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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1356764 |
審判番号 | 不服2018-13638 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-12 |
確定日 | 2019-11-07 |
事件の表示 | 特願2016-39443「モータ付ギアボックス」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月7日出願公開、特開2017-158303〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年3月1日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 3月 2日 :手続補正書の提出 平成30年 2月15日付け:拒絶理由通知書 平成30年 4月 4日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 7月 5日付け:拒絶査定 平成30年10月12日 :審判請求書、手続補正書の提出 平成30年11月21日作成:前置報告書 平成31年 2月 4日 :上申書の提出 第2 平成30年10月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年10月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「 【請求項1】 回転軸を有するモータと、 前記モータの回転を伝達する複数のギアと、前記モータ及び前記複数のギアを収容する筐体と、を含み、 前記複数のギアは、前記回転軸に取り付けられたウォームギアと、前記ウォームギアに接続される第1ギアと、出力ギアと、当該第1ギアと当該出力ギアに接続される第2ギアと、を備え、 前記第2ギアは、前記第1ギアと前記出力ギアの間に配置され、 前記モータの径方向において、前記出力ギアは前記モータに対向しており、 前記筐体は、 振動可能な第1面部と前記第1面部を囲む第1外壁部とを有する第1筐体と、 振動可能な第2面部と前記第2面部を囲む第2外壁部とを有する第2筐体と、を備え、 前記第1面部と前記第2面部が、前記ウォームギア側のモータの端部及び前記複数のギアに囲われた領域内に設けられた1つの連結部で連結されており、 前記連結部は、前記筐体内において前記モータ及び前記複数のギアに干渉しない空間に設けられている、モータ付ギアボックス。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年4月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「 【請求項1】 モータと、前記モータの回転を伝達する複数のギアと、前記モータ及び前記複数のギアを収容する筐体と、を含み、 前記筐体は、 第1面部と前記第1面部を囲む第1外壁部とを有する第1筐体と、 第2面部と前記第2面部を囲む第2外壁部とを有する第2筐体と、を備え、 前記第1面部と前記第2面部が、前記モータ及び前記複数のギアに囲われた領域内に設けられた1つの連結部で連結されている、モータ付ギアボックス。」 2 補正の適否 本件補正により、本件補正前の請求項9-12は削除され、本件補正前後で請求項2-8の記載は同じであるから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に対応し、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「モータ」、「複数のギア」、「第1面部」、「第2面部」及び「連結部」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献である、特開2009-106100号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(なお、下線は当審において付加したものである。) a 「【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば車両用空調装置における送風経路切換ドアを作動させるためのモータアクチュエータに関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来、この種のモータアクチュエータでは、第1及び第2ケースからなるケース本体の内部に、駆動源としてのモータと該モータに連結された減速機構とが支持固定されるとともに、ケース本体にはモータの駆動力を減速機構を介して出力する出力軸が回動可能に支持されている(例えば特許文献1参照)。このようなモータアクチュエータにおいて、第1及び第2ケースはその少なくとも一方が内部部品を収容可能なカップ状に形成され、その側壁部分において第1及び第2ケースは互いに連結固定されるようになっている。 【特許文献1】特開2006-254534号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかしながら、上記のようなモータアクチュエータでは、ケースの側壁部分のみで第1及び第2ケースが連結固定されているため、第1及び第2ケースの中央部が互いに接近する方向、若しくは離間する方向に容易に撓んでしまう。そして、その撓みによって第1ケースと第2ケースとの位置ズレが生じ、駆動時においてモータや出力軸等から発生する振動による騒音レベルが増大してしまう虞があった。特に、ケースは樹脂よりなるため、その成形時に発生する反りによってケース中央部が顕著に撓み易くなってしまう虞がある。また、ロータがステータの外側に配置されるアウタロータ型のモータを用いた場合には、ステータはモータの反出力側である基端部側のみで、所謂片持ち状態で支持されるため、モータの支持が不安定となり、上記のような騒音の問題は特に顕著なものとなる。 【0004】 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、第1ケースと第2ケースとの組み付け精度を向上させ、駆動時における騒音の発生を抑制することができるモータアクチュエータを提供することにある。」 b 「【0019】 次に、各種の切換ドア7を駆動するモータアクチュエータ8について図2?4に従って説明する。モータアクチュエータ8における扁平箱状をなすケース本体は、平面視で略四角形のカップ状をなす第1ケースとしてのケース10(図3参照)と、同様にカップ状をなすとともにケース10の開口を覆う第2ケースとしてのケースカバー11とが組み付け方向(図2及び図3における紙面直交方向)に組み付けられてなる。図3に示すように、ケース10は板状の底部10aと、該底部10aの外周端部から直交方向(図3における紙面直交方向)に延びる側壁10bとから形成されるとともに、そのケース10の内部には駆動源としてのブラシレスモータ12と減速機構13とが駆動連結された状態で収容されている。尚、図3では、説明の便宜のため、ブラシレスモータ12を断面で示している。また、ケース10内において、底部10aの外周端部から側壁10bに移行する角部の所定位置には、複数の補強リブ10cが形成されている(ケース10の左下部分参照)。一方、ケースカバー11も、ケース10と同様に前記底部10aと平行な板状をなす上底部11aと、該上底部11aの外周端部から直交して延びる側壁11bとから形成されている(図2参照)。 【0020】 このようなケース本体に対しブラシレスモータ12を支持するためのセンターピース21は、その基端部に鍔状をなす固定部22が形成されるとともに、その固定部22はケース10の底部10aに形成された保持部10dに保持されている。また、固定部22はケース10の保持部10dとケースカバー11に形成された保持部(図示略)とにより組み付け方向に挟持されている。 【0021】 センターピース21には固定部22の中心部からブラシレスモータ12の先端に向かって延びる略円筒状のボス部23が形成されている。ボス部23はブラシレスモータ12の先端側に向かって開口するとともに、その内部には回転軸24の基端部近くを軸支するメタル軸受25が保持されている。一方、ボス部23の外周面には、回転磁界を発生させるためのコイル26が巻回された電機子コア27が固着されている。尚、電機子コア27には、コイル26と電気的に接続された給電用のターミナル(図示略)が設けられている。 【0022】 前記回転軸24の先端には、ウォームが形成されたウォーム軸31が該回転軸24と同軸となるように固定されている。ウォーム軸31先端はスラスト荷重を受けるためのスラスト受けボール32を介してケース10の側壁10bに支持されている。尚、ブラシレスモータ12は回転軸24の軸線Lがケース10の扁平面(底部10a)と平行になるように該ケース10内に設けられている。 【0023】 回転軸24におけるウォーム軸31の基端側には、ブラシレスモータ12の基端側に開口する有底円筒状をなすヨーク33の底部中心が固定されている。ヨーク33の側壁は、前記電機子コア27を覆うように軸線L方向に沿って延び、該側壁の内周面にはN極、S極が周方向に交互に着磁されたマグネット34が電機子コア27と対向するように固定されている。これらマグネット34、ヨーク33及び回転軸24は、前記コイル26にて発生した回転磁界がマグネット34に作用することで一体回転する。 【0024】 前記減速機構13は、ウォーム軸31と、ケース10の底部10aからその板面と直交して延びる支軸10eにそれぞれ回転可能に支持されたウォームホイール41、中間ギヤ42と、ケース10及びケースカバー11に回転可能に支持された出力ギヤ43とからなる。出力ギヤ43はその中央部に設けられた前記出力軸8aが、ケース10の底部10a及びケースカバー11の上底部11aにそれぞれ貫通形成された円形の開口部44(図2参照)に回転可能に支持されるとともに、該出力軸8aは各開口部44から露出されている。尚、出力軸8aの中心部分はケース内側に窪む凹形状をなすとともに、出力軸8aの中心線CLはブラシレスモータ12の回転軸24の軸線Lと直交する方向に延びている。このような減速機構13によりブラシレスモータ12の回転は減速されて出力軸8aに伝達される。そして、その伝達された駆動力による出力軸8aの回動によって前記各種切換ドア7が作動されるようになっている。」 c 「【0030】 [ケースの組み付け構造] 次に、上記したような内部部品が収容されたケース10及びケースカバー11の組み付け構造について説明する。図3に示すように、ケース10の中央付近において、その底部10aにはケース内部に向かって突出する第1連結部としてのケース側連結部71が一体形成されている。このケース側連結部71は、回転軸24の軸線Lと、その軸線Lに対して平行であって出力軸8aの中心線CLを通る直線Xとの間の領域Aに形成されている。即ち、ケース側連結部71は、ケース10内において主な内部構成部品であるモータ12と出力軸8a(出力ギヤ43)間に設けられ、その設置位置はケース10の中央付近となっている。尚、ケース側連結部71はブラシレスモータ12の基端部、出力ギヤ43及び第2基板54に囲まれた位置に設けられている。一方、ケースカバー11におけるケース側連結部71と対応する位置には、同じくケース内部に向かって突出する第2連結部としてのカバー側連結部72が上底部11aに一体形成されている(図2参照)。尚、これらケース側及びカバー側連結部71,72が保持手段を構成している。 【0031】 ケース側連結部71には、図4に示すように、底部10aから組み付け方向(底部10aと直交する方向)に延びるケース側筒部71aが形成されるとともに、該筒部71aの先端内側には段差部71bが形成されている。尚、この段差部71bは筒部71aの先端部全体に亘って連続的に形成されている。また、ケース側連結部71には、その筒部71aの内側で底部10aから組み付け方向に延びる弾性突起71cが形成されるとともに、該弾性突起71cの先端には前記段差部71bよりもケースカバー11側に形成された係合部71dが設けられている。尚、ケース側連結部71の基端部において底部10aには開口部71eが形成され、その開口部71eにより筒部71aの中空部はケース外部と繋がっている。 【0032】 一方、カバー側連結部72には、上底部11aから組み付け方向に延びるカバー側筒部72aが前記ケース側筒部71aと対応する位置に形成されている。カバー側筒部72aはその中空部がケース外部と繋がるように形成されている。詳しくは、カバー側筒部72aは上底部11aが内側に凹設されてなり、その凹部は各連結部71,72の連結部分をケース外部から目視可能な窓部73となっている。また、カバー側筒部72aはその板厚がケース側筒部71aの板厚より若干厚めに形成されるとともに、その先端外側には段差部72bが形成されている。この段差部72bはケース側筒部71aの段差部71bと同様、カバー側筒部72aの先端部全体に亘って連続的に形成されている。また、カバー側筒部72aの先端部には、該筒部72aの内側に向かって突出する突出部72cが形成されている。」 d 上記b及び図3の記載から、ブラシレスモータ12は回転軸24を有することが理解できる。 e 上記b及び図3の記載から、ウォームホイール41はウォームに接続されること、中間ギヤ42は、当該ウォームホイール41と出力ギヤ43に接続され、かつ、ウォームホイール41と出力ギヤ43の間に配置されることが理解できる。 f 図3の記載から、ブラシレスモータ12の径方向において、出力ギヤ43はブラシレスモータ12に対向していることが看取できる。 g 図3の記載から、ケース側連結部71及びカバー側連結部72は、筐体内において、ブラシレスモータ12及び減速機構13が存在しない箇所に設けられていることが看取できるから、ブラシレスモータ12及び減速機構13に干渉しない空間に設けられていることが理解できる。 (イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「回転軸24を有するブラシレスモータ12と、 前記ブラシレスモータ12の回転を伝達する減速機構13と、前記ブラシレスモータ12及び前記減速機構13を収容するケース本体と、を含み、 前記減速機構13は、前記回転軸24と同軸となるように固定されているウォーム軸31に形成されたウォームと、前記ウォームに接続されるウォームホイール41と、出力ギヤ43と、当該ウォームホイール41と当該出力ギヤ43に接続される中間ギヤ42と、を備え、 前記中間ギヤ42は、前記ウォームホイール41と前記出力ギヤ43の間に配置され、 前記ブラシレスモータ12の径方向において、前記出力ギヤ43は前記ブラシレスモータ12に対向しており、 前記ケース本体は、 底部10aと前記底部10aの外周端部から直交方向に延びる側壁10bとから形成されるケース10と、 上底部11aと前記上底部11aの外周端部から直交方向に延びる側壁11bとを有するケースカバー11を備え、 前記底部10aと前記上底部11aが、前記回転軸24の軸線Lとその軸線Lに対して平行であって出力軸8aの中心線CLを通る直線Xとの間の領域Aに形成されているケース側連結部71及び前記ケース側連結部71と対応する位置に形成されているカバー側連結部72で連結されており、 前記ケース側連結部71及び前記カバー側連結部72は、前記ケース本体内において前記ブラシレスモータ12及び前記減速機構13に干渉しない空間に設けられている、モータアクチュエータ。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「ブラシレスモータ12」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明の「モータ」に相当し、以下同様に、「減速機構13」は「複数のギア」に、「ケース本体」は「筐体」に、「回転軸24と同軸となるように固定されているウォーム軸31に形成されたウォーム」は「回転軸に取り付けられたウォームギア」に、「ウォーム」は「ウォームギア」に、「ウォームホイール41」は「第1ギア」に、「出力ギヤ43」は「出力ギア」に、「中間ギヤ42」は「第2ギア」に、「底部10a」は「第1面部」に、「底部10aの外周端部から直交方向に延びる側壁10b」は「第1面部を取り囲む第1外壁部」に、「ケース10」は「第1筐体」に、「上底部11a」は「第2面部」に、「上底部11aの外周端部から直交方向に延びる側壁11b」は「第2面部を取り囲む第2外壁部」に、「ケースカバー11」は「第2筐体」に、「ケース側連結部71及びカバー側連結部72」は「連結部」に、「モータアクチュエータ」は「モータ付きギアボックス」にそれぞれ相当する。 (イ)引用発明の「前記底部10aと前記上底部11aが、前記回転軸24の軸線Lとその軸線Lに対して平行であって出力軸8aの中心線CLを通る直線Xとの間の領域Aに形成されているケース側連結部71及び前記ケース側連結部71と対応する位置に形成されているカバー側連結部72で連結されて」いることと、本件補正発明の「前記第1面部と前記第2面部が、前記ウォームギア側のモータの端部及び前記複数のギアに囲われた領域内に設けられた1つの連結部で連結されて」いることとは、「前記第1面部と前記第2面部が、1つの連結部で連結されていること」という限りにおいて一致している。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「回転軸を有するモータと、 前記モータの回転を伝達する複数のギアと、前記モータ及び前記複数のギアを収容する筐体と、を含み、 前記複数のギアは、前記回転軸に取り付けられたウォームギアと、前記ウォームギアに接続される第1ギアと、出力ギアと、当該第1ギアと当該出力ギアに接続される第2ギアと、を備え、 前記第2ギアは、前記第1ギアと前記出力ギアの間に配置され、 前記モータの径方向において、前記出力ギアは前記モータに対向しており、 前記筐体は、 第1面部と前記第1面部を囲む第1外壁部とを有する第1筐体と、 第2面部と前記第2面部を囲む第2外壁部とを有する第2筐体と、を備え、 前記第1面部と前記第2面部が、1つの連結部で連結されており、 前記連結部は、前記筐体内において前記モータ及び前記複数のギアに干渉しない空間に設けられている、モータ付ギアボックス。」 <相違点1> 本件補正発明における第1面部及び第2面部は「振動可能」であるのに対し、 引用発明における底部10a及び上底部11aは振動可能であるか否か不明である点。 <相違点2> 本件補正発明における連結部は、「前記ウォームギア側のモータの端部及び前記複数のギアに囲われた領域内に設けられ」ているのに対し、 引用発明におけるケース側連結部71は、前記回転軸24の軸線Lとその軸線Lに対して平行であって出力軸8aの中心線CLを通る直線Xとの間の領域Aに形成されており、カバー側連結部72は、前記ケースカバー11における前記ケース側連結部71と対応する位置に形成されている点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について 本件補正発明の「振動可能な第1面部」及び「振動可能な第2面部」とは、どのようなことか請求項の記載上必ずしも判然としないが、発明の詳細な説明の段落【0043】の「モータ付ギアボックス10の振動音の原因について検討した結果、第1面部21や第2面部31の中央側が、このようにフリーの状態であると、第1面部21や第2面部31が振動でき、それが振動音の発生原因の一つであることがわかった。」との記載によれば、本件補正発明は、第1面部や第2面部の中央側がフリーの状態である場合に振動が生じるものを前提としていると解される。 一方、引用文献1の段落【0003】には、「上記のようなモータアクチュエータでは、ケースの側壁部分のみで第1及び第2ケースが連結固定されているため、第1及び第2ケースの中央部が互いに接近する方向、若しくは離間する方向に容易に撓んでしまう。」との記載があり、引用文献1に記載されたモータアクチュエータにおいて、ケースの側壁部分のみで第1及び第2ケースが連結固定、すなわち第1及び第2ケースの中央部がフリーの状態である場合に、それらが容易に撓むことが想定されていることから、引用発明の底部10a(第1ケース)及び上底部11a(第2ケース)も容易に撓むような材料からなり、両者の中央側がフリーの状態であれば振動可能なものであると解するのが自然である。 そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について 引用文献1の段落【0003】には、解決しようとする課題として「しかしながら、上記のようなモータアクチュエータでは、ケースの側壁部分のみで第1及び第2ケースが連結固定されているため、第1及び第2ケースの中央部が互いに接近する方向、若しくは離間する方向に容易に撓んでしまう。そして、その撓みによって第1ケースと第2ケースとの位置ズレが生じ、駆動時においてモータや出力軸等から発生する振動による騒音レベルが増大してしまう虞があった。特に、ケースは樹脂よりなるため、その成形時に発生する反りによってケース中央部が顕著に撓み易くなってしまう虞がある。」との記載があり、かかる課題を解決するために、底部10aと上底部11aが、回転軸24の軸線Lとその軸線Lに対して平行であって出力軸8aの中心線CLを通る直線Xとの間の領域A(引用文献1の図3を参照)に形成されているケース側連結部71及びそのケース側連結部71と対応する位置に形成されているカバー側連結部72で連結されている構成を採用したものである。 そして、引用発明において、ケース10内の限られた空間に、ブラシレスモータ12、減速機構13及びケース側連結部71等をどのように配置するかは、当業者がブラシレスモータ12及び各ギヤの大きさやこれらの接続関係を考慮して適宜設定すべき事項であるところ、カバー側連結部72が回転軸24の軸線Lとその軸線Lに対して平行であって出力軸8aの中心線CLを通る直線Xとの間の領域A内のいずれの場所にあっても上記課題は解決でき、かかる領域A内であって、ウォーム側のブラシレスモータ12の端部及び減速機構13に囲われた領域内に、ブラシレスモータ12や各ギヤが設けられていない空間、すなわち、ブラシレスモータ12及び減速機構13に干渉しない空間が生じることも当然あり得ることであり、そのような空間にケース側連結部71を設けることも当業者が適宜なし得ることにすぎない。 なお、第1面部と第2面部が、ウォームギア側のモータの端部及び複数のギアに囲われた領域内に設けられた1つの連結部で連結されているモータのハウジングは、例えば、特開2014-7891号公報(図1等の締結部101参照)や特開2003-202069号公報(図1ないし5等参照)に記載されるように周知でもある。 ここで、請求人は、審判請求書において、「よって、引用文献1には、本願発明の「振動可能な第1面部」及び「振動可能な第2面部」を開示していないから、これに起因する課題をそもそも有していません。」(6ページ5ないし7行)と主張している。 確かに、引用文献1には、その段落【0003】に「上記のようなモータアクチュエータでは、ケースの側壁部分のみで第1及び第2ケースが連結固定されているため、第1及び第2ケースの中央部が互いに接近する方向、若しくは離間する方向に容易に撓んでしまう。そして、その撓みによって第1ケースと第2ケースとの位置ズレが生じ、駆動時においてモータや出力軸等から発生する振動による騒音レベルが増大してしまう虞があった。」との記載があるものの、ケースの振動による騒音に関して明示的な記載は見あたらない。 しかしながら、引用文献1には、第1及び第2ケースの中央部の撓みについて言及があるから、上記アで検討したとおり、底部10a及び上底部11aは振動可能なものであり、「引用文献1には、本願発明の「振動可能な第1面部」及び「振動可能な第2面部」を開示していない」という請求人の主張は採用できない。 また、引用発明の底部10a及び上底部11aが撓みが生じて振動可能なものであれば、底部10a及び上底部11a自体が振動し、騒音が生じることも、当業者であれば想定し得る事項であるところ、例えば、上記周知技術として例示した特開2014-7891号公報の段落【0062】には「そのため、締結部形成範囲A1内に締結部101を設けるとハウジング10の撓み抑制により効果的である。そして、ハウジング10の撓みが抑制されると、複数のモータ22,32を収容したハウジング10であっても、モータ22,32の振動によって同ハウジング10が振動することが抑制される。従って、ハウジング10の撓みに起因した騒音を抑制することができる。」と記載されており、ハウジング10の撓みと振動及び騒音の因果関係が示唆されている。 そうすると、引用発明において、底部10a及び上底部11aの振動による騒音についても実質的に考慮されていると考えるのが自然であるから、「これ(「振動可能な第1面部」及び「振動可能な第2面部」)に起因する課題をそもそも有していません」とする請求人の上記主張も採用できない。 ウ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、請求人は、平成31年2月4日提出の上申書において、平成30年11月21日作成の前置報告書の新規事項の指摘に対応して、請求項1の「前記出力ギアは前記モータに対向しており、」の記載を「前記出力ギアは前記モータの本体部に対向しており、」とし、また、「前記ウォームギア側のモータの端部」の記載を「前記ウォームギア側のモータの本体部の端部」とする補正案を提示している。 しかしながら、かかる補正がされて、本件補正発明の上記<相違点2>に係る発明特定事項のうち「前記ウォームギア側のモータの端部」が「前記ウォームギア側のモータの本体部の端部」となったとしても、そのような補正がされた後の相違点2に係る発明特定事項は、上記イにおける相違点2の判断と同様の理由により当業者が容易になし得たものである。 また、請求人は、同上申書において、「本願発明の課題は、段落0045の「筐体12内には、モータ40や複数のギア50が密に配置されているもの」における課題であるが、この課題は、引用文献1及び引用文献2のいずれにも開示も示唆もされていません。」と主張している。 しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、段落【0045】に「筐体12内には、モータ40や複数のギア50が密に配置されているもの」の記載はあるものの、本件補正発明の課題が、「筐体12内には、モータ40や複数のギア50が密に配置されているもの」における課題であることの記載はなく、また、本願の請求項の記載から、本件補正発明が、「筐体12内には、モータ40や複数のギア50が密に配置されているもの」を前提としていることは読み取ることはできない。仮に、本件補正発明の課題が請求人のいうとおり「筐体12内には、モータ40や複数のギア50が密に配置されているもの」を前提としているとしても、引用文献1の図3を参照すると、ケース10内にブラシレスモータ12や減速機構13が密に配置されていることが看取できるし、一般に機械装置において小型化は共通の課題であって、引用発明のようなモータアクチュエータにおいても、小型化のためにケース10内にブラシレスモータ12や減速機構13等を密に配置することは当然考慮されていることというべきである。 したがって、上申書における請求人の上記主張は採用できない。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成30年10月12日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成30年4月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。 1.(新規性)この出願の下記の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の下記の請求項1ないし12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1ないし5の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2009-106100号公報 2.特開2010-57293号公報 3.特開2003-278846号公報 4.特開2000-308303号公報 5.特開平07-113706号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「モータ」、「複数のギア」、「第1面部」、「第2面部」及び「連結部」に係る限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-05 |
結審通知日 | 2019-09-10 |
審決日 | 2019-09-24 |
出願番号 | 特願2016-39443(P2016-39443) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K) P 1 8・ 121- Z (H02K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 島倉 理 |
特許庁審判長 |
堀川 一郎 |
特許庁審判官 |
佐々木 芳枝 長馬 望 |
発明の名称 | モータ付ギアボックス |
代理人 | 坂本 智弘 |