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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 判示事項別分類コード:527 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1359150
審判番号 不服2019-5601  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-25 
確定日 2020-01-24 
事件の表示 特願2018-217613「レーザ加工装置及びレーザ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日出願公開,特開2019- 68077〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年11月16日に出願された特願2010-256217号(以下「原出願」という。)の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願(特願2016-87866号)とし,さらに,その一部を平成28年11月14日に新たな特許出願(特願2016-221841号)とし,さらに,その一部を平成30年4月20日に新たな特許出願(特願2018-81524号)とし,さらに,その一部を平成30年6月28日に新たな特許出願(特願2018-123505号)とし,さらに,その一部を平成30年10月3日に新たな特許出願(特願2018-188410号)とし,さらに,その一部を平成30年11月20日に新たな特許出願としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成30年12月11日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月15日 :意見書,補正書の提出
平成31年 1月28日付け:拒絶査定
平成31年 4月25日 :審判請求書の提出
令和 元年 6月10日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月 9日 :意見書,手続補正書の提出
令和 元年 9月17日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 元年11月13日 :意見書,手続補正書の提出

第2 令和元年11月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年11月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ加工装置であって,
前記ウェハの裏面側から前記レーザ光を照射して前記ウェハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェハの裏面側から前記レーザ光が照射された場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達させない状態となるようにするために,前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段と,
を備え,
前記制御手段は,前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展して前記改質領域が除去されるように,前記集光点位置を制御する,
レーザ加工装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,令和元年8月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ加工装置であって,
前記ウェハの裏面側から前記レーザ光を照射して前記ウェハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェハの裏面側から前記レーザ光が照射された場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達させない状態となるようにするために,前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段と,
を備え,
前記制御手段は,前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域が除去されるように,前記集光点位置を制御する,
レーザ加工装置。」

2 補正の適否
(1)最後の拒絶理由に対する応答として補正がされた場合(拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において,最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき),当該補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件を満たすことを要する。
そして,第17条の2第5項の要件は,特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限るとするものである。
一 第三十6条第5項に規定する請求項の削除
二 特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
三 誤記の訂正
四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)

a そこで,請求項1についての本件補正の補正の適否について検討すると,本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された「集光レンズ」と「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」とを備える「レーザ加工装置」に係る発明を特定するために必要な事項である「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」の「制御」について,補正前の「前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域が除去されるように」を,「前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展して前記改質領域が除去されるように」と補正するものである。
すなわち,上記補正は,ウェハの裏面研削が行われた場合に,「改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展」するものに限定するものである。
そして,補正後の請求項1においては,改質領域から延びる微小亀裂のウェハの表面側への「進展」は,ウェハの裏面研削が行われた場合に生じることが特定されているだけであるから,請求人が補正の根拠として提示した,本願の出願当初の明細書の【0137】?【0144】に記載される,「本実施の形態では,研削によるせん断応力によって亀裂が進展するのではなく,研削熱による熱膨張が亀裂進展の支配的要素である。」(【0141】)ものに限定されないことは明らかである。
一方,ウェハの裏面研削に際して,ウェハに回転する研削砥石が接触することによって,ウェハの表面に対して垂直方向(研削砥石を押圧する方向),及び,ウェハの表面に対して水平方向(研削砥石の回転方向)に生じる応力が,ウェハに印加されることは自明である。
そうすると,本件補正前の請求項1に記載された発明においても,ウェハの裏面研削が行われた場合に,改質領域から延びる微小亀裂は,その微小亀裂の先端に当該応力が集中することで,その進展の程度(長さ)は別として,微小亀裂が進展する(本願明細書の【0141】に記載された,本実施の形態に係る亀裂進展と対比して記載された,研削によるせん断応力による亀裂の進展が生じる)ものと認められる。
してみれば,請求項1についての本件補正は,本件補正前の請求項1においても生じていた事項を明記したものに過ぎず,特許請求の範囲を減縮するものとはいえない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

b なお,仮に,本件補正の,改質領域から延びる微小亀裂のウェハの表面側への「進展」が,請求人が,補正の根拠として,審判請求書において主張する,本願の出願当初の明細書の【0137】?【0144】に記載される,「本実施の形態では,研削によるせん断応力によって亀裂が進展するのではなく,研削熱による熱膨張が亀裂進展の支配的要素である。」(【0141】)ものを意味していると解したとしても,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
すなわち,研削熱による熱膨張が支配的要素である亀裂進展は,請求人が補正の根拠として主張する本願明細書の【0137】?【0144】に記載される研削除去工程によって生じるものであり,当該研削除去工程は,レーザー改質工程により切断ラインLに沿って改質領域を形成した後に,搬送装置によりウェハWをレーザーダイシング装置から研削装置へ搬送し,その後,ウェハの温度を測定する手段と,研削中に砥石又はウェハへの給水をON,OFFする手段と,研削開始から所定の時間経過後にウェハ温度が所定の値になるまでウェハへの給水をOFFするように制御する手段とを備えた研削装置で行われるものである。
してみれば,ウェハの裏面研削の際に,研削熱による熱膨張が支配的要素である亀裂が「進展」するか否かは,搬送装置によりレーザーダイシング装置から搬送された後の研削装置において,研削開始から所定の時間経過後にウェハ温度が所定の値になるまでウェハへの給水をOFFするように制御するか否かによって決定されると理解される。
すなわち,レーザ光の集光点位置を制御する制御手段によって,「レーザ光の集光点位置」を同一の位置に制御した場合において,後の研削装置におけるウェハへの給水のON,OFFによって亀裂が「進展」するか否かが変更されるのであるから,「レーザ光の集光点位置」を制御することでは,ウェハの裏面研削の際に,研削熱による熱膨張が支配的要素である亀裂が「進展」するか否かを制御することができないことは明らかである。
そうすると,「集光レンズ」と「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」とを備える「レーザ加工装置」に係る発明を特定するために必要な事項である「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」の「制御」について,補正前の「前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域が除去されるように」を,「前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展して前記改質領域が除去されるように」と補正した場合において,前記「レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」の「制御」の内容については,何らの限定も付されたものではない。
すなわち,請求項1についての本件補正は,「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」とは認められないから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

c 以上のとおり,改質領域から延びる微小亀裂のウェハの表面側への「進展」を,いずれに解したとしても,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また,本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する他の事項を目的とするものとも認めることはできない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)なお,仮に,本件補正が,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認めたとしても,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)は,以下のとおり,同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない(特許出願の際独立して特許を受けることができない)から,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

ア 本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項,及び,引用発明
(ア)引用文献1の記載事項,及び,引用発明1
a 令和元年9月17日付けの拒絶理由(最後の拒絶理由)で引用した原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2009-290052号公報(平成21年12月10日出願公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【請求項2】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明におけるウエーハの分割方法によれば,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程とウエーハの基板に形成されたストリートの表面に被覆された膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施し後に,ウエーハに外力を付与してウエーハをストリートに沿って破断するので,ウエーハをストリートに沿って破断する際には膜はストリートに沿って分断されているため,膜が破断されずに残ることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。」

「【0012】
裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて実施する。図4の(a)に示す研削装置4は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している。」

「【0013】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程は,図5に示すレーザー加工装置5を用いて実施する。図5に示すレーザー加工装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と,チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を具備している。チャックテーブル51は,被加工物を吸引保持するように構成されており,図示しない加工送り機構によって図5において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに,図示しない割り出し送り機構によって図5において矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
【0014】
上記レーザー光線照射手段52は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでいる。ケーシング521内には図示しないYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。このパルスレーザー光線発振手段は,図示の実施形態においては,ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長(例えば,1064nm)のパルスレーザー光線を発振する。上記ケーシング521の先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器522が装着されている。
【0015】
上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部に装着された撮像手段53は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されている。この撮像手段53は,撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0016】
図5に示すレーザー加工装置5を用いて変質層形成工程を実施するには,図5に示すようにチャックテーブル51上にウエーハ2の表面21aに貼着された保護テープ3側を載置する。そして,図示しない吸引手段を作動することにより,保護テープ3を介してウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,ウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル51は,図示しない加工送り機構によって撮像手段53の直下に位置付けられる。
【0017】
チャックテーブル51が撮像手段53の直下に位置付けられると,撮像手段53および図示しない制御手段によってウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント工程を実行する。即ち,撮像手段53および図示しない制御手段は,ウエーハ2に形成されているストリート22と,ストリート22に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器522との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し,レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。このアライメント工程を実施する際にはウエーハ2のストリート22が形成されている表面21aは下側に位置しているが,撮像手段53が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので,裏面21bから透かしてストリート22を撮像することができる。
【0018】
以上のようにしてチャックテーブル51上に保持されたウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメントが行われたならば,図6の(a)で示すようにチャックテーブル51をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器522が位置するレーザー光線照射領域に移動し,所定のストリート22の一端(図6の(a)において左端)をレーザー光線照射手段52の集光器522の直下に位置付ける。そして,集光器522からシリコン基板21に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル51を図6の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして,図6の(b)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光器522の照射位置がストリート22の他端(図6の(b)において右端)の位置に達したら,パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル51の移動を停止する。この変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付ける。この結果,ウエーハ2の基板21には,図6の(b)および図7に示すようにストリート22に沿って厚さ方向中間部に変質層210が形成される。このようにウエーハ2の基板21の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されると,基板21には図7に示すように変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてストリート22に沿ってクラック211が発生する。」

「【0032】
次に,本発明によるウエーハの分割方法の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程を実施するに際し,ウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,上記図3の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ3を貼着する(保護テープ貼着工程)。そして,上記図5に示すようにレーザー加工装置5を用いて上記図6に示す変質層形成工程と同様に実施する。この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。
【0033】
上述した変質層形成工程を実行したならば,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて上記第1の実施形態における裏面研削工程と同様に実施する。この結果,図15に示すようにウエーハ2は,基板21の裏面21bが研削されて所定の厚さ(例えば100μm)に形成される。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図15に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0034】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。このウエーハ支持工程は,上記図8に示すウエーハ支持工程と同様に実施し,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0035】
上述したウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,上記図9に示すレーザー加工装置5を用いて,上記図10に示す膜分断工程と同様に実施する。この結果,図16に示すようにストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。
【0036】
上記膜分断工程を実施したならば,ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,上記図12に示すテープ拡張装置6を用いて上記図13に示すウエーハ破断工程と同様に実施する。この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24は上述したようにストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0037】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

b 上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハの前記基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法における,前記変質層形成工程を実施する際に用いるレーザー加工装置5であって,
前記ウエーハ2は,厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されたものであり,このウエーハ2には,ストリート22およびデバイス23を含む表面21aに,ポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されており,
前記レーザー加工装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と,チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を具備しており,ここで,前記レーザー光線照射手段52は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでおり,該ケーシング521内にはYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されるとともに,前記ケーシング521の先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器522が装着されており,さらに,前記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部には撮像手段53が装着されており,該撮像手段53は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されているものであり,
前記変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付け,この結果,ウエーハ2の基板21には,ストリート22に沿って厚さ方向中間部に変質層210が形成され,このようにウエーハ2の基板21の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されると,基板21には,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてストリート22に沿ってクラック211が発生し,
前記裏面研削工程は,ウエーハ2を,100μmの厚さに形成するものであって,前記裏面研削工程は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している研削装置4を用いて実施するものであり,さらに,前記裏面研削工程は,前記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから前記100μmの位置より裏面2bに形成することにより,前記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210を除去し,従って,ウエーハ2の基板21には,ストリート22に沿って形成された,表面21aに向けて変質層から発生したクラック211が残されるものである,
レーザー加工装置5。」

(イ)引用文献2の記載事項
a 令和元年9月17日付けの拒絶理由(最後の拒絶理由)で引用した原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献2(特開2005-166728号公報)(平成17年6月23日出願公開。以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0038】
分断シロの帯幅は,レーザ光のスポット径,集光用レンズの倍率,レーザ光が通過する基板材料の屈折率を考慮し,上記(B)の工程において照射されるレーザ光が積層構造部を通過するときのビーム幅(分断シロの帯幅方向についてのビームの幅)を包含し得る幅とすることが好ましい。分断シロの帯幅を過度に狭く取ると,レーザ光と積層構造部とがオーバラップし変色する部分が生じる。また,分断シロの帯幅を過度に広く取ると,1枚の半導体ウエハーから得られるチップの数が少なくなる。
分断時に改質領域を起点として発生する割れは,分岐や進行方向の変更をしながら進むので,ウエハー基板の横方向にも広がりをもって基板表面に達する。従って,分断シロの帯幅を適当に設けることによって,割れがGaN系結晶層内あるいはGaN系結晶層のうち素子機能を担う層内に入り込むことが抑制されるので,素子部が受ける影響をより低く押さえることができる。
これらの点から,分断シロの帯幅W1は,5?30μm,特に10?20μmが好ましい寸法である。」

(ウ)引用文献3の記載事項
令和元年9月17日付けの拒絶理由(最後の拒絶理由)で引用した原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,引用文献3(特許第3762409号公報)(平成18年4月5日:発行日。以下「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「図23Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図23Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図24Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図25Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図25Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。」(第4ページ左欄16?41行)

「なお,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがある。各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図23A,図24A及び図25Aは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり,図23B,図24B及び図25Bは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23B,図24B及び図25Bの場合にも,半導体基板を研磨する工程後には,割れ15が半導体基板15の表面3に達する。
図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。
図24A及び図24Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25A及び図25Bに示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
また,図23A,図24A及び図25Aに示すように,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ,図23B,図24B及び図25Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する。
ところで,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に到達するか否かは,溶融処理領域13の表面3からの深さに関係するのは勿論であるが,溶融処理領域13の大きさにも関係する。すなわち,溶融処理領域13の大きさを小さくすれば,溶融処理領域13の表面3からの深さが浅い場合でも,割れ15は半導体基板1の表面3に到達しない。溶融処理領域13の大きさは,例えば切断起点領域を形成する工程におけるパルスレーザ光の出力により制御することができ,パルスレーザ光の出力を上げれば大きくなり,パルスレーザ光の出力を下げれば小さくなる。」(第10ページ左欄第6?49行)









ウ 引用文献1を主引用例とした新規性進歩性の検討
(ア)本件補正発明と引用発明1の対比
a 本件補正発明と引用発明1を対比する。
(a)引用発明1の「レーザー光線」,「ウエーハ2」,「変質層」,及び,「クラック211」は,それぞれ,本件補正発明の「レーザ光」,「ウェハ」,「改質領域」,及び,「微小亀裂」に相当する。

(b)引用発明1の,「集光器522」が,本件補正発明の,レーザ光を「ウェハの内部に集光する集光レンズ」に相当する部材を備えることは明らかである。

(c)引用発明1は,「パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付け」るのであるから,当該位置付けのための,パルスレーザー光線の集光点Pを制御する手段を備えていることは自明である。

(d)引用発明1は,「前記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから前記100μmの位置より裏面2bに形成することにより,前記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210を除去」するものであるから,上記(c)で検討した,パルスレーザー光線の集光点Pを制御する手段が,ウェハの裏面研削が行われた場合に改質領域が除去されるように,集光点位置を制御するものであることは自明である。

(e)以上のことから,本件補正発明と引用発明1との一致点及び一応の相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「レーザ光をウェハの内部に集光させて改質領域を形成するレーザ加工装置であって,
前記ウェハの裏面側から前記レーザ光を照射して前記ウェハの内部に集光する集光レンズと,
前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段と,
を備え,
前記制御手段は,前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域が除去されるように,前記集光点位置を制御する,
レーザ加工装置。」

(相違点1)
本件補正発明では,集光レンズによるレーザ光の集光点位置を制御する制御手段が,「前記ウェハの裏面側から前記レーザ光が照射された場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達させない状態となるようにするために」レーザ光の集光点位置を制御するものであるのに対して,引用発明1では,このような特定がされていない点。

(相違点2)
本件補正発明では,集光レンズによるレーザ光の集光点位置を制御する制御手段が,ウェハの裏面研削が行われた場合に,「前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展」するように集光点位置を制御するものであるのに対して,引用発明1では,このような特定がされていない点。

(イ)判断
a 相違点1について
(a)引用発明1に係るレーザー加工装置5が,レーザー光線をウエーハの裏面側から基板の内部に集光点を位置付けてストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する際に用いられるものであるウエーハの分割は,厚さが600μmのシリコン基板21からなるウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削して100μmの厚さに形成することで前記変質層210を除去するとともに,ウエーハ2の基板21に,ストリート22に沿って形成されたクラック211を残す裏面研削工程の後に,この残されたクラック211によって強度が低下せしめられたストリート22に沿って,100μmの厚さに形成したウエーハ2を破断せしめて個々のデバイス23に分割するものである。
すなわち,デバイスの分割には,基板の裏面を研削して100μmの厚さに形成して変質層を除去した後にウエーハの基板に残されたクラックのみが必要とされるのであるから,変質層を,研削除去される基板の内部であって,かつ前記必要とされる「残されたクラック」の近傍に形成することは,当業者にとって自然かつ合理的といえる。
このことは,引用文献2に,「分断時に改質領域を起点として発生する割れは,分岐や進行方向の変更をしながら進むので,ウエハー基板の横方向にも広がりをもって基板表面に達する。」(【0038】)と記載されていることからも明らかなように,亀裂の進展によって,亀裂の先端の位置が,基板の横方向にも広がりをもって変更されるので,前記「残されたクラック」の位置を,ウエーハの表面の面内において,目的とする位置の近傍に維持するには,変質層から前記「残されたクラック」までの距離を短くすることが望まれることからも自明の要求といえる。
したがって,引用文献1に記載された前記方法において,当該変質層210を形成するレーザ光の集光は,100μmの厚さに形成したウエーハ2に残されるクラック211の近傍に行われるといえる。
一方,引用文献1に記載された前記方法は,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する段階を含む変質層形成工程,裏面研削工程,及び,前記ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を備えたものである。
そして,前記ウエーハ破断工程において,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下しているものの,ウエーハ2には,外力を付与することができるのであるから,当該ウエーハ破断工程が始まる時点においては,クラック211は,シリコン基板21の表面21aには到達していないこと,すなわち,シリコン基板21が,クラック211によって,個々のデバイスに分かれていないことは明らかである。
さらに,前記ウエーハ破断工程が始まる時点において,クラック211が,シリコン基板21の表面21aには到達していないのであれば,それよりも前の時点である,変質層形成工程の終了時において,クラック211が,シリコン基板21の表面21aには到達していないことは当然である。
そうすると,引用発明1において,変質層の形成は,変質層形成工程の終了時において,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより近い距離(略100μm)にあるシリコン基板21の表面21aに到達していない程度のレーザー強度で行われるのであるから,同じ変質層形成工程の終了時において,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより遠い距離(略500μm)にあるシリコン基板21の裏面21bに到達していないことは当然といえる。
なお,引用発明1において,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより遠い距離(略500μm)にあるシリコン基板21の裏面21bに到達していないことは,レーザ光によって形成される微小亀裂の長さが,最大でおおよそ100μm程度にすぎないという以下の周知技術からも理解されることである。

・周知例:特開2006-179790号公報
「【0031】
集光点Aにレーザ光Lが集光すると,部分的にシリコンの結晶状態が変化し,その結果,内部亀裂12が形成される。実験結果では,裏側表面10Bから入射したレーザ光Lによる内部亀裂12は,集光点Aより裏側表面10B方向と表側表面10F方向との両方向に進行して形成されることを確認した。その亀裂の進行方向の長さは,実験条件に依存するが,最大でおおよそ100μm程度であった。」

従って,引用発明1において,レーザー光線をウエーハの裏面側から基板の内部に集光点を位置付けてストリートに沿って照射する際のパルスレーザー光線の集光点Pは,変質層形成工程後,変質層210から裏面21bに向けて延びるクラック211が,前記裏面21bに到達しない位置に位置づけられるように,その位置が制御されているものと認められる。
したがって,本件補正発明と,引用発明1は,集光レンズによるレーザ光の集光点位置を制御する制御手段が,「前記ウェハの裏面側から前記レーザ光が照射された場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達させない状態となるようにするために」レーザ光の集光点位置を制御するものである点で一致する。

(b)なお,仮に,引用文献1の記載からは,改質領域の形成後,前記改質領域から延びるクラックが,ウエーハの裏面に到達していないことが直ちにいえないとした場合においても,クラック211が,レーザ光の集光する位置からより近い距離にあるシリコン基板21の表面21aに到達していない引用発明1において,変質層形成工程の後に,レーザ光の集光する位置からより遠い距離にあるシリコン基板21の裏面21bに到達しないようにすることは,引用文献3の図24B等の記載を参酌すれば,当業者が適宜なし得たことであり,また,このような構成を採用したことによる格別の効果も認められない。

(c)したがって,上記相違点1は,実質的なものではないか,あるいは,引用発明1において,上記相違点1について,本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

b 相違点2について
(a)本件補正発明の,ウェハの裏面研削が行われた場合に「前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展」は,搬送装置によりレーザーダイシング装置から搬送された後の研削装置における裏面研削の際の態様を特定するものであり,「集光レンズ」と「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」とを備える「レーザ加工装置」に係る本件補正発明を特定するために必要な事項である「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」の「制御」を限定する構成としての意味を有するとは認めることはできない。
したがって,上記相違点2は,実質的なものとは認められない。

(b)なお,仮に,本件補正発明の「前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展」を,本件補正発明の構成として意味を有するものと認めたとしても,上記2(1)aでの検討と同様に,引用発明1においても,ウエーハの裏面研削に際して,ウエーハに研削砥石が接触することによって,ウェハの表面に対して垂直方向,及び,ウェハの表面に対して水平方向に生じる応力が,ウェハに印加されることは自明であり,当該応力がクラックの先端に集中することで,その進展の程度(長さ)は別として,クラックが進展すると認められるから,本件補正発明と,引用発明1は,集光レンズによるレーザ光の集光点位置を制御する制御手段の制御が,「前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展」するためのものである点で一致するといえる。

(c)したがって,上記相違点2は,実質的なものとはいえない。

(d)そうすると,本件補正発明は,引用文献1に記載された発明であると認められる。
また,仮に,本件補正発明と,引用発明1との間に相違点が存在するとしても,引用発明1において,当該相違点について,本件補正発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

c 請求人は,令和元年11月13日に提出した意見書において,「(ウ)すなわち,引用文献1は,『裏面研削工程』と『ウエーハ破断工程』との間に『膜分断工程』を行うことを開示するにすぎず,『膜分断工程』を捨象したあらゆる構成を示唆するものとはいえず,本願発明1の構成を直接開示ないし示唆するものとはいえない。」と主張する。
しかしながら,本件補正発明は,「集光レンズ」と「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」とを備える「レーザ加工装置」に係る発明であって,改質領域を形成した後の工程を何ら限定するものではないから,本件補正発明に係る「レーザ加工装置」が,「裏面研削工程」と「ウエーハ破断工程」との間に「膜分断工程」を行うウェハ加工に利用されることを排除するものではない。
したがって,請求人の前記主張は,請求項の記載に基づかないものであって採用することはできない。

d さらに,請求人は,「(コ)これに対し,本願発明1によれば,「前記ウェハの裏面側から前記レーザ光が照射された場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの裏面に到達させない状態」となり,且つ,「前記ウェハの裏面研削が行われた場合に前記改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展して前記改質領域が除去される」ことにより,ウェハの裏面を研削する際に,レーザ光が透過した部分を含む改質領域を除去することが可能となると共に,研削中に研削液などがウェハ内部に浸透せず,研削中のチップ飛びを軽減し,改質領域から延びる微小亀裂のみをチップ断面に残すことが可能となり,安定した品質のチップを効率よく得ることができ,さらに,研削熱による熱膨張によって生じる内部歪みが支配的要素となって亀裂進展が行われるので,ウェハ面内の剛性ばらつきなどに起因することなく,ウェハ面内各点一様に微小亀裂を進展させることが可能となり,また,ウェハを熱膨張させる条件,すなわち,研削による摩擦熱が発生するための条件(例えば,研削液の量)を変化させることによって亀裂の進展度合い(亀裂深さや亀裂進展速度等)を容易に調整することができるので(本願明細書の段落[0139]?[0143]),改質領域から延びる微小亀裂を精度よく進展させることが可能となるという効果が得られるものであるところ,このような効果は,引用文献1?6には記載も示唆もなく,当業者であっても予測できない顕著な効果である。」として,本件補正発明における格別の効果を主張する。
しかしながら,当該効果は,レーザー改質工程により切断ラインLに沿って改質領域を形成した後に,搬送装置によりウェハWをレーザーダイシング装置から搬送した先の,ウェハの温度測定する手段と,研削中に砥石又はウェハへの給水をON,OFFする手段と,研削開始から所定の時間経過後にウェハ温度が所定の値になるまでウェハへの給水をOFFするように制御する手段とを備えた研削装置の制御によって奏される効果であって,「集光レンズ」と「前記集光レンズによる前記レーザ光の集光点位置を制御する制御手段」とを備える「レーザ加工装置」に係る本件補正発明の効果であるとは認められない。
すなわち,上記効果の主張は,請求項の記載に基づかない主張であるから採用することができない。

e 以上のとおりであるから,仮に,本件補正が,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認めたとしても,本件補正発明は,引用文献1に記載された発明である。したがって,本件補正発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
さらに,本件補正発明と引用発明1との間に相違点が存在するとしても,本件補正発明は,引用発明1及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
なお,仮に,本件補正が,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認めたとしても,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年11月13日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和元年8月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 令和元年9月17日付けの拒絶の理由
令和元年9月17日付けの拒絶の理由は,この出願の請求項1,2に係る発明は,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,
また,仮に,この出願の請求項1,2に係る発明が,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明でないとしても,この出願の請求項1,2に係る発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献1ないし6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.特開2009-290052号公報
2.特開2005-166728号公報
3.特許第3762409号公報
4.特開2007-235069号公報
5.特開2009-124035号公報
6.国際公開第03/077295号

3 引用文献
令和元年9月17日付けの拒絶の理由で引用した引用文献1ないし3及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,ウェハの裏面研削が行われた場合に,「改質領域から延びる微小亀裂が前記ウェハの表面側に進展」するものであるという限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(2)ウに記載したとおり,引用文献1に記載された発明であり,あるいは,本件補正発明は,引用発明1及び引用文献2,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用文献1に記載された発明であるか,あるいは,引用発明1及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,あるいは,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-29 
結審通知日 2019-12-02 
審決日 2019-12-13 
出願番号 特願2018-217613(P2018-217613)
審決分類 P 1 8・ 527- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 575- WZ (H01L)
P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
西出 隆二
発明の名称 レーザ加工装置及びレーザ加工方法  
代理人 松浦 憲三  

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