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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A24F
審判 全部無効 2項進歩性  A24F
管理番号 1358467
審判番号 無効2019-800004  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-01-24 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第5854394号発明「エアロゾル発生システムのための加熱アセンブリ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許無効審判の請求に係る特許第5854394号(以下、「本件特許」という。)は、2013年(平成25年)12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月28日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月18日に特許権の設定登録がされたものである。そして、本件特許無効審判請求後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年1月24日付け 本件特許無効審判の請求
令和1年5月8日付け 審判事件答弁書の提出
令和1年7月9日付け 審理事項通知書
令和1年8月8日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
令和1年8月29日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
令和1年9月3日付け 審理事項通知書(2回目)
令和1年9月12日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)の提出
令和1年9月12日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)の提出
令和1年9月12日 口頭審理
令和1年9月20日 上申書(請求人・被請求人)の提出

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし15に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明15」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、以下に示す特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものである。

「【請求項1】
エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって、
電気抵抗式加熱要素及びヒータ基板を含むヒータと、
前記ヒータに結合されたヒータマウントと、
を備え、前記加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され、前記加熱要素の前記第1の部分は、前記ヒータ基板の加熱領域に位置し、前記加熱要素の前記第2の部分は、前記ヒータ基板の保持領域に位置し、前記ヒータマウントは、前記ヒータ基板の前記保持領域に固定される、
ことを特徴とする加熱アセンブリ。
【請求項2】
前記ヒータマウントはポリマ材料を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱アセンブリ。
【請求項3】
前記加熱要素の前記第1の部分は第1の材料から形成され、前記加熱要素の前記第2の部分は第2の材料から形成され、前記第1の材料は、前記第2の材料よりも大きな電気抵抗率係数を有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の加熱アセンブリ。
【請求項4】
前記加熱要素の前記第2の部分は2つの区域を含み、該2つの区域の各々は、前記加熱要素の前記第1の部分に別個に接続されて、前記第2の部分の一方の区域から前記第1の部分に至って前記第2の部分のもう一方の区域に至る電気流路を定める、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項5】
前記加熱要素は、電源に電気的に接続するように構成された第3の部分を含み、該第3の部分は、前記ヒータマウントの、前記加熱要素の前記第1の部分とは反対側に位置する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項6】
前記第3の部分は、前記第1及び第2の部分とは異なる材料で形成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の加熱アセンブリ。
【請求項7】
前記加熱要素の前記第1の部分は、前記ヒータマウントから離間される、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項8】
通常の動作条件下において、前記加熱要素の前記第1の部分が摂氏300度?摂氏550度の温度である時に、前記第2の部分の前記ヒータマウントに接する箇所は摂氏200度未満の温度である、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項9】
前記第1の部分は、前記第2の部分よりも大きな抵抗温度係数を有する、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項10】
前記第1の部分の最高温度をT1とし、大気温度をT0とし、前記ヒータマウントに接する前記加熱要素の前記第2の部分の温度をT2とした場合、(T1-T0)/(T2-T0)>2である、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項11】
前記ヒータ基板は、前記加熱要素が配置された平面と、エアロゾル形成基材に挿入できるように構成されたテーパ状の端部とを有する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の加熱アセンブリ。
【請求項12】
ハウジングと、
請求項1から11のいずれかに記載の加熱アセンブリと、
を備えたエアロゾル発生装置であって、
前記ヒータマウントは、前記ハウジングに結合され、前記加熱要素には電源が接続され、制御要素が、前記電源から前記加熱要素への電力の供給を制御するように構成される、
ことを特徴とするエアロゾル発生装置。
【請求項13】
前記ハウジングは、前記加熱要素の前記第1の部分を取り囲むキャビティを定め、該キャビティは、エアロゾル形成基材を含むエアロゾル形成物品を受け入れるように構成される、
ことを特徴とする請求項12に記載のエアロゾル発生装置。
【請求項14】
前記装置は、ハンドヘルド型喫煙装置である、
ことを特徴とする請求項12又は13に記載のエアロゾル発生装置。
【請求項15】
加熱アセンブリの製造方法であって、
ヒータ基板を用意するステップと、
前記基板上に1又はそれ以上の電気抵抗式加熱要素を堆積させるステップと、
を含み、各加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され、前記加熱要素の前記第1の部分は、前記ヒータ基板の加熱領域に堆積され、前記加熱要素の前記第2の部分は、前記ヒータ基板の保持領域に堆積され、前記方法は、
前記ヒータ基板の前記保持領域にヒータマウントを成形するステップをさらに含む、
ことを特徴とする方法。」

第3 請求人の主張
1 請求人が主張する無効理由の概要
請求人は、「特許第5854394号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として甲第1ないし6を提出し、以下の無効理由を主張する。

(1)理由1
本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)理由2
本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)理由3
本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段を反映していないため、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2011-076407号(翻訳文として、特表2013-515465号公報を添付)
・甲第2号証:国際公開第2011-050964号(翻訳文として、特表2013-509160号公報を添付)
・甲第3号証:特表2010-520742号公報
・甲第4号証:国際公開第2012-085082号(翻訳文として、特表2014-501433号公報を添付)
・甲第5号証:特開2011-135901号公報
・甲第6号証:新村 出編「広辞苑」第6版、株式会社岩波書店、2008年1月11日、p.1510-1511

なお、甲第1号証ないし甲第6号証は、審判請求書とともに提出されたものであり、以下、それぞれを「甲1」ないし「甲6」という。
そして、甲1ないし甲6の成立につき当事者間に争いはない。

第4 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人の主張する無効理由1ないし3はいずれも理由がないと主張する。

第5 当審の判断
第5-1 甲1ないし甲5について
1 甲1の記載等
甲1には、「電気加熱式エアロゾル発生システムのための細長い加熱器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。(甲1の記載事項として、審判請求書に添付された特表2013-515465号公報の記載に基づく訳文を示す。ただし、摘記箇所に示したページ数及び行数は原文に対応するものである。また、下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)

(1)甲1の記載事項
1a)「【請求項9】
エアロゾル生成基体を加熱するための加熱要素(121)において、
電気絶縁部(103)によって第2の導電性要素(109)から電気的に絶縁された第1の導電性要素(105)を含む加熱要素(121)を備え、
前記第1及び第2の要素は細長く、電気抵抗部(117、119)によって相互に電気的に接続されており、
使用時、少なくとも1つの前記導電性要素及び前記電気抵抗部は、少なくとも部分的にエアロゾル生成基体と接触するようになっている加熱要素。
【請求項10】
電気加熱式エアロゾル発生システムにおけるエアロゾル生成基体を加熱するための加熱器であって、
ホルダと、
請求項9に記載の1つ又はそれ以上の加熱要素(121)と、
前記加熱要素の各々の前記取り付け部(125)を電源に接続して導電性要素を介して電流を供給する接続部と、
を備え、
前記加熱要素の各々の第1の端部は、前記ホルダの外側に露出する加熱部(123)を構成し、前記加熱要素の各々の第2の端部は、前記ホルダに取り付けられる取り付け部(125)を構成する、加熱器。」(18ページ1?15行)

1b)「【0016】
本発明の第3の態様によれば、電気加熱式エアロゾル発生システムにおいてエアロゾル生成基体を加熱するための加熱器を備え、加熱器は、ホルダと、本発明の第2の態様による1つ又はそれ以上の加熱要素と、各加熱要素の取り付け部を電源に接続して各導電性要素を介して電流を供給するようになった接続部とを備え、各加熱要素の第1の端部はホルダから外側に突出する加熱部をもたらし、各加熱要素の第2の端部はホルダに取り付けられる取り付け部をもたらすようになっている。
加熱器はピン加熱器とすることができる。」(3ページ下から7行?4ページ1行)

1c)「【図6】



1d)「【0055】
図5に示す第5のステップにおいて、チューブ109の平らな端部を充填チャンバ101の外壁に突き合わせた状態のままで、ペースト103が乾燥してプラグ113を形成うるようにチューブ109を加熱する。これは矢印205で示されている。第4及び第5のステップは、同時に行うことができる。
図6に示す第6のステップにおいて、銅線105の端部、プラグ113、及びチューブ109は電極115で切断され、加熱要素の加熱部の遠位端を形成するようになっている。これは矢印206で示されている。以下に詳細に説明するように、切断により抵抗部又は抵抗要素117が形成される。」(11ページ7?14行)

1e)「【図9】



1f)「【0057】
図9に示す最後の第9のステップにおいて、銅線105は電極115で切断される。これは矢印209で示されている。結果として得られた加熱要素121は、加熱部123及び取り付け部及び接続部125を備える。図9の長さ901は、加熱要素の取り付け部及び接続部125に必要な長さに対応する。このことは以下に詳細に示す。
【0058】
ペースト103は、できるだけ厚いことが必要であるが、チューブ109にペーストを注入することを可能にする粘稠性をもつ必要がある。例えば水等の溶媒に絶縁を溶解させて作ることができる。絶縁粉末は、例示的で限定的ではないが、MiOx、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、他の金属酸化物又は金属塩、又はこれらの1つ又はそれ以上の組み合わせたものとすることができる。また、ペーストは追加的な材料を含むことができる。ペーストは、乾燥状態の場合に電気絶縁体を形成する。電気絶縁体は誘電材料であり、概して特定の絶縁破壊電圧まで電流を通すことはできない。電流は絶縁破壊電圧で流れ始める。マイカは、約2000kVcm-1の絶縁破壊電圧をもつことができる。
【0059】
図5に示す第5のステップにおいて、チューブ109及びペースト103は加熱されてプラグ113を形成するようになっている。加熱は、チューブ109上に温風を吹くことで、又は任意の他の適切な手段によって行うことができる。空気乾燥機は、ペーストを加熱要素の長さ方向に沿って均等に乾燥させるために使用できる。ペーストが乾燥すると、ペーストから液体が無くなるので、ペーストは収縮することができる。追加のペーストを導電性チューブに注入することができ、管状の加熱要素109を乾燥ペーストで完全に充填してプラグ113を形成するために、追加のペーストを乾燥させて注入するステップは必要に応じて何度も繰り返すことができる。
【0060】
前述の実施形態では銅線が使用されるが、任意の他の金属線を使用できる。更に、実際には、第1の導電性要素は線材である必要はない。任意の導電性材料とすることができる。導電性要素は、断面が円形又は略円形である必要はない。例えば四角、三角、又は楕円等の任意の断面とすることができる。更に、第1の導電性要素は、単一の撚り線とすることができる。もしくは、第1の導電性要素は、複数の撚り線を含むことができ。他の適切な金属としては、金、銀、プラチナ、又はチタンを挙げることができる。1つの実施形態において、銅線は長さ30mmで線径0.3mmである。線材はリールに取り付けることができる。
【0061】
チューブ109は、ステンレス鋼チューブとすることができる。チューブは注射針とすることができる。チューブの外径は約0.5mm又は1mmとすることができる。1つの実施形態において、ジュネーブ所在のMilian SAから供給される長さ120mmで直径0.8mmのBRA-4665643針を使用できる。この場合、ペーストは、第4の段階でペーストを注射針内に吸い込むことで注入できる。もしくは、チューブ109はTi-metal(登録商標)チューブとすることができる。」(11ページ20行?12ぺージ19行)

1g)「【図10】、【図12】、【図14】、【図16】



1h)「【0064】
更に、実際には、導電性要素の1つは管状又は略管状である必要はない。導電性要素は、抵抗部において他の導電性要素と電気結合可能とすれば、任意の導電性材料とすることができる。例えば、第1の導電性要素は、導電性材料の実質的に細長いストリップとすることができる。更に、第2の導電性要素は、導電性材料の実質的に細長いストリップとすることができる。次に、前述のように、絶縁ペーストは、第1の細長いストリップと第2の細長いストリップとの間に注入できる。次に、ペーストは前述のように乾燥させることができる。ペーストは、2つのストリップの間から漏出しないように十分な厚みをもつ必要がある。これは、第2の導電性要素が管状である実施形態とは異なり、製造プロセス時に絶縁ペーストを保持する壁がないことに起因している。次に、前述のように、ペーストが乾燥すると、第1及び第2の導電性要素は相互に電気結合できる。各要素は、2つの導電性要素を電極115又はペンチカッターで切断及び結合して、要素の第1の端部に抵抗部を形成することで結合できる。
【0065】
図10は、本発明の1つの実施形態による加熱要素の断面を示す。第1及び第2の導電性要素の第1の端部は102で表記される。換言すると、加熱要素の第1の端部は102で表記される。第1の導電性要素の第2の端部は104で表記されるが、第2の導電性要素の第2の端部は106で表記される。加熱要素の第2の端部は全体的に108で示される。第1及び第2の導電性要素の全長は実質的に等しい。しかしながら、第1の導電性要素が第2の導電性要素よりも長いことが好ましい。これにより、加熱要素は以下に説明するホルダに取り付けることができる。第1の導電性要素105は第2の導電性要素109から突出することができる。
【0066】
図10に示すように、例えば線材又は細長い線材である、第1の導電性要素105は、少なくとも部分的に電気絶縁ペースト103で取り囲まれる。例えばチューブである第2の導電性要素109は、電気絶縁ペーストを取り囲む。更に、チューブは、少なくとも部分的に細長い線材を取り囲むことができる。第1及び第2の導電性要素は、第1の端部102において結合することができる。抵抗部117は、以下に詳細に説明するように、加熱要素の第1の端部に形成できる。使用時、加熱要素の第2の端部に電位差を印加できる。例えば、第2の導電性要素の第2の端部106には電圧V+を印加できるが、第1の導電性要素の第2の端部104には電圧V-を印加できる。図1に示す加熱要素の抵抗プロファイルRは、加熱要素に沿った距離dの関数として図12に示される。これは、第1及び第2の端部の間の第2の導電性要素の距離として測定した第2の導電性要素の長さが「e」であることを示している。この図において、第1の端部の加熱要素の抵抗部における抵抗Rは、抵抗部ではない、つまり、加熱要素の第1の端部から加熱要素の第2の端部に向かって離れた第1及び第2の導電性要素の抵抗よりも高い。
【0067】
加熱要素の第1の端部において2つの導電性要素の間で不完全な電気接続が存在するので、電気抵抗部117の抵抗は第1及び第2の導電性要素の抵抗よりも高い。これは、加熱要素の電気抵抗部において第1の導電性要素と第2の導電性要素とを隔離する電気絶縁ペーストの量が少ないことにある程度起因する。更に、不完全な電気接続は、第1及び第2の導電性材料表面の酸化物に起因する。加熱要素を電極又はペンチを用いて切断する場合、酸化物は第1の導電性要素と第2の導電性要素とを隔離するので、加熱要素の電気抵抗部における加熱要素の抵抗が大きくなる。
【0068】
電気抵抗部の抵抗値は、加熱要素の切断時又は抵抗部の形成時に熱を加えることで管理できる。加熱要素の切断時又は抵抗接合部の形成時に加熱要素の抵抗部に加える温度が高くなれば抵抗部の抵抗は小さくなる。抵抗部の形成時に熱を加えない場合には抵抗は大きい。」(12ページ下から3行?14ページ18行)

1i)「【0071】
図16は、電気加熱要素に沿った距離を関数とした加熱要素の定常温度プロファイルTを示す。第1の端部の加熱要素の抵抗は、加熱要素の他の抵抗よりも高いので、電流が流れると加熱要素はジュール熱効果で主として第1の端部において昇温する。次に、熱は加熱要素の高温端部(第1の端部)から最初は加熱要素の第1の端部よりも冷たい加熱要素の第2の端部へ移動する。」(14ページ下から8?2行)

1j)「



1k)「【0079】
例示的な実施形態において、取り付け部及び接続部125は、円盤形ホルダに取り付けられる。ホルダは金属製又は電気絶縁製とすることができる。加熱部123は、金属ホルダの上側に露出する。金属ホルダの下方で、取り付け部及び接続部125(銅線105)が電気回路に接続される。次に、熱抵抗鋳造材料をホルダの背面に加えて銅線又は線材をマスクするようになっている。これにより加熱器の剛性を得ることができるが、同時に加熱部と取り付け部及び接続部の銅線との間の短絡を防止できる。ホルダに唯一の加熱要素を取り付ける場合、加熱要素は最も効率的に基体を加熱できるように配置される。または、ホルダに1つ以上の加熱要素を取り付ける場合、加熱要素は最も効率的に基体を加熱できるように適切な配列で配置される。これは図18に示されており、ここでは4つの加熱要素がホルダに対して略正方形配置で又は格子状に配列されている。三角形又は六角形等の他の構成も可能である。ホルダは、基体を部分的に又は完全に取り囲む外側部を含むことができる。また、ホルダは、加熱要素とは独立した又は加熱要素に接続された追加の加熱器を含むことができる。追加の加熱器は端部加熱器とすることができる。」(16ページ下から15?1行)

(2)甲1発明1、甲1発明2
上記(1)並びに図10ないし17及び18の図示内容を総合すると、甲1には次の発明が記載されている。

「エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器であって、
第1の導電性要素、第2の導電性要素、電気抵抗部及び電気絶縁部を含む加熱要素と、
加熱要素に取り付けられたホルダと、を備えた加熱器。」(以下、「甲1発明1」という。)

「加熱器の製造方法であって、
第1の導電性要素と第2の導電性要素との間に電気絶縁ペーストを注入し、乾燥させることにより電気絶縁部を形成する段階と、
第1の導電性要素、第2の導電性要素、電気抵抗部及び電気絶縁部を含む加熱要素を形成する段階、及び加熱要素にホルダを取り付ける段階を含む、方法。」(以下、「甲1発明2」という。)

なお、請求人は、審判請求書23?24ページ 第10 2(1)イにおいて、甲1に記載された引用発明1は、
「・・・
1f 前記電気抵抗部は,加熱要素の加熱部に位置し,
1g 前記第1及び第2の導電性要素は,前記加熱要素の取り付け部に位置し,
1h 前記ホルダは,前記加熱要素の前記取り付け部に取り付けられる,
1i 加熱器。」であると主張している。
しかし、上記引用発明1における、「電気抵抗部は,加熱要素の加熱部に位置し」、「第1及び第2の導電性要素は,加熱要素の取り付け部に位置」することについて、甲1には明記されていないから、甲1に記載された発明を、請求人主張の上記引用発明1のとおりではなく、甲1発明1のように認定した。

2 甲2の記載等
甲2には、「加熱器が改善された電気加熱式喫煙システム」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。(甲2の記載事項として、審判請求書に添付された特表2013-509160号公報の記載に基づく訳文を示す。ただし、摘記箇所に示したページ数及び行数は原文に対応するものである。)

(1)甲2の記載事項
2a)「【請求項1】
エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システムであって、
基体を加熱してエーロゾルを形成するための少なくとも1つの加熱器と、
前記少なくとも1つの加熱器に電力を供給するための電源と、
を含み、
前記少なくとも1つの加熱器は、電気絶縁基体上に1つ又はそれよりも多くの導電トラックを含み、該1つ又はそれよりも多くの導電トラックは、該1つ又はそれよりも多くの導電トラックが抵抗加熱器及び温度センサとして両方の作用をすることができるような抵抗温度係数特性を有する、
ことを特徴とするシステム。」(16ページ2?9行)

2b)「【0001】
本発明は、エーロゾル形成基体を加熱するための加熱器を含む電気加熱式喫煙システムに関する。」(1ページ2?3行)

2c)「【0024】
本発明のいずれかの態様の第1の実施形態において、電気絶縁基体は、剛体であり、かつエーロゾル形成基体内に挿入されるように配置される。電気絶縁基体は、適切に寸法決めされて剛体である場合、エーロゾル形成基体内に直接に挿入することができる。電気絶縁基体は、十分な剛性を提供するために補強することができる。その場合、熱絶縁材料が提供される場合には、それがエーロゾル形成基体を取り囲むように提供することができる。」(4ページ21?26行)

2d)「【0031】
本発明のいずれかの態様の第1の実施形態において、少なくとも1つの加熱器は、電気絶縁基体を準備し、導電ペーストのパターンを形成するようにテンプレートを使用して電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積させ、かつ導電ペーストを乾燥させて導電トラックを形成することによって形成される。
【0032】
その第1の実施形態において、電気絶縁基体は、あらゆる適切な電気絶縁材料とすることができるが、セラミック又は陽極酸化金属が好ましい。その第1の実施形態において、導電ペーストは、あらゆる適切なペーストとすることができるが、好ましくは、金属粒子を含む。金属は、銀とすることができる。導電ペーストはまた、結合剤及び可塑剤を含むことができる。」(6ページ7?14行)

2e)「【図1a】ないし【図1d】




2f)「【0055】
図1aから1dは、スクリーン印刷で使用される技術と類似の技術を使用した製造工程を示している。この製造工程は、本発明の第1又は第2の態様と共に使用することができる。図1aを参照すると、第1に電気絶縁基体101を準備する。電気絶縁基体は、例えば、以下に限定されるものではないが、MICAのようなセラミック、ガラス、又は紙のようなあらゆる適切な電気絶縁材料を含むことができる。代替的に、電気絶縁基体は、例えば、その表面の酸化又は陽極酸化又はその両方により導電トラックから絶縁された電気導体を含むことができる(図1bで作り出され、かつ以下に説明する)。一例は、陽極酸化アルミニウムである。代替的に、電気絶縁基体は、電気導体を含むことができ、それにグレーズと呼ばれる中間のコーティングが追加される。その場合、グレーズは、基体を導電トラックから電気絶縁し、基体の曲がりを軽減するという2つの機能を有する。電気絶縁基体に存在する折り目は、抵抗器が損傷する原因になる導電ペーストの亀裂(図1bで適用され、以下に説明する)をもたらす可能性がある。
【0056】
図1bを参照すると、電気絶縁基体は、例えば、真空によって確実に保持されるが、金属ペースト105は、切り欠き107を使用して電気絶縁基体上に被覆される。あらゆる適切な金属ペーストを使用することができるが、一例として、金属ペーストは、銀ペーストである。特に有利な例では、ペーストは、20%から30%の結合剤及び可塑剤、及び70%から80%の金属粒子、典型的には銀粒子を含む。切り欠き107は、望ましい導電トラックのためのテンプレートを提供する。電気絶縁基体101上に金属ペースト05が被覆された後に、電気絶縁基体及びペーストは、例えば、焼結炉内で焼成される。200℃と400℃の間の第1の焼成相では、有機結合剤及び溶剤が燃え尽きる。350℃と500℃の間の第2の焼成相では、金属粒子が焼結される。
【0057】
図1cを参照すると、電気絶縁基体101は、その上に1つ又は複数の導電トラック103を有するという結果になる。1つ又は複数の導電トラックは、加熱抵抗器及び必要な接続パッドを含む。
【0058】
最後に、電気絶縁基体101及び導電トラック103は、電気加熱式喫煙システム内で加熱器として使用するための適切な形態に形成される。図1dを参照すると、電気絶縁基体101は、導電トラックが電気絶縁基体の内側に位置するように(図1d(i))管状の形態に巻くことができる。その場合、管は、エーロゾル形成材料の中実プラグの外部加熱器として機能することができる。管の内径は、エーロゾル形成プラグの直径と同じか又はそれよりも僅かに大きくすることができる。代替的に、電気絶縁基体101は、導電トラックが電気絶縁基体の外側に位置するように(図1d(ii))管状の形態に巻くことができる。その場合、管は、内部加熱器として機能し、かつエーロゾル形成基体内に直接に挿入することができる。これは、エーロゾル形成基体が、例えば、タバコマットのようなタバコ材料の管の形態を取る時に良好に作用する。その場合、管の外径は、エーロゾル形成基体の内径と同じか又はそれよりも僅かに小さくすることができる。代替的に、電気絶縁基体に十分剛性があるか又は何らかの方法で補強されている場合、電気絶縁基体及び導電トラックの一部又は全ては、単に電気絶縁基体及び導電トラックをエーロゾル形成基体内に直接挿入することにより内部加熱器として直接使用することができる(図1d(iii))。」(10ページ8行?11ページ16行)

2g)「【0078】
電気絶縁基体上に形成された導電トラックを含む加熱器を使用することにより、いくつかの利点がもたらされる。電気加熱式喫煙システムに必要とされる構成要素のサイズは、縮小することができる。それによって電気加熱式喫煙システムのサイズが縮小される。更に、電気絶縁基体は、非常に薄くすることができ、更なるサイズの縮小を可能にする。更に、必要な電子機器、配線、及び接続部の一部又は全ては、加熱器として同じ電気絶縁基体上に組み込むことができる。
【0079】
加えて、加熱器は、各加熱要素を別々に形成する必要がある一部の従来技術の加熱器よりも直接的かつ費用効率よく製造することができる。加熱器は、かなり柔軟な設計になり、すなわち、導電トラックは、望むようにかつ望ましい熱分布を与えるように電気絶縁基体上に直接に配置することができる。」(14ページ下から2行から15ページ9行)

3 甲3の記載等
甲3には、「揮発装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(1)甲3の記載事項
3a)「【0006】
概して、本発明によれば、ヒートシンク、ヒートシンクと熱伝達関係にある熱伝達装置、熱伝達装置と取り外し可能な熱伝達関係にある揮発性材料源を含む揮発性コンポーネントとを備える、ユーザに揮発性材料を伝達するための装置が提供される。
【0007】
熱伝達装置から取り外し可能な揮発性装置を提供することにより、揮発性装置が、熱伝達槽置と分離して製造、販売され得、熱伝達装置が再利用されうる。
【0008】
揮発性コンポーネントの取り外しを容易にするために、装置は好ましくは、ユーザによって容易に分離されうる2つの基本的なコンポーネントから構成される。そのコンポーネントの一つは、ヒートシンクまたは熱伝達装置とおそらく一緒に、揮発性コンポーネントを取り入れ、もう一つのコンポーネントは、ヒートシンクまたは熱伝達装置のいずれかまたはその両方を取り入れる。例えば、本発明の一実施形態において、ヒートシンクおよび熱伝達装置はその装置の第1のコンポーネントに一緒に取り付けられ、揮発性材料源は第2のコンポーネントに取り付けられ、第2のコンポーネントは、第1のコンポーネントから取り外し可能である。代替的な構成において、ヒートシンクおよび揮発性コンポーネントは、その装置の第1のコンポーネントに取り付けられ、熱伝達装置は、その装置の第2のコンポーネントに取り付けられる。」

3b)「



3c)「【0028】
図1、2、3を参照すると、再利用可能な熱伝達コンポーネント11と使い捨ての揮発コンポーネント20とを含む模擬シガレットの形の、揮発した材料をユーザに送達するための装置10が示されている。熱伝達コンポーネント11は、例えば低い熱伝導率を有する高い熱抵抗性プラスチック、セラミックその他の耐久性材料からなる非熱伝導性管である円筒形ハウジングまたは外被12を含む。外被12の中には、支持・断熱材料26によって封じ込められたヒートパイプ16の形の熱伝達装置が配置される。ヒートパイプ16は、一端においてヒートシンク14内に長手方向に延び、反対の端部において使い捨ての揮発コンポーネント20内に延びる。」

3d)「【0033】
図2、3に最もよく示すように、装置10の再利用可能な熱伝達コンポーネント11はまた、ヒートシンク14と熱伝達関係にある一端30と、揮発材料源を、この場合はタバコ含有合成物を有する揮発コンポーネントの部分22内に受けられる反対側の端部32とを有するヒートパイプ16の形の熱伝達装置を含む。ヒートパイプ16は一般に、両端で密封された中空のアルミニウムまたは銅の管であって、熱伝達材料36で満たされる。好適には熱伝達材料36は、液体例えば水で飽和させられ、ヒートシンク14からタバコ部分22に熱エネルギーを伝達するように設計された毛細管の芯を備える。例えば5℃から230℃の動作温度範囲を有する銅ジャケット被覆された水ヒートパイプは、本発明での使用のために十分である。更にヒートパイプ16は一般に、直径が約2mmから6mmで、長さが5cmから9cmである。ヒートパイプ16は、適当な支持・断熱材料26、例えばセラミックマット、セラミックファイバ、多孔性セラミック、ガラスファイバ、オープンセル発泡樹脂、または機能的熱範囲に反復露出可能なその他の適当な断熱材料によって取り囲まれる。ヒートパイプ16の露出した端部32は、この後に論じられるようにタバコ部分22に熱伝達連通して係合することに適応している。この露出端部32は、タバコ部分22との接触に適したコーティングを組み込むこともできる。適当なコーティングは、アルミニウム、ステンレス鋼、高温プラスチック、または熱伝導性セラミックを含み得る。支持・断熱材料26は、ヒートシンク14からヒートパイプ16の第2端部または露出端部32の通常5mm?10mm以内までのヒートパイプ16をカバーする。」

4 甲4の記載等
甲4には、「還元セラミック発熱体」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。(甲4の記載事項として、審判請求書に添付された特表2014-501433号公報の記載に基づく訳文を示す。ただし、摘記箇所に示したページ数及び行数は原文に対応するものである。)

(1)甲4の記載事項
4a)「【請求項1】
セラミック材料から成る本体と、該本体の上又は中に形成される導電性経路とを備える電気発熱体であって、前記導電性経路は、還元型セラミック材料から成り、電源に接続するための第1の接触部分及び第2の接触部分を有し、本体はエアロゾル生成基体を受容するように形成された、電気発熱体。
【請求項2】
前記本体は、完全に又は部分的に金属酸化物から形成され、前記導電性経路は、金属酸化物の金属部材から形成される、請求項1に記載の電気発熱体。
【請求項3】
前記本体はジルコニアから形成され、前記導電層はジルコニウムから形成される、請求項1又は2に記載の電気発熱体。
【請求項4】
前記導電性経路は、前記本体の表面を完全に覆っている、請求項1から3のいずれかに記載の電気発熱体。
【請求項5】
前記導電性経路は、前記本体の表面にパターンを形成する、請求項1から3のいずれかに記載の電気発熱体。」(7ページ2?15行)

4b)「



4c)「【0025】
図1a及び1bは、本発明による発熱体の1つの実施例を示す。発熱体は、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)で形成された本体10を備える。本体は、略V字形であり、先端部12及び2つの後端部14、16を有する。本体は、任意の所望の形状とすることができ、本実施例では、射出成形及びその後の必須の機械加工によって形成される。機械加工の後で、本体は焼成及び焼結されて剛体を形成するようになっている。本体10の表面は、図2を参照して説明するように、金属ジルコニウム層18で覆われている。ジルコニウム層18は、ジルコニア本体10に比べて相対的に導電性があり、抵抗発熱体として利用することができる。本実施例において、ジルコニウム層は約0.1Ω/mmの抵抗を有する。
【0026】
電気接触部20、22は発熱体の後端部に配置されており、銀ペーストから形成されている。銀ペーストは、発熱体と外部電源との間の電気接触部を形成するために使用され、その後、好ましくは不活性の無酸素雰囲気において電気接続部を硬化させることができる。レーザ溶接、プラズマアーク溶接、又はガスタングステン溶接といった電気接触部を提供する他の方法を利用することができる。しかしながら、還元セラミックの酸化を防止するために、溶接は、不活性な無酸素又はまさに還元性雰囲気で行う必要がある。」(4ページ5?20行)

4d)「【0032】
図1a及び1bに示す発熱体は、電気加熱式喫煙システム、特に、たばこ香味又はたばこ香味付けされたエアロゾルを生成するために、比較的低温の熱源を使用してたばこ製品を加熱する喫煙デバイスにおいて使用できる。この形式の発熱体には、比較的単純で製造するのが安価であり、更に任意の所望の形状及びサイズに形成できるという利点がある。
【0033】
図3は、組立分解様式のエアロゾル生成基体に使用する発熱体の1つの実施例の概略図である。図3において、発熱体30は図1aに示す略V字形構成である。絶縁層32は、発熱体の後端部に設けられ、喫煙デバイスの電源34を含む残余部を発熱体から絶縁するようになっている。電気接続部36は電源34との間で絶縁層28を通って発熱体30の接触部分まで延びている。発熱体は、エアロゾル生成基体38のプラグに挿入される。使用時、発熱体は基体材料38を加熱して所望のエアロゾルを生成するようになっている。」(5ページ21?33行)

5 甲5の記載等
甲5には、「無煙喫煙治具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(1)甲5の記載事項
5a)「【請求項1】
スリーブ部を有する、先端部に尖った金属を溶接した2.3mm以下の径を有する円筒状のU字型ヒーターのヒーター部を紙巻煙草や葉巻のほぼ中央部に挿入し、該紙巻煙草や葉巻の葉を、挿入されたヒーター部分で直接加熱する事により、煙草の葉に含まれるニコチンを蒸発させ、ニコチンを吸引することを可能とする無煙喫煙治具。
【請求項2】
請求項1記載の無煙喫煙治具の煙草挿入口に嵌合するマウスピースと組み合わせて使われることを特徴とする無煙喫煙治具。
【請求項3】
挿入される紙巻煙草や葉巻の挿入長を調整するためのストッパーを有し、該ストッパーの位置を外部から調整できることを特徴とする、請求項1あるいは、請求項2記載の無煙喫煙治具。」

5b)「【0001】
本発明は、煙草の葉を燃焼させずに、煙草の葉を直接加熱することにより該煙草の葉より蒸発するニコチンを吸引する治具に関するものである。」

5c)「【0018】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案するものであり、一般的に市販されている紙巻き煙草や葉巻を、そのままの形で使用しながら、煙草の葉を燃焼させること無しに、吸引可能な適温で、煙草の葉からニコチンを蒸発させ、それを吸引することができる治具を考案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述の課題を解決するために、市販されている紙巻き煙草や葉巻に先端を尖がらせた細いヒーターを挿入し、煙草の葉のみを直接加熱することにより、比較的低温で、煙草の葉からニコチンを蒸発させ、それを吸引することができるようにしたものである。」

5d)「【図2】



5e)「【0034】
本願発明による治具は、図1に1つの実施例の外観を示す。治具100は、フィルター付き紙巻き煙草90を挿入する煙草挿入口9と、突起部10と、動作状態を示す表示器5と、外部からの電力を受取るコネクター6(図2に図示)と、外部空気取り入れ口8と図2中に示す内部構成品からなる。
【0035】
図2は、図1のA-A’切断線による内部構造説明図である。ヒータースリーブ7を持った細いヒーター1と、ヒーター1の熱が外部ケース3に伝導することを防ぐ熱的絶縁管2と、外部空気取り入れ口8を持った外側ケース3と、フィルター付き紙巻き煙草の挿入停止位置を決めるストッパー4と、この治具の動作状態を表示する表示器5と、外部からの電力を受取るコネクター6と、により本願発明治具は、基本的に構成される。ヒータースリーブ7は、ヒーター1の長期信頼性を確保するための封止部28を含んでいる。プリント基板13には、少なくとも、コネクター6と、表示器5と、ヒーター1と、表示器5のコントロール回路A11と、ヒーター1のコントロール回路B12が、実装されている。ここで、ヒーター1の先端は、煙草挿入口9より、少し内部にしてあるのは、本願治具を使用する喫煙者が火傷しないための配慮である。
【0036】
図3は、図1のB-B’切断線による内部構造説明図である。外側ケース3は、内部にある熱的絶縁管2、ヒータースリーブ7、プリント基板13を保持するような形状に造られている。
【0037】
本願発明による治具100の使い方は、以下に示すような手順で使用される。
1. 喫煙者は、自分の好みのフィルター付き紙巻き煙草90を、治具100の煙草挿入口9に、ストッパー4で止まる所まで挿入する。これにより、細いヒーター1が、フィルター付き紙巻き煙草90の煙草部92中に挿入される。この挿入された状態の本願治具と挿入されたフィルター付き紙巻き煙草90との位置関係を、図4に示す。
2. 喫煙者は、本願治具のコネクター6より電力を供給し、ヒーター1の温度上昇により煙草部92の葉が、直接加熱され、ニコチンが蒸発するまで待つ。ここで、表示器5は、吸引可能になったことを知らせる時もあるが、単に加熱状態のみを表示する時もある。
3. 喫煙者は、煙草の葉が加熱され、煙草の葉からニコチンが蒸発し始めると、本願治具に、フィルター付き煙草90を挿入したまま、あるいは、本願治具から、フィルター付き煙草90を抜き出して、フィルター91から、煙草の葉から蒸発しているニコチンを吸引する。
4. 以後、該フィルター付き煙草90の煙草の葉からのニコチンの蒸発が無くなるまで2,3を繰り返す。」

5f)「【図5】



5g)「【0041】
フィルター付き紙巻き煙草90に、細いヒーターを挿入するといっても、簡単ではない。まずは、先端が尖っていることが、必須条件である。
【0042】
図5に一般的な細いヒーター1の内部構造断面図を示す。金属チューブ22は内部に湿気が入らないように先端封止部21で、封止されている。この金属チューブ22の中に、抵抗発熱線24(この部分が、ヒーターとして発熱する)と、抵抗発熱線24と熔接で接続された内部リード線25を有し、酸化マグネシュームの粉末23で内部を充填したものである。ヒータースリーブ7から引き出された内部リード線25は、外部で、半田付可能な線材のリード線8に繋ぎ変えられる。先端封止部21は、金属で金属チューブ22に熔接で附けられているが、封止部28は、ガラス封止してあるために、ヒーター1を使用する場合、封止部28の温度は、150℃以下で使用する必要がある。もし、150℃以上で使用すると、ガラス封止部28にクラックが入り、内部に湿気が侵入し、MgOと反応して、MgOの絶縁性を低下させる。
【0043】
構造上ヒーター1の封止部21は、ほぼ平坦であり、このままでは、容易にフィルター付き紙巻き煙草90の中に、挿入することはできない。そこで、本願発明者は、図6に示すように金属でできた先端30を、先端封止部21に熔接して、ヒーター1の先端をとがらせた。これにより、ヒーター1は、容易にフィルター付き紙巻き煙草90に挿入することができるが、それでも、ヒーター1の径が大きくなると、挿入できないという問題が残った。」

5h)上記5f)図5の図示内容から、内部リード線は、ヒータースリーブ部の領域に設けられることが分かる。

5i)上記5d)図4、及び5f)図5の図示内容から、抵抗発熱線は、ヒーターが紙巻き煙草や葉巻が挿入される領域に設けられることが分かる。

5j)ヒーターに電流が流れた時に、抵抗発熱線は、内部リード線よりも高い温度に加熱されることは、抵抗発熱線と内部リード線のそれぞれの機能及び技術常識からみて明らかである。

(3)甲5発明1、甲5発明2
上記(1)並びに図2、図4及び図5の図示内容を総合すると、甲5には次の発明が記載されている。

「紙巻き煙草や葉巻を加熱するための無煙喫煙治具であって、
内部に抵抗発熱線、内部リード線を有し、酸化マグネシュームの粉末を充填した金属チューブを含むヒーターと、
ヒーターに設けられたヒータースリーブ部と、を備え、
抵抗発熱線及び内部リード線は、電流が流れた時に抵抗発熱線が内部リード線よりも高い温度に加熱されるように構成され、
抵抗発熱線は、ヒーターが紙巻き煙草や葉巻が挿入される領域に設けられ、
内部リード線は、ヒーターのヒータースリーブ部の領域に設けられる、無煙喫煙治具。」(以下、「甲5発明1」という。)

「紙巻き煙草や葉巻を加熱するための無煙喫煙治具の製造方法であって、
金属チューブの中に抵抗発熱線と内部リード線とを挿入し、酸化マグネシュームの粉末を充填して先端封止部で封止することによりヒータを形成する段階を含み、
抵抗発熱線及び内部リード線は、電流が流れた時に抵抗発熱線が内部リード線よりも高い温度に加熱されるように構成され、
抵抗発熱線は、ヒーターが紙巻き煙草や葉巻が挿入される領域に設けられ、
内部リード線は、ヒーターのヒータースリーブ部の領域に設けられる、方法。」(以下、「甲5発明2」という。)

第5-2 理由1について
1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における「エアロゾル生成基材」は、その機能、構成及び技術的意義から、本件特許発明1における「エアロゾル形成基材」に相当し、以下同様に、「加熱器」は「加熱アセンブリ」に、「加熱要素」は「ヒータ」に、「取り付けられた」は「結合された」に、「ホルダ」は「ヒータマウント」に、それぞれ相当する。
また、甲1の上記第5-1 1(1)1h)、1i)(訳文の段落【0066】、【0067】、【0071】)の記載及び図12ないし図16の記載によると、甲1発明1の「電気抵抗部」の抵抗は「第1の導電性要素、第2の導電性要素」の抵抗よりも高く、通電時に「電気抵抗部」が「第1の導電性要素、第2の導電性要素」よりも高い温度に加熱される。
そうすると、甲1発明1における「電気抵抗部」、「第1の導電性要素、第2の導電性要素」は、それぞれ、本件特許発明1における「第1の部分」、「第2の部分」に相当し、甲1発明1における「第1の導電性要素、第2の導電性要素、電気抵抗部」は、本件特許発明1における「第1の部分及び第2の部分を有」する「加熱要素」あるいは「電気抵抗式加熱要素」に相当するとともに、「該第1の部分及び第2の部分は前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され」たものに相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(2)一致点
「エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって、
電気抵抗式加熱要素を含むヒータと、
前記ヒータに結合されたヒータマウントと、
を備え、前記加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成される加熱アセンブリ。」

(3)相違点1
本件特許発明1においては、「ヒータ」が「ヒータ基板」を含むものであって、「前記加熱要素の前記第1の部分は、前記ヒータ基板の加熱領域に位置し、前記加熱要素の前記第2の部分は、前記ヒータ基板の保持領域に位置し、前記ヒータマウントは、前記ヒータ基板の前記保持領域に固定される」のに対して、
甲1発明1においては、「加熱要素」が含む「電気絶縁部」が「ヒータ基板」であるか不明であって、「ヒータ基板の加熱領域」や「ヒータ基板の保持領域」を有するものではないから、「電気抵抗部」は、「ヒータ基板の加熱領域に位置」するものではなく、「第1の導電性要素及び第2の導電性要素」は、「ヒータ基板の保持領域に位置」するものではなく、「ホルダ」は、「ヒータ基板の保持領域に固定」されるものではない点。(以下、「相違点1」という。)

(4)相違点1について
一般的な技術用語において「基板」とは、「その上に超小型回路を組み立てるために用いる板」(マグローヒル 科学技術用語大辞典 改訂第3版)、あるいは「表面に導電パターンを形成することができる絶縁材料」(JIS 工業用語大辞典 第4版)という意味である。
また、本件特許明細書の段落【0019】には、本件特許発明における「ヒータ基板」について次のとおり記載されている。
「ヒータ基板は、電気絶縁材料から形成されることが有利であり、ジルコニア又はアルミナなどのセラミック材料とすることができる。ヒータ基板は、広い温度範囲にわたって加熱要素を機械的に安定して支持することができ、エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を提供することができる。ヒータ基板は、加熱要素が配置された平面と、エアロゾル形成基材に挿入できるように構成されたテーパ状の端部とを含むことができる。ヒータ基板は、2ワットパーメートルケルビン以下の熱伝導率を有することが有利である。」
上記本件特許明細書の記載によると、「ヒータ基板」とは、回路要素あるいは導電パターンともいい得る「加熱要素」を、その上に支持するのであるから、本件特許明細書における「ヒータ基板」の「基板」の意味は、上記一般的な「基板」の用語の意味と特段齟齬するものではない。
一方、甲1発明1における「電気絶縁部」は、上記第5-1 1(1)1f)(訳文の段落【0058】)の記載によると、MiOx、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、他の金属酸化物又は金属塩などの絶縁粉末を水等の溶媒に溶解させてペーストとし、乾燥させることにより形成されるものであり、さらに、同1f)(訳文の段落【0058】、【0059】)及び同1h)(訳文の段落【0064】)並びに図10の記載によると、「電気絶縁部」は、チューブからなる第1の導電性要素とチューブの内部に挿入された銅線からなる第2の導電性要素との間、あるいは、細長いストリップ状の第1の導電性要素と第2の導電性要素との間に絶縁ペーストを注入して形成するものであって、絶縁粉末を水等の溶媒に溶解させてペーストとし、その後乾燥した絶縁粉末は粉体からなるものであるから、第1の導電性要素と第2の導電性要素を支持するものとはいえず、上記一般的な意味における「基板」とはいえない。
他方、甲2には、「電気絶縁基体と、電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積して乾燥させたことにより形成した導電トラックと、からなるエーロゾル形成基体を加熱するための加熱器」(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されており、上記第5-1 2(1)2c)(訳文の段落【0024】)の記載によると、上記「電気絶縁基体」は導電トラックを、その上に支持する「基板」であると認められる。
そこで、甲1発明1における「電気絶縁部」を甲2の「電気絶縁基体」(基板)に変更することの容易想到性を検討すると、まず、甲1発明1における「電気絶縁部」は上記のとおり、絶縁粉末を水等の溶媒に溶解させてペーストとし、その後乾燥した粉体からなるものであって、第1及び第2の導電性要素を支持するものでもない点で、甲2の「電気絶縁基体」とは構成及び機能が相違する。
しかも、甲1においては、電気絶縁部を第1の導電性要素と第2の導電性要素との間に設けるものであり、電気抵抗部は、第1の導電性要素と第2の導電性要素要素とを電気絶縁部を挟んで切断及び結合することにより設けられるものとなっている(上記第5-1 1(1)1h)(訳文の段落【0064】)の記載を参照。)のに対して、甲2においては、電気絶縁基体上に抵抗加熱のための導電トラックを形成するものであり、この点においても両者は相違する。
よって、甲1発明1の「電気絶縁部」と甲2記載事項の「電気絶縁基体」とは上記のとおり構成及び機能において大きく異なるものであり、また、上記のとおり、甲2記載事項の「電気絶縁基体」は、電気絶縁基体上に抵抗加熱のための導電トラックを形成するものであって、甲1発明1の「電気絶縁部」を甲2記載事項の「電気絶縁基体」に置き換えた甲1発明1において、第1の導電性要素と第2の導電性要素要素とを電気絶縁基体を挟んで切断及び結合することにより電気抵抗部を形成することを想定するのは困難であることから、甲1発明1における「電気絶縁部」のみに着目して、これを甲2記載事項における「電気絶縁基体」と置き換えることはできない。
よって、甲1発明1に甲2記載事項を適用して上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

なお、令和1年8月8日付け口頭審理陳述要領書において請求人は、「甲1文献の段落【0064】(審決注:訳文の段落【0064】のこと。)には,加熱要素を構成する第1の導電性要素及び第2の導電性要素を細長い薄板様の形状としつつ,電気絶縁部を細長い板様の形状とすることが示唆されており,当該示唆に基づいて,引用発明1の電気絶縁部を,その両面に第1の導電性要素と第2の導電性要素を形成した細長い板様の形状とすることにより,「基板」に相当する構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。」(陳述要領書7ページ9ないし15行)と主張する。
しかし、上記のとおり、甲1における「電気絶縁部」は、絶縁粉末を水等の溶媒に溶解させてペーストとし、その後乾燥した絶縁粉末は粉体からなるものであるから、細長い板様の形状としたとしても、第1の導電性要素と第2の導電性要素を支持する、一般的な意味における「基板」に相当する構成にはならない。

2 本件特許発明2ないし14について
本件特許の請求項2ないし14は、本件特許の請求項1の記載を置き換えることなく直接又は間接的に引用して記載したものであるから、本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そして、甲3ないし甲5には、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項について記載や示唆がされていない。
したがって、本件特許発明2ないし14は、甲1発明1、甲2記載事項及び甲3ないし甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

3 本件特許発明15について
(1)対比
本件特許発明15と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2における「加熱器」は、その機能、構成及び技術的意義から、本件特許発明15における「加熱アセンブリ」に相当し、甲1発明2における「段階」は本件特許発明15における「ステップ」に相当する。
また、甲1の上記第5-1 1(1)1h)、1i)(訳文の段落【0066】、【0067】、及び【0071】)の記載及び図12ないし図16の記載によると、甲1発明2における「電気抵抗部」の抵抗は「第1の導電性要素、第2の導電性要素」の抵抗よりも高く、通電時に「電気抵抗部」が「第1の導電性要素、第2の導電性要素」よりも高い温度に加熱される。
そうすると、甲1発明2における「電気抵抗部」、「第1の導電性要素、第2の導電性要素」は、それぞれ本件特許発明15における「第1の部分」、「第2の部分」に相当し、甲1発明2における「第1の導電性要素、第2の導電性要素、電気抵抗部」は、本件特許発明15における「第1の部分及び第2の部分を有」する「加熱要素」あるいは「電気抵抗式加熱要素」に相当するとともに、「該第1の部分及び第2の部分は、加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され」たものに相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(2)一致点
「加熱アセンブリの製造方法であって、
各加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成する、方法。」

(3)相違点2
加熱器の製造方法において、本件特許発明15においては、「ヒータ基板を用意するステップと、前記基板上に1又はそれ以上の電気抵抗式加熱要素を堆積させるステップと、を含み」、「前記加熱要素の前記第1の部分は、前記ヒータ基板の加熱領域に堆積され、前記加熱要素の前記第2の部分は、前記ヒータ基板の保持領域に堆積され、前記方法は、前記ヒータ基板の前記保持領域にヒータマウントを成形するステップをさらに含む」のに対して、
甲1発明2においては「電気絶縁部を形成する」にあたって、「第1の導電性要素と第2の導電性要素との間に電気絶縁ペーストを注入し、乾燥させる」のであり、「電気絶縁部」上に、「第1の導電性要素と第2の導電性要素」を堆積したものではなく、さらに、甲1発明2における「電気絶縁部」が「ヒータ基板」であるか不明であって、「ヒータ基板の加熱領域」や「ヒータ基板の保持領域」を有するものではないから、「電気抵抗部」は「ヒータ基板の加熱領域に堆積され」るものではなく、「第1の導電性要素、第2の導電性要素」は「ヒータ基板の保持領域に堆積され」るものではなく、「ホルダ」は、「ヒータ基板の前記保持領域」に成形されるのではない点。

(4)相違点2について
甲2記載事項は、「電気絶縁基体と、電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積して乾燥させたことにより形成した導電トラックと、からなるエーロゾル形成基体を加熱するための加熱器」である。
しかし、上記1(4)相違点1について、と同様の理由により、甲1発明2における「電気絶縁部」を甲2記載事項における「電気絶縁基体」と置き換えることはできない。
よって、甲1発明2に甲2記載事項を適用して上記相違点2に係る本件特許発明15の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件特許発明15は、甲1発明2及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

第5-3 理由2について
1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲5発明1とを対比する。
甲5発明1における「紙巻き煙草や葉巻」は、その機能、構成及び技術的意義から、本件特許発明1における「エアロゾル形成基材」に相当し、以下同様に、「無煙喫煙治具」は「加熱アセンブリ」に、「抵抗発熱線」及び「内部リード線」は「加熱要素」あるいは「電気抵抗式加熱要素」に、「ヒーター」は「ヒータ」に、「ヒータースリーブ部」は「ヒータマウント」に、「ヒーターに設けられたヒータースリーブ部」は「ヒータに結合されたヒータマウント」に、「抵抗発熱線」は「電気抵抗式加熱要素」の「第1の部分」に、「内部リード線」は「電気抵抗式加熱要素」の「第2の部分」に、それぞれ相当する。
そして、甲5発明1における「抵抗発熱線及び内部リード線は、電流が流れた時に抵抗発熱線が内部リード線よりも高い温度に加熱されるように構成され」ることは、本件特許発明1における「前記加熱要素は、第1の部分及び第2の部分とを有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され」ることに相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(2)一致点
「エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって、
電気抵抗式加熱要素を含むヒーターと、
ヒーターに結合されたヒータマウントと、
を備え、前記加熱要素は、第1の部分及び第2の部分とを有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成される、加熱アセンブリ。」

(3)相違点3
本件特許発明1においては、「ヒータ」が「ヒータ基板を含む」ものであって、「加熱要素の第1の部分は、ヒータ基板の加熱領域に位置し、加熱要素の第2の部分は、ヒータ基板の保持領域に位置し、ヒータマウントは、ヒータ基板の保持領域に固定される」のに対して、
甲5発明1においては、「ヒーター」が「金属チューブ」に「酸化マグネシュームの粉末を充填した」ものであって、「ヒータ基板」を含むものではなく、「抵抗発熱線は、ヒーターが紙巻き煙草や葉巻が挿入される領域に設けられ、内部リード線は、ヒーターのヒータースリーブ部の領域に設けられる」ものであって、「ヒータースリーブ部」は「ヒータ基板の保持領域に固定される」ものではない点。

(4)相違点3について
前述のとおり、甲2の「電気絶縁基体」は「基板」であると認められる。
しかし、甲5発明1の「酸化マグネシュームの粉末」を、構成及び機能の全く異なる甲2の「電気絶縁基体」に置き換えることはできないし、甲5発明1における「金属チューブ」の「内部に抵抗発熱線、内部リード線を有し、酸化マグネシュームの粉末を充填」した「ヒーター」を、甲2記載事項における「電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積して乾燥させた」、「加熱器」と置き換えたとしても、甲2記載事項における導電トラックは、「加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱される」ような「第1の部分及び第2の部分」を有するものではなく、さらに、甲2においては「ヒータマウント」に関する記載や示唆がないから、「加熱要素の第1の部分は、ヒータ基板の加熱領域に位置し、加熱要素の第2の部分は、ヒータ基板の保持領域に位置」するものとはならず、「ヒータマウントは、ヒータ基板の保持領域に固定される」ものとはならない。
よって、甲5発明1に甲2記載事項を適用して上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件特許発明1は、甲5発明1及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

2 本件特許発明2ないし14について
本件特許の請求項2ないし14は、本件特許の請求項1の記載を置き換えることなく直接又は間接的に引用して記載したものであるから、本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そして、甲3及び甲4には、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項について記載や示唆がされていない。
したがって、本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1と同様の理由により甲5発明1、甲2記載事項、甲3に記載された事項及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

3 本件特許発明15について
(1)対比
本件特許発明15と甲5発明2とを対比する。
甲5発明2における「紙巻き煙草や葉巻を加熱するための無煙喫煙治具」は、その機能、構成及び技術的意義から、本件特許発明15における「加熱アセンブリ」に相当し、以下同様に、「抵抗発熱線」及び「内部リード線」は「電気抵抗式加熱要素」あるいは「加熱要素」に、「抵抗発熱線」は「電気抵抗式加熱要素」の「第1の部分」に、「内部リード線」は「電気抵抗式加熱要素」の「第2の部分」に、それぞれ相当する。
そして、甲5発明2における「抵抗発熱線及び内部リード線は、電流が流れた時に抵抗発熱線が内部リード線よりも高い温度に加熱されるように構成され」ることは、本件特許発明15における「各加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され」ることに相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(2)一致点
「加熱アセンブリの製造方法であって、
各加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成する、方法。」

(3)相違点4
本件特許発明15においては「ヒータ基板を用意するステップと、前記基板上に1又はそれ以上の電気抵抗式加熱要素を堆積させるステップ」を含み、「加熱要素の第1の部分は、ヒータ基板の加熱領域に堆積され、加熱要素の第2の部分は、ヒータ基板の保持領域に堆積され、方法は、ヒータ基板の保持領域にヒータマウントを成形するステップをさらに含む」のに対して、甲5発明2においては「金属チューブの中に抵抗発熱線と内部リード線とを挿入し、酸化マグネシュームの粉末を充填して先端封止部で封止することによりヒータを形成する段階」を含み、「抵抗発熱線は、ヒーターが紙巻き煙草や葉巻が挿入される領域に設けられ、内部リード線は、ヒーターのヒータースリーブ部の領域に設けられる」点。

(4)相違点4について
前述のとおり、甲2には「電気絶縁基体と、電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積して乾燥させたことにより形成した導電トラックと、からなるエーロゾル形成基体を加熱するための加熱器」が記載されており、甲2の「電気絶縁基体」は「基板」であると認められる。
しかし、甲5発明2の「金属チューブの中に」、「充填」される「酸化マグネシュームの粉末」を、構成及び機能の全く異なる甲2の「電気絶縁基体」に置き換えることはできないし、甲5発明2における「金属チューブの中に抵抗発熱線と内部リード線とを挿入し、酸化マグネシュームの粉末を充填して先端封止部で封止」した「ヒータ」を、甲2記載事項における「電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積して乾燥させた」、「加熱器」と置き換えたとしても、甲2記載事項における「導電トラック」は、「加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるよう」な「第1の部分及び第2の部分」を有するものではなく、さらに、甲2においては「ヒータマウント」に関する記載や示唆がないから、「各加熱要素は、第1の部分及び第2の部分を有し、該第1及び第2の部分は、前記加熱要素に電流が流れた時に、該電流の結果として前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され、前記加熱要素の第1の部分は、ヒータ基板の加熱領域に堆積され、加熱要素の第2の部分は、ヒータ基板の保持領域に堆積され」るものとならず、「ヒータ基板の前記保持領域にヒータマウントを成形」するものとはならない。
よって、甲5発明2に甲2記載事項を適用して上記相違点4に係る本件特許発明15の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件特許発明15は、甲5発明2及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

第5-4 理由3について
1 請求人の主張
請求人は、審判請求書において、理由3について次のように主張している。
「本件明細書には,電気抵抗式ヒータでは,ヒータによって生成される熱が,加熱要素の抵抗に依存し,所与の電流では,加熱要素の抵抗が高ければ高いほどより多くの熱が生成されるから,第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有するものとすることが記載されており(段落【0013】,【0014】,【0070】),上記記載によれば,第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有するヒータは,本件発明1?15の課題を解決できるものであると認識することができる。
しかし,第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有しないヒータの場合,どのようにすれば,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成されるのかが,当業者にとって自明ではない。
したがって,第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有しないヒータを用いた場合は,当業者において,本件発明1?15の課題を解決できることを認識し得えない。」(審判請求書第84ページ第17行ないし第85ページ第5行)

2 本件特許明細書の記載
「【0001】
本明細書は、エアロゾル発生システムで使用するのに適した加熱アセンブリに関する。特に、本発明は、エアロゾル形成基材を内部的に加熱するために喫煙物品のエアロゾル形成基材に挿入するのに適した加熱アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザが吸入するためのエアロゾルを送達できるハンドヘルド型エアロゾル発生装置に対する需要が増えている。1つの特定の需要領域は、エアロゾル形成基材の燃焼を伴わずにエアロゾル形成基材を加熱して揮発性香味化合物を放出する加熱式喫煙装置に対するものである。放出された揮発性化合物は、エアロゾルに含まれてユーザに運ばれる。
【0003】
エアロゾル形成基材を加熱することによって動作するエアロゾル発生装置は、いずれも加熱アセンブリを含む。異なるタイプのエアロゾル形成基材のために、複数の異なるタイプの加熱アセンブリが提案されている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化した、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供することが望ましいと思われる。」

「【0011】
ヒータマウントは、ヒータを構造的に支持し、ヒータをエアロゾル発生装置内に確実に固定できるようにする。ヒータマウントは、ポリマ材料を含むことができ、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)などの成形用ポリマ材料から形成されることが有利である。成形用ポリマを使用すると、ヒータマウントをヒータの周囲に成形することができ、これによりヒータを確実に保持することができる。また、ヒータマウントを所望の外形及び寸法で安価に製造することもできる。ヒータ基板は、ヒータマウントのヒータへの固定を強化する耳部又はノッチ部などの機械的特徴を有することができる。当然ながら、ヒータマウントには、セラミック材料などの他の材料を用いることも可能である。ヒータマウントは、成形用セラミック材料から形成できることが有利である。
【0012】
ポリマを用いてヒータを保持するということは、ヒータマウント近傍のヒータの温度を、ポリマが溶解燃焼又は別様に劣化する温度未満に制御しなければならないことを意味する。同時に、エアロゾル形成基材内のヒータ部分の温度は、所望の特性のエアロゾルを生成するのに十分な温度でなければならない。従って、使用中に加熱要素の第2の部分の少なくともヒータマウントに接する箇所が最大許容温度未満に保たれることを確実にすることが望ましい。
【0013】
電気抵抗式ヒータでは、ヒータによって生成される熱が、加熱要素の抵抗に依存する。所与の電流では、加熱要素の抵抗が高ければ高いほどより多くの熱が生成される。生成される熱のほとんどは、加熱要素の第1の部分によって生成されることが望ましい。従って、加熱要素の第1の部分は、単位長当たりの電気抵抗がヒータ要素の第2の部分よりも高いことが望ましい。」

3 判断
本件特許発明の課題は、上記2における本件特許明細書段落【0002】及び【0006】の記載によると、「エアロゾル形成基材を内部的に加熱するために喫煙物品のエアロゾル形成基材に挿入するのに適した加熱アセンブリ」において、「エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化した、エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供する」ことを課題とするものである。
さらに、上記2における本件特許明細書段落【0011】及び【0012】には、概略、ヒータを構造的に支持するヒータマウントは、有利には成形用ポリマ材料から形成され、これによりヒータを確実に保持することができる。また、ヒータマウントを所望の外形及び寸法で安価に製造することもできる。しかし、ポリマを用いてヒータを保持するということは、ヒータマウント近傍のヒータの温度を、ポリマが溶解燃焼又は別様に劣化する温度未満に制御しなければならないと同時に、エアロゾル形成基材内のヒータ部分の温度は、所望の特性のエアロゾルを生成するのに十分な温度でなければならない。従って、使用中に加熱要素の第2の部分の少なくともヒータマウントに接する箇所が最大許容温度未満に保たれることを確実にする、という記載があり、「加熱要素に電流が流れた時に(、該電流の結果として)第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱される」ことの技術的意義が示されている。
そして、具体的に「第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱される」ための手段として、上記2における本件特許明細書段落【0013】において、「電気抵抗式ヒータでは、ヒータによって生成される熱が、加熱要素の抵抗に依存する。所与の電流では、加熱要素の抵抗が高ければ高いほどより多くの熱が生成される。生成される熱のほとんどは、加熱要素の第1の部分によって生成されることが望ましい。従って、加熱要素の第1の部分は、単位長当たりの電気抵抗がヒータ要素の第2の部分よりも高いことが望ましい。」と記載されている。
そうすると、加熱要素の第1の部分を高い温度に加熱するための具体的な手段として、加熱要素の第1の部分の単位長当たりの電気抵抗を高くすることが記載されているのである。
そして、本件特許発明においては、加熱要素の第1の部分及び第2の部分について、「加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱される」ことが特定され、当該構成により「エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化」できるのであって、更に、そのための具体的手段までを重ねて特定する必要があるとはいえない。
以上のとおり、加熱要素の第1の部分と第2の部分の単位長あたりの電気抵抗が特定されることまでは必要でなく、当業者であれば本件特許発明により課題が解決できることを認識することができる。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし15についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-01 
結審通知日 2019-11-07 
審決日 2019-11-19 
出願番号 特願2015-522126(P2015-522126)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A24F)
P 1 113・ 537- Y (A24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白土 博之  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5854394号(P5854394)
発明の名称 エアロゾル発生システムのための加熱アセンブリ  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 木村 剛大  
代理人 上杉 浩  
代理人 藤沼 光太  
代理人 那須 威夫  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 平田 慎二  
代理人 近藤 直樹  
代理人 小林 幸夫  
代理人 弟子丸 健  
代理人 大塚 文昭  
代理人 田中 伸一郎  

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