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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63H
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A63H
管理番号 1357974
審判番号 不服2018-11688  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-30 
確定日 2019-12-18 
事件の表示 特願2016-564362「簡易、無接着剤、ダブルピン構造の可動式履板モデル」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月30日国際公開、WO2015/109631、平成29年2月9日国内公表、特表2017-504453〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成26年2月28日(パリ条約による優先権主張 2014年1月21日:(CN)中国)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成29年8月1日付けの拒絶理由の通知に対して同年11月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成30年4月16日付けで拒絶査定がなされ,その謄本は同年5月1日に請求人に送達された。
これに対し,同年8月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年8月30日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月30日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,その補正は,(平成29年11月14日に提出された手続補正書により補正された)本件補正前の請求項1の記載を,本件補正による請求項1のとおりに補正する補正事項(以下,「本件補正事項」という。)を含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
中間接続部材と,履板と,弾性ピンブッシュと,補助クランプと,を含む簡易,無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデルであって,
前記中間接続部材の回転軸孔には弾性開口を有し,かつ前記中間接続部材は前記弾性開口により前記履板の中間回転軸に係止接合し,前記履板の両端にはいずれも反転型ダボが設けられ,前記弾性ピンブッシュが熱可塑性エラストマーを材料として製造され,前記反転型ダボと前記弾性ピンブッシュとは接合することにより,前記弾性ピンブッシュを前記反転型ダボに入れた後に係合固定することができ,
前記補助クランプは,上補助クランプ,下補助クランプ及び第3補助クランプを含み,
上補助クランプには位置決めピンが設けられ,下補助クランプには位置決めピンに対応して位置決め孔が設けられ,上補助クランプと下補助クランプとは位置決めピンにより位置決め孔に係合固定されることを特徴とする簡易,無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデル。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
中間接続部材と,履板と,弾性ピンブッシュと,補助クランプと,を含む簡易,無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデルであって,
前記中間接続部材の回転軸孔には弾性開口を有し,かつ前記中間接続部材は前記弾性開口により前記履板の中間回転軸に係止接合し,前記履板の両端にはいずれも反転型ダボが設けられ,前記反転型ダボは一定の直径を有する丸棒状であり,前記弾性ピンブッシュが熱可塑性エラストマーを材料として製造され,前記反転型ダボと前記弾性ピンブッシュとは接合することにより,前記弾性ピンブッシュを前記反転型ダボに入れた後に係合固定することができ,
前記補助クランプは,上補助クランプ,下補助クランプ及び第3補助クランプを含み,
上補助クランプには位置決めピンが設けられ,下補助クランプには位置決めピンに対応して位置決め孔が設けられ,上補助クランプと下補助クランプとは位置決めピンにより位置決め孔に係合固定されることを特徴とする簡易,無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデル。」(下線は,当審で付加したものである。下線については,以下同じである。)

2 補正の適否
本件補正事項は,本件補正前の請求項1における「反転型ダボ」の形状を「一定の直径を有する丸棒状」と限定するものである。
そして,出願人は,平成30年8月30日に提出した審判請求書において,本件補正の手続について,以下のように主張する。
「■補正の根拠の明示
平成30年09月01日付けの手続補正書における「前記反転型ダボは,一定の直径を有する丸棒状である」との補正事項は,図1(反転型ダボ21)に基づいてます。」(なお,文中の「平成30年09月01日付け」は,「平成30年8月30日付け」の誤記である。)
そこで検討するに,特許法第184条の12第2項に規定する,「特許法第184条の4第1項の国際出願日における第184条の3第2項の国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の第184条の4第1項の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の同項の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)」(以下,「当初明細書等」という。)においては,「反転型ダボ21」が「一定の直径を有する丸棒状」であることについて,明示的に記載されておらず,そのことを示唆する記載もない。
請求人が上記主張で補正の根拠としている【図1】を見ても,【図1】に記載される「反転型ダボ21」が「一定の直径を有する丸棒状」であることを看て取ることができないばかりか,かえって「反転型ダボ21」の先端がやや太く描画されている点が看て取れるのみである。
また,【図2】からも「反転型ダボ21」の先端がやや太く描画されている点が看て取れる。
したがって,本件補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであって,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第184条の12第2項で読み替えて適用される,同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法第184条の12第2項で読み替えて適用される,同法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり,平成30年8月30日にされた手続補正は却下されたため,本願発明は平成29年11月14日付け手続補正書に記載された次のとおりのものである。(「第2 平成30年8月30日にされた手続補正についての補正却下の決定」,「1 本件補正について」,「(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載」参照。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,その優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2および3に記載された周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
[引用文献等一覧]
引用文献1:[レビュー]とある戦車の可動履帯。 -ヒューイ&デューイの日記(私見運用版),2013年10月24日,平成29年8月1日検索,
URL,http://d.hatena.ne.jp/HueyAndDewey/20130815/p1
なお,引用文献1について「wayback machine」にて,引用文献1のwebサイトを読み込ませたものと,上記のURLによるwebサイトの内容が一致するので,引用文献1に記載された内容は,2013年10月24日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものと認める。
「wayback machine」にて,引用文献1のwebサイトを読み込ませたものについては,「https://web.archive.org/web/20131024035520/http://d.hatena.ne.jp/HueyAndDewey/20130815/p1」を参照されたい。
引用文献2:MENG-MODEL ロシアT-90A主力戦車 1/35スケールプラスチックモデルキット,2013年 9月16日,平成30年4月6日検索,
URL,http://www.meng-model.com/jp/index2_new.php?id=202
なお,引用文献2について「wayback machine」にて,引用文献2のwebサイトを読み込ませたものと,上記のURLによるwebサイトの内容が一致するので,引用文献2に記載された内容は,2013年9月16日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものと認める。
「wayback machine」にて,引用文献2のwebサイトを読み込ませたものについては,「https://web.archive.org/web/20130916191106/http://www.meng-model.com/JP/index2_new.php?id=202」を参照されたい。
引用文献3:特開2004-323274号公報

3 引用文献の記載事項
(1)引用文献1について
ア 写真1および写真1の説明文より,以下の事項が理解できる。(なお,引用文献1において,写真の下に「ダブルピンのキャタピラを実物同様ダブルピンで接続します。…」と,写真の説明文が記載された写真を「写真1」とし,順次「写真2」などとする。したがって,たとえば,写真の下に「双方の治具にはガイドがあるので何の苦労も無く…」と,写真の説明文が記載された写真は「写真9」となる。また,「写真1」のすぐ下にある文章が「写真1の説明文」であり,他の写真においても「写真」と「写真の説明文」との位置関係は同じである。)
(ア)写真1から,2枚の長方形の板状体が水平方向に間隔を空けて配置され,該間隔部分において,2本の棒状体(以下,「接続棒状体」という。)によって該2枚の長方形の板状体が接続されている点が看て取れる。
(イ)写真1から,2枚の長方形の板状体において2本の棒状体によって接続されない側から,それぞれ2本ずつ棒状体が突出(以下,「突出棒状体」という。)している点が看て取れる。
(ウ)写真1から,突出棒状体の根元から先端部近傍までの太さは一様であるが,先端部近傍は,それ以外の部分に比べて太くなっている点が看て取れる。
(エ)写真1の説明文の「ダブルピンのキャタピラ」と記載されていることから,写真1に写っているものは,キャタピラを構成する部品であって,「ダブルピン」と称される「キャタピラ」の部品であることが理解できる。
(オ)「イ 写真2…」,「(イ)」において後述するように,写真1に写っている部品は「プラモデルの部品」であって,プラモデルの技術常識を踏まえると,「プラモデルの部品」は,ゲートを介してランナーに接続されるものであるから,写真1の上辺および下辺から板状体に向かって延伸する棒状体が「ランナー」であり,該ランナーの先端から長方形の板状体にかけて先細になりつつ,板状体に接続される部分が「ゲート」であることは自明である。
(カ)プラモデルの技術常識を踏まえると,「ランナー」および「ゲート」は,プラモデルの部品とはいわないから,写真1に写っているもののうち,2枚の長方形の板状体,接続棒状体,および突出棒状体によって構成される部分が,プラモデルに使用されるプラモデルの部品であると認める。また,写真1は,そのような部品が上下に合計2個が撮影されている写真である。

イ 写真2および写真2の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真2の説明文の「センターガイドは綺麗に中抜けしています。」との記載から,写真2には「センターガイド」が写っていることが理解できる。
(イ)写真2の説明文の「受け口の形状を見ればお分かりかと思いますが,ここも含めて基本はスナップタイト接続です。金型精度だけでなくプラスチック成型品自体に強度と粘り気を両立させることも要求されるわけで,バンダイのプラモデルでさえこのサイズのパーツはスナップフィットではなく接着処理を選んでいることを考えると,ちょっとどころではない驚きです。」との記載から,写真2に写っている「センターガイド」は「プラモデル」の部品であることは自明である。
(ウ)プラモデルの技術常識を踏まえると,プラモデルの部品は「ランナー」および「ゲート」を除いたものであるから,写真2に示されるもののうち,「(中抜けした)略台形部」,「該台形部の平行な対辺のうち長辺に間隔を空けて,略平行に配置された棒状体(以下,「センターガイド棒状体」という。)」,および「(略台形部とセンターガイド棒状体を繋ぐ)接続体」からなるものが,プラモデルの部品としての「センターガイド」であると認められる。
(エ)写真2から,「センターガイド」の「台形部の平行な対辺のうち長辺」と間隔を空けて配置される「センターガイド棒状体」との間にある「空間部」は,「(略台形部とセンターガイド棒状体を繋ぐ)接続体」によって二分され,二分された「空間部」は,「台形部の平行な対辺のうち長辺」と「センターガイド棒状体」と「接続体」に三方を囲まれるとともに,「接続体」に対向する部分を「開口部」とした「空間部」であることが看て取れる。

ウ 写真3および写真3の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真3の説明文の「接続のキモになるのが外側に付くキャタピラリンクのパーツで,スライド金型を使用した軟質樹脂の成形品です。」との記載から,写真3に写っているものは「キャタピラリンク」であって,軟質樹脂より成形されたものであることが理解できる。
(イ)プラモデルの技術常識を踏まえると,プラモデルの部品は「ランナー」および「ゲート」を除いたものであるから,写真3に写っているもののうち,「ゲート」の先端側に接続された全体として長円柱であって,長円形の端面と,該端面の長手方向両端部にそれぞれ孔を有するものが,プラモデルの部品としての「キャタピラリンク」であると認められる。

エ 写真4および写真4の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真4の説明文の「組み立てはキャタピラブロックにセンターガイドをパチパチはめ込んでいく形で進みます。」との記載から,写真4は,「キャタピラブロック」に「センターガイド」を嵌め込んだ状態を撮影したものであることが理解できる。
そして,「キャタピラブロック」とは,写真1に写っている部品のことであることは自明である。
(イ)写真4では,1つの「センターガイド」が,2つの「キャタピラブロック」に跨がるように嵌め込まれ,それを繰り返すことで,6個の「キャタピラブロック」が短手方向に順次つながっていることが看て取れる。
(ウ)上記「エ (ア)」,および上記「イ (イ)」の記載から,キャタピラブロックにセンターガイド嵌め込むにあたり,接着処理を選ばない,つまり接着剤を用いないことは明らかである。
(エ)写真4の説明文の特に「組み立てはキャタピラブロックにセンターガイドをパチパチはめ込んでいく形で進みます。」,写真2の説明文の特に「受け口の形状を見ればお分かりかと思いますが,ここも含めて基本はスナップタイト接続です。」,および写真4の「キャタピラブロックにセンターガイドがはめ込まれた状態」から見て,「センターガイド」の「空間部」が「受け口」であり,上記「イ (エ)」において看取した「開口部」より,「接続棒状体」が侵入して,該「受け口」に嵌め込まれることは自明である。

オ 写真5および写真5の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真5の説明文の「良く切れるニッパーを使用すればセンターガイド始め各部のゲート処理も気になりません。」および「切り離したキャタピラを治具の上にセットし」との記載から,写真5に写っているものは,写真4に写っているものの上半分もしくは下半分(「ランナー」および「ゲート」を除いたもの),つまり6個の「キャタピラブロック」に「センターガイド」を嵌め込んだものを,「治具」にセットしているものであることが理解できる。
(イ)写真5からは,6個のつなげられた「キャタピラブロック」に「センターガイド」を嵌め込んだものがセットされた治具(以下,「第1治具」という。)の長手方向両端には長円形の孔が設けられ,「第1治具」の左上方向に,「長方形状の部材」が配置され,該部材には長円形の突起が設けられることが看て取れる。

カ 写真6および写真6の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真6に写っているものは,写真5における「キャタピラブロック」に「センターガイド」を嵌め込んだものがセットされた「第1治具」と,該第1治具の左上方向に配置された「長方形の部材」とを重ねたものであると認められる。
(イ)写真6の説明文の「ガイドで挟んで固定します。」との記載から,上記(ア)でいう「長方形状の部材」は「ガイド」であることが理解できる。(以下,「長方形状の部材」を「ガイド」という。)
(ウ)「第1治具」と「ガイド」が重ねられた状態において,写真5で看取された「長円形の突起」が見えないことから,「ガイド」は,写真5における上側の面を,下にして「第1治具」と重なっていることは,写真6から自明である。
(エ)写真6に写っている「第1治具」と「ガイド」が重ねられた状態のものは,両部材間にほとんど隙間が視認できないことからみて,第1治具の長円形の孔に,ガイドの長円形の突起が,嵌合して固定されていることは,明らかである。

キ 写真7および写真7の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真7と,写真7の説明文の「キャタピラリンクをランナーごと別の治具にセットします。」との記載から,写真7に写っているものが,ランナー(およびゲート)に取り付けられた状態の6個の「キャタピラリンク」が,別の治具(以下,「第2治具」という。)にセットされたものであることが理解できる。

ク 写真8および写真8の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真8と,写真8の説明文の「ゲートを切断すると治具のポケットにキャタピラリンクが綺麗に収まると言う寸法です。」との記載から,写真8には,「第2治具」に「キャタピラリンク」が嵌合できる同形状の孔が設けられ,該孔に「キャタピラリンク」が嵌合した状態のものが写っていることが理解できる。

ケ 写真9および写真9の説明文,写真10および写真10の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真9および写真10と,写真9の説明文「双方の治具にはガイドがあるので何の苦労も無く横からパチッとはめ込み……」,写真10の説明文「ただ外すだけでもうキャタピラリンクがブロックの方に残ります。」の記載から,写真9には,「第1治具」と「ガイド」とが重ねて固定されたものに,横から「第2治具」が嵌め込まれる状態のものが写っていることが理解できる。
(イ)写真10には,写真10の説明文「ただ外すだけでもうキャタピラリンクがブロックの方に残ります。」の記載から,写真9に写っている「「第1治具」と「ガイド」とが重ねて固定されたものに,横から「第2治具」が嵌め込まれる状態」から,「第2治具」を取り外した状態であって,キャタピラブロックにキャタピラリンクが取り付けられた状態のものが写っていることが理解できる。

コ 写真10および写真10の説明文,写真11および写真11の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真10の説明文「ただ外すだけでもうキャタピラリンクがブロックの方に残ります。一番初めの画像でキャタピラブロックのピン先端が太められていたことを思い出して下さい。力を掛けない限りは抜けないようになっています。」との記載,および写真11から,「キャタピラリンク」の端面に設けられた孔に,「キャタピラブロック」の「突出棒状体」が,力を掛けない限りは抜けない程度の強度で,嵌め込まれる点が看て取れる。

サ 写真11および写真11の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真11の説明文の「一度の作業で6コマの履帯を連結させることができます。ここまで接着箇所は一切ありません。」との記載から,「センターガイド」と,「キャタピラブロック」と,「キャタピラリンク」からなる履帯を製作するにあたり,接着剤は用いない,つまり無接着剤であることが理解できる。
(イ)写真11から,「キャタピラリンク」は,「キャタピラブロック」の長手方向の両側に取り付けられることが看て取れ,写真11においては,6個の「キャタピラブロック」に対して,左右に5個,計10個のの「キャタピラリンク」が取り付けられた状態のものが写っていることが理解できる。
(ウ)写真11においては,1つの「キャタピラリンク」が,2つの「キャタピラブロック」に跨がるように取り付けられ,それを繰り返すことで,6個の「キャタピラブロック」が短手方向に順次つながった状態のものが写っていることが理解できる。

コ 写真20および写真20の説明文より,以下の事項が理解できる。
(ア)写真20の説明文の「2列分組み立て完了,よく動いて気持ちのいいものです。とある戦車のこのメーカーああもういいや書いちゃえ,MENGモデルはこのフォーマットで他社製品用のダブルピンキャタピラを出しても全然イケるんじゃありませんか?」との記載から,写真20に写っている黒い帯状体は,動くもの,つまり,プラモデルの戦車の部品である「可動式」の「ダブルピンキャタピラ」である点が理解できる。

以上のことを総合すると,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「センターガイドと,キャタピラブロックと,キャタピラリンクと,第1治具,ガイド,第2治具と,を含む,無接着剤,ダブルピンの可動式のキャタピラであって,
前記センターガイドの受け口は開口部を有し,かつ前記センターガイドの受け口には,前記開口部より前記キャタピラブロックの接続棒状体が侵入して,前記開口部と前記接続棒状体とがスナップタイト接続で嵌め込まれ,前記キャタピラブロックの両端にはいずれも突出棒状体が設けられ,前記突出棒状体は根元から先端部近傍までの太さは一様であるが,先端部近傍は,それ以外の部分に比べて太くなっており,前記キャタピラリンクが軟質樹脂を材料として製造され,前記突出棒状体と前記キャタピラリンクとは接合することにより,前記キャタピラリンクを前記突出棒状体に入れた後に力を掛けない限りは抜けない程度の強度で,嵌め込むことができ,
前記ガイドには長円形の突起が設けられ,前記第1治具には長円形の突起に対応した位置決め孔が設けられ,ガイドの長円形の突起が第1治具の位置決め孔に嵌合されることで,ガイドと第1治具とは重ねて固定され,
第2治具は,キャタピラリンクが嵌合できる同形状の孔が設けられ,該孔にキャタピラリンクが嵌合した状態で,ガイドと第1治具とは重ねて固定されたものに,横から嵌め込んだ後に第2治具を外すと,キャタピラリンクがキャタピラブロックの方に残る,無接着剤,ダブルピン構造の可動履帯。」

(2)引用文献2:MENG-MODEL ロシアT-90A主力戦車 1/35スケールプラスチックモデルキット
2013年 9月16日,平成30年4月6日検索,
URL,http://www.meng-model.com/jp/index2_new.php?id=202
なお,引用文献2について「wayback machine」にて,引用文献2のwebサイトを読み込ませたものと,上記のURLによるwebサイトの内容が一致するので,引用文献2に記載された内容は,2013年9月16日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものと認める。
「wayback machine」にて,引用文献2のwebサイトを読み込ませたものについては,「https://web.archive.org/web/20130916191106/http://www.meng-model.com/JP/index2_new.php?id=202」を参照されたい。

ア 引用文献2は,戦車のプラスチックモデルに関する文献であって,「履帯の構成は実物のように成っており,TPE(熱可塑性エラストマー)素材製のエンドコネクターで履帯を連結する際の専用工具が用意され,履帯製作が簡単に行えます。」と記載されている。
したがって,引用文献2には,以下の事項が記載されている。(以下,「引用文献2記載事項」という。)
「戦車のプラスチックモデルの履帯を連結する,TPE(熱可塑性エラストマー)素材製のエンドコネクター」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「センターガイド」は,本願発明の「中間接続部材」に相当する。
以下同様に,「キャタピラブロック」は「履板」に,
「キャタピラリンク」は「弾性ピンブッシュ」に,
「無接着剤,ダブルピンの可動式のキャタピラ」は「無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデル」に,
「受け口」は「回転軸孔」に,
「接続棒状体」は「中間回転軸」に,
「突出棒状体」は「反転型ダボ」に,
「ガイド」は「上補助クランプ」に,
「第1治具」は「下補助クランプ」に,
「長円形の突起」は「位置決めピン」に,
「長円形の突起に対応した位置決め孔」は「位置決め孔」に,それぞれ相当する。
本願発明の「第3補助クランプ」は,本願の発明の詳細な説明の特に段落【0017】を参酌すると,「弾性ピンブッシュ58を搭載して下補助クランプ53のガイドロッドに沿って一度に5つの弾性ピンブッシュ58を履板2の反転型ダボ21に入れて,第3補助クランプ57から取り外して装着を完了」するものであるから,「キャタピラリンクが嵌合できる同形状の孔が設けられ,該孔にキャタピラリンクが嵌合した状態で,ガイドと第1治具とは重ねて固定されたものに,横から嵌め込んだ後に第2治具を外すと,キャタピラリンクがキャタピラブロックの方に残」ることになる引用発明の「第2治具」は,本願発明の「第3補助クランプ」に相当することは明らかである。
引用発明において,可動履帯を製作する際に用いる「第1治具,ガイド,第2治具」は,本願発明の「上補助クランプ,下補助クランプ,第3補助クランプ」に相当し,本願発明の「補助クランプ」が「上補助クランプ,下補助クランプ,第3補助クランプ」を含むのであるから,引用発明において,「第1治具,ガイド,第2治具」を含む「補助クランプ」に相当する構成があることは自明である。
引用発明の「開口」は,「(本願発明の「中間接続部材」に相当する)センターガイド」の「(本願発明の「回転軸孔」に相当する)受け口」にあり,センターガイドの受け口には,開口部より前記キャタピラブロックの接続棒状体が侵入して,前記開口部と前記接続棒状体とがスナップタイト接続で嵌め込まれており,「スナップタイト接続」が,材料の弾性を利用して受け手側に嵌めることであるから,引用発明の「開口部」は,当然に弾性を有するものであって,本願発明の「弾性開口」に相当するといえる。
また,引用発明の「開口部」と「センターガイドの接続棒状体」とが,スナップタイト接続で嵌め込まれているのであるから,引用発明の「開口部」と「センターガイドの接続棒状体」とは,本願発明の「弾性開口」と「中間接続部材の中間回転軸」と同様に「係止接合」されていることは明らかである。
引用発明の「突出棒状体と前記キャタピラリンクとは接合することにより,前記キャタピラリンクを前記突出棒状体に入れた後に力を掛けない限りは抜けない程度の強度で,嵌め込」まれることは,本願発明の「反転型ダボと前記弾性ピンブッシュとは接合することにより,前記弾性ピンブッシュを前記反転型ダボに入れた後に係合固定」されるに相当する。
引用発明の「ガイドの長円形の突起が第1治具の位置決め孔に嵌合されることで,ガイドと第1治具とは重ねて固定」されることは,本願発明の「上補助クランプと下補助クランプとは位置決めピンにより位置決め孔に係合固定」されるに相当する。
以上のことから,両者は,
〈一致点〉
「中間接続部材と,履板と,弾性ピンブッシュと,補助クランプと,を含む無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデルであって,
前記中間接続部材の回転軸孔には弾性開口を有し,かつ前記中間接続部材は前記弾性開口により前記履板の中間回転軸に係止接合し,前記履板の両端にはいずれも反転型ダボが設けられ,前記反転型ダボと前記弾性ピンブッシュとは接合することにより,前記弾性ピンブッシュを前記反転型ダボに入れた後に係合固定することができ,
前記補助クランプは,上補助クランプ,下補助クランプ及び第3補助クランプを含み,
上補助クランプには位置決めピンが設けられ,下補助クランプには位置決めピンに対応して位置決め孔が設けられ,上補助クランプと下補助クランプとは位置決めピンにより位置決め孔に係合固定されることを特徴とする簡易,無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデル。」
である点で一致し,以下の点で相違している。
〈相違点〉
相違点1
本願発明は「簡易,無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデル」であるのに対して,引用発明は「無接着剤,ダブルピン構造の可動式履板モデル」であるものの,「簡易」については不明な点。
相違点2
弾性ピンブッシュに関して,本願発明は「熱可塑性エラストマーを材料として製造」されているのに対して,引用発明は,弾性ピンブッシュに相当するキャタピラリンクが「軟質樹脂を材料として製造」されている点。

5 判断
相違点1について
本願発明において「簡易」とは,「(ダブルピン構造の可動式履板モデルを)一度に組み立てることができ,製造の難しさを簡易化させ,製造効率を向上させる。(【要約】欄参照)」ことであると定義しているものと認める。
そして,引用発明に記載される可動履帯は,本願発明と同様の製造工程によって製造されるものであるから,「(ダブルピン構造の可動式履板モデルを)一度に組み立てることができ,製造の難しさを簡易化させ,製造効率を向上させる」という意味において,引用発明も「簡易」なダブルピン構造の可動式履板モデルであるといえる。
したがって,本願の相違点1に係る発明特定事項は,引用発明1に記載されているから,相違点1は,実質的な相違点ではない。

相違点2について
プラスチックモデルの部品に,TPE(熱可塑性エラストマー)を用いることは,引用文献を挙げるまでまでもなく周知技術である。
また,プラスチックモデルの部品の材料には,部品毎に要求される特性に対応しうる材料を選択することは,当業者が当然行うべきであるところ,引用文献2には引用文献2記載事項として,「戦車のプラスチックモデルの履帯を連結する,TPE(熱可塑性エラストマー)素材製のエンドコネクター」が記載されている。
ここで,「(戦車のプラスチックモデルの履帯)エンドコネクター」が,本願発明における「弾性ピンブッシュ」に相当する部材であることは,当業者にとって常識であることを踏まえると,引用発明のキャタピラリンクの材料として,「軟質樹脂」に代えて「熱可塑性エラストマー」とすることに,格別の技術的困難性はなく,引用発明に引用文献2記載事項の「TPE(熱可塑性エラストマー)素材製のエンドコネクター」を適用して,本願の相違点2に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

なお,相違点2に係る本願発明の発明特定事項に係る効果として,本願の明細書の段落【0010】に「(2)TPE(Thermoplastic Elastomer)を材料として履板ピンブッシュを製造し,TPE(Thermoplastic Elastomer)材料の延性と柔軟性を利用して,細かいダボとピンブッシュとが結合する時における破断と構成的損害の問題を徹底的に解決し,履板が接続した後に,可動性と構造は真実の履板とほぼ完全に同じであり,静止状態の戦車モデルの履板の真似することを新しい水準まで達する。」と記載されているので,検討する。(なお,段落【0010】には「Thermoplaastic Elastomer」と記載されているが,当審で誤記と認めて上記のとおりとした。)
本願発明において,TPE(熱可塑性エラストマー)の「材料の延性と柔軟性」を利用して,「細かいダボとピンブッシュとが結合する時における破断と構成的損害の問題を徹底的に解決」し,「履板が接続した後に,可動性と構造は真実の履板とほぼ完全に同じ」であり,「静止状態の戦車モデルの履板の真似することを新しい水準まで達する」という効果を奏するための材料として,TPE(熱可塑性エラストマー)が選択されているところ,戦車のプラスチックモデルの履板を接続する部材であれば,当然備えているべき性質にすぎず,引用発明のキャタピラリンクの材料である「軟質樹脂」も,当該性質は当然備えているべきものであって,引用発明の「軟質樹脂」が上記効果を奏することができないということはできない。
さらに,「TPE(熱可塑性エラストマー)」は,「熱を加えると軟化して流動性を示し,冷却して常温付近ではゴム弾性を示す高分子物質」の総称にすぎず,特定の「TPE(熱可塑性エラストマー)」を限定しているものではないから,上記の効果を奏することのできる程度の材料の選択という観点から,戦車のプラスチックモデルの履板を接続する部材に「TPE(熱可塑性エラストマー)」,または「軟質樹脂」のいずれを採用することも,当業者が適宜行う程度の設計的事項にすぎない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明および周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

第5 付言(本件補正が適正なものとした場合の検討)
上記のとおり,本件補正は,特許法第184条の12第2項で読み替えて適用される,特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるが,仮に「反転型ダボ」の形状を「一定の直径を有する丸棒状」と限定することが,いわゆる新規事項に該当しないものとして,念のために検討する。
出願人は,平成30年8月30日付け審判請求書において,以下のとおり主張する。
「(阻害要因)引用文献1の内容により,太くなっている先端構造を取り除くに阻害要因があります。
同日付けに提示された手続き補正書により,反転型ダボは前端が太い直径有しない構造を明白にするように,「反転型ダボは一定の直径を有する丸棒状であること」を追加し,請求項1の範囲を減縮いたしました。
なお,引用文献1では,不合理-2について述べたように,反転型ダボは前端が太い直径構造を有し,その太い直径構造がピンブッシュと係合する機能を発揮し,力を掛けない限りは抜けないように設けられています。プラモデルの取り付けや,太い直径構造を設計する観点から考えますと,このような構造を取り除いたらピンブッシュが容易に外され,プラモデルの取り付けができなくなると考えられます。したがって,太い直径構造の機能及び当該技術領域の周知知識により,本願発明のように,引用文献1に開示された接続ピンを太い直径構造が有しない構造に変更することには,技術的な阻害があると思料致します。」
しかしながら,戦車のプラスチックモデルの履板と,該履板に接続される部材において,出願人が主張するように「ピンブッシュが容易に外され,プラモデルの取り付けができなくなる」ような寸法に設計することは到底考えられないし,本願発明も引用発明も「弾性ピンブッシュを反転型ダボに入れた後に係合固定する」点では,軌を一にしており,両者とも「力を掛けない限りは抜けないように設け」られていることは自明である。
したがって,引用発明の「根元から先端部近傍までの太さは一様であるが,先端部近傍は,それ以外の部分に比べて太」い「突出棒状体」を,本願発明のように「一定の直径を有する丸棒状」とすることに,阻害要因があるとは認められない。
また,同請求書において「反転型ダボは一定の直径を有する丸棒状であること」によって,「従来の太い直径構造による高い金型精度に要求せず,成形の生産効率を向上させる有利な効果があります。」と主張しているが,「反転型ダボ」は,履板および中間回転軸と一体に成形されるものであると推察されるところ,「反転型ダボ」のみの形状を変更したとして,その効果はきわめて限定的なものであって,格別のものとは認められない。
よって,本件補正の「反転型ダボは一定の直径を有する丸棒状であること」は,引用発明との対比において,相違点(相違点3)になり得るが,該相違点に係る本願発明の発明特定事項は,当業者が適宜なしえる程度の設計的事項にすぎず,本願発明が,平成30年8月30日付けの手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に係る発明であるとしても,引用発明および周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることに変わりはない。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-11 
結審通知日 2019-07-16 
審決日 2019-08-01 
出願番号 特願2016-564362(P2016-564362)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63H)
P 1 8・ 55- Z (A63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 比嘉 翔一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 畑井 順一
吉村 尚
発明の名称 簡易、無接着剤、ダブルピン構造の可動式履板モデル  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 伊藤 寛之  

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