電極であってもよい。」

「【0039】
次に、ステップS2において、半導体基板10の受光面10aの上にi型非晶質半導体層17iとn型非晶質半導体層17nとを形成すると共に、裏面10bの上にi型非晶質半導体層21とn型非晶質半導体層22とを形成する。i型非晶質半導体層17i,21及びn型非晶質半導体層17n,22のそれぞれの形成方法は、特に限定されない。i型非晶質半導体層17i,21及びn型非晶質半導体層17n,22のそれぞれは、例えば、プラズマCVD法等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成することができる。
【0040】
次に、ステップS3において、n型非晶質半導体層17nの上に絶縁層16を形成すると共に、n型非晶質半導体層22の上に絶縁層23を形成する。なお、絶縁層16は、n型非晶質半導体層17nの実質的に全体を覆うように形成する一方、絶縁層23は、例えば、メタルマスクなどを用いて、n型非晶質半導体層22の一部を覆うように形成する。なお、絶縁層23は、n型非晶質半導体層22の実質的に全体を覆うように形成した絶縁層の一部をエッチングすることにより形成してもよい。
【0041】
本実施形態では、絶縁層23として、第1の絶縁層23aと、第2の絶縁層23bとの積層体を形成する。第1及び第2の絶縁層23a、23bは、SiとNとの比(Si/N)が、第2の絶縁層23bの方が第1の絶縁層23aよりも小さくなるように形成する。このため、絶縁層23のn型非晶質半導体層22とは反対側の第1の表層23AにおけるSi/Nが、絶縁層23のn型非晶質半導体層22側の第2の表層23BにおけるSi/Nよりも小さくなる。より具体的には、第1の絶縁層23aの屈折率が2.1?2.3となり、第2の絶縁層23bの屈折率が1.9?2.1となるように、第1及び第2の絶縁層23a、23bを形成することが好ましい。」

「【0043】
次に、ステップS4において、絶縁層23をマスクとして用いて、i型非晶質半導体層21とn型非晶質半導体層22とを、NaOHやKOH等を含むアルカリ性のエッチング液を用いてエッチングすることにより、i型非晶質半導体層21及びn型非晶質半導体層22の絶縁層23により覆われている部分以外の部分を除去する。これにより、裏面10bのうち、上方に絶縁層23が位置していない部分を露出させると共に、半導体層21,22から、i型非晶質半導体層12iとn型非晶質半導体層12n(図2を参照)とを形成する。」

「【0049】
次に、ステップS6において、裏面10bを覆うように、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25とをこの順番で順次形成する。本実施形態では、ステップS5において、半導体基板10の裏面10bが洗浄されているため、半導体基板10とi型非晶質半導体層24とを好適に接合させることができる。従って、高い光電変換効率を得ることができる。
【0050】
なお、非晶質半導体層24,25の形成方法は特に限定されない。非晶質半導体層24,25は、例えば、スパッタリング法やCVD法などの薄膜形成法により形成することができる。
【0051】
次に、ステップS7において、非晶質半導体層24,25の第1の絶縁層23aの上に位置している部分の一部分をエッチングする。これにより、非晶質半導体層24,25からi型非晶質半導体層13iとp型非晶質半導体層13pとを形成する。」

「【0055】
次に、図3に示すように、ステップS8において第1の絶縁層23aのエッチングを行う。具体的には、ステップS7におけるエッチングにより一部分が除去された非晶質半導体層24,25からなる非晶質半導体層13i、13pの上から、エッチング剤を用いて、第1の絶縁層23aの露出部をエッチングにより除去する。これにより、n型非晶質半導体層12nを露出させると共に、第1の絶縁層23aから絶縁層18を形成する。」

図2の記載から、IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域において、IN積層体12とIP積層体13との間に設けられる絶縁層18を備えていることが、見て取れる。


2 引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。

「n型の導電型を有する結晶性半導体基板10により構成され、
半導体基板10の裏面10bの上には、IN積層体12とIP積層体13とが形成され、
IN積層体12は、裏面10bの上に形成されているi型非晶質半導体層12iと、i型非晶質半導体層12iの上に形成されているn型非晶質半導体層12nとの積層体により構成され、
IP積層体13は、裏面10bの上に形成されているi型非晶質半導体層13iと、i型非晶質半導体層13iの上に形成されているp型非晶質半導体層13pとの積層体により構成され、
IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域において、IN積層体12とIP積層体13との間に設けられる絶縁層18を備え、
半導体基板10とIN積層体12及びIP積層体13とを接合し、
IN積層体12とIP積層体13とのそれぞれは、くし歯状に形成され、IN積層体12とIP積層体13とは互いに間挿し合うように形成され、
n型非晶質半導体層12nの上には、電子を収集するn側電極14が形成され、p型非晶質半導体層13pの上には、正孔を収集するp側電極15が形成され、
n側電極14及びp側電極15のそれぞれは、バスバー及び複数のフィンガーを含むくし歯状に形成され、
絶縁層23として、第1の絶縁層23aと、第2の絶縁層23bとの積層体を形成し、絶縁層23をマスクとして用いて、エッチングすることにより、i型非晶質半導体層21及びn型非晶質半導体層22の絶縁層23により覆われている部分以外の部分を除去して、裏面10bのうち、上方に絶縁層23が位置していない部分を露出させると共に、半導体層21,22から、i型非晶質半導体層12iとn型非晶質半導体層12nとを形成し、
裏面10bを覆うように、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25とをこの順番で順次形成し、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25の一部分がエッチングにより除去され、絶縁層23aの露出部をエッチングにより除去し、n型非晶質半導体層12nを露出させると共に、第1の絶縁層23aから絶縁層18が形成され、
n型非晶質半導体層12nは、n型アモルファスシリコンからなり、p型非晶質半導体層13pは、p型のアモルファスシリコンからなり、
絶縁層18は、窒化シリコンにより形成されている、
太陽電池。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「n型の導電型を有する結晶性半導体基板10」は、本願発明の「一導電型の半導体基板」に、
引用発明の「『半導体基板10の裏面10bの上に』『形成され』、『n型非晶質半導体層12nとの積層体により構成され』た『IN積層体12』」は、本願発明の「前記半導体基板の前記主面上に形成される一導電型の第1の半導体層」に、
引用発明の「『半導体基板10の裏面10bの上に』『形成され』、『p型非晶質半導体層13pとの積層体により構成され』た『IP積層体13』」は、本願発明の「前記半導体基板の前記主面上に形成される他導電型の第2の半導体層」に、
引用発明の「IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域において、IN積層体12とIP積層体13との間に設けられる絶縁層18」は、本願発明の「前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる領域において、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との間に設けられる絶縁層」に、
引用発明の「『半導体基板10とIN積層体12とを接合』する領域」は、本願発明の「前記第1の半導体層が前記半導体基板と接合する第1の領域」に、
引用発明の「『半導体基板10と』『IP積層体13とを接合』する領域」は、本願発明の「前記第2の半導体層が前記半導体基板と接合する第2の領域」に、
引用発明の「『絶縁層18』が設けられる領域」は、本願発明の「絶縁層が設けられる第3の領域」に、
引用発明の「『n型非晶質半導体層12nの上には、電子を収集するn側電極14が形成され、』『n側電極14』『は、バスバー及び複数のフィンガーを含む』」は、本願発明の「前記第1の領域が、所定方向に延びる複数の第1のフィンガー部と、前記複数の第1のフィンガー部の一方端を接続する第1のバスバー部とを有し」に、
引用発明の「『p型非晶質半導体層13pの上には、正孔を収集するp側電極15が形成され、』『p側電極15』『は、バスバー及び複数のフィンガーを含む』」は、本願発明の「前記第2の領域が、前記所定方向に延びる複数の第2のフィンガー部と、前記複数の第2のフィンガー部の一方端を接続する第2のバスバー部とを有し」に、
引用発明の「『IN積層体12とIP積層体13とのそれぞれは、くし歯状に形成され、IN積層体12とIP積層体13とは互いに間挿し合うように形成され、』『n側電極14及びp側電極15のそれぞれは、』『複数のフィンガーを含むくし歯状に形成され』」は、本願発明の「前記第1のフィンガー部及び前記第2のフィンガー部が互いに間挿し合っており」に、
引用発明の「『n型非晶質半導体層12nの上には、電子を収集するn側電極14が形成され、p型非晶質半導体層13pの上には、正孔を収集するp側電極15が形成され、』『n側電極14及びp側電極15のそれぞれは、』『複数のフィンガーを含』み、『絶縁層18』は、『IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域において、IN積層体12とIP積層体13との間に設けられる』」は、本願発明の「前記第3の領域が、前記第1のフィンガー部において前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる前記領域に位置する」に、
引用発明の「n型非晶質半導体層12nは、n型アモルファスシリコンからなり、p型非晶質半導体層13pは、p型のアモルファスシリコンからなり」は、本願発明の「前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層はアモルファスシリコンを含み」に、
引用発明の「絶縁層18は、窒化シリコンにより形成されている」は、本願発明の「前記絶縁層は窒化ケイ素を含む」に、
引用発明の「太陽電池」は、本願発明の「太陽電池」に、
それぞれ相当する。

2 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「主面を有する一導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の前記主面上に形成される一導電型の第1の半導体層と、
前記半導体基板の前記主面上に形成される他導電型の第2の半導体層と、
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる領域において、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との間に設けられる絶縁層とを備え、
前記第1の半導体層が前記半導体基板と接合する第1の領域と、
前記第2の半導体層が前記半導体基板と接合する第2の領域と、
前記絶縁層が設けられる第3の領域とを有し、
前記第1の領域が、所定方向に延びる複数の第1のフィンガー部と、前記複数の第1のフィンガー部の一方端を接続する第1のバスバー部とを有し、
前記第2の領域が、前記所定方向に延びる複数の第2のフィンガー部と、前記複数の第2のフィンガー部の一方端を接続する第2のバスバー部とを有し、
前記第1のフィンガー部及び前記第2のフィンガー部が互いに間挿し合っており、
前記第3の領域が、前記第1のフィンガー部において前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる前記領域に位置し、
前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層はアモルファスシリコンを含み、
前記絶縁層は窒化ケイ素を含む、太陽電池。」

(相違点)
絶縁層が設けられる第3の領域について、本願発明は「前記第1のバスバー部において前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる前記領域に位置し、前記第1のバスバー部に位置する前記第3の領域の前記絶縁層は、前記第1の半導体層又は前記第2の半導体層の下方に位置し」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を採用しているのか明らかでない点で一応相違する。

第6 判断
1 引用発明は「IN積層体12とIP積層体13とのそれぞれは、くし歯状に形成され、IN積層体12とIP積層体13とは互いに間挿し合うように形成され、n型非晶質半導体層12nの上には、電子を収集するn側電極14が形成され、」「n側電極14及びp側電極15のそれぞれは、バスバー及び複数のフィンガーを含むくし歯状に形成され、」「絶縁層23として、第1の絶縁層23aと、第2の絶縁層23bとの積層体を形成し、絶縁層23をマスクとして用いて、エッチングすることにより、i型非晶質半導体層21及びn型非晶質半導体層22の絶縁層23により覆われている部分以外の部分を除去して、裏面10bのうち、上方に絶縁層23が位置していない部分を露出させると共に、半導体層21,22から、i型非晶質半導体層12iとn型非晶質半導体層12nとを形成し」と特定され、絶縁層23をマスクとして用いて、エッチングし、IN積層体12(i型非晶質半導体層12iとn型非晶質半導体層12n)を形成していることから、IN積層体12の上のn側電極14のバスバーの部分の高さ方向zにおいて重なっている部分にも絶縁層23が位置している。

2 次に、引用発明は「裏面10bを覆うように、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25とをこの順番で順次形成し、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25の一部分がエッチングにより除去され、絶縁層23aの露出部をエッチングにより除去し、n型非晶質半導体層12nを露出させると共に、第1の絶縁層23aから絶縁層18が形成され、」と特定されていることから、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25の一部分がエッチングにより除去された領域に対応する絶縁層23aが除去される領域以外は、絶縁層18として形成されている。

3 上記1及び2から、引用発明において、i型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25の一部分がエッチングにより除去された領域に対応する絶縁層23aが除去される領域以外は、絶縁層18として形成されていることになり、依然として、IN積層体12の上のn側電極14のバスバーの部分の高さ方向zにおいて重なっている部分にも絶縁層18が位置し、当該絶縁層18の上にi型非晶質半導体層24とp型非晶質半導体層25との積層体により構成されたIP積層体13が形成されている。
すなわち、n側電極14のバスバー上においてもすべてエッチングする必要はないから、n側電極14のバスバー上のIN積層体12上の絶縁層18及びIP積層体13が除去された部分以外には、絶縁層18が、IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域に位置し、絶縁層18は、IP積層体13の下方に位置していることとなる。

4 そうすると、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

5 また、仮に、上記相違点が実質的な相違点であった場合について検討する。

(1)まず、本願発明の「前記第1のバスバー部において前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とが重なる前記領域に位置し、前記第1のバスバー部に位置する前記第3の領域の前記絶縁層は、前記第1の半導体層又は前記第2の半導体層の下方に位置し」の特定事項は、第1のバスバー部の一部のみにおいて第1の半導体層と第2の半導体層とが重なる前記領域に位置し、第1のバスバー部の一部のみに位置する第3の領域の絶縁層は、第1の半導体層又は第2の半導体層の下方に位置する構成を除外するものではない。

(2)引用発明のバスバーについての検討
ア 引用文献1には「【0062】 次に、図12に示すように、導電層26,27の絶縁層18の上に位置している部分を分断する。これにより、導電層26,27から第1及び第2の導電層19a、19bが形成される。なお、導電層26,27の分断は、例えばフォトリソグラフィー法などにより行うことができる。」、「【0072】 また、第1及び第2の導電層19a、19bの分断を絶縁層18の上で行うため、第1及び第2の導電層19a、19bの分断時にn型非晶質半導体層12nやp型非晶質半導体層13pが損傷しにくい。」と記載されていることから、p側電極15のフィンガーとn側電極14のバスバーとの間の分断する部分にも絶縁層が設けられていると考えるのが自然である。

イ そして、図2、図12の記載から、絶縁層18上の分断する部分の両側にも、絶縁層18が、IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域に位置し、絶縁層18は、IP積層体13の下方に位置していることが見て取れる。

ウ 上記ア、イから、p側電極15のフィンガーとn側電極14のバスバーとの間の分断する部分の両側、つまり、p側電極15のフィンガーに対向するn側電極14のバスバーの少なくとも一部においても、絶縁層18が、IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域に位置し、絶縁層18は、IP積層体13の下方に位置するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである

(3)そうすると、仮に、本願発明と引用発明との間に差異があるとしても、当業者が引用発明に基づいて容易に想到し得たことであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第7 審判請求人の主張について
1 審判請求人は、令和元年7月30日付けの意見書において、「一方、引用文献1には、このような本願発明のプロセスが開示されていません。つまり、引用文献1では、図8から図9のプロセスにおいて、n側電極14のフィンガー部上の第1の絶縁層23aの上のi型非晶質半導体層24及びp型非晶質半導体層25の一部を除去する際に、n側電極14のバスバー部上のi型非晶質半導体層24及びp型非晶質半導体層25を残すことについては記載も示唆すらもされていません。むしろ、当業者であれば、バスバー部上にi型非晶質半導体層24及びp型非晶質半導体層25を残すことはせず、フィンガー部と同じようにバスバー部上のi型非晶質半導体層24及びp型非晶質半導体層25をエッチング除去する方が自然であります。」と主張している。

2 審判請求人は、平成30年6月1日付けの意見書において、「本願発明の太陽電池に係る絶縁層について、第1のバスバー部の一部のみに形成されることを除外した記載はありません。」と主張しており、上記第6「5」にも記載したように、本願発明は、第3の領域が、第1のバスバー部の一部のみにおいて第1の半導体層と第2の半導体層とが重なる領域に位置し、第1のバスバー部の一部のみに位置する第3の領域の絶縁層は、第1の半導体層又は第2の半導体層の下方に位置する構成を除外するものではない。

3 次に、引用文献1の図2、図12の記載から、n側電極14のフィンガー上のIN積層体12上の絶縁層18及びIP積層体13が除去された部分以外には、絶縁層18が、IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域に位置し、絶縁層18は、IP積層体13の下方に位置していることが見て取れる(図2において、幅W3の領域のうちn側電極14に対応する領域)。

4 そして、仮に、審判請求人が主張するように、フィンガー部と同じようにバスバー部を形成する場合を検討する。
そうすると、上記3のフィンガーと同じようにバスバーが形成されるので、n側電極14のバスバー上のIN積層体12上の絶縁層18及びIP積層体13が除去された部分以外のバスバーにおいて、絶縁層18が、IN積層体12とIP積層体13とが重なる領域に位置し、絶縁層18は、IP積層体13の下方に位置していることとなる。

以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-05 
結審通知日 2019-09-10 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2014-194836(P2014-194836)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河村 麻梨子竹村 真一郎  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
野村 伸雄
発明の名称 太陽電池  
代理人 新居 広守  
代理人 寺谷 英作  
代理人 道坂 伸一  

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