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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 特39条先願  C12N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
管理番号 1357665
異議申立番号 異議2018-700538  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-05 
確定日 2019-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6257559号発明「脈管周囲の間葉系前駆細胞」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6257559号の特許請求の範囲を令和1年7月5日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?11]について訂正することを認める。 特許第6257559号の請求項2?11に係る特許を維持する。 特許第6257559号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6257559号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成16年3月29日(パリ条約による優先権主張 2003年3月28日 オーストラリア)を国際出願日とする特願2006-503989号の一部を新たな特許出願とした特願2010-274732号の一部を、さらに新たな特許出願として平成27年6月2日に出願されたものであって、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月10日に特許公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 7月 5日 特許異議申立人成田隆臣による請求項1?11に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年 9月20日付け 取消理由通知書
平成30年12月26日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 2月20日 特許異議申立人による意見書の提出
平成31年 3月29日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 7月 5日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和1年7月5日付け訂正請求に対して、特許異議申立人は意見書を提出しなかった。
平成30年12月26日に提出された訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和1年7月5日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正は、一群の請求項[1?11]について訂正事項1?10の訂正を求める、次のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記細胞がマーカーSTRO-1^(bright)を同時発現する、請求項1に記載の細胞集団」と記載されているのを、「マーカーSTRO-1^(bright)を同時発現し、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記細胞が造血マーカーCD45、CD34およびグリコホリン-A陰性である、請求項1に記載の細胞集団」と記載されているのを、「造血マーカーCD45、CD34およびグリコホリン-A陰性であり、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞集団」と記載されているのを、「請求項2または3に記載の細胞集団」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞集団」と記載されているのを、「請求項2から5のいずれか一項に記載の細胞集団」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「3G5を発現し、クローン原性コロニーを形成することが可能であり、3種以上の間葉系組織型へと分化することが可能である細胞を少なくとも1%含む、請求項1に記載の細胞集団」と記載されているのを、「3G5を発現し、クローン原性コロニーを形成することが可能であり、3種以上の間葉系組織型へと分化することが可能である細胞を少なくとも1%含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「少なくとも1%のSTRO-1^(bright)の細胞を含む、請求項1または7に記載の細胞集団」と記載されているのを、「少なくとも1%のSTRO-1^(bright)の細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「少なくとも10%の3G5を発現する細胞を含む、請求項1または7に記載の細胞集団」と記載されているのを、「少なくとも10%の3G5を発現する細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも10%のSTRO-1^(bright)を発現する細胞を含む、請求項1または7に記載の細胞集団」と記載されているのを、「少なくとも10%のSTRO-1^(bright)を発現する細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1から10のいずれか一項に記載の細胞集団」と記載されているのを、「請求項2から10のいずれか一項に記載の細胞集団」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲から請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用していたところ、請求項1の削除に伴って実質的に独立請求項に書き改め、同時に明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1を引用していたところ、請求項1の削除に伴って実質的に独立請求項に書き改め、同時に明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1から3のいずれか一項を引用していたところ、請求項1の削除に伴って引用請求項から請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1から5のいずれか一項を引用していたところ、請求項1の削除に伴って引用請求項から請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項7が請求項1を引用していたところ、請求項1の削除に伴って実質的に独立請求項に書き改め、同時に明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項8が請求項1を引用していたところ、請求項1の削除に伴って実質的に独立請求項に書き改め、同時に明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項9が請求項1を引用していたところ、請求項1の削除に伴って実質的に独立請求項に書き改め、同時に明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項10が請求項1を引用していたところ、請求項1の削除に伴って実質的に独立請求項に書き改め、同時に明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
コ 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項11が請求項1から10のいずれか一項を引用していたところ、請求項1の削除に伴って引用請求項から請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び/又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合する。したがって、訂正後の請求項[1?11]について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 (削除)
【請求項2】 マーカーSTRO-1^(bright)を同時発現し、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項3】 造血マーカーCD45、CD34およびグリコホリン-A陰性であり、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項4】 前記細胞が哺乳動物から単離される、請求項2または3に記載の細胞集団。
【請求項5】 前記哺乳動物がヒトである、請求項4に記載の細胞集団。
【請求項6】 前記細胞が、少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有する、請求項2から5のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】 3G5を発現し、クローン原性コロニーを形成することが可能であり、3種以上の間葉系組織型へと分化することが可能である細胞を少なくとも1%含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項8】 少なくとも1%のSTRO-1^(bright)の細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項9】 少なくとも10%の3G5を発現する細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項10】 少なくとも10%のSTRO-1^(bright)を発現する細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項11】 前記集団が培養増殖している、請求項2から10のいずれか一項に記載の細胞集団。」
(以下、それぞれ「本件訂正発明2」、「本件訂正発明3」等という。)

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?11に係る特許に対して、当審が平成30年9月20日付け及び平成31年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(同日出願)(平成30年9月20日付け)
本件特許の請求項1、4?6、9、11に係る発明は、同一出願人が同日出願した特願2013-122605号(以下、「同日出願」という。)の請求項1、4?6、12、11に係る発明(平成30年8月16日付け訂正請求により訂正されたもの)と同一と認められるから、この通知書と同日に発送した特許庁長官名による別紙指令書に記載した届出がないときは特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2 取消理由2(サポート要件)(平成30年9月20日付け)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 取消理由3(明確性要件)(平成30年9月20日付け及び平成31年3月29日付け)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4 取消理由4(実施可能要件)(平成30年9月20日付け及び平成31年3月29日付け)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断
1 取消理由1(同日出願)について
本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件訂正により、上記第3のとおりのもの(本件訂正発明1?11)となった。それに対して、同日出願の特許請求の範囲のうち細胞集団に係る請求項1?12は、平成31年2月22日付け訂正請求により次のとおりのものとなった。
「【請求項1】 脂肪組織に由来し、多能であり、表面マーカー3G5に対して陽性である、細胞集団。
【請求項2】 中胚葉起源の少なくとも3種の分化した細胞型を形成するように分化する能力を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 哺乳動物から単離される、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項5】 前記哺乳動物がヒトである、請求項4に記載の細胞集団。
【請求項6】 少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有する、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項7】 増殖している、請求項1、2および4から6のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】 マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも0.1%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項9】 マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも1%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項10】 マーカー3G5を高レベルで発現するMPCを少なくとも2%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項11】 マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも5%含む、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項12】 マーカー3G5を高レベルで発現する細胞を少なくとも10%含む、請求項7に記載の細胞集団。」
本件訂正発明2?6、8及びそれらを引用する本件訂正発明11は、3G5以外のマーカーによる特定を含むから、マーカーとして3G5のみにより特定された同日出願の請求項1?12に係る発明のいずれとも同一ということはできない。
また、本件訂正発明7は「3G5を発現し、クローン原性コロニーを形成することが可能であり、3種以上の間葉系組織型へと分化することが可能である細胞を少なくとも1%含み」という発明特定事項を有する点で、同日出願の請求項1?12に係る発明のいずれとも同一ということはできない。
さらに、本件訂正発明9において「発現」は必ずしも高レベルで発現することを必要としないから、同日出願の請求項12に係る発明と同一ということはできないし、その他の請求項に係る発明と同一ではない。
そして、本件訂正発明11は、本件訂正発明2から10のいずれか一項を引用するものであるから、それらと同様に、同日出願のいずれの請求項に係る発明とも同一であるということはできない。
以上のとおり、本件訂正発明2?11は同日出願の発明と同一であるとはいえないから、取消理由1は理由がない。

2 取消理由2(サポート要件)について
(1)取消理由の具体的内容
ア 訂正前の請求項6?11に対して
訂正前の請求項6に係る発明は、「表面マーカー3G5陽性であり、脂肪組織に由来する、単離した細胞集団」(訂正前の請求項1)であって、「少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有する」ものである。
それに対して、発明の詳細な説明において、上記分化誘導能力を有することが実験的に立証されているのは、脂肪組織(単細胞懸濁物)からSTRO-1陽性且つCD146陽性として選別された細胞集団(図12)のみである。脂肪組織(単細胞懸濁物)から3G5陽性として選別された細胞集団については、クローン原性コロニー形成単位(CFU-F)が高い効率で得られること(図10、段落【0076】)が示されているにすぎないから、技術常識を考慮しても、訂正前の請求項6及びそれを引用する請求項8?11に係る発明は、発明の詳細な説明により裏付けられていない。
イ 訂正前の請求項1?11に対して
特許請求の範囲及び発明の詳細な説明(特に、【0004】?【0011】)の記載からみて、訂正前の請求項1?11に係る発明は、広範な組織から多能性間葉系前駆細胞(MPC)を提供するという課題を、脂肪組織に対して表面マーカー3G5の存在を指標にすることで解決したものであると認められる。
それに対して、上記アで指摘したとおり、発明の詳細な説明には、脂肪組織(単細胞懸濁物)から3G5陽性として選別された細胞集団が複数種類の細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有すること、すなわちMPCであることについて開示されていない。技術常識を考慮しても、訂正前の請求項1?11に係る発明は、発明の詳細な説明に課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとはいえない。

(2)当審の判断
ア 上記ア及びイについて
本件特許明細書には、クローン原性細胞コロニー(CFU-F)を形成する能力は異なる幹細胞集団の中で共通する特徴であることが、フリーデンスタインらによる参照文献等を引用して記載されている(段落【0043】)。また、本件原出願の国際出願日(2004年3月29日)の1年余前に発行された間葉系幹細胞に関する総説である乙第1号証(Arthritis Research and Therapy, vol.5, pp.32-45 (11 December 2002))には、フリーデンスタインらは骨髄からCFU-Fを単離し、それらが骨髄様コロニーや軟骨様コロニーを形成できることを示し、その方法により単離された細胞が多能性間葉系前駆細胞の特性を有することがその後の多くの研究により示されたことが記載されている(第33頁右欄11?15行、第34頁左欄第6?8行)。さらに、本件原出願の国際出願日の約5年後に発行された間葉系幹細胞に関する総説である参考資料1(医学のあゆみ,vol.229, pp.681-685 (2009.5.30))は、本件原出願の国際出願日より前の1974年発行の文献3を引用して骨髄間質細胞成分のコロニー形成能をフリーデンスタインらの重要な仕事として紹介し、これはもともと造血系で使用されてきたCFU-Fを間葉系細胞にまで外挿したものであって、CFU-Fを移植すると骨、軟骨、脂肪組織、線維性組織を形成することを記載し(第681頁右欄第7?22行)、公知日が判然としない参考文献2(島根大学発バイオベンチャーPuRECのウェブサイトhttp://www.purec.jp/research_and_development/)は、現在流通している間葉系幹細胞は、骨髄単核細胞から得られたCFU-Fを回収したものであること、これは分化・増殖能をもつ細胞を低頻度で含む細胞集団であることを本件原出願の国際出願日より前の2000年発行の論文を引用して記載している(「1.現状と問題点」、「1.分化能」)。
これらの記載に照らすと、本件原出願の国際出願日当時、CFU-Fは、間葉系組織から、間葉系細胞への分化能を有する幹細胞を含む細胞集団を得る指標であると当業者に広く認識されていたと認めることができる。
本件訂正発明2?11はいずれも「表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する」という発明特定事項を含む「細胞集団」であるところ、本件特許明細書には、代表的な間葉系組織である末梢脂肪に由来する単細胞懸濁物の3G5陽性画分は陰性画分よりもCFU-F形成能が高いことが具体的データにより示されているのだから(図9)、本件訂正発明2?11の細胞集団は、本件訂正発明6及び7の発明特定事項である間葉系細胞への分化能を有する幹細胞を含んでおり、解決しようとする課題(多能性間葉系前駆細胞の提供)を解決できると当業者が認識できる程度に開示されているといえる。
したがって、取消理由2は理由がない。
イ 異議申立人の主張について
異議申立人は、参考資料1に「CFU-Fにしても一つのコロニー内に多分化形質を示した論文はない」と記載されていること、参考資料2にCFU-Fとして回収された細胞集団には分化・増殖能をもつ細胞は低頻度でしか含まれていないことや増殖回数に限界があることが記載されていること、乙第1号証は脂肪組織に由来する細胞に関する技術的な認識を記載したものではないことを指摘して、本件特許がサポート要件を満たさない旨主張する。
しかし、本件訂正発明2?11は「・・・、表面マーカー3G5陽性である細胞を含む、脂肪組織に由来する、・・・細胞集団」というものであって、細胞集団に含まれる全ての細胞が多分化能を有していることを必ずしも必要としないのだから、参考資料1及び2の上記記載事項は上記アの判断を左右するものではない。また、乙第1号証は間葉系幹細胞に関する総説であって、たとえCFU-Fに関して引用された論文が骨髄や造血系細胞に関するものだけであるとしても、CFU-Fは細胞の接着性に基づくもので、骨髄や造血系細胞特有の性質ではないのだから、脂肪組織も含む間葉系組織一般には適用できないとする事情は見いだせない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用することができない。

3 取消理由3(明確性要件)、4(実施可能要件)について
(1)取消理由の具体的内容
訂正前の請求項1に係る発明は、「表面マーカー3G5陽性であり、脂肪組織に由来する、単離した細胞集団。」というものであり、当該技術分野における通常の文言通りの解釈では、脂肪組織から3G5陽性に基づいて単離された細胞の集団を意味し、当該細胞集団に含まれる実質的に全ての細胞が3G5陽性であると認められる。 しかし、同請求項1を引用する同請求項9には「少なくとも10%の3G5を発現する細胞を含む、請求項1または7に記載の細胞集団。」とあり、同請求項1に係る細胞集団は3G5を発現しない細胞も含むことになり、上述の通常の解釈を逸脱するから、同請求項1及びそれを引用する同請求項2?11は不明確である。
仮に、同請求項1に係る細胞集団が3G5を発現しない細胞も含むのであれば、「単離した」の意味が不明確であり、「単離した細胞集団」がどのような範囲のものを意味するのかが不明確である。
このとおり訂正前の請求項1?11に係る細胞集団は明確でないから、発明の詳細な説明は、当該細胞集団を当業者が得ることができ、使用することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいうことができない。

(2)当審の判断
本件訂正により、請求項1は削除され、請求項1を引用していた請求項2、3、7?10は訂正されて独立請求項となって「表面マーカー3G5陽性であり、脂肪組織に由来する、単離した細胞集団」の代わりに「表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団」という記載を含むものとなり、請求項4?6及び11はそれらに従属するから、上記(1)の明確性要件違反及び実施可能要件違反は解消した。
したがって、取消理由3及び4は理由がない。

4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(すなわち、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由)によっては、請求項2?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、請求項1に係る特許は本件訂正により削除され、請求項1に係る特許異議申立てはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
他に請求項2?11に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
マーカーSTRO-1^(bright)を同時発現し、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項3】
造血マーカーCD45、CD34およびグリコホリン-A陰性であり、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項4】
前記細胞が哺乳動物から単離される、請求項2または3に記載の細胞集団。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項4に記載の細胞集団。
【請求項6】
前記細胞が、少なくとも骨芽細胞、軟骨、または脂肪細胞のうち1種または複数を含む細胞を形成するように分化するよう誘導される能力を有する、請求項2から5のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
3G5を発現し、クローン原性コロニーを形成することが可能であり、3種以上の間葉系組織型へと分化することが可能である細胞を少なくとも1%含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項8】
少なくとも1%のSTRO-1^(bright)の細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項9】
少なくとも10%の3G5を発現する細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項10】
少なくとも10%のSTRO-1^(bright)を発現する細胞を含み、表面マーカー3G5陽性である細胞を富化した、脂肪組織に由来する、細胞集団。
【請求項11】
前記集団が培養増殖している、請求項2から10のいずれか一項に記載の細胞集団。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-30 
出願番号 特願2015-112336(P2015-112336)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C12N)
P 1 651・ 4- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 松岡 徹
長井 啓子
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6257559号(P6257559)
権利者 メゾブラスト,インコーポレーテッド
発明の名称 脈管周囲の間葉系前駆細胞  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
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