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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1358651
異議申立番号 異議2019-700745  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-18 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6487609号発明「点眼剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6487609号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6487609号の請求項1?7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2018-546564号)は、2017年12月27日(優先権主張 平成29年5月1日(以下「本件優先日」という。))を国際出願日とするものであり、平成31年3月1日にその特許権の設定登録(請求項の数:7)がなされ、平成31年3月20日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和1年9月18日に、特許異議申立人 岡 ヤエ子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有せずに、1眼あたり1滴または2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。
【請求項2】
点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が、0.075体積モル濃度以下である、請求項1記載の点眼剤。
【請求項3】
リン酸又はその塩が、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウムである、請求項1または2に記載の点眼剤。
【請求項4】
エピナスチン又はその塩が、エピナスチン塩酸塩である、請求項1?3のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項5】
さらに等張化剤として塩化ナトリウムを含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項6】
ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、請求項1?5のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項7】
有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン塩酸塩、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウム、等張化剤として塩化ナトリウムを含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が0.075体積モル濃度以下であり、塩化ベンザルコニウムを含有せず、1眼あたり1滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。」

以下、本件特許の請求項1?7に係る発明を、それぞれ請求項順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。
また、本件特許の願書に添付した明細書を、「本件明細書」という。

第3 申立ての理由の概要及び証拠

申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由として、以下の1に概要を示す(1)?(3)の申立ての理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の2に示す甲第1?17号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等ということがある。)を提出した。

1 申立ての理由の概要

(1)申立ての理由1(特許法第29条第2項;進歩性欠如)
本件発明1?7の点眼剤は、甲1に記載された発明の点眼剤とは、塩化ベンザルコニウムを含有しないものである点で相違するが、甲2に記載された事項及び/又は周知技術を参照すれば、甲1に記載された発明の点眼剤において、当該成分を含有しないものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、本件発明1?7は、甲1に記載された発明、並びに甲2に記載された事項及び/又は周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?7に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立ての理由2(特許法第36条第6項第1号;サポート要件違反)
本件発明は、「リン酸又はその塩を用いても花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出への影響が最小限であること」を、その課題として含むところ、本件明細書に記載された「1.花粉外壁の破裂抑制試験」の結果からみて、0.075体積モル濃度を超えるリン酸(塩)を含有する0.1%(w/v)エピナスチン塩酸塩溶液では、当該課題を解決できないため、リン酸(塩)の濃度が特定されていない請求項1、3?6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件発明は、「点眼回数を減らしてもアレルギー性結膜炎に対し十分な治療効果を発揮すること」も、その課題として含むところ、本件明細書に記載された「4.眼内動態試験」及び「5.ヒトにおける薬効評価試験」の結果は、単に、エピナスチン塩酸塩の濃度が2倍になれば、点眼回数を半減できることを示すのみであって、当該課題を解決できるかを確認できないため、請求項1?7の記載は、同法同条同項同号に規定する要件を満たしていないから、請求項1?7に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立ての理由3(特許法第36条第4項第1号;実施可能要件違反)
本件明細書には、「3.アレルギー性結膜炎モデルを用いた薬効評価試験」に使用した「アレルギー性結膜炎モデル」を、どのように作成したのかについて、全く記載されておらず、本件明細書に記載された動物モデルを使用した試験は、当業者が本件発明を実施できるように記載されていないから、請求項1?7に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立人が提出した証拠(証拠方法)

甲第1号証 中国特許出願公開第104491876号明細書,
2015年4月8日発行
甲第2号証 中国特許出願公開第101036659号明細書,
2007年9月19日発行
甲第3号証 「コンタクトレンズ装用者におけるアレルギー性結膜炎
に対するBAK非含有エピナスチン塩酸塩点眼液の臨床
効果」,アレルギー・免疫,Vol.23,No.10,2016,
1390-1397頁
甲第4号証 「ソフトコンタクトの上から点眼可能な抗アレルギー点眼
薬」,全国の薬剤師でつくる薬剤師専門サイト「ファーマ
シスタ」,2016年3月10日付記事
https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_
info/ophthalmology/1829/
甲第5号証 「アレルギー性結膜炎患者を対象としたオロパタジン塩酸
塩点眼液0.2%の1日2回,10週間投与における安全
性および有効性の検討」,日本眼科學會雜誌,116巻,
.第9号,869-879頁,2012年9月
甲第6号証 チモロール点眼液T0.25%及びT0.5% 添付文書
,2010年8月改訂(第8版)
甲第7号証 国際公開第2006/049250号,
2006年5月11日発行
甲第8号証 特表2012-532091号公報,
平成24年12月13日発行
甲第9号証 アレジオン点眼液0.05%に関する資料,
http://www.pmda.go.jp/drugs/2013/P201300115/index.
html
甲第9号証補足1
アレジオン点眼液0.05% 医薬品インタビューフォー
ム,表紙,
http://www.info.pmda.go.jp/pack/1319762Q1028_1_08/
甲第9号証補足2
pmdaホームページ「審査報告書・申請資料概要 3.
公表資料について」,
http://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/
review-information/devices/0010.html
甲第10号証 「エピナスチン塩酸塩点眼液ベンザルコニウム塩化物
(BAK)フリー製剤のスギ花粉の抗原溶出に対する
影響」,アレルギー・免疫,Vol.23,No.2,2016,
286-292頁
甲第11号証 「スギ花粉からの主要抗原溶出に対する鼻汁の影響
-In vitroにおける抗原溶出に影響を与える諸因子に
ついて-」,
耳鼻咽喉科展望,39巻,5号,483?495頁,1996年
甲第12号証 「New Role for FDA-Approed Drugs in Combinating
Antibiotic-Resistant Bacteria」,
Antimicrobial Agents and Chemotherapy,Vol.60,
No.6,PP.3717-3729,June 2016
甲第13号証 特許第4880808号公報
甲第14号証 アレジオン点眼液0.05% 処方変更、使用上の注意
改訂、投薬期間制限解除、使用期限延長 のお知らせ,
2014年11月
甲第15号証 日本医薬品添加剤協会編,「医薬品添加物事典2000」
,2000年4月28日発行,株式会社薬事日報社,
43頁「塩化ナトリウム」の項,奥付
甲第16号証 「Animal models of allergic and inflammatory
conjunctivitis」,
Allergy,Vol.58,PP.1101-1113,2003
甲第17号証 特開2005-278533号公報,
平成17年10月13日発行

第4 本件明細書の記載事項等

1 本件明細書の記載事項

本件明細書には、以下の摘記ア?スの事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した(【0039】?【0042】、【0049】、【0057】の各段落の冒頭に記載された標題の下線を除く。)。

(摘記ア)
「【背景技術】
・・・・
【0003】
非特許文献1および非特許文献2によると、スギ花粉によるアレルギー性結膜炎は、飛散した花粉粒子が結膜嚢内に侵入した後、涙液によって花粉外壁が破裂し、溶出したアレルゲンが結膜組織に移行して肥満細胞上の抗体へ結合することにより発症すると考えられる。涙液中では花粉外壁の破裂は起こりやすく、花粉外壁の破裂に影響を及ぼす因子には、pHや温度といった物理化学的な影響に加えて、涙液中の成分(リゾチームやタンパク質、様々な分解酵素など)による影響があることが示唆されている。また種々の抗アレルギー点眼液においても、その種類によっては、従来の薬理作用の他にも花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。
【0004】
非特許文献3によると、点眼液に含まれる添加剤についても、花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出に影響を及ぼす可能性がある。例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)は花粉外壁の破裂を促進する可能性が示唆されていることから、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤でのリン酸又はその塩などの添加には一定の懸念があった。
【0005】
非特許文献4には、現在、アレルギー性結膜炎治療剤として日本で上市されている、エピナスチン塩酸塩を有効成分とするアレジオン(登録商標)点眼液0.05%について記載されており、その用法・用量は通常1回1滴、1日4回点眼であることが記載されている。
【0006】
服薬アドヒアランスの観点から、点眼剤として1日4回の点眼は、日常生活において数時間点眼できない状況もあり得るため、これより少ない点眼回数が望ましく、点眼回数を1日4回未満、具体的には、1日1回又は2回に低減した点眼剤が特に望ましい。さらに、ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用したまま点眼できる点眼剤であれば、更に望ましい。
【0007】
非特許文献5には、日本においては、エピナスチン塩酸塩と同じくヒスタミンH_(1)拮抗薬として知られるケトチフェンフマル酸塩、レボカバスチン塩酸塩、オロバタジン塩酸塩を含有する点眼液が抗アレルギー点眼薬として認可されているが、いずれも1日4回点眼が必要であることが記載されている。ヒスタミンH_(1)拮抗薬を有効成分とする抗アレルギー点眼薬については、1日1回又は2回点眼で、1日4回点眼と同程度の治療効果が得られるものは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アレルギー・免疫 2010,Vol.17,No.2,124-129
【非特許文献2】アレルギー・免疫 2011,Vol.18,No.2,82-87
【非特許文献3】アレルギー・免疫 2016,Vol.23,No.2,124-130
【非特許文献4】アレジオン(登録商標)点眼液0.05%添付文書
【非特許文献5】アレルギー 2014,Vol.6,No.8,1103-1109」

(摘記イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、服薬アドヒアランスの向上、例えば、点眼回数の低減をもたらすことに加えて、ソフトコンタクトレンズを装用したままでの点眼を可能とする、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を提供することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、服薬アドヒアランスの向上、例えば、点眼回数の低減をもたらす、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を見出すために鋭意研究を行ったところ、0.1%(w/v)のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有させることにより、点眼回数を減らしてもアレルギー性結膜炎に対し十分な治療効果を発揮すること、リン酸又はその塩を用いても花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出への影響が最小限であること、また、SCLの変形を引き起こさないことを見出し、本発明に至った。・・・・。
・・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明は、点眼回数を減らしても十分な治療効果を有する、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を得ることができる。また、本発明は、ソフトコンタクトレンズに吸着するとされる塩化ベンザルコニウムを含有しないため、ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼可能なエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を得ることができる。」

(摘記ウ)
「【発明を実施するための形態】
・・・・
【0017】
本発明の点眼剤において、含有されるエピナスチンは塩であってもよく、医薬として許容される塩であれば特に制限はない。塩としては例えば、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。
・・・・
エピナスチンの塩としては、一塩酸塩(エピナスチン塩酸塩)が特に好ましい。
・・・・
【0019】
本発明の点眼剤において、エピナスチン又はその塩は、その含有量が0.1%(w/v)より低いと、十分な薬効効果を得るために点眼量や点眼回数を増やさなければならないため、服薬アドヒアランスの観点から、エピナスチン又はその塩の含有量は0.1%(w/v)が最も好ましい。
一方、理論的には、エピナスチン又はその塩の含有量を0.1%(w/v)超とすれば、更に点眼回数を減少せしめる可能性もあるが(例えば、2日に1回)、エピナスチン又はその塩の含有量によってはソフトコンタクトレンズを変形させる作用を生じることもあり、その場合、ソフトコンタクトレンズ装用時には使用できない。つまり、有効成分であるエピナスチン又はその塩の含有量は、薬効効果、点眼回数、ソフトコンタクトレンズへの影響の有無、服薬アドヒアランス等の様々な要素を鑑みた上で、そのバランスを取った濃度に設定する必要がある。
なお、本発明において、「%(w/v)」は、本発明の点眼剤100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。本発明においてエピナスチンの塩が含有される場合、その値はエピナスチンの塩の含有量である。・・・・。」

(摘記エ)
「【0020】
本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩としては、溶液中で緩衝状態にあるため、その状態は溶液のpHに依存するが、点眼剤を調製する際の原料としては、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、リン酸三カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。特に好ましくは、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムである。リン酸又はその塩は、単独で用いてもよく、また、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
・・・・
本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩の濃度は、医薬品の添加剤として使用可能な範囲において適宜調整することができるが、0.075体積モル濃度以下が好ましく、・・・・。本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩が2種以上組み合わせて用いられる場合には、その濃度はこれらを合計した体積モル濃度で表される。・・・・。
なお、本発明において、リン酸又はその塩の濃度を表す「体積モル濃度」は、各種リン酸塩の原料となる塩や水和物が多様であるため、画一的な指標として「PO_(4)^(3-)」のモル数を選択して、本発明の点眼剤1L中に含まれる対象成分の物質量(mol)を「体積モル濃度」としたもので、「mol/L」または「M」と表すこともできる。
本発明において、「リン酸又はその塩の濃度」及び「リン酸濃度」とは、本発明の点眼剤1L中に含まれる、リン酸、リン酸塩、リン酸の1価イオン、リン酸の2価イオン、リン酸の3価イオンがすべて「PO_(4)^(3-)」として存在した場合の体積モル濃度を示す。・・・・。」

(摘記オ)
「【0022】
本発明の点眼剤において、「塩化ベンザルコニウムを含有しない」とは、点眼剤中の塩化ベンザルコニウムの含有量が文字通りゼロであることを意味する。
【0023】
本発明の点眼剤には、眼科用製剤としての要件を満たすために必要に応じて医薬品の添加剤をさらに用いることができる。具体的には、等張化剤、粘稠剤、界面活性化剤、安定化剤、抗酸化剤、pH調節剤等を加えることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、適量を配合することができる。
・・・・。
本発明の点眼剤に等張化剤を配合する場合の等張化剤として、イオン性等張化剤がより好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。・・・・。
本発明の点眼剤に等張化剤を配合する場合の等張化剤の含有量は、・・・・、0.001?10%(w/v)が好ましく、0.01%?5%(w/v)がより好ましく、0.1?3%(w/v)がさらに好ましく、0.5?2%(w/v)が特に好ましい。
【0024】
本発明の点眼剤に粘稠剤を配合する場合の粘稠剤は、医薬品の添加剤として使用可能な粘稠剤を適宜配合することができるが、例えば、メチルセルロース、・・・・、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の点眼剤に粘稠剤を配合する場合の粘稠剤の含有量は、・・・・、0.001?5%(w/v)が好ましく、0.01%?3%(w/v)がより好ましく、0.1?2%(w/v)がさらに好ましい。
・・・・
【0026】
本発明の点眼剤に安定化剤を配合する場合の安定化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な安定化剤を適宜配合することができるが、例えば、エデト酸又はその塩等が挙げられる。
エデト酸又はその塩としては、エデト酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム等が挙げられる。
本発明の点眼剤に安定化剤を配合する場合の安定化剤の含有量は、・・・・、0.001?5%(w/v)が好ましく、0.01%?3%(w/v)がより好ましく、0.1?2%(w/v)がさらに好ましい。
・・・・
【0028】
本発明の点眼剤にpH調節剤を配合する場合のpH調節剤は、医薬品の添加剤として使用可能なpH調節剤を適宜配合することができるが、例えば、酸又は塩基であり、酸としては例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸等、塩基としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩は緩衝剤として使用されてもよいが、pH調節剤として使用されてもよい。
本発明の点眼剤のpHは、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば4.0?8.5又は4.0?8.0の範囲内であり、6.0?8.0が好ましく、6.5?7.5がより好ましい。特に好ましいpHは、6.7?7.3であるが、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3もさらにより好ましい。」

(摘記カ)
「【0033】
本発明の点眼剤は、1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回に分けて点眼することが好ましく、1眼あたり1滴を1回として1日2回に分けて点眼することがさらに好ましい。なお、本発明の点眼剤を1日2回に分けて点眼する場合には、その点眼間隔は少なくとも1時間以上がよく、2時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。1滴は、通常、約0.01?約0.1mLであり、約0.015?約0.07mLが好ましく、約0.02?約0.05mLがより好ましく、約0.03mLが特に好ましい。
【0034】
本発明の点眼剤は、ハードコンタクトレンズ装用時においても、ソフトコンタクトレンズ装用時においても使用することができる。・・・・。」

(摘記キ)
「【0038】
製剤例
以下に本発明の代表的な製剤例を示す。なお、下記製剤例において各成分の配合量は製剤100mL中の含量である。
【0039】
製剤例1
エピナスチン塩酸塩 0.1g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 1.0g(0.064M)
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
(製剤例1に含まれるリン酸濃度:0.064M)
【0040】
製剤例2
エピナスチン塩酸塩 0.1g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 0.3g(0.019M)
リン酸水素ナトリウム12水和物 1.0g(0.028M)
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
(製剤例2に含まれるリン酸濃度:0.047M)」

(摘記ク)
「【0041】
1.花粉外壁の破裂抑制試験
(1)被験製剤の調製
以下の濃度になるように、エピナスチン塩酸塩、リン酸又はその塩、塩化ナトリウムを水に溶解し、pH調節剤(塩酸および/または水酸化ナトリウム)と水を加えて全量を10mLとし、濾過滅菌を行うことにより、実施例1の製剤を調製した。
【0042】
実施例1
エピナスチン塩酸塩 0.1%(w/v)
塩化ナトリウム 0.5%(w/v)
リン酸濃度 0.075M
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0043】
実施例1の調製方法と同様の方法にて、実施例2?5および比較例1?2の製剤を調製した。各被験製剤の濃度について、表1に示す通りである。
また、日本で上市されている「アレジオン(登録商標)点眼液0.05%」を比較例3とした。

【0044】
(2)試験方法
スギ花粉粒子を約3μLずつ採取し、96ウェルマイクロプレートに播種した。その後、各ウェルに被験製剤50μLを滴下し、直後に血球計算盤を用いて光学顕微鏡下でトータルの花粉数を計測した。さらに、経時的に滴下5分後および10分後に破裂した花粉数を同様に顕微鏡下で計測した。
【0045】
花粉破裂率は以下の計算式より算出した。
花粉破裂率(%)=(滴下5分後または10分後までに破裂した花粉数)/(被験製剤滴下直後のトータル花粉数)×100
【0046】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表2に示す。

【0047】
表2に示されるように、リン酸濃度によって濃度依存的に花粉外壁の破裂が進行すること、エピナスチン又はその塩は濃度依存的に花粉外壁の破裂を抑制する効果を有すること、および一定範囲のリン酸濃度に対して、一定濃度のエピナスチン又はその塩が花粉外壁の破裂を抑制する効果を有することが示された。併せて、0.075体積モル濃度超のリン酸濃度を含有する0.1%(w/v)エピナスチン塩酸塩溶液では、「アレジオン(登録商標)点眼液0.05%」と同程度の花粉外壁の破裂率を得られないことも示唆された。」

(摘記ケ)
「【0048】
2.ソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験
本発明の点眼剤によるSCLの変形の有無を検討した。
(1)被験製剤の調製
被験製剤として、上記の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」で使用した実施例2と比較例3(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を選択した。また、実施例1の調製方法と同様の方法にて、以下の比較例4の製剤を調製した。
【0049】
比較例4
エピナスチン塩酸塩 0.15%(w/v)
塩化ナトリウム 0.5%(w/v)
リン酸濃度 0.05M
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0050】
(2)試験方法
SCLに各被験製剤50μLを滴下し、10分後に薬液を除去した後に生理食塩水で洗浄した。これを1サイクルとして、7サイクル繰り返した。SCLの直径およびベースカーブを測定した。
【0051】
直径変形量及びベースカーブ変形量は以下の計算式より算出した。
直径変形量(mm)=(7サイクル後の直径)-(使用前の直径)
ベースカーブ変形量(mm)=(7サイクル後のベースカーブ)-(使用前のベースカーブ)
【0052】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表3に示す。

【0053】
表3に示されるように、エピナスチン又はその塩が高濃度になると、SCLの変形を引き起こす可能性が示唆された。」

(摘記コ)
「【0054】
3.アレルギー性結膜炎モデルを用いた薬効評価試験
アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー作用を評価するため、モルモットを用いて実験的アレルギー性結膜炎モデルを作成し、本発明の点眼剤の治療効果を検討した。
被験製剤として、上記の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」で使用した実施例2と比較例3(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を用いた。モルモットに被験製剤を点眼後、アレルギーを惹起するまでの時間を変えることにより、各被験製剤の治療効果を評価した。
【0055】
その結果、実施例2における点眼後8時間の時点と、比較例3における点眼後4時間の時点とで、ほぼ同程度の治療効果を示した。すなわち、実施例2の製剤は、比較例3の製剤に比べて治療効果の持続時間が約2倍である。従って、実際にアレルギー性結膜炎治療剤として使用されている比較例3の点眼回数が1日4回であることを鑑みると、本発明の点眼剤の点眼回数は1日2回で十分であることが示唆された。」

(摘記サ)
「【0056】
4.眼内動態試験
点眼後の眼内動態を評価するため、動物に本発明の点眼剤を点眼し、点眼後の結膜中濃度を測定した。
(1)被験製剤の調製
被験製剤として、上記の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」で使用した実施例2と比較例3(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を選択した。また、実施例1の調製方法と同様の方法にて、緩衝剤としてトロメタモールを含む、以下の比較例5の製剤を調製した。
【0057】
比較例5
エピナスチン塩酸塩 0.1%(w/v)
塩化ナトリウム 0.76%(w/v)
トロメタモール 0.25%(w/v)
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0058】
(2)試験方法
各被験製剤5μLをラットに1回点眼投与し(n=5)、点眼後1時間および4時間後に、屠殺処分後の眼球を摘出した。その結膜中のエピナスチン濃度を測定し、平均値を算出した。
【0059】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表4に示す。

【0060】
表4に示されるように、本発明の点眼剤を投与することにより、エピナスチンは結膜中に長く滞留することが認められた。従って、実際にアレルギー性結膜炎治療剤として使用されている比較例3の点眼回数は1日4回であることを鑑みると、本発明の点眼剤の点眼回数はそれより少なく済ませられることが示唆された。
また、被験製剤に含有される添加剤が、エピナスチンの結膜中での滞留時間に影響を及ぼすことが認められ、緩衝剤としてリン酸又はその塩が優れていることが示唆された。」

(摘記シ)
「【0061】
5.防腐効力試験
本試験は、第17改正日本薬局方に記載の保存効力試験法に準じて実施した。
(1)被験製剤の調製
実施例1の調製方法と同様の方法にて、実施例6?7および比較例6の製剤を調製した。各被験製剤の濃度について、表5に示す通りである。

【0062】
(2)試験方法
接種菌として以下の菌株を使用した。
細菌:
大腸菌,Escherichia Coli ATCC 8739(E.coliともいう)
緑膿菌,Pseudomonas aeruginosa ATCC 9027(P.aeruginosaともいう)
黄色ブドウ球菌,Staphylococcus aureus ATCC 6538(S.aureusともいう)
酵母菌およびカビ類:
カンジダ,Candida albicans ATCC 10231(C.albicansともいう)
クロコウジカビ,Aspergillus brasiliensis ATCC16404(A.brasiliensisともいう)
【0063】
各製剤からなる試験試料中の菌液濃度が105?106個/mL(5菌種共)となるように、接種菌液を試験試料に接種した。具体的には、107?108cfu/mLとなるように接種菌液を調製し、この接種菌液を105?106cfu/mLとなるように、実施例6?7及び比較例6の製剤からなる試験試料に各接種菌液を接種し、均一に混合し試料とした。これらの試料を遮光下20?25℃に保存し、各サンプリングポイント(7日後、14日後、又は28日後)において、各試料からマイクロピペットで1mLを採取し、生菌数を測定した。各サンプリングポイントでは、試料溶液の蓋を空けてサンプリングを実施し、蓋を閉める操作を行った。
【0064】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表6に示す。表6の試験結果は、生菌数を測定したときの菌数(A)に対する接種時の菌数(B)の比(B/A)の常用対数値で示す。たとえば、値が「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを示す。
試験の合否判定について、細菌種(E.coli、P.aeruginosa、S.aureus)に対しては、播種7日後に1.0以上、かつ14日後または28日後に3.0以上であること、および真菌種(C.albicans、A.brasiliensis)に対しては、播種7日後と比較して播種14日後または28日後の数値が減少していないこと、をいずれも満たす時に適合とした。なお、表中の"N.D."は測定を行っていないことを表す。

【0065】
表6に示されるように、エピナスチン又はその塩を含有する実施例6?7の製剤は、塩化ベンザルコニウムを含有しないにもかかわらず、いずれの菌に対しても十分な防腐効果を示した。これに対して、比較例6の製剤は、十分な防腐効果を有さないことが示された。これにより、0.05%(w/v)超、少なくとも0.1%(w/v)以上の濃度のエピナスチン又はその塩を含有する点眼剤は、塩化ベンザルコニウムを含有しなくても使用可能であることが示唆された。」

(摘記ス)
「【0066】
6.ヒトにおける薬効評価試験
ヒトにおけるアレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー作用を評価するため、臨床試験を実施し、本発明の点眼剤の治療効果を検討した。治療効果の比較対照には、比較薬1(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を用いた。
【0067】
(1)被験製剤の調製
有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ナトリウム、および等張化剤として塩化ナトリウムを含有する点眼剤であって、さらには塩化ベンザルコニウムを含有しない、点眼剤(治療薬1)を、汎用される方法を用いることにより、調製した。なお、上記点眼剤(治療薬1)中のリン酸又はその塩の濃度は0.075体積モル濃度以下となるように調製した。
【0068】
(2)試験方法
無症状期のアレルギー性結膜炎患者(68人)を対象として、予め被験者ごとの至適抗原濃度を決定した後、2群(A群:比較薬1先行群、B群:治験薬1先行群)に無作為に割付け、2回の来院で治験薬を二重盲検法下で点眼した後に抗原誘発を行った。
1回目の来院で、A群では抗原誘発8時間(1日2回投与する場合の点眼間隔に相当)前にプラセボ点眼液を片眼に1滴点眼し、抗原誘発4時間(1日4回投与する場合の点眼間隔に相当)前に比較薬1を他眼に1滴点眼した。B群では抗原誘発8時間前に治験薬1を片眼に1滴点眼し、抗原誘発4時間前にプラセボ点眼液を他眼に1滴点眼した。14日以上空けた2回目の来院では、A群とB群で投与薬剤をクロスオーバーさせた。
【0069】
(3)抗原誘発によるアレルギー症状の評価方法
眼そう痒感及び結膜充血(眼球結膜充血および眼瞼結膜充血)について、症状の重度に基づいた判定基準を用いてスコアをつけることにより評価した。なお、眼そう痒感のスコアは0?4の5段階、結膜充血のスコアは0?6(眼球結膜充血0?3と眼瞼結膜充血0?3の合計スコア)の7段階である。
【0070】
(4)試験結果及び考察
抗原誘発後の3時点(3分、5分及び10分後)の平均の眼そう痒感スコア、及び抗原誘発後の3時点(5分、10分及び20分後)の平均の結膜充血スコアを表7に示す。(なお、表中の"Mean"は平均値、"SD"は標準偏差、"N"はサンプル数を表し、これらは汎用的な統計処理により算出されるものである)。

【0071】
表7に示されるように、治療薬1はヒトでのアレルギー性結膜炎に対して高い治療効果を示した。さらに治療薬1は、比較薬1と比較して治療効果の持続時間が約2倍あることが認められた。すなわち、実際にアレルギー性結膜炎治療剤として使用されている比較薬1の点眼回数が1日4回であることを鑑みると、本発明の点眼剤の点眼回数は1日2回で十分であることが示唆された。
【0072】
また治療薬1は、比較薬1と比較して有効成分が高濃度であるにも関わらず、本試験中において副作用は発現しておらず、医薬品として十分忍容できるものであった。」

2 本件発明の技術的意義について

前記1に摘記した本件明細書の記載事項、及び、本件請求項1?7の記載からみて、本件発明の技術的意義について、以下のことが認められる。

(1)背景技術
エピナスチン塩酸塩等のヒスタミンH_(1)拮抗薬を有効成分とする、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤において、1日1回又は2回点眼で、1日4回点眼と同程度の治療効果が得られるものは、本件優先日前に知られていなかったところ、服薬アドヒアランスの観点から、点眼回数を1日1回又は2回に低減した点眼剤が望ましく、また、ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用したまま点眼できる点眼剤であれば、さらに望ましい(【0002】?【0008】)。

(2)課題
本件発明は、点眼回数の低減などの服薬アドヒアランスの向上をもたらすことに加えて、ソフトコンタクトレンズを装用したままでの点眼を可能とする、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を提供することを、解決すべき課題とするものである(【0009】)。

(3)手段・効果
本件発明は、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤において、0.1%(w/v)のエピナスチン又はその塩、及び、リン酸又はその塩、を含有させることにより、点眼回数を、1眼あたり1滴又は2滴を1回として、1日2回点眼に減らしても、十分な治療効果を発揮し、また、ソフトコンタクトレンズの変形を引き起こさず、塩化ベンザルコニウムを含有しなくても、防腐効力を有するため、ソフトコンタクトを装用したままでの点眼を可能としたものである(【0010】、【0013】、【0019】、【0041】?【0072】)。

第5 甲号証の記載事項

前記第3の2に列記した申立人が証拠方法として提出した甲号証のうち、申立人が主引例とする甲1及び副引例とする甲2については、主な記載事項を摘記し、申立人が周知例等とする他の甲号証については、申立ての理由1?3の判断に必要なもののみ記載事項を摘記する。
なお、甲9は、ウェブサイトに掲載された資料の写しであるが、作成日や掲載日(公開日)等が明記されておらず、その内容が本件優先日前にウェブ上で公開されていたこと又は当業者に知られていたことを示す的確な証拠もない(申立人が甲9の発行日を明らかにする資料として提出した甲第9号証補足2には、「新医療機器」に関する申請資料の公表についての説明が記載されているが、「医薬品」に関する申請資料の公表時期については確認することができない)。そのため、甲9は本件優先日当時の技術常識を示す証拠として採用できない。
摘記箇所の下線は、当審合議体が付した。

1 甲1の記載事項

本件優先日前(2015年4月8日)に頒布された刊行物である甲1(中国特許出願公開第104491876号明細書)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は中国語であるため、申立人が提出した和訳文に当審合議体が加筆修正したものにより示す。

(摘記甲1a)
「1.以下の成分及び含量を含む点眼液:
塩酸エピナスチン 0.05?0.5%
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01?0.5%
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.01?0.05%
緩衝塩 適量
等張調節剤 適量
pH調節剤 適量
注射用水 100%まで加える
すべてのパーセントは重量パーセントである。」
(2頁、請求項1)

(摘記甲1b)
「[0003] 塩酸エピナスチン(Epinastine hydrochloride)は、第2世代の抗ヒスタミン薬であり、中枢鎮静作用及び抗コリン作用を伴わず、末梢H1受容体を選択的に阻害する。アレルギー性鼻炎、湿疹、蕁麻疹、皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、アレルギー性気管支炎等の治療に臨床的に用いられる。その臨床効果及び副作用は、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、クロルフェニラミン、セチリジン等その他の抗アレルギー薬よりも優れている。塩酸エピナスチンは、アレルギー性結膜炎に用いられ、かゆみや結膜充血の改善の治療効果が非常に良く、しかも眼表面の損傷やドライアイ症のリスクを増加させない。」
(3頁[0003])

(摘記甲1c)
「[0004] 塩酸エピナスチン点眼液(商品名:Elestat)は、米国Allergan社が研究開発し、2004年に国外で上市され、アレルギー性結膜炎の治療に用いられている。しかし、この点眼液は服薬後に涙液による希釈を受け、鼻涙管からの排泄等により薬液が外溢流失し、眼部のバイオアベイラビリティーは比較的に低く、作用時間も非常に短い。・・・・。
[0005] 以上をまとめると、当技術分野では、薬液の外溢流出を抑制し、薬物滞在時間を延長した、塩酸エピナスチン点眼液の開発が、切迫して求められている。
発明の内容
[0006] 上記問題に対し、申請人は、多大な研究を行い、最終的に、塩酸エピナスチン点眼液にヒアルロン酸ナトリウムを添加することにより、上記問題を解決できることを発見した。・・・・。また、ヒアルロン酸ナトリウムは塩酸エピナスチンと反対の電荷を持ち、イオン対を形成することによって薬物の眼部滞留を促進することができる。
[0007] 本発明の目的は、ヒアルロン酸ナトリウムを含有する塩酸エピナスチン点眼液を提供することであり、それは、点眼液の粘度を増加させ、眼部での薬物の滞留時間を延長し、それにより眼部での薬物のバイオアベイラビリティーを高めることができる。」
(3頁[0005]?[0007])

(摘記甲1d)
「[0012] 本発明における緩衝塩は、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液又はクエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液である。
[0013] 本発明における等張調整剤は、塩化ナトリウム及びグルコースの一つ又は複数である。
[0014] 本発明における適量のpH調整剤は、点眼液のpHを4.0?7.5とする。
[0015] 本発明における防腐剤は、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、メチルパラベン、又はサリチル酸エチル又はプロピルパラベンの一つ又は複数である。
[0016] 本発明におけるpH調整剤は、水酸化ナトリウム及び塩酸の一つ又は複数である。」
(4頁[0012]?[0016])

(摘記甲1e)
「[0018] 本発明の点眼液の用法用量: 各側一回1滴、一日2回。」
(4頁[0018])

(摘記甲1f)
「[0021] 実施例1 塩酸エピナスチン点眼液の調製
[0022] 100mLの注射用水中に以下を含む:
塩酸エピナスチン 50mg
ヒアルロン酸ナトリウム 10mg
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 50mg
リン酸二水素ナトリウム 0.68g
塩化ナトリウム 0.52g
水酸化ナトリウム又は塩酸 適量
塩化ベンザルコニウム 10mg
[0023] 調製方法: 注射用水中に、塩酸エピナスチン、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、塩化ベンザルコニウムを加えて溶解した後、さらに完全に膨潤したヒアルロン酸ナトリウム溶液を加え、均一に攪拌し、酸又は塩基を添加してpHを7.0に調節し、濾過して充填する。」
(4頁[0021]?5頁[0023])

(摘記甲1g)
「[0024] 実施例2 塩酸エピナスチン点眼液の調製
[0025] 100mLの注射用水中に以下を含む:
塩酸エピナスチン 50mg
ヒアルロン酸ナトリウム 100mg
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 50mg
リン酸二水素ナトリウム 0.68g
塩化ナトリウム 0.52g
水酸化ナトリウム又は塩酸 適量
塩化ベンザルコニウム 10mg
[0026] 調製方法: 実施例1の調製方法と同じ。」
(5頁[0024]?[0026])

(摘記甲1h)
「[0027] 実施例3 塩酸エピナスチン点眼液の調製
[0028] 100mLの注射用水中に以下を含む:
塩酸エピナスチン 50mg
ヒアルロン酸ナトリウム 200mg
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 50mg
リン酸二水素ナトリウム 0.68g
塩化ナトリウム 0.52g
水酸化ナトリウム又は塩酸 適量
塩化ベンザルコニウム 10mg
[0029] 調製方法: 実施例1の調製方法と同じ。」
(5頁[0027]?[0029])

(摘記甲1i)
「[0030] 実施例4 塩酸エピナスチン点眼液の粘度の測定
[0031] 実施例1、実施例2及び実施例3の点眼液の粘度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
[0032] 表1 塩酸エピナスチン点眼液の粘度

試料 実施例1 実施例2 実施例3
ヒアルロン酸
ナトリウムの 0.01% 0.1% 0.2%
含有量
粘度(mPa・S) 1.34 5.16 14.31

(5頁[0030]?6頁[0032])

(摘記甲1j)
「[0033] 実施例5 ウサギの眼涙液の薬理動態実験
[0034] 試料
[0035] 1)対照群: 塩酸エピナスチン点眼液の上市製剤(商品名:
Elestat);
実験群: 実施例1、実施例2、実施例3
[0036] 2)実験方法: 健康なニュージーランドホワイトラビット、雌、体重1.5?2.0kg、ランダムに4組に分け、各組3羽。それぞれのウサギの眼の結膜嚢内に点眼液50μLを点眼した。点眼後、15、30、60、90、120、180、240、360分に、毛細管を目蓋内に置いて涙液10μLを吸収し、プラスチック遠心管に入れ、メタノール90μLを添加して2分渦旋し、10000rpmで10分の遠心分離を行い、上清20μlを取り、HPLC分析にアプライし、塩酸エピナスチンの涙液濃度を計算した。統計モーメント法により計算した、薬物動態パラメータである薬時曲線下面積(AUC)及び平均滞留時間(MRT)について、データを表2に示す:
[0037] 表2 塩酸エピナスチン点眼液のウサギの涙液における薬物動態パラメータ

試料 対照群 実施例1 実施例2 実施例3
AUC(μg/ml・min) 平均 148.7 477.7 913.3 950.0
SD 61.0 136.5 372.5 493.5
MRT(min) 平均 27.4 40.2 43.5 43.7
SD 6.7 3.9 6.4 8.6

[0038] 結果は、すべての試験群が、対照群と比較して、AUC及びMRTに顕著な有意差(P<0.05)があり、試験群の実施例1、実施例2、実施例3のAUCは、それぞれ対照群のAUCの3.2倍、6.1倍、6.4倍であることを示した。このことは、ヒアルロン酸ナトリウムの添加が薬物の涙液中での滞留時間を延長し、それにより眼での薬物のバイオアベイラビリティーが高まることを明示している。」
(6頁[0033]?[0038])

2 甲2の記載事項

本件優先日前(2007年9月19日)に頒布された刊行物である甲2(中国特許出願公開第101036659号明細書)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は中国語であるため、申立人が提出した和訳文に当審合議体が加筆修正したものにより示す。

(摘記甲2a)
「1.0.05?1.0重量%の塩酸エピナスチン及び他の賦形剤の組成による、軟膏剤、クリーム剤、又はゲル剤であることを特徴とする、塩酸エピナスチン製剤。
2.塩酸エピナスチンの含有量が、0.05%、0.1%、0.2%、0.4%、0.5%、1.0%であることを特徴とする、権利要求1に記載のの塩酸エピナスチン製剤。
3.人体の眼用の外用の用途を含み得る、権利要求1又は2に記載の塩酸エピナスチン製剤。」
(2頁、請求項1?3)

(摘記甲2b)
「アレルギー性眼疾患は最もよく見られる眼表面の疾患の一つであり、そのうちアレルギー性結膜炎は最もよく見られる類型である。」
(3頁下4?3行)

(摘記甲2c)
「現在、アレルギー症状の治療のために眼科で臨床的に用いられる薬物には多くの種類があるが、剤形は比較的に単一であり、大多数は点眼液である。人間の眼の結膜嚢の容積的な制限と眼の解剖学的な特徴のため、眼の結膜嚢に滴入された薬物は、涙で速やかに希釈され、且つ鼻眼管から排出されて、眼表面の薬物濃度は急速に低下するため、局所の薬物の治療濃度を維持するためには、頻繁に薬物を用いる必要がある。」
(5頁12?16行)

(摘記甲2d)
「本発明の目的は、副作用が大きく、毒性が強く、点眼液を頻繁に使用する等の欠点がある、従来の抗アレルギー薬の技術的問題を解決する、塩酸エピナスチン製剤及びその製造方法を提供することである。」
(5頁下6?4行)

(摘記甲2e)
「本発明の塩酸エピナスチン製剤は改良剤型であり、この塩酸エピナスチン製剤は以下の積極的な効果を有する:(1)本発明の塩酸エピナスチン製剤は、軟膏剤、クリーム剤、又はゲル剤であり、これらは、親油性基質、親油親水性基質、又は親水性基質から構成されており、薬物は全て容易に吸収され、バイオアベイラビリティーが高い。(2)他の眼科用製剤と比較して、本発明は比類のない利点を有する: 点眼液と比較して、本発明は涙に希釈されにくく、眼内滞留時間が長く、薬物の充分な吸収と利用に有利であり、長効製剤に属する。(3)本発明は、目蓋と眼球との摩擦を軽減することができ、角膜損傷の治癒に役立つ; 夜間は点眼回数を減少して使用し薬効を維持できる; 点眼液を使用すべきでない患者に適している。」
(6頁下7行?7頁2行)

(摘記甲2f)
「実施例1
この塩酸エピナスチン製剤の成分及び含有量は次のとおり:
塩酸エピナスチン 0.05g
ワセリン 80g
流動パラフィン 10g
ラノリン 9g
純水 1g
この塩酸エピナスチン製剤の調製方法: 上記実施例1の眼用製剤の成分及び含有量に応じて、純水中に塩酸エピナスチンを加えて溶解させた後に、少量の事前によく混合したワセリン-流動パラフィン-ラノリンの軟膏基剤を添加して、均一に磨砕し、再び残りのワセリン-流動パラフィン-ラノリンの軟膏基剤を添加し、均一に混合し、滅菌し、分装して完成品を得る。」
(7頁7?18行)

(摘記甲2g)
「実施例2
この塩酸エピナスチン製剤の成分及び含有量は次のとおり:
塩酸エピナスチン 0.1g
ワセリン 80g
流動パラフィン 9.9g
ラノリン 9g
純水 1g
この塩酸エピナスチン製剤の調製方法は、実施例1の調製方法と同じである。」
(7頁下5行?8頁3行)

(摘記甲2h)
「実施例7
この塩酸エピナスチン製剤の成分及び含有量は次のとおり:
塩酸エピナスチン 0.1g
EDTA 0.05g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 6g
臭化ベンザルコニウム 0.01g
純水 100gまで加える
この塩酸エピナスチン製剤の調製方法: 少量の純水中に塩酸エピナスチンを加えて溶解した後に、予め十分にゲル基剤中に溶解したEDTA、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び臭化ベンザルコニウムを添加し、均一に混合し、滅菌し、分装して完成品を得る。」
(9頁下3行?10頁7行)

(摘記甲2i)
「実施例8
この塩酸エピナスチン製剤の成分及び含有量は次のとおり:
塩酸エピナスチン 0.05g
EDTA 0.05g
臭化ベンザルコニウム 0.01g
カルボマー 0.4g
水酸化ナトリウム 適量
純水 100mlまで加える
この塩酸エピナスチン製剤の調製方法: 予め少量の純水中に塩酸エピナスチンを加え溶解させる。残余の純水中にEDTAを加えて溶解させた後、続いて臭化ベンザルコニウム、カルボマーを加えて溶解させ、放置分散又は高速攪拌分散させ、カルボマーが完全な分散した後、水酸化ナトリウムを加え中性にする。予め十分に溶解させておいた塩酸エピナスチン溶液を加え、均等に攪拌混合した後、脱気し、分装して完成品を得る。」
(10頁8?20行)

(摘記甲2j)
「実施例9
この塩酸エピナスチン製剤の成分及び含有量は次のとおり:
塩酸エピナスチン 0.1g
EDTA 0.05g
β-フェネチルアルコール 0.5g
複合乳化剤(GD-9122) 7g
流動パラフィン 10g
ワセリン 5g
グリセロール 15g
純水 100mlまで加える
この塩酸エピナスチン製剤の調製方法: (1)予め処方量の塩酸エピナスチンを少量の純水に溶解させる。(2)それぞれ別の一つの適切な容器内に処方量の各A相補助材料(純水、EDTA、グリセロール)を秤取し、攪拌下で75?80℃まで加熱して全溶させ、保温しておく。(3)それぞれ処方量の各B相補助材料(複合乳化剤(GD-9122)、ワセリン、流動パラフィン)を秤取し、適切な容器内に入れ、撹拌下で75?80℃に加熱して全溶させ、保温しておく。(4)撹拌下でA相をB相中にゆっくり加え、75℃に保温し10分間乳化させる。10分間均質化させ温度を下げる。(5)緩速撹拌下で50℃まで温度を下げ、β-フェネチルアルコール及び塩酸エピナスチン溶解液を加え、中間製品を得る。均一に攪拌する。(6)中間製品は、品質検査を経て、合格後に分装し、包装された完成品を得た。」
(10頁下4行?11頁15行)

3 甲3の記載事項

本件優先日前(2016年9月15日)に頒布された刊行物である甲3(「コンタクトレンズ装用者におけるアレルギー性結膜炎に対するBAK非含有エピナスチン塩酸塩点眼液の臨床効果」,アレルギー・免疫,Vol.23,No.10,2016,1390-1397頁)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲3a)
「アレルギー性結膜炎に有効とされるエピナスチン塩酸塩点眼液は,2014年12月に防腐剤のベンザルコニウム塩化物(benzalkonium chloride:BAK)を含まない処方に変更され,添付文書のコンタクトレンズ(contact lens:CL)装用時の点眼に関する注意事項が削除され,CLを装用したままでの適用が想定される。そこで今回,CL装用中のアレルギー性結膜炎患者に対するBAK非含有エピナスチン塩酸塩点眼液の臨床効果について検討した。」
(1390頁右欄5?14行)

(摘記甲3b)
「点眼液に添加される代表的な防腐剤であるBAKはウサギ培養角結膜上皮細胞を用いた実験で,細胞障害性が報告され^(3),4)),点眼治療時の角結膜上皮に及ぼす毒性が懸念されている。またBAKはソフトCLに吸着することがあるため,ソフトCL装用者がBAK含有点眼液を使用する場合にはCLを外してから点眼し,一定時間経過した後に再装用すべきことが添付文書の使用上の注意に記載されている。」
(1394頁左欄2?10行)

(摘記甲3c)
「2.試験方法
BAK非含有エピナスチン塩酸塩点眼液(アレジオン^((R))点眼液0.05%,参天製薬)1回1滴,1日4回両眼に8週間CL装用上から点眼し,試験開始前(0週),4週(3?6週),8週(6?10週)または試験中止時に評価した。・・・・。」
(1391頁左欄下2行?右欄4行、当審注:「^((R))」は○内にRを示す。)

(摘記甲3d)
「CL装用上からの点眼により眼掻痒感,結膜充血,角結膜染色スコアは有意に改善し,既報と同様の臨床効果を認めた。またCL装用上から点眼する治療法は患者満足度が高く,CL装用時間も延長し罹患前と同等に戻った。さらにCLフィッティングへの影響を認めず,角結膜上皮障害等の有害事象もなく安全性に問題はなかった。」
(1390頁「Summary」3?6行)

4 甲4の記載事項

本件優先日前(2016年3月10日)に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったウェブサイトの掲載記事である甲4(「ソフトコンタクトの上から点眼可能な抗アレルギー点眼薬」,全国の薬剤師でつくる薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」,2016年3月10日付記事)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲4a)
「基本的には主治医の判断になりますが、ソフトコンタクトレンズと点眼液で問題になるのが、点眼液の防腐剤『ベンザルコニウム塩化物』による角膜障害です。
防腐剤である『ベンザルコニウム塩化物』をソフトコンタクトレンズが吸着することによって、レンズが触れている角膜に障害が起こることが報告されています。
ほとんどの抗アレルギー点眼薬は防腐剤である『ベンザルコニウム塩化物』を含有するため、ソフトコンタクトレンズを外して点眼することになっていますが、アレジオン点眼液については『ベンザルコニウム塩化物』が含有されていないため、ソフトコンタクトレンズの上から点眼がOKとなっています。」
(甲4の1頁)

(摘記甲4b)
「アレジオン点眼液0.05%(エピナスチン塩酸塩)とコンタクトレンズ

2014年12月に防腐剤のベンザルコニウム塩化物をホウ酸に変更したことから全てのコンタクトレンズの上から使用がOKとなっています。」
(甲4の3頁)

5 甲5の記載事項

本件優先日前(2012年9月10日)に頒布された刊行物である甲5(「アレルギー性結膜炎患者を対象としたオロパタジン塩酸塩点眼液0.2%の1日2回,10週間投与における安全性および有効性の検討」,日本眼科學會雜誌,116巻,9号,869-879頁,2012年9月)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲5a)
「結論:オロパタジン点眼液0.2%は,概して安全で忍容性が高く,両眼1回2滴,1日2回点眼はアレルギー性結膜炎患者に対して有効で,眼アレルギー治療の新しい有用な選択肢であることが示された.」
(869頁「要約」右欄7?10行)

(摘記甲5b)
「・・・・.特にオロパタジン塩酸塩は,ヒスタミン受容体(特にH_(1)受容体に対する親和性が高い)に対して競合的に拮抗し,・・・・アレルギー性の炎症反応を減少させる,マルチアクションを有する化合物であることが分かっている^(9)).オロパタジン点眼液0.1%(パタノール^((R))点眼液0.1%)(以下,オロパタジン点眼液0.1%),ならびにオロパタジン点眼液0.2%(パタノール^((R))EX点眼液0.2%)(以下,オロパタジン点眼液0.2%)は,日本においてアレルギー性結膜炎の治療薬として承認されている.オロパタジン点眼液0.2%は,オロパタジン点眼液0.1%と同様の有効性及び安全性プロファイルを有するが,オロパタジン点眼液0.1%の用法用量は1回1?2滴,1日4回であるのに対し,オロパタジン点眼液0.2%の用法用量は1回1?2滴、1日2回で承認されており,オロパタジン点眼液0.1%に比べて投与回数が少ないため,利便性が高い.」
(870頁左欄下21?4行。当審注:「^((R))」は○内にRを示す。)

6 甲6の記載事項

本件優先日前(2010年8月)に頒布された刊行物である甲6(チモロール点眼液T0.25%及びT0.5% 添付文書,2010年8月改訂(第8版))には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲6a)



(1頁左欄)

(摘記甲6b)
「【薬物動態】
<生物学的同等性試験>
(参考)
ウサギにおける眼房水内移行^(1))
チモロール点眼液T0.25%と標準製剤(点眼剤、0.25%)について、ウサギ眼に点眼し、眼房水中チモロール濃度を測定したところ、両剤の点眼30分後の眼房水中チモロール濃度に有意な差は認められず、両剤の生物学的同等性が確認された。
また、チモロール点眼液T0.5%と標準製剤(点眼剤、0.5%)について、同様の試験を実施した結果、両剤の点眼30分後の眼房水中チモロール濃度に有意な差は認められず、両剤の生物学的同等性が確認された。


(2頁左欄下12行?右欄)

7 甲7の記載事項

本件優先日前(2006年5月11日)に頒布された刊行物である甲7(国際公開第2006/049250号)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲7a)
「[0008] 一方、トロメタモールなどの有機アミンは眼科において緩衝剤として用いられる。また、トロメタモールなどの有機アミンは点眼液の安定化、可溶化、刺激の低下、防腐効力の向上のためにも用いられる。・・・・。」

(摘記甲7b)
「発明が解決しようとする課題
[0011] 本発明は、点眼後に2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸もしくはその薬理学的に許容できる塩またはそれらの水和物の眼内移行性が促進され、かつ炎症性疾患を治療するために有効な濃度の2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸が前房水中に維持される1日1回点眼型水性点眼剤を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0012] 本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸もしくはその薬理学的に許容できる塩またはそれらの水和物に有機アミンまたはそれらの塩を配合して得られる水性点眼剤を1日1回点眼投与することにより、2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸の眼組織への移行性が促進され、かつ当該化合物の治療有効濃度を点眼後少なくとも24時間にわたり前房水中に維持させ得ることを見出し、本発明の完成に至った。」

(摘記甲7c)
「[0035] 実験例1 房水内移行性試験
トロメタモールおよびアミノエチルスルホン酸を用いて下記処方(表1)の2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸ナトリウムの房水内移行性試験を行った。
[0036] 1.試験物質
表1の処方1?3の点眼剤を調製し、使用した。
[0037][表1]

[0038] 2.試験方法
角膜に異常のないウサギ(北山ラベス)を選定し、ピペットを用いて各試験物質(処方1?3の点眼剤)を50μL、1回点眼投与した(n=5)。点眼投与2時間後にペントバルビタールナトリウム溶液の過剰投与によりウサギを安楽死させた。生理食塩水で外眼部を洗浄後、27G注射針付きシリンジを用いて房水を採取した。採取した房水160μLに下記の前処理・濃縮用移動相を160μL加え混合し、メンブランフィルター(0.45μm)でろ過した。ろ液をHPLC測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフ(資生堂 NanospaceSI-1)を使用して、下記HPLC条件で2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸濃度を測定した。
[0039]
・・・・
[0041] 3.結果
処方1の点眼剤(有機アミン無添加)においては、点眼2時間後の房水中2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸濃度は214±46(ng/mL)となった。一方、トロメタモール含有処方(処方2の点眼剤)、アミノエチルスルホン酸含有処方(処方3の点眼剤)の点眼2時間後の房水中2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸濃度は、それぞれ、260±45(ng/mL)、350±123(ng/mL)であった(表3)。点眼2時間後の房水中2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸濃度は処方1の点眼剤と比較して、トロメタモール含有処方では約1.2倍、アミノエチルスルホン酸含有処方では約1.6倍増加した。
[表3]

[0042] 以上のことから、有機アミンであるトロメタモールおよびアミノエチルスルホン酸を添加することで、2-アミノ-3-(4-ブロモベンゾイル)フェニル酢酸の房水内移行性は顕著に増加することが分かった。」

8 甲8の記載事項

本件優先日前(平成24年12月13日)に頒布された刊行物である甲8(特表2012-532091号公報)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲8a)
「【請求項1】
ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、前記点眼薬組成物のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法。
【請求項2】
前記有機アミンは、ヒドロキシ基を有する有機アミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロキシ基を有する前記有機アミンは、トロメタモールである、請求項2に記載の方法。」

(摘記甲8b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
・・・・、したがって本発明の目的は、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、防腐剤フリーの点眼薬組成物中のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法を提供することである。」

(摘記甲8c)
「【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、水性点眼薬組成物中のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させることができることがわかった。本発明は、無菌の、好ましくは単位用量タイプの処方として、均質な、安定性のある、防腐剤フリーの眼科用ラタノプロスト水溶液を提供できる。・・・・。」

9 甲10の記載事項

本件優先日前(2016年1月15日)に頒布された刊行物である甲10(「エピナスチン塩酸塩点眼液ベンザルコニウム塩化物(BAK)フリー製剤のスギ花粉の抗原溶出に対する影響」,アレルギー・免疫,Vol.23,No.2,2016,286-292頁)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲10a)
「我々は in vitro 試験において涙液がスギ花粉粒子を破裂させ,花粉抗原を溶出し易くすることを報告した^(4))。また,ヒスタミンH^(1)受容体拮抗薬であるレボカバスチン塩酸塩点眼液とオロパタジン塩酸塩点眼液は,涙液に比べてスギ花粉破裂が抑制されることやレボカバスチン塩酸塩点眼液においてはCryj1の溶出量が涙液に比べて少ないことを報告した^(4))。」
(286頁左欄下2行?右欄6行)

(摘記甲10b)
「2014年12月より,エピナスチン塩酸塩点眼液は従来のBAK配合製剤からBAKに代わりホウ酸を配合したBAKフリー製剤に変更された。その変更により,エピナスチン塩酸塩点眼液のBAKフリー製剤ではスギ花粉からの抗原溶出に及ぼす影響が従来製剤と異なる可能性が考えられた。
そこで本研究では,エピナスチン塩酸塩点眼液BAKフリー製剤のスギ花粉からの抗原の溶出およびスギ花粉破裂に対する影響を,in vitro 評価系で検討した。」
(287頁左欄4?14行)

(摘記甲10c)
「2.スギ花粉外壁破裂に及ぼす点眼液の影響
点眼液処置5分および10分後のスギ花粉の破裂率を図2に示した。エピナスチン塩酸塩点眼液の従来製剤,BAKフリー製剤およびオロパタジン塩酸塩点眼液のいずれの群でも経時的に花粉の破裂が進行した。エピナスチン塩酸塩従来製剤およびBAKフリー製剤の処置5分および10分後の破裂率はいずれも,オロパタジン塩酸塩点眼液群と比較して有意に低値を示した。また,エピナスチン塩酸塩点眼液BAKフリー製剤群の破裂率は,処置10分後には従来製剤群と比較しても優位に低値を示した。


(289頁左欄下3行?右欄9行、図2)

10 甲11の記載事項

本件優先日前(1996年10月15日)に頒布された刊行物である甲11(「スギ花粉からの主要抗原溶出に対する鼻汁の影響-In vitroにおける抗原溶出に影響を与える諸因子について-」,耳鼻咽喉科展望,39巻,5号,483?495頁,1996年)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲11a)
「ついで,花粉外壁の破裂に対する物理化学的影響について検索するために,0.1MPBSを溶媒としてpHあるいは温度条件を変えてスギ花粉(10mg/ml)と反応させた。図5に示すように,脱イオン蒸留水あるいはpH3のPBSではほとんど花粉外壁の破裂が認められないのに対し,pH7.2では著明に破裂率が増加し,pH8.0の場合はさらに破裂の亢進がみられた。そこで,PBSを構成する各塩類をそれぞれ脱イオン蒸留水により0.1Mに調整しスギ花粉を添加したところ,スギ花粉添加5分後の破裂率はpH8.8のNa_(2)HPO_(4)溶液で著明な増加が認められた(表2)。」
(486頁右欄下19?8行)

(摘記甲11b)



(487頁「図5」)

(摘記甲11c)



(488頁「表2」)

11 甲12の記載事項

本件優先日前(2016年6月)に頒布された刊行物である甲12(「New Role for FDA-Approed Drugs in Combinating Antibiotic-Resistant Bacteria」,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,Vol.60,No.6,PP.3717-3729,June 2016)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、申立人が提出した和訳文に当審合議体が修正したものにより示す。

(摘記甲12a)
「医学関連の細菌性病原体の抗生物質耐性は、新規抗菌薬の発見の不足と相まって、差し迫った世界的な危機を示している。従来の医薬発見は非効率的で費用のかかるプロセスであった。しかし、ヒトにおける他の適応症に対する食品医薬局(FDA)承認済みの治療薬の体系的なスクリーニングは、迅速な代替アプローチを提供する。本研究では、780のFDA承認薬のライブラリをスクリーニングし、非常に毒性の高いペスト菌CO92株によって誘導される細胞毒性に対して RAW 264.7 マウスマクロファージを耐性にする分子を特定した。これらの化合物のうち、ペスト菌による細胞毒性の予防に有効であるとして、抗生物質として分類されていない94を特定した。in vitroでの有効性をin vivoに翻訳できるかどうかを線引きするために、肺ペストのマウスモデルでのさらなる評価に向けて、in vitroスクリーニングでの有効性に基づき、合計17の優先薬を選択した。」
(3717頁「要約」1?8行)

(摘記甲12b)


図1 12時間の感染の後に、MTTアッセイによりマクロファージの生存率を評価するため、宿主細胞ベースのハイスループットスクリーニングを使用して特定された、第1階層(ティア1)の処置後の薬物。薬物処理(33μM)されて感染したマクロファージ(灰色)は、非感染マクロファージ(細菌なし)と同等の生存率を示し、薬物処理されていない感染したマクロファージ(黒色)よりも有意に高い生存率を示した。データは、感染していないマクロファージに対するパーセンテージとしてプロットしており、Tukeyの事後検定を用いた2-way ANOVAにより分析した。」
(3720頁左欄「図1」及びその説明)

12 甲13の記載事項

本件優先日前(平成24年2月22日)に頒布された刊行物である甲13(特許第4880808号公報)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲13a)
「【0004】
特に人工涙液型点眼剤の場合、人の涙液の成分に合わせるため無機成分が主な有効成分として配合される。しかし無機成分はいずれも食塩価が高いため、ホウ酸とホウ砂のような食塩価の高い緩衝剤を使用すると浸透圧が高くなりすぎ、人の涙に近い無機イオン組成にすることは困難であった。
一方、点眼剤のpHを安定に維持するためにリン酸水素ナトリウムをリン酸二水素ナトリウムなどと組み合わせて、リン酸緩衝液として用いる例があるが、これはホウ酸とホウ砂の緩衝剤でみられた食塩価の問題があることに加えて、リン酸イオンが多くなりすぎることにより人の涙液の組成に近づけることができないといった問題もある。」

13 甲14の記載事項

本件優先日前(2014年11月)に頒布された刊行物である甲14(アレジオン点眼液0.05% 処方変更、使用上の注意改訂、投薬期間制限解除、使用期限延長 のお知らせ)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲14a)
「アレジオン^((R))点眼液0.05%
・・・・。
このたび、標記製品につきまして、下記のとおり変更いたしますのでお知らせ申し上げます。
・・・・。

■処方変更
次のとおり添加物を変更します。
なお、pH、浸透圧比および性状の変更はありません。
旧 添加物 新 添加物
リン酸二水素ナトリウム リン酸二水素ナトリウム
リン酸水素ナトリウム
ベンザルコニウム塩化物液 ホウ酸
塩化ナトリウム 塩化ナトリウム
エデト酸ナトリウム水和物 エデト酸ナトリウム水和物
pH調節剤 pH調節剤
■使用上の注意改訂
処方変更品はベンザルコニウム塩化物を含有しないため、関連の注意事項の削除の伴い、「使用上の注意」を次のとおり改訂します。
改 訂 前 改 訂 後
1.重要な基本的注意 1.重要な基本的注意
1)本剤はベンザルコニウム 番号繰り上げ、現行どおり。
塩化物を含有するため、
含水性ソフトコンタクト
レンズ装用時の点眼は
避けること。[「適用上
の注意」の項参照]
2)現行どおり
5.適用上の注意 5.適用上の注意
1)投与経路:現行どおり 1)投与経路:現行どおり
2)投与時: 2)投与時:
(1)?(3)現行どおり (1)?(3)現行どおり
(4)本剤に含まれている
ベンザルコニウム塩化物は
ソフトコンタクトレンズに
吸着されることがあるので、
ソフトコンタクトレンズを
装用している場合には、
点眼前にレンズを外し、
点眼5分以上経過後に
再装用すること。
■投薬期間制限解除
投薬期間制限^(※)解除日 2014年12月1日
・・・・。」
(1頁。当審注:「^((R))」は○内にRを示す。)

14 甲15の記載事項

本件優先日前(2000年4月28日)に頒布された刊行物である甲15(日本医薬品添加剤協会編,「医薬品添加物事典2000」,2000年4月28日発行,株式会社薬事日報社,43頁「塩化ナトリウム」の項)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲15a)
「塩化ナトリウム
・・・・
【用途】 安定(化)剤,可溶化剤,緩衝剤,基剤,矯味剤,懸濁(化)剤,
等張化剤,賦形剤
・・・・」
(43頁右欄)

15 甲16の記載事項

本件優先日前(2003年)に頒布された刊行物である甲16(「Animal models of allergic and inflammatory conjunctivitis」,Allergy,Vol.58,PP.1101-1113,2003)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、申立人が提出した和訳文に当審合議体が修正したものにより示す。

(摘記甲16a)
「種
これまで、様々な抗原を用いた眼アレルギーの動物モデルの確立のために主に3つの異なる実験動物種が用いられてきた。異なる方法論的アプローチを区別するため、モデルを結膜炎のIgE媒介モデルと非IgE媒介モデルとして特徴づけることが有用である(表1)。」
「表1.炎症性およびアレルギー性結膜炎の実験モデル
種 IgE/非IgE 抗原 研究対象 例
モルモット IgE オボアルブミン 薬理学、病態 37
ブタクサ 生理学、神経 50
日本スギ花粉 生理学 51,52
非IgE ハプテン 53
化合物48/80 47
ラット IgE オボアルブミン 薬理学、病態 61
ブタクサ 生理学、免疫学 78,79
非IgE ハプテン 70
化合物48/80 85
マウス IgE オボアルブミン 免疫学、遺伝学 110
ブタクサ 99
猫フケ抗原 106,107
非IgE - - - 」
(1103頁左欄5?11行、同頁「Table 1」)

(摘記甲16b)
「モルモット
・・・・
IgE媒介モデル。
・・・・
モルモットの研究のほとんどは、抗原としてオボアルブミンを用いて行われてきたが、最近、モルモットモデルの効果的な感作物質として他の2つのアレルゲンが進展してきた: 局所結膜及び鼻の感作に次いで、他の動物モデルよりも自然にヒト花粉症結末炎を模倣することが証明されているブタクサへの挑戦であり(50)、日本スギ花粉は、最近、アレルギー性結膜炎のモルモットモデルにおいて感作性アレルゲンとされてきている(51,52)。
非IgE媒介モデル。
アレルギー性結膜炎のIgE媒介モデルの次に、結末炎の非IgE媒介モルモットモデルも用いられている。用いられた最も一般的な分子はハプテンであった。ある研究では、モルモットの結膜を、ジニトロフェノールキャリアに対するIgG1抗血清で感作し、パプテンで局所的に攻撃した。眼窩周囲腫張、結膜の浮腫及び発赤、並びに涙液細胞診を評価し、0.5時間にピークを抑える初期反応(EPR)、及び、5.7時間にピークを抑える後期反応(LPR)が発見された。眼窩周囲腫脹は、EPRの出現後4時間で最小であり、結膜の浮腫及び発赤は初期及び後期の両方で増加した。涙液細胞診では、後期に好中球と好酸球の異常な増加が示された(53)。非IgEを介した能動免疫による同様のプロトコルは、他の研究でも報告された(39,54)。他の非IgE媒介プロトコルは、化合物48/80を使用して結膜炎を誘発する(44,47)」
(1103頁左欄12行、同頁左欄22行、1105頁左欄14?42行)

16 甲17の記載事項

本件優先日前(2005年10月13日)に頒布された刊行物である甲17(特開2005-278533号公報)には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲17a)
「【0004】
また、モルモットアレルギー性結膜炎モデルも報告されている(非特許文献2)。しかし、この方法は、スギ花粉を粉末の状態で噴霧して症状を誘発させるため、均一な症状の誘発には多量のスギ花粉が必要であり、得られるモルモットのアレルギー性結膜炎の症状が強すぎるために、アレルギー性結膜炎用点眼薬の評価を正しく行うことができない。
【0005】
・・・・。
【0006】
・・・・
【非特許文献2】アレルギー,Vol.35,NO.12,1149-1157,1986」

(摘記甲17b)
「【実施例】
【0025】
本発明を具体的に説明する。
<試験例1>
(実験的アレルギーモデルの作製とスギ花粉投与量の影響)
Hartley系モルモット(日本エスエルシー,静岡)1群6匹に7日間間隔で2回、1mLあたりスギ花粉抽出物10μgおよび水酸化アルミニウム20mgを含有する水溶液を腹腔内投与した。腹腔内投与終了1週間後から1週間に1回の割合で3回、スギ花粉2mg生食懸濁液10μLを前眼部に点眼して感作は終了し、アレルギー性結膜炎モルモットを得た。次に、スギ花粉量をそれぞれ0.02mg、0.2mg、0.5mg、2mg点眼したときの結膜炎症状のスコアーの変化を図1に示す。
・・・・
惹起花粉量が多いほど症状のスコアーが高く、結膜炎症状の程度は強かった。0.02mgでは結膜炎症状が十分でなく、点眼薬の評価に利用できないことが分かった。
【0026】
<試験例2> 結膜炎症状の評価
試験例1で作成したアレルギー性結膜炎モルモットは、スギ花粉懸濁液点眼後30分後をピークに結膜炎症状によるスコアーの変化が見られた。このモルモットに、スギ花粉投与後1分後に薬物としてマレイン酸クロルフェニラミン0.03%生食溶液を片眼10μL両眼に投与した。この薬物濃度は通常ヒトに適用する薬物濃度である。比較対照群には薬物非点眼または生理食塩水を同様に投与した。スギ花粉投与から30分後から6時間後までの結膜炎症状をスコアー判定した。実験の結果は表1に示す。薬物投与群は結膜炎症状が抑制されているのに対し、対照群の結膜炎症状は回復するのに時間を要した。2mg投与したモルモットは、結膜炎の著しい症状が見られ、ヒトに投与する量の薬物濃度の点眼薬を投与しても効果が見られず、薬効評価には利用できなかった。
表1
・・・・
【0027】
本評価方法は点眼薬の結膜炎症状改善効果を測定できる優れた評価方法であることがわかった。」

第6 申立ての理由についての当審の判断

当審合議体は、前記第3の1に示した、申立人が申し立てている本件特許を取り消すべき理由1?3は、いずれも理由がないと判断した。以下、その判断の理由を説示する。

1 申立ての理由1(進歩性欠如)について

申立人は、本件発明1?7の点眼剤は、甲1に記載された発明の点眼剤とは、塩化ベンザルコニウムを含有しないものである点で相違するが、甲2に記載された事項及び/又は周知技術を参照すれば、甲1に記載された発明の点眼剤において、当該成分を含有しないものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、本件発明1?7は、甲1に記載された発明、並びに甲2に記載された事項及び/又は周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張している。

(1)甲1に記載された発明

甲1には、前記第5の1で認定したとおり、摘記甲1a?摘記甲1jの事項が記載されているところ、実施例1(摘記甲1f)の点眼液において、塩酸エピナスチンがアレルギー性結膜炎治療用の有効成分であることは、摘記甲1b?摘記甲1cの記載からみて明らかであり、50mgの塩酸エピナスチンが100mL中に含まれているから、その濃度は0.05%(w/v)であり、また、同実施例1の点眼液には、0.68mgのリン酸二水素ナトリウムが100mL中に含まれているところ、これを体積モル濃度に換算すると、リン酸二水素ナトリウムの分子量は119.98g/molであるから、0.0567体積モル濃度(mol/L)となる({0.68(g)/119.98(g/mol)}×{1000(mL)/100(mL)}≒0.0567(mol/L))。
そして、同実施例1の点眼液には、摘記甲1dの[0013]及び[0015]の記載によれば、塩化ナトリウムが等張調整剤として配合されており、塩化ベンザルコニウムが防腐剤として配合されているものと認められる。
また、摘記甲1eの記載からみて、上記実施例1の点眼液の用法用量は、各側一回1滴、一日2回、とすることが意図されているものと認められる。

そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

≪甲1発明≫
「有効成分として0.05%(w/v)の濃度の塩酸エピナスチン、0.0567体積モル濃度のリン酸二水素ナトリウム、及び、等張調整剤としての塩化ナトリウムを含有する、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、防腐剤としての塩化ベンザルコニウムを含有する、各側一回1滴、一日2回、点眼されるように用いられる、以下の組成を有する点眼剤:
100mLの注射用水中に以下を含む:
塩酸エピナスチン 50mg
ヒアルロン酸ナトリウム 10mg
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 50mg
リン酸二水素ナトリウム 0.68g
塩化ナトリウム 0.52g
水酸化ナトリウム又は塩酸 適量
塩化ベンザルコニウム 10mg 」

なお、申立人は、甲1の請求項1(摘記甲1a)に、「0.05?0.5%」の塩酸エピナスチンを含有する点眼液が記載されていることを根拠として、このような範囲は連続数であるから、甲1には、塩酸エピナスチンの濃度が「0.1%(w/v)」の点眼液も記載されている旨を主張している(申立書3頁下2?1行)。
しかしながら、甲1の請求項1(摘記甲1a)に記載されているのは、あくまでも「0.05?0.5%」という範囲で示された数値であり、このような範囲を持った数値の記載のみから、「0.1%(w/v)」という特定の具体的な数値を選び出し、当該特定の具体的な数値が記載されていると認定することはできないため、申立人の上記主張は採用できない。

(2)本件発明1について

本件発明1は、前記第2で認定したとおりであり、以下、再掲する。

「有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有せずに、1眼あたり1滴または2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。」

ア 本件発明1と甲1発明との対比

本件発明1と、前記(1)で認定した甲1発明とを、対比する。

甲1発明の「塩酸エピナスチン」は、「エピナスチン塩酸塩」と同義であり、本件発明1の「エピナスチン又はその塩」に相当し、甲1発明の「リン酸二水素ナトリウム」は、本件発明1の「リン酸又はその塩」に相当する。 また、甲1発明の「各側一回1滴、一日2回、点眼される」は、本件発明1の「1眼あたり1滴または2滴を1回として1日2回点眼される」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との間には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。

<一致点>
「有効成分としてエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、1眼あたり1滴または2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられる、点眼剤。」

<相違点1>
本件発明1は「塩化ベンザルコニウムを含有せず」とされているのに対して、甲1発明は「防腐剤としての塩化ベンザルコニウムを含有する」とされている点。

<相違点2>
エピナスチン又はその塩の濃度が、本件発明1は「0.1%(w/v)」であるのに対し、甲1発明は「0.05%(w/v)」である点。

イ 本件発明1と甲1発明との相違点についての判断

上記相違点1及び2について検討する。

(ア)相違点1について

甲1発明の点眼剤に添加されている防腐剤としての「塩化ベンザルコニウム」(以下「BAK」と表記することがある。)は、点眼治療時の角結膜上皮に及ぼす毒性が懸念されており、ソフトコンタクトレンズ(ソフトCL)に吸着することがあるため、ソフトCL装用者がBAK含有点眼液を使用する場合には、CLを外してから点眼し、一定時間経過した後に再装用すべきことが添付文書の使用上の注意に記載されていることが、本願優先日前に当業者に周知であったと認められる(摘記甲3b、摘記甲4a、摘記甲14a)。
そして、エピナスチン塩酸塩を有効成分とするアレルギー性結膜炎治療用点眼剤において、防腐剤としてホウ酸を用いることによって、BAKを含有しない処方に変更し、ソフトCLを装用したまま点眼可能とされた例が、甲4、甲10、甲14に記載されており、本件優先日前に既に当業者に知られていた(摘記甲4b、摘記甲10b、摘記甲14a)。
そうすると、甲1発明の点眼剤においても、含有するBAKが角結膜上皮に及ぼす毒性を回避し、ソフトCL装用眼への点眼を可能とすることは、当業者ならば自然に検討する課題といえるから、当該課題の解決のために、防腐剤としてBAKに代えてホウ酸を添加するという、甲4、甲10、甲14に記載された技術手段を採用し、塩化ベンザルコニウムを含有しない点眼剤とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、申立人は、甲2に、塩化ベンザルコニウムを含まないアレルギー性結膜炎の治療に有用な0.1重量%エピナスチン含有製剤(摘記甲2a、摘記甲2b、摘記甲2f?摘記甲2j)が記載されていることを根拠として、甲1発明の点眼剤において、塩化ベンザルコニウムを含有しない構成とすることは、当業者が容易に想到し得た旨を主張している(申立書4頁15行?5頁5行)。
しかしながら、甲2に記載された上記塩酸エピナスチン製剤は、点眼液ではなく、軟膏剤、クリーム剤、又はゲル剤という、全く異なる剤形であり、これらの剤形では、成分の大部分が水であり微生物汚染対策が必要な点眼液と同様の対応は必ずしも求められないうえ、甲2においては、点眼による投与は否定的な位置付けとされているから(摘記甲2a、摘記甲2c?摘記甲2e)、甲2に塩化ベンザルコニウムを含有しないエピナスチン含有製剤が記載されていても、当該構成を異なる剤形の甲1発明の点眼剤に適用できるとはいえない。

(イ)相違点2について

甲1の請求項1(摘記甲1a)には、甲1発明を包含する上位概念で示された点眼剤が記載されており、塩酸エピナスチンの濃度は「0.05?0.5%」の範囲とされているところ、相違点2に係るエピナスチン又はその塩の濃度である「0.1%(w/v)」は、該「0.05?0.5%」の濃度の範囲内である。
しかしながら、甲1に記載された点眼剤のすべての処方例である実施例1?3においては、いずれも塩酸エピナスチンを「0.05%(w/v)」の濃度で含有しており(摘記甲1f、摘記甲1g、摘記甲1h)、塩酸エピナスチンを「0.1%(w/v)」の濃度で含有する点眼剤は、甲1に具体的に記載されていない。
そして、甲1発明の点眼剤は、必須成分であるヒアルロン酸ナトリウムを添加することにより、点眼液の粘度を増加させ、薬液の外溢流出を抑制し、薬物滞在時間を延長させ、眼部での薬物のバイオアベイラビリティーを高めたものであって(摘記甲1c、摘記甲1j)、点眼回数は既に「一日2回」という低い頻度とされているから(摘記甲1e)、さらなる薬効の増大や、さらなる点眼回数の低減のために、塩酸エピナスチンの濃度を「0.05%(w/v)」の2倍の「0.1%(w/v)」に増量させる動機は見いだせない。

なお、甲2には、塩酸エピナスチンを「0.1%(w/v)」の濃度で含有し、アレルギー性結膜炎の治療に有用な、塩酸エピナスチン製剤が記載されている(摘記甲2a、摘記甲2b、摘記甲2g(実施例2)、摘記甲2h(実施例7))。
しかしながら、甲2に記載された上記塩酸エピナスチン製剤は、点眼液ではなく、軟膏剤、クリーム剤、又はゲル剤という、全く異なる剤形であり、剤形が違えば、有効成分の適切な濃度も変わるうえ、甲2においては、点眼による投与は否定的な位置付けとされているから(摘記甲2a、摘記甲2c?摘記甲2e)、甲2に相違点2に係るエピナスチン又はその塩の濃度である「0.1%(w/v)」が記載されていても、当該構成を異なる剤形の甲1発明の点眼剤に適用できるとはいえない。

そして、前記第5で認定した他の甲号証(甲3?甲8、甲10?甲17)に記載された事項、並びに、本件優先日前の周知技術及び技術常識を検討しても、甲1発明の点眼剤における塩酸エピナスチンの濃度である「0.05%(w/v)」を「0.1%(w/v)」に変更する動機は見いだせない。

したがって、甲1発明の点眼剤において、塩酸エピナスチンの濃度である「0.05%(w/v)」を、「0.1%(w/v)」とすることは、本件優先日前に当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について

(ア)本件明細書に記載された本件発明1の効果

前記第4の1の摘記イのとおり、本件明細書の【0013】には、本件発明の点眼剤の効果として、(a)「点眼回数を減らしても十分な治療効果を有する」こと、及び、(b)「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼可能」であることが記載されている。

上記(a)の効果については、同摘記スのとおり、本件明細書の【0066】?【0072】に記載のアレルギー性結膜炎患者を対象とした「6.ヒトにおける薬効評価試験」において、0.1%(w/v)のエピナスチン又はその塩と、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ナトリウム(0.075体積モル濃度以下)と、等張化剤として塩化ナトリウムとを含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しない、本件発明1?7の組成に対応する点眼剤(治験薬1)が、ヒトでのアレルギー性結膜炎(眼そう痒感及び結膜充血)に対して高い治療効果を示したこと、0.05%(w/v)のエピナスチン塩酸塩を含有する点眼回数が1日4回である比較薬1(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)と比較して、治療効果の持続時間が約2倍であることが認められたこと、及び、有効成分が高濃度であるにも関わらず、副作用は発現しなかったこと、が裏付けとして記載されており、比較薬1は、点眼回数が1日4回の製剤であることから、本件発明1?7の組成に対応する治験薬1は、1日2回の点眼回数で有効であることが示されているといえる。

上記(b)の効果については、同摘記ケのとおり、本件明細書の【0048】?【0053】に記載の「2.ソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験」において、0.1%(w/v)のエピナスチン塩酸塩と、0.05Mのリン酸又はその塩と、0.5%(w/v)の塩化ナトリウムと、pH調節剤(塩酸及び水酸化ナトリウム)とを含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しない、本件発明1?7の組成に対応する点眼剤(実施例2)が、SCLの変形を引き起こさないことが確認されており、また、同摘記シのとおり、本件明細書の【0061】?【0065】に記載された「5.防腐効力試験」において、0.1%(w/v)のエピナスチン塩酸塩と、0.05Mのリン酸又はその塩と、0.47%(w/v)の塩化ナトリウムと、pH調節剤(塩酸及び水酸化ナトリウム)とを含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しない、本件発明1?7の組成に対応する点眼剤(実施例6)が、各種微生物(大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ、クロコウジカビ)に対して、十分な防腐効果を示したことが、裏付けとして記載されているから、本件発明1?7の組成に対応する実施例2及び6の点眼剤は、コンタクトレンズ装用眼に点眼可能であることが示されているといえる。

(イ)申立人の主張について

申立人は、以下の(i)?(iv)の点を挙げ、本件発明の効果は当業者が予測し得ない顕著なものであるとはいえない旨を主張している。
(i)甲5(摘記甲5a、摘記甲5b)には、エピナスチンと同じくヒスタミンH_(1)拮抗薬であるオロパタジンを有効成分とするアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤について、オロパタジン点眼液0.1%の用法用量は1回1?2滴で1日4回であるのに対し、オロパタジン点眼液0.2%の用法用量は1回1?2滴で1日2回で承認された旨が記載され、点眼回数を半減しても十分な治療効果を発揮できることが示されており(申立書6頁10?22行)、有効成分の濃度を2倍にすれば、効果(滞留時間)が2倍程度になることは、点眼剤の分野では通常のことであって、例えば、甲6(摘記甲6a、摘記甲6b)には、チモロール濃度が0.25%の点眼液に対して、チモロール濃度が0.5%の点眼液は、ウサギ眼房水中のチモロール濃度が約2倍となっていることが記載されている(申立書7頁下7行?8頁4行)。
(ii)本件明細書の【0056】?【0060】に記載の「4.眼内動態試験」において比較例5の点眼剤が含有する緩衝剤であるトロメタモールについては、甲7(摘記甲7a?摘記甲7c)に、有効成分の眼内移行を促進することが記載されており、甲8(摘記甲8a?摘記甲8c)に、有効成分の眼におけるバイオアベイラビリティーを向上させることが記載されているから、実施例の点眼剤が含有する緩衝剤であるリン酸と単純に比較することはできない(申立書8頁6?13行)。
(iii)甲10(摘記甲10c)には、エピナスチン塩酸塩点眼液が、オロパタジン塩酸塩点眼液よりも、スギ花粉の外壁破裂を抑制する効果に優れていることが記載されており(申立書11頁下7行?12頁1行)、甲11(摘記甲11a?摘記甲11c)によれば、スギ花粉の外壁破裂はpHの影響が大きいところ、本件明細書に記載の実施例1?5の点眼剤のpHである7.0は、甲1発明の点眼液のpHと同じである(申立書12頁3行?14頁2行)。
(iv)甲12(摘記甲12a、摘記甲12b(特に図1の右から6番目の「Epinastine」))によれば、エピナスチンそれ自体が、ペスト菌のような非常に強い細菌に対する抗菌作用等を有することが示されているから、本件明細書の【0061】?【0065】に記載の「5.防腐効力試験」の結果は、予想外の効果であるとはいえない(申立書14頁下15行?15頁20行)。

しかしながら、前記イ(イ)で説示したとおり、甲1発明において、本件発明1との相違点2に係るエピナスチン又はその塩の濃度である「0.1%(w/v)」を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから、当該構成の採用を前提とする、本件発明の効果の予測可能性や非顕著性に係る上記申立人の主張は、いずれも採用できない。

エ 本件発明1の進歩性の判断のまとめ

以上のとおり、本件発明1は、甲1発明において、相違点2に係るエピナスチン又はその塩の濃度である「0.1%(w/v)」を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、甲1発明、並びに、甲2に記載された事項及び/又は周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?7について

ア 本件発明2?7と甲1発明との対比

(ア)
本件発明2は、引用する本件発明1において、「点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が、0.075体積モル濃度以下である」ことを、追加限定するものであるところ、本件発明2と甲1発明を対比すると、甲1発明の点眼剤中のリン酸二水素ナトリウムの濃度は「0.0567体積モル濃度」であって、上記追加限定された条件を満たすから、両者の間には、前記(2)アで認定した相違点1及び2の他に、新たな相違点は生じない。

(イ)
本件発明3は、引用する本件発明1又は2において、「リン酸又はその塩が、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウムである」ことを、追加限定するものであるところ、本件発明3と甲1発明を対比すると、両者の間には、前記(2)アで認定した相違点1及び2に加えて、次の相違点3があると認められる。
<相違点3>
点眼剤が含有する「リン酸又はその塩」が、本件発明3は「リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウム」であるのに対し、甲1発明は「リン酸二水素ナトリウム」である点。

(ウ)
本件発明4は、引用する本件発明1?3のいずれかにおいて、「エピナスチン又はその塩が、エピナスチン塩酸塩」であることを、追加限定するものであるところ、本件発明4と甲1発明を対比すると、甲1発明の点眼剤の有効成分は「塩酸エピナスチン」であり、これは「エピナスチン塩酸塩」と同義であって、上記追加限定された条件を満たしているから、両者の間には、前記(2)アで認定した相違点1及び2の他に、新たな相違点は生じない。

(エ)
本件発明5は、引用する本件発明1?4のいずれかにおいて、「さらに等張化剤として塩化ナトリウムを含有する」ことを、追加限定するものであるところ、本件発明5と甲1発明を対比すると、甲1発明の点眼剤も、等張調整剤(即ち、等張化剤)としての塩化ナトリウムを含有するものであって、上記追加限定された条件を満たしているから、両者の間には、前記(2)アで認定した相違点1及び2の他に、新たな相違点は生じない。

(オ)
本件発明6は、引用する本件発明1?5のいずれかにおいて、「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼されるように用いられる」ことを、追加限定するものであるところ、本件発明6と甲1発明を対比すると、両者の間には、前記(2)アで認定した相違点1及び2に加えて、次の相違点4があると認められる。
<相違点4>
本件発明6は、「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼されるように用いられる」のに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点。

(カ)
本件発明7は、前記第2で認定したとおりであるが、再掲すると、
「有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン塩酸塩、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウム、等張化剤として塩化ナトリウムを含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が0.075体積モル濃度以下であり、塩化ベンザルコニウムを含有せず、1眼あたり1滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。」
というものであり、これは本件発明2?5で追加限定した条件を全て備えた本件発明1と実質的に同じ発明であると認められるから、本件発明7と甲1発明を対比すると、両者の間には、前記(2)アで認定した相違点1及び2に加えて、前記(イ)で認定した相違点3があると認められる。

イ 本件発明2?7の進歩性の判断

前記(2)イ(イ)にて説示したように、甲1発明において、相違点2に係るエピナスチン又はその塩の濃度である「0.1%(w/v)」を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、新たな相違点3及び4について検討するまでもなく、本件発明2?7も、甲1発明、並びに、甲2に記載された事項及び/又は周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立ての理由1(進歩性欠如)についての小括

以上のとおり、本件発明1?7は、甲1に記載された発明、並びに、甲2に記載された事項及び/又は周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 申立ての理由2(サポート要件)について

(1)検討の前提

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以上のことを前提として、本件発明1?7に係る請求項1?7の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)本件発明の課題について

本件明細書の【0002】?【0008】には、本件発明の背景技術として、エピナスチン塩酸塩等のヒスタミンH_(1)拮抗薬を有効成分とする、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤において、1日1回又は2回点眼で、1日4回点眼と同程度の治療効果が得られるものは、本件優先日前に知られていなかったところ、服薬アドヒアランスの観点から、点眼回数を1日1回又は2回に低減した点眼剤が望ましく、ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用したまま点眼できる点眼剤であれば、さらに望ましいこと、が記載されている。
このことを踏まえて、本件明細書(特に【0008】)と本件請求項1?7の記載を併せみると、本件発明1?7の解決すべき課題は、

「(a)点眼回数の低減などの服薬アドヒアランスの向上をもたらすことに加えて、
(b)ソフトコンタクトレンズを装用したままでの点眼を可能とする、
有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を提供すること」

であると認められる。

そこで、上記の課題を解決できると当業者が認識できるか否かという観点から、本件請求項1?7の記載と、本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対応関係について、以下、検討する。

(3)判断

前記第4の1の摘記イのとおり、本件明細書の【0013】には、本件発明の点眼剤の効果として、(a)「点眼回数を減らしても十分な治療効果を有する」こと、及び、(b)「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼可能」であることが記載されており、これらの効果(a)及び(b)は、それぞれ上記の課題(a)及び(b)に対応するものである。

そして、上記(a)の効果については、前記1(2)ウ(ア)で説示したとおり、本件明細書の【0066】?【0072】に記載のアレルギー性結膜炎患者を対象とした「6.ヒトにおける薬効評価試験」において、0.1%(w/v)のエピナスチン又はその塩と、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ナトリウム(0.075体積モル濃度以下)と、等張化剤として塩化ナトリウムとを含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しない、本件発明1?7の組成に対応する点眼剤(治験薬1)が、ヒトでのアレルギー性結膜炎(眼そう痒感及び結膜充血)に対して高い治療効果を示したこと、0.05%(w/v)のエピナスチン塩酸塩を含有する点眼回数が1日4回である比較薬1(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)と比較して、治療効果の持続時間が約2倍であることが認められたこと、及び、有効成分が高濃度であるにも関わらず、副作用は発現しなかったこと、が裏付けとして記載されており、比較薬1は、点眼回数が1日4回の製剤であることから、本件発明1?7の組成に対応する治験薬1は、1日2回の点眼回数で有効であることが示されているといえる。

また、上記(b)の効果についても、前記1(2)ウ(ア)で説示したとおり、本件明細書の【0048】?【0053】に記載の「2.ソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験」において、0.1%(w/v)のエピナスチン塩酸塩と、0.05Mのリン酸又はその塩と、0.5%(w/v)の塩化ナトリウムと、pH調節剤(塩酸及び水酸化ナトリウム)とを含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しない、本件発明1?7の組成に対応する点眼剤(実施例2)が、SCLの変形を引き起こさないことが確認されており、また、同摘記シのとおり、本件明細書の【0061】?【0065】に記載された「5.防腐効力試験」において、0.1%(w/v)のエピナスチン塩酸塩と、0.05Mのリン酸又はその塩と、0.47%(w/v)の塩化ナトリウムと、pH調節剤(塩酸及び水酸化ナトリウム)とを含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しない、本件発明1?7の組成に対応する点眼剤(実施例6)が、各種微生物(大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ、クロコウジカビ)に対して、十分な防腐効果を示したことが、裏付けとして記載されているから、本件発明1?7の組成に対応する実施例2及び6の点眼剤は、コンタクトレンズ装用眼に点眼可能であることが示されているといえる。

したがって、本件発明1?7は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものである。

(4)申立人の主張について

申立人は、申立ての理由2(サポート要件)について、以下のア及びイの主張をしている。


本件発明は、「リン酸又はその塩を用いても花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出への影響が最小限であること」を、その課題として含むものであり、本件明細書の【0041】?【0047】に記載の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」の結果からみて、0.075体積モル濃度を超えるリン酸(塩)を含有する0.1%(w/v)エピナスチン塩酸塩溶液では、「アレジオン(登録商標)点眼液0.05%」(比較例3)と同程度の花粉外壁の破裂率を得られず、当該課題を解決できないため、リン酸(塩)の濃度が特定されていない本件請求項1、3?6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


本件発明は、「点眼回数を減らしてもアレルギー性結膜炎に対し十分な治療効果を発揮すること」も、その課題として含むものであり、本件明細書の【0056】?【0060】に記載の「4.眼内動態試験」及び【0066】?【0072】に記載の「6.ヒトにおける薬効評価試験」の結果は、単に、エピナスチン塩酸塩の濃度が2倍になれば、点眼回数を半減できることを示すのみであって、当該課題を解決できるかを確認できないため、本件請求項1?7の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

しかしながら、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。その理由は次のとおりである。

ウ 申立人の主張アについて
本件発明の課題は、前記(2)で認定したとおりであって、「リン酸又はその塩を用いても花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出への影響が最小限であること」までもが、本件発明が解決すべき課題であるとは認められず、0.075体積モル濃度を超えるリン酸(塩)を含有する本件発明1、3?6の点眼剤が、前記(2)で認定した課題(a)及び(b)を解決できないものであるとはいえない。

エ 申立人の主張イについて
前記(3)で説示したとおり、本件明細書に記載された「6.ヒトにおける薬効評価試験」において、本件発明1?7の組成に対応する治験薬1が、比較薬1(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)と比べて、治療効果の持続時間が約2倍であった、具体的には、1日2回に相当する間隔で点眼した治験薬1が、1日4回に相当する間隔で点眼した比較薬1と、同程度の治療効果を示したことが、裏付けられているのであるから、当業者は、本件発明1?7が「点眼回数を減らしてもアレルギー性結膜炎に対し十分な治療効果を発揮」したことを確認できるといえる。

(5)申立ての理由2(サポート要件)についての小括

以上のとおり、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、本件請求項1?7の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

3 申立ての理由3(実施可能要件違反)について

(1)検討の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載が適合するものでなければならない要件として、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(いわゆる「実施可能要件」。)を規定している。
そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明にあっては、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、その記載又は示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が、その発明に係る物を、生産することができ、かつ、使用することができる程度のものでなければならない。
以上のことを前提として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明1?7について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)判断

本件明細書の【0039】には、本件発明1?2、4?6の組成の条件を満たす製剤例1が記載されており、同【0040】には、本件発明1?7の組成の条件を満たす製剤例2が記載されている。また、同【0041】?【0042】には、本件発明1、4?6の組成の条件を満たす実施例1の製剤が、その調製工程の説明とともに具体的に記載されている。これらの記載に接した当業者であれば、各成分の添加量を増減するなどして、本件発明1?7の組成の条件を満たす点眼剤を製造することができるといえる。
そして、前記2(3)で説示したとおり、本件明細書に記載の「6.ヒトにおける薬効評価試験」により、本件発明1?7の課題である(a)「点眼回数の低減などの服薬アドヒアランスの向上をもたらす」ことを解決できることが裏付けられており、また、本件明細書に記載の「2.ソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験」及び「5.防腐効力試験」により、本件発明1?7の課題である(b)「ソフトコンタクトレンズを装用したままでの点眼を可能とする」ことを解決できることも裏付けられているから、これらの記載に基づいて、当業者は本件発明1?7の点眼剤を使用することができるといえる。

(3)申立人の主張について

申立人は、甲16及び甲17を提示し、モルモットを用いたアレルギー性結膜炎の実験モデルには、IgE媒介モデルと非IgE媒介モデルがあり、前者の抗原(アレルゲン)は日本スギ花粉等であるが、後者の抗原はハプテン等であること(摘記甲16a、摘記甲16b)、従来のモルモットのアレルギー性結膜炎モデルには、点眼薬の評価を正しく行えないものもあったこと(摘記甲17a)を指摘したうえで、本件明細書の【0054】?【0055】に記載の「3.アレルギー性結膜炎モデルを用いた薬効評価試験」で用いられたモルモットの「アレルギー性結膜炎モデル」が、どのように作成されたのかについて、用いられたモルモットの週齢、雌雄、系統、入手先等の情報を含め、本件明細書には全く記載されていないから、そのような動物モデルを用いた試験は、当業者が本件発明を実施できるように記載されていない、と主張している。
しかしながら、前記(2)で説示したように、本件明細書に記載の「6.ヒトにおける薬効評価試験」等に基づき、当業者は本件発明1?7の点眼剤を使用することができるといえるので、本件明細書中に「3.アレルギー性結膜炎モデルを用いた薬効評価試験」でのモルモットを用いた実験モデルの作成に関する情報が示されていないからといって、当業者が本件発明1?7を実施することができないとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(4)申立ての理由3(実施可能要件違反)についての小括

以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、当業者が、本件発明1?7に係る物を、製造することができ、かつ、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

第7 むすび

以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、その他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1?7に係る特許について、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-23 
出願番号 特願2018-546564(P2018-546564)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 理文  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 井上 典之
渡邊 吉喜
登録日 2019-03-01 
登録番号 特許第6487609号(P6487609)
権利者 参天製薬株式会社
発明の名称 点眼剤  
代理人 水原 正弘  
代理人 秦野 正和  
代理人 山尾 憲人  
代理人 品川 永敏  
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