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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1357414
審判番号 不服2018-16566  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-11 
確定日 2019-12-23 
事件の表示 特願2017-217853「機器管理システム、上位装置、下位装置、及び更新方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月13日出願公開、特開2019- 91125、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成29年11月10日の出願であって,平成30年1月19日付けで審査請求がなされ,平成30年4月12日付けで拒絶理由通知(同年4月17日発送)がなされたが,指定期間内に出願人からの応答がなく,平成30年9月4日付けで拒絶査定(同年9月11日謄本送達)がなされた。
これに対して,「原査定を取り消す、本願の発明は特許すべきものであるとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として,平成30年12月11日付けで本件審判請求がなされ,平成31年4月9日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされた。
そして,令和元年9月2日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)(同年9月3日発送)がなされ,同年11月5日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成30年9月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1,3,4,6に係る発明は,以下の引用文献A,B,Cに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2015-022681号公報
B.特開2009-080550号公報
C.特開2009-265925号公報

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?3に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2007-249360号公報(当審で新たに引用した文献)

第4 本願発明

ア 本願請求項1?4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は,令和元年11月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「上位装置と、前記上位装置と通信可能に接続された下位装置とからなる機器管理システムであって、
前記上位装置は、
前記下位装置の基本動作を利用した複数の動作単位を作業領域に視覚的に配置し、前記視覚的に配置された前記複数の動作単位を接続するリンクを指定するユーザインターフェースと、
前記複数の動作単位および前記リンクにより規定される動作情報を含む指示情報を送信する第1の通信部と、を備え、
前記下位装置は、
前記基本動作を規定するオペレーティングシステム層と、前記動作情報を記憶する動作規定層と、を含む複数の階層からなるファームウェアと、
前記指示情報を受信する第2の通信部と、
前記第2の通信部が受信した前記指示情報に含まれる前記動作情報を用いて、前記動作規定層を更新する更新部と、を備える
機器管理システム。」

イ なお,本願発明2?本願発明4の概要は以下のとおりである。

(ア)本願発明2は,本願発明1を上位装置の発明として表現した発明である。

(イ)本願発明3は,本願発明1を下位装置の発明として表現した発明である。

(ウ)本願発明4は,本願発明1に対応する方法の発明である。

第5 引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

ア 本願の出願日前に頒布(又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である)され,当審拒絶理由通知において引用された刊行物である,特開2007-249360号公報(平成19年9月27日出願公開。以下,「引用文献」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0001】
本発明は、ファームウェア更新後に再度更新処理を実行することができるファームウェアの更新システムおよび更新方法に関する。」

B 「【0014】
以下、発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施に用いられる組込み機器31または41のハードウェア構成の一例である。ここで、組込み機器31または41は、CPU10と、メモリ11と、書き換え可能な不揮発性メモリ(以下、「ROM」とよぶ)12と、上位装置とデータを通信するためのインタフェース13(以下、「外部I/F13」とよぶ)とを含んでなり、CPU10とメモリ11とROM12と外部I/F13とは、互いにバスで接続されている。上記の組込み装置31または41は、一例として携帯電話機などでありうる。」

C 「【0016】
次に、図2を参照して、本発明の実施に用いられる組込み機器31または41のROM12に記憶されているプログラムの構成を示す。ROM12は、更新対象外である基本部プログラム20と、更新対象である応用部プログラム21および第二更新プログラム22とを記憶している。
【0017】
基本部プログラム20は、更新対象外であるため、更新処理プログラムによってその内容を変更することができない。基本部プログラム20は、例えば、ブートローダ20aと、オペレーティングシステム(OS)20bと、デバイスドライバ20cと、第二更新プログラム22を更新するための更新処理プログラムである第一更新プログラム20dとを含みうる。
一方、応用部プログラム21および第二更新プログラム22は、いずれも更新対象となるプログラムであり、その内容を変更することができる。」

D 「【0019】
次に、図3の流れ図を参照して、組込み機器31または41のROM12の更新対象である応用部プログラム21に記憶されているアプリケーション21aを更新する仕方について説明する。
ステップS1では、第一更新プログラム20dと第二更新プログラム22とアプリケーション21aとがROM12に記憶されている。ステップS2では、演算手段であるCPU10が、アプリケーション21aの変更に関する更新命令を上位装置から受信する。ステップ3において、CPU10は、この更新命令が第二更新プログラムの設定内容の変更(更新処理)を必要とするか否かを判断する。このような設定内容の変更の一例としては、例えば、応用部プログラムの更新データを上位装置からダウンロードするときの通信プロトコルの変更などを含みうる。
【0020】
もし、上記の更新命令を実行するのに第二更新プログラムの設定内容の変更が不要な場合には、ステップS4?S6に進む。ステップS4では、CPU10は、アプリケーション21aの更新に関する更新データをメモリ11に記憶させる。そして、ステップS5では、CPU10は、このメモリ11に記憶した更新データとROM12に予め記憶された第二更新プログラムとを用いて、アプリケーション21aを更新する。そして、ステップS6では、アプリケーション21aの更新が終了した旨の終了通知をCPU10が上位装置30に通信する。そして、アプリケーション21aの更新処理が終了する。」

E 【図2】には,「図1の組込み機器の不揮発性メモリ(ROM)内のファームウェアの構成図」が記載されているところ,当該図面から,“ファームウェアは,更新対象外であるOSを含む基本部プログラムと,更新対象であるアプリケーションを含む応用部プログラムと,を含む複数の階層から構成されている”ことが読み取れる。

イ ここで,上記引用文献に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの「本発明は、…(中略)…ファームウェアの更新システムおよび更新方法に関する」との記載,上記Bの「組込み機器31または41は、CPU10と、…(中略)…上位装置とデータを通信するためのインタフェース13(以下、「外部I/F13」とよぶ)とを含んでなり」との記載,上記Dの段落【0019】の「組込み機器…(中略)…の更新対象である応用部プログラム21に記憶されているアプリケーション21aを更新する仕方について説明する」及び「CPU10が、アプリケーション21aの変更に関する更新命令を上位装置から受信する」との記載からすると,引用文献には,“上位装置と,前記上位装置から更新命令を受信する組み込み機器とからなるファームウェアの更新システム”が記載されていると認められる。

(イ)上記(ア)の検討内容からすると,引用文献記載の“組み込み機器”は,“上位装置から更新命令を受信するインタフェース”を備えるものであると認められる。そして,組み込み機器が備えるインターフェースに更新命令を送信する“上位装置”についても,“組み込み機器に更新命令を送信するインタフェース”を備えているものと認められる。

(ウ)上記Cの段落【0016】の「ROM12は、更新対象外である基本部プログラム20と、更新対象である応用部プログラム21…(中略)…とを記憶している」との記載,同じく上記Cの段落【0017】の「基本部プログラム20は、…(中略)…オペレーティングシステム(OS)…(中略)…を含みうる」との記載,上記Dの段落【0019】の「組込み機器…(中略)…のROM12…(中略)…に記憶されているアプリケーション21aを更新する」との記載,及び上記Eの「ファームウェアは,更新対象外であるOSを含む基本部プログラムと,更新対象であるアプリケーションを含む応用部プログラムと,を含む複数の階層から構成されている」との記載からすると,引用文献記載の“組み込み機器”は,“更新対象外であるオペレーティングシステム(OS)を含む基本部プログラムと,更新対象であるアプリケーションを含む応用部プログラムと,を含む複数の階層から構成されるファームウェア”を備えているものと認められる。

(エ)上記Dの段落【0019】の「CPU10が、アプリケーション21aの変更に関する更新命令を上位装置から受信する」との記載,上記Dの段落【0020】の「ステップS4では、CPU10は、アプリケーション21aの更新に関する更新データをメモリ11に記憶させる…(中略)…ステップS5では、CPU10は、このメモリ11に記憶した更新データ…(中略)…を用いて、アプリケーション21aを更新する」との記載からすると,引用文献記載の“組み込み機器”は,“インタフェースが受信した更新命令を用いて,アプリケーションを更新するCPU” を備えているものと認められる。

ウ 以上,(ア)ないし(エ)で指摘した事項を踏まえると,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「上位装置と,前記上位装置から更新命令を受信する組み込み機器とからなるファームウェアの更新システムであって,
前記上位装置は,
前記組み込み機器に更新命令を送信するインタフェースを備え,
前記組み込み機器は,
更新対象外であるオペレーティングシステム(OS)を含む基本部プログラムと,更新対象であるアプリケーションを含む応用部プログラムと,を含む複数の階層から構成されるファームウェアと,
前記上位装置から更新命令を受信するインタフェースと,
前記インタフェースが受信した前記更新命令を用いて,前記アプリケーションを更新するCPUと,を備える
ファームウェアの更新システム。」

第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

ア 本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「上位装置」及び「組み込み機器」は,それぞれ本願発明1の「上位装置」及び「下位装置」に相当する。そして,引用発明の「組み込み機器」は,「上位装置から更新命令を受信」するものであるから,上位装置と通信可能に接続されているといえる。また,引用発明は,組み込み機器のファームウェアを更新するシステムであることから,組み込み機器のファームウェア等を管理するシステムといえるものである。
してみると,引用発明の「上位装置と,前記上位装置から更新命令を受信する組み込み機器とからなるファームウェアの更新システム」は,本願発明1の「上位装置と、前記上位装置と通信可能に接続された下位装置とからなる機器管理システム」に相当するといえる。

(イ)引用発明の上位装置が備える「インタフェース」は,本願発明1の「第1の通信部」に相当する。そして,引用発明の「更新命令」は,下位装置のファームウェアを更新するための指示情報と言い得るものであるところ,本願発明1に「指示情報に含まれる前記動作情報を用いて、前記動作規定層を更新する」,及び「下位装置は」「動作規定層と、を含む複数の階層からなるファームウェア」「を備える」と記載されるように,本願発明1の「指示情報」についても,下位装置のファームウェアの一部である動作規定層を更新するための指示情報であるから,引用発明の「更新命令」は,本願発明1の「指示情報」に対応するといえる。
してみると,引用発明の「組み込み機器に更新命令を送信するインタフェース」と,本願発明1の「動作情報を含む指示情報を送信する第1の通信部」は,後記する点で相違するものの,“指示情報を送信する第1の通信部”である点で共通するといえる。

(ウ)引用発明の「オペレーティングシステム(OS)」は,本願発明1の「基本動作を規定するオペレーティングシステム」に相当する。また,引用発明の「アプリケーション」と,本願発明1の「動作規定層」は,上位装置からの指示によって更新される“更新対象”である点で共通する。そして,本願の発明の詳細な説明の段落【0021】に,「部分的な書き換えが不可能な基礎オペレーティング層」,「部分的書き換えが可能な動作規定層」と記載されるように,本願発明1の「オペレーティング層」は更新対象外の層であり,「動作規定層」は更新対象となる層である。
してみると,引用発明の「更新対象外であるオペレーティングシステム(OS)を含む基本部プログラムと,更新対象であるアプリケーションを含む応用部プログラムと,を含む複数の階層から構成されるファームウェア」と,本願発明1の「前記基本動作を規定するオペレーティングシステム層と、前記動作情報を記憶する動作規定層と、を含む複数の階層からなるファームウェア」は,後記する点で相違するものの,“基本動作を規定するオペレーティングシステム層と,更新対象を含む層と,を含む複数の階層からなるファームウェア”である点で共通するといえる。

(エ)引用発明の組み込み機器が備える「インタフェース」は,本願発明1の「第2の通信部」に相当する。
してみると,引用発明の「上位装置から更新命令を受信するインタフェース」は,本願発明1の「指示情報を受信する第2の通信部」に相当するといえる。

(オ)引用発明の「CPU」は,ファームウェアの更新を行うものであることから,本願発明1の「更新部」に対応する。
そして,上記(イ)及び上記(エ)の検討結果を踏まえると,引用発明の「前記インタフェースが受信した前記更新命令を用いて,前記アプリケーションを更新するCPU」と,本願発明1の「前記第2の通信部が受信した前記指示情報に含まれる前記動作情報を用いて、前記動作規定層を更新する更新部」は,後記する点で相違するものの,“前記第2の通信部が受信した前記指示情報を用いて、前記動作規定層を更新する更新部”である点で共通するといえる。

イ 以上から,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

上位装置と,前記上位装置と通信可能に接続された下位装置とからなる機器管理システムであって,
前記上位装置は,
指示情報を送信する第1の通信部,を備え,
前記下位装置は,
基本動作を規定するオペレーティングシステム層と,更新対象を含む層と,を含む複数の階層からなるファームウェアと,
前記指示情報を受信する第2の通信部と,
前記第2の通信部が受信した前記指示情報を用いて、前記動作規定層を更新する更新部と,を備える
機器管理システム。

(相違点1)

本願発明1の上位装置が,「下位装置の基本動作を利用した複数の動作単位を作業領域に視覚的に配置し、前記視覚的に配置された前記複数の動作単位を接続するリンクを指定するユーザインターフェース」を備えるのに対して,引用発明の上位装置は,当該ユーザインターフェースを備えるかどうか不明である点。

(相違点2)

本願発明1の指示情報が,「前記複数の動作単位および前記リンクにより規定される動作情報を含む」ものであるのに対して,引用発明の更新命令は,どのような命令であるか特定されていない点。

(相違点3)

本願発明1の「動作情報」は,「指示情報に含まれる」ものであり,「動作規定層」に「記憶」されるものであるのに対して,引用発明は,本願発明1に記載されている「動作情報」に対応するものを用いていない点。

(2)相違点についての判断

事案に鑑み,先に相違点1及び相違点2について検討する。

上記相違点2に係る本願発明1の「前記複数の動作単位および前記リンクにより規定される動作情報を含む指示情報」を用いてファームウェアを更新する構成,及び上記相違点1に係る本願発明1の「下位装置の基本動作を利用した複数の動作単位を作業領域に視覚的に配置し、前記視覚的に配置された前記複数の動作単位を接続するリンクを指定するユーザインターフェース」を用いて上記相違点2に含まれる「動作情報」を上位装置において編集する構成は,いずれも上記引用文献1には記載されておらず,本願の出願日前において周知技術であるともいえない。

したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について

本願発明2は,本願発明1を上位装置の発明として表現した発明であって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明3について

本願発明3は,本願発明1を下位装置の発明として表現した発明であって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明4について

本願発明4は,本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断

令和元年11月5日付けの補正により,補正後の請求項1は,とりわけ,上位装置が「下位装置の基本動作を利用した複数の動作単位を作業領域に視覚的に配置し、前記視覚的に配置された前記複数の動作単位を接続するリンクを指定するユーザインターフェース」を備え,上位装置から送信される「前記複数の動作単位および前記リンクにより規定される動作情報を含む指示情報」によって下位装置が備えるファームウェアを更新するものとなった。
当該「ユーザインターフェース」を備え,当該「指示情報」によってファームウェアを更新する構成は,原査定における引用文献A,B,Cには記載されておらず,本願出願前における周知技術でもないので,本願発明1?4は,当業者であっても,引用文献A,B,Cに記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-09 
出願番号 特願2017-217853(P2017-217853)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三坂 敏夫  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 山崎 慎一
田中 秀人
発明の名称 機器管理システム、上位装置、下位装置、及び更新方法  

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