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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1359144
審判番号 不服2019-8767  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-01 
確定日 2020-01-20 
事件の表示 特願2019- 7299「レーザ光学部」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月 9日出願公開,特開2019- 71476〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月13日に出願された特願2011-131491号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年10月13日に新たな特許出願(特願2015-202032号)とし,さらに,その一部を平成28年7月4日に新たな特許出願(特願2016-132264号)とし,さらに,その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-26939号)とし,さらに,その一部を同年6月27日に新たな特許出願(特願2017-125526号)とし,さらに,その一部を平成30年5月22日に新たな特許出願(特願2018-97877号)とし,さらに,その一部を平成31年1月18日に新たな特許出願としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成31年 2月 7日:拒絶理由通知(起案日)
平成31年 3月13日:意見書,手続補正書
平成31年 4月 2日:拒絶査定(起案日)
令和 元年 7月 1日:審判請求
令和 元年 7月29日:拒絶理由通知(起案日)
令和 元年 9月26日:意見書,手続補正書

第2 本願発明
令和元年9月26日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ光学部であって,
前記レーザ光学部は,少なくともレーザ発振器と対物レンズを備え,
前記レーザ発振器から照射されるレーザ光は,前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない状態となり,且つ,前記ウェハの裏面を研削して前記改質領域を研削除去した後においても前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面に露出しない状態となるように,前記改質領域を形成する,
レーザ光学部。」

第3 拒絶の理由
令和元年7月29日付けで当審が通知した拒絶理由は,大略,次のとおりのものである。
1.(新規性)この出願の請求項1ないし6に係る発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1ないし6に係る発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記1ないし5,7,8の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(拡大先願)この出願の請求項1,6に係る発明は,その原出願の出願の日前の特許出願であって,その原出願の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記6の特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者が原出願の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また原出願の出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。

1.特開2009-290052号公報
2.特許第3762409号公報
3.国際公開2008/146744号
4.特開2009-124035号公報
5.特開2007-235068号公報
6.特願2010-171376号(特開2012-33668号公報参照)
7.特開2009-290148号公報
8.特開2007-235069号公報

第4 理由3について
1 先願発明
(1)先願明細書等の記載
ア 原出願の出願の日前の他の特許出願であって,原出願の出願後に出願公開された特許出願6である特願2010-171376号(特開2012-33668号。以下,「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面には,以下の事項が記載されている(下線は,当審で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】
パルスレーザ光線を照射して脆性材料基板を分断するレーザ加工方法であって,
所定の繰り返し周波数のパルスレーザ光を,集光点が脆性材料基板の内部に位置するように照射して脆性材料基板の内部に改質層を形成するとともに,パルスレーザ光を分断予定ラインに沿って走査し,前記改質層から脆性材料基板の第1主面に向かって前記第1主面に到達しない長さの亀裂を進展させる第1工程と,
前記亀裂を残して脆性材料基板の第2主面側を研磨する第2工程と,
を含むレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第1工程は,脆性材料基板の厚みtに対して,前記厚みtの15%以上55%以下の長さで前記改質層から前記基板の第1表面に向かって亀裂を進展させ,
前記第2工程は,前記改質層を除去する,
請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記亀裂進展幅は,50μm以上で前記基板表面に到達しない長さである,請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第1工程におけるレーザ光の走査速度は,25mm/s以下500mm/s以上である,請求項1から3のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記第1工程におけるレーザ光の出力は,4.2W以上である,請求項1から4のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記脆性材料基板はサファイア基板である,請求項1から5のいずれかに記載のレーザ加工方法。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,レーザ加工方法,特に,パルスレーザ光線を照射して脆性材料基板を分断するレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード等の発光素子は,サファイア基板上に窒化物半導体を積層することによって形成されている。このようなサファイア基板等から構成される半導体ウェハには,複数の発光ダイオード等の発光素子が,分断予定ラインにより区画されて形成されている。そして,このような半導体ウェハを分断予定ラインに沿って分断する際には,レーザ加工が用いられている。
【0003】
サファイア基板等の脆性材料基板を分断するレーザ加工方法のひとつが特許文献1に示されている。この特許文献1に示された方法は,サファイア基板の分断予定ラインに対応する領域にレーザ光線を照射して加熱溶融を進行させ,これにより分断溝を形成して個々の発光素子に分割するものである。
【0004】
また,別のレーザ加工方法が特許文献2に示されている。この特許文献2に示された方法は,基板の内部にレーザ光線の集光点を合わせ,集光点を分断予定ラインに沿って走査し,基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成して分断するものである。
【0005】
さらに,特許文献3には,レーザ光を基板に照射することによって基板内部に改質層(切断起点領域)を形成し,その後基板が所定の厚さとなるように基板を研磨して基板を分割する方法が示されている。
<途中省略>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されたレーザ加工方法では,基板表面に分断溝が形成される。このため,分断溝が形成された後は抗折強度が低くなり,後工程で分断するための力が小さくて良いという利点がある。しかし,基板表面が加熱溶融されるために,溶融された飛散物が素子領域に付着する場合があり,不良品が生じやすい。
【0008】
また,特許文献2及び特許文献3に示されたレーザ加工方法では,基板内部に改質領域が形成されるために,飛散物が素子領域に付着するといった問題はない。しかし,特許文献2では,基板表面に分断溝が形成されないために,後の分断工程において大きな力が必要になる。また,特許文献3では,研磨することによって基板が分割されるが,基板が分割されてしまうと,後工程で基板を一体的に取り扱うことができない。したがって,研磨する表面とは逆側の表面にフィルム等を貼り付けなければならない。
【0009】
ここで,特に発光ダイオード素子が形成された基板では,改質層が発光ダイオードの発光効率を下げることが知られている。したがって,改質層は極力薄いあるいはない方が好ましい。
【0010】
なお,特許文献3に示されるように,基板に改質領域を形成した後に,基板を所定の厚さまで研磨することで,改質層を形成することが可能である。しかし,前述のように,特許文献3の方法では,研磨によって基板が分割されてしまい,後工程での取扱いが非常に不便になる。また,この不便さを解消するために,フィルムを貼り付ける等の別の工程が必要になる。
【0011】
本発明の課題は,サファイア基板等の脆性材料基板を,飛散物なしに,かつ比較的厚みが厚い基板においても容易に分断できるようにするとともに,取扱いが容易であり,しかもこの基板に形成された素子の特性を損なわないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係るレーザ加工方法は,パルスレーザ光線を照射して脆性材料基板を分断する加工方法であって,第1工程及び第2工程を含んでいる。第1工程では,所定の繰り返し周波数のパルスレーザ光を,集光点が脆性材料基板の内部に位置するように照射して脆性材料基板の内部に改質層を形成するとともに,パルスレーザ光を分断予定ラインに沿って走査し,改質層から脆性材料基板の第1主面に向かって第1主面に到達しない長さの亀裂を進展させる。第2工程では亀裂を残して脆性材料基板の第2主面側を研磨する。
【0013】
ここでは,脆性材料基板の表面は溶融されない。また,基板内部に改質層が形成され,この改質層から基板の第1表面に向かって第1表面に到達しない長さの亀裂が形成される。その後,亀裂を残して基板の第2主面側に研磨される。
【0014】
この方法では,改質層から基板表面に向かって亀裂が形成されるので,後工程である分断工程において,比較的小さな力で分断することができる。また,改質層が形成された側の基板表面が研磨されるので,改質層を少なく,あるいは除去することができ,この基板によって発光ダイオード等の素子を形成した場合に,改質層による特性の劣化を少なくすることができる。さらに,亀裂は基板の第1表面に到達していないので,第2主面側を研磨しても,基板が分割されることはない。したがって,後工程において,基板を一体的に取り扱うことができ,取扱いが容易になる。
【0015】
第2発明に係るレーザ加工方法は,第1発明のレーザ加工方法において,第1工程は,脆性材料基板の厚みtに対して,厚みtの15%以上55%以下の長さで改質層から基板の第1表面に向かって亀裂を進展させる。また,第2工程は改質層を除去する。
【0016】
ここでは,第1発明と同様に,分断工程において比較的小さな力で分断することができる。また,改質層の存在による素子への悪影響をなくすことができる。
【0017】
第3発明に係るレーザ加工方法は,第2発明のレーザ加工方法において,亀裂進展幅は,50μm以上で基板表面に到達しない長さである。
【0018】
ここでは,亀裂進展幅が基板表面に到達しないので,確実に飛散物をなくすことができる。また,第2工程での研磨後も,基板が分割されない。
【0019】
第4発明に係るレーザ加工方法は,第1から第3発明のいずれかのレーザ加工方法において,第2工程におけるレーザ光の走査速度は,25mm/s以下500mm/s以上である。
【0020】
このような走査速度でレーザ光を走査することにより,レーザ光が適切な範囲でオーバーラップし,適切な長さの亀裂を進展させることができる。
【0021】
第5発明に係るレーザ加工方法は,第1から第4発明のいずれかのレーザ加工方法において,第1工程におけるレーザ光の出力は,4.2W以上である。
【0022】
第6発明に係るレーザ加工方法は,第1から第5発明のいずれかのレーザ加工方法において,脆性材料基板はサファイア基板である。
【発明の効果】
【0023】
以上のような本発明では,サファイア基板等の脆性材料基板を,飛散物なしに,かつ比較的厚みが厚い基板においても容易に分断することができる。また,基板表面を研磨することによって改質層を薄く,あるいは除去するので,この基板に形成される素子の特性劣化を抑えることができる。さらに,基板研磨後においても基板が分割されないので,基板の取扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態による加工方法によって分断される半導体ウェハの外観斜視図。
【図2】本発明の一実施形態による加工方法を実施するためのレーザ加工装置の概略構成図。
【図3】ウェハに形成される改質領域を説明するための模式図。
【図4】改質層及び亀裂進展層が形成された基板の顕微鏡写真を図面にしたもの。
【図5】レーザ出力及びレーザ光線の相対速度をパラメータとして実験した亀裂進展の結果を示す図。
【図6】レーザ光線の相対速度と改質幅の関係を示す図。
【図7】レーザ光線の相対速度と亀裂進展幅の関係を示す図。
【図8】レーザ光線の出力と改質幅の関係を示す図。
【図9】レーザ光線の出力と亀裂進展幅の関係を示す図。
【図10】レーザ光線の出力と亀裂進展幅/改質幅の関係を示す図。
【図11】レーザ光線の各出力におけるレーザ光の走査速度と分断荷重との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[加工対象]
図1は,本発明の一実施形態による加工方法が適用される半導体ウェハの一例である。この図1に示す半導体ウェハ1は,サファイア基板2上に窒化物半導体が積層され,複数の発光ダイオード等の発光素子3が分割予定ライン4によって区画されて形成されたものである。
【0026】
[レーザ加工装置]
図2は,本発明の一実施形態による加工方法を実施するためのレーザ加工装置5の概略構成を示したものである。レーザ加工装置5は,レーザ光線発振器や制御部を含むレーザ光線発振ユニット6と,レーザ光を所定の方向に導くための複数のミラーを含む伝送光学系7と,伝送光学系7からのレーザ光をウェハ1の内部において集光させるための集光レンズ8と,を有している。なお,ウェハ1はテーブル9に載置されており,このテーブル9とレーザ光とは,相対的に上下方向に移動が可能であるとともに,水平面内で相対移動が可能となっている。
【0027】
[レーザ加工方法]
以上のようなレーザ加工装置5を用いたレーザ加工方法は以下の通りである。
【0028】
まず,レーザ光線発振ユニット6において,レーザ光の出力パワー等の加工条件を多光子吸収が生じる条件に制御し,ウェハ1のサファイア基板の内部に集光点Pを合わせる(図3参照)。そして,このレーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成する。
【0029】
その後,レーザ光を分断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより,集光点Pを分断予定ラインに沿って走査する。これにより,顕微鏡写真を図で示した図4に示すように,改質領域10が分断予定ラインに沿って移動し,サファイア基板の内部のみに改質された領域からなる改質層12が形成される。このとき,ウェハ1の表面ではレーザ光はほとんど吸収されないので,ウェハ1の表面が溶融することはない。また,レーザ加工条件を制御することによって,図4に示すように,改質層12からウェハ1の第1表面(第1主面)1aに向かって延びる,分断予定ラインに沿って連続した亀裂が形成される。すなわち,改質層12のウェハ第1表面1a側に,改質層12から亀裂が延びた亀裂進展層13が形成される。この亀裂は,改質層12の上下に熱応力が作用することによって生じるものである。
【0030】
次に,ウェハ1の第2表面(第2主面)1b側を研磨する。このとき,亀裂進展層13が残り,かつ改質層12が除去されるように研磨する。図4において,研磨量(研磨する厚み)を二点差線で示している。なお,ここで,研磨によって改質層12が除去されても,亀裂進展層13はウェハ1の表面まで到達していないので,研磨によってウェハ1が自動的に分断されることはない。
【0031】
以上のようにして,ウェハ1の内部に改質層12及び亀裂進展層13が形成され,さらに改質層12が除去された後は,分断予定ラインの両側に曲げ応力を加えることによって,ウェハ1を容易に分断することができる。
【0032】
以下に,改質層12及び亀裂進展層13を形成するレーザ加工方法の参考例及び実施例を示す。
【0033】
[実験条件]
各参考例及び実施例に共通の実験条件は以下の通りである。なお,ここでは,半導体ウェハ1を構成するサファイア基板を分断対象としている。
【0034】
基板:サファイア 厚みt=330μm
走査回数:1回
パルスレーザ繰り返し周波数:5MHz
集光位置:基板内部170μm
<途中省略>
<実施例3>
レーザ出力4.95Wで,走査速度を25mm/s?500m/sまで変化させた場合,走査速度が25mm/s?500mm/sにおいて以下に示すような長さの亀裂進展が観察できた。なお,亀裂進展長さとともに,基板に対する比率を示している。
【0040】
25mm/s:137.9μm---(42%)
50mm/s:130.5μm---(40%)
100mm/s:105μm-----(32%)
200mm/s: 84μm-----(25%)
300mm/s:111.9μm---(34%)
400mm/s: 75μm-----(23%)
500mm/s:78.7μm----(24%)
<途中省略>
以上の実験結果をまとめた表を図5に示す。図5において,「×」は亀裂進展が見られなかったもの,「○」は亀裂進展が観察されたことを示している。また,「○」の欄に並べて記載している数値が亀裂進展の長さである。この結果から,以上の実験では,基板厚みtに対して,この厚みtの15%以上55%以下の長さの亀裂進展が観察されたことがわかる。また,レーザ光の繰り返し周波数については,すべての加工条件で実験がなされたわけではないが,例えば出力5.5W,走査速度300mm/sにおいては,2MHz?5MHzで所望の亀裂進展が観察できた。
【0042】
なお,以上の実施例において,「亀裂進展の長さ」とは,亀裂の最大長さをいう。
【0043】
また,以上の実験データを基に,図6に出力毎の走査速度と改質幅との関係を示し,図7に出力毎の走査速度と亀裂進展幅との関係を示している。これらの図から,走査速度を下げてレーザスポットのオーバーラップ率を高くすると,改質幅が大きくなることが分かる。また,亀裂進展幅も同様の傾向を示していることが分かる。特に,図7から,走査速度を100mm/s以下にしたときに,出力によっては基板の半分程度の長さの亀裂が生じることがわかる。なお,図9に関して後述するように,亀裂進展幅は出力の大きさに比例して大きくなるわけではない。
【0044】
また,図8に走査速度毎の出力に対する改質幅を,図9に走査速度毎の出力に対する亀裂進展幅を示している。図8からは,出力を増加させることによって改質幅が大きくなることが分かる。また,図9から,出力に対して亀裂進展幅は極小値を持つことが分かる。
【0045】
図10は,出力に対して,改質幅と亀裂進展幅の割合(亀裂進展幅/改質幅)がどのように変化するかを示している。この図10から,走査速度が25?500mm/s,出力が4.2?7Wの範囲では,亀裂進展幅/改質幅は1.4?3.6であることがわかる。
【0046】
図11は,レーザ出力を変えて,レーザ光の走査速度と分断荷重との関係を測定した結果を示している。この図から明らかなように,各出力ともに,走査速度が遅いほど,すなわち,レーザ光が照射される領域のオーバーラップ範囲が大きいほど,分断強度が小さくなる傾向にあることがわかる。
【0047】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく,本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0048】
前記実施形態では,ウェハを構成する基板として,サファイア基板を例にとって説明したが,他の脆性材料基板においても本発明を同様に適用することができる。」

















【図5】








イ 上記記載から,先願明細書等には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)先願明細書等の特許請求の範囲には,請求項1ないし5を引用する請求項6に係る発明として,以下の発明が記載されていること。(なお,請求項4の「25mm/s以下500mm/s以上」は,先願明細書【0039】の「25mm/s?500mm/s」等の記載に照らして,「25mm/s以上500mm/s以下」の誤記であると認める。)
「所定の繰り返し周波数のパルスレーザ光を,集光点が脆性材料基板の内部に位置するように照射して脆性材料基板の内部に改質層を形成するとともに,パルスレーザ光を分断予定ラインに沿って走査し,前記改質層から脆性材料基板の第1主面に向かって前記第1主面に到達しない長さの亀裂を進展させる第1工程と,
前記亀裂を残して脆性材料基板の第2主面側を研磨する第2工程と,
を含む,パルスレーザ光線を照射して脆性材料基板を分断するレーザ加工方法であって,
前記第1工程は,脆性材料基板の厚みtに対して,前記厚みtの15%以上55%以下の長さで前記改質層から前記基板の第1表面に向かって亀裂を進展させるものであり,
前記第2工程は,前記改質層を除去するものであり,
前記亀裂進展幅は,50μm以上で前記基板表面に到達しない長さであり,
前記第1工程におけるレーザ光の走査速度は,25mm/s以上500mm/s以下であり,
前記第1工程におけるレーザ光の出力は,4.2W以上であり,
前記脆性材料基板はサファイア基板である,
レーザ加工方法。」

(イ)先願明細書等に記載された発明は,レーザ加工方法,特に,パルスレーザ光線を照射して脆性材料基板を分断するレーザ加工方法に関するものであること。

(ウ)レーザ光を基板に照射することによって基板内部に改質層(切断起点領域)を形成し,その後基板が所定の厚さとなるように基板を研磨して基板を分割する公知の方法には,基板内部に改質領域が形成されるため,飛散物が素子領域に付着するといった問題はないものの,研磨することによって基板が分割されてしまい,後工程で基板を一体的に取り扱うことができなくなり,非常に不便になるという課題があること。

(エ)先願明細書等に記載された発明の,解決しようとする課題は,サファイア基板等の脆性材料基板を,飛散物なしに,かつ比較的厚みが厚い基板においても容易に分断できるようにするとともに,取扱いが容易であり,しかもこの基板に形成された素子の特性を損なわないようにすることにあること。

(オ)改質層から基板表面に向かって亀裂が形成されると,後工程である分断工程において,比較的小さな力で分断することができること。

(カ)改質層が形成された側の基板表面を研磨することで,改質層を少なく,あるいは除去することができ,この基板によって発光ダイオード等の素子を形成した場合に,改質層による特性の劣化を少なくすることができること。

(キ)亀裂を基板の第1表面に到達しないようにすることで,第2主面側を研磨しても,基板が分割されることはなくなり,後工程において,基板を一体的に取り扱うことができ,取扱いが容易になること。

(ク)脆性材料基板の厚みtに対して,厚みtの15%以上55%以下の長さで改質層から基板の第1表面に向かって亀裂を進展させると,分断工程において比較的小さな力で分断することができること。

(ケ)レーザ光の走査速度を,25mm/s以上500mm/s以下とすることで,レーザ光が適切な範囲でオーバーラップし,適切な長さの亀裂を進展させることができること。

(コ)先願明細書等には,特許請求の範囲に記載された発明の一実施態様による加工方法を実施するためのレーザ加工装置5が記載されており,レーザ加工装置5は,レーザ光線発振器や制御部を含むレーザ光線発振ユニット6と,レーザ光を所定の方向に導くための複数のミラーを含む伝送光学系7と,伝送光学系7からのレーザ光をウェハ1の内部において集光させるための集光レンズ8と,を有しており,さらに,ウェハ1はテーブル9に載置されており,このテーブル9とレーザ光とは,相対的に上下方向に移動が可能であるとともに,水平面内で相対移動が可能となっていること。

(サ)上記(コ)のレーザ加工装置5を用いて,
a レーザ光線発振ユニット6において,レーザ光の出力パワー等の加工条件を多光子吸収が生じる条件に制御する工程と,
b ウェハ1のサファイア基板の内部に集光点Pを合わせる工程と,
c レーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成し,その後,レーザ光を分断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより,集光点Pを分断予定ラインに沿って走査して,改質領域10を分断予定ラインに沿って移動させて,サファイア基板の内部のみに改質された領域からなる改質層12を形成する工程であって,レーザ加工条件を制御することによって,改質層12からウェハ1の第1表面(第1主面)1aに向かって延びる,分断予定ラインに沿って連続した亀裂を形成することで,改質層12のウェハ第1表面1a側に,改質層12から亀裂が延びた亀裂進展層13を形成する工程と,
d ウェハ1の第2表面(第2主面)1b側を研磨して,亀裂進展層13が残り,かつ改質層12が除去されるように研磨する工程であって,研磨によって改質層12が除去されても,亀裂進展層13はウェハ1の表面まで到達していないので,研磨によってウェハ1が自動的に分断されることはない工程と,
を含むレーザ加工を行うこと。

(シ)実施例3は,半導体ウェハ1を構成するサファイア基板を分断対象として,
基板:サファイア 厚みt=330μm
走査回数:1回
パルスレーザ繰り返し周波数:5MHz
集光位置:基板内部170μm
の条件において,レーザ出力4.95Wで,走査速度を25mm/s?500m/sまで変化させた場合,走査速度が25mm/s?500mm/sにおいて,以下に示すような,亀裂進展長さと,基板に対する比率を示す,亀裂進展が観察できたこと。
25mm/s:137.9μm---(42%)
50mm/s:130.5μm---(40%)
100mm/s:105μm-----(32%)
200mm/s: 84μm-----(25%)
300mm/s:111.9μm---(34%)
400mm/s: 75μm-----(23%)
500mm/s:78.7μm----(24%)

(ス)図9は,レーザ光線の出力と亀裂進展幅の関係を示す図であって,上記アの記載に照らせば,同図から,レーザ出力4.95Wで,走査速度を25mm/s?500m/sまで変化させた場合,走査速度が25mm/s?500mm/sにおいて,亀裂進展幅が,140μm未満であることを読み取ることができること。

ウ 上記ア,イから,先願明細書等には,先願明細書等の実施例3に記載された加工方法を実施するためのレーザ加工装置5の構成に係る,次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「レーザ加工装置5における,レーザ光線発振器や制御部を含むレーザ光線発振ユニット6と,レーザ光を所定の方向に導くための複数のミラーを含む伝送光学系7と,伝送光学系7からのレーザ光をウェハ1の内部において集光させるための集光レンズ8と,を有する構成であって,
前記レーザ加工装置5は,
a レーザ光線発振ユニット6において,レーザ光の出力パワー等の加工条件を多光子吸収が生じる条件に制御する工程と,
b ウェハ1のサファイア基板の内部に集光点Pを合わせる工程と,
c レーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成し,その後,レーザ光を分断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより,集光点Pを分断予定ラインに沿って走査して,改質領域10を分断予定ラインに沿って移動させて,サファイア基板の内部のみに改質された領域からなる改質層12を形成する工程であって,レーザ加工条件を制御することによって,改質層12からウェハ1の第1表面(第1主面)1aに向かって延びる,分断予定ラインに沿って連続した亀裂を形成することで,改質層12のウェハ第1表面1a側に,改質層12から亀裂が延びた亀裂進展層13を形成する工程と,
d ウェハ1の第2表面(第2主面)1b側を研磨して,亀裂進展層13が残り,かつ改質層12が除去されるように研磨する工程であって,研磨によって改質層12が除去されても,亀裂進展層13はウェハ1の表面まで到達していないので,研磨によってウェハ1が自動的に分断されることはない工程と,
を含むレーザ加工を,
半導体ウェハ1を構成するサファイア基板を分断対象として,
基板:サファイア 厚みt=330μm
走査回数:1回
パルスレーザ繰り返し周波数:5MHz
集光位置:基板内部170μm
の条件において,レーザ出力4.95Wで,走査速度を25mm/s?500m/sまで変化させて行うレーザ加工装置5であり,
当該走査速度が25mm/s?500mm/sにおいて,以下に示すような,亀裂進展長さと,基板に対する比率を示す,亀裂進展が観察できたレーザ加工装置5。
25mm/s:137.9μm---(42%)
50mm/s:130.5μm---(40%)
100mm/s:105μm-----(32%)
200mm/s: 84μm-----(25%)
300mm/s:111.9μm---(34%)
400mm/s: 75μm-----(23%)
500mm/s:78.7μm----(24%)」

(2) 本願発明と先願発明の対比
ア 本願発明と先願発明を対比する。
(ア)先願発明の「レーザ光線発振ユニット6」,「集光レンズ8」は,それぞれ本願発明の「レーザ発振器」,「対物レンズ」に相当する。
したがって,先願発明の「レーザ光線発振器や制御部を含むレーザ光線発振ユニット6と,レーザ光を所定の方向に導くための複数のミラーを含む伝送光学系7と,伝送光学系7からのレーザ光をウェハ1の内部において集光させるための集光レンズ8と,を有する構成」は,本願発明の「レーザ光学部」に該当する。
そして,先願発明は,「ウェハ1のサファイア基板の内部に集光点Pを合わせ」て,「レーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成し」「改質された領域からなる改質層12を形成する」ものであって,当該「サファイア基板」は,「半導体ウェハ1を構成する」ものである。
そうすると,先願発明の前記「レーザ光線発振器や制御部を含むレーザ光線発振ユニット6と,レーザ光を所定の方向に導くための複数のミラーを含む伝送光学系7と,伝送光学系7からのレーザ光をウェハ1の内部において集光させるための集光レンズ8と,を有する構成」と,本願発明の「レーザ光学部」とは,いずれも,「レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ光学部」である点で一致する。

(イ)先願発明は,「レーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成し」「改質された領域からなる改質層12を形成する」「レーザ加工」を,「ウェハ1の第2表面(第2主面)1b側を研磨して,亀裂進展層13が残り,かつ改質層12が除去されるように研磨する工程であって,研磨によって改質層12が除去されても,亀裂進展層13はウェハ1の表面まで到達していないので,研磨によってウェハ1が自動的に分断されることはない」ような条件で行うものである。
そうすると,先願発明の,「ウェハ1の第2表面(第2主面)1b側を研磨して,亀裂進展層13が残り,かつ改質層12が除去されるように研磨する工程であって,研磨によって改質層12が除去されても,亀裂進展層13はウェハ1の表面まで到達していないので,研磨によってウェハ1が自動的に分断されることはない」ような条件で行う「レーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成し」「改質された領域からなる改質層12を形成する」「レーザ加工」と,本願発明の「前記レーザ発振器から照射されるレーザ光は」「前記ウェハの裏面を研削して前記改質領域を研削除去した後においても前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面に露出しない状態となるように,前記改質領域を形成する」とは,後記の点で一応相違するものの,いずれも,「前記レーザ発振器から照射されるレーザ光は」「前記ウェハの裏面を研削して前記改質領域を研削除去した後においても前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面に露出しない状態となるように,前記改質領域を形成する」ものである点で一致する。

イ 以上のことから,本願発明と先願発明との一致点及び一応の相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ光学部であって,
前記レーザ光学部は,少なくともレーザ発振器と対物レンズを備え,
前記レーザ発振器から照射されるレーザ光は,前記ウェハの裏面を研削して前記改質領域を研削除去した後においても前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面に露出しない状態となるように,前記改質領域を形成する,
レーザ光学部。」

(相違点1)
本願発明では,レーザ発振器から照射されるレーザ光は,「前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない状態とな」るように改質領域を形成すると特定されているのに対し,先願発明は,このような特定がされていない点。

(3)判断
相違点1について
上記第4の1(1)イ(ス)のとおり,先願明細書等には,レーザ出力4.95Wで,走査速度を25mm/s?500m/sまで変化させた場合,走査速度が25mm/s?500mm/sにおいて,亀裂進展幅が,140μm未満であることが記載されている。
そして,先願発明の「分断対象」である「半導体ウェハ1を構成するサファイア基板」の厚みは,330μmであり,集光位置は,基板内部170μmとされている。
ここで,前記亀裂進展幅が,その内部に前記集光位置を含むことは自明である。
してみれば,先願発明に係る「レーザ出力4.95Wで,走査速度を25mm/s?500m/sまで変化させて行うレーザ加工装置5」は,「このレーザ光をウェハ1に照射して,サファイア基板内部に改質領域10を形成する工程」において,基板内部170μmの集光位置を含むように,亀裂進展幅が140μm未満の亀裂を形成するものと理解されるところ,前記基板の厚みが330μmであることから,亀裂進展幅が140μm未満の亀裂が,基板内部170μmの集光位置から,前記基板の裏面に到達しないことは明らかである。
したがって,先願発明においても,レーザ発振器から照射されるレーザ光は,「前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない状態とな」るように改質領域を形成するものと認められるから,相違点1は実質的なものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから,相違点1は,実質的には相違点とはいえず,本願発明は先願発明と同一である。そして,本願の発明者と先願の発明者は同一ではなく,原出願の出願の時において,本願の出願人と,先願の出願人は同一ではないから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。

第5 理由1,2について
1 引用文献の記載
(1)引用文献1(特開2009-290052号公報)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項2】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明におけるウエーハの分割方法によれば,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程とウエーハの基板に形成されたストリートの表面に被覆された膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施し後に,ウエーハに外力を付与してウエーハをストリートに沿って破断するので,ウエーハをストリートに沿って破断する際には膜はストリートに沿って分断されているため,膜が破断されずに残ることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。」

「【0012】
裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて実施する。図4の(a)に示す研削装置4は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している。」

「【0013】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程は,図5に示すレーザー加工装置5を用いて実施する。図5に示すレーザー加工装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と,チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を具備している。チャックテーブル51は,被加工物を吸引保持するように構成されており,図示しない加工送り機構によって図5において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに,図示しない割り出し送り機構によって図5において矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
【0014】
上記レーザー光線照射手段52は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでいる。ケーシング521内には図示しないYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。このパルスレーザー光線発振手段は,図示の実施形態においては,ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長(例えば,1064nm)のパルスレーザー光線を発振する。上記ケーシング521の先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器522が装着されている。
【0015】
上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部に装着された撮像手段53は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されている。この撮像手段53は,撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0016】
図5に示すレーザー加工装置5を用いて変質層形成工程を実施するには,図5に示すようにチャックテーブル51上にウエーハ2の表面21aに貼着された保護テープ3側を載置する。そして,図示しない吸引手段を作動することにより,保護テープ3を介してウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,ウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル51は,図示しない加工送り機構によって撮像手段53の直下に位置付けられる。」

「【0032】
次に,本発明によるウエーハの分割方法の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程を実施するに際し,ウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,上記図3の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ3を貼着する(保護テープ貼着工程)。そして,上記図5に示すようにレーザー加工装置5を用いて上記図6に示す変質層形成工程と同様に実施する。この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。
【0033】
上述した変質層形成工程を実行したならば,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて上記第1の実施形態における裏面研削工程と同様に実施する。この結果,図15に示すようにウエーハ2は,基板21の裏面21bが研削されて所定の厚さ(例えば100μm)に形成される。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図15に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0034】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。このウエーハ支持工程は,上記図8に示すウエーハ支持工程と同様に実施し,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0035】
上述したウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,上記図9に示すレーザー加工装置5を用いて,上記図10に示す膜分断工程と同様に実施する。この結果,図16に示すようにストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。
【0036】
上記膜分断工程を実施したならば,ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,上記図12に示すテープ拡張装置6を用いて上記図13に示すウエーハ破断工程と同様に実施する。この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24は上述したようにストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0037】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

イ 上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ウエーハ2を準備する工程であって,前記ウエーハ2は,厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されたものであり,このウエーハ2には,ストリート22およびデバイス23を含む表面21aに,ポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている工程と,
前記ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程であって,
前記変質層形成工程は,チャックテーブル51上にウエーハ2の表面21aに貼着された保護テープ3側を載置して,吸引手段を作動することにより,保護テープ3を介してウエーハ2をチャックテーブル51上に保持して実施するものである工程と,
前記変質層形成工程を実行した後に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を,100μmの厚さに形成する裏面研削工程であって,
前記裏面研削工程は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している研削装置4を用いて実施するものであり,
さらに,前記裏面研削工程は,前記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから前記100μmの位置より裏面2bに形成することにより,前記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210を除去し,従って,ウエーハ2の基板21には,ストリート22に沿って形成された,表面21aに向けて変質層から発生したクラック211が残されるものである工程と,
前記裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する保護テープ剥離工程と,
前記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程と,
前記ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程であって,
前記ウエーハ破断工程は,テープ拡張装置6を用いて実施するものであって,この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割されるものである工程と,
を備えたウエーハの分割方法において用いられるレーザー光線照射手段52であって,
前記上記レーザー光線照射手段52は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでおり,該ケーシング521内にはYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されるとともに,前記ケーシング521の先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器522が装着されており,さらに,前記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部には撮像手段53が装着されており,該撮像手段53は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されている,
レーザー光線照射手段52。」

(2)引用文献2(特許第3762409号公報)には,以下の事項が記載されている。
「図23Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図23Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図24Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図25Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図25Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。」(第4ページ左欄16?41行)

「なお,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがある。各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図23A,図24A及び図25Aは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり,図23B,図24B及び図25Bは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23B,図24B及び図25Bの場合にも,半導体基板を研磨する工程後には,割れ15が半導体基板15の表面3に達する。
図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。
図24A及び図24Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25A及び図25Bに示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
また,図23A,図24A及び図25Aに示すように,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ,図23B,図24B及び図25Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する。
ところで,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に到達するか否かは,溶融処理領域13の表面3からの深さに関係するのは勿論であるが,溶融処理領域13の大きさにも関係する。すなわち,溶融処理領域13の大きさを小さくすれば,溶融処理領域13の表面3からの深さが浅い場合でも,割れ15は半導体基板1の表面3に到達しない。溶融処理領域13の大きさは,例えば切断起点領域を形成する工程におけるパルスレーザ光の出力により制御することができ,パルスレーザ光の出力を上げれば大きくなり,パルスレーザ光の出力を下げれば小さくなる。」(第10ページ左欄第6?49行)









2 本願発明と引用発明の対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「レーザー光線」,「ウエーハ2」,「YAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段」,「集光器522」,「変質層」,及び,「クラック211」は,それぞれ,本願発明の「レーザ光」,「ウェハ」,「レーザ発振器」,「対物レンズ」,「改質領域」,及び,「微小亀裂」に相当する。

イ 引用発明は,「裏面研削工程」の後に,「クラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割」するウエーハ破断工程を備えるのであるから,引用発明においては,裏面研削工程が終了した時点において,ウエーハ2は分割されておらず,すなわち,引用発明において,レーザー光線が形成した変質層は,「前記ウェハの裏面を研削して前記改質領域を研削除去した後においても前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面に露出しない状態となる」ように形成されていることは明らかといえる。

ウ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び一応の相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ光学部であって,
前記レーザ光学部は,少なくともレーザ発振器と対物レンズを備え,
前記レーザ発振器から照射されるレーザ光は,前記ウェハの裏面を研削して前記改質領域を研削除去した後においても前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面に露出しない状態となるように,前記改質領域を形成する,
レーザ光学部。」

(相違点2)
本願発明では,レーザ発振器から照射されるレーザ光は,「前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない状態とな」るように改質領域を形成すると特定されているのに対し,引用発明は,このような特定がされていない点。

3 判断
相違点2について
(1)引用発明は,厚さが600μmのシリコン基板21のウエーハ2の表面2aから100μmの位置より裏面2bに変質層を形成し,その後,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を,100μmの厚さに形成するとともに,ウエーハ2の基板21に,ストリート22に沿って形成された,表面21aに向けて変質層から発生したクラック211を残す工程を含むウエーハの分割方法において用いられるレーザー光線照射手段52に係る発明である。
そうすると,引用発明においては,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削して100μmの厚さに形成した際に,変質層から発生したクラック211が研削後のウエーハ2に残るように,変質層を形成するのであるから,当該変質層は,研削後のウエーハ2の裏面となる,ウエーハ2の表面2aから100μmの位置の近傍に形成されているものと理解することが自然かつ合理的と認められる。
そして,引用発明は,上記(2)ア(イ)で検討したように,「改質領域から延びた微小亀裂が前記ウェハの表面に到達しない」ものである。
してみれば,引用発明において,厚さが600μmのシリコン基板21のウエーハ2の表面2aから100μmの位置の近傍に形成されている変質層から表面21aに向けて発生したクラック211が前記表面21aに到達しないのであれば,前記変質層から,より遠い面である裏面21bには,改質領域を形成した場合に改質領域から延びる微小亀裂がウェハの裏面に露出しない状態となることは当然といえる。
したがって,相違点2は,実質的なものではない。
すなわち,本願発明は,引用文献1に記載された発明である。

(2)仮に,相違点2が,実質的なものであったとしても,引用文献2の図23Aないし図25Bに,レーザ発振器から照射されるレーザ光で,「前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びた微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達しない状態とな」るように改質領域を形成することが記載されていること,及び,当該構成に係る効果が格別なものであるとは認められないことに照らして,引用発明において,上記相違点2について,本願発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことである。

(3)請求人は,令和元年9月26日に提出した意見書において,「(ウ)すなわち,引例1は,『裏面研削工程』と『ウエーハ破断工程』との間に『膜分断工程』を行うことを開示するにすぎず,『膜分断工程』を捨象したあらゆる構成を示唆するものとはいえず,本願発明1の構成を直接開示ないし示唆するものとはいえない。」と主張する。
しかしながら,本願発明は,上記第2に記載したとおりの「改質領域を形成する」「レーザ光学部」に係る発明であって,改質領域を形成した後の工程を何ら限定するものではない。
したがって,請求人の前記主張は,請求項の記載に基づかないものであって採用することはできない。

(4)また,請求人は,「(カ)そして,本願発明1は,上記構成(審決注.「前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない状態とな」る構成)により,ウェハの裏面を研削する際に,レーザ光が透過した部分を含む改質領域を除去することが可能となると共に,研削中に研削液などがウェハ内部に浸透せず,研削中のチップ飛びを軽減し,改質領域から延びる微小亀裂のみをチップ断面に残すことが可能となり,安定した品質のチップを効率よく得ることができる,という格別な効果を奏するものである。」と主張する。
しかしながら,上記効果の内,「ウェハの裏面を研削する際に,レーザ光が透過した部分を含む改質領域を除去することが可能となる」とする効果は,レーザ光がウェハの裏面から照射されるものであることを限定しない本願発明の効果であるとは認められない。
仮に,当該効果を認めたとしても,当該効果は,引用発明の「レーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する」,「前記変質層形成工程を実行した後に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削」及び「前記裏面研削工程は,前記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから前記100μmの位置より裏面2bに形成することにより,前記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210を除去し」という構成から当然に奏されるものである。
他方,上記効果の内,「研削中に研削液などがウェハ内部に浸透せず,研削中のチップ飛びを軽減し,改質領域から延びる微小亀裂のみをチップ断面に残すことが可能となり」とする効果は,本願明細書に記載された効果ではない。
すなわち,改質領域を形成した場合に,「前記改質領域から延びた微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達しない状態」であったとしても,ウェハの裏面を研削して前記改質領域を取り除く際には,研削の開始から終了までのいずれかの時点において,改質領域から発生した微小亀裂が研削面に露出することとなるのは必然であり,「研削中」に「研削液などがウェハ内部に浸透せず」ということは起こり得ないから,当該効果についての主張は失当である。
なお,本願明細書には,「【0018】特に,クラックが基板の表面上にまで先走っている場合,エッチング液がチップとチップを接着しているフィルムの間に浸透し,チップをフィルムから剥離するという問題が発生する。・・・【0020】また,こうした場合,結果的にクラックが表面上にまで先走って,一部チップとフィルムの間にエッチング液が入り込み,処理中にチップが剥がれる問題が発生することもある。特に,研削後が進行して基板が薄くなった場合,少しの外力でクラックが進行しやすく,クラックが表面に達することでチップ剥離が発生するため,基板が薄くなった場合には,クラックをそれ以上進行させないように処理をしなければならない。」との記載はあるが,当該記載は,「クラックが基板の表面上にまで先走っている場合」に,「一部チップとフィルムの間にエッチング液が入り込み,処理中にチップが剥がれる問題が発生することもあ」り,「一部チップとフィルムの間にエッチング液が入り込み,処理中にチップが剥がれる問題が発生すること」を懸念するものであり,「微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない」構成に係る効果を示唆するものではない。
しかも,上記2(1)イのとおり,引用発明において,レーザー光線が形成した変質層は,「前記改質領域を形成した場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に露出しない状態とな」ることは明らかといえるから,本願明細書の【0018】,【0020】に記載された効果は,引用発明においても,本願発明と同様に奏されるものと認められる。
したがって,請求人の前記主張は採用することができない。

(5)小括
以上のとおりであるから,相違点2は,実質的には相違点とはいえず,本願発明は,引用文献1に記載された発明である。したがって,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,仮に,相違点2が,実質的なものであったとしても,本願発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,その原出願の出願の日前の特許出願であって,その原出願の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた上記6の特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者が原出願の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また原出願の出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
さらに,本願発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-22 
結審通知日 2019-11-25 
審決日 2019-12-10 
出願番号 特願2019-7299(P2019-7299)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01L)
P 1 8・ 161- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 西出 隆二
加藤 浩一
発明の名称 レーザ光学部  
代理人 松浦 憲三  

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