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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1357680
異議申立番号 異議2018-700620  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-26 
確定日 2019-11-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6273265号発明「柔軟度が高い粘着組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6273265号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6273265号の請求項1?3及び5?12に係る特許を維持する。 特許第6273265号の請求項4に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6273265号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2012年12月24日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月24日(KR)韓国〕を国際出願日とする特願2015-513876号として特許出願されたものであって、平成30年1月12日に特許権の設定登録がされ、同年1月31日にその特許掲載公報が発行され、その請求項1?12に係る発明の特許に対し、平成30年7月26日に水野智之(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年10月26日付け 取消理由通知
平成31年 1月28日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 1月31日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 3月 5日 意見書(特許異議申立人)
令和元年 5月15日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 8月19日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月20日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月24日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成31年1月28日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、
令和元年8月19日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は『特許第6273265号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?8からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「共重合体を含み、」とあるのを、
訂正後の請求項1で「共重合体;及び硬化剤を含み、」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?12も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に「前記の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、20重量部?60重量部であり、」とあるのを、
訂正後の請求項1で「前記の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、20重量部?60重量部であり、
前記硬化剤は、2官能のイソシアネート系化合物であり、
前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部?7.0重量部の前記硬化剤を含み、」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?12も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項5に「ASTM D3330 Modifiedによって測定する際3000g/in?4000g/inの粘着力」とあるのを、
訂正後の請求項5で「ASTM D3330 Modifiedによって測定する際、1158N/m?1544N/mの粘着力」との記載に訂正する(請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項8?12も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項8に「請求項1?7のいずれかに記載の粘着層」とあるのを、
訂正後の請求項8で「請求項1?3及び5?7のいずれかに記載の粘着層」に訂正する(請求項8の記載を直接に引用する請求項9及び10も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項11に「請求項1?7のいずれかに記載の粘着層」とあるのを、
訂正後の請求項11で「請求項1?3及び5?7のいずれかに記載の粘着層」に訂正する(請求項11の記載を直接に引用する請求項12も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落0040、0042、0046、0049、0053、0056及び0059の各々に「<実験例1>」、「<実験例2>」、「実験例3>」、「<実験例4>」、「<実験例4>」、「<実験例6>」及び「<実施例7>」とあり、これらの段落の各々に「試験例1ないし8」とあるのを、
訂正後の明細書の段落0040、0042、0046、0049、0053、0056及び0059の各々で「<試験例1>」、「<試験例2>」、「試験例3>」、「<試験例4>」、「<試験例5>」、「<試験例6>」及び「<試験例7>」との記載に訂正するとともに、これらの段落の各々で「実施例1ないし8」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落0040に「測定の際に3000g/inないし4000g/inの粘着力」とあるのを、
訂正後の明細書の段落0040で「測定の際に1158N/mないし1544N/mの粘着力」に訂正するとともに、
訂正前の明細書の段落0041の表2の「g/in」の単位系での記載を「N/m」の単位系での記載に、その換算値への修正を含めて訂正する。

(9)一群の請求項について
訂正前の請求項1?12は、その請求項1を請求項2?12が直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?12に対応する訂正後の請求項1?12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「共重合体を含み、」を「共重合体;及び硬化剤を含み、」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1は、上記ア.で述べたように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項1は、訂正前の請求項4の「硬化剤をさらに含む」との記載、及び明細書の段落0029の「本発明の粘着組成物は硬化剤を含む。」との記載に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア.訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「20重量部?60重量部であり、」との記載の後に「前記硬化剤は、2官能のイソシアネート系化合物であり、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部?7.0重量部の前記硬化剤を含み、」という発明特定事項を直列的に付加することにより、硬化剤の種類と量を限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2は、上記ア.で述べたように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項2は、訂正前の請求項4の「0.01重量部?7.0重量部の硬化剤をさらに含む」との記載、並びに明細書の段落0029の「本発明の硬化剤は多官能…イソシアネート系…の硬化剤を制限なく使用できる。」との記載、同段落0037の「硬化剤としてはトルエンジイソシアネートを使用し」との記載、及び当該「トルエンジイソシアネート」が化合物名から把握されるとおりの2つのイソシアネート官能基を有する「2官能のイソシアネート系化合物」であるとの技術常識に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア.訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項3は、上記ア.で述べたように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項3は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア.訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項5の「g/in」の単位を計量法に従った単位である「N/m」に換算して改めるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項4は、粘着力の単位系を計量法に従った単位系に改めるだけのものであって、訂正前の粘着力の数値範囲が拡張又は変更されるものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項3は、粘着力の単位系を計量法に従った単位系に換算することにより導き出されるものであって、その換算方法は当業者の技術常識の範囲内であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)訂正事項5及び6について
訂正事項5及び6は、訂正前の請求項8及び11の「請求項1?7のいずれか」との記載を「請求項1?3及び5?7のいずれか」との記載に改めて、請求項4を引用する場合のものを削除して減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項5及び6は、上記ア.で述べたように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項5及び6は、請求項4を引用する場合のものを削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(6)訂正事項7について
ア.訂正の目的
訂正事項7は、明細書の「実験例1」等の誤記を、本来意図する「試験例1」等の正しい記載に改めるためのものであるからは、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項7は、明細書の誤記を訂正するものであり、特許請求の範囲に記載の用語の技術的意義を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項7は、訂正に係る誤記の本来意図する内容を明細書全体の記載から自明に導き出されるものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(7)訂正事項8について
ア.訂正の目的
訂正事項8は、訂正前の明細書の「g/in」の単位系での記載を計量法に従った「N/m」の単位系での記載に換算して改めるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項8は、明細書の粘着力の単位系の記載を計量法に従った単位系での記載に改めるだけのものであって、特許請求の範囲に記載の粘着力の技術的範囲を拡張又は変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項8は、粘着力の単位系を計量法に従った単位系に換算することにより導き出されるものであって、その換算方法は当業者の技術常識の範囲内であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(8)明細書の訂正と関連する請求項について
訂正事項7及び8による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1?12であるから、訂正事項7及び8と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。
したがって、訂正事項7及び8による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3.訂正の適否のまとめ
以上総括するに、訂正事項1?8による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1?12に係る発明(以下「本1発明」?「本12発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】アルキルの炭素数が2?14のアルキルアクリル酸エステル単量体(ただし、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体を除く)、およびアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体と、前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)を、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して0.05重量部ないし5.0重量部の分子量調節剤の存在下で共重合して得られる共重合体;及び硬化剤を含み、
前記の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、20重量部?60重量部であり、
前記硬化剤は、2官能のイソシアネート系化合物であり、
前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部?7.0重量部の前記硬化剤を含み、
前記アクリル酸エステル単量体は、イソボルニルアクリレートまたはイソボルニルメタクリレートであり、
前記のアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、40重量部?70重量部である粘着組成物から成る粘着層であって、
ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)が15000Pa?40000Paであり、
ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数と、60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数の差が45000Pa?65000Paである、粘着層。
【請求項2】前記アルキルアクリル酸エステル単量体は、エチル(メタ)アクリレート、n?プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n?ブチル(メタ)アクリレート、t?ブチル(メタ)アクリレート、sec?ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2?エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n?オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、およびテトラデシル(メタ)アクリレートで構成される群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項3】前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、2?ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2?ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4?ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2?ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、および2?ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレートで構成される群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項4】(削除)
【請求項5】ASTM D3330 Modifiedによって測定する際、1158N/m?1544N/mの粘着力を有することを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項6】ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)が70000Pa?95000Paであることを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項7】前記粘着組成物が、カップリング剤、および光開始剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項8】請求項1?3及び5?7のいずれかに記載の粘着層;および
前記粘着層の両面にそれぞれ位置する剥離ライナーを含む粘着フィルム。
【請求項9】前記剥離ライナーは、相互異なる離型力を有することを特徴とする請求項8に記載の粘着フィルム。
【請求項10】前記粘着層の厚さは20μm?350μmであることを特徴とする請求項8に記載の粘着フィルム。
【請求項11】請求項1?3及び5?7のいずれかに記載の粘着層を含むタッチパネル。
【請求項12】請求項11に記載のタッチパネルを含む電子機器。」

第4 取消理由通知の概要
訂正前の請求項1?12に係る特許に対して平成30年10月26日付け及び令和元年5月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?12に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
(あ)特定の条件で測定した「せん断貯蔵弾性係数」という「機能・特性等」を満たす「粘着層」を得るために「過度の試行錯誤」が必要になる点
よって、本件特許の請求項1?12に係る発明に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1?12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(い)硬化剤の含量の範囲の点
(う)硬化剤の種類の範囲の点
よって、本件特許の請求項1?12に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許の請求項4及び5並びにその従属項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
(え)請求項4の「硬化剤をさらに含む」の点
(お)請求項5の「g/in」との単位系の点
よって、本件特許の請求項4?5及び8?12に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1(実施可能要件)について
(1)本件特許の請求項1の記載は「ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)が15000Pa?40000Paであり、ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数と、60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数の差が45000Pa?65000Paである」という「機能・特性等によって物を特定しようとする記載を含む」ものである。

(2)これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その段落0037の「硬化剤としてはトルエンジイソシアネートを使用し、分子量調節剤は2?メルカプトエタノールを使用した。」との記載にあるとおりの特定の「硬化剤」と「分子量調節剤」の適量を用いることによって、上記「機能・特性等」を満たす「粘着層」が得られることの記載がなされている。

(3)そして、訂正後の請求項1では、その「硬化剤」の種類と量が「2官能のイソシアネート系化合物」と「0.01重量部?7.0重量部」の範囲に限定されているので、上記「機能・特性等」を満たす「粘着層」を得るための「硬化剤」の種類と量の条件を設定するために、当業者に期待し得る程度を越え得る試行錯誤・複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。

(4)また、平成31年1月28日付けの意見書の第13頁には、1つの分子量調節剤が、1つの成長する高分子鎖の活性種を移動させるという「分子量調節剤の作用メカニズム」が説明されているところ、このようなメカニズムは、分子量調節剤の種類とは関係なく、どのような分子量調節剤を用いても同様のメカニズムで作用すると解されるので、上記「機能・特性等」を満たす「粘着層」を得るための「分子量調節剤」の種類と量の条件を設定するために、当業者に期待し得る程度を越え得る試行錯誤・複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。

(5)したがって、理由1の(あ)に指摘した点について、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が訂正後の請求項1?3及び5?12に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえない。

2.理由2(サポート要件)について
(1)本件特許の請求項1?3及び5?12に係る発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0007の記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて『柔軟度が高いため厚さが薄くても印刷段差を解消できると共に、裁断特性、耐久性等に優れた粘着組成物から成る粘着層である粘着層、当該粘着層を含む粘着フィルム、及びタッチパネル、並びに当該タッチパネルを含む電子機器の提供』にあるものと認められる。

(2)そして、上記(い)の硬化剤の含量について、訂正後の請求項1においては「硬化剤の含量」が「0.01重量部?7.0重量部」の範囲に限定されたところ、本件特許明細書の段落0030の「硬化剤の含量が0.01重量部未満で添加されると硬化反応時間が長くなったり硬化が十分されないためフィルム成形が困難になり得る。逆に、硬化剤の含量が7.0重量部を超えると未反応硬化剤が不純物として残ったり過硬化によって過度に硬直して使用性が低下し得る。」という「作用機序」の説明に照らし、訂正後の請求項1に記載された硬化剤の含量の範囲が、サポート要件を満たし得ない範囲にあるということはできない。

(3)また、上記(う)の硬化剤の種類について、訂正後の請求項1においては「硬化剤の種類」が「2官能のイソシアネート系化合物」に特定されたところ、本件特許明細書の段落0037の「トルエンジイソシアネート」を「硬化剤」として使用した実施例1?8の「実験結果」の記載に照らし、訂正後の請求項1に記載された硬化剤の種類の範囲が、サポート要件を満たし得ない範囲にあるということはできない。

(4)したがって、理由2の(い)及び(う)に指摘した点について、訂正後の請求項1?3及び5?12の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

3.理由3(明確性要件)について
(1)上記(え)の請求項4の「硬化剤をさらに含む」の点について、請求項4は削除されたので、訂正後の請求項4の記載が不明確であるとはいえない。

(2)上記(お)の請求項5の「g/in」との単位系の点について、その単位系は「N/m」に訂正されたので、訂正後の請求項5の記載が不明確であるとはいえない。

(3)したがって、理由3の(え)及び(お)に指摘した点について、訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(進歩性)
ア.申立理由1の概要
特許異議申立人が主張する申立理由1は「本件特許発明1?12は、甲第1号証?甲第7号証の記載を考慮して、当業者が容易に想到し得た発明である」から、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである。

イ.甲第1?7号証及び記載事項
甲第1号証:特表2012-504512号公報(主引例)
甲第2号証:特開2008-174658号公報(周知技術)
甲第3号証:特開2011-99078号公報(周知技術)
甲第4号証:特開2010-195942号公報(周知技術)
甲第5号証:特開2011-68718号公報(技術常識)
甲第6号証:国際公開第2010/044229号(副引例)
甲第7号証:特開2012-87302号公報(副引例)

甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】
少なくとも1つの主表面を有する第一基材と、
少なくとも1つの主表面を有する第二基材と、
前記第一基材の少なくとも1つの主表面と前記第二基材の少なくとも1つの主表面との間で、前記第一基材の少なくとも1つの主表面と前記第二基材の少なくとも1つの主表面と接触して位置する、曇点耐性の光学的に透明な接着剤組成物と、
を含む、光学的に透明な積層体であって、前記接着剤組成物は、
アルキル基中に1?14個の炭素原子を有する、約60?約95重量部のアルキルアクリレートと、
0?約5部の共重合可能な極性モノマーと、
400未満のOH等量を有する、約5?50部のヒドロキシル含有モノマーと、
を含む前駆体から誘導される、光学的に透明な積層体。」

摘記1b:段落0003、0023?0024及び0029
「【0003】
光学的に透明な感圧性接着剤(OCAs)には、光学ディスプレイにおいて幅広い用途がある。…
【0023】
感圧性接着剤の光学的透明性を著しく低下させない限り、例えば、油、可塑剤、酸化防止剤、UV安定剤、顔料、硬化剤、ポリマー添加剤、及び他の添加物などの、他の材料を、特別な目的のために加えることができる。
【0024】
提供される接着剤組成物は、前駆体混合物に加えられた追加の構成要素を有してよい。例えば、混合物は、多官能架橋剤を含んでよい。このような架橋剤として、溶剤をコーティングした接着剤を調製する乾燥工程中に活性化される熱架橋剤、及び重合工程中に共重合する架橋剤が挙げられる。このような熱架橋剤として、多官能イソシアネート、アジリジン、多官能(メタ)アクリレート、及びエポキシ化合物を挙げることができる。代表的な架橋剤として、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートなどの二官能性アクリレート又は当業者に既知の多官能アクリレートが挙げられる。有用なイソシアネート架橋剤として、例えば、DESMODUR L-75として、Bayer、Cologne、Germanyより入手可能な芳香族ジイソシアネートが挙げられる。紫外線、つまり「UV」活性型架橋剤も、感圧性接着剤を架橋するのに使用することができる。このようなUV架橋剤として、ベンゾフェノン及び4-アクリロキシベンゾフェノンを挙げることができる。…
【0029】
光学フィルム又は光学的に透明な基材、及び光学フィルム又は基材の少なくとも1つの主表面に隣接した曇点耐性の光学的に透明な感圧性接着剤層を含む積層体を提供する。」

摘記1c:段落0039、0066?0067、0070及び0073
「【0039】
【表1】…
EHA -2-エチルヘキシルアクリレート …
DMAPMA -N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、…
iBOA -アクリル酸イソボルニル
IRGACURE 651 -2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフォン、 …
HDDA 1,6-ヘキサンジオールジアクリレート …
HEA 2-ヒドロキシエチルアクリレート …
【0066】
(実施例15)
モノマープレミックスを、IRGACURE 651(0.04部)、DMAPMA(0.5部)、EHA(65部)、iBOA(20部)、及びHEA(15部)を使用して調製した。混合物を、窒素リッチ雰囲気下にて紫外線にさらすことで、部分的に重合させて、約1.5Pa.s(1500cps)の粘度を有するコーティング可能なシロップを得た。次に、HDDA(0.1部)及び追加のIRGACURE 651(0.11部)をシロップに加え、シロップを、2つのシリコン処理した剥離ラインの間で175μmの厚さにてナイフコーティングした。次に、得られたコーティング材を、351nmで最大の、300?400nmのスペクトル出力を有する低強度紫外線(1J/cm^(2)の全エネルギー)にさらした。得られたOCAを、125マイクロメートル厚のポリエステルフィルム(DuPontより入手可能なMelinex 617)とMR200又はMR58のいずれかより選択した1mm厚のプラスチックパネルとの間に積層した(ポリカーボネート側)。積層した試料を、乾燥オーブンに摂氏85度の温度にてさらし、試料を、曇りの発生、層間剥離、及び気泡の存在について監視した。試験は、1週間後中止した。観察された失敗の状態を下の表3に注記した。
【0067】
(実施例16)
主なモノマー比をEHA(60部)、iBOA(25部)、及びHEA(15部)に調整したという点を除き、実施例15と同じ手順を使用した。…
【0070】
(実施例19)
主なモノマー比をEHA(55部)、iBOA(25部)、及びHEA(20部)に調整したという点を除き、実施例15と同じ手順を使用した。…
【0073】
【表4】



甲第2号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記2a:段落0007及び0039
「【0007】
本発明は、耐久性、再剥離性(リワーク性)および応力緩和性に優れた粘着用組成物、および当該粘着層を有する光学部材用粘着シート類、粘着剤付光学部材を提供することを目的とする。特に、本発明の粘着シート類は、液晶表示類、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置等に使用可能な、偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、反射シート、輝度向上フィルム、これらの光学部材表面を保護する目的で用いられるプロテクトフィルム等の粘着シート類を提供することを目的とする。…
【0039】
またポリマー(E)の分子量を調整するためには、重合する際に連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては慣用のものがいずれも使用でき、例えば、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、α-チオグリセロールなどが挙げられる。その使用量は、通常モノマー総和に対して0.01?10質量%とすればよく、得られる粘着付与樹脂の分子量が所望の範囲内となるように調節して使用すればよい。」

甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:段落0006及び0057
「【0006】
従って、本発明の目的は、加湿により白濁化することなく視認性や外観の保持性に優れ、なおかつ、高温での接着信頼性にも優れた光学用粘着シートを提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、耐腐食性にも優れた光学用粘着シートを提供することにある。…
【0057】
本発明の粘着剤層を形成するための粘着剤組成物(例えば、前述のアクリル系粘着剤組成物)には、必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、粘着付与樹脂(ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノールなど)、老化防止剤、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤などの公知の添加剤を、本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。」

甲第4号証には、次の記載がある。
摘記4a:段落0008及び0055
「【0008】
本発明の目的は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸をモノマー成分とするアクリル系ポリマーからなる粘着剤層を有する粘着シートであって、且つ、耐腐食性に優れた粘着シートを提供することにある。…
【0055】
また、連鎖移動剤としては、例えば、2-メルカプトエタノール、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、2,3-ジメチルカプト-1-プロパノール、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、アクリル系オリゴマー(b)を構成する全モノマー成分100重量部に対して0.01?15重量部程度の範囲から選択することができる。」

甲第5号証には、次の記載がある。
摘記5a:段落0005及び0049
「【0005】
本発明は、かかる従来の問題を解決すべくなされたものであり、水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いてなる粘着剤層をプラスチックフィルム基材の各面それぞれに有する粘着シートであって上記非接触金属の腐食が抑えられた両面接着性粘着シートを提供することを目的とする。…
【0049】
ここに開示される技術の典型的な態様では、上記エマルション重合の際に、硫黄を構成原子として含む化合物からなる連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用する。」

甲第6号証には、次の記載がある。
摘記6a:段落0009?0010
「[0009]そこで本発明の目的は、粘着シートを介して貼り合せた積層体をカットした際、カット後に経時的にカット端面がベタツクことがなく、しかも被着面に5μm?20μm程度の凹凸があっても気泡が残留することなく貼着することができ、さらには、被着体がプラスチック等のアウトガスを発生する材料のものであっても、例えば80℃程度の高温環境下において発泡することがないように貼着することができる、新たな透明粘着シートを提供することにある。
[0010]本発明は、異なる粘弾性挙動を有する第1粘着層及び第2粘着層をそれぞれ1層以上有し、且つ、これらの層を積層し一体化してなる構成を備えた粘着シートであって、周波数1Hzの温度分散で測定した動的剪断貯蔵弾性率G’の値が下記範囲内であることを特徴とする透明粘着シートを提案する。
・G’(20℃)が2×10^(4)?5×10^(5)Pa。
・G’(150℃)が1×10^(4) ?1×10^(5)Pa。」

甲第7号証には、次の記載がある。
摘記7a:段落0008及び0096
「【0008】
したがって、緩衝性を高めるために粘着剤層を厚くしても、被着体を破損、汚染することなく容易に再剥離することができ、さらに高温高湿条件下においても白濁を生じない粘着シートが求められており、このような粘着シート用の粘着剤組成物を提供することが本発明の課題である。…
【0096】
また、本発明の粘着剤組成物には、更に、シランカップリング剤を用いることによって、PDP前面フィルター用などガラス基材に貼着した場合において密着性を向上させ浮きやハガレを防止するという利点を有する。」

ウ.甲1発明
摘記1aの「曇点耐性の光学的に透明な接着剤組成物と、を含む、光学的に透明な積層体であって、前記接着剤組成物は、…アルキルアクリレートと、…極性モノマーと、…ヒドロキシル含有モノマーと、を含む前駆体から誘導される、光学的に透明な積層体。」との記載、
摘記1bの「光学的に透明な感圧性接着剤(OCAs)には、光学ディスプレイにおいて幅広い用途がある。…架橋剤として、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートなどの二官能性アクリレート…曇点耐性の光学的に透明な感圧性接着剤層を含む積層体を提供する。」との記載、
摘記1cの「(実施例15) モノマープレミックスを、IRGACURE 651(0.04部)、DMAPMA(0.5部)、EHA(65部)、iBOA(20部)、及びHEA(15部)を使用して調製した。混合物を…部分的に重合させて、…次に、HDDA(0.1部)及び追加のIRGACURE 651(0.11部)をシロップに加え、…175μmの厚さにてナイフコーティングした。…低強度紫外線…にさらし…得られたOCA…(実施例16) 主なモノマー比をEHA(60部)、iBOA(25部)、及びHEA(15部)に調整したという点を除き、実施例15と同じ手順を使用した。」との記載、並びに【表1】の略号及び【表4】の実施例16の「OCA組成物…60/25/15/0.10…EHA/iBOA/HEA/HDDA」との記載からみて、甲第1号証の刊行物には、
『EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)60部、iBOA(アクリル酸イソボルニル)25部、及びHEA(2-ヒドロキシエチルアクリレート)15部を含むモノマープレミックスを部分的に重合させて、HDDA(架橋剤として、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)0.1部を加え、175μmの厚さにてナイフコーティングし、低強度紫外線にさらして得られたOCA(光学的に透明な感圧性接着剤層)。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

エ.対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明(実施例16)の「OCA組成物」における「EHA/iBOA/HEA/HDDA」の「60/25/15/0.10」という配合比を「EHA」を100として換算すると「100/41.7/25.0/0.17」になるから、
甲1発明の「EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)60部(=100)」は、本1発明の「アルキルの炭素数が2?14のアルキルアクリル酸エステル単量体(ただし、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)」に相当し、
甲1発明の「iBOA(アクリル酸イソボルニル)25部(=41.7)」は、本1発明の「アクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体と、前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)」及び「前記アクリル酸エステル単量体は、イソボルニルアクリレートまたはイソボルニルメタクリレートであり、前記のアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、40重量部?70重量部である」に相当し、
甲1発明の「HEA(2-ヒドロキシエチルアクリレート)15部(=25.0)」は、本1発明の「水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体を除く)」及び「前記の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、20重量部?60重量部であり」に相当し、
甲1発明の「HDDA(架橋剤として、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)0.1部(=0.17)」という「二官能性アクリレート」は、本1発明の「硬化剤を含み」及び「前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部?7.0重量部の前記硬化剤を含み」に相当するとともに、本1発明の「前記硬化剤は、2官能のイソシアネート系化合物」という発明特定事項の化合物と「2官能の化合物」である点において共通し、
甲1発明の「OCA(光学的に透明な感圧性接着剤層)」は、本1発明の「粘着層」に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明は、両者とも『アルキルの炭素数が2?14のアルキルアクリル酸エステル単量体(ただし、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体を除く)、およびアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体と、前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)を、共重合して得られる共重合体;及び硬化剤を含み、
前記の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、20重量部?60重量部であり、
前記硬化剤は、2官能の化合物であり、
前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部?7.0重量部の前記硬化剤を含み、
前記アクリル酸エステル単量体は、イソボルニルアクリレートまたはイソボルニルメタクリレートであり、
前記のアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、40重量部?70重量部である粘着組成物から成る粘着層粘着層。
』という点において一致し、次の(α)?(δ)の点において相違する。

(α)共重合して得られる共重合体が、本1発明においては「前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して0.05重量部ないし5.0重量部の分子量調節剤の存在下」で共重合されているのに対して、甲1発明は「分子量調節剤の存在下」で共重合されているものではない点。

(β)硬化剤(2官能の化合物)が、本1発明は「2官能のイソシアネート系化合物」であるのに対して、甲1発明は「1,6-ヘキサンジオールジアクリレート」という「二官能性アクリレート」である点。

(γ)粘着層の「ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)」が、本1発明は「15000Pa?40000Pa」であるのに対して、甲1発明は、当該せん断貯蔵弾性係数の値が不明な点。

(δ)粘着層の「ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数と、60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数の差」が、本1発明は「45000Pa?65000Pa」であるのに対して、甲1発明は、当該せん断貯蔵弾性係数の差が不明な点。

オ.判断
(ア)上記(α)の相違点について
甲1発明は、甲第1号証の段落0029(摘記1b)の「曇点耐性の光学的に透明な感圧性接着剤層を含む積層体を提供する」との記載にあるように「曇点耐性」を課題とする発明であって、同段落0023(摘記1b)の「感圧性接着剤の光学的透明性を著しく低下させない限り、例えば、油、可塑剤、酸化防止剤、UV安定剤、顔料、硬化剤、ポリマー添加剤、及び他の添加物などの、他の材料を、特別な目的のために加えることができる。」との記載にあるように「光学的透明性を著しく低下させない」という条件のもと「他の添加物」を加えることができるとしているものである。
これに対して、甲第2号証(摘記2a)には「耐久性、再剥離性(リワーク性)および応力緩和性に優れた粘着用組成物、および当該粘着層」を得ることを課題とした発明において「ポリマー(E)の分子量を調整するため」に「重合する際に連鎖移動剤を使用」できることが記載され、
甲第3号証(摘記3a)には「加湿により白濁化することなく視認性や外観の保持性に優れ、なおかつ、高温での接着信頼性にも優れた光学用粘着シートを提供すること」を課題とした発明において「必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、粘着付与樹脂(ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノールなど)、老化防止剤、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤などの公知の添加剤」を用いることができることが記載され、
甲第4号証(摘記4a)には「耐腐食性に優れた粘着シートを提供すること」を課題とした発明において「連鎖移動剤」を使用できることが記載され、
甲第5号証[摘記5a)には「非接触金属の腐食が抑えられた両面接着性粘着シートを提供すること」を課題とする発明において「分子量調節剤」としても把握され得る「連鎖移動剤」を使用できることが記載されている。
しかして、甲第1号証の「曇点耐性」という課題に照らして、甲第2号証の「耐久性、再剥離性(リワーク性)および応力緩和性」の課題や、甲第4号証の「耐腐食性」の課題や、甲第5号証の「非接触金属の腐食」を抑えるという課題は、いずれも技術的な関連性がないので、甲1発明に甲第2、4及び5号証に記載された技術を組み合わせることに動機付けがあるとはいえない。
また、甲第3号証の「視認性や外観の保持性」の課題については、甲1発明の「曇点耐性」の課題と、技術的な関連性が全くないとはいえないものの、甲第3号証の「必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、粘着付与樹脂(ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノールなど)、老化防止剤、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤などの公知の添加剤」との記載にある「連鎖移動剤」については、これが「視認性や外観の保持性」の課題を解決するための技術的手段になり得ると理解できる程度に甲第3号証に記載されていないので、甲第3号証の「連鎖移動剤」との記載に基づいて、本1発明の「前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して0.05重量部ないし5.0重量部の分子量調節剤の存在下」で共重合させるという構成を導き出し得るとはいえない。
さらに、甲1発明は、甲第1号証の段落0023(摘記1b)の記載にあるように「光学的透明性を著しく低下させない」という条件のもと「他の添加物」を加えることができるとしているものであるところ、甲第1?7号証の全てを精査しても、連鎖移動剤(分子量調節剤)を添加した場合に「光学的透明性」に何ら悪影響が生じないといえる記載が見当たらないので、甲1発明の構成に分子量調節剤の特定量を配合する構成を組み合わせることには阻害事由があるものと認められる。
してみると、上記(α)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

(イ)上記(β)の相違点について
甲第1号証の段落0024(摘記1b)には「架橋剤」として「1,6-ヘキサンジオールジアクリレートなどの二官能性アクリレート」の他に「多官能イソシアネート」も列挙されているが、甲1発明の「HDDA(架橋剤として、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)」に代えて、本1発明の「2官能のイソシアネート系化合物」を用いるべき動機付けは、特許異議申立人の主張及び立証方法の中に見当たらない。
してみると、上記(β)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ)上記(γ)及び(δ)の相違点について
甲第1?7号証の全てを精査しても「ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)」という技術事項について示唆を含めて記載がなく、当該「せん断貯蔵弾性係数」を本1発明の「15000Pa?40000Pa」という特定の数値範囲に設定することについても示唆を含めて記載がない。
また、甲第1?7号証の全てを精査しても「ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数と、60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数の差」という技術事項について示唆を含めて記載がなく、当該「せん断貯蔵弾性係数の差」を本1発明の「45000Pa?65000Pa」という特定の数値範囲に設定することについても示唆を含めて記載がない。
この点に関して、特許異議申立書の第31頁第11?16行では「甲第1号証に記載の発明において、周知技術を適用して本件特許発明1の発明特定事項D(註:分子量調節剤に係る事項)を満たすことは、当業者が容易になし得たことである。これにより得られる粘着層は、その組成において本件特許発明1と区別が付かないので、当然、その性質も本件特許発明と同様であるはずであり、せん断貯蔵弾性係数が特定範囲内であるという本件特許発明1の発明特定事項H?I(註:せん断貯蔵弾性係数に係る事項)を満たすはずである。」との主張がなされている。
しかしながら、甲1発明は「分子量調節剤」を用いるものではなく、硬化剤の種類も本1発明と異なるので、甲1発明の「OCA(光学的に透明な感圧性接着剤層)」が、上記(γ)及び(δ)の相違点に係る「せん断貯蔵弾性係数」の値と差を満たす範囲にあると解することはできない。
また、甲1発明の組成に「分子量調節剤」を追加すべき動機付けがないことは上記(ア)に示したとおりであるから、甲1発明に「分子量調節剤」を組み合わせることを前提とした主張については採用できない。
さらに、特許異議申立書の第31頁第17?28行では「甲第6号証には、アクリルポリマーを使用した光学粘着剤の高温下における耐久性が課題として掲げられており(抜粋6a、6c)、動的剪断貯蔵弾性率を所定の範囲に設定することにより該課題を解決できることが記載されている(抜粋6b)。そうしてみると、アクリルポリマーを使用した光学接着剤に関する甲第1号証に記載の発明において、同発明の課題(高温下における耐久性)に鑑みて、同じくアクリルポリマーを使用しており且つ同様の課題を掲げる光学接着剤(甲第6号証)における技術を適用して(すなわち、せん断貯蔵弾性係数を特定範囲内に調整して)本件特許発明1の発明特定事項H?Iを持たすことは、当業者が容易になし得たことである。また、それによる作用効果も、証拠の記載事項から予測し得る範囲のものであり、格別なものとは認められない。」との主張がなされている。
しかしながら、甲第6号証の段落0010(摘記6a)の「周波数1Hzの温度分散で測定した動的剪断貯蔵弾性率G’の値が下記範囲内であることを特徴とする透明粘着シートを提案する。・G’(20℃)が2×10^(4)?5×10^(5)Pa。・G’(150℃)が1×10^(4) ?1×10^(5)Pa。」との記載にある「動的剪断貯蔵弾性率G’」は、いずれも60℃の温度条件下で測定したものではないから、本1発明の「ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)」について記載するものではない。
また、甲1発明は、甲第1号証の段落0029(摘記1b)の「曇点耐性の光学的に透明な感圧性接着剤層を含む積層体を提供する」との記載にあるとおりの課題を解決しようとするものであるのに対して、甲第6号証に記載の発明は、甲第6号証の段落0009(摘記6a)の「被着体がプラスチック等のアウトガスを発生する材料のものであっても、例えば80℃程度の高温環境下において発泡することがないように貼着することができる、新たな透明粘着シートを提供する」との記載にあるとおりの課題を解決しようとするものであるから、両者の課題は技術的に共通せず、甲1発明に甲第6号証記載の技術事項を組み合わせるべき動機付けがあるとはいえない。
してみると、上記(γ)及び(δ)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。

(エ)本1発明の構成及び効果について
本件特許明細書の段落0038?0039の表1A及び表1Bには、本1発明の範囲内の実施例1?8と、本1発明の範囲外の比較例1及び9?10(2-ヒドロキシエチルアクリレートが範囲外)、比較例2?3及び8(イソボニルアクリレートが範囲外)、比較例4及び6(硬化剤が範囲外)、並びに比較例5及び7(分子量調節剤が範囲外)の組成が記載され、
同段落0048の表4には、実施例1?8のものが、本1発明の「ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)」及び「ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数と、60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数の差」を満たす範囲にあり、比較例1?10のものが、当該「せん断貯蔵弾性係数」の値と差の要件を満たさない範囲にあることが記載され、
同段落0043には「実施例1ないし8は、高温高湿下で気泡が発生しないため耐久性に優れることが確認された。しかし、比較例は気泡が発生し、特に、比較例4および比較例7は多量の気泡が観察された(表3)。」との試験結果が示され、
同段落0050には「高温、つまり60℃でモジュラスが40000Pa以下の粘着組成物の印刷段差解消能が良好だった(表5)。」との試験結果が示されている。
してみると、本件特許明細書の表3及び表5の試験結果にあるように、分子量調節剤の配合量がゼロの比較例5のものは、耐久性(気泡発生程度の肉眼判別)の評価が「△」であり、段差解消能(40μm)の評価が「×」であるところ、本1発明は、上記(α)の相違点に係る「前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して0.05重量部ないし5.0重量部の分子量調節剤の存在下」で共重合されているという構成を具備することにより、耐久性(気泡発生程度の肉眼判別)及び段差解消能(40μm)の評価の点で優れるという効果が得られたものと理解できる。
これに対して、甲1発明は「分子量調節剤」を使用するものではなく、甲第1?7号証の全てを精査しても、本1発明の所定量の「分子量調節剤の存在下」で共重合されているという構成を具備することにより、耐久性(気泡発生程度の肉眼判別)及び段差解消能(40μm)の評価の点で優れるという効果が得られるという『本1発明の構成及び効果』を当業者が予測できるといえる記載は、示唆を含めて見当たらない。

(オ)本1発明の進歩性についてのまとめ
以上総括するに、本1発明と甲1発明は、上記(α)?(δ)の相違点を有し、これらの相違点は、甲第1?7号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(α)?(δ)の相違点に係る構成を想到し、その効果を予測することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、本1発明は、甲第1?7号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

カ.本2?本3発明及び本5?本12発明について
本2?本3発明及び本5?本12発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。
してみると、本1発明の進歩性が甲第1?7号証によって否定できない以上、本2?本3発明及び本5?本12発明が、甲第1?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

キ.申立理由1(進歩性)のまとめ
以上、特許異議申立人が主張する申立理由1(進歩性)には理由がない。

(2)申立理由2(実施可能要件)
特許異議申立人が主張する申立理由2は「当業者にしてみれば、どのようにすれば本件特許発明1の発明特定事項H?Iのせん断貯蔵弾性係数等を満たす粘着層が得られるかについて、理解することができない」から、特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)に違反するというものである。
そして、申立理由2(実施可能要件)は、上記第4〔理由1〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(3)申立理由3(サポート要件)
特許異議申立人が主張する申立理由3は「当業者にしてみれば、どのようにすれば本願課題を解決できるかについて、すなわち本件特許発明1の発明特定事項H?Iのせん断貯蔵弾性係数等を満たす粘着層が得られるかについて、理解することができない」から、特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)に違反するというものである。
そして、申立理由3(サポート要件)は、上記第4〔理由2〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

第6 まとめ
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1?3及び5?12に係る発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1?3及び5?12に係る発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項4は削除されているので、請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
柔軟度が高い粘着組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル用粘着組成物に対するものである。本発明の粘着組成物は、柔軟度および粘着性に優れるため厚さが薄くても印刷段差を解消することができる。
【背景技術】
【0002】
タッチスクリーンは、ウィンドウガラスに黒色または白色で印刷をして遮光をするが、このとき、黒色印刷の場合は20μmないし30μm、白色印刷の場合は色相具現のために30μmないし50μmの高印刷が要求される。このような印刷段差を解消するために、約250μmの厚さのOCA(optically clear adhesive)フィルムを用いることが一般的である。
【0003】
ところが近年では、スマートフォン、タブレットPCの軽量化、薄膜化が進むにつれて、タッチパネルに使用されるOCAフィルム、つまり粘着剤もやはり柔軟度を高めることにより、薄くすることが要求されている。しかし、一般的に使用されるアクリル系粘着剤の場合は、柔軟度を高めるとセル加工等の裁断特性および作業性が阻害されるという問題があった。
【0004】
例えば、日本公開特許2010?260880号には、発泡体基材の両面に粘着層を有する両面粘着テープが開示されているが、前記粘着層はメタアクリレートおよびカルボキシル基を有するビニルモノマーをモノマー成分として有するアクリル系共重合体とロジンエステル系粘着付与樹脂を含有する。しかし、これは粘着力は良いかもしれないが、優れた柔軟性が基になる印刷段差解消能は保障できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】2010?260880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者らは、柔軟度が高いため厚さが薄くても印刷段差を解消できると共に、裁断特性、耐久性等に優れた粘着組成物について研究していた最中、特定のアクリル系単量体を共重合して得られる共重合体を用いて粘着剤を製造すると、10μmないし200μmの厚さでも印刷段差を解消できるだけでなく、裁断特性、耐久性、透明度等に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の目的は、柔軟度が高いため厚さが薄くても印刷段差を解消できると共に、裁断特性、耐久性等に優れた粘着組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、アルキルの炭素数が2ないし14のアルキルアクリル酸エステル単量体、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体およびアクリル酸エステル単量体を共重合して得られる共重合体を含み、ARESを通じて60℃で測定したせん断弾性係数(shear modulus)が15,000Paないし40,000Paの粘着組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は前記粘着組成物およびこれを用いた粘着フィルム、タッチパネル、電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粘着組成物および粘着フィルムは、柔軟度が高いため厚さが薄くても印刷段差を解消できると共に、裁断特性、耐久性、透明度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の粘着フィルムを表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
アルキルの炭素数が2ないし14のアルキルアクリル酸エステル単量体、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体およびアクリル酸エステル単量体を共重して得られる共重合体を含み、ARESを通じて60℃で測定したせん断弾性係数(shear modulus)が15,000Paないし40,000Paの粘着組成物に対するものである。
【0013】
また、本発明は、
本発明の粘着組成物からなる粘着層;および
前記粘着層の両面にそれぞれ位置する剥離ライナーを含む粘着フィルムに対するものである。
【0014】
また、本発明は、
本発明の粘着組成物からなる粘着層を含むタッチパネル、および前記タッチパネルを含む電子機器に対するものである。
【0015】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、添付の図面と共に詳しく後述してある実施例を参照すると明確になると考える。しかし、本発明は以下で開示する実施例に限定されるものではなく、相違する多様な形態で具現でき、単に本実施例は本発明の開示が完全になるようにし、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供するものであり、本発明は請求項の範疇によって定義されるだけである。明細書全体に亘って同一参照符号は同一構成要素を指す。
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明にかかる柔軟度が高い粘着組成物および前記粘着組成物を用いて製造した粘着フィルムについて詳しく説明する。
【0017】
(アルキルの炭素数が2ないし14のアルキルアクリル酸エステル単量体)
本発明のアルキルアクリル酸エステル単量体は、エチル(メタ)アクリレート、n?プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n?ブチル(メタ)アクリレート、t?ブチル(メタ)アクリレート、sec?ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2?エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n?オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、およびテトラデシル(メタ)アクリレートで構成される群から選ばれる。好ましくは、本発明のアルキルアクリル酸エステル単量体は、2?エチルヘキシルアクリレート(2?ethyl hexyl acrylate)である。
【0018】
アルキルの炭素数が15個を超える場合は、粘着組成物のガラス転移温度(Tg)が高くなったり、粘着性の調節が難しくなる。
【0019】
(水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体)
本発明の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、2?ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2?ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4?ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2?ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、および2?ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレートで構成される群から選ばれる。好ましくは、本発明の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、2?ヒドロキシエチルアクリレート(2?Hydroxyl ethyl acrylate)である。
【0020】
本発明の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、2重量部ないし60重量部使用される。前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体が2重量部未満で含まれたり全く含まれない場合は、粘着組成物の剥離力が低くなり、裁断特性が低下する。また、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体が60重量部を超過する場合は、粘着剤の裁断特性は向上するが、粘着剤が固くなって基材との密着力が低下し、粘度が高くなって加工性が低下するという問題がある。
【0021】
(アクリル酸エステル単量体)
本発明の粘着組成物は、前記アルキルの炭素数が2ないし14のアルキルアクリル酸エステル単量体および前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体以外のアクリル酸エステル単量体を含む。前記アクリル酸エステル単量体は、バルキー(bulky)な構造を有する。このとき、前記のバルキー(bulky)な構造は、二環(bicyclic)構造であることが好ましい。
【0022】
より好ましくは、本発明のバルキー(bulky)な構造のアクリル酸エステル単量体は、イソボニルアクリレートまたはイソボニルメタクリレートであり、さらにより好ましくは、本発明のバルキーな構造のアクリル酸エステル単量体はイソボニルアクリレート(Isobonyl acrylate)である。
【0023】
本発明のバルキーな構造のアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、2重量部ないし70重量部で使用される。前記のバルキーな構造のアクリル酸エステル単量体が、重合体が2重量部未満で含まれたり全く含まれない場合は、粘着組成物の剥離力が低くなって、裁断特性が低下する。また、前記のバルキーな構造のアクリル酸エステル単量体が70重量部を超える場合、裁断特性は向上するが、製品が固くなって基材との密着力が低下するという問題がある。
【0024】
(カップリング剤)
本発明の粘着組成物は、カップリング剤を含む。前記カップリング剤は制限されなく、アクリル系樹脂を用いた粘着組成物に通常使用されるカップリング剤を使用すればよい。例えば、本発明のカップリング剤はシリコン系カップリング剤等でもよく、例えば、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ?グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ?グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3?メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ?メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ?メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ?アミノプロピルトリメトキシシラン、γ?アミノプロピルトリエトキシシラン、3?イソシアネートプロピルトリエトキシシランまたはγ?アセトアセテートプロピルトリメトキシシラン等の一種または二種以上の混合を使用してもよい。
【0025】
本発明のカップリング剤は、本発明のアルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部ないし3.0重量部含まれる。本発明のカップリング剤が0.01重量部未満で含まれるとカップリングが十分に起きない可能性があり、カップリング剤の含量が3.0重量部を超えると未反応カップリング剤が不純物として残る場合がある。
【0026】
(光開始剤)
本発明の粘着組成物は光開始剤を含む。本発明で使用できる光開始剤の種類は、光照射によってラジカルを発生させて、重合反応を開始させられるものであれば特に限定されない。本発明で使用できる光重合開始剤の具体的な種類は、ベンゾイン系開始剤、ヒドロキシケトン系開始剤またはアミノケトン系開始剤等を挙げることができ、より具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn?ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、α,α?メトキシ?α?ヒドロキシアセトフェノン、2,2?ジメトキシ2?フェニルアセトフェノン、2,2?ジエトキシ2?フェニルアセトフェノン、2?ヒドロキシ?2?メチル?1?フェニルプロパン?1?オン、1?ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2?メチル?1?[4?(メチルチオ)フェニル]?2?モルフォリノ?プロパン?1?オン、4?(2?ヒドロキシエトキシ)フェニル?2?(ヒドロキシ?2?プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、4,4’?ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2?メチルアントラキノン、2?エチルアントラキノン、2?t?ブチルアントラキノン、2?アミノアントラキノン、2?メチルチオキサントン(2?methylthioxanthone)、2?エチルチオキサントン、2?クロロチオキサントン、2,4?ジメチルチオキサントン、2,4?ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタル、アセトフェノンジメチルケタル、およびオリゴ[2?ヒドロキシ?2?メチル?1?[4?(1?メチルビニル)フェニル]プロパノン]等を挙げることができるが、これに制限されるのではない。本発明では、前記の一種または二種以上を使用してもよい。
【0027】
本明細書で使用される用語である「光照射」とは、光開始剤または重合性化合物に影響を与えて重合反応を誘発し得る電磁気波の照射を意味し、前記において電磁気波は、マイクロ波、赤外線、紫外線、X線およびγ線は勿論、α?粒子線、プロトンビーム(proton beam)、ニュートロンビーム(neutron beam)、および電子線(electron beam)のような粒子ビームを総称する意味として使用する。
【0028】
光開始剤は、本発明のアルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部ないし3.0重量部で含まれることが好ましい。光開始剤含量が0.01重量部未満で添加されると、反応時間が長くなり得る。逆に、光開始剤の含量が3.0重量部を超えると、未反応光開始剤が不純物として残り得る。
【0029】
(硬化剤)
本発明の粘着組成物は硬化剤を含む。本発明の硬化剤は、多官能フェノール類、アミン類、イミダゾール化合物、酸無水物、有機リン化合物、およびこれらのハロゲン化物、多官能アクリル系、ウレタン系、イソシアネート系、アルコール系、ポリアミド、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素等の公知の硬化剤を制限なく使用できる。
【0030】
本発明の硬化剤は、本発明のアルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部ないし7.0重量部で含まれることが好ましい。硬化剤の含量が0.01重量部未満で添加されると硬化反応時間が長くなったり硬化が十分されないためフィルム成形が困難になり得る。逆に、硬化剤の含量が7.0重量部を超えると未反応硬化剤が不純物として残ったり過硬化によって過度に硬直して使用性が低下し得る。
【0031】
(分子量調節剤)
本発明の粘着組成物は、分子量調節剤を含む。本発明の分子量調節剤は、チオール系、ハロカーボン系、カーボンテトラクロライド、2?メルカプトエタノール、3?メルカプトプロピオン酸等の公知の分子量調節剤を制限なく使用でき、本発明のアルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.005重量部ないし5.0重量部で含まれることが好ましい。分子量調節剤の含量が0.005重量部未満だと、調節効果が不十分になる。また、分子量調節剤の含量が5.0重量部を超えると、硬化反応が抑制されてフィルム成形が低下し得、未反応物質が残ってブリージングし得る。
【0032】
(粘着フィルム)
本発明は、本発明の粘着組成物からなる粘着層10;および前記粘着層両面の剥離ライナー20,30からなる粘着フィルムを提供する(図1)。前記粘着フィルムは、第1の剥離ライナーに本発明の粘着物をコーティングして硬化した後、これを第2の剥離ライナーに合紙して製造する。
【0033】
このとき、本発明の剥離ライナー20,30は、相互異なる離型力を有することが好ましい。つまり、第1の剥離ライナー20の離型力は40g/2inないし120g/2inで、第2の剥離ライナー30の離型力は5g/2inないし40g/2inであることが好ましい。第1の剥離ライナー20の離型力が、40g/2in未満の場合は第2のライナーの剥離が難しいという問題があり、120g/2inを超える場合は剥離が難しいため加工性が低下するという短所がある。一方、第2の剥離ライナー30の離型力が、5g/2in未満の場合は加工時のトンネリング現象が生じ得、40g/2inを超える場合は剥離が難しいため加工性が低下するという問題がある。
【0034】
本発明の粘着層10は、20μmないし350μmの厚さを有し、好ましくは50μmないし250μm、より好ましくは100μmないし200μmの厚さを有する。本発明の粘着層の厚さが20μm未満の場合は、通常のタッチスクリーンの遮光用印刷層より薄くなる。また、本発明の粘着層が350μmを超えても、粘着フィルムとしての性能には問題がないが、タッチパネルの薄膜化傾向を考慮すると、タッチパネルの厚さを不要に厚くする結果となる。
【0035】
本発明の粘着フィルムは、1,000cpsないし2,000cpsの粘度を有する。粘着フィルムが前記範囲の粘度を有すると、コーティング性が良好になり、フィルムの外観および物性が安定して維持される。粘度が2,000cps以上だと粘着層をコーティングする際にかたまりになる現象が生じ、粘度が1,000cps未満だと粘着層をコーティングする際にずり落ちる現象が生じるため、粘着フィルムに厚さ偏差が生じるようになる。
【0036】
本発明の粘着フィルムは、0.5%以下のヘーズ値を有する。粘着フィルムのヘーズ値が0.5%を超える場合は光学的特性が低下し、特に1.0%を超える場合は透明度が低過ぎて光学用として適さない。
【0037】
1.粘着フィルムの製造
下記表1に記載した組成比で各成分を混合し、常温で5分間共重合して粘着組成物を製造した。前記粘着組成物を離型力が75g/2inのPET(polyethylene terephthalate)ライナーにコーティングして硬化した後、これを離型力が30g/2inのPETライナーに合紙して粘着層の厚さが175μmの粘着フィルムを製造した(実施例1ないし8、比較例1ないし10)。このとき、光開始剤としてはIrgacure651、チバ スペシャリティ ケミカルズ(製)を使用し、硬化剤としてはトルエンジイソシアネートを使用し、分子量調節剤は2?メルカプトエタノールを使用した。
【0038】
【表1a】

【0039】
【表1b】

【0040】
2.粘着フィルムの物性評価
<試験例1>粘着性の評価
ASTM D3330 Modifiedによって実施例1ないし8および比較例1ないし10の粘着性を評価した。その結果、これらの粘着性は全て良好なものであることが確認された(表2)。特に、実施例1ないし8の粘着組成物は、全てASTM D3330 Modifiedによって測定の際に1158N/mないし1544N/mの粘着力を有することが確認できた。
【0041】
【表2】

【0042】
<試験例2>耐久性の評価
ITOフィルム上に実施例1ないし8および比較例1ないし10の粘着組成物を付着させ、ガラス基板を付着した。これを、60℃、90%の湿度条件のオーブンで120時間保管した後、外観観察を実施して気泡の発生有無を確認した。
【0043】
その結果、実施例1ないし8は、高温高湿下で気泡が発生しないため耐久性に優れることが確認された。しかし、比較例は気泡が発生し、特に、比較例4および比較例7は多量の気泡が観察された(表3)。
【0044】
【表3】

【0045】
○:気泡が発生しない
△:気泡が多少発生
×:気泡が多量発生
【0046】
<試験例3>柔軟度の評価
実施例1ないし8および比較例1ないし10のARESを通じて温度によるせん断弾性係数(Shear Modulus)を測定し柔軟度を評価、比較した。このとき、測定装備はTA Instrument社のARES G2を用いた。
【0047】
その結果、実施例1ないし8は、ARESを通じて20℃で測定したせん断弾性係数(shear modulus)が70000Paないし95000Paで、60℃で測定したせん断弾性係数は15000Paないし40000Paだった。また、前記温度にかかるせん断弾性係数の差は45000Paないし65000Paだった。しかし、比較例は大抵せん断弾性係数が実施例より高いか、一部の比較例はフィルム成形が難しいため測定できなかった(表4)。
【0048】
【表4】

【0049】
<試験例4>印刷段差解消能の評価
ガラス基板に印刷段差が40umになるように白色印刷し、印刷面に実施例1ないし8および比較例1ないし10の粘着組成物を付着した後、その上に光学用ガラスを合紙して印刷周面部で気泡が発生するかを観察して印刷段差解消能を評価した。
【0050】
その結果、高温、つまり60℃でモジュラスが40,000Pa以下の粘着組成物の印刷段差解消能が良好だった(表5)。
【0051】
【表5】

【0052】
○:気泡が発生せず印刷段差解消能が良好△:気泡が一部発生
×:気泡が多量発生
【0053】
<試験例5>裁断性能評価
常温で、実施例1ないし8および比較例1ないし10の粘着フィルムをナイフで切断して粘着残余物の発生程度によって裁断性能(knife cut)を評価した。その結果、大部分の実施例では粘着残余物が殆ど発生しなかったため裁断性能が良好なことが確認されたが、比較例の4、7番は切断時に粘着残余物がひどく表れることが確認できた(表6)。
【0054】
【表6】

【0055】
○:切断時に粘着残余物が殆ど発生しなかった
△:切断時に粘着残余物が多少発生した
×:切断時に粘着残余物が多量発生した
【0056】
<試験例6>粘度の測定
実施例1ないし8および比較例1ないし10の粘着フィルムに対して、Brookfield社の粘度計を使用して粘着剤の粘度を測定した。
【0057】
その結果、実施例1ないし8の粘着フィルムは、1,000cpsないし2,000cpsの範囲内の粘度を有することが確認できた(表7)。そのため、これら粘着フィルムは、コーティング性が良好で、フィルムの外観および物性が安定していると評価された。
【0058】
【表7】

【0059】
<試験例7>透明度
実施例1ないし8および比較例1ないし10の粘着フィルムを50mm×50mmに切断し、ヘーズメーターGard plus(BYK)を用いてヘーズを測定した。その結果、実施例1ないし8の粘着フィルムは、全て0.2%ないし0.3%のヘーズ値を有することが確認できた(表8)。
【0060】
【表8】

【符号の説明】
【0061】
10:本発明の粘着層
20:第1の剥離ライナー
30:第2の剥離ライナー
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、アルキルの炭素数が2ないし14のアルキルアクリル酸エステル単量体、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体およびアクリル酸エステル単量体を共重合して得られる共重合体を含む粘着組成物に対するものである。また、本発明は、前記粘着組成物およびこれらを用いた粘着フィルム、タッチパネル、電子機器を提供する。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルの炭素数が2?14のアルキルアクリル酸エステル単量体(ただし、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)、水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体を除く)、およびアクリル酸エステル単量体(ただし、前記アルキルアクリル酸エステル単量体と、前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体を除く)を、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して0.05重量部ないし5.0重量部の分子量調節剤の存在下で共重合して得られる共重合体;及び硬化剤を含み、
前記の水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、20重量部?60重量部であり、
前記硬化剤は、2官能のイソシアネート系化合物であり、
前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、0.01重量部?7.0重量部の前記硬化剤を含み、
前記アクリル酸エステル単量体は、イソボルニルアクリレートまたはイソボルニルメタクリレートであり、
前記のアクリル酸エステル単量体は、前記アルキルアクリル酸エステル単量体100重量部に対して、40重量部?70重量部である粘着組成物から成る粘着層であって、
ARESを通じて60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)が15000Pa?40000Paであり、
ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数と、60℃で測定したせん断貯蔵弾性係数の差が45000Pa?65000Paである、粘着層。
【請求項2】
前記アルキルアクリル酸エステル単量体は、エチル(メタ)アクリレート、n?プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n?ブチル(メタ)アクリレート、t?ブチル(メタ)アクリレート、sec?ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2?エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n?オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、およびテトラデシル(メタ)アクリレートで構成される群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項3】
前記水酸基を含有するアクリル酸エステル単量体は、2?ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2?ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4?ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2?ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、および2?ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレートで構成される群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
ASTM D3330 Modifiedによって測定する際、1158N/m?1544N/mの粘着力を有することを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項6】
ARESを通じて20℃で測定したせん断貯蔵弾性係数(Shear storage modulus)が70000Pa?95000Paであることを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項7】
前記粘着組成物が、カップリング剤、および光開始剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の粘着層。
【請求項8】
請求項1?3及び5?7のいずれかに記載の粘着層;および
前記粘着層の両面にそれぞれ位置する剥離ライナーを含む粘着フィルム。
【請求項9】
前記剥離ライナーは、相互異なる離型力を有することを特徴とする請求項8に記載の粘着フィルム。
【請求項10】
前記粘着層の厚さは20μm?350μmであることを特徴とする請求項8に記載の粘着フィルム。
【請求項11】
請求項1?3及び5?7のいずれかに記載の粘着層を含むタッチパネル。
【請求項12】
請求項11に記載のタッチパネルを含む電子機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-06 
出願番号 特願2015-513876(P2015-513876)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 851- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐宗 千春牟田 博一吉岡 沙織  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
登録日 2018-01-12 
登録番号 特許第6273265号(P6273265)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 柔軟度が高い粘着組成物  
代理人 実広 信哉  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  
代理人 渡部 崇  

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