• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
管理番号 1357640
異議申立番号 異議2018-700453  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2019-10-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6244259号発明「高純度ビスフェノールFの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6244259号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6244259号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6244259号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年5月7日の出願であって、平成29年11月17日に特許権の設定登録がされ、同年12月6日にその特許公報が発行され、その後、平成30年6月5日に、特許異議申立人 赤松 智信(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年7月6日に上記特許異議申立人より上申書が提出され、同年8月16日付けで取消理由通知が通知され、同年9月11日に特許権者より上申書が提出され、同年同月20日付けで指定期間の延長の通知がされ、同年11月20日付け訂正請求書及び意見書が同年同月21日に提出されたものの、上記訂正請求書については、同年12月25日付け却下理由通知がされ、その後、平成31年2月4日に特許権者より上申書が提出され、同年同月25日付けで手続却下の決定がされ、同年3月14日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、特許権者より令和1年6月14日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、その訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)に対して、特許法第120条の5第5項に基づく通知がなされたが、特許異議申立人から何ら意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?3のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1の訂正前の「することを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法」との記載を、「し、蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項2の訂正前の請求項1の記載を引用する「請求項1に記載の高純度ビスフェノールFを得る請求項1に記載の高純度ビスフェノールFの製造方法」との記載を訂正後に引用しないものとする訂正をするとともに(以下「訂正事項2-1」という。)、訂正前の「該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、」との記載を「該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上であり、」に訂正し(以下「訂正事項2-2」という。)、訂正前の「蒸留工程において、圧力1?10mmHg、熱媒温度250?320℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり30?200kg/hrの供給量となるように連続的に供給し」を「蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し」に訂正し(以下「訂正事項2-3」という。)、訂正前の「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら高純度ビスフェノールFを得る」を「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」に訂正する(以下「訂正事項2-4」という。)ものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項3の訂正前の「請求項1または2に記載の」を「請求項1に記載の」とする。

2 目的の適否
(1)上記訂正事項1は、蒸留工程における、蒸発器中の圧力範囲、熱媒温度範囲、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり粗ビスフェノールFまたは粗フェノールノボラック樹脂の供給量範囲を限定し、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることをさらに限定したものであるといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項2-1は、請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2の「高純度ビスフェノールFを得る請求項1に記載の高純度ビスフェノールFの製造方法」との記載を訂正後に引用しないものとする訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2-2は、内部回転体を円筒と見做したときの空隙率を限定したものであるといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項2-3は、蒸留工程における、蒸発器中の圧力範囲、熱媒温度範囲、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり粗ビスフェノールFまたは粗フェノールノボラック樹脂の供給量範囲をさらに限定したものであるといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2-4は、蒸留方式が単蒸留であることを限定したものであるといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3)訂正事項3は、請求項3が引用する請求項の対象を削除したものにすぎないから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 新規事項についての判断
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1の「圧力3?7mmHg」に関しては、実施例2に下限が実施例3に上限の記載があり、「熱媒温度260?300℃」に関しては、実施例2に下限が実施例1に上限の記載があり、【0024】にも記載があるので、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
また、「蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hr」の供給量に関しては、実施例2と実施例3の蒸発器の加熱伝面と供給量から計算した単位面積当たりの数値が下限値、上限値となっており、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
さらに、「単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」に関しては、【0004】に「本発明は、安定した性状の高純度ビスフェノールFを単蒸留において高収率で得ることができる製造方法」との記載があることから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。

(2)訂正事項2について
訂正事項2-1は、請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとを目的とするものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
また、訂正事項2-2の「該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上であ」ることに関しては、【0021】に記載があり、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
そして、訂正事項2-3の「蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給」することに関しては、上記(1)の訂正事項1に関して述べたのと同様に、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
さらに、訂正事項2-4の「単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」に関しても、上記(1)の訂正事項1に関して述べたのと同様に、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、前記2(3)で述べたとおり、請求項3が引用する請求項の対象を削除したものにすぎないから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。

4 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
上記2,3で検討したとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内において、蒸留工程における、蒸発器中の圧力範囲、熱媒温度範囲、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり粗ビスフェノールFまたは粗フェノールノボラック樹脂の供給量範囲を限定し、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることをさらに限定したものであり、訂正事項2は、引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとした上で、願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内において、蒸留工程における、蒸発器中の圧力範囲、熱媒温度範囲、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり粗ビスフェノールFまたは粗フェノールノボラック樹脂の供給量範囲をさらに限定し、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることをさらに限定したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3は請求項を削除するものであり、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

5 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?3について、請求項2?3はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?3]について訂正を認める。

第3 特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の記載は、以下のとおりであり、請求項1?3に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用し、蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法。
【請求項2】
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上であり、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用し、蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法。
【請求項3】
蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器である請求項1に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器。」

第4 取消理由及び異議申し立て理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。
(1ア)請求項1?3に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び甲第3?6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(1イ)請求項1?3に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第2号証に記載された発明及び甲第3?6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)請求項1?3に係る特許は、発明の詳細な説明には、本件特許発明の課題を解決し、高純度ビスフェノールFを単蒸留において高収率で得るための条件設定など具体的手段が実証して示されていないから、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に記載された発明とが実質的に対応しておらず、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(3)請求項1?3に係る特許は、ビスフェノールFは250℃を越える温度で分解することが知られており熱分解物が純度を下げると考えられ、その対策も特許明細書において開示がないので、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。


甲第1号証:特開平6-128183号公報
甲第2号証:特開2011-68760号公報
甲第3号証:三木洋二,神鋼パンテック技報,1990年8月1日,Vol.34,No.2,神鋼パンテック株式会社,p.17-21
甲第4号証:池田幸雄,神鋼ファウドラー技報,1986年6月15日,Vol.30,No.1,神鋼ファウドラー株式会社,p.21-23
甲第5号証:井藤信義編,神鋼ファウドラー・ニュース,昭和40年2月10日,神鋼ファウドラー株式会社,p.1-4
甲第6号証:化学大辞典編集委員会編 化学大辞典3、1997年9月20日発行、共立出版株式会社、p.759「コンデンサー」の項

なお、特許異議申立人は、参照すべき証拠として、甲第7号証の「沿革 株式会社神鋼環境ソリューション」、甲第8号証?甲第12号証の6-1型WIPRENEテスト報告書、甲第13号証?甲第18号証の群馬県立産業技術センター試験等結果通知書を提出している。

2 当審が通知した取消理由の概要
理由1:請求項1?3に係る特許は、具体例以外の部分に裏付けがないとともに、収率、環境負荷の程度、コスト面の課題が解決できると認識できないため、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

理由2:請求項1?3に係る特許は、刊行物1の【0022】の記載からみて、蒸留温度が250℃を越える場合には、ビスフェノールFの分解のおそれがあると考えられるところ、その分解抑制手段が本件明細書で述べられておらず、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

理由3:請求項1,3に係る特許は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載の技術的事項に基いて、もしくは、刊行物2に記載された発明及び刊行物3?5に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

刊行物1:特開平6-128183号(甲第1号証)
刊行物2:特開2011-68760号公報(甲第2号証)
刊行物3:三木洋二,神鋼パンテック技報,1990年8月1日,Vol.34,No.2,神鋼パンテック株式会社,p.17-21(甲第3号証)刊行物4:池田幸雄,神鋼ファウドラー技報,1986年6月15日,Vol.30,No.1,神鋼ファウドラー株式会社,p.21-23(甲第4号証)
刊行物5:井藤信義編,神鋼ファウドラー・ニュース,昭和40年2月10日,神鋼ファウドラー株式会社,p.1-4(甲第5号証)

なお、刊行物3?5は、本件特許発明の出願日時点での技術常識を示すものである。

第5 当審の判断
当審は、請求項1?3に係る特許は、当審の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

当審が通知した取消理由の判断

1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について

請求項1?3について

(1)特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」として、「蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であ」ること、「翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有」すること、「使用する」「縦型回転式薄膜蒸発器」の「コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている」こと、蒸留工程が「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給」すること、「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」ことを特定した方法の発明が記載されている。
また、請求項2には、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」として、「蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であ」ること、「翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有」すること、「内部回転体を円筒と見做した」と「きの空隙率が70容量%以上であ」ること、「使用する」「縦型回転式薄膜蒸発器」の「コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている」こと、蒸留工程が「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給」すること、「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」ことを特定した方法の発明が記載されている。
さらに、請求項3には、請求項1に記載の製造方法に用いられる、「高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器」として、「蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であ」ること、「翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有」すること、「コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている」ことを特定した装置の発明が記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法として、蒸留工程で縦型回転式薄膜蒸発器を用いた方法に関して、特許請求の範囲の記載の実質的繰り返し記載を除くと、【0016】?【0020】には、「【0016】
従って、蒸留による高純度化ビスフェノールFを得ることは、汎用ビスフェノールFから一般式(2)の三核体成分の分離にする行為に他ならない。一般式(1)と一般式(2)の蒸気圧は大きく差があり、共沸しないので、いわゆる単蒸留でも充分分離が可能である。しかしながら従来の蒸留器で必要以上に分離能を持たせている。また、低温での蒸留を求めていて必要以上の低真空条件を必要にしている。
【0017】
また、縦型回転式薄膜蒸発器にも、コンデンサーを内部に持つものや外部に設置するもの、撹拌翼にワイパーの有るものや無いもの、内部回転部の空隙率が多いものや、撹拌翼が斜めに取り付けてあるもの等、様々なタイプがある。
【0018】
本願発明で、単蒸留で必要十分な分離により高純度ビスフェノールFが得られる縦型回転式薄膜蒸発器は、コンデンサーを外部に設置するタイプであり、撹拌翼にワイパーが付いているタイプであり、内部回転体の空隙率が高いものである。
【0019】
本願発明で、外部コンデンサーは必須条件である。内部コンデンサータイプでは、ミストセパレータがついていても、蒸留工程に供給される汎用ビスフェノールF、粗ビスフェノールF、または粗フェノールノボラック樹脂(以下、供給液とする)が、蒸留成分中に飛沫同伴する量が多く、結果的に蒸留成分が高純度ビスフェノールFにならない。蒸留条件を工夫して飛沫同伴する量を減らすこともできるが、その場合は蒸発器への供給液の供給速度を極端に減らすことになり、生産性が悪化し総合的なコストアップの要因になる。
また、外部コンデンサータイプで、分縮比を設定し、より精度よく蒸留するタイプもあるが、ビスフェノールFの蒸留ではその必要がなく、一般に過剰品質であり、コストアップの要因になっている。
【0020】
また内部回転体にはワイパーが必須であり、溝付きワイパーが好ましい。ワイパーの取り付け方式は任意であるが、円筒の内壁面にワイパーを密着させる必要があるので、固定式のワイパーより、バネ付の可動タイプや遠心力による可動タイプがより好ましい。固定式のワイパーの場合は円筒の内壁面とワイパーの間隔は1mm以下にする必要があるが、円筒の内壁面にワイパーが接地するとワイパーが削れるため好ましくない。また溝付きワイパーは供給液が素早く薄膜化し加熱部分で均一化するため好ましい。
また、ワイパーの材質としては、薄膜蒸発器の内壁面を傷つけないような材質のものが好ましく、カーボンに樹脂や金属を真空加圧含浸させ機械的強度を向上させた高温下においても使用可能なハイブリットカーボンや腐食に強いフッ素樹脂等がより好ましく、長期形状安定性に優れ高温下においても使用可能なハイブリットカーボンがさらに好ましい。」と記載され、【0016】には、蒸留による高純度ビスフェノールFの製造の原理と従来の条件について、【0017】には、縦型回転式薄膜蒸発器のタイプについて、【0018】には、本件特許発明の縦型回転式薄膜蒸発器のタイプについて、【0019】には、外部コンデンサーと内部コンデンサーの対比に関して、【0020】には、溝付きワイパーについての記載がなされている。
また、【0021】?【0023】には、縦型回転式薄膜蒸発器の内部回転体の空隙率や図1?図4の装置駆動の説明、外部コンデンサーの設置箇所について、「【0021】 また、内部回転体は回転軸に回転翼を付けたタイプでも、円筒形の骨組タイプでもよいが、内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上が好ましく、85容量%以上がより好ましい。内部回転体の空隙率は大きいほど、蒸留成分を流出が容易になるので好ましいが、反面、内部回転体の強度低下が起こりやすく、両者のバランスから空隙率は85容量%程度が好ましい。
また、内部回転体の上部は蒸発成分が蒸発成分抜出口への通り道になるため、その流出が容易になるように、必要十分な強度を保ちながら、通路用の穴を有したり、格子状になっていることが好ましい。
図1及び3は、回転軸(5)に撹拌翼(6)が4枚付いている回転体(3)の例であり、その撹拌翼の端の全部または一部にワイパー(11)が取り付けられ、加熱用ジャケット(1)の内壁にバネによってよりワイパーを密着させる構造の1例である。撹拌翼の枚数は4枚である必要はなく、大きさにもよるが3?12枚のいずれでも良い。また、ワイパーの設置も撹拌翼の端全面である必要はない。図2及び4は、上下の円盤を4つの柱で繋いだ円筒形の回転体の例であり、柱の枚数は4本である必要はなく、大きさにもよるが3?24本のいずれでも良い。柱は上下を繋ぐためだけではなくワイパーを設置するためでもある。この例では、溝付きの柱の内部にワイパーを設置し、遠心力によって加熱用ジャケットの内壁にワイパーを密着させる構造の1例である。密着力が不足する場合等はバネを使用して強制的に密着させることも可能である。また、上部は蒸発成分の通路のために、下部は供給液の溜まりをなくすために、図4のように穴をあける必要がある。なお、強度があれば、穴付き円盤でも、格子状に加工したものでも良い。
【0022】
図1?2に本発明に係る縦型回転式薄膜蒸発器の1例の縦断面概略図を示すが、本発明はその要旨を越えない限り、この例に限定されるものではない。本装置は外面に加熱用ジャケット(1)を有する円筒形の主体部(2)を持つ薄膜蒸発器であり、内部回転体(3)と、それを回転させるモーター(4)を有している。内部回転体は回転軸(5)に撹拌翼(6)が取り付けられているタイプでもよい。内部回転体に取り付けられたワイパー(11)は、主体部の壁面に接して回転する。薄膜蒸発器上部の液供給口(7)より供給された被処理液は、回転するワイパーによって主体部の内壁に沿って、膜状に押し広げられつつ、重力により流下する。この流下する過程で、加熱用ジャケットからの熱によって供給液中の上記一般式(1)成分が蒸発する。蒸発した一般式(1)成分は薄膜蒸発器の上部にある蒸発成分抜出口(8)より系外へ導かれ、蒸発成分の大部分が除去されて流動性が悪くなった蒸発残渣は缶底部(9)に導かれ、薄膜蒸発器の下部にある残渣排出口(10)より抜き出される。一般式(1)成分は流下する過程で蒸発するため、内部回転体の空隙率が重要であり、蒸発を妨げない構造にすることが重要である。
【0023】
また、外部コンデンサーの設置個所は、蒸気出口より少し離れた場所が好ましい。蒸気出口に近いと内部コンデンサーを同様に供給液の飛沫同伴の影響が受け易く好ましくない。設計上、外部コンデンサーを蒸気出口の近くにする場合は両者の間にミストセパレータを必ず設置する必要がある。飛沫同伴を防ぐため、外部コンデンサーの設置場所は蒸発器の長さの2倍程度が好ましく、外部コンデンサーに接続する配管径は蒸発器の内径の1/2?3/5が好ましい。」との記載がある。
また、【0024】には、「【0024】
本願発明の、高純度ビスフェノールFを得る蒸留条件は、圧力1?10mmHg、熱媒温度250?320℃に保たれた蒸発器に、供給液を蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり30?200kg/hrの供給量となるように連続的に供給することが好ましい。
蒸留条件の圧力は、3?8mmHgがより好ましく、4?7mmHgがさらに好ましく、5?6mmHgが最も好ましい。圧力が低い場合、熱媒温度が高いと、蒸発量が多くなり、それに伴う供給液の飛沫同伴が多くなり好ましくない。蒸発量に合わせ熱媒温度下げると、熱媒温度が高く圧力が高い場合に比較して、目的物である上記一般式(1)の蒸発量が減り好ましくない。
熱媒温度は、260?300℃がより好ましく、270?290℃がさらに好ましい。低温の場合、特に250℃未満では、圧力を大幅に低下させないと蒸発量が維持できないし、その場合は飛沫同伴を量も増えるため、結果的に高純度ビスフェノールFが得られない恐れがある。また、高温になると、供給液の分解や着色が起こり、目的物である高純度ビスフェノールFの物性が悪化する恐れがある。
蒸発器への供給液量は、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり30?150kg/hrがより好ましく、50?120kg/hrがさらに好ましく、70?100kg/hrが最も好ましい。供給量が多いと目的物である上記一般式(1)と供給液の分離が不十分となり高純度ビスフェノールFにならない恐れがある。」との記載があり、高純度ビスフェノールFを得る圧力、熱媒温度、供給液供給量の蒸留条件の技術的意義について示されている。
そして、実施例の記載としては、外部コンデンサーを用い、真空度を5?6mmHg、熱媒温度を280℃、加熱伝面1m^(2)あたり(21/0.21)kg/hr(実施例1)、真空度を3?4mmHg、260℃、加熱伝面1m^(2)あたり(8/0.21)kg/hr(実施例2)、真空度を6?7mmHg、300℃、加熱伝面1m^(2)あたり(30/0.21)kg/hr(実施例3)としたもの、及び内部コンデンサーを用い、真空度を5?6mmHg、熱媒体温度280℃としたもの、加熱伝面1m^(2)あたり(40/0.40)kg/hr(比較例1)、外部コンデンサーを用い、真空度を5?6mmHg、熱媒体温度280℃、加熱伝面1m^(2)あたり(30/0.30)kg/hrとしているがワイパー無しのもの(比較例2)のものが実施され、表1には、実施例1?3(それぞれ、97.9,98.9,97.3)、比較例1?2(92.5,94.2)の2核体純度の結果が示されている。

(4)対比判断
ア 本件特許発明の課題
発明の詳細な説明の【技術分野】【0001】の「本発明は蒸留によって高純度ビスフェノールFを得る効率的な高純度ビスフェノールFの製造方法に関する。」(下線は当審にて追加。以下、同様。)との記載、【背景技術】【0002】の 「一般的に、汎用ビスフェノールFは2核体を85?93重量%、好ましくは90?93重量%程度を含有するビスフェノールFであり、低粘度エポキシ樹脂の原料として有用に用いられている。汎用ビスフェノールFは、フェノールとホルムアルデヒドとの反応モル比(P/F)を25?50とすることにより、エポキシ樹脂の原料として有用なビスフェノールFが得られる。それに対し、高純度ビスフェノールFは、汎用ビスフェノールFよりもさらに2核体を多く含むビスフェノールFであり、塗料用エポキシ樹脂の原料として有用に用いられる。例えば、2核体を95重量%以上含有するビスフェノールFから得られたエポキシ樹脂を構成成分とする塗料は、2核体を92重量%含有するビスフェノールFから得られたエポキシ樹脂を構成成分とする塗料よりも、塗膜の耐食性、耐薬品性等の点で優れる。また、2官能エポキシ樹脂と2価フェノール化合物から高分子量2官能エポキシ樹脂を製造する方法では、2価フェノール化合物の2核体純度が95重量%以上あることが必須でそれ以下の純度では高分子量体を製造時に不溶化(ゲル化)が起こり目的とするエポキシ樹脂が得られない。フェノールとホルムアルデヒドとの反応によって2核体の含量が98重量%以上である高純度ビスフェノールFを得ることは、たとえ反応モル比P/Fを100以上にしたとしても達成できず、工業的には不可能である。そこで、高純度ビスフェノールFを製造する方法として、2段以上の多段蒸留によって高純度ビスフェノールFを得る方法や2核体を主とする混合物を再結晶を行い高純度ビスフェノールFを得る方法である。また、蒸発器内部で多段蒸留構造を蒸発装置も提案されている(特許文献1)。そして、蒸留によって高純度ビスフェノールFを得る高純度ビスフェノールFの製造方法での蒸留装置として特に規定した例はない(特許文献2)。」との記載、【0004】【0005】の「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安定した性状の高純度ビスフェノールFを単蒸留において高収率で得ることができる製造方法および高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高純度ビスフェノールFを、粗ビスフェノールFや粗フェノールノボラック樹脂から2核体成分として蒸留で回収することで高収率で得るために、最も効率的な蒸留装置を規定するとともに、その蒸留条件を見出し、環境負荷が少なく、コスト的にも有利な高純度ビスフェノールFの製造方法を見出し、本発明に完成した。」との記載及び本願明細書全体の記載を参酌して、本件特許発明1,2の課題は、安定した性状の高純度ビスフェノールFを単蒸留において高収率、効率的、環境負荷が少なく、コスト的にも有利に得ることができる製造方法の提供にあり、本件特許発明3の課題は、安定した性状の高純度ビスフェノールFを単蒸留において高収率、効率的、環境負荷が少なく、コスト的にも有利に得ることができる高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器を提供することにあるものと認める。

イ 対比判断
(ア)特許請求の範囲、請求項1には、訂正によって、前記(2)で記載したように、特定構造の縦型回転式薄膜蒸発器を用いて、酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得るものであり、蒸留工程が「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給」すること、「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」ことを特定した発明が記載されている。

(イ)一方、発明の詳細な説明においては、前記(3)で記載したように、【0016】には、蒸留による高純度ビスフェノールFの製造の原理と従来の条件について「蒸留による高純度化ビスフェノールFを得ることは、汎用ビスフェノールFから一般式(2)の三核体成分の分離にする行為に他ならない。一般式(1)と一般式(2)の蒸気圧は大きく差があり、共沸しないので、いわゆる単蒸留でも充分分離が可能である。しかしながら従来の蒸留器で必要以上に分離能を持たせている。また、低温での蒸留を求めていて必要以上の低真空条件を必要にしている」と記載しており、従来技術は必要以上に低温低真空にしており、単蒸留で充分分離能があることを知見したことについて記載している。
また、【0018】?【0020】の本件で用いる縦型回転式薄膜蒸発器について、「【0018】
本願発明で、単蒸留で必要十分な分離により高純度ビスフェノールFが得られる縦型回転式薄膜蒸発器は、コンデンサーを外部に設置するタイプであり、撹拌翼にワイパーが付いているタイプであり、内部回転体の空隙率が高いものである。
【0019】
本願発明で、外部コンデンサーは必須条件である。内部コンデンサータイプでは、ミストセパレータがついていても、蒸留工程に供給される汎用ビスフェノールF、粗ビスフェノールF、または粗フェノールノボラック樹脂(以下、供給液とする)が、蒸留成分中に飛沫同伴する量が多く、結果的に蒸留成分が高純度ビスフェノールFにならない。蒸留条件を工夫して飛沫同伴する量を減らすこともできるが、その場合は蒸発器への供給液の供給速度を極端に減らすことになり、生産性が悪化し総合的なコストアップの要因になる。
また、外部コンデンサータイプで、分縮比を設定し、より精度よく蒸留するタイプもあるが、ビスフェノールFの蒸留ではその必要がなく、一般に過剰品質であり、コストアップの要因になっている。
【0020】
また内部回転体にはワイパーが必須であり、溝付きワイパーが好ましい。ワイパーの取り付け方式は任意であるが、円筒の内壁面にワイパーを密着させる必要があるので、固定式のワイパーより、バネ付の可動タイプや遠心力による可動タイプがより好ましい。固定式のワイパーの場合は円筒の内壁面とワイパーの間隔は1mm以下にする必要があるが、円筒の内壁面にワイパーが接地するとワイパーが削れるため好ましくない。また溝付きワイパーは供給液が素早く薄膜化し加熱部分で均一化するため好ましい。
また、ワイパーの材質としては、薄膜蒸発器の内壁面を傷つけないような材質のものが好ましく、カーボンに樹脂や金属を真空加圧含浸させ機械的強度を向上させた高温下においても使用可能なハイブリットカーボンや腐食に強いフッ素樹脂等がより好ましく、長期形状安定性に優れ高温下においても使用可能なハイブリットカーボンがさらに好ましい。」と記載して、単蒸留で高純度ビスフェノールFが得られる縦型回転式薄膜蒸発器のコンデンサー位置を外部とする技術的意義や内部回転体のワイパーに関する詳細な情報を記載している。
さらに、【0021】?【0023】には、縦型回転式薄膜蒸発器の内部回転体の空隙率や図1?図4の装置駆動の説明、外部コンデンサーの設置箇所について、「また、・・・内部回転体の空隙率は大きいほど、蒸留成分を流出が容易になるので好ましいが、反面、内部回転体の強度低下が起こりやすく、両者のバランスから空隙率は85容量%程度が好ましい。・・・内部回転体に取り付けられたワイパー(11)は、主体部の壁面に接して回転する。薄膜蒸発器上部の液供給口(7)より供給された被処理液は、回転するワイパーによって主体部の内壁に沿って、膜状に押し広げられつつ、重力により流下する。この流下する過程で、加熱用ジャケットからの熱によって供給液中の上記一般式(1)成分が蒸発する。蒸発した一般式(1)成分は薄膜蒸発器の上部にある蒸発成分抜出口(8)より系外へ導かれ、蒸発成分の大部分が除去されて流動性が悪くなった蒸発残渣は缶底部(9)に導かれ、薄膜蒸発器の下部にある残渣排出口(10)より抜き出される。一般式(1)成分は流下する過程で蒸発するため、内部回転体の空隙率が重要であり、蒸発を妨げない構造にすることが重要である。・・・また、外部コンデンサーの設置個所は、蒸気出口より少し離れた場所が好ましい。蒸気出口に近いと内部コンデンサーを同様に供給液の飛沫同伴の影響が受け易く好ましくない。設計上、外部コンデンサーを蒸気出口の近くにする場合は両者の間にミストセパレータを必ず設置する必要がある。飛沫同伴を防ぐため、外部コンデンサーの設置場所は蒸発器の長さの2倍程度が好ましく、外部コンデンサーに接続する配管径は蒸発器の内径の1/2?3/5が好ましい。」と記載して、内部回転体の空隙率の技術的意義や外部コンデンサーの設置場所の詳細な説明がされている。
そして、【0024】では、「【0024】
本願発明の、高純度ビスフェノールFを得る蒸留条件は、圧力1?10mmHg、熱媒温度250?320℃に保たれた蒸発器に、供給液を蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり30?200kg/hrの供給量となるように連続的に供給することが好ましい。
蒸留条件の圧力は、3?8mmHgがより好ましく、4?7mmHgがさらに好ましく、5?6mmHgが最も好ましい。圧力が低い場合、熱媒温度が高いと、蒸発量が多くなり、それに伴う供給液の飛沫同伴が多くなり好ましくない。蒸発量に合わせ熱媒温度下げると、熱媒温度が高く圧力が高い場合に比較して、目的物である上記一般式(1)の蒸発量が減り好ましくない。
熱媒温度は、260?300℃がより好ましく、270?290℃がさらに好ましい。低温の場合、特に250℃未満では、圧力を大幅に低下させないと蒸発量が維持できないし、その場合は飛沫同伴を量も増えるため、結果的に高純度ビスフェノールFが得られない恐れがある。また、高温になると、供給液の分解や着色が起こり、目的物である高純度ビスフェノールFの物性が悪化する恐れがある。
蒸発器への供給液量は、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり30?150kg/hrがより好ましく、50?120kg/hrがさらに好ましく、70?100kg/hrが最も好ましい。供給量が多いと目的物である上記一般式(1)と供給液の分離が不十分となり高純度ビスフェノールFにならない恐れがある。」と記載され、蒸留条件の各パラメータの技術的意義の記載があり、具体例として、蒸留工程として、特許請求の範囲に対応した真空度を3?7mmHg、260?300℃の熱媒体温度で、蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量で、外部コンデンサーを用いて行った実施例1?3が、内部コンデンサーを用いたり、ワイパー無しの比較例1?2のものより2核体純度が高かったことが示されている。
以上のとおり、上記各記載に基づく、従来技術に対する知見や、用いる高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器の構成の技術的意義、用いる蒸留条件の各パラメータの技術的意義を考慮すれば、当業者であれば上記本件特許発明1の課題が解決できることを認識できるといえる。
よって、請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているとはいえる。

また、令和1年6月14日付け意見書4?5頁において、実施例1?3の再実験によって収率(収量)を明らかにして純度だけでなく収率に関しても実施例と比較例において差異のあることを示しており、平成31年2月4日付け上申書4頁においても、単蒸留によって高純度ビスフェノールFが得られることは、従来技術の多段蒸留によってビスフェノールFを製造する場合に比して、環境負荷の程度やコスト面において有利であることは明白で、単蒸留によっても、本件特許発明1の構成を欠くものは、高純度ビスフェノールFは得られないことや、実施例を収量の結果も追加した再実験した結果を示している。
これらの結果は、請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているとはいえることと符合している。

(ウ)特許異議申立人の主張について
平成30年7月6日付け上申書において、実験報告書(甲第8?18号証)を提出してコンデンサーが外部にあるか内部にあるかの違いに基づく比較で、データから内部コンデンサーの方が収率(留出率)と純度の両立ができている旨主張しているが、訂正された本件特許発明に該当するデータで比較可能であるのは、A2とB2のみであり、純度において外部コンデンサーであるA2が優れた結果となっている上に、そもそも供給流量、真空度等の条件も両者で異なっているのであるから、上記データが得られたからといって、本件明細書において、技術的意義の記載とともに具体的に示されている効果についての結果が不合理なものとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)請求項2の本件特許発明2に関しても、本件特許発明1において、さらに、内部回転体を円筒と見做したときの空隙率が70容量%以上であることをさらに特定したものであるから、本件特許発明1に関して検討したのと同様に、課題が解決できることが裏付けをもって記載されているといえ、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

(オ)請求項3の本件特許発明3に関しても、本件特許発明1を、縦型回転式薄膜蒸発器という装置の発明として特定したものであるから本件特許発明1に関して検討したのと同様に、課題が解決できることが裏付けをもって記載されているといえ、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
よって、請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものであるといえ、取消理由1は解消されている。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について

請求項1?3について

発明の詳細な説明には、理由1の前記(3)で述べたとおりの記載があり、【0024】には、高純度ビスフェノールFを得る圧力、熱媒温度、供給液供給量の蒸留条件の技術的意義の記載があり、実施例に、外部コンデンサーを用い、真空度を5?6mmHg、熱媒温度を280℃、加熱伝面1m^(2)あたり(21/0.21)kg/hr(実施例1)、真空度を3?4mmHg、260℃、加熱伝面1m^(2)あたり(8/0.21)kg/hr(実施例2)、真空度を6?7mmHg、300℃、加熱伝面1m^(2)あたり(30/0.21)kg/hr(実施例3)としたもの、及び内部コンデンサーを用い、真空度を5?6mmHg、熱媒体温度280℃としたもの、加熱伝面1m^(2)あたり(40/0.40)kg/hr(比較例1)、外部コンデンサーを用い、真空度を5?6mmHg、熱媒体温度280℃、加熱伝面1m^(2)あたり(30/0.30)kg/hrとしているがワイパー無しのもの(比較例2)のものが実施され、表1には、実施例1?3(それぞれ、97.9,98.9,97.3)、比較例1?2(92.5,94.2)の2核体純度の結果が示されている。
刊行物1の【0022】の「【0022】次に粗ビスフェノールF2を蒸留工程4に送る。本発明の蒸留工程において用いる蒸発器は、好ましくは該蒸発器からの蒸発ガスの一部を凝縮させた凝縮液を該蒸発器に戻すことができる分縮器を備えたものであり、蒸発器の形式としては、流下薄膜式または遠心薄膜式等のものが好ましく用いられる。また、複数基の蒸発器を用いる場合には各蒸発器は、分縮器を備えたものであっても良いし、分縮器を備えないものであっても良いが、少なくとも最終段に用いる蒸発器は分縮器を備えたものであることが好ましい。この場合も好ましく用いられる蒸発器の形式は上記と同様である。本発明において蒸留温度が250℃を越える場合には、ビスフェノールFの分解、着色が起こることがある。また、200℃未満では、1mmHg未満の圧力とすることが要求される。」との記載からみて、蒸留温度が250℃を越える場合には、ビスフェノールFの分解のおそれがあると考えられる。

しかしながら、刊行物3の17頁「2.用途」において「一般に熱影響を促進する要因は温度,濃度,加熱時間であり,特に温度とその加熱時間である。」との記載があるように、熱の影響は、250℃を越える場合に直ちに受けるわけではなく、どの程度高い温度であるのか、どの程度の高い濃度で分解する物質が含まれているのか、どの程度長い時間分解するおそれのある温度範囲にさらされるかによって大きく変化することが技術常識であると考えられる。
訂正後の本件特許発明は、実施例において、純度の高いビスフェノールFが得られたことが確認できる範囲の蒸留条件に対応しており、比較的短時間の蒸留を行うことが可能な単蒸留に特定されているのであるから、発明の詳細な説明の記載及び上記技術常識から熱の影響を受けない範囲で蒸留条件を設定し、本件特許発明を実施することは、当業者であれば過度な試行錯誤なしになしうることである。

よって、請求項1?3記載の発明は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえないから、取消理由2は解消されているといえる。

3 理由3(特許法第29条第2項)について

請求項1,3について

(1)引用刊行物(再掲)
刊行物1:特開平6-128183号(甲第1号証)
刊行物2:特開2011-68760号公報(甲第2号証)
刊行物3:三木洋二,神鋼パンテック技報,1990年8月1日,Vol.34,No.2,神鋼パンテック株式会社,p.17-21(甲第3号証)
刊行物4:池田幸雄,神鋼ファウドラー技報,1986年6月15日,Vol.30,No.1,神鋼ファウドラー株式会社,p.21-23(甲第4号証)
刊行物5:井藤信義編,神鋼ファウドラー・ニュース,昭和40年2月10日,神鋼ファウドラー株式会社,p.1-4(甲第5号証)

なお、刊行物3?5は、本件特許発明の出願日時点での技術常識を示すものである。

(2)刊行物の記載
(2-1)刊行物1
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物1には以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】 (1)酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程、
(2)該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含むことを特徴とする高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法。」

(1b)「【請求項8】 蒸留工程において、圧力1?5mmHg、温度200?250℃に保たれた複数基の蒸発器の第1段の蒸発器に該粗ビスフェノールFを連続的に供給し、各蒸発器の缶出物を連続的に次段の蒸発器へ供給し、少なくとも圧力1?5mmHg、温度220?250℃に保たれた最終段の蒸発器からの蒸発ガスの一部を分縮器で分縮させて該蒸発器に戻し、且つ、該蒸発器から連続的に缶出物を抜き出しながら該粗ビスフェノールFを連続的に蒸留することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の併産方法。」

(1c)「【0002】
【従来の技術】ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂は、いずれも酸触媒の存在下に、化学量論的に過剰のフェノールとホルムアルデヒドとから製造される。両者の異なる点は、フェノールとホルムアルデヒドとの反応モル比(以下、P/Fと称する)である。通常、ビスフェノールFは、P/F=20?50の範囲で製造され、反応生成物には4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン(以下、4,4’-体と称する)、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン(以下、2,4’-体と称する)及び2,2’-ジヒドロキシジフェニルメタン(以下、2,2’-体と称する)の3種の2核体の他に、フェノールとホルムアルデヒドが重縮合した3?5核体(以下、多核体と称する)が7?12重量%含まれている。この多核体は、ビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ樹脂の物性に大きな影響を与えることが知られている。すなわち、多核体が少ないとエポキシ樹脂が結晶化しやすくなり、逆に多核体が多いと粘度が高くなり、作業性が悪くなる。」

(1d)「【0022】次に粗ビスフェノールF2を蒸留工程4に送る。本発明の蒸留工程において用いる蒸発器は、好ましくは該蒸発器からの蒸発ガスの一部を凝縮させた凝縮液を該蒸発器に戻すことができる分縮器を備えたものであり、蒸発器の形式としては、流下薄膜式または遠心薄膜式等のものが好ましく用いられる。また、複数基の蒸発器を用いる場合には各蒸発器は、分縮器を備えたものであっても良いし、分縮器を備えないものであっても良いが、少なくとも最終段に用いる蒸発器は分縮器を備えたものであることが好ましい。この場合も好ましく用いられる蒸発器の形式は上記と同様である。本発明において蒸留温度が250℃を越える場合には、ビスフェノールFの分解、着色が起こることがある。また、200℃未満では、1mmHg未満の圧力とすることが要求される。
【0023】例えば、本発明における蒸留工程においては、蒸発器、分縮器及び全縮器を備えた蒸留装置に、粗ビスフェノールFを連続的に蒸発器に供給し、圧力1?5mmHg、温度220?250℃において、該蒸発器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸発器に戻しながら蒸留し、該蒸発ガスの他の部分を全縮器を用いて凝縮させ、留出物として高純度ビスフェノールFを連続的に製造し、また缶出物を連続的に抜き出す。あるいは、蒸留工程として、例えば、3基の蒸発器を用いる下記方法が例示される。即ち、第1段の蒸発器に粗ビスフェノールFを連続的に供給し、圧力1?5mmHg、温度200?250℃において、該蒸発器から発生する蒸発ガスの全量を全縮器に導くか、または、蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸発器に戻しながら蒸留し、該蒸発ガスの他の部分を全縮器に導き、同時に、該蒸発器の缶出物を第2段の蒸発器へ連続的に供給する。第2段の蒸発器においても第1段と同様にして蒸留し、該蒸発器の缶出物を連続的に第3段の蒸発器へ供給する。第3段の蒸発器も第1段と同様の圧力とし、好ましくは温度を220?250℃とし、該蒸発器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸発器に戻しながら蒸留し、該蒸発ガスの他の部分を全縮器に導く。同時に、該蒸発器から缶出物を連続的に抜き出す。各段の未凝縮ガスを集めて全縮器で凝縮し、留出物として高純度ビスフェノールFを連続的に製造することができる。上記の分縮器の分縮比、即ち、該分縮器における未凝縮ガスに対する凝縮液の重量比は通常0.05?0.5の範囲である。分縮比が0.05未満である場合は、缶出物に含有される2核体含量を15面積%以下に抑えようとすると、留出物に含有される2核体含量が98重量%未満となり、また、0.5を越える場合は余分なエネルギーが必要になる。」

(1e)「【0025】本発明で好ましく用いられる全縮器として、多管式円筒形熱交換器、コイル式熱交換器等が挙げられる。分縮器としては、多管式円筒形熱交換器、コイル式熱交換器等が挙げられる。また、蒸発器から全縮器に至る蒸発ラインを外部から冷却するようなタイプのものでもよい。」

(1f)「【0037】実施例1
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えたステンレス製の撹拌槽型反応機に、フェノールに対して0.046重量%のシュウ酸2水和物を溶解したフェノール溶液と47%ホルマリンとを、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比(P/F)が20、両溶液の合計供給量が360Kg/hrとなるように調節して連続的に供給した。反応温度70℃、滞留時間4時間で反応させ、得られた反応混合物を連続的に抜き出し、充填物蒸留塔に連続的にフィードした。20mmHgの減圧下、170℃に加熱して、水及び未反応物を取り除き、粗ビスフェノールFを得た。得られた粗ビスフェノールFの組成は、4,4’-体:28.9重量%、2,4’-体:38.2重量%、2,2’-体:10.9重量%であり、2核体の合計量が78.0重量%であった。この粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出した。遠心薄膜蒸発器はジャケット付のものを用い、ジャケットには熱媒を流した。また、遠心薄膜蒸発器にはコイル式熱交換器を分縮器として設置し、蒸発ガスの一部が分縮器で分縮され、蒸発器に戻るように分縮器のコイルに冷却水を流すことによって、分縮比(重量比)を調節した。缶出物の温度が245℃になるように熱媒量を調節し、分縮比(重量比)が0.2になるように冷却水量を調節したところ、缶出物の2核体量は6重量%、留出物の2核体量は98重量%となり、2核体を98重量%含有する高純度ビスフェノールFを得た。得られた高純度ビスフェノールFには着色が認められなかった。」

(2-2)刊行物2
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物2には以下の記載がある。

(2a)「【請求項1】
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、
混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および
薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程
を含有することを特徴とする、ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法。」

(2b)「【0029】
本発明の第三工程において、混合物(2)を薄膜蒸留装置へ供給し、蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る。この薄膜蒸留装置による薄膜蒸留を行う際の条件としては、薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器を用い、該薄膜蒸留器に混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrとなるように供給する。このような条件により混合物(2)を薄膜蒸留装置へ供給し、混合物(2)からビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂とを分離することにより純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られる。」

(2c)「【0034】
第三工程は、具体的には、例えば、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留し、該蒸発ガスの他の部分を全縮器を用いて凝縮させ、留出物としてビスフェノールFを製造し、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂を抜き出す。
【0035】
本発明で得られるビスフェノールFの純度は97重量%以上であり、好ましくは98%以上となる。また、ノボラック型フェノール樹脂は、GPC分析チャートの2核体面積%が4?20面積%、好ましくは5?20面積%となる。ノボラック型フェノール樹脂は、GPC分析チャートの4核体面積%が9?25面積%、好ましくは10?20面積%となる。そして、ノボラック型フェノール樹脂の4核体と2核体の面積比〔(4)/(2)〕は0.4?2.5、好ましくは0.5?2.0となる。
【0036】
本発明において全縮器を用いる場合、好ましく用いられる全縮器としては、多管式円筒形熱交換器、コイル式熱交換器等が挙げられる。また、分縮器を用いる場合、好ましく用いられる分縮器としては、多管式円筒形熱交換器、コイル式熱交換器等が挙げられる。また、蒸発器から全縮器に至る蒸発ラインを外部から冷却するようなタイプのものでもよい。」

(2d)「【0052】
実施例2
攪拌機、熱電対、環流冷却機、窒素導入管を有したステンレス製フラスコ1を窒素雰囲気に置換後、フラスコ1にフェノール1880g(20モル)、41.5%ホルマリン48g(0.67モル)及び蒸留水にて20%に希釈した蓚酸4.2gを仕込み、攪拌しながら液温を100℃まで1時間かけて昇温した。液温が100℃に到達した後、更に100℃にて2時間反応を行い、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールと水とビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得た。混合物(1)の液温をその後170℃に昇温し、150mmHgの減圧下30分保持し、留分(反応水とフェノール)を槽1に受けた。その後混合物(1)は窒素導入管、ジャケット付きの槽2へ移送した。
【0053】
槽2へ混合物(1)を移送後、空となったステンレス製フラスコ1を用いて、前記と同様にフェノールとホルムアルデヒドとの反応を計5回行い、留分はすべて槽1へ、混合物(1)はすべて槽2へ移送した。槽2では窒素雰囲気下、混合物(1)の液温を170℃に維持した。
【0054】
次に、5バッチ分の混合物(1)を槽2から薄膜蒸留器へ連続的に供給し、フェノール留分を分離した。薄膜蒸留器による蒸留の条件は薄膜伝面の温度:190℃、薄膜伝面の圧力:25mmHg、薄膜蒸留器への供給量:薄膜の伝面1cm^(2)あたり27g/hrである。留分は全て槽1へ、残分は全て窒素導入管、ジャケット付きの槽3へ移送した。
【0055】
次に槽3中の液を、攪拌機、熱電対、環流冷却機、スチーム吹き込み装置、減圧装置を有したステンレス製フラスコ2へ移送しスチーム蒸留を行い、未反応のフェノールを除去したビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得た。スチーム蒸留の条件は、液温:170℃、フラスコ内の圧力:50mmHg、スチーム供給量:1時間あたり10Kgのスチームを3時間である。スチーム供給停止後170℃、50mmHgの条件で2時間保持した後、混合物(2)を窒素導入管、ジャケット付きの槽4へ移送した。
【0056】
混合物(2)を槽4から薄膜蒸留器へ連続的に供給し、蒸留により留出物としてビスフェノールFを586g、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂73gをそれぞれ得た。薄膜蒸留器による蒸留の条件は薄膜伝面熱媒温度:225℃、蒸留器出口の圧力:0.3mmHg、薄膜蒸留器への供給量:薄膜の伝面1cm^(2)あたり15g/hrである。
【0057】
GPCによる分析の結果、得られたビスフェノールFの純度は99面積%であった。ノボラック型フェノール樹脂中の2核体の割合は6面積%、3核体の割合は83面積%、4核体の割合は11面積%であり、(4核体)/(2核体)面積比=1.8であった。ノボラック型フェノール樹脂の粘度は0.1dPa・s、軟化点は56℃であった。このノボラック型フェノール樹脂を(PN2)とする。」

(2e)「【0069】
比較例2
第三工程の薄膜蒸留工程において、薄膜蒸留器へ混合物(2)の供給量を薄膜の伝面1cm^(2)あたり25g/hrに変更する以外は、実施例2と同様に処理し、留出物としてビ スフェノールFを494g、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂160gをそれぞれ得た。
【0070】
GPCによる分析の結果、得られたビスフェノールFの純度は99面積%であったものの、ノボラック型フェノール樹脂中の2核体の割合は31面積%も含まれ、3核体の割合は58面積%、4核体の割合は10面積%であり、(4核体)/(2核体)面積比=0.3であった。ノボラック型フェノール樹脂の粘度は0.1dPa・s以下であり、また、タックが著しく軟化点は測定不能であった。このノボラック型フェノール樹脂を(pn2)とする。」

(2f)「
【0007】
しかしながら、前記特許文献1で開示された方法では、99.6等の高純度のビスフェノールFが得られるものの、得られるビスフェノール型ノボラック樹脂は粘度が高く、流動性、含浸性が十分でない。加えて、耐熱性も十分でない。
・・・
【0009】
本発明の課題は、高純度のビスフェノールFと、流動性、含侵性等ハンドリングに優れ、耐熱性にも優れるビスフェノール型ノボラック樹脂とを併産できる製造方法を提供することである。」

(2-3)刊行物3
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物3には以下の記載がある。
(3a)「1.構造および特長
WFE薄膜蒸留装置の構造を第1図に示す。低真空用(内部コンデンサー型,外部コンデンサー型)と高真空用があり,操作真空度1.0mmHgを境として両者を使い分ける。装置には外套を有する伝熱面と駆動装置によって回転する液分配盤およびロータがある。ロータにはワイパーが保持されており,ワイパーの保持方法には第2図および第3図に示すようにA型とB型の2種類がある。A型とB型の使い分けは処理液性状により決定される。
ワイパーは,このロータの回転による遠心力またはスプリング圧で押しつけられ,蒸発面をしゅう(審決注:原文は、てへんに習)動する。したがってワイパーは,液分配盤から出た処理液を蒸発面に押しひろげると共に,均一な液膜を形成し,さらに液表面を常に更新する作用を行う。
通常はA型ワイパーを使用するが,高粘度液(10000cp以上)やA型ワイパーの作動が阻害される付着性処理液の場合にはB型ワイパーを採用する。また,スラリーを含む処理液の場合にも本体胴やワイパーの摩耗を防止するため,B型ワイパーを採用しワイパーの面圧を下げて使用する。またワイパーに加工した溝は,ワイパー全面での液の飛散を防ぐと共に処理液を押し下げる作用も行う。」(17頁左欄8行?右欄2行)

(3b)「

」(17頁第1図、18頁第2図及び第3図)

(2-4)刊行物4
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物4には以下の記載がある。

(4a)「

」(2頁第3-1図)

(2-5)刊行物5
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物5には以下の記載がある。

(5a)「3 スミス式薄膜蒸留装置の特長の説明
1)ワイパー装備の意味
図1に示したように,ワイパーを保持するロータが回転することにより,円周上4ヶ所に装備されたワイパーは半径方向に絶えず遠心力で押さえつけられ,処理液蒸発面に押しひろげるとともに,極度に薄く,かつ均一な被膜を形成する。薄膜にすることに加えて,ワイパーにより機械的な攪拌効果を与えるので,被膜中に激しい乱流を生ぜしめるから非常に高い熱効率を示す。また,ワイパーには溝が切り込まれており,ワイパー前面での液のまき込みや,つまりを防ぎ,高粘度物質に対しても蒸発面よりかき取り押し下げるようになっているから,蒸発面に固まりが発生したり,コゲ付きが起きることはない。

2)コンデンサー内蔵の意味
低真空用薄膜蒸留装置では蒸発部の近くにUチューブコンデンサーを内蔵している。このことは,蒸発面と凝縮面の静圧の差を最小にすることになり,さらにここでも前記ワイパーの働きによって処理液は薄膜化されているから,液中圧力を最小にすることに役立つ。すなわち,蒸発膜表面と液膜内部との真空度がほとんど同様であり,非常に高い真空度での蒸発操作が可能となる。もし,操作物質の蒸発量が多量の場合または高い真空度を要求しない場合には外部にコンデンサーを設けることも簡単にできる。」(1頁右欄21行?2頁左欄22行)

(5b)「

」(1頁右欄 図2)

(3)刊行物1又は2に記載された発明
(3-1)刊行物1に記載された発明
ア 上記摘記事項(1a)には、高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法として、酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程と該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含むものが記載され、上記摘記事項(1f)には、上記摘記事項(1a)に対応した具体的実施例として、撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えたステンレス製の撹拌槽型反応機に、フェノールに対して0.046重量%のシュウ酸2水和物を溶解したフェノール溶液と47%ホルマリンとを、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比(P/F)が20、両溶液の合計供給量が360Kg/hrとなるように調節して連続的に供給し、反応温度70℃、滞留時間4時間で反応させ、得られた反応混合物を連続的に抜き出し、充填物蒸留塔に連続的にフィードし、20mmHgの減圧下、170℃に加熱して、水及び未反応物を取り除き、粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出し、該遠心薄膜蒸発器はジャケット付のものを用い、ジャケットには熱媒を流し、遠心薄膜蒸発器にはコイル式熱交換器を分縮器として設置し、蒸発ガスの一部が分縮器で分縮されることが記載されている。

イ したがって、刊行物1には、「高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法として、酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程と該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含むものにおいて、撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えたステンレス製の撹拌槽型反応機に、フェノールに対して0.046重量%のシュウ酸2水和物を溶解したフェノール溶液と47%ホルマリンとを、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比(P/F)が20、両溶液の合計供給量が360Kg/hrとなるように調節して連続的に供給し、反応温度70℃、滞留時間4時間で反応させ、得られた反応混合物を連続的に抜き出し、充填物蒸留塔に連続的にフィードし、20mmHgの減圧下、170℃に加熱して、水及び未反応物を取り除き、粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出し、該遠心薄膜蒸発器はジャケット付のものを用い、ジャケットには熱媒を流し、遠心薄膜蒸発器にはコイル式熱交換器を分縮器として設置し、蒸発ガスの一部が分縮器で分縮される方法」の発明(以下、「刊行物1方法発明」という。)および「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程と該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含む高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法に用いられる装置であって、撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えたステンレス製の撹拌槽型反応機に、フェノールに対して0.046重量%のシュウ酸2水和物を溶解したフェノール溶液と47%ホルマリンとを、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比(P/F)が20、両溶液の合計供給量が360Kg/hrとなるように調節して連続的に供給し、反応温度70℃、滞留時間4時間で反応させ、得られた反応混合物を連続的に抜き出し、充填物蒸留塔に連続的にフィードし、20mmHgの減圧下、170℃に加熱して、水及び未反応物を取り除き、粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出し、該遠心薄膜蒸発器はジャケット付のものを用い、ジャケットには熱媒を流し、遠心薄膜蒸発器にはコイル式熱交換器を分縮器として設置し、蒸発ガスの一部が分縮器で分縮される装置」の発明(以下、「刊行物1装置発明」という。)が開示されているといえる。

(3-2)刊行物2に記載された発明
ア 上記摘記事項(2a)には、酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、 混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程を含有するビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法が記載されており、上記摘記事項(2b)には、第三工程において、混合物(2)を薄膜蒸留装置へ供給し、蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る条件により混合物(2)を薄膜蒸留装置へ供給し、混合物(2)からビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂とを分離することにより純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られることが記載され、上記摘記事項(2c)には、第三工程は、具体的には、例えば、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留し、該蒸発ガスの他の部分を全縮器を用いて凝縮させ、留出物としてビスフェノールFを製造し、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂を抜き出すことが記載されている。
そして、上記摘記事項(2d)には、上記摘記事項(2a)?(2c)に対応した具体的実施例として、混合物(2)を薄膜蒸留器へ連続的に供給し、蒸留により留出物としてビスフェノールFを、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂それぞれ得たことが記載されている。

イ したがって、刊行物2には、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、 混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程を含有するビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法として、第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留する方法」の発明(以下、「刊行物2方法発明」という。)および「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、 混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程を含有するビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法に用いられる装置として、第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留する方法に用いる薄膜蒸留器」の発明(以下、「刊行物2装置発明」という。)が開示されているといえる。

(4) 対比・判断
(4-1)本件特許発明1について
ア-1 対比
(ア-1)刊行物1方法発明との対比
本件特許発明1と刊行物1方法発明とを対比すると、刊行物1方法発明の「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程と該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含む」「高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法」は、本件特許発明1の、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」に該当する。
また、刊行物1方法発明の「遠心薄膜蒸発器」は本件特許発明1の「縦型回転式薄膜蒸発器」に相当し、刊行物1方法発明の「遠心薄膜蒸発器」が「ジャケット付のもの」であることは、本件特許発明1の「蒸発器が外面に加熱手段」「を有している」ことに該当し、刊行物1方法発明の「分縮器」は、本件特許発明1の「コンデンサー」であるから、刊行物1方法発明の「粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出し、該遠心薄膜蒸発器はジャケット付のものを用い、ジャケットには熱媒を流し、遠心薄膜蒸発器にはコイル式熱交換器を分縮器として設置し、蒸発ガスの一部が分縮器で分縮される」ことは、本件特許発明1の「蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段」を有し、「コンデンサーが薄膜蒸発器」「に設置されている」「縦型回転式薄膜蒸発器を使用すること」に該当する。

(イ-1)一致点・相違点の認定
本件特許発明1と刊行物1方法発明とは、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段を有している蒸発器本体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、コンデンサーが薄膜蒸発器に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用する高純度ビスフェノールFの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:蒸発器に関し、本件特許発明1は、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有していること、主体部が円筒状の蒸発器本体であること、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有すること、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有すること、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有することが特定されているのに対して、刊行物1方法発明は、使用した遠心薄膜蒸発器の本体構造や構成部材について明らかでない点
相違点2-1:コンデンサーに関し、本件特許発明1は、薄膜蒸発器の外部に設置されているのに対し、刊行物1方法発明は、設置位置が明らかでない点
相違点3-1:粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、本件特許発明1は、「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」が特定されているのに対して、刊行物1方法発明は、粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出すことが特定されている点

イ-1 相違点の判断
事案に鑑み相違点3-1について検討する。
(ア-1)相違点3-1の判断について
刊行物1方法発明では、粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給される以外の蒸留条件の特定の記載はない。
そして、刊行物1には、請求項1や【0014】に粗ビスフェノールの蒸留条件として、圧力1?5mmHg、温度220?250℃とすることの記載はあるものの、本件特許発明1の「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し」する蒸留条件や、「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」という蒸留形式に関しても記載も示唆もなく、むしろ【0045】の比較例5においては、260℃を越えるる温度でビスフェノールFの分解によるフェノールの生成で安定な運転ができなかった旨記載されている。

したがって、刊行物1方法発明において、上記蒸留条件や蒸留形式に着目してそれらを相違点3-1に関する本件特許発明1の構成のとおり変更する動機付けはない。
また、刊行物3?5には、WFE薄膜蒸留装置が記載されており、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有し、蒸発器本体が円筒状であり、、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有し、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有するものに関して記載はあるものの、これらの刊行物の記載を参酌しても、刊行物1方法発明において、上記蒸留条件や蒸留形式に着目してそれらを相違点3-1に関する本件特許発明1の構成のとおり変更する動機付けはないことには変わりがなく、粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件を、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る構成とすることは当業者といえども容易になし得たものとはいえない。

したがって、相違点1-1,相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

ア-2 対比
(ア-2)刊行物2方法発明との対比
本件特許発明1と刊行物2方法発明とを対比すると、刊行物2方法発明の「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程を含有するビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法」および「第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ」ることは、本件特許発明1の、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」に該当する。
また、刊行物2方法発明の「分縮器」は、本件特許発明1の「コンデンサー」であり、「薄膜伝面熱媒温度が200?250℃・・・に保たれた薄膜蒸留器」であることは、蒸発器が加熱手段を有していることに他ならないから、刊行物2方法発明の「薄膜伝面熱媒温度が200?250℃」「に保たれた薄膜蒸留器へ」「供給し蒸留することにより」「第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留する」ことは、本件特許発明1の「蒸留工程で用いる蒸発器が」「加熱手段」を有し、「コンデンサーが薄膜蒸発器」「に設置されている」「薄膜蒸発器を使用すること」に該当する。

(イ-2)一致点・相違点の認定
本件特許発明1と刊行物2方法発明とは、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が加熱手段を有している蒸発器本体を有する薄膜蒸発器であって、コンデンサーが薄膜蒸発器に設置されている薄膜蒸発器を使用する高純度ビスフェノールFの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-2:蒸発器に関し、本件特許発明1は、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有していること、加熱手段の位置が蒸発器外面であること、主体部が円筒状の蒸発器本体であること、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有すること、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有すること、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有することが特定される縦型回転式であるのに対して、刊行物2方法発明は、使用した薄膜蒸発器の本体構造、形式や構成部材について明らかでない点
相違点2-2:コンデンサーに関し、本件特許発明1は、薄膜蒸発器の外部に設置されているのに対し、刊行物2方法発明は、設置位置が明らかでない点
相違点3-2:粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、本件特許発明1は、「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」が特定されているのに対して、刊行物2方法発明は、反応混合物を薄膜蒸留を行った後、さらにスチーム蒸留を行い、未反応フェノール除去後、薄膜伝面熱媒温度がが200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することが特定されている点

イ-2 相違点の判断
事案に鑑み相違点3-2について検討する。
(ア-2)相違点3-2の判断について
刊行物2方法発明では、混合物(1)に対して薄膜蒸留、スチーム蒸留を順に行った上でさらに薄膜蒸留することを前提としているものであり、粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、薄膜伝面熱媒温度がが200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することが特定されている。
そして、刊行物2には、本件特許発明1の「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し」する蒸留条件や、「蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」という蒸留形式に関しても記載も示唆もない。
そして、多段蒸留を前提とする刊行物2方法発明において、上記蒸留条件や蒸留形式に着目してそれらを相違点3-2に関する本件特許発明1の構成のとおり変更する動機付けはない。
また、刊行物3?5には、WFE薄膜蒸留装置が記載されており、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有し、蒸発器本体が円筒状であり、、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有し、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有するものに関して記載はあるものの、これらの刊行物の記載を参酌しても、刊行物2方法発明において、上記蒸留条件や蒸留形式に着目してそれらを相違点3-2に関する本件特許発明1の構成のとおり変更する動機付けはないことには変わりがなく、粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件を、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る構成とすることは当業者といえども容易になし得たものとはいえない。

したがって、相違点1-2,相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、刊行物2に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(4-3)本件特許発明3について
ア-1 対比
(ア-1)刊行物1装置発明との対比
本件特許発明3と刊行物1装置発明とを対比すると、刊行物1装置発明の「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程と該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含む高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法」は、本件特許発明3の、「請求項1に記載の製造方法」の特定に含まれる「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」である限りにおいて共通する。
そして、刊行物1装置発明の「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して粗ビスフェノールFを得る調製工程と該粗ビスフェノールFを蒸留することによって、留出物として2核体含量が95重量%以上である高純度ビスフェノールFを得、缶出物として2核体含量が15面積%以下であるノボラック型フェノール樹脂を得る蒸留工程を含む高純度ビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法に用いられる装置」は、本件特許発明3の、「請求項1に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の」「蒸発器」と、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」である限りにおいて共通する。
また、刊行物1装置発明の「遠心薄膜蒸発器」は本件特許発明3の「縦型回転式薄膜蒸発器」に相当し、刊行物1装置発明の「遠心薄膜蒸発器」が「ジャケット付のもの」であることは、本件特許発明1の「蒸発器が外面に加熱手段」「を有している」ことに該当し、刊行物1装置発明の「分縮器」は、本件特許発明3の「コンデンサー」であるから、刊行物1装置発明の「粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出し、該遠心薄膜蒸発器はジャケット付のものを用い、ジャケットには熱媒を流し、遠心薄膜蒸発器にはコイル式熱交換器を分縮器として設置し、蒸発ガスの一部が分縮器で分縮される」ことは、本件特許発明3の「蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段」を有し、「コンデンサーが薄膜蒸発器」「に設置されている」「縦型回転式薄膜蒸発器である」ことに該当する。

(イ-1)一致点・相違点の認定
本件特許発明3と刊行物1装置発明とは、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において用いられる、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段を有している蒸発器本体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、コンデンサーが薄膜蒸発器に設置されている高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1’’:蒸発器に関し、本件特許発明3は、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有していること、主体部が円筒状の蒸発器本体であること、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有すること、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有すること、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有することが特定されているのに対して、刊行物1装置発明は、使用した遠心薄膜蒸発器の本体構造や構成部材について明らかでない点
相違点2-1’’:コンデンサーに関し、本件特許発明3は、薄膜蒸発器の外部に設置されているのに対し、刊行物1装置発明は、設置位置が明らかでない点
相違点3-1’’:蒸発器を用いる製造方法の粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、本件特許発明3は、「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」製造方法に装置を用いることが特定されているのに対して、刊行物1装置発明は、粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出すことが製造方法に関して特定されているだけで、その他の蒸留条件の明らかでない装置である点

イ-1 相違点の判断
事案に鑑み相違点3-1’’について検討する。
(ア-1)相違点3-1’’の判断について
本件特許発明3は、「縦型回転式薄膜蒸発器である請求項1に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器」と特定した上で、請求項1の高純度ビスフェノールFの製造方法を装置として特定した発明である。
従って、上記(4-1)イ-1(ア-1)で検討したのと同様に、刊行物1装置発明において、粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件を、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る製造方法に用いるという相違点3-1’’の構成は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものとはいえず、相違点1-1’’,相違点2-1’’について検討するまでもなく、本件特許発明3は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

ア-2 対比
(ア-2)刊行物2装置発明との対比
本件特許発明3と刊行物2装置発明とを対比すると、刊行物2装置発明の「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、 混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程を含有するビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法」および「第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ」ることは、本件特許発明3の、「請求項1に記載の製造方法」の特定に含まれる「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法」である限りにおいて共通する。
そして、刊行物2装置発明の「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、フェノールとビスフェノールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(1)を得る第一工程、 混合物(1)に対して薄膜蒸留を行った後、更にスチーム蒸留を行い、該混合物から未反応のフェノールを除去しビスフノェールFとノボラック型フェノール樹脂との混合物(2)を得る第二工程、および薄膜伝面熱媒温度が200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することにより、混合物(2)から留出物としてビスフェノールFを得、缶出物としてノボラック型フェノール樹脂とを得る第三工程を含有するビスフェノールF及びノボラック型フェノール樹脂の併産方法に用いられる装置として、第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留する方法に用いる薄膜蒸留器」は、本件特許発明3の、「請求項1に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の」「蒸発器」と、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の薄膜蒸発器」である限りにおいて共通している。
また、刊行物2装置発明の「分縮器」は、本件特許発明1の「コンデンサー」であり、「薄膜伝面熱媒温度が200?250℃・・・に保たれた薄膜蒸留器」であることは、蒸発器が加熱手段を有していることに他ならないから、刊行物2装置発明の「薄膜伝面熱媒温度が200?250℃」「に保たれた薄膜蒸留器へ」「供給し蒸留することにより」「第三工程で、純度の高いビスフェノールFと低粘度でハンドリングが良好で硬化物の耐熱性に優れるノボラック型フェノール樹脂が得られ、薄膜蒸留装置に混合物(2)を連続的に供給し、該蒸留器から発生する蒸発ガスの一部を分縮器を用いて凝縮させ、その凝縮液を該蒸留器に戻しながら蒸留する方法に用いる薄膜蒸留器」は、本件特許発明1の「蒸留工程で用いる蒸発器が」「加熱手段」を有し、「コンデンサーが薄膜蒸発器」「に設置されている」「高純度ビスフェノールF製造用の」「薄膜蒸発器」に該当する。

(イ-2)一致点・相違点の認定
本件特許発明3と刊行物2装置発明とは、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において用いられる、蒸留工程で用いる蒸発器が加熱手段を有している蒸発器本体を有する薄膜蒸発器であって、コンデンサーが薄膜蒸発器に設置されている高純度ビスフェノールF製造用の薄膜蒸発器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-2’’:蒸発器に関し、本件特許発明3は、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有していること、加熱手段の位置が蒸発器外面であること、主体部が円筒状の蒸発器本体であること、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有すること、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有すること、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有することが特定される縦型回転式であるのに対して、刊行物2装置発明は、薄膜蒸発器の本体構造、形式や構成部材について明らかでない点
相違点2-2’’:コンデンサーに関し、本件特許発明3は、薄膜蒸発器の外部に設置されているのに対し、刊行物2装置発明は、設置位置が明らかでない点
相違点3-2’’:蒸発器を用いる製造方法の粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、本件特許発明3は、「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る」製造方法に装置を用いることが特定されているのに対して、刊行物2装置発明は、反応混合物を薄膜蒸留を行った後、さらにスチーム蒸留を行い、未反応フェノール除去後、薄膜伝面熱媒温度がが200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することが特定されている点装置である点

イ-2 相違点の判断
事案に鑑み相違点3-2’’について検討する。
(ア-1)相違点3-2’’の判断について
本件特許発明3は、「縦型回転式薄膜蒸発器である請求項1に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器」と特定した上で、請求項1の高純度ビスフェノールFの製造方法を装置として特定した発明である。
従って、上記(4-1)イ-2(ア-2)で検討したのと同様に、刊行物2装置発明において、粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件を、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得る製造方法に用いるという相違点3-2’’の構成は、刊行物2に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものとはいえず、相違点1-2’’,相違点2-2’’について検討するまでもなく、本件特許発明3は、刊行物2に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(5) 小括
本件特許発明1,3は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項、もしくは、刊行物2に記載された発明及び刊行物3?5に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえず、取消理由3は解消している。

取消理由に採用しなかった特許異議申立人が申し立てた理由について

特許異議申立人は、前記第3 1(1ア)(1イ)に記載のとおり、訂正前の請求項2に係る特許について、該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明(又は甲第2号証に記載された発明)及び甲第3?6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張しているので以下検討する。

甲第1号証?甲第5号証に相当する刊行物1?5の記載は、前記3(2)(2-1)?(2-5)のとおりであり、甲第6号証の記載については、以下のとおりである。

(2-6)甲第6号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第6号証には以下の記載がある。

(6a)「[3]蒸気を凝縮させて液体にする装置、実験室で用いられるものは通常冷却器,化学工業で用いられるものは凝縮器とよばれる.」(759頁「コンデンサー」の項)

ア-1 対比
(ア-1)刊行物1方法発明との対比
本件特許発明2と刊行物1方法発明とを対比すると、本件特許発明2は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに「内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上であ」ることを技術的に限定した発明であるから、上記(1)ア-1(ア-1)で検討したのと同様に、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段を有している蒸発器本体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、コンデンサーが薄膜蒸発器に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用する高純度ビスフェノールFの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’-1:蒸発器に関し、本件特許発明1は、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有していること、主体部が円筒状の蒸発器本体であること、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有すること、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有すること、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、内部回転体を円筒と見做したときの空隙率が70容量%以上であることが特定されているのに対して、刊行物1方法発明は、使用した遠心薄膜蒸発器の本体構造や構成部材や空隙率について明らかでない点
相違点2-1:コンデンサーに関し、本件特許発明1は、薄膜蒸発器の外部に設置されているのに対し、刊行物1方法発明は、設置位置が明らかでない点
相違点3-1:粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、本件特許発明1は、「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」が特定されているのに対して、刊行物1方法発明は、粗ビスフェノールFを得た後、該粗ビスフェノールFを、圧力3mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に供給し、留出物及び缶出物を連続的に抜き出すことが特定されている点

イ-1 相違点の判断
事案に鑑み相違点3-1について検討する。
(ア-1)相違点3-1の判断について
上記(4-1)イ-1(ア-1)で検討したのと同様に、相違点3-1は、刊行物1に記載された発明及び、刊行物3?5に記載された技術的事項、コンデンサーが凝縮器を意味することを示す、用語の辞典である甲第6号証から当業者が容易になし得るものとはいえず、相違点1’-1,相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、刊行物1に記載された発明及び、刊行物3?5、甲第6号証に記載された技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

ア-2 対比
(ア-2)刊行物2方法発明との対比
本件特許発明2と刊行物2方法発明とを対比すると、本件特許発明2は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに「内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上であ」ることを技術的に限定した発明であるから、上記(4-1)ア-2(ア-2)で検討のと同様に、「酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が加熱手段を有している蒸発器本体を有する薄膜蒸発器であって、コンデンサーが薄膜蒸発器に設置されている薄膜蒸発器を使用する高純度ビスフェノールFの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’-2:蒸発器に関し、本件特許発明1は、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有していること、加熱手段の位置が蒸発器外面であること、主体部が円筒状の蒸発器本体であること、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有すること、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有すること、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、内部回転体を円筒と見做したときの空隙率が70容量%以上であることが特定される縦型回転式であるのに対して、刊行物2方法発明は、使用した薄膜蒸発器の本体構造、形式や構成部材、空隙率について明らかでない点
相違点2-2:コンデンサーに関し、本件特許発明1は、薄膜蒸発器の外部に設置されているのに対し、刊行物2方法発明は、設置位置が明らかでない点
相違点3-2:粗ビスフェノールFの蒸留工程の条件に関して、本件特許発明1は、「圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ること」が特定されているのに対して、刊行物2方法発明は、反応混合物を薄膜蒸留を行った後、さらにスチーム蒸留を行い、未反応フェノール除去後、薄膜伝面熱媒温度がが200?250℃、蒸留機出口圧力が0.1?3mmHgに保たれた薄膜蒸留器へ混合物(2)を該薄膜の伝面1cm^(2)あたり8?20g/hrの供給量となるように供給し蒸留することが特定されている点

イ-2 相違点の判断
事案に鑑み相違点3-2について検討する。
(ア-1)相違点3-2の判断について
前記(4-1)イ-2(ア-2)で検討したのと同様に、相違点3-2は、刊行物2に記載された発明及び、刊行物3?5、コンデンサーが凝縮器を意味することを示す、用語の辞典である甲第6号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものとはいえず、相違点1’-2,相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明2は、刊行物2に記載された発明及び、刊行物3?5、甲第6号証に記載された技術的事項に記載された技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

ウ 小括
本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3?6号証に記載された技術的事項、もしくは、甲第2号証に記載された発明及び甲第3?6に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

したがって、上述のとおり、特許異議申立人の特許法第29条第2項に関する主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1?3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残潰排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用し、蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積lm^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法。
【請求項2】
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残潰排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、内部回転体を円筒と看做したきの空隙率が70容量%以上であり、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用し、蒸留工程において、圧力3?7mmHg、熱媒温度260?300℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1m^(2)あたり38?143kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら、単蒸留にて高純度ビスフェノールFを得ることを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法。
【請求項3】
蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残澄排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器である請求項1に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-15 
出願番号 特願2014-95858(P2014-95858)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
P 1 651・ 537- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 奥谷 暢子  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 齊藤 真由美
瀬良 聡機
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6244259号(P6244259)
権利者 株式会社 国都化▲学▼ 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
発明の名称 高純度ビスフェノールFの製造方法  
代理人 田中 宏  
代理人 田中 宏  
代理人 田中 宏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ