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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B05B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B05B |
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管理番号 | 1358621 |
異議申立番号 | 異議2018-700808 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-04 |
確定日 | 2019-11-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6312322号発明「トリガー式噴出器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6312322号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6312322号の請求項1、2、4、5に係る特許を取り消す。 特許第6312322号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6312322号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年12月26日の出願であって、平成30年3月30日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年4月18日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。 平成30年10月 4日 :特許異議申立人 笹倉康助(以下、「特許 異議申立人」という。)による特許異議の 申立て(対象請求項:全請求項) 平成30年12月20日付け:取消理由通知 平成31年 3月 6日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求 平成31年 4月16日 :特許異議申立人による意見書の提出 令和 1年 5月28日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和 1年 7月16日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求 (以下、「本件訂正請求」という。) 令和 1年 8月26日 :特許異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の許否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(6)のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1)訂正事項1 請求項1を 「トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、 前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、 前記噴出部は、 前記噴出孔が設けられる壁部と、 前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、 前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、 を有し、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.2以下であることを特徴とするトリガー式噴出器。」 から 「トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、 前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、 前記噴出部は、 前記噴出孔が設けられる壁部と、 前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、 前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、 を有し、 前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、 前記第1距離は、5mm以下であり、 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下であることを特徴とするトリガー式噴出器。」 に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 請求項4を 「一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 から、 「一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である、請求項1または2に記載のトリガー式噴出器。」 に訂正する。 (請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 請求項5を 「前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 から、 「前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である、請求項1、2、4のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 に訂正する。 (5)訂正事項5 発明の詳細な説明の段落【0006】の 「本発明のトリガー式噴出器の一つの態様は、トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、前記噴出部は、前記噴出孔が設けられる壁部と、前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、を有し、前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.2以下であることを特徴とする。」 という記載を、 「本発明のトリガー式噴出器の一つの態様は、トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、前記噴出部は、前記噴出孔が設けられる壁部と、前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、を有し、前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、前記第1距離は、5mm以下であり、前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下であることを特徴とする。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 発明の詳細な説明の段落【0008】を削除する。 なお、本件訂正請求における請求項1に係る訂正は、一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。また、本件訂正請求における明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?5〕について請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 請求項1に係る訂正のうち、 「前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、」 を 「前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、」 に変更する訂正事項は、噴出孔から噴出される液霧が、「主液霧」と「飛散液霧」を含むことを明らかにするとともに、「第2距離」を算出するための「接触領域」が、主液霧が接触する「接触領域」であることを明らかにするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、明細書の段落【0037】の、「トリガー31の操作を操作することで、図2の破線に示すように、液体組成物は液霧Fとなって噴出孔28から噴出される。液霧Fはメッシュ部33に接触することで泡となり、トリガー式噴出器1から噴出される。液霧Fは、主液霧Fmと、飛散液霧Fsと、を含む。」との記載、段落【0038】の、「図3に示すメッシュ部33における主液霧Fmが接触する接触領域ARF1の面積は、例えば、メッシュ部33の面積の30%以上である。」との記載、さらに、段落【0042】の、「噴出側筒部26bの延出方向と直交する方向、すなわち、噴出側筒部26bの径方向における、接触領域ARF1の外縁と噴出側筒部26bの内側面26dとの距離を第2距離L2とする。図3に示すように、第2距離L2は、外側領域ARF2の径方向の寸法である。外側領域ARF2は、メッシュ部33における接触領域ARF1の径方向外側に位置する部分である。外側領域ARF2は、円環状の領域である。」との記載から、請求項1に係る当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 イ 請求項1に係る訂正のうち、 「前記第1距離は、5mm以下であり、」との事項を加える訂正事項は、訂正前の請求項3を請求項1に組み込むものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、当該訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 ウ 請求項1に係る訂正のうち、 「前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.2以下である」を「前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下である」に変更する訂正事項は、第1距離に対する第2距離の比の下限を導入するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、明細書の段落【0052】の「これに対して、本実施形態によれば、上述したようにして、適切に泡の飛散を抑制できる範囲を設定できる。そのため、外側領域ARF2を適切に設けて上記不具合の発生を抑制しつつ、泡の飛散を抑制できるように第1距離L1及び第2距離L2を設定することが容易である。なお、この場合、第1距離L1に対する第2距離L2の比は、例えば、0より大きく、0.2以下である。」との記載から、当該訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 エ 請求項1の記載を引用する請求項2、4、5も同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 (3)訂正事項3について 請求項4を 「一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 から、 「一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である、請求項1または2に記載のトリガー式噴出器。」 にする訂正は、引用していた請求項3が削除されたことに伴い、請求項3を引用することができなくなったことから、引用する請求項を「請求項1または2」に変更するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものにあたる。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (4)訂正事項4について 請求項5を 「前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 から、 「前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である、請求項1、2、4のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 にする訂正は、引用していた請求項3が削除されたことに伴い、請求項3を引用することができなくなったことから、引用する請求項を「請求項1、2、4」に変更するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものにあたる。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (5)訂正事項5、6について 段落【0006】、【0008】の訂正は、上記(1)の特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、段落【0006】、【0008】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (6)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項[1?5]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、令和1年7月16日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(なお、請求項3は削除されている。) 「【請求項1】 トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、 前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、 前記噴出部は、 前記噴出孔が設けられる壁部と、 前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、 前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、 を有し、 前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、 前記第1距離は、5mm以下であり、 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下であることを特徴とするトリガー式噴出器。 【請求項2】 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.1以下である、請求項1に記載のトリガー式噴出器。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である、請求項1または2に記載のトリガー式噴出器。 【請求項5】 前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である、請求項1、2、4のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。」 第4 取消理由(決定の予告)の概要 訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年5月28日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、要旨、次の理由を含むものである。 本件特許の請求項1?5に係る特許発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 そして、具体的理由は次のとおりである。 本件の請求項1には、 「【請求項1】 トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、 前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、 前記噴出部は、 前記噴出孔が設けられる壁部と、 前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、 前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、 を有し、 前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.2以下であることを特徴とするトリガー式噴出器。」 と、「第2距離」を定める上で前提となる「メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁」が液体組成物を噴出した結果で示されており、かつ、このような結果を得るためのトリガー式噴出器自体の具体的な構成について何ら規定されてはいない。 このような液体組成物を噴出した結果は、噴出孔から噴出される液体組成物の量及び粘性等の物性や、トリガーを操作する力(噴出される勢い)等に大きく依存する。 例えば、機械的構成が全く同一のトリガー式噴出器であっても、噴出させる液体組成物の種類によっては噴出孔から噴出された後に拡散せずにメッシュ部に到達することもあり得、また、トリガーを操作する力(噴出される勢い)によっては、メッシュ部に到達した液体組成物が付着したメッシュ部領域が異なること(あるいはメッシュ部に到達しないこと)もあり得ることとなる。 してみれば、本件発明1は、請求項1において特定された「第2距離」を得るための具体的な構成については何ら規定しておらず、トリガー式噴霧器自体の構成とは無関係に変動し得る「液体組成物を噴出した結果」に依存するものであるため、本件発明1の「トリガー式噴霧器」の構成が不明確である。 同じことが、請求項1を引用する本件発明2、3、4、5においてもいえる。 第5 当審の判断 上記取消理由について判断する。 1 検討・判断 本件の請求項1には、 「【請求項1】 トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、 前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、 前記噴出部は、 前記噴出孔が設けられる壁部と、 前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、 前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、 を有し、 前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、 前記第1距離は、5mm以下であり、 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下であることを特徴とするトリガー式噴出器。」 と、「第2距離」を定める上で前提となる「メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁」が液体組成物を噴出した結果で示されており、かつ、このような結果を得るためのトリガー式噴出器自体の具体的な構成について何ら規定されてはいない。 このような液体組成物を噴出した結果は、噴出孔から噴出される液体組成物の量及び粘性等の物性や、トリガーを操作する力(噴出される勢い)等に大きく依存する。 例えば、機械的構成が全く同一のトリガー式噴出器であっても、噴出させる液体組成物の種類によっては噴出孔から噴出された後に拡散せずにメッシュ部に到達することもあり得、また、トリガーを操作する力(噴出される勢い)によっては、メッシュ部に到達した液体組成物が付着したメッシュ部領域が異なること(あるいはメッシュ部に到達しないこと)もあり得ることとなる。 してみれば、本件の請求項1に係る本件発明1は、請求項1において特定された「第2距離」を得るための具体的な構成については何ら規定しておらず、トリガー式噴霧器自体の構成とは無関係に変動し得る「液体組成物を噴出した結果」に依存するものであるため、本件の請求項1に係る本件発明1の「トリガー式噴霧器」の構成が不明確である。 同じことが、請求項1を引用する請求項2、4、5に係る本件発明2、4、5においてもいえる。 2 特許権者の主張について (1)特許権者の主張 特許権者は令和1年7月16日提出の意見書の5(3)コにおいて、次のように主張する。 訂正後の請求項1の記載において、「第2距離」は、「前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外延と前記筒部の内側面との間の距離」と特定されているが、上記の「前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外延と前記筒部の内側面との間の距離」との記載は、発明の構成として明確に把握できるものであって、その構成を一義的に知ることができ、技術的な意味も明確に理解できるものであり、第2距離を明確に定義することができる。 そして、上記の記載は、本件訂正明細書の段落【0042】等に記載されているものである。 また、訂正後の請求項1に記載のような「物の発明」の場合、例えば、作用、機能、特性等の様々な表現方式を用いることができるのであるから、第2距離を上記のように記載することが、訂正後の請求項1の記載を不明確にしているものではないし、上記のように記載して、本件発明1の「トリガー式噴霧器」の構成を特定して明らかにしているものである(審査基準 第II部 第3節 2.3(1)参照。)。 そして、訂正後本件発明1は、筒部、噴出孔、及びメッシュ部を備え、噴出孔から主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧とが噴出され、第1距離を5mm以下とし、前記第1距離に対する第2距離の比を、0より大きく、0.2以下とし、前記第2距離をメッシュ部における液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外延と前記筒部の内側面の間の距離としたものであるから、その構成は明らかといえる。 また、訂正後本件発明1のようなトリガー式噴出器に使用される液体組成物の粘性等の物性が種々あることや、噴出孔へ液体組成物を供給する通路の形状や寸法、液体組成物の噴出量等を液体組成物の粘性等の物性にあわせて適宜設計すれば液体組成物が適正に噴出できることは、当業者であれば当然理解しているものであって、トリガー式噴出器を設計する際の前提となるものである。 また、訂正後本件発明1のようなトリガー式噴出器は、当業者は使用者がトリガーを操作する力を想定して液体組成物が適正に噴出できるように設計しているものであって、トリガー式噴出器を設計する際の前提となるものである。例えば、トリガーを操作する力を当業者が想定しない弱い力でトリガーを操作すれば、液体組成物が適正に噴出できないのは当然のことである。 これらの事項が、トリガー式噴出器を設計する際の前提であることは、例えば、甲第1?3号証の特許請求の範囲を見ても、液体組成物の粘性等の物性、液体組成物の噴出量、トリガーを操作する力等について何ら特定されていないことからも理解できる。 してみると、液体組成物の粘性等の物性、液体組成物の噴出量、トリガーを操作する力等については、液体組成物が適正に噴出できるように当業者が適宜設計すれば良いものであって、これらの事項を請求項1に記載していないからと言って、訂正後本件発明1の構成が不明確とはならない。 (2)特許権者の主張に対する検討 上記主張について検討する。 「第2距離」は、「前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外延と前記筒部の内側面との間の距離」と特定されており、当該記載自体は、一見明確であるように見える。 しかしながら、「前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外延と前記筒部の内側面との間の距離」とは、液体組成物を噴出させた結果得られるものである。 そして、特許権者も認めているように、トリガー式噴出器に使用される液体組成物の粘性等の物性、噴出孔へ液体組成物を供給する通路の形状や寸法、液体組成物の噴出量、トリガーを操作する力によって、特許権者がいうところの「適正に」噴出できるかどうかが関わるものである。 してみると、仮に全く同じ「トリガー式噴出器」を用いたとしても、使用される液体組成物の粘性等の物性、液体組成物の噴出量、トリガーを操作する力が異なれば、「第2距離」も異なる結果が得られる、つまり、本件発明1を満たす場合も満たさない場合もありうるということになるから、本件発明1に関する特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに、特許発明の技術的範囲が不明確であるといわざるを得ない。 また、特許権者は、甲第1?3号証の特許請求の範囲の記載についても触れているが、甲第1?3号証の特許請求の範囲の記載は、その構造が特定されているものであって、液体組成物を噴出した結果による特定を含むものではないから、本件発明1とは事情が異なる。 以上のとおりであるから、特許権者の主張は採用できない。 3 まとめ 上記1、2のとおり、本件特許の請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 また、請求項3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 トリガー式噴出器 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、トリガー式噴出器に関する。 【背景技術】 【0002】 例えば、特許文献1には、メッシュを有するスクリーンに液霧を接触させて泡を生成するポンプ式噴霧器が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開昭62-201666号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 上記のようなポンプ式噴霧器(トリガー式噴出器)を用いて、対象となる箇所に泡を吹き付けて泡層を形成する場合、形成される泡層の周囲に泡が飛散する場合があった。そのため、対象となる箇所以外の箇所に泡が付着する問題があった。 【0005】 本発明の一つの態様は、上記問題点に鑑みて成されたものであって、泡の飛散を抑制できるトリガー式噴出器を提供することを目的の一つとする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明のトリガー式噴出器の一つの態様は、トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、前記噴出部は、前記噴出孔が設けられる壁部と、前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、を有し、前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、前記第1距離は、5mm以下であり、前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下であることを特徴とする。 【0007】 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.1以下である構成としてもよい。 【0008】 (削除) 【0009】 一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である構成としてもよい。 【0010】 前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である構成としてもよい。 【発明の効果】 【0011】 本発明の一つの態様によれば、泡の飛散を抑制できるトリガー式噴出器が得られる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】本実施形態のトリガー式噴出器の部分を示す断面図である。 【図2】本実施形態のノズル部材の部分を示す断面図である。 【図3】本実施形態のノズル部材を示す正面図である。 【図4】実施例の結果を示す写真である。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るトリガー式噴出器について説明する。 なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。 【0014】 なお、説明においてはXYZ座標系を設定し、このXYZ座標系を参照しつつ各部材の位置関係を説明する。この際、鉛直方向と平行な方向をZ軸方向、水平方向のうちピストン30(図1参照)の摺動する方向と平行な方向をY軸方向、Y軸方向及びZ軸方向と直交する方向をX軸方向とする。ただし、鉛直方向及び水平方向とは、単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係及び方向を限定しない。 【0015】 また、本明細書において、液体組成物(液霧)が噴出される方向とは、液体組成物(液霧)の噴出される方向のうち主となる方向を含む。本実施形態において液体組成物が噴出される方向とは、ピストン30の摺動する方向と平行な方向(Y軸方向)である。 【0016】 また、本明細書においては、液体組成物が噴出される方向のうち液体組成物が噴出される側(+Y側)を、噴出側と呼ぶ場合がある。 また、本明細書においては、液体組成物(液霧)が噴出される方向のうち主となる方向を、主噴出方向と呼ぶ場合がある。 【0017】 まず、本実施形態のトリガー式噴出器1の各部について説明する。 図1は、本実施形態のトリガー式噴出器1の部分を示す断面図である。図2は、本実施形態のノズル部材26の部分を示す断面図である。図3は、本実施形態のノズル部材26を示す正面図(ZX面図)である。 【0018】 トリガー式噴出器1は、図1に示すように、容器21と、この容器21の首部21aに取り付けられ、容器21に収容された液体組成物を噴出するためのトリガー式の噴出装置22と、を備えている。 容器21の形状は、液体組成物を収容できる範囲内において、特に限定されず、どのような形状であってもよい。 【0019】 噴出装置22は、一端が容器21内に配され、容器21内の液体組成物を吸引、送液する送液チューブ23と、送液チューブ23の他端が接続されたバルブ部24と、バルブ部24と接続されたシリンダー29と、シリンダー29内を摺動するピストン30と、ピストン30に隣接して設けられたトリガー31と、バルブ部24の鉛直方向上方側(+Z側)に設けられ、内部に通液路25が形成された筒状の通液部38と、通液部38に接続された液体ガイド栓体27と、液体ガイド栓体27に接続され、液体組成物を外方に噴出するノズル部材(噴出部)26と、を備えている。 【0020】 バルブ部24は、ボール体24aと、弁体24bと、を備えている。 ボール体24aは、鉛直方向(Z軸方向)に上下動可能に設けられており、バルブ部24内の圧力の変化によって上下動する。ボール体24aは、未操作時(図1に示す状態)においては、バルブ部24内の鉛直方向下方側(-Z側)の端部に位置し、送液チューブ23と、バルブ部24と、を遮断している。トリガー31が操作されると、バルブ部24内の圧力変化によって、ボール体24aは、鉛直方向上方側(+Z側)の送液チューブ23の開口端を開放する位置に移動し、送液チューブ23と、バルブ部24と、が連通される。 【0021】 弁体24bは、バネ部24eと、突起部24fと、を備えている。突起部24fは、バネ部24eに接続され、鉛直方向下方側(-Z側)に突出して形成されている。バネ部24eは、鉛直方向の中央に括れを有する管状に形成されている。バネ部24eは、突起部24fに、常時鉛直方向下向き(-Z向き)の付勢力を与えている。 【0022】 弁体24bは、未操作時(図1に示す状態)においては、突起部24fがバネ部24eの付勢力によって鉛直方向下方側(-Z側)に押し下げられ、バルブ部24と通液部38の通液路25とを遮断している。トリガー31が操作されると、バルブ部24内の圧力変化によって、突起部24fが鉛直方向上方側(+Z側)に移動する。突起部24fにおける鉛直方向上方側(+Z側)の端部の位置が、弁体24bに形成された連通孔24dの位置よりも鉛直方向上方側(+Z側)となることによって、バルブ部24と、通液部38の通液路25と、が連通孔24dを介して連通される。 【0023】 シリンダー29のバルブ部24側(-Y側)の壁部には、シリンダー29の内部とバルブ部24の内部とを連通させる連通孔24cが形成されている。シリンダー29の内部には、ピストン30で区切られたバルブ部24側(-Y側)の空間であるシリンダー室29aが設けられている。シリンダー室29aには、液体組成物を収容可能となっている。シリンダー室29aの最大容積(図1の状態における容積)は、一度のトリガー31の操作でノズル部材26から噴出する液体組成物の量と等しく、例えば、2ml以上である。言い換えると、一度のトリガー31の操作によって噴出孔28から噴出される液体組成物の量は、2ml以上である。 【0024】 シリンダー29のバルブ部24側(-Y側)の壁部には、ピストン30側(+Y側)に突出する軸部29bが設けられている。軸部29bの外周には、ピストン30が嵌合されている。 【0025】 シリンダー29の内部には、シリンダー29の軸線と中心軸線を一致させて、コイルスプリング30aが設けられている。コイルスプリング30aは、軸部29bとピストン30とを接続しており、ピストン30に対して常時噴出側(+Y側)に付勢力を加えている。 【0026】 ピストン30は、トリガー31を握る、または緩めるといった操作をすることにより、シリンダー29の軸部29bが突出する方向(Y軸方向)に沿って、摺動する。すなわち、本実施形態においては、ピストン30は水平方向(Y軸方向)に沿って摺動する。より具体的には、トリガー31を握って容器21に接近させる(図1矢印方向に動かす)ことにより、ピストン30はバルブ部24側(-Y側)に移動し、トリガー31を緩めることにより、コイルスプリング30aの付勢力によってピストン30はトリガー31側(+Y側)に移動する。 【0027】 トリガー31は、回転軸Aを中心として揺動可能に設けられている。トリガー31は、操作されていない状態において、噴出側(+Y側)に向かうに従って、鉛直方向下方側(-Z側)に向かって延びている。 【0028】 トリガー31の操作によって、シリンダー29内のピストン30をY軸方向に往復させることで、シリンダー室29aの容積を変化させ、容器21内の液体組成物をノズル部材26へと移送することができる。 【0029】 液体ガイド栓体27は、筒状の取付部34と、柱状部37と、を備えている。 液体ガイド栓体27は、取付部34が通液部38の外周に嵌合されることによって、通液部38と接続されている。取付部34の底部35には、連通孔36が形成されている。この連通孔36を介して、通液路25から、絞り部40を介して、液体ガイド栓体27に液体組成物が供給される。 【0030】 柱状部37の周囲には、柱状部37と後述するノズル部材26の嵌合筒部26aとで形成される略円筒状の通路39が設けられている。通路39を通じて、液体ガイド栓体27から、後述するノズル部材26の噴出孔28へと、液体組成物が供給される。 【0031】 ノズル部材26は、液体ガイド栓体27に対して回動自在となっており、ノズル部材26と液体ガイド栓体27との位置関係を変化させることにより、液体ガイド栓体27の柱状部37の周囲に形成された通路39を遮断したり、通路39の断面積を変化させたりすることができる。これにより、ノズル部材26における噴出孔28への液体組成物の供給を遮断したり、噴出孔28へ供給される液体組成物に加わるスピン回転の状態を制御したりできるようになっている。 【0032】 ノズル部材26は、壁部26cと、嵌合筒部26aと、噴出側筒部(筒部)26bと、メッシュ部33と、を有する。 壁部26cには、図2に示すように、噴出孔28と、噴出孔28に連続して噴出側(+Y向き)に鉢状に拡径する拡径部32と、が設けられている。噴出孔28は、例えば、円形状である。噴出孔28の直径D2は、例えば、0.25mm以上、0.45mm以下である。 【0033】 嵌合筒部26aは、図1に示すように、壁部26cから噴出側とは逆側(-Y側)に延びている。嵌合筒部26aは、液体ガイド栓体27の柱状部37に嵌合されている。これにより、ノズル部材26は、液体ガイド栓体27の噴出側(+Y側)に取り付けられている。 【0034】 噴出側筒部26bは、図2に示すように、噴出孔28を囲んで壁部26cから液体組成物が噴出される噴出側(+Y側)に延びている。噴出側筒部26bは、噴出側(+Y側)に開口している。本実施形態において噴出側筒部26bは、図3に示すように、例えば、円筒状である。噴出側筒部26bの内径D1は、例えば、3mm以上、10mm以下である。 【0035】 メッシュ部33は、図2に示すように、噴出側筒部26bに設けられている。メッシュ部33は、噴出孔28の噴出側(+Y側)に位置している。本実施形態においてメッシュ部33は、噴出側筒部26bの内側における噴出側(+Y側)の端部に設けられている。本実施形態においてメッシュ部33は、正面視(ZX面視)で、噴出側筒部26bと同心の円形状である。メッシュ部33の直径は、噴出側筒部26bの内径D1とほぼ同じである。 【0036】 メッシュ部33の粗さは、例えば、50メッシュ以上、150メッシュ以下程度である。メッシュ部33の粗さは、メッシュ部33の縦と横とで同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。なお、メッシュ部33の縦及び横とは、メッシュ部33における互いに交差する方向を示しているものであり、実際の使用時におけるメッシュ部33の姿勢を限定するものではない。 【0037】 トリガー31の操作を操作することで、図2の破線に示すように、液体組成物は液霧Fとなって噴出孔28から噴出される。液霧Fはメッシュ部33に接触することで泡となり、トリガー式噴出器1から噴出される。液霧Fは、主液霧Fmと、飛散液霧Fsと、を含む。 【0038】 主液霧Fmは、トリガー式噴出器1から泡となって噴出され、対象となる箇所に吹き付けられた際に、泡層を形成する。主液霧Fmは、例えば、噴出孔28から一度に噴出される液霧Fの90%以上を含む。主液霧Fmの噴出される角度は、噴出角度θ1以下である。噴出角度θ1は、例えば、10°以上、15°以下程度である。図3に示すメッシュ部33における主液霧Fmが接触する接触領域ARF1の面積は、例えば、メッシュ部33の面積の30%以上である。 【0039】 なお、本明細書において、液霧の噴出角度とは、液霧が噴出される方向のうち主となる方向、すなわち、主噴出方向(Y軸方向)に対する、各液霧が噴出される方向の傾きである。例えば、図2に示す噴出角度θ1は、主液霧Fmのうち主噴出方向に対する傾きが最大となる液霧Fの噴出角度である。 【0040】 飛散液霧Fsは、主液霧Fmの周囲の空間に噴出される。飛散液霧Fsの噴出角度θ2は、主液霧Fmの噴出角度θ1よりも大きい。 【0041】 噴出側筒部26bが延びる延出方向(Y軸方向)における、壁部26cとメッシュ部33との距離を第1距離L1とする。本実施形態においては、メッシュ部33が噴出側筒部26bの噴出側(+Y側)の端部に設けられているため、第1距離L1は、噴出側筒部26bの延出方向の寸法とほぼ同じである。 【0042】 噴出側筒部26bの延出方向と直交する方向、すなわち、噴出側筒部26bの径方向における、接触領域ARF1の外縁と噴出側筒部26bの内側面26dとの距離を第2距離L2とする。図3に示すように、第2距離L2は、外側領域ARF2の径方向の寸法である。外側領域ARF2は、メッシュ部33における接触領域ARF1の径方向外側に位置する部分である。外側領域ARF2は、円環状の領域である。 【0043】 第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)は、0.2以下である。好ましくは、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)は、0.1以下である。このように第1距離L1と第2距離L2とを設定することで、泡の飛散をより抑制できる。 【0044】 第1距離L1は、例えば、5mm以下であることが好ましい。第1距離L1をこのように設定することで、メッシュ部33で生成される泡の泡質をよりきめ細かくできる。 【0045】 本実施形態によれば、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)は、0.2以下である。そのため、トリガー式噴出器1から噴出される泡の飛散を抑制することができる。以下、詳細に説明する。 【0046】 図3に示すように、飛散液霧Fsは、噴出角度θ1よりも大きい噴出角度θ2で噴出されるため、接触領域ARF1よりも外側の外側領域ARF2と接触する場合がある。飛散液霧Fsは、主液霧Fmに比べてまとまりが悪く、細かい無数の塊となっている。そのため、外側領域ARF2と接触した飛散液霧Fsは、細かい無数の泡となってトリガー式噴出器から噴出される。これにより、主液霧Fmによって形成された泡層の周囲に、細かい泡が飛散する場合がある。 【0047】 これに対して、本実施形態によれば、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)が、0.2以下である。そのため、外側領域ARF2を小さくすることができる。これにより、外側領域ARF2に接触する飛散液霧Fsの量を低減できる。したがって、本実施形態によれば、泡の飛散を抑制できるトリガー式噴出器が得られる。 【0048】 また、第1距離L1が比較的長い場合には、メッシュ部33に到達するまでに飛散液霧Fsは比較的大きく拡がる。そのため、飛散液霧Fsの多くの部分は、メッシュ部33に到達する前に噴出側筒部26bの内側面26dに接触して、メッシュ部33に接触しない、あるいは、内側面26dによって弾かれて主液霧Fmとともに接触領域ARF1に接触する。これにより、第1距離L1が比較的長い場合には、外側領域ARF2が比較的大きくても、飛散する泡の量を効果的に抑制しやすい。 【0049】 一方、第1距離L1が比較的短い場合には、メッシュ部33に到達するまでにおける飛散液霧Fsの拡がりは比較的小さい。そのため、メッシュ部33に到達する前に内側面26dに接触する飛散液霧Fsの量は少ない。これにより、第1距離L1が比較的短い場合には、外側領域ARF2をより小さく設定しなければ、泡の飛散を効果的に抑制することが困難である。 【0050】 このように、泡の飛散を抑制することを考えた場合、外側領域ARF2、すなわち、第2距離L2が許容される範囲は、第1距離L1に応じて異なる。これに対して、本実施形態によれば、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)を0.2以下とすることで、第1距離L1に応じて、適切に泡の飛散を抑制できる第2距離L2の範囲を設定できる。 【0051】 また、例えば、外側領域ARF2を無くす場合、すなわち、メッシュ部33の全体を接触領域ARF1とする場合には、メッシュ部33において、主液霧Fmがメッシュ部33の大きさ以上に拡がるようにする必要がある。この場合、主液霧Fmの少なくとも一部がメッシュ部33に接触する前に、噴出側筒部26bの内側面26dに接触する可能性が高い。内側面26dに接触した主液霧Fmは、噴出する勢いが低下する。そのため、内側面26dに接触した主液霧Fmは、メッシュ部33に接触した際に、きめ細かい泡となりにくい虞がある。また、トリガー式噴出器から噴出された泡全体の勢いが低下し、液だれが生じる、所望の位置に泡層を形成しにくい等の不具合が生じる虞がある。 【0052】 これに対して、本実施形態によれば、上述したようにして、適切に泡の飛散を抑制できる範囲を設定できる。そのため、外側領域ARF2を適切に設けて上記不具合の発生を抑制しつつ、泡の飛散を抑制できるように第1距離L1及び第2距離L2を設定することが容易である。なお、この場合、第1距離L1に対する第2距離L2の比は、例えば、0より大きく、0.2以下である。 【0053】 また、第1距離L1が小さいほど、メッシュ部33における主液霧Fmの拡がりは小さい。そのため、第1距離L1が小さいほど、メッシュ部33に接触する際の主液霧Fmの密度は大きくなる。この場合、生成される泡質をよりきめ細かくできる。 【0054】 これに対して、本実施形態によれば、例えば、第1距離L1は、5mm以下に設定される。このように設定されることで、密度が比較的大きい状態で主液霧Fmをメッシュ部33に接触させることができる。したがって、第1距離L1を、例えば、5mm以下に設定することで、トリガー式噴出器1から噴出される泡をよりきめ細かくできる。 【0055】 また、本実施形態によれば、一度のトリガー31の操作によって噴出孔28から噴出される液体組成物、すなわち、液霧Fの量は、例えば、2ml以上である。一度に噴出される液霧Fの量が多いほど、飛散液霧Fsの量は多くなる。そのため、一度に噴出される液霧Fの量が2ml以上である場合、本実施形態における泡の飛散抑制効果を特に大きく得られる。 【0056】 また、本実施形態によれば、噴出孔28の直径D2は、例えば、0.25mm以上、0.45mm以下である。このように設定されることで、単位時間当たりに噴出孔28から噴出される液霧Fの量を小さくできる。そのため、一度のトリガー31の操作で泡が噴出される時間を長くすることができる。 【0057】 また、噴出孔28の直径D2を小さくしつつ、一度に噴出される液霧Fの量を多くすると、メッシュ部33に接触する際の主液霧Fmの密度を大きくできる。具体的には、例えば、上述したように、直径D2を0.25mm以上、0.45mm以下としつつ、一度に噴出される液霧Fの量を2ml以上に設定することにより、トリガー式噴出器1から噴出される泡をよりきめ細かくできる。 【0058】 なお、本実施形態においては、以下の構成を採用することもできる。 【0059】 上記説明においては、メッシュ部33は、噴出側筒部26bの内側における噴出側の端部に設けられる構成としたが、これに限られない。本実施形態においては、例えば、メッシュ部33は、噴出側筒部26bの内側における噴出側の端部よりも噴出孔28側(-Y側)であってもよい。この場合、第1距離L1は、噴出側筒部26bの延出方向の寸法よりも小さい。また、本実施形態においては、メッシュ部33は、噴出側筒部26bの開口部を外側から覆う構成であってもよい。 【実施例】 【0060】 上記説明した実施形態におけるトリガー式噴出器1の実施例を用いて、本発明の効果について検証した。 まず、実施例1から実施例4までのトリガー式噴出器と、比較例1及び比較例2のトリガー式噴出器とについて、それぞれ飛散する泡の量を評価した。 実施例1?4及び比較例1,2の各パラメータを表1に示す。 【0061】 【表1】 ![]() 【0062】 表1において示す接触面積比(%)とは、メッシュ部33の面積に対する接触領域ARF1の面積の割合である。 実施例1?4及び比較例1,2のいずれにおいても、噴出孔の直径D2は、0.3mmとし、噴出角度θ1は、11°とし、メッシュ部の粗さは、84.5/91メッシュとし、一度に噴出される液霧の量は、2mlとした。なお、84.5/91メッシュとは、メッシュ部の縦及び横の一方が84.5メッシュであり、他方が91メッシュであることを意味する。 【0063】 なお、実施例2は、メッシュ部において、主液霧Fmがメッシュ部以上に拡がり、メッシュ部全体が接触領域ARF1となる場合である。 【0064】 実施例1?4及び比較例1,2のそれぞれを用いて、トリガーを一度だけ引いて対象となる領域に泡を吹き付け、泡層を形成した。このとき形成した泡層の周囲に泡がどれだけ飛散しているかを目視によって確認し、評価した。 【0065】 飛散性の評価は、以下のようにした。 ◎…飛散した泡が確認できない ○…飛散した泡が少ない ×…飛散した泡が多い 【0066】 上記評価試験の結果の一部を図4(A),(B)に示す。図4(A)は、比較例1の結果を示す写真である。図4(B)は、実施例1の結果を示す写真である。 図4(A)に示すように、比較例1においては、形成された泡層Fb1の周囲に多くの飛散した泡Fcが確認された。そのため、比較例1の飛散性評価は、×とした。 【0067】 これに対して、図4(B)に示すように、実施例1においては、形成された泡層Fb2の周囲に飛散した泡は確認できなかった。そのため、実施例1の飛散性評価は、◎とした。 【0068】 同様にして実施例2?4及び比較例2の飛散性の評価を行った。その結果、表1に示すように、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)が、0.2より大きい比較例1,2については、飛散性評価は×であった。一方、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)が、0.2以下の実施例1?4については、飛散性評価が◎、または○であった。 【0069】 以上により、本実施例によれば、泡の飛散を抑制できることが確かめられた。 【0070】 また、実施例3については飛散性評価が○であるのに対し、実施例1,2,4については飛散性評価が◎であることから、第1距離L1に対する第2距離L2の比(L2/L1)を0.1以下とすることで、泡の飛散をより抑制できることが確かめられた。 【0071】 次に、上記評価試験において実施例1?4を用いて形成した泡層の泡質を、目視により評価した。泡層の泡質の評価は以下のようにした。 ◎…泡質が非常にきめ細かい ○…泡質がきめ細かい 結果を表2に示す。 【0072】 【表2】 ![]() 【0073】 表2より、第1距離L1が5mmより大きい実施例2?4については評価が○であったのに対して、第1距離L1が5mm以下である実施例1については評価が◎であった。 これにより、第1距離L1が5mm以下である場合に、泡質をよりきめ細かくできることが確かめられた。 【0074】 以上の実施例により、本発明の有用性を確認できた。 【符号の説明】 【0075】 1…トリガー式噴出器、21…容器、26…ノズル部材(噴出部)、26b…噴出側筒部(筒部)、26c…壁部、26d…内側面、28…噴出孔、31…トリガー、33…メッシュ部、ARF1…接触領域、D2…直径、L1…第1距離、L2…第2距離 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 トリガーを操作することによって容器内に収容された液体組成物を噴出可能なトリガー式噴出器であって、 前記液体組成物が噴出される噴出孔を有する噴出部を備え、 前記噴出部は、 前記噴出孔が設けられる壁部と、 前記噴出孔を囲んで前記壁部から前記液体組成物が噴出される噴出側に延びる筒部と、 前記筒部に設けられ前記噴出孔の前記噴出側に位置するメッシュ部と、 を有し、 前記液体組成物が前記噴出孔から噴出される液霧は、主液霧と、主液霧の周囲の空間に噴出される飛散液霧と、を含み、 前記筒部が延びる延出方向における、前記壁部と前記メッシュ部との間の距離を第1距離とし、 前記延出方向と直交する方向における、前記メッシュ部の前記液体組成物の前記主液霧が接触する接触領域の外縁と前記筒部の内側面との間の距離を第2距離としたとき、 前記第1距離は、5mm以下であり、 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0より大きく、0.2以下であることを特徴とするトリガー式噴出器。 【請求項2】 前記第1距離に対する前記第2距離の比は、0.1以下である、請求項1に記載のトリガー式噴出器。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 一度の前記トリガーの操作によって前記噴出孔から噴出される前記液体組成物の量は、2ml以上である、請求項1または2に記載のトリガー式噴出器。 【請求項5】 前記噴出孔の直径は、0.25mm以上、0.45mm以下である、請求項1、2、4のいずれか一項に記載のトリガー式噴出器。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-04 |
出願番号 | 特願2014-264477(P2014-264477) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
ZAA
(B05B)
P 1 651・ 121- ZAA (B05B) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 高崎 久子 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 植前 充司 |
登録日 | 2018-03-30 |
登録番号 | 特許第6312322号(P6312322) |
権利者 | ライオン株式会社 |
発明の名称 | トリガー式噴出器 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 黒瀬 雅一 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 小椋 正幸 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 小椋 正幸 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 襄 |
代理人 | 黒瀬 雅一 |