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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1358669
異議申立番号 異議2019-700826  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-16 
確定日 2020-01-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6501880号発明「歯科用粉末噴射清掃のための粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6501880号の請求項1?20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6501880号の請求項1?20に係る特許についての出願は、平成27年10月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年10月22日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月29日にその特許権の設定登録がされ、同年4月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年10月16日に特許異議申立人イー.エム.エス. エレクトロ メディカル システムズ エス.アー.(以下、「申立人」ともいう。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第6501880号の請求項1?20の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
歯肉縁上歯面及び/又は歯肉縁下歯面の粉末噴射清掃のための歯科用噴射粉末を製造するための、切削材及び/又は研磨材としての少なくとも1種の二糖類の使用。
【請求項2】
前記二糖類が、トレハロース及び/又はパラチノース又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記噴射粉末が、固化防止剤、味物質、漂白剤、鎮痛剤、結晶アミノ酸、アルジトール、ラクトバチルス菌、及び/又は殺菌剤、又はそれらの1種以上の混合物のうちの少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記固化防止剤が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウムのうちの少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記アルジトールが、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトールのうちの少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
前記二糖類の平均粒径が、10μm?80μmであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記噴射粉末中の前記二糖類の含量が、70?99.9重量%であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記噴射粉末中の前記二糖類の含量が、95?99.9重量%であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
歯根の疾患又は歯牙の疾患を治療及び/又は予防するための、歯科用噴射粉末中における切削材及び/又は研磨材としての少なくとも1種の二糖類を含んでなる組成物。
【請求項10】
前記二糖類が、トレハロース及び/又はパラチノースから選択される請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
歯科用噴射粉末として使用するための組成物であって、該組成物全体を100重量%としたとき、第1の切削材及び/又は研磨材としての1種以上の二糖類70?99.9重量%、並びに固化防止剤0.1?30.0重量%を含む組成物。
【請求項12】
前記二糖類が、トレハロース及び/又はパラチノースであることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記二糖類の平均粒径が、10μm?80μmであることを特徴とする請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
固化防止剤、味物質、漂白剤、鎮痛剤、結晶アミノ酸、アルジトール、及び/又は殺菌剤、又はそれらの1種以上の混合物のうちの少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項11?13のいずれかに記載の組成物。【請求項15】
前記固化防止剤が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、及び/又は水酸化アルミニウムを含む群から選択されることを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
香味料をさらに含むことを特徴とする請求項11?15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
オレンジの香味料又はミントの香味料をさらに含むことを特徴とする請求項11?16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
歯肉縁上歯面及び/又は歯肉縁下歯面を粉末噴射清掃するための、歯科用噴射粉末としての請求項11?17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
前記噴射粉末が、加圧噴射機器を用いて適用されることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
加圧噴射機器及び請求項11?17のいずれかに記載の組成物を含む、歯肉縁上歯面及び/又は歯肉縁下歯面の粉末噴射清掃のためのキット。」
(以下、特許第6501880号の請求項1?20に係る発明を、その請求項に付された番号にしたがって、「本件特許発明1」?「本件特許発明20」のように記載し、また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1 申立理由の概要
申立人は、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張する。

(1)申立理由1(新規性欠如)
本件特許発明1、9、11は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、本件特許発明1、9、11に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2(進歩性欠如)
ア 申立理由2-1
本件特許発明1、9、11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件特許発明1、9、11に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

イ 申立理由2-2
本件特許発明2?5、10、12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件特許発明2?5、10、12に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

ウ 申立理由2-3
本件特許発明6?8、13?20は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件特許発明6?8、13?20に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:国際公開第2013/191903号(以下、「甲1」
という。)
(2)甲第2号証:欧州特許出願公開第1941862号明細書(以下、
「甲2」という。)
(3)甲第3号証:“Die AIRFLOW^(R)-Anwendung ist einfach! Aber
welches Pulver soll ich nehmen?”
http://www.paroprophylaxe.at/fortbildungen/wp-content/uploads/
2014/06/Airflowanwendung-Pulver.pdf (以下、「甲3」という。)
(4)甲第4号証:米国特許第6648644号明細書(以下、「甲4」
という。)

第4 甲1に記載された事項
なお、甲1は英語文献であるので、翻訳文により記載する。

1 記載事項1-1(第1頁第8-9行)
「空気研磨粉末は、典型的にはグリシン又は重炭酸塩あるいは炭酸塩のいずれかに基づいている。これらの粉末は、もっぱら専門的な歯の清掃を意図している。」

2 記載事項1-2(第1頁第12-15行)
「空気研磨使用の向上を目的として、グリシンを主成分とする粉末が3M ESPEにより開発され、Clinpro^(TM) Prophy Powderとして商品化されている。Clinpro^(TM) Prophy Powderは、歯肉縁上側(すなわち歯茎ラインの上側)及び歯肉縁下側(すなわち歯茎ラインの下側)の双方に使用可能とされている。特に、後者は、切削性の粉末が歯肉縁下側の空気研磨に対し禁忌であるが故に、非常に珍しい。」

3 記載事項1-3(第1頁第32-34行)
「米国特許第6648644号明細書(フレミング等)は、歯根表面の粉末噴射清掃用薬剤を調製するための微粉末又は粉末混合物の使用に関し、前記微粉末又は粉末混合物は密度が2g/cm^(3)未満であり、および/または、平均粒径が45μm未満である。」

4 記載事項1-4(第2頁第9-11行)
「特に、歯面に対し実質的に無損傷でありつつ同歯面を清掃する効果と、例えば象牙細管の開口部の閉塞又は保護に好適であるなどの治療効果との双方を期待でき、容易に使用できる組成物が望まれている。」

5 記載事項1-5(第2頁第12-18行)
「この目的は、
・成分Aとしての水溶性有機粒子(例えばグリシン)の粉末
・成分Bとしての無機固化防止剤粒子(例えばシリカ)の粉末、及び
・成分Cとしての抗知覚過敏用粒子(例えばTCPまたはTCP-FA)の粉末を含み、
・前記成分Aの平均粒径は略15-略500μmの範囲内であり、
・前記成分Cの平均粒径は略0.5-略10μmの範囲内であることを特徴とする、
歯の硬組織表面(例えば患者の口腔内)の空気研磨用粉末組成物を提供することによって達成される。」

6 記載事項1-6(第4頁第23-27行)
「”歯の硬組織”は、エナメル質、象牙質及び歯根セメント質を意味する。
”空気研磨”は、粉末噴射装置の助けを借りて適用される粉末組成物を用いた、歯の硬組織表面の本質的に非研磨な処置を意味する。空気研磨処置中に、上記粉末組成物は、ガス(通常は空気)及び液体(通常は水)と一緒に適用される。」

7 記載事項1-7(第9頁第16-19行)
「使用可能な水溶性粒子の例は、有機酸およびそれらの塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を含む)、アミノ酸及びそれらの塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を含む)、糖類(すなわち、単糖類及び二糖類)、それぞれのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びそれらの混合物を含む。」(なお、原文中の「di-sacharides」は「di-saccharides」の誤記であると認められるので、誤記を正した上で翻訳した。)

8 記載事項1-8(第9頁第25-26行)
「糖類の具体例は、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、トレイトール、グルコース、フルクトース、スクロース及びそれらの混合物を含む。」

9 記載事項1-9(第9頁第27-28行)
「成分Aは、概して、組成物が適用される硬組織表面の清掃剤の機能を果たす。」

10 記載事項1-10(第13頁第16-17行)
「成分Aの含量の有効範囲は、略50-略98重量%、又は略60-略95重量%、又は略70-略93重量%である。」

11 記載事項1-11(第13頁第20-21行)
「成分Bの含量の有効範囲は、略0.001-略10重量%、又は略0.01-略5重量%、又は略0.1-略1重量%である。」

12 記載事項1-12(第20頁第20-最終行)
「以下の組成物を調製した:

^(*)Clinpro^(TM) Prophy Powder (3M ESPE)
表2」

13 記載事項1-13(請求項1)
「粉末組成物であって、
・成分Aとしての水溶性有機粒子の粉末
・成分Bとしての無機固化防止剤粒子の粉末、及び
・成分Cとしての抗知覚過敏用粒子の粉末を含み、
・前記成分Aの平均粒径は略15-略500μmの範囲内であり、
・前記成分Cの平均粒径は略0.5-略10μmの範囲内である、
歯の硬組織表面の空気研磨用粉末組成物。」

14 記載事項1-14(請求項9)
「以下のものを含む、先行する請求項のいずれかに記載の粉末組成物。
・成分Aとしての水溶性有機粒子の粉末であって、前記水溶性粒子は、アミノ酸及びそれらの塩、有機酸及びそれらの塩、糖類及びそれらの混合物から選択される粉末、
・成分Bとしての無機固化防止剤粒子の粉末、及び
・成分Cとしての抗知覚過敏用粒子の粉末、
上記有機酸は、クエン酸、アスコルビン酸、ケトグルタル酸、ピルビン酸、乳酸、フタル酸、グルコン酸及びそれらの混合物から選択され、
上記アミノ酸は、グリシン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム及びそれらの混合物から選択され、
上記糖類は、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、トレイトール、グルコース、フルクトース、スクロース及びそれらの混合物から選択され、
上記抗知覚過敏用粒子は、リン酸放出剤、ヒドロキシルアパタイト、フルオロアパタイト、α型、β型の非晶質リン酸三カルシウム、有機酸で被覆されたリン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、N,N,N‘-トリス(2-ヒドロキシエチル)-N’-オクタデシルプロパン-1,3-ジアミンジヒドロフルオリド、Ca(HC0_(3))_(2)、NaHC0_(3)及びそれらの混合物から選択される。」

第5 特許異議申立理由についての合議体の判断
1 申立理由1(新規性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲1に記載の発明
甲1には、記載事項1-1?1-14の記載、特に記載事項1-13の記載からみて、
「粉末組成物であって、
・成分Aとしての水溶性有機粒子の粉末
・成分Bとしての無機固化防止剤粒子の粉末、及び
・成分Cとしての抗知覚過敏用粒子の粉末を含み、
・前記成分Aの平均粒径は略15-略500μmの範囲内であり、
・前記成分Cの平均粒径は略0.5-略10μmの範囲内である、
歯の硬組織表面の空気研磨用粉末組成物。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件特許発明1と甲1発明の対比
「空気研磨」は、粉末噴射装置の助けを借りて適用される粉末組成物を用いた、歯の硬組織表面の本質的に非研磨な処置を意味し(記載事項1-6)、歯肉縁上側や歯肉縁下側に適用されて(記載事項1-2)、歯を清掃するから(記載事項1-1、1-4、1-9)、甲1発明における「歯の硬組織表面の空気研磨用粉末組成物」は、本件特許発明1における「歯肉縁上歯面及び/又は歯肉縁下歯面の粉末噴射清掃のための歯科用噴射粉末」に相当する。
また、甲1発明中の成分Aは、概して、硬組織表面の清掃剤の機能を果たすから(記載事項1-9)、該「成分A」は、本件特許発明1における「切削材及び/又は研磨材」に相当する。そのため、上記「成分A」は甲1発明において、切削材及び/又は研磨材として使用されているといえる。
そうすると、両発明は、「歯肉縁上歯面及び/又は歯肉縁下歯面の粉末噴射清掃のための歯科用噴射粉末を製造するための、切削材及び/又は研磨材としての成分の使用」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
切削材及び/又は研磨材として、本件特許発明1では少なくとも1種の二糖類が使用されているのに対し、甲1発明では水溶性有機粒子の粉末である成分Aが使用されている点。

(相違点2)
本件特許発明1は、無機固化防止剤粒子の粉末及び抗知覚過敏用粒子の粉末を必須としないのに対し、甲1発明はそれらを成分B及び成分Cとして必須とする点。

(相違点3)
本件特許発明1では、成分の平均粒径が規定されないのに対し、甲1発明では、成分Aの平均粒径が略15-略500μmの範囲内に規定され、成分Cの平均粒径が略0.5-略10μmの範囲内に規定される点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
記載事項1-7には、使用可能な水溶性粒子の一例として糖類(すなわち、単糖類及び二糖類)が記載され、記載事項1-8には糖類の一例としてスクロースが記載され、記載事項1-14には成分Aの一例としてスクロースが記載されている。しかし、それらは多数の選択肢の一つとして記載されているに過ぎず、記載事項1-12に記載のとおり、実施例では成分Aとして二糖類は使用されておらず、グリシンが選択されている。また、甲1には、二糖類又はスクロースを、積極的あるいは優先的に選択する旨の記載はなく、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分としてスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、成分Aとして、スクロースのみが具体例として記載された二糖類を選択するという具体的な技術的思想を甲1から抽出することはできず、二糖類(具体例はスクロース)を選択する態様を、甲1に記載された発明と認定することはできない。
よって、本件特許発明1と甲1発明とは、相違点1において相違するものである。

エ まとめ
以上のとおりであるから、相違点2、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(2)本件特許発明9について
ア 本件特許発明9と甲1発明の対比
「空気研磨」は、粉末噴射装置の助けを借りて適用される粉末組成物を用いた、歯の硬組織表面の本質的に非研磨な処置を意味するから(記載事項1-6)、甲1発明における「歯の硬組織表面の空気研磨用粉末組成物」は、本件特許発明9における「歯科用噴射粉末」に相当する。
また、甲1発明中の成分Aは、概して、硬組織表面の清掃剤の機能を果たすから(記載事項1-9)、該「成分A」は、本件特許発明9における「切削材及び/又は研磨材」に相当する。
さらに、甲1の記載事項1-4及び1-5には、空気研磨用粉末組成物を提供することによって、例えば象牙細管の開口部の閉塞又は保護などの治療効果も達成される旨記載されている。
そうすると、両発明は、「歯根の疾患又は歯牙の疾患を治療及び/又は予防するための、歯科用噴射粉末中における切削材及び/又は研磨材としての成分を含んでなる組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点4)
切削材及び/又は研磨材として、本件特許発明9が少なくとも1種の二糖類を含んでなるのに対し、甲1発明は水溶性有機粒子の粉末である成分Aを含んでなる点。

(相違点5)
本件特許発明9は、無機固化防止剤粒子の粉末及び抗知覚過敏用粒子の粉末を必須としないのに対し、甲1発明はそれらを成分B及び成分Cとして必須とする点。

(相違点6)
本件特許発明9では、成分の平均粒径が規定されないのに対し、甲1発明では、成分Aの平均粒径が略15-略500μmの範囲内に規定され、成分Cの平均粒径が略0.5-略10μmの範囲内に規定される点。

イ 判断
(ア)相違点4について
記載事項1-7には、使用可能な水溶性粒子の一例として糖類(すなわち、単糖類及び二糖類)が記載され、記載事項1-8には糖類の一例としてスクロースが記載され、記載事項1-14には成分Aの一例としてスクロースが記載されている。しかし、それらは多数の選択肢の一つとして記載されているに過ぎず、記載事項1-12に記載のとおり、実施例では成分Aとして二糖類は使用されておらず、グリシンが選択されている。また、甲1には、二糖類又はスクロースを、積極的あるいは優先的に選択する旨の記載はなく、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分としてスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、成分Aとして、スクロースのみが具体例として記載された二糖類を選択するという具体的な技術的思想を甲1から抽出することはできず、二糖類(具体例はスクロース)を選択する態様を、甲1に記載された発明と認定することはできない。
よって、本件特許発明9と甲1発明とは、相違点4において相違するものである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点5、6について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(3)本件特許発明11について
ア 本件特許発明11と甲1発明の対比
甲1発明における「成分Bとしての無機固化防止剤粒子の粉末」は、本件特許発明11における「固化防止剤」に相当する。
また、「空気研磨」は、粉末噴射装置の助けを借りて適用される粉末組成物を用いた、歯の硬組織表面の本質的に非研磨な処置を意味するから(記載事項1-6)、甲1発明における「歯の硬組織表面の空気研磨用粉末」は、本件特許発明11における「歯科用噴射粉末」に相当する。
さらに、甲1発明中の成分Aは、概して、硬組織表面の清掃剤の機能を果たすから(記載事項1-9)、該「成分A」は、本件特許発明11における「第1の切削材及び/又は研磨材」に相当する。
そうすると、両発明は、「歯科用噴射粉末として使用するための組成物であって、第1の切削材及び/又は研磨材としての成分、並びに固化防止剤を含む組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点7)
第1の切削材及び/又は研磨材としての成分が、本件特許発明11では1種以上の二糖類であるのに対し、甲1発明では水溶性有機粒子の粉末である成分Aである点。

(相違点8)
本件特許発明11では、組成物全体を100重量%としたとき、第1の切削材及び/又は研磨材としての1種以上の二糖類の含量が70?99.9重量%に規定され、固化防止剤の含量が0.1?30.0重量%に規定されるのに対し、甲1発明では、各成分の含量が規定されない点。

(相違点9)
本件特許発明11は、抗知覚過敏用粒子の粉末を必須としないのに対し、甲1発明はそれを成分Cとして必須とする点。

(相違点10)
本件特許発明11では、成分の平均粒径が規定されないのに対し、甲1発明では、成分Aの平均粒径が略15-略500μmの範囲内に規定され、成分Cの平均粒径が略0.5-略10μmの範囲内に規定される点。

イ 判断
(ア)相違点7について
記載事項1-7には、使用可能な水溶性粒子の一例として糖類(すなわち、単糖類及び二糖類)が記載され、記載事項1-8には糖類の一例としてスクロースが記載され、記載事項1-14には成分Aの一例としてスクロースが記載されている。しかし、それらは多数の選択肢の一つとして記載されているに過ぎず、記載事項1-12に記載のとおり、実施例では成分Aとして二糖類は使用されておらず、グリシンが選択されている。また、甲1には、二糖類又はスクロースを、積極的あるいは優先的に選択する旨の記載はなく、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分としてスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、成分Aとして、スクロースのみが具体例として記載された二糖類を選択するという具体的な技術的思想を甲1から抽出することはできず、二糖類(具体例はスクロース)を選択する態様を、甲1に記載された発明と認定することはできない。
よって、本件特許発明11と甲1発明とは、相違点7において相違するものである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点8?10について検討するまでもなく、本件特許発明11は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(4) 申立人の主張について
申立人は、甲1の記載事項1-7に水溶性粒子の選択肢として二糖類が記載され、記載事項1-8に糖類の選択肢としてスクロースが記載されていることから、成分Aとしてスクロースなどの二糖類を選択する態様は、甲1に記載された発明であるし、仮に、上記態様を選択発明とみなしたとしても、甲1における技術的課題など(記載事項1-2、1-4)を鑑みれば、当業者が、特定の選択肢に係る具体的な技術的思想たる「二糖」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情が存することは明白である旨主張している。
しかしながら、上記(1)?(3)でも述べたとおり、二糖類(具体例はスクロース)は多数の選択肢の中の一つに過ぎず、実施例で選択されている成分Aは全てグリシンであって二糖類ではない。また、「二糖」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情が存することは明白である、という主張の根拠が不明であるし、甲1に二糖類(具体例はスクロース)の選択に起因する有利な効果が記載されているわけでもない。それどころか、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分にスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、成分Aとして、スクロースのみが具体例として記載された二糖類を選択するという具体的な技術的思想を甲1から抽出することはできず、二糖類(具体例はスクロース)を選択する態様を、甲1に記載された発明と認定することはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(5)小括
よって、本件特許発明1、9、11に係る特許が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるとする、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明の対比・判断
ア 相違点1について
上記1(1)で述べたように、本件特許発明1と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違するので、以下、相違点1について検討する。
相違点1について、甲1には成分Aの選択肢として、スクロースのみが具体例として記載された二糖類が記載されている(記載事項1-7、1-8及び1-14)。しかし、それは多数の選択肢の一つに過ぎないものであり、甲1の全ての実施例では成分Aとしてグリシンが選択されている(記載事項1-12)。また、甲1には、多数の選択肢の中から二糖類又はスクロースを選択する動機付けとなる記載はなく、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分にスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、甲1発明において、成分Aとして二糖類(具体例はスクロース)を選択することは当業者が容易に想到し得ることではない。

イ 本件特許発明の効果について
本件特許明細書には、二糖類をベースにしている組成物(inv. comp. supragingival)が、重炭酸ナトリウムをベースにしている製品Aやグリシンをベースにしている製品Bに比して、象牙質切片における平均切削性が低いことを示す実験データが具体的に記載されており(段落【0090】、【0091】、【図1】)、当該実験データから、本件特許発明は歯面(歯根表面)の効率的かつ患者に優しい清掃が可能となるという優れた効果を奏するものであり、当該効果は、甲1の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識からは当業者が予測できない格別顕著なものであると認められる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点2、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2?8及び甲2?4について
ア 甲2について
甲2には、舌苔除去用タブレットに用いる水溶性糖類の例として、ショ糖、麦芽糖、乳糖、パラチノース、トレハロースなどの二糖類が記載されているものの(段落[0039]-[0043])、空気研磨用粉末組成物の発明である甲1発明に、技術分野が異なる舌苔除去用タブレットの材料である二糖類を、切削材及び/又は研磨材として適用する動機付けは存在しない。

イ 甲3について
申立人はGoogleの検索結果に表示されている日付を根拠に甲3の公知日を2014年7月1日としている。
しかし、甲3の第2頁第9?11行に「Googleでは、1つの要素だけを基にして日付を判定することはありません。その要素に問題が起きている可能性があるからです。そのため、複数の要素を使い、ページが公開された日または大幅に更新された日をできるだけ正確に推定するようにしています。」と記載されているとおり、Googleの検索結果に表示されている日付はあくまで推定に過ぎない。また、甲3の本文で引用されている3番の文献(J Periodontol 2014; 85: e363-e369.)の公知日はPubMedによると2014年7月25日であるから、甲3の公知日をそれより前の2014年7月1日とする推定は信憑性に欠けるものである。
そうすると、甲3の公知日は不明であるといわざるを得ない。
よって、甲3は頒布された日が特定できないから、本件特許の国際出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明として採用できない。

ウ 甲4について
甲4は、歯肉縁下の歯のエナメル質に適用する粉末噴射清掃剤において、構成粒子の平均粒径を45μm未満にするとともに密度を2.0g/cm^(3)未満にすること(請求項1)と、クエン酸及び/あるいはアスコルビン酸のような味覚成分の添加も可能であること(第3欄第34-42行)を、示すだけの文献であって、甲1発明において、二糖類を切削材及び/又は研磨材として用いることは記載も示唆もされていない。

エ 本件特許発明2?8について
本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?8はいずれも上記相違点1の発明特定事項を含むものであるから、本件特許発明2?5は甲1、2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明6?8は甲1、2、4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明9と甲1発明の対比・判断
ア 相違点4について
上記1(2)で述べたように、本件特許発明9と甲1発明とは、少なくとも相違点4において相違するので、以下、相違点4について検討する。
相違点4について、甲1には成分Aの選択肢として、スクロースのみが具体例として記載された二糖類が記載されている(記載事項1-7、1-8及び1-14)。しかし、それは多数の選択肢の一つに過ぎないものであり、甲1の全ての実施例では成分Aとしてグリシンが選択されている(記載事項1-12)。また、甲1には、多数の選択肢の中から二糖類又はスクロースを選択する動機付けとなる記載はなく、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分にスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、甲1発明において、成分Aとして二糖類(具体例はスクロース)を選択することは当業者が容易に想到し得ることではない。

イ 本件特許発明の効果について
本件特許明細書には、二糖類をベースにしている組成物(inv. comp. supragingival)が、重炭酸ナトリウムをベースにしている製品Aやグリシンをベースにしている製品Bに比して、象牙質切片における平均切削性が低いことを示す実験データが具体的に記載されており(段落【0090】、【0091】、【図1】)、当該実験データから、本件特許発明は歯面(歯根表面)の効率的かつ患者に優しい清掃が可能となるという優れた効果を奏するものであり、当該効果は、甲1の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識からは当業者が予測できない格別顕著なものであると認められる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点5、6について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明10について
本件特許発明9をさらに限定した発明である本件特許発明10は上記相違点4の発明特定事項を含むものであるところ、上記(2)で述べたように、甲2には甲1発明において、切削材及び/又は研磨材として二糖類を選択することを動機付ける記載は見当たらないし、甲3は証拠として採用できないから、本件特許発明10は甲1、2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件特許発明11と甲1発明の対比・判断
ア 相違点7について
上記1(3)で述べたように、本件特許発明11と甲1発明とは、少なくとも相違点7において相違するので、以下、相違点7について検討する。
相違点7について、甲1には成分Aの選択肢として、スクロースのみが具体例として記載された二糖類が記載されている(記載事項1-7、1-8及び1-14)。しかし、それは多数の選択肢の一つに過ぎないものであり、甲1の全ての実施例では成分Aとしてグリシンが選択されている(記載事項1-12)。また、甲1には、多数の選択肢の中から二糖類又はスクロースを選択する動機付けとなる記載はなく、甲1に記載されている二糖類の具体例はスクロースだけであるところ、スクロースはう蝕の発病に関わる因子であるという技術常識を参酌すれば、当業者はむしろ、歯に適用される粉末組成物の成分にスクロースを選択することを避けると推認される。
そうすると、甲1発明において、成分Aとして二糖類(具体例はスクロース)を選択することは当業者が容易に想到し得ることではない。

イ 本件特許発明の効果について
本件特許明細書には、二糖類をベースにしている組成物(inv. comp. supragingival)が、重炭酸ナトリウムをベースにしている製品Aやグリシンをベースにしている製品Bに比して、象牙質切片における平均切削性が低いことを示す実験データが具体的に記載されており(段落【0090】、【0091】、【図1】)、当該実験データから、本件特許発明は歯面(歯根表面)の効率的かつ患者に優しい清掃が可能となるという優れた効果を奏するものであり、当該効果は、甲1の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識からは当業者が予測できない格別顕著なものであると認められる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、相違点8?10について検討するまでもなく、本件特許発明11は、甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件特許発明12?20について
本件特許発明11をさらに限定した発明である本件特許発明12?20は、いずれも上記相違点7の発明特定事項を含むものであるところ、上記(2)で述べたように、甲2、4には甲1発明において、切削材及び/又は研磨材として二糖類を選択することを動機付ける記載は見当たらないし、甲3は証拠として採用できないから、本件特許発明12は甲1、2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明13?20は甲1、2、4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)小括
よって、本件特許発明1?20に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする、申立理由2には理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?20に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-01-06 
出願番号 特願2017-522543(P2017-522543)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫松村 真里  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 冨永 みどり
山内 達人
登録日 2019-03-29 
登録番号 特許第6501880号(P6501880)
権利者 オロヒェミー ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー
発明の名称 歯科用粉末噴射清掃のための粉末  
代理人 山口 朔生  
代理人 岩谷 龍  
代理人 大島 信之  

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