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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
管理番号 1358601
異議申立番号 異議2019-700278  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-10 
確定日 2019-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6406478号発明「スパンボンド不織布,シートおよび吸収性物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6406478号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6406478号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 特許第6406478号の請求項1に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第6406478号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年8月21日(優先権主張 平成28年8月23日(以下「本件優先日」という。) 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年9月28日にその特許権の設定登録がされ、同年10月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年4月10日に特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
2 令和元年7月2日付で当審から取消理由が通知されたところ、同年8月30日に特許権者から意見書及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)がされ、同年10月18日に申立人により意見書の提出がされたものである。

第2 本件訂正について
1 訂正事項
本件訂正は、以下の訂正事項1?5からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記繊維の繊度の平均値が0.1?1.0デニールであり、
前記スパンボンド不織布の目付量が8?20g/m^(2)である
ことを特徴とする請求項1に記載された吸収性物品。」と記載されているのを、
「肌面側に立設される立体ギャザーを備える吸収性物品であって、
前記立体ギャザーが、スパンボンド不織布を有し、メルトブローン不織布を含まないシートからなり、
前記スパンボンド不織布が熱可塑性樹脂の繊維からなり、
前記スパンボンド不織布がISO811に準拠して耐水圧を繰り返し測定した場合に、一回目に測定された第一耐水圧に対する二回目以降に測定された第二耐水圧の低下分が所定圧以下である所定の耐水性を有し、
前記第一耐水圧が160mmH_(2)O以上であり、前記所定圧が30mmH_(2)O以下であり、
前記繊維の繊度の平均値が0.1?0.8デニールであり、
前記スパンボンド不織布の目付量が8?20g/m^(2)である
ことを特徴とする吸収性物品。」
に訂正する。(請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3?6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載された吸収性物品。」とあるのを、「請求項2に記載された吸収性物品。」と訂正する。(請求項3の記載を直接引用する請求項4及び請求項3の記載を間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4の何れか1項に記載された吸収性物品。」とあるのを、「請求項2?4の何れか1項に記載された吸収性物品。」と訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5の何れか1項に記載された吸収性物品。」とあるのを、「請求項2?5の何れか1項に記載された吸収性物品。」と訂正する。
2 一群の請求項についての検討
訂正前の請求項2?6は、直接または間接的に訂正前の請求項1を引用しているから、訂正前の請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。したがって、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、前記1(1)のとおり請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の追加の有無
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(3)実質上の拡張変更の有無
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
4 訂正事項2について
(1)訂正の目的
ア 訂正事項2のうち、「肌面側に立設される立体ギャザーを備える吸収性物品であって、
前記立体ギャザーが、スパンボンド不織布を有し、メルトブローン不織布を含まないシートからなり、
前記スパンボンド不織布が熱可塑性樹脂の繊維からなり、
前記スパンボンド不織布がISO811に準拠して耐水圧を繰り返し測定した場合に、一回目に測定された第一耐水圧に対する二回目以降に測定された第二耐水圧の低下分が所定圧以下である所定の耐水性を有し、
前記第一耐水圧が160mmH_(2)O以上であり、前記所定圧が30mmH_(2)O以下であり、」を加える訂正は、訂正前の請求項2が引用していた請求項1の記載を、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 訂正事項2のうち、「繊度の平均値が0.1?1.0デニールであり、」という記載を、「繊度の平均値が0.1?0.8デニールであり、」と訂正する記載は、数値範囲が減縮されていることから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の追加の有無
ア 訂正事項2のうち、前記(1)アの部分の訂正により追加された事項は、訂正前の請求項1に記載されていたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
イ 訂正事項2のうち、前記(1)イの部分は、願書に添付した明細書の段落【0039】に「・・・この「繊度」は、繊維の紡糸性を確保しつつ「目開き」を抑える観点から、0.2?0.8デニールであることが好ましく、0.4?0.6デニールであることが更に好ましい。」と記載されていることから、願書に記載した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(3)実質上の変更・拡張の有無について
ア 訂正事項2のうち、前記(1)アの部分の訂正は、請求項1の記載を引用しない独立請求項とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
イ 訂正事項2のうち、前記(1)イの部分の訂正は、数値範囲を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。したがって、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
5 訂正事項3?5
(1)訂正の目的
訂正事項3?5は、本件訂正前に請求項3、5、6が引用していた請求項1が、訂正事項1により削除されたことに伴い、引用関係を整理するため、請求項1を引用しないように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の追加の有無
前記(1)の目的に記載したように、訂正事項3?5は、引用する請求項を整理するものであるから、願書に記載した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(3)実質上の変更・拡張の有無について
前記(1)の目的に記載したように、訂正事項3?5は、引用する請求項を整理するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 証拠の一覧・刊行物記載事項
1 証拠の一覧
申立人が提示した証拠は以下のとおりである(以下、甲第1号証を「甲1」などという。)。
甲1:特開2013-133579号公報
甲2:特開2014-141752号公報
甲3:特開平11-36168号公報
甲4:国際公開第2009/063892号
甲5:特開2016-40428号公報
2 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
ア 「【請求項1】
ポリオレフィン系長繊維を含む長繊維不織布層を3層以上含む不織布積層体であって、
前記不織布積層体の地合指数が58以上80以下であり、かつ
前記ポリオレフィン系長繊維の平均単糸繊度が0.7dtex以上3.5dtex以下である、不織布積層体。」
イ 「【請求項7】
前記ポリオレフィン系長繊維がポリプロピレン系長繊維である、請求項1?6のいずれか1項に記載の不織布積層体。」
ウ 「【請求項8】
スパンボンド不織布である、請求項1?7のいずれか1項に記載の不織布積層体。」
(2)明細書
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生製品の、トップシート、バックシート、サイドギャザー部等の吸収性部材において使用するのに特に適した不織布であって、加工性に優れるポリオレフィン系長繊維で構成された不織布に関する。」
イ 「【0003】
従来、不織布の粉漏れ防止性及び地合を改善する手段としては、目付を上げる方法、繊度を細くする方法、2層のスパンボンド不織布の間に極細の繊維であるメルトブローン不織布をサンドウィッチしてなる積層不織布を用いる方法等がある。しかし、目付を上げる方法では、目付の増大に従って柔軟性が低下するため、衛生製品に用いる場合には厚ぼったい感触となる問題がある。繊度を細くする方法では、スパンボンド法において生産性を落とすことで繊度を細くすることが可能ではあるが、商業性を考慮するとスパンボンド法における細繊化には限界がある。また、メルトブローン層を入れて積層する方法では、隠蔽性が高くなり過ぎて通気性が悪くなり、ムレ等の症状が生じる。またメルトブローン層が入ると、バックシート内側のフィルムに印刷されたキャラクター等の印刷が極細の繊維により不鮮明となる問題がある。」
ウ 「【0015】
<不織布積層体>
本発明の一態様は、ポリオレフィン系長繊維を含む長繊維不織布層を3層以上含む不織布積層体であって、該不織布積層体の地合指数が58以上80以下であり、かつ該ポリオレフィン系長繊維の平均単糸繊度が0.7dtex以上3.5dtex以下である、不織布積層体を提供する。
【0016】
本発明の不織布積層体における各々の長繊維不織布層は、ポリオレフィン系長繊維で構成される。長繊維不織布層は、ポリオレフィン系長繊維のみで構成されてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲(例えば全体の20モル%以下、より好ましくは10モル%以下)でポリオレフィン系長繊維以外の繊維を含んでもよい。ポリオレフィン系長繊維とは、主要構成成分(具体的には全体の50モル%超)がポリオレフィンである長繊維を意味する。
【0017】
ポリオレフィン系長繊維としては、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、並びに、エチレン及び/又はプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体等の樹脂から成る繊維が挙げられる。なかでも、強度が強く使用時において破断し難く、且つ衛生製品の生産時における寸法安定性に優れることから、ポリオレフィン系長繊維がポリプロピレン系繊維であることが好ましい。・・・」
エ 「【0023】
ポリオレフィン系長繊維の平均単糸繊度は、0.7dtex以上3.5dtex以下である。該平均単糸繊度は、好ましくは0.8dtex以上3.3dtex以下、より好ましくは0.9dtex以上3.0dtex以下である。該平均単糸繊度は、紡糸安定性の観点から、0.7dtex以上であり、不織布の強力(特に衛生製品において重要である)の観点から、3.5dtex以下である。平均単糸繊度は、例えばマイクロスコープを用いて繊維直径を測定し、測定値の数平均を算出することにより得られる値である。測定点は、1本の長繊維全体での繊度の平均値が反映されるように選択すればよい。例として、長繊維の両端を除いた後、不織布積層体の幅方向にほぼ5等分して試料片を作製し、5つの繊維断面の各々で20点ずつ繊維直径を測定し、全100点の数平均を算出することによって平均単糸繊度を評価できる。
【0024】
ポリオレフィン系長繊維を含む繊維成分を接合して長繊維不織布層を製造する際の接合手段としては、部分熱圧着法、熱風法、溶融成分(ホットメルト剤)での接合法(ホットメルト法)、その他各種の方法が挙げられるが、強度の観点から、熱圧着法が好ましい。
【0025】
上記部分熱圧着法における熱圧着面積率は、強度保持及び柔軟性の点から、好ましくは3%以上40%以下であり、より好ましくは4%以上25%以下であり、更に好ましくは4%以上20%以下であり、特に好ましくは5%以上15%以下である。
【0026】
部分熱圧着処理は、超音波法により、又は加熱エンボスロール間にウェブを通すことにより行うことができ、これにより、表裏一体化される。部分熱圧着処理により、例えば、ピンポイント状、楕円形状、ダイヤ形状、矩形状等の浮沈模様を不織布全面に散点させることができる。生産性の観点から、加熱エンボスロールを用いることが好ましい。」
オ 「【0029】
本発明の不織布の目付は、好ましくは5g/m^(2)以上30g/m^(2)以下であり、より好ましくは8/m^(2)以上30g/m^(2)以下、更に好ましくは10g/m^(2)以上30g/m^(2)以下、更に好ましくは10g/m^(2)以上25g/m^(2)以下、特に好ましくは10g/m^(2)以上23g/m^(2)未満である。目付が5g/m^(2)以上であれば、衛生製品に使用される不織布に要求される強力要件が良好であり、一方、30g/m^(2)以下であれば、衛生製品に使用される不織布の柔軟性が良好で、外観的に厚ぼったい印象を与えない点で有利である。目付は、JIS-L1906に準拠して測定される値である。」
カ 「【0043】
不織布積層体は、強度(これは特に衛生製品において重要である)の観点から、スパンボンド不織布であることが好ましい。」
キ 「【0069】
〔実施例1〕
MFRが60g/10分(JIS-K7210に準じ、温度230℃、荷重2.16kgで測定)のポリプロピレン(PP)樹脂(融点161℃)をスパンボンド法により、ノズル径φ0.4mm、紡糸温度215℃で押出し、このフィラメント群をエアジェットにより牽引し、コンベアネット(通気度:270cm^(3)/cm^(2)/秒)に平均単糸繊度1.1dtexの長繊維ウェブを堆積した。得られた長繊維ウェブを温度120℃のコンパクションロール(表面材質:HCr、梨地模様)とバックアップロール(表面材質:硬度90°合成ゴム)を用い、接圧4.2kgf/cmで仮圧着した。
【0070】
次いで、得られた長繊維ウェブに同様のスパンボンド法で得られた長繊維ウェブを吹きつけ堆積し、同様に仮接着した。
【0071】
更に、同様にもう1層積層し、計3層積層となる長繊維ウェブを得た。
【0072】
次いで、得られた長繊維ウェブを、フラットロールとエンボスロール(パターン仕様:直径0.425mm円形、千鳥配列、横ピッチ2.1mm、縦ピッチ1.1mm、圧着面積率6.3%)の間に通して温度135℃及び線圧35kgf/cmで繊維同士を接着し、生産速度380m/分で目付17g/m^(2)の不織布積層体を得た。」
3 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
ア 【請求項1】
「熱可塑性樹脂を連続的な繊維に紡糸して集積した後、前記繊維の流れ方向とその直交方向に並んだ複数のエンボスを備えるエンボスロールにより、前記繊維間を加熱及び加圧することによって得られたスパンボンド不織布であって、
エンボス面積率は、5?12%であり、
隣接する前記エンボスの間の最短距離は、1.5?3mmであり、
曲げ剛性指数(KES曲げ剛性試験機による曲げ剛度[g/cm^(2)/cm]/目付量[g/m^(2)]×10^(4))は、5?15cm^(-1)であり、
KES圧縮特性試験機による圧縮レジリエンス(RC%)は、60?75%であるスパンボンド不織布。」
イ 【請求項2】
「前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であり、
前記ポリプロピレン系樹脂は、低結晶性ポリプロピレンと、高結晶性ポリプロピレンと、を含み、
前記低結晶性ポリプロピレンの含有量が、低結晶性ポリプロピレンと高結晶性ポリプロピレンの含有量の合計値を基準として、5?50重量%であり、
前記低結晶性ポリプロピレンのメルトフローレートが、30?70g/10分であり、
前記高結晶性ポリプロピレンのメルトフローレートが、20?100g/10分である
請求項1に記載のスパンボンド不織布。」
ウ 【請求項3】
「前記低結晶性ポリプロピレンは、
メソペンタッド分率[mmmm]が、30?80モル%であり、
ラセミペンタッド分率[rrrr]と[1-mmmm]が、
[rrrr]/[1-mmmm]≦0.1 の関係を満たし、
ラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]が、2.5モル%超過であり、
メソトリアッド分率[mm]、ラセミトリアッド分率[rr]、及びトリアッド分率[mr]が、
[mm]×[rr]/[mr]^(2)≦2.0 の関係を満たし、
重量平均分子量(Mw)が、10000?200000であり、
分子量分布(Mw/Mn)が、4未満であり、
沸騰ジエチルエーテル抽出量が、0?10重量%の
ポリプロピレンである
請求項2に記載のスパンボンド不織布。」
エ 【請求項5】
「前記繊維の繊維径は、1dtex以下である
請求項1から請求項4のいずれかに記載のスパンボンド不織布。」
(2)明細書
ア「【0002】
従来から、例えば使い捨ておむつや尿取りパッドのような吸収性物品を構成するシート部材として、不織布が用いられている。使い捨ておむつ等を構成する不織布は、例えば乳幼児の肌に直接触れるものであるため、特に柔軟性や肌触りが優れている必要がある。」
イ「【0058】
高結晶性ポリプロピレンと低結晶性ポリプロピレンを混合し、ポリプロピレン系樹脂のサンプルである樹脂1?13を製造した。
高結晶性ポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社製の商品名:SA06を用いた。また、低結晶性ポリプロピレンとしては、出光興産社製の商品名:L-MODU S901を用いた。上記した高結晶性ポリプロピレンと低結晶性ポリプロピレンを、重量%を基準として所定量ずつ混合し、ポリプロピレン系樹脂のサンプルである樹脂1?13を得た。ポリプロピレン系樹脂のサンプルである樹脂1?13は、それぞれ、以下の表1に示す特性を示していた。なお、滑剤としては、エルカ酸アミド(花王社製の商品名:脂肪酸アマイドE)を使用した。」
ウ「【0059】
【表1】


エ「【0083】
本発明は、例えば使い捨ておむつ等の吸収性物品に用いられるスパンボンド不織布に関する。このため、本発明は、使い捨ておむつ等の製造業において好適に利用し得る。」
4 甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】 構成するフィラメント径が主として4ミクロン以上15ミクロン以下のポリプロピレン長繊維フィラメントからなり、少なくとも一方向に1.2?3倍延伸され、耐水圧が120mmAq以上の不織布からなる立体ギャザーまたはバックシートとして使用されることを特徴とする延伸により強化された衛生材料用不織布。」
(2)「【0013】 本発明の不織布がオムツ、生理用ナプキン、失禁パッド等の衛生材料として使用され、特にその立体ギャザー、トップシート、バックシートとしての使用に適する。立体ギャザーとは、サイドギャザー、バリヤカフ、またはLegCuffとも呼ばれるが、オムツや生理用ナプキン等でヨコ漏れ防止のために衛生材料の両わきに付けるギャザー部分を云う。また、オムツ等にはウエストギャザーと呼ばれる胴部等に伸縮性を与えかつ外部への漏れを防止する部分もあり、本発明の立体ギャザーに含まれる。これら立体ギャザーは耐水性と肌に優しい性質の両方が要求される。・・・ 本発明の立体ギャザーやバックシートに使用される不織布の耐水圧は、120mmAq以上、特に立体ギャザーでは望ましくは150mmAq以上、さらに望ましくは200mmAq以上である。これは衛生材料用不織布としての実用性能からきたものである。・・・」
(3)「【0025】・・・実験はMFR250のPP樹脂を使用した。メルトブローノズルの径は、0.5mm、ダイスの温度および熱風温度は300℃で行った。・・・耐水性は、JISL1092低水圧法により測定した。フィラメント径は、電子顕微鏡写真より、その大部分を占めるフィラメント径で示す。実施例1、2はタテ延伸の例を示し、実施例1は、立体ギャザーとして使用され、実施例2は、後に界面活性剤で親水処理することにより、トップシートととして使用される。・・・」
5 甲4の記載事項
甲4には次の記載がある。
(1)「[0002] 使い捨ておむつ等の吸収性物品は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、両シート間に介在された吸収体とを具備してなり、さらに、左右両側に尿、便あるいは体液等が外部へ漏れることを防ぐための立体ギャザーが配されている。」
(2)「[0005] 本発明は、通気性に優れ、かつ、軟便漏れの防止性にも優れる使い捨ておむつ等の吸収性物品の立体ギャザー用シートを提供することを目的とする。」
(3)「[0013] 本発明に係る立体ギャザー用シートを構成する長繊維不織布の原料の一つである熱可塑性樹脂(i)は、紡糸し得る熱可塑性樹脂であれば特に制限されず、種々公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。
・・・
[0015] これらのうちでは、エチレン系重合体、プロピレン系重合体等のオレフィン系重合体が、撥水性に優れるので好ましく、特には、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体が撥水性により優れるのでより好ましい。」
(4)「[0051] 熱エンボス加工により熱融着する場合は、通常、エンボス面積率が5?25%、好ましくは10?25%、非エンボス単位面積が0.5mm^(2)以上、好ましくは6?40mm^(2)の範囲にある。ここで、本発明における非エンボス単位面積とは、四方をエンボス部で囲まれた最小単位の非エンボス部において、エンボスに内接する四角形の最大面積である。得られたエンボス加工長繊維不織布が、かかる範囲のエンボス面積率および非エンボス単位面積を有すると、嵩高性に優れ、高通気性であり、かつ軟便に対しての防漏性に優れた性能を発現する不織布とすることができる。」
(5)「[0052] <立体ギャザー用シート> 本発明の立体ギャザー用シートは、厚さと目付との比が0.015mm/(g/m^(2))以上、好ましくは0.015?0.030mm/(g/m^(2))、の範囲にある長繊維不織布からなる。
[0053] また、立体ギャザー用シートの中でも、目付が少なくとも5g/m^(2)以上、好ましくは5?30g/m^(2)、より好ましくは10?25g/m^(2)の範囲にある長繊維不織布からなる立体ギャザー用シートが好ましい。」
(6)「[0056] 上記長繊維不織布の耐水度は、使い捨ておむつの立体ギャザーに用いた場合には、尿漏れ防止を考慮して、たとえば先行願特許WO01/53585に記載されているように、50mmH_(2)O以上とすることもできるが、より堅実に漏れを防止するという観点より、通常60mmH_(2)O以上、好ましくは70mmH_(2)O以上の範囲である。
[0057] さらに、皮膚のムレを防止する観点からは、上記長繊維不織布の耐水度は、300mmH_(2)O以下、好ましくは250mmH_(2)O以下、より好ましくは200mmH_(2)O以下の範囲である。
[0058] 長繊維不織布の耐水度は、繊維径を細くすることで制御できる。
なお、本発明の立体ギャザー用シートは、前記長繊維不織布からなるが、長繊維不織布の片面に目付が0.5?5g/m^(2)のメルトブローン不織布を積層してもよい。メルトブローン不織布を積層することにより、通気性は多少低下するが、尿あるいは軟便に対しての防漏性が更に改良される。積層体の構成は、長繊維不織布/メルトブローン不織布、長繊維不織布/メルトブローン不織布/長繊維不織布、あるいは前記構成を含む積層体であってもよい。なお、立体ギャザー用シートの肌に接する面は、肌への触感、通気性を考慮して、長繊維不織布側であることが望ましい。
[0059] <長繊維不織布の製造方法>
本発明に係る長繊維不織布は、種々公知の不織布の製造方法により製造し得るが、スパンボンド法により製造する方法が好ましい。」
(7)「[0074] 実施例1
高融点熱可塑性樹脂:プロピレン単独重合体(荷重2160g、230℃で測定したMFR:60g/10分、融点(Tmo):157℃)。
[0075] 低融点熱可塑性樹脂:プロピレン・エチレンランダム共重合体(荷重2160g、230℃で測定したMFR:60g/10分、Mw/Mn=2.4、融点(Tmo):143℃、エチレン含有量:4mol%))。
[0076] 上記高融点熱可塑性樹脂と低融点熱可塑性樹脂を用い、それぞれ独立に押出機(30mmφ)を用いて成形温度200℃で溶融した。次いで、ノズルピッチが縦方向9.1mm、横方向8.3mmであり、かつ、図1に示すような孔形状を有する紡糸口金が配置された図2に示す不織布製造装置(スパンボンド成形機、捕集面上の機械の流れ方向に垂直な方向の長さ:100mm)を用いて、長繊維不織布からなる立体ギャザー用シートを製造した。より具体的には、次のとおりである。高融点熱可塑性樹脂と低融点熱可塑性樹脂の重量比が20/80である図3に示す偏芯中空複合長繊維を紡出し、その紡出された偏芯中空複合長繊維を空気(25℃)により冷却しながら、糸速度3000m/分で延伸したのち、捕集ベルト上に堆積させた。次いで、これをキルトエンボスロールで加熱加圧処理(エンボス面積率9.7%、エンボス温度125℃)し、目付量が25g/m^(2)の長繊維不織布(A)からなる立体ギャザー用シートを得た。
・・・
[0078] 得られた立体ギャザー用シートの物性を前記記載の方法で測定した。測定結果を表1に示す。」
(8)「[0098]・・・
実施例6
<混合長繊維不織布の製造>
前記TPU-1及び前記熱可塑性樹脂組成物(B-1)とをそれぞれ独立に75mmφの押出機及び50mmφの押出機を用いて溶融した。次いで、紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機(捕集面上の機械の流れ方向に垂直な方向の長さ:800mm)を用いて、樹脂温度とダイ温度がとも210℃、冷却風温度が20℃、延伸エアー風速が3750m/分の条件でスパンボンド法により溶融紡糸し、TPU-1からなる長繊維AとB-1からなる長繊維Bとを含む混合長繊維からなるウェッブを、捕集ベルトの捕集面上に堆積させた。前記紡糸口金は、TPU-1の吐出孔とB-1の吐出孔が交互に配列されたノズルパターンを有し、TPU-1(繊維A)のノズル径0.75mmφ及びB-1(繊維B)のノズル径0.6mmφであり、ノズルのピッチが縦方向8mm、横方向11mmであり、ノズル数の比は繊維A用ノズル:繊維B用ノズル=1:1.45であった。繊維Aの単孔吐出量は0.6g/(分・孔)、繊維Bの単孔吐出量0.6g/(分・孔)とした。
[0099] 捕集ベルトの捕集面上に堆積された混合長繊維からなるウェッブを、非粘着素材でコーティングされたニップロール(80℃に加熱)により、線圧10kg/cmで(ニップ)し、混繊スパンボンド不織布(すなわち上記混合長繊維からなるウェッブ)を菱形エンボスロールで加熱加圧処理(エンボス面積率18.0%、エンボス温度120℃)して、目付量が25g/m2の混合長繊維不織布を得た。次いで、本混合長繊維不織布を更に延伸加工して、嵩高性(厚み/目付け)を有する不織布を得た。・・・
・・・
[0101] 得られた立体ギャザー用シートの物性を前記記載の方法で測定した。測定結果を表1に示す。 」
(9)「[0110][表1]


6 甲5の記載事項
甲5には次の記載がある。
(1)「【0015】
[プロピレン系重合体(1-B)]
本発明において用いられるプロピレン系重合体(1-B)は、以下の(a)?(c)に示す性質を有するものであり、これらはプロピレン系重合体(1-B)を製造する際の触媒の選択や反応条件により調整することができる。
【0016】
(a)重量平均分子量(Mw)が10,000以上、200,000以下である。
上記プロピレン系重合体(1-B)において重量平均分子量が10,000以上であると、該プロピレン系重合体(1-B)の粘度が低すぎず適度のものとなるため、紡糸の際の糸切れが抑制される。また、重量平均分子量が200,000以下であると、上記プロピレン系重合体(1-B)の粘度が高すぎず、紡糸性が向上する。この重量平均分子量は、好ましくは30,000以上、150,000以下であり、より好ましくは50,000以上、150,000以下である。
【0017】
(b)分子量分布(Mw/Mn)<4.0
上記プロピレン系重合体(1-B)において、分子量分布(Mw/Mn)が4.0未満であると、紡糸により得られた繊維におけるべたつきの発生が抑制される。この分子量分布は、好ましくは3.0以下である。」
(2)「【0031】
第一成分中における上記プロピレン系重合体(1-B)の含有量は1質量%以上、95質量%、1質量%以上、60質量%以下であることが好ましく、3質量%以上、50質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上、50質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以上、40質量%以下であることが特に好ましく、10質量%以上、40質量%以下であることが最も好ましい。第一成分中におけるプロピレン系重合体(1-B)の含有量が95質量%以下であると、紡糸線上での結晶化速度が極端に遅くならず、紡糸性が安定する。第一成分中におけるプロピレン系重合体(1-B)の含有量が1質量%以上であると、繊維の細糸化が可能となり、繊維の弾性率の低下に伴い、不織布に加工した際の不織布の柔軟性が向上する。
【0032】
上記プロピレン系重合体(1-B)としては、たとえば、「L-MODU」(登録商標)(出光興産株式会社製)の「S400」(重量平均分子量(Mw):45,000)、「S600」(重量平均分子量(Mw):75,000)、「S901」(重量平均分子量(Mw):130,000)が挙げられる。」
(3)「【0059】
[不織布]
本発明の不織布は、本発明の捲縮繊維(サイドバイサイド型繊維、偏心芯鞘型繊維のいずれか)を用いてなるスパンボンド不織布であって、2層以上積層してなる多層不織布であってもよい。その場合、表面の滑らかさの観点から、多層不織布の外層を構成する不織布の、少なくとも1層が本発明の捲縮繊維(サイドバイサイド型繊維、偏心芯鞘型繊維のいずれか)から成るスパンボンド不織布であることが好ましい。
【0060】
また、本発明の不織布は、本発明の捲縮繊維を裁断により短繊維とし、カード法やスパンレース法、さらにはケミカルボンディングやサーマルボンディングにより不織布にした後、延伸や加熱によって、不織布内の繊維の捲縮度を高めてもよい。
不織布はネット面に積層された繊維束を加熱圧着し不織布を成形するが、加熱温度が高すぎると十分な嵩高さが得られず、加熱温度が低ければ繊維同士の融着が十分でなく毛羽立ちが発生することが予想される。本発明の不織布は加熱温度が20℃?100℃と比較的低温で不織布を成形することが可能で、十分な嵩高さを得られ、かつ、毛羽立ちがない不織布を得ることができる。
エンボス面積率が小さい場合、エンボス温度が比較的低温でなくても本発明の不織布と同様の嵩高く、かつ、毛羽立ちがない不織布を得ることができる。
ここで、「エンボス面積率」とは、単位面積あたりにおけるエンボスパターン面積の占有率を指す。
【0061】
[繊維製品]
本発明の不織布を用いた繊維製品としては、特に限定されるものではないが、例えば以下の繊維製品を挙げることができる。すなわち、使い捨ておむつ用部材、おむつカバー用伸縮性部材、生理用品用伸縮性部材、衛生製品用伸縮性部材、伸縮性テープ、絆創膏、衣料用伸縮性部材、衣料用絶縁材、衣料用保温材、防護服、帽子、マスク、手袋、サポーター、伸縮性包帯、湿布剤の基布、スベリ止め基布、振動吸収材、指サック、クリーンルーム用エアフィルター、エレクトレット加工を施したエレクトレットフィルター、セパレーター、断熱材、コーヒーバッグ、食品包装材料、自動車用天井表皮材、防音材、クッション材、スピーカー防塵材、エアクリーナー材、インシュレーター表皮、バッキング材、接着不織布シート、ドアトリム等の各種自動車用部材、複写機のクリーニング材等の各種クリーニング材、カーペットの表材や裏材、農業捲布、木材ドレーン、スポーツシューズ表皮等の靴用部材、かばん用部材、工業用シール材、ワイピング材及びシーツなどを挙げることができる。また、捲縮度と伸張率が高く、嵩高く繊維であることから、空気保持性や断熱効果があることから、断熱用材料として使用することもできる。」

第4 取消理由について
1 取消理由の概要
令和元年7月2日付で当審の通知した理由は次のとおりである。
(1)理由1
本件特許の請求項2?3、5、6に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。
(2)理由2
本件特許の請求項4及び請求項4を引用する請求項5、6に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・上記1についての刊行物:甲1
・上記2についての刊行物:甲1及び甲2、甲5
2 理由1、2についての検討
(1)本件発明
前記第2、6に判断したように、本件訂正は認められるから、請求項2?6に係る発明(以下「本件発明2」?「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は以下のとおりの発明である。
「【請求項2】
肌面側に立設される立体ギャザーを備える吸収性物品であって、
前記立体ギャザーが、スパンボンド不織布を有し、メルトブローン不織布を含まないシートからなり、
前記スパンボンド不織布が熱可塑性樹脂の繊維からなり、
前記スパンボンド不織布がISO811に準拠して耐水圧を繰り返し測定した場合に、一回目に測定された第一耐水圧に対する二回目以降に測定された第二耐水圧の低下分が所定圧以下である所定の耐水性を有し、
前記第一耐水圧が160mmH_(2)O以上であり、前記所定圧が30mmH_(2)O以下であり、
前記繊維の繊度の平均値が0.1?0.8デニールであり、
前記スパンボンド不織布の目付量が8?20g/m^(2)である
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂には、ポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂が用いられたことを特徴とする請求項2に記載された吸収性物品。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂は、
メソペンタッド分率が30?80モル%であり、
前記メソペンタッド分率を「A」とし、ラセミペンタッド分率を「B」としたときに、不等式I「B/(1-A)≦0.1」を満たし、
ラセミメソラセミメソペンタッド分率が2.5モル%よりも大きく、
メソトリアッド分率を「C」とし、ラセミトリアッド分率を「D」とし、トリアッド分率を「E」としたときに、不等式II「C×D/E2≦2.0」を満たし、
重量平均分子量が10000?200000であり、
前記重量平均分子量を「Mw」とし、数平均分子量を「Mn」としたときに、不等式III「Mw/Mn≦4」を満たし、
沸騰ジエチルエーテルによる抽出物の量が0?10質量%であることを満たす低結晶性ポリオレフィン樹脂が全固形分を基準にして5?50質量%であることを特徴とする請求項3に記載された吸収性物品。
【請求項5】
前記立体ギャザーにおいて前記シートの前記繊維どうしを溶着させるエンボス部分の面積率が5?25%である
ことを特徴とする請求項2?4の何れか1項に記載された吸収性物品。
【請求項6】
前記立体ギャザーにおいて前記シートが二枚以上に重ね合わせられたことを特徴とする請求項2?5の何れか1項に記載された吸収性物品。」
(2)引用発明
前記第3、2(2)キに摘記した甲1の実施例1及び同アの用途の記載から次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「サイドギャザー等の吸収性部材を備える衛生製品であって、
前記サイドギャザーが、3層積層のスパンボンド不織布シートからなり、
前記スパンボンド不織布について、繊維が熱可塑性樹脂であるポリプロピレン繊維であって、その平均単糸繊度が1.1dtexであり、目付が17g/m^(2)である、
衛生製品。」
(3)対比・判断
ア 本件発明2と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「衛生製品」は、吸収性部材を有するのであるから、本件発明2における「吸収性物品」に相当する。
(イ)引用発明におけるサイドギャザーは、衛生製品において尿等の漏れを防止するために設けられるものであるから、肌面側に設けられるものであり、ギャザーによりシートを立体化させるものであるから、本件発明2の「立体ギャザー」に相当するものである。
(ウ)前記第3、2(2)イに摘記したように、甲1にはメルトブローン層を入れて積層することの問題が指摘され、同(2)キに摘記した工程からみても、引用発明において、スパンボンド不織布には、メルトブローン不織布を含まないことは明らかである。
(エ)引用発明の目付である17g/m^(2)は、本件発明2の目付「8?20g/m^(2)」を充足する。
イ 一致点
前記アから、本件発明2と引用発明とは、次の点で一致する。
「肌面側に立設される立体ギャザーを備える吸収性物品であって、
前記立体ギャザーが、スパンボンド不織布を有し、メルトブローン不織布を含まないシートからなり、
前記スパンボンド不織布が熱可塑性樹脂の繊維からなり、
前記スパンボンド不織布の目付量が8?20g/m^(2)である
ことを特徴とする吸収性物品。」
ウ 相違点
本件発明2と引用発明とは、次の点で相違する。
(ア)相違点1
本件発明2においては、「前記スパンボンド不織布がISO811に準拠して耐水圧を繰り返し測定した場合に、一回目に測定された第一耐水圧に対する二回目以降に測定された第二耐水圧の低下分が所定圧以下である所定の耐水性を有し、
前記第一耐水圧が160mmH_(2)O以上であり、前記所定圧が30mmH_(2)O以下であ」るのに対して、引用発明においては、「一回目に測定された第一耐水圧」及び「二回目以降に測定された第二耐水圧」のいずれも明らかでない点。
(イ)相違点2
引用発明における「平均単糸繊度」は、本件発明2における「繊度の平均値」と同義である。
そして、引用発明における、ポリプロピレン繊維の平均単糸繊度である1.1dtexは、「1.0デニール」と換算でき、本願発明2における繊維の繊度の平均値「0.1?0.8デニール」と相違する。
エ 相違点についての検討
(ア)実質的な相違点か否かの検討
本件発明2と引用発明との相違点は、前記ウ(ア)の相違点1及び前記ウ(イ)の相違点2の2つであるが、少なくとも相違点2は実質的な相違点である。そうすると、本件発明2と引用発明との相違点は、相違点2を含む以上実質的な相違点である。
(イ)新規性について
そうすると、本件発明2は、引用発明と対比すると実質的な相違点を有するから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。したがって、前記1(1)の取消理由は成り立たないものとなった。
(ウ)進歩性について
a 前記1(1)の取消理由として通知していないが、進んで、本件発明2?6に取消理由があるかどうかの観点から、前記相違点1及び2が、本件優先日前に当業者が容易に想到できたかを検討する。
b 相違点1及び相違点2について
耐水圧とは、不織布の繊維の隙間を通路として水が移動する現象を前提としており、その通路のサイズが不織布の繊維の繊度の平均値に影響されることは明らかであるから、本件発明2が引用発明から容易に想到できたかを検討する際には、相違点1と相違点2とを分離して検討することは適切でない。
c 引用発明は、ポリプロピレン繊維によるスパンボンド不織布を用い、本件発明2の数値範囲内の目付を有しており、前記第3、2(5)に摘記した甲4の記載から、第一耐水圧が十分に高く、第二耐水圧の減少分も十分に低いものと推認できる。
d しかしながら、引用発明における平均単糸繊度を1.0デニールから0.1?0.8デニールに変更した場合に、第一耐水圧が160mmH_(2)O以上、第二耐水圧の減少分が30mmH_(2)O以下という具体的な数値を達成すると認めるに足る証拠はない。
e 本件発明2の効果について
本件発明2は、本件明細書に記載された「【0030】・・・サイドシート20に用いられるスパンボンド不織布は、強度が確保されることから、水圧が繰り返し印加されたとしても耐水圧の低下あるいは変動が抑えられ、目開きが小さいことから、耐水圧が向上する。言い換えれば、スパンボンド不織布からなるサイドシート20は、たとえばメルトブローン層を含む不織布よりも強度が確保され、印加された水圧によって破損しにくく、「目開き」に応じた耐水圧が維持されやすい。そのため、水圧が繰り返し印加されたとしても耐水圧が低下しにくい。」という作用効果を奏するものであるが、甲1?5には、「第二耐水圧の減少分」について、何ら記載がないから、前記作用効果は、引用発明及び甲1?5から予測可能とはいえない。
f 以上から、本件発明2は、引用発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができた発明ということはできない。
オ 本件発明3?6について
本件発明3?6は、本件発明2を包含し、更に特定事項を追加したものであるから、本件発明2と同様に引用発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができた発明ということはできない。
カ 令和元年10月18日に提出された意見書での申立人の主張
(ア)主張1
a 申立人は、「甲1の請求項1などに「0.7dtex以上3.5dtex」という記載があるから、相違点1は、本件発明2と引用発明との相違点とはならず、仮に、相違点となるとしても前記第3、3(2)ウで摘記した甲2の樹脂3(0.78dtex)から容易に想到し得る」旨主張する。
b しかしながら、甲1に、平均単糸繊度が0.7dtex(=0.63デニール)の実施例が記載されているわけでなく、そのような引用発明は、甲1から認定することはできない。また、前記オ(ウ)で検討したように、相違点1と相違点2とを分離して検討することは適切でないから、後段の主張も採用できない。
(イ)主張2
a 申立人は、「仮に引用発明との相違点2が、実質的な相違点であっても、甲4に記載された事項から当業者が容易に想到し得ることである。」旨主張する。
b 前記第3、5(6)に摘記したように、甲4には、「50mmH_(2)O以上とすることもできるが、より堅実に漏れを防止するという観点より、通常60mmH_(2)O以上、好ましくは70mmH_(2)O以上の範囲」との記載及び「皮膚のムレを防止する観点からは、上記長繊維不織布の耐水度は、300mmH_(2)O以下、好ましくは250mmH_(2)O以下、より好ましくは200mmH_(2)O以下の範囲」との記載があるが、甲4の耐水圧は、本件発明2の「第一耐水圧」に相当するものであって、本件発明2の「第二耐水圧」については、記載も示唆もされておらず、申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明2?6は、引用発明と実質的な相違点があり、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、また、引用発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできない。したがって、本件発明2?6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

第5 採用しなかった異議申立て理由について
申立人は、特許異議の申立書において、甲4を主引用例とした本件発明2?6の新規性進歩性欠如の理由も申し立てた。
甲4には、前記第3、5(9)に摘記したように、耐水度が150mmH_(2)O以上の実施例は、実施例5のみであるが、この実施例5は、同5(8)に摘記したように、メルトブローン層の入ったSMS不織布の例であるから、スパンボンド不織布である本件発明の引用例とすることは適切でない。
仮に甲4の実施例1(スパンボンド不織布)を引用発明に認定したとすると、スパンボンド不織布のまま、第一耐水圧を80mmH_(2)Oから150H_(2)Oまで向上させること自体がそもそも容易でないと読み取れる。
したがって、本件発明2?6が、甲4から認定できる発明及び甲1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明2?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなり、その補正をすることができないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
肌面側に立設される立体ギャザーを備える吸収性物品であって、
前記立体ギャザーが、スパンボンド不織布を有し、メルトブローン不織布を含まないシートからなり、
前記スパンボンド不織布が熱可塑性樹脂の繊維からなり、
前記スパンボンド不織布がISO811に準拠して耐水圧を繰り返し測定した場合に、一回目に測定された第一耐水圧に対する二回目以降に測定された第二耐水圧の低下分が所定圧以下である所定の耐水性を有し、
前記第一耐水圧が160mmH_(2)O以上であり、前記所定圧が30mmH_(2)O以下であり、
前記繊維の繊度の平均値が0.1?0.8デニールであり、
前記スパンボンド不織布の目付量が8?20g/m^(2)である
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂には、ポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂が用いられた
ことを特徴とする請求項2に記載された吸収性物品。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂は、
メソペンタッド分率が30?80モル%であり、
前記メソペンタッド分率を「A」とし、ラセミペンタッド分率を「B」としたときに、不等式I「B/(1-A)≦0.1」を満たし、
ラセミメソラセミメソペンタッド分率が2.5モル%よりも大きく、
メソトリアッド分率を「C」とし、ラセミトリアッド分率を「D」とし、トリアッド分率を「E」としたときに、不等式II「C×D/E^(2)≦2.0」を満たし、
重量平均分子量が10000?200000であり、
前記重量平均分子量を「Mw」とし、数平均分子量を「Mn」としたときに、不等式III「Mw/Mn≦4」を満たし、
沸騰ジエチルエーテルによる抽出物の量が0?10質量%である
ことを満たす低結晶性ポリオレフィン樹脂が全固形分を基準にして5?50質量%である
ことを特徴とする請求項3に記載された吸収性物品。
【請求項5】
前記立体ギャザーにおいて前記シートの前記繊維どうしを溶着させるエンボス部分の面積率が5?25%である
ことを特徴とする請求項2?4の何れか1項に記載された吸収性物品。
【請求項6】
前記立体ギャザーにおいて前記シートが二枚以上に重ね合わせられた
ことを特徴とする請求項2?5の何れか1項に記載された吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-14 
出願番号 特願2018-522153(P2018-522153)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61F)
P 1 651・ 121- YAA (A61F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
門前 浩一
登録日 2018-09-28 
登録番号 特許第6406478号(P6406478)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 スパンボンド不織布,シートおよび吸収性物品  
代理人 真田 有  
代理人 真田 有  

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