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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特29条の2  C02F
管理番号 1357705
異議申立番号 異議2019-700580  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-23 
確定日 2019-12-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6474472号発明「廃水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6474472号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6474472号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年9月26日(優先権主張平成28年10月21日)を出願日とする出願であって、平成31年2月8日に特許権の設定登録がされ、同年2月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その全請求項に係る特許について、令和1年7月23日付けで特許異議申立人の埴田眞一(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?11に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)及び還元剤を同時期に添加して反応させ、次いで銅塩を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項2】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)及び銅塩を同時期に添加して反応させ、次いで還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項3】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)、銅塩、及び還元剤を同時期に添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項4】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)を添加して反応させ、次いで銅塩、及び還元剤を同時期に添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項5】
前記反応をpH5.5?8.5の範囲内で行う請求項1?4のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項6】
前記還元剤として、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、及び硫化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いる請求項1?5のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項7】
前記還元剤として、チオ硫酸塩を用いる請求項1?6のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項8】
前記廃水に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加する請求項1?7のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項9】
前記廃水に、さらに鉄塩を添加する請求項1?8のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項10】
前記廃水が、さらにチオシアン酸イオンを含有する請求項1?9のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項11】
前記廃水が、排出ガスの洗浄廃水である請求項1?10のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。」

第3 異議申立理由
異議申立人は、証拠方法として、下記の甲第1号証ないし甲第18号証を提出し、「本件発明1?11は、甲第1号証に記載の発明と同一であるか、又は実質的に同一であり、甲第1号証の発明者は、本件特許の発明者と同一ではなく、本件特許の出願時において、本件特許の出願人と甲第1号証の出願人とは同一ではないから、本件発明1?11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」旨の主張をしているものと認める。
○甲第1号証:特願2015-213328号(特開2017-80699号公報)
○甲第2号証:Jianfeng Jiang外2名、「Chemistry of [Fe^(II)(CN)_(5)(CO)]^(3-) New Observations for a 19th Century Compound」、J.Am.Chem.Soc.、2001年、第123巻、第48号、p.12109-12110)及びその抄訳
○甲第3号証:Jianfeng Jiang外1名、「trans-[Fe^(II)(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-),a 21st Century [Fe(CN)(CO)]Compound、Angew.Chem.Int.Ed.、2001年、第40巻、第14号、p.2629-2631)及びその抄訳
○甲第4号証:特公昭63-1919号公報
○甲第5号証:特開昭63-39693号公報
○甲第6号証:特開昭58-3690号公報
○甲第7号証:特開2006-26496号公報
○甲第8号証:特開2014-111254号公報
○甲第9号証:特開2014-4581号公報
○甲第10号証:特開昭48-40257号公報
○甲第11号証:特開昭56-158826号公報
○甲第12号証:特開2005-81170号公報
○甲第13号証:特開2005-313112号公報
○甲第14号証:特開昭64-30693号公報
○甲第15号証:特開平1-224091号公報
○甲第16号証:特許第5990717号公報
○甲第17号証:特開平11-33571号公報
○甲第18号証:特開2013-226510号公報

第3 当審の判断
第3-1 優先権主張
本件発明は、「廃水」が「[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する」ことを発明特定事項にするものであり、これについて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0050】【0051】【0054】【0058】【図1】には、クロマトグラムにおける保持時間460?520秒の間に検出される鉄シアノ錯体Aと、保持時間540?600秒の間に検出される鉄シアノ錯体Bとが廃水に含有され、鉄シアノ錯体Aが[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)であり、鉄シアノ錯体Bが[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)であることを示す記載があるということができる。
一方、本件特許出願の優先権主張の基礎とされた特願2016-207057号の出願当初の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、【請求項8】【0048】【0051】【0055】【図1】において、クロマトグラムにおける保持時間460?520秒の間に検出される鉄シアノ錯体Aと、保持時間540?600秒の間に検出される鉄シアノ錯体Bとが廃水に含有されていることを示す記載はあるものの、鉄シアノ錯体Aが[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)であり、鉄シアノ錯体Bが[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)であることについての記載はなされていない。
そして、クロマトグラムにおける保持時間460?520秒の間に検出される鉄シアノ錯体が[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)であり、保持時間540?600秒の間に検出される鉄シアノ錯体が[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)であることが、本件特許出願に係る優先日前の技術常識であるとまではいえない。
そうすると、本件特許出願について、優先権主張の効果を認めることはできない。

第3-2 特許法第29条の2(異議申立理由)について
上記「第3-1」で示したように、本件特許出願について、優先権主張の効果を認めることはできないので、特許法第29条を適用する際の基準となる日は、本件特許の出願日である平成29年9月26日となる。
一方、特許法第29条の2(異議申立理由)の証拠方法である甲第1号証(特開2017-80699号公報)について、その発行日は平成29年5月18日である。
そうすると、甲第1号証(公開公報)に記載された発明は、本件特許の出願日の後に公開された発明ではないので、本件発明について、特許法第29条の2の規定を適用することはできない。
したがって、本件発明1?11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。

第3-3 その他
以下、本件発明1?11が、甲第1号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
(1)甲第1号証に記載の発明
甲第1号証には、以下の記載がある。
(甲1-1)「【請求項1】
錯シアン含有廃水に、該廃水をpH6?9の条件下で第一銅化合物および過酸化水素を共存させるか、またはpH6?8の条件下で第二銅化合物および過酸化水素を共存させ、該廃水中の錯シアンを処理することを特徴とする錯シアン含有廃水の処理方法。」

(甲1-2)「【0018】
(錯シアン含有廃水)
本発明において処理対象となる錯シアン含有廃水は、錯シアンを含有する廃水であれば、その由来などは特に限定されない。
錯シアン含有廃水中の錯シアン濃度および全シアン濃度がそれぞれ1mg/L以上および10mg/L以下である場合に、顕著なシアン除去効果が得られる。
錯シアン含有廃水としては、例えば、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水が挙げられる。」

(甲1-3)「【0021】
上記の銅化合物は、錯シアン含有廃水への添加に際して所望の銅換算濃度になるように、金属捕集剤による処理を用いてもよい。また工業用水などの水で希釈または溶解して用いてもよい。
ここで、金属捕集剤としては、例えば、液体キレート剤などが挙げられる。
また、第一銅化合物が第一銅塩である場合には、塩化水素水、ハロゲン化アルカリ金属水溶液またはエタノールを溶媒とする第一銅塩溶液とするのが、第一銅塩の安定性の点から好ましい。
本発明の方法では、第一銅化合物として、第二銅化合物を還元剤と共に錯シアン含有廃水に添加するか、または還元性の錯シアン含有廃水に第二銅化合物を添加して、廃水中で第二銅化合物を還元させて生成した第一銅イオン供給化合物を含む。
ここで、還元剤としては、例えば、亜硫酸塩、二価の鉄塩、ヒドラジンなどが挙げられる。」

(甲1-4)「【0029】
本発明の方法においては、第一銅化合物と過酸化水素とを添加した後、錯シアン含有廃水のpH6?9の条件下で、または第二銅化合物と過酸化水素とを添加した後、錯シアン含有廃水のpH6?8の条件下で生成した水不溶性塩が存在していれば除去してもよい。
錯シアン含有廃水のpHが6?9または6?8の範囲にない場合には、公知の方法により処理廃水のpHを上記の範囲になるように調整すればよい。
pH調整には、本発明の処理における反応を妨げない酸またはアルカリ、例えば硫酸または水酸化ナトリウムを処理廃水に添加すればよい。」

(甲1-5)「【0031】
水不溶性塩の除去には、シックナーおよび除濁沈殿池などの公知の装置を用いることができ、本発明の効果を妨げない範囲で、処理廃水に界面活性剤を添加してもよい。」

(2)甲第1号証に記載の発明
上記(甲1-1)ないし(甲1-5)からして、甲第1号証には、
「『製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水』に、pH6?9の条件下で第一銅化合物および過酸化水素を共存させるか、またはpH6?8の条件下で第二銅化合物および過酸化水素を共存させ、該廃水中の錯シアンを処理し、pH6?8の条件下で生成した水不溶性塩をシックナーおよび除濁沈殿池などの装置を用いて除去する、錯シアン含有廃水の処理方法であって、第一銅化合物が、第二銅化合物を還元剤と共に錯シアン含有廃水に添加して、廃水中で第二銅化合物を還元させて生成した第一銅イオン供給化合物であることを含む、錯シアン含有廃水の処理方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「水不溶性塩」、「廃水中の錯シアンを処理し、pH6?8の条件下で生成した水不溶性塩をシックナーおよび除濁沈殿池などの装置を用いて除去する」は、本件発明1の「難溶性シアン化合物」、「反応液を固液分離し、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する」に相当する。

○甲1発明の「『製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水』」と、本件発明1の「遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する廃水」とは、「錯シアン含有廃水」という点で一致する。

○甲1発明の「pH6?9の条件下で第一銅化合物および過酸化水素を共存させるか、またはpH6?8の条件下で第二銅化合物および過酸化水素を共存させ、該廃水中の錯シアンを処理し、pH6?8の条件下で生成した水不溶性塩をシックナーおよび除濁沈殿池などの装置を用いて除去する、錯シアン含有廃水の処理方法であって、第一銅化合物が、第二銅化合物を還元剤と共に錯シアン含有廃水に添加して、廃水中で第二銅化合物を還元させて生成した第一銅イオン供給化合物であることを含む、」と、本件発明1の「過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)及び還元剤を同時期に添加して反応させ、次いで銅塩を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する」とは、「過酸化水素、銅塩及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する」という点で一致する。

上記より、本件発明1と甲1発明とは、
「錯シアン含有廃水に、過酸化水素、銅塩及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法」という点で一致し、少なくとも、以下の点で相違している。
<相違点>
本件発明1は、「遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、及び[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を含有する廃水」であるのに対して、甲1発明は、「『製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水』」である点。

上記相違点について検討する。
甲第2号証(p.12109左欄の本文14?21行)には、M_(3 )[Fe(CN)_(5)(CO)]の合成(製造)に関する記載があり、甲第3号証(p.2629右欄の本文1?8行)(p.2629右欄の本文13行?p.2630左欄の1行)(p.2631左欄のスペース行を除く5?9行)には、[Fe^(II)(CN)_(5)(CO)]^(3-)が19世紀に報告されたこと、および、Na_(2)[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]の生成(製造)に関する記載があるものの、甲第2、3号証には、『製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水』に、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)が含まれていることの記載も示唆もない。
また、甲第4号証(請求項1、9頁左欄8?19行)には、シアン及び/又はチオシアン含有廃水を処理すること、甲第5号証(請求項1、2頁左下欄14行?同右下欄3行)には、遊離シアンおよびシアン錯塩を含有する廃水を処理すること、甲第6号証(1頁左下欄下から7行?同2行、2頁左上欄6?13行)には、写真の現像所、メッキ工場、鉄鋼の浸炭、窒化工場、青果物くん蒸倉庫、青化法精錬工場などから排出されるフェリシアン化物を含む鉄シアノ錯塩含有廃水の処理を行うこと、甲第7号証(【請求項1】【0017】)には、化学工場、石油工場、ガス工場、メッキ工場、コークス工場および金属表面処理工場等で発生するシアン化物含有廃水を処理すること、甲第8号証(【請求項1】【0023】【0034】【0035】)には、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含むシアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出されるシアン含有廃水、土壌の処理装置から排出されるシアン含有廃水を処理すること、甲第9号証(【請求項1】【請求項2】【0001】)には、メッキなどを行う化学工場、石炭工場、コークス工場、コークスを大量に用いる工場などで生じるシアン含有廃水を処理すること、甲第10号証(請求項1、1頁右下欄4?5行)には、金属仕上工業、特に電気メッキ工場からの含シアン廃液を処理すること、甲第11号証(特許請求の範囲)には、金属錯イオンを含有する溶液を処理すること、甲第12号証(【請求項1】ないし【請求項10】【0034】)には、シアン化合物を含有する被処理液(工場跡地から採取した地下水)を処理すること、甲第13号証(【請求項1】【0019】)には、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯塩、シアノ錯イオンなどを含むシアン含有廃水を処理すること、甲第14号証(請求項1)には、鉄シアン錯体含有水を処理すること、甲第15号証(請求項1、2頁右上欄下から4行?同左下欄3行)には、メッキ廃水、青化精錬廃水、シアン化合物を使用している鉱山の選鉱廃水、電子材料のスクラップ処理工場の廃水等のシアン化合物含有廃水を処理すること、甲第16号証(【請求項1】ないし【請求項6】【0017】)には、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアン化物イオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含むシアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出されるシアン含有廃水、土壌の処理装置から排出されるシアン含有廃水を処理すること、甲第17号証(【請求項1】【0001】【0006】)には、有機化学品等の製造原料であるアセチレンの精製工程における洗浄廃水などのアンモニア性窒素およびチオシアン酸イオンを含有する廃水を処理すること、甲第18号証(【請求項1】【0012】)には、製鉄所のコークス製造工程から排出されるガス液(安水)、金属めっき工場、化学工場などから排出されるシアン含有排水を処理すること、の記載があるものの、『製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水』に、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)が含まれていることの記載も示唆もない。
上記からして、甲第2号証ないし甲第18号証を考慮したとしても、甲1発明の『製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアンイオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含む錯シアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出される錯シアン含有廃水、土壌の処理装置から排出される錯シアン含有廃水』に、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)が含まれているとまではいい得ない。
一方、本件明細書等の【0028】【0058】【0060】【0081】【図1】【図3】には、過酸化水素、塩化銅(I)およびチオ硫酸ナトリウム(還元剤)による処理を含む実施例1において、鉄シアノ錯体A([Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-))、鉄シアノ錯体B([Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-))が高度に除去されたことを示す記載があり、これからして、本件発明1は、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を高度に除去できることを、上記相違点で示した本件発明1の発明特定事項に係る作用効果にするものであるということができる。
そうすると、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)が含まれているとまではいい得ない錯シアン含有廃水の処理を行う甲1発明において、[Fe(CN)_(5)(CO)]^(3-)、[Fe(CN)_(4)(CO)_(2)]^(2-)を高度に除去することができるという作用効果を予測することは、当業者であってもなし得るものではない。
したがって、本件発明1は、甲1発明および甲第2号証ないし甲第18号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。
そして、本件発明2?11も、上記相違点で示した本件発明1の発明特定事項を含むものであるので、本件発明1と同じく、甲1発明および甲第2号証ないし甲第18号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

第4 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由によっては、本件発明1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-02 
出願番号 特願2017-184370(P2017-184370)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 成典  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
豊永 茂弘
登録日 2019-02-08 
登録番号 特許第6474472号(P6474472)
権利者 日鉄環境株式会社
発明の名称 廃水の処理方法  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  
代理人 竹山 圭太  

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