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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 B64C
管理番号 1359408
審判番号 不服2019-6264  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-14 
確定日 2020-02-25 
事件の表示 特願2016-239228号「飛行装置、通報方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日出願公開、特開2018- 94983号、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月9日に出願されたものであって、平成30年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年9月26日に意見書が提出され、平成31年2月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和1年5月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成31年2月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1?5、10、11に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。


出願1. 特願2016-220917号(特開2018-5878号)

なお、本願請求項6?9に係る発明については、拒絶査定の対象とされていない。

第3 本願発明
本願請求項1?11に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるところ、本願請求項1?5、10、11に係る発明(以下「本願発明1」等という。)は、以下のとおりと認める。

「【請求項1】
飛行装置であって、
前記飛行装置の位置情報を取得する位置情報取得部と、
高さ情報を含む地図データ、及び無線通信回線の通信品質の分布情報を記憶する記憶部と、
前記位置情報及び前記高さ情報に基づいて、地面までの距離を所定の範囲以上に維持するように、前記分布情報において通信可能エリア内として記憶された位置まで飛行する飛行経路を決定する飛行経路決定部と、
前記飛行経路に基づいて、前記飛行装置を飛行させる飛行制御部と、
前記通信可能エリア内において、前記無線通信回線を用いて予め定められた連絡先へ通報させる通報制御部とを備える、飛行装置。
【請求項2】
前記通報制御部は、前記飛行装置が飛行を開始した飛行開始位置を通報させる、請求項1に記載の飛行装置。
【請求項3】
画像情報の入力を受け付ける通報内容受付部をさらに備え、
前記通報制御部は、前記連絡先へ前記画像情報を送信する、請求項1又は2に記載の飛行装置。
【請求項4】
前記通報制御部は、前記連絡先から通報応答を取得し、
前記通報応答をユーザに報知させる通報応答報知制御部をさらに備え、
前記飛行制御部は、前記連絡先への通報後に、前記飛行装置を前記飛行開始位置に向かって飛行させる、請求項2に記載の飛行装置。
【請求項5】
前記通報制御部は、前記連絡先との通話の録音情報である前記通報応答を取得する、請求項4に記載の飛行装置。
【請求項10】
飛行装置を用いた通報方法であって、
前記飛行装置の位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
高さ情報を含む地図データ、及び無線通信回線の通信品質の分布情報を記憶する記憶ステップと、
前記位置情報及び前記高さ情報に基づいて、所定の範囲内に地面までの距離を維持するように、前記分布情報において通信可能エリア内として記憶された位置まで飛行する飛行経路を決定する飛行経路決定ステップと、
前記飛行経路に基づいて、前記飛行装置を飛行させる飛行制御ステップと、
前記通信可能エリア内において、前記無線通信回線を用いて予め定められた連絡先へ通報する通報ステップとを備える、通報方法。
【請求項11】
飛行装置内のコンピュータに、
前記飛行装置の位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
高さ情報を含む地図データ、及び無線通信回線の通信品質の分布情報を記憶する記憶ステップと、
前記位置情報及び前記高さ情報に基づいて、所定の範囲内に地面までの距離を維持するように、前記分布情報において通信可能エリア内として記憶された位置まで飛行する飛行経路を決定する飛行経路決定ステップと、
前記飛行経路に基づいて、前記飛行装置を飛行させる飛行制御ステップと、
前記通信可能エリア内において、前記無線通信回線を用いて予め定められた連絡先へ通報する通報ステップと
を実行させるプログラム。」

第4 出願1に係る記載事項等
1 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された出願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。以下同様。)。

(1a)「【請求項1】
ユーザによって起動され、かつバッテリから電力の供給を受けて移動する移動体であって、
移動するための移動機構と、
通信部と、
前記通信部と外部通信機との間の通信が確立されているか判定する判定部と、
前記判定部により通信が確立されていないと判定されたときに、現在位置から移動するように前記移動機構を制御する制御部と、
前記ユーザに関連する情報を記憶するユーザ関連情報記憶部とを備え、
前記制御部は、前記判定部により通信が確立されていると判定されたとき、前記ユーザに関連する情報を前記外部通信機に向けて送信し、
前記ユーザに関連する情報には、少なくとも前記ユーザが非常事態にあることを示す情報が含まれていることを特徴とする移動体。」

(1b)「【0009】
<第1の実施形態>
まず、本実施形態の概要を説明して、その後、本実施形態の具体的内容について図面を参照しながら説明する。なお以下において移動体ユーザUとは、移動体10を使用するユーザUをいい、例えば登山やハイキングにおいては事故や遭難時に移動体10用いて捜索者に救助要請を行う捜索対象者になり得る者(登山者やハイキングを行う者)とする。
【0010】
図1を参照して、本実施形態の一例の概略を説明する。本実施形態では、移動体ユーザUが移動体10を起動する。移動体10は外部通信機30A?30Cとの通信が確保できるまで移動を行い、通信が確保できた位置で移動体10の現在位置を外部通信機30A?30Cへと送信する。」

(1c)「【0015】
(制御部12)
制御部12は、バッテリ11と、通信部13と、判定部14と、移動機構15と、位置特定部16と、現在位置記録部17と、を制御する。例えば、制御部12は、後述の判定部14からの通信確立判定信号(通信が確立したと判定したことを通知する信号)を受けて、移動機構15を制御する。
【0016】
制御部12が行う制御は、制御部12に予め備えられた制御プログラムによって自動的に行われても良い。また、移動体ユーザUがコントローラを介し、制御信号を移動体10に送信し、その制御信号を通信部13が受信する構成でもよい。移動体ユーザUによる当該制御信号によって、制御部12は、移動体10の各部を制御してもよいし、上記制御プログラム立ち上げて自動制御を行ってもよい。
【0017】
(通信部13)
通信部13は、送信・受信アンテナを備え、制御部12からの制御を受けて、信号の送受信を行う。通信部13は、外部通信機30A?30Cへの所定の送信信号を発信し、また外部通信機30A?30Cからの信号を受信する。通信部13は、外部通信機30A?30Cからの信号を受信したときは、受信信号を判定部14に送る。また、通信部13は、外部通信機30A?30Cからの信号を受信していないときは、判定部14に信号は送らない。」

(1d)「【0025】
(判定部14)
判定部14は、受信信号を通信部13から受け取る。
【0026】
通信部13から受信信号を受け取った場合、判定部14は、通信部13と外部通信機30A?30Cとの通信が確立したと判定する。判定部14は、通信確立信号を制御部12へと送信する。
【0027】
通信部13から受信信号を所定の時間に受け取らなかった場合、判定部14は、通信部13と外部通信機30A?30Cとの通信が確立していないと判定する。判定部14は、通信未確立信号(通信が未確立であることを通知する信号)を制御部12へと送信する。
【0028】
(移動機構15)
制御部12から制御を受けて、移動機構15は、移動体10を一体的に移動させる。前述したように、制御部12が判定部14から通信未確立信号を受け取った場合、移動機構15は、制御部12の制御を受けて、移動体10を一体的に移動させる。
【0029】
移動機構15は、例えば、バッテリ11からの電力供給により駆動するモータ(図示せず)を動力源とし、モータ軸の回転を利用して、プロペラなどの部材を介して、浮力・推力等を得て、移動体10を制御可能に移動させるものであればよい。電力供給によって移動体10を移動させる機構であれば、上記モータを動力源とした機構にこだわらず、その他の移動機構を採用してもよい。
【0030】
移動動作として、例えば、移動体10が移動機構15により上昇し、所定の高度になった位置で、次に水平移動を行うように、制御部12が移動機構15を制御してもよい。
【0031】
(位置特定部16)
位置特定部16は、入力部(図示せず)を備え、入力部を介して、移動体10の現在位置に関する物理信号(「物理的入力」)を受け取る。物理的入力として、例えば、温度・圧力信号や、全球測位衛星システムからの航法信号等がある。
・・・
【0034】
位置特定部16は、物理的入力を解析し現在位置を特定する。
【0035】
位置特定部16は、移動体10に備えられた電源スイッチが入力状態であれば、移動体10の現在位置を特定する。
【0036】
位置特定部16は、特定した現在位置を、現在位置記録部17へと記録する。」

(1e)「【0055】
<第2の実施形態>
本実施形態の目的は、所定の条件を満たす外部通信機を選択し、選択した外部通信機に向けて移動体を移動させることであり、例えば、より通信が確保しやすい環境に移動体を移動させることができると期待される。
【0056】
本実施形態では、移動体は、移動体の現在位置と位置情報記憶部に記録された複数の外部通信機の位置情報と、に基づいて、いずれかの外部通信機を選択する。更に、移動体は、選択された外部通信機に向けて移動する。
【0057】
本実施形態は、第1の実施形態の構成に、更に、位置情報記憶部18と選択部19とを備えた移動体10である。したがって、その構成は、第1の実施形態の構成と共通な部分があり、共通部分に関して詳細な説明を省略することがある。この実施形態に係る移動体10の構成例を図4に示す。
【0058】
[構成]
図4を参照して、本実施形態に係る移動体10の構成例を説明する。移動体10は、バッテリ11と、制御部12と、通信部13と、判定部14と、移動機構15と、位置特定部16と、現在位置記録部17と、位置情報記憶部18と、選択部19とを備える。また、移動体10は、移動体10の各部への電力供給を開始する電源スイッチ(図示せず)を備える。
【0059】
追加された構成である位置情報記憶部18と選択部19とに関して、詳細に説明する。また、位置情報記憶部18と選択部19とが加わることで追加された、制御部12の制御に関しても説明する。」

(1f)「【0060】
(位置情報記憶部18)
位置情報記憶部18は、1または複数の外部通信機30A?30Cに関する情報(特に、位置情報)をハードディスク等の不揮発性メモリに記憶している。記憶した情報項目は、位置特定部16に記録された情報と同じ項目を少なくとも含んでいる。外部通信機30A?30Cのリストは、移動体10と通信可能な領域内にある全ての外部通信機30A?30Cを網羅していることが望ましい。
【0061】
位置情報記憶部18に記憶された外部通信機30A?30Cの位置情報は、制御部12からの制御を受けた選択部19(後述する)が、読み出す。
【0062】
(選択部19)
制御部12からの制御を受けて、選択部19は、現在位置記録部17から移動体10の現在位置情報を取り出す。また、選択部19は、位置情報記憶部18に記憶された1または複数の外部通信機30A?30Cの位置情報を取り出す。
【0063】
現在位置情報と1または複数の外部通信機30A?30Cの位置情報とから、選択部19は、移動体10が向かう最適な外部通信機30の位置を選択する。そのため、選択部19は、例えば、現在位置から1または複数の外部通信機30A?30Cまでの距離を、各々の外部通信機30A?30Cについて、求める。
【0064】
これら現在位置から1または複数の外部通信機30A?30Cまでの距離から、最短の距離となる外部通信機30を選択する。
【0065】
選択部19は、選択した外部通信機30の位置と移動体10の現在位置とを、制御部12に送る。
【0066】
この距離は、3次元座標(例えば、緯度、経度、高度(深度))間から計算した距離でもよく、2次元平面座標(例えば、緯度、経度)から計算した距離でもよい。
【0067】
(制御部12)
制御部12は、選択部19から送られた移動体10の現在位置、及び最適な外部通信機30の位置から、制御部12は、移動体10を外部通信機30へと近づけるように、移動機構15を制御する。
【0068】
また、位置情報記憶部18に3次元地図(地表面の緯度、経度、高度(深度))情報等を格納しておいて、制御部12は、移動体10の現在位置と外部通信機30の位置と、当該3次元の地図情報等とを利用してもよい。これらの情報から、制御部12は、移動体10の現在位置と外部通信機30との間の最適な軌跡を計算してもよい。そして、移動体10が当該最適な軌跡上を外部通信機30へと近づけるように、制御部12は、移動機構15を制御してもよい。」

(1g)「【0069】
[動作]
図5は、本実施形態における処理の流れを示す図である。以下に、図5を参照して、移動体10の動作を、ステップ番号(S21?S31)に添って説明する。
【0070】
(S21)
移動体ユーザUが移動体10の電源スイッチを入れる。
【0071】
(S22)
制御部12からの制御に従って、通信部13は、外部通信機30A?30Cとの送受信を行う。通信部13は、受信信号を判定部14へ送る。
【0072】
(S23)
受信信号を所定時間に受け取らなかった場合、判定部14は、通信部13と外部通信機30A?30Cとの通信が未確立であると判定する(S23;No)。更に、判定部14は、通信未確立信号を、制御部12へと送り、処理を次のステップ(S24:移動体10の現在位置特定)へと進める。
【0073】
受信信号を受け取った場合、判定部14は、通信部13と外部通信機30A?30Cとの通信が確立していると判定する(S23;Yes)。更に、判定部14は、通信確立信号を、制御部12へと送り、処理を次のステップ(S29:移動体10の現在位置特定)へと進める。
【0074】
(S24)
制御部12は、判定部14から送られた通信未確立信号を受けて、位置特定部16を制御して、移動体10の現在位置を特定する。
【0075】
(S25)
制御部12は、位置特定部16を制御して、位置特定部16が特定した移動体10の現在位置を、現在位置記録部17に記録する。
【0076】
(S26)
選択部19は、現在位置記録部17に記録された現在位置と、位置情報記憶部18に記録された1または複数の外部通信機30A?30Cの位置情報を読み出す。
【0077】
(S27)
選択部19は、移動体10の現在位置と1または複数の外部通信機30A?30Cの位置情報とから、移動体10が向かう最適な外部通信機30の位置を選択する。
【0078】
(S28)
移動体10の現在位置と最適な外部通信機30の位置とから、制御部12は、移動体10の移動方向を決め、移動機構15を制御して、移動体10を移動させる。処理をステップ(S22)へと戻す。
【0079】
(S29)
制御部12は、判定部14から送られた通信確立信号を受けて、位置特定部16を制御して、移動体10の現在位置を特定する。
【0080】
(S30)
制御部12は、位置特定部16を制御して、位置特定部16が特定した移動体10の現在位置を、現在位置記録部17に記録する。
【0081】
(S31)
制御部12は、通信部13を制御し、特定した現在位置を通信部13から外部通信機30A?30Cへと送信する。」

(1h)「【0116】
なお、退避位置に移動するとは、移動体10の状態に応じた、着陸、停止等であればよい。例えば、移動体10は飛行による移動を行うラジコンヘリ、ドローン等の飛行体とすることとして、・・・」

2 引用発明
上記「1」から、先願明細書等には、「第2実施形態」で「移動体」が「飛行体」であり、記載事項(1f)の段落【0068】の事項を有するものに対応する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「移動体ユーザUによって起動され、かつバッテリ11から電力の供給を受けて飛行による移動を行う飛行体である移動体10であって、
移動機構15と、
通信部13と、
判定部14と、
制御部12と、
位置特定部16と、
現在位置記録部17と、
3次元地図を格納し、外部通信機30A?30Cに関する位置情報を記憶する位置情報記憶部18と、
選択部19と、を備え、
前記判定部14は、前記通信部13と前記外部通信機30A?30Cとの通信が未確立であると判定した場合、通信未確立信号を前記制御部12へと送信し、
前記制御部12は、前記判定部14から送られた通信未確立信号を受けて、前記位置特定部16を制御して、前記移動体10の現在位置を特定し、前記位置特定部16を制御して、前記位置特定部16が特定した前記移動体10の現在位置を、前記現在位置記録部17に記録し、
前記選択部19は、前記現在位置記録部17に記録された現在位置と、前記位置情報記憶部18に記録された外部通信機30A?30Cの位置情報を読み出し、前記移動体10の現在位置と外部通信機30A?30Cの位置情報とから、前記移動体10が向かう最適な外部通信機30の位置を選択し、
前記制御部12は、前記移動体10の現在位置と前記最適な外部通信機30の位置と、前記3次元地図情報を利用して、前記移動体10の現在位置と前記最適な外部通信機30との間の最適な軌跡を計算して、前記移動体10の移動方向を決め、前記移動機構15を制御して、前記移動体10を移動させ、
前記判定部14は、前記通信部13と前記外部通信機30A?30Cとの通信が確立していると判定した場合、通信確立信号を前記制御部12へと送信し、
前記制御部12は、前記判定部14から送られた通信確立信号を受けて、前記位置特定部16を制御して、前記移動体10の現在位置を特定し、前記位置特定部16を制御して、前記位置特定部16が特定した移動体10の現在位置を、前記現在位置記録部17に記録し、前記通信部13を制御し、特定した現在位置を前記通信部13から前記外部通信機30A?30Cへと送信する、移動体10。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 後者の「飛行体である移動体10」は、前者の「飛行装置」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、後者の「前記移動体10の現在位置を特定」する「位置特定部16」は、「前記飛行装置の位置情報を取得する位置情報取得部」に相当するといえる。

ウ 後者の「3次元地図を格納し、外部通信機30A?30Cに関する位置情報を記憶する位置情報記憶部18」と、前者の「高さ情報を含む地図データ、及び無線通信回線の通信品質の分布情報を記憶する記憶部」とは、「高さ情報を含む地図データ、及び無線通信回線に係る位置に関する情報を記憶する記憶部」の限りで共通するといえる。

エ 後者の「前記移動体10の現在位置と前記最適な外部通信機30の位置と、前記3次元地図情報を利用して、前記移動体10の現在位置と前記最適な外部通信機30との間の最適な軌跡を計算して、前記移動体10の移動方向を決め、前記移動機構15を制御して、前記移動体10を移動させ」る「制御部12」という事項について、後者の「最適な軌跡」は、前者の「飛行経路」に相当し、また、後者の「制御部12」は、前者の「飛行経路決定部」と「飛行制御部」の両者に相当するといえる。ここで、後者の「3次元地図」は高さ情報をも含むものであり、「飛行体である移動体10」の移動状況を考慮すれば、地面までの距離を所定以上に維持することは自明のことといえる。
そうすると、上記ア?ウをも踏まえると、後者の上記事項と、前者の「前記位置情報及び前記高さ情報に基づいて、地面までの距離を所定の範囲以上に維持するように、前記分布情報において通信可能エリア内として記憶された位置まで飛行する飛行経路を決定する飛行経路決定部と、前記飛行経路に基づいて、前記飛行装置を飛行させる飛行制御部」とは、「前記位置情報及び前記高さ情報に基づいて、地面までの距離を所定の範囲以上に維持するように、前記無線通信回線に係る位置に関する情報において通信が可能なことに係る位置まで飛行する飛行経路を決定する飛行経路決定部と、前記飛行経路に基づいて、前記飛行装置を飛行させる飛行制御部」の限りで共通するといえる。

オ 後者の「前記判定部14は、前記通信部13と前記外部通信機30A?30Cとの通信が確立していると判定した場合、通信確立信号を前記制御部12へと送信し、前記判定部14から送られた通信確立信号を受けて、前記位置特定部16を制御して、前記移動体10の現在位置を特定し、前記位置特定部16を制御して、前記位置特定部16が特定した移動体10の現在位置を、前記現在位置記録部17に記録し、前記通信部13を制御し、特定した現在位置を前記通信部13から前記外部通信機30A?30Cへと送信する」「制御部12」という事項について、後者の「制御部12」は、上記エで述べたことに加えて、前者の「通報制御部」にも相当するといえる。
そうすると、後者の上記事項と、前者の「前記通信可能エリア内において、前記無線通信回線を用いて予め定められた連絡先へ通報させる通報制御部」とは、「通信が可能な位置において、前記無線通信回線を用いて通報させる通報制御部」の限りで共通するといえる。

カ 以上より、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「飛行装置であって、
前記飛行装置の位置情報を取得する位置情報取得部と、
高さ情報を含む地図データ、及び無線通信回線に係る位置に関する情報を記憶する記憶部と、
前記位置情報及び前記高さ情報に基づいて、地面までの距離を所定の範囲以上に維持するように、前記無線通信回線に係る位置に関する情報において通信が可能なことに係る位置まで飛行する飛行経路を決定する飛行経路決定部と、
前記飛行経路に基づいて、前記飛行装置を飛行させる飛行制御部と、
通信が可能な位置において、前記無線通信回線を用いて通報させる通報制御部とを備える、飛行装置。」

〔相違点〕
「無線通信回線に係る位置に関する情報」、「通信が可能なことに係る位置」、「通信が可能な位置」及び「通報」の対象について、本願発明1では「無線通信回線の通信品質の分布情報」、「分布情報において通信可能エリア内として記憶された位置」、「前記通信可能なエリア内」、「予め定められた連絡先」であるのに対し、引用発明では「外部通信機30A?30Cに関する位置情報」、「最適な外部通信機30の位置」、「外部通信機30A?30Cとの通信が確立した」位置であり、さらに予め定められた連絡先の特定がない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
本願発明1は「無線通信回線の通信品質の分布情報」を採用し、飛行装置を「分布情報において通信可能エリア内として記憶された位置」に飛行させ、「前記通信可能なエリア内」において、「予め定められた連絡先」に通報させるものであるから、引用発明の「外部通信機30A?30Cに関する位置情報」を採用し、「最適な外部通信機30の位置」へ移動体10を向かわせ、「外部通信機30A?30C」との通信が確立した場合に「特定した現在位置」を送信するもの、すなわち、「通信品質の分布情報」及び「通信可能エリア内として記憶された位置」を用いないものより、「飛行装置」をより速やかに通信が可能な位置に到達させ、連絡先への通報を可能としていることしていることが理解でき、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を有するものとすることは、課題解決のための具体化手段における微差とはいえないものである。

したがって、本願発明1は、引用発明と実質的に同一の発明とはいえない。

2 本願発明2?5に係る発明について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるので、本願発明1と同様の理由により、引用発明と実質的に同一の発明とはいえない。

3 本願発明10、11について
本願発明10、11は、「飛行装置」である本願発明1とカテゴリー違いで実質的に同様内容の「通報方法」及び「プログラム」に係る発明であるので、本願発明1と同様の理由により、引用発明と実質的に同一の発明とはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-02-10 
出願番号 特願2016-239228(P2016-239228)
審決分類 P 1 8・ 16- WY (B64C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
島田 信一
発明の名称 飛行装置、通報方法及びプログラム  
代理人 泉 通博  

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