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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1357619 |
異議申立番号 | 異議2019-700213 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-19 |
確定日 | 2019-10-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6390071号発明「フォーミング用豆乳の製造方法及びフォーミング用豆乳」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6390071号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、3〕、4、5について訂正することを認める。 特許第6390071号の請求項1-5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6390071号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年7月17日の出願であって、平成30年8月31日に特許権の設定登録がされ、同年9月19日にその特許公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。 平成31年3月19日 :特許異議申立人 アクシス国際特許業務法人による特許異議の申立て 令和1年5月17日付け:取消理由通知書 令和1年7月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和1年7月22日 :特許法第120条の5第5項に基づく通知 令和1年8月23日 :特許異議申立人 アクシス国際特許業務法人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、 (1)請求項1にある2箇所の「構成脂肪酸の炭素数が18以上である」を、どちらも「構成脂肪酸がステアリン酸である」に訂正する(訂正事項1)。 (2)請求項2にある2箇所の「構成脂肪酸の炭素数が18以上である」を、どちらも「構成脂肪酸がステアリン酸である」に訂正する(訂正事項2)。 (3)請求項4にある2箇所の「構成脂肪酸の炭素数が18以上である」を、どちらも「構成脂肪酸がステアリン酸である」に訂正する(訂正事項3)。 (4)請求項5にある2箇所の「構成脂肪酸の炭素数が18以上である」を、どちらも「構成脂肪酸がステアリン酸である」に訂正する(訂正事項4)。 2.訂正目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1に係る訂正について ア.請求項1に係る「炭素数が18以上である」「構成脂肪酸」は、「ステアリン酸」の上位概念であるから、「構成脂肪酸の炭素数が18以上である」を、「構成脂肪酸がステアリン酸である」に変更する訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.また、明細書の発明の詳細な説明には、ポリグリセリン脂肪酸エステルについては、段落【0020】に、「(ポリグリセリン脂肪酸エステル) 本発明で使用するポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上である。HLBが低すぎると、起泡性や泡の安定性が損なわれる場合がある。また、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数は、好ましくは18以上であり、飽和または不飽和脂肪酸、直鎖または分岐を有する脂肪酸が含まれる。これらの脂肪酸として、オレイン酸,リノール酸,リシノール酸,ステアリン酸,アラキドン酸,ベヘン酸,テトラデセン酸等が挙げられ、これらの中でも優れた起泡性を付与できる点でステアリン酸が好ましい。」と記載され、 またショ糖脂肪酸エステルについては、段落【0021】に、「(ショ糖脂肪酸エステル) 本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルのHLBは好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上である。HLBが低すぎると、起泡性や泡の安定性が損なわれる場合がある。また、本発明のショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数は、好ましくは18以上であり、飽和または不飽和脂肪酸、直鎖または分岐を有する脂肪酸が含まれる。これらの脂肪酸として、オレイン酸,リノール酸,リシノール酸,ステアリン酸,アラキドン酸,ベヘン酸,テトラデセン酸等が挙げられ、これらの中でも優れた起泡性を付与できる点でステアリン酸が好ましい。」と記載されている。 したがって、それぞれの場合について炭素数18以上の構成脂肪酸の好ましい例としてステアリン酸が記載されているから、「構成脂肪酸がステアリン酸である」とする訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてしたものである。 ウ.さらに、上記ア、イのとおり、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、「炭素数が18以上である」「構成脂肪酸」を「ステアリン酸」とする訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2、4及び5に係る訂正について 上記(1)と同じ理由により、請求項2、4及び5に係る訂正事項2?4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.一群の請求項について 訂正事項2に係る訂正前の請求項2及び3について、請求項3は、請求項2を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、訂正事項2は、一群の請求項〔2、3〕に対して請求されたものである。 4.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2頁ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、3〕、4、5について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?5に係る発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。) 「 【請求項1】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤を使用して乳化することを特徴とする、スチーマーでフォーミングして用いるための豆乳の製造方法。 【請求項2】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤との乳化物を含有する、スチーマーでフォーミングして用いるための豆乳。 【請求項3】 請求項2に記載されたフォーミング用豆乳をスチーマーでフォーミングしたものが上置された飲料。 【請求項4】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤を使用して乳化した後スチーマーでフォーミングすることを特徴とする、フォーミングされた豆乳の製造方法。 【請求項5】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤を使用して乳化した後スチーマーでフォーミングすることを特徴とする、豆乳の泡立て方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 令和1年5月17日付けで通知した取消理由は、本件特許は、その特許請求の範囲が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないから、取り消されるべきものであるというものであり、具体的な理由は、以下のとおりである。 本件特許発明1?5では、HLBが8以上で、かつ脂肪酸の炭素数が18以上である、ポリグリセリン脂肪酸酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルを乳化剤として用いることが特定されている。 その一方で、発明の詳細な説明には、ポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸として、具体的裏付けをもって記載されているのは、実施例において脂肪酸としてステアリン酸を用いた化合物を用いた場合について、炭素数が18より小さい、ミリスチン酸(ポリグリセリン脂肪酸エステル)あるいはパルミチン酸(ショ糖脂肪酸エステル)を用いた化合物を用いた場合に比べて、豆乳の起泡性と起泡安定性に優れていることが示されているだけで、ステアリン酸以外の炭素数18以上の脂肪酸を用いた化合物を使用した場合に関する、豆乳に対する起泡性や起泡安定性の評価については何ら示されていない。 用いる脂肪酸の炭素数が豆乳の起泡性と起泡安定性に何らかの影響を与えることは明らかである一方、請求人も審査過程で述べているとおり、その作用は不明であるのだから、実施例で裏付けられた脂肪酸以外のものを用いた場合にも同等の効果が得られるのかは不明である。 したがって、脂肪酸としてステアリン酸以外の炭素数18以上のものを用いた化合物を使用した場合についても、本件特許発明の課題(起泡力及び起泡安定性に優れたフォーミング用豆乳の提供等)が解決できるのかが不明である。 よって、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているとはいえない。 2.当審の判断 ポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸について、上記の「第2」「1」の訂正により、炭素数18以上の脂肪酸であったものが、「ステアリン酸」に限定された。ステアリン酸を用いたポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(段落【0037】の(表2)(試験例1?3)、段落【0040】の(表3)(試験例4?8)、段落【0042】の(表4)(試験例13、14))において、豆乳に優れた起泡性と起泡安定性を与えることが具体的に示されているものである。 そうすると、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる乳化剤については、本件特許発明の課題が解決できるものといえる。 したがって、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 3.特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、訂正後の本件特許発明1?5は、依然として、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルを使用して乳化することさえ満足していれば、例えば構成脂肪酸の炭素数が少ないポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルからなる乳化剤を一緒に用いてもよいものとなっており、このような場合にまで豆乳に優れた起泡性と起泡安定性を与えるという本件発明の課題が解決できるとはいえないと主張する。 しかしながら、他の成分からなる乳化剤を追加で用いていたとしても、少なくとも、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルを使用して乳化しているのであるから、程度に一定の差はあるとしても、これを用いていない場合と比較して、一定程度豆乳に対して優れた起泡性と起泡安定性を与えるものと解することができることから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例や、審査過程において提出された実験成績証明書では、主に高温浸漬処理豆乳についての実験結果が示されている一方で、非高温浸漬処理豆乳については、実施例が2つしかなく(試験例2と3)、その効果も高温浸漬処理豆乳に比べて低くなっているうえに、高温浸漬処理豆乳と非高温浸漬処理豆乳とは異なる性質を有することが明らかである(国際公開2010/073575号)から、非高温浸漬処理豆乳を用いた場合にまで高温浸漬処理豆において得られた実験結果を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。 しかしながら、実験例2及び3についても程度に差はあるとしても、他の場合と比較して、豆乳に対して良好な起泡性や起泡安定性を付与することができることが示されていると認められる。さらに特許異議申立人が挙げた文献についても、単に高温浸漬処理をした豆乳がより乳化の安定効果を有すると記載しているのみで、高温浸漬の有無で豆乳の性質が全く異なることを意味していることは記載されていないから、程度に差はあるとしても、高温浸漬処理豆乳と非高温浸漬処理豆乳を用いた場合の両方において、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステルが、一定程度豆乳に対して良好な起泡性や起泡安定性を付与することができると認められるから、この点についても特許異議申立人の主張は採用できない。 したがって、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.理由の概要 (1)理由1(進歩性) 請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 甲第1号証:特開平4-356160号公報 甲第2号証:特開2010-4826号公報 甲第3号証:パナソニック製一台三役エスプレッソ&コーヒーメーカーのクリーマーが最高な件、メールのプロの独り言[online]、2011年2月、インターネット、URL:http://akibaryu.seesaa.net/article/183926850.html 甲第4号証:特開平10-295339号公報 甲第5号証:特開平11-9214号公報 甲第6号証:特許第3717641号公報 甲第7号証:豆乳類の日本農林規格,2005年 甲第8号証:リョートーシュガーエステル:三菱ケミカルフーズの製品カタログ銘柄一覧、URL:http://www.mfc.co.jp/product/nyuuka/ryoto_syuga/list02.html (2)理由2(記載不備) 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2.当審の判断 (1)理由1について ア.甲号証の記載と甲号証に記載された発明 (ア)甲第1号証 本件特許出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。 (1a)「【請求項1】 茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に乳化剤を添加してなる起泡性風味組成液 【請求項2】 茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に乳化剤とエチルアルコールとを添加してなる起泡性風味組成液 【請求項3】 乳化剤が、親水性及び起泡性を有する乳化剤である請求項1又は2に記載の起泡性風味組成液。 【請求項4】 茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に乳化剤を添加してなる起泡性風味組成液を、気体と強制的に混和してなる、実質的に泡のみからなる泡状風味組成物 【請求項5】 茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に乳化剤及びエチルアルコールを添加してなる起泡性風味組成液を、気体と強制的に混和してなる、実質的に泡のみからなる泡状風味組成物 【請求項6】 茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に乳化剤を添加してなる起泡性風味組成液を、気体と強制的に混和することを特徴とする泡状風味組成物の製造法 【請求項7】 茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に乳化剤及びエチルアルコールを添加してなる起泡性風味組成液を、気体と強制的に混和することを特徴とする泡状風味組成物の製造法」 (1b)「【0011】 先ず、本発明に用いられる原料としては以下に記載の如き水性風味液、即ち緑茶、麦茶、ウ-ロン茶、紅茶などの茶;コ-ヒ-、ミルクコ-ヒ-、代用コ-ヒ-などのコ-ヒ-;ココア、ミルクココアなどのココア;サイダ-、ラムネ、コ-ラ、ガラナ、シロップ、エッセンス、フレ-バ-液、炭酸水、清涼飲料の素、ジンジャ-エ-ル、レモンスカッシュ、レモン水などの清涼飲料;りんごジュ-ス、オレンジジュ-ス、パインジュ-ス、グレ-プジュ-ス、トマトジュ-スなどの果実飲料が挙げられる。」 (1c)「【0012】 次に、本発明に用いられる乳化剤としては、親水性及び起泡性を有する乳化剤が好ましく、例えばショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。 【0013】 そしてそれらのうち特にHLB(Hydrophilic Lipophilic Balance の略称)値が13以上のものが、起泡力(泡の容積に占める気相の容積比)及び泡安定性(泡保持性)が高いので好ましい。」 (1d)「【0018】 次に、本発明の泡状風味組成物は、上記で得られた起泡性風味組成液を、気体と強制的に混和し、起泡させることにより得られる。 【0019】 即ち、ホモジナイザー及びホイップクリーム用起泡装置等により起泡性風味組成液を空気と強制的に混和し起泡させる。 【0020】 また、細長い泡噴出ノズルの流路の途中を仕切壁で少なくとも2つの細隙流路に区画し、その一方より起泡性風味組成液を噴出させると共に他方より気体(例えば空気)を噴出させて、該ノズル内で2つの流体を強制的に激しく混和することにより得られる。」 (1e)「【0050】 実施例7 市販のショ糖脂肪酸エステル(三菱化成食品販売)リョートーシュガーエステルS-1570、同S-1670、同P-1570、同P-1670をそれぞれ0.2%、同OWA-1570、同LWA-1570をそれぞれ0.5%(粉末換算で、0.2%)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業販売)SY-グリスターML-800、同ML-750をそれぞれ0.3%添加した、起泡性りんご果汁15mlを、ホモジナイザーで、10,000rpmで60秒間、強制的に空気と激しく混和して、各種の泡状りんご果汁組成物を得た。」 したがって上記甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液に、親水性及び起泡性を有する乳化剤を添加してなる起泡性風味組成液」 (イ)甲第2号証 本件特許出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。 (2a)「【請求項1】 発酵セルロース複合体を含む飲料であって、飲料を入れた容器を振盪して起泡化することにより、飲料上層だけでなく飲料内部にも気泡を安定的に保持することを特徴とする、pHが中性域である乳成分入り起泡性飲料。」 (2b)「【0030】 これらの内、気泡をより一層長期間保持したり、口当たりのよい食感を付与したりする目的として好ましい乳化剤としては、蒸留モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリド(特にコハク酸モノグリセリド)を挙げられる。かかる乳化剤を用いる場合、中性の乳成分入り飲料に配合する乳化剤の割合としては、最終飲料100重量%中、0.01?0.2重量%、好ましくは0.02?0.1重量%を挙げることができる。」 (2c)「【0034】 なお、飲料中に含まれる乳成分の割合としては、無脂乳固形分に換算して0.5?10重量%、好ましくは1?5重量%、より好ましくは2?4重量%を挙げることができる。また、本発明は、中性の乳成分入り飲料中に脂肪分含量が0?5重量%、好ましくは0.02?1重量%である飲料に好適に用いることができる。 【0035】 本発明が対象とする乳成分入り飲料は中性の飲料であり、ここでいう中性とはpHが5.4?7.5の飲料を指す。具体例として、コーヒー乳飲料(ミルク入りコーヒー)、ミルクティー(ミルク入り紅茶)、ミルクココア、牛乳、ミルクセーキ、ミルクシェイク、豆乳飲料;イチゴミルク、バナナミルク、メロンミルク等のミルク入り果汁及び果実飲料;クリームスープなどの乳成分入りスープ等の各種飲料が挙げられる。これらの飲料の中でもコーヒー乳飲料、ミルクティー、ミルクセーキ、ミルクシェイクが好ましい。」 (ウ)甲第3号証 本件特許出願日前に電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第3号証には、以下の記載がある。 (3a)「そして人気のカフェラテなどが楽しめるようにフォームドミルクをつくれる。」(2頁30行-31行) (3b)「また豆乳を使うこともでき、その時は成分調整豆乳が向いている。」(2頁下から2行-最終行) (エ)甲第4号証 本件特許出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。 (4a)「 【請求項1】 容器に充填された泡立ちタイプの飲料であって、乳化剤として下記の(a)及び(b)が添加されたことを特徴とする容器に充填された泡立ち飲料。 (a)ソルビタンモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルのいずれかまたは双方。 (b)グリセリン二塩基酸脂肪酸エステル、クエン酸モノグリセリンエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステルより選択される1種以上。」 (4b)「【0016】 上述の起泡効果を有する界面活性剤の中でポリグリセリン脂肪酸エステルはHLBが8以上のものを使用することが好ましく、また蔗糖脂肪酸エステルはHLBが7以上のものを使用することが好ましい。」 (オ)甲第5号証 本件特許出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。 (5a)「 【請求項1】油相20?50重量% と蛋白質成分を含む水相80?50重量% とを予備乳化、均質化、殺菌して起泡性水中油型乳化組成物を製造するに際し、固体脂含有指数(SFC) が35?80%/10℃、10?50%/20℃、5 ?30%/25℃、10% 以下/30 ℃の油脂と以下に示す乳化剤A及びBを油脂に対しそれぞれ0.05?2.0 重量% 使用することを特徴とする起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。 A.主要構成脂肪酸残基が不飽和脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる一種又は二種以上の乳化剤。」 (5b)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はホイップタイムが短くかつ安定的に気泡を取り込むことが可能であり、作業性が良く、また起泡した状態で冷蔵保存或いは冷凍保存しても何ら品質劣化をきたさない起泡性水中油型乳化組成物(ホイップクリーム)の製造方法に関する。」 (カ)甲第6号証 本件特許出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。 「【請求項1】 コーヒー抽出液に、コーヒー飲料全量中の乳脂肪分が0.05重量%以上となる量の乳成分を起泡剤とともに添加することを特徴とする、起泡性コーヒー飲料の製造方法。」 (キ)甲第7号証 本件特許出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、第4条に、調製豆乳の日本農林規格において、食品添加物以外の原材料として、次に掲げるもの以外のものを使用していないこと、が定められている旨記載されている。 1.大豆及び脱脂加工大豆(全蛋白質含有量に占める水溶性蛋白質の重量の割合が80%以上のものに限る。) 2.食用植物油脂 3.調味料(砂糖、ぶどう糖果糖液糖…) (ク)甲第8号証 甲第8号証(なお、公開日は不明である。)には、リョートーシュガーエステルS-1570及びS-1670が、構成脂肪酸としてステアリン酸を用いていることが記載されている。 イ.対比・判断 本件特許発明は、本件特許発明1が「…乳化剤を使用して乳化することを特徴とする、スチーマーでフォーミングして用いるための豆乳の製造方法。」という豆乳の製造方法に関するものである一方、本件特許発明2は「…乳化剤との乳化物を含有する、スチーマーでフォーミングして用いるための豆乳。」という、豆乳に関するものであるから、先に物の発明である本件特許発明2について検討する。 (ア)本件特許発明2について a.甲1発明との対比 本件特許発明2と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた一種の水性風味液」は、本件特許発明2の「豆乳」と、「水性風味液」である点において共通している。 甲1発明の「親水性及び起泡性を有する乳化剤」に関する摘記(1c)の記載から、甲1発明において親水性及び起泡性を有する乳化剤として用いられるのは、ショ糖脂肪酸エステルあるいはグリセリン脂肪酸エステルであり、これは本件特許発明2における「構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル」あるいは「構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステル」の上位概念である。また同じく摘記(1c)の記載から、乳化剤のHLBは13以上が好ましいとされていることもあわせると、乳化剤について両者は、「HLBが13以上の、ショ糖脂肪酸エステルあるいはグリセリン脂肪酸エステルである親水性及び起泡性を有する乳化剤」である点において共通している。 さらに、甲1発明の「起泡性風味組成物」は、水性風味液と乳化剤とを含有するから「乳化物」であるし、摘記(1d)によれば、当該起泡性風味組成物はホモジナイザーで空気と強制的に混和し起泡させるためのものであるから、本件特許発明2の「フォーミングして用いるための」ものにも該当する。 したがって本件特許発明2と甲1発明とは、「水性風味液と、HLBが13以上の、ショ糖脂肪酸エステルあるいはグリセリン脂肪酸エステルである親水性及び起泡性を有する乳化剤との乳化物を含有する、フォーミングして用いるための水性風味液」である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 水性風味液が、本件特許発明2では、「豆乳と、該豆乳に対して0.1?5重量%の油脂と」を含有するものであるのに対して、甲1発明では、「茶、コ-ヒ-、ココア、清涼飲料、果実飲料、及び野菜ジュ-スからなる群より選ばれた」ものであり、所定量の油脂を含有する豆乳については特定されていない点 <相違点2> 乳化剤として用いられているグリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステル中の脂肪酸が、本件特許発明2では、「ステアリン酸」であるのに対して、甲1発明では、脂肪酸が明確に特定されていない点 <相違点3> フォーミングの仕方が、本件特許発明2では、「スチーマー」によるものであるのに対して、甲1発明では、「ホモジナイザー」によるものである点 b.判断 <相違点1について> 相違点1について、甲第2号証、甲第3号証に豆乳に関する記載はあるものの、豆乳と、豆乳に対して0.1?5重量%の油脂とを含む液体に対して、グリセリン脂肪酸エステルあるいはショ糖脂肪酸エステル、特に脂肪酸がステアリン酸であるものを、乳化剤として添加する点については、甲第1号証?甲第8号証のいずれにも記載されておらず、また本件特許出願日前において周知の技術的事項であるともいえない。 また、効果について見るに、本件特許発明2は、従来、豆乳が乳よりも起泡安定性に劣っており、フォーミングしても泡が消えやすいという課題を有していたところを、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる乳化剤を豆乳に添加することによって、優れた起泡性や起泡安定性を有する豆乳を得ることができるという効果を奏するものであるが、当該効果の点についても甲第1号証?甲第8号証のいずれにも記載されておらず、また本件特許出願日前において周知の技術的事項であるともいえない。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明2は、当業者であっても、甲1発明、甲第2号証?甲第8号証に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。 (イ)本件特許発明1、3?5について 本件特許発明1は、本件特許発明2と同一の成分からなる豆乳の製造方法であり、本件特許発明3は、本件特許発明2の豆乳をスチーマーでフォーミングしたものが上置された飲料であり、本件特許発明4は、本件特許発明2と同一の成分の豆乳をスチーマーでフォーミングする、フォーミングされた豆乳を製造する方法であり、本件特許発明5は、本件特許発明2と同一の成分の豆乳をスチーマーでフォーミングする豆乳の泡立て方法である。 したがって、これらの発明全てについて、本件特許発明2について上記で検討した点と同じことが当てはまるといえるから、本件特許発明1、3?5は、当業者であっても、甲1発明、甲第2号証?甲第8号証に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)理由2について ア.特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているフォーミング用豆乳の起泡性評価方法においては、用いる容器の形状が特定されていなないため、測定方法が不明であり、当業者が追試することができないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0027】及び【0028】には、容器の形状は明確には記載されていないものの、評価の「◎」「○」「△」「×」の境目は客観的に示されているし、相対的なものとしてみれば、本件特許明細書に記載されている評価方法で「◎」「○」「△」の評価を得ているものは、どのような容器であっても起泡性や起泡安定性に優れていると当業者が容易に理解できるといえるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 イ.さらに特許異議申立人は、起泡性評価基準における「○」と「×」の差、あるいは「△」と「×」の差が僅かなものであり、このような誤差とも言えるほど僅かな差により起泡性・起泡力の判断基準が定められているため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。 しかしながら、起泡性評価における「○」や「△」は、起泡性の基準である、フォーミング直後の泡の高さと、起泡安定性の基準である、フォーミング直後の泡の高さに対する10分経過後の泡の高さの割合という2つの観点で設けられた特定の基準を両方とも満たして初めて、「○」や「△」の評価を得るものであるから、これが僅かな差であるとはいえないため、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤を使用して乳化することを特徴とする、スチーマーでフォーミングして用いるための豆乳の製造方法。 【請求項2】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤との乳化物を含有する、スチーマーでフォーミングして用いるための豆乳。 【請求項3】 請求項2に記載されたフォーミング用豆乳をスチーマーでフォーミングしたものが上置された飲料。 【請求項4】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤を使用して乳化した後スチーマーでフォーミングすることを特徴とする、フォーミングされた豆乳の製造方法。 【請求項5】 豆乳と、該豆乳重量に対して0.1?5重量%の油脂と、HLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLBが8以上であり、かつ構成脂肪酸がステアリン酸であるショ糖脂肪酸エステルの群から選ばれる1種以上の乳化剤を使用して乳化した後スチーマーでフォーミングすることを特徴とする、豆乳の泡立て方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-03 |
出願番号 | 特願2012-158316(P2012-158316) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L) P 1 651・ 121- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 亜希子 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
中島 芳人 冨永 みどり |
登録日 | 2018-08-31 |
登録番号 | 特許第6390071号(P6390071) |
権利者 | 不二製油株式会社 |
発明の名称 | フォーミング用豆乳の製造方法及びフォーミング用豆乳 |
代理人 | 稲井 史生 |
代理人 | 笹倉 真奈美 |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 稲井 史生 |
代理人 | 笹倉 真奈美 |