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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09K 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K |
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管理番号 | 1357648 |
異議申立番号 | 異議2018-700850 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-17 |
確定日 | 2019-10-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6313165号発明「熱硬化性の封止用樹脂シート、セパレータ付き封止用シート、半導体装置、及び、半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6313165号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6313165号の請求項2、4、6及び7に係る特許を維持する。 特許第6313165号の請求項1、3及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6313165号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年8月29日の出願であって、平成30年3月30日にその特許権の設定登録がされ、同年4月18日に特許掲載公報が発行され、同年10月17日に、その特許について、特許異議申立人益川教親(以下、特許異議申立人を単に「申立人」ということもある。)により、特許異議の申立てがされた。当審より、同年12月6日付けで取消理由が通知され、特許権者は平成31年2月6日(受付日)に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、同年3月27日に、申立人から意見書が提出された。そして、令和元年6月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者は同年7月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、同年8月13日に、申立人から意見書が提出されたものである。なお、平成31年2月6日(受付日)付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次の(1)?(4)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載の封止用樹脂シートと、前記封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シートであって、 25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と前記封止用樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積βが、下記式2を満たすことを特徴とするセパレータ付き封止用シート。 式2 : 4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」とあるのを、 「厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積αが、下記式1を満たす熱硬化性の封止用樹脂シートと、前記封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シートであって、 25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と前記封止用樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積βが、下記式2を満たすことを特徴とするセパレータ付き封止用シート。 式1 : 300≦α≦1.5×10^(5) 式2 : 4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9) 」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項4、6、7も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 また、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?7〕に対して請求されたものである。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項3を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、請求項5を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)まとめ 上記(1)?(4)より、訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 特許請求の範囲について、上記のとおり訂正が認められるから、請求項2、4、6及び7に係る発明(以下、「本件発明2」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2、4、6及び7に記載された次のとおりのものである。 「【請求項2】 厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積αが、下記式1を満たす熱硬化性の封止用樹脂シートと、前記封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シートであって、 25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と前記封止用樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積βが、下記式2を満たすことを特徴とするセパレータ付き封止用シート。 式1 : 300≦α≦1.5×10^(5) 式2 : 4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9) 【請求項4】 請求項2に記載のセパレータ付き封止用シートを用いて製造された半導体装置。 【請求項6】 前記封止用樹脂シートの面積Aが40000mm^(2)以上であることを特徴とする請求項2に記載のセパレータ付き封止用シート。 【請求項7】 半導体チップが支持体上に固定された積層体を準備する工程Aと、 請求項2に記載のセパレータ付き封止用シートを準備する工程Bと、 前記セパレータ付き封止用シートを、前記積層体の前記半導体チップ上に配置する工程Cと、 前記半導体チップを前記封止用樹脂シートに埋め込み、前記半導体チップが前記封止用樹脂シートに埋め込まれた封止体を形成する工程Dとを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 訂正前の本件発明(平成31年2月4日付けの訂正の請求によって訂正された請求項1?7に係る発明)に係る特許に対して、令和年10月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 「(サポート要件)請求項1、3及び5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。」 ここで、上記第2 2.(1)で述べたように、本件発明2、4、6及び7は、登録時の請求項2、4、6及び7に係る発明である。また、登録時及び訂正前(平成31年2月4日付けの訂正の請求によって訂正された請求項1?7)において、本件発明4、6及び7は、本件発明2のみを引用するものである。 これに対し、取消理由が通知された請求項1、3及び5は、本件訂正によって削除されたため、取消理由が通知された請求項1、3及び5に係る発明は、本件訂正によって存在しないものとなり、取消理由は解消した。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.申立人は、設定登録時の請求項1?7に係る発明について、次の(1)の甲第1?5号証(以下、「甲1」などという。)を引用し、次の(2)理由1?(5)理由4について主張している。 (1)甲1?甲5 甲1:特開2006-19714号公報 甲2:小野木重治(訳者)、「高分子と複合材料の力学的性質」、株式会社化学同人、1990年7月1日、第1版第11刷、28?33頁 甲3:廣惠章利、本吉正信、「成形加工技術者のためのプラスチック物性入門 第2版」、日刊工業新聞社、昭和62年9月10日、第2版第3刷、91?95頁 甲4:特開2014-131016号公報 甲5:特開2009-141020号公報 (2)理由1:請求項1、3(特許法第29条第1項第3号又は同条第2項) 本件発明1、3は、甲1に記載された発明である。 また、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?甲3の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)理由2:請求項5(同法第29条第2項) 本件発明5は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)理由3:請求項2、4、6?7(同法第29条第2項) 本件発明2、4、6?7は、甲1に記載された発明及び甲2?甲5の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)理由4:請求項1?7(同法第29条第1項第3号又は同条第2項) 本件発明1?7は、甲4に記載された発明である。 また、本件発明1?7は、甲4に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。 2.当審の判断 (1)理由1?3について(甲1に記載された発明を主たる引用発明とするもの) 本件訂正請求によって、請求項1、3及び5は削除されたため、以下、理由3について検討する。 ア 甲1?甲5の記載 (ア)甲1 甲1には、次の記載がある。 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、配線基板上に、配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、これら機能素子を覆うように配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを用いて、高い歩留りで、配線基板と機能素子との間を中空に保ちつつ一括樹脂封止する電子部品の製造方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上述の現状に鑑みて、本発明は、弾性表面波デバイス等の中空モールドをゲル状硬化性樹脂シートを用いて基板上で一括樹脂封止する際に、中空部の成形性に優れ、チップ抜け基板等の場合にもボイドの発生を低減でき、上述の問題を解決できる、信頼性と生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。 【0006】 本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、意外にも、真空下でゲル状硬化性樹脂シートを配置した後、熱ロールによる成形を組み合わせることにより、上記不良の発生を大幅に低減できることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成した。 すなわち、本発明は、配線基板上に、上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、上記複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する電子部品の製造方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有する電子部品の製造方法である: (a)配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、 (b)上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、 (c)上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、及び、 (d)上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」 「【0051】 実施例1?5及び比較例1?2 表1の配合でワニスを作成し、このワニスを、離型処理された75μm厚さのPETフィルムの離型処理された面に塗布して乾燥後、樹脂層が300μm厚になるように調整し、PETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シート(軟化点50℃)を形成した。 【0052】 得られたシートの軟化温度(℃)、軟化時の弾性率(Pa)、軟化時の動的複素粘度(Pa・s)を測定した。また、硬化物(150℃、3時間、オーブン硬化)のTg(℃)、線膨張係数(ppm)、曲げ弾性率(25℃、150℃;GPa)を測定した。 測定方法: 軟化温度、弾性率、粘度:ARES粘弾性測定装置(TA)、動的粘弾性測定(Temp Ramp、周波数1HZ、Ramp Rate2.5℃/min) 曲げ弾性率:DMA6100(SEIKO)、動的粘弾性測定(Temp Ramp、周波数1Hz、Ramp Rate2℃/min) 線膨張係数:TMA120C(SEIKO)、(Ramp Rate2.5℃/min) 【0053】 得られたシートを適当な大きさに切断したものを、200μm×30mm×50mmのガラエポ基板上に、高さ50μmのバンプで接続された400μm×2mm×2mmのダミーチップを7行7列に2mm間隔で49個形成した保護層形成前のデバイスの上に、一番外側配列のチップから2mm外側までをカバーするようにのせた。このものを、実施例及び比較例に供した。 【0054】 実施例1では、配合1で得られたシートをデバイスに真空ラミネーター(25℃、5秒間、シートタックを利用してシート外周部を基板に貼付け)で真空ラミネートした。実施例2では、配合1で得られたシートをのたせデバイスを、50℃、10秒間、0.1MPaで真空プレスしてプリフォームした。比較例では、いずれも、配合1で得られたシートをデバイスにのせたものをそのまま熱プレス又は熱ロールにかけた。実施例、比較例とも、熱ロールは、上ロール(100℃、ゴムロール)、下ロール(25℃、金属ロール)の間を0.77mmに設定し、0.3m/分の速度で行った。この後、それぞれのサンプルを、150℃、3時間、オーブン硬化した。また、比較例の熱プレスは、150℃で5分間、0.1MPaで行い、硬化させた。 【0055】 実施例3?5では、配合2及び配合3(実施例3)、配合2及び配合4(実施例4)又は配合3及び配合4(実施例5)を、それぞれ、1枚ずつ2枚をラミネートした。上記実施例3?5でシートを2枚積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーター(自社製)を用いて行った。ラミネートする温度は100℃で行った。 【0056】 なお、表1中の略号は以下のとおりである。 LSAC6006:旭化成エポキシ(株)製、変性(プロピレンオキサイド付加)エポキシ樹脂、エポキシ当量250g/eq DAL-BPFD:本州化学工業(株)製、ジアリルビスフェノールF HX3088:旭化成エポキシ(株)製、変性イミダゾール、活性温度約80℃ F301:日本ゼオン(株)製、アクリルパウダー、粒径2μm、軟化温度80?100℃のポリメチルメタクリレート FB201S:電気化学工業(株)製、充填用シリカ A187:日本ユニカー(株)製、エポキシシラン IXE600:東亞合成(株)製、ビスマスアンチモン、イオンキャッチャー RY200:日本アエロジル(株)製、微粉シリカ、揺変性発現剤 RE304S:日本化薬(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq ELM100:住友化学(株)製、アミノエポキシ樹脂、エポキシ当量105g/eq EPPN-502H:日本化薬(株)、多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq MEH7500:明和化成(株)、多官能フェノール、フェノール当量105g/eq 2P4MHZ:四国化成工業(株)、変性イミダゾール 【0057】 【表1】 」 (イ)甲2 甲2には、次の記載がある。 「2.2.1 ヤング率 弾性率の測定には,無数の方法が使用されてきた.おそらく最も普通の方法は,引張りの応力-歪試験であろう.等方性材料では,ヤング率が応力-歪曲線の初期勾配に比例する.・・・ ヤング率は,しばしばたわみ試験(Flexural test)によって測定される.この種の試験の一つは,第1章の図1.2に示したように,長方形の断面をもつ“はり(beam)”をL_(0)だけ隔った2点で支持し,その中点に荷重Fを加えて行われる.はりの中央に生じるたわみ(deflection)Yを測定して,ヤング率Eを次式で計算する. E=FL_(0)^(3)/4CD^(3)Y (2.5) ただし,CとDは試験片の幅と厚さである.」(28頁7行?29頁11行) (ウ)甲3 甲3には、次の記載がある。 「(2)曲げ弾性率(曲げ弾性係数) 曲げ弾性率は,荷重の値をいろいろ変えてたわみを測定し,荷重-たわみ曲線を使って次式より計算される. E=l^(3)/4w・h^(3)・P_(b)/ε または ε=l^(3)/4w・h^(3)・P_(b)/E ここに, E=曲げ弾性率(kg/mm^(2)) ε=荷重P_(b)(kg)におけるたわみ(mm)」(93頁12?19行) (エ)甲4 甲4には、次の記載がある。 「【背景技術】 【0002】 電子部品パッケージの作製には、代表的に、基板や仮止め材等に固定された電子部品を封止樹脂にて封止し、必要に応じて封止物を電子部品単位のパッケージとなるようにダイシングするという手順が採用されている。近年、低コストを目的としてウェハから電子部品を作製しそのままの状態で封止して電子部品パッケージを作製する技術、複数の電子部品をウェハ状に封止して封止パッケージとする技術、あるいは大面積の電子部品を封止し、その後ダイシングにより個片化する技術等が展開されている。このようなウェハ状の封止物を利用するウェハ封止加工における樹脂封止として、液状の熱硬化性樹脂組成物によるポッティング等によって行う技術が提案されている(特許文献1)。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 今後、上述のようなウェハ封止加工では、コスト低減を目的としてウェハ状封止物の大面積化がますます進むと考えられる。しかしながら、液状樹脂を用いて大面積での一括封止を行う場合、その樹脂特性から成型時に樹脂が流動して樹脂組成の変動が生じ、安定した品質の半導体装置を作製することができないおそれがある。」 「【0005】 本発明の目的は、大面積での樹脂封止の際にも樹脂組成の変動が生じず、高品質の電子部品パッケージを安定的に作製可能な熱硬化性樹脂シート及びこれを用いる電子部品パッケージの製造方法を提供することにある。」 「【発明を実施するための形態】 【0021】 <第1実施形態> [熱硬化性樹脂シート] 本実施形態に係る熱硬化性樹脂シートについて図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂シートを模式的に示す断面図である。Bステージ状態にある熱硬化性樹脂シート11は、代表的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11a上に積層された状態で提供される。なお、支持体11aには熱硬化性樹脂シート11の剥離を容易に行うために離型処理が施されていてもよい。 【0022】 熱硬化性樹脂シート11の平面視投影面積は、31400mm^(2)以上であればよく、好ましくは49063mm^(2)以上であり、より好ましくは70650mm^(2)以上である。なお、平面視投影面積の上限は特に限定されず、製造ライン設計に応じて適宜設定することができ、例えば70650mm^(2)以下(12インチウェハ相当)であってもよく、将来的には125600mm^(2)以下(16インチウェハ相当)であってもよい。もちろん、これ以上の平面視投影面積も好適に採用することができる。熱硬化性樹脂シート11の平面視投影面積を上記範囲とすることで、高生産性で大面積の電子部品封止加工を行うことができる。」 「【0025】 熱硬化性樹脂シートを形成する樹脂組成物は、上述のような特性を有し、半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に利用可能なものであれば、特に限定されないが、例えば以下のA成分からE成分を含有するエポキシ樹脂組成物が好ましいものとして挙げられる。なお、C成分は必要に応じて添加しても添加しなくてもよい。 A成分:エポキシ樹脂 B成分:フェノール樹脂 C成分:エラストマー D成分:無機充填剤 E成分:硬化促進剤」 「【0053】 (熱硬化性樹脂シートの作製方法) 熱硬化性樹脂シートの作製方法を以下に説明する。まず、上述の各成分を混合することによりエポキシ樹脂組成物を調製する。混合方法は、各成分が均一に分散混合される方法であれば特に限定するものではない。その後、例えば、各成分を有機溶剤等に溶解又は分散したワニスを塗工してシート状に形成する。あるいは、各配合成分を直接ニーダー等で混練することにより混練物を調製し、このようにして得られた混練物を押し出してシート状に形成してもよい。」 「【0054】 ワニスを用いる具体的な作製手順としては、上記A?E成分及び必要に応じて他の添加剤を常法に準じて適宜混合し、有機溶剤に均一に溶解あるいは分散させ、ワニスを調製する。ついで、上記ワニスをポリエステル等の支持体上に塗布し乾燥させることによりBステージ状態の熱硬化性樹脂シート11を得ることができる。そして必要により、熱硬化性樹脂シートの表面を保護するためにポリエステルフィルム等の剥離シートを貼り合わせてもよい。剥離シートは封止時に剥離する。」 「【0056】 有機溶剤乾燥後のシートの厚みは、特に制限されるものではないが、厚みの均一性と残存溶剤量の観点から、通常、5?70μmである。」 「【0063】 (封止工程) 封止工程では、半導体チップ13を覆うようにプリント配線基板12へ熱硬化性樹脂シート11を積層し、半導体チップ13を上記熱硬化性樹脂シートで樹脂封止する(図2B参照)。この熱硬化性樹脂シート11は、半導体チップ13及びそれに付随する要素を外部環境から保護するための封止樹脂として機能する。」 「【0133】 [実施例1] (熱硬化性樹脂シートの作製) 以下の成分をミキサーにてブレンドし、2軸混練機により120℃で2分間溶融混練し、続いてTダイから押出しすることにより、厚さ500μmの押出成形物を作製した。この押出成形物を平面視投影面積が17663mm2で、平面視形状が円状となるようにカットし、熱硬化性樹脂シートAを得た。」 「【0134】 エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YSLV-80XY(エポキン当量200g/eq.軟化点80℃)) 286部 フェノール樹脂:ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS(水酸基当量203g/eq.、軟化点67℃)) 303部 硬化促進剤:硬化触媒としてのイミダゾール系触媒(四国化成工業(株)製、2PHZ-PW) 6部 無機充填剤:球状溶融シリカ粉末(電気化学工業社製、FB-9454、平均粒子径20μm) 3695部 シランカップリング剤:エポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBM-403) 5部 カーボンブラック(三菱化学(株)製、#20) 5部 【0135】 [実施例2] (熱硬化性樹脂シートの作製) 以下の成分をミキサーにてブレンドし、2軸混練機により120℃で2分間溶融混練し、続いてTダイから押出しすることにより、厚さ500μmの押出成形物を作製した。この押出成形物を平面視投影面積が17663mm2で、平面視形状が円状となるようにカットし、熱硬化性樹脂シートBを得た。 【0136】 エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YSLV-80XY(エポキン当量200g/eq.軟化点80℃)) 169部 フェノール樹脂:ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS(水酸基当量203g/eq.、軟化点67℃)) 179部 硬化促進剤:硬化触媒としてのイミダゾール系触媒(四国化成工業(株)製、2PHZ-PW) 6部 エラストマー:スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体((株)カネカ製、SIBSTAR 072T) 152部 無機充填剤:球状溶融シリカ粉末(電気化学工業社製、FB-9454、平均粒子径20μm) 4400部 シランカップリング剤:エポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBM-403) 5部 カーボンブラック(三菱化学(株)製、#20) 5部 難燃剤:ホスファゼン化合物((株)伏見製薬所製、FP-100) 89部 【0137】 (熱硬化前の熱硬化性樹脂シートの弾性率の測定) 作製した熱硬化前の熱硬化性樹脂シート(サンプル)について、TAインスツルメント社製の動的粘弾性測定装置「ARES」を用いて、サンプルを重ねて厚さ:約1.5mmで、φ8mmパラレルプレートの治具を用い、剪断モードにて、周波数:1Hz、昇温速度:10℃/分、歪み:5%(90℃?130℃)にて測定し、90℃?130℃の範囲で得られた剪断貯蔵弾性率G´の最小値及び最大値を求めた。結果を表1に示す。」 「【0144】 (半導体パッケージの封止樹脂の断面評価) 電子顕微鏡(KEYENCE社製、商品名「デジタルマイクロスコープ」、200倍)により、半導体パッケージの封止樹脂の断面における無機充填剤の偏在の有無を観察し、無機充填剤の偏在が認められなかった場合を「○」、認められた場合を「×」として評価した。 【表1】 」 (オ)甲5 甲5には、次の記載がある。 「【0054】 <剥離シート> 本発明の電子部品封止用シートにおいては、シートの使用前に熱硬化性樹脂膜1を保護するために、剥離シート2,3を熱硬化性樹脂膜1の片面あるいは両面に仮着しておいてもよい。 剥離シートとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ピニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。 【0055】 特に、第1及び第2の熱硬化性樹脂層1a,1bの硬化後に剥離シートの剥離を行う場合には、耐熱性に優れたポリメチルペンテンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好適に用いることができる。 【0056】 剥離シートの表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、35mN/m以下であることがより好ましい。このような表面張力の低い剥離シートは、材質を適宜に選択して得ることが可能であり、またシートの表面にシリコーン樹脂等を塗布して離型処理を施すことで得ることもできる。 【0057】 本発明における剥離シートの膜厚は、5?300μm、好ましくは10?200μm、特に好ましくは20?150μm程度である。このような膜厚の剥離シートを使用することで、封止用シートの電子部品及び実装基板への貼り付け時に、熱硬化性樹脂膜を安定して保持することができ、熱硬化性樹脂膜の平滑性の向上に寄与することができる。 【0058】 <製造方法> 次に、本発明の電子部品封止用シートの製造方法の一例について説明する。 まず、剥離シート2の剥離面上に、上記の第1の熱硬化性樹脂層を構成する各成分を含む組成物をロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーターなどの一般に公知の方法に準じて直接または転写によって塗布、乾燥させ、剥離シート2上に第1の熱硬化性樹脂1aを形成する。別途、剥離シート3の剥離面上に、上記の第2の熱硬化性樹脂層を構成する各成分を含む組成物を、同様にして塗布、乾燥させ、剥離シート3上に第2の熱硬化性樹脂層1bを形成する。各層の組成物は、必要により、溶剤に溶解しまたは分散させて塗布してもよい。次に、第1の熱硬化性樹脂層1aと第2の熱硬化性樹脂1bとを加熱しながら貼り合わせることで、図1に示す電子部品封止用シートを得ることができる。」 イ 甲1に記載された発明(甲1発明) 甲1の実施例1?5の「ゲル状硬化性エポキシ樹脂シート」について、「表1の配合でワニスを作成し、このワニスを、離型処理された75μm厚さのPETフィルムの離型処理された面に塗布して乾燥後、樹脂層が300μm厚になるように調整し、PETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シート(軟化点50℃)を形成した」(【0051】)ことが記載されている。 また、「ゲル状硬化性エポキシ樹脂シート」について、「(d)上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」(【0006】)、「それぞれのサンプルを、150℃、3時間、オーブン硬化した。また、比較例の熱プレスは、150℃で5分間、0.1MPaで行い、硬化させた。」(【0054】)と記載されていることから、「ゲル状硬化性」とは、「ゲル状熱硬化性」であって、「ゲル状硬化性エポキシ樹脂シート」は、「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」であるといえる。 そして、甲1には、「本発明は、弾性表面波デバイス等の中空モールドをゲル状硬化性樹脂シートを用いて基板上で一括樹脂封止する際に」(【0005】)という記載があることから、該「ゲル状硬化性エポキシ樹脂シート」は、「封止用」であるといえる。 そうすると、甲1の【0051】に記載された「PETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シート(軟化点50℃)を形成した」もの(離型処理されたPETフィルムと、該離型処理されたPETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シート(軟化点50℃)を形成したものとを合わせたもの)を単に「形成物」と呼ぶと、甲1には、 「離型処理された75μm厚さのPETフィルムと、該PETフィルム上に、樹脂層が300μm厚に形成された、封止用のゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シートとを備えた形成物。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 本件発明2と甲1発明との対比・判断 甲1発明の「離型処理された75μm厚さのPETフィルム」は、本件発明2の「セパレータ」に相当する。 また、 本件発明2の「熱硬化性の封止用樹脂シート」と甲1発明の「封止用のゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」とは、「熱硬化性の封止用樹脂シート」である点で共通する。 そして、本件発明2の「セパレータ付き封止用シート」と甲1発明の「形成物」とは、「セパレータ付きシート」である点で共通する。 そうすると、本件発明2と甲1発明とは、 「熱硬化性の封止用樹脂シートと、前記封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点1) 「熱硬化性の封止用樹脂シート」の「厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積α」について、本件発明2は、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たすのに対し、甲1発明の「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」の該「積α」は、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たすかどうかは不明な点。 (相違点2) 「セパレータ付きシート」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と封止用樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積β」について、本件発明2は、「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たすのに対し、甲1発明の「形成物」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と封止用のゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積β」は、「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たすかどうかは不明な点。 ここで、上記相違点について検討する。 (相違点1について) 甲1発明の「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」は、その厚みは「300μm」であるところ、甲1の表1(【0057】)には「軟化時(50℃)の弾性率(Pa)」、「軟化時の動的複素粘度(Pa・s)」についての記載はあるものの、「50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]」についての記載は見当たらない。 そして、一般に、「弾性率」は、[(応力)/(ひずみ)]で求められる値であり、「貯蔵弾性率」は、正弦波形のひずみを入力したときの応力の応答によって定義される複素弾性率の実部を指すものであるから、「弾性率」と「貯蔵弾性率」とは、技術的な意義が異なり、「軟化時(50℃)の弾性率」の値に基いて、「50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]」の値が直ちに導き出されるものではない。 また、「軟化時の動的複素粘度(Pa・s)」の値に基いて、「50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]」の値が、導き出されるものではないことは明らかである。 したがって、甲1発明において、甲1発明の「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」の該「積α」の値は不明というほかない。 そして、甲1に、「本発明は、弾性表面波デバイス等の中空モールドをゲル状硬化性樹脂シートを用いて基板上で一括樹脂封止する際に、中空部の成形性に優れ、チップ抜け基板等の場合にもボイドの発生を低減でき、上述の問題を解決できる、信頼性と生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。」(【0005】)と記載されており、甲1発明の「ゲル状硬化性樹脂シート」は、「中空部の成形性」に優れ、「ボイドの発生」を低減したものと解されるところ、と、「中空部の成形性」や「ボイドの発生」と、「ゲル状硬化性樹脂シート」の「厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積α」とに、直接の関連があるという技術常識は見出せないことから、甲1発明の「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」は、該「積α」について考慮されたものとはいえない。 また、甲2?甲5には、「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」の該「積α」の値について、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たすものは示されていない。 そうすると、甲1発明において、該「積α」を「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たす値にする動機付けは見出せない。 したがって、上記相違点1に係る本件発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものである、とすることはできない。 (相違点2について) 甲1には、「形成物」、「離型処理された75μm厚さのPETフィルム」及び「ゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シート」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]」に関する記載はない。 したがって、甲1発明の「形成物」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と封止用のゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積β」は、不明というほかない。 そして、上記相違点1において述べたように、甲1発明の「ゲル状硬化性樹脂シート」は、「中空部の成形性」に優れ、「ボイドの発生」を低減したものと解されるところ、「中空部の成形性」や「ボイドの発生」と、「成形物」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と封止用のゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積β」とに、直接の関連があるという技術常識は見出せないことから、甲1発明の「形成物」は、該「積β」について考慮されたものとはいえない。 また、甲2?甲5には、「PETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シートを形成した」ような形成物の該「積β」の値について、「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たすものは示されていない。 したがって、甲1発明の「形成物」の該「積β」を「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たす値にする動機付けは見出せない。 したがって、上記相違点2係る本件発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものである、とすることはできない。 (本件発明2の効果について) 本件発明2は、「封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シート」において、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることで、「搬送時等に吸着コレットから封止用シートが落下することを防止することができ、且つ、半導体チップを封止用シートに好適に埋め込むことができる」(本件明細書【0009】)ものであり、上記相違点2に係る発明特定事項を備えることで、「樹脂シートを変形、撓ませることなく好適に半導体チップを封止用シートに埋め込むことができる」(本件明細書【0010】)という甲1?甲5の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。 また、そのような作用効果は、発明の詳細な説明に記載された実施例1?12について、「ハンドリング性」が良好(吸着コレットにより持ち上げた際に、落下せず、且つ、目視にて樹脂の変形や割れが無い(本件明細書【0118】))で、「埋め込み性」が良好(封止体において、チップ端部に未充填領域もしくは空気の噛み込み痕が観察されなかった(本件明細書【0119】))ものであることが確認されている(本件明細書【0120】【表2】)。 (まとめ) 以上のことから、本件発明2は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないし、甲1発明及び甲2?甲5の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。 また、本件発明4、6及び7は、本件発明2を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様である。 したがって、上記理由3には、理由がない。 (2)理由4について(甲4に記載された発明を主たる引用発明とするもの) ア 甲4に記載された発明(甲4発明) 甲4には、A成分:エポキシ樹脂、B成分:フェノール樹脂、C成分:エラストマー、D成分:無機充填剤、及び、E成分:硬化促進剤を含むエポキシ樹脂組成物によって熱硬化性樹脂シートを形成すること(【0025】)が記載されており、上記A?E成分及び必要に応じて他の添加剤を常法に準じて適宜混合し、有機溶剤に均一に溶解あるいは分散させ、ワニスを調製し、上記ワニスをポリエステル等の支持体上に塗布し乾燥させることによりBステージ状態の熱硬化性樹脂シートを得ること(【0054】)が記載されている。 上記熱硬化性樹脂シートについて、【0025】には、半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられるものであることが記載されている。 そして、実施例1(【0133】?【0134】)、実施例2(【0135】?【0136】)のエポキシ樹脂組成物の成分は、それぞれ、【0134】、【0136】に記載され、【0133】、【0135】には、実施例1、2の熱硬化性樹脂シートは、実施例1、2のエポキシ樹脂組成物の成分を、「ミキサーにてブレンドし、2軸混練機により120℃で2分間溶融混練し、続いてTダイから押出しすることにより、厚さ500μmの押出成形物を作製した」ものであることが記載されている。 また、甲4には、上記熱硬化性樹脂シートは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11a上に積層された状態で提供されること(【0021】)が記載されている。 そこで、実施例1、2の熱硬化性樹脂シートをそれぞれ、熱硬化性樹脂シートA、Bと呼び、熱硬化性樹脂シートA又はBがポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11a上に積層された状態で提供されたもの(実施例1.2の熱硬化性樹脂シートと、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11aとを合わせたもの)を、単に「提供物」と呼ぶと、甲4の実施例1、2には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。 「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11aと、 『実施例1: エポキシ樹脂(ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YSLV-80XY(エポキン当量200g/eq.軟化点80℃))) 286部、 フェノール樹脂(ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS(水酸基当量203g/eq.、軟化点67℃))) 303部、 硬化促進剤(硬化触媒としてのイミダゾール系触媒(四国化成工業(株)製、2PHZ-PW)) 6部、 無機充填剤(球状溶融シリカ粉末(電気化学工業社製、FB-9454、平均粒子径20μm)) 3695部、 シランカップリング剤(エポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBM-403)) 5部、及び、 カーボンブラック((三菱化学(株)製、#20)) 5部、 を含むエポキシ樹脂組成物』、 又は、 『実施例2: エポキシ樹脂(ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YSLV-80XY(エポキン当量200g/eq.軟化点80℃))) 169部、 フェノール樹脂(ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851-SS(水酸基当量203g/eq.、軟化点67℃))) 179部、 硬化促進剤(硬化触媒としてのイミダゾール系触媒(四国化成工業(株)製、2PHZ-PW)) 6部、 エラストマー(スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体((株)カネカ製、SIBSTAR 072T))152部、 無機充填剤(球状溶融シリカ粉末(電気化学工業社製、FB-9454、平均粒子径20μm)) 4400部、 シランカップリング剤(エポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBM-403)) 5部、 カーボンブラック((三菱化学(株)製、#20)) 5部、及び、 難燃剤(ホスファゼン化合物((株)伏見製薬所製、FP-100)) 89部、 を含むエポキシ樹脂組成物』、を、 ミキサーにてブレンドし、2軸混練機により120℃で2分間溶融混練し、続いてTダイから押出しすることにより作製した、厚さ500μmの押出成形物である、半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる、厚さ500μmの熱硬化性樹脂シートA、Bとを備え、 上記熱硬化性樹脂シートA又はBが上記支持体11a上に積層された状態で提供された提供物。」 イ 本件発明2と甲4発明との対比・判断 甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11a」及び「提供物」は、本件発明2の「熱硬化性の封止用樹脂シート」、「セパレータ」及び「セパレータ付き封止用シート」にそれぞれ相当する。 そうすると、本件発明2と甲4発明とは、 「熱硬化性の封止用樹脂シートと、前記封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点3) 「熱硬化性の封止用樹脂シート」の「厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積α」について、本件発明2は、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たすのに対し、甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」の該「積α」は、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たすかどうかは不明な点。 (相違点4) 「セパレータ付きシート」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と封止用樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積β」について、本件発明2は、「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たすのに対し、甲4発明の「提供物」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、Bの面積A[mm^(2)]との積β」は、「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たすかどうかは不明な点。 ここで、相違点について検討する。 (相違点3について) 甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」は、その厚みは「500μm」であるところ、甲4には、「50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]」についての記載は見当たらないところ、甲4発明の実施例1(以下、「甲4実施例1」などという。)と、本件明細書に記載された製造例1、2(以下、「本件製造例1」などという。)とは、その成分に類似するものがあるので、詳細に対比することとする。 まず、本件製造例1と甲4実施例1とは、エポキシ樹脂100部に対するフェノール樹脂の含有量について、本件製造例1は45部なのに対し、甲4実施例は106部であって、甲4実施例1は、本件製造例1の倍以上含有する。 次に、本件製造例1と甲4実施例2とは、本件実施例1は、熱可塑性樹脂(アクリルゴム系応力緩和剤)は含有しないのに対し、甲4実施例2は、エポキシ樹脂100部に対するエラストマー(スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体)を90部含有する。 また、本件製造例2と甲4実施例1とは、本件製造例2は、熱可塑性樹脂(アクリルゴム系応力緩和剤)を50部含有するのに対し、甲4実施例1は、そのような熱可塑性樹脂を含有しない。 そして、本件製造例2と甲4実施例2とは、本件製造例2は、熱可塑性樹脂(アクリルゴム系応力緩和剤)を50部含有するのに対し、甲4実施例2はエラストマー(スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体)を90部含有する。 ここで、フェノール樹脂や熱可塑性樹脂の量は、貯蔵弾性率G’の値を左右するものであり、本件製造例1、2と甲4実施例1、2のそれらの違いは、「熱硬化性の封止用樹脂シート」や「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」について、「厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積α」に値に影響を及ぼすといえる。 そうすると、甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」の該「積α」は、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たす蓋然性が高いとは言えない。 したがって、甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」の該「積α」は、不明としかいうほかない。 したがって、上記相違点3は、実質的な相違点である。 また、甲4には、「本発明の目的は、大面積での樹脂封止の際にも樹脂組成の変動が生じず、高品質の電子部品パッケージを安定的に作製可能な熱硬化性樹脂シート及びこれを用いる電子部品パッケージの製造方法を提供することにある。」(【0005】)と記載されており、甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」は、「大面積での樹脂封止の際にも樹脂組成の変動が生じ」ないようにしたものと解されるところ、「大面積での樹脂封止の際にも樹脂組成の変動が生じ」ないことと、「ゲル状硬化性樹脂シート」の「厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積α」とに、直接の関連があるという技術常識は見出せないことから、甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」は、該「積α」について考慮されたものとはいえない。 また、甲2?甲5には、「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」の該「積α」の値について、「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たすものは示されていない。 そうすると、甲4発明において、該「積α」を「300≦α≦1.5×10^(5)」を満たす値にする動機付けは見出せない。 したがって、上記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものである、とすることはできない。 (相違点4について) 甲4には、「提供物」、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持体11a」及び「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]」に関する記載はない。 したがって、甲4発明の「提供物」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と封止用のゲル状熱硬化性エポキシ樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積β」は、不明というほかない。 したがって、上記相違点4は、実質的な相違点である。 そして、上記相違点3において述べたように、甲4発明の「半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、B」は、「大面積での樹脂封止の際にも樹脂組成の変動が生じ」ないようにしたものと解されるところ、「大面積での樹脂封止の際にも樹脂組成の変動が生じ」ないことと、「提供物」の「25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と半導体チップ等の電子部品の樹脂封止に用いられる熱硬化性樹脂シートA、Bの面積A[mm^(2)]との積β」とに、直接の関連があるという技術常識は見出せないことから、甲4発明の「提供物」は、該「積β」について考慮されたものとはいえない。 また、甲2?甲5には、「熱硬化性樹脂シートA、Bが上記支持体11a上に積層された状態」の提供物の該「積β」の値について、「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たすものは示されていない。 したがって、甲4発明の「提供物」の該「積β」を「4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9)」を満たす値にする動機付けは見出せない。 したがって、上記相違点4に係る本件発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものである、とすることはできない。 (本件発明2の効果について) 上記(1)ウの「(本件発明2の効果について)」で述べたように、本件発明2は、甲4の記載からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。 (まとめ) 以上のことから、本件発明2は、甲4発明であるとはいえない。 また、本件発明2は、甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 そして、本件発明4、6及び7は、本件発明2を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様である。 したがって、上記理由4には、理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項2、4、6及び7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 そして、他に請求項2、4、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項1、3及び5に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1、3及び5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 厚みt[mm]と50℃における貯蔵弾性率G’[Pa]との積αが、下記式1を満たす熱硬化性の封止用樹脂シートと、前記封止用樹脂シートの少なくとも一方の面に積層されたセパレータとを備えたセパレータ付き封止用シートであって、 25℃における曲げ弾性率E[N/mm^(2)]と前記封止用樹脂シートの面積A[mm^(2)]との積βが、下記式2を満たすことを特徴とするセパレータ付き封止用シート。 式1 : 300≦α≦1.5×10^(5) 式2 : 4.0×10^(6)≦β≦1.7×10^(9) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 請求項2に記載のセパレータ付き封止用シートを用いて製造された半導体装置。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記封止用樹脂シートの面積Aが40000mm^(2)以上であることを特徴とする請求項2に記載のセパレータ付き封止用シート。 【請求項7】 半導体チップが支持体上に固定された積層体を準備する工程Aと、 請求項2に記載のセパレータ付き封止用シートを準備する工程Bと、 前記セパレータ付き封止用シートを、前記積層体の前記半導体チップ上に配置する工程Cと、 前記半導体チップを前記封止用樹脂シートに埋め込み、前記半導体チップが前記封止用樹脂シートに埋め込まれた封止体を形成する工程Dとを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-18 |
出願番号 | 特願2014-175772(P2014-175772) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K) P 1 651・ 537- YAA (C09K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中野 孝一 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
川端 修 天野 宏樹 |
登録日 | 2018-03-30 |
登録番号 | 特許第6313165号(P6313165) |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 熱硬化性の封止用樹脂シート、セパレータ付き封止用シート、半導体装置、及び、半導体装置の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人ユニアス国際特許事務所 |