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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1359499
審判番号 不服2018-10290  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-27 
確定日 2020-02-04 
事件の表示 特願2015-531421「送受信チャネル応答を補正するための方法、装置、及びシステム、並びにBBU」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日国際公開、WO2014/040354、平成27年11月 5日国内公表、特表2015-532056〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年(平成24年)12月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2012年9月17日 (CN)中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 5月15日 手続補正書の提出
平成28年 2月18日付け 拒絶理由通知書
平成28年 8月 1日 意見書、手続補正書の提出
平成29年 2月21日付け 拒絶理由通知書(最後)
平成29年 7月27日 意見書の提出
平成29年11月10日付け 拒絶理由通知書(最後)
平成30年 2月14日 意見書の提出
平成30年 3月22日付け 拒絶査定
平成30年 7月27日 拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提 出

第2 平成30年7月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月27日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の概要

本件補正は、平成28年8月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 少なくとも2の協調無線周波モジュールを備えた通信システムに適用される送受信チャネル応答を補正するための方法であって、前記少なくとも2の協調無線周波モジュールは第1セルをカバーする第1無線周波モジュールと第2セルをカバーする第2無線周波モジュールとを備え、前記第1無線周波モジュールは第1ベースバンドモジュールに接続され、前記第2無線周波モジュールは第2ベースバンドモジュールに接続され、前記第1無線周波モジュールは第1アンテナに対応する少なくとも第1送受信チャネルを備え、前記第2無線周波モジュールは第2アンテナに対応する少なくとも第2送受信チャネルを備え、かつ前記方法は、
前記第1無線周波モジュールにおける各送受信チャネルのチャネル応答比を補正するステップであって、その結果、前記第1無線周波モジュールにおける各送受信チャネルの前記チャネル応答比が基準補正チャネルのチャネル応答比と一致し、前記基準補正チャネルは前記第1送受信チャネルである、ステップと、
前記第1無線周波モジュールにおける前記第1送受信チャネル以外の送受信チャネルをクローズするステップと、
前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップと
を含む、方法。」
との発明(以下、「本願発明」という。)を、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 少なくとも2の協調無線周波モジュールを備えた通信システムに適用される送受信チャネル応答を補正するための方法であって、前記少なくとも2の協調無線周波モジュールは第1セルをカバーする第1無線周波モジュールと第2セルをカバーする第2無線周波モジュールとを備え、前記第1無線周波モジュールは第1ベースバンドモジュールに接続され、前記第2無線周波モジュールは第2ベースバンドモジュールに接続され、前記第1無線周波モジュールは第1アンテナに対応する少なくとも第1送受信チャネルを備え、前記第2無線周波モジュールは第2アンテナに対応する少なくとも第2送受信チャネルを備え、かつ前記方法は、
前記第1無線周波モジュールにおける各送受信チャネルのチャネル応答比を補正するステップであって、その結果、前記第1無線周波モジュールにおける各送受信チャネルの前記チャネル応答比が基準補正チャネルのチャネル応答比と一致し、前記基準補正チャネルは前記第1送受信チャネルである、ステップと、
前記第1無線周波モジュールにおける前記第1送受信チャネル以外の送受信チャネルをクローズするステップと、
前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップと
を含み、
前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比を補正する前記ステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、前記ステップは、
前記第1ベースバンドモジュールによって、前記第1送受信チャネルと前記第2送受信チャネルとの間で伝送される補正基準信号を制御するステップと、
前記補正基準信号の伝送結果に基づいて、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比と前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比との間の相互関係の補償パラメータを取得するステップと、
前記補償パラメータを使用して前記第2送受信チャネルのチャネル応答を補償するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップと
を含み、
前記補償パラメータを使用することによって前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答を補償する前記ステップは、
前記第2受信チャネルのチャネル応答を前記補償パラメータで割るステップ
を含む、方法。」
との発明(以下、「本願補正発明」という。下線は、補正箇所を示す。)に補正することを含むものである。

2.補正の適否

(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、補正の目的要件
上記補正は、「前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップ」について、更に「前記第1ベースバンドモジュールによって、前記第1送受信チャネルと前記第2送受信チャネルとの間で伝送される補正基準信号を制御するステップと、
前記補正基準信号の伝送結果に基づいて、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比と前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比との間の相互関係の補償パラメータを取得するステップと、
前記補償パラメータを使用して前記第2送受信チャネルのチャネル応答を補償するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップと
を含み、
前記補償パラメータを使用することによって前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答を補償する前記ステップは、
前記第2受信チャネルのチャネル応答を前記補償パラメータで割るステップ
を含む、」との発明特定事項を追加して限定する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、当該補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)、及び第4項(シフト補正)の規定に違反するものではない。

(2)独立特許要件
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて、以下検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.」で示した本願補正発明のとおりのものと認める。

イ 引用例等の記載事項及び引用発明等

(ア)引用発明1
原査定の拒絶の理由で引用された特開2011-217046号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

a 「【0025】
<1.通信システムの全体構成>
まず、図1を参照し、本発明の実施形態による通信システム1の全体構成を説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態による通信システム1の構成を示した説明図である。図1に示したように、本発明の実施形態による通信システム1は、複数の基地局10および通信端末20を備える。
【0027】
通信端末20(UE:User Equipment)は、基地局10による管理に従い、基地局10と通信を行う。例えば、通信端末20は、基地局10により割り当てられたダウンリンク用のリソースブロックにおいて受信処理を行い、アップリンク用のリソースブロックにおいて送信処理を行う。
【0028】
この通信端末20は、例えば、PC(Personal Computer)、家庭用映像処理装置(DVDレコーダ、ビデオデッキなど)、PDA(Personal Digital Assistants)、家庭用ゲーム機器、家電機器などの情報処理装置であってもよい。また、通信端末20は、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、携帯用音楽再生装置、携帯用映像処理装置、携帯用ゲーム機器などの移動通信装置であってもよい。
【0029】
基地局10は、カバレッジに含まれる通信端末20と通信する。例えば、基地局10Aは、基地局10Aのカバレッジに含まれる通信端末20Aと通信することができる。なお、本明細書においては、この基地局10がマクロセル基地局(eNodeB)である場合を想定して説明を進めるが、基地局10はマクロセル基地局に限定されない。例えば、基地局10は、マクロセル基地局より最大送信電力が小さいピコセル/ミクロセル基地局であってもよいし、リレーノードであってもよいし、フェムトセル基地局であってもよい。
【0030】
また、各基地局10は、有線により接続されており、他の基地局10と有線通信により情報交換を行うことができる。基地局10は、この情報交換に基づき、次世代技術として期待されているCoMPを実現することができる。このCoMPは、Joint Processingと、Coordinated Scheduling and/or Beamformingに大別される。
【0031】
前者のJoint Processingは、複数の基地局10が同時に1の通信端末20とデータ通信する技術である。図1に示した基地局10A、基地局10B、および基地局10Cが同時に通信端末20Aにデータ送信する例がJoint Processingに該当する。このJoint Processingによれば、データ通信に複数の基地局10のブランチ(アンテナおよびアナログ回路)を利用できるので、アンテナ利得およびSINRを向上することができる。
【0032】
なお、ダウンリンクのJoint Processingを行う場合、通信端末20への送信データを、基地局10間の例えばバックホールと呼ばれる有線の通信路を利用して、複数の基地局10へ事前に分配しておく必要がある。また、アップリンクのJoint Processingは、通信端末20から複数の基地局10により受信されたデータを統合することにより行われる。
【0033】
データ統合の方法としては、例えば、各基地局10による復号後のビットレベルでデータを統合する方法、各基地局10によるデコード前のソフトビットの段階でデータを統合する方法、各基地局10によるデマッピング前のデータを統合する方法などが挙げられる。各基地局10でより後段の復調処理をしてからデータを統合するほど、バックホールを介して交換されるデータ量は増加するが、性能は向上する傾向がある。
【0034】
後者のCoordinated Scheduling and/or Beamformingは、データ送信は1の基地局10のみが行い、スケジューリング(各通信端末20に割り当てるリソースブロックを決定する制御)を複数の基地局10で協調して行う技術である。このCoordinated Scheduling and/or Beamformingによれば、複数の基地局10間の干渉をスケジューリング調整により容易に回避することができる。
【0035】
本発明は、上記の2種類のCoMPのうち、特に前者のJoint Processingに焦点を当ててなされたものである。このJoint Processingは、Non-coferentlyなJoint Processingと、coferentlyなJoint Processingとに大別される。
(中略)
【0042】
<2.個別ブランチキャリブレーション>
以下、基地局10が個別に行う一般的なブランチキャリブレーションについて、基地局10のブランチ構成と併せて説明する。
【0043】
図3は、基地局10のブランチ構成を示した説明図である。図3に示したように、基地局10のアナログ部110は、ブランチb0、ブランチb1、およびブランチb2からなる。各ブランチは、アンテナA、スイッチS、送信アナログ部Tx(DA変換部を含んでもよい。)、および受信アナログ部Rx(AD変換部を含んでもよい。)を備える。なお、図3においては、基地局10が3つのブランチを有する例を示しているが、基地局10が有するブランチの数は3つに限定されない。例えば、基地局10が有するブランチの数は2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0044】
各ブランチを構成するアンテナAは、送信時には、スイッチSにより送信アナログ部Txと接続される。そして、送信アナログ部Txは、デジタル部150から供給される送信信号にアナログ処理を施し、アナログ処理後の高周波信号をアンテナAに供給する。アンテナAは、送信アナログ部Txから供給される高周波信号を無線信号に変換して送信する。
【0045】
一方、受信時には、アンテナAと受信アナログ部RxがスイッチSにより接続される。そして、アンテナAは、受信した無線信号を高周波信号に変換して受信アナログ部Rxに供給する。受信アナログ部Rxは、アンテナAから供給される高周波信号にアナログ処理を施し、アナログ処理後の受信信号をデジタル部150に供給する。
【0046】
このようなアンテナA、送信アナログ部Tx、および受信アナログ部Rxは、ブランチごとに伝達関数(特性)が異なる。さらに、同一のブランチ内であっても、送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数は相違する。この基地局10内の各ブランチの送信アナログ部Txの伝達関数および受信アナログ部Rxの伝達関数の相違に起因する諸問題は、基地局10が個別にブランチキャリブレーションを行うことにより解消される。以下、基地局10が個別に行うブランチキャリブレーションについて具体的に説明する。
【0047】
ブランチ番号をiとし、i番目のブランチの送信アナログ部Txの伝達関数をTx(i)とし、i番目のブランチの受信アナログ部Rxの伝達関数をRx(i)とする。この場合、ブランチキャリブレーションとは、下記の数式(1)を満たす各ブランチに対するキャリブレーション係数K(i)を取得する処理に該当する。また、広義には、キャリブレーション係数K(i)を送信信号または受信信号に複素乗算する処理を含む。
【0048】
Tx(0)*K(0)/Rx(0)=Tx(1)*K(1)/Rx(1)=Tx(2)*K(2)/Rx(2) (数式1)
【0049】
このようなキャリブレーション係数K(i)を取得するために、まず、ブランチb0が図4に示したように無線信号を送信し、ブランチb1およびブランチb2がブランチb0から送信された無線信号を受信する。次に、図5に示したように、ブランチb1およびブランチb2が無線信号を送信し、ブランチb0がブランチb1およびブランチb2の各々から送信された無線信号を受信する。
【0050】
その結果、以下のループバック伝達関数D(i,j)が測定される。なお、ループバック伝達関数D(i,j)は、送信ブランチiおよび受信ブランチjを経由する無線信号から測定される係数である。また、複数のブランチに対して無線信号を送信し、複数のブランチから無線信号を受信するブランチを基準ブランチと称する。
【0051】
D(0,1)=Tx(0)*Rx(1)
D(0,2)=Tx(0)*Rx(2)
D(1,0)=Tx(1)*Rx(0)
D(2,0)=Tx(2)*Rx(0)
【0052】
基地局10は、これらのループバック伝達関数D(i,j)から、以下の数式2に従ってキャリブレーション係数K(i)を取得することができる。
【0053】
K(0)=1.0
K(1)=D(0,1)/D(1,0)={Rx(1)/Tx(1)}*{Tx(0)/Rx(0)}
K(2)=D(0,2)/D(2,0)={Rx(2)/Tx(2)}*{Tx(0)/Rx(0)} (数式2)
【0054】
数式2を検算すると、以下の数式3に示すように、キャリブレーション条件である数式1を満たすことが確認される。
【0055】
Tx(0)*K(0)/Rx(0)=Tx(0)/Rx(0)
Tx(1)*K(1)/Rx(1)=Tx(0)/Rx(0) (数式3)
Tx(2)*K(2)/Rx(2)=Tx(0)/Rx(0)
【0056】
なお、数式2に示したように、0番目のブランチb0のキャリブレーション係数K(0)が1.0となっているのは、ブランチb0を基準ブランチとしてブランチキャリブレーションを行ったためである。したがって、ブランチb1を基準ブランチとしてブランチキャリブレーションを行った場合には、1番目のブランチb1のキャリブレーション係数K(1)が1.0となる。
【0057】
<3.基地局の構成>
以上、本発明の実施形態を理解する上で有用な個別ブランチキャリブレーションについて説明した。続いて、図6を参照し、本発明の実施形態による基地局10の構成を詳細に説明する。
【0058】
図6は、本発明の実施形態による基地局10の構成を示した機能ブロック図である。図6に示したように、本発明の実施形態による基地局10は、アナログ部110と、バックホール通信部120と、デジタル部150と、上位レイヤ部180と、記憶部190と、を備える。
【0059】
バックホール通信部120は、他の基地局と有線の通信路を介して情報交換するためのインタフェースである。例えば、基地局10は、後述の連携したブランチキャリブレーションの過程で得られるループバック伝達関数を、バックホール通信部120を介して他の基地局と送受信する。
【0060】
デジタル部150は、図6に示したように、AD/DA変換部152と、復調処理部160と、変調処理部170と、を含む。このデジタル部150の各構成は、ブランチごとに設けられていてもよい。
【0061】
AD/DA変換部152は、アナログ部110から供給されるアナログ形式の受信信号をデジタル形式に変換し、変調処理部170から供給されるデジタル形式の送信信号をアナログ形式に変換する。
【0062】
復調処理部160は、AD/DA変換部152から供給される受信信号を復調するための各種処理を行う。例えば、復調処理部160は、受信信号のフーリエ変換、デマッピング、誤り訂正などを行う。また、復調処理部160は、同期部162および伝達関数取得部164を含む。
【0063】
同期部162は、受信信号に含まれる同期信号に基づいて受信信号との同期を獲得する。また、伝達関数取得部164は、連携したブランチキャリブレーションの過程で受信される無線信号に基づいて、信号の伝送経路に対応するループバック伝達関数を取得する。
【0064】
また、変調処理部170は、上位レイヤ180から供給される送信信号を変調するための各種処理を行う。例えば、変調処理部170は、送信信号のマッピング、IFFT174における逆フーリエ変換、およびガードインターバルの付加などを行う。また、変調処理部170のキャリブレーション係数乗算部172(乗算部)は、キャリブレーション係数読出部186により読み出される各ブランチのキャリブレーション係数を、各ブランチからの送信信号に周波数領域で複素乗算する。
【0065】
上位レイヤ部180は、キャリブレーション係数取得部182、スケジューラ184およびキャリブレーション係数読出部186を含む。
【0066】
(連携ブランチキャリブレーション)
キャリブレーション係数取得部182は、基地局10が共にCoMP送信を行う他の基地局の組み合わせであるCoMPセットごとに、各ブランチのキャリブレーション係数を取得する。CoMPセットごとのキャリブレーション係数の取得方法は特に限定されない。例えば、CoMPセットごとのキャリブレーション係数は、「2.個別ブランチキャリブレーション」において説明した方法を応用して取得することができる。以下、一例として、基地局10A?10CからなるCoMPセット用のキャリブレーション係数を取得するためのブランチキャリブレーションを説明する。
【0067】
例えば、基地局10Bのブランチb2を基準ブランチとした場合、図7に示したように、まず基地局10Bのブランチb2が無線信号を送信し、基地局10Bのブランチb0およびb1と、基地局10Aおよび基地局10Cの各ブランチが無線信号を受信する。次に、基地局10Bのブランチb0およびb1と、基地局10Aおよび基地局10Cの各ブランチが無線信号を送信し、基地局10Bのブランチb2が無線信号を受信する。これにより、キャリブレーション係数の計算に必要な複数のループバック伝達関数(i,j)を、基地局10A?10Cの伝達関数取得部164が分散的に取得することができる。
【0068】
その後、基地局10A?10Cにより分散的に取得されたループバック伝達関数を、バックホール通信を利用して1の基地局に集約させる。例えば、基地局10Bおよび基地局10Cは、取得したループバック伝達関数を基地局10Aにバックホールを介して送信する。
【0069】
これにより、基地局10Aのキャリブレーション係数取得部182は、集約されたループバック伝達関数に基づき、各基地局10の各ブランチのキャリブレーション係数を取得することができる。そして、基地局10Aは、基地局10Bの各ブランチのキャリブレーション係数を基地局10Bに送信し、基地局10Cの各ブランチのキャリブレーション係数を基地局10Cに送信する。さらに、基地局10Aは、基地局10Aの各ブランチのキャリブレーション係数を記憶部190に記録する。
【0070】
以上、キャリブレーション係数取得部182によるCoMPセット用のキャリブレーション係数の取得方法を説明した。キャリブレーション係数取得部182は、同様の方法により、他のCoMPセット用のキャリブレーション係数を取得することが可能である。なお、キャリブレーション係数取得部182により取得された各CoMPセット用のキャリブレーション係数は、記憶部190において図9に示すように記憶される。
【0071】
図9は、記憶部190が記憶する各CoMPセット用のキャリブレーション係数の具体例を示した説明図である。図9に示したように、記憶部190は、各CoMPセット用の各ブランチのキャリブレーション係数をサブキャリアごとに記憶する。
【0072】
また、記憶部190は、図10に示すように、通信端末20と、基地局10により通信端末20に適切と判断されたCoMPセットとを関連付けて記憶する。各通信端末20に適切なCoMPセットは、例えば、通信端末20から送信された無線信号の各基地局10における受信強度、または、通信端末20と各基地局10との位置関係などから判断することが可能である。
【0073】
なお、図7および図8においては、CoMPセットを構成する基地局内のブランチを基準ブランチとしてブランチキャリブレーションを行う例を示したが、基準ブランチはこの例に限定されない。例えば、CoMPセットを構成する複数の基地局10は、通信端末20やリレーノードなど他の装置内のブランチを基準ブランチとしてブランチキャリブレーションを行ってもよい。
【0074】
(スケジューリング)
ここで、図6を参照し、基地局10の構成の説明に戻る。基地局10のスケジューラ184は、各通信端末20に割り当てるリソースブロックを管理する。1リソースブロックは、12サブキャリアおよび7Ofdmシンボルで構成され、スケジューラ184はこのリソースブロック単位で各通信端末20にリソースを割り当てる。
【0075】
例えば、スケジューラ184は、図11に示したように、リソースブロックグループ#1を通信端末20Aに割り当て、リソースブロックグループ#2を通信端末20Bに割り当て、リソースブロックグループ#3を通信端末20Cに割り当てることができる。
【0076】
(キャリブレーション係数の読み出し)
キャリブレーション係数読出部186は、各リソースブロックにおいていずれのCoMPセットでCoMP送信が行われるかを判断し、判断したCoMPセット用のキャリブレーション係数を記憶部190から読み出す。そして、キャリブレーション係数読出部186は、記憶部190から読み出したキャリブレーション係数をキャリブレーション係数乗算部172に供給する。
【0077】
具体的には、キャリブレーション係数読出部186は、スケジューラ184によるスケジューリング情報に基づき、各リソースブロックが割り当てられている通信端末20を特定する。続いて、キャリブレーション係数読出部186は、特定した通信端末20に対応するCoMPセットを、記憶部190に記憶されている通信端末20とCoMPセットの関係に基づいて判断する。そして、キャリブレーション係数読出部186は、特定した通信端末20に対応するCoMPセット用のキャリブレーション係数を記憶部190から読み出して、キャリブレーション係数乗算部172にキャリブレーション係数を供給する。
【0078】
例えば、キャリブレーション係数読出部186は、図11に示したスケジューリング情報に基づいて、リソースブロックグループ#3が割り当てられている通信端末20Cを特定する。続いて、キャリブレーション係数読出部186は、図10に示した各通信端末20とCoMPセットの関係から、通信端末20CにはCoMPセット1が対応すると判断する。そして、キャリブレーション係数読出部186は、CoMPセット1用のキャリブレーション係数を記憶部190から読み出す。これにより、基地局10は、CoMPセット1を構成する他の基地局と共に、CoMPセット1用のキャリブレーション係数を利用して通信端末20Cに高性能なCoMP送信を行うことが可能となる。
【0079】
なお、スケジューラ184は、通信端末20へのリソースブロックの割り当てに加え、CoMPセットの割り当てを行ってもよい。例えば、スケジューラ184は、図12に示したように、リソースブロックグループ#4を通信端末20Aに割り当て、リソースブロックグループ#4ではCoMPセット1でCoMP送信を行うことを設定してもよい。
【0080】
この場合、キャリブレーション係数読出部186は、各リソースブロックにおいて、スケジューラ184により設定されたCoMPセットに対応するキャリブレーション係数を記憶部190から読み出せばよい。また、図12に示した通信端末20Cのように、送信先が同一の通信端末20であっても、異なるCoMPセットでCoMP送信を行ってもよい。.
【0081】
<4.基地局の動作>
以上、本発明の実施形態による基地局10の構成を説明した。続いて、図13を参照し、本発明の実施形態による基地局10の動作を説明する。
【0082】
図13は、本発明の実施形態による基地局10の動作を示したフローチャートである。図13に示したように、基地局10は、他の基地局と連携したブランチキャリブレーションを行うことにより、各CoMPセット用のキャリブレーション係数を取得し、記憶部190に記録する(S204)。
【0083】
さらに、基地局10は、他の基地局と情報交換を行い、各通信端末20に適切なCoMPセットを判断し、各通信端末20とCoMPセットの関係を記憶部190に記録する(S208)。例えば、基地局10は、通信端末20との距離が所定値以下である1または2以上の基地局、または、通信端末20から送信された無線信号の受信強度が閾値以上で1または2以上の基地局が、この通信端末20に適切なCoMPセットであると判断してもよい。
【0084】
続いて、基地局10のキャリブレーション係数読出部186は、スケジューラ184によるスケジューリング情報に基づき、各リソースブロックに割り当てられている通信端末20を特定する(S212)。そして、キャリブレーション係数読出部186は、特定した通信端末20に対応するCoMPセットを、記憶部190に記憶されている通信端末とCoMPセットの関係に基づいて判断する(S216)。
【0085】
さらに、キャリブレーション係数読出部186は、特定した通信端末20に対応するCoMPセット用のキャリブレーション係数を記憶部190から読み出して、読み出したキャリブレーション係数をキャリブレーション係数乗算部172に供給する(S220)。
【0086】
その後、キャリブレーション係数乗算部172が、各リソースブロックにおけるブランチごとの送信信号に、キャリブレーション係数読出部186から供給されるブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算する(S224)。このキャリブレーション係数の複素乗算により、各ブランチの送信アナログ部および受信アナログ部の伝達関数の特性差を補償することができる。」

b 「



c 「



d 「



上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると、引用例2には、次の技術的事項が記載されている。

(a)上記aの段落【0066】の記載によれば、引用例2には、基地局10A、基地局10B、基地局10CからなるCoMPセット用の連携ブランチキャリブレーションを行う方法が記載されているといえ、CoMPセットは、CoMP送信を行う基地局の組み合わせである。
したがって、引用例2には、「CoMP送信を行う基地局10A、基地局10B、基地局10CからなるCoMPセット用の連携ブランチキャリブレーションを行う方法」が記載されているといえる。

(b)上記aの段落【0043】の記載、上記bの【図3】、上記cの【図6】によれば、基地局10A、基地局10B、基地局10Cは、それぞれアナログ部を備えるといえる。上記cの【図6】によれば、アナログ部は、デジタル部及び前記デジタル部を介して上位レイヤ部に接続されている。また、上記aの段落【0043】の記載及び上記bの【図3】によれば、アナログ部は、ブランチb0、ブランチb1、ブランチb2からなり、各ブランチは、アンテナA、送信アナログ部Tx及び受信アナログ部Rxを備えるといえる。さらに、上記aの段落【0044】の記載によれば、送信アナログ部Txは、デジタル部から供給される送信信号にアナログ処理を施し、アナログ処理後の高周波信号をアンテナAに供給し、上記aの段落【0045】の記載によれば、受信アナログ部Rxは、アンテナAから供給される高周波信号にアナログ処理を施すといえる。
したがって、引用例2には、「基地局10A、基地局10B、基地局10Cは、それぞれアナログ部を備え、前記アナログ部は、デジタル部及び前記デジタル部を介して上位レイヤ部に接続され、前記アナログ部は、ブランチb0、ブランチb1、ブランチb2からなり、各ブランチは、アンテナA、送信信号にアナログ処理を施し、アナログ処理後の高周波信号をアンテナAに供給する送信アナログ部Tx、アンテナAから供給される高周波信号にアナログ処理を施す受信アナログ部Rxを備え」るといえる。

(c)上記aの段落【0067】の記載及び上記dの【図7】及び【図8】によれば、基地局10Bのブランチb2が無線信号を送信し、基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、基地局10Aおよび基地局10Cの各ブランチが無線信号を受信し、次に、基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、基地局10Aおよび基地局10Cの各ブランチが無線信号を送信し、基地局10Bのブランチb2が無線信号を受信することにより、基地局10A、基地局10B、基地局10Cがキャリブレーション係数の計算に必要なループバック伝達関数を取得するといえる。
したがって、引用例2には、連携ブランチキャリブレーションを行う方法が「基地局10Bのブランチb2が無線信号を送信し、基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、基地局10Aおよび基地局10Cの各ブランチが無線信号を受信し、次に、基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、基地局10Aおよび基地局10Cの各ブランチが無線信号を送信し、基地局10Bのブランチb2が無線信号を受信することにより、基地局10A、基地局10B、基地局10Cがループバック伝達関数を取得すること」を含むことが記載されているといえる。

(d)上記aの段落【0068】-【0069】の記載によれば、基地局10Aが、ループバック伝達関数を集約し、集約されたループバック伝達関数に基づき、基地局10A、基地局10B、基地局10Cの各ブランチのキャリブレーション係数を取得することが記載されているといえる。ここで、キャリブレーション係数は、上記aの段落【0047】-【0048】、【0055】-【0056】の記載によれば、キャリブレーションするブランチの(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)を基準ブランチの(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)に一致させるものであるといえる。そして、上記aの段落【0067】の記載によれば、基地局10Bのブランチb2が基準ブランチといえるから、キャリブレーション係数は、基地局10A、基地局10B、基地局10Cの各ブランチの(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)を、基準ブランチである基地局10Bのブランチb2の(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)に一致させるものであるといえる。
したがって、引用例2には、連携ブランチキャリブレーションを行う方法が「基地局10Aが、ループバック伝達関数を集約し、集約されたループバック伝達関数に基づき、基地局10A、基地10B、基地局10Cの各ブランチのキャリブレーション係数を取得すること、ここで、前記キャリブレーション係数は、基地局10A、基地局10B、基地局10Cの各ブランチの(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)を、基準ブランチである基地局10Bのブランチb2の(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)に一致させるものであること」を含むことが記載されているといえる。

(e)上記aの段落【0069】の記載によれば、基地局10B及び基地局10Cが各基地局の各ブランチのキャリブレーション係数を基地局10Aから受信するといえ、基地局10Aは、基地局10Aの各ブランチのキャリブレーション係数を基地局10Aの記憶部に記録するといえる。さらに、上記aの段落【0082】の記載によれば、基地局10は、他の基地局と連携したブランチキャリブレーションを行うことにより、各CoMPセット用のキャリブレーション係数を取得し、記憶部に記録するから、基地局10B及び基地局10Cも、各基地局の各ブランチのキャリブレーション係数を各基地局の記憶部に記録するといえる。
したがって、引用例2には、連携ブランチキャリブレーションを行う方法が「基地局10B及び基地局10Cが各基地局の各ブランチのキャリブレーション係数を基地局10Aから受信し、基地局10A、基地局10B、基地局10Cが各基地局の各ブランチのキャリブレーション係数を各基地局の記憶部に記録すること」を含むことが記載されているといえる。

(f)上記aの段落【0085】-【0086】の記載によれば、基地局は、CoMPセット用のキャリブレーション係数を記憶部から読み出し、ブランチごとの送信信号に、ブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算することにより、各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償するといえる。また、上記aの段落【0047】の記載によれば、ブランチキャリブレーションは、キャリブレーション係数を送信信号または受信信号に複素乗算する処理を含むといえる。
したがって、引用例2には、連携ブランチキャリブレーションを行う方法が「基地局10A、基地局10B、基地局10Cが各ブランチのキャリブレーション係数を記憶部から読み出し、ブランチごとの送信信号に、ブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算することにより、各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償すること」を含むことが記載されているといえる。

したがって、引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

「 CoMP送信を行う基地局10A、基地局10B、基地局10CからなるCoMPセット用の連携ブランチキャリブレーションを行う方法であって、前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cは、それぞれアナログ部を備え、前記アナログ部は、デジタル部及び前記デジタル部を介して上位レイヤ部に接続され、前記アナログ部は、ブランチb0、ブランチb1、ブランチb2からなり、各ブランチは、アンテナA、送信信号にアナログ処理を施し、アナログ処理後の高周波信号をアンテナAに供給する送信アナログ部Tx、アンテナAから供給される高周波信号にアナログ処理を施す受信アナログ部Rxを備え、前記連携ブランチキャリブレーションを行う方法は、
前記基地局10Bのブランチb2が無線信号を送信し、前記基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、前記基地局10Aおよび前記基地局10Cの各ブランチが無線信号を受信し、次に、前記基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、前記基地局10Aおよび前記基地局10Cの各ブランチが無線信号を送信し、前記基地局10Bのブランチb2が無線信号を受信することにより、前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cがループバック伝達関数を取得すること、
前記基地局10Aが、前記ループバック伝達関数を集約し、集約された前記ループバック伝達関数に基づき、前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cの各ブランチのキャリブレーション係数を取得すること、ここで、前記キャリブレーション係数は、前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cの各ブランチの(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)を、基準ブランチである前記基地局10Bのブランチb2の(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)に一致させるものであること、
前記基地局10B及び前記基地局10Cが各基地局の各ブランチのキャリブレーション係数を前記基地局10Aから受信し、前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cが各基地局の各ブランチのキャリブレーション係数を各基地局の記憶部に記録すること、
前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cが各ブランチのキャリブレーション係数を前記記憶部から読み出し、ブランチごとの送信信号に、ブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算することにより、各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償すること
を含む、方法。」

(イ)引用発明2
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2011/074031号(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

a 「[0010](第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無線システムを示す図である。第1の実施形態に係る無線システムは、無線装置100と、無線装置200と、無線信号処理装置300とを備え、互いに物理的に離れた場所に設置される。無線信号処理装置300に接続される無線装置の数は2個に限られず、より多くの無線装置が接続されても良い。無線信号処理装置300は、多くの無線装置と接続することで、広範囲に存在する他のユーザ端末(例えば、携帯電話等)と通信を行うことができる。
[0011] 無線信号処理装置300は、物理的に離れて存在する無線装置100、200を用いて協力通信を行う。無線信号処理装置300は、無線装置100、200のキャリブレーションを行う。無線装置100、200は、無線信号の送受信処理(周波数変換処理、及びAD/DA変換処理など)を行う。
(中略)
[0019] 図2は、第1の実施形態に係る無線システムのキャリブレーション方法を示すフローチャート図である。キャリブレーションとは、送信時の指向性と受信時の指向性をほぼ同一にする処理であればどのようなものであってもよい。例えば、キャリブレーションとは、複数の送受信系統に対して、送信系統の伝達関数と受信系統の伝達関数との比をそろえることであってもよい。第1ステップで、無線システムは、各無線装置100、200内の送受信系統のキャリブレーション(以下、自己キャリブレーションと呼ぶ)を行う(ステップS101)。第2ステップで、無線システムは、無線装置100、200間で送受信時の指向性を互いに向け合う(ビーム形成)(ステップS102)。第3ステップで、無線装置100、200間の送受信系統のキャリブレーション(以下、相対キャリブレーションと呼ぶ)を行う(ステップS103)。なお、自己キャリブレーション(第1ステップ)が終了した後、無線装置100、200間で送受信される既知信号であるキャリブレーション信号の受信レベルが高い場合には、無線装置100、200間で送受信時の指向性を互いに向け合うことなく、相対キャリブレーション(第3ステップ)を行っても良い。」

b 「



上記aの段落[0010]-[0011]の記載によれば、引用例3には、複数の無線装置を用いて協力通信を行う無線システムが記載されているといえる。
また、上記aの段落[0019]の記載及び上記bの[図2]によれば、無線システムのキャリブレーション方法は、無線装置内の送受信系統のキャリブレーションを行うステップと、無線装置間の送受信系統のキャリブレーションを行うステップとを含むといえる。ここで、上記aの段落[0019]の記載によれば、キャリブレーションとは、複数の送受信系統に対して、送信系統の伝達関数と受信系統の伝達関数との比をそろえることであるといえる。
したがって、引用例3には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

「 複数の無線装置を用いて協力通信を行う無線システムに適用される複数の送受信系統に対して、送信系統の伝達関数と受信系統の伝達関数との比をそろえるキャリブレーション方法であって、
無線装置内の送受信系統のキャリブレーションを行うステップと、
無線装置間の送受信系統のキャリブレーションを行うステップと
を含む、方法。」

(ウ)周知技術
特開2012-134978号公報(以下、「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0026】
以下では、例えば図8に示されるように、ネットワークMIMO技術(ターゲットネットワーク構成)を可能にするセルラーネットワーク800が想定されてもよい。この例では、それぞれが4つのアンテナを備える2つの基地局810(ノード)が示されている。また、無線機器830への協調送信または無線機器830からの協調受信を制御するネットワークMIMOコントローラ820が示されている。例えば最多数(可能な数)のアンテナをOFFに維持するためあるいは動作アンテナの数を最小にするための協調ネットワークMIMO技術の使用のための他の例900が図9に示されている。図示の無線通信システムは、同じ無線機器920へデータを供給する3つの基地局910を備える。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信システムのノードを制御するための装置100のブロック図を示している。制御されるべきノードは複数のアンテナを備える。装置100は、トラフィック負荷判定器110、協調キャパシティ判定器120、および、電力制御ユニット130を備える。トラフィック負荷判定器110および協調キャパシティ判定器120は電力制御ユニット130に接続される。トラフィック負荷判定器110は無線通信システムにおけるトラフィック負荷112を判定し、協調キャパシティ判定器120は、無線通信システムの1つ以上の他のノードとのノードの利用可能な協調キャパシティ122を判定する。また、電力制御ユニット130は、判定されたトラフィック負荷112と判定された利用可能な協調キャパシティ122とに基づいて、ノードのアンテナを動作させあるいは動作を停止させる。このため、電力制御ユニット130は、ノードのアンテナの動作または動作停止を引き起こす制御信号132を生成してもよい。
【0028】
ノードのアンテナを動作させるあるいは動作を停止させることにより、ノードの利用可能な送信速度キャパシティを無線通信システムの現在の負荷に対して動的に適合させることができる。このようにすると、トラフィック負荷が低ければ全てのアンテナが動作しているとは限らないため、ノードの平均エネルギー消費量をかなり減らすことができる。
【0029】
無線通信システムのノードは、例えば、基地局、中継局、または、無線通信システムの遠隔計算ポイントである。
【0030】
トラフィック負荷判定器110は、無線通信システムにおいて現存するトラフィック負荷112を測定することができる。例えば、トラフィック負荷112は、制御されるべきノードの1つ以上の無線機器(例えば、携帯電話、ラップトップ)への現在の無線送信速度、無線通信システムの複数のノードの平均無線送信速度またはノードの他のノードとの有線送信速度、無線通信システムにおける一群のノード間の有線送信速度、または、各ユーザ(例えば、それぞれのモバイルユーザ、それぞれの無線機器)によって発生される無線トラフィックの合計を表わすことができる。トラフィック負荷112は例えばビット/秒で表わすことができる。
【0031】
協調キャパシティ判定器120は、制御されるノードに対して付加的な無線リソース(例えば、無線送信速度)を与えることができる協調ノードの想定し得る組が存在するか否かを判定してもよい。これは、例えば、隣接するノードに対するリソース要求問い合わせプロセスによって実施することができ、隣接するノードは、それらの協調するあるいは協調しない能力と、それが与えることができる無線リソースの最終的な量とにしたがって応答する。このようにして、協調キャパシティ判定器120は、制御されるべきノードの無線通信システムの1つ以上の他のノードとの利用可能な協調キャパシティ122を判定することができる。すなわち、協調キャパシティ判定器120は、少なくとも1つの隣接するノードに対して協調キャパシティ要求を送信してもよく、また、少なくとも1つの隣接するノードから受信される協調キャパシティ応答に基づいて利用可能な協調キャパシティ122を判定してもよい。
【0032】
電力制御ユニット140は、トラフィック負荷判定器110および協調キャパシティ判定器120によって集められた情報を使用して、ノードのアンテナの動作を停止できるか否か、あるいは現存するユーザの要求を満たすためにノードのアンテナを動作させるべきか否かを決定する。
【0033】
ノードのアンテナは、例えば、アンテナに接続される送信器および/または受信器をONまたはOFFに切り換えることによって、あるいは、アンテナに接続される送信器および/または受信器の電力増幅器をONまたはOFFに切り換えることによって動作されあるいは動作が停止させることができる。送信器(および/または受信器)の電力増幅器をONまたはOFFに切り換えることで十分な場合がある。これは、図3にも示されるように、通常、この電力増幅器が送信器(および/または受信器)の最もエネルギーを消費する部分であるためである。この動作または動作停止は、電力制御ユニット130によって与えられる制御信号132により引き起すことができる。
【0034】
本発明に係る幾つかの実施形態において、電力制御ユニット130は、判定されたトラフィック負荷112が下側の負荷閾値1010よりも低い場合にはノードの複数のアンテナのうちの動作アンテナの数を減らすことができ、また、判定されたトラフィック負荷112が上側の負荷閾値1020よりも高い場合には動作アンテナの数を増やすことができる。これが図10に示されている。現在のトラフィック負荷が上側の負荷閾値1020(H_threshold)よりも高い場合、電力制御ユニット130は、例えば、ノードの更なるアンテナの電力増幅器をONに切り換えることができる。あるいは、現在のトラフィック負荷112が下側の負荷閾値1010(L_threshold)を下回っている場合、電力制御ユニット130は、例えば、ノードのアンテナの電力増幅器をOFFに切り換えることができる。トラフィック負荷112が上側の負荷閾値1020と下側の負荷閾値1010との間にある場合、電力制御ユニット130は、ノードの複数のアンテナのうちの動作アンテナの現在の組を維持することができる。」

特開2012-85129号公報(以下、「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0014】
図2は、本発明の実施形態に係る無線通信装置1のブロック図である。この無線通信装置1は、複数の送受信回路(無線回路)10‐1?10‐3及びアンテナ20‐1?20‐3と、制御部30とを備える。
【0015】
送受信回路10‐1?10‐3は、アンテナ20‐1?20‐3にそれぞれ接続され、アンテナ20‐1?20‐3を介してデータを送受信する。
【0016】
制御部30は、自装置に無線LAN子機が接続されていない場合、複数の送受信回路10‐1?10‐3のうち、1つの送受信回路を有効(オン)にし、それ以外の送受信回路を無効(オフ)にする。また、制御部30は、自装置に無線LAN子機が接続された場合、複数の送受信回路10‐1?10‐3を有効(オン)にする。
【0017】
なお、図2は、無線通信装置1における本発明の特徴である無線通信に関する構成要素を示すものであり、無線通信装置1が備える他の構成要素については一般の無線通信装置と同様であり、ここでは特に図示しない。
【0018】
次に、本発明の実施の形態に係る無線通信装置1の動作について図3を参照して説明する。
【0019】
まず、無線通信装置1が起動されると、制御部30は、複数の送受信回路10‐1?10‐3のうち1つの送受信回路だけを有効(オン)にし、それ以外の送受信回路を無効(オフ)にする(ステップS31)。
【0020】
次に、制御部30は、自装置に無線LAN子機が接続されるのを待つ(ステップS32)。
【0021】
無線通信装置1が発信するビーコンを検出した無線LAN子機が、図1に示す接続シーケンスを完了して無線通信装置1に接続されると(ステップS32、YES)、制御部30は、複数の送受信回路10‐1?10‐3を有効(オン)にする(ステップS33)。
【0022】
次に、制御部30は、無線LAN子機の接続が切断されるのを待つ(ステップS34)。例えば、一定時間通信がない場合に該当する無線LAN子機の接続が切断されたと判断してもよい。
【0023】
制御部30は、無線LAN子機の接続の切断を検出すると(ステップS34:YES)、他に接続されている無線LAN子機が有るかを判別する(ステップS35)。
【0024】
他に接続されている無線LAN子機が有ると判別された場合(ステップS24:YES)、ステップS34に戻って、制御部30は、無線LAN子機の接続が切断されるのを待つ。
【0025】
また、接続されている無線LAN子機が無いと判別された場合(ステップS24:NO)、ステップS31に戻って、制御部30は、複数の送受信回路10‐1?10‐3のうち1つの送受信回路以外の送受信回路を無効(オフ)にする。
【0026】
以上のように、本実施の形態によれば、無線LANアクセスポイント(無線通信装置)に無線LAN子機が帰属していない段階では、図4に示すように、1つの送受信回路だけを有効にし、無線LAN子機の帰属が完了した後は、図5に示すように、複数の送受信回路を有効にすることで、無線LAN子機が接続していない状態での消費電力の抑制を実現することができる。」

したがって、「消費電力を減らすため、無線通信システムのノードが備える、アンテナに接続される送受信器のうち、通信状況に応じて不必要な送受信器をオフにする。」ことは、例えば、周知例1-2にも示されているように、無線通信技術の分野において周知技術であると認められる。

ウ 対比及び判断

本願補正発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)引用発明1の「アナログ部」は、高周波信号に係るアナログ処理を施すものであるところ、高周波が無線周波を意味することは当業者に明らかである。そして、引用発明1の基地局10Aのアナログ部と基地局10Bのアナログ部は、それぞれ別のセルをカバーすることが当業者にとって明らかであるから、基地局10Bのアナログ部、基地局10Aのアナログ部は、それぞれ「第1セルをカバーする第1無線周波部」、「第2セルをカバーする第2無線周波部」と称することができる点で、本願発明の「第1セルをカバーする第1無線周波モジュール」、「第2セルをカバーする第2無線周波モジュール」と共通する。
また、引用発明1の「基地局10A、基地局10B、基地局10C」は、CoMP送信、すなわち協調マルチポイント送信を行うことから、引用発明1の「アナログ部」は、協調マルチポイント送信のためのアナログ信号処理を行うことが明らかであるから、「協調無線周波部」と称することができる点で、本願発明の「協調無線周波モジュール」と共通する。
引用発明1の「デジタル部」と「上位レイヤ部」がベースバンドの信号を扱うことは当業者に明らかであるから、引用発明1の基地局10Bのデジタル部及び上位レイヤ部、基地局10Aのデジタル部及び上位レイヤ部は、それぞれ「第1ベースバンド部」、「第2ベースバンド部」と称することができる点で、本願発明の「第1ベースバンドモジュール」、「第2ベースバンドモジュール」と共通する。
引用発明1の「送信アナログ部Tx」及び「受信アナログ部Rx」を合わせて「送受信チャネル」と称することは任意である。また、引用発明1の基地局10Bのブランチb2の「アンテナA」、「送信アナログ部Tx」と「受信アナログ部Rx」を、それぞれ「第1アンテナ」、「第1送受信チャネル」と称すること、基地局10Aのブランチb0の「アンテナA」、「送信アナログ部Tx」と「受信アナログ部Rx」を、それぞれ「第2アンテナ」、「第2送受信チャネル」と称することも任意である。さらに、引用発明1の基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxは、当該ブランチのアンテナAと対応するいえ、基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxは、当該ブランチのアンテナAに対応するといえる。
以上のことから、本願補正発明の「前記少なくとも2の協調無線周波モジュールは第1セルをカバーする第1無線周波モジュールと第2セルをカバーする第2無線周波モジュールとを備え、前記第1無線周波モジュールは第1ベースバンドモジュールに接続され、前記第2無線周波モジュールは第2ベースバンドモジュールに接続され、前記第1無線周波モジュールは第1アンテナに対応する少なくとも第1送受信チャネルを備え、前記第2無線周波モジュールは第2アンテナに対応する少なくとも第2送受信チャネルを備え」ることと、引用発明1の「前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cは、それぞれアナログ部を備え、前記アナログ部は、デジタル部及び前記デジタル部を介して上位レイヤ部に接続され、前記アナログ部は、ブランチb0、ブランチb1、ブランチb2からなり、各ブランチは、アンテナA、送信信号にアナログ処理を施し、アナログ処理後の高周波信号をアンテナAに供給する送信アナログ部Tx、アンテナAから供給される高周波信号にアナログ処理を施す受信アナログ部Rxを備え」ることとは、「前記少なくとも2の協調無線周波部は第1セルをカバーする第1無線周波部と第2セルをカバーする第2無線周波部とを備え、前記第1無線周波部は第1ベースバンド部に接続され、前記第2無線周波部は第2ベースバンド部に接続され、前記第1無線周波部は第1アンテナに対応する少なくとも第1送受信チャネルを備え、前記第2無線周波部は第2アンテナに対応する少なくとも第2送受信チャネルを備え」るという点で共通する。

(イ)引用発明1は、「前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cが前記各ブランチのキャリブレーション係数を前記記憶部から読み出し、ブランチごとの送信信号に、ブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算することにより、各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償すること」を含むことから、「基地局10Bのアナログ部における各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数を基地局10Bの各ブランチのキャリブレーション係数により補正すること」と、「基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数を基地局10Aのブランチb0のキャリブレーション係数により補正すること」を含むものである。引用発明1の「(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)を一致させる」ことは、送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比を一致させることに他ならないから、引用発明1の「キャリブレーション係数」は、前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cの各ブランチの送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比を、基準ブランチである前記基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比に一致させるものといえる。してみると、「基地局10Bのアナログ部における各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数を基地局10Bの各ブランチのキャリブレーション係数により補正すること」は、その結果、基地局10Bのアナログ部の各ブランチの送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比が基準ブランチである前記基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比に一致するといえる。そして、引用発明1の「伝達関数」は、本願補正発明の「チャネル応答」に相当し、引用発明1の「基準ブランチである前記基地局10Bのブランチb2」の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxを合わせたものは、本願補正発明の「基準補正チャネル」に相当する。
また、「基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数を基地局10Aのブランチb0のキャリブレーション係数により補正すること」は、その結果、基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比が基準ブランチである基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比と一致するといえる。
したがって、本願補正発明と、引用発明1は、「前記第1無線周波部における各送受信チャネルのチャネル応答比を補正することであって、その結果、前記第1無線周波部における各送受信チャネルの前記チャネル応答比が基準補正チャネルのチャネル応答比と一致し、前記基準補正チャネルは前記第1送受信チャネルである、ことと、
前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正することであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、こと」を含む点で共通する。

(ウ)引用発明1の「無線信号」は、「キャリブレーション係数」を取得するために伝送される信号であるから、本願補正発明の「補正基準信号」に相当する。
また、引用発明1の「無線信号」が、基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxと、基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxとの間で伝送されることは当業者にとって明らかであるところ、基地局10Bのデジタル部及び上位レイヤ部(すなわち、「第1ベースバンド部」)が当該無線信号について、無線通信をするために必要な制御を行っていることは、当業者にとって明らかである。
したがって、本願補正発明の「前記第1ベースバンドモジュールによって、前記第1送受信チャネルと前記第2送受信チャネルとの間で伝送される補正基準信号を制御するステップ」と、引用発明1の「前記基地局10Bのブランチb2が無線信号を送信し、前記基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、前記基地局10Aおよび前記基地局10Cの各ブランチが無線信号を受信し、次に、前記基地局10Bのブランチb0およびブランチb1と、前記基地局10Aおよび前記基地局10Cの各ブランチが無線信号を送信し、前記基地局10Bのブランチb2が無線信号を受信すること」とは、「前記第1ベースバンド部によって、前記第1送受信チャネルと前記第2送受信チャネルとの間で伝送される補正基準信号を制御するステップ」という点で共通する。

(エ)引用発明1の「ループバック伝達関数」は、無線信号を送受信することにより取得されるから、本願補正発明の「補正基準信号の伝送結果」に含まれる。
また、引用発明1の「前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cの各ブランチのキャリブレーション係数を取得する」こと(すなわち、前記基地局10Aが、前記ループバック伝達関数を集約すること)は、基地局10Aのブランチb0のキャリブレーション係数を取得することを含むところ、当該キャリブレーション係数は、基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比と、基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比を一致させるパラメータであるから、これらの伝達関数の比との間の相互関係を補償するパラメータに他ならない。
したがって、引用発明1の「集約された前記ループバック伝達関数に基づき、前記基地局10Aの各ブランチのキャリブレーション係数を取得すること」は、本願補正発明の「前記補正基準信号の伝送結果に基づいて、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比と前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比との間の相互関係の補償パラメータを取得するステップ」に相当する。

(オ)引用発明1の「前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cが前記各ブランチのキャリブレーション係数を前記記憶部から読み出し、ブランチごとの送信信号に、ブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算することにより、各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償する」ことは、基地局10Aのブランチb0のキャリブレーション係数を使用して、基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数を補償することを含むところ、その結果、基地局10Aのブランチb0の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比が、基準ブランチである基地局10Bのブランチb2の送信アナログ部Txと受信アナログ部Rxの伝達関数の比と一致することは、明らかである。
したがって、本願補正発明の「前記補償パラメータを使用して前記第2送受信チャネルのチャネル応答を補償するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップとを含み、
前記補償パラメータを使用することによって前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答を補償する前記ステップは、
前記第2受信チャネルのチャネル応答を前記補償パラメータで割るステップ
を含む」ことと、引用発明1の「前記基地局10A、前記基地局10B、前記基地局10Cが前記各ブランチのキャリブレーション係数を前記記憶部から読み出し、ブランチごとの送信信号に、ブランチごとのキャリブレーション係数を複素乗算することにより、各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償すること」とは、「前記補償パラメータを使用して前記第2送受信チャネルのチャネル応答を補償するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップ」という点で共通する。

(カ)引用発明1の「基地局10A、基地局10B、基地局10CからなるCoMPセット」が通信システムであることは、明らかであって、上記(ア)-(オ)の検討を加えると、本願補正発明の「少なくとも2の協調無線周波モジュールを備えた通信システムに適用される送受信チャネル応答を補正するための方法」と引用発明1の「CoMP送信を行う基地局10A、基地局10B、基地局10CからなるCoMPセット用の連携ブランチキャリブレーションを行う方法」とは、「少なくとも2の協調無線周波部を備えた通信システムに適用される送受信チャネル応答を補正するための方法」という点で共通する。

以上のことから、本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「 少なくとも2の協調無線周波部を備えた通信システムに適用される送受信チャネル応答を補正するための方法であって、前記少なくとも2の協調無線周波部は第1セルをカバーする第1無線周波部と第2セルをカバーする第2無線周波部とを備え、前記第1無線周波部は第1ベースバンド部に接続され、前記第2無線周波部は第2ベースバンド部に接続され、前記第1無線周波部は第1アンテナに対応する少なくとも第1送受信チャネルを備え、前記第2無線周波部は第2アンテナに対応する少なくとも第2送受信チャネルを備え、かつ前記方法は、
前記第1無線周波部における各送受信チャネルのチャネル応答比を補正することであって、その結果、前記第1無線周波部における各送受信チャネルの前記チャネル応答比が基準補正チャネルのチャネル応答比と一致し、前記基準補正チャネルは前記第1送受信チャネルである、ことと、
前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正することであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、こと
を含み、
前記第1ベースバンド部によって、前記第1送受信チャネルと前記第2送受信チャネルとの間で伝送される補正基準信号を制御するステップと、
前記補正基準信号の伝送結果に基づいて、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比と前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比との間の相互関係の補償パラメータを取得するステップと、
前記補償パラメータを使用して前記第2送受信チャネルのチャネル応答を補償するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップと
を含む、方法。」

(相違点1)
一致点の「協調無線周波部」、「第1無線周波部」、「第2無線周波部」、「第1ベースバンド部」、「第2ベースバンド部」について、本願補正発明は「モジュール」によりこれらの機能を実現するのに対して、引用発明1は、モジュールにより実現することが明らかでない点。

(相違点2)
一致点の「前記第1無線周波部における各送受信チャネルのチャネル応答比を補正することであって、その結果、前記第1無線周波部における各送受信チャネルの前記チャネル応答比が基準補正チャネルのチャネル応答比と一致し、前記基準補正チャネルは前記第1送受信チャネルである、ことと、
前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正することであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、こと」について、本願補正発明は、「前記第1無線周波部における各送受信チャネルのチャネル応答比を補正すること」との処理と、
「前記第2送受信チャネルのチャネル応答比を補正すること」との処理とを、異なるステップで実行するのに対して、引用発明1は、これらの処理を異なるステップで実行しない点。

(相違点3)
本願補正発明は、「前記第1無線周波モジュールにおける前記第1送受信チャネル以外の送受信チャネルをクローズするステップ」との発明特定事項を有するのに対して、引用発明1は、当該発明特定事項を有しない点。

(相違点4)
一致点の「前記補償パラメータを使用して前記第2送受信チャネルのチャネル応答を補償するステップであって、その結果、前記第2送受信チャネルの前記チャネル応答比が前記第1送受信チャネルの前記チャネル応答比と一致する、ステップ」について、本願補正発明は、当該ステップが更に「前記第2受信チャネルのチャネル応答を前記補償パラメータで割るステップ
を含む」との限定事項を有するのに対して、引用発明1は、当該限定事項を有しない点。

上記相違点について検討する。

(相違点1について)
通信技術の分野において、基地局の機能をモジュールにより実現することは常套手段であるから、引用発明1の基地局の各機能をモジュールにより実現することは格別困難なことではない。その際、どの機能をどのモジュールで実現するかは、当業者にとって設計的事項にすぎないから、引用発明1の「アナログ部」、「デジタル部及び上位レイヤ部」の機能を、モジュールで実現することは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
上記「イ」の「(イ)」で認定したとおり、
「 複数の無線装置を用いて協力通信を行う無線システムに適用される複数の送受信系統に対して、送信系統の伝達関数と受信系統の伝達関数との比をそろえるキャリブレーション方法であって、
無線装置内の送受信系統のキャリブレーションを行うステップと、
無線装置間の送受信系統のキャリブレーションを行うステップと
を含む、方法。」との引用発明2が公知である。
引用発明1と引用発明2とは、いずれもCoMP送信を行う通信システムに適用される送受信系統の伝達関数の比を一致させるための方法であるから、引用発明1に引用発明2を組合わせることに格別の困難性はなく、阻害要因も見出せない。
そうすると、引用発明1に引用発明2を組合わせ、基地局10Bのブランチb2を基準ブランチとして、基地局10B内の各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxのキャリブレーションを行うことと、基地局10Bのブランチb2を基準ブランチとして、基地局10A及び基地局10Cの各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxのキャリブレーションを行うことを、別のステップに分けることは、当業者が適宜なし得たことである。

(相違点3について)
上記「イ」の「(ウ)」で認定したとおり、「消費電力を減らすため、無線通信システムのノードが備える、アンテナに接続される送受信器のうち、通信状況に応じて不必要な送受信器をオフにする。」ことは、周知技術である。
無線通信技術の分野において、消費電力を減らすことは一般的な課題であって、引用発明1についても、消費電力を減らすとの課題を有することは、当業者にとって明らかであるから、引用発明1において、消費電力を減らすために、周知技術を単に付加することは、格別の困難性はなく、阻害要因も見出せない。
そうすると、引用発明1に周知技術を付加し、基地局10Bのブランチb0及びブランチb1の送信アナログ部Tx及び受信アナログ部Rxが不必要な通信状況となった際に、不必要となった基地局10Bのブランチb0及びブランチb1の送信アナログ部Tx及び受信アナログ部Rxをオフにすることは当業者が適宜なし得たことである。

(相違点4について)
引用発明1の「各ブランチの送信アナログ部Txおよび受信アナログ部Rxの伝達関数の特性差を補償する」ことにおいて、補償する対象が(送信アナログ部Txの伝達関数)/(受信アナログ部Rxの伝達関数)であることを考慮すると、送信信号にキャリブレーション係数を乗算することと、受信信号をキャリブレーション係数で割ることとが同じ補償結果になることは、当業者にとって明らかであって、いずれの手法を採用するかは当業者が適宜決定すべき事項に過ぎない。さらに、受信信号をキャリブレーション係数で割ることと、受信アナログ部Rxの伝達関数をキャリブレーション係数で割ることとは表現上の差異でしかない。
してみると、引用発明1において、基地局の受信アナログ部Rxの伝達関数をキャリブレーション係数で割る補償を行うことは当業者が適宜なし得たことである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用発明1、引用発明2、周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

そうすると、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するので、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年8月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、上記「第2」の「1.」で示した本願発明のとおりのものと認める。

2.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、
「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、請求項1に対して、
引用例2(特開2011-217046号公報)
引用例3(国際公開第2011/074031号)
が引用されている。

3.引用発明等

(1)引用発明
引用例2に記載された引用発明1は、上記「第2」の「2.」の「(2)」の「イ」の「(ア)」で認定したとおりのものと認める。

引用例3に記載された引用発明2は、上記「第2」の「2.」の「(2)」の「イ」の「(イ)」で認定したとおりのものと認める。

(2)周知技術
上記「第2」の「2.」の「(2)」の「イ」の「(ウ)」で認定したとおり、「消費電力を減らすため、無線通信システムのノードが備える、アンテナに接続される送受信器のうち、通信状況に応じて不必要な送受信器をオフにする。」は、周知技術と認める。

4.対比及び判断

本願発明は、本願補正発明から、本件補正により追加された発明特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、更に追加された発明特定事項を有する本願補正発明が、上記「第2」で判断したとおり、引用発明1、引用発明2、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-04 
結審通知日 2019-09-09 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2015-531421(P2015-531421)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三浦 みちる宮田 繁仁  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 畑中 博幸
長谷川 篤男
発明の名称 送受信チャネル応答を補正するための方法、装置、及びシステム、並びにBBU  
代理人 木内 敬二  
代理人 実広 信哉  

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