• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1357449
審判番号 不服2019-6337  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-15 
確定日 2019-11-27 
事件の表示 特願2017-64932「減色の部分的に反射する多層光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月14日出願公開,特開2017-161909〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-64932号(以下「本件出願」という。)は,2011年(平成23年)5月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年(平成22年)5月21日 米国)を国際出願日とする,特願2013-512641号の一部を新たな特許出願(外国語書面出願)としたものであって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 4月27日付け:手続補正書
平成29年 4月27日付け:上申書
平成30年 2月 8日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月17日付け:意見書
平成30年 8月17日付け:手続補正書
平成31年 1月 8日付け:拒絶査定
令和 元年 5月15日付け:審判請求書
令和 元年 5月15日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年5月15日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年8月17日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 第1の面内主軸を有する部分的に反射する多層反射偏光フィルム体であって,
第1のミクロ層のパケットと,
第2のミクロ層のパケットであって,少なくともいくらかの光線が,前記第1及び第2のミクロ層のパケットを連続的に通過することができるように,前記第1のパケットに接続された第2のミクロ層のパケットと,を備え,
前記第1及び第2のパケットが,400?700nmの拡張された波長範囲にわたって,前記第1の面内主軸に沿って直線偏光された垂直入射光線を部分的に透過し部分的に反射するように,それぞれ構成され,
前記第1及び第2のパケットが,組み合わされると,前記拡張された波長範囲にわたって平均して,0.05(5%)?0.95(95%)の範囲の垂直入射光線に対する第1の複合内部透過率を有し,
前記第1及び第2のパケットが,組み合わされると,(a)前記第1の面内主軸を含む第1の主平面において60度で入射し,(b)前記第1の主平面において直線偏光される斜光線に対する第2の複合内部透過率を有し,前記第2の複合内部透過率が,前記拡張された波長範囲にわたって平均して0.1(10%)?0.9(90%)の範囲にあり,
前記第1及び第2のパケットの複合の高周波スペクトル変動(Δcomb)が,前記第1のパケット自体の高周波スペクトル変動(Δ1)未満であり,
第1のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり,
高周波スペクトル変動とは,a_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差の標準偏差であり,
前記多層反射偏光フィルム体に含まれるパケットの数が2である,多層反射偏光フィルム体。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「 第1の面内主軸を有する部分的に反射する多層反射偏光フィルム体であって,
単調に変動する厚さプロファイルを有する第1のミクロ層のパケットと,
単調に変動する厚さプロファイルを有する第2のミクロ層のパケットであって,少なくともいくらかの光線が,前記第1及び第2のミクロ層のパケットを連続的に通過することができるように,前記第1のパケットに接続された第2のミクロ層のパケットと,を備え,
前記第1及び第2のパケットが,400?700nmの拡張された波長範囲にわたって,前記第1の面内主軸に沿って直線偏光された垂直入射光線を部分的に透過し部分的に反射するように,それぞれ構成され,かつ,少なくともその一部が複屈折であり,
前記第1及び第2のパケットが,組み合わされると,前記拡張された波長範囲にわたって平均して,0.05(5%)?0.95(95%)の範囲の垂直入射光線に対する第1の複合内部透過率を有し,
前記第1及び第2のパケットが,組み合わされると,(a)前記第1の面内主軸を含む第1の主平面において60度で入射し,(b)前記第1の主平面において直線偏光される斜光線に対する第2の複合内部透過率を有し,前記第2の複合内部透過率が,前記拡張された波長範囲にわたって平均して0.1(10%)?0.9(90%)の範囲にあり,
前記第1及び第2のパケットの複合の高周波スペクトル変動(Δcomb)が,前記第1のパケット自体の高周波スペクトル変動(Δ1)未満であり,
第1のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり,
高周波スペクトル変動とは,a_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差の標準偏差であり,
前記多層反射偏光フィルム体に含まれるパケットの数が2である,多層反射偏光フィルム体。」

なお,請求項2の記載は,次のとおりである。
「 前記フィルム体が,反射偏光子であり,前記第1の面内主軸が,前記反射偏光子の通過軸である,請求項1に記載のフィルム体。」

(3) 補正の適否
本件補正のうち,請求項1についてしたものは,[A]本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「第1のミクロ層のパケット」を,本件出願の願書に最初に添付したものとみなされた明細書(外国語書面の翻訳文)の【0028】の記載に基づいて,「単調に変動する厚さプロファイルを有する」ものに限定する補正,[B]本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「第2のミクロ層のパケット」を,同明細書の【0028】の記載に基づいて,「単調に変動する厚さプロファイルを有する」ものに限定する補正,[C]本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「第1及び第2のパケット」を,同明細書の【0054】の記載に基づいて,「少なくともその一部が複屈折であり」という構成を具備するものに限定する補正,[D]本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分」を,同明細書の【0009】及び【0015】の記載に基づいて,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分」と明確であるものにする補正,[E]本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「第2のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分」を,同明細書の【0009】及び【0015】の記載に基づいて,「第2のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分」と明確であるものにする補正に分けて考えることができる。

また,本件補正前の請求項1に係る発明と,本件補正後の請求項1に係る発明の,産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である。
以上勘案すると,請求項1についてした本件補正のうち,上記[A]?[C]の補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする補正である。また,上記[D]及び[E]の補正は,同項4号に掲げる事項(明りようでない記載の釈明)を目的とする補正である。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 本件補正後発明
本件補正後発明は,前記1(2)に記載したとおりのものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,特表平9-506837号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 7頁4?8行
「 本発明は,交互の層が結晶性ナフタレンジカルボン酸ポリエステルと別の選ばれたポリマーを含んで成る多層化ポリマーフィルムに関する。
そのようなフィルムは,低い屈折率と高い屈折率を有する多数の層の間の構造的な干渉によって光を反射する光学干渉フィルターを作製するために使用することができる。」

イ 10頁4?7行
「 結晶性ナフタレンジカルボン酸ポリエステルと別の選ばれたポリエステルとの複数の交互の層の主要部分から成る多層化ポリマーフィルムであって,その層の厚さは0.5μm未満であり,かつ結晶性ナフタレンジカルボン酸ポリエステルの少なくとも1つの面内軸に関する屈折率が隣接する層よりも高いフィルム。」

ウ 11頁18行?12頁12行
「 図1aおよび1bに表わすように,本発明は,反射偏向子またはミラーとして有用な,2,6-ポリエチレンナフタレート(PEN)のような結晶性ナフタレンジカルボン酸ポリエステル12と,選ばれたポリマー14との交互の層を有する多層化ポリマーシート10を含んで成る。PEN/選ばれたポリマーを1軸ないし2軸配向の範囲に亙って延伸することにより,様々に配向した面偏向入射光についての反射率の範囲を有するフィルムを創製する。2軸延伸する場合,シートを直交軸に沿って非対称に,または直交軸に沿って対称に延伸して,所望の偏向および反射特性を得ることができる。
偏向子では,シートを,単一方向に延伸することにより好ましく配向し,PEN層の屈折率が,配向方向および横断方向と平行な偏向面を有する入射光線間で大きな差を示す。
…(省略)…
PENは,延伸後の正の応力光学係数および永久複屈折が高いために好ましい材料であり,偏向面が延伸方向と平行な場合,偏向した550nm波長の入射光についての屈折率が,約1.64?約1.9程度の高屈折率まで高まる。延伸比5:1のPENと70-ナフタレート/30-テレフタレートコポリエステル(coPEN)で表される様々な面内軸に関する屈折率の差を,図2に示す。図2において,低い方の曲線におけるデータは,横断方向のPENとcoPENの屈折率を表し,上の方の曲線は,延伸方向のPENの屈折率を表す。PENは,可視スペクトルにおいて0.25?0.40の屈折率差を示す。分子配向を高めることによって,複屈折(屈折率の差)を高めることができる。」

エ 13頁9?20行
「 好ましくは,層は,様々な波長域を反射するように設計された異なる何組かの層を含む4分の1波長の厚さを有する。各層は,正確に4分の1波長厚さである必要はない。主要な要求は,隣接する低い屈折率と高い屈折率のフィルム対が,0.5波長の合計光学的厚さを有することである。図2に示すような屈折率差を有し,550nmの4分の1波長であるようにえらばれた層厚さを有するPEN/coPEN層の50層積層体のバンド幅は,約50nmである。50層積層体は,測定不能の吸収を含むこの波長範囲においておよそ99%の平均反射率を提供する。透過率1%未満(99%反射率)を示すコンピューターで作成した曲線を,図3に表す。…(省略)…本発明のフィルムは,測定可能な吸収がないため,反射率を,以下の関係式:
100-(透過率)=(反射率)
によって概算すると解するべきである。」

オ 14頁4?7行
「 本発明の反射偏向子は,眼用レンズ,ミラーまたは窓のような光学要素において有用である。偏向子は,サングラスにおいてスタイリッシュであると考えられる鏡の様な外観を特徴とする。さらに,PENは,非常に良好な紫外線フィルターであり,紫外線を,可視スペクトルの端まで効率よく吸収する。」

カ 15頁23行?16頁8行
「6回重ねた4分の1波長積層体で可視スペクトルの半分を被覆するように設計された,層の厚さに5%標準偏差を有する300層のフィルムは,図4に示される予想された性能を発揮する。延伸のより大きな対称性の程度は,比較的より対称な反射特性および比較的より少ない偏向特性を示す用品を得る。
所望により,本発明の2種またはそれ以上のシートを,反射率,光学バンド幅,またはその両者を高めるために,複合体中で使用することができる。シート内の対の層の光学的厚さが,実質上等しい場合,複合体は,多少より大きく効果的で実質上同じバンド幅と,個々のシートとしての反射のスペクトル範囲(すなわち,「バンド」)において反射するであろう。シート内の対の層の光学的厚さが,実質上等しくない場合,複合体は,個々のシートよりも広範なバンド幅に亙って(across)反射するであろう。偏向子シートを含むミラーシートから構成される複合体は,合計反射率を高めると同時に,透過した光を偏向させるのにも有用である。」

キ 19頁下から2行?21頁13行
「 実施例2
実施例1の記載と同様にして,51スロット供給ブロック内でPENとcoPENを押出した後,押出において連続して2層ダブリングマルチプライヤー(multiplier)を用いることにより,満足な204層偏向子を作製した。マルチプライヤーは,供給ブロックから出てくる押出成型された材料を,2つの半分幅のフロー流中に分配した後,互いの上に半分幅のフロー流を積み重ねるものである。米国特許第3,565,985号には,類似の同時押出マルチプライヤーが記載されている。固有粘度0.50dL/gのPENを,約295℃において,22.5ポンド/時間で押し出すのと同時に,固有粘度0.60dL/gのcoPENを,16.5ポンド/時間で押出した。キャストウェヴは,厚さ約0.0038インチであり,延伸中,空気温度140℃で,面を押さえながら,長尺方向に比5:1で1軸延伸した。表面層以外は,対の層すべてを,550nm光りに対して2分の1波長光学的厚さになるようにした。図7の透過スペクトルでは,約550nmを中心とする配向方向60の2つの反射ピークが,透過スペクトルからはっきり分かる。ダブルピークは,大抵,層マルチプライヤーに導入されたフィルム誤差の結果であり,ブロードなバックグラウンドは,押出成形工程とキャスト工程の全体に亙る累積フィルム誤差の結果である。横断方向の透過スペクトルを58で示す。上記のフィルム2つを光学的接着によって合わせてラミネートすることにより,偏向子の光学消衰を大幅に向上できる。
次に,上述と同様にして作製した2つの204層偏向子を,光学接着剤を用いて手でラミネートして,408層フィルム積層体を製造した。好ましくは,接着剤の屈折率は,等方性のcoPEN層の屈折率に適合させるべきである。図8に示すように,積層試料では,図7に表れた反射ピークを平滑にしている。このことは,ピーク反射率が,フィルムの異なる領域において様々な波長でランダムな形状で生じるために起こるものである。この効果は,しばしば「真珠光沢」と呼ばれる。2つのフィルムのラミネートは,色のランダムな変化が一方のフィルムと別のフィルムとで一致しないために真珠光沢を低減し,フィルムを重ねると相殺する傾向がある。
図8には,配向方向64と横断方向62の両者における透過率データを示す。偏向子の一方の面では,約450?650nmの範囲の波長において,光の80%以上を反射する。
真珠光沢は,本質的には,ある領域に対する隣接する領域におけるフィルム層内の非均一性の尺度である。完全に厚さを制御すると,ある波長に中心を合わせたフィルム積層体は,試料全体に亙って色の変化がない。可視スペクトルを完全に反射するように設計した多層積層体は,ランダムな波長において,顕著な光がランダムな領域を通して漏れる場合,層の厚さの誤差によって,真珠光沢を有する。本発明のポリマー系のフィルム層間の非常に様々な屈折率は,層の数があまり多くない場合,99%を上回るフィルム反射率を可能にする。このことは,押出成形工程において,性格な層の厚さ制御が達成され得るならば,真珠光沢を排除するのに非常に好都合である。コンピューターによる光学計算例は,層厚さの値を,10%未満または10%に等しい標準偏差で制御すれば,ほとんどの可視スペクトルに亙って99%を超える反射率が,PEN/coPEN偏向子における600層でのみ得られることを示している。」

ク 38頁14行?39頁6行
「PEN:CoPEN,601-高色(High Color)
ウェヴを押出して,2日後にフィルムを配向することにより,他のすべての実施例とはことなるテンターで601層を含む同時押出フィルムを製造した。固有粘度0.5dL/g(60重量%フェノール/40重量%ジクロロベンゼン)のポリエチレンナフタレート(PEN)を,一方の押出機において速度75ポンド/時間で分配し,固有粘度0.55dL/g(60重量%フェノール/40重量%ジクロロベンゼン)のCoPEN(2,6-NDC 70モル%およびDMT 30モル%)を,他方の押出機において速度65ポンド/時間で分配した。PENは,表層上にある。供給ブロック法を用いて,151層を2つのマルチプライヤーに通して,601層の押出物を得た。米国特許第3,565,985号には,同様の同時押出マルチプライヤーが記載されている。延伸はすべて,テンター内で行った。フィルムを約280°Fで約20秒予熱し,約4.4の引っ張り比まで,約6%/秒の速度で横断方向に引っ張った。その後,フィルムを,460°Fに設定した熱硬化オーブン内で最大幅の約2%に緩和した。最終フィルムの厚さは1.8miLであった。
図28にフィルムの透過率を示す。曲線aは,通常入射におけるp偏向した光の透過率を示し,曲線bは,60°入射におけるp偏向した光の透過率を示し,曲線cは,通常入射におけるs偏向した光の透過率を示している。通常入射および60°入射の両者におけるp偏向した光の透過率は,不均一であることが分かる。曲線cで示される可視域(400?700nm)でのs偏向した光の消衰も不均一であることが分かる。」

ケ 40頁最下行?41頁5行
「151層供給ブロックで作製した実施例では,供給ブロックを,層厚さの分布を創製して,可視スペクトルの一部を覆うように設計した。その後,米国特許第5,094,788号および同第5,094,793号に記載の如く,非対称なマルチプライヤーを用いて,層厚さの分布を広くして,ほとんどの可視スペクトルを覆うようにした。」

コ 図1a,図1b,図2,図3,図4,図7,図8及び図28
図1a:


図1b:


図2:


図3:


図4:


図7:


図8:


図28:


(2) 引用発明
前記(1)エ及びキからみて,引用文献1には,実施例2として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用発明の認定に際して,誤記修正(「偏向子」→「偏光子」),表現の整理(「配向方向60」→「配向方向の透過スペクトル60」等),図7及び図8の縦軸(透過率)との整合(「反射」を削除)を行った。
「 51スロット供給ブロック内でPENとcoPENを押出した後,押出において連続してマルチプライヤーを用いることにより204層偏光子を作製し,
ここで,204層偏光子の対の層のすべては,550nmの光に対して2分の1波長の光学的厚さを有し,
204層偏光子の配向方向の透過スペクトル60及び横断方向の透過スペクトル58は,以下の図Aで示され,配向方向の透過スペクトル60の2つのピークは,マルチプライヤーに導入されたフィルム誤差の結果であり,ブロードなバックグラウンドは,押出成形工程とキャスト工程の全体にわたる累積フィルム誤差の結果であり,
次に,
2つの204層偏光子を,光学接着剤を用いて手でラミネートして,408層フィルム積層体を製造し,
408層フィルム積層体の配向方向の透過スペクトル64及び横断方向の透過スペクトル62は,以下の図Bで示され,図Aに表れたピークが平滑になっており,このことは,ピークがフィルムの異なる領域において様々な波長でランダムな形状で生じるために起こり,2つのフィルムのラミネートは,ランダムな変化が一方のフィルムと別のフィルムとで一致しないために,フィルムを重ねると相殺する傾向があり,
測定可能な吸収がないため,反射率は,以下の関係式:
反射率=100-透過率
によって概算することができる,
408層フィルム積層体。
図A:


図B:



4 対比及び判断
(1) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 多層反射偏光フィルム体
引用発明の「408層フィルム積層体の配向方向の透過スペクトル64及び横断方向の透過スペクトル62は,以下の図Bで示され」る。
図B:

(当合議体注:以下,図Bの掲出を省略する。)
また,引用発明の「408層フィルム積層体」は,「測定可能な吸収がないため,反射率は,以下の関係式:
反射率=100-透過率
によって概算することができる」。
ここで,引用発明の「408層フィルム積層体」は,技術的にみて,「第1の面内主軸」(以下「引用発明面内主軸」という。)を定義することができるフィルム積層体である。そして,図B及び関係式からみて,引用発明の「408層フィルム積層体」は,光を部分的に反射するものであり,多層といえるだけの層数の,反射偏光フィルム体ということができる。
そうしてみると,引用発明の「408層フィルム積層体」は,本件補正後発明の,「第1の面内主軸を有する部分的に反射する」という要件を満たす「多層反射偏光フィルム体」に相当する。

イ ミクロ層のパケット
引用発明の「408層フィルム積層体」は,「2つの204層偏光子を,光学接着剤を用いて手でラミネートして」製造されたものである。そして,「408層フィルム積層体の配向方向の透過スペクトル64及び横断方向の透過スペクトル62は」,「図Bで示され」る。また,「204層偏光子の対の層のすべては,550nmの光に対して2分の1波長の光学的厚さを有し」ている。
ここで,引用発明の「204層偏光子」の「対の層」の光学的厚さからみて,引用発明の「204層偏光子」の各層はミクロ層といえる。また,引用発明の「204層偏光子」の各々は,「408層フィルム積層体」より小さなグループといえるから,パケットといえる。そして,図Bからみて,引用発明の「408層フィルム積層体」は,少なくともいくらかの光線が,「204層偏光子」の一方及び他方を連続的に通過することができるように,「204層偏光子」の一方に対して「204層偏光子」の他方が,光学接着剤によって接続されたものといえる。
そうしてみると,引用発明の「204層偏光子」の一方は,本件補正後発明の「第1のミクロ層のパケット」に相当し,引用発明の「204層偏光子」の他方は,本件補正後発明の「第2のミクロ層のパケット」に相当する。また,引用発明の「408層フィルム積層体」と本件補正後発明の「多層反射偏光フィルム体」は,「第1のミクロ層のパケットと」,「第2のミクロ層のパケットであって,少なくともいくらかの光線が,前記第1及び第2のミクロ層のパケットを連続的に通過することができるように,前記第1のパケットに接続された第2のミクロ層のパケットと,を備え」る点で共通する。

ウ 透過及び反射
引用発明の「204層偏光子の配向方向の透過スペクトル60及び横断方向の透過スペクトル58は,以下の図Aで示され」る。
図A:

(当合議体注:以下,図Aの掲出を省略する。)
図Aからみて,引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方は,400?700nmの波長範囲にわたって,上記アで定義した「引用発明面内主軸」に沿って直線偏光された垂直入射光線を部分的に透過し部分的に反射するものである(「引用発明面内主軸」を,どの方向にとっても,このことがいえる。)。また,技術的にみて,引用発明の「204層偏光子」の各層のうち,PENを材料とする層は,複屈折性を有する(引用文献1の図1aと図1bの比較からも確認できる。)。また,「400?700nmの拡張された波長範囲」と「400?700nmの波長範囲」の間に,波長範囲としての違いはない。
そうしてみると,引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方は,本件補正後発明の「第1及び第2のパケット」における,「400?700nmの拡張された波長範囲にわたって,前記第1の面内主軸に沿って直線偏光された垂直入射光線を部分的に透過し部分的に反射するように,それぞれ構成され,かつ,少なくともその一部が複屈折であり」という要件を満たす。

エ 第1の複合内部透過率
引用発明の「408層フィルム積層体の配向方向の透過スペクトル64及び横断方向の透過スペクトル62は」,「図Bで示され」る。
図Bからみて,引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方が組み合わされてなる「408層フィルム積層体」が,400?700nmにわたって平均して,垂直入射光線に対して5?95%の範囲内にある内部透過率を有することは明らかである。また,この内部透過率を「第1の複合内部透過率」と名付けることは当業者の随意である。
そうしてみると,引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方と,本件補正後発明の「第1及び第2のパケット」は,「組み合わされると,前記拡張された波長範囲にわたって平均して,0.05(5%)?0.95(95%)の範囲の垂直入射光線に対する第1の複合内部透過率を有し」ている点で共通する。

オ パケットの数
引用発明の「408層フィルム積層体」は,「2つの204層偏光子を,光学接着剤を用いて手でラミネートして」「製造」されたものである。
上記構成からみて,引用発明の「408層フィルム積層体」に含まれる「204層偏光子」の数は2である。また,前記イで述べたとおり,引用発明の「204層偏光子」の各々は,パケットである。
そうしてみると,引用発明の「408層フィルム積層体」は,本件補正後発明の「多層反射偏光フィルム体」における,「前記多層反射偏光フィルム体に含まれるパケットの数が2である」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 第1の面内主軸を有する部分的に反射する多層反射偏光フィルム体であって,
第1のミクロ層のパケットと,
第2のミクロ層のパケットであって,少なくともいくらかの光線が,前記第1及び第2のミクロ層のパケットを連続的に通過することができるように,前記第1のパケットに接続された第2のミクロ層のパケットと,を備え,
前記第1及び第2のパケットが,400?700nmの拡張された波長範囲にわたって,前記第1の面内主軸に沿って直線偏光された垂直入射光線を部分的に透過し部分的に反射するように,それぞれ構成され,かつ,少なくともその一部が複屈折であり,
前記第1及び第2のパケットが,組み合わされると,前記拡張された波長範囲にわたって平均して,0.05(5%)?0.95(95%)の範囲の垂直入射光線に対する第1の複合内部透過率を有し,
前記多層反射偏光フィルム体に含まれるパケットの数が2である,多層反射偏光フィルム体。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「第1のミクロ層のパケット」及び「第2のミクロ層のパケット」が,本件補正後発明は,「単調に変動する厚さプロファイルを有する」ものであるのに対して,引用発明は,「対の層のすべては,550nmの光に対して2分の1波長の光学的厚さを有」するものである点。

(相違点2)
「第1及び第2のパケット」が,本件補正後発明は,「組み合わされると,(a)前記第1の面内主軸を含む第1の主平面において60度で入射し,(b)前記第1の主平面において直線偏光される斜光線に対する第2の複合内部透過率を有し,前記第2の複合内部透過率が,前記拡張された波長範囲にわたって平均して0.1(10%)?0.9(90%)の範囲にあり」という要件を満たすものであるのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点3)
本件補正後発明は,「前記第1及び第2のパケットの複合の高周波スペクトル変動(Δcomb)が,前記第1のパケット自体の高周波スペクトル変動(Δ1)未満であり」,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり」,「高周波スペクトル変動とは,a_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差の標準偏差であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(3) 判断
事案に鑑みて,相違点2及び相違点3について先に判断し,最後に,相違点1について判断する。
ア 相違点2について
本件補正後発明において,「第1の面内主軸」は「通過軸」とは特定されていないから,例えば,「第1の面内主軸」を「通過軸から45°方向」と理解することができる。
そして,この場合において,引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方が組み合わされてなる「408層フィルム積層体」の,(a’)前記第1の面内主軸を含む第1の主平面において垂直入射し,(b’)前記第1の主平面において直線偏光される垂直光線に対する内部透過率は,図Bからみて,400?700nmの拡張された波長範囲にわたって平均して50%より若干大きい程度になる。また,この値が,光線の入射方向が60°になったとしても,10%を下回るまで大幅に変化せず,かつ90%を上回るまで大幅に変化しないことは明らかである。
(当合議体注:「第1の面内主軸」を「遮断軸」と理解しても同様である。)
したがって,引用発明の「408層フィルム積層体」は,相違点2に係る本件補正後発明の要件を満たす。
相違点2は,相違点ではない。
あるいは,仮に,「第1の面内主軸」を「通過軸」と理解しても,反射型偏光フィルムの透過率/反射率をどの程度に設計するかは,当業者の随意である(例えば,引用文献1の38頁14行?39頁6行及び図28(前記「第2」[理由]3(1)ク及びコ参照。)には,透過率が比較的低い反射型偏光フィルムが開示されている。)から,少なくとも,当業者が容易に発明をすることができた範囲内の事項といえる。

イ 相違点3について
引用発明の「204層偏光子」の「ピーク」は,「フィルムの異なる領域において様々な波長でランダムな形状で生じる」。
そうしてみると,引用発明の,「204層偏光子」の一方の反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分は,「204層偏光子」の他方の反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分とそれぞれ不整合である。
また,引用発明の「408層フィルム積層体の配向方向の透過スペクトル64及び横断方向の透過スペクトル62は」,「図Bで示され,図Aに表れたピークが平滑になって」いる。
そうしてみると,引用発明の「408層フィルム積層体」の高周波スペクトル変動は,「204層偏光子」自体の高周波スペクトル変動よりも平滑,すなわち,後者の変動量は,前者の変動量未満といえる。
(当合議体注:変動量が小さければ最良適合曲線との標準偏差も小さくなるから,Δcomb<Δ1になると考えられる。)
以上勘案すると,相違点3も,相違点ではない。

ウ 相違点1について
引用文献1には,供給ブロックの層厚さの分布の創製,及び非対称なマルチプライヤーの併用により,ほとんどの可視スペクトルを覆うようにできることが記載されている(40頁最下行?41頁5行,前記3(1)ケを参照。)。
ただし,引用発明における,「204層偏光子の配向方向の透過スペクトル60及び横断方向の透過スペクトル58は,以下の図Aで示され,配向方向の透過スペクトル60の2つのピークは,マルチプライヤーに導入されたフィルム誤差の結果であり」という構成を勘案した当業者ならば,誤差を排除するべく,マルチプライヤーの構成は採用しないといえる。現に,本件優先日前の当業者ならば,特開2006-178419号公報の【0013】,特表2007-520756号公報の【0044】,特開2006-62281号公報の【0088】,国際公開第2009/123928号の20頁6?10行に例示されるような,「単調に変動する厚さプロファイルを具備するフィルム」を,周知技術として心得ている。
そうしてみると,周知技術を心得た当業者が,少ない誤差要因で広帯域化することを目的として,引用発明において相違点1に係る本件補正後発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項である。

(4) 変更後の引用発明
「単調に変動する厚さプロファイルを具備するフィルム」の構成を採用した引用発明の「408層フィルム積層体」(以下「変更後の引用発明」という。)の光透過/反射特性は,引用発明のものから変わるはずである。
そこで,光透過/反射特性について,改めて確認すると,以下のとおりである。
ア 多層反射偏光フィルム体
変更後の引用発明の「408層フィルム積層体」が,依然として本件補正後発明の,「第1の面内主軸を有する部分的に反射する」という要件を満たすことは明らかである。

イ ミクロ層のパケット
変更後の引用発明の「204層偏光子」の他方が,依然として,「少なくともいくらかの光線が,前記第1及び第2のミクロ層のパケットを連続的に通過することができる」という要件を満たすことは明らかである。

ウ 透過及び反射
変更後の引用発明においても,「押出成形工程とキャスト工程の全体にわたる累積フィルム誤差」である「ブロードなバックグラウンド」は,ある程度,残存すると考えられる。
そうしてみると,変更後の引用発明の「408層フィルム積層体」は,本件補正後発明の「多層反射偏光フィルム体」における,「前記第1及び第2のパケットが,400?700nmの拡張された波長範囲にわたって,前記第1の面内主軸に沿って直線偏光された垂直入射光線を部分的に透過し部分的に反射する」という要件を満たす。

エ 第1の複合内部透過率
本件補正後発明の「0.05(5%)?0.95(95%)」という数値範囲の広さを勘案すると,変更後の引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方が,依然として本件補正後発明の「第1及び第2のパケット」における,「組み合わされると,前記拡張された波長範囲にわたって平均して,0.05(5%)?0.95(95%)の範囲の垂直入射光線に対する第1の複合内部透過率を有し」という要件を満たすことは明らかである。

オ 第2の複合内部透過率
本件補正後発明の「0.1(10%)?0.9(90%)」という数値範囲の広さを勘案すると,変更後の引用発明の「204層偏光子」の一方及び他方が,依然として本件補正後発明の「第1及び第2のパケット」における,「組み合わされると,(a)前記第1の面内主軸を含む第1の主平面において60度で入射し,(b)前記第1の主平面において直線偏光される斜光線に対する第2の複合内部透過率を有し,前記第2の複合内部透過率が,前記拡張された波長範囲にわたって平均して0.1(10%)?0.9(90%)の範囲にあり」という要件を満たすことは明らかである。

カ 高周波スペクトル変動
変更後の引用発明の「204層偏光子」においても,「押出成形工程とキャスト工程の全体にわたる累積フィルム誤差」に起因して,「フィルムの異なる領域において様々な波長でランダムな形状で生じる」ピークが残存することは明らかである。また,「フィルムの異なる領域において様々な波長でランダムな形状で生じる」ピークが残存するからには,依然として「2つのフィルムのラミネートは,ランダムな変化が一方のフィルムと別のフィルムとで一致しないために,フィルムを重ねると相殺する傾向があ」る結果,変更後の引用発明の「408層フィルム積層体」の高周波スペクトル変動が,「204層偏光子」自体の高周波スペクトル変動より平滑になることは明らかである。
したがって,変更後の引用発明の「408層フィルム積層体」は,本件補正後発明の「多層反射偏光フィルム体」における,「前記第1及び第2のパケットの複合の高周波スペクトル変動(Δcomb)が,前記第1のパケット自体の高周波スペクトル変動(Δ1)未満であり」,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり」,「高周波スペクトル変動とは,a_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差の標準偏差であり」という要件を満たす。

(5) 発明の効果
本件出願の明細書には,発明の効果に関する明示的な記載がない。
ただし,本件出願の明細書の【0007】には,「(1)主軸に沿って部分的に反射し,(2)広帯域であることが意図される(すなわち,広い波長範囲にわたって部分的反射率を提供することが意図される),高分子多層光学フィルムの設計者及び製造者が直面している1つの課題は,不完全な層厚さ制御から生じる,意図せぬ望ましくない知覚色である。そのような望ましくない色は,典型的に,光学的透過及び反射スペクトルの比較的高周波の変動として現れ,この高周波変動は,ミクロ層の厚さにおけるそれらの理想的又は目標値からの偏差(より正確には,ミクロ層の光学繰り返し単位の光学的厚さにおける偏差)と直接関連付けられる。」と記載されている。
そうしてみると,本件補正後発明の,発明の効果は,上記の問題を克服することができることと,一応,理解することができる。
しかしながら,このような効果は,引用発明も奏する効果である。

(6) 小括
以上のとおりであるから,本件補正後発明は,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(7) 備考
分割出願があることに鑑みて,以下のとおり付言する。
引用発明の「408層フィルム積層体」,あるいは変更後の引用発明の「408層フィルム積層体」の横断方向の透過スペクトルは,比較的高いと推察される。
そうしてみると,「第1の面内主軸」を「通過軸」とした場合においては,その第2の複合内部透過率が90%を超える場合もあるかもしれない(ブリュースター角における透過率がどの程度向上するかによる。)。
しかしながら,反射型偏光フィルムの透過率/反射率をどの程度に設計するかは,当業者の随意である(例えば,引用文献1の38頁14行?39頁6行及び図28(前記「第2」[理由]3(1)ク及びコ参照。)には,透過率が比較的低い反射型偏光フィルムが開示されている。)。あるいは,透過率が比較的低い反射型偏光フィルムは,前記4(3)ウで言及した,国際公開第2009/123928号の18頁25行?20頁10行に開示されており,従来技術にすぎない。
したがって,本件出願の請求項2に係る発明も,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5 補正の却下の決定の結び
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論の通り決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は,平成30年8月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,[A]本願発明は,明確であるということができないから,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,[B]本願発明は,本件優先日前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[C]本願発明は,本件優先日前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特表平9-506837号公報

3 36条6項2号について
本願発明は,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり」という構成を具備する。
しかしながら,本願発明でいう「高周波スペクトル変動」とは,「a_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差の標準偏差」のことであり,波長の関数で表されるものではないから,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分」や「第2のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分」を得ることはできない。
この点において,本願発明は明確であるということができないから,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

事案に鑑みて,本願発明の「第1のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルの高周波スペクトル変動からのピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり」という構成が,「第1のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分は,第2のパケットの反射又は透過スペクトルのa_(0)+a_(1)λ+a_(2)λ^(2)+a_(3)λ^(3)の形状の最良適合曲線との差のピーク及び谷部分とそれぞれ不整合であり」という構成を意味すると仮定して,以下,検討する。

4 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」3に記載したとおりである。

5 対比,判断
前記3で述べた仮定を前提に検討すると,本願発明は,前記「第2」[理由]4で検討した本件補正後発明から,前記「第2」1(3)[A]?[C]で述べた限定事項を除いたものである。
ここで,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]4に記載したとおり,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものである。また,本願発明は,前記「第2」1(3)[A]及び[B]で述べた限定事項を具備しないものであるから,前記「第2」[理由]4で述べた事項を勘案すると,本願発明と引用文献1に記載された発明とは,相違するところがないともいえる(周知技術を勘案する必要もない。)。
そうしてみると,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものである。あるいは,本願発明は,引用文献1に記載された記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができないものでもある。

第4 むすび
以上のとおり,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,本願発明は,同法29条1項3号に該当し特許を受けることができず,あるいは,本願発明は,同条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-26 
結審通知日 2019-07-02 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2017-64932(P2017-64932)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 祐介廣田 健介  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 減色の部分的に反射する多層光学フィルム  
代理人 野村 和歌子  
代理人 赤澤 太朗  
代理人 浅村 敬一  
代理人 佃 誠玄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ