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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1356850
異議申立番号 異議2019-700578  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-23 
確定日 2019-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6458194号発明「常温アスファルト混合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6458194号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6458194号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、平成30年8月31日を出願日とする特許出願(特願2018-162386号)に係るものであって、同年12月28日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、平成31年1月23日である。)。
その後、令和1年7月23日に、本件特許の請求項1?7に係る特許に対して、特許異議申立人である大林道路株式会社(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
骨材、アスファルト、石油潤滑油系の液体である性状改善剤、脂肪酸及びセメントを含み、
前記脂肪酸は、オレイン酸及びリノール酸を含有し、
前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸及び前記リノール酸の合計重量に対して50重量%より大きいことを特徴とする常温アスファルト混合物。
【請求項2】
前記脂肪酸は、前記オレイン酸及び前記リノール酸を38:62の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載の常温アスファルト混合物。
【請求項3】
前記脂肪酸の含有量は、前記アスファルト、前記性状改善剤及び前記脂肪酸の合計重量に対して40重量%以上60重量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の常温アスファルト混合物。
【請求項4】
前記性状改善剤の含有量は、前記アスファルト及び前記性状改善剤の合計重量に対して12重量%であることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の常温アスファルト混合物。
【請求項5】
前記性状改善剤は、芳香族化合物を含有し、
前記芳香族化合物の含有量は、前記性状改善剤の重量に対して50重量%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の常温アスファルト混合物。
【請求項6】
植物繊維材を含み、
前記植物繊維材の含有量は、前記骨材、前記アスファルト、前記性状改善剤、前記脂肪酸及び前記セメントの合計重量に対して0.1重量%以上0.5重量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の常温アスファルト混合物。
【請求項7】
前記アスファルト、前記性状改善剤及び前記脂肪酸の合計含有量は、前記骨材、前記アスファルト、前記性状改善剤、前記脂肪酸及び前記セメントの合計重量に対して6.0重量%以上8.0重量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の常温アスファルト混合物。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由
申立人は、本件発明1?7は、下記(1)及び(2)のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法113条2号及び4号に該当し、取り消されるべきものであると主張し、証拠方法として、下記(3)の甲第1号証?甲第6号証(以下、単に「甲1」等という。)を提出した。

(1)申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)
本件発明1?7は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明1?7における「石油潤滑系の液体である性状改善剤」の平均分子量を明らかにすることなく、常温アスファルト混合物の作業性を改善することはできず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)証拠方法
甲1:特許第5939722号公報
甲2:特許第5916937号公報
甲3:特開昭48-19617号公報
甲4:特開2004-35740号公報
甲5:土木学会舗装工学論文集、第9巻、2004年12月、第125頁?第132頁
甲6:土木学会舗装工学論文集、第13巻、2008年12月、第97頁?第105頁

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1?甲6に記載された事項、及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
針入度80を超え300以下である軟質アスファルト100重量部に対して、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを30?150重量部を含むことを特徴とする軟質アスファルト混合物。
【請求項2】
軟質アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを含む軟質アスファルト混合物、骨材、セメント、及び繊維材料を含有することを特徴とする全天候型常温アスファルト混合物。
【請求項3】
軟質アスファルト100重量部に対して、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルが1?900重量部、繊維材料2?30重量部および骨材200?17000重量部との混合物からなり、さらに亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステル100重量部に対してセメント10?300重量部を含むことを特徴とする請求項2に記載の全天候型常温アスファルト混合物。
【請求項4】
軟質アスファルトは、JIS K 2207:2006に記載されている針入度80を超え300以下、または鉱物油、植物油を混合し、前記針入度範囲内となるように調整したアスファルトであることを特徴とする請求項2又は3に記載の全天候型常温アスファルト混合物。」

(イ)「【0007】
特に雨天時でも使用することができ、しかも水の存在下でも強度を得ることができる常温アスファルト混合物は、機能および特性から「全天候型常温アスファルト混合物」と呼称される場合もあり、既に開発、販売されている。これら常温アスファルト混合物は、アスファルト舗装の補修材料として、常温で使用することが可能であり、且つ作業性に優れることから年々、使用量が増加傾向にある。しかし、近年、全天候型常温アスファルト混合物の性能として、作業性だけでなく、耐久性が求められるようになってきた。例えば、非特許文献1のような規格がある。
【0008】
前記の規格を満足する全天候型アスファルト混合物は、例えば非特許文献2に記載がある。前記全天候型アスファルト混合物は、改質アスファルトを用いるなどしているため、粘性が強く作業性が損なわれている。また、これらは、カットバックアスファルトを使用しているものが多く、所定の耐久性となるまで時間を要し、その間の道路としての強度が十分ではないという問題や大気汚染の問題がある為、種々の改良がなされてきた。例えば、カットバック材としてトール油脂肪酸を使用した常温施工型加熱アスファルト混合物が提供されている(特許文献3および4参照。)。
【0009】
特許文献3では、化学的な反応(鹸化反応)を用い、早期に所定の耐久性を得ることができるが、固く脆いため、ひび割れが発生する懸念がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、上記の課題を鑑み、提案されたもので、特に骨材飛散抵抗性に注目し、一定の作業性を有し、早期に硬化し、且つ柔軟性を有する道路舗装などの補修材としての全天候型常温アスファルト混合物における課題を解決することであり、その原材料としての軟質アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを含む軟質アスファルト混合物(「カットバックアスファルト」とも言う。)とすることにより課題を解決することが出来たものである。勿論、道路舗装を舗設する際の材料の1つとしても使用可能な特性を備えた材料を提供することも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、以下の特徴点および構成要件を有する全天候型常温アスファルト混合物が提供される。
即ち、本発明は上記課題を解決する手段として、雨天、寒暖のような気候条件の影響を考慮することなく施工ができるという特性を備えており、しかも常温で施工ができるという性質も備えた、いわゆる全天候型常温アスファルト混合物(以下、単に「常温アスファルト混合物」と表示する場合もある。)の概要および特徴は以下のとおりのものである。
(1)本発明の第1の特徴は、針入度80を超え300以下である軟質アスファルト100重量部に対して、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを30?150重量部を含むことを特徴とする軟質アスファルト混合物、にある。
(2)本発明の第2の特徴は、軟質アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを含む軟質アスファルト混合物、骨材、セメント、及び繊維材料を含有する全天候型常温アスファルト混合物である。」
(3)本発明の第3の特徴は、軟質アスファルト100重量部に対して、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルが1?900重量部、繊維材料2?30重量部および骨材200?17000重量部との混合物からなり、さらに亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステル100重量部に対してセメント10?300重量部を含むことを特徴とする上記(2)に記載の全天候型常温アスファルト混合物にある。
【0012】
(4)本発明の第4の特徴は、前記軟質アスファルトは、JIS K 2207:2006に記載されている針入度80を超え300以下のもの、または鉱物油、植物油及び異なる針入度のアスファルトからなる群から選ばれた1以上を混合し、前記針入度範囲内となるように調整したアスファルトであることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の全天候型常温アスファルト混合物にある。」

(ウ)「【発明の効果】
【0014】
この発明は、上記した発明の構成を採ることにより、以下に説明するような効果を奏する。
【0015】
本発明では、軟質アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルとを混合したカットバックアスファルトを用いた常温アスファルト混合物を、施工時に硬化促進剤を供給することで、混合物中のアルカリ性添加材がイオン分解し、脂肪酸および/または脂肪酸エステルとの鹸化反応により早期に高い強度を発現することができる。また、本発明によれば、軟質アスファルト混合物と繊維材料を使用することで、混合物にたわみ性を付加することができる。
【0016】
さらに、本発明では、カットバック材として亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを使用することにより、その他の脂肪酸および/または脂肪酸エステルを使用した場合に比べてより低粘度のカットバックアスファルトになるため、アスファルト混合物の作業性が飛躍的に向上する。さらに、本発明では、繊維材料を使用することで、アスファルト混合物にたわみ性を付加することができるため、舗装道路の流動、わだち、ひび割れ/クラック/欠損といった破損に基因する損失率が改善され、舗装道路の耐久性を著しく向上させるばかりでなく、骨材飛散抵抗性が極めて優れたものであるために、道路の施工上の有意性は勿論のこと、道路の安全性、保守管理および環境保全などにおいて卓越した作用効果を奏する。」

(エ)「【0018】
・・・
結局、本発明で特定する成分からなる仕様のものが、そのバインダに適しており、骨材、繊維材料、セメントなどの材料を併用することにより、早期硬化性、飛散抵抗性などの特殊な機能、および特性を発現することに有意であることを知見したものである。
【0019】
すなわち、本発明は、軟質アスファルトと骨材と脂肪酸および/または脂肪酸エステルとアルカリ添加剤と繊維材料とを混合してなる繊維入り鹸化反応型常温アスファルト混合物から本質的に構成されるものである。このアスファルト混合物の施工時に反応促進剤、例えば水を供給し、脂肪酸および/または脂肪酸エステルとアルカリ添加剤とを鹸化反応させることにより、固化させるという原理に基づくものである。
本発明の概要を図に基づいて説明をすれば、図1は、本発明に係る常温アスファルト混合物を施工した組織の状態の概念を示したものであり、その原理および構造は、図1のように説明することが出来る。本発明の常温アスファルト混合物は、それを構成する材料の特性および形態に基づいて解析すれば、図1(a)「転圧前」に示すようにアスファルト1中に脂肪酸および/または脂肪酸エステル2が分散した状態の組成からなるカットバックアスファルト(以下、この組成を単に「カットバックアスファルト」と呼称することもある。)が、骨材5に被覆した状態となっている。また、前記カットバックアスファルト中にアルカリ添加剤3および繊維材料4が分散している状態の構造になると推定される。」

(オ)「【0024】
本発明の常温アスファルト混合物を構成する、アスファルトについて説明すると、このアスファルトの特性の指標として、JIS規格(JIS K 2006、JIS K 2207等)でも詳細に規定されているが、典型的な指標として「針入度」(25℃、標準針の貫入量を1/10mmの単位で表示。)に基づいて特定することができる。
アスファルトの針入度の特性は、混合物の強度およびたわみ性に影響する要因であり、JIS・K・2207:2006に記載されている針入度80を超え300以下の範囲のものが望ましい。強度と軟質性を考慮し、ストレートアスファルト150/200(以下、アスファルト150/200)を使用することが好ましい。
その他、上記の針入度の範囲外のアスファルトであっても、鉱物油または植物性油などを混合し、針入度を所定の値に調整したアスファルトを用いても良い。
本発明の常温アスファルト混合物を構成するアスファルトとしては、通常分類される石油アスファルトおよび天然アスファルトの範疇に属するいずれのものも使用できる。特に規模的には、石油より製造されるストレートアスファルトを使用することが推奨されるが、それ以外にも酸化変性ブローンアスファルトなども使用できる。
本発明の軟質アスファルトとは、ストレートアスファルトなどの例では、アスファルト単独で、またはアスファルトに鉱物油、植物油、溶剤などを混合することにより調整したアスファルトであり、針入度80を超え300以下になるように調整したものが推奨される。ブローンアスファルトの場合も同様に単独で使用できるが、鉱物油、植物油、溶剤等を混合することにより、好ましくは、針入度80を超え300以下になるように調整したものが推奨される。
・・・
【0025】
・・・
いずれにせよ、本発明のアスファルト混合物とは、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステル(以下、総称して単に「亜麻仁油脂肪酸」と略称することもある。)でカットバックされた軟質アスファルト、骨材、セメント、繊維材料からなる常温アスファルト混合物を基本とする材料である。
【0026】
カットバック材として、アスファルトに引火性の高い石油、軽質油などの鉱物油および炭化水素系溶剤を混合するような公知の危険を伴う従来の常温アスファルト混合物の製造方法および施工方法を回避し、またトール油等を使用する弊害を克服した、新たな性能向上の視点から、全天候型常温アスファルト混合物の開発を達成したものである。
本発明では、アスファルト混合物として、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルでカットバックされた軟質アスファルトを用いることにより、性能を低下させること無く、従来のカットバックアスファルトの問題を解決できることを知見したものである。
この亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルとは,下記の表1などで詳細に説明する通り、リノレン酸などの組成割合から見ても、例えばトール油などとは異なる成分および割合の仕様で構成されている。」

(カ)「【0029】
更に、本発明の亜麻仁油脂肪酸と公知のトール油脂肪酸によりカットバックされたアスファルトの挙動を解析した結果を図2に示す。カットバック材として、アスファルト150/200、100重量部に本発明の亜麻仁油脂肪酸67重量部を添加した標準仕様のものと、公知のカットバック材である、例えば、トール油脂肪酸67重量部を添加した標準仕様のものとを、「温度-粘度」の関係を解析してみれば、図2の上側の曲線(L2)がトール油脂肪酸使用カットバックアスファルトの挙動を示す曲線であり、下側の曲線(L1)が亜麻仁油脂肪酸を添加したも場合の傾向を示す曲線である。本発明の亜麻仁油脂肪酸の粘度(-10℃)が36200mm^(2)/sであるのに対して、トール油脂肪酸の場合には、43700mm^(2)/sであり、亜麻仁油脂肪酸の方が低いことがわかる。
要するに、カットバックアスファルトとして、骨材、繊維、などの混合が常温のみならず低温時であっても容易実施できるばかりでなく、混合物(組成物)が均一な構造になっている。しかも取り扱いおよび施工においても低粘度は非常に有利な性質である。
【0030】
本発明で使用する亜麻仁油脂肪酸は、特許文献1及び2に記載されているトール油脂肪酸やそのエステル、およびその他の油脂又は脂肪酸、具体的には、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸、米糠油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、およびこれらのエステルとはその脂肪酸組成が大きく相違している。
以下にその脂肪酸組成(含有%)を、下記の非特許文献3および非特許文献4を援用して、表1に示す。
【0031】
【表1】



(キ)「【0048】
次に亜麻仁油脂肪酸でカットバックされたアスファルト150/200を使用した場合に同様の改質II型よりも骨材飛散抵抗性が抑制されることは、予期せぬ挙動であることを実証した。
アスファルトの種類および亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルの添加量を変化させ、混合物の骨材飛散抵抗性を評価した結果を図6に示す。図6より、改質II型を使用した場合より、アスファルト150/200を使用した場合の方が、骨材飛散抵抗性の指標の一つである損失率が最も低下(改善)した。
この損失率の低下は、アスファルト150/200の試験温度における軟らかさが原因であり、試験時に生じる衝撃を吸収または分散したため、骨材の飛散が抑制された。通常は、骨材把握力に優れる改質II型を使用した方が、損失率が低下する。しかし、亜麻仁油脂肪酸またはトール油脂肪酸などでカットバックされた改質II型は、本来の性能が発揮できずに損失率が上昇した。
【0049】
また、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルの添加量を43、67、100重量部とした場合、67重量部で損失率の値が最も低い値(良い値)となった。そのため、本願開発の常温アスファルト混合物におけるアスファルトの種類は、アスファルト150/200、麻仁油脂肪酸の添加量は67重量部が最も望ましいと言える。
亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを100重量部添加した場合は、アスファルトが亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステル中に分散している状態であるため、混合物の強度が低下し、損失率が上昇し、67重量部の場合は、アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルとの混合割合が最もバランスがとれた状態となったため、最も損失率が低下した。
【0050】
前記の状態は、図4に示すようにアスファルト150/200に亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを43、67、100重量部添加したバインダの粘度より明らかである。亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルが43重量部以下の場合は、アスファルトの性状が強く粘度が高い。100重量部以上では、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルの性状が強く粘度が著しく低下する。
また、改質II型100重量部に亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを67重量部添加したカットバックアスファルトは、25℃おいて試験機器の測定限界を超えるほど粘性が高い。そのため、常温アスファルト混合物としての作業性に劣る。」

(ク)「【実施例】
【0055】
以下に、本発明の典型的な実施例を挙げて説明をするが、本発明の技術範囲は、この実施例により限定されるものではない。
標準的な合成粒度は表2に示す通りであり、配合割合を表5に示す。
【0056】
【表5】



(ケ)
「【0057】
本願発明の常温アスファルト混合物の簡易的な製造方法を説明する。
1)混合機械
使用する混合機械としては、カットバックアスファルトの製造では、小?中型撹拌機を、混合物の製造では、モルタルミキサー(50?100 kg)を使用した。
2)バインダの製造
130℃に加熱したアスファルト150/200(6.0kg)に対して、常温の亜麻仁油(4.0kg)を添加し、130℃で1時間撹拌したしたものを、バインダと呼称する。
3)混合物の製造
混合物の混合手順は、骨材(89.4kg)、セメント(2.3kg)、セルロース繊維(0.3kg)、バインダ(8.0kg)の順で、該当する量を混合する。骨材は、火炎でまたは熱で乾燥した絶乾状態のものを実施例として使用する。
【0058】
比較例混合物の製造
一般的な道路舗装に使用されているストレートアスファルト60/80(4.2kg)に対して亜麻仁油脂肪酸(2.8kg)を添加したバインダ(7.0kg)と骨材(90.9kg)とセメント(2.1kg)を混合した材料(以下、比較用混合物)を作成して、比較例混合物とする。
4)供試体作製手順
混合物製造後の供試体作製手順は、常温(20℃)の混合物をモールド(型枠)へ充填した後に水を添加し、締固めを行い、恒温室で養生する。
【0059】
上述の製造方法により作成した混合物に対して、表6に示す各種性状試験を実施した。
【0060】
【表6】



(コ)「【0061】
以上の通り、本発明の全天候型常温アスファルト混合物は、亜麻仁油とセメントおよび水との鹸化反応により早期に固化するため、養生時間が試験用供試体作製後20℃で24時間という常温アスファルト混合物の試験条件として短い養生時間であっても、優れた骨材飛散抵抗性(損失率%)であると評価できる。道路舗装の補修材として使用した場合、早期に硬化し且つ骨材飛散抵抗性に優れるため、通常のカットバックアスファルトを使用した全天候型常温アスファルト混合物よりも非常に優れた性能を有するといえる。
比較例混合物と比較すれば、「損失率(%)」、「曲げ試験」、「圧裂強度比」の結果においては、本発明の混合物が優れている。すなわち、アスファルト150/200およびセルロース繊維を使用したことで、骨材飛散抵抗性およびひび割れ抵抗性が改善されたといえる。
【0062】
本発明の混合物と比較用混合物の「マーシャル安定度」および「動的安定度(DS)」を比較すると本発明の混合物の方が低い値であるが、前記の「損失率(%)」、「曲げ試験」、「圧裂強度比」の結果も考慮すると、比較用混合物は、骨材飛散抵抗性およびひび割れ抵抗性に劣るため、実際の現場で補修材として使用した場合に、本来の性能を発揮する前に再び破損してしまう。
また、一般的な道路舗装に使用されている密粒度アスファルト混合物(13)の動的安定度は、300?500回/mmと本発明の混合物と同程度であるため、道路舗装の補修材としての性能に問題はない。」

(サ)


」(図2)

(シ)


」(図6)

摘記(1)の請求項2を引用する請求項4を独立形式で記載すると次のようになる。
「軟質アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを含む軟質アスファルト混合物、骨材、セメント、及び繊維材料を含有することを特徴とする全天候型常温アスファルト混合物であって、前記軟質アスファルトは、JIS K 2207:2006に記載されている針入度80を超え300以下、または鉱物油、植物油を混合し、前記針入度範囲内となるように調整したアスファルトである、前記全天候型常温アスファルト混合物。」
ここで、摘記(カ)の表1によると、上記亜麻仁油脂肪酸の組成(含有%)は、オレイン酸20?35%、リノール酸5?20%、リノレン酸30?58%、パルミチン酸4?9%である。そして、亜麻仁油の脂肪酸組成が、重量%で摘記(カ)の表1のとおりであることは本願出願時の技術常識であるし、甲1において、各成分の含有量が重量基準で記載されているから(摘記(1)ア(ア)、(キ)及び(ク))、上記含有%は重量%を意味すると解される。
そうすると、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「軟質アスファルトと亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを含む軟質アスファルト混合物、骨材、セメント、及び繊維材料を含有することを特徴とする全天候型常温アスファルト混合物であって、前記軟質アスファルトは、JIS K 2207:2006に記載されている針入度80を超え300以下、または鉱物油、植物油を混合し、前記針入度範囲内となるように調整したアスファルトであり、前記亜麻仁油脂肪酸は、オレイン酸20?35重量%、リノール酸5?20重量%、リノレン酸30?58重量%、パルミチン酸4?9重量%を含有する、前記全天候型常温アスファルト混合物。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲2に記載された事項
甲2には、次の事項が記載されている。
(ア)「 【請求項1】
骨材と、アスファルトと、潤滑性固化材と、アルカリ性添加材とを混合してなるアスファルト混合物であって、
前記潤滑性固化材が、パルミチン酸を1?15重量%、ステアリン酸を0.3?10重量%、オレイン酸を39?59重量%、リノール酸を20?48重量%、およびリノレン酸を1?15重量%含有することを特徴とするアスファルト混合物。
【請求項2】
前記潤滑性固化材が、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とを、「飽和脂肪酸:不飽和脂肪酸」の重量比で1:99?25:75の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載のアスファルト混合物。
【請求項3】
前記アスファルトと前記潤滑性固化材の合計量100重量%に対する、潤滑性固化材の含有量が1?60重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のアスファルト混合物。
【請求項4】
前記潤滑性固化材と前記アルカリ性添加材とが、「潤滑性固化材:アルカリ性添加材」の重量比で、100:10?100:300の範囲内であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のアスファルト混合物。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、施工後、比較的短い時間で強度を発現可能であり、かつ、強度および耐久性が高く、たわみ性に優れた舗装体を与えることのできるアスファルト混合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アスファルト混合物を製造するにあたって、骨材およびアスファルトに、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有する潤滑性固化材およびアルカリ性添加材を添加・混合することで、アスファルトの粘度を低下させることにより、低温域から常温、さらには中温域(たとえば、-20?120℃、好ましくは-10?100℃)での施工を可能とし、しかも、施工時には、混合物へ硬化促進剤を供給することにより、添加した潤滑性固化材とアルカリ成分とが鹸化反応あるいは中和反応し、増粘することで、比較的短い時間で強度を発現可能なアスファルト混合物を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
特に、本発明者等は、潤滑性固化材として、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有するものを用いることにより、常温あるいは中温域での施工を可能としながら、得られる舗装体を、強度および耐久性が高く、たわみ性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明によれば、骨材と、アスファルトと、潤滑性固化材と、アルカリ性添加材とを混合してなるアスファルト混合物であって、前記潤滑性固化材が、パルミチン酸を1?15重量%、ステアリン酸を0.3?10重量%、オレイン酸を39?59重量%、リノール酸を20?48重量%、およびリノレン酸を1?15重量%含有することを特徴とするアスファルト混合物が提供される。」

(ウ)「【0026】
また、本発明においては、潤滑性固化材として、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有するものを用いる。本発明においては、潤滑性固化材として、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有するものを用いることにより、施工前においては、常温あるいは中温域において、アスファルト混合物の粘度を低下させるカットバック材として作用することで、常温あるいは中温域での施工を可能としながら、これを用いて固化させることにより得られる舗装体を、強度および耐久性が高く、たわみ性に優れたものとすることができるものである。リノレン酸の含有量が少なすぎると、得られる舗装体の強度、耐久性およびたわみ性の向上効果が得られなくなり、一方、多すぎると、常温あるいは中温域での施工が困難となってしまう。リノレン酸の含有量は、好ましくは3?12重量%であり、より好ましくは4?10重量%、さらに好ましくは5?8重量%、さらにより好ましくは5.5?7.5重量%である。」

(エ)「【実施例】
【0050】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0051】
<実施例1?6>
骨材、ストレートアスファルト、潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)、および普通ポルトランドセメントを、2軸パグミル型ミキサ(1バッチ:30?60kg)に、この順にて配合し、混合を行うことで、アスファルト混合物を得た。なお、この際において、骨材の加熱温度は110?130℃、アスファルトの加熱温度は150?165℃、その他の部材は常温とした。また、実施例1?6で用いた潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)は、以下の性状を有するものである。
・成分比率:パルミチン酸11重量%、ステアリン酸4重量%、パルミトレイン酸1重量%、オレイン酸41重量%、リノール酸37重量%、リノレン酸6重量%
・酸価:195?203
・ヨウ素価:112?122
【0052】
また、実施例1?6においては、ストレートアスファルトと潤滑性固化材との合計100重量%に対する、潤滑性固化材の配合量が下記の通りであるアスファルト混合物を2種類調製した。
・潤滑性固化材の配合量:5重量%(実施例1)
・潤滑性固化材の配合量:10重量%(実施例2)
・潤滑性固化材の配合量:15重量%(実施例3)
・潤滑性固化材の配合量:20重量%(実施例4)
・潤滑性固化材の配合量:25重量%(実施例5)
・潤滑性固化材の配合量:30重量%(実施例6)
具体的には、骨材として表1に示す合成粒度を有する骨材を使用し、骨材、ストレートアスファルト、潤滑性固化材、および普通ポルトランドセメントの配合量を表2に示す量とした「通常配合」と、骨材として表3に示す合成粒度を有する骨材を使用し、骨材、ストレートアスファルト、潤滑性固化材、および普通ポルトランドセメントの配合量を表4に示す量とした「透水用配合」との2種類の混合物を得た(後述の実施例7、比較例1?7においても同様。)。
【0053】
【表1】
(合議体注:表は省略)
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】
(合議体注:表は省略)
【0056】
【表4】


【0057】
<実施例7>
潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)の代わりに、潤滑性固化材(商品名「PM400」、ミヨシ油脂株式会社製)を使用した以外は、実施例4と同様にして、アスファルト混合物を得た。すなわち、実施例7では、潤滑性固化材の配合量を、ストレートアスファルトと潤滑性固化材との合計100重量%に対して、20重量%とした。
なお、実施例7で用いた潤滑性固化材(商品名「PM400」、ミヨシ油脂株式会社製)は、以下の性状を有するものである。
・成分比率:パルミチン酸4重量%、ステアリン酸1重量%、オレイン酸46重量%、リノール酸42重量%、リノレン酸7重量%
・酸価:193?203
・ヨウ素価:120?140
【0058】
<比較例1?6>
潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)の代わりに、潤滑性固化材(トール油脂肪酸、商品名「ハートールFA-1」、ハリマ化成グループ社製)を使用した以外は、実施例1?6と同様の配合比にて、比較例1?6に係るアスファルト混合物を得た。なお、比較例1?6で用いたトール油脂肪酸(商品名「ハートールFA-1」、ハリマ化成グループ社製)は、以下の性状を有するものである。
・「脂肪酸:樹脂酸」=98.5:1.5(重量比)
・不けん化物含有量:2.0重量%
・脂肪酸の成分比率:パルミチン酸1?3重量%、ステアリン酸1?3重量%、オレイン酸40?50重量%、リノール酸35?45重量%
・樹脂酸の種類:ロジン
・酸価:194mgKOH/g
また、比較例1?6においては、ストレートアスファルトと潤滑性固化材との合計100重量%に対する、潤滑性固化材の配合量を以下の通りとした。
・潤滑性固化材の配合量:5重量%(比較例1)
・潤滑性固化材の配合量:10重量%(比較例2)
・潤滑性固化材の配合量:15重量%(比較例3)
・潤滑性固化材の配合量:20重量%(比較例4)
・潤滑性固化材の配合量:25重量%(比較例5)
・潤滑性固化材の配合量:30重量%(比較例6)
【0059】
<比較例7>
潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)および普通ポルトランドセメントを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、アスファルト混合物を得た。なお、比較例7では、「通常配合」においては、骨材100重量部、ストレートアスファルト5.82重量部とし、「透水用配合」においては、骨材100重量部、ストレートアスファルト4.55重量部とした。
【0060】
<実施例1?7、比較例1?7のアスファルト混合物の評価>
そして、このようにして得られた実施例1?7、比較例1?7のアスファルト混合物を、締固め温度まで加熱したモールド(型枠)内へ投入した後、水分を添加し、締固め(両面50回)を行い、温度20℃、湿度60%の条件で7日間養生を行うことで、供試体を得た。なお、供試体としては、「通常配合」を用いた供試体と、「透水用配合」を用いた供試体との2種類の供試体を得た。そして、得られた供試体を用いて、以下のホイールトラッキング試験、ねじり試験および曲げ試験を行った。
【0061】
(ホイールトラッキング試験)
「通常配合」を用いた供試体を用いて、「舗装試験法便覧」((社)日本道路協会、昭和63年11月発行)の「3-7-1」、「3-7-3」に準じて、試験温度60℃にて、ホイールトラッキング試験を行うことで、動的安定度(回/mm)を求めた。動的安定度(回/mm)の値は、高いほど、強度が高く、わだち掘れの発生を軽減できるための望ましい。結果を表5に示す。なお、表5においては、各実施例・比較例の結果を、配合した潤滑性固化材の種類、および潤滑性固化材の配合量と関連付けて示した(表6、表7においても同様。)。
【0062】
【表5】
(合議体注:表は省略)
【0063】
(ねじり試験)
「透水用配合」を用いた供試体を用いて、「舗装性能評価法別冊 ねじり骨材飛散値を求めるためのねじり骨材飛散試験機による測定方法」に準じで、試験温度50℃、試験時間2時間の条件で、ねじり試験を行うことで、供試体からの骨材飛散率(%)を求めた。なお、2時間の試験時間より前に、供試体が崩壊した場合には、その崩壊時間を求めた。ねじり試験においては、骨材飛散率が低いほど、あるいは、供試体が崩壊するまでの時間が長いほど、トルクに対する耐久性が高いため望ましい。結果を表6に示す。
【0064】
【表6】


【0065】
(曲げ試験)
「通常配合」を用いた供試体を用いて、「舗装調査・試験法便覧 B005」に準じで、試験温度-10℃にて、曲げ試験を行うことで、破断時のひずみ(×10^(-3)mm/mm)を求めた。曲げ試験においては、破断時のひずみが大きいほど、たわみ性に優れ、ひび割れの発生を軽減できるための望ましい。結果を表7に示す。
【0066】
【表7】
(合議体注:表は省略)
【0067】
<実施例1?7、比較例1?7の評価>
表5?表7に示すように、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有する潤滑性固化材(「PM200」、「PM400」)を用いた場合には、リノレン酸を含有しない潤滑性固化材(トール油脂肪酸)を使用した場合と比べて、同量の添加量でも、動的安定度(ホイールトラッキング試験)、トルクに対する耐久性(ねじり試験)、および破断時のひずみ(曲げ試験)に優れる供試体を得ることができ、強度、耐久性、たわみ性の向上効果が高いことが確認できる。
なお、「PM400」については、配合量が20重量%であるものの試験結果のみを示したが、配合量を変化させた場合における結果も、「PM200」を使用した場合と同様の傾向であった。
【0068】
<実施例8>
ストレートアスファルトと潤滑性固化材との合計100重量%に対する、潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)の配合量を45重量%に変更した以外は実施例1と同様にして、アスファルト混合物を得た。なお、実施例8では、表1に示す合成粒度を有する骨材100重量部、ストレートアスファルト3.22重量部、潤滑性固化材2.64重量部、普通ポルトランドセメント0.66重量部を使用した。また、実施例8においては、「通常配合」のみ調製し、「透水用配合」については作製しなかった(後述の実施例9、比較例8においても同様。)。
【0069】
<実施例9>
潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)の代わりに、潤滑性固化材(商品名「PM400」、ミヨシ油脂株式会社製)を使用した以外は、実施例8と同様にして、アスファルト混合物を得た。
【0070】
<比較例8>
潤滑性固化材(商品名「PM200」、ミヨシ油脂株式会社製)の代わりに、潤滑性固化材(トール油脂肪酸、商品名「ハートールFA-1」、ハリマ化成グループ社製)を使用した以外は、実施例8と同様にして、アスファルト混合物を得た。
【0071】
<実施例8,9、比較例8のアスファルト混合物の評価>
そして、このようにして得られた実施例8,9、比較例8のアスファルト混合物を、締固め温度に加熱したモールド(型枠)内へ投入した後、水分を添加し、締固め(両面50回)を行い、養生を行うことで、供試体を得た。なお、供試体としては、温度20℃、湿度60%の条件で1時間養生を行うことにより得られた供試体Aと、温度20℃、湿度60%の条件で7日間養生を行うことにより得られた供試体Bとの2種類の供試体を得た。そして、得られた供試体A,Bを用いて、以下のマーシャル安定度の測定を行った。
【0072】
(マーシャル安定度)
得られた供試体A,Bを用いて、マーシャル安定度の測定を行った。マーシャル安定度の測定は、供試体A(養生時間1時間)については20℃で行い、供試体B(養生時間7日)については60℃で行った。結果を表8に示す。マーシャル安定度(kN)の値が高いほど、早期に安定かつ高強度な供試体が得られると判断することができるため望ましい。
【0073】
【表8】
(合議体注:表は省略)
【0074】
<実施例8,9、比較例8の評価>
表8に示すように、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有する潤滑性固化材(「PM200」、「PM400」)を用いた場合には、リノレン酸を含有しない潤滑性固化材(トール油脂肪酸)を使用した場合と比べて、同量の添加量でも、マーシャル安定度の値が高く、早期に強度を発現可能なものであることが確認できる。」

ウ 甲3に記載された事項
甲3には、次の事項が記載されている。
(ア)「石油系潤滑油留分の精製の際に排出する廃白土を配合したことを特徴とするアスフアルト舗装用混合物。」(特許請求の範囲)

(イ)「本発明はアスフアルト舗装用混合物に関するものである。詳しくは石油系潤滑油留分を白土により精製する際排出される油分を含んだ廃白土をその油分を分離することなくそのまま従来の石粉に代えて配合したアスフアルト舗装用混合物に係り、その目的とするところは、耐水性に優れ、施工時の作業性がよく種種の利点を有するアスフアルト舗装用混合物を提供すると共に、廃白土の有効な利用法を提供するにある。」(第1頁左下欄9?17行)

(ウ)「以上の例示により明らかなごとく本発明によれば、
1)廃白土をその油分と白土分に分離することなく、そのまま用いてこれら両成分を全部活用するので、廃白土に基く公害が完全に解決できる。
2)アスフアルト舗装用混合物の品質特に耐水性、常温混合物の施工時における作業性、貯蔵性等が改善できる。
(3)石粉、カツトバツクアスフアルト、緩和剤等を使わずにすむので、アスフアルト舗装用混合物特に常温用混合物の製造原価を大巾に引下げることができる等その効果は著しく、工業的意義は頗る大きい。」(第3頁左下欄5行?同頁右下欄7行)

エ 甲4に記載された事項
甲4には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0004】
上記特開昭48-19617号公報のアスファルト舗装用混合物は、常温混合物の施工時における作業性、貯蔵性等が改善されるとあるように、舗装用の常温混合物に係るものであり、添加するのが石油系潤滑油溜分であるから、これを現在使用されている再生加熱アスファルト混合物に適用した場合、再生効果に劣る面がある。」

オ 甲5に記載された事項
甲5には、次の事項が記載されている。
(ア)「(2)再生剤
再生剤としては,再生用添加剤のほか,再生用改質剤を併用した.この理由として,高粘度改質アスファルトは,高機能舗装混合物中の骨材の結合力を向上させるため,ストレートアスファルトにゴム,熱可塑性エラストマー等の改質剤を多量に添加しており,高機能舗装切削材を再生骨材として使用し,高機能舗装混合物に再生する場合には,老化が進行したアスファルトの針入度を回復させるとともに,低下した骨材把握力を補充する必要があると考えたためである.なお,今回使用した再生用添加剤は,オイル系のものであり,劣化により凝集したアスファルテンを分散させ,再生能力の大きい成分である芳香族分等を補うものである.また,再生用改質材は,新たに熱可塑性エラストマーを補充するものであり,分散性を良くするためにエマルジョン系のものを採用した.」(第126頁左欄第37行?同頁右欄第9行)

(イ)「b)再生剤の添加量
再生剤の添加量は,再生用改質剤量を固定し,再生用添加剤量のみを変化させた供試体のカンタブロ試験結果をもとに決定した.
再生用改質剤は,添加量が少ない場合,プラントでの混合物製造時の分散性が悪くなることが予想され,不均質な混合物となることが懸念される.一方,添加量が多くなるにしたがってカンタブロ損失率や動的安定度などの混合物性状は向上するものの,混合物のコスト増加に繋がる.これらの理由から,再生用改質剤量は,追跡調査により良好な供用性が確認されている中央道の試験施工での実績配合と同様な4%に固定し,再生用添加剤量を10%,15%,20%,25%,30%と変化させた.
カンタブロ試験結果を図-2に示す.図より,カンタブロ損失率が目標とする10%以下となる再生用添加剤量は18%となるが,混合物製造時におけるばらつき等を考慮し,十分に目標値をクリアさせるため,20%とした.」(第128頁左欄第1?19行)

(ウ)「

」(第128頁 図-2)

カ 甲6に記載された事項
甲6には、次の事項が記載されている。
(ア)「(2)使用材料
使用した材料の一覧を表-1に,使用した骨材,アスファルト,再生用添加剤,改質材の性状を表-2?5に示す.再生骨材は2種類使用し,一つは排水性舗装の切削材を13-5mmに分級した再生骨材(再生骨材A),もう一つはストレートアスファルトを用いた一般的な舗装の切削材を13-5mmに分級した再生骨材(再生骨材B)とした.再生用添加剤は市販されているオイルタイプのものを用いた.また,改質材はポリマー改質アスファルトH型用改質材として市販されているものを用いた.」(第97頁右欄第16行?第98頁左欄第3行)

(イ)「


」(第98頁 表-1)

(イ)「

」(第98頁 表-4)

(エ)「(3)再生用添加剤量及び改質材量の設定
再生用添加剤量及び改質材量をカンタブロ試験によって決定した.新規混合物のカンタブロ損失量は11.4%であったため,この値を目標にして配合設計を行った.添加量の水準を多くすると配合設計の労力が多大になるため,まず再生用添加剤量を決定し,その後改質材量を決定する手順とした.図-5に示すように再生骨材Aでは,再生添加剤が10%のときに目標値になったため,再生用添加剤量を10%と設定した.再生骨材Bでは2%付近で目標値となったが,2%では量が少なすぎて計量が困難であるため,5%に設定することにした.」(第100頁右欄第1行?第101頁左欄第3行)

(オ)「

」(第100頁 図-5)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「亜麻仁油脂肪酸」は、文言どおり、脂肪酸に包含されるものであり、その意味において、本件発明1の「脂肪酸」に相当する。
そして、甲1発明の全天候型常温アスファルト混合物は、「軟質アスファルト」、「亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステル」、「骨材」及び「セメント」を含有し、上記「軟質アスファルト」は、鉱物油を混合し、所定の針入度範囲内となるように調整したアスファルトであってもよいから、骨材、アスファルト、脂肪酸及びセメントを含むものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「骨材、アスファルト、脂肪酸及びセメントを含む常温アスファルト混合物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「石油潤滑油系の液体である性状改善剤」を含むのに対して、甲1発明は、鉱物油を含む点。

相違点2:本件発明1の「脂肪酸」は、「オレイン酸及びリノール酸を含有し、前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸及び前記リノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい」ものであるのに対して、甲1発明の「亜麻仁油脂肪酸」は、オレイン酸20?35重量%、リノール酸5?20重量%、リノレン酸30?58重量%、パルミチン酸4?9重量%を含むものである点。

相違点の判断
まず、相違点2について検討する。
a 甲1の記載によると、甲1発明が解決しようとする課題は、骨材飛散抵抗性を改善しつつ、一定の作業性を有し、早期に硬化し、且つ柔軟性を有する全天候型常温アスファルト混合物を提供することであり(摘記(1)ア(イ))、甲1発明は、上記課題を解決するために、所定の針入度を有する軟質アスファルトに亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを添加するものであり、それにより、アスファルト混合物の骨材飛散抵抗性を向上して損失率%を低下すると共に、作業性も向上するものである(摘記(1)ア(ウ)及び(キ))。
甲1には、脂肪酸として、大豆油脂肪酸やヒマワリ脂肪酸が記載されている。これらの脂肪酸はリノール酸の方がオレイン酸よりも含有量が多いものであり、「前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸及び前記リノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい」場合も包含し得るものである。
しかしながら、甲1発明における課題解決手段である亜麻仁油脂肪酸は、大豆油脂肪酸やヒマワリ脂肪酸などの他の植物由来脂肪酸類と比べて脂肪酸組成が大きく異なり、リノレン酸を多く含有し、オレイン酸やリノール酸の含有量も異なるものである(摘記(1)ア(カ))。
そうすると、甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて、甲1発明における亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを、リノール酸の含有量がオレイン酸及びリノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい脂肪酸である大豆油脂肪酸などの他の植物由来脂肪酸類に置き換えることを動機づけられるとはいえない。

b また、甲2には、骨材と、アスファルトと、潤滑性固化材と、アルカリ性添加材とを混合してなるアスファルト混合物において、前記潤滑性固化材が、パルミチン酸を1?15重量%、ステアリン酸を0.3?10重量%、オレイン酸を39?59重量%、リノール酸を20?48重量%、およびリノレン酸を1?15重量%含有するものが記載されており、リノレン酸を1?15重量%の割合で含有する潤滑性固化材を用いることで、アスファルト混合物の粘度を低下させて低温域から中温域(-20?120℃)での施工を可能としながら、得られる舗装体の強度及び耐久性が高く、たわみ性に優れたものとすることができることが記載されている(摘記(1)イ(ア)、(イ)及び(エ))。そして、甲2に記載された潤滑性固化材は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びパルミチン酸等の脂肪酸成分を含み、その脂肪酸成分の種類自体は、甲1発明の亜麻仁油脂肪酸や甲1に記載された大豆油脂肪酸等の植物由来脂肪酸類と同様であると解される。

c しかしながら、甲2に記載の潤滑性固化材は、オレイン酸39?59重量%、リノール酸20?48重量%、およびリノレン酸1?15重量%を含有し、甲1発明の亜麻仁油脂肪酸と比べると、リノレン酸の含有量が重複しないし、リノール酸の上限値である20重量%を除いて、オレイン酸及びリノール酸の含有量も重複するものではない。また、甲2に記載された潤滑性固化材と甲1に記載された大豆油脂肪酸とを比べても、リノレン酸の含有量が重複するものの、オレイン酸及びリノール酸の含有量に重複するところが全くない。更に、甲2には、潤滑性固化材として、本件発明1で特定される「オレイン酸及びリノール酸を含有し、前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸及び前記リノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい」組成を有するものを用いることは、具体的に記載されていない。

d また、甲3?甲6の記載を見ても、「オレイン酸及びリノール酸を含有し、前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸及び前記リノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい」脂肪酸を常温アスファルト混合物に添加することは、何ら記載されていない。

e そうすると、甲1発明において、甲1?甲6の記載に基いて、亜麻仁油脂肪酸および/または亜麻仁油脂肪酸エステルを、リノール酸の含有量がオレイン酸及びリノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい脂肪酸である大豆油脂肪酸などの脂肪酸に置き換えることが動機付けられるとはいえない。

f そして、本件発明1は、「常温より低い低温の環境下での舗設後の耐久性及び舗設時の作業性を向上させることができる」(本件明細書の段落【0013】)という効果を奏するものであり、-10℃におけるカンタブロ試験と作業性評価試験の試験結果である表2を見ると、脂肪酸におけるリノール酸の含有量がオレイン酸の含有量よりも多い、番号4の脂肪酸を用いる場合に、リノール酸の含有量がオレイン酸の含有量よりも少ない、番号1?3の脂肪酸を用いる場合と比べて、低温の環境下での耐久性と作業性を同時に向上することができることを具体的に確認できる。
一方、甲1には、骨材飛散抵抗性については、5.0℃の試験温度で、アスファルト150/200及び亜麻仁油脂肪酸を用いる場合に、ストレートアスファルト60/80及び亜麻仁油脂肪酸を用いた比較例混合物よりも、低い損失率%であったことが記載されるにとどまり(摘記(1)ア(ク)及び(ケ))、また、作業性については、甲1発明に用いられる亜麻仁油脂肪酸の-10℃での粘度がトール油脂肪酸よりも低いため、低温時の混合を容易に実施できること(摘記(1)ア(カ)及び(サ))、及び、寒暖の影響を考慮することなく施工ができること(摘記(1)ア(イ))が記載されるにとどまり、更に、甲2には、50℃の試験温度でのねじり骨材飛散試験による骨材飛散率%が記載されるにとどまり(摘記(1)イ(エ))、甲1及び甲2の記載から、本件発明1の上記効果が予測し得るとはいえない。
また、甲3?甲6を見ても、本件発明1による上記効果が予測し得る記載は見当たらない。
以上によれば、甲1発明において、「前記脂肪酸は、オレイン酸及びリノール酸を含有し、前記リノール酸の含有量は、前記オレイン酸及び前記リノール酸の合計重量に対して50重量%より大きい」とすることが、当業者が容易に想到し得たということはできない。

ウ 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに甲1?甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、更に特定事項を限定するものであるから、上記(1)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2?7は、甲1に記載された発明、並びに甲1?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1?7は、甲1に記載された発明、並びに甲1?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

2 取消理由2(サポート要件)について
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。そこで、この点について、以下に検討する。

(2)当審の判断
a 本件発明1が解決しようとする課題は、「常温より低い低温の環境下での舗設後の耐久性及び舗設時の作業性を向上させることができる常温アスファルト混合物を提供すること」(本件明細書の段落【0013】)であると解される。そして、本件発明1は、骨材、アスファルト、石油潤滑油系の液体である性状改善剤、脂肪酸及びセメントを少なくとも含む常温アスファルト混合物であり、要するに、上記脂肪酸におけるリノール酸の含有量をオレイン酸の含有量よりも多くするものである。
本件明細書には、「実施の一形態によれば、常温アスファルト混合物は、少なくとも骨材、アスファルト、脂肪酸及びアルカリ性添加剤を含み、脂肪酸は、オレイン酸及びリノール酸を含有し、リノール酸の含有量は、オレイン酸の含有量よりも多い。これにより、常温(例えば、20±15℃)より低い低温(例えば、-10℃)の環境下において、舗設後の常温アスファルト混合物の骨材飛散抵抗性が常温の環境下に比べて低下することが抑制され、舗設後の常温アスファルト混合物の劣化及び老化が抑えられるので、低温の環境下での舗設後の耐久性を向上させることができる。さらに、リノール酸の融点がオレイン酸よりも低いため、低温の環境下において、常温アスファルト混合物の流動性を維持することが可能になるので、低温の環境下での舗設時の作業性を向上させることができる。」(段落【0063】)と記載されている。そして、このことは、上記1(1)イで述べたように、-10℃におけるカンタブロ試験と作業性評価試験の試験結果である表2から具体的に確認できる。
ここで、上記カンタブロ試験と作業性評価試験の試験結果は、「損失率評価(低温-10℃)の評価結果では、カンタブロ試験(低温-10℃)の損失率が10%以下である目標条件が設定され」(段落【0036】及び【0048】)、「作業性評価の評価結果の一つである試験結果では、作業性評価試験の作業性評価値が(例えば)40N以下である目標条件が設定され」ており(段落【0037】及び【0048】)、これらの目標条件を満たすものを合格(○印)、満たさないものを不合格(×印)としている。
しかしながら、上述のように、本件発明1の課題は、低温の環境下での舗設後の耐久性及び舗設時の作業性を向上する常温アスファルト混合物の提供であり、上記損失率(-10℃)が10%以下で、且つ上記作業性評価値が40N以下でなければ上記課題を解決していないとまではいえず、例えば、表3の常温アスファルト混合物3の上記損失率(-10℃)は11.1%であり、作業性評価値は42.3Nであるが、これは請求項1の特定事項を全て満たす表2の常温アスファルト混合物4であり、請求項1の特定事項を満たさない場合に比べて、低温の環境下での舗設後の耐久性及び作業性を一定程度向上し、上記課題を解決するものと解される。

b そうすると、本件明細書には、本件発明1が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているといえる。
また、本件発明2?7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件明細書には、本件発明2?7が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているといえる。
よって、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載したものである。

c 申立人は、申立書において、「「石油潤滑油系の液体」は平均分子量が大きくなると粘性が高くなり、平均分子量が小さくなると粘性が低くなることが技術常識となっており、この平均分子量を明らかにすることなく・・・本件特許発明の課題である、作業性を改善することはできない」(申立書第22頁17?21行)から、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨を主張する。
しかしながら、本件発明1は、特定の脂肪酸を用いることにより、-10℃の低温の環境下での耐久性及び作業性を向上でき(本件明細書の段落【0063】)、同じく性状改善剤を用いることにより、低温の環境下において流動性を上げることができ、作業性を向上できる(同じく段落【0064】)ものであり、申立人が主張するように、性状改善剤の分子量を特定しなければ、上記課題を解決しないというものではない。
また、申立人は、上記主張を裏付ける技術的な証拠を具体的に示していない。
そうすると、申立人の上記主張は妥当なものであるとはいえず、これを採用することはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-30 
出願番号 特願2018-162386(P2018-162386)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松浦 裕介  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 近野 光知
井上 猛
登録日 2018-12-28 
登録番号 特許第6458194号(P6458194)
権利者 世紀東急工業株式会社
発明の名称 常温アスファルト混合物  
代理人 石塚 良一  

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