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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1357627
異議申立番号 異議2018-700725  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-07 
確定日 2019-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6302367号発明「コーティング剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6302367号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6302367号の請求項3、7、8及び11に係る特許を維持する。 特許第6302367号の請求項1、2、4、5、6、9、10及び12に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6302367号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成26年6月24日に特願2014-129304号として特許出願され、平成30年3月9日に特許権の設定登録がされ、平成30年3月28日にその特許公報が発行され、その請求項1?12に係る発明の特許に対し、平成30年9月7日に岩▲崎▼精孝(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年11月19日付け 取消理由通知
平成31年 1月18日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 1月22日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 2月25日 意見書(特許異議申立人)
同年 3月12日付け 訂正拒絶理由通知
同年 4月12日 意見書(特許権者)
令和元年 5月14日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 8日 面接記録
同年 7月16日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 7月18日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 8月21日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成31年1月18日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、
令和元年7月16日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は『特許第6302367号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?11からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3に「ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスからなる、金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤。」とあるのを、
訂正後の請求項3で「ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスからなる、
金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤であって、
前記ポリウレタンが芳香族系ポリウレタンであり、
前記炭化水素系合成ワックスが、ポリエチレンワックスの酸変性ワックスであり、
前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であり、
前記コーティング剤における炭化水素系合成ワックスの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%である、コーティング剤。」との記載に訂正する。(請求項3を直接又は間接的に引用する請求項7、8及び11も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項7に「さらに硬化剤を含む請求項1?6のいずれか記載のコーティング剤。」とあるのを、
訂正後の請求項7で「さらに硬化剤を含む請求項3記載のコーティング剤。」との記載に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項8に「グラファイトは含まない請求項1?7のいずれか記載のコーティング剤。」とあるのを、
訂正後の請求項8で「グラファイトは含まない請求項3記載のコーティング剤。」との記載に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項9を削除する。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項10を削除する。

(11)訂正事項11
訂正前の請求項12を削除する。

(12)一群の請求項について
訂正前の請求項1?12について、その請求項5?8は何れも請求項1、2、3及び4を直接又は間接的に引用しているものであって、その請求項9、10、11及び12の各々は、請求項1、2、3及び4の各々を直接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?12に対応する訂正後の請求項1?12は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1?2、4?6及び9?11について
ア.訂正の目的
訂正事項1?2、4?6及び9?11は、訂正前の請求項1?2、4?6、9?10及び12の各々を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項1?2、4?6及び9?11は、訂正前の請求項1?2、4?6、9?10及び12の各々を削除するものであるから、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項1?2、4?6及び9?11は、訂正前の請求項1?2、4?6、9?10及び12の各々を削除するものであるから、いずれも新規事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項3について
ア.訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3の「ポリウレタン」について、その種類を「前記ポリウレタンが芳香族系ポリウレタンであり」として限定し、その配合量を「前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であり」として限定するとともに、
訂正前の請求項3の「炭化水素系合成ワックス」について、その種類を「前記炭化水素系合成ワックスが、ポリエチレンワックスの酸変性ワックスであり」として限定し、その配合量を「前記コーティング剤における炭化水素系合成ワックスの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%である」として限定するものであるから、
特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項3は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
本件特許明細書の段落0042の表1には、実施例8として『芳香族系ポリウレタン26.9wt%と酸変性ポリエチレンワックス73.1wt%からなるコーティング剤』の具体例と、実施例7として『芳香族系ポリウレタン73.1wt%と酸変性ポリエチレンワックス26.9wt%からなるコーティング剤』の具体例が記載されているから、訂正事項3は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項7及び8
ア.訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項7の記載が訂正前の請求項1?6のいずれかの記載を引用する記載であったものを、請求項3のみを引用する記載に改めるものであり、
訂正事項8は、訂正前の請求項7の記載が訂正前の請求項1?7のいずれかの記載を引用する記載であったものを、請求項3のみを引用する記載に改めるものであるから、
特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項7及び8は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項7及び8は、訂正前の請求項7及び8の範囲から訂正前の請求項3を引用しない範囲のものを削除するためのものであるから、いずれも新規事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.訂正の適否のまとめ
以上総括するに、訂正事項1?11による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された本件特許の請求項1?12に係る発明(以下「本1発明」?「本12発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスからなる、
金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤であって、
前記ポリウレタンが芳香族系ポリウレタンであり、
前記炭化水素系合成ワックスが、ポリエチレンワックスの酸変性ワックスであり、
前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であり、
前記コーティング剤における炭化水素系合成ワックスの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%である、コーティング剤。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】さらに硬化剤を含む請求項3記載のコーティング剤。
【請求項8】グラファイトは含まない請求項3記載のコーティング剤。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】請求項3記載のコーティング剤から形成されたコート層を有するゴム金属積層体。
【請求項12】(削除) 」

第4 取消理由通知の概要
令和元年5月14日付けの取消理由通知で通知された取消理由の概要は、次の理由1?4からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件特許の請求項1?12に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許の請求項1?12に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許の請求項1?12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件特許の請求項1?12に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由4〕本件特許の請求項1?12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許の請求項1?12に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:国際公開第2012/096222号(甲第1号証に同じ)
刊行物2:特開2002-309172号公報(甲第2号証に同じ)
刊行物3:特開2003-213122号公報

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1?9
「[請求項1]金属板表面に形成させたゴム層上に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、軟化点が40?150℃の合成ワックス、軟化点が60?170℃の脂肪酸アミドおよび黒鉛を含有する固体潤滑剤層を形成せしめた金属ゴム積層素材。
[請求項2]さらにフッ素系樹脂を含有させた固体潤滑剤層を形成させた請求項1記載の金属ゴム積層素材。
[請求項3]粒子径が0.5?5μmのフッ素系樹脂が用いられた請求項2記載の金属ゴム積層素材。
[請求項4]イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー20?70重量%、合成ワックス10?50重量%、脂肪酸アミド10?50重量%、黒鉛5?40重量%およびフッ素系樹脂0?50重量%よりなり、以上の各成分の合計量が100重量%である固体潤滑剤の層が形成された請求項1または2記載の金属ゴム積層素材。
[請求項5]プライマー層および接着剤層を順次介して金属板とゴム層とが被着された請求項1または2記載の金属ゴム積層素材。
[請求項6]金属ガスケットとして用いられる請求項5記載の金属ゴム積層素材。
[請求項7]金属ガスケットとして内燃機関に用いられる請求項6記載の金属ゴム積層素材。
[請求項8]金属ガスケットとして自動車エンジンの内燃機関に用いられる請求項7記載の金属ゴム積層素材。
[請求項9]請求項8記載の金属ゴム積層素材よりなる自動車エンジン内燃機関用金属ガスケット。」

摘記1b:段落0015及び0017
「[0015]本発明に係る金属ゴム積層素材は、金属ガスケットとして用いられたとき、金属板表面に形成させた被着ゴム層の摩滅が発生するのを有効に防止することができ、またその使用環境温度が厳しい場合であっても、経年劣化で摩擦力の低減効果が失われるのを防止することができるばかりではなく、シール対象である流体によって潤滑剤が溶出して失われる事態を防止することができ、それ故に長期間にわたって常に安定したシール性を確保することができる。…
[0017]より具体的には、次のような効果が奏せられる。
(1)固体潤滑剤であるコーティング剤の塗布性にすぐれている。
(2)固体潤滑剤で表面処理したゴム同士のブロッキングがない。
(3)表面処理したゴム層の表面は、低摩擦、低摺動となり、装着作業性にすぐれている。」

摘記1c:段落0023?0026及び0031
「[0023]ゴム層上には、固体潤滑剤としてのコーティング剤が約0.5?10μm、好ましくは約1?5μmの塗布厚みで塗布される。…
[0024]イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、活性水素基を含有するポリオールに、活性水素基当量に対して1.1?5倍当量、好ましくは1.5?3倍当量のイソシアネートを反応させて得られ、その末端基としてイソシアネート基を有している。
[0025]活性水素基を有するポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール等が用いられる。
[0026]ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸とポリオールとの縮重合反応生成物であり、そのジカルボン酸としては例えばイソフタル酸、テレフタル酸…等の少くとも一種の芳香族…のジカルボン酸…が用いられ、またそのポリオールとしては例えばエチレングリコール…等の少くとも一種が用いられる。…
[0031]活性水素基を有するポリオールと反応するイソシアネートとしては、例えば…トリフェニルメタントリイソシアネート等のトリイソシアネート…が挙げられる。これらの各種イソシアネートは、いずれも市販品を用いることができる。」

摘記1d:段落0033?0034、0038及び0041
「[0033]合成ワックスとしては、軟化点(ISO 4625に対応するJIS K5601-2-2により測定)が約40?150℃、好ましくは約60?100℃のパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、各種変性ワックス等が挙げられ、一般には市販品がそのまま用いられる。
[0034]合成ワックスにより、高温ではさらに潤滑するため、高温時における耐摩耗性は向上するが、合成ワックス量が前記割合よりも多く用いられると固体潤滑剤が高温で軟化し、粘着や皮膜強度の低下により、熱間耐摩耗性が低下するようになる。…
[0038]黒鉛としては、リン状黒鉛、土壌黒鉛、人造黒鉛等が用いられる。黒鉛は、コーティング剤固形分中、前記の如き割合で用いられ、規定された範囲外で用いられると、ワックスの場合と同様の挙動となり、すなわちこれよりも多く用いられると、ゴム層との密着性が低下し、耐摩擦摩耗特性が低下するようになり、一方これよりも少ない割合で用いられると、ゴム層との密着性は良好となるが、滑り性や粘着力が高くなるようになる。…
[0041]固体潤滑剤各成分は、有機溶媒や水の溶液あるいは分散液として調製され、コーティング液を形成させる。」

摘記1e:段落0045、0049?0052及び0055
「[0045]実施例1…
[0049]コーティング剤:
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーA 44.5部(60重量%)
(ポリプロピレングリコール100部およびバイエル社製品
イソシアネートデスモジュールRE 3部より調製)
パラフィンワックス(精工化学製品、融点80℃、 73部(14.75重量%)
トルエン85重量%を含有した粒子径2μm以下の分散液)
オレイン酸アミド(日本化成製品ダイヤミッドO-200、
73部(14.75重量%)
軟化点75℃、トルエン85重量%を含有した粒子径2μm以下の
分散液)
黒鉛(日電カーボン製品C-1) 7.8部(10.5重量%)
トルエン 791部
(合計) 989.3部( 100重量%)
[0050]ステンレス鋼板上に、シラン系プライマー層、フェノール樹脂系接着剤層および加硫ニトリルゴム層を介して、コーティング剤層(塗布厚み3μm)を形成させた金属ゴム複合素材について、次の各項目の測定を行った。…
フレッティング試験:…荷重5kg(室温条件下)または2.5kg(150℃)の条件下で摩擦摩耗評価を行い、ゴム層が摩滅して接着剤層が露出する迄の回数を測定
[0051]実施例2
実施例1において、パラフィンワックスの代りに、ポリエチレンワックス(三井化学製品融点110℃、トルエン85重量%を含有した粒子径2μm以下の分散液)が同量(73部)用いられた。
[0052]実施例3
実施例2において、さらにポリテトラフルオロエチレン微粉末(粒子径1μm、トルエン85重量%含量)が120部用いられ、また黒鉛量が10g部に、トルエン量が939部、合計量が1259.5部にそれぞれ変更されて用いられた。…
[0055]以上の各実施例で得られた結果は、トルエンを除くコーティング剤各固形分量(単位:部)およびその百分率(重量%としてカッコ内に示される)と共に、次の表1に示される。なお、各コーティング剤中の固形分濃度は、いずれも7.5重量%である。



上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1
「【請求項1】水性コーティング組成物の重量を基準にして:a)10から70重量%の少なくとも二つのカルボン酸基を含有する少なくとも一つのポリウレタンポリマー;b)1から60重量%の少なくとも一つの架橋剤;c)0.01から4重量%の少なくとも一つの湿潤剤;d)0.1から15重量%の少なくとも一つのスリップ助剤;及びe)0.01から20重量%のUV安定剤を含む水性コーティング組成物。」

摘記2b:段落0002及び0009
「【0002】本発明は、低摩擦面を有するコーティングを提供する。本明細書においては、低摩擦面とは、低い摩擦係数を有する表面をいう。低摩擦面を有するコーティングは、例えば、自動車に使用されるウェザーストリップ用コーティングを含む多くの用途において有用である。自動車におけるウェザーストリップは、自動車の車体において二つの部品間のシールを提供するのに使用され得る。例えば、窓ガラス及びドアフレーム間のシールを提供するのに使用されるウェザーストリップは、典型的には最小限の抵抗で窓ガラスを上げ下げするのを許容する低摩擦面を持つコーティングを有している。…
【0009】本発明の水性コーティング組成物は、ポリウレタンポリマー、架橋剤、湿潤剤、スリップ助剤及びUV安定剤を含有する。水性コーティング組成物は、未処理EPDMゴム上に塗布することができ、耐久性のある低摩擦コーティングを提供する。」

摘記2c:段落0010及び0011
「【0010】本発明の水性コーティング組成物に含まれるポリウレタンポリマーには、脂肪族ポリウレタンポリマー及び芳香族ポリウレタンポリマーが含まれる。…
【0011】本発明の水性コーティング組成物は、また、架橋剤を含有する。架橋剤は、ポリウレタンポリマーのカルボン酸基と反応することができる少なくとも二つの官能基を含有するポリマー又は非ポリマーである。好適な官能基には、エポキシド、オキサゾリン、メラミン、カルボジイミド及びブロックされたイソシアネートのような水中で安定なイソシアネートが含まれる。」

摘記2d:段落0015
「【0015】種々のスリップ助剤は、ワックス、シリコーン添加剤、フッ素化添加剤及びこれらの混合物を含む水性コーティング組成物の使用に好適である。好適なワックスには、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びパラフィンワックスが含まれる。一態様において、水性コーティング組成物は、米国特許第6,169,148号において開示されたプロセスにより調製されたような酸化ポリオレフィンワックスを含有する。」

摘記2e:段落0027
「【0027】一態様において、水性コーティング組成物は、EPDMゴムをはじめとするエラストマー基体上に塗布され、乾燥され、架橋される。被覆されたエラストマー基体は、自動車及びトラックのような乗り物のウェザーストリップとして有用である。被覆されたエラストマー基体の他の用途としては、家庭用ウェザーストリップ、工業用ウェザーストリップ、フロントガラスワイパーブレード、旅行用かばんのような種々の製品のガスケットが含まれる。」

摘記2f:段落0028?0029
「【0028】実施例1
水性コーティング組成物の製造
本発明の水性コーティング組成物は、アンモニアを添加してpHを6.5より上に維持しながら、表1で掲示された物質を混合することにより製造される。水性コーティング組成物は、42%の固形分濃度及び8.0のpHを有していた。
【0029】【表1】



上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:請求項2
「【請求項2】水酸基含有1,2-ポリブタジエン75重量%以下およびイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン25重量%以上の1,2-ポリブタジエン混合物100重量部に対し軟化点40?160℃のワックスおよびフッ素樹脂をそれぞれ10?160重量部の割合で含有させた有機溶剤溶液よりなる加硫ゴム用表面処理剤。」

摘記3b:段落0002?0003
「【0002】
【従来の技術】従来から、ゴム被覆金属製ガスケットやベアリングシール、オイルシール等のゴム弾性体の表面には、固着防止、ブロッキング防止および耐摩耗性向上という目的で、グラファイトのコーティング膜や、脂肪酸の金属塩またはアミド、パラフィン等のワックス、シリコーンオイルなどのコーティング膜あるいはバインダーとしてエチルセルロース、フェノール樹脂などを含むコーティング膜を形成させることが行われているが、エンジンガスケットなどの高面圧、高温度使用条件下で更にエンジンの振動が加わると、ガスケット表面のゴム被覆層が摩耗し、ガス洩れを発生させることがある。また、ベアリングシールやオイルシール等のゴム弾性体摺動部のゴム被覆層が、くり返し摺動により摩耗し、オイル洩れを発生させることがある。
【0003】そこで、本出願人は先に、エンジンヘッドガスケットの使用環境である高面圧、高温度に更に振動が加わるような苛酷な条件下においても、ガスケット表面のゴム被覆層に摩耗や破壊を生ずる現象が殆んどみられず、ガスシールに有効なガスケットなどを形成させ得る加硫ゴム用表面処理剤として、液状1,2-ポリブタジエンの水酸基含有物およびその硬化剤としての1,2-ポリブタジエンイソシアネート基含有物に、ポリオレフィン樹脂の水性分散液を添加した加硫ゴム用表面処理剤を提案している(特開平3-252,442号公報)。」

摘記3c:段落0011
「【0011】ワックスとしては、軟化点40?160℃、好ましくは60?120℃の植物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックスなどが用いられる。植物系ワックスとしてはカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックスなどが、石油系ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが、また合成ワックスとしてはポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、脂肪酸アミド、各種変性ワックスなどが挙げられ、通常は市販されているワックスをそのまま用いることが出来る。」

摘記3d:段落0021
「【0021】かかる性質を有する加硫ゴム表面処理剤は、O-リング、Vパッキン、オイルシール、ガスケット、パッキン、角リング、Dリング、ダイアフラム、各種バルブなどのゴム製シール材、等速ジョイントなどのダストブーツ、各種バルブ、ダイアフラム、ワイパーブレードなどのゴム製品、エンジン、モーター、ハードディスクなどの記憶装置、光ディスクなどの各種防振ゴム、ハードディスクなどの記録装置用ヘッド、プリンターヘッドなどの衝撃吸収ストッパー部品などに対して有効に適用される。」

2.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明(刊1発明及び引用発明)
摘記1aの「金属板表面に形成させたゴム層上に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、軟化点が40?150℃の合成ワックス、軟化点が60?170℃の脂肪酸アミドおよび黒鉛を含有する固体潤滑剤層を形成せしめた金属ゴム積層素材。…金属ゴム積層素材よりなる自動車エンジン内燃機関用金属ガスケット」との記載、
摘記1bの「本発明に係る金属ゴム積層素材は、…金属板表面に形成させた被着ゴム層の摩滅が発生するのを有効に防止することができ、…長期間にわたって常に安定したシール性を確保することができる。…(1)固体潤滑剤であるコーティング剤の塗布性にすぐれている。…(3)表面処理したゴム層の表面は、低摩擦、低摺動となり、装着作業性にすぐれている。」との記載、
摘記1dの「合成ワックスとしては、…パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、各種変性ワックス等が挙げられ、一般には市販品がそのまま用いられる。…合成ワックスにより、高温ではさらに潤滑するため、高温時における耐摩耗性は向上する」との記載、
摘記1eの「実施例1…コーティング剤:イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーA…60重量%…(ポリプロピレングリコール100部およびバイエル社製品イソシアネートデスモジュールRE3部より調製)…パラフィンワックス…73部(14.75重量%)…オレイン酸アミド…14.75重量%…黒鉛…10.5重量%…トルエン…合計…100重量%…ステンレス鋼板上に、シラン系プライマー層、フェノール樹脂系接着剤層および加硫ニトリルゴム層を介して、コーティング剤層(塗布厚み3μm)を形成させた金属ゴム複合素材について、次の各項目の測定を行った。…フレッティング試験:…荷重…2.5kg(150℃)の条件下で摩擦摩耗評価…実施例2 実施例1において、パラフィンワックスの代りに、ポリエチレンワックス(三井化学製品融点110℃、トルエン85重量%を含有した粒子径2μm以下の分散液)が同量(73部)用いられた。…実施例3 実施例2において、さらにポリテトラフルオロエチレン微粉末(粒子径1μm、トルエン85重量%含量)が120部用いられ、また黒鉛量が10g部に、トルエン量が939部、合計量が1259.5部にそれぞれ変更されて用いられた。…以上の各実施例で得られた結果は、トルエンを除くコーティング剤各固形分量(単位:部)およびその百分率(重量%としてカッコ内に示される)と共に、次の表1に示される。」との記載、並びに「表1」の「実施例3」の記載からみて、刊行物1には、
『金属板表面(ステンレス鋼板上)に形成させたゴム層(加硫ニトリルゴム層)上に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(ポリプロピレングリコール100部およびバイエル社製品イソシアネートデスモジュールRE3部より調製)47.1重量%、軟化点が40?150℃の高温時における耐摩耗性を向上させる合成ワックス(ポリエチレンワックス)11.5重量%、軟化点が60?170℃の脂肪酸アミド(オレイン酸アミド)11.5重量%、ポリテトラフルオロエチレン微粉末19.1重量%および黒鉛10.6重量%を含有する、150℃の条件下での摩擦摩耗評価(フレッティング試験)が600回の固体潤滑剤層を形成するための金属ゴム積層素材用のコーティング剤。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)刊行物2に記載された発明(刊2発明)
摘記2aの「水性コーティング組成物の重量を基準にして:a)10から70重量%の少なくとも二つのカルボン酸基を含有する少なくとも一つのポリウレタンポリマー;b)1から60重量%の少なくとも一つの架橋剤;c)0.01から4重量%の少なくとも一つの湿潤剤;d)0.1から15重量%の少なくとも一つのスリップ助剤;及びe)0.01から20重量%のUV安定剤を含む水性コーティング組成物。」との記載、
摘記2bの「窓ガラス及びドアフレーム間のシールを提供するのに使用されるウェザーストリップは、…低摩擦面を持つコーティングを有している。…本発明の水性コーティング組成物は、ポリウレタンポリマー、架橋剤、湿潤剤、スリップ助剤及びUV安定剤を含有する。水性コーティング組成物は、未処理EPDMゴム上に塗布することができ、耐久性のある低摩擦コーティングを提供する。」との記載、
摘記2cの「本発明の水性コーティング組成物に含まれるポリウレタンポリマーには、脂肪族ポリウレタンポリマー及び芳香族ポリウレタンポリマーが含まれる。」との記載、
摘記2dの「種々のスリップ助剤は、ワックス、シリコーン添加剤、フッ素化添加剤及びこれらの混合物を含む水性コーティング組成物の使用に好適である。好適なワックスには、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びパラフィンワックスが含まれる。一態様において、水性コーティング組成物は、米国特許第6,169,148号において開示されたプロセスにより調製されたような酸化ポリオレフィンワックスを含有する。」との記載、及び
摘記2eの「水性コーティング組成物は、EPDMゴムをはじめとするエラストマー基体上に塗布され、乾燥され、架橋される。被覆されたエラストマー基体は、自動車及びトラックのような乗り物のウェザーストリップとして有用である。被覆されたエラストマー基体の他の用途としては、…フロントガラスワイパーブレード、…種々の製品のガスケットが含まれる。」との記載からみて、刊行物2には、
『種々の製品のガスケットのEPDMゴムをはじめとするエラストマー基体上に塗布される水性コーティング組成物であって、水性コーティング組成物の重量を基準にして:a)10から70重量%の少なくとも二つのカルボン酸基を含有する少なくとも一つのポリウレタンポリマー(脂肪族ポリウレタンポリマー及び芳香族ポリウレタンポリマーが含まれる);b)1から60重量%の少なくとも一つの架橋剤;c)0.01から4重量%の少なくとも一つの湿潤剤;d)0.1から15重量%の少なくとも一つのスリップ助剤(米国特許第6,169,148号において開示されたプロセスにより調製されたような酸化ポリオレフィンワックス);及びe)0.01から20重量%のUV安定剤を含む水性コーティング組成物。』についての発明(以下「刊2発明」という。)が記載されているといえる。

3.刊行物1を主引用例とした場合の検討
(1)本3発明と刊1発明との対比
本3発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「金属板表面(ステンレス鋼板上)に形成させたゴム層(加硫ニトリルゴム層)上に…固体潤滑剤層を形成するための金属ゴム積層素材用のコーティング剤」は、その「金属板表面(ステンレス鋼板上)」と「ゴム層(加硫ニトリルゴム層)」と「固体潤滑剤層」と「金属ゴム積層素材」と「コーティング剤」の各々が、本3発明の「金属板」と「ゴム層」と「コート層」と「ゴム金属積層体」と「コーティング剤」の各々に該当するから、本3発明の「金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤」に相当する。
刊1発明の「イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(ポリプロピレングリコール100部およびバイエル社製品イソシアネートデスモジュールRE3部より調製)47.1重量%」は、本3発明の「ポリウレタン」及び「前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であり」に相当する。
刊1発明の「高温時における耐摩耗性を向上させる合成ワックス(ポリエチレンワックス)」は、ポリエチレンという炭化水素からなる「合成ワックス」であることから、本3発明の「炭化水素系合成ワックス」に相当する。

してみると、本3発明と刊1発明は『ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスを含む、金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤であって、前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%である、コーティング剤。』という点において一致し、次の(α)?(δ)の点において相違する。

(α)ポリウレタンが、本3発明は「芳香族系ポリウレタン」であるのに対して、刊1発明は「ポリプロピレングリコール100部およびバイエル社製品イソシアネートデスモジュールRE3部より調製」したものであって、これが「芳香族系ポリウレタン」に該当するか否か不明な点。

(β)炭化水素系合成ワックスが、本3発明は「ポリエチレンワックスの酸変性ワックス」であるのに対して、刊1発明は「軟化点が40?150℃の高温時における耐摩耗性を向上させる合成ワックス(ポリエチレンワックス)」であって、当該「ポリエチレンワックス」が「酸変性」されたワックスではない点。

(γ)コーティング剤における炭化水素系合成ワックスの含有量が、本3発明は「固形分換算で26.9?73.1重量%」であるのに対して、刊1発明は「11.5重量%」である点。

(δ)コーティング剤の組成が、本3発明は「ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスからなる」ものであって、脂肪酸アミドや、ポリテトラフルオロエチレン微粉末や、黒鉛などの成分を含むものとして特定されていないのに対して、刊1発明は「脂肪酸アミド」や「黒鉛」や「ポリテトラフルオロエチレン微粉末」などの成分を含むものである点。

(2)判断
ア.上記(α)の相違点について
刊行物1の段落0031(摘記1c)の「活性水素基を有するポリオールと反応するイソシアネートとしては…トリフェニルメタントリイソシアネート…が挙げられる。」との記載や、例えば、特開2005-232161号公報(参考例D)の段落0026の「トリフェニルメタントリイソシアネート…商品名:デスモジュールRE」との記載からみて、刊1発明の「バイエル社製品イソシアネートデスモジュールRE」を用いて調製した「イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー」が「芳香族系ポリウレタン」に該当することは明らかである。
してみると、上記(α)の相違点に実質的な差異はない。

イ.上記(β)の相違点について
刊行物1の段落0033?0034(摘記1d)の「合成ワックスとしては、…ポリエチレンワックス、…各種変性ワックス等が挙げられ、…合成ワックスにより、高温ではさらに潤滑するため、高温時における耐摩耗性は向上する」との記載にあるように、刊行物1には「高温時における耐摩耗性」を向上させるための「合成ワックス」として「各種変性ワックス」を用いることが示唆されているところ、刊行物2の段落0009及び0015(摘記2b及び2d)の「耐久性のある低摩擦コーティング…米国特許第6,169,148号において開示されたプロセスにより調製されたような酸化ポリオレフィンワックス」との記載や、例えば、特開2004-84780号公報(参考例E)の段落0009及び0014の「車のエンジンルーム内で比較的高温環境下で作動する機器…高酸価ポリエチレンワックス(PEW)を配合することにより、摩擦係数が小さくなり耐摩耗性が向上する」との記載にあるように、高温環境下で耐摩耗耗性(耐久性)に優れた「変性ワックス」として「酸」により変性したワックスは普通に知られているから、刊行物1に記載された「各種変性ワックス」の範囲に「ポリエチレンワックスの酸変性ワックス」が含まれることは、当業者にとって刊行物1に記載されているに等しいものといえる。
してみると、上記(β)の相違点は、微差にすぎず、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲といえなくもない。

ウ.上記(γ)の相違点について
刊行物1の請求項4(摘記1a)の「イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー20?70重量%、合成ワックス10?50重量%、脂肪酸アミド10?50重量%、黒鉛5?40重量%およびフッ素系樹脂0?50重量%よりなり、以上の各成分の合計量が100重量%である固体潤滑剤の層が形成された…金属ゴム積層素材。」との記載にあるように、刊行物1に記載された発明の「固体潤滑剤の層」を形成するためのコーティング剤に配合される固形分換算での合成ワックスの含有量は「10?50重量%」の範囲にあるものであるところ、刊行物1に記載された「10?50重量%」という範囲と、本3発明の「26.9?73.1重量%」という範囲は、相当程度の範囲で重複している。
してみると、上記(γ)の相違点は、微差にすぎず、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲といえなくもない。

エ.上記(δ)の相違点について
刊行物1の請求項1(摘記1a)の記載にあるように、刊行物1に記載された発明は「脂肪酸アミド」と「黒鉛」とを必須の成分とするものであるから、上記(δ)の相違点は、実質的な相違点であって、微差にすぎないとはいえない。
そして、同段落0055(摘記1e)の表1に記載された実施例1?5の具体例のうち、PTFE微粉末(ポリテトラフルオロエチレン微粉末)を用いた実施例3のもの(刊1発明に相当)については、高温(150℃)の条件下での摩擦摩耗評価(フレッティング試験)において優れた結果を示し得ているのに対して、PTFE微粉末を用いていない実施例1?2及び4?5のものは、高温の条件下での摩擦摩耗評価において優れた結果を示し得ていないので、刊行物1の表1の試験結果に接した当業者にしてみれば、刊1発明の「ポリテトラフルオロエチレン微粉末19.1重量%」などの他成分を含まない構成にすることに「阻害事由」があるといえる。
してみると、上記(δ)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

オ.本3発明の効果について
本件特許明細書の段落0014、0016及び0038には「ポリエチレンワックス…の酸変性ワックスは、高い融点と耐摩擦・摩耗特性を合わせ持つため好ましい。…酸変性ワックスを用いると、高温での耐摩耗性に優れる。…[摩擦摩耗試験]…25℃では荷重5000gで、150℃では荷重2500gの条件で摩擦摩耗試験を行った。コーティング層及びゴム層が摩耗して金属面が露出するまでの回数を測定した。」との記載がなされ、同段落0042の表1には「

」という試験結果が示されている。
そして、その実施例1、6及び7は何れも『芳香族ポリウレタン73.1重量%と炭化水素系合成ワックス26.9重量%からなるコーティング剤』の構成を有し、その炭化水素系合成ワックス(潤滑剤)の種類が異なる以外は条件が同じものであるところ、この実施例1、6及び7の試験結果によると、150℃で荷重2.5kgの「摩擦摩耗試験(回)」の評価結果は、実施例1(フィッシャートロプシュワックス)で196回であり、実施例6(ポリエチレンワックス)で352回であるのに対して、実施例7(酸変性ポリエチレンワックス)で1394回となっている。
また、その実施例8は『芳香族ポリウレタン26.9重量部と酸変性ポリエチレンワックス73.1重量%からなるコーティング剤』の構成を有し、150℃で荷重2.5kgの「摩擦摩耗試験(回)」の評価結果は1086となっている。
してみると、当該表1の試験結果から、本3発明の『芳香族系ポリウレタン26.9?73.1重量%と酸変性ポリエチレンワックス26.9?73.1重量%からなるコーティング剤』という構成を具備することにより、PTFE微粉末などの他成分を用いずとも『高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という効果が得られることが理解できる。
これに対して、刊行物1の段落0055の表1に記載された実施例1?5の具体例のうち、PTFE微粉末(ポリテトラフルオロエチレン微粉末)を用いた実施例3のもの(刊1発明に相当)については、高温(150℃)の条件下での摩擦摩耗評価(フレッティング試験)において高い評価が得られているものの、PTFE微粉末を用いていない実施例1?2及び4?5のもの(特に融点80℃のパラフィンワックスを用いた実施例1のもの)については、高温の条件下での摩擦摩耗評価において高い評価が得られていないので、刊行物1の記載によっては、軟化点の高い合成ワックス(実施例2?5の融点110℃のポリエチレンワックス)とPTFE微粉末とを併用することで、高温の条件下での摩擦摩耗評価が改善することまでは予測できるとしても、本3発明の上記PTFE微粉末などを用いずとも『高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という効果までをも容易に予測できるとはいえない。
また、刊行物2?3の記載を精査しても、本3発明の『芳香族系ポリウレタン26.9?73.1重量%と酸変性ポリエチレンワックス26.9?73.1重量%からなるコーティング剤』という構成、及びこの構成によりPTFE微粉末などを用いずとも『高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という効果が得られることについては、示唆を含めて記載が見当たらず、このような効果を当業者が容易に予測できるといえる事情も見当たらない。

カ.まとめ
以上総括するに、本3発明と刊1発明とは、上記(β)?(δ)に示したとおりの相違点があり、少なくとも上記(δ)の相違点が実質的な差異を構成しないとはいえない。
したがって、本3発明は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

また、上記エ.に示したように、刊1発明は「ポリテトラフルオロエチレン微粉末19.1重量%」などをも含むことにより「高温(150℃)の条件下での摩擦摩耗評価」の改善が得られているものであるから、上記(δ)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、仮に上記(δ)の相違点が容易又は実質同一であるとしても、上記オ.に示したように、本3発明の『芳香族系ポリウレタンと酸変性ポリエチレンワックスの所定量からなるコーティング剤により、PTFE微粉末などを用いずとも高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という構成及び効果は、刊行物1?3に示唆を含めて記載がない。
したがって、本3発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

4.刊行物2を主引用例とした場合の検討
(1)本3発明と刊2発明との対比
本3発明と刊2発明とを対比する。
刊2発明の「種々の製品のガスケットのEPDMゴムをはじめとするエラストマー基体上に塗布される水性コーティング組成物」について、
例えば、特開平8-209113号公報(参考例A)の段落0002の「従来用いられているガスケット材料は、鋼板等の金属板の両面または片面、一般には両面に、熱硬化性樹脂よりなる接着剤層、ゴムコンパウンドの加硫物層および粘着防止層を順次形成させた構造となっている」との記載にあるように、一般的な「ガスケット」は「金属板/接着剤層/ゴムコンパウンド層(ゴム層)/粘着防止層(コート層)」の順に含む構造を有しているので、刊2発明の「ガスケット」が本3発明の「金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体」に該当し、また、刊2発明の「基体上に塗布される水性コーティング組成物」が本3発明の「コート層を形成するためのコーティング剤」に該当するので、
刊2発明の「種々の製品のガスケットのEPDMゴムをはじめとするエラストマー基体上に塗布される水性コーティング組成物」は、本3発明の「金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤」に相当する。

刊2発明の「a)10から70重量%の少なくとも二つのカルボン酸基を含有する少なくとも一つのポリウレタンポリマー(脂肪族ポリウレタンポリマー及び芳香族ポリウレタンポリマーが含まれる)」について、
例えば、特開平11-256178号公報(参考例F)の段落0042の「NeoRez^(TM)R941及びR9409は4つのメチレン基を有するオリゴエーテルのブロックと芳香族ダイ-イソシアネートオリゴマーのブロックとを結合した分子よりなる」との記載にあるように、刊行物2の段落0029(摘記2f)の表1の「ポリウレタンプレポリマー…ネオレッツ(Neorez,商標)R9409樹脂」との記載にある「ポリウレタンプレポリマー」は「芳香族」系の「ポリウレタン」に該当するので、
刊2発明の「a)10から70重量%の少なくとも二つのカルボン酸基を含有する少なくとも一つのポリウレタンポリマー(脂肪族ポリウレタンポリマー及び芳香族ポリウレタンポリマーが含まれる)」は、本3発明の「前記ポリウレタンが芳香族系ポリウレタンであり」及び「前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であり」に相当する。

刊2発明の「d)0.1から15重量%の少なくとも一つのスリップ助剤(米国特許第6,169,148号において開示されたプロセスにより調製されたような酸化ポリオレフィンワックス)」について、
当該「米国特許第6,169,148号」に対応する特開平10-279624号公報(参考例G)の段落0001及び0025には「本発明は、ポリオレフィンワックスを…酸素または酸素含有気体と反応させることにより酸化ポリオレフィンワックスを製造する方法に関する。…実施例…酸化反応…高圧ポリエチレンワックスを使用した。」との記載があるところ、本件特許明細書の段落0016には「酸変性する手法としては、大気雰囲気中での加熱によって処理する方法…が挙げられる。」との記載をも参酌するに、刊2発明の「酸化ポリオレフィンワックス」は「ポリエチレンワックス」を酸化反応により「酸変性」したワックスに相当するといえるので、
刊2発明の「d)0.1から15重量%の少なくとも一つのスリップ助剤(米国特許第6,169,148号において開示されたプロセスにより調製されたような酸化ポリオレフィンワックス)」は、本3発明の「前記炭化水素系合成ワックスが、ポリエチレンワックスの酸変性ワックスであり」に相当する。

してみると、本3発明と刊2発明は『ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスを含む、金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤であって、前記ポリウレタンが芳香族系ポリウレタンであり、前記炭化水素系合成ワックスが、ポリエチレンワックスの酸変性ワックスであり、前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であるコーティング剤。』という点において一致し、次の(ε)及び(ζ)の点において相違する。

(ε)コーティング剤における炭化水素系合成ワックスの含有量が、本3発明は「固形分換算で26.9?73.1重量%」であるのに対して、刊2発明は「0.1から15重量%」である点。

(ζ)コーティング剤の組成が、本3発明は「ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスからなる」ものであるのに対して、刊2発明は「b)1から60重量%の少なくとも一つの架橋剤」と「c)0.01から4重量%の少なくとも一つの湿潤剤」と「e)0.01から20重量%のUV安定剤」の3種類を必須の成分として更に含むものである点。

(2)判断
上記(ε)及び(ζ)の相違点についてまとめて検討する。
刊2発明は、b)架橋剤、c)湿潤剤、及びe)UV安定剤の3種類の成分を所定量で含むことを必須とするものであるから、これらの必須の3成分の所定量を減らしてまで、d)スリップ助剤(酸化ポリオレフィンワックス)の「0.1から15重量%」という配合量を、本3発明の「26.9?73.1重量%」という配合量にまで増やすことには「阻害事由」があるといえる。
また、例えば、特開2008-260809号公報(参考例H)の段落0015、0017及び0020の「軟化点100?150℃の…合成ワックスは、…高温での耐摩耗性が向上するものの、ワックス量が多い場合に高温で軟化して粘着し、…熱間耐摩耗性が低下するようになる。…好ましくは10?40重量%となるような割合で用いられる。」との記載にあるように、ワックス量が多い場合に高温で粘着し、熱間耐摩耗性が低下するなどの問題が生じることが知られているので、刊2発明の「0.1から15重量%」という配合量を、本3発明の「26.9?73.1重量%」という配合量にまで増やすことには「阻害事由」があるといえる。
してみると、刊2発明の「水性コーティング組成物」の組成から、UV安定剤などの他の成分の量を減らして、酸化ポリオレフィンワックスの量を増やすことには「阻害事由」があるといえるので、上記(ε)及び(ζ)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

次に、本3発明の効果について検討するに、本件特許明細書の段落0042の表1には『芳香族系ポリウレタン26.9?73.1重量%と酸変性ポリエチレンワックス26.9?73.1重量%からなるコーティング剤』という構成を具備することによりPTFE微粉末などを用いずとも『高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という効果が得られるという試験結果が示されている。
これに対して、刊行物1?3の記載を精査しても、当該『芳香族系ポリウレタン26.9?73.1重量%と酸変性ポリエチレンワックス26.9?73.1重量%からなるコーティング剤』という構成、及びこの構成によりPTFE微粉末などを用いずとも『高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という効果が得られることについては、示唆を含めて記載が見当たらず、このような効果を当業者が容易に予測できるといえる事情も見当たらない。

以上総括するに、本3発明と刊2発明とは、上記(ε)及び(ζ)に示したとおりの相違点があり、これらの相違点が実質的な差異を構成しないとはいえないので、本3発明は、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
また、本3発明の『芳香族系ポリウレタンと酸変性ポリエチレンワックスの所定量からなるコーティング剤により、PTFE微粉末などを用いずとも高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という構成及び効果は、刊行物1?3に示唆を含めて記載がないので、本3発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(3)特許異議申立人の主張について
令和元年8月21日付けの意見書において、特許異議申立人は、甲第3号証(特許第4342816号公報)及び甲第4号証(特開2005-36171号公報)を提出した上で『本件特許の訂正後の請求項3、7、8、11に係る発明は、依然として、甲2に記載された発明であって新規性を有さず、または甲2に記載された発明に対して進歩性を有さず、取り消されるべきものである。』と主張している。
しかしながら、本3発明の『芳香族系ポリウレタンと酸変性ポリエチレンワックスの所定量からなるコーティング剤により、PTFE微粉末などを用いずとも高温での耐摩耗性に優れたコート層が形成できる』という構成及び効果は、甲第3?4号証の刊行物に示唆を含めて記載がない。このため、本3発明が新規性又は進歩性を有さないとはいえないので、上記主張は採用できない。

5.本7、本8及び本11発明について
本7、本8及び本11発明は、本3発明を引用し、さらに限定したものであるから、本3発明の新規性及び進歩性が刊行物1?3によって否定できない以上、本7、本8及び本11発明が、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本7、本8及び本11発明は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

6.理由3(サポート要件)及び理由4(明確性要件)について
理由3及び4の取消理由は、平成31年1月18日付けの訂正請求によって生じた取消理由であるところ、平成31年1月18日付けの訂正請求は特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。
このため、理由3及び4において指摘した記載不備は、本3、本7、本8及び本11発明に当て嵌まらない。
したがって、理由3及び理由4により、本3、本7、本8及び本11発明の特許を取り消すことはできない。

7.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)
特許異議申立人が主張する申立理由1は「請求項1?6、8?12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である」から、特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立理由1(新規性)は、上記第4〔理由1〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(2)申立理由2(新規性)
特許異議申立人が主張する申立理由2は「請求項1、2、4?7、9、10、12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一である」から、特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立理由2(新規性)は、上記第4〔理由1〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(3)申立理由3(進歩性)
特許異議申立人が主張する申立理由3は「請求項1?12に係る発明は、当業者が甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである」から、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立理由3(進歩性)は、上記第4〔理由2〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(4)申立理由4(サポート要件)
ア.申立理由4の概要
特許異議申立人が主張する申立理由4は「請求項8に係る発明は、特許請求の範囲において不備があ」るから、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に違反するというものである。
そして、本8発明は、グラファイトを含まないコーティング剤を規定しているが、実施例・比較例の結果を示した段落0042の表1には、実施例1?9に対応するグラファイトを含むコーティング剤が開示されていないので、段落0020に記載された「グラファイトを含むとフランジとの固着力が低減する場合がある。しかし、常温での耐摩耗性が低下する場合があるので、含まないことが好ましい。」ことはデータによって裏付けられておらず、グラファイトを含まないコーティング剤が好ましいということが発明の詳細な説明に記載されていない、と主張している。

イ.判断
本8発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0005の記載からみて『接触部材との固着力が弱く耐摩耗性に優れるコートを形成できるコーティング剤の提供』にあるものと認められる。
そして、同段落0042の表1には、本8発明の「グラファイトは含まない請求項3記載のコーティング剤。」として、実施例5、7及び8の具体例が記載され、固着力試験が「○:手で容易に剥離する」で、150℃(エンジンガスケット等の高温度使用条件下)の摩擦摩耗試験の評価結果が1086?1394回であったという「試験結果」が示されているので、当該「試験結果」の裏付けだけでも、当業者は本8発明が当該発明の課題を解決できる範囲にあると認識することができるといえる。
また、同段落0020には「グラファイトを含むと…常温での耐摩耗性が低下する場合があるので、含まないことが好ましい。」という「作用機序」についての記載がなされているので、当該「作用機序」の説明により、グラファイトを含まない方が常温での耐摩耗性の点で有利であることを理解できる。
したがって、本8発明がサポート要件に違反するとはいえないから、申立理由4(サポート要件)について理由があるものとすることはできない。

第6 まとめ
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本3、本7、本8及び本11発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本3、本7、本8及び本11発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項1?2、4?6、9?10及び12は削除されているので、請求項1?2、4?6、9?10及び12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
ポリウレタンと炭化水素系合成ワックスからなる、
金属板、ゴム層、コート層をこの順に含むゴム金属積層体の前記コート層を形成するためのコーティング剤であって、
前記ポリウレタンが芳香族系ポリウレタンであり、
前記炭化水素系合成ワックスが、ポリエチレンワックスの酸変性ワックスであり、
前記コーティング剤におけるポリウレタンの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%であり、
前記コーティング剤における炭化水素系合成ワックスの含有量は、固形分換算で26.9?73.1重量%である、コーティング剤。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
さらに硬化剤を含む請求項3記載のコーティング剤。
【請求項8】
グラファイトは含まない請求項3記載のコーティング剤。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
請求項3記載のコーティング剤から形成されたコート層を有するゴム金属積層体。
【請求項12】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-10 
出願番号 特願2014-129304(P2014-129304)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 851- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6302367号(P6302367)
権利者 ニチアス株式会社
発明の名称 コーティング剤  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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