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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1357649
異議申立番号 異議2019-700061  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-28 
確定日 2019-11-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6368961号発明「ポリイミド系溶液、及びこれを用いて製造されたポリイミド系フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6368961号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。 特許第6368961号の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6368961号に係る出願(特願2016-544304号、以下「本願」ということがある。)は、平成27年6月1日(パリ条約に基づく優先権主張:平成26年5月30日、平成26年9月29日及び平成27年2月9日、いずれも大韓民国(KR))の国際出願日に出願人エルジー・ケム・リミテッド(以下「特許権者」ということがある。)によりされたものとみなされる特許出願であり、平成30年7月20日に特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、平成30年8月8日に特許掲載公報が発行されたものである。

2.本件特許異議の申立ての趣旨
本件特許につき、平成31年1月28日に特許異議申立人東レ株式会社(以下「申立人」ということがある。)により、「特許第6368961号の特許請求の範囲の請求項1ないし8、11及び15ないし18に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」ということがある。)

3.審理すべき範囲
上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6368961号の特許請求の範囲の請求項1ないし8、11及び15ないし18に記載された発明についての特許を審理の対象とすべきものであり、請求項9、10及び12ないし14に記載された発明についての特許については特許異議の申立てがない請求項であって、本件の特許異議の申立てに係る審理の対象外である。

4.以降の手続の経緯
以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 4月 9日付け 取消理由通知
令和 元年 7月 3日 面接(特許権者)
令和 元年 7月16日 意見書・訂正請求書
令和 元年 7月23日付け 通知書(申立人あて)
(なお、上記申立人あての通知書に対して、申立人からの意見書の提出はなかった。)

第2 取消理由の概要

1.申立人が主張する取消理由の概要
申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。

申立人は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第6号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)及び(2)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:国際公開第2013/047451号
甲第2号証:申立人東レ株式会社従業員の宮崎大地が平成31年1月10日に作成した実験成績証明書
甲第3号証:下記URLで2004年4月から公開されているものと解される国際化学物質安全性カード(ICSC)番号0425「シクロヘキサノン」の項(和訳文)
(URL:http://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=0425&p_version=2)
甲第4号証:下記のURLで平成12年4月に作成したものとして一般社団法人化学物質評価研究機構から公開されている「既存化学物質安全性(ハザード)評価シート(要約版)」の「シクロヘキサノン」の項
(URL:http://www.cerij.or.jp/evaluation_document/hazard/S99_22.pdf)
甲第5号証:下記のURLで2004年10月に作成したものとして国立医薬品食品衛生研究所から公開されている「国際化学物質安全性カード(ICSC)番号1573」の「プロピレングリコールモノエチルエーテル」の項
(URL:http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss1573c.html)
甲第6号証:下記のURLから2019年1月15日に出力したものと認められる独立行政法人製品評価技術基盤機構が作成した分配係数試験における「分配係数(1-オクタノール/水)測定試験」の項
(URL:https://www.nite.go.jp/chem/kasinn/s61/kasinhou02test3.html)
(上記「甲第1号証」ないし「甲第6号証」を、以下、それぞれ「甲1」ないし「甲6」と略す。)

2.当審が通知した取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

「本件特許の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。」

第3 令和元年7月16日付け訂正請求について
上記令和元年7月16日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき検討する。

I.訂正内容
本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし18について訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。

●訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「ヘーズが1%以下である」との記載を「ヘーズが1%以下であり、前記溶媒は、窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミドである」に訂正する。

II.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし18を「旧請求項1」ないし「旧請求項18」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし18を「新請求項1」ないし「新請求項18」という。

1.訂正の目的要件について
上記訂正事項1による訂正の目的につき検討すると、訂正事項1に係る訂正では、旧請求項1の「化学式2の構造を含むポリアミック酸と、25℃での分配係数(LogP値)が正数である溶媒とを含んでな」る「ポリイミド系溶液」に係る発明について、旧請求項1の「25℃での分配係数(LogP値)が正数である溶媒」につき、本件特許に係る明細書の記載(【0049】)に基づき、「窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミド」に限定して、旧請求項1に係る範囲を減縮しているものと認められる。
してみると、旧請求項1から新請求項1に訂正することにより、請求項1の特許請求の範囲が実質的に減縮されていることが明らかであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
なお、旧請求項1を直接又は間接的に引用して記載されていた旧請求項2ないし18についても、同様に各項に係る特許請求の範囲が減縮されて、新請求項1を直接又は間接的に引用して記載されている新請求項2ないし18となっているものとも認められる。
したがって、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的要件に適合するものである。

2.新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記1.に示したとおり、訂正事項1に係る訂正により、新請求項1及び新請求項1に記載された事項を直接又は間接的に引用して記載されている新請求項2ないし18の特許請求の範囲が、旧請求項1及び同項を直接又は間接的に引用する旧請求項2ないし18の特許請求の範囲に対して実質的に減縮されていることが明らかであるから、上記訂正事項1による訂正は、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

3.独立特許要件について
本件の特許異議の申立ては、旧請求項1ないし8、11及び15ないし18に記載された発明についての特許につき申立てがされており、旧請求項9、10及び12ないし14に記載された発明についての特許については特許異議の申立てがないものであるところ、上記1.で示したとおり、本件訂正により、旧請求項9、10及び12ないし14から新請求項9、10及び12ないし14に係る特許請求の範囲が減縮されているものと認められるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項により、訂正の適否の検討において新請求項9、10及び12ないし14に係る発明につき、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か、すなわち、独立特許要件について以下検討する。

(1)各甲号証に基づく検討
申立人が提示した上記各甲号証に基づき以下検討する。

ア.各甲号証に記載された事項及び記載された発明

(ア)甲1
甲1に記載された事項を確認するとともに、特に、甲1については、同証に記載された発明を認定する。

(ア-1)甲1に記載された事項

(a-1)
「[請求項1] 下記式(2)で表される構造単位を含み、下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体、および、非アミド系溶媒を主成分とする溶媒を含む樹脂組成物。
[化1]


(式(1)中、Rは独立に水素原子または一価の有機基を示し、R^(1)は独立に二価の有機基を示し、R^(2)は独立に四価の有機基を示し、nは正の整数を示す。ただし、R^(1)またはR^(2)の少なくとも一方は、ハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基を含む。)
[化2]


(式(2)中、複数あるR^(5)は各々独立に炭素数1?20の一価の有機基を示し、mは3?200の整数を示す。)
・・(中略)・・
[請求項7]
E型粘度計(25℃)で測定した粘度が500?50000mPa・sの範囲にある、請求項1?6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[請求項8]
膜形成用である、請求項1?7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[請求項9]
請求項1?8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、
該塗膜から前記溶媒を蒸発させる工程と、
前記前駆体をイミド化する工程を含む
膜形成方法。」

(a-2)
「[0007] 本発明の目的は、貯蔵安定性に優れ、乾燥速度が速く生産性に優れ、かつ、基板との密着性と剥離性に優れ、高いガラス転移温度を有し、反りの発生および白濁が少なく、機械的強度に優れた膜を容易に製造できる樹脂組成物および膜形成方法を提供することにある。」

(a-3)
「[0031] 前記式(1)中、R^(1)における、二価の有機基としては、炭素数1?40の二価の有機基が好ましい。
炭素数1?40の二価の有機基としては、炭素数6?40の二価の芳香族炭化水素基が好ましく、6?20の二価の芳香族炭化水素基がより好ましい。前記有機基には、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、およびビフェニルのように環と環とを単結合等の結合基で結合した構造等が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基等が挙げられる。前記二価の有機基が水素原子を含む場合、任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい。
[0032] 前記二価の有機基としては、下記式(3)で表される群より選ばれる基を含むことがより好ましく、下記式(3)で表される群より選ばれる基であることがさらに好ましい。R^(1)における二価の有機基が、下記式(3)で表される群より選ばれる基であると、前記海部はより剛直な骨格を有する構造となる。よって、残留応力が小さく、反りの発生が抑制された膜を得ることができるため好ましい。
[0033]
[化6](化学式は省略)
[0034] 式(3)中、R^(3)は独立にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基もしくはシロキサン基を含む基;水素原子;ハロゲン原子;アルキル基;ヒドロキシ基;ニトロ基;シアノ基;またはスルホ基を示し、このアルキレン基を含む基およびアルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい。ただし、1つの基に含まれる複数あるR^(3)のうち少なくとも1つはハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基を含む。a1は1?3の整数を示し、a2は1または2を示し、a3は独立に1?4の整数を示し、eは0?3の整数を示す。
・・(中略)・・
[0036] 前記式(3)中、R^(3)は、ハロゲン原子を1?12個含むことが好ましく、機械的強度に優れた膜を容易に、短時間に、生産性よく製造することができる等の点から3?8個含むことがより好ましい。
[0037] なお、本発明において、R^(3)がハロゲン原子である場合、「ハロゲン原子が1個含まれる」といい、R^(3)が、例えばトリフルオロメチル基である場合、「ハロゲン原子が3個含まれる」という。
[0038] 前記式(3)中、R^(3)におけるハロゲン化アルキル基としては、ハロゲン原子で置換されたメチル基または炭素数2?20のアルキル基等が挙げられる。
前記炭素数2?20のハロゲン化アルキル基としては、ハロゲン原子で置換された炭素数2?10のアルキル基であることが好ましく、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基の任意の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換された基等が挙げられる。
[0039] 前記式(3)中、R^(3)におけるハロゲン化アルキル基としては、好ましくはハロゲン原子で置換された炭素数1?2のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基の任意の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換された基が挙げられる。
[0040] 前記式(3)中、R^(3)におけるハロゲン原子およびハロゲン化アルキル基に含まれるハロゲン原子は、機械的強度に優れた膜を容易に、短時間に、生産性よく製造することができる等の点からフッ素原子であることが好ましい。」

(a-4)
「[0050] 前記式(1)中、R^(1)における、二価の有機基としては、下記式(3’’)で表される群より選ばれる基であることがより好ましい。
[0051][化9]




(a-5)
「[0080] 前記ポリイミド前駆体は、所望の用途および成膜条件等に応じて、前記式(1)に含まれる構造単位の他に、該前駆体の主鎖に、エーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基およびシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む単量体(以下「単量体(I)」ともいう。)に由来する構造単位(以下「構造単位(56)」ともいう。)を含んでもよい。
前記アルキレン基としては、前記式(3)中、R^(3)におけるアルキレン基と同様の基等が挙げられる。
・・(中略)・・
[0086] 前記単量体(I)は、下記式(5)で表される化合物(以下「化合物(5)」ともいう。)または式(6)で表される化合物(以下「化合物(6)」ともいう。)であることが好ましい。
[0087][化13]


[0088]
前記式(5)および(6)中、Aは各々独立にエーテル結合(-O-)、チオエーテル基(-S-)、ケトン基(-C(=O)-)、エステル結合(-COO-)、スルフォニル基(-SO_(2)-)、アルキレン基(-R^(7)-)、アミド基(-C(=O)-NR^(8)-)、シロキサン基(-Si(R^(9))_(2)-O-Si(R^(9))_(2)-)およびフルオレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を含む基を示し、R^(6)は独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはニトロ基を示し、このアルキル基の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい。dは独立に1?4の整数を示す。
・・(中略)・・
[0091] 前記式(5)および(6)中、Aにおけるアルキレン基(-R^(7)-)としては、前記式(3)中、R^(3)におけるアルキレン基と同様の基等が挙げられ、これらの中でも、メチレン基、イソプロピリデン基、およびヘキサフルオロイソプロピリデン基が好ましい。」

(a-6)
「[0112] なお、前記ポリイミド前駆体が、構造単位(56)を含む場合、該構造単位(56)を含むポリイミド前駆体は、(i)前記式(1)におけるR^(1)やR^(2)に構造単位(56)が含まれる構造で表される場合、および、(ii)ポリイミド前駆体中の、構造単位(1)以外の部分に構造単位(56)が含まれる構造で表される場合がある。前記(i)の場合、前記ポリイミド前駆体が前記式(1)中のR^(1)に化合物(5)に由来する構造単位を含むとすると、前記ポリイミド前駆体は、例えば下記式(5A)のように表される。・・(中略)・・
[0113][化32]




(a-7)
「[0155] 前記化合物(B-2)としては、具体的には、両末端アミノ変性メチルフェニルシリコーン(信越化学社製;X22-1660B-3(数平均分子量4,400 重合度m=41、フェニル基:メチル基=25:75mol%)、X22-9409(数平均分子量1,300))、両末端アミノ変性ジメチルシリコーン(信越化学社製;X22-161A(数平均分子量1,600、重合度m=20)、X22-161B(数平均分子量3,000、重合度m=39)、KF-8012(数平均分子量4400、重合度m=58)、東レダウコーニング製;BY16-835U(数平均分子量900、重合度m=11))などが挙げられる。なお、前記イミノ形成化合物(B-2)は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、重合度mは例えば以下の式により算出することができる。(両末端がアミノプロピル基の場合、前記式(2)中のR^(5)のすべてがメチル基またはフェニル基である化合物の場合)
m=(数平均分子量-両末端基(アミノプロピル基)の分子量116.2)/(74.15×メチル基のmol%×0.01+198.29×フェニル基のmol%×0.01)」

(a-8)
「[0166] <非アミド系溶媒を主成分とする溶媒>
本発明の樹脂組成物に用いる非アミド溶媒としては、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド溶媒、およびケトン系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、前記非アミド系溶媒を主成分とする溶媒を含むため、膜形成時の乾燥速度が速くなり、白濁による膜質悪化が少なく、膜の生産性に優れる。また、前記非アミド系溶媒を主成分とする溶媒を用いることで、ポリイミド前駆体の濃度の高い樹脂組成物を得ることができる。この生産性に優れ、良好な膜質を有する膜は、前記ポリイミド前駆体と前記非アミド系溶媒を主成分とする溶媒とを含む組成物を用いることで初めて得ることができる。
[0167] なお、本発明において、「非アミド系溶媒を主成分とする溶媒」とは、溶媒全体100質量%に対し、非アミド系溶媒を好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む溶媒のことをいう。
[0168] 前記ケトン系溶媒としては、炭素数3以上10以下のケトン類であることが好ましく、沸点およびコストの点等から、炭素数3以上6以下のケトン類であることがより好ましい。好ましいケトン系溶媒としては、具体的には、アセトン(沸点=57℃)メチルエチルケトン(沸点=80℃)、メチル-n-プロピルケトン(沸点=105℃)、メチル-iso-プロピルケトン(沸点=116℃)、ジエチルケトン(沸点=101℃)、メチル-n-ブチルケトン(沸点=127℃)、メチル-iso-ブチルケトン(沸点=116℃)、メチル-sec-ブチルケトン(沸点=118℃)、メチル-tert-ブチルケトン(沸点=116℃)などのジアルキルケトン類、シクロペンタノン(沸点=130℃)、シクロヘキサノン(CHN,沸点=155℃)、シクロヘプタノン(沸点=185℃)、γ?ブチロラクトン(沸点=204℃)などの環状ケトン類等を挙げることができる。これらの中でもシクロヘキサノンが、乾燥性、生産性等に優れる樹脂組成物を得ることができること等の点から好ましい。
なお、これらケトン系溶媒は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。」

(a-9)
「[0179] <樹脂組成物の物性>
本発明の樹脂組成物の粘度は、ポリイミド前駆体の分子量や濃度にもよるが、通常、500?50,000mPa・s、好ましくは500?20,000mPa・sである。樹脂組成物の粘度が前記範囲にあると、成膜中の樹脂組成物の滞留性に優れ、膜厚の調整が容易となるため、膜の成形が容易となる。
なお、前記樹脂組成物の粘度は、E型粘度計(東機産業製、粘度計MODEL RE100)を用いて、大気中、25℃で測定した値である。
・・(中略)・・
[0182] ≪膜形成方法≫
本発明の膜の形成方法としては、前記本発明の樹脂組成物を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記非アミド系溶媒を主成分とする溶媒を蒸発させる工程と、前記前駆体をイミド化する工程を含む方法等が挙げられる。
・・(中略)・・
[0196] 前記膜の好適な用途しては、フレキシブルプリント基板、フレキシブルディスプレイ基板等のフレキシブル基板、半導体素子、薄膜トランジスタ型液晶表示素子や磁気ヘッド素子、集積回路素子、固体撮像素子、実装基板などの電子部品に用いられる絶縁膜、および各種コンデンサー用の膜等が挙げられる。これらの電子部品には、一般に層状に配置される配線の間を絶縁するために層間絶縁膜や平坦化絶縁膜、表面保護用絶縁膜(オーバーコート膜、パッシベーション膜等)が設けられており、これらの絶縁膜として好適に用いることができる。
また、前記膜は、導光板、偏光板、ディスプレイ用フィルム、光ディスク用フィルム、透明導電性フィルム、導波路板などのフィルムとして好適に使用できる。
特に、前記膜は、ガラス基板との密着性および剥離性に優れるため、該膜と基板との間に粘着層等を設ける必要がなく、フレキシブル基板を作製する際の工程数を低減化できる可能性がある。」

(a-10)
「実施例
[0197] 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[0198][実施例1]
温度計、窒素導入管および攪拌羽根付三口フラスコに、25℃にて窒素気流下、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)15.3050g(0.0478mol)、両末端アミノ変性側鎖フェニル・メチル型シリコーンX-22-1660B-3(信越化学工業(株)製)[4.2925g(0.000976mol)]、および樹脂組成物中のポリイミド前駆体の濃度が14%となるように脱水シクロヘキサノン(CHN)184.527gを加え、完全に均一な溶液を得るまで10分間攪拌した。そこに、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.3997g(0.047679mol)を加え、60分攪拌することで反応を終了させ、次いで、ポリテトラフルオロエチレン製フィルター(ポアサイズ1μm)を用いて精密濾過行うことで、樹脂組成物1を作製した。
(PMDAのモル数/(TFMBのモル数+X-22-1660B-3のモル数)=0.977当量)
[0199][乾燥後フィルムの形成方法]
重力に対し垂直となるように設置したコントロールコーター台にガラス基板(横:300mm×縦:350mm×厚:0.7mm)を固定し、乾燥後フィルムの膜厚が30μmとなるようにギャップ間隔を405μmに設定し、樹脂組成物1(12g)を、ガラス基板中央部に横:200mm×縦:220mmの塗膜となるようキャストした。この塗膜付ガラス基板を3枚作製した。
[0200] 次いで、得られた塗膜付ガラス基板を下記(1)?(3)のそれぞれの方法で乾燥させ、乾燥後フィルムを得た。
(1)真空乾燥機にて25℃で10分後に0.1mmHgになるように減圧にした後、常圧(760mmHg)に戻し、その後、140℃で10分間加熱乾燥
(2)ホットプレート上で、155℃で10分間加熱乾燥
(3)ホットプレート上で、170℃で10分間加熱乾燥
[0201][ポリイミド膜の形成方法]
重力に対し垂直となるように設置したコントロールコーター台にガラス基板(横:300mm×縦:350mm×厚:0.7mm)を固定し、2次乾燥後に膜厚が30μmとなるようにギャップ間隔を405μmに設定し、樹脂組成物1(12g)を、ガラス基板中央部に横:200mm×縦:220mmの塗膜となるようキャストした。
次いで、得られた塗膜付ガラス基板を真空乾燥機に入れ、25℃で10分後に0.1mmHgになるように減圧にした後、常圧(760mmHg)に戻し真空乾燥を終了した。その後、真空乾燥後の塗膜付ガラス基板を140℃で10分間加熱乾燥し(1次乾燥)、次いで、雰囲気可変乾燥機中で窒素雰囲気下、400℃で30分加熱乾燥(2次乾燥)させることで、基板付のポリイミド膜を得た。
[0202][実施例2]
TFMB(15.3050g)の代わりに、TFMB(12.6570g)および4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)2.0370gを用い、X-22-1660B-3、PMDAおよびCHNの使用量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に行い樹脂組成物2を得た。
また、樹脂組成物1の代わりに樹脂組成物2を用いた以外は実施例1と同様の方法で、乾燥後フィルムを形成した。
さらに、樹脂組成物1の代わりに樹脂組成物2を用い、2次乾燥温度を300℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で、ポリイミド膜を形成した。
・・(中略)・・
[0218][樹脂組成物の特性評価]
(1)樹脂組成物粘度
実施例および比較例で得られた樹脂組成物1.5gを用い、25℃での樹脂組成物粘度を測定した。具体的には東機産業製 粘度計 MODEL RE100を用い測定した。その結果を表1または2に記す。
・・(中略)・・
[0222] (5)白濁の有無
前記(1)?(3)の方法で乾燥した後のフィルムの白濁の有無を目視で確認した。その結果を表1または2に記す。
[0223][ポリイミド膜の評価]
(6)ガラス転移温度(Tg)
実施例および比較例で得られたポリイミド膜をガラス基板から剥離し、剥離後の膜をRigaku製 Thermo Plus DSC8230を用い、窒素下で、昇温速度を20℃/minとし、40?450℃の範囲で測定した。その結果を表1または2に記す。
[0224] (7)線膨張係数
実施例および比較例で得られたポリイミド膜をガラス基板から剥離し、剥離後の膜をSeiko Instrument SSC/5200を用い、昇温速度を6℃/minとし、25?350℃の範囲で測定した。測定結果から100?200℃の線膨張係数を算出した。その結果を表1または2に記す。
・・(中略)・・
[0227] (10)透明性
実施例および比較例で得られたポリイミド膜をガラス基板から剥離し、剥離後の膜のHaze(ヘイズ)をJIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、スガ試験機社製SC-3H型ヘイズメーターを用い測定した。その結果を表1または2に記す。
・・(中略)・・
[0229]
[表1]


[0230][表2]




(ア-2)甲1に記載された発明
上記甲1には、
(a)上記記載事項(特に[0198])からみて、
「25℃にて窒素気流下、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)15.3050g(0.0478mol)、両末端アミノ変性側鎖フェニル・メチル型シリコーンX-22-1660B-3(信越化学工業(株)製)[4.2925g(0.000976mol)]、および樹脂組成物中のポリイミド前駆体の濃度が14%となるように脱水シクロヘキサノン(CHN)184.527gを加え、完全に均一な溶液を得るまで10分間攪拌した後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.3997g(0.047679mol)を加え、60分攪拌することで反応を終了させ、次いで、精密濾過をしてなる樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)、
(b)上記記載事項(特に[0202]及び[0229])からみて、
「25℃にて窒素気流下、TFMB[12.6570g(0.0395mol)]、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)[2.0370g(0.0102mol)]、両末端アミノ変性側鎖フェニル・メチル型シリコーンX-22-1660B-3(信越化学工業(株)製)[4.4530g(0.001012mol)]、および樹脂組成物中のポリイミド前駆体の濃度が14%となるように脱水シクロヘキサノン(CHN)183.607gを加え、完全に均一な溶液を得るまで10分間攪拌した後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.8625gを加え、60分攪拌することで反応を終了させ、次いで、精密濾過をしてなる樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものといえる。

(イ)甲2ないし甲6に記載された事項
上記甲2ないし甲6には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

(イ-1)甲2
甲2は、申立人従業員が作成した実験成績証明書であり、甲1における実施例1及び2のポリイミド前駆体溶液につき、それぞれ、スピンコーティングによりガラス基板上に塗膜を形成し、30℃、湿度70%の環境に30分放置後のヘーズがいずれも0.0%であったことが開示されている(特に「4-2.ヘーズの測定」の開示内容)。

(イ-2)甲3及び甲4
甲3及び甲4には、それぞれ、シクロヘキサノンに係るlogPow(オクタノール/水分配係数)が0.81(実測値)であることが記載されている。

(イ-3)甲5
甲5には、プロピレングリコールモノエチルエーテルに係るlogPow(オクタノール/水分配係数)が0.3であることが記載されている。

(イ-4)甲6
甲6には、化学物質管理において、分配係数の測定試験は「(1-オクタノール/水)」測定試験で行うことが、日本工業規格JIS Z7260-107に規定され、その際の測定温度が20?25±2℃で行うことが規定されていることが記載されている。

イ.対比・検討

(ア)前提
新請求項9、10及び12ないし14に係る発明(以下、項番に従い「本件発明9」などという。)は、いずれも「ポリイミド系溶液」に係るものであり、「ポリイミド系溶液」の発明に係る新請求項1を直接又は間接的に引用するものである点で共通であるから、まず、新請求項1に係る「ポリイミド系溶液」の発明(以下「本件発明1」という。)につき対比・検討を行い、必要に応じて各項に係る発明につき特徴的な事項について、さらに検討を行うこととする。

(イ)対比・検討
本件発明1と甲1発明1又は甲1発明2とをそれぞれ対比すると、いずれにしても、少なくとも下記の点で相違することが明らかである。

相違点:本件発明1では「25℃での分配係数(LogP値)が正数である溶媒」であり、当該「溶媒」が「窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミドである」のに対して、甲1発明1又は甲1発明2では、いずれも「脱水シクロヘキサノン(CHN)」である点

そして、上記相違点につき検討すると、本件発明1における「窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミド」なる「溶媒」は、甲1発明1又は甲1発明2における「脱水シクロヘキサノン(CHN)」とは明らかに異なるものであるから、上記相違点は実質的な相違点であり、さらに、上記甲1には、「非アミド系溶媒」を使用することが発明特定事項として規定されている(上記摘示(a-1)[請求項1]参照。)のであるから、甲1発明1又は甲1発明2の「ポリイミド系溶液」において、「脱水シクロヘキサノン」に代えて、「窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミド」なる「溶媒」を使用することを動機付ける事項が存するものではないのみならず、むしろ当該代替使用を妨げる阻害要因が存するものと認められるから、上記相違点に係る事項が、甲1発明1又は甲1発明2において、たとえ他の甲号証に係る事項などを含む他の技術を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることということもできない。
してみると、本件発明1は、その余の点につき検討するまでもなく、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1発明1又は甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
したがって、「ポリイミド系溶液」に係る本件発明1を直接又は間接的に引用するものである点で共通である本件発明9、10及び12ないし14についても、同様の理由により、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ.各甲号証に基づく検討のまとめ
よって、本件発明9、10及び12ないし14について、各甲号証に基づき、特許を受けることができないとすべき理由はない。

(2)他の理由について
新請求項9、10及び12ないし14に係る発明につき更に検討しても、各項に係る発明について特許を受けることができないとすべき他の理由を発見しない。

(3)小括
以上のとおり、新請求項9、10及び12ないし14に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものと認められるから、新請求項9、10及び12ないし14に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

III.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において(読み替えて)準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし18について訂正を認める。

第4 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし18には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
下記の化学式2の構造を含むポリアミック酸と、25℃での分配係数(LogP値)が正数である溶媒とを含んでなり、基板上へのコーティング後、30℃、70%湿度で30分間放置後、ヘーズが1%以下であり、前記溶媒は、窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミドであるポリイミド系溶液:
【化2】


前記化学式2において、
Xは、酸二無水物から誘導された4価有機基であり、
Yは、ジアミンから誘導された2価有機基であり、
前記Xがフルオロ原子含有置換基を有する4価有機基を含むか、
前記Yがフルオロ原子含有置換基を有する2価有機基を含むか、または
前記X及びYの両方がフルオロ原子含有置換基を有する有機基を含む。
【請求項2】
前記2価有機基または4価有機基は、それぞれ独立して芳香族、脂環族、脂肪族及びこれらの組み合わせから選択される2価有機基または4価有機基である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項3】
前記ポリアミック酸は、前記Yが、フルオロ原子含有置換基を有する2価有機基である構造と、フルオロ原子含有置換基を有していない2価有機基である構造を共に含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項4】
2価有機基Yの全体モル数に対して、フルオロ置換基を有する2価有機基のモル比が0.1?1である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項5】
前記Yが、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する2価有機基を含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項6】
フルオロ原子含有置換基を有する2価有機基が、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する2価有機基であり、前記フルオロ原子含有置換基が、前記芳香族または脂環族環に直接置換されているか、前記連結基に置換されている構造である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項7】
フルオロ原子含有置換基を有する2価有機基が、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、または2,2-ビス[4-(-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンから来由された2価有機基である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項8】
フルオロ原子含有置換基を有していない2価有機基が、4,4’-オキシジアニリン、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジアニリン、パラ-フェニレンジアミン、メタ-フェニレンジアミン、及びこれらの混合物から選択される化合物から来由されたものである、請求項3に記載のポリイミド系溶液。
【請求項9】
前記ポリアミック酸は、前記Xが、フルオロ原子含有置換基を有する4価有機基である構造と、フルオロ原子含有置換基を有していない4価有機基である構造を共に含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項10】
4価有機基Xの全体モル数に対して、フルオロ置換基を有する4価有機基のモル比が0.1?1である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項11】
前記Xが、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する4価有機基を含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項12】
フルオロ原子含有置換基を有する4価有機基が、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する4価有機基であり、前記フルオロ原子含有置換基が、前記芳香族または脂環族環に直接置換されているか、前記連結基に置換されている構造である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項13】
フルオロ原子含有置換基を有する4価有機基が、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項14】
フルオロ原子含有置換基を有していない4価有機基が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、及びこれらの混合物から選択される化合物から来由されたものである、請求項9に記載のポリイミド系溶液。
【請求項15】
前記ポリイミド系溶液は、ブルックフィールド回転粘度計(Brookfield rotational viscometer)により25℃で測定した粘度が、400cP以上、かつ50,000cP以下である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項16】
請求項1から15のうちいずれか一項に記載のポリイミド系溶液を基板の一面に塗布して硬化した後、基板から分離して得られたポリイミド系フィルム。
【請求項17】
請求項16に記載のポリイミド系フィルムを含むディスプレイ基板。
【請求項18】
請求項16に記載のポリイミド系フィルムを含む素子。」
(以下、訂正後の上記請求項1ないし18に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明18」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第5 当審の判断
当審は、上記第2に示した申立人が主張する取消理由及び当審が通知した取消理由につきいずれも理由がないから、本件の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許は、いずれも取り消すことはできないものである、と判断する。以下、検討・詳述する。

1.各甲号証に記載された事項及び記載された発明
申立人が提示した各甲号証には、上記第3のII.3.(1)ア.で摘示したとおりの事項がそれぞれ記載されており、特に甲1には、その記載事項からみて、上記第3のII.3.(1)ア.で認定した、再掲すると以下の(a)及び(b)のとおりの発明が記載されているものと認められる。

(a)上記記載事項(特に[0198])からみて、
「25℃にて窒素気流下、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)15.3050g(0.0478mol)、両末端アミノ変性側鎖フェニル・メチル型シリコーンX-22-1660B-3(信越化学工業(株)製)[4.2925g(0.000976mol)]、および樹脂組成物中のポリイミド前駆体の濃度が14%となるように脱水シクロヘキサノン(CHN)184.527gを加え、完全に均一な溶液を得るまで10分間攪拌した後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.3997g(0.047679mol)を加え、60分攪拌することで反応を終了させ、次いで、精密濾過をしてなる樹脂組成物。」
に係る発明(甲1発明1)、
(b)上記記載事項(特に[0202]及び[0229])からみて、
「25℃にて窒素気流下、TFMB[12.6570g(0.0395mol)]、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)[2.0370g(0.0102mol)]、両末端アミノ変性側鎖フェニル・メチル型シリコーンX-22-1660B-3(信越化学工業(株)製)[4.4530g(0.001012mol)]、および樹脂組成物中のポリイミド前駆体の濃度が14%となるように脱水シクロヘキサノン(CHN)183.607gを加え、完全に均一な溶液を得るまで10分間攪拌した後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.8625gを加え、60分攪拌することで反応を終了させ、次いで、精密濾過をしてなる樹脂組成物。」
に係る発明(甲1発明2)。

2.取消理由についての検討
以下、取消理由につき請求項ごとに検討する。

(1)本件発明1について
本件発明1につき検討すると、上記第3のII.3.(1)イ.で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(2)本件発明2ないし8、11及び15ないし18について
本件発明2ないし8、11及び15ないし18について検討すると、各発明は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(3)小括
してみると、本件の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許は、甲1に基づき、特許法第29条の規定に違反してされたものということはできず、申立人が主張する取消理由1及び2並びに当審が通知した取消理由は、いずれも理由がない。

3.他の取消理由について
職権により更に検討しても、本件の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。

4.当審の判断のまとめ
したがって、本件の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべき理由がなく、取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許に対する令和元年7月16日付け訂正請求は、適法であるからこれを認めるとともに、訂正後の請求項1ないし8、11及び15ないし18に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべき理由がなく、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式2の構造を含むポリアミック酸と、25℃での分配係数(LogP値)が正数である溶媒とを含んでなり、基板上へのコーティング後、30℃、70%湿度で30分間放置後、ヘーズが1%以下であり、前記溶媒は、窒素原子に2個の炭素数2?6のアルキル基が置換されたN,N-ジアルキルアミドであるポリイミド系溶液:
【化2】

前記化学式2において、
Xは、酸二無水物から誘導された4価有機基であり、
Yは、ジアミンから誘導された2価有機基であり、
前記Xがフルオロ原子含有置換基を有する4価有機基を含むか、
前記Yがフルオロ原子含有置換基を有する2価有機基を含むか、または
前記X及びYの両方がフルオロ原子含有置換基を有する有機基を含む。
【請求項2】
前記2価有機基または4価有機基は、それぞれ独立して芳香族、脂環族、脂肪族及びこれらの組み合わせから選択される2価有機基または4価有機基である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項3】
前記ポリアミック酸は、前記Yが、フルオロ原子含有置換基を有する2価有機基である構造と、フルオロ原子含有置換基を有していない2価有機基である構造を共に含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項4】
2価有機基Yの全体モル数に対して、フルオロ置換基を有する2価有機基のモル比が0.1?1である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項5】
前記Yが、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する2価有機基を含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項6】
フルオロ原子含有置換基を有する2価有機基が、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する2価有機基であり、前記フルオロ原子含有置換基が、前記芳香族または脂環族環に直接置換されているか、前記連結基に置換されている構造である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項7】
フルオロ原子含有置換基を有する2価有機基が、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、または2,2-ビス[4-(-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンから来由された2価有機基である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項8】
フルオロ原子含有置換基を有していない2価有機基が、4,4′-オキシジアニリン、4,4′-(9-フルオレニリデン)ジアニリン、パラ-フェニレンジアミン、メタ-フェニレンジアミン、及びこれらの混合物から選択される化合物から来由されたものである、請求項3に記載のポリイミド系溶液。
【請求項9】
前記ポリアミック酸は、前記Xが、フルオロ原子含有置換基を有する4価有機基である構造と、フルオロ原子含有置換基を有していない4価有機基である構造を共に含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項10】
4価有機基Xの全体モル数に対して、フルオロ置換基を有する4価有機基のモル比が0.1?1である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項11】
前記Xが、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する4価有機基を含む、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項12】
フルオロ原子含有置換基を有する4価有機基が、一環式または多環式芳香族、一環式または多環式脂環族、あるいはこれらのうち二つ以上が単一結合または連結基により連結された構造を有する4価有機基であり、前記フルオロ原子含有置換基が、前記芳香族または脂環族環に直接置換されているか、前記連結基に置換されている構造である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項13】
フルオロ原子含有置換基を有する4価有機基が、4,4′-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項14】
フルオロ原子含有置換基を有していない4価有機基が、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸無水物、2,3,3′,4′-オキシジフタル酸無水物、及びこれらの混合物から選択される化合物から来由されたものである、請求項9に記載のポリイミド系溶液。
【請求項15】
前記ポリイミド系溶液は、ブルックフィールド回転粘度計(Brookfield rotational viscometer)により25℃で測定した粘度が、400cP以上、かつ50,000cP以下である、請求項1に記載のポリイミド系溶液。
【請求項16】
請求項1から15のうちいずれか一項に記載のポリイミド系溶液を基板の一面に塗布して硬化した後、基板から分離して得られたポリイミド系フィルム。
【請求項17】
請求項16に記載のポリイミド系フィルムを含むディスプレイ基板。
【請求項18】
請求項16に記載のポリイミド系フィルムを含む素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-24 
出願番号 特願2016-544304(P2016-544304)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C08G)
P 1 652・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6368961号(P6368961)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 ポリイミド系溶液、及びこれを用いて製造されたポリイミド系フィルム  
代理人 龍華国際特許業務法人  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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