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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01F
管理番号 1357707
異議申立番号 異議2019-700738  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-13 
確定日 2019-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6488568号発明「内燃機関用の点火コイル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6488568号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6488568号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年6月27日に出願され、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年9月13日に特許異議申立人 松岡 直之により、特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第6488568号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
互いに磁気結合された1次コイル(21)及び2次コイル(22)と、
上記1次コイル(21)への通電によって生じる磁束の磁路を構成するコア(3)と、
上記1次コイル(21)と上記2次コイル(22)と上記コア(3)とを収容するケース(4)と、
該ケース(4)内に形成された隙間に充填された、電気的絶縁性を有する充填樹脂(12)と、
外部コネクタを接続するためのコネクタ部(11)とを有する内燃機関用の点火コイル(1)であって、
上記コネクタ部(11)は、上記ケース(4)から突出しており、かつ、外周から覆われるように上記外部コネクタが接続されるよう構成されており、
上記ケース(4)は、上記コネクタ部(11)の周囲に、他の部分よりも陥没した陥没部(61)を有し、
上記ケース(4)には、上記2次コイル(22)に接続された導通端子(13)が内側に配されるタワー部(53)が突出するよう形成されており、
上記陥没部(61)の底面である陥没底面(611)は、上記タワー部(53)の突出方向と反対側に向かうにつれて、上記ケースの内側に向かうよう傾斜していることを特徴とする内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項2】
上記ケース(4)は、第1ケース体(5)と、該第1ケース体(5)に組み付けられる第2ケース体(6)とからなり、上記コネクタ部(11)は、上記第2ケース体(6)の一部として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項3】
上記1次コイル(21)と上記2次コイル(22)とは、互いに内外周に重ねて配置されており、上記コア(3)は、上記1次コイル(21)及び上記2次コイル(22)の内周側に配された中心コア(31)と、上記1次コイル(21)及び上記2次コイル(22)の外周側に配された外周コア(32)とからなり、上記ケース(4)には、上記タワー部(53)を上記1次コイル(21)及び上記2次コイル(22)の軸方向(X)と直交する方向に設けてあり、上記コネクタ部(11)は、上記ケース(4)における上記軸方向(X)の一端側から突出形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項4】
上記ケース(4)内には、上記軸方向(X)の一端側に配置され、上記1次コイル(21)の通電及びその遮断を行うイグナイタ(7)が収容されており、上記陥没部(61)は、上記イグナイタ(7)における上記タワー部(53)の突出方向と反対側の位置に隣接して配されることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項5】
上記陥没底面(611)は、上記タワー部(53)の突出方向と反対側に向かうにつれて、上記軸方向(X)における上記ケースの内側に向かうよう傾斜していることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項6】
上記コネクタ部(11)は、その突出先端側に向かうにつれて、上記タワー部(53)の突出方向と反対側に向かうように傾斜していることを特徴とする請求項3?5のいずれか一項に記載の内燃機関用の点火コイル(1)。」

また、本件発明1ないし6に係る出願の出願時の出願人は、株式会社デンソーであり、発明者は和田 純一である。

3 申立理由の概要
特許異議申立人の主張する申立理由の概要は以下のとおりである。

本件発明1ないし6は、本件発明1ないし6に係る出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明1ないし6に係る出願の発明者が、上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件発明1ないし6に係る出願の時において、その出願人が、上記特許出願の出願人と同一でもない。
したがって、特許第6488568号の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2015-133350号公報

4 甲第1号証
(1)甲第1号証に係る特許出願
甲第1号証に係る特許出願は、平成26年1月9日に出願された特願2014-2456号であり、平成27年7月23日に出願公開がされた。また、この出願の出願人は、ダイヤモンド電機株式会社であり、発明者は、山根 伸也、西村 雅之、山田 修司、鈴木 大輔、高井良 拓也、島川 英明である。
したがって、甲第1号証に係る特許出願は、本件発明1ないし6に係る出願の日(平成26年6月27日)前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものであり、発明者が同一ではなく、また、本件発明1ないし6に係る出願の時における出願人と同一でもない。

(2)甲第1号証の記載
甲第1号証には、「内燃機関用の点火コイル」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。また、特願2014-2456号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)にも、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
中心鉄芯と、当該中心鉄芯の外周に1次ボビンに1次巻線を巻き回した1次コイルと、2次ボビンに2次巻線を巻き回した2次コイルと、外周鉄芯と、を備えたコイル部から発生させた高電圧を点火プラグへ供給する内燃機関用の点火コイルにおいて、
前記コイル部は、絶縁性樹脂で成形された第1のケース及び第2のケースに収容され、
当該第1のケースと当該第2のケースは、前記コイル部に沿った形状を有すると共に、当該第1のケースと当該第2のケースの接続面を摩擦攪拌接合で接続されることを特徴とする内燃機関用の点火コイル。」

イ 「【0016】
図1乃至図3において、点火コイル100は珪素鋼板を30枚程度積層して形成したI字型の中心鉄芯10と略円形型の外周鉄芯20を組み合わせて閉磁路機構とする鉄芯と、当該中心鉄芯10の外周に樹脂で成形した1次ボビンの外周に1次巻線を100ターン程度巻き回した1次コイル30と、当該1次コイル30の外周に樹脂で成形した2次ボビンの外周に2次巻線を8000?15000ターン巻き回した2次コイル40と、からなるコイル部から構成する。また、当該コイル部は絶縁樹脂から成形される第1のケース50と第2のケース60とを組み合わせて箱型となるケースに収容される。さらに、当該第1のケース50及び当該第2のケース60内には当該1次コイル30への点火信号を供給するスイッチング素子から構成されるイグナイタ70を収容し、当該第1のケース50及び当該第2のケース60は当該コイル部と当該イグナイタ70に沿った形状とする。」

ウ 「【0017】
また、前記第1のケース50は前記コイル部の外周方向の6面に対して底面側に配置する形状とし、前記第2のケース60は前記コイル部の外周方向の前記第1のケース50配置面を除く5面側に配置する形状とする。さらに、前記第1のケース50には前記2次コイル40からの高電圧をエンジン上部に形成されたプラグホール内に備えられる点火プラグに供給するための高圧タワーが当該プラグホール内に突出する形状で形成される。」

エ 「【0018】
また、前記第2のケース60の側面には前記点火コイル100をボルトでエンジンブロックに取り付けるための略三角柱状のフランジ62が形成され、当該フランジ62には当該ボルトを通す差し込み孔62aが形成される。さらに、前記第2のケース60の当該フランジ62形成面と対向する面には樹脂成形したコネクタ64が取り付けられ、当該コネクタ64には前記1次コイル30への電源電圧や前記イグナイタ70への点火信号を供給するハーネスを取り付ける差し込み口64aが形成される。」

オ 「【0019】
また、前記第1のケース50には前記2次コイル40の上部を覆う2次コイルカバー80が装着され、当該2次コイルカバー80は前記2次コイル40上部に沿った形状としている。さらに、前記第1のケース50及び前記第2のケース60には前記コイル部及び前記イグナイタ70の物理的固定と電気的絶縁するために前記点火コイル100内部に充填する熱硬化性樹脂を注入するための開口部60bを形成する。」

カ 「【0025】
上記構成によって、前記第1のケース50及び前記第2のケース60は前記コイル部と前記イグナイタ70に沿った形状とし、前記第1のケース50と前記第2のケース60は前記接合面50a,60aを有し、前記接合面50a,60aを摩擦攪拌接合で接続することで、前記点火コイル100の小型軽量化を達成する如く、前記第1のケース50と前記第2のケース60の形状を前記コイル部に沿った形状としてケース内に充填する前記熱硬化性樹脂の量を減らしても熱硬化性樹脂にクラックが生じ難く前記コイル部の絶縁性を保つ事ができる。また、前記第1のケース50と前記第2のケース60とを有して前記コイル部を収容するため、前記コイル部をケースに挿入するための開口を必要とせず、前記熱硬化性樹脂を注入する前記開口部60bのみ備えるだけでよいので前記熱硬化性樹脂にクラックが生じた場合でも、前記コイル部からの前記開口部60bに波及するクラックによる前記1次コイル30及び前記2次コイル40のリーク電流や水の浸入等の不良を防ぐことができる。」

キ 「【図1】



ここで、上記ア及びイによれば、1次コイル30は中心鉄芯10の外周に1次ボビンに巻かれたものであり、2次コイル40は1次コイル30の外周に2次ボビンに巻かれたものである。また、上記エによれば、1次コイル30には電源電圧が供給される。

そして、上記イによれば、コイル部は、中心鉄芯10と外周鉄芯20を組み合わせて閉磁路機構とする鉄芯と、1次コイル30と、2次コイル40とからなり、第1のケース50と第2のケース60とを組み合わせて箱型となるケースに収容されるから、1次コイル30と2次コイル40と鉄芯とは当該ケースに収容される。

次に、上記オ及びカによれば、ケース内に、コイル部及びイグナイタ70と電気的絶縁するために熱硬化性樹脂を充填する。

さらに、上記エによれば、第2のケース60の面にコネクタ64が取り付けられ、当該コネクタ64にはハーネスを取り付ける差し込み口64aが形成される。また、上記キによれば、コネクタ64が第2のケース60から突出していることがみてとれる。

また、上記ウによれば、第1のケース50には、2次コイル40からの高電圧を点火プラグに供給するための高圧タワーが突出する形状で形成される。

以上によれば、内燃機関用の点火コイル(点火コイル100)は、1次コイル30、2次コイル40、鉄芯、ケース、熱硬化性樹脂、コネクタ64からなるものといえる。

(3)拡大先願発明の認定
上記(2)より、甲第1号証に係る先願明細書等には、以下の発明(以下「拡大先願発明」という。)が記載されている。

「 電源電圧が供給され、中心鉄芯10の外周に1次ボビンに巻かれた1次コイル30と、1次コイル30の外周に2次ボビンに巻かれた2次コイル40と、
中心鉄芯10と外周鉄芯20を組み合わせて閉磁路機構とする鉄芯と、
1次コイル30と2次コイル40と鉄芯とを収容する、第1のケース50と第2のケース60とを組み合わせて箱型となるケースと、
ケース内に電気的絶縁するために充填される熱硬化性樹脂と、
第2のケース60の面に突出して取り付けられ、ハーネスを取り付ける差し込み口が形成されるコネクタ64とからなり、
第1のケース50には2次コイル40からの高電圧を点火プラグに供給するための高圧タワーが突出する形状で形成される、内燃機関用の点火コイル。」

5 当審の判断

(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と拡大先願発明とを対比する。

(ア)拡大先願発明の「1次コイル30」及び「2次コイル40」は、本件発明1の「1次コイル(21)」及び「2次コイル(22)」に相当する。また、拡大先願発明において1次コイル30は「中心鉄芯の外周に1次ボビンに巻かれ」、2次コイル40は「1次コイル30の外周に2次ボビンに巻かれ」るから、「互いに磁気結合された」点で本件発明1と共通する。

(イ)拡大先願発明の「閉磁路機構とする鉄芯」は、本件発明1の「磁路を構成するコア(3)」に相当する。また、拡大先願発明の1次コイル30は中心鉄芯の外周に1次ボビンに巻かれたものであるところ、該「閉磁路」は「1次コイル30」に「電源電圧が供給され」ることによって生じる磁束の磁路であるといえるから、拡大先願発明の「鉄芯」は、本件発明1の「コア(3)」と「上記1次コイル(21)への通電によって生じる磁束の磁路を構成する」点で共通する。

(ウ)拡大先願発明の「1次コイル30と2次コイル40と鉄芯とを収容するケース」は、本件発明1の「上記1次コイル(21)と上記2次コイル(22)と上記コア(3)とを収容するケース(4)」に相当する。

(エ)拡大先願発明の「ケース内に電気的絶縁するために充填される熱硬化性樹脂」は、本件発明1の「該ケース(4)内に形成された隙間に充填された、電気的絶縁性を有する充填樹脂(12)」に相当する。

(オ)拡大先願発明の「コネクタ64」は、「第2のケース60の面に突出して取り付けられ、ハーネスを取り付ける差し込み口が形成される」ところ、「ケース」は第1のケース50と第2のケース60とを組み合わせてなるものであるから、本件発明1の「外部コネクタを接続するためのコネクタ部(11)」に相当するとともに「上記ケース(4)から突出して」いる点で本件発明1と共通する。
ただし、本件発明1の「コネクタ部(11)」は「外周から覆われるように上記外部コネクタが接続されるよう構成され」るのに対して、拡大先願発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

(カ)拡大先願発明の「高圧タワー」は、「第1のケース50に突出する形状で形成される」ところ、「ケース」は第1のケース50と第2のケース60とを組み合わせてなるものであるから、本件発明1の「タワー部(53)」に相当するとともに、「上記ケース(4)に突出するよう形成され」る点で、本件発明1と共通する。
ただし、本件発明1の「タワー部(53)」は「上記2次コイル(22)に接続された導通端子(13)が内側に配される」のに対して、拡大先願発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

(キ)以上のことから、本件発明1と拡大先願発明は、「1次コイル(21)及び2次コイル(22)」と、「コア(3)」と、「タワー部(53)が形成され」た「ケース(4)」と、「充填樹脂(12)」と、「コネクタ部(11)」とを有する「内燃機関用の点火コイル(1)」である点で共通する。
ただし、本件発明1は「ケース(4)は、上記コネクタ部(11)の周囲に、他の部分よりも陥没した陥没部(61)を有」し、「上記陥没部(61)の底面である陥没底面(611)は、上記タワー部(53)の突出方向と反対側に向かうにつれて、上記ケースの内側に向かうよう傾斜している」のに対して、拡大先願発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

そうすると、本件発明1と拡大先願発明とは
「 互いに磁気結合された1次コイル(21)及び2次コイル(22)と、
上記1次コイル(21)への通電によって生じる磁束の磁路を構成するコア(3)と、
上記1次コイル(21)と上記2次コイル(22)と上記コア(3)とを収容するケース(4)と、
該ケース(4)内に形成された隙間に充填された、電気的絶縁性を有する充填樹脂(12)と、
外部コネクタを接続するためのコネクタ部(11)とを有する内燃機関用の点火コイル(1)であって、
上記コネクタ部(11)は、上記ケース(4)から突出しており、
上記ケース(4)には、タワー部(53)が突出するよう形成されていることを特徴とする内燃機関用の点火コイル(1)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「コネクタ部(11)」について、本件発明1は「外周から覆われるように上記外部コネクタが接続されるよう構成され」るのに対して、拡大先願発明はその旨の特定がされていない点。

<相違点2>
「タワー部(53)」について、本件発明1は「上記2次コイル(22)に接続された導通端子(13)が内側に配される」のに対して、拡大先願発明はその旨の特定がされていない点。

<相違点3>
本件発明1は「上記ケース(4)は、上記コネクタ部(11)の周囲に、他の部分よりも陥没した陥没部(61)を有し」、「上記陥没部(61)の底面である陥没底面(611)は、上記タワー部(53)の突出方向と反対側に向かうにつれて、上記ケースの内側に向かうよう傾斜している」のに対して、拡大先願発明はその旨の特定がされていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず、上記相違点3について検討する。
内燃機関用の点火コイルの分野において、コネクタを突出させるケースの面に対して、コネクタの周囲に他の部分よりも陥没した部分を設けることは、周知、慣用技術であるとは認められないから、上記相違点3は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、上記相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1と拡大先願発明との間には実質的な相違点があるから、本件発明1と拡大先願発明は同一とはいえない。

ウ 異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4)イ 引用発明の説明」において、「第1図から、「第2のケース(60)は、コネクタ(64)の周囲に、開口部(60b)の端面よりもケース(50, 60)の内側へ落ち込む「傾斜部」(コネクタ(64)が突出形成されている平坦な面であって、斜め上を向く「傾斜平面」を含む。)を有する」点が看取できる。」と主張するとともに、「3(4)ウ(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。」において、「本件特許発明1の「陥没部(61)」は、「コネクタ部(11)の周囲」に設けられており、「他の部分よりも陥没した」と特定されている。「陥没した」は、「落ち込んでいること」と解されるから、「他の部分よりも陥没した」は、「他の部分よりも落ち込んでいること」と解される。甲1発明の「傾斜部」は、コネクタ(64)の周囲に設けられた部分である。また「傾斜部」は、開口部(60b)の端面から、ケース(50, 60)の内側へ落ち込んでいる部分である。そうすると、甲1発明の「開口部(60b)の端面」は、本件特許発明1の「他の部分」に相当し、同様に「傾斜部」は「陥没部」に相当する。」と主張する。
しかし、甲第1号証において、コネクタ64が取り付けられる面は、ケースの一部を構成する単なる傾斜面にすぎないから、どこからも落ち込んでいるものではない。したがって、コネクタ64が取り付けられる面は、特許異議申立人がいう開口部60bの端面に対して落ち込んでいるとも、くぼんでいるともいえないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、拡大先願発明と同一とはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、本件発明1ないし6に係る出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一でない。
したがって、特許第6488568号の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるということはできない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-03 
出願番号 特願2014-132369(P2014-132369)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 石川 亮
山澤 宏
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6488568号(P6488568)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 内燃機関用の点火コイル  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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